ほむら「それは、もう一つの結末」 前編

401: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/28(日) 14:53:28.44 ID:u2bPc+Bdo
ほむら「……あるわ。あいつには。
とても看過出来ない……絶対に許せない目的が、ね」


チロッ……


マミ・さやか『!』

私は、自分の瞳に深い憎悪の炎が宿ったのを感じた。

さやか「そ、その目的って……何さ?」

引用元: ほむら「それは、もう一つの結末」 

 

402: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/28(日) 14:57:06.65 ID:u2bPc+Bdo
ほむら「…………」

躊躇する気持ちはあるが、ここまで来たら話すべきだろう。

中途半端に喋って肝心な部分を黙ったままだと、彼女達に逆に不信感を与えるだけになってしまうと思う。

ほむら「……話しても良いけど、少し難しい話になるわよ?」

403: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/28(日) 14:58:56.27 ID:u2bPc+Bdo
さやか「げっ!?
……ま、まあ、知らずにそのままってより、聞いたけど理解出来ませんでしたーって方がまだマシかな」

マミ「ふふ、美樹さんたら理解出来ない事が前提になってる」

さやか「いやー、あたし頭には自信が無くてさぁ」

頭をかきながら笑う美樹さやかに巴さんは苦笑すると、すぐに表情を引き締めて私に言った。

マミ「──構わないから、聞かせて貰えるかしら?」

ほむら「……わかったわ。
あいつ、キュゥべえは……」

408: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/28(日) 22:06:02.91 ID:u2bPc+Bdo
─────────────────────

私は、キュゥべえ……インキュベーターの真意を懇々と説明した。

魔法少女達に一見親切な態度を取っているが、奴には決して情など無い事。

インキュベーターは宇宙を存続させるエネルギーを集める為に動いており、
その為には思春期の女の子の感情エネルギーを利用するのが一番効率的らしいという事。

彼女達を利用するその対価として、目を付けた女の子達の願いを一つだけ叶えてやり、
魔法少女という存在にして『逃げられなくしている』事……

など、だ。

409: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/28(日) 22:07:05.40 ID:u2bPc+Bdo
─────────────────────

マミ「…………」

さやか「…………」

私の話が終わった後、二人はしばらく絶句していた。

マミ「……信じられない……」

ようやく絞り出せたのだろう、巴さんの言葉は掠れていた。

410: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/28(日) 22:10:22.62 ID:u2bPc+Bdo
ほむら「事実よ。
細かい所は私が個人で解釈した部分もあるけれど……
あいつは自分の目的の為に沢山の子を犠牲にしてきたし、今もしようとしているのは間違いない。
これは昔、キュゥべえ自身の口から聞いたのだから」

マミ「キュゥべえ……
……インキュ、ベーター……」

ほむら「──そろそろ暗くなってきたわね」

ソウルジェムの秘密や、魔女と魔法少女の関係……

それらはまだ話していない。

これは時間が遅くなってきたというのもあるし、
今あまりに沢山の話をしても二人を混乱させるだけだと判断した為だ。

411: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/28(日) 22:12:32.01 ID:u2bPc+Bdo
ほむら(特にその二つに関しては、キュゥべえの正体よりもショックが大きいでしょうからね)

二人がその事実を知ってから、壊れてしまった世界も沢山あった。

だから、私の感情を抜きにしても、これらに関してだけは話す機会自体が無い方が最善だと思う。

……出来れば、彼女達に余計な動揺を起こさせないままワルプルギスの夜戦に挑みたいのだが……

ほむら(本当は、こんな事よりも先にワルプルギスの夜の話をしたかったのに……
さすがにすべてが思い通りにはいかないものね)

412: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/28(日) 22:15:04.45 ID:u2bPc+Bdo
マミ「……でも、暁美さん。貴女は……」

さやか「──そうだね、もうこんな時間か。
あたしそろそろ帰らせて貰うわ」

何やら言いかけた巴さんの言葉を美樹さやかの声が遮ると、彼女は立ち上がった。

さやか「何か色々聞きすぎて頭こんがらがっちゃった。
エントロピーだっけ? ははっ、宇宙を救う為ときたもんだ」

ほむら「美樹さん……」

413: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/28(日) 22:17:57.46 ID:u2bPc+Bdo
さやか「うーん、あたしの頭じゃやっぱよく理解出来ないや。
家で整理してみるよ」

ほむら「……大丈夫?
やっぱり、話さない方が良かったのかしら……」

これがきっかけでまた仲間割れが起こったり、彼女のソウルジェムが穢れてしまったりしたら……

さやか「ん?
ははっ、そんな心配げな目で見んなよ。
そりゃぁあたしは頭良くないけどさ、まあ帰って何とかまとめてみるって!」

しかし、そんな私をよそに美樹さやかは明るく笑って私の肩を叩いた。

414: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/28(日) 22:20:31.61 ID:u2bPc+Bdo
ほむら(安心した……
この様子だと、少なくとも今すぐにどうにかなりはしなさそうね)

さやか「あんたは、まだまどかを?」

ほむら「ええ。
キュゥべえはあまり遅い時間には現れないから、それまでは……」

さやか「そっか。付き合えなくてすまんね」

ほむら「問題無いわ。家の人を心配させてはいけないもの」

415: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/28(日) 22:22:36.84 ID:u2bPc+Bdo
さやか「うん。
……ってマミさん、どうしたんですか? ボーっとして」

マミ「えっ?
あ、いえ……」

美樹さやかに声をかけられた巴さんは、一瞬驚いたように肩を揺らすと、視線を逸らした。

さやか「って、まあしょうがないか。
衝撃的な事実すぎるし、マミさんは特にキュゥべえと仲良いからねぇ」

マミ「……ええ、そうね」

416: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/28(日) 22:23:57.55 ID:u2bPc+Bdo
ほむら(美樹さやかよりも、巴さんの方が話すべきではない相手だったのかも……)

彼女が魔女化した例を私は知らないので、そちらの面での心配はしていなかったのだが……

ほむら(失敗した、のかしら)

一瞬彼女の破滅が頭に浮かんで私の胸の鼓動が早くなるが、それで今更どうにか出来るはずもない。

ほのかに後悔を感じる私を残し、美樹さやかと、どこか気落ちした様子の巴さんは帰って行った。

421: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 18:32:29.07 ID:DeIAqPdno
─────────────────────

気が付いたら、私はベッドの上で寝ていた。

ほむら「……?
──!!!」


ガバッ!


寝起きの為に一瞬物を考える事すら出来なかったが、私はすぐに意識を覚醒させて上半身を起こした。

この辺りは、魔法少女をやっている賜物だろう。

422: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 18:38:30.71 ID:DeIAqPdno
ほむら(ここはどこ? 私は一体……?
自分で移動した? 誰かにさらわれた?)

……ん?

ゆっくりと、この場所を見回してみる。

綺麗に整頓されておしゃれな家具の置かれた、良い香りのする素敵な雰囲気の部屋。

今は夜で明かりはついていない。

しかしその分、大きな窓とカーテンの隙間から僅かに入ってくる月明かりが、その雰囲気をより高めていた。

この部屋自体は足を踏み入れた覚えは無いが、確かに知った空気の場所だ。

423: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 18:40:50.99 ID:DeIAqPdno
ほむら(ここは……)


ガチャッ。


私が結論を出してベッドから抜け出そうとした時、ドアが開いて一つの人影が入って来た。

ほむら「……巴さん」

マミ「気配がしたからもしかしてと思ったんだけど、やっぱり目が覚めたのね」

彼女は優しい笑顔を浮かべると、部屋の明かりをつけてドアを閉め、私のすぐ横に座った。

424: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 18:43:52.88 ID:DeIAqPdno
ほむら「これは……一体?」

私は言いながら掛け布団から出て、巴さんの隣に腰掛ける。

マミ「ふふ、ごめんなさい。ビックリさせてしまったわよね」

ほむら「ここは貴女の家の一室で良いのよね?」

マミ「ええ。私が運んだの」

……話によると、私と別れて何時間か後──
私に聞きたい事があり、巴さんはまどかの家の屋根に戻ってきたらしい。

そこで見たのは、倒れている私。

慌てて駆け寄るも、怪我をしている様子も戦闘があった形跡も無い。

425: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 18:46:23.10 ID:DeIAqPdno
マミ「暁美さん、ずっと根を詰めすぎていたじゃない?
だから疲労で倒れちゃったのかなって思って、勝手ながらここへ運ばせて貰ったの」

ほむら「根を詰めすぎ……?
そんな事は……」

マミ「あるわ。あったの」

……確かに、ここ最近体が重かったが……

けれど、疲れただの何だのと言っている余裕は無い。


タッ。


私は立ち上がる。

426: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 18:47:13.19 ID:DeIAqPdno
しかし、


フラッ……


ほむら「っ……!」

足に力が入らず、私は再びベッドに座る事になった。

427: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 18:51:19.78 ID:DeIAqPdno
マミ「ああっ、駄目よ。
まだゆっくりしていないと」

ほむら「でも……」

マミ「鹿目さんなら大丈夫よ」

ほむら「えっ?」

マミ「ほら、暁美さん言ってたじゃない?
あまり遅い時間にはキュゥべえは現れないって」

ほむら「ええ……」

マミ「今は深夜だから、もう大丈夫だと思うんだけど……」


チラッ。


横を向く巴さんの視線を追うと、その先に時計があった。

──午前2時13分。

ほむら(気を失っている間に、日付が変わっていたのね……)

なるほど、これならば確かに問題は無いだろうが……

428: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 18:52:23.43 ID:DeIAqPdno
ほむら「じ、自分で一目でも確認しないと……」

安心出来ない。

私は再び立ち上がろうとしたが、


クラッ……


激しい立ちくらみの為、今度は腰を数センチ浮かすだけしか出来なかった。

429: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 18:53:19.59 ID:DeIAqPdno
ほむら「う……」

マミ「ほらほら、無理はしちゃダメよ」

ほむら「でも……」

マミ「ダ メ」

唇を突き出して少し怒ったように言いながら、巴さんは私を布団の中に戻した。

ほむら「…………」

……まあ良いか。

430: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 18:55:19.86 ID:DeIAqPdno
経験上、この時間にまどかが起きている事は考えられない。

キュゥべえは狙った子を魔法少女にする為にあの手この手を使い、立ち回って、
逆にその子から頼んでくるように誘導するが、
無理に迫ったり強行したりは、あいつの言う所の『ルール違反』で厳禁らしい。

これに関しては嘘ではないようで、そのルールとやらを破る動きをした事は、私が知る限りは一度も無い。

だから、もしこれからキュゥべえが動いたとしても、
今晩まどかに手を出す可能性はゼロだと断言しても良いはずだ。

とすれば、ここは休息を優先させるべきだろう。

431: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 18:57:15.84 ID:DeIAqPdno
ほむら(でも……)

私は、嬉しいような切ないような……不思議な気持ちを覚えていた。

ほむら(こんな風に、優しく叱られたのはいつ以来かしら)

様々な相手と腹の探り合いをしたり、憎まれたり罵倒されたり……

そういった事には慣れてしまったけれど。

その分、忘れかけているものも確かにあって。

432: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 19:01:50.95 ID:DeIAqPdno
ほむら「…………」

マミ「ふふっ、そう。今ぐらいゆっくりしましょうよ」

巴さんは、ベッドに横たわる私の頭をそっと撫でた。

ほむら(……この時間軸では、
ワルプルギスの夜戦までにゆっくりと体を休められる最後のチャンスになるかもしれないし……)

そのあまりの心地良さに自分のすべてを任せてしまいそうになるが、ふと思い出して私は問うた。

433: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 19:04:10.92 ID:DeIAqPdno
ほむら「……ねえ」

マミ「なあに?」

ほむら「それで……私に聞きたい事って何だったのかしら?」

巴さんの手が止まった。

マミ「うん……
……気にしないで」

ほむら「?
わざわざ私の所に戻ってきてまで聞きたかった事でしょう?」

マミ「…………」

ほむら「……まあ、無理に話せとは言わないけど」

呟いて、私は目を閉じた。

434: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 19:11:03.74 ID:DeIAqPdno
マミ「……たは」

ほむら「……?」

耳に届いた微かな声に、私は再び目を開ける。

マミ「貴女は、何者なの?」

そこには、先程までの優しい表情をした女の子は居なかった。

マミ「どうしてそんなに……私も知らない事を沢山知っているの?」

思い詰めた昏い瞳で、巴さんは私を見る。

435: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 19:13:19.30 ID:DeIAqPdno
ほむら(あっ……!)

まずい。

一瞬で、まどろみが消えた。

この瞳は見た事がある。


マミ『みんな死ぬしかないじゃない!』


ほむら(あの時と同じ……!)

反射的に変身しそうになったが、今は巴さんも魔法少女ではない。

刃物を隠し持っている風でもないので、万が一襲い掛かられても即死させられたりはしないはずだ。

ならばここは刺激を与えるような行動は取らず、彼女の動きを注意するに留めておくのが最善だろう。

436: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 19:14:37.69 ID:DeIAqPdno
ほむら「……私を信用出来なくなった?」

マミ「初めから信用なんてしていないわ!」


ぐっ。


巴さんの、私の頭を触る手に力が入る。

437: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 19:16:40.88 ID:DeIAqPdno
マミ「ずっと自分の手の内は見せず、私の友達だったキュゥべえを憎んでいて、殺そうとまでしていた。
そして昨日は本当に……!」

ほむら「……そう。
まあ、私自身が最初から、貴女とはお互いを利用するだけの関係だと言っていたもの。
信用しないのは正解よ」

彼女の言葉に酷くショックを受ける自分が居たが、それに呑まれる訳にはいかない。

冷静に、冷静に。

冷静にここを切り抜けるのだ。

こんなの慣れている。

大切なのは、折角ここまで生き残ってくれた『戦力』をこんな所で失わない事。

438: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 19:17:19.82 ID:DeIAqPdno
ほむら「私だって……」

──貴女なんて信用していなかったもの──

439: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 19:18:15.59 ID:DeIAqPdno
マミ「でも!」

私が最後まで言うのを許さず、巴さんが叫んだ。

マミ「でもっ! 信じてるの!」

ほむら「……えっ?」

440: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 19:20:13.30 ID:DeIAqPdno
マミ「私、暁美さんの事信じてるのにっ! でも、キュゥべえだって信じてて……
けど、信じられなくなって……!」

ほむら「何を……言っているの?」

支離滅裂すぎて理解出来ない。

マミ「そうよね。意味、わからないわよね。
私だってわからないんだもの……!」

ほむら「──とりあえず、落ち着いて話して貰えるかしら?」

刺激させないように、丁寧に言った。

441: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 19:22:29.43 ID:DeIAqPdno
マミ「……最初の頃の暁美さんの言動だけ見ていたら、とても信用なんて出来ないわ」

ほむら「……ええ」

そう、でしょうね。

あの時は、まだ誰も信じようとすらしていなかったので、自分でも態度が悪すぎたと思う。

マミ「でも、どうしても悪い人には見えなくて、仲良くなれたらなって思った」

ほむら「信用……出来ないのに?」

442: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 19:25:05.82 ID:DeIAqPdno
マミ「だって暁美さん、寂しそうな瞳をしていたんですもの」

ほむら「!
…………」

マミ「刺々しい態度を見せる時も、普通に会話をしている時も、一人で歩く時も……
いつもそう」

ほむら「…………」

マミ「初めはね、縄張り争いとかに興味の無さそうな……変わった魔法少女がやって来たなって思ったの。
今にして思えば、嘘を吐いていた可能性も考えるべきだったのかもしれないけれど、
不思議と貴女にはそんな発想すら持てなくて……」

少し落ち着いてくれたのだろうか。

彼女の口調に、冷静さが戻ってきた。

443: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 19:27:48.85 ID:DeIAqPdno
マミ「ショッピングモールでキュゥべえを殺そうとした時は、正直言って本気で貴女を倒そうかと思った。
……でも、暁美さんのその寂しげな瞳がちらついてどうしても出来なかったわ」

チカッと、部屋の明かりが一瞬揺れた。

マミ「……私はね、キュゥべえの事が好きだった。
ずっと、ずっと一緒に居てくれた大切な友達だもの」

ほむら「……ええ」

マミ「だからあの時は本気で……殺意を覚えたのに。
不思議ね。そんなもの、すぐに消えてしまったわ」

巴さんは困ったように笑うと、少しだけ俯く。

444: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 19:30:20.73 ID:DeIAqPdno
マミ「それからも毎日が過ぎていって、美樹さんが魔法少女になって、
暁美さんもどんどん優しくなっていって、優しくしてくれて……」

ほむら「優しく?……そんな事ないわよ」

マミ「あるわ。
ここだけの話、美樹さんも言ってたもの。
──ふふっ。嬉しかったし、楽しかったなぁ」

ほむら「……そう」

自分としては、人への態度を変えたつもりはないし、変わったとも思っていなかった。

だけど、こういうものは自分自身より周りの人の方がよく理解していると聞くので、きっとそうなのだろう。

445: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 19:34:24.20 ID:DeIAqPdno
マミ「でも、苦しくもあった。
暁美さんは変わらずキュゥべえを憎んでいるみたいだし、どうしてみんなで仲良く出来ないのかなって……」

ほむら「……ごめんなさい」

マミ「あっ──
違うの。暁美さんを責めているんじゃなくて……
年長者だし、こういうのは私が何とかしないとって……でも、何の方法も思い付かなくて……」

446: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 19:36:12.75 ID:DeIAqPdno
……やはり、彼女は巴さんだ。

責任感が強く、

マミ「もう、こんな関係を失いたくないって思ってるのに……」

大切なものを守る為には、自分がどれだけ苦しんでも、とことん・どこまでも頑張ろうとする人。

ほむら(ただ、その苦しみの原因の一端は私ね……)

でも、こればかりはどうしようもない。

あんな奴と仲良くなんて……

ほむら(出来ない!)

447: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 19:38:41.01 ID:DeIAqPdno
マミ「……そして、昨日という日が来たわ」

昨日。

巴さんが佐倉杏子と交戦し、まどかとキュゥべえが出会い、私がキュゥべえを『殺した』日。

マミ「その瞬間、また激しい殺意に襲われたわ。暁美さんの事、大好きなのに。
でも、殺されたはずのキュゥべえがなぜかまた現れて、自分の死体を食べ始めて……
私、キュゥべえだって大切に思ってたのに、この時はあの子が得体の知れない化け物に見えて、気持ち悪いなって……
私、酷いなって……」

片手で頭を抱え、呻くように言う巴さん。

448: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 19:41:25.39 ID:DeIAqPdno
マミ「……それで、暁美さんからキュゥべえの話を聞いて、何を信じて良いのかわからなくなってしまった。
暁美さんを信じたいのに、あの子と過ごした日々が忘れられなくて……
でも、キュゥべえのあんな姿を見たり……聞いたりしたら、もう信じられなくて……」

ほむら「巴さん……」

449: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 19:44:00.11 ID:DeIAqPdno
マミ「ねえ、キュゥべえは本当に私達を……私を利用しているだけなの?
暁美さんも……本当、に?」

頭を抱えながら私を見つめる彼女の表情が、激しく歪む。

マミ「そんなの……嫌よ……」

ほむら「あ……」


じゃりっ……


自身の髪の毛の中に埋まる巴さんの指先から、悲しい音がする。

450: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 19:49:13.04 ID:DeIAqPdno
ほむら「ごっ、ごめんなさい。
違うわ、違う。キュゥべえはともかく、私は……」

私は、これまでの自分の行動そのものが間違っていたとは思わない。

感情的になっても碌な結果にはならないし、過去を踏まえて冷静に動いてきた自信がある。

けれど、それは人の……彼女の気持ちを無視したものであるのも違いないし、
どんな目的があったとしても、彼女を傷付けて良い理由にはやはりならないのだ。

大体、間違っていないからといって、それが正解だとも限らない。

きちんと周りを俯瞰して立ち回っていたつもりだったが、
私だって自分の目的に囚われて視野が狭くなり、いつの間にか頑なになっていたのだろう。

451: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 19:50:44.12 ID:DeIAqPdno
ほむら(そうならないように注意してきたし、『理解』もしていたはずだったけれど……)

今更、それを『実感』した。

452: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 19:53:07.90 ID:DeIAqPdno
ほむら「私は……っ、違うの。あんなの嘘よ。本心じゃない」

後悔に、噛み締めた奥歯が熱い。

マミ「暁美さん……」

ほむら「だから……ごめんなさい」

いつしか肩を軽く震わせてまぶたを押さえる彼女に、私はそっと寄り添った。

マミ「よかった……
……よかったぁ」

そんな私に、巴さんは潤んだ瞳で寄りかかる。

453: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 19:54:54.16 ID:DeIAqPdno
──しばし、そのままの体勢で時間が過ぎてゆく。

巴さんの体温は、とても暖かかった。

454: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 19:56:54.51 ID:DeIAqPdno
マミ「……ごめんね。
私、自分勝手な理由でこんなに悩んで……」

ほむら「いいえ。
こういう事でここまで悩めるのは、貴女が優しいからよ」

マミ「えっ?」

ほむら「優しいから、人を信じられない自分に悩み・苦しんでいるのよ」

マミ「ふふっ。私はね、ただ自分本位なだけ。
自分が大切に思っているものはすべて失いたくないだけよ」

ほむら「それの何が悪いの?
誰だって大切なものは守りたいわ。
私だって同じだもの」

貴女と……同じだもの。

マミ「暁美さん……」

455: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 19:59:50.42 ID:DeIAqPdno
ほむら「もしそれを咎める者が居たら、私が許さない」

マミ「…………」

ほむら「だから、辛い時は愚痴でも何でも零すと良いわ。
それはもちろん私相手でも良いし、私が信用出来なければ美樹さんでも良い」

マミ「そんな……でも、私は……」

ほむら「歳上だとか先輩だとか、そんな事は気にしなくても良い。
貴女は強すぎるのよ」

456: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 20:02:49.60 ID:DeIAqPdno
マミ「うふふっ、冗談はやめて。
私は強くなんか……」

ほむら「強いからこそ、苦しい思いを溜め込んでしまう。
いえ、『溜め込めて』しまう」

そうなのだ。だからこそ、一度たがが外れてしまうと止められなくなる。

『溜め込めて』しまった、膨大な負の感情を。


マミ『みんな死ぬしかないじゃない!』


今でも忘れられない、最悪の悪夢の一つ。

私がかつて潜り抜けた世界で、
魔法少女がやがて魔女になるのを知り、深い絶望に囚われて仲間を撃ち殺した巴さん……

私はもう、あんな彼女を見たくない。

457: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 20:05:49.64 ID:DeIAqPdno
ほむら「でも、どんなに強い人でも限界はあるもの。
だから、溜め込む事が出来てしまった沢山の……沢山の苦しさや辛さが爆発した時に、
他の人よりももっと苦しくなるのよ」

マミ「…………」

ほむら「私は……」

ずっと、ずっと思っていて、でも心の奥底に押し込んできた気持ち。

458: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 20:07:46.48 ID:DeIAqPdno
ほむら「そんな悲しい強さを持って頑張る、巴さんの力になりたい」

貴女を一番には出来ないけど。

ほむら(でも)

でも、少なくとも今は。

マミ「……かなぁ」

今、この瞬間だけは。

マミ「すがっちゃって……良いのかなぁ……?」

私のすぐ隣で、子犬のように震えているこの人を──

459: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 20:08:42.70 ID:DeIAqPdno
ほむら「良いのよ」


ぎゅっ。


他のすべてを忘れて、抱き締めてあげたいと思った。

460: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 20:10:27.63 ID:DeIAqPdno
マミ「──う、ぁうぅ……」


ぎゅっ……!


ほむら「今だけは、辛い思いをすべて吐き出して」

マミ「うぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

……巴さんは、私の胸の中で泣いた。

464: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 22:55:11.60 ID:DeIAqPdno
─────────────────────

マミ「……ごめんなさい。みっともなく泣いちゃって……」

ほむら「何言っているの。
泣きたい時は泣けば良いのよ」

マミ「……私ね、昔、事故で両親を無くしたの。
それ以来、ずっと一人で暮らしてきたわ。
寂し……かった」

──その辺りの事情は、遠い過去の時間軸で少しだけ聞いた記憶があった。

465: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 22:56:53.40 ID:DeIAqPdno
マミ「でも、そんなの人に話したってどうにもならないし、魔法少女の事なんてもっとそう。
だから、一人で頑張らなきゃって。辛くても何とかやって来たわ」

ほむら「……貴女は、どうして魔法少女に……?」

これも、知らない訳ではない。

だが、

ほむら(上から見た考えなのかもしれないけれど……)

こうして彼女の話を聞く事で、彼女の苦しみを少しでも楽にしてあげられないか、背負ってあげられないかと──

ただ純粋に、そう思ったのだ。

466: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 22:57:32.43 ID:DeIAqPdno
マミ「聞いて、くれるの?」

ほむら「ええ。話してくれるのなら」

マミ「……あのね……」

巴さんが、ゆっくりと語り始めた。

467: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 23:00:18.12 ID:DeIAqPdno
……………………

…………

マミ「その日は、家族と一緒に車に乗っていたの。

そして──事故にあった。

死ぬ直前だったのでしょうね。

大怪我をしていたはずなのに、痛みもほとんど感じずに薄れゆく意識の中、
私は視界の端に映った影に言っていたの。

『助けて』って。

それで私は助かったわ。

でも、家族は皆死んでしまった。

私は深く後悔したわ。『みんな助けて』と頼んでいれば、全員助かったはずなのに……」

468: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 23:02:12.29 ID:DeIAqPdno
……………………

…………

ほむら「そんな……
だって、話を聞く限りだとその時はほとんど無意識だったんでしょ?」

マミ「そうね。頭で考えて言ったのではなく、無意識の内に口から言葉が出ていた」

ほむら「なら……」

マミ「──でも、だからこそ本心が出たのよ。
自分の事しか考えていない、醜い自分の本心が……」

ほむら「だとしても、そうだとしても……
自分が助かろうとして助けを求める事が間違いだなんて、醜いだなんて私は思わない。
だって、そんなの仕方ないじゃない」

マミ「……ありがとう。
──こうして、私は魔法少女として生き始めた。
言葉通り、人生変わったわね」

469: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 23:04:35.39 ID:DeIAqPdno
……………………

…………

マミ「その結果、周りの色々な人達との関係が徐々に疎遠になっていった。

勉強をして、生活もして、魔法少女としての使命も果たす。

それらが忙しくて時間が無かったというのもあるけど、何より私には資格が無かったから。

だって、私は大切な家族を見捨てたんだもの。

そんな人間に、人と付き合う……人と親しくなったり、仲良くする資格なんてある訳ないでしょう?

……でも、勝手なものね。たまに別の魔法少女と出会う時があったけれど、彼女達とは『絆』を求めてしまった。

クラスメートとかだと、話しかけてくれてもつい逃げちゃうのにね。

まあ、それで絆が出来た事は無かったし、出来かけても結局最後には壊れちゃったんだけど」

470: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 23:06:02.94 ID:DeIAqPdno
……………………

…………

マミ「──ともあれ、そんな中こうして生き残っている……
生き残ってしまったのが私、巴マミ」

ほむら「…………」

471: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 23:07:56.19 ID:DeIAqPdno
そうだ。それで巴さんは……

人を強く求めているのに、それを表に出さない。出せない。

離れていく人に未練があれど、すがりついてその人を止める事も出来ない。

結果、さらに孤独になってゆく──

そんな、不器用な生き方しか出来なくなったのだ。

彼女の苦しみがどれほどのものだったか、もちろん私にはわからない。

ほむら(でも、想像ぐらいなら出来るもの……)

472: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 23:11:56.41 ID:DeIAqPdno
マミ「私ね、頑張ってきたつもり。
この程度で自分の罪が許されたとも、何かを成せたとも思っていないけど……
やれる事は精一杯頑張ってきたつもりよ」

その通りだろう。彼女が、常に何事も全力で取り組んでいたのは見ていて十分に伝わっていた。

その様は、自分を痛めつけているようで痛々しく感じる事もあったが……

473: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 23:15:12.00 ID:DeIAqPdno
マミ「って、私は駄目な子だから、失敗も沢山してきたけど……ね……」

ほむら「失敗するなんて、人間なら当然じゃない。
大体、巴さんが頑張る事によって救われた人は絶対に居るはずだもの。
そんな貴女が駄目な訳はないわ」


ぎゅっ……


そっと、私は再び巴さんを抱き締めた。

474: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 23:20:26.80 ID:DeIAqPdno
しかし、

マミ「ううん。
私が不甲斐ないせいで、魔女にターゲットにされたり、結界に迷い込んで魔女に呑まれてしまった人達を……
必死に助けを求める小さな子を、助けられなかった時だってあるのよ?」

そう言う巴さんはとても悲しそうで、苦しそうで。

マミ「私の頑張りなんて……そんなものよ」

ほむら「…………」

475: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 23:29:43.04 ID:DeIAqPdno
マミ「でも、でもね。
こんな私だけど、自分の事を理解してくれる人がずっと欲しかった。
その人に側に居て貰って、甘えたかった」

ほむら「……こうして甘えられる相手が出来たのだから、甘えれば良いじゃない。
貴女にはその資格がある。
例え貴女が否定しても、私が認める。
巴さんは、それが許される」

……私とは違って。

私は巴さんと違って──彼女はああ言ったが──、誰かを助けられた訳でも何かしらの結果を残せた訳でもない。

ほむら(そんな私が人に甘える事こそ、許されない……)

ほのかに寂しさを覚えた。

476: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 23:32:40.32 ID:DeIAqPdno
……だが、

マミ「暁美さん……」


ぎゅっ。


潤んだ瞳で私を見つめ、抱き付き返してくる巴さんの暖かさを感じると、そんな寂しさなどすぐに消えていた。


とくん。


ほむら「……あと、過去の自分の頑張りを否定するような事を言うのはやめなさい。
そんなの、これまで精一杯生きていた自分自身に失礼だし、可哀想よ」

マミ「!」

477: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 23:34:27.88 ID:DeIAqPdno
ほむら「それと……生き残ってしまった、なんて言うのも。
貴女は『生き残ってしまった』んじゃない。
『生きている』の」

マミ「……あ……」

ほむら「だから、ね?」

マミ「……うん。
うんっ……!」

私の胸の中、向けてくる彼女の表情は笑顔のようであり、泣いているようであり……

様々な感情が混じって、不思議な魅力を醸し出していた。

478: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 23:36:22.40 ID:DeIAqPdno
マミ「ふふっ……
私ね、ずっとこんな風に抱かれて、優しい言葉をかけて貰いたかったの。
嬉しいな」

ほむら(…………)


とくん、とくん。


……参ったわね。

彼女の悲しさ、苦しさを少しでも和らげられたらと思っていたのだが、
巴さんにこうされる事で私自身も救われているようだ。

憧れ・尊敬している人にすがられて、甘えられて……

肌と肌で感じるぬくもり。

ここではない世界で、憎悪されて殺し合いすらした事もある分、これはとても甘美だ。

479: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 23:37:58.21 ID:DeIAqPdno
ほむら「巴さん……」


ぎゅっ。


マミ「ん……」

ほむら「……巴さん」

マミ「うふふ、あったかい……」

彼女は、私の胸の中で気持ち良さそうに顔を軽く振る。


とくん、とくん、とくん。


……何だか、不思議な気持ちだった。

480: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 23:40:23.68 ID:DeIAqPdno
どうして巴さんはこんなに暖かいのだろう? 良い香りがするのだろう?

ほむら(なんで、彼女にこうしてあげる事が……
こうされるのが。
ここまで心地良いのかしら……?)

かかる吐息に、触れる柔らかな身体、髪の毛。

強く私の中に入り込んで心を侵食していく、濃厚な、巴マミという存在。

481: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 23:41:53.04 ID:DeIAqPdno
ほむら(……彼女の唇って、こんなに柔らかそうだったかしら……?)

もっと、したい。

ほむら(えっ?)

……何を?

ほむら(これって……
私は、私のこの気持ちは……)

何、だろう……?

482: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 23:44:12.64 ID:DeIAqPdno
マミ「──ねえ、暁美さん」

巴さんが、ぽつりと口を開いた。

ほむら「な、何?」

マミ「暁美さんは、何を苦しんでいるの?」

ほむら「……!」

マミ「貴女が私の力になりたいと言ってくれたように、
私も暁美さんの抱えている苦しみを少しでも背負えないかしら?」

ほむら「…………」

マミ「私も、貴女の力になりたいわ」

抱き合ったまま、顔だけを離して見つめてくる巴さんのとても純粋な瞳と、私の瞳が交錯した。

483: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 23:46:11.39 ID:DeIAqPdno
ほむら「…………」

──私に、そんな資格あるのかな──

私は巴さんと違って、何も出来ていないのに。

──彼女の差し伸べてくれた手を、取っても良いのかな──

巴さんの視線を受けながら、私の心は激しく揺れていた。

484: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 23:51:53.21 ID:DeIAqPdno
マミ「……やっぱり、私じゃ駄目なのかしら……」

ほむら「!」


ズキンッ。


俯き、悲しげに表情を歪めた彼女の姿を見た時、私の胸が大きく痛んだ。

ほむら「いいえ、そんな事は無いわ」

何を迷っているのだ。

私はまた、彼女を傷付けるつもりなの?


ほむら『……こうして甘えられる相手が出来たのだから、甘えれば良いじゃない』


そう言ったのは、ついさっきの自分だろう?

それに、本当は私だって誰かに……

485: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 23:53:34.92 ID:DeIAqPdno
ほむら(……甘えたい)

一人でずっと戦い続けるのは、辛い。

決して崩れない頑強な心の支えはあるが、
それだけではやはり苦しいに決まっている。

そして、そんな私を甘えさせてくれるのが巴さんだなんて……

486: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 23:55:34.91 ID:DeIAqPdno
ほむら(……最高じゃないの)

ならば、私の取るべき行動は決まっているではないか。

ほむら「あっ、あのね、実は……私は──」

487: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 23:56:56.42 ID:DeIAqPdno
マミ「っ!?」


バッ!


突然、巴さんが部屋で一番暗い所へと顔を向けた。

そこには──小さな影一つ。

ほむら「……!」

488: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/07/31(水) 23:59:06.02 ID:DeIAqPdno
キュゥべえ「さすがだね、マミ」

ほむら「キュゥべえ……いつの間に」

しまった。

周囲の──こいつへの注意が疎かになっていた。

マミ「立ち聞きはやめなさいって、前言ったわよね?」

ベッドから立ち上がりつつ、巴さんが激しい凄みを見せた。

ほむら(……え?)

その彼女からは、憎しみや怒り、悲しさなど様々な負の感情が見て取れる。

489: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/01(木) 00:00:23.48 ID:EDhZ9oxmo
キュゥべえ「別に立ち聞きしていた訳じゃないよ。
君の元に戻ってきたら、たまたまこのタイミングだっただけじゃないか」

マミ「へえ……」

キュゥべえ「そんなに怒らないでくれよ、マミ。
僕の事が信じられないのかい?」

ほむら「……巴さん、キュゥべえと何かあった?」

昨日、私があの話をしただけにしては様子がおかしい。

マミ「ええ……
暁美さんが言っていた話が本当だって、わかる事が」

キュゥべえ「やれやれ。随分嫌われたものだね」

マミ「あれから、私が家に帰った後ね……」

490: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/01(木) 00:04:33.99 ID:EDhZ9oxmo
……………………

…………

──キュゥべえの正体・目的を聞いて、半信半疑のまま自宅に帰った巴さんの前にキュゥべえが現れた。

彼女は、その時に私から聞いた話を問い詰めたらしい。

すると、キュゥべえは悪ぶらずに言った。

キュゥべえ「その通りだけど、それがどうかしたのかい?
君達が利用される事で宇宙が救われるんだ。
とても素晴らしいじゃないか」

マミ「そ、そんな言い方……!
そもそも、そんな理由の為に私達が利用されているなんて聞かされてもいなかったわ!
皆、命を懸けて魔女と戦ってきたのに! 戦っているのに……!
利用だなんてっ!」

491: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/01(木) 00:06:02.15 ID:EDhZ9oxmo
キュゥべえ「そりゃあ聞かれなかったからね」

マミ「なっ……!?」

キュゥべえ「そもそも君達魔法少女には、
戦いの運命を受け入れてまで叶えたい望みがあったんだろう?
それは間違いなく実現したじゃないか。
それなら、その末に命を落としても本望なはずだよ」

マミ「っ!」

492: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/01(木) 00:10:07.51 ID:EDhZ9oxmo
……………………

…………

こうして。

話をはぐらかし、人の気持ちを顧みない発言ばかりを繰り返すキュゥべえに、巴さんの不信感が爆発したのだった。

キュゥべえ「僕は正論しか言っていないはずなんだけどなぁ」

マミ「どこがよ……?」

キュゥべえ「第一、他の魔法少女ならともかくとして、
君に関しては細かい事を説明する時間そのものが無かったはずだろう?
なら、聞かされてないも何も無いと思うけどなぁ」

彼女の契約時の話だろうか。

493: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/01(木) 00:15:26.41 ID:EDhZ9oxmo
マミ「確かにそうだけど……
私が言いたいのはそんな事じゃないっ!」

キュゥべえ「うーん、可能なら弁解をしたいと考えていたんだが、無理のようだね。
君とは比較的長い付き合いだから、嫌われたくはなかったんだけど」

マミ「長い付き合いだからこそ、こんな気持ちになっているのよ……」

キュゥべえ「まあ良いや。
でも、彼女……暁美ほむらには気を付けた方が良いよ。
彼女は得体が知れなさすぎる」

ほむら「…………」


タッ。


言いたい事だけ言ってキュゥべえは部屋の暗がりへと歩いて行き、影の中に溶けて消えた。

506: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 21:03:35.35 ID:2UT184eAo
─────────────────────


トッ。


私は、自分の部屋のあるマンションから外に出た。

……朝日が眩しい。


マミ『ごめんなさい、もう一人でも大丈夫だから……』


深夜を越えて明け方に近くなった、数時間前の巴さんのどこか痛々しい笑顔が思い返される。

507: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 21:05:17.69 ID:2UT184eAo
その言葉は私への気遣いだったのだろう。

彼女は泊まっていっても良いと言ってくれたのだが、
今日も学校がある為に制服などがそのままなのは少し抵抗を感じ、
一度自宅に帰りたい気持ちがあったのは事実だからだ。

しかし、それ以上に巴さんへの心配が上回っていた私は、彼女の側に居る事を選んだ。


マミ『……うん、ありがとう』


正直少々意外ではあったが、私のその選択を彼女は素直に喜んでくれた。

この時の巴さんの笑顔は、先程述べたものとは違って心からのものだった。

508: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 21:07:12.35 ID:2UT184eAo
キュゥべえが去ったすぐは、お互いに気持ちが高ぶり目が冴えていたので、完徹する覚悟だったのだが……

やはり疲れていたらしく、私達はそれからすぐに眠ってしまった。

そして私が先に目が覚め、隣には深い眠りにつく巴さん。

まだ早朝なので彼女を起こすのも悪いし、すぐに目が覚める気配も無かったので、
さっと家に帰って軽く今日の支度をして来たという訳だ。

魔法少女に変身して移動したので、大して時間は経っていない。

509: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 21:09:00.38 ID:2UT184eAo
ほむら「……少し体が痛いわね」

元々は眠るつもりではなかった為、私と巴さんはベッドを背に、寄りかかる体勢で居た。

睡眠時間が短いのもあるが、そのまま寝てしまったので体に負担がかかったのだろう。

巴さんも同じく無理な体勢で眠っていた為、そっとベッドの上に移動させておいたが……

ほむら「……大丈夫かしら」

一応目覚ましをセットしてきたし、彼女なら寝過ごしたりなどしないとは思う。

しかし私は、別に巴さんが寝坊したならしたで良いと考えていた。

今の彼女に関しては、学校に行くより、心身とも疲れを取る方が大切だと思うからだ。

510: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 21:10:38.14 ID:2UT184eAo
それよりも、巴さんがキュゥべえに見せた表情や雰囲気が気にかかる。

あれは確実に『負』のものだ。

彼女の『仲間』や『友達』を求める想いの強さを考えれば、
ずっと共に歩んできたパートナーの真意がよほどショックだったのだろう。

ほむら(巴さん……)

先程までは、登校してから巴さんの姿を探したり、
彼女が学校に来ていないようならば、メールや電話でもしてみれば大丈夫かという考えもありはしたのだが……

511: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 21:11:46.20 ID:2UT184eAo
ほむら(やっぱり、様子を見に戻ってみましょうか)

それで彼女が起きていて学校に行くつもりならば一緒に登校すれば良いし、
まだ眠っていたらそのままにしておけば良い。

──とはいっても、普通に戻るのではさすがに遅刻してしまう。


パッ!


私は再び魔法少女に変身すると、駆け出した。

512: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 21:14:13.85 ID:2UT184eAo
─────────────────────

ほむら「…………」

巴邸には、人の気配が無かった。

だが、目覚ましは未だセットされたままだ。

ほむら(目覚ましが鳴る前に起きたのかしら?)

それで、目覚ましの解除を忘れた──もしくは、そもそもセットされていた事自体に気付かず登校した?

……だとしても、恐らく私と同じく疲れが残っているだろう彼女が、さっさと家を出るだろうか。

ほむら(大体、この家からだと登校するにはまだ時間が早いわよね)

513: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 21:16:06.69 ID:2UT184eAo
何より不思議に思ったのは、寝室に巴さんの携帯がある事。

ほむら(忘れて……行った?)

こんなに大事な物を、しっかりものの彼女が?

……いや、どんな人でもミスはする。

──にしても、やはり釈然としない。

514: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 21:17:16.84 ID:2UT184eAo
一応テレパシーを試みたが、その有効範囲内には居ないらしく、反応は無かった。

続けて魔力の波動を探ってみるも、同じ。

彼女レベルの魔力だと、変身していたり戦闘を行っていれば多少離れた場所に居ても察知出来るのだが……

ほむら(それが出来ないのを見ると、少なくとも魔法少女になってはいないみたいね)

何にせよ、これでは連絡の取りようが無い。

515: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 21:18:22.47 ID:2UT184eAo
……まさか、死んでは……いないわよね?

ほむら「……ば、馬鹿な事を」

つまらない想像を振り払う為に、私は頭を振った。

とにかく、これ以上ここに居ても仕方ない。

私は、嫌な胸騒ぎを抱えたまま巴邸を後にした。

516: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 21:19:34.67 ID:2UT184eAo
─────────────────────

特に何の事件も起こらない一日だった。

まどか、美樹さやかや志筑仁美、上条恭介達クラスメートも元気で、キュゥべえも姿を見せる気配が無い。

ただ、巴さんだけが学校に来なかった。

517: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 21:20:54.78 ID:2UT184eAo
─────────────────────

まどか「大丈夫? ほむらちゃん。
今日は一日元気無かったね」

下校中、まどかが心配そうに声をかけてきた。

ほむら「あ……
心配かけてごめんなさい、平気よ」

さやか「そうかあ? そんな風には見えないけど……」

確かに、睡眠不足や一日中頭から離れなかった巴さんの事があって調子は良くない。

それでも、気を失っていたあの時間が良かったのか、昨日ほど肉体的な疲れは感じないが。

518: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 21:22:06.81 ID:2UT184eAo
仁美「まあ、そんなほむらさんも色っぽくて素敵ですけど……」

今歩いて居るのは、私達四人だ。

志筑仁美は、美樹さやかに上条恭介と帰るよう進めてはいたが、彼も付き合いは私達だけではない。

むしろ友達は多いタイプみたいで、複数の男子に囲まれて出て行った。

美樹さやかは、そんな彼を見るのが好きらしい。


さやか『あいつは病院で散々辛い思いしてきたから……
恭介のあんな元気な姿は、見るだけで嬉しくってしょうがないんだ』


彼女はとても清々しい笑顔で、そう言った。

ただ、『まあ、帰ったら後であいつん家行って、二人きりでバイオリン聴かせて貰うんだけどね』と、
惚気も合わせて聞かせてくれたが。

519: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 21:24:29.62 ID:2UT184eAo
さやか「あー。ほむら、アレ?
重い方?」

ほむら「そうだけど、違うわ」

まどか「まあ、誰でも調子悪い時はあるよね」

仁美「やっぱりほむらさんは重い方なのですね。メモメモ……」

さやか『つかあんたさ、恋してない?』

ほむら「えっ?」

まどか「? ほむらちゃん?」

ほむら「……何でもないわ」

しまった。いきなりテレパシーで、しかも思いも寄らぬ事を話しかけられ、
つい口に出して反応してしまった。

520: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 21:25:52.62 ID:2UT184eAo
ほむら『していないわ。
どうしたのよ突然?』

さやか『ん~。勘違いなら悪いんだけどさ、あんたそんな顔してたから』

ほむら『そんな顔?』

さやか『うん。恋する乙女の~って表現はアレだけど、そんな感じ。
あたしもすっごい恋してるから何となくわかるんだ』

恋……? 私が?

521: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 21:27:14.04 ID:2UT184eAo
ほむら『たぶん勘違いよ。私にはそんな暇は無いもの』

さやか『そうか? つーかそれって恋してない理由にはならないっしょ。
恋なんて、暇とかがあろうが無かろうがしちゃうもんだし』

ほむら『そういうもの?』

さやか『そういうものよ』

……そちらの経験が皆無の私にはいまいちピンと来ないのだが、彼女が言うならそうなのか。

522: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 21:28:31.93 ID:2UT184eAo
さやか『それにさ、仁美も以前似たような顔してたんだ』

ほむら『志筑さんが?』

さやか『そ。
……あたし達の三角関係ってヤツが解決するまではね。
あたしに気を使ってくれてたからだと思うけど、どこか思い詰めた感じで、度々あんたみたいな空気出してた』

……恋。

もし私が恋をしているのだとすると、巴さんに?

そうなるだろう。こんな気持ちになっている原因は彼女なのだから、他の人は考えられない。

523: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 21:30:28.28 ID:2UT184eAo
ほむら『……確かに、『もっとしたい』とか思ってしまったけれど……』

さやか『へっ?』

ほむら『あ』

しまった。今度はテレパシーを切らずに思ってしまった。

524: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 21:31:37.94 ID:2UT184eAo
さやか『それって、キスとか?』

ほむら『……キス……』


ほむら((……彼女の唇って、こんなに柔らかそうだったかしら……?))


あの時巴さんの唇が気になったのは、そういう事なのだろうか?

525: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 21:32:44.78 ID:2UT184eAo
さやか『それとも、もっと先?』

ほむら『っ!?///』

ニヤリと笑いかけてくる美樹さやかに、私は思わず言葉に詰まってしまった。

いくら恋愛経験が無いとはいえ、その意味くらいはわかる。

526: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 21:33:59.20 ID:2UT184eAo
ほむら『……やめて頂戴』

さやか『あははっ、照れなさんなって』

ほむら『てっ、照れてなんていないわ』

さやか『いやいや、しょうがないって。好きな人相手にそんな欲望がわくのって普通だし。
……実の所、あたしも恭介と早く……って何言わせんだこいつはっっっ!!!///』


パシッ!


いきなり、美樹さやかが私の肩を叩いた。

527: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 21:34:32.19 ID:2UT184eAo
まどか「ハヒェッ!?」

仁美「まあっ!?///」

ほむら『……痛いわ』

私の抗議の視線を、しかし美樹さやかは流してテレパシーを続ける。

528: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 21:37:25.99 ID:2UT184eAo
さやか『けどさ……
アレもそうだけど、キスだって好きな人とじゃなきゃ、したくなんて絶対ならないはずだよ』

ほむら『ええ。同意するわ』

さやか『だよね。普通はそうだと思う。
少なくともあたしはそういうの、恭介以外の人とは絶対したくないし』

中にはそうでない人も居るのだろうが……

私も彼女と同じでそうだし、そうありたいと思う。

529: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 21:41:24.41 ID:2UT184eAo
さやか『だから、ほむらがキスしたいって思う人が居るなら、
あんたはその人に恋してんじゃないかとあたしは思う訳さ』

ほむら『…………』

さやか『……うん、つかまあアレだ。
恋愛に関して悩みがあったら、いつでも恋の大先輩であるあたしに相談しなさいな。
この魔法少女さやかちゃんなら、バッチリ完璧に解決しちゃいますからね』

ほむら『調子に乗りすぎよ』

さやか『ははは。
まあでも、いつまでもそんな顔してると、お節介しちゃうぞ?』

ほむら『大丈夫よ。
……ありがとう』

──恋? この気持ちが……?

530: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 21:43:35.65 ID:2UT184eAo
─────────────────────

ほむら(さて、どうするか……)

やや人通りの少ない住宅街を歩きながら、私は考える。

一人になったし、いつも通りまどかを……

しかし、巴さんが気になって仕方ない。

結局、今日は学校には来なかったみたいだし……

ほむら(巴さん……)

531: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 21:44:37.98 ID:2UT184eAo
昨夜の彼女のぬくもりが忘れられない。

朝から胸騒ぎが続いて不安になっているせいもあるだろうが、もう二度と巴さんに会えないような気がする。

ほむら(……嫌だ)


ジワッ……


そんな未来を想像するだけで、自分のソウルジェムが微かに穢れていくのがわかる。

ほむら(これまでは、まどか以外の相手との別れを──
それも、死別すら覚悟してもここまで心が揺れたりはしなかったのに……)

532: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 21:46:45.69 ID:2UT184eAo
この想いが恋なのだとしたら、
上条恭介への想いを遂げられずに壊れていってしまった、別の世界の美樹さやかの気持ちがよくわかる。

大切な人が二度と会えない場所へ離れて行ってしまうと考えると、とても恐ろしく、心がはちきれそうに痛い。

まあ『彼女』の悲劇は、上条恭介の件以外に、
ソウルジェムの秘密を知ってしまった上にそれの穢れをそのままにしていたからなど、
様々な要因が重なったから起きたというのもあるのだが……

ほむら(何なのよ、これ……)

533: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 21:48:25.96 ID:2UT184eAo
でも、不思議だ。

もし再び残酷な結末を迎えたとしても、乱暴に言ってしまえばまたやり直せば良いのだ。

私はずっとそう割り切って生きてきたし、それは決して間違った考えではないはず。

実際そうする事が、これまでどんな目にあっても希望を捨てず・諦めずにやって来られた理由の一つなのだから。

なのに、どうして今回の巴さんにはこんな気持ちになり、割り切れないのだろう……?

534: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 21:51:46.47 ID:2UT184eAo
ほむら(仲良くなれたから?
それも、過去記憶に無いレベルで)

それとも、こうして割り切れないからこそ『恋』なのだろうか?

だが、それはまどかに対しても同じのはずだ。

ほむら(……わからない)

巴さんに対するこの気持ちは、ただ単に尊敬している人相手へのものや、友達に対するそれとも違う……

ほむら(私の知らない種類の気持ちだという事だけは、わかるのだけど……)

535: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 21:52:32.51 ID:2UT184eAo
思えば、こうやって『恋』というものを深く考えたのは初めてだ。

もちろん私だって多少の興味はあったし、おぼろげな恋愛観もありはしたが……

そんなものと、しっかり向き合う暇も余裕も無かったから。

536: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 21:53:55.07 ID:2UT184eAo
ほむら(……キス、か)

ふと、先程の美樹さやかとの会話を思い出す。

ほのかに濡れて、柔らかそうで、綺麗な薄桃色をした巴さんの唇。

その唇と、私の唇が……

537: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 21:55:41.48 ID:2UT184eAo
ほむら(……っ!)

リアルな想像をしてしまい、私の頭に血が上ってしまった。

これは、気恥ずかしいけれどとても幸せな動揺。


さやか『キスだって好きな人とじゃなきゃ、したくなんて絶対ならないはずだよ』


ほむら(……そうか。
やっぱり私……)

キスなんて、他の人としたいとは思わない。

恥ずかしいような嬉しいような不思議な感情の中、私は一つの結論を出そうとした──

538: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 21:56:44.07 ID:2UT184eAo
その時。

ほむら「っ!」

背後から激しい殺気が生まれた!

振り向く間も惜しみ、前に跳びつつ私は変身する。


ブンッ!!!


ついさっき私が立っていた場所が、大きく凪がれた。

それを行ったのは、チョコバーを咥えながら槍を構える、赤髪の魔法少女。

539: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 21:57:56.50 ID:2UT184eAo
杏子「これを避けるか!
やるじゃないかっ!」

ほむら「佐倉杏子……!」

杏子「……!?」

この子、正気!?

今はたまたま辺りにひと気が無くなっていたが、ここは郊外でも裏通りでもない普通の道だ。

そんな中襲撃なんて……

ほむら「──来なさい! ここでは人目につくっ!」

こんな場所で相手など出来ない。私は叫ぶと、高く跳んだ。

杏子「望むところだっ!」

彼女は不敵な笑みを浮かべ、私に続いた。

540: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 21:59:30.30 ID:2UT184eAo
─────────────────────

誰も居ない路地裏。私達は、ここで向かい合っていた。

ほむら(別の時間軸では、
まどかと美樹さやかが、佐倉杏子と初めて出会う可能性が一番高い場所だったわね……)

ここは裏路地だけあり、薄暗くて狭い。

建物の側面にはあちこちに配管が無数に伸びていて、それはまるで植物の蔦のようだ。

541: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:01:29.73 ID:2UT184eAo
杏子「話には聞いてたけど、あんたやっぱりただ者じゃないね。
あたしの一撃を綺麗に避けただけじゃなく、冷静に場所移動までしてくれちゃって」

ほむら「そんな事より、あんな場所で襲ってこないで貰えるかしら?」

杏子「なーに。ちゃんと、周りにあんたしか居ない時に攻撃してやったろ?
それに、結果的にこうして誰も居ない場所に来れたんだ。グダグダ言ってんじゃねーよ」

と、佐倉杏子は不敵な笑みを浮かべた。

その様子を見るに、彼女自身元々あの場所で本格的な戦闘をするつもりはなかったようだ。

と言うよりあの不意打ちは、その後の判断・対処も含めて私の力量を図る為のものだったのだろう。

542: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:02:26.57 ID:2UT184eAo
杏子「ところでさ、あんた何であたしの名前知ってるんだ?
マミの奴から聞いたのか?」

ほむら「……そんな所よ」

杏子「ふーん。
──まあ良いや。
構えなッ!」


ジャギンッ!


佐倉杏子は、鋭い瞳で槍の切っ先をこちらに向けた。

杏子「戦ろうぜ」

543: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:04:01.31 ID:2UT184eAo
ほむら「待ちなさい。
貴女は何が目的でこの町に来たの? 私達と貴女が戦う理由はないはずよ」

巴さんが死んだ世界では、かなりの確率で彼女がやって来る。

その目的は時間軸によっていくつかあり、
大体は、『魔法少女不在となったこの町を自分のテリトリーにする』為という場合が多いが……

言うまでもなくこの世界での巴さんは生きているので、それは無い。

ともあれ、彼女に上手く対応する為にもその目的は聞いておく必要があるだろう。

544: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:05:25.33 ID:2UT184eAo
杏子「ふざけた事を企む、あんたらをぶっ潰す。
この答えじゃあ不満かい?」

ほむら「?」

彼女は何を言っているのだろう。

杏子「まあ一番の狙いは、その後に魔女が沢山居るこの町を頂く事なんだけど。
だがそれを抜きにしても、あんたらを放ってはおけないね」

ほむら「私達の企みって何の話かしら?」

恐らく、キュゥべえに何か吹き込まれたのだろうが……

杏子「しらばっくれるか……まあ良いや。
じゃあ、さよなら」


バッ!


ほむら「!」

抑揚無く呟くと、佐倉杏子は猛スピードで跳びかかってきた!

545: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:06:29.09 ID:2UT184eAo
ほむら「くっ!」


ブンッ、ブンッッ!!


そのまま放ってくる攻撃は、凄まじいキレだ。

杏子「チョロチョロしてんじゃねえっ!」

ほむら「話を聞きなさいっ!」

杏子「話す事なんて無いだろっ!」


ブンッ!


駄目だ。取りつく島も無い。

ならば、彼女が興味を持つ事……

546: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:07:57.84 ID:2UT184eAo
ほむら「貴女、私の正体を知りたくない?」

杏子「あぁん!?」

ほむら「私が何者で、何を考えているか。
キュゥべえはそこまでは知らなかったでしょう?」

杏子「はんっ、お見通しって訳か!
だが興味無いねっ!
そんなもの、あんたを倒しちまえばどうだって良い事さ!」


ザッ!


ほむら「っ!」

佐倉杏子の鋭い突きが、私の服の裾を掠めた。

やはり……強い。

動きを見る限り、彼女はまだまだ本気ではないようだ。

しかし、それでもこのまままともにぶつかれば、なす術も無くやられてしまうだろう。

547: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:08:45.40 ID:2UT184eAo
ほむら(仕方ない。時間を止めて……)


ビュンッ!


突如として、上空から何かが伸びて来た!

ほむら「!?」

杏子「っ!?」

私と佐倉杏子は、すんでの所でそれをかわす。

548: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:09:56.64 ID:2UT184eAo
ほむら(これは……!)

杏子「──ちっ、もう感づきやがったか? さすがじゃねえか……」

巴さんのリボン!?

杏子「マミっ!!」

マミ「…………」

巴さんは変身した姿で、高所に這う配管の上に立っていた。

顔は逆光でよく見えない。

……何か、様子がおかしい。

549: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:10:45.05 ID:2UT184eAo
杏子「しかしらしくねぇ。技が荒いじゃねーか。
お仲間まで巻き込む所だったぞ?」

ほむら「巴さん……?」

私は声をかけようとしたが、

マミ「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

絶叫し、彼女は襲いかかってきた。

550: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:11:41.03 ID:2UT184eAo
ほむら「!?」

杏子「おっ、おい!?」

リボンを操り、マスケット銃を乱射し、巴さんは突撃してくる。

マミ「ああああっ! うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

彼女は、鬼のような表情をしていた。

ただ、そこから感じられるのは、怒りではなく……絶望?


ドンッ!


流れ弾が、壁を削っていく。

551: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:12:43.88 ID:2UT184eAo
ほむら「巴さんっ、やめなさい!」

杏子「な、何だってんだ!?」

マミ「あああああああああああ!!!」


ドンッドンッドンッッッ!!!


これはまずい!

今の巴さんは、佐倉杏子以上に話が通じそうにない。

時間を止めた所でどうにもならないだろう。

ほむら「一旦引くわよ!」


バッ!


杏子「え?
おいっ!」

私は、狭い間隔で立っている壁と壁の間を交互に蹴り上がり、上からこの路地裏を抜け出した。

552: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:14:44.81 ID:2UT184eAo
─────────────────────

気が付くと、もう日が落ちていた。

ほむら「はぁ、はぁ……」

あの路地裏からは少々離れた公園まで逃げてきたのだが、どうやら巴さんを撒けたようだ。

杏子「ふぅ……」

石で出来た階段に座り込む私の横には、佐倉杏子も居る。

彼女はいつの間にかマシュマロの袋を左手に持ち、白いそれを食べていた。

私達は共に変身を解いている。

553: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:15:46.98 ID:2UT184eAo
ほむら「とりあえずは……大丈夫みたいね……」

これは、佐倉杏子の事も含めて、だ。

今の彼女からは、戦意は感じられない。

杏子「なあ……何だってんだ一体……?
さっきのあいつ、本当にマミなのか?」

ほむら「見ての通りでしょう……?」

554: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:17:24.83 ID:2UT184eAo
杏子「だが、あいつにしては雰囲気も何もかもが違ってたぞ!
大体、マミはあんなバカな戦い方はしねぇ!」

ほむら「そうね」

杏子「そうねって……
まさかてめえがマミに何かしやがったのか!?」


ぐいっ!


いきり立って、佐倉杏子が私の胸ぐらを掴んだ。

ほむら「違うわ。
だったら、私まで襲われるはずがないでしょう……?」

杏子「……そうだな……」

ぽつりと呟くと、彼女は視線を逸らして私を離した。

555: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:18:15.74 ID:2UT184eAo
──巴さんは、本気で私達を襲ってきた。

明らかに演技でも何でもなく、『殺す』為に。

ほむら「私だって……わからないのよ。
どうして……」

どうして? 巴さん……


ぐしゃっ……!


頭皮に押し付けた指が髪の毛を押し込み、嫌な音を立てる。

556: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:19:14.55 ID:2UT184eAo
杏子「……あんた、本当に魔法少女を皆殺しにするとか企んでいるのか?」

ほむら「何の話よ……」

杏子「キュゥべえがそう言ってたぞ?
突如現れたイレギュラーの魔法少女・暁美ほむらは、マミや新しい魔法少女を抱き込んで、
他の魔法少女達を皆殺しにしようとしているって」

ほむら「……?」

557: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:20:41.45 ID:2UT184eAo
……………………

…………

佐倉杏子の話によると、先日彼女の元にキュゥべえが現れたらしい。

あいつは、そこで唐突に話を切り出したのだという。

杏子「魔法少女を皆殺しだと?」

キュゥべえ「恐らく、ね」

杏子「はっ、バカバカしい。何だそりゃ」

キュゥべえ「そう言いたくなる気持ちはわかるよ。
でも、その暁美ほむらって子は普通じゃないんだ。
他の子は知らない事を沢山知っているようだし、僕だって何度も殺されかけた」

杏子「お前を……?
それが本当なら、確かに何考えてるかわからない奴だな」

558: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:22:18.15 ID:2UT184eAo
キュゥべえ「そもそも、僕にはあんな子と契約を結んだ覚えが無いんだよね」

杏子「何だと……?」

キュゥべえ「不思議だろう?
──ともあれ暁美ほむらは、マミと、最近新しく魔法少女になった子の三人で仲良く魔女退治をしているよ」

杏子「…………」

キュゥべえ「多分、これはグリーフシード集めと、新人の子の育成の為と考えられる。
そして、両方が満足行く所まで来たら、自分達の活動範囲を広げるはずさ」

杏子「魔法少女達を殺す為に、か」

キュゥべえ「そう」

559: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:23:59.36 ID:2UT184eAo
杏子「そんな事して何になる? 何を求めているっていうんだ?」

キュゥべえ「これはあくまで僕の想像だけど……
そうする事によって、戦いの運命を背負った魔法少女達を救うつもりなんじゃないかな?
解放してあげるつもり……と言っても良い」

杏子「ふん。いくらなんでもそんな──」

キュゥべえ「──マミだったら、そんな考えを持ってもおかしくないだろう?」

杏子「……魔法少女達を救いたい、と思う所までならな。
だが、そいつらを殺してまで、となるとありえねーよ」

560: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:26:49.73 ID:2UT184eAo
キュゥべえ「しかし、マミが暁美ほむらと手を組んで仲良く動いているのは間違い無いんだ。
恐らく、暁美ほむらがマミを上手く言いくるめて抱き込んだのだと思われる」

杏子「だとしても、あいつがそんな……」

キュゥべえ「ちなみに新人の子は、マミの考え方には全面的に同意、そして尊敬までしているような子だよ。
もちろん、マミはそんな彼女を可愛がっている。
とても、ね」

杏子「…………」

キュゥべえ「繰り返すけれど、マミがその二人と仲良くしているのは確かな事実だよ。
何なら、自分の目で確かめてみても良いんじゃないかな?」

杏子「あたしは……もうあいつと関わる気は……」

キュゥべえ「もし暁美ほむら達を倒す事が出来たら、あの町は君の物になるよ?
知っての通り、魔女が沢山居る絶好の狩場の町さ」

杏子「…………」

561: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:28:29.82 ID:2UT184eAo
キュゥべえ「……そうか。まあ無理にとは言わないよ。
ただ、僕としては彼女達の野望は止めたい。
他の子に頼む事にするさ」

杏子「!」

キュゥべえ「邪魔したね」

杏子「待て!」

キュゥべえ「どうしたんだい?」

杏子「……わかった。行くだけ行ってやるよ」

562: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:29:53.25 ID:2UT184eAo
キュゥべえ「助かるよ!
ただ、いくら君でも三人を纏めて相手にするのは厳しいだろう。
知っての通りマミは凄腕だし、暁美ほむらは得体が知れない。
新人の子も実力をつけてきているようだからね。
すぐにでも他の子を援軍に向かわせるよ」

杏子「いらねーよ。そんなもんやり方一つでどうにでもなる。
あたし一人にやらせろ」

キュゥべえ「わかった。君がそう言うなら。
くれぐれも気を付けてね」

563: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:31:16.40 ID:2UT184eAo
─────────────────────

ほむら「……なるほど、ね」

こうして聞いてみると上手いものだ。

細かい具体的な内容までは知らないが、巴さんと佐倉杏子はかつて師弟関係で、
しかし何かがあって袂を分かつ事になったという過去だけは知っている。

キュゥべえは佐倉杏子に気付かせないように上手くその因縁を利用して、
彼女が見滝原に来るように誘導したのだろう。

佐倉杏子を私達にぶつけ、まどかへの守りを薄くする為に。

564: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:34:36.61 ID:2UT184eAo
ほむら「キュゥべえ……相変わらず汚い奴ね」

杏子「……違うのか?」

ほむら「当たり前よ」

杏子「……だよな。
さすがにありえないか」

ほむら「その言いようだと、貴女はキュゥべえの話を鵜呑みにはしていなかったみたいね」

杏子「まあな。あんな胡散臭い奴の言う事なんざ、せいぜい話半分さ」

ほむら「なら、なぜ昨日は巴さんを、今日は私を襲ったの?」

杏子「…………」

私の問いに、佐倉杏子は困ったように黙り込んでしまった。

565: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:36:23.94 ID:2UT184eAo
ほむら「……まあ、話したくないならそれで良いわ」

杏子「おいおい。やけにさっぱりしてるな。
それで良いのかよ?」

ほむら「良いも悪いも、それを知っても貴女が私を信じられなければ、また襲ってくるでしょう?
なら無理に聞くほどの事では無い。
……でも、話してくれるのなら聞きたいのは確かだけれど」

私の言葉に彼女はしばし沈黙し、やがて小さく吹き出した。

杏子「ぷっ……」

ほむら「何?」

566: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:37:34.62 ID:2UT184eAo
杏子「さっきから思ってたんだが、
殺しにかかって来た奴を前に、そうやって落ち着いて物事を考えられるなんて大したもんだよ」

ほむら(……そうね)

もちろん、無感情な訳ではない。内心では思っている事は沢山ある。

しかし、だとしても、私はまどかの件以外の大抵の事柄には冷静な判断・対応が出来るし、その自信もあった。

……はずなのだが……

ほむら(……巴さん)

567: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:41:11.20 ID:2UT184eAo
杏子「なるほど。確かにあんたの言う通りだ。
──あたしは、冷静な奴は嫌いじゃないよ」

ほむら「ええ、私も」

杏子「……チッ、なんか毒気がすっかり抜けちまった」

バリバリと頭をかきながら、佐倉杏子が言った。

杏子「悪かったね。
何にせよ、キュゥべえなんかに踊らされちまってさ」

ほむら「いえ、わかって貰えれば良いのよ」

568: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:42:41.70 ID:2UT184eAo
杏子「しかし、だ。あんたは本当に何者なんだ?
キュゥべえが契約した覚えの無い魔法少女って一体……」

ほむら「…………」

『その返答によっては、再び一戦交える覚悟があるぞ?』──佐倉杏子が私に向ける視線は、そう物語っていた。

それは、少なくとも現段階で彼女は敵ではない、なくなったという事でもある。

569: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:44:50.28 ID:2UT184eAo
ほむら「……すべては話せないけれど、そうね。
巴さんと、美樹さん──新人の子に話した事を貴女にも伝えるわ」

佐倉杏子は、繰り返すひと月で私が出会う可能性のある魔法少女の中で、一番精神が安定している。

だから、それらを説明しても彼女ならば変に動揺はしないだろう。

その末に佐倉杏子が味方になってくれたら心強いし、私は今がその為の大きなチャンスだと判断した。

杏子「ふむ、とりあえず聞かせて貰おうか。
……と、その前に」

彼女が、左手に持つマシュマロの袋を私の前に差し出した。

杏子「食うかい?」

570: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:46:02.28 ID:2UT184eAo
─────────────────────

杏子「……キュゥべえが……」

ほむら「ええ」

私の話を聞き終えると、彼女は眉を釣り上げて黙り込んでしまった。

ちなみに、ソウルジェムとグリーフシード、魔女と魔法少女の関係は話していない。

理由は、巴さんと美樹さやかに話さなかったのと同じ。

いくら佐倉杏子といえど、やはりそれらすべてを一度に伝えるべきではないだろう。

それほど、ソウルジェムの秘密は魔法少女にとっては重い。

ほむら(もし彼女が仲間になってくれて、かつそれも話さなければならない状況になったら……
巴さんや美樹さんも集めて、一緒に話せば良い)

571: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:47:23.16 ID:2UT184eAo
杏子「……にわかには信じられないね」

ほむら「でしょうね。証拠は無い。
だけど、私はそんなあいつの思い通りにさせない為に動いている」

杏子「宇宙がどうとかってーのと、キュゥべえの奴が執着している『鹿目まどか』ねぇ……」

ほむら「ええ。
彼女を、魔法少女になんかさせないわ……!」

杏子「…………
まあ、もう感覚が麻痺しちゃってるけど、
魔法少女だのどんな願いも叶うだの、確かに現実離れも甚だしいけどさ」

572: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:50:30.26 ID:2UT184eAo
……ついでだ。彼女ならば、ここでこの話をしても大丈夫だろう。

ほむら「それと……近々、ワルプルギスの夜がこの町に来るの」

杏子「はっ!? 何だと?」

珍しく、佐倉杏子がすっとんきょうな声を上げた。

杏子「……確かなのか?」

ほむら「間違い無いわ。
……本音を言うとね、ワルプルギスの夜を倒す為に貴女の力も貸して貰えないかなと思っている」

杏子「ふーん。
マミや、さやかってーのと仲良くしているのはそれが目的か?」

ほむら「……正直言って、何割かはそうね。
悔しいけど、一人では勝ち目は無いもの」

573: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:53:35.71 ID:2UT184eAo
杏子「まあ、ワルプルギスの噂を聞く限りじゃあそうなんだろうね。
だが、あたしとしてはそっちの方がわかりやすくて良い」

ほむら「えっ?」

杏子「マミ達とあんたの関係が何にせよ、だ。
戦力が欲しいからあたしの力を貸せ。
明快かつ納得出来るし、これぐらいハッキリ言ってくる方が信用出来るってもんさ」

ほむら「……そうね」

佐倉杏子はこういう人間だった。

彼女は、とにかくとても割り切った考え方をしているのだ。

現実的とでも言うのだろうか?

これは先天的なものには見えないのだが……

巴さんとの細かい因縁もだが、私は彼女の過去も知らない。

ほむら(この子はどんな願い事をし、どんな世界を見て今日まで生きてきたのだろうか……)

574: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:54:30.06 ID:2UT184eAo
杏子「オーケー、とりあえずあんたの話はわかった。
ただ、すべてを信用した訳じゃないけどな」

ほむら「それは、少しは信用してくれたって事ね?
十分よ」

杏子「ちっ、食えない奴だな。
まあ良いけどさ」

佐倉杏子が苦笑した。

575: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:55:58.76 ID:2UT184eAo
杏子「ワルプルギスに関しては、返事は後にさせて貰うよ。
まずはマミの奴を捜さないとね。
あれは……普通じゃなかった」

ほむら「そうね。
……どうせまた、キュゥべえが何かしたんでしょう」


ざわり。


そう口にしただけで、私の中で激しく憎悪が燃える。

杏子「…………」

ほむら「彼女を……救わなければ」

私と佐倉杏子は立ち上がった。

576: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:56:58.66 ID:2UT184eAo
まどかも気になるが、巴さんを見捨てる事も出来ない。

まずはまどかの様子を確認してから、すぐに巴さんの捜索に回るか……

ほむら(巴さん……)

私は怖かった。

折角ここまで最高に近い流れで来ていたのに、それが壊れてしまう事が。

大切な人と、二度と会えなくなってしまう事が。

恐ろしい。

想像するだけで耐えられない。

出来る事はすべてやってやる。

絶対に負けるものか。

577: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:58:03.27 ID:2UT184eAo
杏子「さてと。
あたしは群れるのは性に合わない。勝手に動かせて貰うよ」

ほむら「ええ、もちろん」

軽く笑い合うと、私達は跳び──

杏子「むっ?」

立とうとした時、魔力の波動を微かに察知した。

578: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/07(水) 22:59:24.72 ID:2UT184eAo
ほむら「これは……巴さん?」

杏子「この感じだとだいぶ距離が離れてるね。
だけど、いくらマミとはいえそれでここまで魔力が届いてくるって事は……」

戦っているのだ。

それも、結界の中ではなくこの現実世界で。

誰と?

ほむら「──まさか!?」

杏子「急ぐぞっ!」

582: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 22:15:24.41 ID:y49WkLiNo
─────────────────────

近くに大きな川があり、適度に草の生えた、なだらかな土手の下にあるひと気の無い河原。

夜の闇に包まれたここに、変身した巴さんと美樹さやかが居た。

さやか「ぐ……ぁ……」

マミ「ごめんね、美樹さん……」

苦しげに呻きながら仰向けに倒れている美樹さやかに、巴さんがゆっくりと歩み寄る。

そこへ、

杏子「マミぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

ほむら「やめなさい!」

私と佐倉杏子が到着した。

マミ「二人共……
よかった、また会えた」

巴さんが悲しげに笑う。

583: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 22:17:32.16 ID:y49WkLiNo
杏子「お前何やってんだ!
そいつ、仲間じゃないのかよっ!?」

マミ「待ってて、まずは美樹さんを楽にしてから……」

彼女は再び美樹さやかの方に向き直り、


スチャッ。


右手に持つマスケット銃を構えた。

584: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 22:19:19.81 ID:y49WkLiNo
杏子「!」

ほむら「くっ!」


カチッ!


私は慌てて時間を止め、巴さんの前に閃光弾を投げてから、美樹さやかを丁寧に担ぎ上げた。

そして、時を戻す。

マミ「えっ?」


カッッッ!!!!!


マミ「!?」

杏子「っ!?」

強烈な光を受けて巴さんが怯んでいる間に、私は美樹さやかを抱えたまま佐倉杏子の元へ戻った。

この手榴弾には殺傷力は無い為、巴さんはもちろん、辺りの地形もどうにかなったりはしない。

585: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 22:22:13.64 ID:y49WkLiNo
ほむら「大丈夫? 美樹さん……」

美樹さやかを地面にゆっくりと寝かせ、声をかける。

さやか「……う、うん……」

それは、返事というよりもうわ言に近かった。

……彼女はソウルジェムは無事だし、命に別状は無いようだ。

しかし、巴さんの銃弾をまともに・多数受けてしまったのだろう手足は、無数の穴が開いて酷く出血している。

ほむら(……ここまでやられて、よく手足が千切れなかったものだわ……)

何にせよ、こんな状態ではとても一人では動けないだろう。

586: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 22:23:55.02 ID:y49WkLiNo
杏子「お前……何したんだ?
さっきの爆弾を投げただけじゃないよな?」

ほむら「そんな話は後よ」

佐倉杏子の問いに軽く答えると、私は巴さんに視線を戻した。

ほむら「……巴さん、どうしてしまったの?
どうしてこんな事……」

私の問いに、しかし巴さんは昏い瞳を向けるだけ。

マミ「……知ってしまったからよ」

ほむら「?」

杏子「な、何をだよ……?」

マミ「私達、魔法少女の行く末を」

ほむら「!」

巴さん……まさか……!

587: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 22:24:59.04 ID:y49WkLiNo
杏子「行く末?
あたし達はどうやっても普通の奴みたいに暮らす事は出来ないし、
死に様なんざ戦いの中で殺されるしかないとか……そういう話か?
何を今更……」

マミ「違うッッッッッッ!!!!!」

杏子「っ!」

巴さんの絶叫に、佐倉杏子は怯んだように押し黙った。

588: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 22:27:58.21 ID:y49WkLiNo
マミ「うふふ、知ってた? 魔女の正体」

杏子「な、何だよ……
正体も何も、グリーフシードを落とすあたし達魔法少女の獲物だろ?」

マミ「良いわ、佐倉さんにも教えてあげる」

杏子「……?」

マミ「『あれ』、元は魔法少女なんですって」

杏子「……は?」

ほむら「くっ……!」

マミ「私達は皆、魔法少女になる時に、キュゥべえの手によって魂をソウルジェムに移されていたの。
つまり、ソウルジェムこそが私達の今の心臓。命。身体。
そうです。いつの間にかこの肉体は、ただの物に成り下がっていましたーっ!」

けたけたと笑いながら、巴さんが自分の肉体を指差した。

589: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 22:30:25.05 ID:y49WkLiNo
杏子「い、意味がわかんねえ……」

マミ「それでね、ソウルジェムってマメに浄化しないと穢れていくじゃない?
そのまま放っておいて、完全に穢れ切るとどうなるでしょう?」

杏子「どうなるんだよ……?」

マミ「ふふふふっ、グリーフシードに変わってぇ……」

巴さんは優しく呟くと、

590: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 22:32:29.44 ID:y49WkLiNo
マミ「魔 女 に な る の よ っ ! ! !」

杏子「っ!?」

すぐさま表情を一変し、鬼のような狂気の顔で叫んだ。

マミ「ふふふ、知らなかったでしょ?????」

そして、彼女は口元だけで笑った。

591: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 22:34:40.45 ID:y49WkLiNo
杏子「お、おいっ、マミの奴何なんだよ!?」

ほむら「……巴さんの言っている事は本当よ」

杏子「はあ!?」

ほむら「今の話を理解出来なかった訳じゃないでしょう?」

杏子「そりゃ話自体は……
けど、そんなの信じろってのかよ!?」

ほむら「…………」

やられた。

いつの間にかキュゥべえが巴さんに接近し、その事を話したのだろう。

恐らくは、朝。私が自分の家に帰っている間か。


ギリ……


噛み締めた奥歯に巻き込まれた口内の肉から、血の味がする。

592: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 22:36:56.92 ID:y49WkLiNo
マミ「……暁美さん、知っていたのね」

ほむら「ええ」

マミ「ならどうして?
どうして話してくれなかったのよっ!!!!?」

ほむら「美樹さんや、杏子にも同じ理由なのだけど……
キュゥべえの正体とかと一緒に、そこまでいっぺんに話すと理解が大変で混乱してしまうと思ったから……」

マミ「嘘よッッッッ!!」

ほむら「!? う、嘘じゃ……」

マミ「嘘、嘘、嘘よっ!
貴女は自分にとって都合の良い相手に自分にとって都合の良い事だけ伝えて、
皆を利用しようとしていたんでしょう!?」

ほむら「ち、違……」

マミ「違わないっ!」

ほむら「っ!」

593: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 22:40:35.04 ID:y49WkLiNo
マミ「最初から自分でそう言っていたじゃないのっ!
利用してるだけだって!」

ほむら「あ……」

その……通りだ。

ほむら(でも、昨夜違うって謝って……巴さん、わかってくれて……)

──いや、それこそ自分本位な甘い思い込みだったのではないか?

相手が傷付くような事をしておいて、本当にあれだけで許されたとでも?

巴さんは、ただ許したふりをしてくれていただけだったのでは?

ほむら(で、でも、あの時の巴さんの笑顔はっ、そんなんじゃ……
けどっ……!)

私は混乱していた。

594: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 22:42:17.78 ID:y49WkLiNo
マミ「お前はそうやって私達を騙して、最終的に皆を魔女にしようとしていたのよ!
そして魔女になった私達を皆殺しにして、グリーフシードと、この見滝原を手に入れようと企んでいたんだ!」

ほむら「ち……違……」

マミ「そうだ! そうなんだっ!!
やっぱりそうだったんだ!!! やっぱりっ!!!!
あはは、あーーーーはははははははははっっっ!!!!!」

ほむら「あ……あぁ……」

595: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 22:43:56.44 ID:y49WkLiNo
どうして?

昨夜は私達、確かに通じ合えたはずなのに。

ほむら(なのにどうして……?
こんな、こんな事に……)


ザッ。


絶望に、私は両膝をついた。

596: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 22:45:33.02 ID:y49WkLiNo
ほむら(……違う)

これは自分が蒔いた種なのだ。

ほむら(私が、彼女に嫌な態度を取ったり、嫌な事を言ってきたから……)

それが無ければ、例えキュゥべえがどう動こうともこんな事態にはならなかったのではないか?

ほむら(この現実は、自業自得……)

私のせいで。私の、せいで……!


ドゥンッ!


ほむら「っ!!!」

杏子「!」

私の胸を、巴さんが放った弾丸が直撃した。


ドサッ。


私はそのまま地面に倒れ伏す。

597: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 22:47:05.46 ID:y49WkLiNo
杏子「マミ、てめえ!」

マミ「許さない! 暁美ほむらッ!
キュゥべえの思い通りにもさせない!!!」

頭を抱えて叫ぶ巴さんは、もはや目の焦点が合っていなかった。


カクンッ。


マミ「……うふふ」

杏子「っ!」

佐倉杏子が一瞬震えた。

首を横に倒した巴さんに、狂気の笑顔を向けられて。

598: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 22:48:22.62 ID:y49WkLiNo
マミ「佐倉さんと美樹さんは大丈夫。
そんな狂った運命から救ってあげるわ」

ほむら「ま、まずい……」

巴さんのソウルジェムの穢れが激しい。

このままでは彼女は……

599: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 22:53:19.11 ID:y49WkLiNo
でも、私に巴さんを助ける資格があるのだろうか?

彼女をここまで追い込んでしまったのは、私の……

ほむら(……いや、違う!)

そうだとしても、だからこそ私は巴さんを救わなければならない。

ほむら(ここで罪の意識に負けて呑まれてしまうのは、ただの逃げに他ならない……!)

これまでに幾多の世界を巡る中で、どんな悲しい結末を迎えても私は諦めなかったじゃないか。

少なくとも、決して逃げ出しはしなかったじゃないか!

ほむら(だから今だって!)

私は自分を奮い立たせ、何とか立ち上がった。

600: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 22:57:18.03 ID:y49WkLiNo
マミ「魔女になんかさせない。皆を魔女になんかさせない。
させないさせないさせないさせないさせないさせないさせないさせないさせるものかぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!!!」


ドンッ!


杏子「ぐっ!」

襲い来る巴さんの銃弾を、佐倉杏子は上に跳んでかわす。

ほむら「杏子っ!」

マミ「貴女はじっとしていなさい!」


ビュンッ!


ほむら「ぅあっ!」


ギリギリギリッ……!


信じられない程のスピードで、巴さんのリボンが私をきつく拘束した。

601: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 22:59:31.69 ID:y49WkLiNo
ほむら(し、しまった!)

これでは動けないし、私に触れているものには何の効果も現れない時間停止をしても無意味だ。

つまり、この時点で私は役立たずになってしまった。

ほむら(そんな、そんなっ……!)

しかし、どれだけもがいてもリボンは緩みすらしない。

ほむら「こんなっ、時に……っ!」

602: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 23:02:41.87 ID:y49WkLiNo
マミ「まずは元気な佐倉さん……」


スッ。


巴さんは、左手の中にマスケット銃をもう一丁召喚し、


ニコッ。


笑った。

杏子「!」


バッ!


そのまま巴さんは、佐倉杏子が落下してくるスピードよりも速く、彼女へと向かって跳んだ。

二丁のマスケット銃を、まるで二刀流の剣のように構えて。

603: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 23:04:10.57 ID:y49WkLiNo
杏子「あたしと接近戦するつもりかッ!」


ガギィンッ!

ガヅッ!

ガッ!

ギィィンッ!


空中で、巴さんのマスケット銃と佐倉杏子の槍が激しくぶつかり合う。


スタッ!

バッ!


その攻防は二人が着地するまで続き、足が地面についた瞬間、巴さんが後ろに跳んで間合いを取る。


バッ!


しかし、佐倉杏子はそれを許さずすぐさま跳躍し、追随した。

剣のように使っていても、巴さんの持つ得物は遠距離で真価を発揮する銃だからだ。

604: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 23:06:50.99 ID:y49WkLiNo
杏子「おらっ!」


ブンッ!


巴さんが再びの着地をする間も無く、佐倉杏子の鋭い突きが放たれた。

避けられる体勢でもタイミングでも無い。

605: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 23:08:46.76 ID:y49WkLiNo
しかし、


ガチッ!


杏子「!!!」

巴さんは右手を伸ばし、その手に持つマスケット銃の銃口でそれを受け止めた。


グアッ!


そのまま、押される力に逆らわずに巴さんは吹っ飛ぶ。

そちらには、土手。


タッ。


しかし、巴さんは微塵も慌てずに空中で体の向きを変え、坂になっているその大地に着地して──


ドンッ! ドンッ!


両手のマスケット銃を撃ち、


バッ!


その銃を捨てながら土手を蹴って佐倉杏子の方へと跳んだ!

606: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 23:12:14.83 ID:y49WkLiNo
杏子「ぐっ!?」

追撃をかけようとした佐倉杏子だが、慌てて足を止めて迫り来る弾丸をかわす。


ドンッドンッドンッ!!!


しかし巴さんは跳びながらも再びマスケット銃を召喚し、
撃っては捨て、また召喚してを繰り返して銃を乱射する。

杏子「くそっ!」


ババッ!


これは避けきれないと判断したか、佐倉杏子が毒づきながら魔力の壁を眼前に展開した。


ドドドドドドッッ!!!


巴さんの放った銃弾達は、その壁に当たり、弾けて消えた。

607: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 23:15:35.92 ID:y49WkLiNo
杏子「おらあッッ!!!」


ジャギンッ!


攻撃が止んだとみると佐倉杏子はすぐに魔力の壁を解除し、巴さんに向かって槍の切っ先を向ける。

まだそれが届かない程巴さんとは離れているが、


ドンッ!


槍が伸びた!

それは跳んでくる巴さんとの距離を一瞬で縮め……


ドドンッッ!


巴さんを貫くという時、彼女が二つのマスケット銃を地面に向けて放ち、その反動で空中へと飛んだ!

608: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 23:19:06.50 ID:y49WkLiNo
杏子「そうくるだろうと思ったよっ!」


ブンッ!


しかし佐倉杏子は叫ぶと、伸ばした槍を上へと振り上げる。


ジャランッ!


長槍が巴さんに向かう最中に、槍の節々が、鎖に繋がれた──
例えればヌンチャクのような形にいくつも分離した!

609: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 23:21:06.03 ID:y49WkLiNo
そう、佐倉杏子の扱う槍は多節棍なのだ。


ジャララララララッ!!

ビュンッッッ!!!


さらに長さを増すそれは、まるで蛇のように空中で動いて巴さんの包囲した後、鋭い切っ先が彼女を襲う!

これでは回避したとしても不規則な動きで追尾してくるだろうし、どこへ避けたとしてもその先には鎖の壁。

この『結界』から抜け出すのは、いかな巴さんと言えど容易ではないはずだ。

610: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 23:24:41.62 ID:y49WkLiNo
マミ「──そうね」

しかし空に舞う巴さんは冷静に呟くと、両手足を開いて仁王立ちのような体勢になり……


バッ!


杏子「っ!?」

身体全体から全方位にリボンを放った!


バババババッ!


それらは息をする間もなく佐倉杏子の得物にまとわりつき、動きを止めた。

611: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 23:27:28.29 ID:y49WkLiNo
杏子「バカな……っ!?」

驚愕する佐倉杏子は、手にする武器を完璧に拘束される事によって、自身も動けなくなってしまった。

手を離すなり今実体化させている槍を一旦消すなりすれば問題無いのだが、

マミ「そうくるだろうと思ったわ」


スタッ。


マミ「私もね」

佐倉杏子がそれを思い付いて実行するより速く、彼女の目の前にはすでに巴さんが居た。

612: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 23:30:30.88 ID:y49WkLiNo
杏子「!!!」


ビュンッ!


巴さんの左手のマスケット銃での右切り上げを、
佐倉杏子は槍を消しつつ左足を軸に右半身だけ一歩後ろに旋回し、何とかかわした。


ガギンッ!


続けて放ってくる巴さんの右手のマスケット銃での袈裟斬りは、
体勢を崩しながらも再び実体化した槍を両手で握り締め、それで辛くも受け止める。

614: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 23:32:55.67 ID:y49WkLiNo
杏子「ぐっ……!」

だが、受けた体勢が悪かった影響か、今の一撃の重さに押されて佐倉杏子の右膝が大きく折れ、体が沈み込んだ。


バッ!


そんな彼女に僅かな間すら与えない巴さんは、右肩から逆回転して佐倉杏子の懐に深く潜り込み、
その流れのまま勢いのついた両の手の銃を振る!

615: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 23:35:52.53 ID:y49WkLiNo
これは……

かわせない!


ドガッ!


杏子「がはっ!!」

まずは右手のマスケット銃が佐倉杏子の右脇腹に。


ガヅッッ!!!


杏子「っ!!!!!」

続けての左手のそれは佐倉杏子の右こめかみに直撃し、
彼女は上半身を左側に大きく反らした状態でたたらを踏んだ。

616: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 23:38:02.63 ID:y49WkLiNo
普通ならばありえない、とても不自然な動きをする佐倉杏子は、今の一撃で脳震盪を起こしたのだろう。


バッ。


そして、巴さんは二丁の銃を佐倉杏子へと向け──

617: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 23:38:36.26 ID:y49WkLiNo
ほむら(まずいっ!)


ドンッッッッ!!!!!


放った。

618: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/14(水) 23:39:44.91 ID:y49WkLiNo
杏子「──!!!」


ドザッ!


声一つ上げられずに佐倉杏子は吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。

ほむら「あ……」

彼女は……動かない。

632: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/18(日) 22:23:41.37 ID:eAtELqG3o
私達魔法少女は、魔女化するかソウルジェムを砕かれない限り死なない。死ねない。

だが、今の一撃は佐倉杏子の首付近に放たれた物であり、その辺りには彼女のソウルジェムが……

私の脳裏に、昔の悪夢が再びフラッシュバックした。


マミ『みんな死ぬしかないじゃない!』


あの時も、巴さんが撃ち殺したのは佐倉杏子だった。

ほむら(な、なんて……事……)

悲劇は、再び繰り返されてしまった……

633: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/18(日) 22:25:07.33 ID:eAtELqG3o
マミ「あら……外しちゃったわ」

ほむら「えっ?」

しかし、目の前が暗闇に包まれかけた私の耳に届いたのは、抑揚のない巴さんの呟きだった。

マミ「ソウルジェムを狙ったのだけどね」

彼女は、無表情に肩をすくめた。

よく見てみれば、倒れている佐倉杏子は確かにまだ魔法少女の姿のままだ。

もし魔法少女が変身した状態で死亡してしまえば、その変身は解けるはず。

……そうか。

恐らく、強烈な一撃が直撃する瞬間、佐倉杏子は僅かながら身をよじったのだろう。

その為に狙いが逸れ、彼女のソウルジェムは助かったのだ。

ただ、大きなダメージを負った事には違いないだろうが……

634: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/18(日) 22:27:39.25 ID:eAtELqG3o
マミ「まあ良いわ。
とどめをさせば良いだけだもの」

にこにこと笑うと、巴さんはこちらに向き直った。

ほむら「……!」

マミ「でも、今ので佐倉さんより貴女の方が距離が近くなっちゃったぁ。
先に暁美さんから殺ろうかな???」

ほむら「巴さん……」

私の拘束は、未だに解けない。


スタ、スタ……


巴さんが、どこかおぼつかない足取りで向かって来る。

635: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/18(日) 22:30:35.72 ID:eAtELqG3o
……駄目だ。どうやってもリボンから抜け出せない。

美樹さやかも佐倉杏子も、今はとても動ける状態ではないだろう。

私の最後の手段である時間遡行も、体を動かせなければ使えないというのもあるが、
そもそも、とある『制約』によって今の段階では行う事自体が不可能だ。

636: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/18(日) 22:31:49.73 ID:eAtELqG3o
ほむら(こんな所で……)

終わるのか。

私の頬に、涙が流れる。

誰も救えず。

ほむら(まどか……)

何も出来ないまま。

ほむら(巴さん……っ!)

絶望に、私は自分のソウルジェムが黒くなっていくのを感じた。

637: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/18(日) 22:33:32.83 ID:eAtELqG3o
マミ「──さようなら」

私の目の前まで来た巴さんが、私の左手の甲にあるソウルジェムに、マスケット銃を向けていた。


ガヅッ!


しかしその時、横から飛んで来た『何か』が、巴さんが右手に構える銃を弾き飛ばした!

ほむら・マミ『!?』

私と巴さんは、その『何か』が飛んで来た方を向く。

638: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/18(日) 22:35:08.14 ID:eAtELqG3o
ほむら「み、美樹さん……」

そこには、左肘をついて上半身を起こしただけの状態で、巴さんを睨む美樹さやかが居た。

彼女が、得物の剣を投げてくれたのだ。

マミ「驚いた……一年は寝た切りになるような怪我だったはずなのに」

美樹さやかの手足に開いていた無数の穴は、この短時間で半数ほどが塞がっていた。

……そうか。

忘れていたが、美樹さやかの力の源は『癒し』。

そんな彼女の回復力は群を抜いていて、だからこそ今こうして動けているのだろう。

639: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/18(日) 22:36:22.28 ID:eAtELqG3o
さやか「話……ずっと聞いてたけど、さ……
マミさん、もうやめてよ……」

マミ「どうして?」

さやか「せっかく大切な人がっ、恭介……が元気になって幸せ、だったのに……
どうしてこんな……」

マミ「でも、それはそう遠くない未来に最悪の形で必ず消える。失うわ。
戦いの中殺されるか、魔女になる事によって」

さやか「それでもっ!
……嫌だよ……
折角、マミさんやほむら……みたいな『仲間』だって出来たのに……」

マミ「!!!
…………」

640: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/18(日) 22:38:13.34 ID:eAtELqG3o
さやか「あたし、さ……やっぱり、戦いとかすっげえ不安で怖かったんだよ?
でも、最初からマミさんが支えてくれたおかげで何とかやって来れたんだ……!
マミさんが居てくれたから、ほむらとだってここまで仲良くなれたんだっ!」

マミ「…………」

さやか「正直、魔法少女が魔女になるとか言われてもすぐにはピンと来ないけどさ……
どんな理由があっても、やっぱりこんなの嫌だっ!
マミさんに殺されるのも、マミさんが人を──仲間を殺すのも……!」

マミ「あ……」

……死人のようだった巴さんの瞳に、微かに感情が戻った。

さやか「こんなの認めない! 憧れのマミさんが仲間にこんな事するなんてありえない!!
ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」

美樹さやかは泣いていた。

巴さんを睨みつけたまま、泣いていた。

641: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/18(日) 22:39:38.91 ID:eAtELqG3o
マミ「け、けど、だからよ! だからよっ!!
仲間だから失いたくないっ!」

ほむら「じゃあ、なぜ殺すの……?」

マミ「だって! 失いたくないけどっ! けどっ、私達は生きていたって最後は魔女になるしかないのよ!?
そんなの嫌っ! 皆がそうなるのなんて見たくない!!
だから殺すのっ! 殺して救ってあげるのっ!!
魔女になって他の魔法少女に殺されてしまうくらいなら、私の手でっ!!!」

642: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/18(日) 22:41:02.23 ID:eAtELqG3o
杏子「ふ……ざけんなよ!」

ほむら「杏子っ!」

腹の辺りを押さえ、足を引き擦りながらこちらへと歩いてくるのは佐倉杏子だった。

彼女は辛うじて魔法少女の姿ではあるが、
もはや武器を実体化する魔力は残ってないのか、その手に槍は持っていない。

杏子「救うとか言って、結局自分の為っ、自分が嫌だからじゃねえかっ!」

マミ「!」

杏子「あたし達は誰もそんな事されるのを望んでねえ!
なのにてめえのエゴで仲間殺すのかよっ!」

マミ「わ、私……」

佐倉杏子の叫びに巴さんは狼狽し、視線が泳ぐ。

643: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/18(日) 22:44:51.53 ID:eAtELqG3o
杏子「あたしだって、絶望に負けそうになって、何もかも捨ててやろうと思った時は何度もあったさ……
でも、昔あんたがくれた『優しさ』が、あたしを今日まで生かしてくれたんだ。
その事を、すっごく感謝してんだぞ?」

マミ「佐倉さん……」

杏子「あたしが馬鹿で弱かったせいで、あんたに酷い事して嫌な別れ方しちまったけど……
本当は、本当はね……」

詰まりながらも、佐倉杏子は必死に言葉を紡ぐ。

杏子「あたし、甘っちょろい……でも、どんなに辛くても、絶対に負けずに理想を求めて頑張る、
優しいマミの事が大好きだったんだ」

マミ「さ、佐倉さ……」

杏子「──そんなっ、そんなお前が仲間を殺すなんて嘘だよな!?
魔女になろうが何だろうが、お前だったら逆に助けようとするんじゃないのかよっ!
殺して、とかそんなやり方じゃなくてさぁっ!」

マミ「わ、私……私……!」

644: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/18(日) 22:46:15.60 ID:eAtELqG3o
杏子「頼むよ、あたしにそんなお前を見せないでくれよ……」


ドサッ。


力尽きたのか、私達まであと二メートル程まで来た所で、佐倉杏子は座り込んでしまった。

杏子「こんなの、嫌だよ……」

マミ「う……」

……杏子。

645: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/18(日) 22:47:42.86 ID:eAtELqG3o
さやか「マミさん、あたし死にたくないよぉ」

マミ「!!!」

さやか「恭介やまどか、マミさんやほむらに仁美……ずっと、皆と楽しくしてたい。
それが無理なんだったら、せめて魔女になったり魔女に殺されるまでは皆と一緒に居たい……」

マミ「美樹、さん……」


ドッ……


涙を流す美樹さやかの視線を受け、巴さんの左手からもう一つの銃が落ちた。

さやか「あたし、マミさんに殺されるなんて嫌だぁっ!
そんな死に方寂しいよ! 悲しすぎるよぉっ!!!」

マミ「あ……!」

美樹さん……!

646: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/18(日) 22:50:20.31 ID:eAtELqG3o
ほむら「うん。
私も、死にたくなんかない」

杏子「あたしだって……そうだよ」

マミ「わ、私……なんて事を……!」

巴さんは、頭を抱えて両膝をついた。

そして、戦意を失ったのか、正気に戻ったのか──それと同時に彼女の変身が解けた。

647: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/18(日) 22:51:39.06 ID:eAtELqG3o
ほむら「大丈夫よ、巴さん。
先の事はわからないけど、皆で頑張りましょう?」

もはや、『まどかさえ救えれば』などという考えは私の頭から完全に消えていた。

やっぱり、皆を救いたい。皆で幸せになりたい。

巴さんと幸せになりたい。

ほんの僅かでも、妥協するつもりは……無い!

648: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/18(日) 22:52:39.62 ID:eAtELqG3o
ほむら「ほら、私達が──
私が居るから。
泣かなくても、心配しなくても良いの」

マミ「暁美、さん……」

巴さんは、涙に濡れた瞳で私を見た。

マミ「あり、がとう……」

ほむら「うん」

私は、そんな彼女にそっとほほ笑みかけた。

649: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/18(日) 22:53:48.89 ID:eAtELqG3o
……しかし。

マミ「……でも、ごめんね。
もう、駄……目みたい……」

ほむら「えっ?」


ゴウッ!!!


突如、巴さんから激しい風が吹き荒れた。

650: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/18(日) 22:55:16.01 ID:eAtELqG3o
さやか「!?」

杏子「なっ!?」

ほむら「こっ、これは……!」

まさか、魔法少女が魔女になる時の──

マミ「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

邪悪な風の中、巴さんが体を軽く後ろに反らした状態で数センチほど浮いた。

彼女の胸の前には、巴さんのソウルジェムも浮遊している。

穢れを溜め込みすぎた、『それ』が。

651: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/18(日) 22:57:52.60 ID:eAtELqG3o
……私を拘束していたリボンが消えた。


ピシッ!


巴さんのソウルジェムに、無数のひびが入る。


ビッ、ビビッ……!


そして、そのソウルジェムは闇色に染まり・発光して、私達のよく知る存在の気配を徐々に放ち始める。

さやか「こっ、この魔力って、そんな!?」

その存在とは、そう……

杏子「魔女の……」


ゴウッ!!!!!


杏子「──ぅわっ!」

さやか「あぁっ!」

疲弊している佐倉杏子と美樹さやかが烈風に吹き飛ばされ、土手に強く叩きつけられた。

二人はその状態のまま、風に押し付けられて動けないようだ。

652: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/18(日) 22:59:56.37 ID:eAtELqG3o
ほむら(そんな……)

このまま、巴さんのソウルジェムはグリーフシードへと変わり、彼女は魔女になる。

この段階まで及んで、魔女化を止められた例は無い。

ほむら(そんな事って……)

そんな事って……!


認 め ら れ る も の か ! ! ! ! !


この段階まで及んで魔女化を止められた例は無いが、
この段階で止める事が不可能だと断言出来るほどの経験や情報も、私には無い!

653: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/18(日) 23:01:23.47 ID:eAtELqG3o
ほむら(巴さん!)


バッ!


私は左手の盾からグリーフシードを両手に持てるだけ取り出すと、
巴さんのひび割れたソウルジェムにそれらを当てた。

ほむら「巴さんっ!」


キュゥゥゥゥゥゥゥ……


『穢れ』が、複数のグリーフシードにどんどん移り、
巴さんのソウルジェムを浄化していく。

その影響か、烈風が少しだけ弱くなった。

ほむら(これなら間に合う!?)

654: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/18(日) 23:04:19.84 ID:eAtELqG3o
だが、

マミ「うっ! あ、あああああああああああああああ、あああああッッッッッ!!!!!」

ほむら「っ!?」

浄化を押し返す勢いで、再び彼女のソウルジェムが黒く穢れていく!

ほむら(こっ、これでも足りないのっ!?)


ゴウウウウウッ!!


ほむら「くっ!」

駄目だ! これ以上穢れを吸わせると、今使っているグリーフシードのすべてが孵化し、魔女が生まれてしまう!

655: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/18(日) 23:06:04.39 ID:eAtELqG3o
しかし、どんどん強くなる風に、私は身動きが取れなくなっていた。

下手に体を動かすと、そこから吹き飛ばされてしまいそうだ。


バッ!


私は両手を離し、それによって今まで持っていたグリーフシード達が風に飛ばされていった。

……取り出したグリーフシードはすべて使い切ってしまった。

グリーフシード自体はまだあるが、それはすべて盾の中。

また取り出そうにも、これほどの強風だと動けない。

もう手は……無い?

656: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/18(日) 23:08:41.07 ID:eAtELqG3o
ほむら(嫌だ)

巴さんが居なくなる。

ほむら(嫌だ、嫌だ!)

そして、魔女になった彼女をどうする?

放っておいて逃げる?

……殺す?

ほむら(嫌、嫌だ嫌だっ! どっちも嫌っ!)

657: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/18(日) 23:09:40.13 ID:eAtELqG3o
この世界での、巴さんと過ごした時間が脳裏に蘇る。

月夜の晩に、神秘的に現れた巴さん。

普段の、優しい巴さん。

戦闘での、凛々しい巴さん。

昨夜の、弱々しくて儚げな巴さん。

その一つ一つの彼女が、私の心に深く刻み込まれていた。

それは、幾多の世界で何度となく出会った『巴マミ』としてではなく、『貴女』という唯一の存在として。

658: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/18(日) 23:11:13.09 ID:eAtELqG3o
ほむら「……行かないで」

『貴女』が良い。

そうだ。

いくら時を繰り返そうとも、『貴女』とはこの世界でしか会えない。この世界にしか居ないのだ。

今の私は、ずっと不可解だった、巴さんに対する自分の気持ちが何だったのかを完全に理解していた。

そして確実に言えるのは、もはや何があっても『貴女』を見捨てる選択肢など存在しないという事。

659: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/18(日) 23:12:38.87 ID:eAtELqG3o
ほむら「巴さんっ! 行かないで!!
私の側に居てよっ!!!!!」

マミ「っ!?」

一瞬──

ほむら「!」

風が止んだ。


ギュッ!


その一瞬で、私は巴さんをきつくきつく抱き締めた。

ほむら「貴女を失いたくない!」

だって私、貴女を……


ドンッ!


ほむら「っ!」

すぐに再び彼女から烈風が生まれ、密着している私の体に直撃した。

ほむら「ぐ……!」

660: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/18(日) 23:13:49.99 ID:eAtELqG3o
強くて脆くて、優しい。

憧れの、愛しい巴さん。

彼女を癒したい。力になりたい。支えたい。

ほむら「貴女が良いのっ!」

貴女を失いたくない。

ほむら「ずっと、一緒に居てよっ……!!!」

気が付くと、私は涙を流しながら──

661: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/18(日) 23:14:30.91 ID:eAtELqG3o
巴さんにキスをしていた。

662: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/18(日) 23:15:20.93 ID:eAtELqG3o
──永遠に、貴女に触れていたい──

マミ「……!」

私の腕の中の巴さんから、力が抜けた。

……今度は、完全に風が止んだ。

長い長いキスの後に唇を離し、私は彼女を見つめる。

マミ「暁美、さん……」

そこに居るのは、いつもの巴さんだった。

663: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/18(日) 23:15:59.75 ID:eAtELqG3o
ほむら「……お帰りなさい」

マミ「ぅ……
あぁっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!!!!!!」

巴さんは泣きじゃくりながら、私に抱きついた。

強く、強く。

683: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 18:08:44.15 ID:F2L8pTBDo
─────────────────────

杏子「マミの奴はどうだ?」

巴さんを、彼女の部屋に寝かせて戻って来た私に、かりんとうを頬張る佐倉杏子が聞いてきた。

ほむら「変わらず眠っているわ。落ち着いてる」

何度となく訪れた、巴さんの家のいつものリビング。

ここに、私・美樹さやか・佐倉杏子の三人が集まっていた。

杏子「そっか」

さやか「よかった……」

例のおしゃれなテーブルの前に座って、安堵の表情を見せる二人を横目に私もゆっくりと腰掛ける。

──あれから、さらに沢山のグリーフシードを使用した事もあり、
巴さんのソウルジェムの穢れは止まって彼女は救われた。

しかし、巴さんは号泣した後に泣き疲れて眠ってしまったのだ。

……いや、巴さんも睡眠不足気味だったはずだし、精神的なダメージも酷くあったに違いない。

だとすれば、それは気絶といっても良いだろう。

私達はそんな彼女を、ここ──巴さんのマンションに運んで来たのだった。

684: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 18:10:43.08 ID:F2L8pTBDo
ほむら「……二人こそ、身体は大丈夫?」

杏子「ああ、問題無いよ」

さやか「あたしも何とか」

先の戦いで傷付いていた佐倉杏子と美樹さやかだが、魔力を使って回復した為に今は共に五体満足だ。

杏子「つってもあたしは言うほど大した怪我でもなかったけどね。
それより驚いたのはこいつだよ。
まさに致命傷ってレベルだったのに、凄いもんだ」

さやか「はは、何かあたしは治癒ってのが得意みたいでさ」

美樹さやかの手足にあった沢山の穴も、今は一つの例外も無く塞がっている。

ほむら(……まどかは大丈夫かしら)

まだ彼女が眠る時間には早いし、出来れば様子を見に行きたい所だが……

今はやめた方が良いだろう。

まどかが無事だと推測出来る材料があるし、それならば私はここから動かない方が良い。

これから起こるだろう問題に備えて。

685: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 18:13:15.02 ID:F2L8pTBDo
さやか「しっかしキュゥべえの奴許せないよ。
この子けしかけて来て、何を企んでんのか……!
今度会ったらただじゃおかない!」

ほむら「杏子から話を聞いたの?」

杏子「あんたがマミを寝かせてくる少しの間に、『キュゥべえの奴に頼まれて』ってだけね」

まあ、話すにしても時間的にそれが限界か。

しかし……

杏子「だけど、面識は皆無と言っても良いあたしの話をアッサリ信じるとはね。
もちろん嘘じゃないけど、ちょっとばかり単純すぎない?」

ほむら「そうね、正直私も思ったわ」

さやか「うるさいなぁ、もーっ。
別に……えっと、佐倉さんだっけ?」

杏子「あたしの事は『杏子』で良いよ。
こっちもあんたの事、『さやか』って呼ばせて貰うからさ」

さやか「ん、わかった。
──あたしは杏子がどうとかってより、キュゥべえが信用出来ないだけ。
だってさ、あいつソウルジェムの事全然話さなかったじゃん……!」

低く、憎々しげに美樹さやかが呟いた。

ソウルジェムや魔女・魔法少女の秘密に関しては、
彼女達も巴さんが魔女に変わりかけるのを間近で目撃した為、もはや二人共疑ってはいないようだ。

さやか「マミさんが言ってたのが本当なら、それってあたし達魔法少女にとって何よりも大切な情報だよね!?
それを隠していた奴なんか、絶対に信じられない!」

杏子「だね。
……ほむらの言ってたキュゥべえの目的とやらも、これで信憑性が増したよ」

さやか「え?」

686: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 18:16:35.65 ID:F2L8pTBDo
杏子「何でも、キュゥべえは宇宙を救うやらの為にでっかいエネルギーを欲していて……
それには、第二次性徴期の女の感情エネルギーが一番効率が良いとかだったよね?」

ほむら「ええ」

杏子「マミが魔女になりかけたあの時、とんでもない力が放出されていた。
──キュゥべえが求めるエネルギーって、ようするにそういう事なんじゃないのか?」

佐倉杏子が、鋭い瞳で私を見た。

ほむら「その通りよ」

それを受け、私は深く頷く。

ほむら「……これに関しては私の推測だけれど、その為にあいつは──『インキュベーター』は、
利用出来ると目をつけた子の身体をこんな風にしているのだと思う」

杏子「いずれ、魔女にならざるをえない身体に……」

昔ソウルジェムの件をキュゥべえに問い詰めた時、
『生身のまま魔女と戦えなんて無茶は言わない』という風な話をされた事があった。

だがそれは嘘ではないにしても、
あいつが契約した子の魂を、ソウルジェムに移す一番の理由ではないと私は考えている。

嘘こそついていなくとも、事実すべてを話しているとは限らない……これは、キュゥべえの得意技だ。

687: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 18:18:27.71 ID:F2L8pTBDo
さやか「なるほど……そこまでは気付かなかったな。
杏子って頭良いんだね」

杏子「キュゥべえの話を聞かされたのが河原に行く前で、その後忘れる間も無くすぐにマミのあんな姿を見たからね。
それがデカかっただけさ」

さやか「あ……
そういえばさ、二人共ありがとね。
二人が来てくれなかったら、あたし……」

ほむら「気にする必要は無いわ」

杏子「ま、あたしは別にあんたを助けに行った訳じゃないから、礼なんて言われても困るよ」

さやか「……でも、さ」

美樹さやかが、ソウルジェムを取り出した。

さやか「これが魔法少女の本体ってなら……
あたし達もう人間じゃないって事なんだよね」

ぽつりと呟く彼女の顔には、大きな影が差していた。

そして、

ほむら「あ……」

そのソウルジェムが、ゆっくりと濁って行くのが見えた。

杏子「そういう事になるな。
──だよな? ほむら」

ほむら「…………」

さやか「ちょっと、ここでだんまりは無いでしょ?」

美樹さやかが不機嫌な声を上げる。

688: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 18:21:09.19 ID:F2L8pTBDo
……当然、こんな流れになるわよね。

気持ちが高ぶっていた先程までならともかく、一度緊張の糸が切れたらこうなるだろうと予測していた。

ほむら(やっぱり、この場を抜け出さなくてよかった)

ここで上手く美樹さやかに対応しなければ、取り返しのつかない事態になる可能性があるからだ。

……いや、それは一見落ち着いた様子の佐倉杏子にしたってそうだろう。

ほむら(……大丈夫。
大体、まどかから離れてかなり時間が経っている。
ならば、今すぐに彼女の元に駆けつける意味はほとんど無い)

もしキュゥべえに接触されて、彼女が契約をするつもりならばとっくにやっているはずだし、
そもそも今のまどかにはすぐに叶えたい願いなど無いはず。

また、だからといって『何でも願い事を叶える』と迫られ、
こんな短時間で願いを決められるほど、まどかは決断力があったり短慮な人間ではないはずだ。

ほむら(……これが、他人が関わってくると、
一転して普段の彼女からは信じられないほどの行動力・決断力を見せてくるのだけど)

それは逆に言えば、自分一人の問題だけならばそんな力は無いという事でもある。

ほむら(……しかし、『はず』ばかりで落ち着かないわね)

これは、ただの私の弱さ。

それを排除して見れば、現状を冷静に考えた上でのこの推量に間違いは無い自信がある。

そして、まどかの無事が確信出来ていて他の仲間が危機に陥っていれば、私はそちらを助けようと決めたのだ。

ほむら(私は、もう迷わないわ……!)

689: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 18:23:41.48 ID:F2L8pTBDo
さやか「ねえっ、ほむら!?」

ほむら「……この身体がただの入れ物になってしまった以上、そうね」

さやか「っ……!」

考え方は色々あるだろう。

しかし『人間』という生き物は、この肉体があり、
それに心が──魂が宿っているからこそ『人間』なのだと私は思う。

その二つがソウルジェムという宝石みたいな物に一纏めにされた私達は、やはりもはや『人間』とは呼べない。

さやか「……こんな大事な事知ってたのに、なんであんたも話してくれなかったのよ?」

ほむら「河原で巴さんにも言ったと思うけど……
そこまでいっぺんに話すと、理解が大変で混乱してしまうと思ったから……」

さやか「だからって、だからってこんな……!」

ほむら「ごめんなさいっ!」

さやか「わっ!?」

私は、美樹さやかに大きく頭を下げた。

690: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 18:25:48.50 ID:F2L8pTBDo
ほむら「理由はどうあれ、嫌な思いをさせてしまったのなら謝るわ。
だから……お願いだから早まらないで!」

さやか「ちょっ……」

ほむら「自暴自棄にならないで。魔女に……ならないで……!」

さやか「や、やめろって!
なんかあたしがいじめてるみたいじゃんっ!」

杏子「違うのか?」

さやか「違ぁうっ! てか、何ニヤニヤしてんだっ!
ほむらも頭上げろぉ!」


ぐいっ!


と、美樹さやかが私の両肩を掴んで上半身を上げさせる。

さやか「……!」

そのまま私と目があった彼女が、目を見開いて絶句した。

ほむら「美樹、さん……?」

さやか「……わかったよ」

ほむら「えっ?」

さやか「信じるよほむらの事。
ってゆーか、そんな悲しそうな顔されたら信じざるをえないし」

ほむら「……顔?」

私は自分の顔に手をやった。

……その感触でわかるほど、私の表情は歪んでいた。

自分では気付かなかったが、どうやらよほど酷い顔をしていたらしい。

さやか「ただしっ!
ここまで来たからには全部話して貰えるんだよね?」

ほむら「ええ。
……といっても、ソウルジェムに関しては巴さんが話していた事ですべてなんだけど……」

さやか「そ、そうなのか……」

691: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 18:27:37.14 ID:F2L8pTBDo
ほむら「ただ、キュゥべえの事も含めて、一度すべての情報を整理する必要はあると思う」

さやか「……確かにね。
ハッキリ言って、この一日二日で色々ありすぎ。
もう、何が何やらでイライラするよ!」

美樹さやかが不愉快そうに唇を噛みしめるが、ふと苦笑して私を見た。

さやか「──そう考えると、あんたの判断は正しかったのかもだね」

ほむら「えっ?」

さやか「いっぺんに話すと混乱してしまうと思ったから云々。
確かにあれもこれも一気に話されてたら、理解出来ないを通り越して頭パンクしてたかもしれない。
で、あたしもマミさんみたいになってたかもね」

その可能性は、ゼロではない。

さやか「まあ、何の事件も起きずに済んだ可能性もあるけどさ。
それ言い出したらキリが無いし、こうして皆無事なんだからやっぱりそれでよかったんだよ、うん」

早口気味に言う彼女は、どこか自分に言い聞かせているようだった。

692: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 18:29:41.51 ID:F2L8pTBDo
……いや、実際そうなのだろう。

そうやって『これでよかった』としないと、この現実に耐えられないから。

さやか「でも……そっか。あたしもう人間じゃないんだ。
だって話聞く限りだと、ゾンビになっちゃったようなもんじゃん……?」

もはや、どうやっても私達の身体は元には戻らないのだから。

杏子「……ゾンビ、ね。上等じゃん」

これまで黙っていた佐倉杏子が、唐突に口を開いた。

さやか「えっ?」

杏子「ソウルジェムが魔法少女の本体ってーなら、つまる所こいつさえ無事なら、
この身体は刺されようが貫かれようが死にはしない訳だ? それこそ頭が吹き飛んじまおうがさ」

ほむら「そうなるわね。
身体が損傷しても、魔力で治せる訳だし……」

ただ、例えば肉体が完全に消滅したりしたら、
その肉体を治す前に絶望して魔女化してしまうかもしれない。

どれだけ精神力の強い人でも、
度を超えた自分の状態に動揺・動転して、それが抑えられなくなり呑まれてしまったりするだろうし、
第一それほどの損傷を回復させるだけの魔力が残っているかもわからない。

色々と考えてみると、理論上は可能でも、事実上不可能な状況もあるのではないかとは思うが……

693: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 18:31:24.29 ID:F2L8pTBDo
杏子「だったらさ、こうなっちまったのはむしろメリットだと考えれば良いさ」

さやか「メ、メリット!?」

杏子「だってそうじゃん?
ソウルジェムをやられなければあたし達は不死身な訳だし、
そいつを知った今なら、それを踏まえた戦い方だって出来るんだ」

そう言う佐倉杏子は、笑顔だ。

杏子「大体、魔法少女になったおかげで今まで好き勝手やってこれたんだしね。
そして、これからもそのつもりだ。
それを考えれば、少々の不満なんざ屁でもねえ」

さやか「少々の不満って……!
あんた現状わかってんの!?」

杏子「わかってるから言ってんのさ。
こうなった以上、泣こうが喚こうがどうしようもないし、どうにもならないんだって事をな。
──だよな?」

ほむら「そうね。
ただ、未契約の子がキュゥべえに頼めば、あるいは……だけど……」

杏子「そんなお人好し、居る訳ないな」

……唯一、まどかならもしかしたら、頼めば助けてくれるのかもしれないが……

ほむら(──いや、例えそうだとしても、それは私が絶対に許さない)

これは考えるだけ時間の無駄だ。

694: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 18:34:47.22 ID:F2L8pTBDo
杏子「つー訳だから、うじうじ悩んで下向くより、現実を見て今の良い所捜した方が得だろう?
どっちみち、一生この身体で生きてかなきゃいけないんだからさ」

さやか「……うん。わかってるよ。
わかってるけどさ……」

杏子「それにさ、あたしは契約の時にソウルジェムの話をされていても、願い事はやめなかったろうね。
……あの時は、それだけ叶えて欲しい願いがあったから」

さやか「……!」

杏子「だからどっちにしろ、キュゥべえと出会った以上あたしの運命は絶対に変わらなかったと思うよ」

さやか「…………」

杏子「だったらこの現実は、自分で選んだ自己責任の結果だと割り切って生きるのが一番だろ?
そりゃあキュゥべえの奴はムカつくが、それはそれだ」

さやか「そう……だね」

……佐倉杏子の言葉に、喧嘩腰だった美樹さやかの放つ空気が徐々に和らいでいく。

695: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 18:36:51.10 ID:F2L8pTBDo
さやか「うん、あたしもきっとそうだ」

そして、ゆっくりと漏らす彼女の声は、穏やかなものだった。

さやか「そりゃ、悩みはしただろうけどさ……
こうして魔法少女になる未来は変わらなかったと思う。
あたしの願いも、何があっても絶対に叶えたいものだったもん」

ほむら「……私もよ」

杏子「おっ、同類かい?
なら、あたしの言ってる事はわかるはずさ」

ほむら「それに、美樹さんには誰よりも大切な人が居るでしょ?
……ううん、その人だけじゃない。
家族とか友達とか、色々な人達の為にも自分を諦めちゃ駄目よ。
もしそんな事をしたら皆悲しむわ。
もちろん、私だって」

さやか「……うん。
こんな身体になっちゃったけどさ、でも、だからこそ出来る事だってあるはずだよね?」

そう問う美樹さやかは、とても不安そうな顔をしていた。

今の言葉を肯定して欲しいのだろう。

696: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 18:38:40.74 ID:F2L8pTBDo
杏子「たりめーだろ。魔法少女なんだからさ」

ほむら「杏子の言う通りよ」

誰だって不安な時・心が潰れそうな時は、優しくされたり、優しい言葉をかけて貰いたいものだ。

ほむら「人間ではなくなった分、私達は大きな力を手に入れた」

私にはわかる。どんなに強がっても、私もずっとそうだったから。

ほむら「この力を使えば、大切な人達を守る事が出来るはずよ。
失ったものは確かに大きすぎるけれど、でも、その代わりに手に入れたものだって決して小さくはない」

だから、私の言葉なんかで貴女の心が少しでも楽になるのなら……

ほむら「自分の頑張り次第で、失ったもの以上の大きな『何か』を、
これからさらに手に入れ続ける事だって出来るはず」

いくらでも肯定してあげたい。

ほむら「私は、そう信じてる」

さやか「ほむら……」

ようやく──

さやか「うんっ!」

美樹さやかに笑顔が戻った。

ほむら(……よかった)

杏子「…………」

697: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 18:41:28.00 ID:F2L8pTBDo
さやか「──あっ!」

しかし突然、美樹さやかが横を向いて青い顔で叫んだ。

その先には、時計。

さやか「あ、あたし、家に連絡とかしてない……また怒られる……」

時間は、もう22時を回っていた。

美樹さやかが慌てて携帯を取り出す。

さやか「うっわ、着信めっちゃ来てるしっ!」

話によると、今日に限って学校でバイブにしてからそのままにしていて、着信にまったく気付かなかったらしい。

さやか「えっと、色んな事の話の整理? まとめ? って明日にして貰って良い!?」

ほむら「そうね。本音を言えば私もその方が助かるわ。
今日はさすがに疲れちゃったし、どうせなら巴さんも交えて話したいから」

丁度明日は土曜日で学校も無いので、尚更都合が良いだろう。

さやか「じゃあそうしようっ!
んじゃ、あたしは帰るねっ!」

パタパタと慌ただしく美樹さやかは出て行き、私と佐倉杏子はリビングに二人きりになった。

杏子「……そのまとめとやら、あたしも混ざらせて貰うよ。
馴れ合うつもりは無いけど、このままサヨナラじゃあモヤモヤしてしょうがないからね」

ほむら「ええ、それはこちらからお願いしたいくらいだから、ぜひその場に来て頂戴」

杏子「──ああ。そういや、ワルプルギスの件が宙ぶらりんなままだったか」

思い出したように佐倉杏子が呟く。

そう。ワルプルギスの夜との戦いに佐倉杏子の力も借りる為、ここで彼女に去られては困るのだ。

698: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 18:43:58.08 ID:F2L8pTBDo
ほむら「でも……ありがとう」

杏子「あん? なんだ急に?」

ほむら「私一人だったら、さっきの美樹さんを上手く落ち着かせられたか自信が無い……
フォローしてくれて、凄く感謝してる」

杏子「別にフォローとかそんなつもりは無かったんだけどね。
ただ、同じ魔法少女が同じ事でヘコんでんのを見てらんなかっただけさ」

この言いようだと、やはり彼女もショックを受けていたのだろう。

ほむら(……当然よね……)

杏子「あと、あんたらにはキュゥべえに踊らされたからとはいえ、襲っちまった借りがあるからね。
さやか自身には手は出してないが……まあそれは置いといて、だ。
河原ん時は結局何も出来なかったようなもんだし、それを返す意味も含めてね」

ほむら「理由はどうでも良いの。貴女が居てくれてよかったわ」

杏子「……やめろよ。くすぐったいな」

佐倉杏子が、どこか居心地が悪そうに視線を泳がせた。

ただ、やや赤くなった頬を見る限り、不機嫌になった訳ではないようだ。

699: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 18:45:56.06 ID:F2L8pTBDo
杏子「あとさ、さっきさやかに言ったあんたの言葉……」

ほむら「?」

杏子「素直に同意出来ない部分はあったけど……
けどさ、嫌いじゃないよ」

噛みしめるように彼女は言った。

ほむら「……杏子」

杏子「──さて! あたしも行くよ」

一瞬の間を置いて、彼女は一転して元気な声を上げた。

杏子「集まる場所はここで良いのか? 時間はどうするんだい?」

ほむら「あ……場所はそのつもりだったけど、時間は決めてなかったわね。
後で美樹さんとメールでもして決めるわ」

この家を使う許可はもちろんまだ巴さんに取っていないが、万が一駄目ならば私の家に行けば良い。

杏子「まあバタバタしてたしな。
んじゃあ……そうだな、朝にでもまた来るよ」

ほむら「泊まる場所はあるの?」

杏子「……そんな事までお見通しなのか。あんたって本当に不思議な奴だね。
なーに、いつも通り何とかするさ」

ほむら「……今晩は、ここに泊まって行けば良いんじゃないかしら?」

杏子「ん? そりゃ寝床がさっさと決まるのは嬉しいが……」

700: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 18:47:13.78 ID:F2L8pTBDo
ほむら「まあ、私が言うのも変な話だけどね。
でも貴女なら、巴さんも良いって言うと思うわ」

杏子「……そうかな」

ほむら「そうよ。
むしろ喜んでくれるわよ」

杏子「ん……情報通のあんたが言うならそうなのかもね」

彼女はどこか嬉しそうな表情を見せると、

杏子「わかった。じゃあそうさせて貰うか」


ドサッ。


その場で横になった。

701: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 18:49:22.33 ID:F2L8pTBDo
杏子「で、あんたはどうするんだい?」

そのまま彼女は懐からさきイカを取り出すと、それを頬張りつつ片腕を枕代わりにして私に問う。

ほむら「……私は、巴さんについているわ」

それは彼女が心配というのもあるが、何より……

河原での事が忘れられなかった。

彼女の剥き出しの感情に触れ、肉体に、唇に触れ……

そのすべてが私の感覚を捉えて、離れなかった。

──巴さんの側に居たい──

杏子「……だな。マミには『人のぬくもり』って奴が必要だ。
今のあいつには尚の事、な。
悔しいけど、それはあたしよりもあんたのが適任だろうよ」

そう呟いてほほ笑む佐倉杏子は、少し寂しそうだった。

ほむら「えっ?」

杏子「いや、何でもない。
ほら、そうと決まったらさっさと行った行った。マミの奴を頼むぞ」

ほむら「ええ」

702: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 18:52:14.08 ID:F2L8pTBDo
─────────────────────

闇の中、月明かりが射す部屋のベッドで巴さんは眠っていた。

ここは、昨日倒れた私が巴さんに運ばれた部屋だ。

ほむら(あの時と逆ね)

彼女を起こさないようにそっと近付き、私はベッドに腰掛ける。

巴さんは──綺麗だった。

元々美人ではあるのだが、微かな月光に照らされて、その美しさは何倍にも増しているように見える。

そして、表情。

大人びている中に幼さも見られ、安らかさと切なさが混じり合って、瞳の端にうっすらと涙が浮かんでいる。

それは造形の美しさだけではなく、強く・脆く、でも繊細で──
とても複雑で魅力的な彼女の内面が滲み出ていて、より色香を高めていた。

ほむら「…………」

私は唾液を飲み込みながら、彼女の目尻の涙を指でそっと拭う。

その指が微かに震えている。

私はどうしたのだろう? 彼女の美しさに圧倒されているのだろうか。

いや……それもあるが、嬉しいのだ。

こうして彼女が生きている事が。

一度は本気で失ってしまうと思ったこの人に、また触れられる事が。

だから、私の身体が、心が。歓喜に震えているのだ。

703: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 18:54:10.61 ID:F2L8pTBDo
マミ「ん……」


ドキン。


巴さんの閉じられたまぶたがわずかに揺れ、私の心臓が跳ねた。

ほむら「…………」

こうして、反応があるのは何と幸せなのだろう。

ほむら「巴さん……もう居なくなっちゃ嫌だよ。
死んじゃ、嫌だよ……」

巴さんの目尻から涙が無くなると、今度は私の目から流れ出した。

ほむら「う、っく……」

それは次から次へと溢れ、嗚咽と共に止まらなくなった。

マミ「ん……
……暁美──さん?」

その声の為か、巴さんが目を覚ましてしまった。

704: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 18:55:21.46 ID:F2L8pTBDo
ほむら「ご……ごめんなさいっ、起こして、しまって……っ」

私は慌てて身をよじり、巴さんの視界に自分の顔が入らないようにする。

マミ「……泣いているの?」

だが、当然そんなもので誤魔化せる訳は無かった。

巴さんはゆっくり上体を起こすと、そっと私の頭を撫でた。

ほむら「あ……」

マミ「ごめんね……私のせいで凄く迷惑かけちゃった……」

……どうやら、彼女にはきちんと記憶があるようだ。

ほむら「本当、よ……」

マミ「泣かないで。暁美さんが泣いていたら、私まで悲しくなっちゃう……」

ほむら「!」

その言葉に、私は怒りが沸き上がった。

705: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 19:00:47.61 ID:F2L8pTBDo
ほむら「何よその言い方。他人事みたいに……!」

マミ「えっ?」

ほむら「誰のせいで泣いてると思ってるのっ!? 貴女のせいじゃない!
心配したのよ!?」

マミ「ごっ、ごめんなさい、そんなつもりじゃ……
謝っても謝りきれないような事、しちゃったよね……」

巴さんは悲しそうに俯くが、しかし私の怒りはどんどん大きくなっていく。

これは別に、本当に彼女の言動が気に入らなかったとかそういう訳ではない。

落ち着いた場所で、巴さんが無事に動き・喋っているのを──生きているのを見れた事で緊張の糸が切れ、
溜まっていた感情が爆発したのだ。

だからさっきの巴さんの言葉は、こうなってしまったただのきっかけ。

でも、私は溢れるこの感情をあえて止めようとしない。

怒っている事は嘘ではないから。

ほむら「本当よ。
貴女は馬鹿よ。例え何を聞いたのだとしても、あんな風に勝手に思い詰めて勝手に絶望して!
言ったでしょ!? 苦しかったら人に助けを求めろって! 私は貴女の力に、支えになるからって!」

マミ「……うん」

ほむら「貴女は最低よ。どんな理由があっても仲間を殺そうとするなんて最低だわっ!」

マミ「あ……ご、ごめ……」

私の本気の怒りに触れていくにつれ、巴さんの動揺もどんどん大きくなっていくのがわかる。

良い気味よ。

ほむら「悲しい? これに関しては少しは苦しみなさい。
自業自得だわ!」

私は立ち上がると、巴さんに背を向けた。

マミ「あ、や、やだ……!
待って、行かないで……」

706: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 19:02:05.55 ID:F2L8pTBDo
ほむら「──でも」

マミ「えっ?」

しかし私はすぐに彼女の方へと向き直ると、


バッ!


マミ「きゃっ……」

飛びかかるようにして巴さんに抱き付いた。


ドサッ!


その勢いで、私達はベッドに倒れ込む。

707: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 19:03:11.89 ID:F2L8pTBDo
ほむら「……か……った」

マミ「暁美……さん?」

彼女の首筋に顔を埋めている為、私にはおどおどとした呟きしか聞こえない。

ほむら「よかった。貴女が無事で……」

一度は止まったはずの嗚咽が、また漏れ始める。

ほむら「悲し、かったんだから。巴さんに襲われた事が。
怖……かったんだから。巴さんが居なくなるっ……事が……!」

マミ「ごめ……んなさい」

ほむら「こうして戻って来てくれて。生きていてくれて……
本当によかったっ!」

マミ「ごめんなさいっ……!」

月明かりの中でそのまましばらく──私と巴さんは、抱き合ったまま泣いた。

708: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 19:03:52.61 ID:F2L8pTBDo
─────────────────────

マミ「私ね、魔女になりかけた時……
暗い暗い『闇』の中に居たの」

ほむら「……うん」

二人共が少しだけ落ち着いた後、巴さんがぽつりと語り出した。

709: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 19:06:35.97 ID:F2L8pTBDo
……………………

…………

マミ「『闇』は私を呑み込もうと濁流しながら、語りかけて来るの。

『生きていても、お前が望むものは永遠に手に入らない』

『死にたくないという気持ちを誰よりも知っている癖に、死を望まない仲間を殺そうとしたお前は──
愚かで救いようのない大罪を犯しておいて、まだのうのうと生き続けるつもりか』

……って。

最初のはともかく、二つ目はその通りよね……

そして、『闇』が私の顔まで浸食して来た時、
心が無くなっていくような感触と共に、もう駄目……もう良いや──なんて思ってしまった。

こんな人生なんて、もう捨てちゃおうって。

でもね、ふと──皆の事が頭に浮かんだの。

710: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 19:09:40.55 ID:F2L8pTBDo
美樹さんは、皆と……私なんかとも、死ぬまで一緒に居たいと言ってくれた。

佐倉さんは、私なんかを大好きだって言ってくれた。

暁美さんは、『私が居るから心配しないて良い』って、私なんかに優しく笑いかけてくれた……

それを思い出したら、『闇』に抗う力が湧いてきたわ。

何が何でも死にたくなくなった。生きたくなった……!

でも『闇』は強くて、やっぱり私は負けそうになったんだけど、その時貴女の声が聞こえたの。

強く、強く私を求める声が。

その後、上から一筋の『光』がそっと私に向かって伸びてきた。

私は必死でその『光』に手を伸ばしたわ。

『闇』は激しく抵抗したけれど、私だって死に物狂いにもがいた。

そして何とか……やっと、その『光』を掴む事が出来た。

すると『闇』は霧散して、私の身体はまばゆい『光』に包まれ──」

711: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 19:12:54.87 ID:F2L8pTBDo
……………………

…………

マミ「気が付けば、目の前に貴女が居た」

ほむら「巴さん……」

マミ「……私ね、人から何かを求められたり、頼られたり……期待されるのって、重荷に感じる時が多かったんだ。
ふふっ、勝手よね。
人に嫌われるのが怖いから真面目な先輩ぶって、いつも皆に良い顔しておいてこれだもの」

ほむら「そんな事……」

しかし、巴さんは笑顔で続ける。

マミ「でもね、『闇』の中ですべてを失いそうになってようやく気付いたの。
期待されるって、頼られるって、どれだけ嬉しい事なんだろう。幸せな事だったんだろうって」

この笑顔に、曇りは一切無い。

マミ「私は、誰かに甘えたい……誰かに優しくするんじゃなくて、優しくしてくれる人が欲しいと思っていたけれど、
人からそんな風に求められる事で、その願いは叶っていたのよ」

ほむら「えっ?」

712: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 19:17:41.40 ID:F2L8pTBDo
マミ「だって……
──えっと、自分で言うのも何だけど……
例えば、美樹さんは私に憧れてくれているみたいよね」

確かに、それは美樹さやか自身が常々公言しているし、河原でも言っていた。

マミ「佐倉さんも、
『魔女になろうが何だろうが、お前だったら逆に助けようとするんじゃないのか~』
とか言ってくれたのを考えたら、私に何かしらの期待をしてくれていたみたい」

少し照れくさそうに、でも嬉しそうに巴さんは言う。

マミ「今にして思えばね、そんな風に私に憧れ・期待してくれる人が居てくれたから、
私はこうして生きて来られたんだと思う。
その人達は、私に『期待する』という気持ちをプレゼントし、逆にずっと助けてくれていたのよ」

ほむら「…………」

マミ「その人達が居なかったら、
私は『寂しい』とか『苦しい』を通り越して、とっくに自殺していたんじゃないかしら……」

彼女が、伏し目がちに呟く。

マミ「だって、期待してくれるって事は、私の存在を認めてくれているって事じゃない?」

ほむら(そうか……)

重荷に感じる時があったとしても、それは彼女にとって、実は寂しさを埋める大切でかけがえのない贈り物だったのだ。

マミ「だから、私が求めるものは昔から与えられていたんだわ。
私はそのありがたさにずっと気付かず、ただただ自分が可哀想だと、悲劇のヒロインを気取って……
素敵なプレゼントをくれ続けていた優しい人達に、知らないうちに甘えさせて貰っていたの」

再び私を見つめてくる巴さんは、とても澄んだ瞳をしていた。

ほむら「巴さん……」

713: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 19:27:44.23 ID:F2L8pTBDo
マミ「……そして、今は暁美さんも居てくれる」

ほむら「……!」

マミ「私を支えるって──永遠に、私に触れていたいって言ってくれる貴女が」

そっと、彼女が私の肩に寄りかかって来た。

マミ「私に期待し、憧れてくれる人が居て、支えてくれる人も出来た」

ほむら「…………」

マミ「ああ……
私って、幸せだったんだ。幸せなんじゃないのって、そう気付いたら、絶対に死にたくなくなった。生きたくなったの。
……ふふっ、私って大馬鹿よね。どうしてこんな簡単な事に今まで気付かなかったのかな」

ほむら「巴、さん……」

──巴さんが魔女にならずに済んだ直接にして最大の理由は、
彼女が『闇』から帰って来た後にもグリーフシードを沢山使ったからだ。これは間違いない。

だが、佐倉杏子の言葉が、美樹さやかの叫びが……私のキスが。

その一つ一つは、彼女が救われる為のただの小さなきっかけにすぎなかっただろう。

けれど小さなそれらが合わさった結果、巴さんに『闇』と戦う力を与え、
グリーフシードを使用する隙を作り上げるほどの巨大な力となった。

あの時私達三人のうちの誰が欠けていても、どの行動が欠けていても、巴さんは助からなかったのだ。

714: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 19:30:41.03 ID:F2L8pTBDo
ほむら「……私は貴女を支えてみせるけれど、私にだって貴女が必要だわ」

マミ「えっ?」

ほむら「だから、もうどこにも行かないで。
たとえ『闇』がまた巴さんを狙っても、今度は貴女に近付ける事すら許さないから……
ずっと、側に居て」

マミ「暁美さん……!」

巴さんが、まるで満開の花のような笑顔を浮かべた。

マミ「私なんかにそう言ってくれるなんて……」

ほむら「さっきから気になっていたけど、『私なんか』とか言っては駄目よ。
……って、昨日も似たような事を言ったかしら……?
とにかく、貴女はもう少し自分の価値を──自分を信じなさい」

マミ「ん……その通りね。ごめんなさい。
ありがとう」

ほむら「……うん」

715: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 19:32:51.47 ID:F2L8pTBDo
マミ「けど……こうやって貴女とわかり合えてよかった。
最初から、それをずっと望んでいたから……」

ほむら「最初?」

マミ「ええ。
あの、初めて出会った時から……」

ほむら「ああ……」

それは、あの夜の事だ。

室内と外という違いはあるが、今と同じ月明かりの下での、この世界で彼女と初めて出会った夜。

ほむら「……!」

唐突に──私は思い出し、気付いた。


ほむら『……暁美ほむらよ。
よろしく』

マミ『……こちらこそ』


その時の握手の後に彼女から感じた、当時の私にはわからなかった『感情』。

ほむら(そうか……)

それが何だったのか、今ようやく理解出来た。

716: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 19:35:01.29 ID:F2L8pTBDo
縄張り争い等の問題で、本来心を許してはならない・許さない方が良い──

しかし、同じ魔法少女だからこそ一番心を許したい存在と握手をする事で、彼女は期待してしまったのだ。

どれだけ接近しても、握手という肌と肌を重ねる行為までしても、敵意のまったく感じられない私に。

大きな期待を。

この人とは、この人とならわかり合えるんじゃないか。この人とわかり合いたい、と。

でも巴さんは、その時にその気持ちは口に出せなかった。

……後日の学校の屋上で、
私と仲良く・仲間になろうとやって来た彼女は、ありったけの勇気を振り絞って頑張ったのだろう。

でも、私も同じ気持ちだったのに、
弱くて、素直になれない私は愚かにもそれを突っぱねてしまったのだが……

717: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 19:36:44.60 ID:F2L8pTBDo
ほむら「……私だって同じ」

マミ「えっ?」

ほむら「私だって……皆と、貴女と、出来ればもっと早く仲良くしたかった。
苦しい時はずっと誰かに助けて欲しかったし、優しい言葉だってかけて貰いたかった」

それは、身を切られるような現実を繰り返してきた為に、
求めても決して与えられるものではないと自制していたが……

ほむら「けれど、素直に求めるなんて、それを口にするなんて……
なかなか出来ないのよね」

マミ「……うん。とっても難しいわ」

怖いから。

結局それなのだ。

自分の弱さを見せたり、誰かにすがろうとする事で人が離れてしまうのが怖いのだ。

巴さんはその過去故に、少しでも接点が出来た人との関係を失うのを過剰に恐れすぎてしまうから。

私は、どれだけ求め・訴えても、誰にも決して信じて貰えないどころか、憎しみすら向けられたりしたから。

自分の気持ちに素直になれなくなってしまった。

718: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 19:38:18.22 ID:F2L8pTBDo
そっか。

私と巴さんは、どこか似ている所があると思っていたけれど……

似ている、なんてものじゃない。

ほむら「……私と貴女は同じなのね」

今まで巴さんと関わる事で、それは十分わかり得たはずなのに、どうして今まで気付かなかったのだろう。

もちろん、すべてがすべて一緒などとは言わない。

けれど、深い所では同じ。

そして、

マミ「でも、今は貴女の側には私が居るわ。
私、どんなに我儘言われたって、理不尽な事をされたって……
もう暁美さんから離れるつもりなんてないもの」

ほむら「そうね。
けれど、それは巴さんもそう。貴女には私が居る」

今はきっと……

ほむら「これからは、いくらでも『巴マミ』を見せても良い……
ううん。
むしろ私には──私だけには見せて欲しい」

二人の『想い』も同じなのだ。

719: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 19:39:55.45 ID:F2L8pTBDo
マミ「……うん。私も、貴女だけに見せたい。
それだけでもう……満足だわ」


ドクン。


そう言って、まるで女神のような笑顔を見せる巴さんに、私は自分が徐々に理性を失っていくのを感じた。

ほむら(……やっぱり、そうだったんだ)

私も人間だから、こんな欲望にかられた経験はある。

でも、こうやって『誰か』に対してその欲望が湧いたのは貴女が初めて。

まどかにも、当然他の誰にも湧いた事は無かった。

これは、どちらの方が上だとかそういう事ではなくて。

720: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 19:41:02.86 ID:F2L8pTBDo
大切な一番の友達には、一番の友達への深い気持ちが。

恋をしてしまった相手には、恋をしてしまった相手への深い気持ちがあるだけ。

まったく別物で違った、だけど何よりも尊く・愛おしい想いが同時に存在している──

ただそれだけなのだ。


ぎゅっ。


ほむら「……ずっと離さない」

私は、彼女をきつくきつく抱き締めるとキスをした。

そして……

721: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 19:45:00.79 ID:F2L8pTBDo
─────────────────────

ほむら「私ね、未来から来たんだよ」

マミ「未来……?」

ベッドに座ってしばらく二人で窓から月を眺めていたその最中、
呟いた私の言葉に、隣のマミさんがこちらを向いた。

マミさんの綺麗な髪が私の裸の肩に擦れ、ちょっとくすぐったい。

今、私はいつものヘアバンドを外しているし、彼女も髪をほどいている。

見慣れない髪型のマミさんも、やっぱり美しかった。

ほむら「うん」

722: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 19:49:41.18 ID:F2L8pTBDo
……………………

…………

私は、ゆっくりと話し始めた。

自分が何を目的に動いていて、何を考えているのか。

遠い世界でのまどかとの約束や、私が同じ時を繰り返している事も……全部。

今なら──彼女ならばそのすべてを信じ・受け入れてくれると思ったし、一緒に背負って欲しくなったのだ。

自分の運命を、マミさんに。

ほむら(最初は……
貴女の力に、支えになって、貴女が側に居てさえくれれば満足だと思っていたけれど)

愛しい人とは、お互いに求め合い、支え合う。

その両方がどれだけ嬉しいか。

心と身体が一つになる事で、私は学んだ。

723: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 19:51:19.49 ID:F2L8pTBDo
……………………

…………

マミ「…………」

私の話が終わり、彼女は黙り込んだ。

ほむら「やっぱり……信じられないかしら」

マミ「ううん、そんな事ない。信じるわ。
むしろ今の話を踏まえて考えたら、ほむらさんのこれまでの行動のすべてに納得がいくもの」

そう言ってくれるマミさんから、嘘はまったく感じられない。

話して……よかった。

ほむら「……ありがとう」

私は、自分の頭を彼女の肩にそっと乗せた。

725: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 19:55:22.38 ID:F2L8pTBDo
マミ「辛かったのね……」

ほむら「うん。辛くて苦しくて、何度諦めようと思ったかわからない。
でも諦められなかった。
キュゥべえの思い通りになんてさせたくないというのもあったけど、何よりも……
まどかとの約束は、絶対に、絶対に守りたかったから……!」


ギリ……


マミ「……そんな事しないで」

血が滲むくらい唇を強く噛みしめる私を、マミさんが優しく咎めた。

ほむら「……ごめんなさい」

マミ「でも、今回は大丈夫なのね? いけそうなのよね?」

ほむら「うん。
皆とこれだけ良好な関係を築けたのは初めて。
そもそも、皆がここまで無事に生きていてくれる事自体ほとんど経験が無いもの」

マミ「そう……
じゃあ、何としてもこの時間軸で決めてしまわないとね」

その言葉に、私は大きく頷いた。

ほむら「まどかを魔法少女になんかさせない。
誰も死なせない。
全員で幸せになる。
なってみせるわ……!」

726: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 19:57:53.40 ID:F2L8pTBDo
マミ「うん。
……話してくれてありがとう」

ほむら「私の方こそ、聞いてくれて、信じてくれて嬉しいわ。
でも、こうなったからには、貴女にも私の運命を半分背負って貰うつもりだから、大変よ?」

まどかに対しては、私は影で良い。

もちろん、出来れば友達でい続けたいし、一緒に遊びに行ったり楽しくお喋りをしたいな、などと、
友達として求めてしまうものはあるけれど……

例えまどかがそう思わなくても、私が彼女の事を一番の友達だと思っていれば、それで十分だ。

彼女を救えさえすれば、それだけで満足出来る。

その結果嫌われても、離れ離れになったとしても構わない。

それほどの固い固い覚悟と決意がある。

でも、マミさんに対しては違う。

彼女には私の側に居て貰って私を支えて欲しいし、彼女を支えたい。

その分マミさんにはまどかに対するような覚悟は絶対に持てないし、逆もまた然りだ。

ほむら(やっぱり、彼女達への想いは別物)

そして、誰よりも何よりも大切な二人。

ほむら(私は幸せだわ)

これほどまでに強く・深く想える人が、同時に二人も存在してくれているのだから。

727: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/21(水) 19:59:40.22 ID:F2L8pTBDo
マミ「ふふっ、わかってるわよ。
むしろ、そうさせてくれなかったら怒るわ。
……一緒に頑張りましょうね」

ほむら「うん、マミさん」

私と彼女は再び横になって向かい合い、お互いの両手を結んだ。

ほむら「……愛してる」

私達はこのまま、明け方まで色々な事を語り合った。

746: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/28(水) 23:48:47.95 ID:wKqIsY6Ho
─────────────────────

結局深夜の深い時間まで起きていた為、私とマミさんが目覚めたのは昼過ぎだった。

杏子「やーっと起きたかお前ら」

そんな私達を迎えたのは、横になってグミを頬張りながらリビングでくつろいでいた佐倉杏子。

だが彼女は、マミさんの姿を見ると体を起こし、胡座をかいて座った。

杏子「で、だ。えっと……その……
マミ、邪魔してるぞ」

マミ「ええ、ほむらさんから聞いているわ。
気にせずのんびりしてね」

どこかバツの悪そうな佐倉杏子だったが、
マミさんは彼女がここに居る事がとても嬉しいといった様子の笑顔でそう言った。

杏子「……うん」

しかしマミさんはすぐにその笑顔を曇らせ……

マミ「でも、あの……
佐倉さん、昨日は……」

杏子「──っとっと! そいつは後にしようぜ。今日はその為にも話をするんだろ?
なら、その話はさやかの奴が来てからでも遅くはないはずだ」

何やら言いかけたマミさんを、佐倉杏子が止めた。

マミ「……わかったわ」

747: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/28(水) 23:51:55.44 ID:wKqIsY6Ho
杏子「つ、つーかさ、結局その集まりとやらはいつ始めるんだよ?
あたし、朝から待ちくたびれちまったぞっ」

ほむら「ああ、それなら……」

──今日、ここで四人集まって話をしたいという旨はもうマミさんに軽く伝えているし、
この部屋を使わせて貰う許可も取ってある。

集合時間は、『昼前辺りにでも』とひとまず軽く決めたのだが……

それが深夜だった為にすでに佐倉杏子は眠っていたし、
時間的に美樹さやかにも連絡がし辛く、二人まとめて朝に伝える事にした。

細かい時間はそれから決めてもよかったからだ。

……が、肝心の私とマミさんが眠りすぎてしまった為、
それは目覚めた今(美樹さやかにはついさっき)になってしまったのだった。

私達が眠っている間に美樹さやかからの着信が何回か入っていたので、気付いてから慌てて電話を返したのだが、
彼女は『もう準備万端だから、すぐにそっち行って良い?』と言ってきた。

もちろんそれを断る理由は無いので、私達はそれを承諾して今に至る訳だ。

748: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/28(水) 23:54:06.15 ID:wKqIsY6Ho
ほむら「今から美樹さんが来るから、その後すぐに始めるわ」

杏子「そうか。了解」

マミ「……私、ちょっとシャワーを浴びたいわ」

マミさんがぽつりと言った。

ほむら「……そうね」

昨夜も(すでに佐倉杏子が寝ていた為に)こっそりお風呂に入りはしたのだが、
目を完全に覚ます為に私もマミさんの言葉に同感だった。

ただ、マミさんにとっては眠気覚ましではなく、気合を入れる為なのだろうが……

……これからの集まりは、確実に昨日の河原での件にも言及する為、彼女にとっては少々辛い物になるはずだ。

ただ理由はどうあれ、マミさんが私達に迷惑をかけた事には(その私達が気にしてはいなくとも)違いないので、
彼女はそれから逃げる訳にはいかない。

ほむら(でも、大丈夫よ。マミさん)

私もついているから頑張りましょう。

749: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/28(水) 23:55:36.63 ID:wKqIsY6Ho
ほむら「じゃあ、軽く浴びて来ましょうか?」

杏子「おいおい、これからあいつが来るんじゃないのかよ?」

マミ「大丈夫よ、すぐに上がるつもりだから」

まあ、電話ごしながら美樹さやかは魔法少女に変身してこちらに来るような勢いだったので、
確かに髪の毛をしっかり洗ったりする時間は無いだろう。

ほむら「悪いけど、ちょっと行って来るわね」

杏子「ああ……
って、時間無いっつっても二人いっぺんに入るのかよ?」

750: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/28(水) 23:58:33.83 ID:wKqIsY6Ho
─────────────────────

さっと体を流し終えた私とマミさんが、
湿気と飛沫の為に少しだけ濡れた髪をドライヤーで乾かしていると、美樹さやかがやって来た。

さやか「やあっ!」

ほむら「おはよう」

美樹さやかは挨拶をしながら、
テーブルを挟んで私とマミさんの向かい側の、干し芋をかじっている佐倉杏子の隣に腰掛ける。

マミ「……美樹さん、えっと、あの……昨日は……」

さやか「はいそれは後っ!
これから話し合い? 情報の整理? するんだから、そいつはマミさんのターンになってから聞くよ」

マミ「う、うん……わかったわ」

ほむら「…………」

杏子「…………」

ついさっきマミさんと佐倉杏子がやったようなやり取りをする二人を見て、
私と佐倉杏子は思わず顔を見合わせて苦笑してしまった。

ほむら「──ところで美樹さん、着信に気付かなくてごめんなさい」

さやか「ああ、良いって。
昨日大変だったし、爆睡くらいするだろ」

と、彼女はパタパタと両手を振った。

751: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/29(木) 00:01:11.49 ID:Rfbw6z5No
さやか「んじゃあ早速話を……
っとその前にっ!
ほむら、まどかの事はちょっとだけ安心して良いよ!」

美樹さやかが、満面の笑顔で私に向かって親指を立ててくる。

ほむら「えっ?」

……この集まりは、キュゥべえと同レベルで厄介な超怪物・ワルプルギスの夜打倒の為に必要だし、
マミさん達の心に残っているだろう不安・疑心を完全に振り払う為にも絶対に不可欠。

それはつまり、マミさん達の迷いを無くす=彼女達が戦闘で最大限の力を発揮出来る事に繋がるし、
そうなる事がマミさん達──そして、まどかが救われる未来に直結するのだから。

それなりに時間もかかるだろうから腰を据えて行いたく、小声しか出せないのもやりずらいと思ったので、
この間のようにまどかの家の屋根に集合するのは不適当だと判断し、ここを使わせて貰う事にした訳だ。

だからこそ、その分なるべく早く話を終わらせてすぐにまどかの元へ向かおうと決めていたのだが……

752: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/29(木) 00:03:07.18 ID:Rfbw6z5No
さやか「ここに来る前にふと思い立って、『まどかを連れ出してくれ~』って頼もうと仁美に電話したのね。
ほら、一人で家に居たりどっか行かれると、キュゥべえの奴に付け込まれる可能性が高まるじゃん?
それを少しでも防ぐ為にさ」

ほむら「ええ」

さやか「するとさ、あの二人とっくに遊びに出てやんのっ!」

美樹さやかが右手の指先を揃えて、テーブルをぽんっ、と軽く叩いた。

さやか「なんでも、まどかに相談したい事があるからだってっ」

ほむら(……それって)

さやか「それ聞いた時は、
『何だよーっ、あたしとほむらには出来ない相談事?』ってちょっとだけイラっと来ちゃったんだけど……
……えっと、電話切る時ね?

『私、必ずさやかさんにぶたれますわっ!
ほむらさんを振り向かせてみせますわっ!』

──なんて言ってたからさ。
ほら、その……わかるじゃん? あー、そっかぁって」

……想像通り。

そして、美樹さやかの志筑仁美のモノマネはなかなか上手い。

753: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/29(木) 00:04:52.93 ID:Rfbw6z5No
ほむら「志筑さんにも困ったものね……」

軽い眩暈を覚え、私は右手を軽く握ってこめかみを押さえた。

しかし、(恐らく)私と美樹さやかに内緒にするつもりでまどかに相談しに行ったはずなのに、
そうやって喋ってどうするのだろう……?

ほむら(志筑仁美……
やっぱり少し変わった子)

さやか「ともあれ、おとといの下校中での仁美の活躍考えたら、
これでまどかの事はちょっとは安心出来ると思うぜっ」

ほむら「……そうね」

そういえばこの世界で初めて佐倉杏子が現れた時も、
志筑仁美のおかげで、私が戻って来るまでまどかとキュゥべえが接触(会話)するのを防げたのだったか。

何にせよ、これは嬉しい誤算だ。

昨日述べたのと同じ理由で、
まだまどかは大丈夫だという計算は当然ある(これは過去のループでの経験上、一晩強程度では変わらない)のだが……

この集まりが終わるまでは何の手も打てないと思っていたのだから、
そんな中少しでも安心出来る材料が新たに生まれたのはありがたい。

754: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/29(木) 00:06:16.63 ID:Rfbw6z5No
杏子「おい、まだ始めないのか?
もう干し芋無くなっちまったよ」

佐倉杏子が、待ちくたびれたように横から声を上げた。

さやか「っと、ゴメンっ」

マミ「あ……よかったらお菓子持って来ましょうか?
杏が入った、美味しいケーキがあるのよ」

杏子「おっ! 何だよ、そんなもんがあるなら早く出してくれよっ」

マミさんの言葉を聞くやいなや、先程とは打って変わって期待に満ち溢れた笑顔になる佐倉杏子。

755: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/29(木) 00:07:34.86 ID:Rfbw6z5No
マミ「ごめんね、うっかりしていたわ。
ついでにお茶も一緒にすぐ持って来るわね」

そんな彼女に柔らかなほほ笑みで答えると、マミさんは立ち上がってキッチンへと向かって行った。

ほむら(……いつものマミさんなら、率先して──かつ一番最初にお菓子の用意をしてくれるのに)

そんな彼女が今回忘れていたのは、ただうっかりしていたからではないだろう。

緊張しているのだ。

……言葉通り、マミさんは全員分の紅茶とケーキを乗せたトレーを手に短時間で戻って来て、
それからすぐに話は始まった。

756: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/29(木) 00:08:31.19 ID:Rfbw6z5No
─────────────────────

まず、佐倉杏子がマミさんと美樹さやかに話し始めた。

その内容は、昨日公園で私にしたものと同じだ。

757: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/29(木) 00:09:26.18 ID:Rfbw6z5No
─────────────────────

さやか「なるほどね。
キュゥべえ……汚い奴」

マミ「…………」

佐倉杏子の話を聞いて、美樹さやかが冷たい表情で呟き、マミさんは怒りと悲しみの混じった表情で唇を噛み締めた。

杏子「まあ、でもさ……あたしも悪かったよ。
あんな奴に踊らされた訳だからね」

そんな二人に、佐倉杏子がバツが悪そうに言った。

さやか「あー、まあ確かにそうだね」

杏子「む……」

758: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/29(木) 00:10:49.60 ID:Rfbw6z5No
さやか「ホントそういうの困るわー。やめて欲しいわ。
でもまあ、マミさんと二回戦って両方とも一方的にボコられてたし……
それ考えたら許してやっても良いかな?」

にやり、と、美樹さやかはいたずらっぽい笑みを浮かべた。

杏子「何だよ、そこまで言わなくても良いだろっ!
大体、前言ったようにマミとは互角だ!」

さやか「まあ山の上の時はともかくとして、昨日はまぎれも無くマミさんにやられてたじゃん」

杏子「ご、互角なんだから十戦やれば五勝五敗になるっ!
昨日はたまたまあたしが負けただけだっ!」

さやか「ふふふっ、ごめんごめん。からかいすぎた」

顔を赤くしてムキになる佐倉杏子を見て、美樹さやかがによによと謝った。

杏子「なにー!?」

759: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/29(木) 00:11:44.55 ID:Rfbw6z5No
さやか「昨日も言ったけどさ、むしろあたしは感謝してるんだ。
だってあんた、ほむらと一緒にあたしを助けに来てくれたじゃん」

そう言う彼女は、さっきと違ってとても優しい表情と口調だ。

杏子「……いや、だから別にあんたを助けに行った訳じゃないし……
それこそマミに負けちまったんだから、大して役に立たなかっただろ?」

さやか「そう? そんな事無いと思うけどなあ」

ほむら「美樹さんの言う通りね。
私はいきなり拘束されてしまったし……」

首を傾げる美樹さやかに、私は頷いた。

ほむら「杏子が居なければ、こうやって皆で話す事なんて出来なかったと断言出来るわ」

今こうして居られるのは、あの時このメンバーが揃い、全員が全力を尽くしたからこそなのだから。

760: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/29(木) 00:13:35.41 ID:Rfbw6z5No
さやか「そうそう。だから謝るどころか、あんたが来てくれて良かったんだって。
──ね、マミさん?」

マミ「……そうね。
って、えっと……迷惑かけちゃった張本人が偉そうに発言するのもなんだけど……」

話を振られ、今まで黙っていたマミさんが申し訳無さそうに口を開いた。

マミ「それと、私にはわかっていたわ。
二回の戦闘とも、どれだけ激しい攻撃を仕掛けて来ても、佐倉さんは決して私を殺そうとはしていなかった事」

杏子「!」

761: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/29(木) 00:15:13.64 ID:Rfbw6z5No
マミ「……あのね、私ね、また佐倉さんと仲良く出来てとっても嬉しいの」

杏子「…………」

──私は昨夜、過去にあったマミさんと佐倉杏子の因縁のすべてを聞いた。

その昔を思い出しているのだろうか。

そっと閉じられたマミさんのまぶたから伸びる、長くて綺麗なまつ毛がどこか切なそうに揺れる。

マミさんはしばしの間の後に再びまぶたを開くと、

マミ「だから、ありがとう。
馬鹿な私と、私の大切な仲間を助けてくれて。力になってくれて。
こうして、ここに居てくれて」

一言一言噛み締めるように丁寧に言いながら、佐倉杏子を優しく見つめた。

杏子「……っ……だよ」

その言葉と視線を受けた佐倉杏子は、顔を手で押さえて後ろを向いた。

杏子「何で謝らないといけないはずのあたしが、礼……言われてんだよ。
意味、わっかんね……っ!」

その呟きは、彼女の魂が歓喜に叫んでいるように聞こえた。

762: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/29(木) 00:15:57.24 ID:Rfbw6z5No
─────────────────────

次にマミさんの話だ。

まずは、彼女の土下座から始まった。

私達三人は大して気にしていない為、すぐに止めさせたが。

763: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/29(木) 00:17:35.23 ID:Rfbw6z5No
……昨日の朝、私が帰ったすぐ後に彼女は目覚めたらしい。

すると、キュゥべえが現れた。

そしてそそのかしたのだ。

魔法少女のソウルジェムが穢れ切ると、その子は魔女になると。

魔法少女は、戦いで死ぬか魔女になるか、どちらかの結末しか無いと。

暁美ほむら……私は、それを知っていながら周りには隠し、自分の目的の為に他人を利用していると。

憎々しくも上手いやり方だ。

昨日の、精神的なショックが抜けきれていないマミさんに悪夢しか待っていない未来を伝え、
心を許しかけた私がいずれ必ず裏切ると口にする事で、彼女の不安と絶望を最大限に煽ったのだ。

それで狙い通りマミさんをあそこまで追い込んだ話術は、さすがキュゥべえといった所だろう。

もちろん、これは皮肉だが。

764: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/29(木) 00:18:53.21 ID:Rfbw6z5No
─────────────────────

マミ「それで、まんまと絶望に呑まれてしまった私は……」

すべてを壊そうとした。

壊して、私達を魔女になる運命から救おうとした。

歪んだエゴと、やり方で。

マミ「……とんでもなく自分勝手だったよね。
本当に……ごめんなさい」

杏子「そいつはもう良いさ」

さやか「そうですよ。皆無事だったんだし、結果良ければ何とやらって言うじゃん?
それよりも……」

笑顔でマミさんを慰めた佐倉杏子と美樹さやかだったが、すぐに暗い顔になった。

765: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/29(木) 00:20:31.83 ID:Rfbw6z5No
杏子「……あの時のお前、明らかに正気じゃなかった。
あたし達を救おうと~って気持ちがあったのも別に嘘じゃなかったんだろうけどさ……
何つうか、人が変わったようだったよ」

ほむら「あれが、魔女化が近付いた魔法少女の姿よ」

さやか「えっ?」

ほむら「深く絶望した魔法少女は、心の闇に呑まれ、負の感情を剥き出しにしてしまう。
ううん、徐々に負の感情しかなくなってしまうの。
それが暴走し、あんな事になってしまう」

マミ「…………」

俯くマミさんの手を、隣に座る私がそっと握った。

766: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/29(木) 00:21:55.21 ID:Rfbw6z5No
ほむら「昨日の彼女みたいに心が追い詰められ、
あそこまでソウルジェムが穢れてしまえば、魔法少女なら誰だってああなってしまうの。
きっと私だってそう。杏子も、美樹さんもよ」

さやか「そっか……」

ほむら「そして、心の闇に完全に喰われてしまうと、暴走すら超えて存在自体が変わってしまう」

杏子「……魔女に」

ほむら「本来は、あんな状態から無事に生還出来るなんて考えられないし、考えてもみなかった。
少なくとも、私が知っている限り前例は無い。
これは間違い無く奇跡だわ」

皆の頑張りが生んだ、奇跡。

無意識に、私のマミさんの手を握る力が強くなった。

マミ「……ほむらさん」

767: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/29(木) 00:23:48.33 ID:Rfbw6z5No
さやか「──ともかく、もう自分を追い詰めすぎないで下さいよ」

マミ「そうね……ご迷惑をおかけしました」

さやか「ホントですよ。
体中に穴いっぱい開けられて、ホント痛かったし怖かったし悲しかったんだから」

マミ「うぅ……」

さやか「でも」


ぎゅっ!


マミ「!」

ほむら「!」

杏子「!」

唐突に、美樹さやかがマミさんに抱きついた。

さやか「よかったよ。またマミさんとこうしてお喋り出来て」

マミ「……うん」

ほむら「…………」

そんな二人の様子に、私の中で嫉妬心が生まれた。

マミ「私もよかった。皆を殺してしまわなくて。昨日の愚かで馬鹿な私を止めてもらえて。
許して貰えて、嫌われなくて……
私、寂しいのはもう嫌だもの……」

杏子「…………」

768: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/29(木) 00:29:38.83 ID:Rfbw6z5No
さやか「まあ、また昨日みたいな事したら、今度は問答無用で軽蔑して大嫌いになりますけどね」

マミ「ぅうっ!?」

さやか「はははっ!
でもマミさんって、ほんとバカ。
マミさんみたいな人を、そんな簡単に嫌いになってたまりますかって!
つーか、憧れとか尊敬の念って奴は今だって全然変わってないし!」


ぎゅっ。


マミ「美樹さん……」

ほむら「…………」

杏子「ちっ、何だよ。マミの奴、随分素直になったじゃん。
……まあ、お前はそれで良いんだよ」

横で佐倉杏子が何やら言っているが、私は我慢の限界でそれどころではなかった。

──二人共、いつまでやっているのよっ!──

769: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/29(木) 00:31:07.40 ID:Rfbw6z5No
ほむら「……マミさん!」


ぐいっ。


私はマミさんの服を引っ張り、彼女の身体を美樹さやかの腕の中から離した。

さやか「あっ、何すんのさほむらっ!」

ほむら「……別に」

さやか「てか、ずっと気になってたんだけどあんたら親密度増しすぎてない?
ほむらとか昨日、マミさんの大ピンチにキスとかしてたし……」

ほむら・マミ『!』

杏子「ああ、そういえば……」

みっ、見られていた!?

……いや、まあ彼女もあの場所に居たんだし当然か……

770: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/29(木) 00:33:26.65 ID:Rfbw6z5No
杏子「なんであんな事したんだ? 意味とかあったのか?」

ほむら「あ、あれはつっ、つま……そう、躓いて……」

杏子「?」

さやか「はっはーん!
さては昨日言ってた、ほむらが『もっとしたい~』って思ってしまった人ってマミさんか!?」

ほむら「ちょっ……!///」

マミ「えっ!?///」

杏子「?? 何を?」

さやか「それに、あんたらお互いの呼び方変わってない?
いつの間に名前で呼び合う仲になった訳?」

ほむら「! こ、これはその……」

マミ「…………」

さやか「……もしかして二人共、昨夜に何か?」

ニヤリと笑い、からかうように言う美樹さやか。

ほむら「っ!///」

マミ「///」

さやか「え……
…………マジ?」

本当に冗談のつもりだったのだろう。

真っ赤になって顔を背ける私とマミさんを見て、
あるいは私達以上に顔が赤くなった美樹さやかは唖然とする。

771: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/29(木) 00:34:24.91 ID:Rfbw6z5No
一瞬リビングを沈黙が支配した……が、

杏子「──っだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁもうっ!!!」

さやか「うひゃぁっっっ!!!?」

ほむら「っ!?」

マミ「きゃっ!?」

佐倉杏子の絶叫が、それをあっさり破壊した。

さやか「ビッ、クリした!」

マミ「さ、佐倉さん?」

ほむら「どうしたのよ……?」

772: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/29(木) 00:35:40.92 ID:Rfbw6z5No
杏子「羨ましい」

さやか「は?」

小さな呟きを聞き返す美樹さやかに、佐倉杏子はそっぽを向いた。

杏子「……実はな、羨ましかったんだ」

さやか「何が?」

杏子「~~~っくそっ!
マミの奴もだいぶ素直になったから、あたしも正直に言うぞ!?」


ビシッ!


と、視線を外したまま佐倉杏子がマミさんを指差した。

マミ「えっ、ええ」

ほむら「杏子、人を指差しては駄目よ」

773: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/29(木) 00:37:02.63 ID:Rfbw6z5No
杏子「あたしは確かにキュゥべえにそそのかされてこの町に来たが……
ここでマミの奴が、ほむらやさやかと楽しくやってるって聞いて、あんたらが羨ましく……妬ましくなったんだよ」

ほむら「え?」

さやか「あたしとほむら?」

杏子「ああ。
それで、あんたらとマミの事がどうしても気になっちまって、つい見滝原に戻って来て……」

マミ「…………」

杏子「で、実際あんたら──つっても最初見付けた時はマミとさやかだけだったが、見たら確かにその通りだ。
楽しく談笑したり、仲良く魔女退治してやがる。
それで『ちくしょう』って思っちまって……それで、さ……」

さやか「……あたしとマミさんが仲良くしてるのに我慢出来なくなって、襲いかかったって事?」

775: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/29(木) 00:38:41.57 ID:Rfbw6z5No
杏子「……本当はね、戦闘を仕掛ける気なんてなかったんだ。
いや、そもそもは様子を見るだけで、マミの前に姿を現そうとすら考えていなかった。
……ほむら。あんたには、
『あたしの一番の狙いは、魔女が沢山居るこの町を頂く事』みたいな話をしたけど、あれは嘘さ」

私に困ったような笑顔でそう言うと、佐倉杏子は再びよそを向いた。

杏子「ただね……ただ、あたしだってマミとじゃれ合ったり、仲良くしたかったんだ。
でも、もうあたしにはそんな資格は無いんだなって……
あの女の──さやかの居る場所は昔はあたしのもんだったのに、今はもう違うんだなって思ったらさ……
自分の感情を抑えられなかった」

マミ「佐倉さん……」

776: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/29(木) 00:40:27.49 ID:Rfbw6z5No
杏子「──へっ、つまんねえよな。ガキみたいだよな。
そんなの自業自得だってのにさ。
笑って良いよ」

マミ「そんな……笑わないわ」

マミさんがとても嬉しそうにほほ笑み、

さやか「うん。
……けどさ」


ぽんっ!


美樹さやかが佐倉杏子の頭に手を乗せた。

杏子「むっ」

それに反応した彼女が、美樹さやかを見る。

さやか「あんたがすっごい可愛い女の子だってのは、よ~くわかった」

杏子「何だよそれ……」


ナデナデ。


杏子「だぁっ、やめろよ!」

さやか「良いじゃん。
あんたはもうマミさんだけじゃなくて、あたしやほむらとも友達で仲間なんだからさ」

杏子「はあ!? 何だよ、なんでだよっ!?」

佐倉杏子は頭を撫でられる事に抵抗していたが、次第にそれは弱くなり、やがて完全に抵抗を止めた。

杏子「……ちっ、くせえよこの野郎」

さやか「はいはい」

777: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/29(木) 00:41:44.60 ID:Rfbw6z5No
ほむら『……マミさん。
これが、貴女が積み上げてきたものよ』

ほほえましい二人の姿を見ながら、私はマミさんにテレパシーで語りかけた。

マミ『えっ?』

ほむら『昔に悲しいすれ違いがあったにせよ、こうして杏子が笑顔でここに座っているのも、
あんな目に合わされながら、未だに貴女への尊敬を失わない美樹さんの気持ちも……
ずっとマミさんが精一杯頑張ってきた『結果』よ』

マミ『…………』

ほむら『もちろん、今回みたいに失敗した時もあったでしょう。
でも、やっぱり貴女がこれまでにやってきた事は正しかったのよ。頑張ってきてよかったのよ。
だから、こんなに嬉しい現実がある』

マミ『ほむらさん……』

778: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/29(木) 00:43:04.47 ID:Rfbw6z5No
さやか「ところでさ、ずっと気になってたんだけど……
あんたとマミさんは前から知り合いだったの?」

杏子・ほむら・マミ『あ』

そういえば、美樹さやかには二人の関係の事はまったく話していなかった。

反応を見るに、佐倉杏子とマミさんも同じだろう。

杏子「……まあ、そうだ。昔色々あってね」

さやか「色々?」

杏子「ああ。
気が向いたら話してやるよ。
──な、マミ?」

マミ「そうね。この集まりがひと段落したら、ゆっくりと……」

さやか「ふむ、ならさっさと終わらせて……って、他にも話す事あったっけ?」

杏子「──ほむら」

マミ「…………」

さやか「えっ?」

ほむら「……そうね」

佐倉杏子とマミさんの視線に促され、私は頷いた。

私にとっては、これこそがこの場で一番話さなければならない事だ。

779: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/08/29(木) 00:44:26.51 ID:Rfbw6z5No
ほむら「杏子は昨日、マミさんには昨夜軽く話したのだけど……」

さやか「おいおい、これに関してもさやかちゃんハブ?
あたしってハブかちゃん?」

ほむら「近々、この町に『ワルプルギスの夜』がやって来るの」

809: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/04(水) 23:22:52.46 ID:1bv4ueQro
─────────────────────

キュゥべえ「やれやれ、まさかこんな展開になるなんてね」

ほむら「!」

あの集まりから一日経った日曜日の朝、
まどかを見守る為に彼女の家の屋上に来ていた私の元に、キュゥべえが現れた。

ほむら「何の用かしら?」

キュゥべえ「そんな目で睨まないでくれよ」

ほむら「マミさんや杏子にふざけた事をしておいて、よく姿を見せられたものね」

キュゥべえ「ふざけた事とは酷いなぁ。
杏子には僕が懸念していた話をしただけだし、マミには事実を伝えただけじゃないか」

ほむら「ふん……」

キュゥべえ「まあ、仲間が利用されたように見えて気分を害したのなら謝るよ」

ように見えて、ではなく確実に利用された訳だが、
それを突っ込んでもどうせまた論点ずらしなり言い逃れなりするだけだろう。

810: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/04(水) 23:25:06.61 ID:1bv4ueQro
ほむら「……私と世間話でもしに来たのかしら?」

キュゥべえ「うん、そんな所かな」

ほむら「?」

キュゥべえ「しかし、鹿目まどかはあの志筑仁美って子と随分仲が良いんだね。
一昨日は帰宅してから眠るまでずっと電話していたし、昨日は君も知っての通りその子と遊びに行っていたよ」

ほむら「…………」

昨日は、話し合いを終えて即まどかを捜しに行ったのだが、彼女を見付けた時にはまだ志筑仁美と外で遊んでいた。

キュゥべえの姿は一度も見なかったのだが、
今の奴の言葉を考えると、私が現れた事ですぐに撤退したのだろう。

まどかには契約をした様子が無かったので、
一昨日も合わせてこいつの思惑は外れた・防げたと喜んでいたのだが……

それは正しかったようだ。

811: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/04(水) 23:28:39.39 ID:1bv4ueQro
キュゥべえ「だけどあの志筑仁美って子は凄いね。
昨日も一昨日も、鹿目まどかは何やらずっと恋? の相談とやらを受けてて、とても邪魔出来る空気じゃなかった……
というか、出来なかったよ」

表情は変わらないが、こいつがどこか疲れている感じがするのは気のせいだろうか?

ほむら「……という事は……」

キュゥべえ「うん。二日とも、鹿目まどかとは会話一つ出来なかった」

なんと。

一昨日はマミさんの事件があった為、接触どころか魔法少女の話をされたぐらいは覚悟していたのだが……

しかし、ならばまどかはまだ、佐倉杏子が現れた日にしかキュゥべえとまともに会話をしていない事になる?

ほむら(……志筑仁美、やるわね)

これは素直に感謝だ。

キュゥべえ「まあ仕方ないさ。人間にとって恋愛というのは大切らしいし。
あの子の君への想いも成就すると良いよね」

ほむら「…………」

……志筑仁美が私を好きになったというのは、本当に本気なのかしら……?

812: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/04(水) 23:30:56.04 ID:1bv4ueQro
キュゥべえ「それに、チャンスはまだまだいくらでもあるからね」

ほむら「!
そんな物は無い。お前には、無い……!」

キュゥべえ「そうかい。
──けれど、マミを救った上に佐倉杏子との因縁を解決して、友好関係まで築くとは驚きだよ」

ほむら「当てが外れたわね」

キュゥべえ「純粋に感心しているだけさ。
……そういえば、もしや君は二週間後のこの町に訪れる事件を知っているのかい?」

こいつ、さっきから何なんだ。

かまをかけているのだろうか?

これに関しては、どう答えても問題は無いとは思うが……一応とぼけるか。

ほむら「……何の話かしら?」

キュゥべえ「やっぱり知っているんだね」

!?

813: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/04(水) 23:33:58.06 ID:1bv4ueQro
ほむら「なぜそうなるの?」

キュゥべえ「わずかな体の動き──顔だったり瞳だったり、拳を握るとか、
そこまで行かなくても指先の些細な動きなどを見ていると、人間の本心はおおよそわかるんだよ。
僕には感情が無いんだからね」

感情が無い──

これまでのキュゥべえの言動を見る限り、私の中でそれは嘘だと決めつけていたのですっかり忘れていたが……

ほむら(確かにこいつはそれを自称していたわね)

だが、

ほむら「意味がわからないわね。
感情の無い貴方が、人の気持ちを理解出来ると?」

本心がわかるとは、つまりそういう事だろう。

キュゥべえ「そうさ。理解は出来なくても、推察は出来る。
まして人類と出会ったばかりの頃と違い、
今は人間という種に関しての知識は十分積み上げてきたつもりだからね」

ほむら「……?」

814: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/04(水) 23:35:37.28 ID:1bv4ueQro
キュゥべえ「その知識と合わせ、僕には感情が無いからこそ色々読めるものがある。
人が何かを取り繕ったり、はぐらかそうとすると違和感を強く覚えるんだ」

ほむら「感情が無いからこそ、感情を持つ者では気付きえない、些細な気持ちの変化を察知出来ると?」

キュゥべえ「そうさ。
それで、建前や嘘を言っていたりすると簡単にわかる訳だよ」

……しかし、こいつがべらべらと喋るのは頂けない。

それは大抵何か企みがあった上で、一見正論と思える話をしながら、
実は詭弁や論点のすり替えなどで自分のペースに持ち込もうとしている場合が多い。

その企みが何かはわからないが、あまりこいつに自由にさせすぎない方が良いか。

815: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/04(水) 23:37:59.67 ID:1bv4ueQro
ほむら「なるほど。
……ところで、貴方は感情のすべてを理解出来ないのかしら?」

キュゥべえ「いや、出来るものもあるよ。
とても合理的なものならね」

ほむら「ならば、それと……
さっき貴方が言った、違和感を覚えたりするのは、貴方に感情があるからじゃないの?」

キュゥべえ「なぜそう思うんだい?」

ほむら「それ自体が、自分の『意思』のなせる技だからよ」

キュゥべえ「……ふむ」

ほむら「貴方は、自分の知らない──
理解出来ない種類の感情があるだけで、感情そのものは持っているんじゃないの?」

実際私は、過去のループの時のものも含め、そう思わせるだけの言動をこいつが取るのを幾度も見てきた。

例えば、キュゥべえがきちんと抑揚のついた喋り方をするのもそうだ。

これはスピードの緩急だけではなく、声のトーンなども含めて、である。

そんな真似は、完全に無感情の生き物には不可能だと思うのだが。

私の問いに、キュゥべえは一瞬思案する様子を見せた。

キュゥべえ「……そんな事、考えてもみなかったよ。
どうなんだろうね。僕にもわからない」

……その言葉からは、こいつが本心を言ったのか、それともいつものはぐらかしなのかは読めなかった。

ほむら(まあ良いか。
キュゥべえ主導の会話を途切れさせたかっただけだし、そもそもこいつの事なんか興味無い)

キュゥべえは、絶対に信用の出来ない存在──それだけわかっていれば十分だ。

816: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/04(水) 23:40:23.75 ID:1bv4ueQro
キュゥべえ「とりあえず僕はおいとまするよ。
これで用は済んだしね」

ほむら「?」

キュゥべえ「君は、この時間軸の人間ではないね?」

ほむら「……!」

キュゥべえ「一昨日マミから詰め寄られた時に聞いたけど、君は僕の目的を知っているらしいね。
その他にも、君は普通なら知りえない事を把握し、それらを踏まえて行動していた節が多々あった。
だから、この結論には割と早い段階でたどり着けたよ」

ほむら「…………」

キュゥべえは私の瞳をじっと見つめている。

相変わらずの無表情だが、私にはこいつが薄ら笑いを浮かべているように見えた。

ほむら(……不愉快な存在め)

キュゥべえ「ただ、君がそんな存在だという確証は無かったから、確認しに来ただけだよ。
そして、さっきまでの話でそれを確信出来た」

ほむら「!?」

キュゥべえ「例えば……僕は君とそれほど深く関わったり、会話をしてはいない。
なのにそこまで僕の事を推察出来るのは、沢山の積み重ねがあったから。
その推察自体が正しいかどうかは別としてね」

こいつ……!

キュゥべえ「それはつまり、君がそういう存在だという事なんだろう?」

ほむら「…………」

キュゥべえ「……君はすべてを知った上で、鹿目まどかを助けようとしている訳だ。
仲間を集めるのも、ワルプルギスの夜を倒してその目的を果たす為の一環」

ほむら「……勝手に想像していなさい」

キュゥべえ「そうさせて貰うよ」

ほむら「ふん……」

キュゥべえ「じゃあね」

朗らかに言うと、キュゥべえは去って行った。

817: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/04(水) 23:41:33.26 ID:1bv4ueQro
ほむら(不愉快な……存在めッ!)

……落ち着け。

あと少しなのだ。

キュゥべえがこれ以上何を企んでいようと関係ない。

あと少しで悲願は達成されるのだ。

最高の形で。

818: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/04(水) 23:44:01.56 ID:1bv4ueQro
─────────────────────

それからはまどかを見守る傍ら、マミさん達と対ワルプルギスの夜に向けてのミーティングを幾度となく行った。

マミさんと美樹さやかは、私の話をすぐに信じ、協力してくれると言ってくれた。

佐倉杏子も、『ワルプルギスの夜を倒した後に、見滝原の魔女退治やグリーフシードを好きにさせろ』、
という約束で参戦してくれる事になった。

ただ美樹さやかは、

『仲間の頼みに見返り求めるわけ?』

と少し不満そうだったが、佐倉杏子いわく、

『それはそれ。ずっとこんな生き方してたから、もうそう簡単には変えらんないのさ』

との事。

それに対してこの町の今の魔法少女であるマミさんは、

『私達が必要な分のグリーフシードをわけてくれて、
貴女よりも先に私達の誰かが魔女を見付けた場合は、その人が退治しても良い』

事を条件に出し、佐倉杏子はそれを了承した。

なおも美樹さやかは不満げだったが、ここもマミさんが説得し、上手くなだめてくれた。

そして、ミーティングは順調に進み、作戦は問題無く完成していった。

819: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/04(水) 23:46:07.37 ID:1bv4ueQro
……………………

…………

さやか「うーん、聞けば聞くほどその何とかの夜ってのは化け物ね……」

ほむら「そうね……あいつは、これまでの魔女とは次元が違う。
この世の天変地異は、すべてワルプルギスの夜が起こしていると言われる程なのだから」

さやか「一回具現化するだけで数千人の被害とか……意味わかんねーし」

マミ「私も詳しくは知らないのだけど、
ワルプルギスの夜に戦いを挑んだ魔法少女で、生き残りは居ないのよね……」

ほむら「そう言われているわね。
それは噂ではあるけど……私は正しいものだと思うわ」

杏子「まあ、生き証人的な存在が発見されていないんだから、確認のしようがない。
──はずなんだが、ほむら」

ほむら「何?」

820: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/04(水) 23:47:49.87 ID:1bv4ueQro
杏子「さっきから聞いていると、あんたがその『生き証人』みたいだね。
魔法少女の間でも、正体不明の超怪物としか知られていないはずのワルプルギスの情報にやけに詳しい。
どうしてだい?」

ほむら「……それは……」

杏子「別に疑ってるとかじゃないんだけどね。
ただ気になっただけさ。
あんた、なまじ嘘とも冗談とも思えない密度の話してるから」

ほむら「…………」

マミ「ま、まあ良いじゃない。
ほむらさんの過去を聞いたって、何か作戦を閃くとも思えないし……」

杏子「まあそうなんだけどさ」

821: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/04(水) 23:50:01.65 ID:1bv4ueQro
ほむら「──あの、その説明は……
この戦いに、皆で……全員で生き残ってからにさせて貰えないかしら?」

杏子「ん? ああ……
でも、話したくないなら別に聞かないよ?
無理に他人を詮索するのは主義じゃないからさ」

さやか「そうだね。
気になるっちゃ気になるけど、マミさんの言ったようにそれでどうにかなる感じはしないし」

ほむら「ううん。
話したいの。貴女達にも……」

マミ「ほむらさん……」

ほむら「けど、正直言って今それを話す勇気が無い。
だから……」

杏子「……ああ、わかった。
じゃあ、さ。さやか」

さやか「──だね、杏子」

杏子「そいつの説明をして貰う為にも、ちゃんと皆で生き残らないとな」

さやか「あっ! でも、これまで謎だったあんたの能力の事は教えてよ!
これは皆で協力して戦う為には必要でしょっ」

ほむら「ふふっ。
ええ、そうね」

822: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/04(水) 23:52:06.87 ID:1bv4ueQro
……………………

…………

別に、美樹さやかと佐倉杏子を信用していない訳ではない。

この時間軸の今の彼女達ならば、きっと信じて貰えると思う。

ただ……私が真実を述べる事によって、
私達が仲違いしたいくつもの経験が、とてつもなく大きなトラウマになっているだけだ。

すべてが通じ合えたマミさんには、何とか──それでも、『何とか』話す事が出来たが……

けれど、この戦いが終わったら。

不思議と、美樹さやかや佐倉杏子にもそれをすんなりと話せるという確信があった。

823: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/04(水) 23:55:40.84 ID:1bv4ueQro
─────────────────────

マミ「いよいよ明日ね……」

ほむら「うん」

私とマミさんは、私の家のソファーで二人寄り添い、ワルプルギスの夜襲来前夜を過ごしていた。

マミ「……大丈夫?」

体が密着している為に、先程から私の震えが止まらない事が気になっていたのだろう。

マミさんが、俯く私の顔を心配そうに覗き込む。

824: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/04(水) 23:57:14.25 ID:1bv4ueQro
ほむら「……怖いの」

俯いたまま、私はぽつりと言った。

ほむら「結果だけ見れば、ここまではほぼ完璧よ。
ここに至るまで危ない時はあったけど、文句のつけようもないわ。
でも、だからこそ……怖い」

マミ「もし、また駄目だったらって思うと?」

ほむら「うん……」

再び敗北してしまうと、この世界からも去らねばならない事を意味する。

それはつまり、まどかはもちろん、かつてないほど大きな絆を築けた、佐倉杏子や美樹さやか……

そして、マミさんとの別れだ。

ほむら「そんなの嫌……」

ドライに言ってしまえば、私が死にさえしなければまたやり直せば良いし、やり直せる。

しかし、これまでの自分ならともかく、今の私にはそんな考え方は出来なかった。

これから別の世界で何度チャンスを得ても、もはや今の彼女達ほどの関係を築く自信が無いというのもある。

だがそれ以上に……

825: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/04(水) 23:59:09.67 ID:1bv4ueQro
ほむら「私、マミさんと離れたくない……」

マミ「それは私だって……
死んでも離れたくないわ」

マミさんが切なげな瞳で、私の肩に頭を乗せる。

マミ「……でも、大丈夫よ」

ほむら「どうしてそう言えるの?」

マミ「だって、今貴女が言ったじゃない。
『ここまではほぼ完璧。文句無い』って」

ほむら「そうだけど……」

マミ「それって、これまでに無いくらいの準備も出来ているって事でしょ?
なら、かつてないレベルの勝率を手にしているって事でもあるわ」

ほむら「……そうね」

826: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/05(木) 00:02:08.74 ID:tkG/oBEWo
その通りだけれど……


ワルプルギスの夜『アーハハハハハハハハハハハハハッッ!!!』


ほむら「っ!」


ゾクッ。


ある意味では、キュゥべえ以上に絶望を味わわされた伝説の化け物の姿がフラッシュバックし、私の震えが強くなる。

マミ「……だからね、貴女がこのひと月を繰り返す中……考えられる最大のチャンスが今なのよ」

確かに。

まどかの魔法少女化・戦力化を考慮したら話は別だが、もちろんそれは論外中の論外だ。

827: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/05(木) 00:06:48.50 ID:tkG/oBEWo
マミ「私はね、あのお菓子の結界の魔女との戦いから、自分の弱点を身を持って痛感・反省した。
佐倉さんは、ああ見えて誰よりも冷静な戦い方が出来る子。
美樹さんは……まだちょっと心配だけど」

マミさんが、一瞬だけ苦笑した。

しかし、すぐに表情を引き締めて私の肩から頭を離し、私の瞳を見つめる。

マミ「……少なくとも私達は誰も気を抜かないし、勝利を信じて精一杯戦う。
持っている力のすべてを発揮してね。
なのに、肝心の貴女がそんなんじゃあ勝てる戦いも勝てなくなっちゃうわよ?」

ほむら「…………」

マミ「ほむらさんは、私達の中で唯一ワルプルギスの夜と戦った経験があるんだから、
指揮だって取って貰う必要があるんだし」

ほむら「……うん」

828: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/05(木) 00:10:14.92 ID:tkG/oBEWo
マミ「──ごめんなさい、怒っている訳じゃないのよ」

と、マミさんは私の肩に手を置き、優しい笑顔を向けてくれた。

マミ「思い付く限りの最悪の想定はしたわ。
ならもう、ここで悩んでも仕方ない。
最善を信じ──全力を尽くしましょう」


トクン。


……湧き上がる、力。

もはや、私に先程までの弱気は消えていた。

大切な人が側に居て、こうやって言葉をかけてくれるって……こんなに凄い事なのね。

望んでそうしていた訳ではないにしても、一人で戦っていたり、仲間を利用していた頃には決して気付かなかった。

ほむら(……思えば、この世界では心の支えになるものが沢山増えたわ)

その一つ一つが、今の私を大きく・強く支えてくれている。

ほむら(中でも、マミさんの存在は私の新しい道しるべ)

まどかの存在と、あの『約束』だけを胸に生きていた私の前に現れた、もう一つの道標。

ほむら「……はい」

私は、笑顔でそう頷いた。



続きます。