秋も深まり、日ごとに冬の気配が近づいてきている。母のオンボロ軽は旧式なので、きちんと暖気運転をしてやらないと頗る機嫌が悪い。


手持ち無沙汰になり煙草を燻らせながら見上げる空は、高いところに薄く雲が漂い、刻々とその姿を変えていく。現在の職場の周りは開けていて、広大な空には鳶が舞い幹線道路にはひっきりなしに自動車が行き交っている。


今日のお題は、数少ないアニメ・コレクションの一つ。



青春と大空が舞台の「スカイ・クロラ」(The Sky Crawlers)



森博嗣氏原作の小説シリーズ作品。映画では時系列でいけば、最終話になる作品「スカイ・クロラ」をベースに函南優一(カンナミユウイチ)を主人公にパイロット達の日常を描いた話題作。



空を見るのが大好きな黒紳士。未だに「大空を鳥のように自由に飛んでみたい」という幼稚な夢を持っている。作品に出てくる函南操る戦闘機・散香が飛行しているシーンを観ているだけで、自分が空を飛んでいる気分に浸ることのできる大好きな作品だ。


攻殻機動隊やイノセンス、機動警察パトレイバーを作った押井守監督作品だ。


あらすじは、


ありえたかも知れないもう一つの現代。主人公は、思春期の姿のまま、永遠に生きることを宿命づけられた《キルドレ》と呼ばれる子供たち。大人たちが作った「ショーとしての戦争」を戦うキルドレたちが常に死を意識しつつも、今、目の前にある現実を受け容れ、日々を精一杯生きる姿を描いた物語。


小説が先だったか、映画が先だったかは覚えていないが、この世界観にすっかりハマってしまい森博嗣氏の原作シリーズ(ナ・バ・テア、ダウン・ツ・ヘヴン、フラッタ・リンツ・ライフ、クレィドゥ・ザ・スカイ、スカイ・イクリプス)と全て読破してしまった。


映画「スカイ・クロラ」での主人公は函南優一だが、原作シリーズを通しての主人公は函南の上司、草薙水素(クサナギスイト)と言えるだろう。女性パイロットでありながら、その卓越した操縦技術で敵を次々と撃破し大エースの称号を得た水素。そのアイコンとしての商品価値に気がついた親会社から、広告塔としての活動を強いられることになった水素。その苦悩や空への想いがシリーズでは綴られている。







スカイ・クロラでは水素の過去についても少し触れられてはいるが「えっ!?なんで函南と水素がそうなっちゃうの?」と少々、説明不足な感じだと思う。函南とフーコの関係も距離感がイマイチ。ただ、全体的に重い雰囲気になってしまう空気を和ませるキャラクターとして、函南と同室のパイロット土岐野(トキノ)の存在が良かった。アフレコしたのは谷原章介さんで、違和感なく作品にスパイスが効いていた。



原作との相違点としては、戦闘機の整備主任者・笹倉が映画では中年女性の笹倉として登場した。無愛想な整備士だが腕は確かで、笹倉は水素とも昔馴染みだ。作中、水素が無茶をした後もちゃんと後始末をしてくれていた。



偵察任務や作戦行動以外は、自由時間。同じような毎日が淡々と描かれていく。パイロット達は互いに群れることなく、(函南と土岐野はよくつるむが)適度な距離感で思い思いに基地の宿舎で過ごしている。パイロット達はキルドレなので歳をとることもなく、戦死するとまた違う誰かが赴任してくる。その誰かも、容貌は同じだが違う名前になって現れる。



戦果をあげた函南は、この基地でエースパイロットの地位を確立する。ミート・パイを食べにドライブインに行ったり、土岐野に案内されて娼館にしけこんだり。ささやかながらも青春を謳歌する。パイロット達は従軍しているのではなく、"戦争請負会社"に所属しているから「職業戦闘飛行機乗り」という身分がふさわしいだろう。



キルドレについてはあまり説明がされていないが、三ツ矢のように自分の存在に疑問を持ち、幾度となく繰り返される人生に苦悩するパイロットも現れる。昔の記憶は曖昧で、夢を見ているのか起きているのか分からない感覚なのだそうだ。三ツ矢の暴走により、物語終盤では一悶着起こるが「今度はあなたが私を殺して」と水素に懇願される函南が彼女を抱きしめ「君は生きろ。何かを変えられるまで」と言うシーンは心に刺さった。



不老不死は人が羨む願望の一つだと思う。だが、必要悪としての戦争に組み入れられ唯、相手を殺すためだけに生き、死んだらまたリセットされて同じ環境に置かれる。終わることの無い無限ループに自分が置かれたらどうだろうか。煩悶する水素や三ツ矢とは裏腹に、函南は達観しているというか飄々としていて気に病んでいる様子はない。基地見学にやって来た支援者の中年女性に「いつの時代も戦争は醜いものです。あなた方が戦ってくれているおかげで、私たちはこうして平和に暮らしていられるんですもの。本当に感謝していますわ」と言われ「仕事ですから」と微笑み返す函南。



函南は


「いつも通る道でも、違う所を踏んで歩くことが出来る」


「いつも通る道だからって、景色は同じじゃない」


「それだけでは、いけないのか」


「それだけの事だから、いけないのか」



と自分の宿命に心の中で呟く。



編隊飛行中、函南たちは「空で会ったら絶対に墜とされる」最強の敵、ティーチャーと遭遇する。



僚機を逃し果敢に独り、ティーチャーに挑む函南。



基地では函南機を待ち受ける面々。散香は戻ってくることは無かった。



月日は流れ、新しいパイロットが赴任してくる。散香から降り立つ彼をガレージの傍らから笹倉が一瞥する。宿舎の二階、水素の部屋にパイロットが着任報告にやって来る。



懐かしい顔を見るように水素の表情は心なしか柔和だった。









今日も平和と青空に感謝!