2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/12/24(木) 23:58:20.96 ID:Yl1+fhpsO
成瀬順は頭を抱えていた。






引用元: 成瀬順「坂上君とホテルに二人っきりか…(*・∀・)」 

 

小説 心が叫びたがってるんだ。 (小学館文庫)
豊田 美加 超平和バスターズ
小学館 (2015-09-08)
売り上げランキング: 15,822
3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/12/24(木) 23:59:29.54 ID:Yl1+fhpsO
山の上のお城。月明かりが、窓から差し込んで、坂上拓実と成瀬順、二人の人影を照らしていた。
廃ホテルの一室、薄暗い室内には他に人の姿は無い。
少し離れた場所にいるというのに、些細な息遣いでさえ耳元に感じられるものだから、冬の風に冷めた頬はすっかり熱を取り戻してしまった。

順は額に手を当て、眉間に浮かんだ皺を隠す。
例え振られても相手が仁藤さんならば良いと思った。
彼女の顔が浮かぶ。応援するから、といって笑った彼女の心中は如何なるものだったろうか。
彼女の事を思うと、今の状況が裏切りに感じて心がチクリと痛む。

4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/12/25(金) 00:00:07.15 ID:nGJI54uvO













5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/12/25(金) 00:00:48.32 ID:nGJI54uvO
2年2組の教室は未だ喧騒に包まれていた。
舞台を終えた高揚感で、片付けは終わったと言うのに誰一人帰る気配が無い。

「打ち上げ?」
「そう!」
誇らしげに胸を張ってそう応えたのはクラスメイトの宇野陽子だった。

6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/12/25(金) 00:01:31.54 ID:nGJI54uvO
「やっぱさ、せっかく休日返上してまで頑張ったんだからっ、ちょっとくらいハメ外したっていいっしょ!ねっ、いっくん!」
「まぁ、ね、はは…」

そう言って彼女の恋人、三嶋樹は笑って、ちらと私の方へ目を移す。
主役を任されていながらそこから逃げ出した責任感、くらいは私の中にもある。
そうして舞台をすっぽかして、誰が飄々と打ち上げになど参加出来るものか。

7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/12/25(金) 00:02:46.69 ID:nGJI54uvO
口元に力を込め、なるべく自然な笑顔を作るよう心がける。
このまま笑顔で静かに教室から出よう。少し不自然さは残るが仕方あるまい。
もう舞台は幕引き。私の物語は終わったのだ。

それでも、坂上君が、成瀬も行こうよ、なんて言って笑うもんだから私はすっかり帰るタイミングを失ってしまったのだ。

8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/12/25(金) 00:05:23.73 ID:nGJI54uvO



飲み会が始まると、成瀬は酒大丈夫か?、その次は、お腹痛まないか?、
悲しいかな、振られた相手からの気遣いがこんなに惨めなものだと私は知らなかったのだ。
恋は盲目、こんな結末も想像出来た筈だ。夢見るお姫様になりきっていた私は何も見えていなかった。

「成瀬は親に連絡とかいいのか?」
「えっ、あ、あああっ」

携帯を廃ホテルに落としたと気付いたのは打ち上げが終わり、皆がすっかり解散してしまった後だった。

12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/12/26(土) 00:20:25.56 ID:oBtdx3GFO
成瀬順はそっと溜息をついた。目の前では坂上が黙々と捜索を進めている。
好意は知られている。何かを期待してしまう自分が嫌なのだ。






13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/12/26(土) 00:22:48.44 ID:oBtdx3GFO
捜索を再開した私はベッドの下に光る何かを見つけた。

「なんだ、もう見つけちゃったの?」
そう言って坂上君は荒々しく私を抱き寄せる。
その顔には悪戯が成功した子供の様な笑み。

14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/12/26(土) 00:28:23.09 ID:oBtdx3GFO


驚き動けない私を、手際よくベッドへと押し倒す。
無邪気な笑みを浮かべて胸へと手を伸ばす坂上君に、私は何の抵抗も出来なくなってしまった。
やっぱり計算ずくだったんだ!
可愛い顔をしてこんな策略を練っていたなんてずるい!
それでも、それでも私は坂上君なら…!








15: 寝落ちしてました。 2015/12/26(土) 07:10:04.90 ID:oBtdx3GFO








16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/12/26(土) 07:12:06.28 ID:oBtdx3GFO
「一旦休憩しよっか」
「あっ、う、うん」
浮ついた意識が現実に戻ってくる。

だから嫌なのだ。舞台は整った、役者は出揃ったのだ。
それでも何も無ければ、妄想の入り込む隙は無くなる。
順は夢を見る事さえ出来なくなるのだ。

17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/12/26(土) 07:13:20.68 ID:oBtdx3GFO

目の前では坂上がカバンから水を取り出して飲み始めた。

一口水を含む度に、喉が上下する。
その細い首に水が流れ込んでいくのがはっきりと分かった。
口元に添えられた手に色気を感じる。男らしくがっしりとして、長い指。
この手からあの音楽が奏でられたのだ。そう思うと順は坂上から目が離せなくなってしまった。

18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/12/26(土) 07:14:31.88 ID:oBtdx3GFO
視線に気づいた坂上も順を見遣る。
一度順に向かった視線は外れる事が無い。その目は何かに見惚れた様に、真剣な光を帯びている。

どうやら本格的に酔ってしまったらしい。
都合の良い妄想が、現実に見えてしまう程に。

19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/12/26(土) 07:17:34.02 ID:oBtdx3GFO
男にしては白い肌は赤みを増している。褐色の瞳は順の身体を撫でるように、視点を移した。
顔から胸、腰へと這うように滑る視線がくすぐったい。



20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/12/26(土) 07:18:13.27 ID:oBtdx3GFO
「あっ」
彼の手が小さな子をあやすような手つきで順を撫でる。

たったそれだけで順は何も考えられなくなってしまうのだ。

21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/12/26(土) 07:18:52.24 ID:oBtdx3GFO
思い浮かぶのはふれ交の前日。
あの時の順は何でも出来そうな気がしていた。
望めば夢見るお姫様になる事だって。
なのに今は酔った振りをしなくては、こんな恋も出来ない。

22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/12/26(土) 07:19:41.96 ID:oBtdx3GFO
坂上拓実の顔がゆっくりと近づく。
「坂上君…」

廃ホテルの一室、月明かりが窓から差し込み、一つの影を照らし出していた。