前作 楽「俺、小野寺と付き合うことになったから」千棘「!?」
 

3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 15:25:25.79 ID:BYyqJWHA0
           
――――――――
――――――
――――
――

トクン……

楽「小野寺……?」

小咲「一条くん。私、実はね――」

ドクン

小咲「……私ずっと一条くんのこと――」

楽「小野……寺……?」

ドキン ドキン

小咲「す……す……」


小咲「す――」

ガシャアン!

 

4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 15:27:35.38 ID:BYyqJWHA0
         
「うわっやっべー!」「バカ! なにやってんだよ」

「誰だよ今打ったの!」「すいませーん!誰か当たってないですかー!?」

小咲「……」プルプル

楽「……」プルプル


楽「……ったく危ねえな!! 気をつけろよなあんたら!!」

「やべっ! 人いた!!」

小咲「……」バックンバックン

6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 15:30:48.67 ID:BYyqJWHA0
                
楽「……ったく。わりー小野寺。オレちょっと先生呼んでくるわ」

楽「あ、ガラスは触んねー方がいいぞ?」

小咲「へ? あ……はひゃい……」

楽「じゃあ、行ってくる」

小咲「う、うん。お願い」

楽「……そういえば小野寺、今――」クル

小咲「っ!」ビクッ

楽「……なんだ?」

小咲「ご、ごめん。その、一条くん――」

小咲「……ど、どうしてずっと、そんな怖い顔してるの?」

楽「……」

7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 15:33:00.86 ID:BYyqJWHA0
             
楽「いやだって、あいつら……。危ねえなって」

小咲「そ、そうだよね。もう少し気をつけてほしいよね」

楽「ああ……。ケガ、ないよな?」

小咲「うん。大丈夫……」

楽「よかった……。本当に……」

小咲「……?」

楽「それじゃ……」


楽(……ちくしょう。また、かよ)

楽(もう、やめてくれよ……。本当に、これじゃあまるで――)

11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 15:35:31.89 ID:BYyqJWHA0
           
――――――――
――――――
――――
――


プルルル ガチャ


千棘パパ「……私だ。なんだ」

『ビーハイブのボス……、アーデルト・桐崎・ウォグナーですね』

千棘パパ「……君は?」

『私のことなどどうでもいい。用件だけを、伝える』

千棘パパ「……」

『ただちに集英組との抗争を、止めてください。今すぐに、です』

12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 15:37:02.67 ID:BYyqJWHA0
         
千棘パパ「抗争を? それは、無理だな。こうなってしまった以上は――」

『白旗を掲げてでも、です』

千棘パパ「……ふん、集英組の者だったか。切るぞ」

『今の娘さんを見ていて、辛くはないですか?』

千棘パパ「……なんだと?」

14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 15:40:16.55 ID:BYyqJWHA0
         
『あなたの言葉のせいで、娘さんは大変に苦しんでいらっしゃいます。思いつめて、いらっしゃいます』

千棘パパ「……」

『あんなか弱いお嬢さんに、ギャングとヤクザの抗争の抑止を任せるなんて……。あなた、本当に人の親ですか?』

千棘パパ「私はただ、娘が一条 楽と仲直りして、もう一度ニセモノの恋人同士に……」

『そうやってあなたが課した使命が、彼女を苦しめてると言ってるんだ』

千棘パパ「……くっ」

『あなたの娘さんは今、一条 楽どころか……。その彼女である小野寺 小咲、その友人の宮本るりにも、嫌われてしまってるんです』

千棘パパ「なっ!?」

『他に仲の良い友達もいない娘さんは今、それでもたった一人で、あなたから課された使命を、全うしようとしてるんです』

千棘パパ「……そんな、千棘」

『一条 楽との関係も、悪化するばかり。仲直りなんて、到底見込めない状態だ』

『……嘘だと思うなら、クロードのように、直接学校に見に来ます? 娘さんの、悲惨な姿を……』

千棘パパ「ぐっ……。うぅ……」

16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 15:45:36.30 ID:BYyqJWHA0
         
『……娘さんを早く、解放してあげてください』

『これ以上娘さんを苦しめるのは、やめてあげてください……』

千棘パパ「わ、分かった……。集英組には、降伏する。抗争は今日をもって、終戦だ」

『理解していただけたようで。ありがとうございます』

『それでは、私はこれで……。あ、そうそう』

千棘パパ「なんだ。まだ何か、あるのか」

21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 15:48:25.81 ID:BYyqJWHA0
              
『明日から、学校がお休みになるそうです。といってもまあ、抗争が今日で収まるなら、それも短い間でしょうが――』

『どうでしょう。明日は娘さんに、街に出向いてみるよう、勧めてみては』

千棘パパ「な、なにを言ってるんだ君は……」

『娘さんにも気持ちの整理が必要でしょう? 気分転換にでも、ね』

千棘パパ「分かった……。提案してみるよ」

『素敵なことが待ってると、そうお伝えください……』
 
千棘パパ「……君は、何者なんだ? 娘とは、どういった関係で?」

『……ただの友達ですよ。至って普通の、なんでもない……。だけどホンモノの、友達です』


そして、数日後――

     

24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 15:52:09.86 ID:BYyqJWHA0
          
――――――
――――
――


千棘「おっはよ―!」

小咲「おはよー千棘ちゃん。あれ? 千棘ちゃん、それ……」

千棘「うん。髪、短くしてみたの……。どうかな?」

小咲「かわいい……」ボソッ

千棘「えっ?」

小咲「すっごく、似合ってるよ! うわぁ……可愛いなぁ」

千棘「そ、そう?」カァァァ

るり「あら、ほんと。流石千棘ちゃん。どんな髪型でも、似合うわね」

千棘「る、るりちゃんまで……」

28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 15:54:53.96 ID:BYyqJWHA0
           
集「おーっ! 桐崎さん、イメチェン?」

千棘「あっ。舞子くん。ど、どう?」

集「……これは、ヤバいですなぁ。なんというか、その、抱きしめたい……」

千棘「えっ……!」ビクッ

るり「ごめんね、千棘ちゃん。すぐ殺すから」

集「るりちゃんこわーい」

ガラッ

楽「おはようー」

小咲「あっ。楽くん、見てみてっ! 千棘ちゃんが……」

楽「……おっ」

千棘「……あはは」

33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 15:57:08.20 ID:BYyqJWHA0
               
楽「へぇ。似合ってるじゃん。俺、こっちの方が好きかも」

千棘「ほんと!? ありがとうっ」

楽「そうだ集、昨日借りたCDさぁ」

集「お前、顔真っ赤だな」

楽「昨日借りたCDさぁっ!」

小咲「楽くん……」ムスー

るり「あら、小咲。今の反応、いいわね。すごく恋人同士っぽい」

小咲「るりちゃん!」

千棘「一条くん、いけないんだぁ。小咲ちゃんがいるのにー」

楽「うあぁぁすまんっ! 小咲ぃ!」

千棘「あははっ! あはははっ」

36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 16:00:56.04 ID:BYyqJWHA0
              
――

放課後

楽「帰ろうぜ、こさ――」

集「おーっと楽ぅ! そうはさせないぜぇ!」

楽「なんだよ……」

集「お前最近、小野寺とばっかり帰りやがってよぉ。俺が寂しいじゃんかよぉ」

楽「い、いいだろ。恋人同士なんだから」

集「言うようになったじゃん。でも今日ぐらいは、いいだろー?」

楽「……」

小咲「そうだよ、楽くん。たまには舞子くんと、帰ってあげなよ」

楽「小咲が、そういうなら……」

集「きまりぃ!」

38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 16:03:04.45 ID:BYyqJWHA0
       
小咲「あ、るりちゃん。一緒に――」

るり「わったし部活あるからー! 小咲は今日も一条くんと、手をつないで帰りなさーい!」

小咲「あっ、ちょ、ちがっ……。今日は楽くんは、舞子くんと……」

るり「えっ。そ、そうなの……。でも私、本当に部活あるから……」

小咲「えぇー……。じゃあ、千棘ちゃんと……」

るり「もういないわよ」

小咲「あれっ!? は、早いっ!」

るり「……」

小咲「……じゃ、じゃあね、るりちゃん。また明日」

るり「あんたって意外と、友達少ないわよね……」

40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 16:05:43.38 ID:BYyqJWHA0
       
――

帰り道

テクテク

集「全部お前の計画通り、か?」

楽「……はぁ? なんだよいきなり」

集「とぼけんなよぉ。みんなお前の、手のひらの上だったんだろぉ?」

集「ったくよぉ、一番クレイジーなのは結局、お前だよなぁ。楽よぉ」

楽「誰がクレイジーだ……」

集「で、どうなのよ? お前の計画は、達成できたのか?」

楽「……お前には全部、お見通しってか」

楽「ああ、達成された。長い戦いだったが……。ようやく全部、終わったよ」

集「……ほう」

42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 16:07:35.21 ID:BYyqJWHA0
       
集「で、お前の計画って?」

楽「いや、お見通しなんじゃなかったのかよ」

集「まさか。まあなんとなくこうかなぁ、って言う予想はついてるけど」

集「でもお前の口から、聞きたいんだよ。お前がなにを考え、どう行動していたのか……」

楽「……悪趣味なヤツだな。やっぱり、小咲と帰りゃよかった」 

集「つれないねぇ。いいからおしえろよー」

楽「……」

集「……お前は結局、なにがしたかったんだ?」

楽「……俺は、ただ――」

楽「桐崎と、『友達』になりたかっただけだよ」

44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 16:11:01.80 ID:BYyqJWHA0
         
集「桐崎さん……か……」

集「……変わったよな、彼女。性格から喋り方、髪型に至るまで……」

楽「髪型は、あいつが勝手に……」

集「いや、お前が変えたようなもんさ。以前の彼女なら、あんなこと……」

楽「……俺のせいって、言いたいのか?」

集「んー?」

楽「桐崎が変わっちまったのは、俺のせいって……」

集「んー。お前のせいっていうかー……」

集「……お前のおかげ、かな?」

45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 16:13:14.61 ID:BYyqJWHA0
       
楽「そうか。お前はそう、言ってくれるか……」

集「俺は前の彼女より、今の彼女の方が、好きだしね」

楽「……そうか」

楽「俺も前のアイツは、嫌いだった」

集「……別に俺は、嫌いとは」

楽「大嫌いだった」

集「……」

楽「……憎んでさえ、いたんだ」

47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 16:16:34.72 ID:BYyqJWHA0
                
楽「あいつのせいで……。桐崎 千棘のせいで、俺の日常は、崩壊した」

楽「ギャングとの抗争、ニセモノのカップル、クロードの監視――」

楽「あいつが転入してきたあの日から、俺の平穏な日常は、崩れ去った」

楽「そして、いつだって……。あいつが非日常の、中心だった」

集「……」

楽「あいつとニセモノの恋人になってからさ……。何度も思ったよ」

楽「こいつさえいなけりゃ、どんなに俺の世界は平和かって……」

楽「悪口は言うわ、暴力は振るうわ……。おまけにイチャイチャしてるところを見られて、小咲に勘違いされるわ……」

楽「最悪の女だなって。疫病神だなって。思ってた……だけど」

集「……だけど?」

楽「だけど同時に、もしこいつと普通の友達同士でいられたら、どんなに楽しいだろうって、思ったりもした」

50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 16:19:57.02 ID:BYyqJWHA0
             
楽「俺、気づいたんだよ。桐崎が、小咲や宮本……。他のクラスメイトと、話してるところをみて」

楽「こいつも普通に、女の子なんだなって……」

楽「普通に可愛いところもあって、明るくて、話す時は楽しそうに、笑顔をみせて……」

楽「……でも俺と話す時だけは、ぶすっとした顔して、女子らしくない汚い言葉使って、人のこと殴って……」

楽「そんな桐崎が、嫌いだった」

楽「俺にも、俺と話す時にも、あの笑顔を、見せてほしかった」

楽「だから、その性格を『矯正』してやろうって、そう思ったんだよ」

集「『矯正』とはまた……」

楽「あいつを普通の女の子に、変えたかった。そして――」

楽「あいつと普通に、友達になりたかった」

楽「だからあの日、俺はあいつと大喧嘩し、無視を始めた」

楽「『桐崎 千棘 矯正計画』が、始まったんだよ」

53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 16:24:30.22 ID:BYyqJWHA0
            
楽「なにを言われようが、俺は桐崎を無視した」

楽「だんだん弱ってくあいつを見るのは辛かったが、見ないようにして、また無視を続けた」

楽「だけどお前や小咲、宮本がいる前では、無視をやめた。普通に、友達のフリをした」

楽「普通に無視するよりも、あいつの感情を揺さぶるに当たって、効果的だと考えてな。結果は、成功だったと思う」

楽「途中、わざとあいつが俺を殴るように、誘った時もあった」

楽「もちろんその後、あいつに俺を殴ることをやめるように、訴えかけるためにな」

楽「結果、あいつは暴力を振るわなくなった。矯正計画の、大きな成果だ」

楽「それでもあいつは俺に、謝ることはなかったが……。それで、よかった」

楽「あいつが謝るより先に、俺が謝ってやると……。そう心に、決めていたからな」

集「……」

59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 16:30:14.99 ID:BYyqJWHA0
           
楽「どっかのタイミングで、『もやし』って呼び方も、やめさせた」

集「……最近は『一条くん』って、呼んでるよな。正直最初は、違和感バリバリだったが」

楽「まあ、普通に呼び捨てでもよかったが……。なんかナメられそうな気がしたから、くん付けで」

集「それだけかよ……」

楽「とにかくこれも、矯正計画の成果だ。そしてあとはもう、あいつの心を折るだけだった」

集「……はぁ?」

楽「あいつの心をバキバキに折って……。もうどうしようもないぐらい、絶望させて……」

楽「そして最後に俺が、手を差し伸べる。希望を、与える」

楽「突然与えられた希望に、泣きながらすがるあいつを想像して――」

楽「その時のあいつなら、俺の『普通の友達』になってくれるんじゃないかと、そう考えたんだ」

62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 16:35:33.93 ID:BYyqJWHA0
                             
――

ブロロロロ……

小野寺(な、なんか一人で帰るの、すごい久しぶりな気が……)

小野寺(……楽くんと舞子くん、今頃どんなお話してるのかなぁ)

キキーッ バタン

小野寺(ま、いっか。また明日学校で、会えるし――)

「小野寺 小咲だな」

小咲「……えっ?」

「一条 楽の、『ホンモノの恋人』の……」

小咲「えっ。あ、あの、どちら、様で……」

「悪く思うな。全ては一条 楽が、招いたことだ――」トンッ

小野寺(えっ……。な、に……。なんか、頭が、くらくらして……)

小野寺(らく、くん……)ドサッ

「……一条 楽。貴様には、罪を償ってもらう」

「お嬢を悲しませた、罪をな……」

67: ちょくちょく小咲が小野寺になってるのは気にしないであげてください 2014/02/18(火) 16:38:15.86 ID:BYyqJWHA0
       
――

楽「桐崎の心を折るためにまず考えたのが、あいつが小咲に嫌われる方法だった」

楽「小咲が桐崎のことを嫌いになれば、きっと宮本も……。そうすればあいつは、一人になる」

集「……でもさ、小野寺がそう簡単に人のこと、嫌いになるか?」

楽「そうだ。そこが悩みどころだった。でも、俺は小咲を、信じた」

楽「きっと小咲は……。『俺の事』を悪くいうヤツのことなら、嫌いになってくれるんじゃないかって」

集「ほう……」

楽「だから俺は、桐崎の感情を、揺さぶり……。わざとあいつが小咲に、俺の悪口をぶちまけるように、誘導した」

楽「まあ、本当に嫌われたら怖いから、先手は打たせてもらったが」

集「ははっ……。本当に小野寺のこととなると、お前は……」

楽「ああ……。ここが俺の、『弱点』かもな」

69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 16:41:25.27 ID:BYyqJWHA0
              
楽「だから、桐崎に『小咲が俺のことを嫌ってる』っていう話を聞いた時は……。正直、死のうかと思ったね」

集「……ははっ。桐崎さん、そんな嘘を……」

楽「ああ。嘘だったんだ。それが分かったあの時は、本当に、ホッとしたなぁ……」

楽「ったく桐崎のヤツ、あんな嘘、つきやがって……」

楽「だから桐崎には、制裁を加えることにした。わざと小咲には、桐崎の嘘のことは言わなかったんだ」

楽「あいつが勝手に小咲に、バラしてくれると思ったし、その方が小咲にとって、衝撃的だと思ってな」

楽「結果は……大成功だった。小咲は完全に、桐崎のことを、軽蔑するようになった」

楽「同時に、宮本も……。そしてあいつは孤独に、なったんだ。心が折れるのももう、時間の問題だった」

楽「……お前が余計なこと、しなけりゃな」

集「……ははっ」

75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 16:44:44.35 ID:BYyqJWHA0
                    
集「仕方ないじゃーん。桐崎さんのこと、見てられなかったんだもん」

楽「……だからって、小咲を悲しませるようなことすんじゃねえよ。鍵、お前が盗んだんだろ?」

集「バレてたかぁ。まあでもあれは結局、桐崎さんに返してもらったんでしょー? なら、よかったじゃん」

楽「別に鍵はもう、いいんだが……。結局お前は、桐崎になにを吹き込んだんだよ?」

集「だからぁ。この鍵を小野寺に返してあげれば、みんなと仲直りができると――」

楽「じゃあ桐崎が言ってた、『勝手に鍵を使って、約束の女の子になろうとした』っていうのは、なんだよ」

集「……そう怒るなよ。俺だって、桐崎さんから作戦を聞いた時は、ぶったまげたんだから」

集「まあ面白そうだったから、協力してあげたんだけどね」

楽「てめーなぁ……」

78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 16:48:44.47 ID:BYyqJWHA0
                   
楽「ペンダントがもし開いてたら、どうするつもりだったんだよ。あいつがもし、『約束の女の子』ってことになったら――」

楽「あいつとはもう、『普通の友達』じゃいられなくなる。計画が台無しになるとこだったんだ」

集「『普通の友達』じゃいられなくなる……?」

楽「だってそうだろ。もしそれで俺とあいつが友達になったら、まるで『約束の女の子』だから、そうしたみたいじゃないか」

楽「俺はそれが嫌だった。『約束の女の子』なんて関係ない。桐崎だから、俺は友達になりたいと思ったんだよ」

楽「だから……。お前から、桐崎の大切な鍵を探したことがある、って話を聞いた時……。ギョッとしたよ」

集「はは。まああれも、桐崎さんのためについた嘘だったんだけどな」

楽「嘘だったのかよ……。俺はその話がきっかけで、ペンダントを壊す決心をつけたってのに」

集「……へえ、そうだったんだ」

79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 16:51:30.62 ID:BYyqJWHA0
                    
集「そういえばお前、せっかく付き合えたのに、なんで小野寺が『約束の女の子』かどうか、確かめようとしなかったんだ?」

楽「……桐崎の場合と同じだ。小咲が『約束の女の子』だろうがなんだろうが、俺が小咲を好きなことに、変わらないんだから」

集「だから確かめる必要はなかったと?」

楽「……その筈だったんだが、情けないことに俺には、やっぱり確かめたいと思う気持ちも、あったんだ」

楽「だって俺は10年も、あの子のことを忘れられずに、あの約束を胸に、ずっとペンダントを持ち続けていたんだから……」

楽「だから小咲が『約束の女の子』だったら……。やっぱり嬉しかっただろうし、違ったら、残念に思ったんだろうな」

楽「そしてある時、俺は思ったんだ。もし小咲がそうじゃなかったとして……」

楽「……ある日突然、本当の『約束の女の子』が、俺の目の前に現れたら――」

楽「小咲とその子、どっちを選ぶんだろうなって」

集「……」

楽「……答えは、一つしか考えられなかった。だって、だから俺は、小咲に告白したんだから」

80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 16:53:00.19 ID:BYyqJWHA0
           
楽「小咲と『約束の女の子』だったら、絶対に小咲を選ぶ。その気持ちは、絶対だった」

集「はは……。やっぱり桐崎さんのあの作戦は、最初から破綻してたんだ」

楽「だけど、小咲が『約束の女の子』だという可能性も、やっぱりあったわけだし……」

楽「だからペンダントは、まだ捨てられなかった。別に本物が現れたとしても、小咲を好きな気持ちは変わらないんだから、持っててもいいかなって」

集「いやだから、確かめりゃよかったじゃん。付き合えたんなら、機会はいくらでもあったろ」

楽「……いや、その、本当のこと言うと、やっぱりちょっと怖かったし、言いだせなくて」

集「結局それかよ……。まあお前らのことだからな。小野寺の方もどうせ、そうだったんだろう?」

楽「……うぅ」

82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 16:56:27.35 ID:BYyqJWHA0
                     
集「それで、俺の話がきっかけで、ペンダントを壊したってのは?」

楽「……最初にペンダントを壊そうと思ったのは、小咲が鍵を失くした時だよ」

楽「小咲……。すごい悲しそうな顔してたからさ。やっぱりあの鍵は、『約束の鍵』だったのかなって、思った」

楽「……そして、小咲を悲しませるような『約束』なら、もういらないんじゃないかとも、思った」

楽「そして、お前の話を聞いて……。桐崎も、鍵を持ってることを知って……」

楽「俺のペンダントさえ無くなれば、小咲が悲しむこともなくなり、桐崎とも、『普通の友達』になれる」

楽「全てが旨くいくと……。そう、考えたんだ」

集「それにしたってまさかお前が、『約束の女の子』との関係を自ら、断ち切るとは……」

集「その子との再会が、夢だったんじゃないのかよ? だからお前はペンダントを、10年も大事に……」

楽「夢だったさ。でも俺には他の、もっと大きな夢があった。その夢のためなら……、仕方がなかった」

83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 16:58:33.11 ID:BYyqJWHA0
            
楽「そういうわけだ。だから小咲が『約束の女の子』だったのかはもう、確かめられないし……」

楽「小咲が違ったとしても、本当の『約束の女の子』とはもう、再会できないだろう。でも、それでいいんだ」

集「……そういえば、例えば桐崎さんが小野寺の鍵を使って、お前のペンダントを開けてたら……。お前は桐崎さんが『約束の女の子』だと、信じたのか?」

楽「小咲がいたら分からんが……。俺一人なら、信じたかもしれないな。お前が余計な嘘をついたせいで」

集「そう言ってもらえると、嘘をついた甲斐があったよ」

楽「本当に、危なかったところだ。小咲ならまだしも、桐崎が『約束の女の子』だなんて……」

集「桐崎さんと、結婚しなきゃならなくなるところだったな」

楽「いや、でも俺は、小咲を選んだんだ。約束を破ることにはなるが、結婚は流石にしねえよ」

集「あはは、でも桐崎さんの方は、錠が開いたら本気で、お前と結婚するつもりだったみたいだけど?」

楽「ははっ……」


楽「……は?」

85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 17:02:15.08 ID:BYyqJWHA0
                       
集「いや、結婚とまでは言ってなかったな。でも、ホンモノの恋人同士になりたいとかは、言ってたか」

楽「な、なんだそれ、まるであいつが、俺のことを好きだったみたいな――」

集「そうだよ? 気づいてなかったの?」

楽「……」

『いちじょうくんのことが、すきなのぉっ! だいすきなのぉっ!!』

楽「……あれって、そっちの『好き』だったのか」

集「えっ……。まさか、告白されたの……?」

楽「あっ……。う、うん。まあ……」

集「お前なぁ……。なんでそれで気づかねえんだよ。流石に鈍感過ぎんだろ」

集「ラブコメの主人公じゃねんだからさ……」

楽「……っ!!」

87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 17:07:27.03 ID:BYyqJWHA0
          
楽「……と、とにかく、お前のせいで、大変なことになるとこだったんだからな」

集「はいはい。でも、結果オーライだったろ? その鍵も使えなくなって……桐崎さんは」

楽「ああ……。一度希望が見えた分……この上なく、絶望しただろうな」

楽「その上、抗争も収まって……。俺と関わる理由も、なくなっちまった」

楽「大かた、親にもう一度俺と、ニセコイ関係を築けとかなんとか、言われてたんだろうよ」

楽「じゃなきゃあいつだって俺のこと、無視してりゃよかったんだから」

集「……」

楽「……そして完全に心が折れたあいつを、俺は、助けた」

楽「襲われそうになってたところを、な。まああいつら全員、集英組の者だったわけだが……」

集「……ははっ。お前は、本当に……」

90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 17:09:38.61 ID:BYyqJWHA0
          
楽「桐崎のヤツ、すごい顔してたなぁ。あの顔見た時、計画の完遂を、確信したよ」

楽「正直あの時の桐崎、めちゃくちゃ可愛かったよ。やっと普通の女の子に、なってくれたというか……」

集「……そうだな。俺も今の桐崎さん、すごい可愛いと思う」

楽「ああ。そしてその後俺たちはようやく、『普通の友達』同士になれたんだ……」

楽「まあ、あいつが俺のことを好きだったっていう話は……。うん、置いといてだな」

集「置いとくなよ」

楽「……今は、毎日が楽しいよ。あいつと一緒にいるとすごく楽しいし……」

楽「あいつが転入してきたのは、結構前の話だけど……。でも今また、新しい仲間が、増えたような感じだ」

集「そう、か……」

楽「これが計画の全容だ。長くなったが、これが全てだ」

集「……ほんとに?」

楽「本当だよ。俺は桐崎と、『普通の友達』になりたかった。それだけだ」

集「ふーん……」

92: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 17:12:12.26 ID:BYyqJWHA0
           
集「じゃあ、小野寺と付き合ったのは?」

楽「……は?」

集「これも、計画の内だったのか? 桐崎さんとのニセコイ関係を、解消するための……」

集「だとしたら、すごいよな。計画のために、好きな娘に告白するなんて……」

楽「……あのなぁ。集」

集「ていうかお前、そこでフラてたら、どうするつもりだったんだよ」

集「それともあれか? 実は小野寺もグルで――」

楽「いくらお前でも、殴るぞ?」

集「……お前が暴力を振るって、どうする」

95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 17:15:04.55 ID:BYyqJWHA0
             
楽「いつも言ってただろうが……。小咲と付き合うのが俺は、夢だったんだよ」

楽「だからこれは、計画とは関係ない。ただ俺が勇気を出して、告白して、夢を叶えた。それだけの話だ」

集「……そうか。それを聞いて、安心したよ」

楽「当たり前だろうが……。むしろ小咲と付き合うに当たって、桐崎とのニセコイ関係が、どうしても邪魔だったから……」

楽「そこから、『桐崎とただの友達同士になれたらなぁ』と考えたことはあるけどな」

集「やっぱり関係あるじゃん。小野寺に告白したところから、全てが始まったわけだろ?」

楽「まあな……。もし小咲にフラれてたら……。どうしてたかは分からない」

楽「やっぱり桐崎とは『普通の友達』同士になりたいと、思ってたかもしれないし――」

楽「ニセモノの恋人でもいいから……。俺を慰めてほしいと、思ってたのかもしれない」

集「……一つ聞いていいか、楽」

96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 17:17:35.14 ID:BYyqJWHA0
                 
楽「なんだ?」

集「前の桐崎さんの方が、変わる前の桐崎さんの方が、やっぱり良かったなって、後悔したことは――」

楽「ない。有り得ない。断じて、ない」

集「……あっそう」

楽「当たり前だろうが。あんなゴリラ女、大っきらいだったよ」

集「……久しぶりに聞いたな。その、ゴリラ女って」

楽「ふん。それに比べて、今の桐崎は、性格もやわらかくなって、優しくなって、純粋になって……」

楽「髪も短くなって、なんというか、よりいっそう――」

楽「――小咲みたいな理想の女の子に近づいて、可愛くなったよなっ!」

集「……」

集「ま、そうかもな……。ははっ」

100: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 17:21:47.06 ID:BYyqJWHA0
                 
ヴーヴー

楽「ん、電話だ。……非通知?」

集「……?」

楽「でてみよう。もしもし――」


集(……楽、本当にお前の話は、あれで終わりか?)

集(俺にはお前が、まだ何か隠してるようにしか、思えない)

集(お前の『計画』は、本当に桐崎さんの性格を矯正するためだけの、ものだったのか?)

集(もっと大きな何かを……。お前は、隠してるんじゃないのか?)

集(……分からない。考えても、分からないんだ。だから、いつか、いつでもいいから――)

集(その話の続き、聞かせてくれよ)


楽「……終わりじゃ、なかった」

集「……え?」

103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 17:24:57.45 ID:BYyqJWHA0
       
集「で、電話、もういいのか?」

楽「……終わってなかった」

集「えっ……? ど、どうした楽。汗、すごいぞ……?」

楽「小咲が、さらわれた」

集「はっ!? さ、さらわれた……?」

楽「嘘だろ……。まだこんな……」

楽「こんな……みたいな……」

集「楽……?」

楽「……まだ終わって、なかったんだっ!」ダッ

集「おいっ!? 楽、らくっ――!!」

104: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 17:26:53.80 ID:BYyqJWHA0
             
――

桐崎家

千棘「パパ、どうしたの? 急いで帰ってこいだなんて……」

千棘パパ「千棘……これを」

千棘「……手紙?」


『私は一条 楽をどうしても許すことができない。

 ボス、そしてお嬢。勝手な行動を、どうかお許しください

                         クロード』



千棘「なに、これ……? クロード……?」

千棘パパ「クロードは……。この手紙だけを残し、忽然と姿を消した」

千棘「……どういう、こと……?」

107: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 17:29:39.23 ID:BYyqJWHA0
              
――

とある廃墟

楽「……はぁ、はぁ……」

「ふふっ……。言われた通り、一人で来たな。一条 楽」

楽「小咲には、手を出してないだろうな……」

「ああ。この通りだ。まあ、騒がれると面倒なので、こうして縛ってはいるが」

小咲「んっ……! んーっ!」

楽「小咲……。ごめん、本当に、ごめん……。俺のせいで……」

「そうだ。全て、貴様のせいだ」

楽「てめえ……」

「貴様がお嬢に……。貴様が、貴様が……」

楽「てめえっ! クロードォ!!」

クロード「……くくっ! はははっ! いい顔だなっ! 一条 楽ゥっ!!」

109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 17:32:30.82 ID:BYyqJWHA0
               
楽「なんでこんなこと……。小咲は、関係ないだろうがっ!」

クロード「関係ない、だと? 貴様の、恋人なのだろう? これ以上関係のある人物が、いるものか」

楽「ぐっ……」

クロード「だから、連れてきたのだ。この娘なら、お前をおびき出す、良い餌になると思ってな」

小咲「んっ……!」

楽「く、そぉ……!!」

クロード「さて、私がお前をここに呼びだした理由は……分かるよな?」

楽「……ああ。分かってるよ」

クロード「ふんっ。その度胸だけは、認めてやろう」

ガチャッ

クロード「そう。お前は今ここで、抵抗も許されず、私に殺されるのだ」

小咲「――っ!?」

112: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 17:34:00.56 ID:BYyqJWHA0
               
楽「……ここまで来て、まさかまだこんな展開が待ってるとはな」

クロード「……? ふんっ。諦めろ。貴様は最初からこうなる運命だったのだ」

小咲「んーっ!! んーっ!!」

クロード「くくっ……。助かる道は、ないぞ……。この場所を知る者は、ビーハイブでも私だけだ」

楽「外にいたヤツは……。見張りか?」

クロード「ああ。だから万が一誰かが入口まで来たとしても、ここまでたどり着くことは、ない」

楽「なんだよそれ……。もう俺、助からねえじゃん」

クロード「そうだ。貴様はここで、死ぬんだ」

クロード「自分の行いを、悔いるんだな……!」

楽「……俺が、なにをしたって?」

クロード「とぼけるな。貴様が、お嬢を……」

115: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 17:35:43.09 ID:BYyqJWHA0
          
――――――
――――
――


千棘「パパ、私この前、一条 楽のことは嫌いだって、言ったけど……」

千棘「でもどうやら、違ったみたい。本当は、その逆で……」

千棘パパ「……そうか。お前にも男の子に恋をする日が、きたのか」


クロード(お嬢が、一条 楽のことを……!?)

クロード(まさか、あんな、あんなヤツのことを、本気で……!?)

クロード(……ぐっ。しか、し……)

クロード(お嬢が生まれて初めて、本気で好きになった男だ。私が、口を出すわけにはいかない……)

クロード(一条 楽よ。お嬢を、頼んだぞ……)

117: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 17:37:16.30 ID:BYyqJWHA0
                  
――――――
――――
――

千棘「ねぇっ! クロードっ! 聞いて聞いてっ!」

クロード「お、お嬢、どうなされたので……?」

千棘「あのねっ! 今日、一条くんがねっ……」

クロード(……なんだ? 先ほど街へ出かけると言って、ここを出た時とは……。まるで、雰囲気が……)

クロード(それどころか……。こんなお嬢、見たことがない。いつも私と話すときとも、まるで違う)

クロード(今までお嬢にあった……。そう、『棘』のようなものが、抜けおちてしまったようではないか)

クロード(なんというか……。これではまるで無邪気な、無垢な、子供のような……。一体、街でなにが……)

千棘「でねっ……。私、一条くんとお友達になったの!」

クロード「そうですか。それはそれは――」


クロード「――は? 友達?」

120: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 17:39:36.72 ID:BYyqJWHA0
                
――――――
――――
――

千棘「クロード、聞いてっ! 今日学校でねっ!」

クロード「は、はい。学校は、どうでした?」

クロード(やはり、違う。以前のお嬢は学校での出来事など、私に話すことはなかった――)

千棘「小咲ちゃんや、るりちゃんと、仲直りできたのっ!」

クロード「こ、こさき……? るり……?」

千棘「あっ。私たち、名前で呼び合うことになったの。こさきちゃんが小野寺さんで、るりちゃんが、宮本さん」

クロード「あ、ああ……」

千棘「それでね、一条くんが、よかったねって! 一条くんも、仲直りを手伝ってくれたんだよっ!」

クロード「ほ、ほう……。そうなの、ですか」

千棘「やっぱり優しいなぁ……。一条くん」

クロード(な、なぜ一条 楽のことは……。名前で呼ばない……?)

クロード(くっ! 学校に偵察に行きたいが、その理由もなくなった今、ボスには行くなと止められている……!)

122: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 17:41:27.44 ID:BYyqJWHA0
                  
――――――
――――
――

千棘「クロードっ! 見てみて!」

クロード「お嬢。どうなされ――っ!?」

クロード「そ、その髪は……?」

千棘「短くしてみたのっ! どうかな?」

クロード「た、たいへん、似合って、おいでで……」

クロード(わ、私の中のお嬢が、崩れていく……)

千棘「ほんとっ!? 一条くん、喜んでくれるかな……」

クロード「……あ、あの、お嬢」

千棘「え、なに?」

クロード「お嬢と一条 楽は……。その、恋人同士に、なられたのですよね?」

千棘「は、えっ!?」

124: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 17:43:36.98 ID:BYyqJWHA0
                    
千棘「ち、違うよ、そんなこと、一言も言ってないでしょっ!?」

クロード「違うのですかっ!? し、しかし」

千棘「前に言ったじゃんっ! 一条くんと友達になったってっ!」

千棘「わ、わたしが彼の、恋人だなんて……」

千棘「も、もう……。クロードの、ばかぁ」カァァァ

クロード「なっ……!? なっ、なっ……!!」

クロード(こ、こんなの、お嬢じゃ、ないっ!)

クロード「しかしお嬢はっ!! 一条 楽のことが、好きなのではっ!?」

千棘「……えっ」

クロード「……申し訳ございません。この前、ボスとお嬢との会話を、聞いてしまったもので……」

127: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 17:47:25.60 ID:BYyqJWHA0
            
千棘「……そうだね。確かにそんな気持ちも、あった気がする」

クロード「……お嬢?」

千棘「でもね。もう、いいんだ。私は彼の恋人には、なれないんだから」

クロード「お嬢っ! そんな、お嬢は……」

千棘「一条くんには、小咲ちゃんっていう素敵な人がいるわけだし……それに――」

千棘「――『こんな私』と、友達になってくれただけでも……。私、すっごく嬉しいよ」

クロード「……なっ!!」

クロード(あれほど強気で、自信に満ち溢れていた、お嬢が……。こんな、ことを、言うなんて……)

千棘「だから私は友達で、十分。一条くんの友達になれて……。私、幸せなの」

クロード「そん、な……。お嬢、お嬢……っ!!」

129: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 17:49:37.22 ID:BYyqJWHA0
            
――――――
――――
――

クロード「お嬢を、返せ」

楽「……」

クロード「貴様のせいだ。貴様のせいで、お嬢は変わってしまった……」

クロード「それなのに、責任も取ろうとせず……。他の女と……。この女とっ!」ガチャッ

小咲「――っ!?」ビクッ

楽「やめろっ! 殺したいのは俺だろ!? 小咲を殺したら……。俺はその隙に、逃げるぞっ!」

楽「絶対にお前に見つからないようなところまで、全力で、逃げる! だから――」

クロード「ふはっ……! この女を見捨てて、逃げると? そんなことが、本当にできるのか?」

小咲「……」ガタガタ

楽「……っ! たの、む、やめてくれ……! お前の目的は、俺だろう……っ!」

クロード「そうだな。くくっ。この女を殺しても、仕方がないよな」スッ

楽「はぁ……はぁ……」

132: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 17:53:25.83 ID:BYyqJWHA0
           
クロード「殺してやるぞ、一条 楽」ガチャ

クロード「貴様を殺しても、あの頃のお嬢は戻ってこないがな」

楽「……あっちの桐崎の方が好きなヤツも、いたんだな」

クロード「なにか言ったか?」

楽「……別に」

クロード「……お前を殺したら、お嬢は、悲しむかもしれない」

クロード「だけどもう、見ていられないんだ。貴様に変えられていく、お嬢を――」

クロード「それに、今はお嬢は、幸せそうにしていても……」

クロード「貴様はいずれ、お嬢の身に、不幸をもたらすだろう」

クロード「……私は、知っているんだ。以前のお嬢は、貴様と仲直りできないことを、ずっと悩んでおられた……」

クロード「貴様に、一条 楽に、嫌われていると……。そう、言っていたんだ……!!」

楽「……」

135: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 17:56:20.66 ID:BYyqJWHA0
                
クロード「お嬢は貴様のせいで、ずっと苦しんでいたんだっ!」

クロード「今は仲直りが出来て、幸せそうなお嬢だが――」

クロード「いつまた貴様が、苦しめることになるかっ! またお嬢を、悲しませることになるかっ!」

クロード「許さんっ……! 貴様は、ここで、殺すっ! 殺さなければ、ならないんだっっ!!」

楽「……ここまで、か」

小咲「んっ!! んーっ! んーっ!!」

クロード「そんなクズである貴様のことも、それでもお嬢は、好きだった……」

クロード「でも、その気持ちをお嬢は、今も、胸の内に押し込めている……っ! 答えろっ! 一条 楽っ!!」

クロード「……貴様にとってお嬢は、なんだっ!!」ガチャッ

楽「……」


楽「――大切な、『友達』だ」

パァン!

139: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 17:59:41.13 ID:BYyqJWHA0
             
小咲「ん――っ!?」

クロード「……」


シュウウ


クロード「……きえ、た?」

楽「もう一度言ってやろうか?」

クロード「っ!? うしろ……っ!?」

楽「桐崎 千棘は俺の、大切な、友達だ」

クロード「……なっ、なぜ、ここに……」




千棘「ありがと、ダーリンっ!」

千棘「……なんてねっ」

142: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 18:03:44.06 ID:BYyqJWHA0
         
クロード「お、お嬢……!? そんな、なんで、ここに……!?」

千棘「なんでって……。一条くんと小咲ちゃんを、助けるためにだよ?」

クロード「そ、そうではなく……!! な、なぜここが……お嬢でも、ボスでさえ、この場所は、知らないはず……」

千棘「うん。こんなところ、初めて来たよ。でも、場所自体は、電話で教えてもらったから……」

クロード「はっ……!? 電話って……。い、一体だれが、そんなこと……」

楽「……ありがとうな。桐崎。マジで、助かった。やっぱ持つべきものは、友達だよな」

千棘「っ!!」

千棘(い、一条くんに、よろこんでもらえたぁ……!)

クロード「い、いや、だとしても、外には見張りがいたはず……」

千棘「……見張り? いたっけ、そんなの」

クロード「ぐっ……」

151: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 18:07:44.07 ID:BYyqJWHA0
           
クロード「……貴様か? 一条 楽。貴様が、お嬢を呼んだのか」

楽「……そんなわけないだろ。お前に刺激を与えて、小咲に手を出されたら敵わねえからな」

クロード「……くくっ。そうだよなぁ。小野寺 小咲に、手を出してほしくないものなぁ」スチャ スチャ

クロード「――こんな風になぁっ!」

パパァン!

シュウウウ……

クロード「……って、いないっ!! またっ!?」

千棘「小咲ちゃん、大丈夫? 一条くん、縄、解いてあげて」

楽「ああ。ちょっと待ってろ……」

小咲「……」

クロード「な、い、いつの間にそっちにっ!?」

155: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 18:09:42.20 ID:BYyqJWHA0
  
クロード「は、速すぎる……」

千棘「小咲ちゃんは任せる。私はクロードの相手、するね」

楽「ああ。頼んだぜ、マイハニー」

千棘「ま、マイハニーって、そ、そんなっ。ダメだよっ。小咲ちゃんが見てる前で……」カァァァ

楽「お前が先にダーリンって……」

小咲「んーっ……」ムスー

楽「わっ! ごめん、小咲っ! こ、これは、違うんだっ!」

千棘「ご、ごめんねっ! 小咲ちゃんっ! つ、つい、ノリで……」

クロード「……違う。やめてくれ……違うんだ」

クロード「こんなの、お嬢じゃない。どうしてそんな風に、変わられて……」

千棘「……」

161: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 18:13:11.33 ID:BYyqJWHA0
   
千棘「私からしたらクロード、変わったのは、あなたの方だよ」

クロード「えっ……?」

千棘「あなたはこんな卑怯なこと、する人じゃなかったはず。いくら、私のためだとしても……」

クロード「そ、それは……」

千棘「……でもね、クロード。クロードが、変わってしまったのも……」

千棘「全部、私のせい、なんだよね。ごめんね、クロード……」

クロード「違う、お嬢のせいじゃ……」

クロード(謝らないでくれ……。こんなの、お嬢じゃない)

クロード(以前のお嬢に……。強気で、自信に溢れていて――)

クロード(凛々しくて刺々しい、あの頃のお嬢に、どうか、戻って――)

千棘「……だけど」

163: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 18:15:07.39 ID:BYyqJWHA0
              
千棘「だけどやっぱり今回は……。クロードも、悪いよね?」

クロード「えっ……?」

千棘「だって、小咲ちゃんを、私の大切なお友達を、こんなところまで、さらってきて……」

クロード「あ、あの」

千棘「一条くんを……。私の大切な、大切な、大切な大切な大切な大切な大切な、お友達を、殺そうとして――」

千棘「――ただで済むだなんて、思ってないわよねぇ?」パキッポキッ

クロード(ああ……)

クロード(あの頃の、お嬢だ――)

千棘「覚悟しなさい……クロードォォ!!」

クロード「ひ、ひいいいいぃぃぃぃ!!」

千棘「――うらぁっ!!」


ドッゴォォン!!


クロード「ぴぐぎゃああああああああああああああ!!」

169: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 18:19:17.61 ID:BYyqJWHA0
           
クロード「」ピクピク

千棘「終わった……。はっ!」

千棘(い、一条くんに、見られてなかったかな……。こんなんじゃ私、ゴリラみたい……)


小咲「……ぷはっ!」

楽「だ、大丈夫か? 小咲……」

小咲「はぁっ! はぁっ。ら、らく、くん……」

楽「……お、落ちついて、小咲。もう、大丈夫だから」

小咲「らく、くん――」

千棘「あ、あの、一条くん。こっち、見てなかったよね……?」

楽「……ああ。すまん。縄解くのに必死で、お前の雄姿を見届けられなかった」

千棘「あ、あはは。ざ、ざんねんだなぁー」ホッ

楽「でもすっごい音してたぜ。よっぽど豪快に殴ったんだな」

千棘(音でアウトだった!)ガーン

177: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 18:24:43.92 ID:BYyqJWHA0
       
楽「さて、帰るか。桐崎、本当にありがとうな」

小咲「はぁ、はぁ、あの、ら――」

千棘「ううん。あ、私もあとでお礼言っとかなきゃ。彼女のおかげで、ここまで来れたんだし」

楽「そういえば、誰なんだ? その、お前にこの場所を教えたヤツって――」

小咲「らく、くんっ!!」

楽「うぉっ! ごめん。どうした、小咲?」

小咲「ち、ちがうの……。まだ、終わりじゃないの……」

楽「えっ? どういう――」

小咲「私を直接さらったのは、クロードって人じゃないのっ!!」

楽「……えっ!?」

小咲「もう一人、いるのっ!! この建物には、もう一人、別の――」

パァンッ!

190: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 18:29:29.32 ID:BYyqJWHA0
               
「やれやれ……。なんて、情けない……。ずっと、聞かせてもらってましたよ」スタスタ

楽「うっ……ぐっ……」

ドサッ

千棘「えっ……?」

「それでもビーハイブの、幹部ですか……? クロード様。あなたはなにも、分かっていない」スタスタ

小咲「らく、くん……?」

「ほら、起きてください……。クロード様」

クロード「……ぐっ。うぅ……。すまん、な。『黒虎(ブラックタイガー)』よ」

「……ふふ。懐かしいですね。その通り名も……」

千棘「ど、うして……?」


千棘「つぐみ……」

鶫「……お久しぶりです。お嬢」

206: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 18:34:26.25 ID:BYyqJWHA0
                 
鶫「小野寺 小咲様。先程は大変、失礼致しました。そしてお初にお目にかかります、一条 楽様……」

鶫「私、幼少の頃より千棘お嬢様を護衛しております、ボディガード、兼――」

鶫「――ビーハイブの、ヒットマン。かつては『黒虎(ブラックタイガー)』と呼ばれておりました。名を、『鶫 誠士郎』と申します」

鶫「以後、お見知りおきを」ニコッ

小咲「あ……あっ……」ガタガタ

楽「『誠士郎』……? お前……は……。男、か……?」

パァン!

楽「っ!!」

小咲「ひぃっ!!」

鶫「いいえ、女ですよ。あっ。ご安心を。今の発砲は当てるためのものではなく、あなた方に恐怖を植え付けるためのもので――」

クロード「鶫。お前、女だったのか……?」

鶫「……クロード様。あなたって人は……」

210: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 18:39:07.20 ID:BYyqJWHA0
                      
クロード「それにしてもお前、見張りはどうした? なぜお嬢が、ここにいる」

鶫「いえ、私が呼んだんですから、むしろこの部屋まで、案内させて頂いたぐらいです」

クロード「なっ……。お、お前が……?」

千棘「つぐみ、何してるの……? なんであなたが、こんなこと……?」

千棘「あなた、私に電話で、言ってきたじゃない。『クロード様を、止めてくれ』って……。だから私をここに、呼んだんでしょ?」

鶫「申し訳ございません、お嬢。それは、あなたをここに呼ぶための、嘘だったんです」

千棘「っ!! えっ……? じゃあ、なんで私を……」

パァン!

楽「ぐっぅう!!」

小咲「っ!! い、いやぁぁ!!」

千棘「い、一条くんっ!!」

鶫「ふふっ……。今のは、当てるつもりで撃ちました」

212: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 18:41:53.64 ID:BYyqJWHA0
      
楽「はぁ……はぁっ! うぐっ……ちく、しょう、どういう、つもりだ……」

鶫「……ふむ。流石に集英組の跡取りだけはありますね。二発撃ちこまれて、まだそんな目ができるとは」

楽「……はっ! はぁ……っ! 跡なんか、継ぐかよ……俺は――」

鶫「でしょうね。あなたはここで、死ぬんですから」ガチャ

千棘「や、やめてっ! つぐみっ!!」
 
鶫「クロード様っ!!」

クロード「……ちぃっ!!」

ガシッ

千棘「な、なにするの、放してよっ! クロード――」

パァン!

千棘「!!」

215: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 18:45:20.52 ID:BYyqJWHA0
          

ポタポタ

楽「が……ああぁ……」

小咲「やだぁ! もうやだよぉ!! やめてぇ!! 楽くんが、死んじゃう――」

鶫「ふふっ。大丈夫ですよ、急所は外してます。死ぬことは、ない」

鶫「そして次も、なるべく急所に当てないように、努力するつもりです。ふふっ。死なないように、ね」

鶫「これを永遠に繰り返します。何度も何度も何度も何度も何度も何度も……」

鶫「何度も、死なないように、気をつけながら……死ぬまで、繰り返す」

小咲「――っ!?」

千棘「はなしてっ! はなしてよぉ!! 一条くんが、一条くんがぁ!!」

クロード「なにをしてるっ! 鶫っ! 殺すなら、早く殺せっ!!」

クロード「モタモタするなっ! これ以上、お嬢を悲しませるなぁ!!」

鶫「……はぁ」

鶫「だからあなたは分かってないと、言ってるんです」

クロード「な、んだと……?」

218: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 18:50:02.10 ID:BYyqJWHA0
                      
鶫「『目の前で一条 楽が死ぬ姿を見てしまったら、お嬢が悲しむ。だからお嬢がここにきたら、中に入れるな』……でしたっけ?」

鶫「じゃあ例えば、お嬢が直接、一条 楽が死ぬ場面を見てしまう。という最悪な状況を、回避できたとして――」

鶫「その後でお嬢が、一条 楽が死んだという報せを受けて……。それで悲しまないとでも、思ったんですか?」

クロード「……っ!」

鶫「『早く殺せ』? 『これ以上お嬢を悲しませるな』?」

鶫「ええ。確かに今すぐにでも、一条 楽の眉間をぶち抜くことは、容易いですよ?」

鶫「……でも、一条 楽が死ぬところを目の前で見てしまったら、やっぱりお嬢は悲しむと思いますよ? あなたはそんな状況を、回避したかったんでしょう?」 

クロード「ではお前は……。なにが、したいのだ……?」

鶫「あなたと同じですよ、クロード様。私はお嬢に、悲しんでほしくない」

鶫「――だからこの男、一条 楽が……。お嬢が悲しむ気すら失せるほど、情けない姿を晒すまで、こうして撃ち続けるんです」

パァンッ!

227: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 18:56:54.00 ID:BYyqJWHA0
          
楽「っ!! あしがっ……! いってぇ……!」

鶫「ふふっ……。あなたは地獄以上の苦しみを与えた上で、殺します」

小咲「らく、くん、やだ、やだぁ……!」ガタガタ

千棘「……うっ!! うわぁああ!!」

クロード「ぐっ!! お、お嬢っ!! もう、しわけ、ございません……!!」ガシィ!

千棘「はなして、はなしてぇ!!」

鶫「しっかり押さえててください、クロード様。そしてしっかり見ててください、お嬢」

鶫「この男が、喉を鳴らし、汚い声で命乞いをして、謝罪して、懇願して――」

鶫「腰を抜かし、鼻水を伸ばし、涎を垂らし、涙を流し、小便を漏らすまで、撃ち続けますから」

鶫「その情けない姿を目に焼き付け、是非ともこの男に、存分に、失望してくださいませ」

千棘「――っ!?」

パァン!

232: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 19:01:52.20 ID:BYyqJWHA0
       
チュウン!

楽「うっあ! うあぁぁ!!」

鶫「ふふっ。今のは、あえて外しました。どこを撃たれると思いました?」

鶫「次は、どうしましょうか。当てましょうか。外しましょうか」

楽「う、うあぁあぁ」

小咲「もう、やめ、てぇ……」

鶫「ふふっ。当てるなら、どこにしましょうか。どこか希望は、あります?」

楽「ぐっ……あっ、あっあああ」

鶫「ないようなので、こっちで勝手に決めちゃいますね」

鶫「えっと、次は――ここです」

パァン!

チュウン!

楽「うわぁあ! っは、はぁ、はぁ……」

鶫「『床』でした。ふふっ。今度こそ当てられると、思いました?」

237: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 19:04:02.25 ID:BYyqJWHA0
   
千棘「はな、せ! はなせぇ!!」ギシッギシッ

クロード「鶫……。もう、限界だ……。早く、早くしろぉ!」ググッ

鶫「そうですね……。一条さん。えっと、ここまででなにか命乞いとか、あります?」

楽「……はぁ、はぁ。あ、ああ、ああ」

鶫「あれ、もうまともに喋れないのか……? お嬢ー。コレ、どうです? 情けないですねぇ?」

千棘「はな、せ。はなして……! クロード、お願いだから……!」

鶫「お嬢、ちゃんと見てくださいよ……。気が動転して、それどころじゃないのか」

鶫「うーん……。もうクロード様も限界のようですし……。仕方がない」

鶫「さっさと殺して、死体を引き裂いてグチャグチャにでもしてしまいましょうかね」

鶫「グロテスクな肉塊に成り果てた一条 楽を見れば、きっとお嬢も失望することでしょう」

千棘「な――っ!?」

241: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 19:08:53.50 ID:BYyqJWHA0
               
鶫「――というわけで、殺しますね、一条さん。よかったですね。やっと、死ねますよ」

楽「……はぁ、はぁ」

千棘「なっ……! やめ、やめてぇ!!」

クロード「お嬢、見ては、いけない……!」

小咲「……あ、あ……」ガタガタ

鶫「あ、そうそう。クロード様に言いたいことはほとんど、言われちゃいましたけど……」

鶫「私もあなたを、許しませんから。絶対に、許さないです。絶対絶対絶対絶対絶対死んでも絶対殺しても絶対、許さないです」

楽「はぁっ……はぁっ……」

鶫「……それでは。できるだけ汚らしく死んでくださいね。一条さん――」

鶫「――さようなら」

千棘「やめ――っ!」




パァン!

250: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 19:16:26.57 ID:BYyqJWHA0
             
楽「……はぁ、はぁ」

鶫「……」


ポタポタ


楽「はぁ、はぁ……。えっ……?」

鶫「……ふふっ。あははっ」


ポタッポタッ


千棘「そ、んな……」


ポタッ……ポタッ……


鶫「なにを……。なにをなさってるのです? 小野寺 小咲様」

ポタッ

小咲「……うっ、うぅ」ガクッ

楽「……こ、さき」

261: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 19:22:04.41 ID:BYyqJWHA0
           
楽「こさき……なんで、俺なんか、かばって……」

小咲「……らく、くん。だい、じょう、ぶ?」

楽「お、俺のことなんか、うっ、ぐっ、い、いいから……こさき、は」

小咲「だい、じょうぶ……」

小咲「……じゃ、ないかも。あは、は……」

楽「っ!! こさきっ!」

小咲「あは、あ、つい……。おなかが、すごく、あつい……」

楽「血が、ちっ、血が……」

小咲「……らくくんだって、ち、が……」

楽「お前の方が、やべえよ! ど、どうしよう、どうしたら――」

小咲「らくくん、わたし……」

小咲「しんじゃう、のかなぁ……」

楽「……っ!!」

268: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 19:25:06.87 ID:BYyqJWHA0
             
『小野寺は、小野寺だけは、死んでも俺が守る』

『何があっても、お前を守るから』

楽「な、にが……守るだ……っ! てめぇはっ!」

楽「なっさけねぇ……! この、もやし野郎……っ!! ぜんっぜん、守れてねぇじゃねえか……!!」

楽「うっ……ぐっ……!!」ボタボタッ

小咲「……らく、くん、らくくんは、しんじゃ、やだよ……?」

楽「俺『は』って、なんだよ! お前も、死ぬなよ! だ、いじょうぶ、きっと、助かるから、だから……」

小咲「らくくん、おちついて……?」

楽「落ち着いてなんかいられるかっ! どうしよう、ま、まずは、止血を……」

小咲「……ふふっ。らく、くん……わ、たし、ね……」

小野寺(私ね……。楽くんのそういうところを、好きになったんだよ)


小咲「……す……して……?」

楽「えっ……? 今、なんて……」

小咲「き……す……」

272: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 19:29:30.49 ID:BYyqJWHA0
             
楽「……っ!! き、キスって、こんな、こんなときに」

小咲「わた……しに……うっ……」

小咲「……はっ、はぁっ……。わた、し……、にっ……うぅ……」

楽「こ、小咲、もう喋っちゃだめだっ!」

小咲「……わた……に……」

小咲「はじ……を、……さい。……くん」

楽「えっ……」

小咲「はじ、めて、を……っ! うぅ……っ!」

楽「こ、こさきっ――」

小咲「はじめてを、ください……っ! らく、くんっ!」

楽「……っ!!」


楽「わか、った……。やくそく、したもんな……」

楽「『初めて』を、ドキドキを、お前にたくさん、あげるって……」

284: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 19:34:42.67 ID:BYyqJWHA0
             
鶫「私としたことが……。素人の動きにも、気づけないなんて……」

鶫「まさか、一条 楽をかばって、自分が撃たれるとは……」

鶫「やってくれましたね……。私の失態で、無駄にお嬢を、悲しませることになってしまった」

鶫「……もういいです。とりあえず一条 楽だけでも、殺して――」

ドガァッ!

鶫「……っ!? ぐ、はっ……!!」

ドゴォオン

鶫「お、おじょう、なぜ……」

千棘「……」

千棘「許さない。私はあなたを、絶対に許さない」

千棘「つぐみぃっ!!」

鶫「ぐっ……」

クロード「お嬢……。お強く、なられて……。この、クロード……」

ガクッ

288: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 19:37:03.37 ID:BYyqJWHA0
             
鶫「お嬢。邪魔を、しないでいただきたい。私は、一条 楽を殺さねば……」

千棘「殺すことなんて、ないっ! なんでよっ!? なんで、つぐみもクロードも、一条くんを殺そうとするの!?」

鶫「……全ては、お嬢のためです」

千棘「私が殺すなって、言ってるのにっ! なにが、私のためなのっ!?」

鶫「あなたはあの男に、騙されてるっ! 確かに『今』は、あなたにとって、私たちは悪者に見えるのかもしれない!」

鶫「あの男が死ねば、お嬢は悲しむのかもしれないっ! でも、それは、『今』だからだっ!」

鶫「生かしておけば、近い未来、必ずヤツはあなたを再び不幸へと陥れる! 私にはそれが、耐えられないっ!」

千棘「そんなの、分からないじゃないっ!! 未来なんて、誰にも――」

鶫「分かるっ!! 現にあなたは今まであの男に、苦しめられてきたじゃないですかっ!!」

千棘「……それ、は」

鶫「殺すべきだ……。お嬢を悲しませるような存在は……。殺す、べきなんだっ!!」

鶫「それが、お嬢……。あなたを幼少の頃よりお守りしてきた、私の役目っ!」

294: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 19:42:20.89 ID:BYyqJWHA0
       
ガチャッ!

千棘「……やめなさいってっ! 言ってんでしょうがぁ!!」

ガシィ!

ズザァァ

鶫「ぐっ……! い、いくらお嬢でも、このわ、私を、押さえつけることなど……」

千棘「私を悲しませたくないってんなら……今は、今だけは、おとなしくしてなさいっ!!」

鶫「な、なん、ですって……?」

千棘「あの二人の時間を、邪魔しないであげてっ!! あの二人は、今――」ポロッポロッ

鶫「……っ!? お、お嬢、泣い、て……」

千棘「……うっ。あの、二人は、今……」

千棘「こんな、状況だって、いうのに……」

鶫「お嬢……?」

千棘「すごく、素敵な……。とっても幸せな時間を、過ごしているんだから……」

296: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 19:45:45.59 ID:BYyqJWHA0
         
楽「んっ……」

小咲「……っ」


チュッ


(こさきのくちびる、やわらかい……)

(やわらかくて、あったかい……。なんか、あたまが、くらくらする……)


楽「ん、ん……っ」

小咲「……んっ。……っ……」


チュッ チュゥ


(らく、くんの……。くちびる、やわらかい……)

(あったかい……、あつい……。なんだか、からだが、ふわふわする……)

298: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 19:48:10.71 ID:BYyqJWHA0
                
チュゥ……


楽「んっ……ぁ、はぁ……、んっ」


(おれ、こさきと、きす、してるんだ……。ゆめ、みたいだなぁ)

(しあわせ、だなぁ……。このじかんがずっと、つづけば、いいのに……)


小咲「……っはぁ……、んっ……」


(らくくんと、きすしてる……。わたし、ほんとに……。ゆめ、みたい……)

(おわって、ほしくないなぁ……。このままじかんが、とまっちゃえば、いいのに、なぁ……)

(……しあわせ、だなぁ……)


チュ…… チュゥ……

303: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 19:50:38.04 ID:BYyqJWHA0
            
楽「……ぷはっ……はぁ……はっ」

小咲「っはぁ……。はぁ……」

楽「はぁ……っ。ははっ、こ、さき……。かお、まっかじゃん……」

小咲「らく、くんも、だよ……。ねぇ、らくくん……」

楽「……な、んだ……?」

小咲「おわっちゃ、やだよ……」

楽「こさき……」

小咲「もう、いっかい……」

楽「……そう、だな……んっ」

小咲「んっ……」

チュッ…… チュ……

309: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 19:54:33.81 ID:BYyqJWHA0
          
小咲「……」

楽「……」  

小咲「……えへへっ。はじめてきす、しちゃったね……」

楽「そうだな……。人生で初めて、しちまったよ」

小咲「うん……。はじめて……。はじめてで、さいごの……」

楽「なに言ってんだよ。俺たちは付き合ってるんだから、またいつかすることも、あるだろうさ」

小咲「そう……だね……。ふふっ。るりちゃんにきょうのこと、なんてはなそうかなぁ……」

楽「俺も集に、なんて言おうかな……。あいつら、ビックリするぜー? 何年かかるんだぁとか、言ってやがったもんなぁ」

小咲「そうだね……。でもちょっとはなすの、はずかしいかも……」

楽「かもな……。でもそこは自信満々に、たっぷりと、自慢してやろうぜ。どうだ、やってやったぜっ! ってな」

小咲「あはは……ねえ、らく、くん」

楽「どうした? 小咲」

小咲「ありがとう……。私に、たくさんのはじめてを、おしえてくれて……」

315: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 19:57:48.87 ID:BYyqJWHA0
       
楽「ははっ。なに言ってんだよ。これから、だろ」

小咲「うん……。あれ、らくくん、ないてるの……?」

楽「お、おまえだって、泣いてんじゃん。なんだよ。ははっ。これから、だろ?」

小咲「うん……。これからもっと……」

楽「これからもっと二人で、いろんな『初めて』を、経験していくんだろ?」

小咲「うん……」

楽「そうやって二人で成長して……。大人になっていくんだろ? なぁっ!」

小咲「う……ん……」

317: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 19:59:17.75 ID:BYyqJWHA0
       
楽「うっ……だからさ、泣くなよっ! そうだ。明日また、デートしようぜ? 今度は、どこへ行こうか――」

小咲「……っ……」

楽「この前のデートも、楽しかったもんなっ! こんどは、どうしようか、て、ていうか――」

楽「あ、あしたも、学校だったな、そういや。ははっ。な、なに言ってんだろ、俺――」

小咲「……」

楽「が、学校……。なぁ、明日もまた、弁当……。なぁっ。なぁっ……こさきっ。こさきっ……」

小咲「……」

楽「こさ、きぃ……」

324: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 20:02:22.56 ID:BYyqJWHA0
                   
『私たちって、その……。付き合うことに、なったんだよね?』

楽「う、うっ、う、うぅ……」

『じゃあ今日から恋人だね。なんか、恥ずかしいな……』

『えっと……楽、くん?」

楽「……う、うあぁぁ……」

『……楽くん。これからは下の名前、だよ?』

『楽くん。あの、今日も一緒に、帰ろう?』

楽「こさき……こさきぃ……」

『じゃ、じゃあ私明日から、頑張るね! 料理下手だけど、頑張る!』

『たくさんあるから、もっと食べてね、楽くん』

楽「ふっ……。うぅっ……ひっく……こさ、きぃ……!」

『だって私、楽くんのことが――』

『――大好きだもんっ!』

330: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 20:05:11.05 ID:BYyqJWHA0
      
楽「……こさき……こさきっ! いやだ、こさき、うわ、ああああああぁ……!」


『私に、教えてね。もっとたくさんの、『初めて』を』


楽「うああぁぁあぁ!! うわぁあぁあっ!!」

楽「うあぁあぁ!! うっ! げほっ!」

ボタッ ボタッ

楽「う、うあぁ……。あ、ああああ」

楽「ああああああああああああああああああっ!!!」

336: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 20:08:37.66 ID:BYyqJWHA0
   
楽「あっ……あぁ……」

楽「なん……だったんだよ……。俺が今まで、してきたことは……」

楽「俺は……っ! 俺が……、まちがっていたのか……?」

楽「おれの……せい……?」

楽「おれの、せいで……こさきが……。うわ……、あああああっ!」

楽「あぁぁあぁ……あ、う、あぁあぁ……」

楽「うぁぁぁぁ! う、わあぁぁぁ……!!」


クロード「……一条、楽」

342: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 20:11:40.62 ID:BYyqJWHA0
    
楽「うっ……。ひっく……。なんだよぉっ! てめぇ、てめぇらが、こさきを……」

楽「返せよっ! 小咲を、返しやがれっ!!」

クロード「……返してほしければ、まず我々にその娘を、預けろ」

楽「はぁ……? なに、いって……」

クロード「助けてやると言ったんだ。その娘をな。まだ、死んではいない。気を失っているだけだ」

楽「……はっ? たす、かるの、か……?」

クロード「知らん。期待はするな。既に、ビーハイブの医療班は呼んである」

クロード「私がその娘を、運び出そう」

楽「……」

347: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 20:14:18.82 ID:BYyqJWHA0
        
グイッ

クロード「……いいな。連れてくぞ? もしも敵である我々が、信用できないというのなら――」

楽「信用する。俺の敵でも、小咲の、味方なら……」

楽「……小咲を、助けてください。おねがい、します……」

クロード「……ふん。それでいい」

楽「……その、俺も、ついていって、いいかな」

クロード「勝手にしろ。……私の部下に殺されたとしても、責任はとらんがな」

楽「ああ……。その、ありがとう……」

クロード「……貴様もボロボロだな。ついでに、治療してもらうがいい」

楽「でも、殺される恐れもあるんだよな……?」

クロード「……さっさと行くぞ」

349: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 20:16:36.32 ID:BYyqJWHA0
      
千棘「クロード……」

鶫「なっに、を……! 血迷ったかっ!?」

鶫「クロード様っ! 早くそいつを、殺してくださいっ!!」

鶫「私がお嬢を引きつけているうちにっ! 早く、一条 楽をっ!」

クロード「……すまん。弾切れだ……。どうやら、撃ちすぎたな」

鶫「……っ! あんたまだ二発しか、撃ってないでしょうが……!!」  

鶫「もういいっ……! 私が……っ!」スッ

千棘「あんたは私を引きつけるんでしょ? つぐみっ!」バッ

鶫「ぐっ……お嬢……!」

千棘「……今のうちに」

クロード「お嬢、感謝いたします」

楽「ありがとう、桐崎……」

352: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 20:19:29.40 ID:BYyqJWHA0
   
千棘「さーて。ここを通りたければ、私を倒していきなさい、つぐみっ!」

鶫「……お嬢とは戦いたく、ありません。そこを、どいてください」

千棘「ふーん。怖いの? 私と戦うのが……。かつての『黒虎』とも、あろう者が……」

千棘「まぁそうよね? あんたはこれまでに、たくさんの人と戦ってきて、勝ち抜いてきて、殺し続けてきたんでしょうけど……」

千棘「でも、それまで一番近くにいた私とは、一度も戦ったこと、なかったものね?」

鶫「当たり前でしょう……。あなたは護衛対象で、私はボディガードなんだから」

千棘「ま、それもそうね」

鶫「……そして、護衛対象がボディガードより強いなんてことも、ありえない」ガチャ

ポイッ

千棘「……銃、捨てちゃうの?」

鶫「あなたを殺すわけには、いかないですから」

鶫「でも少し、少しだけ……。手荒な真似をさせていただくことを、お許しください」

千棘「……そうこなくっちゃね」

359: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 20:23:37.34 ID:BYyqJWHA0
                 
鶫「はっきり言います。あなたは私には勝てない」

鶫「なぜなら私は幼少の頃より特殊な訓練を受けた、ビーハイブ屈指のヒットマン、かつての『黒虎』であり――」

鶫「――それに対してあなたは、ただの女子高生でしかないからです」

千棘「……でも私、さっきクロードに勝ったけど?」

鶫「あの方はお嬢に甘過ぎる。きっと知らず知らずのうちに、どこかで手を抜いてしまったのでしょう……」

鶫「だけど私は違う。お嬢のためならば、例えお嬢が相手でも、容赦はしない」

千棘「ふーん。怖いわね」

鶫「それに、戦ったことはないとは言っても……。私はずっと、何年も、あなたを見てきているのです」

ヒュッ

ドガッ!

千棘「うっ……!?」

鶫「あなたの戦闘能力ぐらいは、容易に分析できるのですよ」

361: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 20:25:12.03 ID:BYyqJWHA0
          
千棘「う、ぐ……。や、やるじゃない。今度は、こっちの番――」

鶫「いえ、もう終わりです」

ヒュッ グイッ

千棘「うっうしろ……!? うぐっ!」

鶫「このまま落として、終わりです」

ギュウウ

千棘「う、ぐっ……。く、くるし……」

鶫「……」

ギュウウ

千棘「うっ……ぐっ……! うぅ……」

鶫「悪く思わないでください。お嬢……」

ギュウ

千棘「くっ……うぐっ……」モゾモゾ

千棘(ど、こに……。『アレ』は、どこ……?)

363: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 20:28:07.71 ID:BYyqJWHA0
    
ギュウゥ……

千棘(もう、限界……。どこ? どこに、あるの?)

鶫「……お嬢。なにをして――」

千棘「――っ!!」

千棘(見つけた……。ここ、だっ!)

ムニュッ!

鶫「ひゃんっ!?」

千棘「……っ!」

バッ

千棘「うっ、げほっ! う、げ、ほぉっ!」

千棘「えほっ! げほっ……! ふ、ふん、つぐみ、あんたもやっぱり、女の子ね」

鶫「なっ……。なっ……」

千棘「結構……。『ある』じゃない。多分、私よりも……」

367: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 20:32:06.15 ID:BYyqJWHA0
    
鶫「ふ、ふふ……。まさか、そんな作戦に、出るとは……」

千棘「ただ後ろ手におっぱい揉んだだけだけど」

鶫「ですが今のはただ、不意をつかれたために、変な声が、出てしまっただけです……」

鶫「もう、同じ手は食いませんよ。今度こそ絞めて落として、おしまいです」

千棘「ふん。そうかしら? そっちがそうくるなら、私もまた、同じ手でいくつもりだけど」

鶫「ぐっ……。いいでしょう。あなたを気絶させる方法など、他にいくらでもあるんですよ」

千棘「おっぱい揉まれるのはやっぱり、嫌なのね」

370: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 20:34:14.08 ID:BYyqJWHA0
    
鶫「……言ったでしょう? あなたの戦闘能力は既に、分析済みなのです」

鶫「あなたは確かに、強い……。女子高生とは思えないパワーと、能力を、その身体に秘めている」

千棘「……」

鶫「お嬢……。あなたは昔から、スポーツや運動がお好きでしたよね」

千棘「まあね」

鶫「あなたが走りまわったり、とび跳ねたり、スポーツを嗜まれている姿を、私はよく、眺めていたものです……」

鶫「……眺めていて私が思ったことは、『お嬢は運動神経が良いなぁ』。それだけです」

千棘「……あっそ」

鶫「確かにあなたの運動神経はズバ抜けて高く、オリンピック選手に匹敵するほどではないかと、思うほどでしたよ」

鶫「……でも、オリンピック選手だろうがなんだろうが、所詮は人間。その域を、出てはいない」

千棘「……」

374: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 20:37:25.62 ID:BYyqJWHA0
      
鶫「『運動神経が良い』だなんて、所詮は人間レベルでの話……。人間を超越してようやく、この世界に立つことができるのです」

千棘「知らないわよ……。あんたら化物の世界になんて、立つつもりないっての」

鶫「お嬢では私に勝てないと、言ってるのです。『人間の中では運動神経が高い方』でしかない、あなたではね……」

千棘「ふん……」

鶫「さて、私がなぜ『黒虎』などと呼ばれていたか……。もう、お分かりいただけましたか?」

鶫「私の本当の『スピード』は……。もう人間の域を、とっくに越えてしまっている、ということです」

千棘「……あんたね。その『バトル漫画』みたいな台詞回し、いい加減やめてくれない?」

鶫「……そう言われましても私、これが自然体ですので……」

千棘「そう。だったらとことん付き合ってあげるわよ。あんたが『トラ』だっていうなら――」

千棘「――こっちは、『ゴリラ』よっ!」

380: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 20:39:56.77 ID:BYyqJWHA0
 
鶫「ふっ……。それはそれは、お強そうなことで……」

千棘(自分で言ってて辛い……)

鶫「本気で、いかせてもらいます。今度は先ほどのように、ノロくはありませんよ」コキッ

千棘「さっきだって速かったじゃん……。えっ、もっと速くなるの?」

鶫「ふふっ……。『人外』の私のスピードに、ついてこられますかね?」

千棘「いやだから、さっきだってついていけてなかったわよ! なのになんでもっと、スピード上げるのよ!?」

鶫「いきますよ……。お嬢っ!」

千棘「わーっ! 待って、待って――」

ビュゥッ!

390: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 20:42:54.63 ID:BYyqJWHA0
    
カツン カツン

クロード(三発だよ、鶫)

『……すまん。弾切れだ……。どうやら、撃ちすぎたな』

『……っ! あんたまだ二発しか、撃ってないでしょうが……!!』
 
クロード(私が撃ったのは、三発だ)

クロード(……といっても二発目と三発目は、二丁の銃で同時に、発砲したのだが)

クロード(しかしお前は二発しか撃ってない、と言ったな……。ということはお前は、恐らく――)

クロード(聞こえてきた『銃声』の数で、私が撃ったであろう弾数を、数えていたのだな)

クロード(同時に撃った時の、重なった二つの銃声までは、聞き分けがつかなかったようだが……。つまり、だ)

クロード(つまり、お前は……。私とお嬢の戦いを、直接、その目で、見ていたわけでは、ないのだろう?)

クロード(……ならば、お前の負けだ。鶫)

クロード(『アレ』を、二度……。いやせめて、一度でも見ていたのなら、お前ならもしかしたら、捉えられたかもしれないが――)

クロード(初見で『アレ』を見切ることは、不可能だ。例え『黒虎』だろうが、『人外』だろうが、な……)

397: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 20:46:46.52 ID:BYyqJWHA0
   

鶫「……」

千棘「……私の勝ちね、つぐみ」ガチャリ

鶫「……なにが、起きた……?」

鶫「なぜ私は仰向けに倒れていて、お嬢は私の上に乗っていて……」

鶫「……そしてなぜ、私の眉間に向けて、銃口を突き付けているのですか?」

千棘「あんたを気絶させる方法なんて、思い浮かばないし。だとしたら勝つ方法なんて、これぐらいしかないじゃない」

鶫「……」

千棘「……なによ。あんたが私を殺したくないだとか言って、銃を捨てるのは、勝手だけど――」

千棘「――私は、それを拾って使わないだなんて、言った覚えはないわよ?」

鶫「……」

鶫「……そう、ですね」

403: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 20:50:04.40 ID:BYyqJWHA0
   
鶫「……いいでしょう。私の、負けです」

千棘「よかった。素直に負けを認めてくれて。私だってあんたを殺したくなんかないもん」

鶫「ですが一つだけ、教えてください。一体なにが、起きたのですか?」

千棘「……別に、簡単な話よ」

千棘「あんたが私に向かって、ものすっごいスピードで飛びかかってきたから、慌てて避けて、そこに落ちてた、あんたの銃を拾って――」

千棘「私が元いた場所であたふたしてるあんたを、思いっきり蹴飛ばして、仰向けに倒して、銃を突きつけた。そして、今に至る」

鶫「……なんですか、それ。私の動きを見切った上で、さらに私よりも速く、動いたと?」

鶫「ありえない。そんなの、人間業じゃないです」

千棘「……失礼ね。ちゃんと人間よ」

406: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 20:52:29.49 ID:BYyqJWHA0
       
千棘「あんたの動きを見切れたのは、あんたが私をずっと見てきたように、私もあんたをずっと見てきたから、よ」

鶫「……。『黒虎』時代の、私もですか?」

千棘「うん。あんた昔よく、私が見てる前で、自信満々にそのスピードを披露してくれたじゃない」

鶫「そ、そうでしたっけ……」

千棘「そうよ。見飽きたぐらいだわ……。まあ、あの頃から全然衰えてなかったから、ビックリしたけどね」

鶫「……では、その全盛期に近い『黒虎』よりも速く動けたのは、なぜですか?」

鶫「私はあなたのことをずっと見てきた……。でも、そのような化け物じみたスピードは、動きは、見たことがない」

千棘「……あんた昔、私が動きまわってる姿を見て、『運動神経が良いなぁ』って、思ってたんですって?」

千棘「じゃあその時、私の方は……。動きまわりながら、なにを考えてたか……。教えてあげようか」

鶫「……? お嬢が、なにを考えてたか……?」


千棘「『この髪、長くて重くてうっとうしくて、すっごく動きづらい』って……。ずっとそう、考えてたわ」

410: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 20:55:26.21 ID:BYyqJWHA0
  
鶫「か、髪を、短くしたから、ですか!? それだけで、あんなに速く……!?」

千棘「まっ。他にも背負ってるものだとか、環境だとか、いろいろとあの頃とは違うじゃない?」

千棘「そういう色々なものが積み重なっての、あの速さよ。おわかり?」

鶫「そんな適当なっ! お、お嬢っ! もう既に髪の短い私は、どうすればこれ以上速く動けるように……」

千棘「知らないわよ。坊主にでもすれば?」

鶫「ええっ!」ガーン

千棘「さっさと私たちも行くわよ。小咲ちゃん、どうか無事で……」グイッ

鶫「お、お嬢、私も行くのですか!? 私は一体どんな顔して、彼らの前に――」

千棘「あんたはまず、傷を負わせた二人に、土下座して詫びなさい」

鶫「は、はいぃ……」

421: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 20:58:59.51 ID:BYyqJWHA0
   
鶫(お嬢、あなたはクロード様の言ってた通り、変わっておられた……)

鶫(……正直、最初はショックでした。同時にお嬢をこんな風にした、一条 楽に、激しい憎悪を覚えました)

鶫(でもなぜかお嬢は……。前よりもずっとよく笑うようになったし、なにより、幸せそうだ)

鶫(……これでいいんですね? お嬢。未来なんて誰にも分からないのだから……。そんなものに、怯えるくらいなら――)

鶫(今を……。幸せな今を、精一杯楽しもうって……。そうお考えなんですよね? お嬢は)

鶫(ならばつぐみはもう、なにも言いません。出過ぎた真似をいたしましたことを、深く、反省します)

鶫(変わってしまったお嬢も、素敵ですよ。とても可愛らしくて、女の子らしくなって……)

鶫(……でもやっぱり、寂しいと思う気持ちも、つぐみにはあるのです)

鶫(だって私は以前のお嬢に、憧れを抱いていたのですから。私なんかと比べて、可愛らしくて、女の子らしくって、その上強かった、以前のお嬢に……)

鶫(ボディガードが護衛対象に憧れを抱くのも、おかしな話ですかね……)

425: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 21:00:28.07 ID:BYyqJWHA0
 
鶫(だから今日、少しだけ、以前のお嬢が戻ってきてくれて、嬉しかったです)

鶫(そして、楽しかった……。お嬢との初めての戦闘が、楽しくて、しかたがなかった)

鶫(いずれ、もう一度――などとは勿論、言いません。だって、もう――)

鶫(――あちらのお嬢がまた戻ってくることは、ないのでしょうから)

鶫(戦いは終わり……。町には平和が訪れたのですから。もうお嬢が戦うことも、ないのですから)

鶫(――って、この言い方だとまるで、お嬢が抗争に参加してたみたいになっちゃってますが……)

鶫(でも少なくとも、今日みたいなことがお嬢の周りで起きることは、もうないでしょうから)

鶫(もし、今回のようなことが、今度は他の誰かの手によって、起こるようなことがあれば――)

鶫(私、鶫 誠士朗が、必ずやお嬢を、そしてお嬢の大切なお友達を、守ってみせます)

鶫(それをどうか、今日私が犯してしまった罪の、償いとさせてください――)

429: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 21:04:05.01 ID:BYyqJWHA0
 
――

ビーハイブ医療施設

楽「許すわけないだろ」

鶫「……ごめんなさい」ドゲザ

楽「なにが、償いだ。お前に守られたくなんかない。そんなことで償いになるだなんて、思ってんじゃねえ」

鶫「では、私は、どうすれば……」

楽「二度と俺たちの前に姿を現すな。俺たちに関わるな。それがお前にできる、償いだ」

鶫「……はい。本当に、申し訳ありませんでした……」

鶫「小野寺様の無事を、祈っております」

楽「どの口が、そんなこと……」


千棘(……)

437: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 21:07:53.65 ID:BYyqJWHA0
 
鶫「ところで一条様の、お怪我の方は……」

楽「俺は治療してもらったからまあ、大丈夫だ。こうしてベッドで安静にしてれば、な」

鶫「私は、なんてひどいことを……」

楽「……お前さ、そういえば――」

千棘「一条くんっ!」

楽「……桐崎」

千棘「ごめん、鶫……。外して、くれるかな」

鶫「……はい。それでは」


千棘「一条くん、あの……」

楽「……」

438: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 21:10:31.93 ID:BYyqJWHA0
 
千棘「あ、の、私……」

楽「……」

千棘「ごめん、なさい。本当に……」

楽「……」

千棘「小咲ちゃんが、一条くんが、こ、んなことに、なったのは……」

千棘「わ、私の、せいで……。クロードやつぐみは、私の、ために……」

千棘「私の、せいな、の、私のせいで、一条くんは、こんなに、酷い怪我を……」

千棘「こ、さきちゃん、死んじゃう、かも……。ごめん、ごめんね……」

千棘「ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!」

千棘「……私のこと、また嫌いになったよね……?」

楽「……」

444: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 21:14:00.00 ID:BYyqJWHA0
                        
千棘「いち、じょうくん。私も、もう、あなたたちと、関わらない方が、いいのかなぁ」

楽「……」

千棘「ごめんねっ……。嫌いに、なったよね……? 私、もう、あなたと、関わらないからぁ」

千棘「かかわらないから……。で、でもやっぱり、き、きらいには、なら、ないで……」

楽「……桐崎」

千棘「も、もう、きらわれたく、ないよぉ。いちじょうくんや、こさきちゃんから、きらわれたく、ない……」

千棘「ごめんなさいっ! あやまるから、だから、きらいに、ならないで……」

楽「……だから、前に言っただろ? 俺はお前のことが好きなんだって」

千棘「でも、きらいに、なった、でしょ……?」

楽「なってねえよ。今もお前のこと、好きだよ」

千棘「……ほんと?」

445: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 21:17:01.83 ID:BYyqJWHA0
 

楽「それに、お前のせいじゃない。むしろ、クロードや鶫が動いたのは、俺が原因だろ」

千棘「一条くんは、なにもわるくな――」

楽「ごめん、本当に。俺のせいで、こんなことに……」

千棘「……」グスッ

楽「ごめん、ごめんな……。また、お前を泣かしちまった」

千棘「う、ううん。私が勝手に泣いただけだもん。へへ……」

千棘「……でも、嬉しいな。一条くんが今も私のこと、好きって言ってくれて……」

楽「……お前は俺のこと、どう思ってる?」

千棘「えへへ、もちろん、好きだよ」

楽「違う、そうじゃない」

千棘「……え?」

448: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 21:20:26.33 ID:BYyqJWHA0
 
楽「俺のこと、本当は……。その、別の意味で、好き、だったんだろ?」

千棘「……っ!?」

楽「そう、例えば、俺が小咲のことを、好きなように……」

千棘「な、な、そ、そんな、こと……」カァァァ

楽「……でもお前はあの時、そのつもりで俺に、好きって言ってたんだろ?」

楽「ごめん。俺、鈍感だからさ……。あれ、『友達』としての好きだって、思ってたんだ」

楽「でも、違ってたんだな。本当は、本当は――」

千棘「う、ううぅ……」

千棘(な、なんで今更、一条くん、そんなこと言うの……)

千棘(胸の奥にしまってたのに……。一生しまっておこうって、思ってたのに……)

千棘(これじゃ、こんなんじゃ、私、ダメだよぉ……)

451: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 21:22:22.26 ID:BYyqJWHA0
                     
楽「……あのさ、だから、俺、あの時、勘違いしてたわけだからさ……」

楽「その、お前の真剣な気持ちを、勘違いしてた、わけ、で、だから、その……」

千棘(……一条くん。すっごい慌ててる。あはは、なんか可愛い)

千棘(そっか。そういうことなんだね。一条くんが、今この話を、私にしてくれたのは――)

千棘(もう一回、ちゃんと、あの時の『やり直し』を、させてくれるって、ことなんだね……)

楽「あの、えっと……」

千棘「一条くん」

楽「な、なに?」

千棘「私は、桐崎 千棘は、あなたのことが、大好きです」

458: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 21:25:28.56 ID:BYyqJWHA0
 
千棘「困ってる人がいたら、放っておけない、誰かのために自分の身を犠牲にして必死になれる、優しい一条くんが、私は大好きです」

千棘「……私を助けてくれた一条くんが、私は、大好きです」

千棘「もしよかったら、私と、付き合ってください。お願いしますっ!」

楽「……」

楽「……嬉しい。ありがとう。でも――」


楽「――ごめん、桐崎。俺、他に、好きな人がいるんだ」

楽「だからお前とは、付き合えない」

千棘「――っ!!」

千棘「う、んっ……。そっ、かぁ……」ポロッポロッ

千棘(あはは……フラれちゃった……)

460: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 21:28:05.86 ID:BYyqJWHA0
 
千棘(でも、よかった。スッキリした)

千棘(ちゃんと告白できて、よかった。ちゃんとフラれることができて、よかった)

千棘(このしまっていた気持ちを、全部出しきることができて、本当に――)

楽「お前とは、付き合うことは、できない。恋人同士にも、なれない」

楽「……だけどお前は俺の、一番の、『親友』だ」

千棘「……」




千棘「しん、ゆう……?」

466: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 21:31:03.58 ID:BYyqJWHA0
                         
楽「俺を、小咲を、助けてくれて、ありがとう」

楽「お前が来てくれなかったら、本当に、危なかった。来てくれて、すごく嬉しかった」

楽「これからも俺を、俺たちを、助けてほしい。お前に、頼らせてほしい」

楽「……だからお前も俺を、頼れ。お前が困っている時は、俺が助けてやる」

楽「『親友』のお前を必ず、助けて、やる」

千棘「わたし……。いちじょうくんの、しんゆう……?」

楽「ああ……。お前は、その、俺と小咲の、命の恩人、だからな」

楽「もう『普通の友達』じゃ、いられない」

楽「俺はお前のことが、『親友』として、大好きだぜ」

千棘「あはは、うれしい。わたしたち、しんゆう、なんだ……」

千棘「そんなこといわれたの、はじめてだなぁ……。しんゆうだなんて、はじめて、だなぁ……」

千棘「ありがとう……っ! これからもよろしくね、一条くんっ!」

474: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 21:36:27.06 ID:BYyqJWHA0
             
――

クロード「小野寺 小咲の容体は依然として、危険な状態だ」

クロード「しかし必ず、私の優秀な部下たちが、貴様の大切な人の命を、救うだろう」

クロード「だから、安心して今は、眠るがいい。お前の怪我も、命に別状はないとはいえ、重傷に近いのだから」

楽「……あんたって、そんなに俺に優しかったっけ」

クロード「ふ、ふんっ! 別にお嬢から『私、一条くんと親友になったのーっ!』と笑顔で言われたところで、貴様の評価が上がったりはしないんだからなっ!」

楽「さ、さっそく言いふらしてんのかあいつは……」


クロード「それでは、さらばだ。といってももう、二度と会うことはないかもしれんがな」

楽「……あんたビーハイブ、やめるの?」

クロード「ああ。大人は失敗をしたら、責任というものを、取らねばならぬのだ。まだ子供の貴様には、分からんだろうがな」

楽「そっか……。まだまだ俺は、子供だったんだな……」

クロード「……迷惑をかけたな。では、お嬢をよろしく頼んだぞ。一条 楽よ――」

479: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 21:44:16.59 ID:BYyqJWHA0
              
――

千棘「一条くん、今日私、ここに泊ろうかと――」

楽「い、いいよそんな。明日だって、学校あるだろ?」

千棘「……そっか。そういえば今日も、学校あったんだよね……。なんだか、おかしな気分」

楽「そうだな……。いろいろなことが、ありすぎて……。でも明日からは、また平和な日々が、待ってるだろうよ」

千棘「……一条くん。早く、戻ってきてね。せっかく親友に、なれたんだから」

楽「ああ……。小咲と一緒に、必ず。そしたら学校でまた、楽しくお喋りしようぜ」

千棘「うんっ……。待ってるね。一条くん」

楽「……それ、やめないか?」

千棘「えっ……?」

楽「いや、俺が言いだしたことなんだけどさ……。でも親友になった今じゃ、その呼び方だとなんだか、おかしいだろ?」

千棘「そう、かな……。じゃあ、なんて呼べば……」

楽「下の名前で、呼んでくれよ」

千棘「えぇっ!?」

482: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 21:49:10.72 ID:BYyqJWHA0
                
楽「これからは『楽』ってさ……。呼んでくれよ」

千棘「そ、そんなの、小咲ちゃんに悪いよ……」

楽「小咲だってきっとお前なら、納得だろ。むしろ、あいつなら――」

楽「『二人は名前で呼び合えるくらい仲良くなれたんだね』って、一緒になって喜んでくれる。そういう女の子なんだ、小咲は」

千棘「……そっか。そうだよね」

楽「『千棘』……。学校で会ったら、またよろしくな」

千棘「っ! あはは……」

千棘「……『楽くん』っ! 私ずっとずっと、るりちゃんや舞子くんと一緒に、待ってるからっ!」

千棘「また、お話ししようねっ! いっぱいいっぱい、遊ぼうねっ!」

千棘「だって私たちは、『親友』、なんだからっ!」

楽「ああっ……。必ず……っ!」

488: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 21:52:51.50 ID:BYyqJWHA0
             
――

鶫「失礼します。お体の方は、どうですか」

楽「……まあ、ぼちぼちだ」

鶫「……今日は本当に、すいませんでした。謝っても、許されることではないのですが……」

鶫「お約束の通り、私は今後、あなた方とは一切、関わりません。姿を見せることも、ないでしょう」

楽「……そうしてくれると、助かる」

鶫「それでは……お大事に」

楽「待った。そういえばさっきお前に、聞きそびれたことが、あったんだ」

鶫「……なんでしょう?」

楽「……なんというか、変な質問なんだけど、いや多分、そんなバカなことは、有り得ないんだろうけど――」

鶫「……?」

楽「……」


楽「お前もしかして、俺らの学校に転入してくる予定とか、あったりした?」

494: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 22:00:29.89 ID:BYyqJWHA0
   
鶫「……えっ」

楽「いや、まさかな。悪いないきなり。こんな、突拍子もない……」

鶫「なぜそれを、知っているのです?」

楽「……なに?」

鶫「私はクロード様に、あなたの魔の手からお嬢をお守りするよう、転入生としてあなた方の学校に潜入するよう、命じられていたのです」

楽「魔の手て……」

鶫「といってもまだ先の予定ではありましたし……。もちろん今日のことで、その予定もなくなりましたし」

楽「……そうか。そりゃそうだ。俺らとはもう、関わらないって約束だからな」

鶫「……しかし、なぜそれをあなたが、知っているのです? この任務は現時点ではまだ、極秘のはずなのに……」

楽「……」

楽「いや、なんとなくお前を見てると、『転入生っぽい』なぁって」

鶫「……は?」

498: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 22:04:28.41 ID:BYyqJWHA0
               

楽「その中性的な容姿と言い、『黒虎』とかいう通り名といい、桐崎のボディガードだっていう設定といい……」

鶫「せ、設定って……。ていうかなんですか。『転入生っぽい』って」

楽「なんていうかさ……。えっと、桐崎を俺から守るために、転入してくる予定だったって?」

楽「じゃあなんかお前、転入してきてすぐ、俺に攻撃してきたりしそうだよな。そんで『決闘』とかいって、戦いを申し込んできそう」

鶫「……は、はい?」

楽「『お嬢を賭けて』……、とか言ってな。そんで、俺がまともにお前と戦っても勝てるわけないから、俺はただ校内を、逃げ回るだけで……」

鶫「一条様……?」

楽「そうだな……。そんで散々逃げ回った挙句、俺はお前を巻き込んで、窓からプールへ飛びこむんだ」

鶫「な、なにを言ってるんですか。そんなこと、できるわけ……。そもそも、私から逃げることなど、不可能ですよ」

楽「だからこれは、俺のただの妄想だよ……。そんでプールに飛び込んだショックで伸びちまったお前を介抱するために、俺はお前の服を脱がすんだ」

鶫「は、はぁっ!?」

楽「そこでお前が女だと、発覚するわけだ。お互い、顔真っ赤にしてさ」

鶫「な、にを……」


鶫「なにを、言っておられるのですか、一条様……?」

504: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 22:08:28.15 ID:BYyqJWHA0
              
鶫「なんですか、それ……? 一体、何の話を――」

楽「それからは……。桐崎とかに言われて、お前もちょっとは女の子らしくするようになって……」

楽「桐崎からリボンとかもらって……。可愛い服とかも、貸してもらって、それをお前が着て……」

鶫「……」

楽「次第にもっと女の子らしくなって……。そしてとうとう、誰かに『恋』なんか、するようになって――」

鶫「……ふざけるな」

楽「……」

鶫「それは私への、侮辱ですか? 今まで女を捨て、お嬢のために尽くしてきた、私に対する……」

楽「違うって。そんなつもりはない。ただお前を見てたら、そんな妄想が」

鶫「それが侮辱だというのだっ! 私が女の子らしくっ? 『恋』をするっ? そんなこと、あるはずがないっ!」

511: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 22:13:39.05 ID:BYyqJWHA0
                
楽「……だから、分かってるよ。ただ、俺は――」

楽「そんな可能性も、そんな未来も、もしかしたらあったのかなって、思っただけだ」

鶫「……」ゾクッ

鶫「あなたは……。あなたは、一体……なにを……」

鶫「一条様……。あなたには一体、なにが……視えてるんですか?」

鶫「なにを……考えているのですか? 私はあなたの言っていることが、さっぱり――」

楽「……もしかしたら、こことは違う、どこか別の、世界で――」

楽「お前が俺たちのクラスにやってきて、お前が俺たちの仲間になって、一緒に話して、笑い合って、どこかに遊びに行ったりして――」

楽「ヒットマンでもなんでもない、普通の女の子として、リボンをつけて、可愛い服を着て、誰かに恋をしたり、しなかったり……。」

楽「……そんな世界がこの広い宇宙のどこかには、あるのかもしれないって……」

楽「そう、思っただけだ」

鶫「……」



鶫「きもち、わるい……」

526: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/18(火) 22:20:10.54 ID:BYyqJWHA0
         
楽「……」

鶫「私はもう、二度と、あなたとは、関わりません。関わりたく、ありません」

楽「そうかい。俺もだ」

鶫「……そんな世界はきっと、どこにもありません。有り得ませんから」

楽「当たり前だろ。全部俺の妄想なんだから」

楽「『黒虎』の異名を持つ、ヒットマンであるお前が、学校なんかに通って、友達を作って、恋をするなんて――」

楽「……そんな、『漫画』みたいな……。世界、あるわけがない」

鶫「……」

鶫「……さよう、なら。一条様。どうかお嬢を、よろしくお願いします――」

楽「ああ……。分かってる。じゃあな、鶫――」


長い一日が、終わり――

一条 楽の戦いも、終わりを迎えようと、していた――

603: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 00:07:08.39 ID:RXWt4m4/0
           
――――――――
――――――
――――
――

千棘「おっはよー! 楽くんっ!」

楽「なんだよ千棘。今日は一段とテンション高いな」

千棘「あったりまえだよぉ! だって今日という日を私は、ずっと心待ちにしてたんだよっ!?」

楽「……ああ。まあ、俺もだ」

千棘「そのわりには、楽くん、テンション低くない?」

楽「そんなことねえけど。まあ俺は既に一回、会ってるし」

集「よう。桐崎さんと、今日という日が楽しみすぎて二日寝てない一条くん」 

楽「う、うるせえ! 言うなっ!」

るり「まあ、楽しみだったのは、みんな一緒ってことね」

「おい、今日ってさ……」「あいつらが騒いでるってことは、そうだよな?」

楽「はは。みんなソワソワしてる。ったく落ち着きがねえ……」ガタンガタン

集「お前が言うな」

606: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 00:11:31.89 ID:RXWt4m4/0
      
ガラッ

「「!!」」





小咲「……」

小咲「みんな……。えっと、ただいま?」



楽「……お――」

るり「おかえりっ! こさきぃ!」ダッ

千棘「おかえりぃっ! こさきちゃぁん!」ダッ

楽「あれっ!? お前らが先行くの!?」

607: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 00:15:25.31 ID:RXWt4m4/0
                             
「うおおおおおっ! 小野寺が、戻ってきたぞぉ!」「やったぁあ!!」

「イヤッホーゥ!! 宴だお前らぁ!」「踊れ踊れぇ!!」

小咲「あ、あはは、みんな、大げさだよ」

ダキッ

小咲「あっ……」

るり「大げさなんかじゃないっ! あんた、死にかけてたのよっ!?」

千棘「そうだよっ! で、でもよかったぁ……! やっと退院、できたんだね……!」

小咲「あはは……。ごめんね、心配かけて」

るり「ばかぁ! もう、放さないんだから!!」

千棘「私だって! 小咲ちゃん! 小咲ちゃぁん!」

ギュウウ

小咲「あはは。く、くるしい……」

609: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 00:17:28.57 ID:RXWt4m4/0
        
ワイワイ ガヤガヤ

楽「……えっと」

集「おかえりぃっ! こさきちゃぁん!」ダッ

楽「お前が抱きついて良いわけないだろ」ガシッ

集「ちぇっ……。そう言うお前は寂しそうですなぁ、楽くん?」

楽「別に……。ていうか俺は退院する時に一回、会ってんの。でもみんなは小咲と会うの、久しぶりなわけだろ?」

楽「だからここはみんなに譲るさ……。みんなだって、小咲が帰ってきて、嬉しいんだから――」

小咲「楽くんっ!」

楽「!?」ビクッ

小咲「楽くん、ただいまっ!」

楽「あ、あれ……? みんなは――」


るり「まあ一番良いところは、一条くんに譲るわ」

千棘「恋人、だもんねっ!」

「ひゅーひゅー! なんか言ってやれぇ一条ぉ!」「感動の再会だぞー!」

610: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 00:19:31.83 ID:RXWt4m4/0
       
楽「あ、あいつら、ったく……」

小咲「楽、くん。あの……心配かけちゃって、ごめんね」

楽「えっ。あ、ああ。別に、そんな……」

小咲「……が、学校で会うのは、久しぶり、だよね。あはは」

楽「そう、だな。だからかな。なんか今、俺、ちょっと緊張して……」

小咲「わ、私も。あはは。あっ、そういえば今日、お弁当作ってこれなかったの……」

楽「い、いいよそんな。病み上がりなんだから……。またそのうち、食べさせてくれれば」

小咲「う、うん。まずは料理の勘を、取り戻さなきゃ……。あっ、ま、また美味しくないお弁当になっちゃったら、ごめんね」

楽「別に小咲の作った物なら、何でも食べるよ俺は……。あ、あはは」

小咲「あはは……」


るり「……なんかガッチガチじゃない? あの二人」

集「ああ……。しばらく会わなかったせいか、付き合い始めの頃に戻ってるような……」

611: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 00:21:03.36 ID:RXWt4m4/0
      
集「ここはいっちょ、俺がほぐしてやるか」

るり「あんたまた、余計なことを……」

集「いいからいいからっ」


楽「あ、あのさぁえっと、入院中って、暇だったろ? なにして時間潰してたんだ?」

小咲「え、えっと、なんだろ、楽くんのこと、考えたりとかやだわたしなにいってんだろ」カァアァ

楽「あ、あの、えっと、な、なんかないかな。いや、話したいことは、山ほどあるんだけど、どれにしようか――」

集「じゃあお兄さん。初チュウの話とか、いかがっすか?」

楽「よ、よしきた。そ、そう、俺たちの初チュウは、とある廃墟で――」

楽「って言えるかばかぁ!!」

小咲「……」カァァァ

集「あは、はっははは!」

るり「もっと固めてどうすんのよ……」

617: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 00:25:40.47 ID:RXWt4m4/0
              
集「じょ、冗談だよ、冗談」

楽「ったく、こんな教室のど真ん中で、できるかっての、そんな話」

小咲「で、でも、るりちゃんと舞子くんには、報告、しようって」

楽「い、いや、別に今じゃなくても、いいだろ?」

小咲「そ、そうだね、あはは……」

るり「……? なに言ってのよ、あんたら?」

小咲「えっ?」

集「はは。しかし冗談で言ったものの、この調子じゃ二人の初チュウなんか、いつになることやら……。なあ、楽よ」

楽「は、はぁ? だから、チュウ自体はもう、したっての」

集「はは、またまたー……、えっ?」

集「ま、マジ?」

楽「ああ、まあ……」

620: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 00:28:36.04 ID:RXWt4m4/0
     
集「えぇえええええぇえええっ!?」

るり「う、うそぉ!? うそでしょっ!?」

「あ? 今あいつら、チュウしたっつったか?」

「はは、いやまさか……。あの二人にはまだ、早いだろ」

千棘「あれ、知らなかったの? 一条くん、話してなかったんだ」

集「なんで桐崎さんは知ってるのっ!?」

楽「ていうかあの日のことはほとんど、ひた隠しにしてきたからな……」

小咲「そ、そうなんだ。それにしてもみんな、驚きすぎじゃあ……」

「う、うそだーっ!! 本当にしたのかぁ!!」

「くっそー! やりやがった、一条のヤツぅ!!」

楽「お前らな……」

624: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 00:33:12.37 ID:RXWt4m4/0
     
集「く、詳しく教えろっ! どんな、どんな感じだった!?」

楽「だ、だからそれはまた今度……」

るり「小咲……。ついに……。ついに……やったのね……」ウルウル

小咲「る、るりちゃんが泣くなんて……」

「桐崎さん、教えてくれよ! 知ってるんだろ!?」

「ていうかなんで桐崎さんにだけ話してんだよ、一条のヤツ!」

千棘「えっ。ていうか私、その場にいたし……」

「「ど、どういうこと!?」」

楽「話をややこしくするなぁっ!!」

ワイワイ ガヤガヤ

626: 一条くん→楽くん 2014/02/19(水) 00:34:57.94 ID:RXWt4m4/0
――
                
放課後

集「……すげーじゃん。そんな状況で、キスなんて……」

るり「まるで、映画じゃない……」

楽「け、結局全部話すことになるとは……」カァァァ

小咲「ま、まあ他のみんなはもう、帰っちゃったから……」カァァァ

千棘「……」カァァァ

楽「なんでお前まで赤くなってるんだ」

るり「ていうかそれでよく生きてたわね、小咲……。あんた展開の流れ的に、完全に死ぬとこだったじゃない」

小咲「て、展開の流れってなに!?」

集「たしかに。いや、生きてて本当によかったけど、もし映画とかドラマだったら、絶対死んでたぜ?」

るり「そうね。もしかして二人してそれらしい台詞とかも言ってたり?」

小咲「え、お、覚えてないなぁ」ドキッ

楽「……」

628: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 00:38:03.33 ID:RXWt4m4/0
                       
小咲「で、でも私も、あの時は、ああ、死んじゃうんだなぁって、思ったよ……」

るり「……そうよね、ごめん。思い出させちゃって。本当に、危ないところだったんだもんね……」

千棘「小咲ちゃんが無事で、よかった……。私もあの時は、もうダメかと……」

小咲「るりちゃん……。千棘ちゃん……」

集「そうだな……。小野寺が助かって、戻ってきてくれて、よかった。だよな、楽」

楽「ああ……。なんていうか、確かにあの時小咲が死んじまってたら、『映画』や『ドラマ』みたいだったんだろうけど――」

楽「――でも、人は誰もが劇的に死ねるわけじゃない。何でもないことで死ぬこともあれば、ここぞって時に死ねないこともある」

楽「ここは、『現実』なんだから。『映画』でも『ドラマ』でも『小説』でも『アニメ』でも『ゲーム』でも、ましてや――」

楽「――『漫画』の世界でも、ないんだから。そんな都合よく、人は死ねないってことだな」

集「……!」

635: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 00:44:13.47 ID:RXWt4m4/0
                    
楽「で、もういいか? そろそろ、帰ろうぜ」

集「……そうだな。初チュウ話も聞けたことだし」

千棘「今日は五人で帰れるね。ふふっ。小咲ちゃん、手、つなごうよー」

楽「はっ、千棘よぉ。いくら女同士といえど、小咲が俺以外と手なんか」

小咲「千棘ちゃんの手、あったかいねっ」

楽「もうつないでる!」

集「ん? こっちの手は俺が握っていいの?」

楽「『ん?』じゃねえボケ!」ガスッ!

集「うげっ!」

るり「……」バキッ!

集「うげげっ! コンボ!?」

637: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 00:46:05.40 ID:RXWt4m4/0
            
小咲「じゃあかえろっか」

楽「あ、あの、小咲。ちょっと……」

小咲「えっ?」

るり「……」

るり「小咲、また忘れ物ー? しょうがないわね。私たち、先に行ってるからね」

小咲「え、あ、うん」

集「るりちゃん結構、無理やりだね……」

るり「うっさい」

千棘「あっ、私、待ってようか?」

るり「いいから行くわよド天然」パコォン

千棘「あいたー!?」

小咲(千棘ちゃんの扱いが、私みたいになってきてる……)

640: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 00:52:32.78 ID:RXWt4m4/0
       
――

小咲「それで、どうしたの? 楽くん」

楽「いや、今更なんだけど……。朝、言い忘れてたことがあって」

小咲「なに、かな」

楽「……おかえり、小咲」

小咲「……ふふっ。ただいまっ。楽くん」

楽「……本当にさ、お前……。よかったなぁ。無事に、退院できて」

小咲「うん……」

楽「俺、あの時、小咲が死ぬって……、思って、そんで、ものすごく、悲しくなって……」

楽「怖くて、震えが止まらなくて……。明日から、どうやって生きていこうって……」

楽「小咲がいない世界を、どうやって生きていこうって……考えたら、涙があふれてきて……」

小咲「でも、私はここに、ちゃんといるよ? ちゃんと、戻ってきたよ?」

楽「ああ、そうだな……。戻ってきてくれて、ありがとう」

楽「……生きててくれて、ありがとう……」

643: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 00:54:05.62 ID:RXWt4m4/0
       
小咲「……私も、死んじゃうかと思った。もう二度と楽くんと、会えなくなるんじゃないかって」

小咲「でもこうしてまた学校で、楽くんと会えて……。明日も学校に来れば、楽くんがいて……」

小咲「当たり前のことなのに、すっごく、幸せだなぁって……。思うの。生きてることが、すごく幸せ」

楽「はは……。俺も、幸せだよ……」

小咲「……本当に生きてるよね? 私」

楽「えっ……?」

小咲「もしかして、実は幽霊だったり?」

楽「なんだそりゃ……。そんなわけないじゃん」

小咲「確かめて、ほしいな」

楽「……えっと」

小咲「……」

小咲「う、うわぁあ……」カァァァ

647: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 00:58:17.40 ID:RXWt4m4/0
      
ギュッ

楽「こ、こう……?」

小咲「あ、ありがとう……。ご、ごめんね。私、普通に言えば、いいのに……」

楽「ああ……。あったかい。こんなあったかい幽霊、いるわけないよ」

小咲「うん……」

楽「……」

小咲「……」

楽「あ、あの――」

小咲「あのっ!」

楽「はいっ!?」

小咲「あの時は最後だなんて、言っちゃったけど……」

楽「え……?」

小咲「も、もういっかい、して、ほしいなぁ……。なんて……」

楽「……ぷっ」

649: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 01:02:03.76 ID:RXWt4m4/0
     
小咲「ちょっ、わ、笑わないでよぉ……」

楽「くくっ。だ、だから言ったろ? 『またいつかすることもある』ってよ」

小咲「……うんっ!」

楽「あれが最後なわけないだろ? ほら、だってまたこうして……」

小咲「うんっ……! うんっ……!」

楽「……また、こうして」ドクン ドクン

小咲「うん……っ」ドクン ドクン




楽「ん……っ」

小咲「……んっ」

チュゥ

652: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 01:05:42.82 ID:RXWt4m4/0
            
チュッ……チュゥ……

……

……


小咲「二回目でもやっぱり、ドキドキするね……」

楽「ああ……。でも、すごく、幸せだった」

小咲「私も、だよ……。ねえ、楽くん」

楽「うん?」

小咲「今度は『初めて』だけじゃなくて……。『二回目』も、『三回目』も、その先も、私に教えて?」

楽「それじゃ、キリがないじゃん」

小咲「……これからもずっと一緒にいようね、ってこと!」

楽「……ああ。もちろん。小咲と一緒なら、その先も、キリがなくたって、どこまでだって……」

小咲「……」ニコッ

楽「……どこまでだって、いける気がするよ」

ギュッ……

655: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 01:10:20.41 ID:RXWt4m4/0
          
――

楽「すまん、遅くなって」

千棘「あっ、忘れ物、みつかったー?」

小咲「う、うん。あったよー」

るり「……したと思う?」ヒソヒソ

集「まあ、時間的に……」ヒソヒソ

楽「よく聞こえなかったけど、お前らの内緒話は絶対ろくなこと話してないよな……」

千棘「じゃ、かえろっか」

集「……あれ、俺も、忘れ物してたわ」

るり「……はぁ?」

集「すまん。取ってくるわ―。あ、楽もこい」グイッ

楽「ちょ、なんだよっ!?」

るり「……? あいつ、本人に確認する気なの?」

657: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 01:13:01.37 ID:RXWt4m4/0
       
――

教室

集「楽しい時間は一旦お預けだぜ、楽」

楽「なんだよ、集……。早く、忘れ物を」

集「そんなもんねえよ。分かってんだろ? 話の続きだよ、ほら」

楽「初チュウの話ならあれで終わりだよ。続きなんてない」

集「とぼけるな。お前の『計画』についての話だ。前に、話してくれただろ?」

楽「……」

660: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 01:17:53.17 ID:RXWt4m4/0
           
楽「……その話ももう、あれで終わりだよ。続きなんて――」

集「俺に隠してることが、あるだろう? あの『計画』の話は、その一部にすぎない。もっと大きな、なにかを……」

楽「……」

集「教えてくれよ。お前はその目で、この世界を、どう見てるのか」

楽「世界……? なに言ってんだ?」

集「お前にはこの世界が、どう視えてるのか……。お前にとって、この世界は――」

楽「頭狂ったか、集。こえーよお前」

集「……頭が狂ってるのはお前だろ? 俺はお前が怖い。なぁ、楽よ――」



集「――お前マジでこの世界が、『漫画』の中の世界だとか、思っちゃってんの?」

664: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 01:21:57.93 ID:RXWt4m4/0
     
楽「……思ってねえよ。そんなわけあるか」

集「なら『思ってた』が正しいか? 今までずっと……。そうだな、お前が『計画』を思いつく、直前ぐらいまでか?」

楽「……帰っていいか?」

集「ダメだ。お前はずっと、そう感じてたんだろ? この世界は、何かがおかしいと」

集「もしくは、自分の周り、自分を取り巻く環境が、どこか、イカれてるって……」

集「そう、感じてたんだろうが。なあ。全部教えろよ、楽。お前は一体、なにを見て、なにを感じてきた」

楽「……」

集「……教えてくれよ。俺たち、親友だろ?」

楽「俺の親友は桐崎 千棘、ただ一人だ。お前とはただの、『腐れ縁』だよ」

集「……そっか」

楽「でも、もういい。そこまでバレてんなら……全部教えてやるよ」

集「っ!」

666: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 01:24:20.70 ID:RXWt4m4/0
       
『ギャアァーーーーーー!!!』

『あっ……! ごめん! 急いでたから!』

楽「まず、俺は別にこの世界が『漫画』の中だと、本気で信じてるわけではない」

楽「そんなはずはない。ここは、俺たちがいる世界は、紛れもなく、現実だ」

楽「ただ、あいつが……。千棘が転入してきた、あの日……」

『初めまして! アメリカから転入してきた桐崎 千棘です』

楽「……現実を疑ったのは、確かだ」

『あーーーーーーーーーーーーーー!!!』

『あなたさっきの……』

『さっきの暴力女!!』

楽「『漫画』みたいな展開だなって思ったのは、確かだ」

集「……」

668: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 01:29:40.52 ID:RXWt4m4/0
    
楽「……でも、その時は、それだけだったんだ。こんな展開、現実でもあるんだなぁって、そう思っただけだった」

楽「だけど、あいつ……。桐崎 千棘は帰国子女で、金髪で、美少女で、運動神経抜群で、転入生だった」

楽「……すごいステータスの持ち主だな、と思った。それだけならな。だけどあいつは、それだけじゃなかった」

楽「『暴力女』だった。『ゴリラ女』だった。それに性格も刺々しくて、俺のこと『もやし』とか呼んできやがった」

楽「……『漫画のキャラ』みたいなヤツだった。ていうか昔実際に、『漫画』で似たようなキャラを見た覚えがあった」

集「……いるよな。女の子なのに、やたら力が強くて、ツッコミとか照れ隠しとかで、主人公をぶん殴るヒロイン」

楽「まさしく『漫画』の世界から出てきたみたいな、女だった……」

楽「そんな『漫画みたいな女』が目の前に現れて……。俺の日常に変化が起きない、わけがなかった」

楽「……毎日が苦労の連続だった」

楽「だがその日、俺の運命は変わった」

楽「そう、その日から、さらに凄まじい苦労の、連続となったんだ」

670: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 01:35:24.78 ID:RXWt4m4/0
       
『お前ら二人には明日から……3年間恋人同士になって貰う』

楽「家に帰ったら突然親父から、そんなことを言われた……。あれは千棘と出会って、何日目のことだったか」

楽「……なんだよ。ヤクザとギャングの抗争を止めるために、ニセモノの恋人同士になれって……」

楽「『漫画』だったら……。結構面白そうな、展開だよな……」

集「……まあ確かに、傍から見てて面白かったけどさ」

楽「しかも、その相手が、その千棘だった。あいつはあのステータスに加え、集英組の敵、ビーハイブの、令嬢でもあったんだ」

楽「……そもそも俺だって、集英組の跡取り……。ヤクザの、息子だ。俺だって、『漫画』のキャラみたいなステータスを、持ってたんだ」

楽「そこに気づいた時……。俺の考えは、歪んだ」

楽「そしてその後、俺に降りかかった数々の出来事が、さらに俺の考えを、歪ませた」

集「……まさか」

『ラブコメの主人公でもあるまいし……』

671: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 01:37:38.46 ID:RXWt4m4/0
                          
楽「千棘とのデート中、俺がポロっと小咲の名前をこぼした時に……『偶然』、本当にそこに、小咲が現れた」

楽「『ちょうど』千棘が後ろから、『ダーリン』と俺を呼びながら現れ、小咲に思いっきり誤解された」

楽「小咲と廊下で会った時があった。『たまたま』誰かが小咲にぶつかって、小咲は俺の前で鍵を落とした」

楽「放課後、千棘が友達ノートなるものを作っているところを見てしまった。『奇しくも』俺も過去に同じノートを、作ったことがあった」

集「……」

楽「……勉強会の時に、千棘と蔵に閉じ込められたことがあったな。もうこの時点で、アレだが……」

楽「でも梯子もあったし窓もあったし、普通に出られるだろうと思ったら……『都合良く』、千棘が閉所恐怖症だった」

集「いや、彼女も女の子だし……」

楽「普段は強気で自信満々で、実際に女子とは思えないほど強い筈の、千棘が、『都合悪く』過去にトラウマがあって、恐怖症だった」

楽「だからあいつ、後ろから抱きついてきてさ……。おかげで良い思いができたよ」

楽「まるで、ラブコメの主人公みたいにな」

673: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 01:40:31.04 ID:RXWt4m4/0
                   
楽「しかもあいつ、その後体制崩して俺に、覆いかぶさってきてさ……」

集「そんな『絶好のタイミング』で、蔵が開けられて……。また小野寺に、勘違いされたんだよな」

集「確かに……。『ラブコメ漫画』のワンシーン、だよな」

楽「プールに行った時も……。更衣室の鍵が、『なぜか』妙に小咲の持ってた鍵に似ててさ……」

楽「千棘にはぶん殴られ……。小咲には、また誤解された」

楽「そうやって小咲に誤解されるたびに俺は、心が締め付けられる思いをしてきた」

楽「最初は千棘やビーハイブの連中を、憎んだりもしたよ……。でもきっとこれは、誰も悪くなくて、誰のせいでもなくて――」

楽「世界が……。この世界が、おかしいんだろうなって……思った」

集「……」

楽「そして、後に起こった二つの出来事が、俺のそんな考えを、さらに膨らませた」

675: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 01:44:47.74 ID:RXWt4m4/0
                  
楽「一つ目は、宮本の頼みで水泳の試合に出ることになった時だ」

楽「……千棘が泳いでる最中に、両足を攣って、溺れた」

集「それは桐崎さんが、準備運動を怠ったからだろ?」

楽「俺もそう思った。そう思いながらも俺はプールに飛び込み、必死にあいつを助けた」

楽「だけどさ……。俺は確かに、千棘を助けるつもりで……。自分の意志で、千棘を助けたつもりなのに」

楽「周りから拍手が起こって、歓声が上がったその時に……。俺は、愕然としたよ」

楽「まるで俺、物語の『ヒーロー』みたいだって」

楽「俺は自分の意志で動いた筈なのに、まるでそうなるように仕組まれてるような……」

楽「『ヒロイン』を助けるために操られた、都合の良い、物語上の『ヒーロー』みたいだなって……」

集「ヒーローね……」

楽「……そして、もう一つの出来事は……。俺の心を完全に砕いた、その出来事は……っ」

楽「小咲と二人きりで、教室にいた時に、起きたんだ……っ!」

676: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 01:48:39.53 ID:RXWt4m4/0
               
楽「小咲と二人きりで教室で、話しててさ……」

楽「すごくいい雰囲気になったんだ。そしたら小咲が、顔を真っ赤にして、俺に何か伝えようとして……」

集「へえ……。そんなことが」

楽「正直、告白されるのかと思った。めちゃくちゃドキドキした。そして小咲が、何かを伝えようとした、まさにその瞬間――」

楽「野球部の打ったボールが、教室の窓ガラスを割り、飛んできたんだ」

集「……そりゃあ……タイミング的にはもはや、『奇跡』に近いな」

楽「……小咲が伝えようとしてたことを、聞きそびれちまったのは、残念だった」

楽「だけどそれ以上に……。俺は、許せなかった……っ!」

集「……許せなかった? 誰を? 野球部の連中か?」

楽「……お前、言ったよな。『奇跡』に近いって。俺は、そんな奇跡的なタイミングでボールが飛んできたことに――」

楽「――誰かの、あるいはもっと大きな『なにか』の、意志を……。感じざるを得なかった」

681: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 01:52:16.06 ID:RXWt4m4/0
                
楽「……その『なにか』にとって、小咲が俺に伝えようとしていたことは、都合が悪かったのかもしれない」

楽「だから、それが俺に伝わるのを阻止しようとして……。そんな絶妙なタイミングでボールが飛んできたんだ」

楽「その『なにか』が、奇跡を起こしたんだ」

集「……段々、とんでもない話になってきてるぞ」

楽「おかしなこと言ってるのは分かってる……。だけど俺には、そうとしか思えないんだよ」

楽「そして俺はその『なにか』を、許せねえ……」

楽「どんな目的があったのか……。そこにどんな意志があったのかは、知らねえけど……」

楽「もしそのボールが、小咲に当たってたら、どうすんだよ……っ!」 

集「……」

楽「俺の周りで起き始めていた『漫画のような展開』は、とうとう二人を危険な目に、あわせた」

楽「それに、耐えられなくて……。俺の心は、砕けた」

楽「……あの日から――」

683: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 01:55:10.11 ID:RXWt4m4/0
                 
楽「千棘が転入してきたあの日からずっと、俺の周りには、『非日常』があふれていた」

楽「『漫画』みたいな出来事で、あふれていた」

楽「人の意志では、力では、到底引き起こせないような事象が、平然と起こっていた」

楽「……俺の周りで、だけだ」

集「……」

楽「俺の考えは、歪んだ。もしかしたら、この世界は、この地球は――」

楽「――俺を中心に、回ってるのかって」

集「お前、そんなこと考えてたのかよ」

楽「考えたさ。そしてそんな考えさえも、また次第に変わっていった」

楽「……こんな『漫画』みたいな世界の、中心にいる俺は――」

楽「ひょっとしたら、『主人公』なんじゃないかって」

集「……ははっ。なに言ってんの?」

687: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 01:58:06.39 ID:RXWt4m4/0
    
楽「だとしたら……。俺が主人公だから、ヒーローだから、ヒロインである二人が、危険な目に遭ったのかもしれないって」

集「それはもう、ただの自惚れだろう。主人公って、『漫画』のかよ?」

楽「知らねえよ……。『漫画』かもしれないし、他の『なにか』かもしれない」

楽「俺は『なにか』の主人公に抜擢されちまったんだ……って、考えるようになった」

集「……よかったじゃん。主人公になれて」

楽「……なんだと?」

集「お前が羨ましい、って言ったんだよ。お前が主人公だとすれば、俺はどう見ても『脇役』だからな」

集「いや、俺なんかまだマシな方だ。『主人公の友達』というポジションの俺は、まだな」

集「例えば隣のクラスの、名前も知らねえし話したこともないような連中は、脇役ですらないんだろうな」

集「『モブキャラ』ってやつかな? ったく、自分が『モブキャラ』だということにも気づかずに生きている連中に、俺は同情するぜ」

楽「……で、俺のなにが羨ましいって?」

集「『脇役』でも『モブキャラ』でもないところだよ」

688: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 01:59:47.57 ID:RXWt4m4/0
     
集「お前、自分がなに言ってるのか分かってるのか?」

集「『自分は特別な人間で、周りの人間は皆、取るに足らない存在』。そう言ってるのと同じなんだぞ?」

楽「……」

集「他の人間は全員、お前の引き立て役か? 主人公である、お前の」

集「お前は桐崎さんや小野寺が、『自分のせい』で危険な目に遭ったと、そう思ってるのかもしれない」

集「だけど、その二人を『悲劇のヒロイン』だと、認めるということは……っ!」

集「……二人まで、主人公のお前の、引き立て役でしかないって、認めることにもなるんだぞっ!」

集「お前はそれで、いいのかよっ!? この世界は『漫画』で、お前はその『漫画』の主人公で、後は全員お前のために動く、都合のいい駒か!?」

690: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 02:02:19.44 ID:RXWt4m4/0
   
楽「……そんなわけ、ないだろ」

集「……」

楽「ここは『漫画』の世界なんかじゃない。『現実』だ。だから皆自分の意志で、自分のために動いてるし、俺のためになんか動いてくれない」

集「お前……、ここが現実だって……。今、そう言ったか……?」

楽「……」

集「でもお前は……。一度思っちまったんだろ……? 自分は主人公だって。この世界は、自分を中心に動いてるって」

集「……なあ、楽。俺、お前の話を聞いてさ……。少しだけだけど、考えちまったんだよ」

楽「……なに?」

集「自分はただの、『引き立て役』でしかないんじゃないかって……。『脇役』なんじゃないかって 」

692: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 02:03:47.96 ID:RXWt4m4/0
                      
集「俺だってちゃんと、自分の意志で、お前の恋を応援したり、サポートもしてきたつもりなのに……」

集「それも全部、お前を引き立てるための、『なにか』の意志によるものだったのかな……?」

楽「だから、言ってるだろうがっ! この世界は、『漫画』なんかじゃないっ!!」

楽「おれは『漫画』の主人公なんかじゃないっ!」

楽「お前は『漫画』の脇役なんかじゃないっ!」

楽「小咲も千棘も宮本も、引き立て役なんかじゃないっ!!」

集「なに、言ってんだよ……。だってお前、さっき――」

楽「だからっ! だから俺は、『計画』を考えたんだっ!」

楽「このクソみたいな世界を否定する、その『計画』をなっ!!」

695: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 02:05:47.59 ID:RXWt4m4/0
      
――

小咲「二人とも、どうしたんだろうね。男の子同士で、話し合いたいことがあったのかな?」

千棘「えっ? 忘れ物を取りに行ったんでしょ?」

小咲「えっ。あ、うん……」

るり(この子、小咲以上の逸材だわ……)

小咲「あっ、そうだ……。千棘ちゃんに、聞きたいことが、あったんだけど……」

千棘「? なあに?」

697: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 02:08:39.00 ID:RXWt4m4/0
    
小咲「そ、その……。楽くんのこと、なんだけど」

千棘「うん。楽くんのこと、好きだよ」

小咲「えっと、千棘ちゃんは、楽くんのことどう思って――」

小咲「――っ!?」

千棘「今、言ったよ?」ニコッ

るり(この子……。逸材どころじゃないわ……)

699: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 02:11:02.30 ID:RXWt4m4/0
                 
小咲「好き、だったんだ……。やっぱり……」

千棘「うん。告白も、しちゃった」

小咲「え、ええぇえぇ!? そ、そんな、いつ……?」

千棘「結構最近。少なくとも、小咲ちゃんと楽くんが付き合い始めて、からだよ」

小咲「え……っ。と、ということは」

るり「あなたは小咲から、一条くんを奪おうとしてたわけだ」

小咲「る、るりちゃん。そんな言い方……」

千棘「まあでも、そうなるよね。既に恋人がいる人に告白するって、そういうことだもん」

小咲「……」

700: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 02:12:47.85 ID:RXWt4m4/0
                     
小咲「……それで、楽くんの返事は」

千棘「『お前は一番の親友だ』だって。いやぁ。あの時はすっごく嬉しかったなぁ」

るり「あんたそれ、フラれてるじゃない」

千棘「まぁ、ね。やっぱり楽くんは私より、小咲ちゃんの方が好きだったみたい」

小咲「……どうしてそんなに、明るく話せるの?」

千棘「えっ?」

小咲「だって千棘ちゃん、失恋したってことでしょ? ショックじゃなかったの?」

るり「こさき……っ!」

千棘「そうだね。私、失恋したの。でも親友って言ってもらえたし、そんなにショックじゃなかったかな」

小咲「……」


千棘「――なんて、言えるわけない」

704: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 02:15:48.91 ID:RXWt4m4/0
   
千棘「ショックだったに、決まってるよ……。家帰ってから部屋で、大泣きしたもん」

小咲「……」

千棘「……でも、スッキリして、気持ちよかったよ」

るり「それは、大泣きしたことが?」

千棘「ううん。はっきり気持ちを伝えられて、ちゃんと失恋できたことが」

小咲「っ!!」

千棘「……小咲ちゃん。ごめんね。あなたの彼氏に、勝手に告白なんかして」

千棘「でも、どうしても、伝えたかったの。我慢、できなかったの……」

小咲「……すごい」

千棘「えっ?」

小咲「すごいよ……、千棘ちゃん。尊敬、しちゃうよ……」

るり「……小咲」

るり(そうか……。小咲も……)

706: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 02:17:37.63 ID:RXWt4m4/0
                    
小咲「私も……。前に楽くんと千棘ちゃんが、恋人同士のフリをしてたこと、あったでしょ?」

千棘「あはは……。あったね、そんなことも。なんか、懐かしい」

小咲「……フリをしてたってことが、分かった時には、私、ホッとしたけど……」

小咲「でも、その前は、本当に二人は、付き合ってるものだと思ってたから……。お似合いだなって、思ってたから」

小咲「だから……、辛かった。その時から、もっと前から、私は楽くんのことが、好きだったから」

千棘「……」

小咲「それでもるりちゃんは、背中を押してくれて……」

小咲「『相手に好きな人がいるからって、アタックしちゃいけない決まりなんて、ない』って……」

るり「……」
 
小咲「だけど結局私は楽くんに、アタックできなかったなぁ……」

707: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 02:20:17.73 ID:RXWt4m4/0
       
小咲「……でも千棘ちゃんは、告白、できたんだね」

小咲「楽くんに好きな人がいるって、分かってても……。恐れずにちゃんと、告白できたんだ」

小咲「私ができなかったことを……やってのけたんだね」

千棘「……私も本当は、ずっとこの気持ちを、胸の奥に押し込めておくつもりだったの」

千棘「だけど私にも、背中を押してくれる人がいたから……。だから、勇気を出して、告白できたの」

小咲「そうなんだ……。千棘ちゃんは誰に、背中を押してもらったの?」

千棘「……楽くん」

小咲「えっ。楽くん?」

千棘「そっ。告白する相手に、背中押されちゃったの。ふふっ。おかしいよねっ」

小咲「あははっ。でも楽くんは、そういう人だから」

千棘「そうそうっ。そうだ、この前、楽くんがね――」クスッ

るり「あっ」

るり(……今の、千棘ちゃんの、顔)

るり(一条くんのことを話す時の……。小咲に、そっくり……)

710: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 02:22:35.33 ID:RXWt4m4/0
                  
小咲「……そういえばるりちゃんは、楽くんのこと、どう思ってるの?」

るり「はぁ? 私は別になんとも……。ただのへたれじゃないとは、思ってるけど」

千棘「もしかして、るりちゃんも楽くんのこと、好きだったりして」

るり「急展開すぎるでしょ……」

小咲「じゃあ、舞子くん?」

るり「バカなの?」

小咲「ごめんなさい……」

千棘「えー。じゃあ、誰だろう……」

るり「あのね……。私には好きな人なんていないの。ていうかなんで急に、私の話に――」

小咲「だってるりちゃんはずっと、私の恋を応援してくれてたでしょ」

小咲「そのおかげもあって、私の恋は、実を結んだんだから……」

小咲「今度はるりちゃんの恋を、私が応援する番かなって!」

るり「……ふふっ。なによそれ」

713: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 02:26:34.68 ID:RXWt4m4/0
      
るり「じゃあ私もやっぱり一条くんのことが好きかなぁ? ほら、応援してよ」

小咲「えぇ!? ど、どうしよう。あの、私も、その、好きなんだけど……」

るり「だからあんたらは付き合ってるんでしょうが」

るり(少しは成長したと思ったけど……。やっぱり小咲は、小咲だ)

千棘「はーいっ! 私も楽くんのこと、好きー!」

るり「さっき聞いたから」

千棘「ねぇ、三人とも楽くんのことが好きなら、誰が一番多く、楽くんの好きなところを挙げられるか、勝負しようよっ!」

るり「いや、あんたらに勝てる気がしない」

716: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 02:28:44.07 ID:RXWt4m4/0
小咲「は、はいっ! 友達が風邪で休んだ時、その子の分までノートをとってあげるところ!」

千棘「やるねっ! 私が漢字を間違えて使ってた時、バカにせずにさりげなく正しい漢字を教えてくれるところっ!」

るり「……」

るり(しっかしまあ、この二人といると……)

小咲「るりっ!」

千棘「ちゃんはっ!?」

るり「いや私、そんな具体的なエピソード持ってないんだけど……」


るり(……退屈、しないわ)

720: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 02:31:46.89 ID:RXWt4m4/0
               
――

楽「ここは確かに現実だ……。誰もかれもがみんな、平凡な生活を送って、退屈そうにしてる。当たり前だ。現実なんだから」

楽「……なのに、なぜか俺の周りでは、現実とはかけ離れた、『非日常』が多すぎる……」

楽「『漫画』のような展開が、次々にやってきて……。いつになったって、終わりが見えない」

楽「……以前までの俺は、そんな『展開』がやってくる度に、ただそれに流されるばかりだった。俺は結局、なにもできなかったんだ」

楽「そりゃそうだ。『展開』に逆らうってことは……。『運命』に抗うってことだ。そんな方法、思いつくわけない」

楽「だけど、それじゃダメだったんだよ……。それじゃあここが『漫画』の世界だと……。認めてしまうことになるから」

楽「みんなが『なにか』によって動かされる、都合のいい駒だと……認めてしまうことに、なるから……」

楽「そんなはずないのに……。みんなちゃんと、自分の『意志』を持って、この世界を生きているのに……」

楽「小咲も、千棘も、宮本も……。お前だって、そうだろ? ちゃんと『自分の意志』で、俺の恋を応援してくれてたんだろ?」

集「ああ……」

楽「……だからそれを証明するために……。俺は『運命』に、『展開』に、逆らわなければならなかった」

楽「ここが『現実』だと……証明しなければならなかった」

721: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 02:35:10.66 ID:RXWt4m4/0
              
集「へえ。じゃあお前は俺たちのために今まで、頑張ってくれてたの?」

楽「……」

集「俺たちが駒じゃないと証明するために……。ひゅー。かっこいいー。まるで――」

楽「違う。そんな『主人公』みたいなこと、俺がするかよ」

楽「俺は……そんなのじゃない。現実に主人公なんて、いるものか」

集「……はっ。じゃあ聞かせてくれよ。お前はなんのために、この世界が『漫画』であることを否定しようとしたんだ?」

楽「俺はただの平凡な一般市民だからな……。たいした理由なんか、ないぜ?」

楽「誰でもやってることだ。誰でも知らず知らずのうちに、やっていることを……。みんなと同じように、やってただけだ」

集「……」

楽「俺はただ……。自分の『夢』を叶えようと、努力してただけなんだ」

集「……夢?」

723: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 02:37:06.43 ID:RXWt4m4/0
                
楽「ああ……。俺には、叶えたい夢があった。そのまま流され続けてたら絶対に、叶わない夢が」

楽「……『運命』に抗わなければ決して、叶わない夢が、あった」

集「お前の夢って、『小野寺と付き合う』ことだろ? それはすぐに、叶ったじゃないか」

楽「もちろん、それも夢だったさ。でも、それだけじゃない……」

楽「……もう一つ、俺には叶えなければならない、夢があったんだ」

集「……そうか。『あっち』の方か」

楽「『一流大学を卒業して、堅実な公務員』になる。俺のもう一つの、大切な、夢だ」

724: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 02:39:59.82 ID:RXWt4m4/0
          
集「忘れてたよ……。そんな現実的な夢も、確かにお前には、あったんだったよな」

楽「そう。この上なく現実的で、平凡で、全く面白みのない夢だ。だけど決して簡単には叶わない。そんな夢だ」

楽「……そして、この夢を叶えるために最も重要なプロセスが……。『勉強』ってやつだ」

集「急に話がつまらなくなってきたぞ……」

楽「そりゃそうだろ。で、『勉強』するためにはやっぱり時間も必要だし、ある程度の気力も必要なんだ。精神状態も、大きく左右するな」

集「……」

楽「……それらを維持するために必要なのは、『平穏な日常』だ」

楽「『非日常』なんていらない。派手な『展開』もいらない。過酷な『運命』なんて、疲れるだけだ」

楽「『漫画』の主人公なんかには絶対になれないもの。それが、『公務員』だ」

集「……いや、『漫画』だったら何にでもなれるだろ」

731: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 02:46:17.28 ID:RXWt4m4/0
                    
楽「……でも俺はこのままじゃダメだと思った。俺の夢は両方とも、このままじゃ叶わないって」

楽「千棘とのニセコイ関係のせいで、『小咲と付き合う』という夢は叶わなくなり」

楽「それも含めたいろいろな『非日常』に巻き込まれるたびに、勉強する体力と時間が失われ、『公務員になる』夢も、遠ざかっていった」

楽「……だから俺は、決めたんだ。『平穏な日常』を取り戻して、夢を叶えてやるって」

集「それは……誰のためだ?」

楽「もちろん、全部自分のためだ。俺は自分の夢に向かって進む決心を、つけたんだ。そして、その次の日に――」

楽「俺は小咲に告白して、一つ目の夢を叶えた」

楽「……そしてそこから全てが、始まった」

集「……」

楽「『平穏な日常』を取り戻し、自分の『夢』を叶えるための……」

楽「この世界が『漫画』じゃなくて、『現実』だということを証明するための……。俺の計画が、始まった」

732: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 02:49:10.56 ID:RXWt4m4/0
              
楽「『現実』を証明するための、計画……。この世界が『漫画』であることを、否定するための、計画」

楽「それが『桐崎 千棘 矯正計画』の、実態だ」

楽「といっても最初は『桐崎 千棘 矯正計画』は、千棘を『普通の女の子』に矯正して、『普通の友達』になってもらうための、計画だった」

楽「その内容はまあ、前に話した通りだな」

集「……いや、今思い返すとまた、だいぶ印象が変ってくるよ」

集「お前はてっきり、桐崎さんに殴られるのが嫌だから、悪口を言われるのが嫌だから、そしてそんな桐崎さんが嫌いだったから、その人格を矯正しようとしてたんだと思ったが……」

楽「もちろん、それもある。だけどこの計画の真の目的は――」

楽「あいつを『漫画のようなキャラ』から、『平凡な人間』に、矯正することだった」

集「……ペンダントを壊したのも」

楽「それも前に話した通りだが……。まあ結果的に、あいつを『漫画のキャラ』から遠ざけることになったな」

楽「隣の席に座る転入生が、ビーハイブの令嬢が、喧嘩ばかりしてたその相手が、ニセモノの恋人が――」

楽「実は『約束の女の子』だったなんて、そんなの現実的に考えて、有り得ないもんな」

734: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 02:51:45.30 ID:RXWt4m4/0
     

楽「ただ一つ、前に話した『ペンダントを壊した理由』と、相違があるとすれば……」

楽「ペンダントを壊す決心をつけたのは、お前の話を聞いた時なんかじゃなくて……、『計画』を考えたその時、だったってとこか」

集「はぁ……? ってことはお前……」

集「……初めっから、ペンダントは壊すつもりだったと……?」

楽「そうだな。ちなみに『決心をつけた』のがその時ってだけで、この世界が『漫画』だとか考え始めた辺りから、いつか壊そうとは思ってた」

楽「だけどほら……。いきなり壊しちまったら小咲が悲しむだろうし、タイミングが分からなかったんだ」

楽「……そんな時にお前が小咲の鍵を盗んでくれて……。あいつ最初は、悲しんでたけど……。でも最終的に俺がペンダントを壊したら、逆に喜んでくれたよ」

楽「お前のおかげだ、ありがとう」

集「お前……この前と、言ってることが……」

736: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 02:55:30.16 ID:RXWt4m4/0
                
集「それに……。夢だったんだろ……? 『約束の女の子』との、再会が……」

楽「さっき言ったろ。俺の夢は、二つだけだよ」

楽「それに『約束の女の子』なんて、『漫画のキャラ』そのものだし、『十年前の約束』なんて、物語そのものじゃないか」

楽「そんなものはいらない。現実の世界にそんな幻想的な人物は、いちゃいけないんだよ」

集「なに、言って……。お前はずっと、あの子を想って……」

楽「ああ、そうだったな……。あの時の自分を、殺してやりたいよ」

集「なっ……」

737: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 02:59:40.20 ID:RXWt4m4/0
     
楽「付き合う前とはいえ、小咲という想い人がいたってのに……。いつまでたってもそんな『約束』に、縛られて……」

楽「なにが『もしも小野寺があの子だったら』だ……。じゃあもし全然違うヤツが『あの子』だったら、どっちを選ぶ気だったんだっての」

集「だからお前は、小野寺を選んだんだろ? そんで本当の『約束の女の子』が現れても、その気持ちは変わらないんだろ?」

楽「ああ。だけど、本音を言ってしまえば……。二度と俺の前に現れてほしくなんか、ないけどな」

集「はぁ……!?」

楽「もう会うことはないだろうな。顔は覚えてないし、ペンダントはもうないし……」

楽「完全に俺の中で、『約束の女の子』は死んだよ。これでようやく、『漫画のキャラ』が一人減ったわけだ」

集「……そうか、お前にとっては、『約束の女の子』も――」

742: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 03:03:19.85 ID:RXWt4m4/0
   
集「……しかし、分からねえぞ。小野寺が……。もしかしたら桐崎さんが、本当はそうなのかもしれねえ」

楽「違う。そんな偶然は、現実では起こり得ない」

集「……そうかよ」

楽「……だけど小咲がいつだったか、『あの子』と重なって見えたことは、あったか」

集「ほう。その時、お前は――」

楽「邪魔だなって、思ったよ」

楽「あれっきりもう、『あの子』の姿はどこにも、見えないな……」

集「……」

744: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 03:08:15.92 ID:RXWt4m4/0
                   
楽「あとは……。やっぱり一番厄介だったのが、『ニセコイ関係』ってやつだったな」

楽「小咲と付き合ったことで、千棘と喧嘩したことで、一旦は解消できたが……」

楽「『抗争』そのものを止めなければ、それも時間の問題だった」

集「……まさかとは思うが、お前が抗争を止めたのか?」

楽「いや、この件に関してはほとんど、千棘の功績だよ。俺がしたことと言えば――」

楽「電話を一本、かけたことぐらいか」

集「……電話? 誰に」

楽「アーデル……桐崎……なんだっけ。あの時はメモを見ながらだったからなぁ。まあ、要するに――」

楽「千棘の親父さんに、電話をかけたわけだ。『抗争を止めろ』って」

楽「『娘の苦しむ姿を見たくなければ、降伏してでも、止めろ』ってな……」

集「……その娘が苦しんでたのは、お前の計画のせいだろうが」

747: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 03:14:34.12 ID:RXWt4m4/0
    
                     
楽「そう。つまり『桐崎 千棘 矯正計画』は、『約束の女の子』を消すための計画でもあり、抗争を止めるための計画でもあったんだ」

集「誇らしげに言うな」

楽「しかし本当に、ふざけんなって感じだよ。結局お前ら、『ニセコイ関係』なんかなくても、抗争を終わらせることができたんじゃねえか」

楽「なにが『この戦争を回避する方法は一つだけ』だ……。てめえらがちょっと頭下げりゃ、済む話じゃねえか」

楽「なにが『お前らが付き合えば若いヤツらも水を差すわけにはいかなくなる』だ。『だから抗争も止まる』って、そんなバカな話があるか」

楽「なにが『こっちも命がかかってる』だ。てめえらクズの命を救うために、何で人生に一度しかない、俺たちの『青春』をかけなきゃならねえ」

集「クズってお前……」

楽「ヤクザなんかみんなクズだろうが。しかもその上、バカばっかりだ」

楽「なんせあんな素人同然の演技でまんまと騙されて、本当に抗争をやめちまうんだもんな」

楽「見込みがあったのは、クロードぐらいかな……。そう言えばあいつには、小咲を助けてもらった恩もあったか」

楽「まぁだとしても、二度と会いたくないが。そもそもあいつのせいで、この上なく『漫画』っぽい展開に巻き込まれることになったし」

集「……」

749: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 03:16:23.58 ID:RXWt4m4/0
                    
楽「でも結局最後まで俺らの関係を怪しんでたのも、クロード一人だった」

楽「人を傷つけて、殺めることしか能の無い、クズどもが……」

楽「……それでもあの中で一人ぐらい、気づいてたヤツはいなかったもんかね」

楽「みんなして口揃えて、『二人はラブラブっすねー』だの、『いいなー青春だなー』だの、『坊っちゃんにもとうとう彼女が』だの……」

楽「一人ぐらいおかしいと思ってたヤツはいなかったのかよ。周りのヤツらと同じこと言うだけで、全く疑おうともしねえで」

楽「ああいうヤツらのことを、『漫画』じゃ『モブキャラ』っていうんだろうな。別にセリフが同じなら、誰でもいいようなヤツ」

楽「……ま、今回の抗争でその『モブキャラ』も、だいぶ人数が減ったみたいだけどな」

集「……今更だけどお前、本当に一条 楽か?」

楽「他の誰だってんだよ」

757: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 03:21:03.70 ID:RXWt4m4/0
    
楽「まあ結局抗争も終わり、ニセコイ関係も、必要が無くなり……」

楽「おまけにビーハイブと集英組、双方の構成員も、だいぶ数が減ったしな。ビーハイブはもちろん、集英組も、もう当分の間はおとなしくなるだろう」

楽「早く家を飛び出したいなんて思ってたけど……。その必要も、無くなったかな」

楽「その後は無事に『桐崎 千棘 矯正計画』も完遂し……。千棘は『普通の女の子』になった」

楽「……と思ったけど、全然『普通』じゃなかったな。想像以上に、可愛い女子になっちまった」

集「いや、最初から桐崎さんは可愛いかったと思うが」

楽「『外』はな。『中』はゴリラだったし。でもその『中』が変わったことで、ここまで理想的な女の子になるとは」

集「……『漫画のキャラ』みたいに、か?」

楽「まさか。『漫画のキャラ』なんかよりずっと可愛いよ。今のあいつは」

集「そうきたか……」

760: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 03:23:26.67 ID:RXWt4m4/0
    
楽「ただ……。あの事件の時のあいつはちょっと、流石に『バトル漫画』し過ぎて、引いたがな」

集「小野寺がさらわれた時か……。俺はいなかったから、分からんけども」

楽「あの時だけは、前の『ゴリラ女』が戻ってきたみたいで、ちょっと嫌だったけど……でもあいつもそれを、気にしてるみたいだったし」

楽「それに、俺や小咲を救うためだったわけだし……。仕方がないよな。あの時間だけは何もかもが、『漫画』みたいだったし」

楽「……俺の『計画』は完遂したと思ってたのに、まさかまだあんな展開が待っていたとは……。クロード……。それに、鶫のヤツめ……」

集「『つぐみ』……?」

762: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 03:25:06.10 ID:RXWt4m4/0
              
楽「だけど今度こそ、全て終わった。俺の周りにはもう、そんな展開の元凶になるような……。『漫画のキャラ』のような、厄介なヤツはいない」

楽「『桐崎 千棘』『約束の女の子』『クロード』『ビーハイブ』『集英組』……。ついでに、『鶫 誠士郎』もな」

集「だからそいつ、だれだよ?」

楽「……ああ、そうか。お前は知らないよな。ビーハイブのヒットマンで、千棘のお付きで……。『黒虎』とか呼ばれてたヤツだ」

集「そりゃあまた……とんでもないヤツだな」

楽「そんなヤツがウチの学校に転入してくる予定だったってんだから……。本当に、たまったもんじゃない」

763: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 03:27:21.80 ID:RXWt4m4/0
  
集「へえ、そうだったんだ。もしそうなってたら、全部台無しだったな」

楽「下手したら千棘よりも『漫画のキャラ』だもんな……。本当に転入の話がなくなって、よかったよ」

楽「もしかしたら広い宇宙のどこかに、あいつがちゃんと転入してくる世界もあるのかもしれないが……」

楽「俺は絶対にそんな世界は、ゴメンだな。あんな恐ろしいヤツと、学校生活を送るなんて……。命がいくつあっても、足りん」

集「まあ、『黒虎』じゃあな」

楽「その世界がもし『ラブコメ漫画』の世界だったら、意外とあんなヤツでも普通の女の子らしくなって、俺たちとよろしくやってたりすんのかもしれないけど……」

集「……女の子らしく? ちょっと待て。そいつ、女なのか?」

楽「ああ。あんな名前だけどな。顔も中性的な感じだけど……。でも結構、美人だぜ」

集「……ちょっと興味出てきたな。いいなぁ。別の世界の俺」

楽「やめとけ。その世界のお前はきっと、鶫に悪戯かなんかして怒らせて、殺されかけてる」

集「……やっぱり平和なこの世界が、一番だな」

765: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 03:29:50.92 ID:RXWt4m4/0
               
楽「小咲を撃ったのも鶫だし……。本当に、許せねえヤツだよ」

楽「だけどもうそいつとも、二度と会うことはない。とんでもないことに巻き込まれちまったが、ようやく俺の計画は、戦いは、終わったんだ」

楽「同時にこの世界が『現実』であると、証明された。その証拠に、小咲はちゃんと助かって、生きている」

集「それのなにが証拠になんだよ」

楽「さっきも言ってたろ……。この世界が『漫画』だったら、小咲はあの場面で、絶対に死んでた」

楽「だけどよかったよ……。小咲が生きててくれて。小咲が証明してくれた。ここは、『現実』なんだって……」

集「……」

楽「本当に、よかった……。小咲はちゃんと今も、いてくれてる。何してるんだろうな今は。二人と楽しくお喋りしながら、俺らを待ってくれてるのかな」

楽「……ていうか、長く喋りすぎたか。もういいだろ? そろそろ行こうぜ――」

集「……待てよ。最後に一つ、聞かせろ」

767: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 03:32:03.65 ID:RXWt4m4/0
                
楽「……なんだよ?」

集「小野寺が証明してくれた、だって? ってことはお前まさか、試したのか?」

楽「はぁ……?」

集「小野寺が本当に死ぬのかどうか、ここが『漫画』なのか『現実』なのか、試してたんじゃないかって、聞いてんだよ」

楽「……それを試すために、俺が小咲を殺そうとしたとでも、言うのか?」

集「撃ったのはその『つぐみ』ってヤツなんだろ?」

集「それにいくらなんでも、お前がそこまでするようなヤツだとは、思ってねえよ。ただ――」

集「小野寺が死にそうになって、苦しんでる時にも……。お前はそんなバカなことを考えてやがったのかって、聞いてんだ」

楽「……」

集「そんで、小野寺が助かった時も……。そのことよりも先に、ここが『現実』だと分かったことに、喜んでやがったんじゃないのか」

楽「……それ以上言うと、流石に怒るぞ?」

集「よかったなぁ。小野寺が助かって。ここが『現実』だって、証明されてよぉ」

集「小野寺も、撃たれた甲斐があったよなぁ……っ! 映画やドラマみたいな台詞を言いながら、お前とキスをした甲斐が、あったよなぁっ!」

集「お前の実験台にされた甲斐が、あったよなぁ!!」

ガタァンッ!!

770: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 03:35:22.05 ID:RXWt4m4/0
             
楽「……そうか」グイッ

集「離せよ……」

楽「そうか。そう言えばお前がまだ、残ってたな」

集「……はっ。そうだな……。一番厄介なヤツを、残しちまってたな」

集「しかし残念だったな……。そうだ。実は俺が、ラスボスだったんだよ」

楽「現実世界にラスボスなんかいるか」

集「親友がラスボスっていうのも、実に『漫画』っぽくて、いいじゃないか」

楽「だからてめえは親友じゃなくて、『腐れ縁』だっての」

楽「……まあその縁も今、切れそうだがな」

集「くくっ……」

楽「……本当にお前は、嫌なヤツだよ……。やけに静かに人の話を聞いてると思ってたら……。まさか、そんなところをついてくるとは」

772: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 03:37:45.82 ID:RXWt4m4/0
           
楽「お前、一体……。何がしたいんだよ? 俺を怒らせて……」

楽「それに、千棘の計画に協力した時もそうだ。なぜ俺と小咲の関係を、壊すようなこと……」

集「……別に。どっちも面白そうだったから、ってだけだよ」

楽「バレバレの嘘をつくな。何年の付き合いだと思ってる」

集「……」

楽「……俺を、許せなかったんだろ?」

集「……はっ。別にそういうわけじゃねえよ」

集「ただ俺は、お前のことが……。分からなくなってた、だけだ」

楽「分からなく……?」

773: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 03:40:03.28 ID:RXWt4m4/0
   

集「お前が桐崎さんを無視してた時……。なにやってんだろうこいつは、って思ったよ」

集「いつも喧嘩してた仲とはいえ……。結局なんだかんだで仲は良いんだろうなって、思ってたから」

集「それに、お前があんなことするようなヤツだなんて……。知らなかったからな」

楽「……」

集「だけどお前にはなんか考えがあるんだろうな……って。じゃなきゃこんなことしないだろうなって……。俺は信じた」

集「……だからいつか絶対こうして、話を聞いてやろうって……。問い詰めてでも、聞いてやろうって、考えてた」

集「まあ、想像以上の話を、聞くことになっちまったが……」

楽「……それで結局、お前はなにがしたかったんだよ。千棘に協力した理由は、なんだよ?」

集「……確かめたかったんだよ。お前の小野寺への、愛をな」

775: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 03:42:00.43 ID:RXWt4m4/0
                 
集「お前に何か考えがあるって……『計画』のようなものがあるって気づいた時にさ……」

集「……もしかしたら小野寺へ告白したことも、『計画』のうちなのかって、思っちまってよ」

楽「前にも言ってたな、そんなこと」

集「だから確かめたかった。お前が小野寺を、本当に好きなのかどうか」

集「……そして桐崎さんに協力したのは、お前が小野寺と『約束の女の子』、どちらを選ぶのかを試したかったからだ」

集「俺だって、お前と同じことを思ってたんだよ。小野寺じゃない、本当の『約束の女の子』が、もし現れたらって――」

集「……お前は、小野寺を選んだな。確かにお前の小野寺への愛は、本物だった」

780: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 03:46:23.46 ID:RXWt4m4/0
   
集「だけど……。今また、俺はお前が、分からなくなってきている」

集「言っただろ? 想像以上だったんだ、お前の話は」

集「……俺には今のお前は、狂ってるようにか見えない。いつもの楽じゃ、ないみたいだ……」

楽「……」

集「お前が小野寺を選んだのは、納得だった。だけどだからって、お前がまさか『約束の女の子』に対して、あんなことを言うなんて……」

集「あんなに想ってた、『あの子』に対して……。あれほど大切にしてた、『約束』だったのに……」

集「教えてくれよ、楽。お前は本当に、小野寺のことが、好きなのか……?」

楽「当たり前だ」

集「本当か……? いや、今はそうなんだとしても、いつか……そのうち――」

集「『約束の女の子』のように……。今は大切に思っていても……。いつか、小野寺のことも――」

楽「そんなわけねえだろうがっ!!」   

782: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 03:49:15.97 ID:RXWt4m4/0
  
集「……楽?」

楽「それだけはありえない。お前は一体、なにを今まで聞いてたんだよ……。俺が計画を始めたのは、夢を叶えるためなんだよっ!」

楽「そして計画は完遂した……。夢を叶えるための準備は、環境は、世界は、整ったんだ。これから、なんだよっ!」

集「でも、『公務員』の方はともかく……。もう一方の『夢』は、既に叶えたじゃないかっ!」

集「叶った後の『夢』は、どうなるんだよ!? 消えてくもんじゃねえのかよっ!? 忘れていくんじゃ、ねえのかよっ!!」

集「月日が流れて、そのうち新しい夢が、できて……。昔叶えた夢なんか、見ていたことすら、忘れちまうんじゃねえのかよっ!?」

楽「……忘れない」

楽「――なんて、言えないよな……。人間は、バカだから。口ではそう言っても、どんなことでもいつかはきっと、忘れちまうもんだ」

集「……だったら」

楽「だけど小咲を好きな気持ちを忘れるなんてことは、有り得ない。この気持ちはずっと、どこまでも、キリがないほど、続いていくんだ」

集「なんで、そんなこと、言い切れるんだよ……。それこそ、口だけかもしれねえだろうが」

楽「なら、教えてやるよ。たった今できた、俺の新しい『夢』を」

集「新しい夢……?」

楽「『小咲と一緒に幸せになること』だっ! 分かったら腐れ縁らしく、一生俺たちを見守ってやがれっ! このクソ野郎がっ!!」

785: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 03:54:05.45 ID:RXWt4m4/0
   
集「……ははっ」

集「いいね、楽。今の台詞、なかなか主人公っぽかったよ」

楽「てめえ、まだそんなこと……」

集「うるせえ。お前は勝手に終わった気でいるみたいけどなぁ。俺からしたら今のお前だって、十分漫画の主人公みたいだぜ」

楽「……」

集「……羨ましいよ。お前が。ちゃんと夢を叶えて、好きな人と結ばれることができた、お前がさ……」

楽「集……?」

集「……本気、なんだな。楽。さっきまでのお前はなんだか、別人みたいで、少し怖かったけど――」

集「――だけど小野寺のことが好きって気持ちに、嘘や偽りは、ないんだよな?」

楽「ああ。俺は小咲が好きだ。この気持ちだけは、譲れない」

集「……よかった。俺が応援していた恋は、ちゃんとホンモノだったんだな……」

787: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 03:55:55.82 ID:RXWt4m4/0
   
楽「……ちっ」

楽「あの時の電話では泣いちまって、上手く伝えられなかったからよ……。この際だから今、言わせてもらうぜ」

集「……なんだ?」

楽「ありがとう。中学の時からずっと、俺の恋を応援してきてくれて……。見守ってきてくれて、ありがとう」

集「っ!!」

楽「でもまだまだ俺たちは、未熟なカップルだからよ……。俺たちが成長していく姿を、これからも見ていてくれよ」

集「……はっ。どうせ『腐れ縁』だしな。ここまできたら、仕方がねえ。お前らがどこまでいくのか、見届けてやるよ」

楽「……ありがとう、集」

集「ただし、条件がある」

楽「条件……?」

集「俺がお前の恋を応援してきたように……。お前も俺の恋を、応援してくれよ」

楽「えっ……。お前、もしかして」

集「俺、好きな人がいるんだ」

792: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 04:00:26.17 ID:RXWt4m4/0
  
楽「……そ、そうだったのか」

集「安心しろよ。桐崎さんのことじゃないぜ。もちろん、小野寺でもない」

楽「……」

集「……それが誰なのかはまだ、言えねえが……。でもいつかさ。その時が来たら――」

集「今度はお前が『脇役』になって、俺を引きたててくれよ。俺だって、『主人公』になりてえんだ」

楽「……はっ。分かったよ。そん時はお前の背中、ぶっ蹴とばしてやる」

集「頼んだぜ。……んじゃ、そろそろ行くか」

楽「ああ。あいつら、待ちくたびれてるかも。走ろうぜ」

集「楽っ!」

楽「ああっ?」

集「……小野寺を、幸せにしてやれよっ!」

楽「……ああっ!」

794: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 04:03:38.02 ID:RXWt4m4/0
   
集(楽……。全部話してくれて、ありがとうな)

集(だけど一つだけ、納得がいかないことがあるんだ)

集(お前が『計画』を実行したのは……。本当に、自分のためだったのか?)

集(本当は……。やっぱり俺らが『駒』なんかじゃないと……。『自分の意志』で生きてる、『人間』なんだと証明しようとしてくれてたんじゃないか?)

集(お前は……いつも人のことになると、必死になっちまう、そんなヤツだったもんな)

集(……なんてな)

集(お前言ったよな。『俺は主人公じゃない』って。だから結局お前には、そんな主人公みたいな、『漫画』みたいな理由なんて、ないんだよな)

集(……そうだよな。そういうことにしとかないと、お前のしてきたことを、全部台無しにしちまうことになるもんな)

集(……全く。やっぱりよく分かんねえよ、お前のことは)

集(話聞いて、お前の印象もだいぶ変わっちまったよ……。お前、そんなヤツだったのかよ……)

集(だけど……。俺とお前の『腐れ縁』、こんなことがあっても結局、切れなかったなぁ。楽よ――)

797: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 04:07:08.66 ID:RXWt4m4/0
              
――

千棘「あっ、やっときた! おーいっ!」

集「いやぁ申し訳ない。忘れ物探しに行ったのはいいけど、なにを忘れたのかを忘れちゃって」

千棘「もーっ! 舞子くんってば、ドジなんだから……」

集「あはは……ん?」

るり「……」ゲッソリ

集「ど、どしたの、るりちゃん」

るり「いや……。この二人に、変なゲームに付き合わされてね……」

楽「……」

小咲「あっ楽くん。おかえりっ」

楽「……お、おう。小咲。みんなも、もう帰ろうぜ」

千棘「あ、一条くん、あのね。二人がいない間に、三人で話してたんだけど――」

千棘「次の休日に、小咲ちゃんの退院祝いの、パーティをしないかって」

799: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 04:09:19.36 ID:RXWt4m4/0
       
楽「……パーティ?」

千棘「うんっ! 私の家で、どうかな」

楽「あ、ああ……。えっと……」

集「おおーっ! いいじゃん! やっぱりお祝いは、しないとなぁ!」

小咲「い、いいのかな。そんな……」

るり「ふふっ。そりゃ、そうでしょ。みんなあんたのことを、待ってたんだから。お祝いぐらい……」

千棘「ビーハイブのみんなはもちろん、集英組の人たちも、呼んでさっ!」

楽「そ、そんな、大丈夫か……? 敵対組織同士を……」

千棘「大丈夫だよっ! だって抗争はもう、終わったんだから!」

800: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2014/02/19(水) 04:12:09.45 ID:RXWt4m4/0
      
千棘「どうかな……?」

集「……楽よぉ」

楽「……んだよ」

集「これもお前にとっては『非日常』で、『漫画』みたいな展開か?」

楽「……」

千棘「……?」

楽「……そんなわけ、ないさ。こんなイベント、『平穏な日常』そのものじゃないか」

楽「桐崎、どうせなら、俺の家でやろう。小咲の退院祝いなら、俺に取り仕切らせてくれ」

千棘「ほんとっ? じゃあ、任せるね!」

小咲「……楽くん。私、楽しみにしてる」

楽「ああ。盛大なパーティに、してやるぜ」

集「……ははっ」

るり「……」クスッ

次回 楽「俺、小咲と結婚することになったから」