1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 00:36:38.52 ID:WF0iyyAoo
司会「さぁ、今週からいよいよ始まりました『外の世界を見てみまSHOW!』!」

司会「外の世界へ旅立った勇者が、いったいどんな旅をするのか!?」

司会「ご覧のゲストの方々とともに、楽しんでいきたいと思います!」

司会「ゲストの皆さん、よろしくお願いします!」



魔王「うむ」

商人「よろしくお願いします」

女賢者「よろしくね」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1455550598

引用元: 勇者「番組の企画でニホンという国にやってきた」 


 

2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 00:37:13.61 ID:WF0iyyAoo
司会「さて、今回勇者が旅立ったのは、外の世界にある“ニホン”という国!」

司会「いったいどんなことが待ち受けているのでしょうか!?」

司会「VTRスタートですっ!」

3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 00:40:07.47 ID:WF0iyyAoo
勇者「えぇ~、皆さん! こんにちは! 勇者です!」

勇者「『外の世界を見てみまSHOW!』記念すべき第一回ということで!」

勇者「今回はニホンという国にやってまいりました!」

勇者「さっそく色々なところを見て回りたいと思います!」



ナレーション『と、ここで勇者、早くも異変に気づく』

4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 00:43:26.66 ID:WF0iyyAoo
勇者「BGMが……ない!?」

勇者「いくら歩いても、まったく音楽が流れてこない! どうなってんの!?」



ナレーション『そう、ニホンという国にはBGMがないのである!』

えぇ~……!



魔王「我が魔王城にも、専用BGMがあるというのに……」

商人「音楽を流す余裕もない国ということなんでしょうなぁ」

5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 00:45:41.11 ID:WF0iyyAoo
勇者「町では明るい曲、洞窟では暗い曲、森では穏やかな曲、みたいなのないんだな」

勇者「BGMがない中を歩くって、寂しいなぁ」

勇者「いきなりで申し訳ないけど、ニホンの人の感性疑っちゃうなぁ」

勇者「ま、いいや。とりあえず、そこらへんの人に話しかけてみましょう」



ナレーション『勇者、さっそくニホンの人に話しかけますが……?』

6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 00:48:13.14 ID:WF0iyyAoo
勇者「あのう……」

通行人A「すみません、急いでるんで」スタスタ…

勇者「もしもし……」

通行人B「…………」プイッ



勇者「……なんだこれ。みんな冷たい」

勇者「俺たちの世界なら絶対こんなことないのに……」



ナレーション『そう、ニホンの人は話しかけても町の名前を教えてくれないし』

ナレーション『ヒントをくれることもないのだ!』

えぇ~……!

7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 00:51:03.05 ID:WF0iyyAoo
勇者「通せんぼしちゃおっと」スッ

通行人C「なにするんですか、ジャマですよ!」

勇者「す、すみません……」サッ



ナレーション『勇者が道をふさぐと、このようにすぐに激怒する!』

えぇ~……!

ナレーション『こんなこと我々の世界では考えられない!』



女賢者「ひどい国ねえ、信じられないわ。遊び心ってもんがないのかしら」

商人「冷酷非情な人ばかりですねえ」

8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 00:54:49.10 ID:WF0iyyAoo
ナレーション『その後も勇者はめげずに町民に話しかけるが、まともに応じる人はなく』

ナレーション『気を取り直し、店を見つけた勇者』



勇者「お、あれは……パン屋かな?」

勇者「ちょうどお腹が空いてきたことですし、さっそく入ってみましょう!」



ナレーション『中へ入っていく』

10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 00:57:46.65 ID:WF0iyyAoo
ナレーション『さっそくカウンターにいる店員に話しかける』



勇者「パンを10個ちょうだい。通貨はこれでいいんだよな?」

店員「あのう、ご自分でお好みのパンを選んで、こちらにお持ち下さい」

勇者「え!? あなたに話しかけるだけで買い物できるんじゃないの!?」

店員「え、ええ……お客様に選んでいただくシステムとなっています」

勇者「なんだそれ、めんどくせえ」



ナレーション『なんと、ニホンでは店員に話しかけるだけで買い物はできないのだ!』

ナレーション『いちいち自分で商品を店員のもとに持っていかなければならない!』

えぇ~……!



商人「よくこんな仕事ぶりで商売をやっていけますねえ、信じられませんよ」

11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 01:00:32.25 ID:WF0iyyAoo
ナレーション『店側の怠慢に文句を言いつつ、パンを買い終えた勇者』

ナレーション『しばし、この世界のパンを堪能する』



勇者「味はまあまあだったな」

勇者「だけど10個は多かったね、5個で十分だ」

勇者「あまった5個は、パン屋に売ってくることにしよう」



ナレーション『しかし……』

12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 01:03:58.58 ID:WF0iyyAoo
店員「商品になにか問題があったのならともかく、返品は受け付けてないんですよ」

勇者「……は?」

勇者「いやなんで? おかしいでしょ?」

勇者「俺が買った額の半額で買い取ってくれるのが相場でしょ?」

店員「いえ、そんなことは……」



ナレーション『ニホンという国では、一度買った商品を気軽に売ることはできない』

えぇ~……!

ナレーション『ちなみに、もし売れたとしても、その金額は……』

ナレーション『買った額の半額どころか、遥かに安くなることがほとんどである』



商人「ひどい悪徳商売ですなぁ。こんな商売がまかり通っている国があったとは」

魔王「うむ……ふざけておる。我が出向いて滅ぼしてやりたいぐらいだ」

13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 01:06:05.43 ID:WF0iyyAoo
ナレーション『結局パンを買い取ってもらうことはできず、しぶしぶ外へ出た勇者』

ナレーション『と、ここであることに気づく』



勇者「この国の人たちって、どうやって金儲けしてるんだろ?」スタスタ…

勇者「モンスターとかいないのかな?」

勇者「すみませーん」

14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 01:09:14.69 ID:WF0iyyAoo
通行人D「なんでしょう?」

勇者「よかった、あなたみたいなまともな人もいるんだ」

勇者「この国の人って、どうやってお金を稼いでるの?」

通行人D「そりゃもちろん……仕事をして、じゃないですか」

勇者「仕事はそりゃするだろうけど、モンスターはいないの?」

通行人D「モンスター? いや……いないですけど」



ナレーション『ここで信じがたい事実が明らかになった!』

ナレーション『ニホンでは、モンスターを倒してお金を稼ぐことができないのだ!』

えぇ~……!

15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 01:14:18.15 ID:WF0iyyAoo
勇者「あともう一つ……この国って魔法ってある? 誰も使ってないけど」

通行人D「魔法? 呪文を唱えて、火を出す……みたいなやつ?」

勇者「知ってるんだ。ってことは、みんな使ってないだけで存在するんだよね?」

通行人D「あるわけないじゃない。なにいってんだよ」

勇者「ええええ!? ないの!?」



ナレーション『我々の世界では当たり前のように使われている魔法……』

ナレーション『今さら説明するまでもなく、人間の英知の結晶ともいうべき術である』

ナレーション『しかし、ニホンの人たちはまったく魔法を使うことができないのだ!』

えぇ~……!

ナレーション『なんということだろうか……ショックのあまり愕然とする勇者!』



女賢者「魔法を使えないなんて、文化や精神が未熟な証拠だわ」

魔王「おそらく精霊たちと対話することすらできんのだろう」

16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 01:17:52.13 ID:WF0iyyAoo
ナレーション『旅を初めて数時間で、すっかり疲れきってしまった勇者』



勇者「あ~、もう疲れた。なんなんだよ、この国……」トボトボ

勇者「今夜はもう宿に泊まって寝よう」トボトボ



ナレーション『ちなみに、ニホンの宿屋は気軽に泊まることができない』

ナレーション『予約が必要だったり、部屋が空いていないこともある』

ナレーション『どんな客でもすぐ宿泊させてくれる我々の世界の宿屋とは大違いである!』



女賢者「ホントホント。この世界に生まれてよかったわ」

商人「我々の世界の宿屋のことが、誇らしくなりますねえ」

17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 01:22:17.14 ID:WF0iyyAoo
ナレーション『翌朝……』



勇者「なにこれ……」

勇者「俺たちの世界の宿屋なら、寝て起きると生まれ変わったみたいにスッキリするのに」

勇者「まだ疲れが残ってるんだけど……」



ナレーション『なぁんと、ニホンの宿屋では体力が全回復することはないのだ!』

ナレーション『怪我や病気が治るなんてことももちろんない!』

えぇ~……!



女賢者「ただ寝るためだけの施設で金取るって、ひどい話ね」

魔王「回復魔法もないし、ニホンの輩には回復する手段がないのだな。無様なことだ」

商人「だからみんな、あんな死人のような表情をしてるのでしょうなぁ」

18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 01:26:57.25 ID:WF0iyyAoo
ナレーション『再びBGMのない寂しくみすぼらしい町を歩いてると、事件が起こる』



警官「君! なに堂々と剣を持ち歩いてるんだね!」

勇者「へ?」

警官「交番まで来てもらおうか!」

勇者「なんで?」

警官「なんでって、銃刀法違反だからだ!」



ナレーション『そう、ニホンでは民間人は剣を持つことは禁じられている!』

ナレーション『酒場に傭兵などの戦士がたむろしてるなどという和やかな光景もない!』

ナレーション『しかし、今勇者を問い詰めている警官は武器を持つことを許されている』

ナレーション『ニホンとは民が武力で抑圧された、完全独裁国家なのである!』

えぇ~……!

19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 01:29:43.43 ID:WF0iyyAoo
勇者「さすがにロケ中にケンカするわけにいかないし」

勇者「こうなったらセーブポイントからやり直すか……ってセーブしてないや」

勇者「ねえ、ニホンってセーブポイントってないの?」

警官「なんだそれは?」

勇者「セーブポイントも知らねえのかよ……」



ナレーション『ニホンはセーブポイントが存在しない!』

えぇ~……!

ナレーション『我々の世界では、いたるところに用意されてるというのに!』

ナレーション『ニホンの人間はやり直しがきかない地獄の中で生活しているのだ!』

ナレーション『だから他人に対する思いやりが欠けた未熟な人間が育ってしまう!』

20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 01:32:58.99 ID:WF0iyyAoo
ナレーション『その後、なんとか警官から逃げ出してきた勇者』



勇者「ふぅ、ふぅ、うまくまいてやった」

勇者「逃げるのは慣れてるからな」

勇者「しっかし、このニホンって国は本当にひどい国だ」

勇者「早く俺たちの世界に帰りたいよ! というか、もう帰る! ギブアップ!」



ナレーション『こうして、今回の勇者の旅は終わりを告げた』

ナレーション『百戦錬磨の勇者が二日といられない辺境にして秘境にして魔境』

ナレーション『それがこのニホンという国なのである!』

ジャジャーン!

21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 01:37:20.40 ID:WF0iyyAoo
司会「いかがでしたでしょうか、皆さん?」



魔王「我は自分が冷酷であると自負していたが、ニホンの奴らはそれ以上だ」

魔王「ニホンの民は、魔族以上に残忍な集団だと認識できた」

商人「あんな悪徳商人がはびこってるなんて、モラルもへったくれもない国ですねえ」

商人「私はこの世界に生まれて本当に幸せ者ですよ」

女賢者「誰も魔法を使えないって時点でおハナシにならないわね」

女賢者「お金を積まれてもこんな国、行きたくないわね。勇者には同情するわ」



司会「ですよねぇ! おかげで我々がいかに恵まれてるかがよく分かりました!」

司会「ではそろそろ番組終了のお時間です! さようならー!」

22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 01:43:03.28 ID:WF0iyyAoo
――

――――

村人A「あー、面白かった!」

村人B「外の世界にはあんな国があるなんてなぁ」

村人A「だけど、番組の内容がちょっとなぁ……」

村人A「外の世界を、俺らの世界を褒めるための引き立て役にしてるのが引っかかったな」

村人B「ああ、もうちょっとなんとかならんもんなのかねぇ」






― END ―