月日は瞬く間に過ぎ、現在通っている職業訓練も残りひと月半となった。


そろそろ自分の出処進退を真剣に考えなくてはならない。クラスでも仕事が決まって退所する受講生もポツポツと現れ始めた。


とはいえ、まったく将来の展望など無い黒紳士。【何とかしなくては】とは思ってはいるが、なら具体的に【何をしなくちゃ】が思い浮かばない。【ならちゃんとFPの勉強をしろよ!】と奮起すれば良いのに、向学心も湧いてこない。


ボーッと三連休も終わってしまう、このままではマズい。そこで、求人チラシに載っていたある会社の「お仕事相談会」なるものを覗きに行くことにした。


かねてから退所して行った受講生から噂は聞いていた「職業紹介会社」主催のお仕事相談会で、求人チラシの小さな広告スペースには「当社独自求人がいっぱい!」「お気軽に手ぶらでどうぞ」といったコピーが踊っていた。近くの商業施設でやるらしいので、午後から出かけてみた。


会場に着いてみると施設入り口近くにブースがあり、受付の女性が1人、暇そうに簡易応接セットに腰掛けていた。取り敢えず「こんにちは」と声を掛けて「求人チラシを見て話しを聴きにきた」と告げる。着席を促され、説明を聴いた。


最初は人材紹介のシステムの説明だったが、簡単なフローチャートを見せられただけで、この会社に登録するメリットが良く伝わってこなかった。そののちエントリーシートなるものを出され、色々と希望する職種や希望条件、これまでの職歴などを聞かれた。


ここで違和感が一つ。個人的な情報を話すのに商業施設の入り口脇では、そぐわないと感じた。予算の都合上、ここでしか開催できなかったのだろうが、来場者への配慮が足りない。個人情報を話すのに、衆人環視の環境はないだろう。ならばせめて【簡易的な衝立というかパーテーションで両脇くらい目隠ししろよ!】と思うのは自分だけか?


さらに違和感が。途中からYシャツ、スラックスの営業担当と思しき男性が加わったが、自己紹介なし。この会社の関係者だろうが、こちらからしてみれば【あんた誰?何で無言で加わっちゃってるの?】商談中に無言で加わってしまうのは明らかにビジネスマナー違反。


加わるのだったら「お話し中に失礼致します。私、この会社で営業担当を勤めております、◯◯と申します。本日はご来場頂きましてありがとうございます。私も同席しても宜しいでしょうか?」営業未経験の黒紳士でも、このくらいの礼儀作法は思いつく。この会社にしてみれば、来場者はお客さんではないのだろうか?


説明をする女性も、こちらが提出した履歴書代わりのジョブ・カード(バージョン2。6月のキャリア・コンサルティング終了時点でのもの)をロクに見もしないで「希望されている職種と条件では、現時点で紹介できる案件はありません」とにべもなく言い放った。向こうが言うには【経験のある仕事でなければ紹介は難しい】【未経験職種を希望されても、現時点では無い】とあくまでも事務的な物言いをする。この受付の女性、ツンデレというか愛想も無く明らかに上から目線で話しを進めている。


「登録して頂いて、そのような案件が出てきた場合にはご紹介することが出来ます」と【話は登録してからだ】というスタンスだった。こちらが【嫌でもう就きたくない】と何度も言っている介護福祉職で話しを進めようというこの会社の思惑が垣間見えてしまった。


この時点で、不快感80%、不機嫌度80%、キレるまで70%状態の黒紳士。話す声のトーンが極端に低くなり、自分でも【あっ、ヤバい俺、こいつら嫌いだわぁ~】となっているのが分かる。【休みの日にわざわざ足を運んで来ているのに、何で嫌な思いをさせられなきゃならないんだ】そう言えば、登録した受講生から、この会社の悪い噂も漏れ聞こえていた。【腹、強えくて仕事無い、って言われた】とか。


ファースト・インプレッションで、だいたい相手との相性が分かる。この会社は登録者本意の仕事を紹介するのではなく、会社にとって都合のいい仕事を登録者に押し付ける姿勢だと感じた。今日初めて訪れた黒紳士をこの会社独自の査定で品定めし、低ポテンシャル登録者とナンバリングされたのだろう。


【わたくし達におまかせ下さい。貴方さまのご希望に叶うような仕事を見つけて、ご紹介致します。すぐには無理ですが、一緒に頑張って行きましょう!】と勇気づけてくれるのではなく、【現実を見なよ、黒紳士。あんた、もう半分詰んでいるんだよ。黙って、紹介してやる仕事があるだけでも喜びなよ】というような相手の意向が見え隠れしていた。


嘘でもいいから前者のような物言いだったら、迷わず登録していただろう。この田舎町で希望に叶うような仕事なんてありゃしない、のは分かっている。だが、【一緒に頑張りましょう。わたくし達はあなたの味方ですよ】くらいの情動に訴えるようなアプローチの出来る人物や斡旋会社は皆無のようだ。


最初からダウナーな気持ちにさせられる相手では、信用・信頼することは出来ない。なら、この口入れ屋どもとビジネスパートナーになることは無い。登録者を人として見るのではなく、モノ(商品)として見るこの会社とはつきあってはいけない。自分の直感がそう訴えた。


登録を促す女性に「見込み違いだった。登録はしない」と告げてその場を後にした。


自分はNOと言える人間でありたい、とつくづく思った。たとえ無聊を託つことになろうとも。