映画のメトダ

【メトダ】とはポーランド語で【方法・方式】の事です。 世界有数の映画大学であるポーランド国立ウッチ映画大学に通う筆者が学校で学んだ事、自分で実践している事などなど、映画製作に関わる事を書いています。

カテゴリ:映画の作り方【初級編】 > シナリオの練習法【初級】実技、課題

セリフのリズムなど戯曲の脚色作業も大変勉強になるものです。
そもそも戯曲は映画と同じで観客の時間を縛る芸術です。
小説は読者の好きな早さで、好きな時に中断できますが、映画と演劇は最初に時間ありきなのです。

そう なると、同じ形態を持った戯曲は本当に勉強になります。
なんせ、小説のように曖昧な表現も心理描写も無く、セリフだけで物語が進んで行くのですから。
しかし、もちろんそのまま映画に出来ない理由があります。
それは、全部セリフとして言うという事。

演劇は映画と違って目線で語る、などという事が出来ません。
なので、状況や感情が会話によって理解できるように構成されています。
そうなると映像にした時に「しゃべりすぎだろ!」と、思う状況が現れるのです。

しかし、何が小説よりも良いかと言うと削る作業がメインとなる事です。
物語に真に必要なセリフ出来事を見分ける練習には本当にもってこいなのです。

ということで、短い戯曲などでも脚色にチャレンジしてみるのはいかがでしょうか?

今回はいよいよ具体的に脚色をします。まずは、こちらから。
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こちらが原作です。
いきなりですが、私が脚色した物を見てもらいましょう。

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大変読みにくいと思いますが、画像をクリックしていただくと大きい画面で見れます。

さては状況描写です。その場所がどのようになっているかを詳しく説明しています。映像になった時、どのような空間がより興味深く見えるか?を意識して書きました。

この原作には曖昧な点が多い上に文学特有の『らしかった』『臭気に』などの映像では表せない表現がはいってます。なので、それらを映像で見せられる様に青い線の部分の様に代わりにシルエットで 表現しました。これはその場所の異常さや憂鬱さなどを引き立てる為に有効だと思ったので。さらに、シルエットで具体的に狂人の顔を見せない事により、より 不安感をあおり、さらに男が見つめる事で誰か別の人を思い出しているのではないか?と観客に感じてもらうようにしています。(ポイントはその後すぐに医者が母親の話題をするところです。その事により、観客に明確に男の考えを感じさせます。)

赤線の 部分、原作では主人公が心で思っていた事をシナリオでは医者に言わせた上に、それが男の神経を逆なでしている様に見える様に1回目のセリフでは振り返らず に2回目で医者の方に顔を向けさせました。さらに、男の心の不安定を煽るように、男の狂人にも視覚的な要素を担いさせました。さらに最後の部分。原作では”煉瓦の描写”によって、主人公の曖昧だが不安な気持ちを描いてありますが、映画になった時にラストカットで煉瓦のシミを見せたところで面白くも何とも ありません。ですので、主人公の不安をかき立てる様な事を医者に言わせました。

この様に、全て視覚とセリフによって全体を構成して行きま す。この2枚で3〜5分程度の短編になると思います。時間の目安は俗に200字1枚の原稿が1分などと言われますが、それは大抵テレビドラマのシナリオ だったりします。映画の場合はあくまで目安であり、監督によって随分違うようです。

さて、是非皆さんもお気に入りの作品で脚色をしてみましょう。

大箱小箱

と、言う言葉があります。これはシナリオ用語とでも言うのでしょうか?実は私、日本できちんとシナリオ教育を受けていないので、日本の専門用語に疎いのです。
(そんなヤツがシナリオの書き方語ってすみません)

前にも言ったようにポーランドでは起承転結の考え方はありません。シークエンス(流れ)とよばれる大きなエピソードの中にシーン(場面)が あり、シークエンス7〜8個ほどで物語を作って行くのが理想とされています。その中にはいくつかのポイントがあって、それを日本的に言うと起承転結になります。おそらく日本と違って映画教育上分析が重要になるからだと思われます。正確に言うと物語は起承転結でなんか割り切れないし、これで細かく分析しだすと必ず破綻する作品があるからです。

ここでは、日本人になじみの深い起承転結、そして大箱小箱で説明していこうと思います。

大箱=起承転結という大まかな流れ、区分
小箱=大箱の中に入った、より詳細なエピソード


となります。

起:美樹は小学6年生。父と1年生の妹の3人暮らし。毎日楽しく暮らしているが、美樹には誰にも言えない悩みが。それは、夏休みブラスバンドの強化合宿に推薦されたのだ。しかし、まだ幼い妹と家事の出来ない父を置いて行く事をためらっている。

承:練習に励みながらも中々、父に相談できない美樹。合宿参加の返事をせかされるも答えられない。そんな時、友人から尊敬する演奏家が合宿で指導する事を聞かされる。意を決して父親に相談する事を決めた矢先に、父親が交通事故で骨折するという自体が。

転: 美樹は結局行かない事に決める。しかし、妹を通じて父親に合宿の事がバレてしまう。父親は美樹が相談しなかった事に怒り、そして情けない自分を責める。 思わず謝る美樹に父も今まで家事を任せっきりにして来た事を謝る。和解した2人を観ていた妹は「自分も家事を手伝うからお姉ちゃん、合宿に行ってきなよ」 と美樹の背中を押す。

結:翌日、起きると父と妹が朝ご飯を用意していた。目玉焼きは焦げて、みそ汁は味が無いが3人で楽しく朝食をとる。

これが大箱となります。

小箱とは『起』の流れを表現する為に『朝食を作る美樹』『父親がはんこのある場所を美樹に聞く』『朝食を3人で食べる』『3人で母親の仏壇に手を合わす』 『妹の手を取って学校に行く』『朝練終わりの友達達と挨拶する』『学校で授業しているエピソード』『ブラスバンドの練習風景』『先生が合宿の話を美樹にす る』…と言った様にそれぞれに具体的なエピソードを分けていきます。そして、エピソードはそれぞれ観客に情報を与える役割を持っています。

これは小説にも共通しております。
ということで、ここからが重要な作業となります。

①大箱(又は起承転結)を把握する
②各大箱の中にいくつ小箱(エピソード)がいくつあるか把握する。
③それぞれの小箱が『何を言いたいのか』かを把握する。
④エピソードの整理。
要らないエピソードは捨てる。又は各エピソードの言いたい事を把握して、1つのエピソードで表現できる様にまとめる。

例えば③の作業。

1『朝食を作る美樹』→美樹が全ての家事をしている。
2『父親がハンコのある場所を美樹に聞く』→美樹だけが家の事を把握してる
3『朝食を3人で食べる』→家族が3人である事を表す。
4『3人で母親の仏壇に手を合わす』→母親が居ない事を強調。
5『妹の手を取って学校に行く』→妹の世話をしている。
6『朝練 終わりの友達達と挨拶する』→朝練に出れていないことを表す。
7『学校で授業しているエピソード』→美樹の日常を表現。
8『ブラスバンドの練習風景』→美樹が真剣にブラスバンドに取り組んでいることを表現。
9『先生が合宿の話を美樹にする』→合宿についてのインフォーメーション。美樹の葛藤の始まり。

と、1つずつのエピソードから『何を主題としているのか。何を情報として観客に与えたいのか。』を見つけていきましょう。

④の作業の場合、1〜5はいくつか重複したインフォメーションがあります。その場合『どれが削れるか?』『1つのエピソードにまとめられないか?』などを考えていきましょう。

ちなみにこれらの作業は8シークエンスの法則でも同じように定義付けできます。
もしお持ちの小説が8シークエンスで対応できそうならばそちらを使って脚色していきましょう。短すぎる場合は今回の起承転結で。

8シークエンスで物語を照らし合わせてみる。

さて、物語分析で説明した映画の法則、8シークエンスを覚えてらっしゃるでしょうか?
是非、これに照らし合わせて…と言いたい所ですが、8シークエンスはあくまで1時間半〜2時間半の映画の基本です。

ここでは、短編映画10〜30分想定のシナリオを書く事を目的としたいので、起承転結で説明していこうと思います。

もし、自分の選んだ短編小説がどうしても起承転結に当てはまらない時は8シークエンスの物語分析を参考に、シークエンスを増やしたり、減らしたりしてみましょう。

では、まず『起承転結』を知りましょう。

なぜ、起承転結が重要となのか?
『起承転結』は物語を面白くする為の基本です。

●起→物語の導入部。どんな登場人物が居るか、どんな世界、時代に住んでいるのか、登場人物の関係性など、物語を理解する上で重要な情報を紹介する部分。

●承→「起」で紹介した内容をさらに進めて理解を促し、次の「転」へつなぐ為の役割をもっています。
「起」に比べ、より興味深い内容の提示となります。

●転→物語の核となる部分。『山場』とも言います。物語が1番盛り上がりをみせ、かつ最も大きな転換点を見せる部分となります。

●結→「転」での結末が最終的にどうなったのかを締めくくる部分。「オチ」とも呼ばれます。

これを知っていれば、情報の取捨が容易に出来ます。
本来、原作物の映画は多かれ少なかれ省略が入ります。1番の理由は『尺』と呼ばれる時間制限。普通の単行本ですら、まともに全て映像化していたら2時間程度では収まらないのです。また映像的に面白くなりそうでない部分なども省いて行きます。
その省く作業ですが、何でも省けば言い訳ではありません。

物語の各パートで何が1番重要な情報なのかをきちんと把握した上で、それをシナリオに残して行かなければなりません。または、それがシナリオ上で面白くなる 様に時には『作り替える』などといった作業も必要になります。そういった時、目的を見失わない為にも、物語をきちんと把握する事が大切なのです。

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さて、この小説の起承転結を見て行きましょう。すこし、短すぎますが、きちんと起承転結があります。また解釈の幅が広いのですが、脚色する上でそれぞれの部分の大事な情報も定義していきます。(前回定義した設定も含めます)

①物語の導入。物語の舞台と雰囲気を示しています。
広い部屋に狂人たちが居る事。その光景が憂鬱で異様である事を伝えねばならない。

②それを受けて、より興味深い事実の提示。『母親も彼らと同じようだった』ことが知らされます。
どのように、母親が彼らと似ているかを提示。

③場所移動による転換。得体の知れない物と遭遇。
母親がどのような姿になるのか。
それを目の当たりにした主人公の心の動き。

④結末。何も無いようで、なにかそこにあっただろう証を見つける。
母親の存在と重ねている。母親がいたであろう、確かな証であると主人公が発見する。

このように設定してみます。
太字の部分はそれぞれのパートで
もっとも表さねばならない指針』=『物語の骨組み』となります。これを基に脚色作業をしていきます。作業中は「自分が今何を表現しているのか分からない」という状態に陥る時が多々あります。その時は、始めに決めた、この起承転結にそった内容になっているか、その都度確認していきましょう。

さて、みなさんお気に入りの短編小説はお手元にお持ちでしょうか?

まずは脚色作業を始める前に、その本を最低3回は読んで下さい。
脚色をする本を読み込む作業は物語を理解する為にもとても大切な事です。

そして、読みながら映画分析でも説明した物語構造を何となく頭に入れて、その小説を当てはめながら読んでみましょう。小説は映画と違い8シークエンスの法則には当てはまらない可能性もあります。なので、大まかに流れの区切りとなる部分を見つける程度で良いです。

さて、読み込んだ小説の全体像が把握できてきたら、実際の脚色作業に移りましょう。

今回、芥川龍之介の『或阿呆の一生』から『母』を例に解説して行きたいと思います。
まずオリジナルはこちら。(見やすいように旧仮名遣いは現代使いに直しております。)
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登場人物をつかむ

まず、ファーストステップは“登場人物を理解する“です。

①何人登場人物がいるのかを書き出す。


①主人公
②医者
③母親(主人公の頭、記憶にだけ)
④狂人1
⑤狂人2

と、上記の小説では計5人の登場人物がいます


②登場人物の名前、年齢、職業&主人公との続柄付きで書き出す。
小説から、登場人物の情報を取り出しましょう。小説だと案外、具体的な年齢が書いていなく『中年』や『白髪が交じりだした』などの表現が使われている事が多いと思います。そういう時は自分が物語から受けたその登場人物の印象や外見を参考に「おそらく50歳くらいだろう」などと、想定して書いてみましょう。

しかし、この小説には人物に対する、詳細な情報は一切ありません。そこで、自分で補足していきます。この補足作業こそ、腕の見せ所です。

さて、ではどのように推測、補足していけばよいのでしょうか?
まず始めに、主人公を考えて行きましょう。
主人公の年齢のヒントはこの部分。
『 彼の母親も十年前には少しも彼らと変わらなかった。 』
ここから分かる情報は、主人公が10年前に明確な記憶を持つ年齢であったということ。ここから、少なくても20代後半以降である事が推察されます。
また、周りとの関係性からも推測して行きましょう。医者が彼に話しかける言葉は明らかに目上の人に対してではありません。と、いうことは医者にとって目下であり、年下である事が分かります。医者は『血色の良い』と表現されています。そうすると、まだ若さの残る年齢でしょう。また、1人で客(とみられる)主人公を案内している点、過去の事例を話している事から、彼がすでに医者として独り立ちして幾年か 経っている年齢だと伺えます。そうすると30代後半以降だと思われます。医者は主人公に対して気軽な口調で話しかけていますから、おそらく見た目でも年齢差がはっきり分かる程度は2人の年齢が離れていると推測できます。そうすると、10年前の記憶の描写などと照らし合わせると、主人公は30歳程度、医者は42歳程度と私は推測します。

これはあくまで、私の分析による推測です。
原作物の映画化作品をファンが見てよく「なんか、原作とイメージと違った〜」などという感想がありますが、こういった補足部分に読者とのイメージの違いを生み出すのだと思います。ということで、あくまで原作に なるべく忠実に補足していく事が大事になります。(個人的には面白くなるなら何でもありだとは思っています。)

さて、登場人物2人の年齢が出てきました。ここから、母親の年齢を割り出します。一般的に考えて親子である主人公とは20歳以上歳が離れているのが自然です。もちろん、若いお母さんだったという設定を付け加えてもかまいません。その場合は16、7歳程度の差でしょうか?
今回は単純に主人公の年齢+20−10年前ということで40歳とします。
また、話の流れから母親はもう居ないと推測されます。

最後に2人の狂人についてです。
こここそ、正に腕に見せ所でしょう、『母親を思い出す』と言う記述から、2人を母親に近い年齢の40歳の女性にするのも良いし、むしろ今ここにいたらを想定して50歳としても善いでしょう。全く別の男の狂人としても善いでしょう。
この選択こそが『物語をどう見せて行くか』という作家としてのあなの本領を発揮する所です。曖昧な表現の部分は、そのまま如何に自分らしい表現を付け加えられるかという部分になるのです。ということで、私はこの2人、オルガンを弾いている方を40歳女、踊っている方を30代男とします。これは、そのまま主人公と過去の母親と同じ年齢の組み合わせにしました。

と、いうことで登場人物表はこうなります。

男(30)サラリーマン。
医者(42)男の母親の担当医。
母(50)主人公の母親。
女の狂人(40)病院の入院患者。
男の狂人(30)病院の入院患者。


③登場人物を掘り下げる。
まずは、この物語の状況を考えましょう。主人公はどうやら医者に案内をされているようである。要するにここは彼にとって初めて又は滅多にこない場所である可能性が高いとみられます。精神科と言う特別な場所で男が医者に案内されている状況を私なりに考えてみました。

1、主人公も医者であり、この病院に配属されて来た。その為、医者は主人公を案内している。

2、最終的に脳髄のつまった瓶が置いてある場所に案内される。この部分から推測して、医者が死んだばかりの母親の遺体をサンプルとして同じようにしたいと願い出ている。その際、身内である主人公に許可を貰おうと呼び出した。

物語をよりドラマチックにする為に私は2番を選ぶ事にしました。さて、この設定から主人公の内面も推測できます。

主人公は病気の母親を10年も訪れない。
→主人公は狂人になった母親を受け入れられないという葛藤があった。
→その反動の為、真っ当に生きる事が1番であると考えるようになり、まじめで人と違った事はしない性格に。
→この事から、一般のサラリーマンと職業づける。

などと、原作の内容と反れない様に、連想させて行きます。

医者についても考えて行きましょう。

「この脳髄を持った男は…」

と、過去自分の請け負っていた患者の話をひょうひょうとする事から、すこし冷酷な人。そして、私が付け加えた『サンプル』の設定から、研究熱心というのも付け加える。

残りの母親と狂人たちにも、それぞれ設定などを考えて行きましょう。

例えば女の狂人なら『元ピアニスト』、男の狂人なら『常に自分は大きな熱いフライパンの上に居るという思いに駆られている』等。

このように、それぞれのキャラクターをしっかり固めた上で、本格の脚色作業に入りましょう。次は物語の起承転結について。

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