映画のメトダ

【メトダ】とはポーランド語で【方法・方式】の事です。 世界有数の映画大学であるポーランド国立ウッチ映画大学に通う筆者が学校で学んだ事、自分で実践している事などなど、映画製作に関わる事を書いています。

カテゴリ:映画の作り方【初級編】 > 俳優演出

さて、長い間【俳優演出入門】と名を打って演技と演技指導の基礎を解説してきました。

せっかく、これだけの事を知識として入れても、中々実践の機会がないと思います。せっかく回ってきたチャンスを物にする為にも常日頃から訓練しておきましょう。

そのオススメの訓練方法というのは【実際の指示を想像】する事です。

あなたが見てきた映画の中で "この映画の演技が素晴らしい"  という1本を選んでみてください。
もちろん、何度も見れるほど惚れ込んでいる映画が良いでしょう。
ただし、きちんとストーリーテーリングとドラマがある事が条件です。
ヌーヴェルヴァーグ作品や詩的な映画は避けてください。

そして、その映画を見ながら『この俳優さんはどんな指示をうけてこの演技をしているのか』を分析し、実際に指示を予想します。もちろん、今までで習ってきた【オブジェクティブ】から始まり【動詞指示】まで、それらに沿って指示を考えていきます。

それらを正確に捉える為にも、映画分析をしてからこの作業に取り掛かってみてください。
(シナリオ分析のヒントはこちらから↓↓↓↓↓↓)
       映画分析【シナリオ編】講義 (10)

分析の基本は大枠から細かい部分へと進んでいく事です。基本の8シークエンスを分け終わった後に各登場人物の【スーパーオブジェクティブ】を設定し、シークエンスごとの【オブジェクティブ】、シーン、ショット毎の指示と細かく想像してみましょう。

おそらく1本、冒頭からラストまで終える頃には、あなたには相当な指示分析能力がついていると思います。 

個人的に演技指導分析にオススメな映画を何本かあげてみたいと思います。

1本目はスティーブ・マックイーンの『シェイム』
 
純粋に、俳優の演技の光る映画。
ため息、目線の動き、口元の動き、全ての俳優の行動に意味を見いだせる隙のない映画です。
また、セリフも少ない事から、登場人物の心情を正確に捉える訓練にも適してると思います。

俳優演出が超絶なのはこの人。P・T・アンダーソン。
この人の映画は "俳優演出” においてはハズレはないです。また、映画についても好みが別れる事はあるとは思いますが、その凄さを否定できる人はいないでしょう。そんな訳で、彼の作品のどれか1本。
 
 
 
 
*最後の『めぐりあう時間たち』に関しては3つの時間軸があります。それぞれを別に分けて、1つの時代に絞って分析を進める事をオススメします。また、子どもへの演出は全くの別物となるので、1951年のローラのパートはオススメしません。 

さて、俳優との仕事は監督にとって一番難しいものの一つです。

多くの情報、多くの説明のバリエーション を用意し、時には相手の反応を見て、用意したものとは全く別の指示をせねばなりません。

実は、ここまで書いてきた役者への指示は全て【テクニカル指示】と言われ、【コレクト】以外、撮影に入る前に役者に伝えておく内容となります。

【オブジェクティブ、スーパーオブジェクティブ】
【FACT】
【キャラクターがどのように世界を見ているか】
【オブジェクト指示】
【動詞指示】


これらは、事前の役者との打ち合わせで済ませておきます

役者はこれらの情報を事前に知る事で、事前準備が出来、撮影現場では感情を出すためだけに集中できます。

では、これらの指示を俳優に事前に済ませた場合、
監督は現場では何をすればいいのでしょうか?

実はそれをやった上でも、多くの仕事が監督にはあります。

俳優は多くの情報を与えられ、整理して、自分なりに演技へと挑んできます。
その上で、多くの事を忘れてしまいます。 
これは、仕方がない事で、映画という長いストーリーを描く中で、そのシーンごとに全く違う感情を演じなければなりません。それに、感情は容易にコントロールできません。その為、その都度、監督が役者に思い出させなければなりません。

また、役者が感情をさらけ出せるように、テクニカル指示以外にも、モチベーションを上げる為の指示をも与えます。時には褒めおだて、調子に乗らせたり、威圧して追い詰める事で役者に感情をさらけ出させる準備をしてあげます。

また、役者が作り上げてきた感情の修正をも行います。
この時点で行う修正は大抵【もっと強く】【もっと弱く】などと、いわゆる加減です。
私はよく「その100倍やれ! 」とか「もっと少なく、80%程度でいい」と具体的に数字で言います。
ここまで作り込まれた感情は、あとは画面にパーセンテージのみの指示だけですんなりとハマってしまいます。

また、よくあるのが俳優個人の癖です。
実はこの癖、言っても治りません。

今から見てもらうのは黒澤明の演出シーンです。
彼は動作指示ばかりで、動詞指示はしておりません。
ちなみに、今まで解説してきた演出方法は典型的なハリウッド・メソッドと呼ばれるもので、ロシアの偉大なる演劇人にして近代演劇演出法を確立したスタニスラフスキーのメソッドに基づいてハリウッドの俳優陣の中で進化したものです。ですので、俳優側からの視点に基づいた演出方法です。
監督には人それぞれの方法があるので、黒澤明は私がここに書いた方法とは別の方法で演出している、というのを前提に置きながら以下の動画をご覧ください。


 
ここで、黒澤明は盛んに侍女役の役者さんの頭の動きを注意しております。 
何度言っても女優さんは治りません。

これはこの女優さんの無意識に行う癖です。これは明らかに『演じる』という行為の上で出てきている癖です。
ここで、黒澤明はしつこいくらいに、同じことを言ってただひたすら繰り返させます。
『なぜ、指示を変えないのか?』『なんて、効率が悪いんだ!』と、お思いになる方もいるかもしれません。しかし、これは黒澤明なりの解決方法なのです。というのも『演じる上での癖』と書きましたが、ようはこの女優さんは『演じる』ということに対して力みが出ているのです。この力みを取るには様々な方法があるのですが、ここでは肉体的に疲れさせることにより、無駄な力みを取る狙いがあると思われます。人間は体が疲れてくると、無意識に最小限の動作に止めようとします。ここで、問題になっているのは無駄な頭の動きです。 この動きを制限させるためには、別の自然な癖で抑えるのが一番です。なぜなら、意識しても治らないのですから。その上で繰り返すことで、体にその動きを馴れさせ、無駄な力を抜いているのです。

このように、実は言葉での指示以外にも、時に実際に行動させることによって【監督の目的】を達成させます。演出の目的は上手に役者を扱って、最終的に【監督の狙い通りに動かす】ことです。そのためにはどんな手段でも使うのです。

今回、一連の記事で書いた演出法は俗にいうワールド・スタンダードです。
世界中の学校で教えられる基本とお思いください。
基本は常に応用や工夫することによって実践で役に立つ、ということを覚えておいてください。
最終的にはあなた自身が、あなたの演出方法を確立し行かなければなりません。
その参考になれば幸いです。

次回からは、シナリオ講座中級編へと行きたいと思います。 

さて、動詞指示はシナリオに沿っていくらでも細分化することができます。
シナリオに書かれた、各セリフ、動作ごとに細かく指定してつけることができます。

⚪️Aの家 玄関/午後10時頃/内
   鍵を開けてAが入って来る。手にはカップラーメの入ったコンビニの袋。
   (一刻でも早く休みたい)
   キッチンの電気がついている。驚くA。(状況を確認する)
   驚て静かに様子を探る。(身の安全の確保する)
B「お帰りなさい!(喜ばせる)
   キッチンの扉が開き駆け寄ってくるB。
   (A:相手を観察する)(B:歓迎する)
A「びっくりした…。(責める)
  今週は仕事で忙しいんじゃなかったの?
(追求する)
B「ちょっと手が空いたから。
B「ちょっと手が空いたから。(なだめる)
(Aの荷物を引き取り(様子を伺う)、キッチンに戻りながら(かわす))どうせ、あなた、忙しさにかまけてロクな物食べてないんじゃないのかと思って、(喜ばそうとする)作りに来ちゃった。(戯ける)」⭐️ 
   (謝罪する)A靴を脱いで、Bの後についてキッチンへと向かう。(感謝を伝えたい)

 

 
さて、このように太字で書かれた状況説明の箇所以外、それぞれに【動詞指示】を与えることができます。ご覧の通り、全ての指示が "第三者に対してどう動くか” で構成されています。
ここでは、例のために適当に動詞指示を付け加えたのですが、付け加えた後にも、【本当にこの指示で役者が動けるか?】【オブジェクトやスーパオブジェクトに沿ったものか?】などを考察していきます。
もし、どこかしっくりでない部分が出てくれば、それは指示に問題があるか、シナリオ自体に問題があることになります。 その都度、修正しましょう。

また、これらの作業は監督の仕事として必須ですが、役者にとってこの指示が全てが必要かは別です。
役者の様子を見ながら情報量を調節しいきましょう。

本来、映画の撮影はこのような流れで俳優演出を行います。 

①リハーサルで画角も含めたテクニカル、演技の方向性の確認。
②コレクト作業(演技を完璧に持っていくための修正作業)

詳細な動詞指示はこのコレクト作業といわれるもので必要になってきます。
コレクト作業は場合によって何度も繰り返されます。
これがテイクになっていきます。

これらの撮影の詳しい流れば後ほど解説するとして、動詞指示に話を戻しましょう。

この動詞指示、実は訓練しないと相当難しいです。
かくゆう私も、未だに手探りしながら訓練している最中です。
動詞指示は常に有効な訳ではありません。しかし、正しい指示を与えさえすれば俳優に対して有効な手段の一つであることは確かです。

また、日本語は曖昧を主とする言語ですから、まず初めに、どの動詞が第三者に対して明確な意思、又は行動を示す言葉であるか認識を持つ必要があります。
いろいろな動詞を思い浮かべながら
①動作動詞(立ち上がる、振り返る、ため息をつく等)
②自己完結型動詞(考える、悲しむ、考える等)
③対外的動詞(動詞指示となりえる動詞)

と分けて行ってみてください。

皆さんの考えるヒントとして、ここに動詞指示の一例を箇条書きにして記しておきます。
参考にしてみてください。

避難する  恥をかかせる  しかる  戒める   いじめる  脅す  強要する  
破滅させる 気を重くさせる  警告する  みくびる  湿っぽくさせる 
抗議する  試す  命令する  教える  ハッタリをかます  懇願する
納得させる  説得する  丸め込む  うまく操る  不平を言う  すねる
けしかける  怒らせる  ほのめかす  覗き見る  分析する  診断する
勇気付ける  栄誉を与える  評価する  断言する  お世辞を言う  
挨拶を言う  降伏する  治療する  救う  打ち明ける  任せる
愛撫する  手をつなぐ  甘やかす  守る  はねつける 駆り立てる
大目に見る  自己弁護する  真価を認める  うるさく言う  嫌味を言う
誘惑する  せがむ  服を脱がせる  セックスをする  追憶に耽る  夢見る

ここで【服を脱がせる、セックスをする】等の動詞が出てきますが、これはオブジェクティブ指示ですね。それを目的としてシーンを演じていきます。このようにオブジェクティブ指示と動詞指示は表裏一体。

また、一見、自己完結動詞に見える【真価を認める、追憶に耽る】等の動詞ですが、前者は相手に対して認めたことを表すことが重要であり、後者は指示として完結しています。

というのは、【考える】という動詞ですと結論を必要とする上に、その過程までどのように演じなければいけないのか?と、不明な点が様々出てきます。しかし、ここでの指示は明確な追憶に耽るための材料がシナリオ上に書かれております。このように、動詞指示の最も大事なことは、その動詞一つで指示が完結できるか?というところにあります。
以前にも言いましたが人間は一度に一つのことしかできません。"迷いながら真意を求める”などという事はできないのです。
 
まだまだ、様々な動詞があります。いろいろな動詞で指示を考えてみましょう。 

さて、前回【チェンジング・ポイント】という新しい言葉が出てきましたが、これについてはシナリオ講座:中級編にて解説したいと思います。

前回【オブジェクト指示】について解説しました。
それ以外に青色で書かれた【動詞指示】について解説していきたいと思います。

まず、なぜ【オブジェクト】が重要なのかを解説します。

すでに皆さんもご存知のように形容詞の指示は映画では禁物です。
その為、シナリオにも形容詞は書けませんでした。
というのも、形容詞は目で見えないからということを学びましたね。

この "見えない" と、関連して俳優演出で御法度なのが "自己完結" で終わってしまう指示です。

例えば "納得する" という指示です。
"納得する" という行為は外的要因を経た上で結果として生じるものです。
また、根本として "納得する" という行為は "納得していない" という状態を経て行われる行為です。ということは、本来最初のオブジェクト指示は "相手に反対する" という行為から始めなければなりません。

そもそも、映画はドラマ=葛藤によって成立します。ドラマについての詳しい解説もシナリオ講座:中級編にてしたいと思います。

葛藤とはもちろん、2人以上の人物に生じたものとなります。
というのは、自己の葛藤とは絵に見えないからです。1人の男が何かに悩んでいても、映像には男がただ突っ立って難しい顔をしているだけで、理由も原因もわかりません。

では、目に見える形とはどのような状態でしょうか?
それが、セリフであり、行動です。そして、登場人物の意図が明確に見える第三者、又は自身の外に向けて登場人物が起こすアクションということになります。
そして、そのアクションは【スーパーオブジェクティブ】と【オブジェクティブ】に沿った形で表されます。そして、そのアクションに必要な指示こそが【アクション=動詞指示】です。

それでは、例を見ていきましょう。

⚪️Aの家 玄関/午後10時頃/内
   鍵を開けてAが入って来る。手にはカップラーメの入ったコンビニの袋。
   (一刻でも早く休みたい)
   キッチンの電気がついている。驚くA。驚て静かに様子を探る。
   (状況を確認する、身の安全の確保する)
B「お帰りなさい!」
   キッチンの扉が開き駆け寄ってくるB。(相手を観察する)
A「びっくりした…。今週は仕事で忙しいんじゃなかったの?」(追求する)
B「ちょっと手が空いたから。(Aの荷物を引き取り、キッチンに戻りながら)どうせ、あなた、忙しさにかまけてロクな物食べてないんじゃないのかと思って、作りに来ちゃった。」⭐️ 
   A靴を脱いで、Bの後についてキッチンへと向かう。(感謝を伝えたい)
 
 
 
これらの、指示は全て対外的に行動を移すことができる動詞指示となります。
よく勘違いされるのが 【ゆっくりあるく】や【振り向く】などの動作指示です。
これは、ダメです。
もちろん、絵的に必要な時には指示します。が、本来必要な指示は『なぜ、ゆっくり歩くのか』『なぜ、振り向く必要があるのか』という、根本的な原動力となる指示です。 

【ゆっくりあるく】なら "引き止めて欲しい" "相手に見つかりたくない"
【振り向く】 なら "相手から逃げ切る" "相手の真偽を確かめる"
などといった、動機を想定する動詞を使って指示するのが【動詞指示】なのです。

そもそも、なぜ動作指示がダメなのかというと、動作指示を出された場合、役者は手順ばかりに頭が行き、感情を作り込む事ができません。細かな動作指示は実は感情の流れの切断や混乱を招く結果になるのです。監督はまず役者の感情を引き出した上で、その流れを止めないように、意のままに役者が動作するように導いて行くのが仕事なのです。

ただ 【ゆっくりあるく】や【振り向く】だけなら誰にでも出来ます。
しかし、我々監督が求めているのは演技です。しかも、高度な感情の伴った演技です。
【ゆっくりあるく】というのは、あくまで演技の結論であり、方程式も計算の仕方も知らない役者が答えでけ聞いても、そこにたどり着く事はできないのです。

【オブジェクト指示】

さて、以前に【オブジェクティブ】と【スーパーオブジェクティブ】の話をしましたね。

実はこのオブジェクト指示というのはシナリオを分解して指示を細かくしていく過程にも有効です。その為にはまずは、この2つのオブジェクトをきちんと設定する必要があります。その上で、その2つに沿うような指示を細かくしていく必要があります。

感情を代表する『泣く』という行為を一つとっても、多くの種類があります。

悔し涙、嬉し涙、 悲しい涙、笑い泣きetc...

しかし、どの涙も共通することがあります。

それは "理由と対象" があること。

悔し涙→馬鹿にされた
嬉し涙→大切な人が無事に帰ってきた
悲しい涙→裏切られた
笑い泣き→笑わせられた

このように、必ず原因があり、その全てに『誰から受けたものか?』という対象がいます。

実は感情には "なんとなく"  は存在しません。
実生活においては原因を"あえてはっきりさせない”という自己防衛が働く場合があります。
その場合は原因がないのではなく、原因を認知していないだけなのです。

しかし、役者に対してその防衛本能を含めた指示与える事はできません。なぜなら、役者はまず、根源である感情を表現しなければならないからです。感情の沸き立つ元には必ず原因があって、それを起こした"対象" がいます。この理由と対象が曖昧なまま役者は感情を作る事は出来ないのです。

その為、役者は 『誰に』『何をされたことによって』『何を求めるのか』を明確に理解する必要があります。特に大事なのが『何を求めるのか』です。
『何を求めるのか=オブジェクト=目的』をはっきりすることによって、役者はその目的に向け行動できるようになります。

例えば

悔し涙→馬鹿にされた→復讐してやりたい
嬉し涙→大切な人が無事に帰ってきた→一時も離れたくない
悲しい涙→裏切られた→相手の心を取り戻したい
笑い泣き→笑わせられた→もっとこの人と一緒にいたい

これらのオブジェクトは役者の行動形成の助けになります。

それではオブジェクト指示とはどのようにするのでしょうか?

前回の例を使って表してみたいと思います。
⚪️Aの家 玄関/午後10時頃/内
   鍵を開けてAが入って来る。手にはカップラーメの入ったコンビニの袋。
   (一刻でも早く休みたい)
   キッチンの電気がついている。驚くA。驚て静かに様子を探る。
   (状況の確認、身の安全の確保)
B「お帰りなさい!」
   キッチンの扉が開き駆け寄ってくるB。(相手を観察する)
A「びっくりした…。今週は仕事で忙しいんじゃなかったの?」(追求する)
B「ちょっと手が空いたから。(Aの荷物を引き取り、キッチンに戻りながら)どうせ、あなた、忙しさにかまけてロクな物食べてないんじゃないのかと思って、作りに来ちゃった。」⭐️ 
   A靴を脱いで、Bの後についてキッチンへと向かう。(感謝を伝えたい) 
さて、赤色で書かれたのが【オブジェクト指示=目的指示】です。

(一刻でも早く休みたい)という目的は、登場人物が如何に疲れているかという登場人物の置かれた状態も表しています。しかも、この目的は必ず全ての人が経験したことがあります。
この指示だと、役者が自分の経験から登場人物の状況をイメージしやすく、再現しやすいのです。
 以前にも言いましたが、人間は経験したこと以外は出来ません。

役者への具体的な指示の目的は、役者の経験を呼び起こし、そのシーンに合った感情を当てはめることです。

もし、この目的指示で役者がうまく機能しない場合は言い方を変えます。 
(一刻でも早く休みたい)→(今すぐベッドに横になりたい) etc...
 
大切なのは、監督が常に何を表したいかを明確に持っていること
ここでは "如何に彼が疲れているか" を表現します。 
 
(感謝を伝えたい) 
目的指示の基本は『〜たい』という願望を表す言葉で行います。
この時点で、すでに俳優とは『登場人物がどのように世界を見ているか?』 というのを確認済みですね。それを考慮して役者は"感謝を伝える"という目的をありとあらゆる方法で試すことができます。
それは役者がバリエーションを提示できるというのと同義語です。

例えば【嬉しい】→【なぜ嬉しいか?】→【どの様に嬉しいか?】
といった様な指示(解説)の仕方をすると、どんどん状況が限定され選択肢が減っていきます。

以前にも言いましたが、この様に状況を限定してしまった場合、役者は自分の経験から答えを見いだそうとします。"自分が同じ状態だったっら"という思考に無意識に引きづられてしまうのです。

何度も言いますが、同じ状況でも人によって感じることも行動も違います。
役者が本人として感じることが、役に合っているとは限りません。
そうなった場合、バリエーションが提示出来ない状態は方向性を探ることすら出来なくなってしまいます。逆に言うと、役者はその目的達成のために常に幾つかのバリエージョンを想定しておく必要が有ります。幾つかの選択肢の中から監督がこれだと選び、それを詰めていく事になります。実はむやみに初めから限定された状態から始めるより、過程を経て限定されていく方が役者は監督の意図を取り込みやすくなります。何が無駄で何が必要なのか明確に見えてくるのです。

また、1シークエンスの中で登場人物のオブジェクトを1度変えることができます。
シナリオの中に記した⭐️印がありますが、いわゆる【チェンジング・ポイント】です。何かの過程を下手結果、登場人物の目的=心境に変化が現れる部分です。
このシナリオの場合 "疲れて休みたい→相手に感謝をしたい" と、行動の原理になる欲求が180度変化します。

さて【オブジェクト指示】が理解できたところで、次回は青色で書かれた指示について解説していきます。 

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