このところ講師Kさんの機嫌が悪い。



カリキュラムは来月11日に迫った日商簿記検定試験に合わせ、簿記の講義が中心になっている。簿記の講義は男性のS講師が務め、簿記の合間にその他K講師が担当する講義が入る。簿記が始まる前まではK講師がこのクラスの担任みたいなものだった。



今一度K講師の事を説明すると、Kさんは女性でアラ還くらいの年齢だそうだ。この職業訓練コースではPC関連授業全般と職業的知識、営業やコミュニケーションスキル、面接就職対策、キャリア・コンサルティング、FP検定試験についても担当している。ここの講師を務める前までは、専門学校で若い学生さんたちにも類似の授業を教えていたそうだ。



いつも黒を中心としたゆったりジャケットファッションが多い。話好きで、豊富な経験に裏打ちされた話しをいつもにこやかにしてくれる。性格は明るく、ちょっとそそっかしいところもあるが息子さんや旦那さんの話をしている時はニコニコしているから、家族円満なのだろう。毎日、受講生全員のチェックシートを回収し、翌日には返信をして返してくれる。



「このクラスの担当が無い時は何をしているのだろう?」と思うことがあるが、講義に関係の無い事を聞くのもなんだか憚られるので聞いてはいない。K講師はこの職業訓練を主催している会社とは契約社員くらいの関係みたいだ。同じ建物内で他にも2つくらい訓練コースがあるようだが、そちらの講師をしているにしても建物内で行き会うことは無いので、お休みしているのかもしれない。



そのK講師がこのところ機嫌が悪い。昨日は前半3コマが簿記で後半3コマがK講師の授業だった。5コマ目の昼休み後の講義では居眠り者が続出してしまったらしい。内容はExcelの授業で、複合グラフを作りながら、黒紳士も危うく船を漕ぎそうになったが、頑張って起きていた。後からK社長に聞いた話しでは、社長席の前の列全員が夢の国行きだったらしい。



黒紳士の席は真ん中くらいなので、日直の時くらいしか教室を見渡し、欠席者や欠課者の確認をしないので、そんなに午睡者がいたとは気が付かなかった。今日も前半3コマがK講師、後半3コマがS講師の簿記の授業だったのだが、午前中も何人か寝坊助がいたようでK講師の語尾がいつもよりもトーンが高くなっており、険を含んでいた。「ありゃ~ご機嫌斜めだなぁ」



休憩中もその話題になり「K講師、なんか怒っているよね」と、K社長曰く「そんなに怒っていると、せっかくの美貌が台無しだよ、と話してやろうか」(K社長はK講師よりも年長さんなのである)
と、煙草隊フィーチャリングK社長でそんな話しをした。K社長は煙草隊に「煙草をやめさせる」という名目でよく外のコンビニ灰皿まで出張してくるのだった。



確かにK講師の気持ちはよく分かる。親身になって我々、訓練受講生にタメになることを教えてくれている。外部招聘講師だから、会社と受講生の橋渡し役として気苦労なこともあるだろう。(S講師は会社の正社員のようだ)税金から手当をもらっている我々にとっては職業訓練を受講するということは責務になっている。「今は半年間、手当を付けてあげるから、ちゃんと就職して税金を収めてね」という趣旨の手当なのだ。



ならば、教えを請う立場なのだから居眠りをすることは責任を放棄し、K講師の顔に泥を塗っていることになるのだ。自分から希望してこの講習を受けに集まった受講生達。訓練の選考会は2月だったから4ヶ月たって、初心を忘れてしまっているのかもしれない。毎日、家とハローワークの往復だけ。溜息をつくだけの辛い日々を考えれば、毎日新しい事を教えてもらっている今の生活を幸福だと思わなければ。



受講生として考えれば、毎日の勉強の他にそれぞれ受験する検定の自習に追われたり、帰宅してからも家の用事があったりでいろいろと忙しいのも分かる。遊びたいと思うのも無理はない。だけれども、社会人になってからこれだけ学習出来る環境、学習に専念出来る環境が整っていることはザラにはない。




当たり前なのではなくて、特別な日々を送らせてもらっているのだ。そのことに感謝し、今の自分が出来ることに集中して取り組んでいくのが受講生の心構えではないだろうか。



K講師の苛立ちに申し訳なさと、自分の立場を再認識する機会を頂いた。



この恩に報いるためにも、心を入れ替えて明日から講習に臨もうと思った。