1 : ◆mSvgS5v5Fc:2013/02/14(木) 17:37:14 ID:.aJa5wwU
優雅に歩く一匹の猫。
まんまるの瞳には確固たる意思があった。

目的の空き地に着くと猫は土管に飛び乗る。
そして――にゃおおおおおおおおん。

犬ならぬ猫の遠吠えが住宅街に響いた。
塀の隙間や電柱の影から次々に猫が集まってくる。

僅か一分足らずのことだ。
招集をかけた猫の背後に数十匹の猫がいた。

一匹残らず背筋を伸ばし、
土管を前に整列する猫の軍団。

くるりと振り返った白猫は、
シニカルな笑みをふと浮かべる。

白猫「ついにこの日がやってきたにゃん」

白猫「ついに、この日が、やってきたにゃん!」

にゃー! にゃー!

白猫「散るにゃん! 散って散って――チョコを奪い尽くすにゃん!」

にゃー! にゃー!

これは人間の知らないバレンタインの、闇の記録である。 




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2 : ◆mSvgS5v5Fc:2013/02/14(木) 17:37:29 ID:.aJa5wwU
黒犬「待つわん!」

白猫「……駄犬風情がなにしにきたにゃ?」

黒犬「決まってるわん! ご主人達の幸福な日を邪魔するお前たちを、見過ごすわけには行かわんわん!」

白猫「お前の口癖は無理があるにゃあ」

黒犬「ほっとけわん! ともかく、ここから先は一猫足りとも通さないわん!」

白猫「貴犬一匹に……にゃにができる?」ニャッニャッニャッ

黒犬「犬がわん匹で動くとでも? わん?」

白猫「にゃにぃ!?」 


3 : ◆mSvgS5v5Fc:2013/02/14(木) 17:37:45 ID:.aJa5wwU
ザザザザザザザ

わおーん、わんわん、きゃんきゃん!

黒犬「犬はご主人への愛で溢れてるわん! ちょっと呼びかければこんなもんわん!」

白猫「……それが、どうしたにゃああああああ!」

白猫「みんにゃ! ここは私に任せて先に行くにゃん! 奪って奪って、奪い尽くすにゃん!」

にゃあにゃあ! にゃああん!

黒犬「逃すな! 追うわん!」

わおおん! わんわん! 

白猫「行かせにゃい!」シュッ

黒犬「お前の相手は俺だわん!」ギャリィィンッ

白猫「ちぃっ! 邪魔くさいにゃあ! 貴犬からぶち殺してやるにゃ!」

黒犬「やれるものなら!」 

4 : ◆mSvgS5v5Fc:2013/02/14(木) 17:37:59 ID:.aJa5wwU
猫は器用なバックステップで下がっていき、
木に駆け登ると高く跳躍した。

白猫「喰らえ! 空中殺法ブリュンヒルデ! にゃ!」グルグルグル

高速回転の勢いを乗せて放たれた猫の爪が犬を襲う。

黒犬「その手は、読めていたぜえ? "わおおおおおんっ"!!」

犬の雄叫びが空気砲となって猫の爪を弾き返す。

白猫「にゃああ! うざいにゃああ!」シュンシュンシュン

地に降り立った途端にサイドステップ。
その連続に猫の姿は残像を残した。

黒犬「犬の嗅覚を舐めるなわああああん!」クンクン「そこ!」

前のめりの体当たりは白猫の胴体を見事に打った。

白猫「ぐっ……はぁっ」 

5 : ◆mSvgS5v5Fc:2013/02/14(木) 17:38:13 ID:.aJa5wwU
黒犬「考えてもみるわん。狩猟犬として、人間と一緒に戦ってきた俺達が、自由奔放に愛された猫に負けるわけがない!」

白猫「そ……それが、どうしたにゃ?」ニヤッ

白猫「だからって……負けて、いいのかって、それは、違うにゃ」ググググググ

黒犬「ど、どうして……たかが猫がこんな根性を……?」

白猫「猫は自由奔放にゃ……身勝手で我侭で、いつだって自分の幸せを願ってるにゃ……だから、だから……」

白猫「アイツのあんな顔、いつまでも見ていたくにゃいにゃあ!」ググッ

黒犬「……立たない方が良かっただろうに、わん」

白猫「貴犬の口癖と同じで諦めが悪いんだにゃ」ペッ 

6 : ◆mSvgS5v5Fc:2013/02/14(木) 17:38:29 ID:.aJa5wwU
黒犬「お前は俺に勝てないわん。そんな独りよがりの力じゃ、とてもじゃないけど」

白猫「だったら貴犬達はひとりよがりじゃにゃいって?」

黒犬「当たり前だ! 俺達はご主人のため。そのためにどれだけでも頑張れる!」

白猫「にゃっにゃっにゃっ……それなら――負ける気しにゃいにゃあ」

黒犬「!? ……まさか……お前……」

白猫「余計な詮索は身を堅くするにゃ? その身を刻んで刻んで、肉の塊にしてやるにゃあ!」

白猫「にゃああああああああああああああ!」

黒犬「この気迫……まさかこれが伝説の……ッ」

白猫「にゃああああ!」ボフゥゥン

紫煙が靄となって白猫を包む。
その霧の中で弾ける雷の数々。

白猫「……ふう」

黒犬「……使えたのか、擬人化を」

白猫「猫をにゃめちゃあ――いけにゃいぜ?」シュンッ

黒犬「消え――ぐあっ!?」ガリガリッ

白猫「気をつけるにゃ……この姿の私は、手加減ってもんを忘れてる」 


7 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/14(木) 17:39:10 ID:.aJa5wwU
黒犬「ふ……はっはっは!」

白猫「気でも狂ったかにゃ?」

黒犬「いいや、違う。ただ、楽しくって楽しくって、笑いが止まらないんだわん!」

黒犬「まさか擬人化を使える奴が――俺以外にいたなんてわん!」

白猫「にゃあ!?」

黒犬「わおおおおおおおおおおおおおんっ」ボフゥゥン 

8 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/14(木) 17:39:21 ID:.aJa5wwU
バチバチ バチバチ

黒犬「っく……はあ。久しぶりだなあ、この姿ァ」コキコキ

白猫「にゃんて……犬にゃ……」ガチガチ

黒犬「お前も気をつけろ? この姿の俺は、ちょっとばかし凶暴だァ!」ドンッ

白猫「速っぐにゃあああああ!」ドゴォォォォォン

黒犬「まだまだァ! はっはー!」ガシィ ブオンッ

白猫「にゃああ!」クルクルクル パッ

黒犬「流石猫だわん。空中はお手の物か?」シュン

白猫「ひっ」

黒犬「うおらァ!」バキィ

ドォォォォン 

9 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/14(木) 17:39:35 ID:.aJa5wwU
黒犬「もうちょい楽しませてくれよ、可愛い子ちゃん」スタスタ

白猫「ガ……ああ……」ググッ

黒犬「もう終わりか? ったく、つまんねェなあ。その程度の力でいきがってたのかよ」スタスタ

黒犬「殺してやるぜ」

黒犬が手の先端を尖らせて、
振り上げた力に殺傷を込める。

猫は思う。
にゃにしてんだ、私。

猫は思う。
猫のくせに、と。 

10 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/14(木) 17:39:49 ID:.aJa5wwU
アイツは私がいなくても元気してるかにゃ?
なにせ、友達なんて一人もいにゃい奴だからにゃあ。

ただいま、って言うのも私に対してで。
毎日毎日決まった時間にただいま、って。

どんだけ暇人にゃ。

きっとああいう奴のことを人間は堕落者とでも言うにゃん。
友達もおらず、恋人もおらず、一人でいる阿呆。

バレンタインの時なんて、いっつも寂しそうだにゃ。
チョコなんて母親から貰えばいい方で。

『俺にはお前がいるからいいんだよ』

なんて、根っからの阿呆にゃ。

……でも、ほんとの阿呆は私にゃ。
猫のくせに。

人間に恋するなんてにゃあ。 

11 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/14(木) 17:40:02 ID:.aJa5wwU
白猫「だから」

白猫「だから!」

白猫「こんにゃとこで死んでられないんにゃ」ガシィッ

黒犬「まだ止める力はあったかよ」グググッ

白猫「アイツのために、この日を失くすにゃ!」グググッ

白猫「アイツのために、チョコを失くすにゃ!」グググッ

白猫「そしたらアイツはもう、悲しまなくて済むから!」グググッ

黒犬「猫のっ……くせにっ」グググッ

白猫「猫を、にゃめちゃあ――いけにゃいにゃあ」

白猫「"最終奥義"」 

12 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/14(木) 17:40:17 ID:.aJa5wwU
黒犬「やる気か? それをやっちまえばお前はもう、生きてられねえんじゃねえのか? わん?」

白猫「猫が自分のために死ねるにゃら本望にゃ。ましてや――アイツのために死ねるにゃら、私は何度だって死んでやるにゃあ!」

黒犬「上等だァ! 来い!」バチィ

白猫「"猫殺"! にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃあああああ!」ズドドドドドドドドドドド

黒犬「この程度ォ!」ガガガガガガガガガガガガガガガガ

白猫「にゃああああああああああああ!」ズドドドドドドドドドド

黒犬「わああああああああああああん!」ガガガガガガガガガガガ

白猫「にゃあ!」ズダンッ

黒犬「わん!」ガシィッ 

13 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/14(木) 17:40:31 ID:.aJa5wwU
黒犬「はあ……はあ……最終奥義ってだけあるぜ。だが、受けきっ――!?」

白猫「犬も歩けば、棒に当たる、ってにゃ」クルッ

黒犬「ばかな……受けきったはず……ッ」ガクガクガクガク

白猫「最終奥義、にゃめてもらっちゃあ――困るにゃあ」キリッ

黒犬「ぶっ」バタンッ

白猫「……にゃっ」ガハッ

白猫「この技はやっぱ……ちょっと、疲れるにゃあ」

白猫「でも、こいつがいなけりゃきっと成功するにゃ」

白猫「みんにゃ……頑張ってにゃあ」バタン 

14 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/14(木) 17:40:50 ID:.aJa5wwU
小さな空き地に猫と犬が横たわる。
風が吹けど動かず、雨が降れど動かず。

陽に照らされた猫と犬。

その猫は、白く、美しい毛並みをしていた。
その犬は、黒く、美しい毛並みをしていた。

血に染まることなく。

主人が褒めてくれた誇りを汚すことなく。

ただただ、安らかに。

眠る――少しだけ。 

15 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/14(木) 17:41:01 ID:.aJa5wwU
白猫「にゃー。腹が減ったし帰るにゃ」

黒犬「今日のところは俺の負けでいいわん」

白猫「はいはい。いつでもかかってくるにゃ」

黒犬「次は勝つわん! 絶対に止めてみせるわん!」

白猫「その前にその口癖なんとかするにゃあ。気ににゃって仕方にゃい」

黒犬「ほ、ほっとけわん!」 

16 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/14(木) 17:41:31 ID:.aJa5wwU
「ただいまー」

にゃおん。

「遅くなってごめんなー。でも聞いてくれよ」

にゃおん?

「今日チョコ貰ったんだぞ、俺」

……にゃん。

「義理だって言ってたけどなあ」

にゃおん。 


17 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/14(木) 17:41:42 ID:.aJa5wwU
「でも、嬉しかった。こういう日も悪くないな」

にゃおん。

「で、俺はお前にこれ」

にゃんっ。

「チョコ……は無理だから、またたび買ってきたぞ」

にゃおん。

「とりあえず、今はお前がいるからいいや」

……にゃん。

白猫(来年のバレンタインこそはぎったぎたにしてやるにゃあ!)


おわり。