映画のメトダ

【メトダ】とはポーランド語で【方法・方式】の事です。 世界有数の映画大学であるポーランド国立ウッチ映画大学に通う筆者が学校で学んだ事、自分で実践している事などなど、映画製作に関わる事を書いています。

2020年06月

さて、【スーパーオブジェクティブ】の設定が完了すれば、今度は【fact/真実】の設定です。

ところで【fact/真実】と一体なんのことなのでしょう?

おそらく、聞き慣れない言葉だと思います。

以前、俳優演出のページでも解説したので、聞き覚えのない方はこちらも参考に読んでみてください。

fact/真実】の設定は、いわゆるキャラクターの人生、性格を肉付けしていく作業ともいえます。よく【backbone/背景】などとも言われます。が、ここでは曖昧な表現を避けるためにこの言葉は使わないようにしましょう。


前回の【スーパーオブジェクティブ】での説明で、様々な【fact/真実】を追加して説明してみましたが、具体的に【fact/真実】とは一体なんのことなのでしょうか?

年齢?性別?家族構成??

はい、それらももちろん【fact/真実】の一部に入ります。
fact/真実】には大きく分けて2つの種類があります。


fact/真実】①データ

それが、年齢、性別、家族構成等の事実です。
その他に学歴や職歴等、キャラクターの歩んできた揺るがない事実です。

これらのデータは誰が見ても同じ客観的なもので、登場人物や見る者によって感情を左右されることはありません

しかし、これらの客観的データは登場人物の置かれた環境を推し量ることができます

例1)キャラ① 20歳、男性、専門学校生、
バイトを2つ掛け持ち。 東京で父親と2Kのアパート暮らし。7歳の時に母親と離別。


例2)キャラ②
 20歳、男性、大学生、
6人兄弟の末っ子、複数のサークルに所属。東京で2DKのマンションで8歳上の姉と同居中。

さて、このように同じ20歳の男性であるキャラ①ですが、こう言った基本データを並べていくと様々なことが推察できます。

まずは例1)から見ていきましょう。

  • キャラ①は 『バイトを2つ掛け持ち』父親と2Kのアパート暮し 』 から、決して裕福で無いことがわかります。
  • さらに、バイトの掛け持ちと学業の時間から、遊ぶ時間も無く、浪費している可能性も少なく、バイト代は生活費や学費に当てられていると推測できます。
  • また『7歳の時に母親と離別』という情報から、おそらく父親を支える/自立を心がけた生活を長い間送ってきたことが想像できます。
  • そこから、苦労人で、責任感が強く、自立心の高い人物であると推測できます

引き続き、例2)をみてみましょう。

  • 6人兄弟の末っ子』から、大家族の末っ子という事実がわかります。末っ子はその特質上、甘えたで、要領がよく、そのくせに自立心にかけます。また、大家族という情報からその性格に輪をかけている可能性が推測されます。

  • さらに 『8歳上の姉と同居中』 から、おそらく甘えたで、自立とは無縁の生活を送っていることが確信を持って想像できます。
  • また2人暮らしとはいえ 若い人が『世田谷で2DKのマンション』 暮らしということから見て、ある程度裕福な家庭であることが想像できます。

  • 『複数のサークルに所属』 などの情報から社交的な反面、優柔不断な性格かもしれません。

この様に、データからキャラクターの性格を想像することは大変重要です。

しかも、この想像は決して当てずっぽうではありません。

正確な情報を積み重ねることこそが、キャラクター表現の基本


なのです。

Twitterにて不定期で紹介している "フィルムメーカーが見るべき映画リスト" をこちらに、まとめて行きたいと思います。

作り手になって気が付いた事は映画ファンと作り手では明らかに鑑賞のポイントが違います。
また、映画監督の教養として知っておくべき作品がいくつかあります。

ここでは世界中の名作を作り手たちがどういった点を注意して鑑賞しているのかというポイントも交えて簡潔にご紹介していきます。

No 1. ルイ・リュミエール『ラ・シオタ駅への列車の到着』

最初にして最強の完璧な構図。

現在に至るまで列車到着のシーンは普遍的にこの構図によって表現されています。



色々考えて「フィルムメーカーが見ておくべき映画リスト」の一つ目を決めました。
作り手として過去作品を見ると言うことはその技術や思考の発展から自分の作品への創造のヒントを得るためです。『映画史』臭いリストになりますが、大事なのはそこから「作り手」として何を学ぶか。

大事なのは今ではありふれた何の変哲も無い表現がなぜ現在まで機能しているのか?
その必然性をこのワンショットは教えてくれます。

No.2 ジョルジュ・メリエス『月世界旅行』(1902)
映画黎明期は演劇と同じ要領で引きからのワンシーンワンカットが基本でした。しかし、この映画ではその型の中で観客を飽きさせないための様々な工夫がなされています。




華麗な美術、特殊効果、俳優への動きのつけ方と当時のアイディアとワンカット、カメラムーブメントなしで、観客を惹きつけるための緊張感がこの10分間に多く詰め込まれています。


No.3 ロイス・ウェバー「Suspense/サスペンス」(1913)
たった10分間の中にサスペンス映画のストリー・テーリングの基礎が全て詰められています。複雑なサスペンスもこの基礎を知らなければ作り上げることはできません。




サイレント映画の分析で最も大事なのは”どの情報によってストリーを認識しているか?”を理解することです。これ一本、きっちり分析することで情報伝達の大事さ、方法を身につけることができます。何よりありがたいのは10分という短さで映像分析初心者にも分析しやすいことです。


No.4 エドウィン・S・ポーター『大列車強盗 』(1903)
史上初めてクロスカッティング(同時間帯に別々の場所で起こっている事象を表す手法)が使用された映画。




また、当時、固定カメラでの室内撮影が一般的だったが一部ロケ撮影に加え、縦の構図の利用(画面間での上下のう動き)、パン撮影など、今では当たり前のように使用されている技術を使用した作品。

この作品で特に学んで欲しいのは最後のクローズアップ(CU)の意味。現在では情報伝達、観客を飽きさせない画面変化等々で頻繁にショットのサイズが変えて撮影されています。この映画のように(当時一般的だった)ワンシーン・ワンショットのLSで撮影された映画の中に1カットだけCUが入っています。
これは重要なワンショットを効果的に見せる方法の基礎です。

この映画を見たエジソンは「このCUは冒頭にもエンディングにもつけられる」とコメントしています。しかし、なぜラストカットに選んだのか?

自分の作品のどの部分に最も印象的なショットを入れ込むかの映像組み立ての最もわかりやすい例と言えます。


No.5  D・W・グリフィス『國民の創生』(1915)
白人至上主義団体KKKの誕生物語を南部白人の立場から描いた作品。
グリフィスは映画の文法を確立した人物。



映画の文法の定義

・1フレームは単一の静止画像である。
・1ショットは、カメラによって行われる単一の連続記録である。 
・1シーンは関連する一連の流れを表したショットの集合体ある。 
・1シーケンスは、映画全体から見た、一つの流れを構成するシーンの集合体ある。

この作品のもっとも重要な学びの点はクロスカッティングや極端なクローズアップ、フラッシュバックの使用意義の分析です。No4で紹介した『大列車強盗』に比べて更に洗練された映画技術が確立されていることに気づかれると思います。

No4とNo5を見比べることにより、ショット構成の重要さと、それぞれの技法が何を伝えるのに適切か、またそれらが、特に何を強烈に増幅させているのかを分析する事をお勧めします。

グリフィスの登場により、映画はそれまで、観客が引きの画面で“状況を観察する楽しみ”から、登場人物の感情を多分に読み取り、"登場人物の心情に共感する" という感情を揺さぶる媒体へと変化します。

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