映画のメトダ

【メトダ】とはポーランド語で【方法・方式】の事です。 世界有数の映画大学であるポーランド国立ウッチ映画大学に通う筆者が学校で学んだ事、自分で実践している事などなど、映画製作に関わる事を書いています。

2020年07月

実践❶

さて、前回までの記事では具体的な【fact/真実】がどの様なものなのかを学びました。
それに加え、どうしてその性格に至ったかの具体的なエピソードまで設定しました。
ここでは、キャラ②を使って実践形式で具体的なエピソード設定をしてみましょう。

例2)キャラ② 20歳、男性、文系大学生、

成績は中の上。6人兄弟の末っ子、アウトドアサークルを初め企画立案系のサークルに所属。交友関係は大変広く、校外にも多数。両親は祖父母と共に千葉の房総半島で花農家を営んでいる。世田谷の2DKのマンションで8歳上の社会人である2番目の姉と同居中。

上にあげられた【fact/真実】を元に→甘えたで、自立とは無縁、明るい性格の反面、優柔不断な性格となった具体的なエピソードを考えていきます。

しかし、その前に押さえておきたいのは詳細な兄弟設定です。兄弟関係はキャラクターの性格を物語る重要な要素です。

それでは、キャラ②の性格を最も引き立たせることが出来る兄弟設定とはどのような構成になるのでしょうか?

ポイントとしては2つ。

❶男女比の設定
❷年齢の開き方

さて、どのように設定していけばいいのでしょうか?ここで参考になるのは兄弟性格診断です。

一時期、話題になったため、ネットで検索しても簡単な診断や説明を多くみることができます。
これらは統計学を元に構成されているので、大方の一般のイメージと重なることになります。

また、年齢の開き方も大きく関係します。同性の年の近い兄弟ではライバルのような感情を覚えたり、離れすぎると兄弟間の意識も希薄になりがちです。それらの要素を考慮しながら試しに兄弟設定を完成させてください。

まずは
兄弟性格診断を知って、身近な人たちを例にとり、分析して見てください。

本当にその診断に当てはまるのか?

どのような部分が当てはまるのか?


当てはまる場合、それを表す具体的な癖やエピソードをあげて見ましょう。

もし、当てはまらない場合は、なぜ当てはまらないのか?

ひょっとしたら、その人物には典型的な
兄弟性格診断に当てはまらない特殊な家庭環境やエピソードがあるのではないか?

それらを、まずじっくり知って、分析してみてください。

当たり前ですが、個人差があるので、一般的な家庭で過ごしても、典型的な兄弟診断のような結果がでるとは限りません。しかし、まずは"典型=基本"を知ることに専念してください。
典型とは以前にも言いましたが、皆が共有している貴重な情報です。
何が典型で、何が典型じゃないのかは作り手には大変重要なことです。
それを踏まえてキャラ②の兄弟設定も
"典型=基本"を元に導き出して見てください。

さて、データによってキャラクターの性格や置かれた状況を推測させる方法を学んだ訳ですが、推測から具体的な事実へと変える必要があります。


すでにお馴染みのこちらの例をもう一度確認しておきましょう。

例1)キャラ① 20歳、男性、専門学校生、バイトを2つ掛け持ち 東京で父親と2Kのアパート暮らし。7歳の時に母親と離別。

 →苦労人で、責任感が強く、自立心の強い性格


例2)キャラ② 20歳、男性、大学生、6人兄弟の末っ子、アウトドアサークルを始め複数のサークルに所属。両親は祖父母と共に田舎で農業を営んでいる。現在は東京で2DKのマンションで8歳上の2番目の姉と同居中。

 →甘えたで、自立とは無縁、明るい性格の反面、優柔不断な性格

大事なのはそれぞれの性格を表現する具体的なエピソードです。


例えば①の場合『苦労人で、責任感が強く、自立心の強い性格』を表現する訳です。

①外食はせず、昼食は必ず父と2人分の弁当を作り持参

②代り手の無い急なバイトのシフトの穴に率先して入る

③常に課題などは締め切りの3日前にはやり終え提出する

④公共料金の支払いをいつも自分の手でしている

これらのエピソードは、性格どころか生活さえも想像させる非常に具体的なものです。

ちなみに、これらのエピソードの何が上記の性格の表れか分からない人のために一応解説をしておきます。

①④食事の管理と公共料金の支払いというのは家庭のことをきちんと把握していることを意味します。そのため、親と同居はしているが、親に頼らずきちんと自立していることを証明しています。

②自身の都合より組織の損失の方を優先するため、責任感の表れとなります。

③具体的な計画の元で自己管理ができている証です。そのため、責任感と自立心の表れとなります。

これらの具体的なエピソードがなぜ大事かというと、シナリオ上で矛盾した行動を登場人物に起こさせるリスクを減らせます。


例えば『苦労人で、責任感が強く、自立心の強い性格』なのに、理由もなく遅刻してくるシーンを出したり、毎日居酒屋で友人と飲み歩く、などという矛盾したシーンを書いてしまう、なんてことはなくなるでしょう。矛盾したシーンを出してしまうと、その時点で作者の意図は観客には伝わりません。

逆に、意識的にワンシーン(又はシークエンス)だけ性格とは逸脱した行動を起こさせることで、キャラクターの成長や置かれた困難も表現することができます。 


又、細かく設定することで、シナリオ上に何気ないが、キャラクターの性格や感情を表現するようなディテールを付け加えやすくなります。
また、これに加えて、キャラクターがこの性格に至った具体的なエピソードも考えましょう。

キャラ①が9歳の頃、仕事と家事の両立の無理がたたり父親が過労で倒れる。長く病床に付かなければならなくなり、それが原因で父親は会社をクビに。父は自分の治療よりも常にキャラ①を優先してくれていたが、次第に困窮する生活。ある日の朝、キャラ①は給食費をねだる。すると、父は布団の中でキャラ①に泣きながら給食費が払えないと謝罪しだした。それはキャラ①にとって初めて見る父の涙であった。

この出来事はキャラ①にとって、大きな人生の転機になった出来事です。

このように、キャラがその生活、性格に至った具体的なエピソードを用意することは、後の作業にとても有効になります。

また、大事なのが『このエピソードを受けてキャラがどう思ったか』は書きません。なぜなら責任感が強く、自立心の強い性格を表現するためのエピソードです。もし、自分の考えたエピソードが読者にこれらの性格をイメージさせることが出来なければ、そのエピソードは失敗です。

これらの設定はシナリオ中にはでてこないエピソードかもしれませんが、常にキャラクターの行動基準となります。

もう、お気づきかもしれませんが、役者との仕事にも大きく有利に働くことになります。

「責任感が強く、常に父を手伝うように心がけている」などと言うより、このような具体的なエピソードを上げる方が役者の想像を駆り立て、キャラクター作りに役に立ちます。 

もし自分の考えた【FACT】が狙い通りのキャラ設定を表現しているか自信がなければ、思い切って 【FACT】のみを他の人に伝えて、どんな印象を受けるか聞いてみましょう。
この工程は自分の意図通りに観客に情報を与えるための第一歩なのですから。 

通常人間は無意識のうちに【共通認識】を持ち、無意識のうちそれを使って様々なことを推察しています

この "無意識"というのが、非常に厄介なのです。みんなが知っている、当たり前の認識ですので、改めて意識することなど通常の生活ではほぼありまえません。

ですので、わざわざ上記のような分析をしなくても、観客は自然とそのことが分かります。
 
しかし、映画を作る場合は無意識では無理です。無意識というのは理解していない証なのです。これは漢字を読めるのに書けないのと似ています。意識して修練しないと漢字が書けないのと同じで映画を作ることはできません。 


ここで、無意識を意識する為には、日常の考え方を変えていく必要があります

映画や物語の分析をするのはとうぜんですが、それだけではなく、普段の生活から分析を習慣づけることが大切です。

例えば、初めて会った人の印象について

「あ、この人素敵だな~」「なんか、感じ悪い…」と、思えば、何処からその印象を得たのか、容姿、話し方、話の内容、振る舞い等々を思い出し、詳しく追求していきます印象には必ず理由があります。

また、人間は言動によってある程度正確をパターン分けすることができます。

ここでは、改めてそのパターンを説明することはありませんが、興味のある人はその分野についての本がたくさん出ているので読んでみるのもいいでしょう。


さて、ここで忘れてはいけないことが一つ。

データはあくまでデータであること。データの積み重ねで推測の精度を上げることは可能ですが、これだけで、キャラクターを100%語ることは不可能であるということです。


その為に必要なのが、【fact/真実】の二つ目の要素、登場人物の性格や行動を裏付ける具体的なエピソードになります。

こちらは次回から説明していきます。


さて、【fact/真実】のデータが何かを知った前回ですが、ではどのようなデータでどのような【共通認識】を喚起できるのでしょうか?


前回、このような推測をしました。

例1)キャラ① 20歳、男性、専門学校生、バイトを2つ掛け持ち 東京で父親と2Kのアパート暮らし。7歳の時に母親と離別。

 →苦労人で、責任感が強く、自立心の高い性格


例2)キャラ② 20歳、男性、大学生、6人兄弟の末っ子、アウトドアサークルを始め複数のサークルに所属。両親は祖父母と共に田舎で農業を営んでいる。現在は東京で2DKのマンションで8歳上の2番目の姉と同居中。

 →甘えたで、自立とは無縁、明るい性格の反面、優柔不断な性格

もし、この推測が理解できないあなたは、まず正確な分析方法を知る必要があります


映画監督とは優れた分析者である


日本の映画教育では、ほとんど教えられることはありませんが、映画製作は分析から始まります。

世界中のどの映画大学でも、まずは映画を正確に分析することから始まります。この分析能力を身に着ける為には訓練を繰り返すしかありません。映画を見て、どの情報から物語の内容や、登場人物の状態を知ることができるのか?それを、常に意識することが大切です。

ここに以前解説した映画分析初級編の記事を載せておきます。一度読んでみてください。
映画分析【シナリオ編】講義 (11) 


ここで、試しに映像からデータを読み取ってみましょう。


こちらは、ご存知の通り『ゴッドファーザー』の1stシーンとなります。
ここではセリフは置いておいて、映像から分かることを中心に解析していきます。

1stカット

長ゼリフを言っている男、もちろん会話の中身からも分かるのですが、強いイタリア訛りの英語を話していることで移民であることがわかります。(重要ですので、この点だけはセリフについて触れておきます。)この強い訛りがあるというのが重要で、2世、3世になると流暢な英語となっていくので訛りが目立たなくなっていきます。その為、この男は移民1世と知ることができます。

さらに、画面が引いていくと男が正装していることがわかります。また、画面には男と会話相手しか映し出されず、この会話が機密性の高いものであることを予想させます。が、未だに誰に向かって話しているかはわかりません。しかし、大きな机を挟んでいることで、ここが地位のある人物のキャビネットであること、男が訪問者であることが伺えます。また、男が立ち上がって相手に近寄るという行為から、相手が目上であることが想像されます。


2ndカット

ここでようやく、男の会話の相手の顔が見えます。相手は貫禄があり、ここで男の願いに対しての決定権を持つ人物だということがわかります。


3rdカット

ここで、ようやく場所の全体像が明らかになります。2人だけの秘密の会話だと思わされていたシーンにその他に2人もいることが判明します。その位置関係から中心にいるドン・コルリオーネがその場でもっとも強く、落ち着いて部屋の端にいる2人の男は側近とも呼べるようなコルリオーネとの近しい中を想像させます。(ここではビジネスかプライベートかのいずれかは判断できません)また、部屋の重厚感からコルリオーネが十分な権力と資金力を持っていることが一目瞭然となっています。また、ここにいる全ての人が正装していることで、なんらかの畏まったイベントの直前か、最中であることを匂わせています。


4,5,6thカット

会話が続きます。


 7thカット

コルリオーネが立ったのを合図にするように2人の男たちも立ち上がります。この動作はコルリオーネの意図を察知、または知っているものの行動です。ちなみに、この2人の男達の意図は男に心理的圧力を与える為だと考えられます。


8thカット

今度はコルリオーネが男へと近づいていきます。1stカットとは違って、近くにつれて相手に対する威圧感を増します。表情も変わりませんが、今までの画面で構成してきた圧力と正反対のような、男に対して友情の話を持ちかけています。


9,10,11th

一瞬のやり取りの後、男は服従の証としてコルリオーネの手を取りキスをします。ここで重要なのが男の表情の変化に対し、コルリオーネの表情は最後に愛想笑いを見せるだけというところで、コルリオーネが完全に男を掌握しコントロールしていることがわかります。また、男が去った後のトムとの呆れたような仕草はその男が彼らにとってあまり重要な地位を占めず呆れた相手だと推測させます。また、最後に彼れらの正装の理由、コルリオーネの娘の結婚式の最中であることが明かされます。

このように、たった数カットのワンシーンのなかにも膨大な情報が織り込まれています。

  • なぜ、コルリオーネが一番偉いと感じるのか?
  • コルリオーネにとってこの男がどういう存在なのか?
  • ほか2人の男とコルリオーネの関係は何なのか?
それぞれをセリフ、動き、位置関係、美術、衣装から慎重に読み取って、突き詰めるのが分析の第一歩です。

映画は再現芸術

以前、私は「映画とは再現芸術である」と、書きました。


再現芸術とは音楽を代表とする、再現することで成立する芸術のことです。

ご存知の通り、録音機材の無かった頃、音楽を聴きたいと思ったら生演奏しかありませんでした。しかし、どんな曲でも良いわけではありません。気分によってショパンやベートベンが聴きたいと思うこともあるでしょう。しかし、ショパンやベートーベンが聴きたい時に本人がすぐに演奏しに来てくれるわけではありません。そんな時、どうするか?そうです、楽譜です。直接ショパンやベートーベンの曲を聴いたことがない人でも、正確に楽譜を読み、演奏する技術さえあれば、彼らが演奏した様に再現できる。それが、再現芸術です。

もうお分かりの通り、楽譜はシナリオに相当します。
楽譜は1音1音づつ、誰が見ても再現できる様に法則の法って正確な情報/データが書かれています。音符(データ)が合わさることで、実際に演奏しなくても、曲を想像することができます。
 

さて、再現芸術についての話はここまでとして、データの蓄積により、そのキャラクターの性格や置かれた状況を想像させる、これが【fact/真実】のデータ設定となります。

音楽の場合は訓練された、音楽に造詣が深い人でないと想像も再現もできませんが、映画の場合は一般の観客に対してそれを行います。(シナリオの段階ではスタッフにです)


人間は人間関係を円滑に進めるために、常に情報を得、その情報からある程度推測を行いながら生きています。

  • 『母子家庭』と聞けば→ああ、苦労したんだろうなぁ
  • 『長男』と聞けば→結婚したら面倒臭そう
  • 『目黒の大きな一軒家住まい』と聞けば→金持ち

などなど、人間は今まで積み重ねた情報を使って様々な推測をします。
そして、その推測はほぼ共通の認識なのです。

キャラクター表現とストーリーテーリングもこの【共通の認識】を利用して行います。そのため、【共通の認識】を正確に喚起するための正確な情報が重要となります。


さらに具体的なデータを付け加えることで、より豊かで正確性を持った想像を喚起することができます。

学校での成績、バイトの種類、交友関係、住んでいる地域、通っている学校のレベル等々。

これらの情報を付け加えることで、より具体的な性格やキャラクターの置かれた地位が見えてきます。
試しに前回の例に、より具体的な情報を加えてみましょう。 

例1)キャラ① 20歳、男性、有名な製菓専門学校生、
成績は常に上位週1で勉強の為の食べ歩きできる仲の良いグループがある。中高時代の交友関係が厚い。朝刊配達と定食屋でのバイトを2つ掛け持ち、足立区で父親と2Kのアパート暮らし。父親は町工場で金属加工の仕事をしている。7歳の時に母親の浮気が原因で離別。


例2)キャラ② 20歳、男性、文系大学生、

成績は中の上。6人兄弟の末っ子、アウトドアサークルを初め企画立案系のサークルに所属。決してリーダーにはならない交友関係は大変広く、校外にも多数。両親は祖父母と共に千葉の房総半島花農家を営んでいる。成城の2DKのマンションで8歳上の社会人である2番目の姉と同居中。

さて、このように、データを追加してみました。
より具体的かつ明確に2人の人物像を想像出来るのではないでしょうか?

さて、ここまでは当たり前のように提示されたデータからキャラクターを想像してきました。が、キャラクター作りはこの逆をします。そう、自身が設定したデータで、意図通りの想像を観客に提示しなければならないのです。


ここでもう一度、例1)と例2)を見てみましょう。

例1)キャラ①はデータから苦労人で、責任感が強く、自立心の高い人物であると推測できます。

例2)キャラ②はデータから甘えたで、自立とは無縁、明るい性格の反面、優柔不断な性格であると推測できます。

ここで、キャラ①の『苦労人で、責任感が強く、自立心の高い』という性格をキャラ②のデータに当てはめてみましょう。

例2)キャラ② 20歳、男性、文系大学生、

成績は中の上。6人兄弟の末っ子、アウトドアサークルを初め企画立案系のサークルに所属。常に企画立案の中心。交友関係は大変広く、校外にも多数。両親は祖父母と共に千葉の房総半島で花農家を営んでいる。世田谷の2DKのマンションで8歳上の社会人である2番目の姉と同居中。
→ 苦労人で、責任感が強く、自立心が高い

もちろん、キャラ②のデータからは苦労人で、責任感が強く、自立心の高いという性格は全く感じることができません。

バイトもしてない気ままな文系学生が苦労人?一人暮らしもしてないのに責任感と独立心??

と、ツッコミ満載の設定が出来上がってしまうのです。

映画は作品鑑賞中にこの手のツッコミを観客にさせてしまうとリアリティーの欠如、鑑賞者の映画の世界からの離脱を招いてしまいます。

fact/真実】の設定はキャラクターの性格をきちんと表現する為の第一歩です。

そして、この【fact/真実】を上手に組み立てる事でホラーやファンタジー等の非現実な世界にリアリティーを持たせることが可能になるのです。

『苦労人で、責任感が強く、自立心の高い』というキャラクターの性格をどのデータを使って表現するのか?

『甘えたで、自立とは無縁、明るい性格の反面、優柔不断な性格』を形容詞ではなくデータだけでいかに表現するのか?

これが、【fact/真実】の設定/データなのです。

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