2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/19(土) 22:01:25.10 ID:QCc0mebi0
1、

 やっと…やっとだよ…やっと…
ボクは1つのお願いが叶う瞬間を待ちわびて
大きい校門に背を預けてみる。

視線を下げてみると新しい学園指定鞄に書かれた
ボクの秋柴奈那(あきしばなな)という名前…
好きな人と同じ高校に入れた嬉しさを噛み締める。

ふと、見上げてみた…
そしたら…ピンクの花びらがキレイに舞っていて…つい見惚れちゃった。

ずっと…ずっと好きな人…つーちゃん…
1年間会えなかった寂しさをギュッと胸に詰め込んで…
頑張って…頑張って…

つーちゃんの後輩として同じ高校に通える

その事実が嬉しい。
入学して数日は…部活動の説明やいろいろな説明で
一緒に帰れなかったんだよね…。

特に陸上部の人や先生からの勧誘が酷かったなぁ…
中学生時代頑張ってたのもあるけど、
もうやらなくていいなら…したくないし…

そんないろんなことで会えない寂しさも重なって…

約束した「一緒に帰る」ことが今、叶おうとしていることが、
嬉しくて嬉しくてたまらない!

今日、朝約束した…一緒に帰るときは校門で待ち合わせて帰ること…

あ、上ばっかり向いていたらつーちゃんを見逃しちゃう。
そう思って視線を校門から出てくる人に向ける。

あれ?まだ来ないのかな?
1人の女性が通り過ぎた…って…あれ?

その奥に……あ!!

「つーちゃーん!!」

ボクはついにつーちゃんを見つけていつもの場所…右腕に飛びついた。

「隠れてて見えなかったよ~」

右腕をギュッと抱きしめて甘えちゃう…
だって…ずっと我慢していたんだもん…いいよね♪

「なんだ、奈那か…」

つーちゃん…1つ年上の一橋綱吉(いちはしつなよし)先輩。
幼馴染でずっと一緒だったけど…1年は離ればなれになっちゃってたんだよね…。

う~ん♪やっぱりつーちゃんの腕はいいなぁ~♪
もうちょっと…スリスリしても…いいかな?…何て思ったとき

「恋人?」

ボクの後ろから声がした。
振り返ると…さっきつーちゃんを隠しちゃってた人がまだ居た。
もしかして、つーちゃんの知り合いなのかな?

「一緒に帰ってたの?」
ボクはつーちゃんに何となく聞いてみる。

「偶然だよ」

そっけなく答えるつーちゃん

「そう、さっき偶然ね」

女の人も何か言ってる。
偶然なんだ…じゃあ、気にしなくていいよね。

そう思って…

「じゃ、帰ろっか」
とつーちゃんに言って腕を引いて歩き出した。


引用元: 「Close to …side.N」(オリジナルSS) 

 

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3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/19(土) 22:02:17.70 ID:QCc0mebi0
少し腕を引いて歩いていたら…

「奈那、ストップ!」

ふいにつーちゃんに腕を引かれて立ち止まちゃった。

「…また周りが見えなくなってたな?赤信号だぞ?」

って、つーちゃんに怒られちゃった。

「あ、ごめんなさい…」

ボクは信号が赤いことを確認して…つーちゃんの横に並び直した。

「でも…ずっと一緒に帰れなかったし…寂しかったんだもん…」

少しだけ…一緒に帰れることが嬉しかったんだよって伝えたくて抗議をしてみる。
つーちゃんは苦笑いだったけど、許してくれた。

そのあとは…分かれ道まで入学してからのことを報告していた。
事情通って言ってる同じクラスの女の子とお話したこととか…
高校では部活に入らないでつーちゃんと一緒に帰る約束を大事にしたいこと…

「つーちゃんも…僕に会えなくて…さみしかったよね?」
そうであって欲しいな…なんて思いながら見上げてみる。
つーちゃんは…「少しな」って少し素っ気ない感じでそっぽを向いちゃった。

…こういうときは…あ、照れ隠しのパターンだよね!

「じゃあ、ワシャワシャ…する?」
なんて言ってみると…つーちゃんはボクの髪の毛をわしゃわしゃしてくれる。
つーちゃんがしてくれる大好きなコミュニケーションの1つで、
ボクがショートカットにしてる理由がこれだったりする…。

ショートカットなら髪型が崩れてもすぐに直せるし、
髪の毛が絡まないからわしゃわしゃが気持ちいいんだよね。

ボクをワンコみたいに可愛がってくれる…この感じ…大好き…

これからは…他にも、もっと他愛ないことも出来るし、いろいろ…
ずっと…ずっっっと一緒に帰ることが出来る…

その嬉しさを噛み締めて分かれ道まで一緒に歩いていた。

4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/19(土) 22:03:30.37 ID:QCc0mebi0
2、

 学校が始まって…いろいろあったけど…大きな壁の1つが迫ってた。
『中間試験』…今回、つーちゃんからボクに与えられたハードルは…

学年10位以内に入ること!

クリアできたらデートしてくれる約束も出来た。

ボクはデートのために勉強しなきゃって思って、
今日は一緒に帰らないってつーちゃんに朝伝えたし、
放課後に勉強しようと図書館に向かっていた。

図書館に着いて…扉を開こうとしたときだった…

扉についた窓から…つーちゃんが見えた。

つーちゃんと一緒に勉強できるかも!!
そう思ってドアを開けようとしたときに気づいちゃった…

つーちゃんの横には…女の人が一緒に居る…。

…つーちゃんと一緒に勉強している…
もしかして…つーちゃんのクラスメイトさん…なのかな…。

そんな疑問が頭の中を急に駆け巡って…

それに…同級生さんと一緒に勉強しているんなら…
下級生のボクだと、つーちゃんの邪魔になっちゃう…かも…

ボクは扉を開けられなくなってしまった…。

少しつーちゃんを見つめていたら…
ちらっと見えたつーちゃんの笑顔…それが…隣の人に向いていた。

何かが胸にチクって刺さったような感じがあって…余計に動けなくなっちゃった…。

ふとボクの肩が叩かれる。
振り返ると…えっと…誰だっけ…あ、クラスメートの子だった…はず…

何をしているのか聞かれて…上手く答えられなくて…

「何でもないよ!」
って言ってみたけど信じてくれないみたい…。

「…図書館で勉強しようと思ったけど…やっぱり気分が変わっちゃったんだ。ボクは帰るね」
そんな感じで一気にしゃべって…その場を逃げ出した。

何だろう…嫌な感覚だなぁ…

ボクは…胸を軽く押さえながら…1人で帰った。

5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/19(土) 22:29:17.24 ID:QCc0mebi0
3、

 その日は…午後から急に雨が降ってきた。
朝の天気予報だと梅雨の合間で珍しく1日晴れるって言ってたのに…

でも、これはボクにとって大きなチャンス!

ボクはいつもの校門ではなく昇降口でつーちゃんを待っていた。

つーちゃんはめんどくさがりな部分があるから、
きっと今日は傘を持って来てないよね。

そんな予想をして待ち焦がれる。

少し時間が経って…予想通り嫌そうな顔のつーちゃんが見えた。

「つーちゃん!…もぉ…また傘忘れたんでしょー?」

なんて…少し怒った風に言ってみて…私のちょっと大きな傘を見せて

「一緒に帰ろ?」
って…伝えてみる。

つーちゃんは少し恥ずかしそうだったけど…強くなる雨に負けたみたいで…
一緒に傘に入って帰ることを許してくれた。

つーちゃんが濡れちゃうと困っちゃうから…傘はつーちゃんに持たせて…

ボクは少し右肩を冷たくしながら歩いていく…

雨の中で…ボクは小さいし、子犬みたいだから傘よりカッパが似合うなんて
少しイジワルなことを言われたり…

この前の中間試験が11位でデートがお預けになってしまったこととか…

梅雨が明けたら夏になるから、期末試験頑張って一緒に遊べるようにする!
…とかいろいろお話をした。

つーちゃんの話す一言一言を聴くのがイジワルな言葉でもすっごく嬉しくて…

出来れば…このまま…2人だけの傘の世界に閉じ込められるのも楽しいかな…なんて
少しそんなことも思っちゃったんだ…。

6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/19(土) 22:32:58.12 ID:QCc0mebi0
4、

 季節はもう…夏…明日から夏休みになる!
み~んな浮かれて校門を通り抜けていくのを見送る。

ボクも…かなり浮かれている…かな。
つーちゃんが言った目標をクリアしたから…
きっと…今度こそデートしてくれるはずだし!

つーちゃんの教室まで行って迷惑はかけたくないから、
いつも通り校門でつーちゃんを待つ…

クラスの子にそのことを教えたら…『忠犬ハチ公』みたいって言われちゃった…。
また…犬…ボク、そんなに犬っぽいのかな~。

そんなことを考えていると…つーちゃんがやってきた!

「つーちゃん!」
ボクはいつも通りつーちゃんの右腕にダッシュハグをする
うんうん。やっぱりつーちゃんの右腕はスリスリしがいがありますな~。

何て思っていると…

「ごきげんよう、秋柴さん」

つーちゃんの奥から…聞き覚えが少しだけある声が聞こえてきた…。
しかも…ボクのことを呼んでいる。

視線を移すと…女の人がボクの視界に入った…

確か…えっと…つーちゃんと勉強していたような…だから…ボクにとっては…

「あ、先輩…」

「名乗ってなかったわね。箱崎八重よ」

その人が名乗ってくる…

「あれ?箱崎の名前知らなかったっけ?」

つーちゃんが意外そうな顔でボクを見てくる。

ボクは…
「……うん」
としか言えなかった…。

「じゃ、私こっちだから」
その人は、つーちゃんに慣れ慣れしく声を掛けて、帰ろうとしている。

「おう、またな」
つーちゃんは軽くあいさつを返している…。

「お疲れ様でした……」
ボクも声をかけられたことを思い出して、あいさつをした。

何だろう…あの人…つーちゃんに近い…気がする…何か……嫌だなぁ…
でも、そんなことを言ってつーちゃんを困らせたくない…

ボクは、少し強くつーちゃんの袖を握って…一緒の道を帰り始めた。

帰り道で…つーちゃんが出した成績の課題を超えたことをちゃんと見せて、
次の日曜日にデートの約束をした。

うん。やっぱりいつもの優しいつーちゃんだ。
ボクは、やっと安心して…いつも通りのお話を楽しんだ。

明日から…夏休み…つーちゃんと一緒に…楽しい日が過ごせたらいいな…
なんて…つーちゃんと離れた後にそんなことを願いながら…綺麗な夕焼け空を見上げたりした。

7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/19(土) 22:35:44.80 ID:QCc0mebi0


「つーちゃん…これからもずっと一緒…だよね?」

8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/19(土) 22:37:34.79 ID:QCc0mebi0
5、

 ふ~んふふ~ん♪
約束していた日曜日…天気は晴れ!最高のお日様日和!!
前からずっとつーちゃんに見せたかった新しいワンピースを着て…
鏡の前でニヤケちゃうのが止まらないよ~。

今日は少し長めのスカートだから…スパッツは…はかなくてもいいよね。
いつも走り回ってて気になるからってつーちゃんに言われて、
制服とかミニスカートの時はいつもスパッツを穿いてるけど…

今日は頑張って、お淑やかで可愛いボクでつーちゃんをびっくりさせちゃうんだ♪

髪型も…OK、小さいバックに…携帯と…お財布と…軽くメイクを直せる準備と…
うん!これで大丈夫!!

少し早いけど、待ち合わせ場所に行っちゃおう♪

……って、あれ?スマホが鳴ってる…?

あ、つーちゃんだ!!

もしもーし♪今日は楽しみだね!!
1学期はずっとお預けだったから本当に楽しみ……ぇ

つーちゃん…今…何て言ったの…

きゅう…よう?…何で?今日なら絶対大丈夫だって……ぅん…

…期末試験の…お礼?……どうしても今日って…そんな……

だって、終業式の帰…ぅ……ぅん……

次の水曜日?……うん…ぅん……本当にその日なら大丈夫なんだよね?

分かった…いい子にして…待てるよ…本当に…いい子にしてるから!!

……ぅん…じゃあ…その日に……

携帯の先から聞こえてきたのは、いつも通りのつーちゃんの声なのに…

何故か…遠くからの声に聞こえて…声が小さいんじゃなくて…

心が…離れているような…


でも…きっと…大丈夫だよ…ボクとの約束を破ったことなんて……

ボクは…出掛ける予定が消えてしまって…それに…心がしぼんじゃったみたいで…

ベッドに横になってしまった…。

……そして…少し経った頃…またスマホが鳴った。


9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/19(土) 22:40:33.68 ID:QCc0mebi0
送信者は…この名前誰だっけ…確かクラスの女の子…だった気がする…。
何の用なんだろう…あんまり見たくないなぁ…。

そこには本文の無いメールと画像のURLが貼ってある…。

画像?

ボクは気になって…その画像をタップする…。

え?何…これ…これって…つーちゃん?

そこに写っていたのは仲良さそうに歩く2人の男女…。
女の人は…どっかで見たことがある…
そして…男の人が…つーちゃんにしか見えない…

女の人は男の人の腕を抱きしめてる…
男の人は…抱きしめられて嬉しそうに照れている…

う、嘘…嘘だよ…こんなの…クラスメートの子のイタズラは悪質すぎるよ!

そう返信したら…今度は…ベンチで会話している動画が送られてきた…。

聞こえてくる会話…その中で聞こえた女の人が呼ぶ「綱吉」という名前…

嫌だよ…何でこんなの送ってくるの…止めてよ!これ以上嘘を送ると怒るよ!

え?…テレビ…電話?これで嘘だって言われて終わるはず…そう信じて…通話開始を押す…。

でも、その先に映っていたのは…つーちゃんと女の人…しかも楽しそうに話している…。

…もう何も聴きたくないよ…見たくない…通話を切ろうとしたとき…クラスメートの声が聞こえた。

「気を付けて」

気を付ける?…何から?
ボクは訳が分からなくなってスマホを少し遠くに置いて…枕を抱えて泣きじゃくった…。

どれくらい時間が経ったんだろう…気付いたら…空が赤くなっていた。

手を伸ばしてスマホを掴む…新しい着信やメールは無かった。
メールの受信歴を開く…今日の日付のメールがある…

アレは夢じゃなかったんだ…そんな要らない実感が湧きあがってくる…。

きっと…きっと…デートの日はボクとつーちゃんだけの時間だから…その日まで…
……今日はそんなに眠れないかもしれないなぁ…

10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/19(土) 22:43:41.73 ID:QCc0mebi0
6、

 水曜日…今日は…今日こそは…デートできる…よね?
あの日から…写真のことは言えないけど…何度もドタキャンしないか確認しちゃった…。

つーちゃんに会えた時に最初に言われた言葉は…それに関する怒りの言葉だった…

何で?…つーちゃんが…ううん…ボクに言える言葉はないから…ちゃんと謝らないと…

つーちゃんはそのことでかなり機嫌が悪かったみたいで…
遊んでいても1回も笑ってくれなかった…

わしゃわしゃも…しないって…はじめて言われた…

そんな帰り道だった…

ふと、つーちゃんを呼ぶ声が聞こえた。

そこに居たのは…女の人だった…あの人…どっかで見たことある気がする…。

2人は普通に会話を始める……まるで…ボクなんて居ないみたいに…

何で?今日はボクとつーちゃんの2人っきりの日なのに…

帰ってほしい…消えて欲しい…でも、そういう言葉はきっとまたつーちゃんの機嫌を悪くしちゃう…

ボクは、唇を噛んで我慢する…それから少しして…やっと…居なくなった。

つーちゃんは俯いて我慢するボクに…何で挨拶しないのか…とかいろいろ怒ってきた。

何で?なんで…ボクが怒られるの?つーちゃんはボクと2人だけで遊んでくれるって言ってたのに…

言えない言葉が心に積もっていく…

そして帰り…つーちゃんのお母さんに呼ばれていたのもあって…
ボクはつーちゃんのお家におじゃました。

夕飯の支度がまだ終わってないみたいだったから、ちゃんと手伝って…
おかずの味付けを頼まれたからつーちゃんの好みに仕上げて…

みんなで一緒に食べる。

つーちゃんがボクの味付けが美味しいって食べてくれるのが嬉しい。

…ボクが作ったって言わなかったから…じゃないよね?

そんな夕飯のときに…つーちゃんのお母さんからお話があった。
つーちゃんのお父さんとお母さんで今晩から宿泊のお出かけをするから、
その数日間、つーちゃんと暮らして欲しい…って

今日、つーちゃんに怒られてばっかりだったけど、嫌だって言わなかった。
だから…ボクは嬉しくなって引き受けた。
着替えは…確か前に泊まったときのがあるから…帰らなくても大丈夫そうかな。

あと…やっぱり…最近のつーちゃん…気になるなぁ…

ボクは、お風呂に上がってお客さん用のお部屋で寝る前に
つーちゃんのお部屋を訪ねてみた。

「つーちゃん…今、少しだけ…いい?」

いつもより上手に声に出せない…いつもなら…ドアを開けちゃうのに…何かもやもやして…

そんなボクの気持ちが分かったのか…つーちゃんはドアを開けると優しく迎えてくれた。

ボク…そんなに元気が無いみたいに見えたのかな…

つーちゃんの部屋に入ったボクは…いつもみたいにできなくて…扉の先で動けなくなっちゃった…

「ご、ごめんなさい…もう寝る時間…だよね…やっぱり…部屋に戻るね…」

ダメだ…言葉が出てこないよ…でも…

ボクは…ドアを開ける前に振りむいて…つーちゃんに伝えた。

「あのね…ボクは…つーちゃんが大好きなんだよ…誰よりとか比較なんかできないくらい…大好きなの…」

『大好き』…その一言を聞いて…つーちゃんが笑ってくれた…。

それが嬉しくて嬉しくて…笑顔でつーちゃんの部屋を出ることが出来た。

うん。ボク、ちゃんと頑張れる。

明日からの家事に備えて、ボクは眠りについた…。

11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/19(土) 22:44:52.05 ID:QCc0mebi0
7、

 つーちゃんの家を任された朝…ボクは早起きして家事を始める。
朝ごはんの準備に洗濯…それから…熱中症や風邪にならないように冷房の調節と…
何だか、つーちゃんのお嫁さんになれたみたいですごく嬉しい♪

つーちゃんは…お休みの日だと寝坊助さんだから…
御飯のお供に煮込んで美味しくなるおかずを加えて…

うん!今回も完璧♪

まだ少し時間があるみたいだから…ちょっとだけ…つーちゃんの寝顔をチェックしちゃおう
そんなワガママをしたら、また怒られちゃうかもしれないけど、
やっぱり、ボクだけが知ってるつーちゃんを独り占めしたいもんね♪

…って、あれ?つーちゃんの部屋から声がする…話し声?

ゆっくりと少しだけ部屋のドアを開けて様子を見る。
…あれ?つーちゃん…起きてる…それに…ちょっと…怒ってる…?

何で?この時間はいつも寝てるのに…

「…わかった…もう1度だけ話し合おう」

…え?つーちゃん…お出かけしちゃうの?誰と?
ボクは…また心に嫌な言葉が積もっていくのを感じた。

あ、つーちゃんがこっちに来る!
ボクは足早につーちゃんの部屋から離れてキッチンに戻った。

少ししたら…いつもの朝よりシャッキリしているつーちゃんが起きてきた。

「飯は?」
怒ってるのかな…いつもより優しくないよ…

「もう出来てるから、すぐに盛り付けるね」
…出来る限りの笑顔で答えて朝ごはんの準備をする。

「味…どうかな?」
不機嫌に見えるつーちゃんが気になって声を掛ける。

「ん?あぁ…いつも通り」
…何か…いつもより素っ気ないよ…
言いたいけど、言えない…大好きなつーちゃんを怒らせたくない…

「口に合ってるってことだよね?…良かった」
良い方向に解釈して嬉しそうに振る舞う…いつもの明るいボクで居なきゃ…

「あ、そうだ…俺、出かけるから留守番頼むわ」

「え?…あ、うん…分かった」

ボクの顔を見ないで予定だけ告げる…苦しいよ…近いのに…

「つーちゃん、お昼…は外だよね。夕ご飯はどうするの?」
少しでも長く一緒に居たい…お願い…帰ってきて…

「あぁ、たぶん要らない。家の鍵も持ってくからテキトーに留守番だけしてて」

…いろいろな物がどんどん崩れていく音がするよ…何で…こんなに苦しいんだろう…
でも、これはつーちゃんから言われた大切なお仕事だし…でも…

「分かった!…でも、早く帰ってきてね?ボクだって寂しいんだから…」
少しだけ…少しだけでも伝わって欲しくて、わがままを混ぜる…

「分かったよ」
…あ!やっと優しいつーちゃんの声だ!
それだけでもボクは嬉しくなれる。

つーちゃんはその後、身支度を整えると出かけてしまった。

ボクは…掃除と洗濯をして…

家事が終わって朝の残りで作ったおにぎりを食べていたら…
…メールが来ていることに気付いた。


12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/19(土) 22:45:50.01 ID:QCc0mebi0
送ってきたのは…えっと…あ…クラスメートの子…だっけ?

今から会えないか?っていう質問が書いてある。

ボクは大事な留守を任されたんだから、行けないよ。
ちゃんと理由も添えて断る。

…そして、その返信には…また…URLが貼ってあった…。

嫌な予感しかしない…でも…ボクは…またURLをタップする…

そこに映っていたのは…レストランで食事をする2人…

いつかの女の人と……つーちゃん…2人で食事をしている……

何でだろう…ボク…おにぎりのお塩の量…間違えちゃったのかな…

しょっぱいよ…美味しく…ないよ……

床…綺麗にしたのに…水滴が落ちてるよ…お掃除やり直さないと…

ボクはそのメールに返信できなかった。

そしたら…もう1件メールが来た。

「このままだと不幸になるよ」

不幸ってなに?

ボクにとっての幸せはつーちゃんの笑顔を見られること…だから…
一緒に居られるし、幸せなんだよ?

ボクは…スマホを置いて…家事を再開した。

そして…夕方…御夕飯…食べたくないな…1人のご飯は寂しいよ…

スマホを見てもつーちゃんからの連絡は来ていない…

ボク…もしかして…もう…つーちゃんに…

い、嫌だ!そんなの…そんなの絶対に嫌だ!!

ずっと…ずぅっと!つーちゃんのためだけに料理も家事も学校のお勉強も陸上も
つーちゃんの理想通りにクリアして褒めてもらって…

誰よりもつーちゃんと一緒に居ていいって、
つーちゃんに言ってもらえるのはボクだけのはずなのに!

つーちゃん…何でボクに笑いかけてくれないの…何で…今、ボクは1人なの?

涙が…溢れて止まらなくなっちゃったよ…

その時…家のドアが開く音がした!

ボクは涙を拭いて玄関に駆け付けた。

でも、そこに居たのは…つーちゃんだけじゃなくて…女の人が居た。

13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/19(土) 22:47:21.82 ID:QCc0mebi0
8、

 ボクは…つーちゃんが帰ってきてすぐ水分補給できるようにって作っておいた麦茶を…
3つのカップに注いでつーちゃんの部屋に持って行く…

静かなつーちゃんの部屋で…麦茶を飲み音が大きく聞こえる…

ハァ…と女の人の溜息を吐く音が聞こえた…

「秋柴さん…単純に言うわ…綱吉君から離れなさい」

…ヨクワカラナイコトバがキコエタ…

「え?」

何を言っているんだろう…

つーちゃんを見ても…つーちゃんは俯いて目を合わせてくれない…

「聞こえなかったのかしら?綱吉君から離れなさい」

少し強い口調で女の人の声が聞こえる。

「何で?…」

イミガワカラナイ…何で…ボクはつーちゃんでもない人に…
それにつーちゃんと写真に写ってた人に勝手なことを言われているんだろう…

「アナタは綱吉君の重荷なのよ。はっきり言ってジャマ」

…ワカラナイ…ワカラナイヨ…

「つーちゃん…この人…何を言ってるの?分からないよ…」

つーちゃんは俯いたまま…そのとき

ボクの目の前に女の人が出てきた。

「今話しているのは私よ?」

ボクの視界からつーちゃんが奪われる…よく分からない人が目の前に居る…

「し、知らない…ボクは…つーちゃんしか知らない」

シラナイヒトがボクとつーちゃんのジャマをする…嫌だ…怖いよ…
助けて…つーちゃん…

「本当に依存しきってるのね…これは重症なんてもんじゃないわ」

依存?…何それ?

「い、ぞん?」

「そうよ、秋柴さん。アナタは綱吉君に依存して負担になっているの。分からないのかしら?」

「ボ、ボクは負担なんかじゃない!ボクが誰よりもつーちゃんを支えられるんだもん!!」

…『負担になっている』…その言葉だけは許せなかった…許せなかったから…
ボクの声が出てしまった。

「その綱吉君任せが負担なのよ」

「負担じゃない!ボクはつーちゃんの横にずっといて支える存在だもん!」

ボクはそう叫ぶとジャマな人を避けて、ボクらに背中を向けるつーちゃんに抱き着いた。

「つーちゃん…怖いよ…変な人がボクをイジめるよ…」

誰にも邪魔されないくらいピッタリと、
つーちゃんと1つになれそうなくらい抱き着いた。

…でも、抱きしめるボクの手をつーちゃんは…ボクの手を優しく包んでくれる…

嬉しい…やっぱり…つーちゃんは優しい…大好き♪


14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/19(土) 22:52:13.93 ID:QCc0mebi0
「綱吉君?約束したわよね?決着するまで何もしないって…」

後ろから声がする…それを聞いたつーちゃんの手が…離れていく…

なんで?…なんでなの?

分からないよ…つーちゃん…ボクの手を包んでくれないの?

「アナタはこっちに来なさい」

女の人はボクの襟を掴んで引っ張る…
ボクはつーちゃんの手が離れた悲しさで抱きしめる力が弱くなってて…

つーちゃんから引き離されてしまった。

「何で…何で…つーちゃん…ぅ…ぅぅ…」

空になった両手でボクは顔を隠してしまう…何がいけなかったの?

もう何も分からない…ワカラナイ…

何で…ボクはつーちゃんの隣に居たいだけなのに…

「アナタはここに居ちゃダメなの?分からないの?」

女の人がまた声をかけてくる…なんでそんなことばっかり言うの?

もう…頭の中がグチャグチャで考えられない…

「わからない…わからないよ…」

ボクは声に出す言葉も整理できていない…

「なら…ここからいなくなればいいんじゃない?ねぇ、綱吉君?」

女の人はつーちゃんに声を掛ける…なんでつーちゃんに声を掛けてるの?

「……奈那…ごめん…急だけど…今日は帰ってくれないか?」

つーちゃんがボクに声をかけてくれる…嬉しいけど…つーちゃん辛そうだよ?

「なんで?つーちゃん…苦しそうなのに…ボクがちゃんと支えるよ?」

ボクはボクのことより、つーちゃんが辛そうなのが気になるし…こんなときに傍に…

「奈那!…ごめん…今は…ごめん…」

「…分かった。今のボクだとつーちゃんの迷惑になっちゃうんだよね…明日…家事だけしに来るね…」

ボクは…つーちゃんの声で分かるよ…今だけ少し時間が必要…なんだよね?

さっきまで泣いてて視界がぼやけてるけど…ボクは立ち上がって…歩き出した。

何度も通っているつーちゃんの家…見えなくてもどこにもぶつからず玄関にたどり着けるよ。

靴を履いた瞬間…ボクは…割り切れない気持ちと…つーちゃんの辛そうな声が耳から離れなくて…

そんな音や心を誤魔化したくなって…玄関から飛び出し…走り出していた…

行く宛なんて考えてない…切れる息…グチャグチャの頭…ただなんとなく走っていた…

ふと…目の前を見たらボクとつーちゃんの高校が見えた。

あの校門…あそこでつーちゃんを待つのが大好きで…

ボクは走るのをやめて…ゆっくりと歩きだす。

校門で待ってるときのドキドキ感…つーちゃんを見つけたときの嬉しさ…

高校に入って…まだ数か月だけど…嬉しい思い出がたくさん出てくる。

ちょっとだけ…校門で待ってたいな…つーちゃんはきっと来ないけど…

つーちゃんと話したこと…つーちゃんの笑顔…つーちゃんの腕に抱き着いたときの感触…

1つ1つ思い出して…またボクはつーちゃんが好きだって実感する…

もう少しで校門だ…もうちょっとで…いつもの……


そのとき…聞こえてきたのは…すごくうるさいキキーーッていう音と……

15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/19(土) 22:57:40.59 ID:QCc0mebi0
Last、

 新学期が始まった。
始業式の日…2学期のクラス目標は交通安全に決まっていた。
理由は…よく知っている。

とある夜に学校の近くでひき逃げ事件があった…
被害者は即死…死体は引き摺られたりもしてグチャグチャでどうにもならないくらいの惨状だったらしい…。

クラスの机の1つに飾られている花…

…その場所は…私の友達の机だ…。

しかも…この花を添えたのは担任の先生じゃない…それも知ってる。

私は1つ上の先輩たちが朝早くに教室に来て花を供えているのを見ていた。

奈那ちゃん…私の名前を覚えてくれなかったね…


いや、『つーちゃん』という名前以外…


ほかのクラスメートも先生ですらも『名前』で呼んでいなかったよね…


陸上部に入ればエースになっていたかもしれないのに…
好きな人と一緒に帰りたいからと誘いを断って帰宅部を選んだ不思議な奈那ちゃん…

その好きな人のために自分の人生を全部使って、
その人の理想のパートナーになろうとずっと足掻いていることを教えてくれた健気で可愛い奈那ちゃん…

私は大好きだけど…私は…奈那ちゃんの友達に…なれていたのかな?

私が…あの日、2人を見つけて…写真や動画を送らなければ…また違う結末だったのかな…

花を添えた人たちは、クラス公認のカップルになったって噂だ…

男の人は前よりかなり暗くなってて、女の人の方が支えているという話が聞こえてくる…

あの人たち…どう思って付きあっているんだろう…

自分のことを「ボク」って言って可愛く笑って…いつも全力で元気に走り回る…そんな子を…

好き勝手振り回して…依存してると決めつけた女の言葉に言いくるめられて…切り捨てようとした…

私は…部外者だけど…部外者だからと…このまま…これからも…無視してていいのかな…

ううん…無視なんて出来ない…大好きな奈那ちゃんのために…私は何をしてあげれば…

半端な手伝いで苦しめてしまったかもしれない…そんな彼女に報いる方法……

ふと…奈那ちゃんの机に飾られた花が目に入る…

あれ?…この花って…気になって…スマホで花言葉を調べてみる。

やっぱり…これ…こんな…死んでも…更に追い打ちをするの?…あの先輩…

…奈那ちゃん…私のやるべきことが決まったよ。

奈那ちゃんは許さないかもしれないけど…私が仇を取ってあげるね。

私は勝手な誓いを花が添えられた席に向け…あの2人にぶつける言葉を考え始めた…

先輩たちだけは…


絶対に幸せになんてしてあげないんだから



FIN