振り返れば、きっかけは、些細(ささい)なことだった。

 2年前のあの日、会社員の夫(31)は仕事へ出かけ、自分は寝坊して昼前に起きた。3歳だった一人息子は冷蔵庫の前にいた。空腹のあまりバターをそのまま食べていた。

 「『は?』とか思って、勝手に冷蔵庫を開けたことへの怒り、バターを食べて体は大丈夫かという心配、起きられなかった自分へのいら立ち、すべてが渦巻いて止まらなくなった。平手で顔をたたき、『てめー、この野郎』と言いながらげんこつで頭を殴ったり、け飛ばしたりしていた」

 千葉県に住む主婦、柴田かえでさん(23)=仮名=は、そのときの息子の目が忘れられない。恐怖と哀願。

 「鬼でも見るかのような目だった」

 翌朝、子供を着替えさせると、おなかや目の横が赤紫色になっていた。終わったはずの夜泣きが、それからしばらく続いた。

 「やっているときは『お前のために』『お前が悪いから』と、しつけのつもりでいる。でも外からは虐待にしか見えないと思う」

 おもちゃを片づけないときや「道路を走ると危ないよ」と言い聞かせても飛び出してしまうとき、トイレで紙を無駄遣いしたとき…。頭を殴り、両手を持って脱臼するかと思うほど引きずり回した。

 「結局、私の都合だと思う。いらいらしたり自分にゆとりがないときにやってしまう。その後は罪悪感。そんなひどい親でも、私が泣いていると息子はティッシュペーパーを持ってきてくれる。『ごめんね』と言って抱きしめて。でも次の日になるとまた別のことで殴ってしまう」

 ■娘を愛せない

 われに返ると、泣きやまぬ生後1カ月の長女の首に両手をかけていた。東京都内の高層マンションに住む主婦、秋山美樹さん(36)=同=も3年前、あと少しで一人娘の未来を奪ってしまうところだった。

 「おぎゃーという泣き声がめちゃめちゃむかついた。『こんなに世話しているのに、どうしてあんたばっかり要求してるの』という気持ちになっていた」

 その朝、外資系の生命保険会社に勤める夫(39)を送り出し、娘を居間のざぶとんに乗せて掃除をしていた。突然、火がついたように泣き出した。

 「おむつを替えてもミルクを飲ませても、1時間たっても泣きやまなかった。がまんしていた心のスイッチが切り替わった。娘の首に手が伸びていた」

 このままでは娘を殺してしまうと思い、病院で相談した。児童相談所へ連絡が行き、長女は2カ月間、乳児院で暮らした。現在も、日中は保育園で預かってもらっている。

 「もう3歳になりますが今も娘を愛せない。『あんたなんかいらない』『育てたくて育てているんじゃない』とつい言ってしまう。毎日殺意とたたかっていて、マンションの29階からほうり投げたくなる。私はどうすればいいのでしょうか」

 ■実母が6割

 厚生労働省によると、平成20年度に全国の児童相談所が対応した虐待は4万2664件。前年度から約2千件増え、集計を始めた2年度の1101件から増加の一途をたどっている。主な虐待者は「実母」が60%と最も多く、次いで「実父」24%、「継父」6%、「継母」1%-の順。

 児童相談所出身で「子どもの虹情報研修センター」研究部長の川崎二三彦さん(58)は「父親は育児に参加するどころか、子供と接する時間が限られており、虐待してしまいそうな場面に遭遇する機会すらない。その分、子育てを一身に任されている母親が虐待者とならざるを得なくなっている」。川崎さんによると、わが国と同様に児童虐待が急増している韓国では、逆に父親が全体の6割を超えているという。

 虐待は、日常生活の常識をわずかに逸脱した軽度なものから、子供の生命に危険を及ぼす重大なものまで幅がある。東京都が19年に行った調査では、子育て家庭の母親の56%が「子供のことでどうしたらよいか分からなくなる」と答え、25%が「子供の顔を見るといらいらする」と回答した。

 社会福祉法人「子どもの虐待防止センター」の相談員、石川ゆうさん(60)はこう話す。

 「虐待は特別な家族の問題ではなく、どの家庭にも起こりうる。経済的に豊かな家庭でも起きる。だからこそ、社会全体で考えなければならない」

                   ◇

 児童虐待防止法施行から今年で10年。子供への虐待は増え続けている。なぜ、わが子を傷つけてしまうのか。どうすればいいのか。原点に立ち戻って考えてみたい。

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