5: 2011/03/14(月) 07:41:35.49 ID:/SKWNK460
[むぎの、だめ、ぜったい」


ブルーシートからとっさに立ち上がる少女。
身につけているジャージの色が、やや遠くの背景と相まって、
彼女のフワフワした雰囲気が際立つ。

「はまづらは、私の」

靴をつっかけてトトトっと、間抜け面の恋人へ駆け寄り、彼の左手を握る。

「あら、滝壺も嫉妬なんかするのね。」

ジャージ少女の言葉の矛先である、スタイルの良い大人びた少女、麦野沈利。
春のあたたかい風にその亜麻色の髪をなびかせつつ反応する。
彼女の手もまた、間抜け面の右手をとっていた。

引用元: とあるアイテムは花よりだん子 

 

6: 2011/03/14(月) 07:42:48.64 ID:/SKWNK460
「恋人の前で超堂々と浮気するなんて、浜面も落ちたものですね。いや元から超浜面でしたが今のでさらに救いようが無…」
 
「ちょーっと待てエエ!これのどこが浮気に見えんだよ!明らかに俺が無理やり連れて行かれそうだっただろ!」
 
「はーまづらぁ?無理やりってどういう事かにゃーん?」
 
「いや、それはお前が1番わかってるはずだr…いや何でもないですはい」
 
「男らしくないはまづらは、応援できない」
 
両手に花、とはまさにこのことだろうか。
明るい髪のガタイの良い、一見チンピラAのようなさえない青年、浜面仕上。
彼女たちに振り回されるのはもう日常茶飯事であるが、
その純情さと優しさ故に抗う術はなく、完全に尻にひかれている

7: 2011/03/14(月) 07:44:34.07 ID:/SKWNK460

なんとなーく、目の前がピリピリするような気がする。静電気かなあ。両手の花が自分を挟んでにらめっこ中だ。

「…滝壺も一緒に酒、買いに行くか?」
 
「行く」

即答。もうちょっと早くこう訊けば良かった。これで丸く収まっ…
 
「えっちょ…2人とも行くんでしたら私も超行きます!」

「結局お前も来るのかよ!」
 
「でも後からも人が沢山来てるし、全員外しちゃったら駄目だと思うんだけど」
 
「う…」
 
「ごめんね、きぬはた」

8: 2011/03/14(月) 07:47:03.79 ID:/SKWNK460
「うわああああ!滝壺さんまで!
みんなこぞって私を超はぶるんですね。これだから超浜面は」
 
「やっぱり俺かよ」
 
滝壺も麦野も、自分が一緒に残ってあげるという選択肢などハナから持っていない。
 
「じゃあ俺が1人で買ってくるから、2人とも絹旗と待ってろ」
 
「私自分で選びたいし、
まさかか弱い乙女に荷物運ばせたりする訳にはいかないよね?男なら」
 
「お前ホント都合いいよな!」
 
「私は恋人として、はまづらを見守る」
 
こいつらいつもは俺をいいようにパシるくせに今日は何なんだ。
頭も春になったのか…なんて口に出した日には砂糖より粉々になるんだろうな。

「…わかりましたよ、私は浜面と違って超大人ですから。
このくらいで寂しいなんて絶対思いませんから」
 
「ごめんな絹旗、お前のもヤクルトとかグミとか色々買ってくるから」
 
「なんですかその超子どもみたいなチョイス!
とにかくとっとと行ってとっとと戻ってきてください!」

9: 2011/03/14(月) 07:49:16.19 ID:/SKWNK460


とある春の日―さかのぼること5,6分。

「なんでこんな花見の名所なのにわざわざ殆ど桜の無い場所にいなきゃならないんですか!
場所取りもろくに出来ないとかさすが超浜面ですね!」

「これでも早起きして急いだんだよ!ていうかなんだ今年の人の数は!」
 
第6学区、大櫻林の園。学園都市が誇る花見の名所である。
今年もまた例年にもまして満開の桜風景。…とはやや離れた場所。
圧巻の桜が完全に背景だ。今年の人の多さもこれまた例年にもまして凄まじい。

10: 2011/03/14(月) 07:54:03.79 ID:/SKWNK460
「もっと早くに並ばないと超良い場所なんかとれるわけないです!ねえ麦野」

「まあ何故か今年は雑誌でもやたらと特集されてたしね。それよりシャケ弁早くシャケ弁」
 
「ああそうですか麦野は超花より団子なんですね…」
 
「俺が言うのもなんだけど花見にシャケ弁ってどうなの…」
 
「何よ文句あんの?」
 
「大丈夫。私はウイスキーにシャケ弁の組み合わせなむぎのを応援してる」
 
絹旗は文句を言うが、これでもそこそこ浜面が頑張ったであろうことは、
周りの人の群れを見渡せばわかる。
その功労者がせっせとブルーシートの上に袋を運び、少女たちは遠慮なく腰を下ろす。

11: 2011/03/14(月) 07:55:18.84 ID:/SKWNK460

ふと、麦野が振り返る。

「どうしたの?むぎの」

「…いや何でもないわ、ってか絶対酒足りないって!」

「いや俺とお前しかのまねーしそんなにあっても…」
 そもそも2人とも未成年である。誰も気にしてないけど。

「とにかく一緒に買いにいくわよ。ほら」

麦野が立ち上がったと思えば、浜面の右手を掴む。
浜面が左手に下げていたバナナのつまった袋を落とす。

「え?いや、ちょ…」

「むぎの、だめ、ぜったい」

 ―冒頭に戻る―

15: 2011/03/14(月) 09:08:59.07 ID:/SKWNK460


見上げれば、綿あめみたいな小さな雲が数匹、青空の海をゆらゆらと泳いでいる。

目に痛くない、柔らかな日差しを帯びて少しだけ瞼を下げ、
やや離れた桜の方へ目を向ける。

やっぱり凄い人の数だ。

16: 2011/03/14(月) 09:11:05.93 ID:/SKWNK460
「…はあ、麦野も滝壺さんも超大人げないですね…」
 
漏れた溜息と独り言。
1人残された絹旗は、体育座りで手持ち無沙汰にセーターの裾を引っ張ったり放したりしている。

確か来る前に寄った店はここから結構離れていたような。
まったく、最初からもっと買ってくればよかったのに。
もしやわざと?最初から自分をはぶる気だったのでは。

…いや断じて寂しくなんてないんです!たまたまネガティブなだけなんです。

17: 2011/03/14(月) 09:12:56.25 ID:/SKWNK460

「ていうか浜面のやつも超鼻の下伸ばして
 …浜面なんて超バニー好きの超変態超童貞の超ヘタレ男のくせに!」
 
…おっとついうっかり口に出してしまっていた。
周囲の人たちがちらちらと自分を見ている。恥ずかしいちくしょう超浜面のせいだ。

それよりなんだよヤクルトとグミって。
おいしいし大好きだけど自分はもう子どもじゃない。
まあ買ってきたら仕方ないから全部食べてやるけど。

18: 2011/03/14(月) 09:16:33.22 ID:/SKWNK460

ひらり。

と、視界の端から端へと桜の花びらが視界を横断して、ついそれを目で追う。
ブルーシートの隅に落ちる。
視線の先には遅れてやって来た大量の人々が、
自分の後方の桜達を見ながら感想を溢したり、談笑したり、何かをほおばったりしている。
 
「浜面も結構頑張ったんですね…」
 
自分たちはこれでも結構良い方の場所をとれたんだな、と今更になって気づく。

19: 2011/03/14(月) 09:17:33.68 ID:/SKWNK460
「ま、ここでも十分桜は超見えますし、超特別に許してやりましょう」
 
どうせ浜面は両手いっぱいに荷物を持たされてフラフラ戻ってくるのだろう。
待たされた仕返しに、帰ってきたら両手塞がりの浜面に思いっくそ飛びついて見ようかな。
無様にこけたら面白いのに。ふふふ。


気づけば浜面の事ばかり考えている。そんなことに絹旗は気づかない。






ふと、すぐ後ろに誰かの気配がした―と思ったら、


「あ痛っ!…ってミサカはミサカは派手に転んじゃった…」

振り返ると、膝を擦りむいて涙目になっている見知らぬ幼女。

「あらあら、超大丈夫ですか?」

22: 2011/03/14(月) 09:46:14.80 ID:/SKWNK460


「あちゃー…参ったな」

駐車場についたのはいいが、車の入りが激しい上に停め方が悪い車が多く、
とても出せる感じではない。
 
「仕方ねえから歩いて行こう。これじゃ駐車場でるだけで大分かかる」:
 
「えー歩くのかよ…」
 
「むぎのはもどってても大丈夫。まかせて」
 
「なーに言ってるのかにゃーん?」
 
とはいえ店まではそんなに近い訳でもない。ちょっと早歩きして急がなきゃ絹旗が不憫だ。
だけどそういう訳にもいかない理由、まだ花が両手から離れてくれていない。
 
「とりあえず2人ともいつまで手繋いでるんだよ!」
 
「はまづらは、私と手、つなぎたくなかった…?」
  
しゅんとする滝壺。いやそんなに落ち込まれても!
 
「あのそういうわけじゃなくてむしろめっちゃ嬉しいけどそのなんだ急がなきゃ絹旗が」
 
「私、手をはなしたらもしかして迷子になっちゃうかもしれないにゃーん…」
 
切なげな表情と上目づかいで似合わないマネをする麦野。
ドキドキする。もちろん色んな意味で。
 

「と、とにかく出来るだけ急ぐぞ!」

23: 2011/03/14(月) 09:49:38.77 ID:/SKWNK460
「さっきの店はちょっと遠いから、もう少し手前のコンビニ行くぞ」
 「コンビニかよ…まあ仕方ないか」





仕事以外の日でこんなに歩いてるのひさしぶりだな。
それにしたって、まったく。むぎのひどい。
 
はまづらは私のだっていうこと知ってるのに、なんでこんなにいじわるするんだろう。
やっぱりむぎのもはまづらのこと…。
でもむぎのはいっつもはまづらをパシリしてるし、好きな人にはこんなことしないはず。
よく考えたら私も一緒に色々頼んでるけど、
私はそんなはまづらも応援してるから大丈夫なはず。
 

それにしてもさっきからちょっと気になることが。
 
「ねえ、むぎの」
 
「ん、どうしたの?」

24: 2011/03/14(月) 09:50:46.33 ID:/SKWNK460
「さけってコンビニに売ってるの?」
 
「いや大体売ってるんじゃ…」
 
「コンビニなんて俺は主に酒買う場所だと思ってるんだけど」
 
「…やっすい男ね。酒くらいちゃんとした所で買いなさいよ」
 
「ちょっと偉そうに言ってるけど俺ら一応未成年だからな!?」
 
 



「でも…お魚うってるコンビニ、見たことないよ?」



「た、滝壺…」

「いやそっちじゃない!お酒!未成年が鮭食っちゃいけないなんて法律聞いた事ないわよ!」

「…そっか!別にまるごとじゃなくてもシャケ弁とかなら普通に見たことあ」

「だぁーかーらー!鮭はアルコール入ってねえっつーの!!」

32: 2011/03/14(月) 14:00:17.27 ID:/SKWNK460


「重い…。さすがにちょっと買いすぎたんじゃないかこれ」
 
「大丈夫。私はやじろべえみたいになってるはまづらを応援してる」
 
やじろべえとは言いえて妙。
左右均等にパンパンの買い物袋を両腕からぶらさげ、フラフラ歩いているその様は、
どこかの少女が想像した浜面像と完全に一致している。
 
麦野沈利はその姿を見て一瞬手伝おうかとも思ったが、
自分の両手にも買い物袋(雑誌、水500mlと温めてもらったシャケ弁)を持っているのでやめた。

33: 2011/03/14(月) 14:01:34.75 ID:/SKWNK460

―でも手を繋げなくなったことはちょっと寂しい。せっかく勇気を出したのに。
まああんなに酒買ったの私なんだけどね。テヘッ。
 
滝壺は案外嫉妬深いけど、私の気持ちも考えてくれているのか、
なんだかんだでいろいろと寛容なところもある。

だから嬉しいけど余計に辛い時もあるし、1番きついのは彼女の余裕を見せつけられてる気もするということ。

34: 2011/03/14(月) 14:02:25.59 ID:/SKWNK460
私は短気だし、素直じゃないし、か弱くないし、
自業自得で片腕は義手、片目は義眼になり、とても滝壺に敵うとは思えない。

自信なんて、これっぽっちもない。
 
だからもう諦めることにした。
私のせいで一度は壊れた繋がり。

浜面はせっかくそれを今まで通り引き戻してくれたから。

やっぱり純粋で良い娘と結ばれて欲しい。
でもやっぱりムカつくからたくさん働いてもらうけどさ。

35: 2011/03/14(月) 14:03:05.40 ID:/SKWNK460
できればあの子にも、今の私たちを知ってほしいな。
私が直接糸を断ち切った、もう取り戻せない、明るい笑顔。


罪滅ぼしなんて無駄だとわかってる。
だからいっそ、天国になんていないであろうあいつに、見せつけてやろうと思う。




「浜面遅い!アンタせいで絹旗泣いちゃうよ」

「さすが麦野、理不尽!」

「がんばって、はまづら」

36: 2011/03/14(月) 14:04:30.72 ID:/SKWNK460




「ばんそうこうありがとう!ってミサカはミサカは優しいあなたに感謝してみたり!」


この前行った映画館の前で配られていた絆創膏がバックの中に入っていて良かった。
元気の良い子で可愛い。
それにしても超変な語尾…。
 
「これに懲りたら、次からこんなに超人の多い所で走っちゃだめですよ?」
 
「わかったよ気をつける、ってミサカはミサカは今度から気をつけて走ることを肝に銘じたり」
 
「…」
 
うん、まあいいやもうどうでも。
変な語尾から察するに”ミサカちゃん”って名前なのだろう。
自己主張が強い事は超良いことです。きっとそうです。

37: 2011/03/14(月) 14:05:53.92 ID:/SKWNK460
「そういえば超急いでたようですけど何かあったんですか?」
 
「あー!ってミサカはミサカは用事を思い出した!」
 
「どんな用事何ですか?」
 
「これから大事な妹を迎えに行くのだ、
 ってミサカはミサカは姉の風格を漂わせつつせっせと靴をはいてみたり!」
 
妹さんですか。こんな超小さくても立派なお姉ちゃんなんですね。
微笑ましさで顔がほころびそうです。
 
「走っちゃだめですよ!超気をつけてくださいね」
 

「うん。ありがとう。またね!ってミサカはミサカは優しいお姉さんとの別れを惜しみつつゆっくり走りだしてみる!」
 
だから走っちゃ…ん?お、お姉さん?お姉さんだと!?



…うへへ

38: 2011/03/14(月) 14:07:06.09 ID:/SKWNK460


「…た? ぬはた!絹旗さーん!?」

「ん?はっ!あれ、いつの間に超もどってきてるし!」

「何トリップしてたのかにゃーん?」

「ああ別に超何でもないです!」

「大丈夫?きぬはた」

2人が再びブルーシートに腰掛ける。



「置いてくなんてちょっとくらいお前ら手伝ってくれても…」

そして前方をフラフラと浜面が歩いてくる。
まさに想像した通りの姿で―








「超!おそーーーーい!」

「グホェァア!?」

40: 2011/03/14(月) 14:09:34.64 ID:/SKWNK460



「一方通行さん、そしてみなさんお久しぶりです、とミサカは緊張のあまり
 やはりゴーグルを引っ張って痛っまたバチンってやった」

「落ち着いて14510号!ってミサカはミサカは元凶である
 ゴーグルを取り上げたいけど手が届かなかったり…」
 

「打ち止めアアアア!その膝誰にやられたァ!」

「過保護過ぎてミサカあなたが反抗期に耐えられるか心配になってくるよ…」



  - とあるアイテムは花よりだん子 Fin ―