1 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/15(月) 14:57:32 ID:OK5e.VnY
男「あなたはわたしと婚約関係にありますか」

女「いいえ」

男「だけどあなたとわたしは同じ指輪をはめている」

女「それは結婚指輪ではありません。薄く切られたちくわです」

男「これはちくわですか。わたしにはそうは見えないけれど」


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2 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/15(月) 15:00:40 ID:OK5e.VnY
男「あなたはわたしと付き合っていますか」

女「いいえ」

男「だけどわたしとあなたはおんなじところに住んでいる」

女「ルームシェアです」

男「ワンルームなのに?」

女「今朝起きたら壁が無くなっていたんです」

女「ちなみに私は隣に住んでいるものです」

男「これはこれは」

女「どうもどうも」

男「ところでこの家、一戸建てですよね」

男「だまされましたか」

女「だまされた!!理不尽な暴力!理不尽な暴力!」

男「殴らないでください」 


3 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/15(月) 15:02:07 ID:OK5e.VnY
男「あなたはわたしとデートにでかけたことがありますか」

女「いいえ」

男「水族館に行ったようですよ、写真がある」

女「それは私ではなく、ジンベエザメです」

男「間違えました」

男「でもこのジンベエザメはとても可愛らしいですね。」

女「やっぱりわたしです」

男「どうりで肌が青くないわけだ」 

4 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/15(月) 15:02:59 ID:OK5e.VnY
男「あなたは灰色がきらいですか」

女「はい」

男「なぜですか」

女「私のきらいなものは、たいてい灰色なのです」

男「例えば?」

女「曇った空とか、ネズミとか、あと、あなたの脳みそもきっと灰色です」

男「私の脳はきらわれているようですね」

女「はい」 

5 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/15(月) 15:03:48 ID:OK5e.VnY
男「あなたはわたしのことをおぼえていますか」

女「・・・・・」

男「どうしました?」

女「黙秘権を使います」

男「すいません、こちらの黙秘クーポンの有効期限、昨日までなんですよ」

女「そこをなんとか!」

男「だめです」

女「こいつじゃ話にならねえ!店長を呼べ!」

男「タチの悪い客だ!店長――!!」

男「あれっ」

男「ごまかさないでください」 


6 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/15(月) 15:05:45 ID:OK5e.VnY
男「あなたはわたしのことを好きですか」

女「いいえ」

男「そうですか、悲しいです」

女「どちらかといえば、愛していますよ」

男「今なら空も飛べるはずです。ちょっと飛んできますね」

女「窓から飛び降りるのはやめてください」 


8 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/15(月) 15:07:01 ID:OK5e.VnY
男「あなたは記憶喪失ですか」

女「いいえ」

男「本当のことを教えてください」

女「では、私からもあなたに3つ質問をしましょう」

男「わかりました」 

9 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/15(月) 15:07:46 ID:OK5e.VnY
女「まず一つ目」

女「あなたはわたしのことをおぼえていますか」

男「黙秘権は使えますか」

女「すいません、こちらのクーポン当店のものではないんですよー」

男「そうなんですか!恥ずかしい!!」

女「ははは、なんだこいつ!なんだこいつ!」

男「指を指して笑うのはやめてください! 


11 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/15(月) 15:09:39 ID:OK5e.VnY
女「つぎに二つ目」

女「あなたは記憶喪失ですか」

男「・・・いいえ」

女「嘘ですね」

男「嘘です」

女「やっぱり、あなたには記憶がない」

男「・・・・はい。朝起きたら何も覚えていませんでした。
  この部屋も、となりで寝ていたあなたのことも」

女「何も?」

男「ええ、何もかも」 

14 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/15(月) 15:12:49 ID:OK5e.VnY
女「では、最後の質問を」

女「あなたは、わたしのことを好きですか」

男「・・・・いいえ」

女「ですよね」

男「すみません」

女「いいえ、あなたが謝ることはない」

女「代わりと言ってはなんですが、
  左手の薬指にはまったちくわを食べてください」

男「・・・・わたしには、婚約指輪にしか見えないのだけれど」

女「それはちくわなんですよ、だから飲み込んでください」

男「そういうものですか」

女「そういうものっていうことにしといてください」

男「・・・・なぜ泣いているんですか?」

女「泣いてません、こっち見ないでください」 

17 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/15(月) 15:18:01 ID:OK5e.VnY
男「あなたはまだわたしに隠しごとをしていますね」

女「どうしてわかったんですか」

男「起きた時、体中がとても痛かったんです。
  見ると全身にあざややけどの痕が、そしてとなりには、
  わずかに血のついたフライパンを持ったまま寝ている、あなたが」

女「それで?」

男「記憶のないわたしでも分かります。
  あなたは、わたしに暴力をふるっていた」

女「例えば?」

男「フライパンで叩いたり、熱湯をかけたり。
  それらなら、小柄なあなたにでもできるでしょう」

女「・・・・ごめんなさい。あなたは耐え切れなくなって、
  すべてを忘れることを選んだのでしょう、きっと」

女「わたしは壊れているんです。歪んでいるんです。
  だから、いびつな形でしか、あなたを愛せなかった」

女「あなたはここにいるべきではない。きっとわたしはまた、
  あなたを傷つける。だから、逃げてください」

男「誰から?」

女「わたしから」 

18 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/15(月) 15:18:54 ID:OK5e.VnY
男「・・・・いやですよ、ここはわたしとあなたの家です」

男「わたしには記憶がありませんが、
  あなたのことが嫌いではないみたいです」

女「あなたに暴力をふるっていたのに?」

男「そういうものです」

男「さあ、着替えて指輪を買いに行きましょう。

今度はちくわではなく、本物の婚約指輪を」

女「・・・・免罪符は使えますか」 


19 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/07/15(月) 15:19:34 ID:OK5e.VnY
短いですが、これで終わりです。
見てくださった方、ありがとうございました。