2: ◆stww/BS79E 2016/03/27(日) 13:58:18.19 ID:lbK3hKjv0

1、始まりの一言


 ――――…… ねぇ、ボクへのキスは……偽物?


それは、不意に出てしまった一言だった。

目の前の相手は、何を言われたのか分かってないような表情をしている。

いつものボクなら、『痛いヤツ』として言葉を並べて武装しただろう……

でも、今のボクにはそんな余裕は無かった。

何でこのコトバを、今、この場で言ったのか?

その疑念が、ボクを縛りつけているようだ。

引用元: (デレマスSS)モバP「きっと二人で明日、奏で」 


 

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3: ◆stww/BS79E 2016/03/27(日) 13:59:13.97 ID:lbK3hKjv0

一言も言葉が増えずに流れる時間……その静寂を……

「お、二人揃ってる!ちょうどいい!仕事の話をしてもいいか?」

ボクのセカイを変えた1人が大声で空気を変える。

内心、ホッとしながら、いや、回答の無い空間に少し心を悩ませながら、

「全く、キミは空気が読めないようだね。でも、急いてるようにも見える……話を聞こうか」

話題をすり替える。

相手は……少し戸惑った顔をした後に、いつもの顔でプロデューサーに軽口を叩く

少しの誘惑を乗せて

4: ◆stww/BS79E 2016/03/27(日) 14:00:38.59 ID:lbK3hKjv0

彼……あぁ、プロデューサー曰く、2人でユニットを組む仕事が入ったようだ。

この空気で、この仲で、デュエットを歌うライブを企画しているらしい。

ユニット名は『Imitation KISS』

偽物の口付け

……どうにも出来すぎてて泣きそうだよ。

まるでキミに答えを代弁された気分だ。

5: ◆stww/BS79E 2016/03/27(日) 14:01:08.63 ID:lbK3hKjv0

ボクも相手も、否定する言葉は無い。

この仕事を実行することは決まっている。

ただ、お互い多忙の身だから、一緒に練習できるのは最終リハーサル前くらいみたいだ。

さて、これから、どう向き合おうか……

ボクと、相手と……この仕事と……

6: ◆stww/BS79E 2016/03/27(日) 14:01:51.42 ID:lbK3hKjv0

2、ラジオ

 仕事から帰ったボクは、一通りのことを済ませて……

思い出すことすら、今はしたくないから、ラジオを流した。

この時間は少しお気に入りの番組がやっている。

パーソナリティが1週間決めたテーマでリクエスト曲を流す。

その曲が絶版であろうが、インディーズであろうが、

パーソナリティが気に入れば見つけて来て流すこだわりの番組。

今日は月曜日……今週のテーマが決まる。

7: ◆stww/BS79E 2016/03/27(日) 14:02:41.36 ID:lbK3hKjv0

あぁ、なんてことだい……ここで、テーマが恋愛の曲とは……

ただ、ここの曲選びは好きだ。

だから、今週もきっと聴ける日は忘れずに聴くだろう。

……今日はすぐ準備できる楽曲ということもあり、

人気のJ-POPやアイドルソングが流れていた。

ボクの事務所の曲も流れていた。

ボクの曲も……いつかは聴けるのだろうか……なんて

8: ◆stww/BS79E 2016/03/27(日) 14:03:32.87 ID:lbK3hKjv0

さて、今日はここまでにしよう……寝る前にふと気になって鏡の前に立つ

あの人の唇が触れた部分を気付いたら撫でていて、

ボクは鏡を見ることが出来なくなっていた……

明日から、新しいレッスンじゃないか……しかも、あの人と

ボクは、少しの緊張を隠すように鏡から離れ、眠りに就く。

明日はきっと会えないだから大丈夫。

それが安堵なのか不安なのか分からない感情に身を委ね……毛布を抱きしめた。

9: ◆stww/BS79E 2016/03/27(日) 14:04:02.41 ID:lbK3hKjv0

3、偽りの意味

 出勤したボクは、プロデューサーに呼ばれ、デュエット曲の仮歌とダンスを確認する。

これが『ニセモノ』の意味なのか……

そこに映っていたのは、隣り合って歌う2人と……

最後の最後に視覚トリックでキスをしているように見える決めポーズ

お互いが真ん中を向くけど、8cm低いボクはそのまま、相手は一歩横に外して踏み込む

全く……14歳と17歳にこんなことをさせるなんて、キミも業が深いね。

10: ◆stww/BS79E 2016/03/27(日) 14:05:08.06 ID:lbK3hKjv0

そんな小言を言ってみたが、キミには通じなかったみたいだ。

今日はこの打ち合わせだけで、明日から本格レッスンらしい……

ボクは、仮歌のMP3をプレイヤーに入れ、歌詞カードをもらい、

何だか、独りで歌を聴きたい気分になった。

だから、自動販売機で、少し甘めの熱い缶コーヒーを買い、屋上に出かけた。

11: ◆stww/BS79E 2016/03/27(日) 14:06:11.31 ID:lbK3hKjv0

屋上の端っこに設置されている椅子。

その特等席に座り、ボクは仮歌を再生する。

お気に入りの場所で……二人で……隣同士で……歌う曲が流れる。

その歌詞を見て、ボクは……歌詞カードをポケットに入れ……ひざを抱く。

またボクだけのセカイに引き籠った気分だ。

12: ◆stww/BS79E 2016/03/27(日) 14:07:02.38 ID:lbK3hKjv0

「同胞よ、凍てつく悪魔に召されるやもしれぬぞ?」

……数刻、いや、どれくらい経ったか分からない。ポケットの缶コーヒーがすっかり冷えている。

そんな時に、ボクに向かって声が掛けられた。

全く、この相方には、バレているかのように見つかってしまう。

ボクは大丈夫だと答え、隣に座って欲しいと椅子の左側を優しく叩く

ふわりと漆黒のスカートを整え、闇の天使が舞い降りる。

「新たなる舞台……眷属を病ますほどの境地か?」

本当に、この子は優しい。

13: ◆stww/BS79E 2016/03/27(日) 14:08:03.14 ID:lbK3hKjv0

ボクは、大丈夫だと告げるが、納得していないという顔をしている。

分かってる同胞には伝わってしまう。

いや、そうでなくても、女子というネットワークで全て伝わっているのかもしれない。

「舞台でないのであれば……」

あえてその後を言わない。そうキミなら言わないと分かっている。

優しいね……本当に……

14: ◆stww/BS79E 2016/03/27(日) 14:08:47.53 ID:lbK3hKjv0

「同胞飛鳥よ、今宵、魔王と語らう余興はいらぬか?」

ふと、パジャマパーティのお誘いを受ける。

ボクは、もちろんと受け入れ、ボクの部屋に集まることが決まる。

魔王と名乗るには随分と可愛らしい笑顔で嬉しそうにするのは、

人を魅了する堕天使の名を欲するままにする彼女らしいと思う。

15: ◆stww/BS79E 2016/03/27(日) 14:09:38.98 ID:lbK3hKjv0

さて、やることが出来た。

ボクは、椅子から降りて思いっきり背伸びをしする。

魔王が好む供物を揃え、今宵の余興にふさわしい題材でも探そうか。

ボク達のセカイがそれを望んでいるから

16: ◆stww/BS79E 2016/03/27(日) 14:10:30.33 ID:lbK3hKjv0

4、Face

 帰宅し、いろいろな準備を終わられた少し後、控えめなノック音と共に魔王がやってきた。

「やぁ、待っていたよ」

出迎えの一言で満面の笑みを浮かべる魔王は、ズルいくらい可愛い。

だが、魔王はその笑顔を継続させず問いかけてきた。

「今宵は、愉悦の電波を受け入れず終えるのか?」

ボクがラジオを起動していないことが気になったらしい。

おしゃべりがメインなら不必要かと思っていたけど、そうでもないらしい。

ボクは、お言葉に甘えてラジオを起動し、いつもの周波数に合わせ、昨日と同じ番組を流す。

17: ◆stww/BS79E 2016/03/27(日) 14:11:33.46 ID:lbK3hKjv0

最近はお互いに忙しかったのもあり、まずは、お互いの近況報告からしていた。

栄光のガラスの靴を得た彼女の仕事量は……そうだね。いろいろ聴いてみたくはなるよ。

供物達も順調に減って、少し話が落ち着いたとき

ラジオから少し変わったチャイム音が聞こえた。

これは、パーソナリティが珍しいリクエストを流す前の合図

ちょっと気になってしまったボクは、同胞にそのことを教えて、少し聴く時間にする。

18: ◆stww/BS79E 2016/03/27(日) 14:12:13.24 ID:lbK3hKjv0

今回のリクエストは……ハードコアテクノというジャンルの曲

その中でも、ニュースタイルガバと呼ばれるらしく、歪んだキック音が鳴り響くのが特徴みたいだ。

オランダ発祥の音楽らしいけど、今回の曲の作曲者は日本人で、オランダでも評価されている人らしい。


曲の名前は 『Face』


顔……どんな恋愛が関わる曲なのか、今までの情報からでは想像できず、少し気持ちが昂るのを感じる。

19: ◆stww/BS79E 2016/03/27(日) 14:12:56.05 ID:lbK3hKjv0

曲が始まる……静かな場面、激しい場面、ゴスゴスでもドスドスでも適格な表現じゃない

不安やいろんな気持ちがまぜこぜになった……「濁った心音」のような音が鳴る

映画……ふとしたワードで、あの人を思い出す……

ねぇ、今私はどんな顔をしている?……そのコトバに数日前、ボクの一言の後に見せたあの人の顔が浮かぶ……

あぁ、この曲を聴いたのはきっと目の前の堕天使がくれた天啓だ……

濁った心音のリズムに心を揺らして、そんなことを考える

20: ◆stww/BS79E 2016/03/27(日) 14:14:05.44 ID:lbK3hKjv0

曲が終わり、静寂が二人を包む。

でも、その静寂はすぐに魔王が掻き消す……一つの画像を手渡しながら……

「同胞飛鳥よ、契約の口付けには数多の意味がある……そ、その、飛鳥ちゃんが受け取った意味は……どれ?」

それは、口付けされた場所にはそれぞれ意味があるという説明の画像

……ボクは、あの人の唇が触れた位置を探す。

あの人が、ボクにくれた意味は……思慕……そして、恋慕……

ボクが知っている限りで、あの人がボク以外に与えているのは……友情、愛玩、敬愛……

21: ◆stww/BS79E 2016/03/27(日) 14:14:44.98 ID:lbK3hKjv0

……あぁ、そういうことだったのか……

ボクは一人、泣きそうになる……嬉しさ半分悔しさ十分……

顔に唇が触れないだけで、ボクへの気持ちは違うものだと信じ込んでいた。

そんな幼稚さが余計に突き刺さる。

22: ◆stww/BS79E 2016/03/27(日) 14:15:41.41 ID:lbK3hKjv0

「同胞飛鳥よ、このままで良いのか?」

俯くボクに魔王が問いかける。

ボクは、頭を横に振る。

そんなボクの額に……優しく堕天使の祝福が施される。

「我が祝福を受けたからには、幸福に至らねばならぬぞ!」

彼女なりの応援を受ける。

こんな同胞に恵まれているだ……ボクはボクなりに決めるしかない。

少し、心が固まったボクは、一緒に片付けをして……

これからは、どんな時間でも自分の部屋に戻ると決めた同胞と、

手を繋いで眠る最後の一晩を過ごした。

23: ◆stww/BS79E 2016/03/27(日) 14:16:29.92 ID:lbK3hKjv0

5、ラストリハーサル

 あのパジャマパーティから、ボクは連日レッスンの日々を送っている。

横に誰も居ないダンス練習。

流石に、そろそろ相手が欲しいけど、無理やり作ったユニットのイベント

プロデューサーもかなり苦慮しているようだ。

たまに一緒になれる日も、そこまで時間は確保できず、確認事項だけで終わることも多い。

そんな日々が過ぎて……イベント前日のリハーサルの日になった。

24: ◆stww/BS79E 2016/03/27(日) 14:17:37.39 ID:lbK3hKjv0

流石に、この日はしっかりと練習が出来る。

二人で揃える声、揃えるダンス

どうやら、思っていた以上に相性はいいらしい。

いや、これくらい出来なくちゃボクが満足できない。

あと、少ししっくりこない微々たるレベルだけど、ボクはそれを感じている。

そんなことを考えつつ、

最後に舞台での動きを確認して、今日は終わった。

25: ◆stww/BS79E 2016/03/27(日) 14:18:15.01 ID:lbK3hKjv0

片付けの準備をしていると……ボクと彼女は2人だけになる。

荷物をまとめ、もうすぐ部屋を出る。

ボクは、今しかないと、呼び止める。

少し何かをはぐらかすような返事が聞こえる。

知っている。

その原因はボクなんだろう?

だから、ちゃんとボクが精算するよ。

26: ◆stww/BS79E 2016/03/27(日) 14:19:00.59 ID:lbK3hKjv0

気付かれないように深く呼吸を整えながら歩み寄る。

濁った心音がウルサイ、あの曲のような芸術性が無いのは、

これはただの緊張だからで、

……そんなことは分かっている。

ボクは『痛いヤツ』になりきれない自分を叱り飛ばし、アナタの元にたどり着く。

27: ◆stww/BS79E 2016/03/27(日) 14:19:38.34 ID:lbK3hKjv0

そして、ボクを見ようとしてくれないアナタの頬を両手で包んで、

『愛情』を伝えるキスをする。

優しく触れるように、でも、ちゃんと伝わるように……

唇が離れたあと……相手の顔を見る。

28: ◆stww/BS79E 2016/03/27(日) 14:20:32.01 ID:lbK3hKjv0

 綺麗だ。本当に綺麗で見惚れる。

この瞬間、この顔を見られるのはボクだけ

ボクの顔もきっと、想い人にしか見せない顔だろう。

そして、ボクは相手に伝えるんだ。

前に失敗したボクなりの言葉で


『ねぇ、このキスは偽物だと思う?』


さぁ、返事を聴かせて? 2人で明日を『奏』るために……