1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 13:54:06.79 ID:BKI0SkVB0
P(初めて彼を見たのは、もう五年以上も前になる)

P(何気なくつけたテレビに映し出された、競馬中継の画面)

P(そこで俺は、彼と出会った)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1439441646

引用元: P(おめでとう……ペルーサ) 

 

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2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 13:57:21.79 ID:BKI0SkVB0
   ―2009年―



実況アナ『さあ、第4コーナーをカーブして、最後の直線コースです!』

実況アナ『外から来るのは、1番人気のペルーサ! ここで先頭に立ちました!』

実況アナ『ペルーサ、楽な手ごたえ! 最後は余裕を持ってゴールイン!』

実況アナ『勝ったのはペルーサ! デビュー戦を快勝です!』



P(気品溢れる、栗色の馬体)

P(ペルーサという名の競走馬の走りに、俺の心は奪われた)

P(この馬は大物になる)

P(競馬なんて、全く知らないはずなのに)

P(確信めいた思いが、俺の心に生まれた)

3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 14:00:16.24 ID:BKI0SkVB0
P(彼がデビューした同時期)

P(俺は、3人のアイドルのプロデュースを始めた)



P「あずささん! 今日から俺が、あずささんのプロデューサーです!」

P「貴音! 俺と一緒に、トップアイドルまで突っ走ろう!」

P「律子! 頼りないかもしれないけど、精一杯頑張るからな!」



P(あずささん、貴音、そして律子)

P(この3人となら、どこまでも羽ばたける)

P(そんな気がした)

P(何としても彼女達を、トップアイドルにしなければならない)

P(強い使命感が、俺の心に生まれた)

4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 14:03:14.93 ID:BKI0SkVB0
   ―2010年―



P(高みへ向かい、順調にステップを踏むアイドル達)



P「よし、これで今日からランクEか! おめでとう、みんな!」

P「いやあ、あずささん! 俺、嬉しすぎてどうにかなっちゃいそうですよ!」



P「やったな! この勝利で、ランクD到達だ!」

P「またトップアイドルに近づいたな、貴音!」



P「よし、俺達の勝ちだ! ランクCまで上り詰めたんだな!」

P「律子、これは運なんかじゃないぞ! 実力で勝ち取った、ランクCだよ!」

5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 14:06:15.08 ID:BKI0SkVB0
P(彼も、連勝をどんどん伸ばしていく)



実況アナ『先頭はペルーサ! 2番手にブルーグラスで今、ゴールイン!』

実況アナ『ペルーサ、今日も快勝! 見事に2連勝を飾りました!』



実況アナ『若葉ステークスは残り100メートル!』

実況アナ『ここでヒルノダムールを競り落とし、ペルーサが先頭に立ちました!』

実況アナ『ペルーサ、ゴールイン! 3連勝!』

実況アナ『評判馬、ヒルノダムールとの一騎打ちを制しました!』



実況アナ『さあ、青葉賞は最後の直線に入っています!』

実況アナ『強い強いペルーサ! 素質馬、トゥザグローリーを全く寄せ付けません!』

実況アナ『ペルーサ今日も完勝です! 大きなリードで、無傷の4連勝!』

実況アナ『世代の頂上決定戦、日本ダービーへ、無敗で駒を進めます!』

6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 14:09:49.87 ID:BKI0SkVB0
P(彼女達も彼も、全ては順風満帆)

P(心配など、何もしていなかった)



P(……しかし)



実況アナ『さあ日本ダービー、スタートしました!』

実況アナ『おっと!? ペルーサ、スタートに失敗! 立ち遅れました!』


P(まさか、だった)

P(大一番で、彼はまさかのスタートミス)

P(そして……)



実況アナ『第4コーナーのカーブ! ペルーサは大外、まだ後方です!』

7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 14:12:14.01 ID:BKI0SkVB0
実況アナ『ゴールまで残り200メートル! エイシンフラッシュ抜けている!』

実況アナ『外からローズキングダム追う! 内からヴィクトワールピサが3番手!』

実況アナ『ペルーサは伸びない! 先頭までは差がある!』

実況アナ『エイシンフラッシュだ! エイシンフラッシュゴールイン!』

実況アナ『2着ローズキングダム! 3着ヴィクトワールピサ!』

実況アナ『出遅れたペルーサは、6着でのゴールでした!』



P(この日、彼は初めての敗戦を喫した)

P(そしてこの時期、初めての敗北を味わったのは)

P(彼だけではなかった)

8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 14:15:13.25 ID:BKI0SkVB0
P(ランクBを賭けた、大事なランクアップフェス)

P(その最中、ダンスのステップを乱し、よろめくあずささん)

P(これが決定打となってしまい……)

P(俺達の手から、勝利は零れ落ちた)



P「そんなに泣かないでください、あずささん……」

P「大丈夫です! 誰にだって、失敗はありますって!」

P「今回の経験を教訓にして、次で挽回しましょう! ね!」

P「そう、その意気です! また明日から、一緒に頑張りましょう!」



P(たまたま、偶然、こういう事もある)

P(この時はそう、思っていた)

9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 14:18:41.93 ID:BKI0SkVB0
P(しかし数か月後、再度挑んだランクアップフェスにて)

P(今度は貴音が、サビの歌詞を飛ばしてしまい……)



P「……負けたか」

P「貴音……そう落ち込むなって」

P「しかし、驚いたよ。貴音でも、こういうミスをすることがあるんだな」

P「ま、そんな時もあるさ! 次に同じミスをしなければいい!」



P(ミスを続けたのは、彼女達だけではない)

P(彼も、同様だった)



実況アナ『毎日王冠、スタートしました! あーっと!』

実況アナ『ペルーサ、今日もスタートに失敗! 最後方からの追走です!』

実況アナ『さあ残り100メートル! アリゼオとエイシンアポロンの叩き合い!』

実況アナ『二頭全く並んでゴールイン! さあ、勝ったのはどちらか!?』

実況アナ『ペルーサ追い込みましたが、結局5着の入線です!』

10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 14:21:20.18 ID:BKI0SkVB0
P(嫌な予感がした)

P(そして彼は、次のレースでも……)



実況アナ『秋の天皇賞、スタートしました! ああっ!』

実況アナ『ペルーサ、今日も出遅れ! 離れた最後方となってしまいました!』

実況アナ『最後の直線、抜け出したのはブエナビスタ! これは強い!』

実況アナ『ブエナビスタ1着でゴールイン! 女王の貫録を見せつけました!』

実況アナ『ペルーサは最後、よく追い上げましたが2着!』



P(心がざわめく)

P(何か、歯車が狂い出したような……)

P(不吉な感覚が、俺の胸を掠めた)

P(気のせいであってほしい)

P(いや、気のせいに違いない)

P(そう俺は、自分に言い聞かせた)

11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 14:24:15.15 ID:BKI0SkVB0
P(そして、三度目の挑戦となる、俺達のランクアップフェス)

P(今度は、律子だった)

P(あろうことか、間奏のダンス中に転倒してしまい……)

P(俺達は、三連敗を喫した)



P「まさか律子まで、本番でミスるなんてな……」

P「ミスがなければ、私達が勝ててたと思うか、って?」

P「そうだな……うん。正直、勝ってたと思う」

P「だったら次は何とかなるさ! 次に目を向けよう! な!」



P(そうやって彼女達を、そして自分自身を鼓舞するも)

P(漠然とした不安が、心の中で少しずつ大きくなっていく)

12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 14:27:21.38 ID:BKI0SkVB0
実況アナ『ジャパンカップ、スタートしました! おーっと!』

実況アナ『ペルーサ、やや立ち遅れたか! 後方追走となります!』

実況アナ『最後の直線! 先頭のブエナビスタ、ちょっと内に切れ込んだか!?』

実況アナ『これは進路妨害となりました! 勝者はダービー2着、ローズキングダム!』

実況アナ『ペルーサ、最後は追い上げましたが5着でのゴールです!』



P(彼に先着したライバルが、新たなキャリアを積み重ねていく)

P(そして)



P「今日のオーディションは、三人揃ってダンスミス……か」

P「前回俺達に勝ったグループも、ミスってたみたいだけど……2位か」

P「1位になったのは、俺達が最初のBランクフェスで負けたグループか……」

P「うーむ……なかなかやるなぁ……」



P(俺達が敗れた相手も、どんどん結果を残していく)

P(焦燥感)

P(俺の中で、焦燥感がどんどん膨れ上がっていった)

13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 14:30:18.30 ID:BKI0SkVB0
P(迎えた年末。この年最後に行われる、Bランクフェス)

P(彼女達は久しぶりに、ミスなくステージをやり遂げた)

P(力の全てを出し尽くしたステージを見て、俺は勝利を疑わなかった)

P(しかし、その結果は……)



P「負けた……のか」

P「あずささん、悔しいのは俺も一緒です……。すみません、力不足で……」

P「お、おいおい! 泣き言を言うなんて、貴音らしくないぞ?」

P「律子! ここが限界だなんて、そんなことあるわけないじゃないか!」



P(実力を出し切っての、敗戦)

P(立ちはだかる現実に、俺達は打ちのめされた)

14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 14:33:29.05 ID:BKI0SkVB0
P(そして……彼も)



実況アナ『年末の大一番、有馬記念! スタートしました!』

実況アナ『ペルーサ、今日は普通に出ました! 先頭集団でレースを進めます!』



P(久しぶりに好スタートを決め、前のポジションでレースを進める彼)

P(これなら1着もある、と思ったのだが……)



実況アナ『さあ、最後の直線コース! ヴィクトワールピサが先頭だ!』

実況アナ『ブエナビスタ猛追! さあ、前に届くかどうか! 前に届くかどうか!』

実況アナ『二頭並んでゴールイン! わずかにヴィクトワールピサ、凌いだか!』

実況アナ『先行したペルーサは、結局4着でのゴール!』



P(終わってみれば)

P(かつて先着を許した馬達に、再度完敗の内容だった)

15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 14:36:07.20 ID:BKI0SkVB0
P(ミスなく走っても勝てないという現実)

P(そして、ミスのないステージを披露しても勝てなかったという現実)

P(現実が、俺に重くのしかかる)

P(栄光と挫折)

P(二つの相対する味を、二つの局面から同時に味わい)

P(2010年は幕を閉じた)

16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 14:39:22.31 ID:BKI0SkVB0
   ―2011年―


P(迎えた2011年、年明け最初のランクアップフェス)

P(今年こそは昨年の雪辱を、と意気込む俺)

P(その想いに応えてくれるかのように)

P(彼女達は、今まで以上に気合の入ったステージを見せてくれた)

P(だが結果は……)



P「また……勝てなかったか……」

P「うーむ、あと一歩なんだがな……」

P「ん? あずささん、どうかしましたか?」

P「え!? 今日の対戦相手とは、ランクCのフェスで戦った!?」

P「あ……確かに、言われてみれば……」

P「いつの間にか、追い抜かれちゃったのか……」



P(かつて破った相手に、逆転を許してしまった事実が突きつけられた)

17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 14:42:15.28 ID:BKI0SkVB0
P(そしてそれは……)



実況アナ『トゥザグローリー、1着でゴールイン! ペルーサは2着!』

実況アナ『昨年の青葉賞の借りを、ここで返しましたトゥザグローリー!』



P(彼も同じだった)

P(さらには……)



P「今回も……。あと一歩だが、勝てないか……」

P「お、おい貴音、大丈夫か? 何だか、顔が青いぞ……?」

P「何!? 優勝したのは、ランクDのフェスで勝負したグループだって!?」

P「そうだったか……」

P「あの時は俺達……」

P「連勝街道まっしぐら、だったよな……」

18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 14:45:26.34 ID:BKI0SkVB0
実況アナ『ヒルノダムール、ゴールイン! 春の天皇賞はヒルノダムール!』

実況アナ『ついに、G1のタイトルに手が届きました!』

実況アナ『中団に位置したペルーサは、結局8着!』

実況アナ『昨年のこの時期とは、力関係が逆転したか!』



P(かつて負かしたはずの相手に、敗れ続ける彼女達)

P(そしてかつて負かしたはずの馬に、敗れ続ける彼)

P(お互い止まらない負の連鎖に、完全に嵌りこんでしまったのだろうか)

P(このままではいけない)

P(そんなことはわかっている)

P(なら、どうすればいいのか?)

P(自問自答する日々を、俺は繰り返した)

19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 14:48:25.27 ID:BKI0SkVB0
P(そして出した結論)

P(それは、トレーニングによる自力強化の必要性)

P(……今の彼女達の実力では)

P(やみくもにBランクフェスに挑んでも、勝つことはできないかもしれない)

P(そう考えた俺は、時間を費やし、彼女達に入念なトレーニングを施すことにした)

P(業界でも有名なトレーナーにコーチを依頼し)

P(半年近くを費やした入念なトレーニング)

P(その結果、待っていたのは……)

20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 14:51:32.24 ID:BKI0SkVB0
P「ダメ……か」

P「あんなに練習したのに、これでも勝てないのか……?」

P「くそぉっ!」

P「何でなんだよ! 何で……」

P「ん?」

P「律子、どうした? 随分、満足気じゃないか?」

P「なに!? 今回の獲得ポイント、今までで一番だって!?」

P「そうか……!」

P「俺達のやってきたことは、ムダじゃなかったんだな……!」



P(ようやく掴んだ、復調の兆し)

P(時を同じくして……彼も)

21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 14:54:28.92 ID:BKI0SkVB0
実況アナ『さあ、秋の天皇賞、最後の直線!』

実況アナ『ブエナビスタを交わし、抜け出したのは二頭!』

実況アナ『トーセンジョーダンとダークシャドウ! それを追って外からペルーサ!』

実況アナ『三頭の馬体が並ぶか! ここがゴール!』

実況アナ『勝ったのは、トーセンジョーダン、2着にダークシャドウ!』

実況アナ『3着ペルーサ、4着にブエナビスタ!』

実況アナ『勝ちタイムは、何と日本記録! レコードタイムが記録されました!』



P(惜しくも敗れたが、久しぶりに大レースで好パフォーマンスを発揮した彼)

P(しかも、昨年敗れ続けた馬、ブエナビスタを4着に抑えている)

P(彼女達も彼も、ついに流れが上向いたか!)

P(と、思ったんだが……)

22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 14:58:01.10 ID:BKI0SkVB0
実況アナ『ジャパンカップ、最後の直線コースに向かいます!』

実況アナ『海外最強馬、デインドリームは伸びない! ペルーサもまだ後方だ!』

実況アナ『先頭はトーセンジョーダン! これを追ってブエナビスタ!』

実況アナ『外からブエナビスタ! ブエナビスタ、今1着でゴールイン!』

実況アナ『ブエナビスタ! 昨年の雪辱!』

実況アナ『ペルーサは後方のまま! 何と最下位でのゴールです!』



P(前走、僅差の戦いを繰り広げた馬が、ワンツーフィニッシュを決めたのに)

P(彼は、まさかの最下位に敗れ去った)

23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 15:00:23.88 ID:BKI0SkVB0
P(そして、俺たちが次に挑んだオーディションの結果は……)



P「う、うーむ。16位……か?」

P「ここまで負けるとは思わなかったが……」

P「あずささん……あずささん?」

P「どうしました? 何だか、フラフラしてるような――」

P「って、うわ! あずささん、凄い熱じゃないですか!」

P「り、律子! 貴音! 早く、早く救急車を!」



P(間断ないトレーニングで疲労を抱え込んでしまったのか)

P(あずささんの体調は、年末まで戻らなかった)

P(年末最後のBランクフェスは、無念の欠場)

P(そして彼も、年末の大一番、有馬記念を出走取消)

P(結局この年は、彼女達も、彼も)

P(一勝もすることなく、一年を終えることとなった)

24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 15:03:20.47 ID:BKI0SkVB0
   ―2012年―



P(年が明け、俺が打った最初の手)

P(それは、なりふり構わず勝利を掴むこと)

P(まずは一つ勝って、勝ち癖をつけることが大切)

P(そう考えた俺は、年明け初戦にBランクではなく)

P(格下のCランクフェスを選んだ)

P(勝利を確信し、俺は彼女達を送り出した……のだが)



P「ま、負けた……のか……?」

P「まさか……そんな……」

P「で、でもほら! ポイントの差はたった10点だ!」

P「あ、あ、貴音! そんなに暗い顔をしないで!」

P「な、なあ! そんなにしょんぼりしないでくれよ……」

P「そう……だよな。やっぱり、悔しいよな……」

25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 15:06:59.78 ID:BKI0SkVB0
P(勝って弾みをつけるどころか)

P(モチベーションのダウンに繋がってしまった……)

P(ならば、と思い立ったのは、逆転の発想!)

P(あえての飛び級、Aランクフェス挑戦!)



P「ざ、惨敗……」

P「す、すまん律子! これは俺の作戦ミスだ!」

P「い、いや! 俺は無理なんて思ってなかったぞ!」

P「ほ、本当だって! 律子達の力を信じてるからこそ……」

P「お、おい! 待て律子!」

P「話を! 話を聞いてくれぇ!」



P(勝てないまでも、そこそこの結果さえ残せれば)

P(モチベーションアップに繋がると思ったのだが……)

P(見事なまでに、真逆の結果となってしまった)

26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 15:09:09.03 ID:BKI0SkVB0
P(結果を出してやれない焦りで、迷走する俺。そして)



実況アナ『白富士ステークスを制したのは、ヤングアットハート!』

実況アナ『ペルーサ、怒涛の末脚でしたが届かず2着!』

実況アナ『断然の一番人気を裏切ってしまいました! まさかの敗戦です!』



実況アナ『安田記念を制したのはストロングリターン! これが初G1制覇!』

実況アナ『ペルーサは最下位! これは、初距離に対応できなかったか!』

実況アナ『全く見せ場がありませんでした!』



P(彼もまた、迷走していた)

27: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 15:12:08.46 ID:BKI0SkVB0
P(気がつけば)

P(最後のCランクフェスの勝利から、2年が経過しようとしている)

P(どうして、こうなってしまったんだろう……)

P(何とかして、Bランクの壁を乗り越えたい)

P(でも一体、どうすれば……)

P(連日悩み続けるも、打開策は見つけられず)

P(途方に暮れていた、ある日のこと)

P(終わりは、唐突にやってきた)

28: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 15:15:27.69 ID:BKI0SkVB0
P「え!? あずささんが、交通事故!?」

P「あずささんは! あずささんは無事なんですか!?」

P「よかった……命は大丈夫なんですね!」

P「複雑骨折……!? 完治するまで一年以上……!?」



P「どうしたんだよ、貴音? そんなに改まって……?」

P「お別れ……!? 故郷に帰らないといけなくなった……?」

P「貴音の故郷って……月!? 何を言って……あれ?」

P「た、貴音!? おい、どこに行ったんだ! 貴音! 貴音ぇ!」



P「アイドルを引退して、別会社の事務員に転向……?」

P「律子……それ、本気なのか……?」

P「そうか……。引き留めても……きっと、無駄なんだろうな……」

P「力になれなくてすまなかった、律子……」

29: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 15:18:12.81 ID:BKI0SkVB0
P(解散という現実を受け入れるのには、しばらくの時間を要した)

P(無念、落胆、後悔、失望感)

P(様々な負の感情が、俺を襲った)

P(時を同じくして、彼もレースに姿を見せなくなった)

P(調べてみたのだが、どうやら喉の手術で長期の休養に入ったらしい)

P(復帰の見通しも、不明とのことだった……)

P(あずささん、貴音、律子、そして彼)

P(俺の生き甲斐は、何もかも消え去ってしまったのだ……)

30: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 15:21:15.95 ID:BKI0SkVB0
   ―2013年―


P(一年の時が流れた)

P(俺の心にポッカリ空いた穴は、埋まる事もなく)

P(ただただ、空虚な毎日を過ごしていた)

P(彼女達のステージでの晴れ姿を思い出すたびに)

P(そして)

P(芝生の上を軽快に走る、彼の姿を思い出すたびに)

P(俺の目からは、涙が零れた)



P(………………)

P(…………)

P(……)

31: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 15:24:02.30 ID:BKI0SkVB0
   ―2014年―



P(それは、年が明けてからしばしの後)

P(身も凍るような寒さの、とある日のことだった)

P(俺の前に、一人の女性が姿を現した)

P(それは……)



P「あずさ……さん?」

P「あずささん! あずささんじゃないですか!」

P「身体はもう大丈夫なんですか?」

P「そうですか……完治したんですか!」

P「よかった……本当によかった……」 

P「え、お願いがある……ですか?」

P「もう一度、アイドルがやりたい……と?」

P「あんな終わり方じゃ、納得できない、ですか……」

P「気持ちはわかります。でも……」

P「すみません。少し、考えさせてもらえますか……」

32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 15:26:59.83 ID:BKI0SkVB0
P(あずささんの想いは、痛いほどに伝わった)

P(しかし、一度は事故で重傷を負った身。加えて長期のブランク)

P(それに、貴音と律子はもう……)

P(首を縦に振る勇気が、俺には出なかった)

P(できるなら、復帰させてあげたい)

P(でも、あずささん一人では……)

P(返答を先延ばしにしつつ、悩む日々が続いた)

P(時間は容赦なく、一週間、二週間と過ぎていった)

33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 15:30:11.57 ID:BKI0SkVB0
P(転機を迎えたのは、翌月)

P(2月1日の土曜日だった)

P(何気なく)

P(本当に何気なくつけた、自宅のテレビ)

P(そこに映し出されたのは……)



実況アナ『本日のメインレース、白富士ステークスの発走です!』

実況アナ『さあ、実に1年8か月の休養明けとなるペルーサ!』

実況アナ『果たして、どういう走りを見せるのでしょうか?』



P(今となっては懐かしい、彼の姿だった)

34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 15:33:20.98 ID:BKI0SkVB0
実況アナ『スタートしました! ペルーサ、多少出負けしたか!』

実況アナ『さあ第3コーナーのカーブ! ペルーサ現在最後方です!』

実況アナ『直線に向きました! ペルーサどこまで詰められるか!』

実況アナ『残り200メートル! ペルーサはまだ後方だ!』

実況アナ『先頭はエアソミュールでゴールイン! 快勝です!』

実況アナ『長期休み明けのペルーサは、12着でのゴールでした!』



P(全盛期の走りは、見る影もなかった)

P(しかし間違いなく、彼は走っていた)

P(懸命に、前を向きながら……)

P(大きな勇気を、もらった気がした)

35: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 15:36:12.70 ID:BKI0SkVB0
P(そして、その翌日)

P(一人の女性が、俺の前に姿を現した)



P「貴音! 本当に貴音なんだな!」

P「夢みたいだ……」

P「まさかもう一度、貴音に会えるとは思わなかったよ……」

P「……故郷の方は、もういいのか?」

P「……そっか。まあ、詳しくは聞かないことにするよ」

P「え? もう一度、アイドルをやりたい……だって?」

P「いやいや! 身勝手なお願いなんて、とんでもない!」

P「そうだな……!」

P「もう一回……みんなで……!」

36: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 15:39:26.38 ID:BKI0SkVB0
P(みんなと一緒に、夢の続きを見たい)

P(心を決めた俺は、すぐに一人の女性とコンタクトを取った)

P(最初は、にべもなく拒絶された)

P(しかし俺は諦めず、彼女に連絡を取り続けた)



P「頼む、律子! 一生のお願いだ!」

P「もう一度みんなと、一緒にアイドルをやろう!」

P「何だってする! 何なら土下座でも……え?」

P「本当か!? 本当なんだな、律子!」

P「ありがとう! ありがとう!」

P「い、いや! 俺は泣いてなんかいないぞ!」

P「だから泣いてないって……ん?」

P「そういう律子こそ、涙声になってないか……?」



P(連日続けた説得に、ついに律子は応じてくれた)

P(こうして俺と彼女達、そして、彼は)

P(新たなるスタート、再スタートを切ったのだった)

38: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 15:42:18.45 ID:BKI0SkVB0
P(俺にはわかっていた)

P(今の彼女達に、全盛期の力を求めるのは酷だということを)

P(だから俺は、あえてフェスの話題を出すことはせず)

P(彼女達の力量に合う仕事を、厳選することに心力を注いだ)



P「いやあ、あずささん! 今日のCM撮影、最高でしたよ!」

P「え、ご褒美が欲しい……ですか? 具体的には、何を?」

P「……あ、頭を撫でる……?」

P「えっと……そ、それじゃあ……お言葉に甘えて……っと」

P「こ、こんな感じで……どうでしょう……か?」

P「……ふぅ。あずささんって、意外と甘えん坊だったんですね……」

39: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 15:44:59.54 ID:BKI0SkVB0
P「貴音! グルメリポートが、大分板に付いてきたじゃないか!」

P「え、これから一緒に、らあめん屋に行きましょう?」

P「おいおい……さっき番組であれだけ食べたのに、まだ食べるのか?」

P「な、何だよ! そ、そんなに頬っぺたを膨らませるなって!」

P「わ、わかったわかった! わかったよ!」

P「一緒に行くから、そんなに拗ねないでくれよ、貴音!」



P「大成功だったな律子! キャンペーンガール姿、似合ってたぞ!」

P「え? 私に、この仕事は適任とは思えない、って?」

P「そんなはずはない! 間違いなく適任だよ!」

P「なぜそう思うのか、理由を教えろ、ってか?」

P「そんなの、律子がかわいいからに決まってるじゃないか」

P「だ、大丈夫か律子!? 熱でもあるのか!? 顔が真っ赤だぞ!?」

40: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 15:48:17.13 ID:BKI0SkVB0
P(俺の取ってきた仕事を、彼女達は順調にこなしていった)

P(心なしか、昔以上に距離を縮められた気もする)

P(激しい戦いから離れた場所に身を置き、活動を続ける俺と彼女達)

P(しかし……彼は違った)



実況アナ『エプソムカップはディサイファ! 見事な末脚です!』

実況アナ『復帰2戦目のペルーサは、15着に終わりました!』



実況アナ『毎日王冠を勝ったのはエアソミュール! 武豊騎手、手綱が冴えます!』

実況アナ『ペルーサは中団、9番手ぐらいの入線でしょうか!』



実況アナ『スピルバーグ豪脚一閃! 強豪を相手に、天皇賞秋を勝利!』

実況アナ『最後方からレースを進めたペルーサは、後方3番手でのゴールです!』



実況アナ『金鯱賞を制したのはラストインパクト! 3つ目のタイトル獲得です!』

実況アナ『そしてペルーサですが、今日は10着! 伸びきれません!』

41: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 15:51:16.27 ID:BKI0SkVB0
P(敗れても敗れても、立ち向かい続ける彼)

P(結果は伴わなかった)

P(しかし彼は、いつも全力で戦い続けていた)

P(そんな彼の、ひた向きな姿を目の当たりにして)

P(例え勝てないとわかっていても)

P(俺は昔のように)

P(いや……それ以上に)

P(彼を応援せずにはいられなかった)

42: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 15:54:08.84 ID:BKI0SkVB0
   ―2015年―


P(それは、年明け最初のミーティングだった)

P(熱意のこもった真っすぐな瞳で、あずささんが俺に訴えた)



P「もう一度、Bランクフェスに挑戦してみたい……ですって?」

P「でも、あずささん。最後にステージに立ったのは、もうずっと昔で――」

P「その言葉を待ってました……だって?」

P「貴音も……あずささんと、同じ気持ちなのか?」

P「え? 仕方がないから、付き合いますか?」

P「律子……。その顔、明らかにしょうがないって顔じゃないぞ……」

43: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 15:57:11.19 ID:BKI0SkVB0
P「……」

P「…………」

P「本当に、いいんだな……?」

P「よし、わかった! やるだけやってみよう!」



P(こうして彼女達は、再び戦いの舞台に身を投じることとなった)

P(無謀な挑戦なのはわかっていた)

P(何せ、彼女達が最後にステージに立ったのは、かれこれ2年半も前なのだ)

P(その無謀な挑戦を、無謀と承知で受け入れたのは)

P(諦めずに戦い続ける、彼の姿を見続けてきたからかもしれない)

44: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 16:00:19.52 ID:BKI0SkVB0
P「復帰初戦は惨敗……か。まあ、こればっかりは仕方がないよな……」

P「お疲れ様でした、あずささん!」

P「貴音、いいパフォーマンスだったぞ!」

P「律子も頑張ったな! 初戦としては、上々上々!」



P(意気込んで挑んだ、年明け最初のBランクフェス)

P(わかっていたとはいえ、やはり完敗の内容だった)

P(……そして、彼の今年初戦も)



実況アナ『中山金杯はラブリーデイ! 皐月賞馬、ロゴタイプを完封!』

実況アナ『ペルーサは後方から差を詰めましたが、10着止まりです!』



P(勝った馬の走りには、今後の大仕事を約束するような、オーラがあった)

P(それは遥か昔、俺が彼に感じていたもの……)

45: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 16:04:16.43 ID:BKI0SkVB0
P(それから彼女達は定期的に、Bランクフェスへの挑戦を続けた)

P(しかしその結果は、芳しいものではなかった)



P「復帰2戦目……」

P「まだポイント差は、かなりあるか……」



P「復帰3戦目も、完敗か……」

P「まあ、課題は山積みだもんな……」



P「復帰4戦目も、惨敗……」

P「……いや、まだまだだ。まだまだこれからのはずだ」



P(現実の壁は、恐ろしいほどに高く)

P(そして分厚いものだった)

46: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 16:06:13.39 ID:BKI0SkVB0
P(さすがの彼女達も、時には打ちひしがれ)

P(気負けし、弱音を吐くことがあった)



P「あずささん! 今日のステージも、いい動きでしたよ!」

P「ええ! とても、瀕死の重傷を負ったとは思えないパフォーマンスでした!」

P「え? もし、あの日事故に遭ってなかったら?」

P「今とは違った未来があったかも……ですか?」

P「それは……その答えは……」

P「……でも! あずささんは、こうしてステージに戻って来れたじゃないですか!」

P「あずささんが諦めなければ、必ず、きっと……!」

P「大丈夫ですあずささん! 俺、あずささんを信じていますから!」

47: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 16:09:20.00 ID:BKI0SkVB0
P「申し訳ありません……だって?」

P「どうして貴音が、俺に謝る必要があるんだ?」

P「私は、大きな過ちを犯しました?」

P「……どういうことだ?」

P「あの日、アイドルより故郷を優先しなければ、こんなことには……か」

P「……でも! 貴音は、こうしてステージに戻って来たじゃないか!」

P「それに故郷に帰ったのは、どうしても譲れない理由があったからだろ?」

P「大丈夫だ貴音! その時の経験、絶対これからに活きてくるさ!」



P「は? もう、私を外してください?」

P「待て待て待て! 何を言ってるんだよ、律子!」

P「やっぱり私には、裏方がお似合い……だって?」

P「確かに、律子の事務員としての能力は、疑いようがないと思うよ」

P「……でも! 律子は、こうしてステージに戻って来てくれたじゃないか!」

P「事務員と同じぐらい、律子にはアイドルとしての才能があると思ってる!」

P「大丈夫だ律子! もっと、自分に自信を持っていいんだからな!」

48: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 16:12:04.82 ID:BKI0SkVB0
P(苦しい戦いを続けていたのは、彼女達だけではない)



実況アナ『直線、鋭く伸びたアズマシャトル! 見事に白富士ステークス勝利!』

実況アナ『同じく後方から運んだペルーサは、よく伸びましたが6着まで!』



実況アナ『エイシンヒカリ、見事な逃走劇でエプソムカップを制しました!』

実況アナ『ペルーサは今日も追い上げましたが、6着での入線です!』



実況アナ『マイネルミラノ、圧倒的なスピード! 巴賞を逃げ切り勝ちです!』

実況アナ『ペルーサは後方のまま、8頭中6番手でのゴールでした!』



P(彼もまた、苦しい戦いに挑み続けていた)

49: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 16:15:19.15 ID:BKI0SkVB0
P(失った輝きを取り戻す)

P(言葉にするのは簡単だが、実現するのは何て難しいんだろう)

P(でも……俺は、諦めたくなかった)

P(一度だけでもいい)

P(彼女達に、そして彼に)

P(もう一度、光り輝いてほしかった)

P(気がつけばお互い、最後の勝利からは)

P(かれこれ、5年以上の歳月が経過していた)

50: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 16:18:30.35 ID:BKI0SkVB0
P(そして迎えた、本日)

P(8月8日、土曜日)

P(今日は復帰から数えて5回目となる、Bランクフェス挑戦の日だ)

P(復帰前から数えると、もう何戦目になるだろうか……)



P(前回のフェスの敗戦後、遅まきながら俺は悟った)

P(これまでと同じことを続けても、結果は出せないだろう、と)

P(何かを劇的に変えなければいけない)

P(しかし、具体的に何を変えればいいのか、すぐには思いつかなかった)

P(俺は考え続けた)

P(彼女達のために、何かしてやれないのか)

P(何か、俺にしかできないことがあるんじゃないだろうか、と)

51: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 16:21:16.81 ID:BKI0SkVB0
P(そして、考えに考え抜いた末)

P(一つの結論を出した俺は、彼女達に申し出た)

P(レッスンのトレーナーを、俺にやらせてくれないか、と)

P(素人の俺が、指導力でプロのトレーナーに適うとは思えない)

P(だが)

P(彼女達のことは、誰よりも自分が知っているという、自負は持っていた)

P(俺にしかできない助言、俺にしかできない導きが、何かきっと在る)

P(そう、思ったのだ)

52: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 16:24:13.74 ID:BKI0SkVB0
P(傍から見ると無謀とも思えるであろう、俺の提案)

P(そんな俺の提案は、意外にも)

P(彼女達に、快く受け入れられた)



P「あずささん。今のステップ、もう少しスピーディに踏むのはどうでしょう?」

P「なあ貴音。サビの最後の部分、あとちょっとだけ伸ばせないかな?」

P「律子律子。間奏のダンス、もっと思い切った動きで演じていいと思うぞ?」



P(我ながら、稚拙なアドバイスだと思う)

P(時には反論され、時には意見をぶつけ合い、そして時には同意を受け)

P(二人三脚で、俺と彼女達はトレーニングを続けた)

P(次のステージを、これまでと違う物にしたい)

P(そんな想いを、胸に抱いて)

53: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 16:27:46.28 ID:BKI0SkVB0
P(…………)

P(もうすぐ、フェスが終わって30分は経つだろうか)

P(……俺は今、フェス会場近くの病院にいる)

P(彼女達の本番を前に、まさかの体調不良でダウン)

P(大したことないから大丈夫、そう言い張ったのだが)

P(結局彼女達に、無理矢理病院に担ぎ込まれてしまった)

P(必ず勝って、迎えに来ますから)

P(そう言い残して彼女達は、戦いの舞台へと向かっていった)

54: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 16:29:59.53 ID:BKI0SkVB0
P(診断の結果は、過労とのこと)

P(今は一人きりの病室で、点滴の真っただ中だ)

P(病室備付のテレビをぼんやり眺め、気を紛らわそうとするも)

P(頭に浮かんでくるのは、彼女達のステージのことばかり)

P(現実的に考えて、勝てるとは思わなかった)

P(少しでもポイントを多く取って、次に繋がるステージになってくれれば)

P(でも、もしまた惨敗だったら……)

P(様々な想像が、脳裏を駆け巡る)

P(携帯電話を持っていれば、すぐにでも連絡して結果を確認するのだが)

P(こういう日に限って、事務所に忘れてきてしまったのだ)

P(自分の間抜けさに腹を立てながら、テレビのチャンネルを適当にいじる)

P(そして……何度目かにチャンネルを変えた、その時だった)



実況アナ『スタートしました! メインレース、札幌日経オープン!』

実況アナ『ペルーサ、今日は好スタートを決めています!』

55: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 16:33:09.32 ID:BKI0SkVB0
P(テレビ画面に映し出されたのは)

P(珍しく軽快なスタートを決める、彼の姿)

P(俺は知っていた)

P(今日、戦いの舞台に挑むのは、彼女達だけではないことを)

P(ただ、本来ならば今の時間は、フェスの会場からの帰り道なわけで)

P(生観戦は、あり得ないはずだった)

P(まさか、彼女達の結果より先に、彼の結果を知ることになるとは)

P(苦笑しながら、俺は改めて、テレビ画面に目を向けた)

56: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 16:36:18.42 ID:BKI0SkVB0
実況アナ『ペルーサ、今日は3番手からレースを進めます!』


P(おやっ、と思った)

P(復帰してからは、後方追走から数頭を抜くのが精一杯だった彼)

P(そんな彼が、今日は先頭集団に位置している)

P(そしてさらに、驚くべき展開が起こった)



実況アナ『先頭はタマモベストプレイ、その外からペルーサが並んでいきます!』

実況アナ『ここで先頭が変わりました! ペルーサが先頭です!』



P(これまでに、一度たりとも見たことがない光景だった)

P(彼は自ら先頭に立ち、他馬をリードしていく)



実況アナ『リードを1馬身、2馬身と広げました!』

実況アナ『ペルーサ、軽快に飛ばします! リードを4馬身と取っています!』

57: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 16:39:11.83 ID:BKI0SkVB0
P(完全に予想外の流れだった)

P(同時に、これはさすがに無謀だろうとも思った)

P(今までと違った戦法で、新境地を開きたいという気持ちはわかる)

P(しかし、いくら奇策を打つにしても)

P(あまりにも、これまでとスタンスが対極すぎる)

P(ゴールまでにスタミナが切れ、後退していく姿が容易に想像できた)

P(そう。現実は、決して甘くはないのだから)



実況アナ『先頭はペルーサ! リードを2馬身キープして3コーナーのカーブ!』



P(しかし俺の予想に反して、彼は先頭を走り続けた)

P(いつの間にかレースは、終盤に差し掛かっている……)

58: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 16:42:28.14 ID:BKI0SkVB0
実況アナ『ペースが上がります! 3、4コーナーの中間へ!』

実況アナ『依然としてペルーサ、先頭をキープしています!』


P(まだ、余裕があるように見える……)

P(心臓の鼓動が、どんどん早くなっていくのを感じた)

P(これは、もしかして……?)



実況アナ「残り600メートルを切って、先頭ペルーサ! まだ1馬身のリード!」



P(颯爽と走り続ける彼に、かつて輝きを放った過去の姿が重なる)

P(まさか、まさか……)

60: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 16:45:24.88 ID:BKI0SkVB0
実況アナ「ここでタマモベストプレイ、さらにアドマイヤフライトが差を詰めます!」



P(しかしここに来て、他の馬たちも追い上げてきた)

P(2番手の馬が、騎手の激しいアクションに応え、差を詰めて来る)

P(3番手の馬も、余裕たっぷりにスーッと外から上がって来ている)

P(築いたリードが、じわじわと無くなっていく)



実況アナ『さあ、第4コーナーをカーブします!』



P(負けて欲しくなかった)

P(勝って欲しい)

P(何とか……!)

P(何とか、何とかこのままで……!)



P「頑張れ……!」

実況アナ『ペルーサ先頭で、直線コースに入りました!』

P「頑張れ! ペルーサ、頑張れぇ!」

61: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 16:48:10.62 ID:BKI0SkVB0
実況アナ『ペルーサ先頭! 外からアドマイヤフライト、間からタマモベストプレイ!』

P「行け! 粘れ粘れ粘れ! 粘るんだ!」

実況アナ『前は3頭! その外からワールドレーヴも差を詰める!』

P「もう少しだ! もう少しだぞ!」

実況アナ『残り200メートル! さあペルーサ粘る粘る!』

P「ペルーサ! 負けるな! ペルーサ!」

実況アナ『その外からタマモベストプレイ! ワールドレーヴ迫ってくる!』

P「頑張れ! 頑張れぇ!」

実況アナ『しかし、ペルーサが先頭だ! 抜かせない! 先頭はペルーサだ!』

P「頑張れぇぇぇぇ!!」

62: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 16:51:04.08 ID:BKI0SkVB0
P(俺にとって、永遠とも思える程、長い直線だった)

P(そして、その終わりの果て)

P(1着でゴールを駆け抜けたのは……)



実況アナ『ペルーサ、今1着でゴールイン! 押し切りましたぁ!』



P(彼だった)

63: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 16:54:24.52 ID:BKI0SkVB0
実況アナ『ペルーサ、見事押し切りました!』

実況アナ『ガッツポーズが出ました! 鞍上のクリストフ・ルメール騎手!』

実況アナ『2010年5月1日、青葉賞以来の勝利です!』

実況アナ『そして勝ち時計は、何とレコード! レコードタイムが記録されました!』



P(興奮気味の実況アナウンサーの声が、脳裏に染み渡っていく)

P(信じられなかった)

P(夢ではないかと思った)

P(目に、涙が溢れる)

P(彼は、彼は本当に……)



   ガチャ



P(その時背後で、病室のドアが開く音がした)

64: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 16:57:38.48 ID:BKI0SkVB0
P(ゆっくりと後ろを振り向く)

P(そこに、彼女達が立っていた)

P(あずささん、貴音、そして律子)

P(皆、目に光るものを浮かべていた)

P(何かを成し遂げたような、誇らしげな表情と共に)

P(そんな彼女達の表情を見て、俺は全てを悟った)

P(奇跡を起こしたのは、彼だけではなかったのだ)

P(聞きたい話は、山ほどあった)

P(一時間……いや)

P(一日かけても足りないぐらいに)

P(でも、最初に言うべき言葉は……決まっている)



P「……おめでとう」



P(次の瞬間)

P(破顔した彼女達は一斉に、俺が横たわるベッドに飛び込んできたのだった)

65: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 17:00:41.30 ID:BKI0SkVB0
P(果たして彼女達が、Aランクの舞台で対等に戦えるのか)

P(彼は次のレースで、再び好勝負を演じられるのか)

P(それは……わからない)

P(もしかすると、今日一日限りの輝きなのかもしれない)

P(それでも俺は、これからも)

P(彼女達を、そして彼を応援し続ける)

P(そして俺は)

P(今日という日を、絶対に忘れない)

P(挫折と敗北を繰り返し、ついに栄光を掴み取った彼女達と彼は)

P(間違いなく、今日の主役だったから)

66: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 17:03:13.40 ID:BKI0SkVB0
P(ベッドの上で彼女達にもみくちゃにされながら)

P(俺はもう一度、皆に言葉を紡いだ)



P「おめでとう……あずささん」

P「おめでとう……貴音」

P「おめでとう……律子」

P「それから……」



P(おめでとう……ペルーサ)



実況アナ『札幌競馬場、場内は大歓声です!』

実況アナ『勝ったのはペルーサ!』

実況アナ『実に5年3か月ぶりとなる、鮮やかな勝利でした!』



  ― 完 ―