1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/10(土) 21:11:28.05 ID:/OayQcdY0
無数の死体が散らばった戦場。勇者と魔王が対峙している。

魔王「もう、止めんか勇者よ」

勇者「ここまで来て何を言ってやがる。お前のために殺された魔族に対して悪いと思わないとか」

魔王「だからこそ、もう止めようと言っておるのだ」

勇者「何を訳の分からないことをぬかしてるんだ。俺はお前を殺す。それが、俺の使命なんだ」

魔王「使命、使命、使命。お主はいつもそうだ。自分の意思で動けぬのか」

勇者「う、うるさい!」

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引用元: 魔王「もう、やめんか勇者よ……」 




勇者たち (裏少年サンデーコミックス)

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2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/10(土) 21:13:53.93 ID:/OayQcdY0
魔王「勇者、我はお主と戦いとうないのだ」

勇者「黙れ黙れ! 俺は魔族に殺された民の為にも、殺してきた魔族の為にも、お前を殺すんだ」

魔王「そうか……その信念を貫き通すと言うのだな?」

勇者「あぁ、そうだ」

魔王「分かった……諦めよう」

勇者「お互いに体力も限界だ。次で決めてやる」

3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/10(土) 21:16:35.52 ID:/OayQcdY0
魔王「いや、その必要はない。お主は少しでも身体を休めよ」

魔王が短剣を逆手に持つ。

勇者「な、お、おい魔王ッ!!」

魔王「さらばだ勇者よ」

魔王が自身の胸に短剣を突き刺す。

勇者「ふざけんなよ! ここまできて、何で勝手に死んでるんだ。今まで……戦ってきたのはなんだったんだよ!!」

魔王「……」

勇者「何か言えよ。おい、魔王!」

横たわっていた魔王の死体が独りでに起き上がる。

勇者「い、生きてるのか?」

魔王「イギム・デムダ」

勇者「その魔法は、転移魔法――!」

勇者の身体を光が包む。

勇者「クソ、最後の最後で。やめろ、やめろ、やめろぉ!」

魔王「……」

勇者の身体がパズルピースのように分裂し消滅する。魔王の亡骸が石化する。

4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/10(土) 21:18:31.96 ID:/OayQcdY0
2

幼女「起きてください」

眠る勇者の肩を揺する幼女。

勇者「んん、疲れてるんだ。あと五分だけ」

幼女「起きてください」

勇者「……あと三分でいいから、ね?」

幼女「分かりました。三分ですよ」

5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/10(土) 21:19:51.65 ID:/OayQcdY0
三分後。

幼女「三分経ちました。起きてください」

勇者「いやだ! あと五分……んん」

幼女「……ふぅ」

幼女が勇者の傷口に指をねじ込む。

勇者「いでぇぇぇ!?」

幼女「ようやく起きましたか」

勇者「え、誰?」

幼女「魔王様に勇者殿の世話役を務めるよう命を受け参じました、ルートネス・タダレネスです」

【以下、幼女=ルー】

6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/10(土) 21:21:27.19 ID:/OayQcdY0
勇者「はは、可愛いなー。でも、魔王に様とか付けない方がいいぞ」

ルー「ッム……私は二十歳で、勇者殿より三歳も歳上です!」

勇者「嘘だー。どう見ても六歳くらいじゃねーか」

ルー「人間の物差しで測らないでください。魔王様の命よりと申したでしょう。私は魔族です」

勇者「ま、魔族? こんなに容姿が人間な魔族なんて見たことがない」

ルー「それだけ、意識せずに我が同胞を殺してたんですね」

勇者「それはねーよ。俺は殺した魔族の顔は全員、覚えてる」

ルー「なら……いえ、不快です。この話はやめましょう。何はともあれ、私はあなたの世話役を任されていますので、よろしくお願いいたします」

7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/10(土) 21:23:13.68 ID:/OayQcdY0
勇者「あーはいはい。その話は後で聞くから。とりあえず今は、人民の皆に魔王を倒したって報告しに行かないと」

ルー「それは叶わぬ願いですね」

勇者「え、何でだよ」

ルー「ここに、あなたを知っている方は存在してませんから。その逆も然りです」

勇者「あん? あーそう言えば、ここはどこだ?」

ルー「日本です。と言っても知らないでしょうけど」

勇者「日本? そんな村、街ってあったかな」

頭を抑えるルートネス。

ルー「覚えてませんか? 魔王様が最後に使用した魔法を」

勇者「――っあ!! そうだ、あの野郎、最後の最後で俺を飛ばしやがったんだった」

ルー「その転送先が日本です」

勇者「魔界か、人界か。どっちだ?」

ルー「広義の意味では人界ですが……狭義では魔界でも人界でもありません」

8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/10(土) 21:24:42.67 ID:/OayQcdY0
勇者「どういうこと?」

ルー「日本は私たちが暮らしていた星とは別の星である、地球の大地名の一つです」

勇者「ほ……し……?」

ルー「はい、別の星です」

勇者「あの野郎、いきなり自害したかと思えば……そんなことしやがったのか!」

ルー「勘違いをしているようですが、魔王様は勇者殿を守るために自害してまで転移魔法を使ったのですよ?」

勇者「はー、さすがに苦しいって」

ルー「自害することで、体内の魔力が溢れますからね。それを利用することで別の星への転送を成功させたのです。私の場合は多くの同胞の魔力を借りましたが、勇者殿が大半の魔族を殺してしまいましたからね……」

勇者「仕方ないだろ。いや、自害した理由は分かったけど、それが何で俺のためになるんだ?」

ルー「はぁ、本当に低脳ですね」

勇者「生まれてから、学校にも通えず訓練ばっかしてたんだから仕方ねーだろ」

9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/10(土) 21:26:18.10 ID:/OayQcdY0
ルー「はいはい。では、そんな脳筋の勇者殿にも分かるように教えてあげますよ」

勇者「お、おう」

ルー「良いですか。世界には魔族と人間が支配していますね」

勇者「人界と魔界だな」

ルー「そうです。土地の割合は人界と魔界で一対一です」

勇者「それくらい俺にでも分かる」

ルー「では、魔王様という統括者を失った魔族はどうなると思いますか?」

勇者「新しい魔王が誕生する……?」

ルー「その可能性は低いです。四天王などの知能指数の高い魔族は全て勇者殿に殺されていますので。残った魔族はゴブリンやオークなどの端くれでしょう」

勇者「そうか……なら数日で絶滅だろうな」

ルー「そうです。その結果、魔界は消滅し人界となります」

勇者「それがなんだよ」

ルー「人間には貴族がいますね?」

勇者「あぁ、いるけど?」

10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/10(土) 21:28:07.11 ID:/OayQcdY0
ルー「貴族達は魔界の土地を自分のものにしようとします」

勇者「有り得るけど、王がそうはさせないだろ」

ルー「王も貴族の一人です。世界の半分という宝を目の前にした貴族は欲に飢えます」

勇者「確かに貴族は土地だの宝石だのに異様にうるさいけど……」

ルー「そうして、貴族同士での土地争いが勃発するのです」

勇者「そ、それは……」

ルー「荒れ果てた人間達は戦争が起きた元凶を探し始めます。その結果、吊るし上げられるのが勇者殿です」

勇者「な、何でだよ!」

ルー「勇者殿が魔王を倒さなければ、戦争は起きなかったからです。まあ、ただの罪の擦り付けですけどね」

勇者「そんなに人間はバカじゃない!」

ルー「では、聞きます。なぜ、勇者殿は魔族を襲うのですか?」

勇者「俺が魔族を襲うって……お前らが人間を襲うからだろ」

ルー「おかしいですね。魔族たちは一度も自ら人間を襲ったことはありません」

勇者「嘘つけ!」

ルー「嘘ではありません。魔王様が、絶対に私欲で人間を襲わないように命じていましたから」

勇者「じゃあ、何で……」

ルー「魔族が人間を襲っていたのではありません。貴族が土地や宝の私欲に歪み、魔族を襲うが故に防衛に出ていたのです」

勇者「じゃあ俺は――」

ルー「使命、使命と使命に支配され良いように利用されていただけですね」

11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/10(土) 21:29:08.55 ID:/OayQcdY0
勇者「嘘だろ……」

ルー「嘘ではありません。話が少し脱線しましたね。戻しましょう。つまり、魔王様は人間から勇者殿を守るべく自害して日本に転送させたのです」

勇者「なんで、そこまでして俺を」

ルー「魔王様は勇者殿を愛していました。いつか、人間と魔族が分かり合える世界を求めていました。私たちも、そんな魔王様の夢を見守っていましたよ」

勇者「俺はアイツが女だったことも知らなかった」

ルー「魔王様は勇者殿の顔を見ると赤くなるとかと言って、常に全身を覆っていましたからね」

勇者「もっと早くに言ってくれれば……」

ルー「言っていたと思いますよ?」

勇者「ぐっ……」

ルー「分かりましたか? 自分が転送された理由を」

勇者「でも、俺は人間を見殺しにはできない。少なくとも平民に罪はないだろ」

ルー「私は人間の事情など知りません」

勇者「魔王には悪いけど、俺は元の世界に戻る」

12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/10(土) 21:30:12.74 ID:/OayQcdY0
ルー「……そんなことが可能なんですか?」

勇者「ああ。勇者の力の源、聖力を補充する方法は感謝されることだ。多くの人に感謝されればされるほど、聖力が補充される」

ルー「つまり、聖力さえあれば転移も可能だと?」

勇者「理論上はな」

ルー「しかし、魔王様の天命に匹敵する量となると、膨大な時間が必要になるかと思いますが。」

勇者「領土戦争が勃発するまで、どれくらい時間がある?」

ルー「まず、魔族の生き残りを滅ぼす必要がありますからね。勇者殿という最大戦力を失った以上……そうですね、三年ほどかと」

勇者「十分だ。それまでに魔王戦で枯渇した聖力を貯めに貯めてやる」

ルー「――ッ。そうですね、協力しましょう。魔王様と勇者殿の意思を尊重して欲しいでしょうし」

勇者「助かる、この日本だっけ? よく知らないからな」

ルー「慣れるまでは大変ですが、慣れれば豊かな生活が出来ますよ」

13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/10(土) 21:31:34.07 ID:/OayQcdY0
勇者「あのさ、さっきから気になってたんだけど」

ルー「なんです?」

勇者「この天井で輝いてるやつはなんだ?」

ルー「電球です」

勇者「雷の魔法か何かか?」

ルー「いえ、魔法ではなく科学です」

勇者「カガク……?」

ルー「まあ、そうなりますよね。私も最初はそうでした。理屈はイマイチ分かりませんが、一ヶ月もここで暮らせばだいたいは理解できるはずです」

勇者「一ヶ月……まあ仕方がないか」

ルー「私もサポートしますので。とりあえずこれが身分証です」

勇者「ギルドカード的なやつか」

ルー「そういうことになります。これからはユーシャと名乗ってください」

勇者「ユーシャ? なんだ変な発音だな」

ルー「元の世界で“勇者”の意味です。名前を考えるのも面倒なんで、とりあえず問題ないでしょう」

勇者「ユーシャ、ユーシャだな。了解」

14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/10(土) 21:32:48.92 ID:/OayQcdY0
ルー「あと、一ヶ月の間は単独行動を禁止します」

勇者「な、なんでだ?」

ルー「勇者殿が独りで行動すると、すぐに問題を起こしそうですからね」

勇者「はは、そんなガキじゃあるまいし」

ルー「いえ、今の勇者殿はクソガキ以下です。前の世界での常識は一切通じませんので」

勇者「わ、分かった」

ルー「万が一、独りで行動してしまい、青い服を来た者に捕まったときは、この数字を伝えてください」

勇者「080××××○○○○?」

ルー「それを伝えれば、あとは私が対処しますので」

勇者「んー、とりあえず分かった」

ルー「それでは、よろしくお願いします」

勇者「あ、うん。こちらこそ」

握手を交わす二人。

15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/10(土) 21:33:52.57 ID:/OayQcdY0
3

勇者が日本に転送されてから一ヶ月が経過。

勇者「おーいルートネス、風呂入ったぞ」

ルー「では、お先に」

勇者「なあなあ、俺もその風呂ってのに浸かってみたいんだけど。今日はお湯を流さないでくれ」

ルー「拒否します」

勇者「でも、湯に浸かるのって気持ちいいんだろ? 何で俺はシャワーだけなんだよ。」

ルー「私の浸かったお湯を利用されるなど、考えるだけでも嘔気がこみ上がって来ます」

勇者「? じゃあ、俺が先に浸かったら良いじゃん」

ルー「勇者殿の煮汁など浸かりたくないです」

勇者「むー、じゃあさもう一回風呂を沸かしても良いかな?」

ルー「節約してください」

勇者「はぁ……分かったよ」

ルー「では、お先に失礼しますね」

風呂場に行くルートネス。

16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/10(土) 21:34:57.56 ID:/OayQcdY0
勇者「ちぇ、厳しいな」

ルー「ふふん♪ふんふん♪」

勇者「ムスッと顔のルートネスが鼻歌を歌うくらいご機嫌になる風呂って、どんだけ極楽なんだよ……うー、やっぱり体験してみてー!」

辛抱ならず、脱衣所に向かう勇者。

勇者「なあ、今日だけは頼むからお湯を流さないでくれよ」

ルー「は、はぁぁ!? な、なに入って来てるんですか? 馬鹿ですか、死んでください!」

勇者「別に裸を見てるわけじゃないだろ。なあー頼むよ」

ルー「ふざけないでください。今すぐ出ていってください。さもなくば殺しますよ」

勇者「俺のお願いを聞いてくれないと嫌だ」

ルー「何を子供みたいなことを……本当に殺しますよ」

勇者「お前がそんなこと出来るわけないのは知ってる」

ルー「ぐ、ぬぬ……あーもう分かりました。今日だけですよ。後でもう一度、お湯を炊くことを許可します」

勇者「やった! サンキュー」

17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/10(土) 21:35:49.85 ID:/OayQcdY0
脱衣所を出ていこうする勇者。
床に脱ぎ散らかしていた、靴下を踏みバランスを崩す。

勇者「おわっ――!!」

浴室へと繋がるドアのドアノブに手をかける。
そのまま、浴室へと突っ込む。

勇者「え、えへへ……わりぃ」

ルー「ふふ」

勇者「大丈夫、見てないぞ。ほら、ルートネスは●●だし、湯気でどこが胸なのかも判別できないから、な?」

ルー「殺します♪」

勇者「ですよねー」

勇者の身体を黒い壁がドーム状に覆う。

勇者「これは、幻術魔法か。困ったな、今は聖力がないから最悪、精神が崩壊するぞ」

ルー「心配は無用です。寸前で止めますので」

勇者「お気遣いありがとうございます」

18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/10(土) 21:36:49.20 ID:/OayQcdY0
ルー「さあ、十回死にましょう」

勇者「おー、ギロチンが見える」

勇者の首が跳ね飛び、再生する。

勇者「幻って分かってても、やっぱ辛いなこれ……」

ルー「あと、九回です。耐えてくださいね」

19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/10(土) 21:37:57.03 ID:/OayQcdY0
4

勇者が青ざめた顔で首を両手で抑えている

勇者「うぉぇ……うぇ。あー、生きた心地しねー」

ルー「自業自得ですよ」

ルートネスが勇者にコーヒーを差し出す。

勇者「ふぅ……落ち着く。まあ、そんなに怒らなくてもいいだろー」

ルー「裸を見られたくらいなら、あそこまで怒りませんよ」

勇者「ん? じゃあ何で、あんなに不機嫌だったんだ」

ルー「その話はさておき、本日で一ヶ月が経ちました。どうです、こちらでの生活に慣れましたか?」

勇者「え、あーうん。凄いよな、この世界って」

ルー「この快適さを知れば、元の世界に戻る気が失せますね」

勇者「そうだな。でも、俺は戻らないと」

ルー「そう言うと思っていました。ですので、明日から勇者殿には、ここに通ってもらいます」

ルートネスが勇者にパンフレットを手渡す。

勇者「なになに。私立友英学園高等学校?」

ルー「はい、学校です。手続きは私が手を回しておきましたので問題ありません」

20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/10(土) 21:39:29.20 ID:/OayQcdY0
勇者「とは言っても、何で学校なんだよ」

ルー「聖力を集めるには、交流が必要ですからね。かと言って、日本では、誰これ構わず話しかけると不審者扱いされますので」

勇者「そこらへんは面倒な星だよな、ホント」

ルー「ですが、学校内なら特に問題はないでしょう。進んで人助けに励んでください」

勇者「まー、学校には一回通ってみたかったんだ。サンキュー!」

ルー「いえいえ、くれぐれも陰キャにはならないで下さいね」

勇者「インキャ? なんだよそれ」

ルー「学校で唯一、不審者扱いされる輩ですね。陰キャになれば全てが終わりだと思ってください」

勇者「インキャだな? よし、分かった」

21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/10(土) 21:41:58.97 ID:/OayQcdY0
疲れたから休憩する

22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/10(土) 22:23:51.29 ID:/OayQcdY0
5

ルー「では、これに着替えてください」

勇者「えーなんだよこれ。カチカチで着心地悪い」

ルー「新品ですからね。何度も着ているうちに柔らかくなります」

勇者「うぇ……脇が気持ち悪い」

ルー「うるさいですね、我慢してください」

勇者「これでいいのか?」

ルー「ええ、問題ありません。それは制服と言います。友英高校に通う生徒は皆、同じ服を着ています」

23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/10(土) 22:24:27.41 ID:/OayQcdY0
勇者「なんか怪しい宗教みたいだな」

ルー「あながち間違いではないですね。学校は子供を洗脳する場ですので」

勇者「ヴェッ!?」

ルー「冗談です」

勇者「本当だろうな?」

ルー「知りませんよ。私だって学校に通ったことがないのですから」

勇者「あれ、魔族にも教育機関があるだろ?」

ルー「あるにはありますけど、私は通ってません」

24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/10(土) 22:25:25.53 ID:/OayQcdY0
勇者「お前も俺と同じで使命とかで……」

ルー「脳筋と一緒にしないでもらえます? 私は優秀ですので、通う必要がなかっただけです」

勇者「そ、そうか」

ルー「話を戻しましょう。学校に着いたら、まずは職員室に行ってください。その後、担当の教師が教室に案内してくれるはずです」

勇者「職員室、担当の教師だな」

ルー「はい。その後、教室で自己紹介をするはずですので、この通りに行ってください」

勇者「なになに? えと、真尾野ユーシャです。ロシア人の父と日本人の母の間に生まれました。日本にはまだ慣れてませんがよろしくお願いします――か」

25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/10(土) 22:26:15.75 ID:/OayQcdY0
ルー「これで、ひとまずは陰キャにはならないはずです。日本人はハーフが好きですから」

勇者「ふーん。ハーフってのが何かよく分かんねーけど。まあいいや」

ルー「あなたの外見は日本人離れしていますからね。くれぐれもハーフとの設定を忘れないでください」

勇者「前に、服を買いに行った時もめちゃくちゃ見られたよな」

ルー「赤髪、白い肌、高い鼻ですから当たり前です」

勇者「確かに顔つきが違うけど、赤髪は珍しくないだろ。デパートにもいっぱい居たじゃん」

ルー「いえ、日本人に赤髪なんて存在しません。あれは染めているのです」

勇者「染める……髪を?」

26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/10(土) 22:27:27.50 ID:/OayQcdY0
ルー「そうです。この世界の人間は頻繁に髪を染めます」

勇者「何でそんな面倒なことを」

ルー「少しでも目立ちたいと言う自己顕示欲の現れですね。特に赤髪、緑髪等にに染める者はそういう印象があります」

勇者「お、おい……じゃあ、俺の髪の色ってまずいんじゃ」

ルー「心配ご無用。勇者殿には赤髪が似合っていますので」

勇者「まあ、地毛だしな」

ルー「日本人で赤髪や青髪に染める者に限って、全く似合ってませんからね」

勇者「確かに、デパートで見たやつもゴブリンみたいだったな」

ルー「魔族で例えないでください。まあ、言いたいことは分かりますけど」

34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 08:36:56.68 ID:mk9u+C2P0
勇者「赤髪でも大丈夫ってことだな?」

ルー「ええ、勇者殿なら問題ないでしょう。逆に人気になると思いますよ」

勇者「よかった、よかった」

ルー「むっ、時間ですね。では、最後に……」

勇者の身体が三回、淡く点滅する。

勇者「ん、なんだこれ魔法か?」

ルー「言語翻訳の魔法です。まだ勇者殿は日本語が話せませんからね」

勇者「アホで悪かったな」

ルー「自覚があるだけマシですよ」

35: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 08:38:01.91 ID:mk9u+C2P0
6

勇者(おぉ、これが友英高校か)

モブ「何あの子、外国人かな?」

モブ「なあ、アイツ。今日来るっていう転校生じゃね? 話しかけて来いよ」

モブ「いやいや無理無理! お前が行けって」

モブ「外国人に話す勇気はねーな」

勇者(うぇ、やっぱ俺の容姿って目立つんだな……早いとこ職員室に行くか)

36: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 08:39:12.03 ID:mk9u+C2P0
少女「どうかなさいました?」

勇者「あ、えと……今日、転校したんですけど」

少女「あらあら〜転校生さんですか」

勇者「あーはい。あの職員室ってどこにありますか?」

少女「私も先生に用事かありますので、一緒に行きましょうか」

勇者「助かります」

勇者(なんだこの人!! 姫様より姫様じゃねーか)

37: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 08:40:12.80 ID:mk9u+C2P0
少女「ここが職員室です。先生を呼んで来ますので、しばらくお待ちください」

勇者「は、はい!」

少女「ふふ、今からそんなに緊張していたら、最後までもちませんよ」

少女が教師を呼んでくる。

担任「あー君が転校生ね。ロシア人とのハーフだっけ?」

勇者「はい。父が日本人で……あれ、父がロシア人だっけ」

少女「ふふ、ユーモア溢れる方ですね。お名前を伺ってもよろしいですか?」

勇者「真尾野ユーシャです」

少女「ユーシャ君ですね。私は友英高校生徒会長の具源(ぐげん)と言います。よろしくお願いしますね」

以下、少女=具源

38: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 08:40:59.72 ID:mk9u+C2P0
勇者「こちらこそ、よろしくお願いします」

チャイムがなる。

担任「あ、予鈴だ。ユーシャ君、早速だけど教室に行こうか」

勇者「は、はい」

具源「自己紹介、頑張ってくださいね。応援しています」

具源が勇者の背中を押す。

勇者(えと、真尾野ユーシャです。ロシア人の父と日本人の母の間に生まれました。日本にはまだ慣れてませんがよろしくお願いします。よし覚えてるな)

担任が教室から勇者を手招きする。
勇者が緊張した様子で教室に入る。

39: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 08:41:40.68 ID:mk9u+C2P0
モブ「○○×▽×○△×」

モブ「▽○□○×△?」

勇者(やべぇ……緊張で周りが何を言ってるのか分かんねー。とりあえず、これに名前を書くんだよな)

勇者がミミズのような字で黒板に真尾野ユーシャと書く。

勇者「えと……えと、真尾野ユーシャです。……ロシア人の父と日本人の母の間に生まれました! 日本にはまだ慣れてませんがよろしくお願いします!!」

モブ「?」

モブ「??」

担任「○×○×△△」

40: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 08:42:38.86 ID:mk9u+C2P0
勇者「え、何て言いました?」

担任「○×○△!」

勇者(あれれ……これってもしや――翻訳魔法切れてる?)

モブ「○○××?」

担任「△××○○」

騒がしくなる教室。
勇者は周りが何を言っているのか分からず、顔面蒼白。

勇者(これって、インキャってやつ……?)

女子「……ッ」

41: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 08:43:28.36 ID:mk9u+C2P0
7

勇者「おいおいおいおい!! どういうことだよ!」

ルー「帰ってきたと思ったら、いきなりうるさいですね」

勇者「翻訳魔法が途中で切れたぞ!」

ルー「そんなわけないでしょう。あれは永続的に効果が持続します」

勇者「本当だって!」

ルー「おかしいですね。確かに魔法が解除されています」

勇者「だから言ってんだろ」

ルー「無意識に魔法を解いたんじゃないんですか?」

勇者「今の俺は聖力が枯渇してるから無理だな」

42: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 08:45:27.33 ID:mk9u+C2P0
ルー「む……とりあえず掛け直しますか」

ルートネスが勇者に言語翻訳の魔法をかける。

勇者「これで大丈夫なんだよな?」

ルー「ええ、おそらくは」

勇者「はぁ……」

ルー「その様子だと散々だったようですね」

勇者「最初はクラスメイトが周りに集まって話しかけて来たけど、何言ってんのか分からないからな。笑顔を返してたら誰も話しかけてこなくなった」

ルー「うわぁ……陰キャですね」

勇者「やっぱり!?」

ルー「はい、笑顔で返すのは陰キャです。そこは、言葉が分からずとも身体を動かしたりしてノリの良さをアピールしなくては」

勇者「その手があったか」

43: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 08:46:06.54 ID:mk9u+C2P0
ルー「でも、初日ですし大丈夫でしょう。昨日は緊張しちゃってなどと嘘をついて誤魔化してください」

勇者「明日が本番ってことだな……」

ルー「そうですね。ただし、翻訳魔法を解除しないでくださいよ」

勇者「それは俺のせいじゃないッ」

44: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 08:47:00.75 ID:mk9u+C2P0
8

翌日。
友英高校――昼休み。
勇者は教室で自分の席に座りながら頭を抱えている。

勇者(やべー、昨日が昨日だけにクラスの輪に溶け込めねーよ。あんなに仲良く話してる奴らの間に割って入るとか、もう魔族の四天王倒すレベルで困難だぞ……ええ?)

少女「ねぇ、アンタさ」

勇者(いや、でもインキャになるのは問題だし……あーどうしたら良いんだ!!)

少女「ねえってば!」

ドンッ!
少女が机を叩く。

勇者「え、な、何だよ?」

少女「何よ。あんた、日本語喋れるじゃない」

45: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 08:48:54.31 ID:mk9u+C2P0
勇者「昨日は緊張しちゃって……」

少女「ふん、小心者ね」

勇者「悪かったな。で、誰だよお前」

少女「ク、クラスメイトの顔くらい覚えときなさいよ! ウレイよ雨零!」

以下、少女=雨零

勇者「ウレイだな。俺はトレニ……じゃなくてユーシャ」

雨零「知ってる。そんなことより、付き合いなさい」

勇者「え、良いのか!」

雨零「ひゃ!? 突然、立ち上がらないでよ」

46: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 08:49:40.57 ID:mk9u+C2P0
勇者「悪い、悪い。で、何に付き合えば良いんだ?」

雨零「あたしに焼きそばパンを買って来なさい。焼きそばパンよ、良いわね?」

勇者「焼きそばパン……なんだそれ?」

雨零「はぁ? あんた、焼きそばパンも知らないの」

勇者「まだ、日本に慣れてなくてな」

雨零「焼きそばを挟んだパンのことよ。少し考えたら分かるでしょ」

勇者「焼きそばってなんだ?」

雨零「あぁ〰〰!! これ、これのこと!」

雨零がスマホで焼きそばパンの写真を勇者に見せる。

勇者「これが焼きそばパンか。で、どこに売ってるんだ?」

雨零「購買に決まってるでしょ……え、まさか」

勇者「購買って何だ?」

47: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 08:50:38.74 ID:mk9u+C2P0
雨零「はぁ、ロシアには購買がないわけ? もう、一階に降りて、昇降口の隣にある売店が購買」

勇者「あーあれを購買って言うのか」

雨零「いい、そこで焼きそばパンを三つ買って来なさい」

勇者「なんで、俺が?」

雨零「そ、それが日本の常識なのよ」

勇者「そーなのか? よし分かった。買って――あぁ!」

雨零「な、何よ。いきなり叫んで」

勇者「ルートネスに金を無駄な物に使うなって言われてるんだった」

雨零「誰だか知らないけど、焼きそばパンは無駄じゃないわよ」

勇者「……本当にか?」

雨零「な、何よ。あたしが嘘を言ってると思うわけ!!」

勇者「俺はな、嘘を見抜くのが得意なんだ」

雨零「ふ、ふん。だから何よ」

勇者「だから分かる。お前は嘘をついてない。よし、早速買ってくる」

雨零「いったい何なのよ……み、三つだからね!」

勇者「おーけー」

48: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 08:51:45.03 ID:mk9u+C2P0
購買に行く勇者。

ザワザワザワザワ

モブ「おばちゃん、メロンパン一つ!」

店員「あたしゃ、まだそんな歳じゃない!」

モブ「えぇ……」

勇者「すげー人溜まりだな。とりあえず、あのバーさんから焼きそばパンを三つ買えば良いのか」

モブ「お姉さん、唐揚げ弁当一つください」

店員「あんたみたいなブスにお姉さんなんて言われても嬉しくないわい!」

モブ「えぇ……」

勇者「そこのバーさん、焼きそばパン三つください」

店員「はぁ、あんたねぇ。一人一つまでだ――ッ」キュンキュン

勇者「ダメなんですか?」

店員「なーんて冗談です。うふふ」

店員が勇者に焼きそばパンを三つ渡す。

勇者「はい、これお金」

店員「こ、これ……オマケです」

店員が勇者にメロンパンと唐揚げ弁当を渡す。

勇者「おー、ありがとう!」

店員「ささ、あんた達は帰った帰った」

モブ「えぇ……」


52: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 15:05:00.99 ID:mk9u+C2P0
勇者が教室に戻る。

勇者「はい、焼きそばパン三つ」

雨零「は……え?」

勇者「ん、これであってるだろ?」

雨零「そ、そうだけど。よく、あのオバサンから焼きそばパンを三つも買えたわね……」

勇者「オマケもくれたぞ」

雨零「えええッ!!」

勇者「またオレ何かやっちゃいました?」

雨零「そのノリ、なんかウザイから止めてくれない?」

勇者「言ってて俺もそう思った」

53: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 15:06:04.75 ID:mk9u+C2P0
雨零「ま、まあ。良くやったわね」

勇者「よく分からないけど。それで焼きそばパンをどうするんだ?」

雨零「食べるに決まってるでしょ?」

勇者「まあ、そうだよな。はいよ」

雨零「ちょっと、何で二つだけなのよ」

勇者「一つは俺のだろ?」

雨零「あんたのはないわよ」

雨零が勇者の手から焼きそばパンを奪い取る。

勇者「なんで、俺のがないんだよ!!」

54: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 15:07:09.81 ID:mk9u+C2P0
雨零「あ、あんたね……唐揚げ弁当とメロンパンもあるでしょ? そんなに食べたら太るわよ」

勇者「むー、それもそうか」

雨零「ま、まったく。こっちが気をつかって上げたら調子に乗るんだから」

勇者「ごめんごめん。それに、ルートネスの弁当もあるんだった。確かにそんなに食えねーな」

雨零「じゃ、ご苦労さま」

勇者「おう! って一緒に食べないのか?」

雨零「なんであたしがあんたと食べないといけないのよ!」

勇者「だ、だって……周りは机とか合わせて食べてるじゃん」

雨零「それはね、仲の良い者同士の特権なの」

勇者「俺たち、もう仲良くなったじゃん」

雨零「な、なってない! じゃーね、あんたは独りで食べなさい」

55: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 15:09:09.43 ID:mk9u+C2P0
モブA「えー、ユーシャ君も一緒に食べても良いじゃん」

雨零「え、で、でも」

モブB「うんうん。二人のやり取り見てたらユーシャ君のこともっと知りたくなっちゃったしー」

勇者「一緒に食べても良いのか!!」

モブA「もちろん! 良いよねー、雨零? ね、ねね?」

雨零「もちろん、私はいいけど」

モブB「じゃー決まり。ささ、ユーシャ君。一緒に食べようじゃないか」

勇者「お言葉に甘えて」

勇者、雨零、モブABが机を合わせる。

モブA「勇者君さ、日本語上手なのに、昨日は何で変な言葉で話してたのー?」

勇者「いやー緊張しちゃって」

56: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 15:11:08.28 ID:mk9u+C2P0
モブB「あれってさ、ロシア語だよね! 英語でもなかったしさ」

勇者「いや、あれは©©©語」

モブA「え、なんて?」

勇者「――じゃなくてロシア語だった」

モブA「もー、ユーシャ君って変なのー」

勇者「やっぱ、日本とは感性が違うのかもな」

モブB「しっかしま、この立派な赤髪は地毛なのかね?」

勇者「おん。勇者の一族はみんな赤髪なんだ」

モブA「へー、じゃあユーシャ君のお母さんもお爺ちゃんも赤髪なんだ」

勇者「まあ、俺が一番赤いけどな」

57: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 15:12:17.83 ID:mk9u+C2P0
モブA「触ってもいい?」

勇者「別にいいけど、なんで?」

モブB「いやー地毛の赤髪なんて初めて見たからさ、記念にってね」

勇者「そういうことなら存分に触ってくれ」

モブA「じゃ、じゃー私もー」

さわさわ

勇者(こう言うのも悪くないな。もう、これでインキャにはならなくてすむだろ!)

モブA「ふー堪能した。あ、雨零! 焼きそばパンちょうだい」

モブB「そうだ、忘れてた。あたしゃお腹が空いたよー」

雨零「はい、これ」

58: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 15:13:44.16 ID:mk9u+C2P0
モブA「ありがとー、ユーシャ君!」

モブB「がとねー、ユーシャ君」

勇者「それって、美味しいのか?」

モブB「そりゃまーね。いつもすぐに売り切れになるくらい」

勇者「へー、そんなに人気なのか」

モブA「人気すぎて、店員のオバサンが売るのを渋るくらいね」

モブB「なに、なにー。食べたいの?」

勇者「まあ、気になるって言うか」

モブA「関節キスしちゃう? ユーシャ君みたいなイケメンなら良いよ」

勇者「関節キスって何だ?」

モブA「へ、えと……それは」

モブB「なにテレてんのさ。関節キスってのはねー、他人が食べたとこを、食べることだよー」

59: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 15:15:31.99 ID:mk9u+C2P0
勇者「なんだ、それを関節キスって言うのか」

モブA「あれ、慣れてるの?」

勇者「よく、仲間と一緒にしてたよ」

勇者(みんな死んだけど)

モブA「へ、へー大人なんだね」

勇者「まだ十七歳だから子供だ」

モブB「そりゃ、まーね」

モブA「で、どうする。私と関節キスしちゃう?」

勇者「いや、悪いしいいよ」

モブA「でも、ユーシャ君が買ってきたんだし。ユーシャ君には食べる権利があるよね?」

モブB「うんうん、そうそう」

モブA「どうする?」

雨零「あ、あたしのあげる」

勇者「ん、良いのか? じゃあ、いただく」

雨零「あ……ちょっと! どこ食べてんのよ」

モブA「ひゃー、関節キスじゃん!」

60: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 15:16:42.02 ID:mk9u+C2P0
モブB「はは、雨零、顔真っ赤じゃん」

雨零「も、もう!」

勇者「確かに美味いな。やっぱり日本食は美味しい」

雨零「少しはテレなさいよ!」

勇者「何をテレることがあるんだ?」

モブA「そうそう、お似合いよお二人さん」

モブB「もう付き合っちゃえば?」

雨零「い、嫌よ!」

勇者「?」

61: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 15:17:32.68 ID:mk9u+C2P0
9

自宅。
勇者とルートネスがリビングでくつろいでいる。

ルー「なるほど、それで関節キスをしたら騒がれたと」

勇者「回し食いって、日本じゃそんなに珍しいことなのか?」

ルー「まあ、異性の間での回し食いは問題行為ですね」

勇者「え、なんで」

ルー「異性との間接キスは求婚を意味しているのです」

勇者「きゅ、求婚!?」

ルー「はい、この女子高生の間で流行っている雑誌によりますとそう言うことらしいです」

勇者「じゃ、じゃあ……俺は雨零に――」

ルー「結婚を申し込んだようですね」

65: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 21:54:24.69 ID:mk9u+C2P0
勇者「まずくね……?」

ルー「はい。そして、それ以上にまずいのは……」

勇者「まずいのは?」

ルー「日本では結婚後、男が女の尻に敷かれるのが常となっているようです」

勇者「それなら、姫様を守ってたのと同じ感じだろ?」

ルー「い、いえ……ここでは奴隷と同格ですね」

勇者「そ、そんな!! じゃあ俺は」

ルー「その雨零と言う方の●●●道具になってしまいます」

勇者「そんなことになったら……もう、元の世界に戻るなんて――」

ルー「絶望的ですね」

66: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 21:55:27.03 ID:mk9u+C2P0
勇者「やばいやばいやばいやばい!!」

ルー「安心してください。まだ、求婚の段階です。相手方が了承しない限り問題ありません」

勇者「じゃあ、俺は雨零に嫌われれば良いのか!」

ルー「そうです。とことん嫌われてしまえば大丈夫でしょう」

勇者「ほっ……良かった良かった」

ルー「まったく、気をつけてくださいね。今日からこの雑誌を呼んで勉強してください。これには、日本人の問題行動が尽く記されておりますので、タメになるかと思います」

勇者「週刊文春か。分かった、サンキュー」

67: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 21:56:20.97 ID:mk9u+C2P0
9

友英高校。
昼休み。

勇者(あれ……どうやって話しかければ良いんだ。魔族と戦うか、貴族に呼ばれるかばかりで一回も自分から話しかけたことがないから分かんねー!!)

雨零「メロンパン二つ買って来なさい」

勇者「――っお! ってお前か……」

雨零「露骨にウンザリしないでよ!」

勇者(嫌われないと……どうやったら良いんだ?)

雨零「ちょっと、聞いてんの?」

勇者(とりあえず怒鳴っとくか)

勇者「うるせー!」

雨零「っひ!? な、なによ!」

勇者「お、お前なんか嫌いだ。お、俺に話しかけるな!」

勇者(理不尽に怒鳴ってたら嫌われるだろ)

雨零「バ、バカ!! もういいわよ」

勇者から離れていく雨零。

勇者(ホッ……良かった。これで嫌われただろ)

68: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 21:57:18.72 ID:mk9u+C2P0
モブA「ユーシャ君! 今日もあたし達と食べない?」

勇者「い、良いのか!! あ、でも」

モブB「どしたの。お弁当忘れた?」

勇者「い、いや。雨零とはあんまり関わりたくなくて」

モブA「えーなんで? あ、間接キスのせいでしょ」

勇者「ま、まーな」

モブB「気にしなくて良いって。あんなの意識するだけ無駄無駄」

勇者「で、でもなー」

勇者(奴隷になるのだけは何としても避けたい)

モブA「んーじゃあ、あたしらだけで食べる?」

モブB「うんうん、それなら問題ないない。屋上行こー」

69: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 21:58:12.17 ID:mk9u+C2P0
勇者「え、でも良いのか?」

モブA「何が?」

勇者「雨零を独りにして」

モブB「連絡しとくから問題ないって。ほら行こ!」

勇者「それならいいか」

教室を離れる一同。

モブA「屋上はね、ほんとは鍵がかかってて行けないんだ。でもでも〜」

モブB「ここに、鍵が落ちてるから行けるのです! ずっと前に警備員のお爺さんが落としたままなんだよね」

勇者「不用心だな……」

モブA「めったに屋上なんて使わないから。誰も鍵がないってことに気づかないみたい」

勇者「おお、涼しい」

モブA「ひゃー、今日は一段と風強いね」

70: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 21:58:54.04 ID:mk9u+C2P0
モブB「ぱんつ見ちゃダメだよ!」

勇者「なんでだ?」

モブA「な、なんでって……ロシアでは下着見られても平気だったの?」

勇者「下着くらいは問題ないだろ? 別に裸を見られるわけじゃないし」

モブA「だ、だから……ロシア人ってあんなに●●●な格好してるんだ」

勇者(あ、なんか変な誤解されたかも。まーいいか)

モブB「ほらほら、二人とも早く食べよー。あたしゃもう腹がペコペコだ」

勇者「そうだな、食べよう」

71: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 21:59:40.89 ID:mk9u+C2P0
モブA「……昨日も思ったんだけどさ」

勇者「ん?」

モブA「ユーシャ君のお弁当って冷凍食品しかないよね。お米は違うかもだけど」

モブB「それって自分で作ってるの?」

勇者「いや、ルートネスっていうやつが作ってる。なかなか、上手いんだ。これで店が開けると思う」

モブA「い、いや……それは作ってるとは言わないんじゃないかな?」

勇者「朝に温めたりして作ってるけど」

モブB「ま、まあ冷凍食品だからね」

72: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 22:00:20.86 ID:mk9u+C2P0
勇者「よく分からないけど、美味しいからいいや。そういや二人も今日は弁当なんだな」

モブA「いつも、お弁当だよ。昨日は例外」

モブB「ね、まさか本当に焼きそばパンを買ってくるなんて思わなかったから」

勇者「そんなに買うの難しいもんなのか?」

モブB「店員のオバサンがきついからねー。ブサイクな男にはなかなか売らないし、可愛い子には余り物しか売らないんだもん」

モブA「あの店員、ほんとブスだよね。性格も、見た目もブスとか終わってる」

モブB「ほんとほんと。そんな店員がオマケまでくれたのはユーシャ君がイケメンだからだよ、きっと」

73: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 22:01:17.88 ID:mk9u+C2P0
勇者「まあ、勇者一族は全員、美男美女だからな」

モブA「うわー、自分で言っちゃう! まあ、イケメンだけど」

モブB「ねー勇者は誰かと付き合いたいとか思わないの?」

勇者「ど、奴隷になるのは嫌だからな!」

モブA「ぷっ奴隷って。そんな大袈裟なー」

勇者「でも、日本じゃ男は結婚すると女の奴隷になるのが常識なんだろ?」

モブA「まー、そんなところもあるけど。だいたいは普通だよ」

勇者「え? 女の●●●をしないといけないんじゃ?」

モブB「ユーシャ君は日本を誤解しすぎ! そんなことないない」

勇者「なーんだ、誤解か。良かった」

74: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 22:02:02.66 ID:mk9u+C2P0
モブA「ほんと、ユーシャ君って面白いね。最初に見たときは変な奴って思ったけど」

勇者「や、やっぱり?」

モブB「そりゃね。内股になって、モジモジとしながら、唇を突きだして、目を泳がせてる上に、何を言ってるのか分からないんだもん。正直、あれはキモかった」

モブA「あは、言いすぎ。まあ確かにキモかった」

勇者「……マジか」

モブA「ま、今は違うよ。普通に日本語も話せるし、ノリも良くて、顔もめちゃイケメン。世間知らずなところを除けば理想の男子って感じ」

勇者「じゃ、じゃあ……俺はインキャじゃない?」

モブB「インキャって。あんな、汚物にはまず話しかけないかけない」

75: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 22:02:51.48 ID:mk9u+C2P0
モブA「今日見た? オタクのやつ、ラノベに流行りの文学小説のカバーつけて読んでたよ」

モブB「うわ……キモオタが何をしてんのかね。あの容姿で文学読んでてもモテるわけないじゃん。堂々としてる方がマシマシ」

モブA「まあ……」

モブA・B「どっちにしろキモイけど! あはははは」

勇者(ラノベとか純文学とか言っている意味がよく分からんねーけど、とりあえず笑っとくか)

勇者「あはは」

76: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 22:03:34.31 ID:mk9u+C2P0
10

勇者「ふふんッ」

ルー「今日は一段とキモイですね」

勇者「何とでも言いたまえ。俺はインキャにならずにすんだのだ!」

ルー「ほう、それは良かったですね。雨零殿の方はどうですか?」

勇者「あー! そうそう、嘘ついただろ」

ルー「私がですか?」

勇者「そうだ。結婚したら男は女の奴隷になるとか」

ルー「その通りです」

77: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 22:04:24.09 ID:mk9u+C2P0
勇者「違うんだって。クラスの女子に聞いたんだけど、普通に温かい家庭らしいぞ」

ルー「いけませんね。こっちでの倫理観ではの話でしょうに」

勇者「いや、違う違う。そう思ったから、どんな感じなのか聞いたらさ。本当に普通の家庭だったんだ」

ルー「そんなはずはありません。この雑誌には男は女の尻に敷かれると明記されています」

勇者「はは、甘いなルートネス」

ルー「な、何がです」

勇者「それはなファッション誌って言うやつなんだ」

ルー「ええ、知っていますが」

勇者「その雑誌に書かれていることはな、だいたいデマだ!」

78: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 22:05:19.34 ID:mk9u+C2P0
ルー「さすがにそれでは商売にならないでしょう」

勇者「これがなるんだ。この雑誌には女にとって有利なことしか書いてないからな、女性は嘘と分かっててもついつい買ってしまうらしい」

ルー(確かに……私も気づけば習慣になっていました)

勇者「ファッション誌に書いてある情報はデマなんだ! つまり、雨零に嫌われる必要はない!!」

ルー「まあ、解決したったことですね」

勇者「うん。そう言うこと。ていうか、そのファッション誌なんて読むの止めろよ」

ルー「面白いんで良いんです」

勇者「読んでみても良いか?」

ルー「ええ、どうぞ」

79: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 22:06:16.90 ID:mk9u+C2P0
勇者「厚化粧な女が色んな服を着てるだけじゃん。こんなのが面白いのか?」

ルー「面白いのではなく、タメになると言った感じですかね」

勇者「お、記事もあるのか。なになに、他校の文化祭で彼氏をつくる方法?」

ルー「男の心理が詳細に書かれた名記事です」

勇者「文化祭とかよく分かんねーけど内容が支離滅裂じゃねーか!」

ルー「違うのですか?」

勇者「俺はこんなので他人を好きにならないな」

ルー「勇者殿は簡単に惚れそうですけどね」

勇者「俺はハニートラップにかからないように鍛錬を重ねているから大丈夫だ」

ルー「高校に気になる女性などはいないのですか?」

勇者「い、いないな」

ルー「その反応……いますね」

勇者「まあ、凄い美女がいただけだ。生徒会長の具源さんって言うんだけど恋愛感情は抱いてない」

ルー「そうだと良いですけどね。勇者殿が好意を抱いて良いのは魔王様だけですから」

80: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 22:07:36.76 ID:mk9u+C2P0
勇者「魔王か……」

ルー「魔王様を忘れない。それが貴方にできる償いです」

勇者「まーそうだよな」

ルー「辛気臭くなって来たところで、ご飯にしましょう」

勇者「最悪のタイミングじゃねーか」

ルー「勇者殿の好きなハンバーグです」

勇者「冷凍食品か?」

ルー「――!? どこで、その言葉を」

勇者「俺の弁当を見てな、冷凍食品ばっかりだねって言われた」

ルー(余計なことを……)

81: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 22:08:22.00 ID:mk9u+C2P0
勇者「なんか、冷凍食品だけだと栄養が偏るらしいな」

ルー「元の世界で粗末な食事しかとってなかったでしょう?」

勇者「うん。美味けりゃ良いんだよ。勇者の身体は一ヶ月は飲み食いなしでも大丈夫だ」

ルー「いいことを聞きました。では、明日からの食事はなしと言うことで」

勇者「そんな……」

ルー「嫌なら謝ってください」

勇者「え、何を?」

ルー「私は決して料理が出来ない訳じゃないんです。冷凍食品は楽だから利用しているのです。勘違いしないでください」

勇者「何言ってんだ、お前。いつも、こうして冷凍食品で飯を作ってるじゃねーか」

ルー「は?」

82: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 22:08:52.26 ID:mk9u+C2P0
勇者「ん?」

ルー「コホンッ、取り乱してしまいました。忘れてください」

勇者「おう、それより早く食おう。美味そうなハンバーグだ!」

ルー(料理教室とやらに通ってみますかね)

83: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 22:09:38.54 ID:mk9u+C2P0
11


友英高校。
勇者の教室。

モブB「ちょちょいと借りるよ〜♪」

オタク「うぁ、モ、モブBさん」

モブBがオタクから本を奪い取る。

モブB「うわ、ホントじゃん」

モブA「ねね! 言ったでしょ。純文学のカバーでラノベ隠してたでしょ!」

モブB「陰キャでも恋がしたいだって〜」

モブA「うわ、見てよこのイラストの女の子。ボインボインじゃん」

84: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 22:10:24.30 ID:mk9u+C2P0
モブB「ねね、こんな子と付き合いたいの?」

オタク「ち、違うよ。ぼ、ぼくは、ぼくを愛してくれる、人なら、大切、に、したい」

モブB「いやいやカッコつけなくて良いから」

勇者が登校してくる。

勇者「おはよ。ん、何してんだ?」

モブB「これこれ、これがラノベって言うやつ」

勇者「これが、噂のラノベか。意外と小さいんだな」

モブB「見てよこのイラスト。女の子を性的消費の道具としか見てないよね」

モブA「だいいち、なんなのこの胸。気持ち悪すぎ。こんなの見てハァハァしてるとかヤバくない?」

85: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 22:11:22.42 ID:mk9u+C2P0
オタク「違うよ。決して女性を性的消費の道具として見てるんじゃないんだよ! 中身を読んでから言ってよ。この女の子はねリジェンダって言ってね」

モブA「饒舌にならないでよーキモイから」

モブB「内容とかともかくさ、キモイキモイ。オタクは女の子を何だと思ってんのかねー」

勇者「このイラストがダメなのか?」

モブA「ダメじゃないけどさーキモくない? ほら見てよ、この無駄に誇張された胸とか」

勇者「このくらいならいっぱいいるじゃん」

モブB「女の子の性的部分で釣ろうとしてるのがキモイんだよね」

勇者「でも、この前さ。俺なら良いよとか言って、胸とか唇で誘ってたくね?」

モブA「あ、あれはノリじゃん。これは気持ち悪いって」

モブB「そうそう、なになに? ユーシャ君ってまさかのオタク系?」

勇者「オタクってなんだ?」

86: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 22:12:22.62 ID:mk9u+C2P0
モブB「はぁ……」

モブA「なんか、疲れたー。ともかく、ユーシャ君はイケメンなんだからラノベとかに関わったらダメだよ!」

勇者「お、そうなのか。分かった」

モブB「二度と学校で読まないでねーオタクくん」

オタク「う、うん……」

勇者「なあなあ、なんでラノベを学校で読んだらダメなんだ?」

オタク「え、ぼ、ぼくに聞いてるの?」

勇者「おん」

オタク「そ、それは……き、気持ち悪いから、だ、と思う」

勇者「なんで、そんな気持ち悪いもの読んでるんだ?」

オタク「それは……」

勇者「??」

モブA「ユーシャ君、こっち来てー」

勇者「あ、悪い。あとで教えてくれ」

オタク「う、うん」

87: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 22:13:20.38 ID:mk9u+C2P0
モブA「だめだよー、ユーシャ君はあいつと会話したらダメ!」

勇者「えー、何でだよ」

モブA「いい? 学校にはねランクがあるの。あいつは最底辺。そんなやつと仲良さそうに絡んでたら勘違いされるの」

勇者「平民と貴族みたいなもんか」

モブB「ま、まーそう言うこと」

勇者「でも、二人はあいつと仲良さそうに話してたじゃん」

モブB「どこが!? やめてよー、冗談にもならないって」

モブA「あれは、ペット感覚。言ったら奴隷みたいなもん」

勇者「ど、奴隷……」

勇者(二人はあいつに●●●させてんのか……)

勇者「な、なるほどー」

勇者(デリケートな話だし、深く追求はしないでおくか)

88: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 22:14:21.27 ID:mk9u+C2P0
雨零が登校して来る。

モブA「また、遅刻ギリギリで登校してくるんだから」

雨零「朝に弱くて」

モブB「ぷぷ、髪の毛ボサボサじゃん」

モブA「ちゃんと寝てるのー? 隈も酷いよ」

雨零「もうすぐ試験だから、遅くまで勉強してて」

モブA「げ……忘れてた」

勇者「試験ってなんのだ?」

モブA「中間試験だよ、その様子じゃユーシャ君も勉強してないね?」

勇者「中間試験?」

モブB「うっそ、知らないの!」

勇者「おん、なんのことだ?」

モブA「授業で習ったところの、総復習的な意味でテストを受けるの。成績が悪いと休みがなくなる……」

89: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 22:14:53.28 ID:mk9u+C2P0
勇者「へぇー」

モブB「お、余裕じゃん」

モブA「そうだ! 良いこと考えたー。今度の中間試験で一番成績が悪かった人がオタクと二人カラオケね」

モブB「うげ……それはキツイ。猛勉強するしかないか」

勇者「よく分からねーけど了解」

モブA「じゃあ決まりね! もし負けても逃げるなよー」

モブB「盛り上がってキタね〜」

90: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 22:15:58.82 ID:mk9u+C2P0
12

友英高校、女子トイレ。
小休憩時間。

モブB「ねね、雨零!」

雨零「な、なに?」

モブB「雨零さ、頭良いから手加減してよ」

モブA「そうじゃないと、面白くないしさ」

雨零「良いけど、どれくらい?」

モブA「うーん、まあユーシャ君より点が下になるくらいかなー」

91: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 22:16:46.23 ID:mk9u+C2P0
雨零「え、それって」

モブB「んん? どうしたのさ」

雨零「あいつ、授業中はいつも寝てるし。ていうか、日本語自体がまだ読めてないというか」

モブA「だから?」

雨零「だ、だから。無理って言うか」

モブA「なんで?」

雨零「なんでって……そんなの」

モブB「簡単だって、ほとんど空白にして提出するだけじゃん、ね?」

雨零「で、でも」

モブB「分かった。もしかして雨零、オタクと二人きりになるのが嫌なんでしょ?」

モブA「気持ちは分かるけど、そこまで露骨だと可哀想だよー」

92: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/11(日) 22:17:27.53 ID:mk9u+C2P0
雨零「そ、そんなことは」

モブA「じゃあ、なんでダメなの?」

モブB「楓っちみたいに、また裏切るの?」

雨零「――ッ」

モブA「楓も可哀想だよねー。雨零のせいで」

雨零「わ、分かった。あいつより点数低くとる」

モブA「ありがとー!」

モブB「絶対だよ! 絶対だからね。もう、裏切らないでね」

雨零「……うん」

98: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/12(月) 15:41:54.04 ID:EoEJLcZAO
100に近いので分かりにくい名前のキャラ達。

雨零(うれい):モブAとモブBにいじめられてるやつ。名前の由来→憂いをしめじ変換。

具源(ぐげん):生徒会長。名前の由来→具現化から

ルートネス:魔族の幼女。勇者の世話係。名前の由来→特にない

99: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/12(月) 15:42:25.78 ID:EoEJLcZAO
13

友英高校、廊下。
小休憩中。

勇者「え、なんすか」

生活指導「だから何だ。これは……」

勇者「髪ですけど」

生活指導「それは分かっている」

勇者(なんで俺……睨まれんの?)

生活指導「明日までに黒髪に染めて来い」

勇者「どう言うことですか……」

生活指導「生徒手帳も読んでないのか。友英高校は染髪を禁止しているはずだ」

勇者「これ地毛です」

生活指導「お前がハーフなのは知っている。だが、ここまでの赤髪は染めなければ無理だ」

勇者「いや、地毛なんですって!」

100: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/12(月) 15:43:07.91 ID:EoEJLcZAO
生活指導「――地毛だろうと、ともかく! お前のような派手な髪をしている者がいると学園の風紀を乱すことになる。明日までに黒髪に染めて来い。分かったな?」

勇者(なんでコイツ、ここまでムキになってんだ。自分がハゲだから妬んでんのか?)

生活指導「なんだ、その顔は。不満があるなら言いなさい」

具源「では、言わせていただきますね」

勇者「あ、具源さん」

具源が勇者に小さく手を振る。

生徒指導「なんだ具源?」

具源「お言葉ですが先生。それは横暴です」

101: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/12(月) 15:43:51.62 ID:EoEJLcZAO
生活指導「多少横暴であろうと、俺は生徒を正しい道へと歩ませなければならんのだ」

具源「ユーシャ君の赤髪は確かに目立ちます。しかし、本当に風紀を乱すのですか?」

生徒指導「当たり前だ。アイツが許されて、などとと訴える生徒も出てくる」

具源「それは、染めていたらの場合の話ではありませんか?」

生活指導「いや、違うな」

具源「日本人は決まって黒髪と言うわけではありません。地毛が茶髪の方も多くいます」

生活指導「赤髪とは話が別だ」

具源「もし、ユーシャ君の容姿が日本人でしたら、そうなのかもしれません。しかし、ユーシャ君の顔立ちは日本人とは異なりますよね」

生活指導「言いたいことは分かる。しかしだ、彼の髪色が風紀を乱すことには変わりない」

102: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/12(月) 15:45:06.67 ID:EoEJLcZAO
具源「分かりました。では、先生はユーシャ君に髪を黒く染めさせてどうしたいのですか?」

生活指導「ここまで目立つ色だ。他校の荒れた生徒に目をつけられる可能性もある。そうなれば、この高校の評判が悪くなるだろう」

具源「ふふふ」

生徒指導「何がおかしいんだ」

具源「先生は髪を染めたことがないのですか?」

生活指導「俺は規則をしっかり守っていたからな」

具源「髪を染めても、時間が経てば生え際が元の色になるのです」

生活指導「髪が伸びるのには時間がかかる」

具源「あらあら、先生はもう髪の伸びるペースもお忘れなんですね」

生活指導「なんだと!」

103: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/12(月) 15:46:19.98 ID:EoEJLcZAO
具源「ユーシャ君の地毛は赤髪ですよ。黒髪だと、生え際と言え目立つことは間違いありません」

生活指導「しかしだな……」

具源「そして、髪を何度も染めれば痛みます。髪は一生物です。それは先生が一番理解していることだと思いますよ」

モブ「クスクス」

生活指導「分かった。もういい、行け!」

具源「では、さようなら。いきましょうユーシャ君」

勇者「ありがとうございます。助かりました」

具源「いえいえ、生徒会長として当たり前のことをしたまでですよ」

勇者(やっぱ、この人は天使だ)

具源「アレはもう切りますか……」

勇者「え、何か言いました?」

具源「ふふ、何も言ってませんよ」

104: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/12(月) 15:47:09.88 ID:EoEJLcZAO
モブB「あれあれ、何の騒ぎ?」

モブA「ユーシャ君、何かあったの?」

勇者「変なオッサンに絡まれてな、具源さんに助けてもらったんだ」

モブA「え、具源会長? うわ、ホントだ!」

具源「ふふ、こんにちは」

モブA「あ、こ……こんにちは」

具源「あら? 体調がよろしくないようですが大丈夫ですか?」

雨零「はぇ、あ、だ、大丈夫です」

具源「それなら良いのですが。もし、何かありましたら気軽に生徒会室にいらしてくださいね」

雨零「は、はい。ありがとうございます」

105: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/12(月) 15:47:58.10 ID:EoEJLcZAO
具源「それでは、失礼します」

モブB「ひゃー、やっぱ美人」

モブA「奇跡的なレベルだよねー」

勇者「お前らどこに行ってたんだ?」

モブA「もー、お花を摘みにだよ」

勇者「生け花でもするのか?」

モブB「あはは、トイレトイレ。もー言わせないでよ」

勇者「ん? なんで、トイレがお花をつむと――」

キンコンカンコン

モブA「あ、予鈴だ。急いで戻らないと!」

勇者「なーなんでトイレが――あ、待ってくれよ」

106: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/12(月) 15:49:12.01 ID:EoEJLcZAO
14

雨零宅、夜。

カリカリカリカリ

雨零(なんで、あたし勉強してるんだろ。どうせ意味ないのに)

ブーブーブーブー

雨零(電話? あ、楓ちゃんからだ)

雨零「も、もしもし」

楓『あ、おひさー雨零! 元気してた?』

雨零「う、うん。……元気」

楓『嘘でしょ? 何歳の時から雨零のこと知ってると思ってるのさ。声で分かるよ』

雨零「もうすぐ中間試験で、疲れてるだけだよ」

楓『あ、そっか。友英高校はテストが早いんだよね』

107: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/12(月) 15:49:56.36 ID:EoEJLcZAO
雨零「ご、ごめん」

楓『なぁに謝ってんのさ。気にしてないって何度も言ってるでしょ』

雨零「で、でも」

楓『雨零……怒るよ。私が受験に失敗したのは自分のせい。雨零のせいじゃないの!』

雨零「ううん違うよ。あたしのせいだもん」

楓『雨零ッ!!』

雨零「――っ」

楓『何回も言わせないで。確かに私は雨零達と同じ高校に通えなかったよ。でもさ、同じ高校じゃなくても、こうして話せるし遊べるじゃん』

雨零「うん、ごめん楓ちゃん」

108: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/12(月) 15:50:45.25 ID:EoEJLcZAO
楓『なぁんで謝ってんのさ。あ、そうそう用事があったんだった。もう、雨零のせいで忘れるところだった』

雨零「ご、ごめん」

楓『今度の日曜日って……あ、試験勉強で忙しいかな? 久しぶりに一緒に買い物しようと思ったんだけど』

雨零(どうせ意味ないし……)

雨零「ううん大丈夫。遊ぼ」

楓『やった。じゃあ日曜日午前九時に私の家に集合ね!』

雨零「うん分かった」

楓『へへー久しぶりに雨零と遊べる。それじゃ日曜日に。ばいばい』

雨零「ばいばい」

ピッ

雨零「はぁ……」

109: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/12(月) 15:51:25.00 ID:EoEJLcZAO
15

勇者「なー、ルートネス。やばい」

ルー「そうですか」

勇者「何がですかとか聞いてくれよ」

ルー「残念ながら全く興味がないです。あと、テレビを見てるので邪魔しないでください」

勇者「それ、録画してるやつだろ?」

ルー「……」

勇者「無視すんなよー。なあルートネス!」

ゆさゆさ

ルー「あー! うざいです!! もう、何なんですか」

110: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/12(月) 15:52:04.84 ID:EoEJLcZAO
勇者「あのな、中間試験が来週に実施されるらしいんだ」

ルー「だからどうしました」

勇者「それがな。問題が分からねーんだ」

ルー「言語翻訳の魔法で、文字は翻訳されませんからね」

勇者「そうなんだよな。教科書ってのも何が書いてるのかさっぱりなんだ」

ルー「選択問題が数問あるでしょうし、大丈夫ですよ」

勇者「それで、俺はオタクとカラオケって言うやつに行かなくて済むんだな?」

ルー「よく分かりませんが、自分の名前と数字を覚えていれば、大丈夫なんじゃないですか」

勇者「本当だな? 俺は男とはヤリたくないんだ。本当だよな!」

ルー「知りませんよ。そんなに心配なら必勝法でも使えばどうです」

111: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/12(月) 15:52:47.09 ID:EoEJLcZAO
勇者「な、なんだ。教えてくれ!」

ルー「その必勝法とはカンニングです」

勇者「カンニング?」

ルー「誰かの答案を写す方法です。見つかれば問答無用で罰されますけど」

勇者「どうやって写せば良い? 聖力が枯渇してるから千里眼は使えないぞ」

ルー「そんな大層なもの必要ありません。それとなく隣の生徒の答案を覗けば良いのです」

勇者「なるほどな。その手があったか」

ルー「念のためにもう一度言っておきますが。見つかれば問答無用で罰されますからね」

勇者「まあ、大丈夫だろ。よし、勉強は止めてカンニングの練習でもするか!」

ルー(本当、勇者の一族は阿呆しか生まれないのでしょうかね……)

112: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/12(月) 15:53:28.41 ID:EoEJLcZAO
16

友英高校、下校時間。
勇者の教室。

モブA「ユーシャ君、今日も寝てばっかりで余裕そうじゃん?」

モブB「デデン。力学的エネルギーとは何か簡潔に答えよ」

勇者「何だ、力学的エネルギーって」

モブA「全然ダメじゃーん。大丈夫なのー?」

勇者「必勝法があるからな」

モブB「え、なになに?」

勇者「教えて欲しいか。よし、教えてやるよ」

モブA「うんうん!」

勇者「その必勝法とは――カンニングだ」

113: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/12(月) 15:54:36.22 ID:EoEJLcZAO
雨零「……っ」

モブA「わ、わー。そりゃ最高の必勝法だねー」

モブB「ほんとほんと。ねー雨零」

雨零「え、あ、う……うん」

勇者「だろ。だから俺はカンニングの練習をするだけで良いんだ」

モブA「それなら、最高の教師がいるよー」

勇者「まじか! 教えてくれ」

モブB「目の前にいる子がそうだよ」

勇者「目の前……雨零のことか?」

モブB「そうそう。この子ね、カンニングのスペシャリストだから」

114: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/12(月) 15:55:21.11 ID:EoEJLcZAO
勇者「本当か!!」

雨零「うっ……ご、ごめん。あたし、ちょっと」

雨零が教室を逃げるように飛び出ていく。

勇者「なんだあいつ?」

モブA「ここだけの話しねー、あの子のせいで楓って子が受験に落ちてるの」

勇者「バレたのか?」

モブA「そゆことー。酷い話でしょー」

勇者「でも、おかしくないか? カンニングをした雨零は合格したんだろ」

モブB「違う違う。カンニングしたのは楓っち。雨零が楓っちに答案を見せたの」

モブA「アイツがテンパらなかったら、今ごろ楓もオナ高だったのにー。ほんとムカつく」

115: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/12(月) 15:55:52.74 ID:EoEJLcZAO
勇者「テンパった?」

モブB「緊張したのか分からないけどさ、後ろに試験監督がいるのに答案を見せようとしたのさ」

モブA「でね、それを止めようとした楓が監督に怪しまれて、カンニングをしてるってバレたの」

勇者「へ、へぇ……危険なんだなカンニングって」

モブA「まー、雨零が失敗しただけだしね。普通はカンニングなんて中々バレないよ」

勇者「まあ、気は抜けないな。もっと練習しとかないと」

モブ「カンニングなんてしなくても、ユーシャ君は罰ゲームを受けないとおもうけどねー」

モブB「うんうん、くすくす」

117: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 17:47:08.41 ID:Y/T4qpNB0
17

友英高校、下校時間。
生徒会室前。

雨零(……つい、来ちゃった)

具源「あら、生徒会に何か用ですか?」

雨零「――具源先輩! い、いえ、何でもないです」

具源「嘘はいけませんよ。悩みがあるのですね。今日は誰もいませんので入ってください。私で良ければ相談にのりましょう」

雨零「……ありがとうございます」

雨零と具源が生徒会室で向き合って座る

雨零「その……あの」

具源「落ち着いてからで大丈夫ですよ。雨零さんのタイミングで話してください」

雨零「は、はい」

五分後

雨零「あ、あたし……」

具源「はい」

雨零「学校が辛くて」

具源「何があったのか、お聞きしてもよろしいですか」

118: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 17:47:41.41 ID:Y/T4qpNB0
雨零「はい。あたし……」

具源「はい」

二分後

雨零「イ……イジメられてます」

具源「――ッ具体的に何をされたのか教えてくれますか?」

雨零「そ、それは……」

具源「雨零さん」

雨零「は、はい……」

具源「嘘はいけません」

雨零「――え?」

119: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 17:48:23.22 ID:Y/T4qpNB0
具源「友英高校にイジメはありませんよ」

雨零「で、でも。あたし、パシリにされたり……」

具源「雨零さんはお昼を購買で買っていますよね」

雨零「そう、ですけど……」

具源「ついでに買ってきてもらうことなんてよくあることだと思いますよ?」

雨零「で、でも。友英高校の購買は同じものを三つ買えません」

具源「そんな決まりはありません」

雨零「でも、あたしはモブAさんとモブBさんに」

具源「雨零さんも、ユーシャ君に焼きそばパンを三つ買いに行かせましたよね?」

雨零「――ッ」

具源「ユーシャ君はお弁当を持参していました。そんな彼に購買に買いに行かせることこそパシリだと思いますよ?」

雨零「……すみません」

具源「謝らないでください。私は怒っているわけではありません。ただ、雨零さんの誤解を解きたいだけなんです」

雨零「……あ、あたしのご……誤解でした」

120: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 17:48:54.12 ID:Y/T4qpNB0
具源「分かっていただけて嬉しいです。それでは、さようなら」

雨零「さ、さようなら」

雨零(誤解。全部、あたしの誤解。あたしはイジメられてない。友英高校にイジメはない。あたしがあいつをパシリにした……)

雨零が生徒会室を出ていく。

具源「ごちそうさまでした」

121: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 17:49:47.98 ID:Y/T4qpNB0
18

日曜日、早朝。
雨零宅。

雨零(楓ちゃんに弱いところは見せない。うん、大丈夫!)

プルルルル

雨零「も、もしもし楓ちゃん?」

楓『おっはー。えへへ、今日だからね。遅刻したらダメだよ!』

雨零「うん。九時だよね」

楓『そう。待ってるから!』

雨零「じゃ、九時に」

楓『ばいばーい』

ピッ

雨零(よし、大丈夫。今日は色んなことを忘れて存分に楽しんでやる!)

122: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 17:50:28.44 ID:Y/T4qpNB0
午前8時50分。楓宅玄関前。
ピンポーン

楓『あ、雨零! 待ってて』

ガチャ

楓「久しぶり〜!」

ギューッ

雨零「く、苦しいよ楓ちゃん」

楓「いいじゃんか久しぶりなんだし!」

雨零「恥ずかしいよ」

楓「う〜ん……」

雨零「どうしたの?」

楓「なんか、雨零変わったね」

雨零「え、そうかな……」

楓「うん。お淑やかになったっていうか」

雨零「そんなことないよ!」

楓「中学生の頃の雨零はもっとガサツだったよ」

雨零「そ、そう言う楓ちゃんだって変わった」

楓「ボンキュッボンになったでしょ〜♪」

雨零「ぷっ」

楓「あー、笑ったー! 雨零なんてまな板のくせに!!」

123: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 17:51:02.73 ID:Y/T4qpNB0
雨零「そう言う楓ちゃんだって!!」

楓「雨零はブラも必要ないじゃん」

雨零「ひ、必要だし!」

楓「どれどれ〜?」

モミモミ

楓「ぴぴぴ、結果――AAAカップ」

雨零「な、何を〰〰〰!?」

楓「へへ、やっと調子を取り戻してきたね」

雨零「え、あ!!」

雨零(そう言えば、気分が楽になってる)

124: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 17:51:40.64 ID:Y/T4qpNB0
楓「でも、もっとガサツな方が雨零には似合ってるよ!!」

雨零「そ、そんなことないもん!」

モブA「……ちょっと」

雨零「――っえ?」

楓「あ、モブAとモブB!! これで皆、揃ったね」

モブB「楓っち〜聞いてないよ〜」

楓「何が?」

モブA「どうして雨零がいるのさ」

雨零「――あ、あたし行くね。ば、ばいばい楓ちゃん」

楓「待って、帰らないで! 前みたいに四人で遊ぼ」

雨零「で、でも……」

モブA「聞いてないよー。私はてっきり三人で遊ぶと思ってたのにー」

モブB「ほんとほんと」

125: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 17:52:26.34 ID:Y/T4qpNB0
楓「な、なんでそんなこと言うの?」

モブB「そりゃ……」

モブA「ねー?」

楓「小中って、いつも一緒だったじゃん!」

モブA「だってさー。雨零のせいで楓は友英高校落ちたじゃん」

楓「違うよ。私の学力じゃ元々合格なんて絶望的だったもん」

モブB「でも、カンニング作戦は雨零の提案だよね」

楓「そ、そうだけど。だからって雨零のせいにするのは間違ってるよ」

モブA「楓さー、なんでそこまで雨零のこと庇うの?」

モブB「なんか、つまんない。私達は楓のことを思ってあげてるのに」

楓「そんなの全然……違うよ。二人なんて大嫌い!!」

モブA「こ、こっちのセリフ。もう帰ろ」

モブB「はぁ……そだね。ウチらの関係も、もう終わりにしよ」

モブAとモブBが帰っていく。

楓「ごめんね、雨零。余計なことしたよね」

雨零(言葉が出てこない。なんて言えばいいの!! 分かんない!!)

楓「雨零……ごめん。今日は帰って」

雨零「うん。ば、ばいばい」

楓「ごめんね」

雨零(あたしは……もう)

126: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 17:53:19.97 ID:Y/T4qpNB0
19

中間試験。テスト返却後。
放課後、教室。

モブA「ユーシャ君の平均何点だった?」

勇者「平均ってどうやって求めるんだ?」

モブB「ありゃりゃ、大丈夫かね。どれどれ……うぇ?」

モブA「うそぉぉ、平均84点!?」

勇者「それは凄いのか?」

モブA「凄すぎるよ。なんで!!」

勇者「カンニングを極めただけだ」

モブA「確か、ユーシャ君の隣は……ああ、委員長かー」

モブB「高得点になるわけだ。マジメに勉強した私しゃが馬鹿みたい」

勇者「二人は何点だ?」

モブA「私は71点で、モブBが75点」

勇者「俺の点数が良い方なら、二人も悪くねーじゃん」

モブA「まね、私ら頭良い方だし。でも、驚きだねー」

モブB「ほんとほんと」

勇者「何が?」

モブA「全国統一模試で毎度三桁の雨零がこんな点数をとるなんてね」

モブB「えと、何点だっけ?」

雨零「じゅ、十二点……」

モブB「わは、ヤバくない? どうしたのさ、前日に風邪でもひいたの?」

雨零「う、ううん。こ、今回は苦手分野で」

モブA「うぁー災難だったね。なんせ、今回は罰ゲームがあるし」

モブA「そうそう、オタクとカラオケってね!」

モブB「そんな露骨に嫌がることないじゃん。オタクが咽び泣いちゃうよ」

雨零「うん……」

127: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 17:53:51.13 ID:Y/T4qpNB0
モブA「ね、オタク!」

オタク「う、うわぁ! モ、モブAさ、さん」

モブA「あんた、土曜日ひま?」

オタク「え、ひ、暇だけど……な、なにか、よよ用かな?」

モブA「実はね〜、雨零がオタクとカラオケに行きたいんだって」

オタク「う、雨零さんが!?」

モブA「ねー、雨零」

雨零「……えへへ」

モブA「オタクさーこの前、自分を愛してくれる人は大切に〜とか言ってたじゃん? もちろん行くよね?」

オタク「も、ももももちろんだよ」

モブA「襲っちゃっても問題ないと思うよ。だって雨零、オタクのこと大好きだもん」コソコソ

オタク「ブフッ!!」

モブA「はは、じゃあー楽しんでねー」

128: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 17:54:23.40 ID:Y/T4qpNB0
20

翌日、土曜日。
午前10時、駅前。

オタク「お、おは、おはよう」

雨零「おはよう」

オタク「う、雨零さん。ど、どどこか行きたい、と、ところある?」

雨零「カラオケ行くんじゃないの?」

オタク「あ、早速、か、カラオケに、い、行くんだ」

雨零「だめ?」

オタク「い、いや。う、雨零さんが、カラオケに行きたいなら、い、行こう!」

雨零(あたしを見る目が気持ち悪い……)

129: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 17:55:06.12 ID:Y/T4qpNB0
店員「え、と……二名様ですか?」

オタク「は、はい!!」

店員「し、失礼しました。学生証などはお持ちでしょうか」

雨零「あっ……あたし忘れちゃった」

オタク「大丈夫、ボクが持ってるから」

店員「申し訳ございませんが、学生証の確認が出来ない場合は割引の対象にはなりません」

オタク「え?」

雨零(当たり前じゃん)

オタク「ちょっと、おかしいですよ! ボ、ボクが学生証を見せてるんだから雨零さんも、わ、割引にしろよ!」

店員「す、すみませんが決まりですので」

オタク「そんなのおかしい! 彼女だってボクのど、同級生だぞ! 見たら分かるだろ?」

店員(チッ、分かんねぇよ……[ピザ]スが)

130: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 17:55:45.39 ID:Y/T4qpNB0
オタク「お、おい、聞いてんのか!」

モブ客「見てーあれー……」

ザワザワ

雨零「あたしは良いから、行こ?」

オタク「ううん。ダメだよ、雨零さん。ここは、しっかりと言っておかないと」

店長「なんだ、何の騒ぎだ?」

店員「かくかくしかじかで……」

店長(察するに罰ゲームでデートだな。それでこの[ピザ]がカッコイイところを見せようとイキってるってところか……)

店長「この度はスタッフが失礼しました。彼女さんも学割の対象にさせていただきます」

オタク「ぶふ、か、彼女なんてぶふふ」

店長(気持ちの悪ぃガキだな)

オタク「ボ、ボク達は12番の部屋だって」

雨零「うん、行こうか」

ガチャッ

オタク「ボ、ボク。と、友達とカ、カラオケに来るのって初めて、なんだ!」

雨零「へーそうなんだ」

131: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 17:56:38.40 ID:Y/T4qpNB0
雨零(誰があんたの友達なのよ)

オタク「じゃ、じゃあ、ボ、ボクから歌うね」

雨零(手馴れてる。ヒトカラしてるんだろうな)

オタク「ふ、ふふ。う、う、雨零ちゃんに、歌を送るよ!」

雨零(え……この歌って)

オタク「ぼーくーよりもー、ぼくーのこーとを知ってるー。神様よりもーきみだぁーよー!」

雨零(選曲は気持ち悪いけど。でも、あたしに気を使ってアニソンじゃないのを選んだのかな?)

オタク「あーいーしてーるー、なんかーじゃたーりなーいおーもい」

雨零(そうよ。オタクは外見も気持ち悪いけど、決して嫌なやつじゃない。ただ、張り切りすぎて空回りしてるだけ。それなのにあたしは……)

雨零「……」

オタク「はぁ、はぁ。ど、どうかな?」

雨零「オタク君って歌上手いんだね」

オタク「そ、それだけが、と、取り柄だから」

雨零(一曲でこんなに汗だくになってる。でも、何だか)

雨零「その、ありがとう」

132: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 17:57:25.53 ID:Y/T4qpNB0
オタク「――っえ!!」

雨零(なんで、あたしお礼なんて言ってるんだろ)

オタク「う、雨零さん。そ、それって、つ、つまり」

雨零「え?」

ギューッ

オタク「ボクも君が、す、すすす好きだ!!」

雨零「――っひ!?」

オタク「好きだ、好きだ、好きだ、好きだ、好きだ、好きだ、好きだ、好きだ。雨零、愛してるよ!」

ガシッ、ギュー!!

雨零「い、いや! は、離して!」

オタク「ううん、離さない」

雨零(なんなのよコイツ!!)

オタク「ボ、ボクも初めてだから。は、は、恥ずかしがらなくて大丈夫!」

カチャカチャ

雨零「い、いやぁぁ!!」

ドンッ!

オタク「う、雨零? ど、どうしてボ、ボクを拒絶するんだ。君はボクのことが好きなんだろ。だからボクをカラオケに誘って、ボクのラブソングにありがとうって言ったんだよね! なんで、どうして? ボクを否定しないでよ。ボクにはもう、雨零しかいないんだ。ねー雨零、一言でいいから、ボクに好きって言ってよ!」

雨零「気持ち悪い……」

ガチャ、タタタタタ

雨零「もう……いや。もう、まう……うぅぅ」

133: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 17:58:23.75 ID:Y/T4qpNB0
21

カラオケの日から、一週間が経過。
月曜日、朝のホームルーム。

モブA「せんせー、雨零は?」

担任「雨零さんは風邪が長引いてるみたいで今日も休みよ」

モブA「何それ、つまんない」

モブB「ほんとほんと。カラオケで何があったのか聞きたいのにねー」クスクス

オタク「雨零……雨零……雨零」ブツブツ

モブA「オタクは何か、いつも以上に気持ち悪いしー。絶対に何かあったってこりゃー」

モブB「不登校とかになったら面倒くさいよね。どうする、無理やり呼ぶ?」

モブA「でも、スマホの電源落としてるみたいなんだよねー。ほんと生意気」

モブB「家まで迎えに行っちゃうのはどうよ」

モブA「危険じゃないかなー。母親とかもいるし」

モブB「まいったなー」

勇者「何がまいったんだ?」

モブA(――!)ピカーン

モブA「ユーシャ君さー、雨零の家に行ってくれない?」

勇者「別に良いけど、なんで?」

モブA「せんせーも言ってたじゃん。雨零さ風邪なんだよ。プリントも溜まってきてるし届けてあげないと」

モブB「私達も行きたいんだけど用事があってね。代わりに行ってくれない?」

勇者「おー、そう言うことなら任せてくれ」

モブA「ありがとー、マジ助かる。じゃあ、これが雨零ん家までの地図ね」

勇者「了解!」

モブB「どう言うつもり?」コソコソ

モブA「ほら、ユーシャ君って世間知らずなところあるじゃん。だから、悪気なく雨零の元に押し込むんじゃないかなーって」コソコソ

モブB「なるほど!」コソコソ

勇者「何話してんだよ」

モブA「ううん、何でもなーぃ。これが雨零のプリントね。あと、これも渡しといて」

勇者「これは?」

モブA「私達からのメッセージだよー」

モブB「雨零のやつ、スマホの電源落としてるみたいでね。連絡取れないから手紙ってわけ」

モブA「恥ずかしいからユーシャ君は読んじゃダメだからね!」

134: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 17:59:13.95 ID:Y/T4qpNB0
勇者「はいはい、分かった分かった。乙女心ってやつだな」

モブA「お、分かって来たじゃん」

勇者「流石に日本人の性格も分かってきた」

モブB「まだまだ、女心は分かってないけどね」

135: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 17:59:40.35 ID:Y/T4qpNB0
22

月曜日、午後5時。
雨零宅。

雨零母「いい加減にしなさい!」

雨零母が雨零の部屋のドアを叩く。

雨零「いや、絶対に嫌なの」

雨零母「お母さんテストの点見たわよ。何、あの点数は。それで学校にも行かないなんて、絶対に許さないわよ」

雨零「うるさいうるさい! あたしはもう学校になんて行かないの」

雨零母「あんた……やっぱり」

雨零「違う!!」

雨零(友英高校にイジメはない)

雨零母「なら、どうして? 何か言ってくれないと分からないわ」

雨零「どうせ誰も分かってくれないもん!!」

雨零母「……雨零」

雨零「お願いだから独りにして!」

雨零母「…………」

ピンポーン

雨零「――ッ」ビクゥ

136: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 18:00:37.27 ID:Y/T4qpNB0
雨零母「後でまた、話し合いましょう」

ピンポーン

雨零母「はーい、今行きます」

ガチャ

雨零母「あら、あなたは?」

勇者「勇者で……じゃなくてユーシャです」

雨零母「ユーシャ君? 雨零の同級生かしら」

勇者「はい。あの、雨零にプリントとか届けに来ました」

雨零母「あら、わざわざありがとうね」

勇者「あの、雨零は?」

雨零母「いま、体調を崩しててね、部屋で寝てるわ」

勇者「先週も休んでましたけど、そんなに具合が悪いんですか?」

雨零母「え、えぇ……そうなの」

勇者(そんなに酷いのか。一応、知り合いだしな、無視は出来ないか)

勇者「少し失礼します」

雨零母「え、ちょっとユーシャ君!?」

勇者「あ、俺に任せてください」

雨零母「ちょっと、困るわ!」

勇者「大丈夫です。俺には不思議な力があるので」

勇者(やっと溜まってきた聖力を使うのは惜しいけど、苦しんでる人間がいるなら、勇者として見過ごせねーよ)

勇者「雨零はどこにいますか?」

雨零母「気持ちは嬉しいけど、ユーシャ君に風邪が移ったら申し訳ないわ。私がプリントを渡しておくから、ね?」

勇者「心配ご無用です。俺の身体はそこらの菌には負けるほどヤワではないので」

雨零(ちょ、ちょっと。な、なんでコイツが来んのよ!)

137: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 18:01:33.13 ID:Y/T4qpNB0
勇者「おーい、雨零?」

雨零(ママも早く追い返してよ)

雨零母「……。雨零の部屋はあそこよ」

雨零(ママッ!?)

勇者「ありがとうございます。おーい雨零、大丈夫か?」

雨零母(なんだか、不思議な魅力を感じる子ね……)

雨零(大丈夫。鍵がかかってるし、入ってこれない)

勇者「ん、なんだ固いな?」

雨零(ほら、早く帰って!)

バギィッ!!

勇者(何か変な音したけど大丈夫だよな?)

雨零(な、なに!! か、鍵が壊れた?)

勇者「よ、雨零。なんだ、結構元気そうじゃねーか」

雨零「な、何か用?」

勇者「風邪ひいてんだろ? 治してやるから目を瞑ってろ」

雨零「は、な、何よ! 寄らないで!!」

勇者「大丈夫だって、一瞬だから」

雨零「や、やめて……お、お願いだから」

勇者「寒いのか? 身体が震えてるぞ」

雨零「近寄らないでってば!!」ガクガク

雨零(だめ、オタクの顔が……頭から離れない……)

勇者「う、雨零?」

雨零「いやぁぁ――ッムグ!?」

勇者が雨零の口に手のひらを当てる。

勇者「ほら、飲み込め」

雨零(な、何これ。甘いくて心が落ち着く)

勇者(聖力は一般人が体内に取り込めば、万能薬となる。おっと危ない、これ以上与えると中毒になる)

勇者「どうだ、楽になったろ」

雨零「うん。何を飲ませたの?」

勇者「力の源だ」

138: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 18:02:28.31 ID:Y/T4qpNB0
雨零(コイツに何かを聞くだけ無駄ね)

勇者「これ、休んでた分のプリントだ」

雨零「あ、ありがと」

勇者「よし、渡すものは全部渡したな。それじゃ、またな。明日は学校に来いよ」

雨零「あ、ちょ……」

雨零母「あら、もう帰るの?」

勇者「はい、お邪魔しました」

ガチャ

雨零(ほんと、変なやつ。でも、気が楽になった……)

脳裏に焼き付いていたオタクの顔が消滅。

雨零(でも……やっぱり学校には行きたくない)

パサッ

雨零「ん、なんだろコレ……封筒?」

雨零「――ッ」ドクンドクン

封筒【なんで休んでんの? 雨零が来ないと面白くないんだけど。このまま不登校になるなら、しかたないけど雨零の代わりを探すことにするね。そうだなー、やっぱり《最初に言った》通りユーシャ君にしよ! 良かったね、これで雨零は助かるね!】

ガタン

雨零母「どうしたの雨零!!」

雨零「……ママはさ、私が誰かをイジメてたらどう思う?」

雨零母「突然、何を言ってるのよ。雨零が人をイジメるわけないでしょ」

雨零「もしもの話」

雨零母「そうね。そうなら、きちんと謝って償って欲しいわ」

雨零「そうだよね。うん、ありがと」

雨零母「……雨零?」

雨零「なに、ママ?」

雨零母「少し元気になってきたんじゃない?」

雨零「そうかも。大分、楽になった。明日は学校行くね」

雨零母「無理に行かなくてもいいのよ」

雨零「ううん。行かないと」

雨零母「そう。なら、しっかり今日は休みなさい」

雨零「はーい」

139: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 18:03:27.40 ID:Y/T4qpNB0
23

翌日、火曜日。
友英高校、教室。登校時間。

モブA「わー、雨零久しぶりー! もう風邪は大丈夫なのー?」

雨零「うん大丈夫」

モブB「オタクが話したいことがあるんだって」

雨零「え……」

オタク「う、雨零!」

雨零「オ、オタク君……うっ」ガクガク

モブA「ほら、抱きしめて」コソコソ

オタク「う、うん。雨零、好きだぁぁぁぁ!!」ガバァ

雨零「――い、いや!」

バシッ!

オタク「ど、どうして。どうしてボクを拒絶するんだよ雨零。キミはボクを愛してるんだろ?」

雨零「あんたなんて大嫌いよ!」

オタク「は、は、う、嘘だ!」

モブA「いくらなんでも酷くない?」

モブB「ひどいひどーい!!」

オタク「ボ、ボクの容姿が醜いから? 臭いから? 気持ち悪いから? ボクを、ボクを否定しないでよ。ボクは、ボクは、ボクは!!」

雨零「うるさい! 勘違いしないでよ。あたしは、あんたの容姿が醜いから嫌いなんじゃない。」

オタク「じゃ、じゃあボクがオタクだから、キモオタだから!!」

雨零「●●●●が無駄に大きい女の子の表紙の漫画とかライトノベルが何よ。一番気持ち悪いのは、それを恥ずかしがりながら読んでるオタクじゃない!」

オタク「で、でも」

雨零「その性格が大嫌い! 何が気持ち悪いよ。自分に自信がないだけじゃない。誰かに認めてもらいたい? なら、まずは自分のことを好きになってよ」

オタク「――ッ」

モブB「はいはーい、雨零……少しうるさい」

モブA「なに、調子乗ってんのかなー?」コソコソ

勇者が登校してくる。

勇者「おっ、やっと復帰したかー」

モブA「チッ……」

勇者「い、いま舌打ちした?」ビク

モブA「何言ってのさー、してないよー」

勇者「そ、そーか」

モブB「雨零、後で覚えといてよ」コソッ

雨零(あとなんてないわよ)

140: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 18:04:22.59 ID:Y/T4qpNB0
昼休み。

モブA「ねー、雨零見た?」

モブB「あれ、そう言えばいないね。トイレにでも逃げたんじゃない?」

モブA「便所飯かな」クスッ

モブB「なんなのあいつ。やっと登校したかと思えば調子に乗っちゃってさ」

モブA「つまんないよね。しかたないかー、良心が痛むけどユーシャ君イジメちゃう?」

モブB「良心なんてないくせに」クスクス

モブA「今日、学校に来たってことはさー、昨日のメッセージが効いたってことでしょー? じゃあ、ユーシャ君をイジメたらウジウジ雨零に戻ると思うんだけどー」

モブB「ユーシャ君か。まあ、気が進まないけど、雨零の方が大事だしね」

モブA「それに、放っといたら面倒くさくなりそうだし」

モブB「だね!」

モブA「じゃ、早速始めちゃう?」

モブB「うん! おーい、ユーシャ君」

勇者「おっ、何か用――?」

モブA「どしたの? 突然、固まっちゃって」

勇者「……あのやろ!!」

ビュンッ――

モブA「きゃぁっ!?」

モブB「へ、あれ? ユーシャ君は??」

モブA「いま、目の前にいたよね?」

モブB「う、うん」

モブA「き、消えた?」

141: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 18:05:10.08 ID:Y/T4qpNB0
24

友英高校、昼休み。
屋上。

雨零(柵の向こうってこんなに怖いんだ……)

雨零「大丈夫。これで全部解決するんだから!」ガクガク

ビュッ、バンッ!

雨零「――ッ!?」

勇者「なんでそんなとこに立ってんだ、お前」

雨零(いつの間に……)

雨零「な、何の用よ?」

勇者「この高さからなら、どう落ちても死ぬぞ」

雨零「だから何? 死ぬつもりなんだから当たり前じゃない」

勇者「何言ってんだよ」

雨零「うるさい!」

勇者「いいから、こっち来い」

雨零「いや!」

勇者「なんで、何があった」

雨零「もう、楽にしてよ」

勇者「教えてくれ、何があった」

雨零「話したら、あんたは自分のことを責める。だから言わない」

勇者「良いから、教えろ」

雨零「言わないって言ってるでしょ! いいからどっかに行ってよ」

勇者「俺のことなんか気にすんな。ほら、話してみろ」

雨零「も、もう……あたしに優しくしないでよ」

雨零が座り込む。

142: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 18:06:04.45 ID:Y/T4qpNB0
二分後。

雨零「あんたは気づいてないと思うけどさ」

勇者「お、おう」

雨零「あんたが転校してきた翌日、あたしはあんたをイジメようとしたの」

勇者「は、イジメ? そんなことされてないぞ」

雨零「やっぱり、気づいてなかった」

勇者「気づくも何も、俺はお前にイジメられてないからな」

雨零「ううん、イジメた。あんたに焼きそばパンを買いに行かせたでしょ?」

勇者「それがどうした」

雨零「あれがイジメ」

勇者「は?」

雨零「購買の店員を見たでしょ。あんな性格をしてるから、普通は三つも買えないの」

勇者「買えたぞ」

雨零「それは偶然。普通は買えないの」

勇者「そ、そうなのか」

雨零「そう。それを分かってあたしはあんたに買いに行かせたの」

勇者「結局、買えたし問題ねーだろ」

雨零「大ありよ……」

勇者「ねーって」

雨零「あるの! だって、あれはあたしがもうイジメられないようにあんたを身代わりにしようとしたんだもん」

勇者「どういう事だ?」

雨零「転校初日の挨拶覚えてる?」

勇者「思い出したくない」

雨零「でしょうね。ほんと、キモかったもん」

勇者「分かってるけど……言うなよ」

雨零「そんなあんたを見てね。モブAさん達があたしに言ったのよ。あんたの代わりに、あいつをイジメてあげようかって」

勇者「……え?」

雨零「まー、結局? あんたは焼きそばパンを三つ買って、しかもモブAさん達とも打ち解けたんだけどね」

勇者「ちょっと待てよ。その話だと、お前は」

雨零「そうよ。モブAさん達にイジメられてる。もう、断定できる。あたしはモブAさん達にイジメられてるの」

勇者「な、なんで……」

雨零「前に二人が言ってたでしょ。あたしのせいで楓って子が受験に失敗したって」

143: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 18:08:10.34 ID:Y/T4qpNB0
勇者「そんなのでイジメられるのか?」

雨零「当たり前じゃん」

勇者(当たり前なのか……)

雨零「まあ、あたしがイジメられてることは、そんなに重要じゃないの」

勇者「?」

雨零「一番嫌気がさすのは……自分が解放されようと、他人を売ったこと」

勇者「は、大丈夫だ。俺は気にしてない」

雨零「あたしが気にする」

勇者「そんな理由でお前は死のうと思ったのか?」

雨零「もちろん他にもあるわよ。楓を苦しめたとか、オタクくんが利用されたとか。最終的にあたしがいなかったら誰も苦しまないで済むの」

勇者「ふざけんなよ」

雨零「大丈夫。人が[ピーーー]ば問題になるわ。あたしの机の中に全てを書いた遺書も入れて置いたから、モブAさんとモブBさんも停学くらいにはなって教師に目を付けられると思う」

勇者「だから、ふざけんなって! 勝手に自分の中だけで完結させるな」

雨零「――こうするしかないじゃない!」

勇者「なんで、どいつもコイツも……勝手に判断して勝手に死ぬんだ」

雨零「うるさい、うるさい、うるさい」

勇者「お前を育ててくれた親が悲しむんだぞ」

雨零「ママは償って欲しいって言ってたから」

勇者「違う!」

キーンコーンカーンコーン

雨零「……予鈴が鳴ったわよ。ほら、もう戻って」

雨零が立ち上がる。

勇者「おい、止めろ!」


144: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 18:08:44.54 ID:Y/T4qpNB0
雨零「最後に話を聞いてくれてありがと。じゃーね」

スッ――
雨零が飛び降りる。

勇者「くそバカやろう!」

タタタッバン!
勇者が飛び降りる。

雨零「は、な、何してんのよあんた」

勇者「舌噛むぞ。口塞いでろ」

雨零「むぐっ、んん、んんん!」

パッーーーン!!!!

雨零「あ、あぁ……ユ、ユーシャ……」

勇者「イテテ。やっぱ、聖力が少ないとダメージが酷いな」

雨零「え、なんで……」

勇者「ロシア人はな強いんだ。このくらいの高さなら平気だっつーの」

雨零「嘘よ。あ、あんた……グッ」

勇者「あんまり喋んない方が良いぞ。お前にも結構な衝撃が来たと思うからな」

雨零「で、でも。あんたはあたし以上に……」

勇者「恐ロシアだ。大丈夫、足が痺れてるけど、怪我はしてねーよ」

雨零「あんた……本当に人間?」

勇者「――人間、だ」

雨零「うぅ、バカ!」

バシバシ!

勇者「なんだよ、殴んなよいてーな」

雨零「なんで、こんなムチャしたのよ」

勇者「ムチャしたのはどっちだっての」

雨零「ほんと……バカ」

勇者「人が死んだ後に気づく」

雨零「え?」

勇者「そいつが死んでから、そいつがどれだけ大切だったかに気づくんだ」

雨零「なによ、突然」

勇者「死んで誰かを救おうなんて考えないでくれ」

雨零「ごめん……」

勇者「お前が思っている以上に、残された者は辛いんだ」

雨零「……」

145: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 18:09:19.68 ID:Y/T4qpNB0
25

友英高校、5時限目。
生徒会室。

具源「どうしました。この書類にサインをしていただきたいのですが?」

モブA「ちょっとー具源会長、冗談がキツイですってー」

具源「ふふ、冗談とは何のことでしょう」

モブB「いやいや、だってこれ」

具源「退学届けです」

モブA「冗談ですよね……」

具源「そう思いますか?」

モブB「雨零のやつチクったな」

具源「雨零さん? 何を勘違いしているのですか?」

モブB「……?」

具源「二人が退学する理由は、この学校に必要ないと私が判断したからです。雨零さんは関係ありませんよ」

モブA「――い、いくら生徒会長だからってそんな権限あるわけないです! 行こ、モブB」

具源「よくご覧になってください。親のサインと印鑑が押されているでしょう。」

146: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 18:10:00.34 ID:Y/T4qpNB0
モブB「ママがそんな、するわけないです!」

具源「残念ながら、快くサインをしていただけました」

モブB「そ。そんなわけ」

モブA「で、でも……これお母さんの字だ……」

具源「さあ、サインをお願いします」

モブB「い、いやです」

具源「もとより――」

モブA「な、何ですか」

具源「雨零さん、モブAさん、モブBさんの入学を許可したのは私なんです」

モブB「……は?」

具源「楓さんのカンニング。本来なら、あなた方も不正と見なし不合格にする予定でした」

モブA「な、何を言って」

具源「ですが、それでは面白くないでしょう? だから、楓さんだけを不合格にしたんです」

モブB「い、行こ! この人、なんか危ないよ」

ドンドン!

モブA「な、なんで!! なんで、開かないの!」

具源「サイドディッシュはメインディッシュのためにあります。お二人はもういただきました。美味しかったですよ」

モブA「い、いや、来ないで!」

具源「悪いようにはしません。さあ、サインを――」

モブA・B「あ……」

147: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 18:10:29.87 ID:Y/T4qpNB0
26

火曜日、午後7時
勇者宅、リビング。

勇者「てなことがあったんだ」

パシン

勇者「イテッ!? なにすんだよ」

ルー「バカですか。異星人だと知られたらどうするつもりです」

勇者「ルートネスに言われた通り、恐ロシアって誤魔化したから大丈夫だろ」

ルー「ふむ、なら大丈夫ですね」

勇者「しっかし、日本の女って怖いのな。全く雨零がイジメられてるなんて気づけなかった」

ルー「日本の女性の特徴ですね。男性が露骨に嫌うのに対し、女性は陰湿に嫌います」

勇者「嫌いなら、嫌いって言って、近づかなけりゃ良いのに」

ルー「酷い場合は、当の本人に悟られないように裏でイジメる場合もあるようですよ」

勇者「どういう事だ?」

148: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 18:11:01.31 ID:Y/T4qpNB0
ルー「例えば嫌われている者をAとしますね」

勇者「おう」

ルー「メッセージアプリでAを含めたグループを作りつつ、Aだけを除いたグループを作ると言ったことも多々行うようです」

勇者「なんで、そんな面倒なことするんだ?」

ルー「私に聞かれても分かりませんよ」

勇者「そこまでして、嫌いなヤツと関わる必要ってあんのかな」

ルー「誰かをイジメることで優越感に浸れますから。そういう意味では、ありますね」

勇者「難しいなー日本人って」

ルー「陰湿で、猿真似しかできない劣等種。人間の中でも下等生物ですね」

勇者「魔族で言うゴブリンって感じかな」

ルー「だから魔族で例えないでください。言わんとしていることは分かりますが」

149: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 18:11:49.70 ID:Y/T4qpNB0
27

友英高校、登校時間。
勇者の教室。

勇者「二人が退学!?」

雨零「それも自主退学みたい。なんだか話題になってる」

勇者「なんで急に?」

雨零「分かんないわよ。あたしは誰にもイジメられてるなんて言って……」

雨零(あ、具源先輩には言ってた。でも違うわよね)

勇者「どうした?」

雨零「ううん、なんでもない」

勇者「何はともあれ、良かったな」

雨零「う、うん。でも……最後にしっかり話し合いたかった」

勇者「お前は本当に優しいな。俺なら二度と会いたくもないって思ってるぞ」

雨零「でも結局さ、あたしが原因だし」

勇者「カンニングか?」

雨零「そう。あたしが失敗しなかったら、こんなことにもならなかった」

勇者「当の楓だっけ?」

雨零「うん、楓ちゃん」

勇者「そいつが気にしてないって言ってるんだろ? じゃあ気にする必要なんかねーって」

雨零「そうかな……」

勇者「そうそう。ただイジメて優越感に浸りたかっただけだ」

雨零「その、あのさ」

勇者「ん、なんだ」

雨零「ありがと」

勇者「誰かを助けて、礼を言われたのは初めてだな」

雨零「え?」

勇者「いや、何でもない。忘れてくれ」

雨零(ほんと、変なやつ。でも……)

雨零「いやいや、ないない」

150: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 18:12:32.24 ID:Y/T4qpNB0
勇者「何がないんだ?」

雨零「うるさいわね。一々なんでもかんでも聞いてくんじゃないわよ」

勇者「なんだよ、いきなり大声で」

雨零「ふんっ」

オタク「あ、あの」

勇者「オタク、何かようか?」

オタク「あ、君じゃなくて雨零……さんに」

雨零「あたしに……」ビクッ

オタク「その、ごめん!!」

オタクが土下座する。

ザワザワ

オタク「ボク、つい調子に乗っちゃって。ごめん、本当にごめん」

雨零「……いいよ。オタクくんは何も悪くないし」

オタク「えっ?」

雨零「だから、気にしないで」

オタク「ボク、歌います!」

雨零「え?」

オタク「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ~、ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ~!」

雨零(アニソンかな)クスッ

モブ「うわ……見てあれ」

モブ「ヤバくない?」

オタク「撲殺天使~♪ 撲殺天使~♪」

雨零「はい! はい! ほら、あんたも」パンパン

勇者「え? あ、分かった。はい! はい!」パンパン

勇者(――ッん? お、おお!? 力が……みなぎってきた)

151: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 18:13:15.38 ID:Y/T4qpNB0
28

午後7時、勇者宅、リビング。

勇者「むひひ」

ルー「……」

勇者「きひひひひひ」

ルー「…………」

勇者「にひひひひひひひひ」

ルー「何ですか鬱陶しい」

勇者「それがな、今日さ聖力がめちゃくちゃ溜まったんだ」

ルー「それは良かったですね。転移はできそうですか?」

勇者「少し足りないな。明日、適当にブラついて困ってる人を探そうと思う」

ルー「意味のないことに、その聖力を使わないように気をつけてください」

勇者「これだけの量があれば、使い切る方が難しいぜ」

ルー「それは心強いですね」

勇者「でも、ルートネスはどうするんだ?」

ルー「何がです」

勇者「お前は魔王に俺の世話を命じられたんだろ? 俺が向こうの世界に戻ったあとはどうするんだ?」

ルー「ここに残る他ないでしょうが」

勇者「そうだけどさ。転移二人分の聖力を集めるまで待っても良いんだぞ」

ルー「魔族である私が戻ったら、即座に殺されますよ」

勇者「でも、ルートネスって人間にしか見えないし大丈夫だと思うけどな」

ルー「それ以前に、私はこちらの世界での暮らしを気に入っているのでお断りします」

勇者「本当にいいのか?」

ルー「しつこいですよ」

勇者「なら、分かった。今までありがとな」

ルー「転移するのは今日ではないでしょう? 礼を言うなら、転移するその日にしてください。まあ私は勇者殿に感謝などされたくはありませんが。虫唾が走るので」

勇者「あ……はい」

152: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 18:13:44.39 ID:Y/T4qpNB0
29

友英高校、放課後。
住宅街。

勇者「あ、お婆さん。これ落とした!」

老婆「おやまぁ……ありがとうね坊や」

勇者「どういたしまして」

勇者(困ってる人って探すとなかなか見つからないもんだな)

勇者「住宅街じゃダメだな。もっと、人が多いところに行くか」

デパート

勇者「やっぱ、ここは人が多いな」

勇者(迷子とかなら、結構な聖力が溜まるんだけどなー。泣いてる子供いねーかな)

ウロウロ

モブA「夜ご飯、フードコート行く?」

モブB「えぇー、もっと豪華なとこ行こうよ」

勇者(ゲッ……モブA・B。気まづくなりそうだし、離れるか)

153: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 18:14:18.61 ID:Y/T4qpNB0
楓「さっかく三人で遊んでるんだし、少しくらい贅沢しよ!」

勇者(アイツはモブA達の友達か? 学校では見たことないけど)

モブB「そうそう、雨零を除いて遊べるなんて本当に久しぶり」

勇者(――ん?)ピクッ

モブA「それより、いいのー?」

楓「大丈夫だって。ここからが一番のお楽しみなんだから」

勇者(どういうことだ?)

モブB「親友の楓に嫌われたら雨零、もう立ち上がれないんじゃない」クスクス

楓「もう、冗談でもやめてよ。私、アイツのこと大嫌いなのに」

勇者(楓ってカンニングで落ちたやつだよな)

モブA「で、どうするのー?」

楓「とりあえず、雨零には死んで欲しいから。徹底的に嫌うつもり。雨零のせいで! なんて言ったら多分、アイツ死ぬよ」

モブA「ほんと、雨零が落ちれば良かったのにね」

楓「ほんとだよ。なんで、アイツの失敗で私だけ落ちないとダメなわけ?」

モブB「楓が勉強しなかったからじゃん」クスクス

楓「あー言ったなー、このー!」

キャッキャウフフ

勇者(なんだ……それ)

154: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 18:15:33.77 ID:Y/T4qpNB0
2時間後

モブA・B「じゃーばいばーい!」

楓「うん、ばいばい。また遊ぼうね」

楓(ふう、疲れた。早く帰ってお風呂入っちゃお)

勇者「なあ、お前が楓だよな」

楓「え、君は?」

勇者「雨零について聞きたいことがあるんだ」

楓「……雨零? ははーん、もしかして聞いてたの? 君は雨零の彼氏かな」

勇者「なあ、お前は雨零が嫌いなのか?」

楓「嫌いに決まってるじゃん」キッパリ

勇者「な、なんでだよ。雨零は、お前のことを思って自殺しようとさえしたんだぞ」

楓「あ、そうなの! じゃあ、あと一押しかなー」

勇者「ふざけんなよ。なんで、お前……雨零と仲が良か――」

勇者(裏でイジメている場合もある)

楓「君も、雨零なんかと関わらない方が良いよ」

勇者「なんで、雨零を嫌うんだ」

楓「そう言えばなんでだろ。あんまり考えてないなー。ただ、イジメがいがあるって言うか。そうそう、反応が面白いんだよね」

勇者「――ッ」

楓「何でも自分のせいって思い込む性格してるからさ――ちょ、何!?」

勇者が楓の額に手を当てる。

勇者「本当は殺してやりたい」

155: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 18:16:09.22 ID:Y/T4qpNB0
楓「――は?」

勇者「でも、お前が[ピーーー]ば、雨零は自分を責め続ける」

勇者(使ってはならない力。でも、これ以外の方法で雨零は助けられない)

勇者「禁呪――洗脳」

楓「イギッ!? ヴォッ……」

勇者(これがコイツの記憶……)

―――
楓「私も友英高校に行きたい」

雨零「うん行こ! みんなで同じ高校!」

モブA「いいねー。大学も同じ高校とこ行こうよ」

モブB「そして就職も一緒にってね!」

雨零「ずっと一緒にいれたら楽しいだろうなー」

楓(雨零とずっと一緒なんて絶対にゴメンだよ)

楓「でも……あたし成績悪いし無理かも」

モブA「確かに楓の成績じゃキツいかもね」

モブB「友英高校からレベル下げる?」

楓「そんなの悪いよ。私が勉強したら良いだけだし」

モブA「でも、あと三ヶ月しかないよー」

楓「必死になったら大丈夫だよきっと! で、でも……間に合わなかったカンニングさせてね、なんつって」クスクス

156: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 18:16:51.24 ID:Y/T4qpNB0
三ヶ月後

モブA「まじでカンニングするのー?」

楓「私、諦めるよ……」

雨零「だ、だめ。あたしが頑張って見せるから」

楓「う、雨零……ありがと」

楓(ほんと、思い通りに動いてくれる)

試験中

楓(監督が後ろにいる、このタイミングで!)

楓「だ、だめ。後ろに……」コソコソ

雨零「え?」

監督「あなた……後で私についてきなさい」

試験後

楓「う、うぅ……ごめん、みんな……あたし」

雨零「わたしのせいだよ。ごめん、楓ちゃん。ほんとうにごめん」

楓「ううん。もともと私がカンニングさせてって言ったからダメなんだよ……」

モブA「楓……」

モブB「楓っち……」

楓(ほんと、単純なやつら。もともとあたしの志望校は私立じゃなくて公立だっての)クスクス
―――

157: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 18:17:18.26 ID:Y/T4qpNB0
勇者「雨零がイジメられたのも……全部こいつのせいじゃないか」

楓「イグッヴェ……」ピクピク

勇者「雨零を憎いと思っている感情を書き換えて……」

勇者(これで、もう問題ない。楓が雨零に抱く憎悪を全部、愛情に改竄してやった)

勇者「聖力が尽きちまった……はは、また一からやり直しだ」

158: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 18:18:04.84 ID:Y/T4qpNB0
30

月曜日、友英高校、登校時間。

雨零「ふふんふんふん♪」

勇者「今日はやけにテンションが高いな」

雨零「まねー」

勇者「何か良いことでもあったのか?」

雨零「聞きたい?」

勇者「いや、別に……」

雨零「あのね、夏休みにねー」

勇者「聞いて欲しいのかよ!」

雨零「いいから聞きなさいよ。夏休みにね、楓と旅行に行く約束したんだ。それも二人きりで!!」

プルルルル

雨零「あ、楓からだ」

楓『あ、雨零? こんどの旅行でさ着る水着買いに行こうよ!』

雨零「うん、行く! え、今日? うん、大丈夫。わかった!」

楓『雨零ーだーい好き!!』

雨零「も、もう! 今学校だから。うんまたね」

ピッ

雨零「なによその顔。羨ましいの?」

勇者「いや……」

雨零「ま、そのうちアンタも楓みたいな友達ができるわよ」

勇者「そうだな。そうだと良いな」

159: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 18:18:30.63 ID:Y/T4qpNB0
31

午後、勇者宅。

ルー「そろそろ聖力も溜まってきたのではないですか?」

勇者「い、いや……それがな」

ルー「は、全部使い切った? どういう事ですか」

勇者「どうしても見過ごせないことがあってな。使っちまった」

ルー「はぁ……せっかく汚物から解放されると喜んでいましたが残念です」

勇者「ほんと悪い」

ルー「しかし変ですね」

160: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/11/14(水) 18:18:57.31 ID:Y/T4qpNB0
勇者「何が?」

ルー「勇者殿は誰かを助ける度に嬉々としていましたが、今回はどこか腑に落ちない表情をしています」

勇者「聖力が尽きて身体がだるいだけだ」

ルー「そうですか。まあ、私には勇者殿の体調なんてどうでもいいことですが」

勇者「はは、そうだな。ま、しばらくの間、よろしく頼む」

ルー「はぁ……」

勇者「ルートネスは露骨に嫌な顔するな」

ルー「嫌ですからね」

勇者「助かる」

ルー「……はい?」

勇者「はは、忘れてくれ」

END