1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/11/16(木) 09:35:55.44 ID:WCIVdMJJO
奏「あなたが私の…? ふぅん、私をアイドルに…うーん、どうしようかなぁ。」

奏「そうねぇ…じゃあ…今、キスしてくれたらなってもいいよ。」

奏「どう? …なんてね。ふふっ! プロデューサーさん、顔が赤いよ?」

~あれから5年後 初秋~

速水奏は、日本ではトップの若手映画女優となっていた。



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引用元: 速水奏「紫の雨の下」 


2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/11/16(木) 09:38:13.84 ID:WCIVdMJJO
【At Seventeen】

カーラジオ「~It isn't all it seems at seventeen~♪」

奏「・・・いい曲ね。歌詞も素敵。」

P「奏でも、そう思うのか?」

奏「何よ。良いもの位、わかるわよ。」

P「いや、奏の場合、むしろ『ちやほやされる側』だったんじゃないか、と。」

奏「そう、ね・・・表面的には、そうだったわ。」

奏「けれどそれは、そうなるように演じている、『速水奏』に対しての話よ。」

奏「映画で見た仕草やセリフを真似てみて、綺麗に見えるようにメイクをして・・・」

奏「でも、ホントの私は、凄く臆病で、人見知りで。そのくせ淋しがりやで。」

奏「とても『クールでかっこいい』なんて似合わないの。」

奏「だから、『電話で恋の独り芝居をしている』気持ちは、なんとなく、わかるわ。」

奏「誰かさんは、そんな私に気付いてくれてたみたいだけど。」

P「そうだと、いいがな。」

奏「何よ、違うの?」

P「真実なんて、誰にもわからないさ。まして、男に女の心なんて、な。」

奏「ふふふ・・何それ。カッコつけちゃって(笑)」

奏「ねぇ。Pさんは、あの時なんで、私をスカウトしたの?」

P「それが、自分でもよくわからないんだ。もう、『この娘!!』って感じだったから。」

奏「・・・そう・・・」

P「ま、何はともあれ、5周年、お疲れ様。」

奏「ありがとう。Pさんも、5年間、ありがとう。」

P「では、君の瞳に、乾杯」

奏「(笑)乾杯」

しかし、それからしばらくして、彼女は銀幕から姿を消した。

本当の理由は、誰も知らない。

3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/11/16(木) 09:39:57.80 ID:WCIVdMJJO
【Purple Rain】

速水奏が引退して3年後、私の元に1通のエアメールが届いた。

差出人は・・・「Kanade Hayami」。そう、奏だった。

住所は、アメリカのロサンゼルス。私は現在決まっている予定の後に、今ある有休をすべてねじ込んだ。


4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/11/16(木) 09:43:16.31 ID:WCIVdMJJO
ロサンゼルス空港は、この上ない快晴だった。

カラリと乾いた風が、私のじめついた感傷を吹き飛ばしてくれた。

空港の外に待機していたタクシーに乗ると、待ち合わせ場所のホテルの名を告げた。

運転手はビア樽のような黒人の男性だった。

車が走り出すと、私は奏からの手紙を開いた。そこには、引退してからのことが書かれていた。

運転手「あんた、日本人かい?」

P「残念。ジャッキー・チェンだよ。」

運転手「ワハハハハ!そんな若いジャッキーがいるかい(笑)」

P「ばれちゃあ仕方ない。日本人さ。」

運転手「そうかい。ロスへは、何をしに?」

P「ちょっと、心の換気をしにね。」

運転手「そりゃあいい!ここは乾いていて気持ちが良いからな。」

P「そのようだな。」

運転手「・・・3年前だったか。お前さんによく似た日本人のガールを乗せたよ。」

運転手「もの凄い綺麗な娘だったし、ミステリアスな雰囲気にドキリとしたからよく覚えてる。」

運転手「その子も、同じことを言ってたな。」

運転手「先日、映画の端役で出演していて、びっくりしたよ。」

運転手「確か名前は・・・カナデだったかな。」

奏・・・君はこの街で、新しいスタートを切ったんだな。

P「・・・彼女に、会いにきたのさ。」

運転手「ワオ!そいつは、凄い!」

ホテルに付き、タクシーの支払いをすると、運転手に握手を求められた。まるで腕相撲のような握手だった。

運転手「Good luck! 」


5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/11/16(木) 09:46:39.19 ID:WCIVdMJJO
ホテルのロビーに入ると、奏はすでに来ていた。

奏「女を待たせるなんて、失格よ。」

P「ついたばかりなんだ。勘弁してくれ。」

奏「ふふふ。そうね。」

P「・・・久しぶりだな、奏。」

奏「3年ぶり、かしら。」

奏「とにかく、チェック・インをして荷物を置きましょう。」

私は急いでチェック・インを済ませ、部屋に荷物を置いてきた。

奏「散歩でも、しましょうか。」

P「そうだな。」

それから、私たちは取り止めのない会話をした。日本にいる仲間たちのこと、思い出話・・・。

楽しい時間はすぐに過ぎ去り、日が沈みかけていた。

P「奏、今日はありがとう。会えて、本当に嬉しかったよ。」

奏「・・・ねぇ。まだ何も、話していないわ。もう少し、一緒にいましょう。」

そして私たちは一緒に夕食をすませ、ホテルの部屋へと向かった。

P「珈琲、ブラックで良かったな。」

奏「ありがとう。」

奏「・・・・私が突然、アイドルを辞めた理由、訊かないのね。」

P「話したくなければ、話さなくていい。話したければ、話せばいいさ。」

奏「・・・私ね、耐えられなくなっちゃったの。」

そして奏は、ぽつり、ぽつりと話し出した。

奏「求められる私はミステリアスでクールで、アダルティな『速水奏』。」

奏「もちろん、そういうイメージを作ったのは私だし、最初は楽しかったわ。」

奏「けれど、それを維持するには、どんどん、度合いを高めなければならない。」

奏「気が付けば、私は自分の部屋で、机の下で小さくなっていたわ。それこそ、ノノちゃんみたいに。」

奏「そしてある時、記憶が曖昧な時間があることに気付いたの。」

奏「・・・もう・・・限界だったのね・・・」

あぁ、君を、苦しめるつもりはなかったんだ・・・

君を悲しませるつもりはなかったんだ・・・

私は君の人生を、狂わせてしまったのだろうか・・・

P「・・・」

開こうとした私の口を、彼女の唇が塞いだ。

奏「何も、言わないで。」

奏「もう、いいでしょ。私達はもう、一人の男と女なんだから。」


6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/11/16(木) 09:48:14.63 ID:WCIVdMJJO
夜明け前、私は奏が運転する車に乗っていた。

奏「二人で見たい景色があるの。」

パロスバーデスの丘を海へと向かって走り、しばらく坂を下りると駐車スペースがあった。

奏はそこに車を停め、保温ポットに入れてきた珈琲を一口飲むと、私に渡してくれた。

奏「良かった。間に合ったわ。」

時計を見ると、6時半。日の出まで数分といったところか。周りには私達の他、誰もいなかった。

二人で珈琲を飲み終え、車を出るとちょうど、空が明るくなりはじめた。

7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/11/16(木) 09:49:20.82 ID:WCIVdMJJO
奏「わぁ!綺麗!」

あぁ・・・

奏「私、この色、好きよ。」

そうか・・・

奏「なんだか踊りたくなっちゃった。」

あの時の答え・・・

奏「~♪~~♪・・・ふふふ(笑)」

私が君をスカウトしたのは・・・



ただ、この紫の雨の中で笑う君が見たかったんだ・・・