2: ◆fJz13rtmKU 2011/05/19(木) 20:40:49.81 ID:w29X2h7N0

「……ごめんなさい、遅れたわ」

たた、と小走りで黒髪の少女が二人の少女に駆け寄る。
暁美ほむら。
見滝原に住む、一人の女子中学生。

「おっそーい! 学校遅刻しちゃうぞー?」

青髪の少女、美樹さやか。

「おはようございます、ほむらさん―――あら?」

緑髪の少女、志筑仁美。
その少女が、ほむらを見て、何かに気付く。

「……素敵なリボンですね、よく似合っていますわよ?」

「お、ホントだ。昨日まではカチューシャだったのに……確かにいい感じだねぇ」

「……ありがとう」

ひとまず、礼の言葉を返す。
二人が彼女の事を、何も覚えていないのが少しだけ辛かった。


引用元: ほむら「……魔法少女、狩り?」 



3: ◆fJz13rtmKU 2011/05/19(木) 20:52:20.95 ID:w29X2h7N0

「けど、どうしてイメチェンなんか……ま、まさか!」

シュバッ!とオーバーにリアクションをとる。
こういう場合は馬鹿馬鹿しいことしか言わないのを、ほむらは知っていた。

「クラスの男共を全員落とす気だな! 転校初日から大人気だったほむほむがさらに可愛くなったりしたら放っておく男なんていないよ!」

「……変な名前で呼ばないでくれる?」

はぁ、と額を押さえながら溜息をつく。
こうなったさやかは簡単に止まらない。

「ふふ……ならばあたしが嫁にもらってくれる! 毎日あたしに味噌汁を作るのだー!」

「古典的なネタね。それと、心に決めた人がいるからお断りするわ」

「なん…だと……クールビューティーほむらちゃんに想い人!? 誰誰!?」

ぐいぐい、と強引に聞きだそうと迫る。

「……そうね。誰とは言わないけど、とても強くて、優しい人よ」

そして、手が届かない場所へ行ってしまった人、と心の中で呟いた。

5: ◆fJz13rtmKU 2011/05/19(木) 21:01:47.82 ID:w29X2h7N0

さやかと仁美の顔が微笑ましいものを見る目になった。

「……なにかしら」

「いやさあ、なんてーの? 恋をしてる顔だなぁって」

かぁ、と顔が熱くなる。
恋、確かにそれに近いものかもしれない。
だが、あくまで友達だ。
最高で、唯一で、最愛の友達だ。

それでも、そこにある感情は恋に近かった。

「あらあら……真っ赤ですわよ、ほむらさん?」

「……そろそろ行かないと遅刻するんじゃないかしら、急ぎましょう」

答えを待たず、早足で学校へと向かう。

「おーおー話題を続けたくないのがバレバレ……いやぁ、かわいいねぇ」

「ふふ、そうですわね」

これが、少女たちの昼の顔。
何の変哲もない、普通の学校生活。

6: ◆fJz13rtmKU 2011/05/19(木) 21:07:52.77 ID:w29X2h7N0

だが、それは一面に過ぎない。

バシュン、と光の矢が異形、否、魔獣を貫く。
それが最後の一体。

その場に立つは三人の少女。

暁美ほむら、美樹さやか、そして。

「……二人とも、お疲れ様」

黄色の魔法少女、巴マミ。
手にしていたマスケット銃を消し、紅茶をの入ったカップを生み出す。

それは、彼女なりのこだわりだ。
非効率と言われれば、それまで。

だが、彼女にとって戦闘後の一服は欠かせないものなのだ。

7: ◆fJz13rtmKU 2011/05/19(木) 21:20:50.55 ID:w29X2h7N0

「いやぁ……助かったよマミさん、ほむら。二人のサポートが無かったら危なかったよ」

カチャ、とマミが紅茶を飲み干したカップをソーサーに置き、そのまま空気に溶かすように消す。

「いいのよ、美樹さんはリスクの高い近接攻撃系の武器なんだから。私たちがサポートするのは当然でしょう?」

「マミさん……」

「……まだ戦い慣れていないのも関係してるでしょうけど」

ぐさ、とほむらのストレートな言葉が突き刺さった。

「ぐぐ……確かにさやかちゃんは経験の浅いヒヨッ子ですよーだ」

「……ええ、だから今は無理をせずに、生き残ることを考えて戦いなさい」

ふ、とさりげなくほむらは顔をそらす。

「……えっ、これってもしかしてツンデレ?」

いやー困っちゃうなーとニヤニヤするさやか。
真性のツンデレならば、それを焦って否定するだろう。
だが、別に隠す必要もないほむらは溜息をつくだけ。

彼女は素直でないのではなく、単に口下手なのだ。

8: ◆fJz13rtmKU 2011/05/19(木) 21:28:41.78 ID:w29X2h7N0

「……そういえば、二人とも知ってる?」

マミが、突然切り出す。

「知ってるって……何がですか?」

「ええ、キュゥべぇから聞いたのだけれど……」

キュゥべぇ、という名にほむらが反応する。
ソレは少し前までは完全な憎悪の対象だった。
だが、今は害をなす存在ではない。

それでも、体に染みついた嫌悪感によって警戒してしまう。

「なんでも、魔法少女が次々と殺されているらしいの」

「殺され……って、相当強い魔獣でもいるんですか?」

「それが……違うのよね」

ふ、とマミが悲しそうに視線を落とす。

「殺したのは―――魔法少女、らしいわ」

10: ◆fJz13rtmKU 2011/05/19(木) 21:35:51.39 ID:w29X2h7N0

な、と絶句した。

「魔法少女が、って……そいつ、何の目的があって……!」

「わからないわ、手柄の横取りとか、そういうのにしてはおかしいらしいし……暁美さんはどう思う?」

返事は無かった。

彼女は思い出していた。
同じ事件が、過ぎ去った時間軸の中で起きていたことを。

だが、だからこそわからなかった。
この一人の少女によって変えられた世界で、それが起こっている理由が。
何より、それは侮辱だ。

自らと引き換えに、魔法少女の救いを望んだ少女への。

「―――暁美さん!」

思考の海から、引き上げられる。
目の前に、マミの顔があった。

11: ◆fJz13rtmKU 2011/05/19(木) 21:46:29.75 ID:w29X2h7N0

「どうしたの? ずっと呼んでいても、返事が無かったんだけど……」

心配そうに、顔を覗き込んでくる。

「……いえ、少し考え事をしていただけだから」

ふ、と目をつぶる。
もしかしたら、別の人物が起こした事件かもしれない。
それに、相手にどんな事情があろうと、やることに変わりは無いのだ。

きっ、と目を開き、力強く世界を映す。

「なんにせよ、注意しておくことに越したことは無いわ。特に……」

ちら、とさやかを見る。

「まだまだ新人のあなたは、ね」

「……あー、ごもっともです」

痛いところを突かれたのか、さやかのテンションが少し下がる。
恐らく、許せないからこっちから挑んでやろう、とでも思っていたのだろう。
だが、それは自殺行為だ。

それを理解したさやかに、ほむらは安心する。
そして、かつての頑固なさやかを思い出し、くすりと笑った。

12: ◆fJz13rtmKU 2011/05/19(木) 21:54:41.07 ID:w29X2h7N0

カシャン、と分離していた槍が元の形へと戻る。

魔獣を倒し、佇む赤い少女。
佐倉杏子。

赤は、地面にも散っていた。
鮮血。
一組の男女のものだった。

血の主も最早肉片でしかなく、杏子は惨状に顔をしかめた。

「―――おい、ガキ」

ぴく、と肉片の傍に座り込んだ少女が反応する。

「泣いても叫んでも生き返ったりはしないよ。死んじまったらそこまでなんだ」

くる、と杏子に少女が振り向く。

表情に、心が感じられなかった。
泣きもせず、笑いもせず、

ただ、目の前の現実を無感動に見つめていた。

13: ◆fJz13rtmKU 2011/05/19(木) 22:01:52.70 ID:w29X2h7N0

その顔が、癪に障った。
いつもなら、そのまま放っておくところ。
だが、その表情が気に食わなかった。

「そんな顔してたって、誰も助けちゃくれないよ」

相変わらず、表情は無感動なもののまま。

がさり、と杏子はポケットから菓子を取り出し、少女の眼前に突きつける。

「……食うかい?」

こく、と初めて意思表示をした。

杏子は、満足げに頷く。

それが、彼女の千歳ゆまとの出会い。

ある事件へ関わる、プロローグであった。

15: ◆fJz13rtmKU 2011/05/20(金) 22:00:16.50 ID:YeabbKM60

「―――まずは食料の確保、これが無いとどうにもならない、OK?」

「おっけー」

ひょい、と片手を上げてゆまが返事をする。
子供というより、小動物を餌付けている気分だ。

「金が無くても手に入れる方法はある。盗むのも手っ取り早くていいが、まあ試食コーナーとかがいい例だな」

けど、と杏子がしかめっ面をする。

「あんまり食い過ぎると周りに白い目で見られる。初心者にはお勧めできないね」

で、と前を指差した。

「アレもその例、まあ特殊なんだけどね」

「……コンビニ?」

そう、コンビニ。
24時間営業、みんな大好きマミリーマート。

ウィン、と自動ドアを通過し、店内に入る。


16: ◆fJz13rtmKU 2011/05/20(金) 22:09:26.37 ID:YeabbKM60

「はぁい、いらっしゃいま……あら」

レジに立つ女性が、入ってきた杏子を見て微笑む。

「今日は可愛いお友達を連れているのね。どこから攫ってきたの?」

「誘拐じゃねーっつーの! 身寄りが無いらしいから連れてるだけだ!」

「そう、残念ね……」

「いや、何がだよ!?」

親しそうな会話に、ゆまが取り残された気分になる。
気付いたのか、女性が声をかけた。

「……あなた、名前は?」

「……ゆま」

ちら、と杏子の方を見てから言った。
まるで、行動の善悪の判断を親鳥に委ねる雛のように。

「そう……じゃあ杏子ちゃん、2個?」

「……くれるだけくれよ。5個だろうが6個だろうが入るってーの」

17: ◆fJz13rtmKU 2011/05/20(金) 22:18:34.25 ID:YeabbKM60

そ、と言って女性は肉まんを専用の容器から取り出す。

「え、え? お金、は……」

「……あー、アレはいいんだよ」

首をかしげる。
その動作を微笑ましく思いながら、女性が答える。

「コンビニの肉まんってね、3時間くらいたつと捨てちゃうの。できたてじゃないといけないんだって」

「……もったいない」

「そ、食い物を粗末に扱うのは気に入らない。だから捨てることになったものをこうしてもらってるのさ」

にや、と誇らしげに笑う。
これは、立派な社会貢献だと主張するように。

確かに、合理的ではある。

ただ、そういう余り物ばかり食べて身体に問題が無いか心配だが。

18: ◆fJz13rtmKU 2011/05/20(金) 22:28:58.09 ID:YeabbKM60

「はい、4個ね……本当は、私が世話してあげたいんだけど」

はぁ、と溜息をついた。

「そうもいかないのよね……私の財力じゃ、自分だけで手一杯だし」

「気にしなくていいっつーの。こうして食べ物くれるだけで十分なんだし」

「うーん……それでもやっぱりほっとけないのよね……」

うだうだ、とこのままだと延々話が続きそうだった。
余計なことを言う前に退散しよう、そう思って出口に足を向ける。

「ど、どうして……」

その前に、ゆまが口を挟んだ。
女性はにこにこと笑ってその先を促す。

「どうして、キョーコに食べ物くれるの?」

ち、と杏子は舌打ちしたくなった。
余計なことをゆまから聞いてしまったのでは仕方が無い。

19: ◆fJz13rtmKU 2011/05/20(金) 22:42:39.82 ID:YeabbKM60

「……そうねぇ、杏子ちゃんが命の恩人だからかな?」

「恩、人?」

うん、と女性は感慨深げに頷いた。

「仕事帰りに気を失っちゃったのかね……気付けば近所のベンチに寝かされてたんだけど」

ちら、と杏子を一瞬見る。

「おぼろげな記憶だけどね、赤い髪の、妙な服装で槍を持った女の子を見たのよ」

「それって……」

「……だから、ちげーって」

むすっとして、先ほどの肉まんを頬張りながら杏子が否定する。

「そう?あなたに助けられたって女の子の話を、最近近所で聞くのだけれど……」

はぁ、と杏子は溜息をついた。
こういうのは秘密にするのがお約束ではなかろうか。

20: ◆fJz13rtmKU 2011/05/20(金) 22:49:54.13 ID:YeabbKM60

「……行くぞゆま、こんなオバサンの話聞いてるとお前も老ける」

「あら失礼、まだ28よ?」

「あたしから見ればオバサンだってーの……」

ウィイン、と自動ドアが開く。

「それじゃ、またね」

「……おう」

そして、閉じた。

「……キョーコ、いい人?」

「そんなワケないだろ……あたしは自分の好きに生きてるだけさ」

「じゃあ、キョーコはみんなが好きなんだね」

「……もういい、言ってろよ」

再び溜息をつく。
こういうお人よしは苦労するのに、と思いながら。


21: ◆fJz13rtmKU 2011/05/20(金) 22:59:38.62 ID:YeabbKM60

数分歩いて、杏子が口を開く。

「さて、もう夜も遅いし、次は宿の話……といきたいけど」

む、と眉間にしわを寄せる。

「どうやら仕事が入ったみたいだね。先にそっちを済ませようか」

「……仕事?」

ゆまが小首をかしげた。
相手が杏子でなければ、その愛らしさから抱きしめられているだろうか。

「そ、昼間のアイツらと同じ。魔獣を狩るお仕事さ」

昼間の、と聞いてゆまの顔が強張った。
目の前で両親を殺されたのだから、当然だろうが。

しまった、と思うが、構わず流した。

「さて、それじゃあ行くか―――ん?」

22: ◆fJz13rtmKU 2011/05/20(金) 23:07:57.01 ID:YeabbKM60

ヴン、と異形が地面から湧くように現れる。

「そっちから来てくれるとはね……あたしに挑みに来たのか、それとも……」

ゆまの方を振り向く。
恐怖している様子は見えなかった。
もっとも、見えなかっただけかもしれないが。

「コイツがネガティブな思考してたからか……ま、どっちでもいいか」

す、と左手を正面に突き出す。
赤い光が少女を包み、装束を作り出す。

そして、その手に現れるは槍。

赤い髪の、魔法少女。

「さぁて、と……それじゃ、ちゃっちゃと終わらせちまうよ!」

地を蹴り、少女が飛ぶ。。
それが、開戦の狼煙となった。

29: ◆fJz13rtmKU 2011/05/21(土) 20:41:55.33 ID:04vikfn90

魔獣は5体。
少女は一人、加えて防衛目標のハンデ。

少女の得物は槍。
ならば、長期戦に持ち込む意味は無い。

正面からの突撃。
当然、迎撃を受ける。

魔獣の頭部が発光する。
その光が、放たれる前に。

「……ふっ!」

横っ跳び。
光線は、ただ地面を抉るだけ。

その方向へのろのろと魔獣たちは振り向く。

数では勝ろうと、速度が、思考が人に及ばない。

30: ◆fJz13rtmKU 2011/05/21(土) 20:51:40.71 ID:04vikfn90

じゃら、と鎖の音がした。

佐倉杏子の槍の関節。
それを繋ぐ鎖。

一体の魔獣に素早く絡みつく。

そのまま、ぐん、と引っ張られる。

鎖が解かれ、魔獣が空中に舞った。

そして、少女がそれに向かって跳ぶ。

「………ッ!」

一閃。

無防備な姿をさらした魔獣は両断され、その身体は空気に溶けていく。

全て消える前に、残骸を蹴って勢いよく跳んだ。

31: ◆fJz13rtmKU 2011/05/21(土) 21:01:46.08 ID:04vikfn90

向かった地面に敵はいない。
だが、想定内だ。

さすがにそこまで上手くいくと拍子抜けでしかない。

ズガァ!と地面を砕き、突き刺さる槍。

着地し、そのまま振り向きざまにそれを振るう。

コンクリートの破片と土が、魔獣の顔面に直撃する。
無論、ダメージは見られない。

それでいい。
目くらましとなり、魔獣の視界を一瞬塞ぐ。

杏子が接近するには十分すぎるほどの隙になる。

とん、と至近距離に降り立つ。

魔獣がようやく反応するも、遅すぎる。

槍を水平に薙ぐ。

2体をまとめて両断した。

32: ◆fJz13rtmKU 2011/05/21(土) 21:13:13.07 ID:04vikfn90

残った2体が、光線を杏子へと乱射する。

まるで、負けを覚悟した新兵が狂ったように銃を乱射するかのごとく。
お約束だが、その狙いは曖昧だ。

だが、放射状に拡散するようで地味に厄介ではある。

くるくる、と槍を回してそれを防ぎながら、高速で近付く。

十分に近付いた所で、空中へと跳ぶ。
その魔獣の眼前へと。

傍から見れば自殺行為。
だが、魔獣が反応するよりも早く攻撃すれば。

一閃し、そのまま通過。

杏子が地上に降り立つと同時、頭部を潰された魔獣が崩れ落ち、掻き消えた。


33: ◆fJz13rtmKU 2011/05/21(土) 21:24:12.30 ID:04vikfn90

その着地の隙。

いくら愚鈍な魔獣でも、これを見逃すほどではなかった。

収束し、威力の増した光線が杏子へと向かう。

だが、予測はできている。
焦る様子もせず、槍を魔獣の頭部へと投げる。

収束された光線も、柄の部分なら消し飛ばせたろう。
だが、光線は槍の正面からぶつかってしまった。

光は弾かれ、受け流され、杏子に傷を与えられない。

その上、槍は勢いの衰えぬまま魔獣への頭部へと突き進む。

決した勝敗に、杏子はくるり、と振り向き、左手に持っていた肉まんの入った袋を開ける。

少女がかぶりつくと同時、

槍は、獲物の頭部に突き刺さった。



34: ◆fJz13rtmKU 2011/05/21(土) 21:35:48.51 ID:04vikfn90

変身を解く。
魔獣が消えるとともに、それが持つ特有の気味の悪い感覚も消える。

「……ふん。今回も呆気なかったね」

弱いことに越したことは無いのだが、いかんせん歯ごたえが無い。
もう少し強くないと少しつまらないな、と心の中で呟いた。

ゆまを見る。
目は輝いていた。
初めて、物事に興味を持った顔を見た。

ああ、しまったと杏子は後悔した。

現実をまともに見れない人間が非現実を見れば、必ずそれに憧れる。
魔法少女の戦いを見せれば憧れを持つのは、十分に予想できたことだ。

それがどれだけ苦痛を伴うことでも。

汚く、下賤で、みじめでも。

今の自分よりよっぽどいいと、そう思ってしまうのだ。

35: ◆fJz13rtmKU 2011/05/21(土) 21:47:41.93 ID:04vikfn90

「……キョーコ、キョーコはなんであれと戦ってるの?」

ああ、やっぱり、と溜息をついた。

「……他にやることがないから、だよ」

「あんなに強いのはどうして? 他にもキョーコみたいに戦ってる人はいるの?」

「……ごちゃごちゃうっせぇ、そんなもん聞く必要ねーだろ」

どうにかして、話題をそらさなくては。
杏子の脳内は、その思考で埋め尽くされていた。

だが、ゆまに退く様子は無かった。
ぎゅう、と服を強く握り、俯いて叫ぶ。

「わ、たし……は、強くなりたい!!」

力への渇望。
無力ゆえの劣等感。

「わたしもなれる!? キョーコみたいに、強くなれる!?」

「あのな、お前じゃあ―――」

「ああ、なれるよ」

無理だ、という言葉を、無感情な声が遮った。

36: ◆fJz13rtmKU 2011/05/21(土) 21:57:42.29 ID:04vikfn90

「どうやら、君には素質があるようだ。望むなら、すぐにでも魔法少女にしてあげるよ」

ゆまが俯き、ふるふると身体を震わせる。
恐怖や、悲しみではない。

ぱぁ、と満面の笑みを浮かべた。

「ぬいぐるみが、しゃべったぁ!?」

「いいや、違うよ。僕はキュゥべぇ、よろしくね」

ぎゅう、と抱きしめられながら、無表情を崩さない。

どうしてここに、と杏子の脳内に疑問が湧く。

だが、キュゥべぇはゆまに素質があると言った。

契約を望むキュゥべぇなら、現れても何ら不思議ではないとすぐに合点がいった。

37: ◆fJz13rtmKU 2011/05/21(土) 22:06:34.27 ID:04vikfn90

「さて、千歳ゆま。さっきも言ったけど、望むなら、杏子と同じ魔法少女にしてあげよう」

「ほんと!?」

「ああ、願い事さえあればね。一つ願いを叶えて僕と契約すれば、君も立派な魔法少女さ」

「えっと、えっと、じゃあ……」

「―――オイ」

がし、と杏子がキュゥべぇの耳から生えた妙な部分をわしづかみにする。

「ガキ相手にいきなり勧誘始めてんじゃねーよ」

「……おや、つれないね。とりあえず離してくれるかい?」

ふん、と乱暴に振り払う。

「ひどいなぁ……まあ、それはいいとして、今日は君に伝えることがあるんだよ」

「伝えること?」


38: ◆fJz13rtmKU 2011/05/21(土) 22:17:50.43 ID:04vikfn90

「ああ……近頃、魔獣が元気すぎると思わないかい?」

む、と思い返す。
魔獣が人を襲い、そこに助けが駆けつけないなどということは、余程の無法地帯でないとありえない。
それに、先ほどの魔獣もだ。
あの数がまとめて出てくるのは、珍しい方だった。

「……そうだね、理由はわかってんの?」

「ああ、まあね。どうやら魔法少女が次々にやられているらしい」

「やられて、って……強い魔獣でもいるのかい?」

「いや……違うよ。やったのは魔獣じゃない」

ならば何か、と思索する。

「同じ、魔法少女さ」

39: ◆fJz13rtmKU 2011/05/21(土) 22:23:56.69 ID:04vikfn90

「……何?」

「そういうことだ。今日は気をつけた方がいいと言いに来たんだよ」

「珍しいね、心配でもしてんのかい?」

「……まあね、僕としても、君たちを失うと損失を被ることになる」

「……ああ、そーかい」

ふん、と鼻を鳴らす。
結局、コレはそういうヤツだ。
自分の利益さえあれば、他がどうなろうと気にも留めない。

なら、自分はどうだ、と思い至って、歯ぎしりをした。

「……で、話は終わりかい? それならさっさと消えてくれるといいんだけど」


40: ◆fJz13rtmKU 2011/05/21(土) 22:30:26.45 ID:04vikfn90

「やれやれ、嫌われたものだね……そうだね、話があるとすれば」

くい、と頭を由真の方へと向ける。

「ゆまを魔法少女にすれば、君の生存率も―――」

「オイ」

「……はいはい、わかったよ。それじゃあ、気をつけてね」

ふよふよ、と空中に浮かびながら去っていく。

「……ったく、相変わらず胡散臭いヤツだ。オイ、間違っても魔法少女になるんじゃねーぞ」

返事が無い。
キュゥべぇの去った方に向いたまま、止まっていた。

「……ゆま?」

「え、あ……な、なに?」

遅れて、返事が返ってきた。
訝しげに感じながらも、そこで問い詰めることはしないでおいた。

43: ◆fJz13rtmKU 2011/05/22(日) 16:05:57.22 ID:QB2tKNwN0

ぱち、と暗闇の中で目が覚めた。
もっとも、眠っていたわけではない。
目を瞑って狸寝入りをしていただけだ。

隣で寝ている杏子を起こさぬように、そろそろとベッドから抜け出す。

そのまま、足音を立てぬよう出口に向かう。

気付かれれば、怒るのはわかっていた。

けれど、これは自分でも譲れないことだった。

後ろめたい気持ちもあったが、自分の望んだ道である。

音を立てぬように廊下に出て、ゆっくりと扉を閉じた。


44: ◆fJz13rtmKU 2011/05/22(日) 16:12:21.10 ID:QB2tKNwN0

「―――来たね、ゆま」

声に振り向けば、白い小動物がいた。

「キュゥべぇ……」

「わざわざ僕を呼び付けて、杏子に黙って会ってるんだ。願い事は決まっているんだよね?」

「……うん」

すぅ、と気持ちを落ち着かせるよう深呼吸した。

「わたしは、強くなりたい」

意思の光をその目に灯し、力強く宣言する。

「キョーコの、みんなの役に立つための力が欲しい」



45: ◆fJz13rtmKU 2011/05/22(日) 16:19:45.60 ID:QB2tKNwN0

「……なるほど、一応確認しておくけれど、それは君の魂を差し出すに足るものかい?」

「……魂?」

そう、とキュゥべぇの尻尾がふわり、と揺れた。

「魔法少女の契約を結べば、君の魂は結晶化され、二度と肉体に戻すことはできない。まあ、その方が戦う上で便利なんだよ」

「……そう、なの?」

「そう、心臓や頭が吹き飛ばされてもその結晶、ソウルジェムさえあれば肉体を再生できる。死ににくくはなるだろう?」

魂、と聞いて少し戸惑った。
説明されても、実際にどういうものかはわからなかったから。

「……嫌ならやめてもいいんだよ? 後でトラブルが起こったら、僕も困るしね」


46: ◆fJz13rtmKU 2011/05/22(日) 16:24:40.69 ID:QB2tKNwN0

「……ううん、契約する。魔法少女に、なるよ」

「……そうか」

途端、胸に熱いものが込み上げてきた。

「っく、ぁ……?」

光の塊。
胸から体外へと出ていき、空中で静止する。

「―――さあ、受け取るといい」

言葉に応え、両手で優しく包み込む。

「それが、君の『力』だよ」

47: ◆fJz13rtmKU 2011/05/22(日) 16:31:10.75 ID:QB2tKNwN0

精神的に疲れが溜まったのか、ゆまがその場に座り込む。

「……さて、杏子。そこにいるんだろう?」

びくん、とゆまが驚きで震えた。
振り返れば、言葉の通りに杏子がいた。

「き、キョーコ、あのね……」

「……ああ、全部聞いてた。わかってるよ」

怒っている様子は無かった。
だが、少し悲しそうだった。

「ゆまは事実を知った上で契約した。その点で、責める理由は無いね?」

キュゥべぇの指摘に対し、悔しそうに睨みつける。
それは事実だ。

だが、問題はそこではない。

48: ◆fJz13rtmKU 2011/05/22(日) 16:37:41.13 ID:QB2tKNwN0

「……ゆま、どうしてあんな願いで契約した」

自分のためでなく、他人のための願い。
杏子だからこそわかる、その虚しさ。

「だって、わたしは役に立ちたくて……」

「……それじゃ、駄目なんだって」

他人のために何かをしても、本当にそれが他人の利益になるとは限らない。
結局、自己満足に過ぎないというのに。

「だって、そうじゃないと、ゆまのこといらないって……」

結局は、それだ。
むしろ、他人から必要とされるよう願えば良かったのに。


49: ◆fJz13rtmKU 2011/05/22(日) 16:42:56.27 ID:QB2tKNwN0

なら、むしろ放置しておけなくなった。

せめて自分が傍にいてやろう。
だが、それはあくまでゆまの為ではない。

自分の孤独を紛らわすため、そう納得させた。

「……そうだよな、独りぼっちはさみしいもんな」

ぽん、とゆまの頭に手を置いた。

「……キョーコ?」

「一緒にいてやるよ。お前が嫌だって言い出すまでな」

ぱぁ、と満面の笑みと共に、抱きついてくる。

苦労しそうだな、と溜息をつきながらも、その表情は笑っていた。


50: ◆fJz13rtmKU 2011/05/22(日) 16:51:11.34 ID:QB2tKNwN0

そして、場所は変わり、見滝原のどこか。
魔獣の前で、膝をつく少女。

奇抜な服装からして、魔法少女だろう。

何であろうが、巴マミにとっては守るべき対象。

すかさず、マスケット銃を生み出し、弾丸を放つ。

狙いは定めない。

下手に刺激して魔法少女を殺させないようにし、こちらに意識を向けさせる。

タタン、と壁に穴が開くとともに、魔獣がこちらに向く。

思い通りの結果に満足しながら、さらに2発、弾を放つ。

今度は魔獣の足元に。

危険度の高い方を先に潰そうと考えたのか、魔獣がマミへとのろのろ近付いてくる。

51: ◆fJz13rtmKU 2011/05/22(日) 16:58:30.55 ID:QB2tKNwN0

「だけど残念……もう、詰んでるわよ」

シュバァ!と弾丸の空けた穴からリボンが飛び出した。
回避など不可能な速度で、魔獣が一気に拘束されていく。

「ごめんなさいね、強引な倒し方で……」

手元のリボンをくるくる、と回転させる。
それが形づくるのは、巨大な砲。

人が扱うには大きすぎる、一撃必殺の切り札。

「……ティロ・フィナーレ」

ドウン!と弾が打ち出され、魔獣を吹き飛ばす。

一撃で怪物を倒すその姿は、子供が夢見るヒーローのようだった。

52: ◆fJz13rtmKU 2011/05/22(日) 17:04:23.97 ID:QB2tKNwN0

こつこつ、と少女に近付き、声をかける。

「あなた、大丈夫? 目立った傷は無いけれど……」

「……ああ、ありがとう恩人! キミのおかげで助かったよ!」

にこ、と快活な笑顔が返ってきた。
この分だと、心配はいらなさそうだ。

「……問題無さそうね、一人で大丈夫?」

「うん、だけど―――」


































「迂闊だよ、恩人」

「―――え?」

少女の口角が、吊り上がった。

57: ◆fJz13rtmKU 2011/05/22(日) 20:49:54.41 ID:QB2tKNwN0

ヴォン、と暗闇の中に淡い光が浮かんだ。

右手に三つ、左手に三つ。
合わせて六つ。

黒の装束により、闇夜に溶け込む少女。
その両手に携えた得物と、狂気を秘めた瞳だけが輝いている。

肉食獣。
そんなイメージがマミの頭に湧いた。

そんな思考している内に、距離が詰められる。

「…………ッ!」

マスケット銃を召喚。

目的は銃撃ではない。
盾代わりにして、攻撃を防ぐ。

ギィン、と共に、銃を持った腕へビリビリと衝撃が伝わる。

58: ◆fJz13rtmKU 2011/05/22(日) 20:59:10.50 ID:QB2tKNwN0

「あっは、上手く防いだぁ! でも、次もあるよッ!つぎ次々ィ!!」

止められたのは片方の爪のみ。

まだもう片方が残っている。
マスケット銃を両手で構え、追撃を防ぐ。

だが、速い。
おそらく、同じ近接戦闘専門のさやかとは比べようもないほど。

その上、攻撃は重かった。
遠距離戦闘主体のマミが、接近戦をさせられているのだから当然ではある。

このままでは、押し切られる。
ならば、どうにか活路を開く。

ガギィ、と銃と爪が接触した瞬間、衝撃を横に受け流す。

「……お?」

そのまま回転し、遠心力を加えた打撃を打ち込む。

銃を握るは両手。
受ける爪は片手。

ガァン!と甲高い音と共に黒装束の少女が吹っ飛んだ。

59: ◆fJz13rtmKU 2011/05/22(日) 21:10:06.74 ID:QB2tKNwN0

「―――ひゅうっ! スゴイね切り抜けた! 自分の間合いに持ち込んだ!!」

くる、と空中で回転し、軽く着地する。
焦りはなく、むしろ楽しんでいるという様子で。

「……随分対人戦に慣れてるのね。あなたが魔法少女狩りの犯人かしら?」

「うんっ、そうだよ」

二ィ、と笑みを浮かべて返事をする。

こういうタイプは交渉しても無駄だろう。
ならば、実力行使。

マミが銃を構える。
黒の少女が地を蹴り駆け出す。

動きは速い。
いくらマミの腕前が良かろうと、当てにいくのは無謀である。

ならば、回避をできなくすれば。

60: ◆fJz13rtmKU 2011/05/22(日) 21:17:51.64 ID:QB2tKNwN0

タタン、と地面に銃撃。
どこから来るかわからないので、できるだけ広範囲に。

そして、

シュル、とリボンが弾痕から出現する。

しかし。

「っは、無駄ァ!!」

ヒュオ、と爪が空を切った。
瞬間、衝撃波により、リボンが辺りの地面ごと切り裂かれる。

「―――な、」

「拘束、コーソク、いい発想! だけど一回見てるんだよね!!」

そう、先ほどの魔獣と同じ手。

あの瞬間から、この少女は標的のスペックを見定めていた。

61: ◆fJz13rtmKU 2011/05/22(日) 21:27:41.98 ID:QB2tKNwN0

残された手は銃撃。
だが、当然のごとく当たらない。

右に左に空中に、縦横無尽な動きに狙いは定まらない。

「あはははははっ!! もう終わり? もう打ち止め? 手も足も出ない?」

瞳孔が開き、吊り上がった口角の少女の顔が月に照らされる。

「それじゃあ―――終わらせちゃうよ?」

シュン、と右側を何かが通り過ぎたことを感じた。

直後、右腕に焼けるような熱さを感じる。
それが痛みだと理解するのに、数秒を要した。

ぶしゃあ、と血が噴き出す。

急いで痛覚を遮断する。
傷を塞ぐ隙は、与えてくれそうもなかった。

62: ◆fJz13rtmKU 2011/05/22(日) 21:35:03.91 ID:QB2tKNwN0

「痛い? イタイ? 痛くない? どっちにしろ、もう引き金は引けないかなぁ!」

だらり、と右腕を垂らしたまま、残った左手で爪を防ぐ。
後退しながら、必死で受け流しながら。

だが、限界は近い。

迷っている暇は無い。

「…………!」

巨大な砲を精製。
その銃口は、少女へは向けない。

「おお? ナニナニ必殺技?」

地面に向けて、放つ。

生まれる衝撃波で少女を吹き飛ばし、自分は反動も加わって勢いよく飛ばされる。

63: ◆fJz13rtmKU 2011/05/22(日) 21:43:17.95 ID:QB2tKNwN0

「……っく!」

ずざざ、と地面で身体を擦りながら、それでも立ち上がる。

右腕を押さえながら、無様にも背を向けて走る。

「まずは、遮蔽物を……そこで傷を癒して……」

増援も必要だろうか。
回復しても、自分では相性が悪い。

仲間を巻き込むのは忍びないが、仕方ないと納得し、駆けているその眼前に、

「つーかまーえた」

黒の少女の、逆さまの顔が視界いっぱいに広がった。

とん、と肩に手を置かれる。

そこを支点に少女が回転。

その勢いのまま、腹部に踵が叩き込まれた。

64: ◆fJz13rtmKU 2011/05/22(日) 21:50:36.10 ID:QB2tKNwN0

地面にぶつかり、傷を増やしながら壁にぶつかり、ようやく止まる。

「ごっ……ぷ、」

血を吐き出す。
内臓にダメージ、さらに骨の数本は折れただろうか。

砂埃で、辺りの景色が見えない。
そもそも動けそうもないのだが。

そして、

黒の少女が砂埃の先から姿を現して、

二ィ、と気味の悪い笑みを浮かべて、

マミの眼前には、爪が向かってきていた。

避けることも、防ぐこともできず、

その爪は、勢いよく振り下ろされて、

66: ◆fJz13rtmKU 2011/05/22(日) 21:58:40.76 ID:QB2tKNwN0

「―――そこまでよ」

直前で、弾かれた。

「……んん?」

さらに追撃。

爪が光の矢によって粉砕される。

「……暁美、さん?」

「あっれぇ、野次馬? 乱入者? イイ所で邪魔するねぇ」

言葉を無視し、弓を構えるほむら。

「次は、その身体を消し飛ばすわよ」

「あっは、不利かな危険かな! ハズレだし今日は帰ろうか!」

たん、と地面を蹴り、そのまま高速で去っていく。
服装も相まって、少女の姿はすぐに闇夜に溶け込んだ。

67: ◆fJz13rtmKU 2011/05/22(日) 22:07:46.11 ID:QB2tKNwN0

「……その怪我は、魔法では限界がありそうね」

こつこつ、とマミに歩み寄り、目の前で屈む。

「立てるかしら?」

す、と手を差し出す。
だが、その手を取れない。

右腕は切り裂かれてズタズタ。
左腕は骨が折れていた。

「……仕方ないわね」

マミのその体を、横抱きにして持ち上げる。

「……ごめんなさい、暁美さん」

「気にしなくていいわ。それより……」

過ぎ去った時間軸での魔法少女狩り。
その犯人も、黒い魔法少女だった。
そして、その特徴と、あの少女は一致する。

ぎり、と歯ぎしりをしながら、病院の方へと跳躍した。



72: ◆fJz13rtmKU 2011/05/23(月) 21:11:04.00 ID:4nmE+42o0

「―――来たよ、織莉子」

しゅた、と黒髪の少女が降り立つ。
夜の庭園。
ライトアップされた薔薇が、妖しげな雰囲気をかもし出していた。

「おかえりなさい、キリカ……時間どおりね。収穫は?」

「それも『視えてる』んでしょ? 聞いても意味無いんじゃないかなぁ」

「ふふ……そうね。だけど、結果がわかっていても期待はしたくなるじゃない?」

そういうもんかなぁ、と納得しつつ、織莉子が招くテーブルに座る。

「……砂糖とジャムは?」

「三個と三杯」

「まるでシロップ飲んでるみたいね」

「……いいじゃん、好きなんだもん」


73: ◆fJz13rtmKU 2011/05/23(月) 21:17:07.23 ID:4nmE+42o0

くん、とキリカの鼻が香りに気付く。
薔薇の花や紅茶の香りとは少し違う。

おそらく、これはシャンプーの香り。
よく見れば、髪や肌も少し湿っているのがわかった。

「……織莉子、もしかしてお風呂上がり?」

「ええ、そうね……どうかした?」

「―――襲っちゃうよ?」

「せめて血の匂いを落としてから、ね」

そんなに気になるだろうか、と自分の身体を嗅ぐ。
だが、わからない。

ずっとあんなことをしているのだから、慣れてしまったのだろうか。

74: ◆fJz13rtmKU 2011/05/23(月) 21:27:27.74 ID:4nmE+42o0

「私の方は進展なしとして……キミの方は何か『視えた』の?」

す、と差し出された紅茶を受け取りながら問う。

「いいえ……そもそも視えているなら、とっくに貴女に伝えているわ」

「だよねぇ……って熱ッ!?」

「……猫舌で甘党なのに、無理して紅茶を飲まなくてもいいのに」

「ううー、だって織莉子と一緒に居られるし」

「いいのよ、別に。無理をされると私も辛いわ」

「でもさぁ、仲間外れみたいで嫌なんだよ」

ふふ、と小さく織莉子が笑った。

「……素直な子。そういうの、好きよ?」

「私は織莉子を愛してるよ?」

75: ◆fJz13rtmKU 2011/05/23(月) 21:32:26.93 ID:4nmE+42o0

あらあら、と困ったように笑った。

「……私達なら、お父様の無念も果たせるでしょうね」

胸に手を当て、天を仰ぐ。

キリカは知っていた。

その時の織莉子の目が、現実を見ていないのを。

その心が、どこかへ行ってしまっていることを。

誰よりも、わかっていた。

俯き、思い返す。

76: ◆fJz13rtmKU 2011/05/23(月) 21:40:15.29 ID:4nmE+42o0

あの時、自分が不用意な発言をしなければ、こうならなかったのだろうか。

確かに、それは事実ではある。
だが、何も言わなければ織莉子はとうに壊れているだろう。

もし、あの時父親の父親の代わりになってあげられたら。

少なくとも、こういう未来にはならなかったかもしれない。
けれど、それもまた歪んでいる。
他人への愛を受け取ろうと、何の喜びも得られないだろうから。

結局、全ては遅いのだ。
動きだした歯車を、車輪を止めることは叶わない。

だからこそ、キリカは彼女に尽くす。
父親にその多くを割かれた、残り物の有限の愛。
そのために、彼女は無限の愛を捧げ続ける。

たとえ、それがどれだけ歪んだ行為でも。

77: ◆fJz13rtmKU 2011/05/23(月) 21:45:57.24 ID:4nmE+42o0

「……そろそろ、冷えてきたんじゃないかしら?」

織莉子の言うとおり、そろそろ適温だった。
ぐい、と一気に紅茶を飲み干す。

「あらあら、豪快ね……」

「ダメだった?」

「いいえ、可愛らしくていいと思うわ」

「子供っぽくて、でしょ」

くす、と織莉子が笑う。

その笑顔も、心からのものだろうか。

見返りを求めないからこそ、キリカはその愛すら疑ってしまった。

78: ◆fJz13rtmKU 2011/05/23(月) 21:52:11.51 ID:4nmE+42o0

「……私の顔に、何かついているかしら?」

「いいや、ただ……」

「ただ?」

「扇情的だなぁ、と」

「……ふふ、がっつきすぎよ」

「嫌い?」

「いいえ、素直でいいと思うわ」

カチャ、と織莉子が食器を片づけ始める。

「だけど、まずは血を落として来なさい」

「ええー? 生殺しだよぉ」

「……夜はまだまだ、長いでしょう?」

その言葉に、キリカの口元が緩む。
期待しながら、風呂場へと歩を進めた。


84: ◆fJz13rtmKU 2011/05/25(水) 22:19:05.36 ID:FDuSaH4R0

「マっミさぁぁあああああああああああああああん!!」

足音がだんだんと近付き、部屋の前でギギィ!!とブレーキをかける音が聞こえる。
病院の床と靴の素材の関係から、そんな音が発生するのはおかしいのだが。
本人に聞けば、きっと乙女の秘密だとか言ってくるに違いない。

「……病院では、静かにしなさい」

「お見舞いに来てくれるのは嬉しいんだけど、ね?」

ほむらが頭に手を当てて溜息をつき、マミが困ったように笑う。
空回りの多い新米魔法少女へのいつもの対応である。

「どうしてそんなに落ち着いてられんのよ!? 入院だよ入院!? 大怪我だよ!!」

「ちょ、落ち着、き、なさ、」

ほむらの肩を掴み、がくがくと揺さぶるさやか。
揺さぶられた側の額に、ぴきぴきと青筋が浮かび出す。

弓を取り出す前に、マミがまあまあ、とそれを止めた。

85: ◆fJz13rtmKU 2011/05/25(水) 22:29:08.54 ID:FDuSaH4R0

「……そういや、どうしてそんなにひどい怪我を?」

「あなた、メールも最後まで読まずに来たの?」

「いやー、入院って聞いてそのまま飛んできたから……」

ははは、と頭を掻きながら笑う。
ほむらは、それに再び溜息をついた。

「……交通事故よ。ひき逃げで、夜だったから相手もわからなかったけど」

「ええー! 最悪ですねソイツ! 救急車呼ぶくらいしろっつーの!」

「そうね……それでちょうど通りがかった暁美さんに病院まで運んでもらったの。ね?」

「……ええ」

ほむらの応答に、妙な間があった。
そこに違和感を感じたが、特にさやかは気にしなかった。

86: ◆fJz13rtmKU 2011/05/25(水) 22:40:26.11 ID:FDuSaH4R0

「その怪我って、魔法じゃ治療できないんですか?」

「ちょっと深すぎて、ね……そんなことをしたら、先に魔力が尽きてしまうわ」

「うぅん、そっかぁ……あたしの回復魔法がもっと応用効けばなぁ」

「まだまだ新人なんだから、気にしなくていいの。それよりも、私が居ない間、暁美さんとよろしくね?」

「まっかせてください!見滝原の平和は、このさやかちゃんとほむらちゃんがガンガン守りまくっちゃいますよー!」

「……大半があなたのお守りになりそうね」

なにおー!とさやかが文句を言うのを、ほむらが事実だと一蹴する。
微笑ましいじゃれあいに、マミの顔も緩んだ。

「ところで、お見舞いの品って何がいいですか?」

「……そういうのは、本人に聞くものじゃないでしょうに」

「うるさいなぁ……知らせを聞いてそのまま来たから買う暇なかったの!」

「ふふ……別にいいのよ? そんなに気をつかわなくたって」

87: ◆fJz13rtmKU 2011/05/25(水) 22:47:10.47 ID:FDuSaH4R0

うーん、とそう聞いて、少し悩んだ。

「よし、とりあえず買ってきます! さやかちゃんのセンスにご期待くださいっと!」

そのまま、ビュン、と走っていく。
病院内を走るな、という注意は聞きそうになかった。

「……これで、いいのかしら?」

「ええ……本当の事を知れば、首を突っ込むのはわかりきっているでしょう?」

入院の理由は、二人が即興で考えた嘘だった。
もっとも、医者にも怪しまれるほど稚拙なものである。
だが、真実を話すよりは受け入れられるだろう。

さやかは言われたことを素直に受け止めるので、怪しむことはないだろう。
たまに、異常なほど勘が鋭い時があるのだが。


88: ◆fJz13rtmKU 2011/05/25(水) 22:56:26.65 ID:FDuSaH4R0

「けれど、襲われた時の備えはどうするの? 一応、注意はしてあるけど……」

「……しばらくは、私が付いて回った方がいいでしょうね。二人なら、襲ってくる確率も低くなりそうだし」

「そう言うと思って、すでに手は打っておいたよ」

突如、居ないはずの三人目の声がした。

「……キュゥべぇ」

「やあ、久しぶり。大変だったみたいだが、無事で何よりだよ」

その言葉に、ほむらが少しむっとした。
今のキュゥべぇは、魔法少女を魔女化させるために行動している訳ではない。
本音なのだろうが、少し疑ってしまっても仕方なかった。

「……手を打った、とは?」

「うん、最近契約した子と、ベテランを一人連れてきたのさ。話は通してあるから、協力してくれるだろう」

89: ◆fJz13rtmKU 2011/05/25(水) 23:08:24.41 ID:FDuSaH4R0

ベテラン、と聞いて十中八九佐倉杏子だと予測できる。
最近契約した子というのに心当たりは無かったが、杏子の知り合いなら問題ないだろう、と納得しておいた。

「……守りは万全、といったところかしら」

「まあね。しかし、元を断たないとどうにもならないのさ」

「その様子だと、キュゥべぇにも犯人の詳細はわからないの?」

「ああ、被害者は全員死んでいるからね。マミとほむらの目撃情報が一番有力だろう」

「……外見と、戦闘スタイルくらいしかわからないけれど、ね」

目的がわからなければどうにもならない。
そもそも、絶望を取り除かれた魔法少女がどうしてこんなことをしているのか。
考えれば考えるほど、思考の渦にのまれていった。
そして、

「暁、美さん!?」

「ほむら、どうし―――」

一人と一匹の声がなぜか遠く聞こえた。
世界が、ぐらりと傾いた。

懐かしい声が、聞こえた気がした。

97: ◆fJz13rtmKU 2011/05/26(木) 18:40:52.98 ID:mK9Al0mQ0

デパ地下。
庶民にとっては少し高いが、たまには買ってみたいと思うものが並んでいる。

ここでは、試食のできる商品がけっこう多い。
ついてきた子供が行く先々で色々なものを食べるのはよく見る光景だ。

それでも、一つのものを大量に食べる、というのはあまり無いことである。
だが、しかし。

いつの時代も、例外は存在する。

「……うわぁ」

さやかは必死で目をそらした。

ハムスターのごとく口に大量の食べ物を入れて歩く二人の少女。
幸せそうな表情と、周りからの白い目が絶妙な空気を生み出す。

関わらないようにと、早足で通り過ぎようとする。

98: ◆fJz13rtmKU 2011/05/26(木) 18:53:21.79 ID:mK9Al0mQ0

だが、少女の願いは叶わない。

「……ふぉ、ほふぃふぁふぃへ、はんふぁはふぁふぁあはふぁ?」

なんとなく自分に言われた気がした。
いや違う、きっと人違い、多分そう。

「ふぁ、ほんふぉふぁ! ふぉーふぃ!」

とてて、と少女の片割れ、小さくて緑色の方が駆け寄ってくる。
遅れて、大きくて赤いほうが歩み寄ってくる。

「―――あんたら、さぁ」

「「ふぁ?」」

ぷるぷる、と俯いて小刻みに震えた。
二人の小首を傾げる動作も気に障った。

ああ、どうしよう。
周りからの視線が痛い。
逃げても悪い意味で周りに注目されてしまう。
とりあえず、

「口の中のものを片付けてから、喋れぇぇええええええっ!!」

さやかは生真面目な性格だ。
妙なところで委員長属性を発揮する。
だが、それは時として悪い結果に転ぶ要因となる。

それは、もっとも周りに注目される選択だったのだから。

99: ◆fJz13rtmKU 2011/05/26(木) 19:09:21.24 ID:mK9Al0mQ0

「……で、何?」

「だからさ、あんたと共同戦線を張ってくれってキュゥべぇに頼まれたのさ」

「んぐ……なるべく人数が多い方が安全だってことだから」

けぷぅ、と息を吐くゆまを、残さず食べて偉いぞ、と杏子が撫でる。

「あー、そう……まぁ、確かにそうなんだけどさ」

「そっちはマミの見舞い、だっけか? 随分高そうなとこで買うんだな」

「……いや、さっきまで試食コーナーに入り浸ってた人にアレコレ言われても」

「タダで、おいしい! お得で便利!」

「……ああ、そうさ。ゆまはよくわかってるよな」

「違う……こんなの絶対おかしいよ……!」

101: ◆fJz13rtmKU 2011/05/26(木) 19:21:41.97 ID:mK9Al0mQ0

「とりあえず、何買うんだ?」

「うーん……軽く食べられそうなクッキーが無難かなーと」

「確かにそうかもなー、食えるモンなら何でもいいけどさ」

「……わかった、あんたの意見は聞かないことにする」

「ん? なんでだ?」

小首を傾げた杏子に、ただ溜息をついた。
こんなことで魔法少女は大丈夫か、と思う。

だが、さやかも残念な魔法少女ではあるのだった。

「……じゃ、すいませーん! コレを一つ!」

クッキーの一袋を指差し、店員に伝える。

720円、という値段を確認して、財布を取り出した。

102: ◆fJz13rtmKU 2011/05/26(木) 19:29:35.10 ID:mK9Al0mQ0

「……高くねーか?」

「お見舞いだから少しはいいものを買った方がいいでしょ?」

「そういうもんかねぇ……」

なんとなく納得しながらも、自分は絶対にやらないだろうな、と杏子は思っていた。
もっとも、そもそも金が無いのだが。

「そういうもんだよ、ま、結局大事なのは気持ちだろうけど……さ?」

ぞわ、と嫌な感覚が背に走った。

コレは知っている。
数回程度しか味わったことはない。
けれど、間違えるハズは無かった。

―――魔獣の気配。

103: ◆fJz13rtmKU 2011/05/26(木) 19:37:15.27 ID:mK9Al0mQ0

「……行くよ!」

「おう!」

「お、おー?」

杏子とさやかが走り出す。
ゆまは杏子の小脇に抱えられて。

「まったく、昼間からなんだってーの!?」

「……確かに、昼間から出てくるのは珍しいよな」

まぁ、理由はわかってるが、という杏子はさやかに聞こえない程度に呟く。
魔法少女狩りの話題はあまり出すなと、キュゥべぇに言われていたから。

少女たちは走る。
















「……あれ、お客様?」

店員の困った声だけが、その場に響いた。



110: ◆fJz13rtmKU 2011/05/27(金) 22:38:22.33 ID:rMd2gQSx0

声が聞こえる。

懐かしい声だ。

誰だっただろう。

誰だっただろう。

忘れてしまった。

否、そうではない。

きっと、もう会えないと心のどこかで思っていて。

だから、信じられないのだ。

111: ◆fJz13rtmKU 2011/05/27(金) 22:44:18.31 ID:rMd2gQSx0

『……ら、……ん』

だけど、これはきっと。

彼女が言っていた、一つの奇跡。

『ほ……ちゃ……』

やはり、待ち望んでいた。

心が、歓喜で満たされる。

『……ほむらちゃん』

『……まどか』

手を伸ばし、指を絡めた。



112: ◆fJz13rtmKU 2011/05/27(金) 22:54:42.65 ID:rMd2gQSx0

『意外と、早く会えちゃったね』

『……私には、とても長く感じられたわ』

可笑しそうに笑ったまどかに、ほむらもつられて笑みがこぼれた。

『それで、ここは?』

『……多分、肉体とか精神とか、そういう概念を超えた場所。意識の溜まり場みたいなもの、かな?』

『つまり、あなたもよくわかっていないの?』

自信の無さそうな言葉に、少し落胆した。

ここがどういう場所か分かれば、まどかとある程度コンタクトを取る方法となるというのに。

113: ◆fJz13rtmKU 2011/05/27(金) 23:01:57.52 ID:rMd2gQSx0

『でも、ここにわたしとほむらちゃんがいる原因なら推測できるよ』

『……本当?』

原因が分かるのなら、ここがどこだろうが問題は無い。
重要なのは、まどかと接触できる可能性があるかどうかだ。

『……ほむらちゃん、ここに来る前に、何を考えてたかわかる?』

『何を、って……魔法少女狩りの犯人のことを……』

『……わたしも、同じだよ』

え、と思わず声が出た。

『わたしも、そのことを考えてたの……どうすれば、あの子たちを救えるのかって』

しゅん、と少しだけ悲しげに顔を伏せた。

114: ◆fJz13rtmKU 2011/05/27(金) 23:14:28.30 ID:rMd2gQSx0

だが、すぐに顔を上げる。

『同じことを考えたことで、わたしとほむらちゃんの意識が繋がったんだと思う』

『……にわかには、信じ難いような話ね』

『うん……だけど、わたし達はこうして会ってるんだよ?』

『……そうね』

ふふ、と事態を正確に理解できないながらも、嬉しそうに微笑む。

だが、理由ならいくらかあった。

今のまどかの力は、存在はほむらが生んだようなものであること。

世界がまどかを忘れても、ほむらだけは覚えていたこと。

証拠は無いが、それはそれで構わない。

今目の前に居る、まどかこそが重要なのだから。

115: ◆fJz13rtmKU 2011/05/27(金) 23:21:33.44 ID:rMd2gQSx0

『……長くは持たない気がするわね』

『うん……』

残念そうに、まどかが答えた。

『それじゃあ、本題に入ろっか』

ヴォン、と景色が歪んだ。

否、景色が生まれた、の方が正しいだろうか。

先ほどまで、そこに景色と呼べるものは無かったのだから。

『あの子の絶望は、契約の直後……』

また、まどかが悲しそうに顔を伏せた。

『……それは、多分わたしが歪めてしまった運命なの』




121: ◆fJz13rtmKU 2011/05/28(土) 21:05:41.24 ID:phhbivt50

公園。
それなりに遊具のある憩いの場。
呪いや恨みとは無縁の場所に思える。

だが、考えようによっては違うかもしれない。

遊具の使用権の奪い合い。
子供の純粋な感情は、強い呪いなどと同等なのかもしれない。

そもそも原因がそう言う所にあるのかもわからないのだが。

ともかく、魔獣は存在していた。

計4体。

回復専門のゆまを除く、二人が二体相手にすればいい計算だ。

122: ◆fJz13rtmKU 2011/05/28(土) 21:12:10.57 ID:phhbivt50

とん、とさやかと杏子が地を蹴る。

赤と青。

槍と剣。

一直線に、突撃。

当然、魔獣は迎撃の行動を取る。

「………おい」

「………!」

ぽん、と肩を軽く叩かれて、さやかは意図を理解する。

魔獣の攻撃が放たれる瞬間、

4体を挟みこむよう、互いに斜め前に飛んだ。

123: ◆fJz13rtmKU 2011/05/28(土) 21:19:18.45 ID:phhbivt50

そのまま、さやかは突撃。

「ばッ……そういうことじゃないっての!」

両手に一本ずつ剣を構え、猛進。

そのまま、斜め十字に切り裂く。

だが、

「……浅いッ!?」

押しが足りない。

魔獣が振り向き、攻撃の照準を合わせる。

「やばっ……」


124: ◆fJz13rtmKU 2011/05/28(土) 21:25:46.38 ID:phhbivt50

「させるか、よっ!」

ギャリ、と鎖が瞬時にその魔獣を縛り上げる。
そして、

「同類同士……仲良くしとけ!」

そのまま、別の魔獣へとぶつけた。

回避も防御もできず、まともに食らう。

そこに、

「はぁぁああああああああああああっ!!」

さやかが、突進。

動きの止まった的に、先ほどよりも高速で、

全力で、押し込む。

125: ◆fJz13rtmKU 2011/05/28(土) 21:32:29.81 ID:phhbivt50

ザン! と2体がまとめて両断される。

直後、ギィン!と何かがぶつかる音が上空で響いた。

それは、杏子の武器が槍の形態へと戻る音。

重力を味方につけ、突き出す槍。

魔獣の頭部を、粉々に粉砕した。

そのまま、さやかの隣に降り立つ。

「……新人にしちゃあ、よくできた方じゃん?」

「あんたも、マミさんやほむらと同じくらい強いんじゃない?」

その背後。

残り一体の魔獣が、完全に二人に狙いをつけていた。

126: ◆fJz13rtmKU 2011/05/28(土) 21:37:29.44 ID:phhbivt50

だが、その間は隙ではない。

勝利者ゆえの余裕。

慢心ではなく確信。

振り向きざまに、交差する赤と青。

ぴ、と魔獣に一本の線が見えた。

それは、切り口。

二人によって両断された身体の上半分が、ずん、と地面に落ち、消えていった。

127: ◆fJz13rtmKU 2011/05/28(土) 21:46:41.90 ID:phhbivt50

「……ありがと、助かったよ」

「お、おう?」

ぽつ、と呟いた言葉に、杏子はくすぐったい様子で、ぽりぽり、と頬を掻いていた。
今まで一人で生活してきたのだ。
他人に感謝されるのは、あまり慣れていないのだろう。

「二人とも、すごいよー!」

とてて、とゆまが走り寄ってきて、二人に手をかざす。
ぱぁ、と暖かい光が周囲を包んだ。

「ん……ちょっと擦りむいてたか。ありがとね」

「……へぇ、あんたは治療に特化してるのね」

「…………あんたじゃなく、ゆま」

むす、と機嫌を損ねた様子に、さやかは少し微笑ましい様子を感じた。

「うん……ゆま、だね?」

128: ◆fJz13rtmKU 2011/05/28(土) 21:54:13.14 ID:phhbivt50

そう、と満足げに笑うゆまに、また微笑ましくなった。
見れば、隣の杏子も同じなのか、非常に顔が和んでいた。

「……親馬鹿?」

「なっ……産んでないって!」

「いや、そういう意味じゃなく……ん、そういう発想が出てくるってことは」

じ、と杏子を見つめた。

「な、なななななんだよ! 別にそういうこと考えてるわけじゃ……!」

「うんうんなるほど、あんたは恥じらいながらもそういうコトに興味があると」

「ち、違っ……!」

「そういうコトってなにー?」

「ゆまは知らなくていいっ!」

129: ◆fJz13rtmKU 2011/05/28(土) 22:03:38.75 ID:phhbivt50

「……しっかし、他人に効果が高い治療魔法かぁ。マミさんの怪我も治せるんじゃない?」

「あー、それなんだけどな……」

ぽりぽり、と杏子が頭を掻きながら残念そうに告げる。

「魔力の消耗が激しいらしくってな。大怪我だと力を使い切りかねないらしい」

「あー、なるほど……」

「腕が千切れたりしてもパーツが揃えば問題ないらしいんだが、擦り傷だとか骨が砕けてるとかだと、な」

「……ゆま、役に立たない?」

不安げに、杏子の顔を見上げた。

「……いいや、ゆまは役に立ってるよ。十分に、な」

ぽん、と頭に手を置く。
安心したように、ゆまはうん、と呟いた。

130: ◆fJz13rtmKU 2011/05/28(土) 22:11:20.66 ID:phhbivt50

「……暗くなってきたな」

「あ、ホントだ。放課後すぐに転校生からメール貰ってお見舞い行ってたのに、もう夜かぁ」

夏に向けて日は長くなってるハズなのにね、と疑問を口にした。

「……見舞い?」

何か引っかかって、杏子は首を傾げた。
見舞い関連で、何か忘れている気がする。

「……クッキー?」

「……あ、」

ゆまの呟きで、たらり、と冷や汗が垂れた。

魔獣の出現で、すっかり忘れていた。


131: ◆fJz13rtmKU 2011/05/28(土) 22:17:35.16 ID:phhbivt50

「……ゴメン! ちょっと行ってくる!」

びゅん、とさやかが駆け出した。

「あ、おい……どうすりゃいいのさ?」

「……待ってる?」

「……だね」

はぁ、と溜息をつき、手近なベンチに腰掛けた。
その隣に、ゆまがぴょこん、と飛び乗る。

それを見届け、空を見上げる。
最近、周りが騒がしくなっていた。
感じていた孤独が、じょじょに薄らぎ始めていた。

本当に、それでいいのかと思うほどに。

132: ◆fJz13rtmKU 2011/05/28(土) 22:18:30.91 ID:phhbivt50























































「―――見ぃつけた」

137: ◆fJz13rtmKU 2011/05/29(日) 20:51:24.80 ID:9ILeevZf0

『―――さて、こんなところさ。君には魂を犠牲にして、戦いに身を投じる覚悟はあるかい?』

小動物の問いに、少女は少しだけ身を強張らせながら、

『……ええ。人々を幸せにするためには、自分の身など構ってはいられないから』

『……そうか。なら、願いを提示するといい。それが君に力をもたらすだろう』

すぅ、と少女は息を吸った。
無駄な力の入った身体を、リラックスさせるため。

『……未来が見たい。世界を正しく導くために』

強い意思のこもった瞳で、キュゥべぇを見つめながら宣言する。

『世界、とは……大きく出たね。だが、未来を見るだけでいいのかい?』

『……ええ。願いで無理矢理人々の意思を変えても、それは私の本来の望みではないから』

138: ◆fJz13rtmKU 2011/05/29(日) 20:58:52.67 ID:9ILeevZf0

『いいだろう……なら、美国織莉子』

『………っ!』

ぽう、と胸から光の塊が生まれた。

『これが……』

『ああ、ソウルジェム……君の魂の結晶さ』

ぱし、とそれを手に納める。

『さて、君の願いはどういう形で実現されたのか……確認する必要がある』

『ええ、そうね』

ぱぁ、と光が少女の身体を包む。
魔法少女の装束。
白を基調としたその姿は、神々しさすら感じさせた。

『さあ……試してごらん、君の魔法を』

139: ◆fJz13rtmKU 2011/05/29(日) 21:06:22.15 ID:9ILeevZf0

き、と少女が強い力のこもった瞳で前を見つめる。
だが、虚空を見つめているようにも見えた。

現実とはかけ離れた時間を『視ている』のだから当然ではあるが。

『―――え、』

突如、少女の顔が驚愕の色に染まる。

『織莉子、どうしたんだい?』

がたがた、と全身が震えはじめ、その場にどさ、と崩れ落ちる。

『いや、イヤ、嫌ぁああああああああああああああああっ!!』

目を見開き、自分の身体を抱きしめながら絶叫する。

『一体何を見たんだい? 随分と動揺しているが……』

140: ◆fJz13rtmKU 2011/05/29(日) 21:16:29.49 ID:9ILeevZf0

ぱきん、と砕けるように装束が消える。
息を切らせながら、服から携帯電話を取り出し、電話帳から目当ての人物の電話番号を見つけ出す。

その対象は、父親。
母親のいない織莉子の唯一の肉親、美国久臣。

コール音。
2回目で、相手が電話に出る。

『……お父様ッ!? 早く、どうにかっ!!』

少女の必死な声は、焦燥によって意味が読み取れなかった。
そもそも、少女の中で事態の解決法が見つかっていないのだ。
意思を伝えられるわけがなかったのだ。
そして、

ぷつん、と電話の切れる音が、やけに響いた。


141: ◆fJz13rtmKU 2011/05/29(日) 21:21:27.76 ID:9ILeevZf0

ツー、ツー、と強制的に切られた電話が音を発している。

持ち主の少女は、だらり、と腕を垂らし、床に座り込んだ。

『……織莉子?』

キュゥべぇが、俯いた少女の顔を覗き込む。

『ああ、』

その目は、ただただ虚ろだった。
彼女の心を象徴していた。

現実から、徹底的に目をそらそうとする心を。

『どうやら失敗だね。タイミングが悪かったらしい』


142: ◆fJz13rtmKU 2011/05/29(日) 21:33:21.03 ID:9ILeevZf0

同じ頃、とある道路。
車が2台、互いにぶつかり、辺りは騒然としていた。
片方の車の横からもう片方が正面からぶつかったのか、一方はひどい有様で、もう一方はそれほどひどいものでもなかった。

『……このクソガキ、お前があそこで大声なんて出すから!』

『ひ、だって、だって、恐いのが居たから……!』

一人の女性が、娘であろう緑髪の少女の髪を無理矢理掴み、怒号をあげる。

『何にも居ないじゃないか! 頭だけじゃなく目まで腐ったのか!?』

『……まあ、その辺にしとけ』

父親らしき男性が、面倒くさそうにそれを止める。

娘を憐れんだのでなく、ただ女のみっともない姿を辺りに晒さないため。

143: ◆fJz13rtmKU 2011/05/29(日) 21:42:17.46 ID:9ILeevZf0

『まあ、起きたことは仕方ない……ちゃんとソレは躾けておけよ』

『ええ、わかってるわ!』

態度を豹変させ、女性が男性に笑いかける。
女のそういう所が、男は嫌いだった。

『……あっちは金持ちっぽいから、車の修理費は大体払ってもらえばいいさ』

『大丈夫なのぉ?』

『見た感じあのおっさんは即死だろうし、家族を丸めこみさえすれば、な』

ニヤァ、といやらしく男が笑った。

『親が居ても高齢だろうし、女ならどうにでもできる。子供なら何も言ってこないだろ』

『すごいわ……そういう所、好きよ』

女が絡みついてくるのを、男は鬱陶しそうに受け入れる。

後ろで少女―――千歳ゆまだけが震えていた。

144: ◆fJz13rtmKU 2011/05/29(日) 21:49:00.96 ID:9ILeevZf0

そして、少し時は飛ぶ。

やつれた顔で薔薇の生い茂る庭で椅子に座る少女。
美国、織莉子。

相変わらず、その目は何も見ていなかった。

そのそばに小動物が座っていたが、変化のない少女を認めてその場に立つ。

『また、来てたんだ?』

途端、声を掛けられる。

『呉キリカ……まあ、彼女が復帰してくれると僕にとって好都合だからね』

『あっそ……今日も、変わりナシ?』

『あると思うかい?』

だよね、と少女は悲しそうに苦笑した。

145: ◆fJz13rtmKU 2011/05/29(日) 21:57:07.55 ID:9ILeevZf0

『織莉子、今日も来たよ……やっぱり、立ち直れない?』

少女は、黙って答えない。

『……織莉子、いくら想っても、きみのお父様は帰ってこないよ?』

『……あなたに、何がわかるの』

掠れた声で、少女が答えた。

『でも、このままじゃあ何も変わらないじゃん! きっと天国のお父様も、そう願って……』

『知ったように、言わないで』

ぎら、と飢えた獣のような瞳がキリカを睨みつけた。
ひ、と思わず後ずさる。

『お父様は、私のお父様なのよ! 他の誰のものでもない、私のっ……!』

がたん、と椅子を倒しながら勢いよく立ちあがる。

『お父様を本当にわかっているのは私! 一番理解しているのは私よ!!』

146: ◆fJz13rtmKU 2011/05/29(日) 22:02:44.93 ID:9ILeevZf0

肩で息をしながら、少女がぎらついた目でキリカを見つめる。

『お父様の理解者は私しかいない! なら、私の理解者もお父様しかいない!!』

壊れた心で、破綻した論理を振りかざす。

『ならもう、私も死ぬしか……っ!』

右手を振り上げる。
その手の中には、魂の結晶。

『―――ダメっ!!』

咄嗟に、キリカがその腕を押さえる。

『そんなの嫌だよ! 織莉子が死んじゃったら、私っ……!』

『離して! もう、私が生きる意味なんてっ!!』

153: ◆fJz13rtmKU 2011/06/01(水) 21:48:23.10 ID:8DKnyxEf0

どうすればいい。

どうすれば止められる。

どうすれば、織莉子に生きてもらえる。

今、彼女は死者に腕を引かれている。

ならば、現実に引きとめればいいだけだ。

しかし、その理由が無い。

無いなら作り出せ。

彼女を引きとめられる、強力な理由を。

そうして、言い放つ。

それが織莉子を完全に狂わせる、最後の一撃になるとも知らず。

154: ◆fJz13rtmKU 2011/06/01(水) 21:49:17.71 ID:8DKnyxEf0









『―――死ぬなら、復讐してからじゃないと駄目でしょ』








155: ◆fJz13rtmKU 2011/06/01(水) 21:50:13.29 ID:8DKnyxEf0

キリカにとって、その言葉は意味を完全に理解して言った言葉ではなかった。

その時、織莉子を止めるのに必死だったのだから。

だが、織莉子にとっては違ったのだ。

それを聞いた瞬間、動きを止め、


ニタァ、と寒気のする笑みを浮かべた。

156: ◆fJz13rtmKU 2011/06/01(水) 21:50:56.99 ID:8DKnyxEf0

『―――そして事故の相手の未来を、彼女は見た』

そこまで見て、ようやくまどかが口を開いた。

『見えたのは魔獣に襲われる男女……そして魔法少女の契約をする少女』

『……それが、彼女達の動機?』

うん、と悲しそうに頷いた。

『そんなの、魔法少女狩りをする理由にはならない……そう、言いたいんだけど』

でもね、と俯き、悔いるように話す。

『あの緑髪の子が見た恐いもの……それは、わたしが世界を変えた後に生まれた魔獣なの』

だから、この事件は自分が引き起こしたも同然だと。

そう、まどかは言いたいのだ。

ほむらは否定したかった。

目の前の少女の、苦しみを取り去りたかった。

けれど、その優しすぎる少女にどんな言葉をかけようと、その重荷を肩代わりはできないのだ。

157: ◆fJz13rtmKU 2011/06/01(水) 21:51:23.86 ID:8DKnyxEf0

『二人は歪んで、狂ってしまった』

ぽつ、ぽつと呟く。

『織莉子ちゃんは目の前の現実を受け入れられずに、本当に大切なものを利用して、さらに失おうとしてる』

そして、と虚ろに呟いた。

『キリカちゃんは、利用されていることを受け入れきれず、歪んだ心でただ戦うだけの人形になってしまったの』

つぅ、とまどかの頬を涙が伝った。

『けれど、それが自分の使命だと、織莉子ちゃんの為だと信じ込んでただそれを糧にして生きているの』

『……まどか』

『だけど、わたしは二人に何もしてあげられない……っ!』


158: ◆fJz13rtmKU 2011/06/01(水) 21:51:53.86 ID:8DKnyxEf0

そう、その通りだ。

彼女は今や世界の概念、人の力が及ぶ存在ではない。

それと同時に、彼女は現実へと干渉できなくなってしまった。

彼女ができるのは、魔法少女の完全なる絶望を消し去る、ただそれだけなのだ。


だが、だからといって放置はできない。

このままだと、被害は増えるだけ。

その上、まどかが今悲しみ、泣いているのだ。

だが、策がない。

説得しようにも、彼女達が諦めるとは思えない。

殺しても、まどかが悲しむ結果となる。

ならば、どうすればいい。

ほむらは、初めて時間を巻き戻せなくなった自分の身を呪った。

164: ◆fJz13rtmKU 2011/06/05(日) 19:52:04.24 ID:uYU24o0g0

ぽきん、と軽い音と共に杏子の口で菓子が折られる。

それの名前は『ロッキー』。
キリコという会社の製品で、戦後の経済成長期に生まれたものだ。

当時はいろいろなお菓子が生まれたという話だが、その中でも別格だ。
そのお手軽さ、チョコとプレッツェルの絶妙なバランスで一世を風靡したという話だ。

もっとも、ベンチでそれを頬張る杏子とゆまにはどうでもいい話だろうが。

豪快に5本を咥える杏子は横を見て、

「……いや、これそういう食べ物じゃねーから」

「ふへ?」

チョコレート部分だけを舐めようとするゆま。

その食べ方だと、プレッツェル部分だけが残ってしまう。
それではただの『ブリッツ』だ。


165: ◆fJz13rtmKU 2011/06/05(日) 19:57:42.25 ID:uYU24o0g0

瞬間、

ぞわり、と背筋を冷たいものが走った。

目を見開いた杏子を、不思議そうな眼で見つめるゆま。

杏子はその感覚、殺気の主を探す。

ベンチの下は何も無い、周囲に人影は見当たらない。

ならば、

「―――上かっ!」

同時、ゆまを力いっぱい突き飛ばす。

それと共に自分もその場から飛び退いた。

あう、とゆまが声を上げたが、魔法少女の身体能力なら問題ないはずだ。

直後、

ズドン、と轟音を立て、ベンチが粉々に粉砕された。

166: ◆fJz13rtmKU 2011/06/05(日) 20:02:44.34 ID:uYU24o0g0

「……あっは」

巻き起こる砂煙から声が聞こえた。

「あっは、あははぁ! あっはははははぁ!!」

狂って、歪んで、壊れた声が聞こえた。
その主が纏うは、黒。

「見つけた、見つけた、みぃぃいいいいいつけたぁぁあああああああああ!!」

両腕に備えるは、大きな爪。

目を見開き、獰猛な獣のような魔法少女。

ゆまをとらえたその瞳には、不純な歓喜に満ちていた。

167: ◆fJz13rtmKU 2011/06/05(日) 20:11:25.32 ID:uYU24o0g0

「―――ゆま、下がってな」

す、と間に立ち、魔法少女の装束に身を包む。

「さって、と……その格好、あんたがマミをやったヤツか」

「邪魔……敵……織莉子の敵、全員殺すよ!!」

ああ、これは話しても無駄だな。
杏子はそう悟り、溜息を吐く。

だが、その方がわかりやすい。

言葉が通じない相手なら、痛めつけるのが手っ取り早いのだ。

そう考えた時、少し胸に痛みが走ったのに気付かなかった。
否、無意識的にそれを無視した。

その思考が、自分の願いと正反対だということに気付きたくなかった。

168: ◆fJz13rtmKU 2011/06/05(日) 20:21:20.07 ID:uYU24o0g0

ヒュオ、と黒衣が舞った。
その色は闇夜に溶け込み、キリカを暗殺者のように見せる。

だが、その程度でどうにかなるほど杏子は軽くない。

淡く輝く両手の爪と、限界まで見開かれた瞳が居場所を教えてくれる。

ギィン、と爪を槍で受け流す。

「防いだ、防いだ! ホラもう一発!!」

残った爪が、襲いかかる。
だが、その程度なら予測できている。

「……はっ!」

「―――お?」

初撃の反動で槍を回し、その威力を上乗せして弾く。
両腕の得物は弾き、腹部に大きな隙ができる。

そのまま、槍を突き出した。


169: ◆fJz13rtmKU 2011/06/05(日) 20:28:25.69 ID:uYU24o0g0

だが、その体勢から後ろに跳ばれる。

ち、と杏子は舌打ちをした。
この反応速度と戦い方。
やはり、人との戦いに慣れている。

「あっはぁ! 上手いよスゴイよ! なかなかイイねぇ!!」

ニタァ、と口角が吊り上がった。

「……その上、戦いを楽しんでる、か」

ひゅんひゅん、と槍を振り回し、構えなおす。

「救いようが無いね、容赦する必要は無さそうだ」

き、と強く黒衣の魔法少女を睨みつける。


170: ◆fJz13rtmKU 2011/06/05(日) 20:36:21.76 ID:uYU24o0g0

その言葉に、黒衣の魔法少女は一瞬だけぽかん、として、

「あ、っははははははははははははははははははははははははぁ!!」

狂気の混じった、笑い声をあげた。

「……なんだ?」

「救い、スクイ、すくい……そんなものは無いよ、こんな世界ではね」

一瞬、表情に悲しみが見えた。

「あるならこうはならなかった! 織莉子は今もまともでいられた! 私だって……!」

怒りと、憎しみと、憤りのこもった声だった。

「私にとってはもう織莉子だけが全て! だからその有限のために―――」

ブォン、と先ほどとは比べ物にならぬスピードで杏子に迫った。

「私は、無限に尽くし続ける」

176: ◆fJz13rtmKU 2011/06/08(水) 18:50:24.55 ID:jQ8CXGUf0

一瞬。

それだけの時間で、キリカの眼帯を付けた顔が杏子の視界一杯に広がった。

ヒュオ、という音は一拍遅れて聞こえてきた。

頭が理解するより早く、反射的に槍の柄で防ぐ。

同時、ガギィン! と甲高い音とともに杏子が後ろへ吹き飛んだ。

否、衝撃を殺すために退いた、というのが正しいのだろう。

―――速い。

ようやくそこで思考が追いつく。

だが、事態がそれで好転するわけではない。

177: ◆fJz13rtmKU 2011/06/08(水) 18:51:53.43 ID:jQ8CXGUf0
キリカは再び杏子へと猛進する。

杏子は、そこで考えるのを諦めて目を瞑った。

目で追い切れる動きではない。

音でどうこうできる相手ではない。

ならば、直感で動くしかない。

無謀にも見えるが、それが最善の策ではあった。

杏子は、相手に速度も手数も負けているのだ。

ならば、無駄なものを取り払い、感じるままに動くしか方法は無かった。


ギン、と的確に攻撃を弾く。

飛びまわり、上から右から左から後ろから迫るキリカの爪を、それは十分に防いでいた。

―――なんとか、対応できるか。

一瞬、安堵のような感情が漏れた。

178: ◆fJz13rtmKU 2011/06/08(水) 18:53:00.87 ID:jQ8CXGUf0

「……ああ、」

溜息のように、不機嫌そうなキリカの口から呟きが漏れた。

その表情は、先ほどの感情の発露の反動かこの上なく冷たくて。

「なんだ、そこまでなんだ」

つまらない、という声色だった。

その言葉を、杏子が理解しないうちに、

「―――ッ!?」

連撃。

一瞬で爪は杏子の腕を深く斬り裂き、鮮血が吹き出す。

「遅い、遅い、遅い……そんな速度でさぁ、邪魔しないでよ」

「……っくそ」

ひとまず痛覚を遮断し、槍を強く握りなおす。

だが、感覚が無いためにうまく力が入らない。

満身創痍で杏子は相対する。

効率や結果に拘る彼女には珍しいことだった。

行動の理由は、周囲の人間。

ゆまをはじめとする自分と関わる人間によって、変化してきているのだ。

179: ◆fJz13rtmKU 2011/06/08(水) 18:53:41.54 ID:jQ8CXGUf0

「……ああ、」

溜息のように、不機嫌そうなキリカの口から呟きが漏れた。

その表情は、先ほどの感情の発露の反動かこの上なく冷たくて。

「なんだ、そこまでなんだ」

つまらない、という声色だった。

その言葉を、杏子が理解しないうちに、

「―――ッ!?」

連撃。

一瞬で爪は杏子の腕を深く斬り裂き、鮮血が吹き出す。

「遅い、遅い、遅い……そんな速度でさぁ、邪魔しないでよ」

「……っくそ」

ひとまず痛覚を遮断し、槍を強く握りなおす。

だが、感覚が無いためにうまく力が入らない。

満身創痍で杏子は相対する。

効率や結果に拘る彼女には珍しいことだった。

行動の理由は、周囲の人間。

ゆまをはじめとする自分と関わる人間によって、変化してきているのだ。

180: ◆fJz13rtmKU 2011/06/08(水) 18:54:33.77 ID:jQ8CXGUf0

「―――だからさぁ」

そういう姿が、キリカの癪に障った。

希望を持ち、それを懸命に守ろうとする姿が。

自分にはもう手に入るはずもないものを持っている目の前の人間が、憎らしかった。

「邪魔だって、言ったよねぇ!」

ブォン、と力強く爪が振るわれた。

感情的で、単調な攻撃。

当然、杏子にも予測可能な速度。

だが、

ギィン、と槍は空中へと弾き飛ばされた。

181: ◆fJz13rtmKU 2011/06/08(水) 18:55:16.64 ID:jQ8CXGUf0

「……っく!」

腕へのダメージで純粋なパワーすら相手より下回っている。

そもそも、速度と手数で負けているのに。

考えろ。

導き出せ。

どうにかして、この場を切り抜けろ。

そう思考する杏子。

だからこそ、反応が遅れた。

「ご……っぷ、」

蹴りが脇腹にめり込んでいた。

完全な近接タイプの魔法少女の蹴り。

それは、砲弾の直撃に匹敵する。

182: ◆fJz13rtmKU 2011/06/08(水) 18:55:57.98 ID:jQ8CXGUf0

数秒間、空中を舞った。

ドシャア、と音を立てながら花壇に叩きつけられた。

「く、は……」

胃の中の物が口から飛び出そうになったが、必死にこらえる。

ぐわん、と脳が揺れている感覚があった。

マズイ。

ダメージが大きすぎる。

追撃に対応できない。

打つ手をなくして、歯ぎしりをする。

そうして、異変に気付いた。

追撃が―――来ない。

183: ◆fJz13rtmKU 2011/06/08(水) 18:56:34.00 ID:jQ8CXGUf0

何故だ、と自答した。

まぎれもなく、好機だというのに。

ぐるぐる、とやけに頭がよく回った。

どうして、とどめを刺さないのか。

―――その必要が無いから。

どうして、必要無いのか。

―――他に目的があるから。

目的とは何か。

―――思い出せ、最初に奴が何を言ったのか!

「―――ゆまっ!!」


184: ◆fJz13rtmKU 2011/06/08(水) 18:57:16.67 ID:jQ8CXGUf0

じゃり、とゆっくりと歩んでいく。

「く、ふふ、ふ……」

眼は見開き、口角は吊り上がり、涎が少し垂れていた。

「は、ふ、はは、は……」

その様子は、獲物を前にした肉食獣のようで。

「……う」

ゆまは震えていた。

目の前の少女は、両親を殺した魔獣より、両親より恐かった。

魔獣は、ただの獣だった。

両親は、どちらも自分の事など見てはいなかった。

だが、今向けられている感情。

明確な、純粋な殺意。

それを向ける少女―――呉キリカは、

「あ、はは、ははははは」

微塵の躊躇いも見せることなく、

「あっははは! あはははぁ!!」

その爪を、振り下ろした。


185: ◆fJz13rtmKU 2011/06/08(水) 18:58:40.32 ID:jQ8CXGUf0
手応えがあった。

むしろ、ありすぎた。

爪は、阻まれた。

障害は、白銀の剣。

「……んん?」

また邪魔か、と億劫そうに顔を乱入者に向ける。

瞬間、

ゴギィ、と嫌な音と共に拳がキリカの顔面に突き刺さった。

「……っぷ、は、あ?」

「……あんたさ」

くらくらする頭を押さえながら、その顔をしっかり認めた。

「―――あたしの連れに、何やってくれてんのよ」

その瞳に、明確な怒りの感情をたたえて、

「……さや、か?」

美樹さやかが、キリカの前に立ちはだかった。

196: ◆fJz13rtmKU 2011/06/10(金) 22:51:01.93 ID:cveCY/LY0

濃厚な演歌スレになっていた…だと…

>>192

上条「――――――――」~♪~♪

まどか「与作は木をきるヘイヘイホー!ヘイヘイホー!」

さやか「やめてよまどか! 普通に恭介の演奏聞かせて!」

こうか

まああれだよね、みんな揃ってた方が嬉しいだろ?
5人が揃ってさ、普通に、あたりまえの日常がおくれる……
夏は花火大会とか、海水浴とか楽しんじゃってな、マミさんの胸をみんなで羨んだりさ
秋は体育祭とか文化祭で仕事してさ、学校開放するから杏子も楽しめるね
冬はスキーとか、クリスマスにプレゼント交換とかやったりしちゃって、ほむらがまどかに手編みのマフラー送るとか
本編では、そういう楽しい思い出なんて少しも残せなかったじゃあないか

最後はみんな揃って、馬鹿やって笑いあえる日常に帰る

そういうもんじゃん?最後に愛と勇気が勝つストーリーってのはさ(キリッ


まあ、それだけの話だ

197: ◆fJz13rtmKU 2011/06/10(金) 22:52:40.49 ID:cveCY/LY0

「あんたは下がってなさい、そこの……」

ちら、と横に目を向ける。

「ボロボロになってる奴と一緒に、ね」

「さやか……っ!」

ふらふらと、おぼつかない足取りで、血を垂らしながら歩み寄る杏子。
ゆまは、言うとおりに杏子に寄り添い、その傷に魔法を発動させる。

「……っゆま、お前の力は消耗が、」

「―――大丈夫、だって、私の願いはキョーコの役に立つことだから」

そう、だから問題は無い。
この力は、きっとこんな瞬間のためにあるものだから。

「……止めても無駄、か」

ふぅ、と息を吐き、苦笑した。
こうなれば、ゆまは何が何でもやりきるタイプだ。
なら、自分にできることは一つ。

倒れそうになった時、支えてやることだけだ。

198: ◆fJz13rtmKU 2011/06/10(金) 22:53:59.35 ID:cveCY/LY0

「……さって、と」

き、とさやかが目の前のキリカを睨みつける。

「随分と派手にやってくれたじゃない……魔法少女狩り、アレの犯人だったりするわけ?」

ぺ、とキリカが先ほどの一撃で受けた口内の傷の血を地面に吐く。

「……また、邪魔。あと、少し、あと少しだったのに……!」

「無視、か。ま、そんなことしてるんだし、頭がおかしくても不思議じゃないか」

そんな軽口を叩きながらも、さやかは心の中で焦っていた。
汗でマントがべたつき、背中が気持ち悪い。

当然だ。
自分より、ずっと実力のある杏子でさえあの様だ。
勝てるかどうかでなく、五体満足で逃げられるかの心配をしなければならない。

それでも、退けない。

二人を今守れるのは、世界でただ一人、自分だけなのだから。

199: ◆fJz13rtmKU 2011/06/10(金) 22:54:40.94 ID:cveCY/LY0

「―――ああ、もう」

ゆら、とキリカが揺れた。

「ウザい、うざい、うっっっっざい!」

ビュオ、と一気に距離を詰められる。

「……っく!」

さやかには、攻撃を予測できるほどの経験はない。
ならば、その差は能力で補うしかない。

ヒュン、と左手に加え、新たに右手にも剣を生み出す。

ギィン、と金属音。

なんとか受け止められた、と安堵する。


200: ◆fJz13rtmKU 2011/06/10(金) 22:55:22.13 ID:cveCY/LY0

「―――あっは、まだまだぁ!!」

戦闘によって精神が高揚してきたのか、キリカの声に歓喜が混じる。

言葉の通り、連撃。

ガギギャガギギィン!!と連続で金属音が響く。

「つっ……」

なんとか、剣は離さずにいられた。

だが、衝撃が腕に伝わり、痛みが走る。

「もっと耐えてよ! それで、それで……綺麗な死体を見せて欲しいなぁ!!」

振りかぶり、力強く爪が振るわれる。

ガギィン!!と甲高い音と共にさやかが後ろに弾き飛ばされた。

201: ◆fJz13rtmKU 2011/06/10(金) 22:56:16.48 ID:cveCY/LY0

「く……」

ずざざ、と地面をえぐりながらブレーキをかける。

相手は、速い。

しかも、奇抜な動きで攻撃への反応が難しい。

ならば、とさやかはぐっと地面を踏みこんだ。

守っていても、負ける。

「だったら……攻めろっ!!」

ヒュオ、と高速でさやかが突っ込んだ。

その速度は、キリカのそれに匹敵する。

否、むしろ直線での速度はさやかの方が上であった。


202: ◆fJz13rtmKU 2011/06/10(金) 22:56:54.88 ID:cveCY/LY0

―――そう、あくまで直線では。

キリカはふ、と軽く横に移動しただけ。

空振りし、そのまま数メートル突き進む。

「―――ちっ!」

ざざ、と地面で一気に方向転換し、再度突撃。

だが、キリカに十分な時間を与えてしまった。

ギィン、と爪が剣を防ぐ。

「遅い、遅い、おっそい……全然足りないよぉ?」

「舐、めるなぁ!」

そのまま連撃を叩きこむ。

だが、軽くいなされる。

203: ◆fJz13rtmKU 2011/06/10(金) 22:57:53.60 ID:cveCY/LY0

確かに、直線での機動はさやかの方が速くはある。

だが、キリカが持つのはそれとは違うベクトルの速さ。

脊髄反射による、非人間的な反応速度。

それが、結果的に三次元戦闘における異常な速度を実現させていた。

加えて、多くの対人戦闘の経験。

それにより、キリカはマミや杏子などのベテラン魔法少女すら圧倒してのけたのだ。


204: ◆fJz13rtmKU 2011/06/10(金) 22:58:37.38 ID:cveCY/LY0

「……そろそろさぁ」

さやかの物足りず、冗長な攻撃に飽きた様子でキリカが呟く。

「しつっ、こいよぉ!!」

ガァン、と再びさやかが吹き飛ばされる。

「く、っそ……」

踏みとどまり、歯ぎしりをする。

攻めても、埒が明かない。

けれど、守っているより幾分かマシだ。

再び、キリカに向かって突撃する。

205: ◆fJz13rtmKU 2011/06/10(金) 22:59:16.65 ID:cveCY/LY0

ギィン、とまた止められた。

「……あのさぁ、馬鹿の一つ覚えって知ってる? ま、どっちでもいいんだけどさ」

「うるさいっ!!」

そう、戦い方など関係無い。

無様でも、惨めでも構わない。

守るべきものが、そこにある。

「……あたし、は」

感情のままに、振り上げる。

隙を突こうなどと考えない。

目の前の敵に、ただ全力をぶつける。

「負けられ、ないんだぁぁああああああああああああっ!!」


206: ◆fJz13rtmKU 2011/06/10(金) 23:00:05.74 ID:cveCY/LY0

ガッ、ギィィン!!と甲高い音が鳴った。

キリカが、衝撃で後ろに少し押される。

「へぇ、なかなか――――」

ぴし、という音がした。

同時、衝撃が腕に感じられた。

「―――うん?」

右手の爪に、ヒビが入っていた。

マミにも、杏子にも傷つけられなかったものが。

「あ、は」

歓喜。

「あははははははははははははは!!」

織莉子の為、戦うだけの生き方を選んだ少女。

生きがいである戦いを求める本能が、歓喜していた。

207: ◆fJz13rtmKU 2011/06/10(金) 23:00:53.49 ID:cveCY/LY0


「イイよイイよ、最ッ高!! そうこなくっちゃつまんないよねぇ!!」

ニタァ、と獰猛な笑みと共に、さやかへと猛進する。

その中で、キリカは紛れもなく充実していた。

彼女が本当に求める世界は、きっと違ったはずなのに、

それでも、今が満ち足りていると錯覚していた。

歪んで、壊れて、崩れた心。

キリカと織莉子にとっては、もはや絶望こそが希望。

それは、この世界に存在しない『魔女』と変わりないものだった。


208: ◆fJz13rtmKU 2011/06/10(金) 23:01:35.76 ID:cveCY/LY0

対して、さやかも突き進む。

相手の実力は遥かに上。

ならば、守ってばかりの長期戦での勝ち目はゼロ。

攻めて攻めて攻め続ける、それしか方法は無い、そう判断したから。

そして何より、攻めないことは自分の性に合わなかった。



―――そして、青と黒が交差する。

209: ◆fJz13rtmKU 2011/06/10(金) 23:02:02.35 ID:cveCY/LY0

「……っくそ!」

一閃の後、声を上げたのはさやか。

空中に弾かれた剣が、空しく地面に突き刺さる。

振り返りながら、再び剣を生み出す。


210: ◆fJz13rtmKU 2011/06/10(金) 23:02:29.18 ID:cveCY/LY0

キリカは、振り返らなかった。

ちら、と右手の爪に目を向ける。

音符が、取り付いていた。

それが、弦楽器のような音と共に弾け飛ぶ。

ぱきぃん、と爪が砕け、音の衝撃波が右手から全身を駆け巡った。

「く、ははは……」

間違いない、と確信した。

211: ◆fJz13rtmKU 2011/06/10(金) 23:03:24.86 ID:cveCY/LY0

ぐる、とキリカがさやかの方に振り向く。

高揚した精神が、身体を高ぶらせる。

呉キリカは、目の前のさやかを草食獣のような的や餌でなく、

完全に、敵だと認識した。

キリカの中では、さやかは新人でも、馬鹿でもなかった。





―――この数分間で急速に成長し続けている、まぎれもない強敵だった。

220: ◆fJz13rtmKU 2011/06/11(土) 22:00:41.74 ID:RCHm3nyy0
さやか「アタシッテホントバカー」

杏子「ヒトリボッチハサミシイモンナー」

キリカ「フゥーハハハ! これで標的、きみは丸裸だよ!」

ゆま「だ、誰か……助けて……」

ツーカーミーカーケター アーツーイウーデヲー

キリカ「な、なに!?」

まどか「………」ザッザッ

フリホドーイテ キミハデテイク

まどか「円環の理っ!!」ベキィ!!

キリカ「マドカァー!?」

ワズカーニ フルエル

まどか「………」ザッザッ

キリカ「ほむほむが大好きな人かよ!!」

こうですか、わかりません

221: ◆fJz13rtmKU 2011/06/11(土) 22:01:33.70 ID:RCHm3nyy0

『―――どう、かな?』

遠慮がちに、少年が問う。

『……うん、いつも聞いてる、恭介のヴァイオリンだよ』

満足そうに、少女が答えた。
夕方の、涼しい風の吹く病室。
少女には、夕日に照らされた少年の顔が一層輝いて見えた。

当然だろう。

ヴァイオリンは、彼にとっての人生そのもの。

再び、楽器を手に取り舞台に上がることができるのだから、これ以上の喜びは無い。

222: ◆fJz13rtmKU 2011/06/11(土) 22:02:09.02 ID:RCHm3nyy0

『……ほんとに、奇跡や魔法でもあったみたいだよ。もう、諦めかけてたからね』

少しだけ、表情を暗くして呟いた。
右腕が動かなくなったことは、彼にとって人生最大ともいえる打撃だった。
もっとも、大人になるにつれて挫折は何度も味わうことになるだろう。

けれど、思春期の少年にとって夢を無残に砕かれるのは酷といえた。

『理由はわからない……けれど、僕はこうして夢へと歩ける。例えようもないほどの喜びだよ』

満面の笑みを、少女に向ける。

至近距離の笑顔に、少女が頬を赤く染めた。

そうして、笑った。

自分の願いで救えた人の笑顔で、心が満たされた。

223: ◆fJz13rtmKU 2011/06/11(土) 22:02:37.76 ID:RCHm3nyy0

だが、すぐに顔を引き締める。

喜んでばかりもいられない。

ここに来る前から言おうとしていたことを告げなければ。

『―――恭介は、さ』

言い出して、そこで止まる。

口の中が妙に乾いて、言葉を発せられない。

拒絶への、恐怖。

それが少女を思いとどまらせる。

224: ◆fJz13rtmKU 2011/06/11(土) 22:03:07.49 ID:RCHm3nyy0

それでも、決めた。

マミやほむらは賛成しなかったが、自分でそうしようと決めた。

たとえ、どんな答えが待っていようとそれを受け止める。

その覚悟は、しているつもりだ。

ごく、と唾を飲み込んだ。

言葉を続けない少女に、少年が不思議そうな顔をしていた。

そして、言い放つ。

『―――もし、あたしが人間じゃなかったら、どうする?』

225: ◆fJz13rtmKU 2011/06/11(土) 22:03:33.68 ID:RCHm3nyy0

死体なら、ゾンビなら、とは聞けなかった。

怪しまれるからではない。

ただ、踏み出せなかっただけだ。

問われた少年は、ぽかん、と一瞬呆けて、

『―――さやかは、宇宙人なのかい?』

がくん、と盛大にずっこけた。

ああ、そうだった。

彼は、生粋のヴァイオリン馬鹿だったな、と少女は心の中で呟いた。

226: ◆fJz13rtmKU 2011/06/11(土) 22:04:01.30 ID:RCHm3nyy0

『いや、そういうわけじゃなくて……それに、もしも、もしもの話だって!』

『……もしも、かぁ』

うぅん、と腕を組んで考え込む。

そんなにまじめに考えなくていいのに、と思いながら、

真剣になってくれていることが、少し嬉しかった。

『そうだね、もし、人間じゃなかったら―――』

ぎゅ、と目を瞑った。

227: ◆fJz13rtmKU 2011/06/11(土) 22:04:32.35 ID:RCHm3nyy0

『どうもしない、かな』

『―――へ?』

予想外の回答に、気の抜けた声が出た。

『だって、そうだろう? 今まで普通に接してきたし、今更どうこうすることもないじゃないか』

『でも、だって……!』

『―――同じだよ』

え、と言葉に詰まった。

『君は僕のヴァイオリンをいつも通りだって言っただろう? 君だって、いつも通りのさやかじゃないか』

さも当然だと言う風に、言い切った。

『もし、さやかが妖怪でも、宇宙人でも、怪獣でも……』

ふ、と微笑みながら告げた。

『僕のヴァイオリンを、いつも聞いてくれるさやかには変わりないよ』


228: ◆fJz13rtmKU 2011/06/11(土) 22:05:02.54 ID:RCHm3nyy0

『……ふ、くく』

堂々と言われて、少し前の自分が情けなくなった。

そうだ、変わらないじゃないか。

たとえ死体であるとしても、『美樹さやか』はここで、彼と話している。

たった、それだけの話だ。

そもそもヴァイオリン馬鹿の彼には、聞くまでもないことだったかとも思った。

けれど、心の中では感謝と、歓喜が溢れていた。

そして、素直に言うのは恥ずかしくて、涙を抑えながら言うのだ。

―――女の子に妖怪とかは酷くない? と。


その記憶が、『魔法少女美樹さやか』の力の源だった。

229: ◆fJz13rtmKU 2011/06/11(土) 22:05:32.64 ID:RCHm3nyy0

ぐ、と踏み出し、斬りかかる。

けれど、剣はキリカに届かない。

「……このっ!!」

ブォン、と振り回すも、回避される。

そもそも、攻撃が単調なのだ。

いくら速かろうと、威力があろうと、

経験の浅いさやかの動きは、キリカには容易に回避できるものだった。

230: ◆fJz13rtmKU 2011/06/11(土) 22:06:03.18 ID:RCHm3nyy0

軽く避けられているわけではない。

キリカが、分析の結果回避がベストだと判断したのだ。

被弾した爪に取り付いた音符。

おそらく、剣で斬りつけた物体にそれを付与する能力。

そして、一定時間後に炸裂し、強力な衝撃波を生み出す。

ごく少ない情報で、そこまで結論付けた。

キリカの対人戦の経験と、戦闘に対する偏った頭脳がなせる業だった。

231: ◆fJz13rtmKU 2011/06/11(土) 22:06:38.36 ID:RCHm3nyy0

「くっ、そ……ちょこまかと!!」

飛び回り、跳ね回るキリカに一太刀も浴びせられない。

これでは、守るより分が悪いかもしれない。

さやかは考える。

自分には、ほむらのような冷静な判断力もない。

マミのように舞うような戦いをする余裕もない。

杏子のように片手間に敵をほふる器用さもない。

それでも、突破口があるはずだと、必死に答えを探す。

232: ◆fJz13rtmKU 2011/06/11(土) 22:07:15.37 ID:RCHm3nyy0

月に、黒い影が重なった。

雲や、鳥ではない。

爪を構えた、暗殺者。

防げ、避けろ、という警告が頭に響く。

だが、同時に思考が一気に整理され、電流のような感覚が脳を駆け巡った。

そうして、







暗殺者の爪が、青の魔法少女を貫いた。

233: ◆fJz13rtmKU 2011/06/11(土) 22:07:44.74 ID:RCHm3nyy0

力無く、剣が転がり落ちた。

「あ、はは」

だらり、と腕を垂らし、さやかは俯く。

「あはは!! ふふ、はは、あはははははぁ!!」

左手の爪は深々と脇腹に突き刺さり、血がとめどなく地面に滴り落ちる。

「―――さやかっ!!」

まだ傷が治りきらない、杏子の叫び声が響いた。

その声に振り向き、キリカはさらに笑みを深くする。

絶望に包まれ、苦痛に顔を歪める少女達。

すでに絶望の中にいるキリカにとっては、その表情を見るのが快感で仕方がなかった。

「心配しなくても、すぐに後を追わせてあげるよ? まずは―――」

す、と右腕を振り上げる。

「こっちの死体を、完成させないとねぇ!!」

234: ◆fJz13rtmKU 2011/06/11(土) 22:11:57.93 ID:RCHm3nyy0









「――――――捕まえた」













235: ◆fJz13rtmKU 2011/06/11(土) 22:12:55.98 ID:RCHm3nyy0

「―――は?」

がし、と右腕が掴まれた。

「……そうだよね。マミさんや杏子が負ける相手に、普通に戦おうとするのが間違いなんだ」

さやかが顔をあげ、獰猛な獣のような瞳をキリカに向けた。

「これであんたは動けない……動かない的なら、あたしでも当てられる」

左の爪を抜こうとする。

だが、コンクリートで固められたようにびくともしない。

しゅうう、と魔力が爪が刺さったままの脇腹から立ち上っていた。

「まさか、傷口を高速で再生して……ッ!」

突き刺さった爪が、元々体内にあったかのように再生されていた。

外部からの力で、引き抜くことができぬように。

236: ◆fJz13rtmKU 2011/06/11(土) 22:13:45.80 ID:RCHm3nyy0


「さあて、と」

ぱぁ、とさやかの空いた右手が青く光った。

「ゲームとかでさ、スピードが速いキャラってたいがい防御力が低いよね」

白銀の剣が形成され、力強く握られる。

「―――だから、」

至近距離でキリカの顔を睨みながら、

「これで、終わりだよ」

逆袈裟に、斬り上げる。

鮮血が、月夜に降り注いだ。


249: ◆fJz13rtmKU 2011/06/12(日) 21:22:39.81 ID:CcZeTXiE0

―――浅い。

直感的に、そう悟った。

そう、これは魔獣との戦いではなく、魔法少女同士の戦い。

自分だけが、突破口を見つけられるわけではない。

敵もまた、同じだったのだ。

250: ◆fJz13rtmKU 2011/06/12(日) 21:23:30.29 ID:CcZeTXiE0

キリカの左半身が、一歩下がっていた。

その身体には、右腰から左肩にかけての大きな傷。

それでも、致命傷には至らない。

原因は、自由になった左腕。

そう、魔法少女の武器は通常のものと大きく異なる。

その特徴の一つに、自分の意思で生み出せる、というものがある。

ならば、その逆も。

自らの意思で消し去るのも、また容易だったということだ。

251: ◆fJz13rtmKU 2011/06/12(日) 21:24:01.90 ID:CcZeTXiE0

身体の前面から血を流しながら、キリカは立っていた。

そこに、さやかが追撃する。

別段、恨みがあるというわけではない。

魔法少女という一種の戦士。

その本能に従ったまで。

まだ子供であるからこそ、そういう冷酷で無慈悲な判断ができる。

252: ◆fJz13rtmKU 2011/06/12(日) 21:24:27.56 ID:CcZeTXiE0

それでも、変えようのない事実はあった。

精神面でなく、戦闘スタイルの話。

いくらさやかが接近戦に向いていても、

いくらキリカが傷を追っていても、



この間合いは、さやかでなくキリカの距離だ。


253: ◆fJz13rtmKU 2011/06/12(日) 21:25:26.54 ID:CcZeTXiE0

ドム、と鈍い音とともに腹部に膝蹴りがめり込んだ。

「……っく、」

衝撃で、左手の力を緩めてしまう。

そして、さらにもう一撃。

「か、はっ……」

そのまま、キリカの右腕を離す。

その機を逃さず、キリカは後ろに飛びのいた。

そして、着地の瞬間。


254: ◆fJz13rtmKU 2011/06/12(日) 21:25:57.40 ID:CcZeTXiE0


再び、弦楽器の音が響いた。

「が、ふっ……?」

傷口から、衝撃波が全身になだれ込む。

激痛。

痛覚を、遮断するまでもなかった。

ふらふらと、よろめいて、

そうして、力無く崩れ落ちた。

255: ◆fJz13rtmKU 2011/06/12(日) 21:26:25.71 ID:CcZeTXiE0

ふぅ、と腹部の傷を塞ぎながら息を吐く。

勝った。

その事実が、脳を支配していた。

ばくばくと、落ち着かない心臓が暴れている。

強敵を、単独で倒したという興奮もあった。

だが、それ以上に強いのはギリギリの戦いでの緊張。

そして、そこから解放された安堵だった。

ふ、と自嘲しながら振り向いた。

先の戦いで守ろうとした、二人の方へ。




「――――――つくづく、私は未来に追い付けないのね」

256: ◆fJz13rtmKU 2011/06/12(日) 21:27:01.62 ID:CcZeTXiE0

立っていた。

地面に倒れ伏した黒い魔法少女の傍らに、白い、魔法少女らしき人間が。

「お父様の時もそう。そして今、あなたの危機に間に合わなかった……」

屈み込み、いたわるように身体を撫でた。

その表情に、さやかはぞわり、とした。

微笑んでいた。

女神のような笑み、表面上はそうだろう。

だが、それは完成されすぎていた。

人の笑顔は、人でなければできぬもの。

彼女のそれは、精一杯真似をして作った芸術品のようだった。

そこにあるはずの、何かが。

心が、確実に欠けていた。

257: ◆fJz13rtmKU 2011/06/12(日) 21:27:29.68 ID:CcZeTXiE0

「……御免なさい、キリカ。痛いでしょう、辛いでしょう?」

その言葉にすら、怖気が立った。

感情が無く、人と価値観の異なるキュゥべぇともまた違う。

ただ、何かが狂っていた。

方向か、種類か、大きさか。

わからないが、そこに込められる感情は確実にどこか狂っていた。

「―――織、莉子?」

ぐぐ、とキリカが顔を上げる。

その頬に、織莉子の手が優しく添えられた。

258: ◆fJz13rtmKU 2011/06/12(日) 21:27:59.48 ID:CcZeTXiE0

「ごめんね、ごめんね。私、うまくやれなかった。織莉子の役に立てなかった」

力無く、か細い声で許しを乞うように声を絞り出した。

「いいのよ……いいの。もう、頑張らなくていいの」

そう言って、笑みを深くする。

モニター越しにでも見れば、感動的な光景になっただろうか。

けれど、目の当たりしたさやかには、二人がどうしようもなく歪んでいることしか感じられなかった。

思わず、口を押さえた。

惨殺死体や、台所の黒い悪魔を見る感じとは違う。

綺麗であるはずのそれが捻じ曲げられ、言いようのない不快感を生み出していた。

259: ◆fJz13rtmKU 2011/06/12(日) 21:28:28.33 ID:CcZeTXiE0

す、と織莉子の顔がキリカに近付く。

キリカは抵抗せず、それを受け入れる。

そして、血の気が失せたキリカの唇と、

ふっくらとした、織莉子の唇が、

ゆっくりと、深く重なった。




――――――瞬間、キリカの瞳から光が消え失せた。


260: ◆fJz13rtmKU 2011/06/12(日) 21:29:07.62 ID:CcZeTXiE0

ゆらり、と立ち上がった。

だが、さやかはどうしても『立ち上がる』という表現は合わない気がした。

どちらかというと、『再起動』。

キュゥべぇが魔法少女の肉体を、外付けのハードウェアにたとえたのを思い出した。

その表現が、今なら正しいと思えた。

目の前の黒い魔法少女に、心は感じられなかった。

もはや、特定の信号と命令に反応するだけの、


ただの、人形だった。

272: ◆fJz13rtmKU 2011/06/14(火) 23:46:59.75 ID:A+ycTrS80

ヒュ、と暗殺者が再びさやかへと向かう。

ただし、今までの熟練した戦士の動きではない。

恐ろしく、機械的な動きで。

反応し、さやかが右に跳び、それを避ける。

しかし、

「……なっ!?」

さやかが跳ぶ前に、既に回り込んでいた。

目前に現れたキリカが、爪を繰り出す。

剣を構え、防ぐ。

力任せの攻撃に、後ろへと弾き飛ばされた。

273: ◆fJz13rtmKU 2011/06/14(火) 23:47:37.81 ID:A+ycTrS80

ずざざ、と地面を削って持ち直す。

そこに、

追撃と言わんばかりに、キリカが飛来する。

「くっ……」

重い。

だが、遅かった。

先ほどまでは、一撃よりもその次に繋げることを優先していた。

だが、今は真逆。

繰り出す一撃を、慎重に選ぶような。

まるで戦闘に不慣れな感覚。

274: ◆fJz13rtmKU 2011/06/14(火) 23:48:16.80 ID:A+ycTrS80

直前の行動。

現在の様子。

そこから、簡単に予想できた。

「―――そう、その子は私が操っているのよ」

問いの前に、答えが返る。

まるで、心を読まれたように。

「まあ、私は戦闘経験も少ないから、うまく扱えていないけれど」

にこ、と不気味に笑う。

「それでも、未来が『視』えれば問題無いわ」

275: ◆fJz13rtmKU 2011/06/14(火) 23:48:42.83 ID:A+ycTrS80

未来予知、と口の中でさやかが呟いた。

なるほど、確かに理解できる。

だからこそ、こうにも不自然な動きなのだ。

さらに、付け入る隙が無いのだ。

リスクを冒さず、堅実に攻める。

新人のさやかには、相性が悪い敵だった。

そう、あくまでさやかには。

276: ◆fJz13rtmKU 2011/06/14(火) 23:49:15.70 ID:A+ycTrS80

ヒュオ、とさやかが跳ぶ。

とにかく、司令塔を潰すのが先決。

空中から、剣を振り下ろす。

しかし、

「―――ッ!?」

キリカが間に割って入る。

ろくに構えも取らず、身体で受け止めようとする。

さやかは必死で、剣を止めた。

277: ◆fJz13rtmKU 2011/06/14(火) 23:49:51.97 ID:A+ycTrS80


「あんた、正気? そいつは、もう……」

「……あら、どうかしたのかしら」

心の底からとぼけた様子に、嫌悪感がした。

「キリカは私の腕、私の足、私の目や耳……『自分』で『自分』を防ぐのが、おかしいこと?」

狂っている。

心から、そう思った。

普通、その考えなら大切に扱うはず。

けれど、目の前の少女は自分の体だから、どう使おうが勝手だと言う。

278: ◆fJz13rtmKU 2011/06/14(火) 23:50:21.91 ID:A+ycTrS80

ふざけるな。

心からそう叫ぶ。

その前に、

「―――ふざけんじゃねぇ」

背後から、声が聞こえた。

279: ◆fJz13rtmKU 2011/06/14(火) 23:51:01.42 ID:A+ycTrS80

「あら、あなたは……」

立ち上がるは、佐倉杏子。

ゆら、とさやかの前に立つ。

「何が自分、だ……てめぇはそいつにどれだけ慕われてると思ってんだ」

「そう、慕われているからこそ、私は―――」

「勘違いしてんじゃねぇ」

え、と呆気にとられる。

「そいつはな、心からてめぇを想ってるんだ! それを、真っ向から踏みにじりやがって……」

280: ◆fJz13rtmKU 2011/06/14(火) 23:51:31.65 ID:A+ycTrS80

佐倉杏子の心の叫び。

願いが、それと相反する悲劇を生みだしたゆえの。

そして、大切なものと再び出会ったゆえの言葉。

だが、

「は、はは……」

届かない。

「あ、ははははは!! 踏みにじった? 裏切った? いいえ……いいえ! これは本望!!」

美国織莉子には、届かない。

「キリカが望んだ! 私が望んだ! だからこれは、私にとって最良の未来!!」

281: ◆fJz13rtmKU 2011/06/14(火) 23:52:40.98 ID:A+ycTrS80



佐倉杏子の心の叫び。

願いが、それと相反する悲劇を生みだしたゆえの。

そして、大切なものと再び出会ったゆえの言葉。

だが、

「は、はは……」

届かない。

「あ、ははははは!! 踏みにじった? 裏切った? いいえ……いいえ! これは本望!!」

美国織莉子には、届かない。

「キリカが望んだ! 私が望んだ! だからこれは、私にとって最良の未来!!」

282: ◆fJz13rtmKU 2011/06/14(火) 23:53:07.92 ID:A+ycTrS80


「―――そうかよ」

なら、やるべきことは一つだ。

「なら、無理矢理わからせてやる」

ぐ、と拳を握りしめ、織莉子を強く睨んだ。

283: ◆fJz13rtmKU 2011/06/14(火) 23:54:06.20 ID:A+ycTrS80

瞬間、

ぶつん、と織莉子は確かに何かが千切れる音を聞いた。

「―――え、」

キリカとの繋がりが、根元から断たれていた。

それだけではない。

今まで見ていた景色、

未来のすべてが暗転し、消え失せた。

284: ◆fJz13rtmKU 2011/06/14(火) 23:54:41.65 ID:A+ycTrS80

織莉子に過去を視る力が有れば、理解できただろうか。

佐倉杏子の本来の能力。

対象の精神・感覚を掌握し、自らの支配下に置く能力。

杏子の怒りが、

守ろうとする意志が、

救おうとする優しさが再びそれを開花させた。

285: ◆fJz13rtmKU 2011/06/14(火) 23:55:43.21 ID:A+ycTrS80

「―――歯ぁ食いしばれ、大馬鹿野郎」

ゴキィ、と鈍い音が月夜にただ、響く。

そこで、ようやく。

他人に止められて、ようやく悟る。

自分は、何をしていたのか。

大切なものを失ったことで、盲目になっていた。

自分の本当に大切なものは、すぐそばにあったのに。

結局、それを犠牲にしていた。

286: ◆fJz13rtmKU 2011/06/14(火) 23:56:13.92 ID:A+ycTrS80

倒れ伏す直前、キリカの姿が見えた。

自分の操作が断ち切られ、死体のようなキリカが。

どうして、こうなってしまったのか。

つ、と頬を涙が伝った。

キリカに手を伸ばす。

けれど、届かない。

その距離が、永遠に埋まらない溝に見えて。

ひどく、悲しくなった。

287: ◆fJz13rtmKU 2011/06/14(火) 23:56:54.43 ID:A+ycTrS80

やり直せたら、と思った。

けれど、自分にそんな力は無い。

だから、せめて願った。

次に生まれる時には、キリカが自分と出会わないようにと。

もっと、優しい人と、優しい世界で過ごしてほしい。

そう、心から願った。

きっと叶わないとわかっている。

罪人の願いなど、神が聞き届けるはずは無い。



儚い祈りは、絶望に染まる魂と共に砕け散った。


293: ◆fJz13rtmKU 2011/06/15(水) 23:02:58.14 ID:7VC6l8zL0

バタフライエフェクト、という言葉がある。

蝶の羽ばたきがいずれ嵐を生むほどの風に変わる。

それと同じように、少しの行動で世界が根本から書きかえられる、というものだ。

だが、きっとそんなシステムは、少なくともこの世界に存在しない。

暁見ほむらが繰り返した時間軸。

その長い一カ月に、想定しえない偶然はあっただろうか。

無いに等しい、というのが事実だろう。

巴マミの死、美樹さやかの魔女化、佐倉杏子の見滝原への移住。

それらはまるで、最初からそうなることが決まっているように起こった。

294: ◆fJz13rtmKU 2011/06/15(水) 23:03:34.97 ID:7VC6l8zL0

歴史の修正力、というには浅い歴史だが、近いものだろう。

もっとも、たった一か月では羽ばたきが嵐になるには足りていないだけかもしれない。

そもそも、それは今、重要ではないのだ。

大事なのは、原因を探り、的確に対処すれば防げる事象が有ること。

ほむらが転校前にインキュベーターを排除し、鹿目まどかと接触させなかったように。

未来を変える選択肢は、確かにそこにあるのだ。

ならば、今回も同じことだった。

295: ◆fJz13rtmKU 2011/06/15(水) 23:04:22.23 ID:7VC6l8zL0

それは、世界にとってありえてはならぬ存在。

片方は、異なる時間に生きる少女。

そしてもう片方は、そもそも世界に現出できないはずの存在。

だが、確かに存在していた。

美国織莉子が壊れ、狂ってしまう、その過去といえる時間に存在していた。

それは、二人であって一人だった。

髪は腰まで伸ばされ、先が分かれている。

魔法少女にしては、制服のような落ち着いたデザイン。

296: ◆fJz13rtmKU 2011/06/15(水) 23:05:07.66 ID:7VC6l8zL0

だが、髪の色は桃色だった。

装束も、桃と白を基調としたものであった。

そう、丁度暁美ほむらと鹿目まどかを合わせたような姿。

とん、と軽く所有者も知らぬビルの屋上に降り立つ。

ゆっくりと、金色の瞳が開かれる。

そして、世界を見据えた。

297: ◆fJz13rtmKU 2011/06/15(水) 23:07:11.77 ID:7VC6l8zL0

この場所に居るはずのない二人、否、一人。

だが、一応原理は説明できる。

まどかの願いは、過去と未来、全ての魔女を消し去ること。

そして、実際の目的は魔法少女の救済。

ほむらの願いは、まどかを守る自分に変わること。

自分のすべてをかけて、まどかのために生きること。

二人の願いがそういうものだったからこそ、この状況がある。

時間を超えることができず、現実に生きる少女。

現実に干渉できず、すべての時間に生きる少女。

二人が互いの穴を埋め合った。

ただ、それだけのことだった。

298: ◆fJz13rtmKU 2011/06/15(水) 23:07:55.50 ID:7VC6l8zL0

この場所に居るはずのない二人、否、一人。

だが、一応原理は説明できる。

まどかの願いは、過去と未来、全ての魔女を消し去ること。

そして、実際の目的は魔法少女の救済。

ほむらの願いは、まどかを守る自分に変わること。

自分のすべてをかけて、まどかのために生きること。

二人の願いがそういうものだったからこそ、この状況がある。

時間を超えることができず、現実に生きる少女。

現実に干渉できず、すべての時間に生きる少女。

二人が互いの穴を埋め合った。

ただ、それだけのことだった。

299: ◆fJz13rtmKU 2011/06/15(水) 23:10:46.41 ID:7VC6l8zL0

『―――本当に、いいの?』

念を押すように、問う。
答えは、きっと決まっている。
言わずとも、それはわかっている。

けれど、聞かずにはいられない。
鹿目まどかは美国織莉子によって、一度殺されているのだから。

『……うん、もちろん』

予想通りの返答。

それもそうか、とほむらは自嘲した。
まどかは他人の為に自分の幸せを捨てるのではない。
他人の幸せこそが、自分の幸せなのだ。

極端な話、自分の命で世界が救えると聞けば喜んで差し出すタイプなのだ。

300: ◆fJz13rtmKU 2011/06/15(水) 23:12:01.24 ID:7VC6l8zL0

『……あなたがいいなら、私もいいわ』

そう、構わない。
たとえ、美国織莉子がまどかを殺していても。
それは、過去の出来事だ。

そして、全ての魔法少女は彼女にとって守るべきもの。
美国織莉子とて例外ではない。

ならば、自分もそれに倣うだけだ。

だって、これは他でもない。

まどかが望んだ選択だから。

301: ◆fJz13rtmKU 2011/06/15(水) 23:13:00.98 ID:7VC6l8zL0

ヒュン、と弓を現出させた。

それもまた、武器であり概念そのものでもある。

「「……過去を変えるなんて、傲慢なのはわかってる」」

声が重なる。

「「だけど、それでも、絶望することを認めたくない」」

光の矢を生み出し、それを弓につがえる。

「「―――だから、これが『わたし』の選択!!」」

咆哮と同時、放たれた。

302: ◆fJz13rtmKU 2011/06/15(水) 23:14:11.11 ID:7VC6l8zL0

ヒュン、と弓を現出させた。

それもまた、武器であり概念そのものでもある。

「「……過去を変えるなんて、傲慢なのはわかってる」」

声が重なる。

「「だけど、それでも、絶望することを認めたくない」」

光の矢を生み出し、それを弓につがえる。

「「―――だから、これが『わたし』の選択!!」」

咆哮と同時、放たれた。

303: ◆fJz13rtmKU 2011/06/15(水) 23:14:48.84 ID:7VC6l8zL0

桃と紫の光の矢。

一対のそれは、まるで比翼の鳥のように飛翔する。

それが、二人を表しているようで。

交わらずとも、同じ道に進み続ける二人のようで。

その矢が切り開くは、未来。

ただ、純粋な幸せな結末。

そうして、

光が、魔獣を貫いた。

304: ◆fJz13rtmKU 2011/06/15(水) 23:15:36.84 ID:7VC6l8zL0

緑髪の少女が叫ぶことはなかった。

とある議員が死ぬことはなかった。

ただ、何事もなく通り過ぎていった。

まどかであり、ほむらである少女の姿が薄れていく。

その顔には、満足そうな微笑み。

きらきらと光る粒子だけを残し、本来あるべき場所へと帰っていった。

305: ◆fJz13rtmKU 2011/06/15(水) 23:17:21.78 ID:7VC6l8zL0








―――そして、世界は歪みを受け入れ、未来へと収束する。











313: ◆fJz13rtmKU 2011/06/17(金) 00:13:33.70 ID:i9lo0swf0

じゅ、と指先が熱した金属に触れてしまい、即座に手を引く。

「熱っ……」

ふー、と軽い火傷を負った指に優しく息を吹きかける。

「……やっぱり、お菓子作りの最中に考え事は駄目ね」

す、と冷水を求めて流し台に向かう。
そこで、

「織莉子ぉおおおおおっ!!」

横から見知った顔が駆け寄る。
ぽかん、と口を開けて呆けているうちに、その腕を掴まれる。
そして、

「………っむ!」

はむ、と指を咥え込む。
その奇行にも慣れているのか、あらあら、と苦笑した。


314: ◆fJz13rtmKU 2011/06/17(金) 00:14:07.91 ID:i9lo0swf0

ぺろと指を素早く舐めとる。
その速度は、戦闘時の爪さばきに勝るとも劣らない。

「……キリカ、それは火傷の治療じゃないわ」

いつまでもそうしてはいられず、さすがに織莉子がギブアップ。
だが、キリカは指を離さない。

「ふぇも、ふぃふゅふぁふぉうふふぁっふぇふゅふぁは……」

指を咥えたまま答えられ、ひどくこそばゆい。

「……はいはい、口を開けてから話してくれる?」

「……っぷは」

ねっとりと、唾液が糸を引く。
傍から見れば、どことなく○○な光景だった。

315: ◆fJz13rtmKU 2011/06/17(金) 00:14:46.20 ID:i9lo0swf0

「問題無いよ、治療魔法使ってるんだからさ」

「……それなら、巴さんやゆまちゃんに頼めばいいと思うのだけど」

至極もっともな意見に、びく、と図星を突かれながらも反論する。

「い、いや、でもさ! このくらいなら私くらいでも十分―――」

「私が自分で治療しても、同じなんじゃない?」

うぐぐ、とどうにか食い下がろうとする。

「……織莉子は、私がイヤ?」

涙目、上目づかい、弱々しい声色。
これを芝居でなく、本心から出しているというから恐ろしい。

316: ◆fJz13rtmKU 2011/06/17(金) 00:15:15.32 ID:i9lo0swf0

きゅん、とときめきながら織莉子は少し頬を染める。

「……ずるいわ。嫌だと言えないって、わかってるでしょう?」

「んー? 正直に行動してるだけだよ?」

それがずるいの、と唇をとがらせた。

少し前までは子供をあやすように接していたのに、これではまるで立場が逆だ。
最近はずっと、彼女の行動に振り回されている気がする。

だけど、それでいいと思った。
何故だかわからないが、この時間がたまらなく幸せだった。

317: ◆fJz13rtmKU 2011/06/17(金) 00:16:12.86 ID:i9lo0swf0

「……ふふ、本当に仲がいいわね」

声の方を見れば、金髪の少女がエプロンをつけて立っていた。
先ほどまで自分が焼いていたクッキーは、彼女が皿に盛ってくれていた。

「ありがとう……でも、これはちょっとオーバーでしょう?」

「そう? 羨ましいけれど……キュゥべぇはこんなことしてくれないから、かしら?」

ふふ、と笑いながらマミはキュゥべぇの事を思い出す。
理性の塊、というか理性しかない彼はこうやって甘えてはくれない。
そういう彼を甘やかして、戸惑う姿を見るのも面白いのだが。

そんな中、キリカがマミに訝しげな視線を送っていた。

「……そんなこと言って、織莉子を誘ってるの?」

「いえ、別に―――」

「織莉子は渡さない! 織莉子は私の織莉子なんだからー!」

318: ◆fJz13rtmKU 2011/06/17(金) 00:16:42.37 ID:i9lo0swf0

ぎゅうう、とキリカが強く織莉子に抱きつく。

ふふ、と頭を撫でてそれに答える。

「……奪われるかと思ってるのは、私の方なのに」

「ん、何か言った?」

「いいえ、何も?」

同じ学校の三年生であるマミと、違う学校に通う自分。
比べれば、前者の方が接触しやすい。
自分が捨てられるかもしれない、と少しだけ思ってしまうのだ。

けれど、そんなことはキリカに悟らせない。
自分が嫉妬しているなんて、悔しくて、恥ずかしいから。

319: ◆fJz13rtmKU 2011/06/17(金) 00:17:12.00 ID:i9lo0swf0

ふぅ、とマミは二人を見ながらゆっくりと息を吐いた。

他人の入る余地が無いほど、互いを求めている二人が微笑ましかった。

羨ましくも思ったけれど、やめておく。

こういう二人は、遠くから見ているのが楽しいのだ。

ピー、と水が沸騰した合図がした。

くる、とそちらに振りかえり、紅茶の準備を始める。

自分ももう少し、キュゥべぇを弄ってみようかと考えながら。

320: ◆fJz13rtmKU 2011/06/17(金) 00:17:40.67 ID:i9lo0swf0

ぽりぽり、と寝そべりながらロッキーを食べ進める。

「……キョーコ、行儀悪い」

「いーだろ、別に……お前も食うかい?」

いらない、とゆまが首を振る。

「……あんたさ、他人の家だってのに態度デカすぎでしょーよ」

「いーんだよ。働いた分休まねーと、魔法少女やってけねーぞ?」

「今日の魔獣は織莉子さんの予知とマミさんの射撃とほむらの矢だけで倒したような……」

「言うな……ってーか、予知と遠距離攻撃が相性良すぎなんだよ」

はぁ、と息を吐く。

321: ◆fJz13rtmKU 2011/06/17(金) 00:18:11.25 ID:i9lo0swf0

織莉子が加わってから、魔獣退治は格段に楽になった。
出現も予測できるし、どう動くかも手に取るようわかるのだ。
遠距離攻撃だけで討伐できるのも仕方ない。

けれど、なんというかこのままでは腕が鈍る。
いや、そもそも戦う必要がなければそれでもいいのだろうが。

なんだかんだ言って、杏子は戦闘を少しは楽しんでいた。

けれど、戦いと呼べる戦いのないここ最近。

杏子は巴宅の居間でごろごろ転がるだけだった。

DDRでも極めようか、とだんだん思考がダメ人間になってきた。

天国の父親は嘆くだろうか。

それとも平和が一番だ、と喜ぶだろうか。

その答えは、神のみぞ知る。

322: ◆fJz13rtmKU 2011/06/17(金) 00:18:52.42 ID:i9lo0swf0


「……はぁ、ちょっとは先輩を見習いなさいよ。マミさんと織莉子さんにお菓子作ってもらってるんだし」

「キリカはー?」

「キリカさんは……あー、うん……」

さすがにお茶を濁す。
少し、いやかなり大げさな織莉子への愛情表現。
さすがにあれは見習ってはいけない。

「……戦闘中は、頼りになるんだけどね」

織莉子との心の距離が近いキリカ。
それゆえ、自然と心の声が伝わるのかどうか知らないが、的確な行動ができる。
キュゥべぇ曰く理論上ありえないらしいが、本人は愛のなせる業と気に入っている。
近接組が用無しになった今でも、彼女はそれなりに働いていた。


323: ◆fJz13rtmKU 2011/06/17(金) 00:19:22.54 ID:i9lo0swf0

はぁ、とさやかも面倒くさくなったのか、ごろん、と転がる。
そうして、やけに目につくものを発見する。

ゆまの頬。
ぷにぷにだ。
恐らくぷにぷにだ。
幼女特有の柔らかさがあるに違いない。

さやかも戦闘で仕事がなく、欲求が溜まっていたのだろう。
まともな思考ではなかった。
両腕をゆまの顔の横に持っていく。

そして、

ふにょん、と横に引っ張った。

324: ◆fJz13rtmKU 2011/06/17(金) 00:19:58.74 ID:i9lo0swf0

「ふ、ふぇ!?」

「な……っ! 弾力が強くない代わりにマシュマロのようなふっくらとした触り心地……だと……!?」

さやかはその感触に夢中になった。
ふにょんふにょん、と引っ張られる頬にされるがままで困った顔のゆま。

「あーあーその顔、ホントそっくり! あたしの―――」

はて。
あたしの『何』に似ているんだろうか。
そもそも自分は誰にたとえようとしたのか。
もやがかかったように、そこが思い出せなかった。

むー、と悩んで首をかしげる。
その間も、ゆまはふにょんふにょんされていた。

325: ◆fJz13rtmKU 2011/06/17(金) 00:20:26.65 ID:i9lo0swf0

「……何、やってるの?」

「さあ? お、美味そうだな」

クッキーの盛られた皿を持ったまま、マミが固まった。
どうでもよさそうに杏子は答えてひょい、とクッキーを口に運ぶ。

むぐむぐ、ごくん、と食べきって、満足そうに笑みを浮かべた。

マミの後ろから、キリカに抱きつかれながら紅茶を運ぶ織莉子がやってくる。

さやかとゆまの様子を見て、可笑しそうにふふ、とただ笑った。

326: ◆fJz13rtmKU 2011/06/17(金) 00:21:00.09 ID:i9lo0swf0

「……なるほど、確かに面白い仮説だ」

夜風に吹かれ、小動物の尻尾が揺れる。

「過去を書き換え、今のこの状況を作り出した……今の君たちがうまくいきすぎている説明ができる」

「……仮説でなく、事実よ」

「ああ、だろうね」

インキュベーターは肯定せざるをえなかった。
信じがたい仮説ではある。
だが、

「……世界の概念をこの目で見たからには、君を信じずにはいられない」

そこには、鹿目まどかがいた。

327: ◆fJz13rtmKU 2011/06/17(金) 00:21:27.95 ID:i9lo0swf0

「まあ、まだほむらが僕に幻覚を見せているという可能性も捨てきれないが……」

そう言って、首を振る。

「そういう様子も無いし、そもそも君の能力はそういう種類のものではないから、ね」

暁見ほむらの能力。

小細工なしの、単純に火力が高く、単純に速く、単純に攻撃範囲が広く、単純に汎用性が高い。
ただ、それだけの能力。

幻惑系の能力など、欠片も使えはしない。

ただ、テレパシーの応用でキュゥべぇと視界を共有し、まどかを見せているだけだ。

328: ◆fJz13rtmKU 2011/06/17(金) 00:22:00.40 ID:i9lo0swf0

「……それで、どういうことかわかるかしら?」

「まさか。情報が少なすぎてどうにも言えないよ、強いて言うなら……」

ちら、とほむらとまどかを交互に見る。

「『鹿目まどか』という概念の存在が、『暁見ほむら』という一人の少女に引き寄せられた、といったところだろう」

そう、とほむらは興味無さげに返した。

結局、自分の見解と同じであったから。

「……ほむらちゃん」

遠慮がちに、まどかが呼んだ。

329: ◆fJz13rtmKU 2011/06/17(金) 00:22:28.26 ID:i9lo0swf0

「わたし、魔法少女が絶望しなければ……救われれば、それでいいって思ってたの」

ぽつ、と言いにくそうに続ける。

「でも……でも、わたし、嬉しいの」

ぎゅ、とほむらの手を握った。

「ほむらちゃんとだけでも、こうして触れあえるようになったことが……魔法少女を救うことより嬉しいの」

ようやく芽生えた自分の為の望みに、驚きと悲しみで涙が溢れる。

「駄目だよね……わたし、どうして今更気付いたんだろ」

絞り出すように、言った。

「ほむらちゃんの、傍に居たいよ……っ!」

330: ◆fJz13rtmKU 2011/06/17(金) 00:23:00.12 ID:i9lo0swf0

「……待ちわびたわ」

ぎゅ、と優しくその身体を抱きしめる。
世界に触れられず、ほむらにだけ見えて、触れられるその身体を。

「あなたが本当の意味での、自分の幸せを求めてくれることを」

そう、待ちわびた。
何度も何度も繰り返す時の中で。
幾度も命を犠牲にし、他人を思い続けた少女。

そのまどかが、自分の幸せを求める瞬間を。

「……絶対にあなたを救ってみせる、あなたが幸せになれる未来を、勝ち取ってみせる」

それは、ある時間軸での決意に似ていた。
けれど、違う。
その顔は、確信と、希望に溢れていたのだから。

331: ◆fJz13rtmKU 2011/06/17(金) 00:23:36.11 ID:i9lo0swf0

「……僕も協力させてもらうよ。概念ともなれば、魔法少女としての資質も高いはずだ」

キュゥべぇの言葉に、ほむらがむっとした。

「水を差さないでくれるかしら……せっかくいい雰囲気だったのに」

「やれやれ、どうしてそんなに冷たいんだい? わけがわからないよ」

はぁ、とほむらは溜息をついた。
理由は言っても仕方ない。
世界のシステムが、変えられる前の話なのだから。
このキュゥべぇに言っても仕方ないのだ。

くすくす、とまどかが笑った。
両者の険悪な関係が、ひどく懐かしかったから。

それを見て、嬉しそうにほむらが微笑む。

感情の理解できないインキュベーターは、首をかしげるだけだった。

332: ◆fJz13rtmKU 2011/06/17(金) 00:26:21.81 ID:i9lo0swf0

「……さて、戻ろうか。マミ達の用意もできたようだし」

ええ、うん、と二人の少女が同意する。

「マミさんの、かぁ……懐かしいなぁ」

過去に思いを馳せ、目を細める。

「きっと、すぐに食べられるようになるわ……すぐに、ね」

ほむらの瞳には、決意の光がともっていた。

そうして、歩き出す。

考えることはたとえ異なっていても、同じ、一つの未来へ。



―――not END,but CONTINUE 



341: ◆fJz13rtmKU 2011/06/18(土) 21:47:36.58 ID:IHQNM34b0

「……孤児の生活支援?」

そう、と織莉子が頷く。
問いかけたキリカの頭は彼女の膝の上。

「お父様が提案したらしくて、結構な賛同を得ているらしいわ」

ふぅん、となんとなく納得する。
魔獣のはびこるこのご時世、家族を失う子供も多いのかな、と。

「……でも、実施するにはいろいろと手順があるらしくて、まずは試験運用を計画しているらしいの」

「なるほど……面倒くさいね」

本当に、国というのは面倒だ。
いちいち話し合って決めて、それで責任を押し付けあう。
『絶対に間違いを犯さない独裁者』なんてものがいれば、もっと単純に済むんだろうか、と思う。

残念ながら、そううまくいくことはないのだけど。

342: ◆fJz13rtmKU 2011/06/18(土) 21:48:31.44 ID:IHQNM34b0

「里親の斡旋と、生活費の支給、学費の免除……は検討中ね。公立高校も無償化されたし」

随分と政治について話すなあ、と不満ではないが疑問に思った。
織莉子はあまりそういう話は自分にしないのに、とキリカは首を傾げる。

「それで、その候補者が……」

す、と脇に置いてあった茶封筒から書類を出す。
そこに貼り付けてある写真には、見覚えがあった。

「……本人には?」

「まだ、よ……里親希望の人が直接話したいんだって」

「ふぅん……」

書類は2枚。
佐倉杏子、千歳ゆま、という名前があった。

343: ◆fJz13rtmKU 2011/06/18(土) 21:49:01.17 ID:IHQNM34b0

「―――大丈夫なの?」

「……ん、何が?」

ほむらの家に場面は変わり役者も変わり、同じ話題。
ごしごし、と風呂上がりゆえにタオルで髪を拭く。

ドライヤーの方がいいんじゃないかとまどかは言ったが、最近めっきり使っていなくてどこにあるかわからない。
眼鏡をやめた辺りからそういうところが粗放的になったか、と思い返す。

それでも十分髪や肌は同性から羨まれるほどなのだが。

「美国織莉子の父親……賄賂の件があるでしょう?」

かぱ、と牛乳のパックを開けてコップに注ぐ。
風呂上がりの牛乳、この習慣は変わっていない。

344: ◆fJz13rtmKU 2011/06/18(土) 21:49:34.87 ID:IHQNM34b0

「うーん、そのはずなんだけど……」

「…………?」

こく、こくとコップの中身を飲み干す。
ふぅ、とそれを口から離せば、おヒゲついてるよ、とまどかに指差された。

「発覚するはずの日付は過ぎてるし、もしそうなら過去を変えても死んでるはずだから……」

「なるほど、それもそうね」

ごしごし、と口元を拭いながら同意した。

もうすでに美国織莉子がまどかを殺害した日は過ぎている。
彼女が契約するきっかけはその前にあるはずだ。

345: ◆fJz13rtmKU 2011/06/18(土) 21:50:42.28 ID:IHQNM34b0


「……まあ、起きても大丈夫でしょう」

ほむらにしては、楽観的な意見。

「支えてくれる人が多ければ、悲しみと衝撃を和らげることができる」

「……そうだね。今の彼女ならきっと大丈夫」

魔法少女は、希望をふりまく存在。

ならば、魔法少女自身も希望を信じるべきだろう。

346: ◆fJz13rtmKU 2011/06/18(土) 21:51:20.94 ID:IHQNM34b0

『―――謎の多いこの変死事件ですが、手掛かりは未だ見つかっていません。

 怪物の目撃情報、対抗候補による暗殺疑惑などもありますが、決定的な証拠はゼロ、真相は闇に―――』

そう、つけっぱなしのテレビから聞こえる雑音も気にする必要はない。

政敵が死んだために賄賂など必要無かっただとか、そういう現実的な話はしなくていい。

彼女らにとって、今この瞬間が大事なのだから。

訪れなかった悲劇など、憂う必要は無いのだ。

347: ◆fJz13rtmKU 2011/06/18(土) 21:51:56.41 ID:IHQNM34b0

「んん……」

ぐ、と杏子が伸びをする。

とてとて、とゆまが付いて歩いている。

今日も今日とてホテル暮らし。

贅沢ではあるが、自分の部屋でないからなんとなく落ち着かない。

ゆまなら尚更。

杏子よりも幼く、慣れていないのだから仕方ない。


348: ◆fJz13rtmKU 2011/06/18(土) 21:52:30.97 ID:IHQNM34b0

そこに、

「みぃつけたぁ」

背後から、女性の声が聞こえた。
敵意は感じなかったので、億劫そうに振り向く。
すると、

「杏子ちゃ~ん!」

いきなり抱きつかれ、そそくさと身体を探られる。

「嗚呼……不健康な生活してるくせに無駄な肉の付いていない肢体! お姉さん羨ましいわー」

「どこ触って……って酒臭っ!? 絶対酔ってるだろ!!」

349: ◆fJz13rtmKU 2011/06/18(土) 21:53:10.96 ID:IHQNM34b0

「ふふふ~家族が増えるんだから、嬉しいことこの上無いわよ! あら、ゆまちゃんも」

「……あ」

顔をよく見て思い出した。
確かコンビニの店員だったか。
杏子に食べ物をあげていた、あの。

「家族が、ね……結婚かい? 婚期は間に合ったみたいじゃないか」

「ふふ……残念、ハズレ」

「じゃあ、養子縁組でもするのかい? それにしちゃあ若いような……」

350: ◆fJz13rtmKU 2011/06/18(土) 21:53:41.88 ID:IHQNM34b0

にっこり、と笑みを浮かべながら杏子の顔に指をさす。

「……何だよ、その指」

「あなたと、ゆまちゃん。 私の娘」

ね? と笑みを深くする。

は、と口を開けたまま固まった。
そのまま、杏子の視界がぐるん、と回った。

「ちょっ、なっ……!」

肩に抱えられ、あっはっはーと持ち上げた方は笑い出す。

351: ◆fJz13rtmKU 2011/06/18(土) 21:54:20.98 ID:IHQNM34b0

「反論は受け付けない! お役所の命令だしね!」

「……まだ何も言ってねーのに」

溜息をついたが、それほど不満な表情ではなかった。
大人に抱えられるという体験が、幼い頃を思い出させた。

だからなのか、反対する気がまったく起きなかった。

最近になって、希望に触れてしまったからか。

どうにも、この幸せな感触を拒みたくなかったのだ。

352: ◆fJz13rtmKU 2011/06/18(土) 21:54:52.70 ID:IHQNM34b0

拝啓、親父……見てるか?

もう顔も見たくないかもしれないけど、あたしは元気でやってるよ

最近さ、友達ができて……ああ、この友達ってーの、くすぐったい響きだな

まあ、うまくやってるよ……それで、今度はさ

新しく、家族ができるみたいだ。

複雑だけど、母親も妹もいいやつだし、いいかなって思うんだ

人を惑わす魔女のくせに、古い家族を捨てて自分だけ報われるのかって怒るのはわかる

だけど、一応言っておきたかったんだ

今更謝っても、許してくれないだろうけど

たまにはあたしのことを思い出してくれると、嬉しい

353: ◆fJz13rtmKU 2011/06/18(土) 21:55:23.99 ID:IHQNM34b0

そんな、少し恥ずかしい言葉を心で綴って、そのまましまい込む。

どうせ読んでくれる相手は居ないのだ。

感傷に浸っている暇もなく、騒がしく時間は回る。

優しい日常に、佐倉杏子と千歳ゆまも巻き込まれていく。

夜空の星が、美しく瞬いていた。

360: ◆fJz13rtmKU 2011/06/20(月) 00:04:30.71 ID:I+lNDVGx0


「それじゃあ自己紹介、いってみよー!」

「あー、佐倉杏子……です」

周りに乗せられた結果、こうなった。
中学生が転校生に向ける興味の視線がすごく疲れる。

敬語は付けるべきか迷ったが、第一印象は重要だろう、と考えてやっぱり付けた。

「佐倉さんは……えー、はい、ここで質問です!」

びしぃ、と突然力強く指を差される。
家族が居ないことをあまり広めないよう配慮し、他に興味を逸らしたのだ。

杏子にとってはこちらの方が面倒なのだが。

「蜜柑の房に付いているあの白いのはそのまま食べるか剥がすか、さあどっちでしょう佐倉さん!」

何故その質問なのか、と突っ込みたくなった。
だが、周りの様子を見るにこれが普通なのだろう。

361: ◆fJz13rtmKU 2011/06/20(月) 00:05:30.15 ID:I+lNDVGx0

「……もったいないからそのまま食べる。アレ栄養あるし」

「そう! もったいない! その精神こそ重要です!」

がしぃ、と手を握られる。

「いいですか女子のみなさん! くれぐれも物を大事にしない男とは交際しないように! ぞんざいに扱われますよ!」

そして、と言って顔を両手で覆う。

「男子の皆さんは、そんな大人にならないように……」

なんだかその先生の所だけスポットライトが当たっているような気がした。

ああ、振られたんだなぁと初対面ながらに分かってしまった。

362: ◆fJz13rtmKU 2011/06/20(月) 00:06:23.81 ID:I+lNDVGx0

「ねーねー佐倉さんってどこから来たのー?」

「髪長くていいなぁ、私もそんな結い方してみたーい」

「運動部の経験あるー? 陸上とかやってみようよー」

わいわいがやがやと取り囲まれる。
こういう雰囲気は慣れていない。
囲まれる対象は、自分というより父親だったから。

どうしたものか、と悩んでいるうち、正面に誰かが立った。

「はいはいストーップ! 聖徳太子じゃないんだからそんなにさばけないよー?」

「……さやか?」

363: ◆fJz13rtmKU 2011/06/20(月) 00:07:09.07 ID:I+lNDVGx0

「うーん驚いたよ、ホントに編入してくるなんてさ!」

「……そうね、私からのメールを確認せず、朝に会って直接聞いてようやく知ったものね」

うぐ、と背後からの口撃に痛いところを突かれる。
その主は暁見ほむら。

「まさか、あんた達も同じクラスなのか?」

そういうやりとりを、噂好きなクラスメイトは見逃さない。

「何々ー? もしかして美樹さんと暁美さんの知り合いー?」

「転校初日なのに? 因縁のライバルとかー?」

364: ◆fJz13rtmKU 2011/06/20(月) 00:08:21.22 ID:I+lNDVGx0

なんだか勝手にイメージが作られていく気がするがとりあえず訂正する。

「ボランティア仲間よ……ちょっとした、清掃活動のね」

なるほど、間違ってはいないなと納得した。
確かに清掃活動かもしれない。
街にはびこる、人間に不要なものを除去しているのだから。

マミ辺りが聞けば、少し怒りそうだが。

「ふーん、そうなんだー」

「もったいないとかさっき言ってたしねー、エコに興味あるのー?」

365: ◆fJz13rtmKU 2011/06/20(月) 00:09:19.52 ID:I+lNDVGx0

そういう話題になって、チャイムが鳴る。
それじゃあ後でー、と言いながらいそいそと席に戻っていく。

ふぅ、と解放されて息を吐いた。

「……あがってる?」

「あー、まあな……」

「ほほう……それでは新米の杏子ちゃんにさやかちゃんが―――痛ッ!?」

ガスン、と教科書の角が突き刺さった。

「余裕だな美樹……暁美はともかく、お前は予習してきているのか?」

「あ、ははは……」

366: ◆fJz13rtmKU 2011/06/20(月) 00:10:33.15 ID:I+lNDVGx0

引き攣った笑みを浮かべながらじりじりと後退する。

その間にほむらは、既に着席していた。

「よろしい……今日の問題は全部お前に答えてもらおう!」

「ひぃいいいっ!? な、何卒ご容赦をーっ!?」

やっばー予習とかやってないわーと脳内で頭を抱える。

『ちょっ……ほむら! 教えてくれるよね!?』

『……日ごろの行いよ、悔いなさい』

テレパシーで返ってくるのは、冷たい返答。
そんなぁ! と一人で大声をあげるさやか。
飛来したチョークが、甲高い音を立てて額に直撃した。

367: ◆fJz13rtmKU 2011/06/20(月) 00:11:14.56 ID:I+lNDVGx0

同じころ、もう一人はと言うと。

「千歳ゆまです……よ、よろしくおねがいします」

ぴょこん、と未熟な水鳥が水中に顔を沈めるように礼をする。

一瞬、沈黙があった。

何か変なことをしてしまっただろうか、と不安になる。
しかし、それは杞憂に終わった。

「かわいー!」

「どこから来たのー? 山ー? 海ー?」

368: ◆fJz13rtmKU 2011/06/20(月) 00:11:50.49 ID:I+lNDVGx0

わいわい、と一気に騒がしくなる。
クラスメイトに囲まれて、ゆまは戸惑った後、すぐに笑みを浮かべた。

冷たくされるのは慣れていた。

優しくされるのは慣れていない。

だから、くすぐったくて、嬉しかった。

自分がなにもしてなくても、話しかけてくれる。

そんな『当り前』が、ようやく手に入った瞬間だった。

377: ◆fJz13rtmKU 2011/06/20(月) 23:46:30.92 ID:EMFKV9lS0

放課後。

「んん……」

ぐぐ、と伸びをする。

こんなに長い時間椅子に座っていたのは久しぶりだ。

勉強はやはりわからないところが多かった。

数学なんて公式だとか言われても意味がわからない。

ただ、国語と英語はなんだかよくできた。

父親と一緒に聖書の朗読をしていた成果かな、と少し昔を思い返す。

小さい頃は絵本を買う金も無かったので、本と言えば両親の小難しいものしか読んだことは無い。

そんな杏子の音読を聞いて、その透き通る声に数人がうっとりしていたのには気付かなかった。

378: ◆fJz13rtmKU 2011/06/20(月) 23:47:52.63 ID:EMFKV9lS0

面白かったのは体育だ。

バトミントンをほむらを相手にやったのだが、これが中々白熱するのだ。

相手は矢を射るのと同じく、正確に打ち込んでくる。

それを持ち前の反射神経で打ち返す。

気付いた時には周りを観衆に囲まれていた。

結局、チャイムが鳴るまでその試合は続いた。

後で見たら、羽根がぼろぼろになっていたのはもったいなかったが。


379: ◆fJz13rtmKU 2011/06/20(月) 23:48:23.42 ID:EMFKV9lS0

疲れたが、まあそのうち慣れるだろう、と思いながら立ち上がる。

「おっす杏子ー、ゆまちゃん迎えに行くの?」

「ああ、あっちもそろそろ終わってる頃だろうしな」

さやかの言葉に、鞄を持つ手を肩に乗せ、後ろに持ちながら答える。

「なら、行きましょう……あと三人ほども行くらしいわ」

「三人? ああ……別にいいのに」

「……世話焼きなのよ。それに、仲間でしょう?」

「……そうだったな」

ほむらにしては恥ずかしい台詞に、杏子がぽりぽりと頬を掻く。
やっぱり仲間とか友達とか、そういうのは慣れない。

380: ◆fJz13rtmKU 2011/06/20(月) 23:48:59.86 ID:EMFKV9lS0

学校の前の道に、マミと織莉子とキリカがいた。
またキリカが織莉子に抱きついているのがいつも通りに面白くて、やはり笑ってしまう。

面と向かってそうすると、私の愛を馬鹿にするなとかなんとか言われるから気付かれないようにするが。

「それじゃ、行きましょうか」

「おう……ってーか織莉子は違う学校なんだし、わざわざ来るのは面倒だろーに」

「ふふ、お父様に送ってもらったから大丈夫よ。皆も乗せて迎えに行っても良かったんだけれど……」

「……さすがに黒塗りの長い車で小学生の送迎は妙な目で見られるでしょう」

この大所帯で迎えに行くのも十分目立ちはするのだが。

それでもまあ、全員が行きたいのだから仕方ない。

381: ◆fJz13rtmKU 2011/06/20(月) 23:49:32.41 ID:EMFKV9lS0

ゆまの通う小学校はすぐ近くだった。

他愛ないことを話して、時間を潰す必要もないくらい。

様々な表情をした子供たちが出てくるのが目に見える。

鬼ごっこをしながら帰っている者もいて、なんだか微笑ましくなってくる。

そんな中に、緑色が混じっていた。

クラスメイトなのか、女の子数人と話している。

その明るい表情から、馴染めていることがなんとなくわかった。

「おーい、ゆまー!」

382: ◆fJz13rtmKU 2011/06/20(月) 23:50:25.85 ID:EMFKV9lS0

ぶんぶん、と杏子が腕を大きく振って呼びかける。

気付いて、ゆまがたたた、と走り寄ってきた。

「キョーコ、皆!」

ぱぁ、と顔を輝かせながら杏子に抱きつく。

「……っと、どうだい、学校は?」

「楽しいよ! 友達だってできた!」

そうか、と言いながら見れば、先ほど話していた少女も近くまで来ていた。

どことなく緊張した面持ちで、頭を下げてくる。

383: ◆fJz13rtmKU 2011/06/20(月) 23:51:20.36 ID:EMFKV9lS0

「あ、あの……私、友達にならせていただきまし―――」

「ああ、いいっていいって、そういう堅苦しいの無しに、仲良くしてやってくれ」

な?と言えば、こくん、と頭を下げた。

素直でいい子だな、というのが率直な感想。

こういう子がいるなら、これからもゆまも笑って通えそうだ。

そう思っていると、なんだか騒がしくなってきた。

「キョーコ、っていう人がゆまちゃんのお姉ちゃんだよね? なんかかっこいいなー」

「髪が黒くて長い人と制服違う人は女優さんやモデルみたいだよねぇ……いいなぁ、あんな人になってみたいよ」

384: ◆fJz13rtmKU 2011/06/20(月) 23:52:07.80 ID:EMFKV9lS0

どうやら長居をすると、噂になってしまいそうだ。

子供の相手は嫌いではないが、今日はとにかく疲れた。

ゆまの手を握り、笑いかける。

「……それじゃ、帰ろうか」

「うんっ!」

満面の笑みでそれに答える。

帰るべき場所、身体だけでなく、心が休まる家。

それが今の彼女達には与えられている。

当たり前で、それでも嬉しい。

当たり前であることが、幸福なのだから。

家族のいない彼女たちだからこそ、気付けた幸せだった。

392: ◆fJz13rtmKU 2011/06/22(水) 00:07:50.53 ID:gc5PUDYe0

「……キュゥべぇ」

「なんだい、唐突に?」

ことん、とマミが紅茶の入ったグラスを机に置く。
冷たい飲み物はさすがに透明な容器がいい。

蝉は未だ騒がしい、というほど鳴いてはいない。
それでも衣替えの季節は過ぎている。

マミの服装はワンピースだった。
その豊満な体のラインに沿っていて、道を歩けば男どもが振り返りそうな。

「労働には、報酬があるわよね」

「そうだね、余程のブラック企業でもない限りは」

「有給休暇っていうのもあるわね」

「……あるね」

393: ◆fJz13rtmKU 2011/06/22(水) 00:08:44.19 ID:gc5PUDYe0

ああ、となんとなく予想がついた。

このシーズン、この展開で言い出すことは一つだ。

今までは一人だったから、こういうことはなかったのだが。

まあ、年頃から考えて人間にとっては妥当か、と経験から判断する。

正直自分には理解できないが、とインキュベーターは心の中で首を振った。

感情があるからこそこういうよくわからないイベントを楽しむのだろうな、とも思ったが。

とにかく、マミが言いたいことは、

「―――海に行くわよ」

その一言、そう決まっているのだ。

394: ◆fJz13rtmKU 2011/06/22(水) 00:09:13.83 ID:gc5PUDYe0

「……なるほど、有給休暇とは言いえて妙だ」

だけど、と釘を刺す。

「魔獣はどうするんだい? 誰かに留守番を頼むわけでもないだろうし、まして放置もできないだろう?」

それが問題だった。
前者はマミの性格上ありえないだろう。
後者は尚更だ。
キュゥべぇとしても逃がせばエネルギーが回収できないし、不都合ではある。

「……ふふ、キュゥべぇ、何か忘れていないかしら?」

したり顔でマミが笑うも、心当たりは無い。

何か策があるのだろうか、と首を傾げた。

395: ◆fJz13rtmKU 2011/06/22(水) 00:09:52.61 ID:gc5PUDYe0

「美国さんの能力、よ」

「―――ああ、」

なるほど、と思わず納得した。

どうやらマミはキュゥベェの知らぬ間に計画を進行させていたらしい。
密かに美国織莉子と連絡を取り、魔獣の出現しない日を予測。
その上での発言だったらしい。

この分だと、他のメンバーにも既に声を掛けているのだろうと思えた。

契約したての頃の自分に頼ってきていたマミが懐かしい。

今となっては、こちらが手の上で踊らされているのだ。

396: ◆fJz13rtmKU 2011/06/22(水) 00:10:32.81 ID:gc5PUDYe0

「しかし、水着はどうするんだい? 学校の物を使うわけにもいかないだろう?」

「ええ、これから皆で買いに行くのよ」

抜け目のない、と舌を巻きそうだ。
他のメンバーも病み上がりや孤児がいるので、それが良いだろう。

「そうか、なら楽しんでくると良い。僕は勧誘でも……」

「あら、何を言ってるの?」

「……?」

「あなたも、行くのよ?」

397: ◆fJz13rtmKU 2011/06/22(水) 00:11:01.05 ID:gc5PUDYe0

「―――え?」

「さ、行きましょうか!」

キュゥべぇを腕に抱え、立ち上がる。

女子中学生に不釣り合いな胸に挟まれるが、感情が無いのでどうも感じない。

こんなに強引な子は久しぶりだな、と思いつつ溜息をつく。

そして、呟くのはお決まりの言葉。

「……やれやれ、わけがわからないよ」

409: ◆fJz13rtmKU 2011/06/25(土) 08:01:03.11 ID:lP+e5Q9O0


マミが着いた先には、すでに先客がいた。

暁見ほむらと美国織莉子、そして呉キリカ。
律儀な二人とそれに付いてきた一人、だろうか。

ほむらの服装は、全体的にふわっとした印象を受けた。
露出は多くなくても、どことなく涼しげな印象を受ける。
半袖で、白く細くしなやかな腕もさらしていた。
頭に乗った麦わら帽子も、彼女の魅力を引き立てていると言えよう。

織莉子はやはり、お嬢様らしさが少しにじみ出ている。
日傘をさして、シンプルながらも、可愛らしいというか美しい服装。
暑さの対策よりも、日焼けを気にしているのだろうか。
深窓の佳人、という表現も合いそうだ。

呉キリカは、動きやすそうな服装だ。
ニーソックスは蒸れるのか、履いていないらしい。
ただ、スパッツが追加されていた。
陸上部のアイドル、といった二つ名でも付きそうだ。

清楚な文化部の後輩と生徒会長のお嬢様、そして運動部の幼馴染。
そんな属性とも呼べるものが、彼女達から感じられていた。

410: ◆fJz13rtmKU 2011/06/25(土) 08:01:33.63 ID:lP+e5Q9O0

「―――巴マミ、ファッションチェックもほどほどにね」

ほむらの声で、ようやくマミが我にかえった。
じっと見つめられていたことに照れたのか、織莉子がその白い頬を紅潮させる。
キリカの方は、特に気にしていないようだったが。

えへ、と舌を出してコツンと自分の頭を叩いた。
どうしても私服の友人と会ったりすると、こうしてじろじろと観察してしまう。

きっと皆可愛い子や魅力的な人だからだろう、と思っている。
まあ、友人の居なかった時期に周りの服装で流行を察知していたせいもあるが。

何にせよ、彼女の肩に乗る地球外生命体には理解しがたいことだ。

411: ◆fJz13rtmKU 2011/06/25(土) 08:01:59.89 ID:lP+e5Q9O0

「あとの三人は?」

「美樹さやかが、二人を連れてくるらしいわ……そろそろじゃないかしら?」

す、と携帯を取り出して時間を確認する。
約束の時間の三分前。
まだ大丈夫だが、杏子あたりは時間にルーズである可能性もある。
そのフォローに、いろいろと生真面目なさやかを行かせたのだが。

ちなみに、ここでの生真面目とは友人との約束などのことであり、勉学は関係ない。
そもそも、勉学に生真面目なら課題も予習もちゃんとするはず。
そのあたりができていない上に、赤点をたびたびとってしまうのはいただけない。

412: ◆fJz13rtmKU 2011/06/25(土) 08:03:05.08 ID:lP+e5Q9O0

たたた、と足音が聞こえた。

「ごめんごめん、遅れちゃったー?」

あははー、と顔の前で手を合わせて謝罪してくる。

「……いえ、間に合ってるわ」

約束の時間は過ぎていない。

その上、わざわざ二人を連れてきたのだ。
多少他人より遅くとも十分な功績ではある。

413: ◆fJz13rtmKU 2011/06/25(土) 08:03:31.60 ID:lP+e5Q9O0

さやかの服装は、意外にも女の子らしい服装だった。
やはり恋をするとそういうものを着る傾向にあるのだろうか。
ボーイッシュなさやかのイメージを残しつつ、可愛らしさを生み出している。
快活な少女がおしゃれをするとこうなるんだろうな、という感じだ。

杏子は以前よりもラフな格好だった。
上着が白のへその上までのタンクトップで、とても露出が多い。
白いからか汗で、黒のインナーが透けていた。
道行く男がちらちらと横目で見ているのには気付かないのだろうか。

ゆまは袖が無いタイプのワンピース。
水玉模様で、年相応の可愛らしさが溢れていた。
ぴょこぴょこ、という効果音の似合いそうな彼女らしい。
その服を選んだのは義母なのか、義姉なのか、自分なのか気になるところである。

「……だから、ほどほどにと」

414: ◆fJz13rtmKU 2011/06/25(土) 08:04:02.18 ID:lP+e5Q9O0

はぁ、と呆れた声を聞いて苦笑する。
どうやらこの癖は、直すのが難しそうである。

あって困る、というわけでもないのだが。

「……さっさと入らないのかい? 暑くてかなわねーや」

「一番涼しそうな格好して、何言ってんのよ」

そうは言っても、さやかも暑いのは同じ。

ウィイン、と開閉する自動ドアを杏子を先頭に通過していく。

415: ◆fJz13rtmKU 2011/06/25(土) 08:04:27.28 ID:lP+e5Q9O0

「あー、涼しい……」

「もう、女の子じゃなくおじさんみたいよ?」

「だってさー……涼しいもんは涼しいじゃんか」

建物内の冷房は、この夏にはありがたい。

最近省エネが叫ばれているけれども、やっぱりエアコンは必要だ。

ここ見滝原では、クリーンエネルギーが発展しており、全体の電力の70%を賄っているらしい。

あまり音がしない風力発電や、効率のいい地熱発電。

見滝原は、そういう科学技術が発展している街でもある。

416: ◆fJz13rtmKU 2011/06/25(土) 08:04:55.49 ID:lP+e5Q9O0

「……お、あったあった、あそこか」

エスカレーターを上ってすぐのところに、水着売り場はあった。
季節が季節なので、前面に押し出しているのだろう。

すたすた、と早足でそこへ向かう杏子を、ゆまとさやかが追いかける。

最近、この三人はセットで扱われているような気がする。

おおざっぱな杏子と几帳面なさやか。

まるで夫婦のような関係だが、そこはあまり突っ込まない。

嫁ぎ先が二つあるというのは、幸せなのだろうか。


417: ◆fJz13rtmKU 2011/06/25(土) 08:05:24.17 ID:lP+e5Q9O0

「「……うーん」」

必然的に、グループで別れることになった。

先ほどの杏子、さやか、ゆまの三人。

マミ、織莉子、キリカの3年チームプラスアルファ。

ほむらはというと、気付けば一人で行動していた。
最近、彼女は単独行動をすることが多い。
ほむらに限って危険なことにはならないだろうが、やはりマミにとっては心配だ。

そんな彼女と、織莉子が悩むのは一つの理由。

418: ◆fJz13rtmKU 2011/06/25(土) 08:06:01.31 ID:lP+e5Q9O0

横のキリカを見る。

魔法少女の装束からもわかるように、引き締まった身体をしている。
無駄な脂肪がなく、それでいて筋肉質でもない。
きょとん、と不思議そうな顔をしているが、中々のプロポーションを持っている。

ほむらを見る。

すらり、としなやかな手足にきめ細やかな白い肌。
黒く長い髪と、その体型はマッチしている。
彼女の所作もまた、上品さが感じられた。
和服が似合うかもしれない。

杏子を見る。

いつも食べている割に、あまり脂肪はついていない。
そうでなければ、へそ出しルックなど似合うものか。
彼女は性格の割に、女らしいところがあるのだ。
性格にも、女らしいところはあるのだが。


419: ◆fJz13rtmKU 2011/06/25(土) 08:06:29.25 ID:lP+e5Q9O0

そして、自分たちを見る。

「「……はぁ」」

溜息が重なる。
要するに、二人はスレンダーな体型に憧れているのだ。

もちろん、周りが羨む胸を持っているのは確かである。
だが、隣の芝生は青いもの。

胸があるならあるで悩みがあり、無いなら無いでまた悩む。
女というのは複雑なもの。

キリカとキュゥべぇには、わからないであろう。

前者は織莉子ならどんな姿でも良いだろうし、後者はそもそも理解できないだろうから。

420: ◆fJz13rtmKU 2011/06/25(土) 08:07:15.75 ID:lP+e5Q9O0

「んー、こっちかな? それともこっち?」

水着をとっかえひっかえ、ううんと悩む。
また胸は大きくなったしなぁ、と考えながら紐の水着を手に取る。
そうして、これはちょっと大胆すぎるかなーと元の場所に返した。

「……あれ、二人は選ばないの」

「あー、えっと……」

背後で立っているだけの二人に声をかければ、どこか戸惑ったようで、

「……水着なんて選んだことないのさ。 ゆまもそう、なんだろ?」

「……うん」

こく、と大きく頷く。

421: ◆fJz13rtmKU 2011/06/25(土) 08:08:01.53 ID:lP+e5Q9O0

なるほど、と納得した。

「ならば、このさやかちゃんが選んでしんぜよう! まずは……」

「ぅあっ……な、何を……」

後ろに回り込み、抱きついた。
するする、と腹周りを撫でる。
そのまま服の中に手を侵入させ、撫でまわす。

「ふ、ぁっ……」

そして、インナーの中に侵入。
その小ぶりながらも、柔らかな胸に慣れた手つきで優しく触れる。

杏子の頬が紅潮し、息が荒くなる。
足腰から力が抜け、もう少しで座り込んでしまいそうだ。

422: ◆fJz13rtmKU 2011/06/25(土) 08:09:07.22 ID:lP+e5Q9O0

そこで、手が引き抜かれた。

「……え?」

どうして、とさやかを見るも、どうやら何かを考えているだけ。

「この大きさなら……これとか、あれとか?」

手近な商品を手に取り、どれがいいか、と問いかけてくる。
どうやらサイズを調べただけらしい。

はぁ、と溜息が出た。

「ん、どうしたの?」

「……いーや、なんでもないよ」

「ふぅん……あ、そういやさっきインナーの中で硬い感触があったけど―――」

「言うなっ!!」

先ほどよりも真っ赤な顔で、言葉をさえぎる。
なんだかいろいろ無くしたような気がした。

423: ◆fJz13rtmKU 2011/06/25(土) 08:09:51.25 ID:lP+e5Q9O0

『うーん、やっぱり紫かな? ほむらちゃんのイメージに合ってるし』

「……そうね、黒や白は使いそうな人がいるし」

中睦まじく寄り添うのは、ほむらとまどか。
初期の時間軸では、こういう二人で買い物をする経験もあった。
だからこそ、今こうしているのが幸せである。

す、と落ち着いたデザインのものを手にとって見つめた。

サイズから言ってもちょうどいいだろうか、と思ってキープしておく。

『……あ、それにする?』

「ええ」

『ふふ、似合うと思うよ』

「……ありがとう」

424: ◆fJz13rtmKU 2011/06/25(土) 08:10:18.85 ID:lP+e5Q9O0

「それじゃあ、あなたの分も選ばないとね」

『……え?』

可愛らしい桃色の水着を手に取りながら告げられた言葉に、驚くほかない。

『ほむらちゃん、わたし、は……』

「……わかってるわ。でも、もしかしたら奇跡があるかもしれない」

『それは、』

「魔法少女に最後まで笑顔でいてほしい、そう願ったのはあなたでしょう?」

確かにそうだ。
けれど、実際にまどかはほむら以外には見えないし触れられない。

425: ◆fJz13rtmKU 2011/06/25(土) 08:10:50.83 ID:lP+e5Q9O0

「……希望を持つのが間違いだというなら、何度だって言い返せる。それもあなたの言葉よ」

『うん……そう、だね』

けれど、心が痛かった。
自分の為に、ほむらが無駄な生き方をしてしまうのではないかと。
まどか自分に尽くすことで誰かが苦労するのを、良しとしたくなかった。

「……無駄なんかじゃないわ」

思考を読んだように、ほむらが否定する。

「これは私の望み、私の願い、私の選択……たとえあなたに認められなくても、私はあなたを救ってみせる」

『ほむらちゃん……』

「―――覚えてる?」

426: ◆fJz13rtmKU 2011/06/25(土) 08:11:20.71 ID:lP+e5Q9O0

虚空を見上げ、呟いた。

「あなたと私が出会った最初の一カ月、退院して間もない私の服をあなたが選んでくれた」

ぽつ、と懐かしみながら話す。
当然、まどかは覚えている、知っている。

「そしてそのお返しにと、私にあなたの服を選ぶよう言った」

『……そうだね。結局ほむらちゃんは迷って選べなくて、また次の機会に、ってなったんだけど』

そう、と頷いた。

「お返しを選ぶ前に……ワルプルギスの夜によってその時間軸は終わった」

一瞬悲しそうにして、すぐに微笑む。

427: ◆fJz13rtmKU 2011/06/25(土) 08:12:04.36 ID:lP+e5Q9O0

「だから、これは私の自己満足……もう一度、あの頃みたいに二人ではしゃぎたい。それだけが理由の、ね」

『……ほむら、ちゃん』

まどかにとっては、少し残念だと思う程度だった。
けれど、ほむらにとっては大切な、無くてはならない思い出。
他人の幸せを願い続ける少女と、その本人の幸せを求める少女。

そんな関係が、こうまで二人をすれ違わせた。
だから、彼女達は共に居られないのかもしれない。

けれど、それでも希望はある。

そう、信じている。

なぜなら二人は、魔法少女なのだから。

435: ◆fJz13rtmKU 2011/07/01(金) 11:23:23.54 ID:vY4ljAII0

すぅ、と空と同じ色の少女が深呼吸。
そして吐く。

「うぅぅぅ……」

こういうのは雰囲気だ。
意味は無いが、なんとなくテンションが上がる。
全力でシャウトするのは気持ちがいい。

「みぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

そう、海である。

白い雲。

照りつける日差し。

さらさらの砂浜。

紛れもない海水浴。

436: ◆fJz13rtmKU 2011/07/01(金) 11:24:23.66 ID:vY4ljAII0

「……はしゃぐのはわかるけれど、周りの目を気にしてほしいわ」

額に手を当てて、呟くのは暁美ほむら。

水着姿は、露出の少ない彼女の肌を見る貴重な機会だ。

特筆すべきは、まず足だろう。
眼鏡を外して以来、普段の露出も控えているそれはしなやかで、同性もおもわず見惚れるほどだ。

次点が腹部。
これは水着以外での露出は無い。
余分な脂肪がほとんど無く、触り心地も素晴らしいと予想できる。

きめ細やかな肌も良い。
白く日焼けの少ない肌は露出されることにより、その魅力を増大させる。

437: ◆fJz13rtmKU 2011/07/01(金) 11:24:57.53 ID:vY4ljAII0

「えー? いいじゃん別にさー」

答えるのは美樹さやか。

彼女は彼女らしく快活な印象を受ける。

が、胸に実る二つの青リンゴが女性であることを主張する。
マミや織莉子ほどではないが、将来性に期待である。

あとふとももがいい。

ほどほどに筋肉もあり、やわらかなそれはとても良い触り心地に違いない。

上条恭介は爆発するべきだ。

438: ◆fJz13rtmKU 2011/07/01(金) 11:26:03.28 ID:vY4ljAII0

「んなことよりさぁ、泳ごうぜー」

我先にと海に入ろうとするのは佐倉杏子。

やはりいつもと同じく、ふともももへそもいい。

近所の犬がへそを舐めてきて困っているらしいが、まあ仕方あるまい。

彼女は全体的に、おいしそうだ。

カニバリズムではなく、舐めまわしたいという意味で。

無論、甘噛みなどをしてもいい反応が返ってきそうだが。

439: ◆fJz13rtmKU 2011/07/01(金) 11:26:44.39 ID:vY4ljAII0

「キョーコ、我慢弱いー」

釘をさす千歳ゆま。

猫耳だ。

猫耳パーカーだ。

フードに猫耳のついた猫耳パーカーだ。

幼女は下手な露出をするより、こういう可愛らしい服装がいい。

あどけない表情で露出するのも、中々そそるものがあるのは事実であるが。

440: ◆fJz13rtmKU 2011/07/01(金) 11:27:32.89 ID:vY4ljAII0

「あらあら、元気ね……」

微笑ましく見守る巴マミ。

彼女の魅力はやはりその豊満な胸、そして尻。
垂れ目なども素晴らしいが、水着とは関連が薄いので割愛する。

そのワンダフルボディは、高校生でも珍しいほどの豊かなものだ。
挟まれてみたいと思うのは、男性としての本能だろう。

ちなみに今は地球外生命体が挟まれている。

爆散しろ。

441: ◆fJz13rtmKU 2011/07/01(金) 11:28:00.10 ID:vY4ljAII0

「そーだねぇ……はしゃぐのはいいことだけど」

そんなことを言いながら織莉子にちらちらと視線を送る呉キリカ。
恐らくこの中で最も欲望に忠実だろう。

彼女自身も、戦闘スタイルの関係か引き締まった身体をしている。
他の魔法少女に比べてピッチピチな感がする服装が着られるのも理解できるだろう。

アスリート型の体型なのだろうか。

それでも、胸はそれなりにある。

これで男に興味がないのは勿体ない。

いや、むしろそっちの方が興奮するか。

442: ◆fJz13rtmKU 2011/07/01(金) 11:28:33.33 ID:vY4ljAII0

「キ、キリカ……そんなに見ないで……」

頬を紅潮させながら、身体を隠す美国織莉子。

露出の少ない服から解放されたワンダフルボディは男を虜にする。

芸術的な美しさもあったが、彼女自身の『恥じらい』によって女性としての美しさになっている。

白くきめ細やかな肌と、豊満な肢体。

実に素晴らしい。

男のロマンが詰まったような姿に、キリカが興奮しても仕方ない。

443: ◆fJz13rtmKU 2011/07/01(金) 11:29:12.75 ID:vY4ljAII0

ばしゃばしゃ、と水を掛け合ってきゃっきゃうふふ。

そういう風景も、元の世界のままでは見られなかったものだ。

それが犠牲の上で成り立っているものだというのは、一人と一匹しか知らない。

犠牲になった本人は満足そうに、楽しげな光景に頬を緩ませている。

その表情に、一抹の淋しさが含まれていた。

本人は気付かない。

けれど、彼女の親友はわかっていた。

彼女が居なければ、本当の幸せが完成しないということを。

444: ◆fJz13rtmKU 2011/07/01(金) 11:29:51.23 ID:vY4ljAII0

「……さぁて」

にやり、とさやかが妙な笑みを浮かべた。

「海のスポーツ……泳ぐのもいいけど、やっぱコレでしょ!」

その手にはボール。

「第17回! チキチキビーチバレー選手権~ポロリもあるのよ編~開幕ぅ!!」

ボールを天に掲げ宣言。

16回分はいつやったのかとか、誰のポロリなのかとか、ネーミングセンス悪くないかとかは禁句だ。

「―――まあ、少し待とうか」

そう、水を差すのはインキュベーター。

445: ◆fJz13rtmKU 2011/07/01(金) 11:30:32.99 ID:vY4ljAII0

「なによキュゥべぇ……自分が参加できそうにないのが不満なの?」

「いいや、僕は現実的な視点で全てを語るさ……さやか、それは市販のボールだね?」

「そうだけど……ダメなの?」

ああ、といって頷く。

「普通の人間ならいいが、君たちは魔法少女だ……ボールが力に耐えきれない」

「そんなの手加減すればいいじゃん、別に全力でやらなくても―――」

「手を抜いた試合をして、君は満足かい?」

「うっ……そう言われると……」

447: ◆fJz13rtmKU 2011/07/01(金) 11:31:13.59 ID:vY4ljAII0

そこで、ピコーン、とさやかが閃いた。

「そうだ、織莉子さんの武器で代用を……!」

「爆発するよ」

「魔法でボールを強化して……!」

「多分痛いよ。武器と変わらないんじゃないかな?」

「ぐぐ……じゃあどうしろってーの!?」

「ふふ……打開策ならここにあるさ」

なんだか不敵に笑った気がするが多分気のせいだ。

「―――僕をボールにして、思い切りぶっ叩いてよ!」

459: ◆fJz13rtmKU 2011/07/06(水) 23:11:51.61 ID:8rCM96U20

ビーチバレーでは、基本的に一つのボールを使う。
あまり詳しくない人でもわかる常識だ。

だが、そこには5つのボールがあった。

一つは白、後の四つは肌色……。

もうおわかりだろう。

胸だ。

巴マミと美国織莉子の胸だ。

動くたびに揺れるそれが、周囲の視線を釘づけにする。

自分の胸に触れてみて、溜息をつくのはまどか。

その姿を見て、何やら嬉しそうにしているのはほむらである。

460: ◆fJz13rtmKU 2011/07/06(水) 23:12:37.94 ID:8rCM96U20

サーブは巴マミ。

ちなみに説明しておくが、この試合は2対2のゲームだ。

選手は巴・美樹ペアと美国・呉ペアだ。

キュゥべぇをボール扱いするのに、マミは抵抗した。

だが、いつもの営業トークで丸めこまれたらしい。

彼女自身がキュゥべぇを思い切りぶっ叩くことになったわけだ。

結局、キュゥべぇの真意はわからないまま。

白球は空に打ち上げられ、

「ティロ―――」

そして、手が叩きこまれる。

「フィナーレッ!!」

461: ◆fJz13rtmKU 2011/07/06(水) 23:13:08.04 ID:8rCM96U20

ベコォ、と『それ』の顔面が思い切り凹んだが気にしない。

元々強度は高くないのだ。

丈夫なら数え切れぬほどのスペアは必要無い。

ただまあ、弾力はある。

そういうわけで、なんとか魔法少女の腕力に耐えきる能力はある。

クリティカルヒット。

開幕からティロ・フィナーレとはどうなのか。

衝撃波を伴ってキュゥべぇが美国・呉チームのコートに叩きこまれた。

462: ◆fJz13rtmKU 2011/07/06(水) 23:13:46.50 ID:8rCM96U20

しかし、こういうものは大抵防がれるのがお約束。

ネットを越えた瞬間、それは『失速』する。

「……まさかっ!」

「ふ……察しがいいね」

キュゥべぇの回転の軌跡すらはっきりと見える。

それほどまでに『失速』させられていた。

呉キリカの魔法による速度低下。

そもそも魔法を使っていいのかとか言ってはいけない。

463: ◆fJz13rtmKU 2011/07/06(水) 23:14:22.78 ID:8rCM96U20

「……織莉子っ!」

「ええ!」

ぽん、とキュゥべぇを上空に打ち上げる。

それを受け、織莉子が跳び上がる。

ぷるん、とメロン、否、季節的にはスイカが揺れる。

『……うぅ』

「そんなに気にすることは無いと思うのだけど……」

落ち込むのはまどかだけ。

他は花より団子だったり、胸が足りていたり、気にする年齢では無かったりするから仕方ない。

464: ◆fJz13rtmKU 2011/07/06(水) 23:17:52.49 ID:8rCM96U20

ドゴォ、とキュゥべぇが叩き込まれる。

「美樹さんっ!」

「はいっ!」

足元に魔方陣を展開。

そうして、コート端のボールに追いつき、打ちあげる。

再び巴マミの元へ。

今度は力強く叩きこみはしない。

ネット上のギリギリを通す。

465: ◆fJz13rtmKU 2011/07/06(水) 23:18:34.75 ID:8rCM96U20

それも予測の範囲内。

というか、織莉子の未来予知の前では小手先の技も意味を為さない。

軽々と、空高く返される。

だが、返ってくることは予知などせずともわかること。

マミが足場にリボンを展開し、跳ねた。

「ふっ……!」

空中にはリボンの展開はできない。

空気抵抗をできるだけ減らし、素早く地上に降り立つ。

466: ◆fJz13rtmKU 2011/07/06(水) 23:19:04.56 ID:8rCM96U20

『……なんだかバトル漫画みたいだねぇ』

「元々バトル漫画みたいな日常を送ってるから……」

ぶくぶく、と顔の半分まで水中に沈めてぷかぷかと揺れるほむら。

どうせ勝負がつくまで時間がかかる。

未来予知・速度低下持ちの織莉子とキリカは勿論点を相手に与えない。

かといって、どれだけ不利でもマミとさやかが諦めるビジョンが見えない。

要するに持久戦だ。

ならば見ているよりは自分たちは泳いでいた方がいい。

467: ◆fJz13rtmKU 2011/07/06(水) 23:20:19.47 ID:8rCM96U20


「ばっしゃー!」

「ちょっ……ゆま、覚悟しろよー!」

どうやらあちらの親子……もとい姉妹も同じ考えらしい。

ばしゃばしゃと水をかけあってなんだか同年代に見える。

実際どちらも子供なのだから、どうでもいいのだが。

『ふふ……はしゃいじゃって』

「家族ができれば、あんなものよ。彼女はいつも面倒見が良かったし……」

そんな平和な時間も、すぐに過ぎ去る。

気付けば、夕日が景色を朱く染めていた。

468: ◆fJz13rtmKU 2011/07/06(水) 23:21:02.58 ID:8rCM96U20

「ぜ、はぁ……つ、強い……」

「キミも、ね……やっぱり愛を持っているからかな?」

「な、なななななななななななっ!?」

砂浜で息を切らし、寝転びながら互いを称える。

結局、互いに体力が尽きて終わった。

決着はつかなかったが、それには何の問題も無い。

楽しめればそれでいいのだ。

毎夜、命を懸けて戦う生活。

こうやって身体を動かすことは、彼女達にとって十分に有意義だった。


469: ◆fJz13rtmKU 2011/07/06(水) 23:21:42.86 ID:8rCM96U20

「……ふふ、久しぶだわ。こんなに動いたのは」

「そうね……美国さんは、いつも後方支援だもの」

「あなたも、ね」

ふふ、と互いに笑い合った。

随分日光を浴びていたから、日焼けがひどくならないか心配だ。

魔法少女の回復力をもってすれば、なかったことにはできる。

だが、そういうものを味わうのも風流だろう。

季節を感じ、その恩恵も被害も被ってこそ人間だ。

そうでなければ、心が錆びついてしまう。


470: ◆fJz13rtmKU 2011/07/06(水) 23:22:09.32 ID:8rCM96U20

「……帰るわよ」

いつの間に着替えたのか、ワンピース姿のほむらが立っていた。

淡い色合いが実に似合っている。

「そうね、明日からも魔獣は湧いてくるんだからゆっくり休まないと」

「んぐっ……そーだな、今日は月曜日だし、明日は学校だ」

「……学校?」

ぴし、とさやかが固まった。

「……まさか、また課題をやっていないの?」

「う、ぐぅ」

ほむらの言葉が図星、と言わんばかりに大げさな反応をする。


471: ◆fJz13rtmKU 2011/07/06(水) 23:23:10.76 ID:8rCM96U20

「こうしちゃいられない! 早く帰って終わらせないと!!」

どりゃああああー!とまず着替えるべく走り去っていく。

その姿に、全員が苦笑した。

「馬鹿だね、こういうのは早めに済ませとくものだろうに」

「Sayaka is very foolish!」

「あら、流暢ね……美樹さんは間に合うのかしら」

くすくすと笑いながら、さやかの行った先へとついていく。

寄り添う長い影は、心の距離を示すようだった。








ただ一人、影の無い友人が居たけれど。

479: ◆fJz13rtmKU 2011/07/08(金) 00:06:28.43 ID:1MhMZVOT0





巴マミとインキュベーターの場合






480: ◆fJz13rtmKU 2011/07/08(金) 00:07:15.65 ID:1MhMZVOT0

「……魔獣の、大攻勢?」

ああ、と返してキュゥべぇは尻尾を揺らす。

「アレにどれほど知能があるのかわからないが、群れを形成していて……近々、蜂起するするらしい」

「どうして、そんなことが……?」

「さあ?」

「さあ、って……」

不満げなマミに対し、キュゥべぇは表情を少しも変えない。

「アレの正体は僕にもわからない……ただ、そこに存在しているのは事実だ」

仮説ならある。
まどかが世界を変える前、存在していた『魔女』。
それの代用品として世界に生み出された存在。

481: ◆fJz13rtmKU 2011/07/08(金) 00:09:05.36 ID:1MhMZVOT0

皮肉なものだ。

魔法少女が希望を持ち続けるために、人にとっての害悪が新たに生み出された。

その設定された敵を倒して、魔法少女は充足感を得る。

自分たちのために用意された標的を狩り、まるで世界を守っている気分になっている。

けれど、間接的には世界の為になっているのだ。

魔獣を狩り、インキュベーターがエネルギーを回収する。

宇宙の為に働いていることにはなる。

もっとも、彼女達にそれを言う必要は無いし、言っても混乱するだけだろうが。

皮肉と言えば、優しい世界を望んだ少女が世界と隔絶しているのもそうだろうか。

「―――キュゥべぇ?」

482: ◆fJz13rtmKU 2011/07/08(金) 00:09:33.43 ID:1MhMZVOT0

「……何だい、マミ?」

「それはこっちのセリフよ、いきなり黙りこんだりして……」

心配げに顔を覗き込んでくる。

失敗だったな、と思った。

彼女は他人の変化によく気付く少女だった。
周りを羨んで自分の孤独を嘆き、観察し続けてきたからか。
それとも、後輩たちの前で頼れる先輩であり続けるために他人の様子をよく見るからか。

そして自分は長く彼女の傍に居た。
歴史の教科書で語られるレベルまで時を遡っても珍しい事例だった。
どうしてか、彼女の元に長らく存在していた。
実際の時間よりも、長く共に居た気がする。
きっとまどかが変える前の世界でも、こうして傍に居たんだろうと感じた。

そうして、らしくないなと首を振った。
『気がする』だとか『きっと』だとか、そういう不確定な思考は必要無いのに。

483: ◆fJz13rtmKU 2011/07/08(金) 00:10:05.52 ID:1MhMZVOT0

「なんでもないさ……それで、君はどうするんだい?」

「……そんなの、決まってるじゃない」

すぅ、と息を吸ってマミは目を瞑った。

「わたしは決めたの。魔法少女として生き、魔法少女として戦い……魔法少女として死ぬ、と」

その決意は、願いのようで、力強く、儚い。

彼女の願いは自分の生存。
自分だけを救い、他人を救うことなどできない願い。
その贖罪なのだろうか。
彼女は正義の魔法少女であることに拘り続けるのだ。

キュゥべぇには、それを完全に理解する感情は無かった。

484: ◆fJz13rtmKU 2011/07/08(金) 00:10:36.83 ID:1MhMZVOT0

「だから、戦うわ……どんなに無謀でも、無茶でも、無理でも、私が私である限り」

決意は彼女の心の根幹だ。
彼女そのものがそれで生きていると言ってもいい。

「……わかったよ。元々、僕に君を止める力は無いしね」

「あら……心配、してくれるの?」

「心配……? はは、まさか」

自嘲するような笑みだった。
自分の使命を全うするだけの彼には似合わない笑み。

「もしそうだとしたら、僕は既に壊れているんだろうね」

485: ◆fJz13rtmKU 2011/07/08(金) 00:11:06.99 ID:1MhMZVOT0

「……キュゥべぇ、」

「ああ、気にしなくていいよマミ。そう、気にしなくていいんだ」

「……そう」

感情を持つのは罪だろうか、罰だろうか。
違う、と言い切ることはできない。
感情があるからこそ人は争い、妬み、蔑み、わかりあえない。

けれど、悲しかった。
目の前の友達が感情を持つことを『欠陥』だと認識していることが。

まるで、自分に近づくこと自体を忌避しているようで。
マミにはそれが悲しかった。

486: ◆fJz13rtmKU 2011/07/08(金) 00:12:12.79 ID:1MhMZVOT0

「泣いているのかい?」

「……そんなこと、ないわ」

少しだけ、涙は零れそうになったけれど。
淋しくは無い。
キュゥべぇ自身は、すぐそこにいるのだから。

「……君が泣かなくなったのは、いつからかな」

「暁美さんや美樹さんと会ってから、ね……それまでずっと、自分は一人だと思っていたから」

ずっと泣いて、羨んで、諦めていた。
普通の友達が、家族が、恋人が欲しかった。
けれど、それは叶わないと。
本当に自分と共に居てくれる人は居ないのだと考えるたび、涙を流し、キュゥべぇにすがりついていた。
それだけが、唯一の拠り所だったから。

487: ◆fJz13rtmKU 2011/07/08(金) 00:13:04.45 ID:1MhMZVOT0

「だけど今は……皆がいる」

「そうだね。心強い味方が沢山出来た」

ならば、自分も必要では無くなるだろうか、と思う。
そう考えると、思考にノイズが走る。
本当に壊れているようだ、と苦笑した。
苦笑すること自体が、彼にとって不必要な機能であるのに。

す、と突然身体を持ち上げられる。

「……マミ?」

返答は無い。
その代わり、額にあたたかな感触があった。

488: ◆fJz13rtmKU 2011/07/08(金) 00:13:38.75 ID:1MhMZVOT0

「あなたも、一緒に居てね?」

ふふ、とマミが照れくさそうに笑う。
そんな表情もまだよく理解できなかったが、返すべき言葉は見つかった。

「勿論、さ……ずっと、ずっと一緒に居るよ」

最期のその瞬間まで、寄り添い続けよう。

彼女の隣に存在し続けよう。

その生き様を、この『心』に焼きつけよう。

彼女と自分はパートナーなのだから。

きっと、今日の唇の感触はこの個体が朽ちるまで忘れない。

497: >>1 2011/07/10(日) 22:46:02.63 ID:U4CeS0jAO





杏子とさやか、ゆまの場合






498: >>1 2011/07/10(日) 22:47:46.51 ID:U4CeS0jAO

「……うー」

「おいおいどうした、もうへばったのか?」

にたり、と不敵な笑みを浮かべる赤と落ち込む緑。
大人げない、とは思うが微笑ましい。

「……なーに小学生いじめてんのよ」

「いじめてねーっての……社会勉強だ社会勉強」

す、と杏子がゆまの手にコインを置く。

「ほら、もっかいやってみな」

「……ん」

受け取って、先ほどからプレイしていたダンスゲームの機械へ駆けていく。
その様子にさやかは溜め息をついた。

「……常連のあんたの相手にならないでしょーに」

「だから社会勉強だよ、世間の厳しさを知れってな」


499: >>1 2011/07/10(日) 22:49:03.14 ID:U4CeS0jAO

ふ、と微笑んでさやかは息を吐く。

「……何だよ?」

「すっかりお姉さんになってるな、と思って」

「……悪いかよ」

「いーや、幸せそうで何より」

ふん、と鼻をならしてそっぽを向く。
その顔が赤く染まっているのを、さやかは見逃さなかった。

「……素直じゃないやつ」

「うっせー……」

むす、と頬を膨らませた。
さやかは可笑しそうに見ていたが、急にそれをやめて、

「……まだ、納得できない?」

500: >>1 2011/07/10(日) 22:50:11.70 ID:U4CeS0jAO

「……まーな。今の生活には慣れたけど、心のどこかで引っかかってる」

がさ、とポケットから飴玉を取り出し、口に放り込む。

「食うかい?」

さやかにもひとつ差し出す。

「ん、ありがと」

受け取って、頬張る。
ころころと口の中で転がすと、林檎の風味が広がった。

「……幸せだよ、それはいいんだ。でも、」

「家族のことが、ずっと気になってる?」

ん、と軽く頷いた。

「一人だけ生き残っておいて、自分だけ幸せになるのか……ってね」

「そんな……許されないって決め付けなくても」


501: >>1 2011/07/10(日) 22:51:25.97 ID:U4CeS0jAO

「……違うんだよ」

「違う?」

「許されるとか許されないとか、そんなことは別にいいんだ」

本当はよくないんだろう、ということはその表情が物語っていた。

「きっと、怖いんだ」

杏子が俯き、その顔が影で見えなくなる。

「恨まれるよりも、忘れることが怖いんだ……!」

声は震えていた。
抱き寄せて目一杯な泣かせてあげよう、と思ったがやめた。
きっと、自分が肩代わりしてはいけないものだから


502: >>1 2011/07/10(日) 22:52:44.74 ID:U4CeS0jAO

家族を忘れる。
実際、完全に忘れてしまうことはないだろう。

だが、だんだんと薄れていく。

幸せな思い出の積み重ねが、新しい家族との触れ合いが、

徐々に、しかし確実にかつて存在した『家族』を侵食していく。

それが怖い。

過去を抱えたまま進めず、戻れず。
そうして杏子は、いつまでも現在と向き合えないでいる。

そこにある幸せに、手を伸ばせない。


503: >>1 2011/07/10(日) 22:53:46.38 ID:U4CeS0jAO

「……で、どうしたいの?」

「どうしたい、って……」

ふぅ、とさやかは息を吐く。

「どうしようもないんだよ、そういうの……相手は死んでるわけだし、不満も返ってこない」

「でも、」

んー、とさやかは頭を抑えながら、空いた手で指差す。

「それよりも、今ここにある現実を見てみたら?」

その先には、

「……キョーコ」

「ゆ、ま」


504: >>1 2011/07/10(日) 22:54:32.82 ID:U4CeS0jAO

聞かせるつもりはなかった。
そんな話を受け止められるほど、まだ強くないと思ったから。

「キョーコは、ゆまのこと嫌い?」

「そういうことじゃ……っ!」

「ゆまも、キョーコの妹だよ?」

「だけど……いや、だからこそ怖いのさ」

とてとて、と目前まで歩み寄ってくる。

「大丈夫だよ」

「どうしてそんなことが……!」

「わかるよ」

確信を持って、言い放つ。

「だって、ゆまはキョーコの妹だから」


505: >>1 2011/07/10(日) 22:56:20.13 ID:U4CeS0jAO

杏子は少しの間ぽかん、として

「は、は……妹か。そっか、そうだな」

「うん、わかる。そんなに悩んでるキョーコが、忘れるはずない」

ん、と少し照れくさそうに杏子が頬をかく。
そうして、ゆまの頭に手を置き、優しく撫でた。

「ありがと、ね」

「ふふ、どっちがお姉さんなのやら」

「……うっせ」

また照れくさそうに、そっぽを向いた。

506: >>1 2011/07/10(日) 22:57:35.91 ID:U4CeS0jAO

「……キョーコ、やりたいのがある」

「ん? そっか、じゃあ金を……」

ぐい、と腕を引かれる。

「キョーコも一緒、さやかも!」

「……へ、あたしも?」

同じく引かれるさやか。
ぐいぐい引かれる二人は顔を見合わせて、苦笑した。

「……お転婆なお姫様だね、誰の影響なんだろ」

「あ、あたしじゃねーぞ?」

「ふふ、どーだか」


507: >>1 2011/07/10(日) 22:58:24.25 ID:U4CeS0jAO

「これ!」

「……プリクラ?」

「クラスの友達が、ゆってた! 家族とか友達と撮るんだって!」

ぴょこん、といった様子で中に入っていく。

「プリクラねー、ほむらがなかなかつれないんだよね」

「まあ、あいつはな……あたしは初体験だ」

「ほほう、ここはリア充の極みたるさやかちゃんが……」

「……」

「痛い! 沈黙と視線が痛い!」

508: >>1 2011/07/10(日) 22:59:17.33 ID:U4CeS0jAO

「フレームは……お、このハート型かわいいかも」

経験者らしく、手慣れた様子で進めるさやか。
見ている二人がなんだかよくわからないうちにいろいろと終わった。

「はい、ポーズポーズ……杏子真ん中、ゆまちゃんそっち」

「お、おう……これでいいのか?」

ぎこちない表情で、画面を見つめる。

ちら、とさやかがゆまに目配せをする。

「……杏子!」

「キョーコっ!」

「お、おわぁ!?」

二人に抱き締められ、驚く杏子。
その瞬間、シャッターは切られた。


514: >>1 2011/07/14(木) 23:32:13.19 ID:SzSV52wAO

夢を見た。

なんだか、悲しい夢だった気がする。

だが、詳しい内容は思い出せそうになかった。

「んっ……」

伸びをする。

膝に重みを感じた。
何だろうか、と見下ろす。

「ん、むぅ……」

幸せそうな寝顔だ。
聞き取れないが、何やら寝言を言っている。

膝枕をして、寝顔を見ていたら自分も寝てしまったのだろう。
寝起きの十分に回らない頭でそう結論付ける。


515: >>1 2011/07/14(木) 23:33:52.47 ID:SzSV52wAO

「織莉子ぉ……」

答えようとしたが、ただの寝言だった。

夢の中の自分は彼女に幸せを与えられているだろうか。
そう、一瞬考えてやめる。

そんなことは、表情を見れば簡単にわかる。

ふふ、と小さく笑った。
彼女にとって自分が光足りうるのが嬉しかった。

自分にとっても、彼女は光なのだけれど。


516: >>1 2011/07/14(木) 23:34:42.45 ID:SzSV52wAO

そして急に、自分の夢が思い返される。
詳細は思い出せない。
けれど、悲しい夢だった。
この幸せな時間とはかけ離れた夢。

まるで、現実が夢なのではないかと思うほどに。

「……胡蝶の夢、だったかしら」

口に出してぞっとした。
幸せな現実の否定。
不幸なる非現実の肯定。
それは、なにより耐えがたいことだ。

この膝の重みも、無邪気な声も、笑顔も、

今のキリカの全てを虚構にしてしまうのだから。


517: >>1 2011/07/14(木) 23:36:02.53 ID:SzSV52wAO

暗い考えは車輪の回転のごとく、ひとりでに加速する。

もし、キリカと出会わなかったら。
もし、見滝原の魔法少女と敵対していたら。

もし、キリカに見捨てられたら?

世界にifは有り得ない。
ただ、一部の例外を除いて。

けれど、思考の広がりは無限だ。
夢や希望も、悲嘆や絶望も。
とどまることを知らず、膨らみ続けるのだ。


518: >>1 2011/07/14(木) 23:37:08.56 ID:SzSV52wAO

「―――織莉子」

声が聞こえて見れば、キリカが意識を完全に覚醒させていた。

「……あら、起こしてしまったかしら?」

いいや、と首を振って、じっと織莉子の目を見つめる。

「……ひどい顔だよ」

「あら、そんなに?」

「ん、織莉子の顔だから綺麗だけどね」

さらり、とそういう言葉が本心から出てくる。

一度、そういうのは恋人とかに言うべきだと注意した。
けれど、だったら織莉子だけに使うねと返された。

本当に、勿体無いと思う。


519: >>1 2011/07/14(木) 23:38:25.91 ID:SzSV52wAO

「何か、あったの?」

「……何も」

「嘘だね。私がどれだけ織莉子を見てると思ってるのさ」

キリカは何も考えてないようで、人の心に聡かった。

織莉子には殊更である。

「……かなわないわ」

ふぅ、と苦笑しながら息を吐く。

対するキリカはふふん、と自信ありげに笑った。


520: >>1 2011/07/14(木) 23:39:22.67 ID:SzSV52wAO

「……なるほど、ね。まあ、簡単なことだと思うよ」

話し終えると、拍子抜けした様子でそう言った。

「今やりたいように行動するだけさ。自分の思うがままに、ね」

そうできれば、楽だろう。

彼女の言うように、望むがままに生きられたら。

「……信じた生が夢なら、それは無駄になってしまうわ」

いくら目標を達成しようと、いくら名誉を得ようと。
結局、全て幻想ならば消え失せてしまうのだ。


521: >>1 2011/07/14(木) 23:41:13.64 ID:SzSV52wAO

「……なるほど、ね。まあ、簡単なことだと思うよ」

話し終えると、拍子抜けした様子でそう言った。

それでも、とキリカは反論する。

「何もしなかった時の後悔の方が大きいし、私は無駄だとは思わないよ」

「……でも、」

「それに、」

ずい、と互いの呼吸を感じるほど顔を近づける。

「夢だろうと現実だろうと、キミがいるなら構わない」

結局、そういうことだ。

夢だろうが、現実だろうが。

その瞬間が幸せかどうか、それが重要なのだ。


522: >>1 連投ェ…… 2011/07/14(木) 23:42:46.07 ID:SzSV52wAO

はっきりと言われると、反論ができない。
それに、その方が楽だ。

悲観的になるより、身近なことを考える。
キリカにどんなお菓子を作ってあげようかとか考える方が、よほど建設的だ。

吹っ切れて、笑みがこぼれた。

「……ようやく、いつもの織莉子だ」

「いつも、の?」

「そ、心の底から笑ってる、一番好きな織莉子だよ」

ああ、織莉子自体が一番好きなんだけどと訂正した。

愛しい人と、愛しい時間を過ごす二人。

絶望はもう、いらない。

530: >>1 2011/07/17(日) 22:07:51.59 ID:vxSLhq9AO





まどかとほむらと、そして






531: >>1 2011/07/17(日) 22:08:43.41 ID:vxSLhq9AO

夕日に照らされる河川敷。
一人の子供が、木の枝で地面をえぐり、描くのが見える。

描かれたのは、女の子のようだった。
ふわふわとした衣装に身を包む少女。

近づいていって、自分の影が絵と重なった。
反応して、子供が顔をあげる。

ふふ、思わず微笑んだ。

「……あー?」

疑問の声。
子供は知らない。
描いていたものがなんなのか、理解していない。

頭でなく、心が、体が覚えていた。
知性が発達していない子供だからこそ、その影響を強く受けた。

それだけだ。
いくら絵が書けても、覚えていないのだ。
少しだけ、寂しかった。


532: >>1 2011/07/17(日) 22:09:50.77 ID:vxSLhq9AO

「―――こら、ナンパしてんじゃない」

数秒間見つめ合っていると、声が割り込んでくる。
声の方を見れば、子供の 母親らしい女性が居た。

「ったく、目を離したらコレだ。この前も女と……」

ぶつぶつ、と呟いて、はっとしたようにこちらを振り向く。

「―――あ、悪いね。迷惑かけてない?」

「……ふふ、大丈夫です。小さな子の世話とか、慣れてますから」

そう答えると、礼を言われた。
『世話』と言ったのは失敗だっただろうか。
別に、迷惑ではなかったのに。


533: >>1 2011/07/17(日) 22:10:20.30 ID:vxSLhq9AO

「その制服、見滝原中の?」

「……はい、最近転校してきて」

「なるほど、ね……どうりで見覚えがないわけだ」

ちくり、と胸が痛んだが、無視した。

「転校、ってことは引っ越してきたのか?」

「……はい、まあ」

「いい街だろ、見滝原は」

軽く、頷いた。
本当に、いい街だ。

住みやすいとか、そういう意味ではない。
そこに住む人が、素敵な人ばかりで。
大切な人、ばかりで。

どうしても、会いたくて。
どうしても、会えなくて。

ようやく、会えた。

534: >>1 2011/07/17(日) 22:11:10.74 ID:vxSLhq9AO

「あの、」

本題を、切り出さなくてはいけない。
世間話をするためにここにいるのではない。
確かに、話はしたかったが。

「唐突な話で、悪いんですけど……」

「いいさ、言ってごらん」

さらりと言われた言葉に、心が暖かくなって。
同時に、寂しくなって。

口から、言おうとした言葉が出なくて。
目を瞑って、深呼吸した。

そうして、目を開けて、

「―――あなたは、今、幸せですか?」

問いが、発せられた。


535: >>1 2011/07/17(日) 22:11:59.73 ID:vxSLhq9AO

一瞬、ぽかん、と呆気にとられた表情をされた。

「……そうだねぇ」

だが、こんな妙な問いを真面目に考えてくれた。

「夫もいるし、子供もいる……仕事にも恵まれてるし、幸せかもな」

ただ、普通に家族がいて、何不自由なく生活できる。
問題なく、幸せだろう。
すでに完全で、完成された幸せ。

「……そう、ですか」

思いの外落胆してしまった自分が嫌になる。
幸せで、それでいいはずなのに。
自分は、何を期待していたのか。

覚えていて欲しかったのか。
自分で、消したくせに。


536: >>1 2011/07/17(日) 22:12:47.76 ID:vxSLhq9AO

「でも、さ」

でも、という言葉に眉をひそめた。

「時々、何か足りない気がするんだ……それが何かわからないけど、何かが」

「―――っ」

驚きで、呼吸が止まった。
どうして、と思った。

「食卓に三人しかいないのに違和感を感じて、朝起こしてもらう時も変だと思う」

続く言葉で、確信した。
記憶してはいない。
けれど、心が、体が覚えている。
女性自信も、子供と同じだった。

その言葉に、甘えて。
思わず、真実を言いたくなった。


537: >>1 2011/07/17(日) 22:13:27.08 ID:vxSLhq9AO

でも、ダメだ。

知っているけれど、知らない。
覚えているけど、覚えていない。

この家族の幸せは完成している。
三人で、完結している。
そこに割って入ってはいけない。

友達がいつか言っていた。
『あなたと私の時間はどんどんズレていく』と。
時間を戻すたび、それは広がるのだと。

同じだ。
この家族と自分は、同じ時間を共有していない。
時間がズレれば、気持ちもズレる。

きっとそこに、幸せな家族はいない。
互いに気を遣って、ぎこちなく生きる。

すでに幸せな家族を、そんなことにしたくはない。


538: >>1 2011/07/17(日) 22:14:10.79 ID:vxSLhq9AO

「そうなん、ですか」

もう、やめよう。
これ以上話しても悲しくなるだけだ。

「……すみません。わたし、もう帰ります」

もう、二度と会わないでおこう。
そうでなければ、耐えられない。
甘えてしまいそうで。
自分が、幸せを壊してしまいそうで。

くる、と背を向けた。
夕日が街を、赤く照らしている。

振り返らない。
振り返りは、しない。

迷いたくない。
迷わない。

その幸せを、

笑顔を、

守ることができれば、それでいい。


539: >>1 2011/07/17(日) 22:14:42.63 ID:vxSLhq9AO

「……さよなら」

さようなら。

さようなら、大切な人。

さようなら、大切にしてくれた人。

さようなら、わたしの居場所。

さようなら、守りたい人。

さようなら。

どうか、どうか、

どうか、元気で。

もう会うことはないけれど。

その幸せを、願い続ける。

だから、

さよなら。

540: >>1 2011/07/17(日) 22:17:16.55 ID:vxSLhq9AO






























「……帰る場所なら、ここだろ?」

541: >>1 2011/07/17(日) 22:18:21.76 ID:vxSLhq9AO

気が付けば、抱きしめられていた。

「……うそ」

「大人はさ、子供のことなんて何でもわかるんだよ」

駄目だ、駄目だ、駄目だ。
けれど、体は抵抗しようとしない。

「あんたが何をしてたのか、よくわからないけどさ……」

懐かしい暖かみだ。
夏の暑さでも、心地良い暖かさ。
自然と、涙が頬を伝っていた。

「お疲れさん、まどか」

「……マ、マぁ!」

抑えはもう、きかない。
背中まで手をのばし、思い切り抱きつく。

世界を超えて。
運命を超えて。
因果を超えて。

ようやく、たどり着いた。

542: >>1 2011/07/17(日) 22:19:19.81 ID:vxSLhq9AO

まどかとその母親が抱き合うのを見て、頬が緩んだ。

ようやく、この景色にたどり着いた。
ワルプルギスの夜も無く。
魔法少女が希望を持てる世界で。

鹿目まどかは心から笑える。

奇跡、と一度は思った。
だが、これは必然だ。

魔法少女が希望を持てる世界。
まどかもまた、魔法少女。
ただ、それだけのことだ。

まどかが概念でなくなっても、世界は変わらない。
魔獣は世にはびこり、魔女は影も形も無い。

まどかというシステムがなくても、世界がそうあり続ける。
魔法少女であるまどかが希望を持てるように。


543: >>1 2011/07/17(日) 22:20:18.00 ID:vxSLhq9AO

まあ、推測に過ぎないのだが。

けれど、問題は無い。
それが不確定で、儚くて、脆くても。
まどかの笑顔が、そこにある。

それで、十分だ。

何より、私もまどかも魔法少女。
どんなに絶望的な運命だとしても、超えていける。
そんな確信があった。

だから、これでいい。

す、と求め続けた景色に背を向ける。
もう、いつでもまどかと会える。
だから、彼女は家族に任せようと思った。

だが、

腕を、引かれた。


544: >>1 2011/07/17(日) 22:21:11.87 ID:vxSLhq9AO

「……っまど、か?」

「えへへ……」

悪戯っぽい笑み。
それが幸せそうで、思わず見惚れる。

ぐ、と振り向かされた。
その正面には、まどかの母親。

「お? あんたは……」

「え、ええと……」

まどかの意図が読めず、混乱する。
母親の方は以前のことを思い出して私に気付いたらしい。

「あれ、二人とも知り合いだったっけー?」

わたしを差し置いてひどいよー、と頬を膨らます。
その行動すら、愛おしい。

「それじゃ、改めての紹介だね。この子はほむらちゃん―――」


545: >>1 2011/07/17(日) 22:21:54.79 ID:vxSLhq9AO








「わたしの、最高の友達だよっ」








―――the end