早坂美玲「アイドルサバイバルin仮想現実」 その1

279 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/06/30(月) 00:04:52.53 ID:bjbXWOsb0



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巴(ボット)「ほれ、まだスタミナはあるじゃろ!立てや!そんでもってうちに全力で食らいついてこい!」 






加蓮「ぜぇ...はぁ...い、いわれなくても...!」 



奈緒「す、好き勝手...言いやがって...」 


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みく(ボット)「にゃんにゃにゃ~ん♪美穂ちゃんも紗南ちゃんも動きが遅すぎにゃ!あくびが出ちゃうにゃん」 







美穂「あ、あぅう...みくちゃんの方が速すぎるんだもん...」 



紗南「あいててて...そんな身体パラメータなんてチート級だよっ!」 


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まゆ「...うふ、うふふ、うふ......」 




アナスタシア「アー、無理して笑わなくてもいいのでは?...まゆ...膝がガクガクしてます」 


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地獄を思わせる、ひたすらに荒れ果てた地で、 

レッスンという名の地獄の釜の蓋が開いていた 





ゲーム開始55分経過 

神谷奈緒&北条加蓮&佐久間まゆ&小日向美穂&三好紗南 

VS 

村上巴(ボット) 

VS   

高峯のあ(ボット)&アナスタシア(ボット)&前川みく(ボット) 

継続中 

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SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1396415964

285 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/07/15(火) 00:17:02.81 ID:4YM54seg0


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チャプター 
佐久間まゆ 




殺陣、凝闘 



いわゆる演技での戦闘行為というものは知っていた 



ここ最近だと剣士、拳闘士、ガンスリンガー、海賊などの役に扮した事務所の仲間が鬼気迫る演技を見せていた 

鍔迫り合い、決闘、銃撃戦、海上戦 

剣、篭手、リボルバー、ナイフ、大砲 

多人数戦、一騎打ち 



そういったアクション面に特化した演技のことは知っていた 


今ここで、彼女にも、その技術があれば 



この状況を変えることができただろうか 






アナスタシア(ボット)「無理ですよ」 

「ここは現実であって現実ではありませんし。演技力でどうこうできる程度の...アー...逆境、ではありません」 



まゆ「ぜぇ...ぜぇ...で、ですよねぇ...」 





まゆの両指に絡まるように果物ナイフが揺れる 

その刃は氷と何度もぶつかりあったせいでギザギザに刃こぼれし、とても使い物になるようには見えない 

アナスタシア(ボット)「むぅ、氷にしては耐久度が低いですね...本来氷はもっと硬いものなのですが...」 

そう言いながらもアナスタシアの両手を中心にかたまった篭手のような氷の装備の、 
そのひび割れた部分を覆い隠すように細かい氷の粒が貼り付いていく 
286 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/07/15(火) 00:18:18.44 ID:4YM54seg0


最初、まゆには武器の数でアドバンテージがあった。 


集めに集めた夥しい本数の刃物と少ない銃器 

それに対してアナスタシアの武器は途絶えることなく補充され、形成され、まゆに振るわれた、 


比較的大きなサバイバルナイフには、腕をまるごと防御する氷塊が 


細長く伸びたダガーナイフには、それを上回る長さの氷の槍が 


まゆの武器、攻撃手段は多彩であり、豊富なはずだった。 


だがそれに即座に対応し、相性のいい形態変化を行われては威力も半減 



そして今も、小ぶりな刃物を破壊すべくアナスタシアの両手にはゴツゴツとした透明の篭手が冷たく装備されている 




まゆ「(ちょ...っと、不利すぎますねぇ。何をやってもやり返されてしまいますし...)」 


さっと周りに視線を走らせる。その瓦礫の隙間にはここ数分でアナスタシアに切りかかった際に、あるものは弾き返され、刃が欠け、どこかに飛んでいった武器がいくつも転がっているはずだ 


まゆ「(あと何本くらいでしょうか...)」 


アナスタシアを見据えたままスカートのリボンに手の平を走らせる、リボンに挟む形で服に固定したナイフが数本ほど指に触れた 


まゆ「(右手側に二本、左手側に一本...今使っている刃こぼれしたのが一本ですかぁ...)」 

アナスタシア(ボット)「そうやって」 

まゆ「!」 




アナスタシアが地を蹴る。闘いの最中に足元にこぼれ落ちていた、水晶のような氷の粒がジャリリと踏みにじられる 

5メートルとなかった距離がわずか2、3歩で縮められ、その3歩目に拳が振り下ろされた 

まゆ「っつぅ!」 

果物ナイフの背で攻撃を受け止める。まるでボール大の雹となった拳がひび割れる 


アナスタシア(ボット)「今更残りの武器を気にするくらいなら、他のプレイヤーに武器を分けたり...しなければよかったのです...」 


ヒットアンドアウェイ。振り下ろした右拳を戻しながら一歩引く 


そして返す刀で左の拳が突きこまれた。まゆの胴に吸い込まれるようにえぐりこまれる 


彼女の軽い体は受身も取れずに背中から地面に叩きつけ得られる 


287 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/07/15(火) 00:19:05.83 ID:4YM54seg0



まゆ「あいったぁ...」 


背中にしびれ、しかし一番ダメージの大きいはずの胴体には何の違和感もなかった 


ダメージの感触を与えない。それがアナスタシアの能力だからだ。だからまゆは背中を抑えながら即座に起き上がれた 



まゆ「...ま、まゆだけ生き残っても......その後全てのボットを相手はできませんから...」 


アナスタシア(ボット)「なるほど、えっと...打算的? ですね、まゆ」 



アナスタシアはまた数歩下がり、自分の両手を検分している。右手の篭手に深い溝が入っていた。 

力加減を顧みず振り下ろしたため武器自体が損傷したらしい。これでは追撃はできない 

だがそれでも構わない、まゆのものと違い彼女の武器は尽きないのだから 



まゆ「ぜぇ...はぁ、まゆは、こ、これでも...仲間思いなんですよぉ...?」 


カラン 

まゆの手から刃先の曲がったナイフが放られる 



アナスタシア(ボット)「アー、そうですか...ですが、みんなで生き残りたいのはこちらも同じなので...」 


アナスタシアが篭手をフラフラと振ると氷の破片が剥がれ飛び、空中でキラキラと日の光を反射した 

「ちゃんと、倒させてもらいますよ。」 

「そしてこの戦いを糧に...私たちは他のボットよりも高みにのぼります...」 

「...бедствие......アー」 




「...災厄から...生き延びるためにも」 





ゲーム開始56分経過 

佐久間まゆVSアナスタシア(ボット) 

継続中 
288 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/07/15(火) 00:19:59.51 ID:4YM54seg0


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チャプター 
小日向美穂&三好紗南 



美穂「だ、だだ大丈夫かなぁ?ま、まゆちゃん、痛そうだよぉ...」 

紗南「いやいや!!こっちも大変だから!となりの画面にも注意を向けとく的な場合じゃないって!」 



そこはまゆとアナスタシアのいる地点から10メートルと離れていない場所 

建物の残骸がごろごろと積もり、それがいい具合にボットから身を隠す障壁となっていた 


この場合もちろん身を隠さなければいけない相手は前川みくだ 


今もそこらじゅうにある瓦礫の岩場のどこかからこっちを睨めつけているはずだ。 

そして狙われている二人、小日向美穂と三好紗南の装備は奇妙の一言に尽きた 

一人はクマのぬいぐるみを小脇に抱え、手にはオートマの銃を一丁怖々と握りしめている 

もう一人はポータブル型ゲーム機を現在進行形で片手操作しながらもう片方の手で五連の回転銃を持て余していた 

戦闘にそぐわないアイテムはどちらも彼女たちの能力の象徴、それ以外はまゆから手渡されたものだ 

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まゆ「頑張って生き残りましょうねぇ?」 

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美穂「うぅ、そんなこと言われても...」 

引き金にホンの少し指をかけては引っ込める動作を繰り返す 

手の中にある殺傷力の権化。それを振るうのがどうにもためらわれるのだ 



紗南「美穂さん、ちゃんとそっち見張っててね!」 

美穂「う、うん...」 


美穂の背中に自分のそれをぶつけるように紗南と二人、背中合わせに立つ 

だが身長が噛み合っていない上、銃の扱いが覚束無いせいでその臨戦態勢が即興であることがバレバレだった 


美穂「......みくちゃん...ど、どこだろ?」 

紗南「......しーっ、静かに」 


みくの姿は見えない。二人お囲むようにあちこちに散らばった鉄筋やコンクリの小山の影に潜んでいる 

氷に金属が叩きつけられる鈍い音がそう遠くない場所でしきりに鳴っている。まゆの戦闘は未だ続いているようだ 

だがそっちに視線は向けられない。手の中で無骨な銃器を握り締める 
289 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/07/15(火) 00:20:51.78 ID:4YM54seg0



美穂「(...あ)」 

空中の一部がちらちらと光っている。アナスタシアの手から細かく散った氷が細雪のように宙を舞っていた 

なのに美穂は思わず横ではなく上を見上げてしまった。 




そしてみくと目があった 




みく(ボット)「にゃあああああああああああ!!!」 


美穂「ひゃああああああっ!?」 



前でも後ろでもない、空中に飛び上がっての上方からの奇襲 




反射的に美穂の腕が上へ跳ね上がる。だが、引き金が引けない 




紗南「ぅえっ!?」 

遅れて紗南も上を見上げたが、もう遅い 

みく(ボット)「ねこきっく!」 

頭から地面に着地する瞬間、ほぼ同時に両足を回転させた蹴りが二人の背中を反対方向に突き飛ばす 

見上げるほど高くまで跳躍を可能にする脚力をまともにくらい、受身も取れずにうつ伏せに倒れたままザリザリと地を滑る 

美穂「きゃあっ!」 

紗南「うあっ!」 

二人を蹴りつつ空中でくるりと回転したみくが着地した。まるっきり高所から落下したときの猫の動きだ 

みく(ボット)「ふふん、窮鼠猫を噛むなんてことわざもあるし、みくは油断なんてしないにゃあ!」 


猫耳を揺らし、ボットが追撃に移る 

砂塵を巻き上げ、みくが跳ねる。その方向は水平、飛ぶそうな速度で地を駆る。 


二人の敵が態勢を崩しているのなら強そうな方から突き崩すのが定石。二人のうちの年上、美穂にみくが肉迫する 


美穂「__っえぇ!?」 


銃を警戒してかその軌道は縦横無尽。右に左へ三角飛びを繰り返しながら確実に距離を詰めている 

だが、もはや美穂の目では人間大の猫と化したみくの姿を追うことはできない
290 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/07/15(火) 00:21:56.03 ID:4YM54seg0

紗南「美穂ちゃん!!」 


起き上がった紗南が銃を構えるが狙いがつけられない。足跡型のクレーターを点々と目で追うだけだ、それも見る間に増えていく 


ダンッダン、ダンダンダンダンダン!!!!!! 


みく(ボット)「おーそーい――――――にゃっ!!!」 


ボットは容赦しない 

武器がないなら肉弾戦を選択することにも躊躇はない 



美穂「ひっ!」 


超超至近距離、 

顔面数センチ先にみくの瞳が割り込む 


銃の射程どころではない、両手を広げれば抱きしめることすらできる距離 



紗南「能力を___!」 



驚愕に白く染まった美穂の脳裏に紗南の言葉はかすかにしか届かない 

代わりに届いたのは猫の手にしたみくの掌底だった。 

加速の勢いの乗った一撃は胸の中央に深く深くめり込んで___ 









ぼふっと弾んだ 






みく(ボット)「にゃ?」 






みくの手の平から手応えが消える 
291 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/07/15(火) 00:23:17.31 ID:4YM54seg0




ぼふんっ、ぽふ、ぽふ 





そのまま地面にバウンドしながら転がって行く 



紗南「ま、間に合っ...た?」 



離れた距離にいた紗南が息をついた 



美穂「わぷっ」 




殴り飛ばされたはずの美穂のいた地点、 



そこに転がっていた”プロデューサーくん”から美穂の声が漏れ出る 




ぬいぐるみと一体化する能力。それにより布と綿の体はみくの一撃を受け取め、受け流していた 



みく(ボット)「にゅにゅう...美穂チャンが消えた?」 


殴った相手がぬいぐるみと入れ替わった感覚に、能力を知らない彼女の動きが止まる 


紗南「(チャーンスッ...今だっ!!)」 



パン!! 



後ろからの紗南の発砲。みくの死角へと銃弾が潜り込む。猫のように動けても銃弾より速くは動けない 

みく(ボット)「____っにぁ!?」 

対応が遅れたみくにその致死級の攻撃を避けることはできなかった 
292 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/07/15(火) 00:24:00.93 ID:4YM54seg0








だが、銃を構えた人間を見てから動くことができる者はいた 



紗南の動きを見逃さなかったボット 




高峯のあが 

いたのだ 







ガキンッ!!! 




銃弾が弾き返される。みくの背後を守るように生えた鉄製の柱に一筋の弾痕が刻まれる 





そのほっそりとした柱はまるで女性の指にも見えた 




みく(ボット)「ふ、ふぅ...のあチャン助かったにゃ!!」 

背後を顧みたみくがのあに声をかける。彼女は遠く離れた場所に静かに直立したままだ 

のあ(ボット)「注意すべきは窮鼠だけではない...見えない敵にこそ注意を払うものよ...みく」 

物体との一体化、および操作。物体に満ちたこのフィールドでは、高峯のあにとって距離は関係ない。今この時この場所で、彼女にとって全てのプレイヤーは射程圏内なのだ 

ボロボロとみくの背後を守った柱が崩れ落ちていく 

崩れ去ったとき、そこにもう人猫の姿はない。みくは音もなく疾駆していた 

みく(ボット)「不意打ちするような悪い子には~~~ねこぱんちにゃっ!」 

紗南「か、かかってこぉい!!」 



敏捷な猫 

音速の銃弾 

ゲームの電波 

三つの速さが激突する 



ゲーム開始56分経過 

小日向美穂&三好紗南VS前川みく(ボット) 

継続中 
293 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/07/15(火) 00:24:55.32 ID:4YM54seg0


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チャプター 
北条加蓮&神谷奈緒 




巴(ボット)「はん、この修羅場でなにぼんやりつっ立ってるか思たが、のあさんはあの立ち位置で十分やれるんけ」 




紗南からみくへの銃撃を能力たやすく防いだ高峯のあの手並みを遠目に眺めて、巴が感心したように声を上げる 

首と視線は完全に敵であるプレイヤーからそれている。油断もいいところだ 


ぎりっ 


巴(ボット)「おっ」 


右腕が”鳴る” 


その瞬間には引き金が絞られ地面をビリビリと震わせる豪音とともに巴の銃が火を噴いていた 



よそ見をしたまま放たれたそれはまっすぐ伸ばされた腕のずっと先、小高い瓦礫山に命中し、巴の身長より数倍巨大なそれが 




ダイナマイトで吹き飛ばされたように跡形もなく破裂した 




奈緒「ぅおおおわああっ?!!」 

加蓮「あっぶなっ!!」 



ほぼ更地になったその影から慌てて二人のプレイヤーが逃げだした、間近で起きた小規模の爆発に無意識に耳を抑えている 


巴(ボット)「おうおうおう!身ぃ隠すモンがドンドンのうなっとるでの!そろそろ逃げてられんぞ!!」 


身を潜めていたプレイヤーと真逆、周りに何の遮蔽物もなく盾も持たず、チャカ一つで巴は荒廃した土地に一人立っていた 

右腕に巻き付いた、拳銃から伸びた手錠の鎖がさらに”太く、長くなった” 



ぎりり 



巴(ボット)「ヒリヒリするのぅ、これがスリルとかいうヤツけ」 
294 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/07/15(火) 00:26:15.03 ID:4YM54seg0

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加蓮「なによあれ!なんであの程度の銃でバズーカみたいな威力なの!?」 

奈緒「知らねえよ!そういう能力なんだろ!あとそっち詰めろ」 



加蓮「いや奈緒が連れてきたんだし、なんか能力のヒントとかもらってないの!?」 

加蓮が奈緒に詰め寄る。別の瓦礫の影に二人して転がり込みながらも焦燥が抜けきらない 


それでも息を切らせながら奈緒が途切れ途切れに覚えている限りの情報を紡ぐ 


奈緒「ここに、合流する前、あたしの前で...一発だけ撃ったんだが、その時は別にあんな威力じゃなかった、しっかりと確かめたわけじゃないけど」 

加蓮「じゃあ、やっぱり...そういう武器を強くする的な能力ってことなの...?」 


うんざりしたような声が漏れる、まだいくらか身を隠す場所が残っているとはいえ、これではジリ貧だ 


奈緒「そう考えるしかねえな、でもそれなら攻撃が当たらないように逃げながら反撃すれば...」 

加蓮「......本当に出来ると思ってる?」 


対応策を提案する奈緒に加蓮は目を鋭く細め指摘する 


奈緒「...やるしかねえだろ、それにほら今の所あたしらのダメージって銃じゃなくて吹き飛んだ石とかがぶつかったときのばっかだし」 

加蓮「それは巴がなぜかテキトーな狙い方しかしないからでしょ、本気で狙ってきたらどうするのよ...」 

奈緒「う...そうだよな....」 

加蓮「それにその方法なら、さっきから何度もやってるのに全部失敗してるじゃない」 

奈緒「あー、やっぱそれが一番謎なんだよなぁ...」 


瓦礫の端に身を寄せ、向こうを覗く。離れた場所では相変わらず巴が身を守ろうとする素振りさえなく直立している 


その右腕には手首から二の腕にかけて蛇のように太い鎖が巻きついていた 


明らかな変化、最初は手錠のものと同じように十数センチもなかったにも関わらず、今や腕を2周3周して余りある長さだ 



奈緒「威力が上がることと、あの伸びる鎖は関係あるのか...?」 



加蓮「それも考えなきゃね...でも一番考えないといけないのは...」 





「アタシたちが攻撃しようとするのと同じタイミングで反撃される現象のことね」 


295 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/07/15(火) 00:27:15.32 ID:4YM54seg0



奈緒「...現象ってのは比喩としちゃ大げさだろ」 


加蓮「でもそうとしか言えないよ、それのせいでアタシたちはあんなに無防備に突っ立ったままの巴に手も足も出ないんじゃないの...」 




それが二人が防戦一方である理由だった 


二人の装備はもう貧弱ではない。まゆの武器を分けてもらった結果、加蓮リボルバーには6発の弾丸がこめられ、奈緒の手にも巴の銃に勝るともとも劣らない大きさのオートマが収まっていた 



なのに勝てない 



攻撃するには十分な装備に1対2の状況、そして無防備なボット 



きっかけは巴の右手首にかかっていた手錠の鎖が伸び始め、銃と腕を一体化するように巻き付き始めたことだ 


がっちりと固定された銃から放たれる不自然で規格外な威力の豪砲 


それを避けつつ反撃することも二人には出来たはずだったし、実際何度もその機会は巡ってきていた 



最初は瓦礫の影を通じて巴の背中側に回り込んでの反撃 

次は二人が別々の位置から挟み撃ちにするような不意打ち 

最後には、片方を囮にしてもう片方に奇襲もかけさせた 




だが全てが失敗に終わった、否、終わるどころか始まりすらしなかった 



巴の背後を取った時にも、瓦礫の影から銃を構えた時も、囮に気を取られた瞬間に引き金を引いた時も___ 



___巴は全く同じタイミングで引き金を引いているのだ 



しかもその度に鎖がより長く太くなっているような気もする 

危機察知能力か、センサーか。なんにせよこっちの攻撃を見抜いた上で大砲級の銃撃を行われては作戦など木っ端微塵だ 

加蓮「一体どんな能力ならそんなことができるんだろ...」 

奈緒「やっぱり能力なのか?鎖が伸びてるのは...多分銃の威力を抑えるだけのものだろうけど...」 


プレイヤーの攻撃を先読みする能力 

ボットの武器の攻撃力を強化する能力 


奈緒「巴が能力を二つ持ってるってのは?」 

加蓮「...それは最悪の可能性、だけどありえない、もしそうだったらもっと早くケリをつけに来る」 
296 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/07/15(火) 00:30:19.23 ID:4YM54seg0

奈緒「そっか......ちっきしょー、でも能力がどうとか考察してる場合じゃないんじゃねえか?」 

加蓮「......アタシは相手の能力を見抜けたおかげで暴走バイクに乗ったボットにも勝てたけど?」 

奈緒「まじかよ...」 

奈緒の驚愕混じりの声を聞きながら、加蓮は積み上がった瓦礫のわずかな隙間越しに巴の姿を見て取った 

加蓮「諦めちゃダメだよ、奈緒。そしたらきっと、なんだってできるんだから」 

拓海さんの時よりは楽だといいな 

そうして思考を開始する 


ゲーム開始56分経過 

北条加蓮&神谷奈緒VS村上巴(ボット) 

継続中 



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303 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/06(水) 23:48:50.21 ID:7I6Q0Kd90


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チャプター 
渋谷凛&緒方智絵里 



あずき(ボット)「逃っげろーい!大脱走大作戦!!」 



凛「っ!!逃がさない...!」 



跳ねるようにあずきが駆け出し、その後ろを凛が追う 

二人の進行方向には事務所。現実感を喪失する仮想世界の中にあって唯一現実との共通点ともなりうる特異点。既知の場所でありながら未知の要素の詰まった建造物 

凛の手には猟銃が握られているが既にその弾はない。彼我の距離は5メートル 





智絵里「...ぁぅ」 

そこに智絵里はいない。状況に置いていかれたまま、仁奈から受けたダメージも抜けきらずその場にへたりこんだまま、既に戦意も失せている 


なぜなら彼女は見てしまったから。 

能力の渦中から生還した人間を 

自分の能力の被害者を 

その憔悴した姿を 



なまじ一度発動させてしまうと取り返しがつかず 

そして何より 

その”末路”を知らずに済ませられる能力だけに、 

一度自分がしでかしたことを知ってしまった智絵里にもう一度能力を、少なくとも戦闘に使うことはできなかった 



智絵里「...ごめんなさい...凛さん...」 



304 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/06(水) 23:50:11.58 ID:7I6Q0Kd90


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あの事務所みたいな建物に逃げ込ませるのは絶対ダメだ! 


それまでに追いついてピアスを取り戻す! 



ギリギリで手の届かない所にあずきの背中、追いつけそうで追いつけない 

着物の裾がひらひらと手の届かないところを揺れる 



凛「...っふ!」 


手に持った銃を構える、多分狩猟に使う感じのそれで、撃つんじゃなくて、打つ 


あずき(ボット)「うぇっ!?」 


バットみたいに銃筒を握る、実際金属バット並みに痛いだろうけど、走りながらだから足元が危うくなる 


凛「止」 



頭の高さに銃を振り上げたまま必死で態勢を整える 



凛「まっ」 



あずきがちらりとこっちを見た後、足をはやめる 

右足を思いっきり踏み込む、地面と一体化した感覚 



凛「てぇっ!」 




速度差で逃げ切られる前に一気に振り下ろす、鉄の棒があずきの背中を捉える 
305 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/06(水) 23:51:59.70 ID:7I6Q0Kd90





あずき(ボット)「やーだよっ」 




私のフルスイングが空振る、空中で小さな鞠の脇をかすめていく 



ここで使ってきたんだ、あの変身能力...! 




しかも 



あずき(ボット)「それだけじゃないよっ」 

凛「っ!!」 




鞠だけじゃない、 


小さな星型の何かが鞠の周りに撒き散らされたみたいに 

いくつもいくつも、あずきが変わり身のさなかにバラまいて___ 



鞠を外した銃がそのうちの一つにぶつかって、それが合図だったみたいに他の星諸共一斉に爆ぜた 



あずき(ボット)「逃げながら反撃大作戦っ!大・成・こー」 





だけど私が 





あずき(ボット)「う?」 



伸ばした指先は、鞠に引っかかった 



凛「今度は、私のピアスをだしなよ」 


引き寄せる、私の腕には尖ったガラスみたいなカケラがいくつも刺さっている、痛みは気にならない 

あずき(ボット)「り、凛ちゃん痛くないの!?」 

あずきが人型に戻る、でもその着物の襟元は私ががっちり掴んだままだ 

ゼロ距離であずきと相対する、あずきは私が不意打ちに怯まなかったことに驚いてるみたい。予想が外れたような顔だ 





凛「さっきまでもっと怖くて危ない場所にいたからね」
306 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/06(水) 23:53:08.77 ID:7I6Q0Kd90



柔道の試合ならこのまま背負い投げができる間合い、着物の襟元を引っ張る 


あずき(ボット)「あ、ちょ...やんっ...!」 


そこには黒い箱、私のピアス 


それに手を伸ばす前にあずきがアイスピックを突き出してきた、 


頭の動きだけで避ける 


そのまま返す刀で頭突き 


あずき(ボット)「みゃっ!?」 

凛「っ!」 

鞠に変身して直撃はよけられた。 




でもあずきの胸元から黒い箱がこぼれ落ちて、二人の間に放られる 



凛「返してもらうよ」 

あずき(ボット)「っだ、め_!」 



着物から放した手を伸ばす、 



あずきが声を上げるけど人型に戻るより私の手の方が少しだけ速いから___ 








ゲーム開始58分経過 

渋谷凛 能力獲
307 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/06(水) 23:55:03.07 ID:7I6Q0Kd90


























智絵里「____凛さんっっっ!!!」 







遠くから焦ったような、悲痛そうな智絵里の声がして 






次の瞬間私とあずきはとんでもない力で地面に叩き伏せられた 





狙いも何もない上からの大威力の攻撃 

問答無用でアスファルトに頭をうちつけられる 

上下左右の狂った世界観の中、衝撃に破裂した鞠の赤や青の色紙だけが鮮やかで____ 




_____________ 

 緒方智絵里+ 59/100 


_____________ 

_____________ 

 渋谷凛+  20/100 


_____________ 


ゲーム開始58分経過 

桃井あずき(ボット) 消失 


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311 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/08(金) 00:13:30.30 ID:5MKc1+QZ0


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チャプター 
渋谷凛&緒方智絵里 



本田未央の『ミツボシ効果』 領域へ踏み込んだ侵入者への罠 

水野翠の『二律反省』 対象を地面に縫い付け動きを止める技 

市原仁奈の『U=パーク』 圧倒的体格差で敵を蹂躙する特質 

それらを影から支える島村卯月『M・M・E』、佐城雪美『黒猫電話』 


この布陣は鉄壁である。 


だがこれらはあくまで地面を走り来る敵に対してのみ発揮される防御力である 


陸、海、空 ここに海はない。 


では空は? 

万に一つ空から攻めてくる敵、プレイヤーがいたときどう対処するのか? 



バサァッ、バサァッ 



凛「...っつ、うぅ...」 



シュルルル 




智絵里「...あ、ぁああ.......」 



これがその答えだ 




広げられた翼が空気を叩く音がする。振り下ろされた尻尾を巻き取る音がする 



小春(ボット)「ヒョウくん、あずきお姉さんまで攻撃したらダメですよ~!」 




ヒョウくん「.....」 



事務所二階の窓から小春が非難めいた声を上げる、だがそれに返事はない。なぜなら彼は爬虫類だからだ 




例えその体長が10メートルに届こうとも、背中から翼竜を思わせる翼を生やしていようとも 




この大型生物が、ヒョウと名付けられたペットが、古賀小春の能力『美女と聖獣』こそが、この防衛部隊の対空兵器だった 
312 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/08(金) 00:15:12.62 ID:5MKc1+QZ0

ヒョウくん「.........」 



空中に静止したまま尾をゆする。上空から強襲し、アスファルトに凛とあずき諸共振り下ろしたそれには傷ひとつ付いていない 



ヒョウと名付けられたそれはボットではない。古賀小春というボットのアイテムである。それ故に能力はない。だが同時にスタミナという制限もない。つまり、古賀小春に何かが起きない限り永久に動き続ける 



ゴッッッ!!! 



両翼が唸る。空中を滑るような速移動、次の標的は緒方智絵里 







智絵里「...ひっ!?」 



無機質な、餌をみるような爬虫類の目が彼女を捉えて離さない 







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 

最初はあずきちゃんと凛さんがつかみ合ってるように見えた 


不意にそこに影が差して、いきなり、上から伸びてきたのは...しっぽ? 


顔を上げると当然のような顔をして恐竜がいた。それがわたしの方を向いて始めて小春ちゃんのイグアナだとわかった 

今、まっすぐ私の方へ飛んでくる。その動きを追うように、翼の風圧に負けたビルの窓ガラスが順に砕け散る 



「いっ、いや...」 



声が続かない、足に力が入らない、まだ痺れてる。 


でも痺れてなかったとしても逃げるなんて絶対できない 



手元のアクセサリを握り締める、四つ葉のクローバーを模した飾り、わたしの能力の鍵 




でも、これは___使えない 



313 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/08(金) 00:16:05.70 ID:5MKc1+QZ0



ぐんっ 



ヒョウくん「......!」 



影が私の上に差すと同時にそのイグアナが空中で一回転する、背中のトゲや翼が空を切る音がわたしの耳にまで届く 



「...あ」 



ぎゅるんっ!!! 



翼と胴の回転に遅れて 


 長い   長い    長い 



ザラザラしてそうな、しっぽが、ギロチンみたいに、隕石みたいに 


ゴツゴツとした表皮 
           
        何を考えているのかわからない瞳 

  筋張った翼 


 わたしに向けて振り降ろ 





   まっくら 





  に 
  
314 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/08(金) 00:17:29.27 ID:5MKc1+QZ0



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 



「智絵里ちゃん、跡形もなくなったね」 

「倒しちゃった?」 

「......きっと、スタミナ...なくなった...」 

「凛お姉さんはまだ生き残ってるみたいです~」 

「しかし、あずきさんまで巻き込んでしまいましたね...」 



圧倒的戦力差 




ただでさえ強力な大型生物が、卯月による能力強化により翼をも有するに至った存在 

本来空中戦を想定されていたそれの、地上戦にみせた戦果に五体のボットが感嘆じみた声を漏らす 



卯月(ボット)「でも仁奈ちゃんがいなくなったのは残念だったね」 

未央(ボット)「でもくよくよしてられないよ!」 

雪美(ボット)「...卯月...次にやること...わかる?」 


ボットは状況を学習する、そして最善手を打つ 


卯月(ボット)「うん、それは大丈夫、もう出来てるから」 

翠(ボット)「しかし、これで私たちの決め手はあのヒョウくんだけになるんですね...」 

未央(ボット)「大丈夫だって!小春ちゃんをあたし達でガードしている限りここに攻め込まれることはないんだから!」 

島村卯月、他人の能力を強化する能力者、なんの気も衒わない普通にして万能の能力 

ミツボシ効果の星型を増加させるために、 

黒猫電話の精度を向上させるために、 

聖獣ヒョウくんの翼を生やすために、 

着こなせる着ぐるみの重量制限を突破するために 

融通が効かない代わりに有無を言わせぬ強制力を有した能力の持ち主である翠を除いて、そのポテンシャルは今まで他のメンバーに均等に分割した上で発揮されていた 


そしてその一角が崩れた今、 


小春(ボット)「じゃあ卯月お姉さん、ヒョウくんをお願いします~」 

卯月(ボット)「うんっ!」 



能力を再調整し、そして再始動する動作が卯月の電脳で処理される 


315 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/08(金) 00:18:31.57 ID:5MKc1+QZ0



ドクン 



仁奈に回されていた分がそのままヒョウくんを強化する力に、そして翼竜の強さは倍加する 



ヒョウくん「...............」 



ドクン 




小春()「わあ~!ヒョウくんかっこいいです~!」 






ドクンッ! 




道路いっぱいに血管の透けた爬虫類の翼が広がる 



四車線でもその幅は足りず、翼の先がガラスを押し割る 


地面に着陸すると同時に体重でアスファルトが足跡型にクレーターを作る 



尻尾をひと振り。その動きでだけで旋風がびゅうびゅうと空気を唸らせる 



緑の肌は鎧のように金属的な、それでいて有機的な滑りを帯びた輝きをたたえる 




体長 15m 体重 推定80キロ 開翼長 20m越え 



巨体に見合わぬ軽量化されたボディ、そして大きな翼 



それが 




動いた 




次の狙いは渋谷凛 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
316 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/08(金) 00:19:32.45 ID:5MKc1+QZ0




地面が振動している 




まるで横たえた頭を跳ね上げようとするみたいに激しい揺さぶりに即頭部が痛い 


でもそれ以上に全身がだるい、骨をまるごと引っこ抜かれたように力が入らない 




90度傾いた世界の中、背中から大きな翼を生やした...恐竜? 

それが地面を走ってくるのが見える。尖った爪が地面を粉々にして粉塵を巻き上げ地鳴りを生む 

起き上がる力はない、自分の耳を触る、柔らかい耳たぶに硬質な感触、ここに来たとき最初につけていたピアス 




それを引きちぎる 




金具が曲がったような気がするけど大して痛みもなく耳からピアスが外れる 

近くにはひしゃげた黒い箱、さっきの衝撃で箱はダメになったけど中身は無事みたい 

凹んで歪んだ蓋の隙間から蒼色の、蒼い石のピアスを両手につまみ取る 



もうなにも聞こえない、地鳴り以外は 

もう何も見えない、爬虫類の巨大な足の裏以外は 



指先で金具を外す、ピアスの尖ったピンの部分が日光を反射している 



そして耳に突き刺した 



「____これで」 






「能力とかが使えるんだっ...け__」 



ゲーム開始59分経過 

渋谷凛 

VS 

本田未央(ボット)&島村卯月(ボット)&水野翠(ボット) 
&佐城雪美(ボット)&古賀小春(ボット) 

継続中 
317 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/08(金) 00:20:52.72 ID:5MKc1+QZ0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 














「......えぐっ......ぐすっ...」 








赤い空 緑の大地  




「......結局...すんっ...グスッ...つ、ちゃった」 




緑を彩るのは野草 





「......使っちゃった......能力...」 



その全てはクローバー 




「......う、うあああん...ぐしゅ...」 




四葉のクローバーの装飾が施された扉 

薄く戸が開かれたその下にうずくまり 






「もう、こっ...こんなところには......誰もいれないって、ぐすっ、決めた、のに...」 





たった一人の世界で緒方智絵里は悔い続ける 



雲一つない、風もない平野でクローバーは静かにさざめく 



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
318 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/08(金) 00:22:19.86 ID:5MKc1+QZ0























00:00:59:00.00 




































00:00:59:01.01 

















319 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/08(金) 00:23:52.34 ID:5MKc1+QZ0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 



日の当たらない路地裏を二つの影が横切る 




___きっとそれは『夜』のことだろうね___ 




マキノ(ボット)「どうして、ああいう大事なことを黙っていたのかしらあの子は......!」 

戦力外たちの宴の創立メンバーの一人、二宮飛鳥の話した情報を反芻しながらマキノはひとりごちる 

愛海(ボット)「うーん、でもあたしの持ってきた話と組み合わせて初めて意味が分かる感じだったし」 

狭い通路を一列になるようにマキノを先導する愛海がフォローする 




___愛海の言う動けないボットたち、能力のせいでそれが枷になっているというのなら間違いないだろうね___ 




マキノ(ボット)「何より度し難いのは、ボット間に情報格差が生じているという事実...諜報活動が聞いて呆れるわ」 

愛海「そうだねーおかげであたしもあちこち走り回ったし」 

マキノ(ボット)「で、愛海さん。その廃墟とやらはこの先でいいのよね?」 

愛海(ボット)「うんっ、この通りを抜けて街外れに出たら見えてくるはず」 



八神マキノ、棟方愛海の二人は今、高森藍子らのいる街外れの廃墟を目指し走っていた 


ほとんど戦闘力を持たないため通る道はどうしても目立たない小道になっているが、それでもかなりの速さだ 


さらにマキノは生身だ。 


能力による分身は偵察には向けど、移動能力は皆無なため他のボットをスカウトしたようにこうして直々に出向いている 


愛海(ボット)「一時間で外出が解禁されること、あの三人は知ってるのかなぁ...」 

マキノ(ボット)「知らなかった場合、それを教えることも含めていまこうして走っているんでしょう。おそらく、この戦争ごっこ開始から一時間が経つまで猶予はないわ」 



愛海(ボット)「それにしても飛鳥の能力ってすごいね、おかげであたしの抱えてた問題解決しちゃったし!」 

マキノ(ボット)「せっかく手に入れた情報も話そうとしなければ無意味ね。でも、あとで本人にもそう言ってあげなさい」 

320 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/08(金) 00:24:58.05 ID:5MKc1+QZ0

飛鳥は語った。事の全貌を 



___『夜』というのは所謂、エコノミーモードのことだそうだよ___ 



___この世界を構成する要素の一部、光とその反射を極端に制限する。そしてこの街が暗くなるから『夜』なんだ___ 



___仮想の中で電気代を節約したところで何も変わらない?確かにそうだね___ 



___でもよく考えてご覧よ愛海。僕らがこの空間を認識できるのはまず視覚センサーのおかげで、そして視覚は光を捉えるものだ___ 



___逆に言えばこの世界は常に僕らに大容量の視覚情報を光という存在を通して送り続けていることになる___ 



___例えばボクが手元にあるボールを投げるとしよう、するとこの世界はそのボール一つの動きに対し重力や空気抵抗、そしてそれを見るボクらの目に届く光の動きまで演算しなければならない___ 



___マキノさんは高校生だからもう物理は習っているだろう?放物線運動の式だよ、えっとh=vt-1/2gt^2、とかそんなのだよね、中二だからよく知らないんだ___ 



___とにかくボール一つでこれだ。だから何人もの人間が好き勝手動き回るこの状況は世界にとって、そう、終わらない計算問題のようなものらしいんだ___ 



___それに例え誰もいなくてもビルの壁に反射する日光や風向きの変化は絶えず起こっているしね___ 


___そこで『夜』だよ。光を絞ることで世界への負荷を減らすのさ___ 



___ここで愛海の話とつながってくるんだけどわかるかい?___ 



___おそらくその三人の能力はこの世界にかかる負荷が大きすぎるんだ___ 



___残念ながらボクの想像力ではそれがどんな能力かはわからないけどね___ 



___だから他の負荷が軽くなる夜まで、行動を制限されているのさ___ 




___えっ、その夜がいつ始まるかって?確か僕が盗み聞いた限りでは___ 



321 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/08(金) 00:26:07.36 ID:5MKc1+QZ0


愛海(ボット)「この仮想世界って時計ないんだけど、一時間ってもう経ってるんじゃないかな!」 

マキノ(ボット)「まだ空は明るいわよ。____それに愛海さん、気づいているかしら」 

愛海(ボット)「何が?」 

マキノが神妙な様子で愛海に声をかける、二人の速度は変わらない、狭い通路に声が反響する 



「この仮想現実にはないのよ___太陽が」 



愛海(ボット)「へっ?」 

思わず上を見上げる 



しかし路地裏から見上げる空は狭いが、確かに太陽は見えない。 



愛海(ボット)「そういやそうだね。じゃあなんで今こんなに明るいんだろ?」 

マキノ(ボット)「さあね、調査が必要なのは確かだわ。」 

「それに......太陽のない世界における『夜』というのは、どういう定義なのかしらね?」 

愛海(ボット)「う~ん...」 



そうこうしている間に二人の足元に路地裏の終わりから光が注がれる。 



愛海(ボット)「あっ!あれだよ!あのビルの向こうに見えてるボロっちいやつ!」 

愛海が警戒もなく声を上げる、マキノはそれを窘めない 

マキノ(ボット)「わかったわ」 



その体が透け始める、肌や衣類を透過して背景が見える。彼女の能力が発動しようとしているのだ 



マキノ(ボット)「私は先に行くから後からいらっしゃい」 

愛海(ボット)「いきなり言って大丈夫?」 

マキノ(ボット)「ボット同士で問題なんて起こらないでしょう」 

「それに私は能力発動中は相手に干渉できないけれど、逆に相手からも干渉されないから何も起きようがないわ」 



マキノが足元から順に消え始める、目標の座標に転移しようとしていた。そして電子の幽霊が跳ぶ 



愛海(ボット)「あ、いっちゃった......」 

「あたしも急ごうっと、ほたるちゃんたち、まだプレイヤーのこととか全然知らなさそうだしねー」 

そのあとを追い、二人目も廃墟に向け走り始めた 


  そして 
322 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/08(金) 00:27:10.33 ID:5MKc1+QZ0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 













飛鳥(ボット)「これで良かったのさ」 







「こうすればボットは勝てるんだろう?」 




「本当ならボクも一緒に行くのが正しいんだろうね」 



こずえ(ボット)「.........あすかー?」 



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
















のあ(ボット)「......動いた」 



「......乃々、あなたの言う通りだったのね」 



「でも、こんなもの。認めないわ」 






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
323 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/08(金) 00:29:02.90 ID:5MKc1+QZ0





飛鳥(ボット)「マキノさんも、愛海も、考えれてみればそうなる可能性があるくらいはわかるじゃないか」 


「ほたるや聖、藍子さんにとっては」 








「他のボットがいなくなった方が能力を使いやすいって可能性が」 







「だから、これが世界の出した最善策、ボットの正解なんだろうね」 



「___だったらボクは徹底的に世界に抵抗してやるさ」 
























ゲーム開始60経過 


『夜』を開始します 


八神マキノ(ボット) 消失 

棟方愛海(ボット) 消失 



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
326 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/09(土) 00:01:19.36 ID:Xg8VdY5e0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
神谷奈緒&北条加蓮&佐久間まゆ&小日向美穂&三好紗南 




三好紗南には今、二つの景色が見えている 



「にゃぁぁぁぁぁあーはっはは~!!」 

「ひゃあぅ!?」 



一つは荒廃した住宅街、今彼女が置かれている状況そのもの 



もう一つは 



紗南「(ああもうどうなってんの!?他の戦車は!?)」 



車載カメラの映像とでも言えばいいのだろうか、それはゲーム画面を通して見える風景だった 

彼女の能力は現在、ゲーム機を通じてこの仮想世界のどこかにある戦車とリンクしていた 



だが、つながっているだけで動かない。主導権が何か別のものに奪われているようなのだ 



紗南「んもうっ!他のとはアンテナ立たないし!この一台だけが頼りなーのーにー!」 


美穂「あの...紗南ちゃん?」 



紗南の隣に置かれたぬいぐるみが恐る恐るといった風に声をかける。それは能力を発動した美穂本人だ 

美穂「みくちゃんの動きが早すぎてもうどうしようもないよ?」 

紗南「う~ん...動きの速い敵には範囲攻撃がベターなんだけどねぇ、それも難しそう...」 



ぬいぐるみに化けたおかげで一度は致命傷を避けた美穂だったが、それも能力でぬいぐるみになったと見抜かれるまでの一時凌ぎにしかならなかった 


327 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/09(土) 00:03:12.24 ID:Xg8VdY5e0



だからこうして、二人揃って小さな瓦礫の隙間を縫うようにみくの猛攻から逃げ回っている 


みく(ボット)「むぅ...逃げ回られると猫だから追いかけたくなっちゃうのにゃ」 


あたりを見渡せる高所に、不安定な足場にも関わらず猫のようにしなやかに着地し、周りを睥睨する 


紗南「ぬぬぬ...戦車の主導権さえこっちが握れば自動照準で焼け野原にできるのに~!」 


美穂「焼け野原!?」 





反撃の目は、まだ出ない 




______________ 

 小日向美穂+ 65/100 


______________ 
______________ 

 三好紗南+  50/100 


______________ 




ゲーム開始58分経過 

小日向美穂&三好紗南VS前川みく(ボット) 

継続中 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
328 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/09(土) 00:04:04.38 ID:Xg8VdY5e0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 



ガタンガタンガタタタン 



「はいよーはいよー進めや進めー、っと」 

「この乗り物、すっごく揺れるにぃ」 

「そうですか?私、気になりませんっ!」 



ガタコンガタコンガタコン 




数キロ先の戦場の喧騒を何も知らないような風で、その戦車は呑気に行進していた 



杏「裕子ちゃん、飴もってない?」 

裕子「飴?そんなものあるんですかね?」 

杏「うん、きらりがちょっと前にくれたんだよね」 

裕子「そうなんですか」 

きらり「そうだゆ!」 



操作方法が簡易化されているため戦車の中には二、三本のレバーとブレーキペダルらしきものしかないとはいえそこはあまり広いとは言えない 



幸い杏がかなり小柄なためそれほど窮屈している様子はない。 



杏「しかしラッキーだったねきらり。戦車で移動なんて。これもうこのゲーム楽勝でしょ」 

きらり「で、でもでも~何が起こるかわかんないゆ?またよくわかんないのが、えとえと...うや~って」 

裕子「ふふっ!ご安心を!何があろうと私のさいきっくが一捻りですよ!」 

杏「あー......これは不安だわ」 


ガタタンガタタン 



車一つ通らない道をキャタピラがのんびりなぞっていく 

329 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/09(土) 00:05:02.69 ID:Xg8VdY5e0




杏「___ところでさ、このゲームの終わりってなんだろうね」 

きらり「終わり...にゅ?えとえとー...ぼっとってゆーのをみんなエイヤーってやっつけるんだゆ?」 

裕子「確か私たちが最初にあったのがボットでしたよね、他にもたくさんいるんでしょうか」 

杏「まー、いるんだろうけど、全然会わないよね。そのほうがいいんだけどね」 

裕子「プレイヤーが18人ということはボットとやらも同じ数なんじゃないですかね、あっと...でもそれだと私たちの偽物だけで18人になってしまいますし...」 

きらり「きらりは杏ちゃんといるときに一人しかあってないゆ」 

杏「杏はベンチで昼寝してた時に愛海のボットを見たねー」 

「この街の広さはわからないけど、まあそれなりの人数いるんだろうね...はぁめんどくさ」 

裕子「ううむ、全員倒すにも情報が少なすぎますね!あぁっと、方向転換しますよ、気をつけて」 

運転席にいた裕子が手元のレバーの傾きを変える。戦車内の部屋が振動し、それが進行方向の変化を乗り手に伝える 

杏「おっとと...」 

きらり「ところで裕子ちゃん、きらりたち、どこに行くんだにぃ?」 

裕子「あぁ、はい」 


きらりの膝にいた杏が体勢を直す。きらりの問いかけに裕子が振り返る 


裕子「さいきっく自分ダウジングで決めた方向ですよ!」 

きらり「にう?」 

杏「おい」 

裕子「? これもサイキックパワーですよ?」 



こともなげに言い放たれた方針。だがそれは、 

杏「あてずっぽうじゃんか!?」 

裕子「いえいえ!サイキックパワーですって!」 

杏「いやいやいや...一旦止まってよホント!ボットの連中に会っちゃうフラグじゃん!」 

裕子「さいきっく却下!」 



面倒なことが起きそうな予感を察した杏と自信満々に操縦桿を握る裕子がぎゃーぎゃーと言い合う 




きらり「きらりも心配だにい...」 

それを見てきらりがぼそりと不安をこぼすと同時に、 




ガクンッ! 
330 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/09(土) 00:06:13.14 ID:Xg8VdY5e0



「ふわっ!?」「にっ?」「言ってるそばから!?」 



車内が急激に傾き、杏が転げ落ちそうになる、高低差の急変に運転席の裕子が椅子から飛び上がる 

そのままぎりぎりと床の勾配が増加していく。座り込んだきらりが杏とともに壁際に滑り出す。 



裕子「なんですかなんで、すか...」 


慌てて車載カメラ越しに外の様子を確認した。そして事態を把握する 



ぎぎぎぎぎぎ... 



裕子「下の車道に移る、歩行者用の階段に踏み込んじゃったみたいですねっ!」 



杏「じゃあ早くバックしてよ!?」 




ついにきらりの膝からこぼれ落ちた杏が無我夢中で操縦桿にかじりつく 



杏「むぎぎぎ!固っ!!きらりも手伝っ...」 


ガクンッ!  


キャタピラが階段を一段踏み外す 


杏「のわっ!?」 

きらり「杏ちゃん!アブナイに!」 


安定しない足場できらりが杏のもとに這い寄る
331 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/09(土) 00:07:07.35 ID:Xg8VdY5e0






裕子「おっとと」 



天地の傾いた車内の中、裕子は腕一本で体重を支えていた 




裕子「杏さん杏さん、こういう時は一回エンジンを止めてキャタピラをロックしちゃえばいいのです」 

杏「はぁっ!?」 


そのまま、もう片方の手をひょいと伸ばしてレバーのそばにあったスイッチをひねった 

ゴゴン... 


簡易化された操作性によりエンジン停止がサイドブレーキのような役割とも兼任されていたのか、車体の傾きが止まる 


傾いたまま床が停止する。どうやら窮地を脱したらしい 


きらり「よかったにい~杏ちゃぁん...」 

杏「あぁもう、ロクでもないったらありゃしない」 

裕子「?」 

杏「なぜそこで不思議そうに小首をかしげる!?」 










______________ 

 双葉杏+  59/200 
    


______________ 

______________ 

 諸星きらり 59/200 



______________ 

______________ 

堀裕子+   90/100 



______________ 





ゲーム開始58分経過 

報告事項なし
332 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/09(土) 00:09:04.46 ID:Xg8VdY5e0

道路の横から細く伸びる階段 

本来歩行者が使用するはずのそこへ乗り出した1台のタンクボット、戦車 

戦車は停止している 

戦車は停止している 

戦車は停止している 

戦車は停止していた 



杏「え?」 




きらり「んに?」 



裕子「はい?」 




突如、駆動音を漏らし、砲塔が動き出す 


そして機械音を立てて砲弾が自動装填される 


そしてどこか遠くへ狙いを定める 


そして 



















紗南「繋がった___!!!」 



エンジンが切られ、主導権をなくした戦車は容易く外部入力で操作された 


轟音 

破壊をもたらすそれが立て続けに響いた 

何発も何発も何発も 

狙いは 


前川みく 



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 

336 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/10(日) 00:39:27.86 ID:5lAhtCf50

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
北条加蓮&神谷奈緒 



攻撃は最大の防御というのなら今の村上巴がそれだ 




ドガァン!!! 




奈緒「のわぁ!?」 

また一つ、バリケード代わりの瓦礫が粉塵に帰す 

加蓮「う~ん...」 



何度目かわからない遁走、次第に逃げ込める場所も減ってきている。そんなジリ貧状態のさなか加蓮は思考を巡らす 

降り注ぐ粉塵を防ぎつつ二人揃って走り出す 



加蓮「確かに映画とかで見るピストルとは比べ物にならない威力なんだけど...無限に上がり続けてるわけじゃないんだね...」 

奈緒「お前、意外と余裕!?」 



小岩の影に転がり込む、既に巴からは20メートル近く距離がある、拳銃があるとは言え二人の腕では命中させることは難しいだろう 


巴(ボット)「つーまーらーんー...」 

だがその距離は巴には意味がない。ジャンパーからマガジンを取り出し、小さな手のひらで問題なく弾のリロードを終えると、そのまま流れるような動作で腕を伸ばし、発砲 



「のぉ!!」 

伸ばした腕の先、着弾点がまとめて吹き飛ぶ。照準も何もない範囲攻撃に二人はまたも逃走を強いられる 

加蓮「っ!...いったいなぁ。でも、さっきから攻撃がワンパターンになってる。やpっぱりあの銃もこれ以上は威力が上がらないのかな?」 

奈緒「っだ、だとしてもこっちの攻撃を先読みされたらっ、意味ねえだろ!」 

加蓮「そうだよね。でも、今思えば...」 

巴(ボット)「何をコソコソ話しとるんじゃ!」 

追撃、さらに一発の弾丸が撃ち込まれる。それは二人から少し外れた地面に命中した 



それでも衝撃で石礫が飛散する。 



加蓮「きゃぁっ!!」 

奈緒「あっぶねええ!!!」 




思わず顔をかばった手のひらに大粒の石片が食い込む。 

337 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/10(日) 00:40:48.50 ID:5lAhtCf50

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 



頬がチクチクする。いつの間にか地面に倒れていた。近くには奈緒がいる 


さすが年上というか、アタシと違って既に立ち上がっている。 



奈緒「加蓮、早く起きろ...」 

その言葉はあたしの方を見ないままかけられた。奈緒の目線はずっと向こうを見ている 


奈緒「巴の奴がしびれを切らしやがった...」 



その視線に沿って首を動かす。 


瓦礫と砂利の海の向こうの人影が見える 



奈緒「こっち来てんぞ、おい...」 



鎖が巻き付いたせいで、右腕だけが太くなったような異様なシルエット 



巴が足元の石を踏み分けながらこっちに来る。 



加蓮「これマズイって...」 

奈緒「だから言ってんだろ。ほら、早く立てって」 

加蓮「うん...でもどうしよう、まだ能力の謎、解けてないのに」 

奈緒「こだわりすぎだろ...」 



ジャリッ! 



高く、砂利を踏みつける音が鳴る。巴はすぐそばまで来ていた。 



巴(ボット)「おうおうおう、割と元気そうやないけぇ!」 


致死級の小型兵器を片手に、二人のプレイヤー相手に泰然自若を崩さない 



338 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/10(日) 00:41:36.83 ID:5lAhtCf50


加蓮「ッ!」 

巴(ボット)「こっちも真面目にやっとったのに、応えてないとちょい凹むの」 


ざらり 


鎖が軋み、巴が銃を構える、片手での鷹揚な構えではなくしっかりと両手でホールドされている 


奈緒「てめっ...!」 


思わず手に持ったオートマのグリップを握る。だが今まで巴に先読みされ続けてきた苦い経験がその腕を止める 


ここで銃を抜いたら間違いなく、先に撃たれる。その確信が経験則に刻み込まれていた。おなじく加蓮も地に膝をついた態勢で中途半端に動けずにいる 


彼女らは攻撃に踏み入れない。対して巴はいつでも引き金を弾ける。今はただとっさの判断で回避されないかを吟味して言えるだけの時間だ。 


ボット一人に一方的に押し付けられた膠着状態。 



二人は今、巴の能力の前に屈しようとしている 



それももう終わる 


巴(ボット)「じゃあ____」 

















キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!!! 









加蓮「うるさっ!?」 
339 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/10(日) 00:42:40.17 ID:5lAhtCf50





それは空気を切り裂く音。それは空を驀進する音。 





突如降り注いだ大音量が、巴の動作を止める 



奈緒「なんだよあれ......さっきの倍以上はあるぞ」 


加蓮「は?」 


巴(ボット)「はっ!!また来よったんじゃのう!」 



それは隕石に見えた 


1、2、3............計10発の砲弾 



抜けるような雲一つない青い空に黒いシルエットを転々と投射し、そしてどんどん地面に近づいてくる 

奈緒「だ、誰だよ、こんな事しやがるのは...!?」 

加蓮「これって...」 



巴(ボット)「はん、邪魔しよってからに!!」 

銃の構えを解き、巴がまだ空高くにある砲弾の雨に体を、そして銃を向ける 

奈緒「なっ(隙だらけ!?)」 



状況の急変。いきなり自分たちに背を向けた巴に奈緒の思考が停止する 

一方、加蓮は___銃を抜いていた 

この距離なら先読みも何も___ない!! 






巴(ボット)「どけ」 



その加蓮が横からの衝撃に吹き飛ばされる 



加蓮「あっ_ぐぅ_!?」 

奈緒「加蓮っ!!」 

起き上がりかけたところを張り倒され、無防備に倒れ伏した加蓮に駆け寄る 



ゴトンッ
340 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/10(日) 00:43:56.14 ID:5lAhtCf50


奈緒「...なんだ、それ」 


そして巴に視線を戻した彼女の目にまたも理解の外の出来ごとが起きる 


ズズッ 


巴(ボット)「......撃ち方よーし、じゃ」 



それは肥大化した鎖。 


手錠どころか、碇を吊り下げることさえできそうな野太い鎖が巴の上半身を覆っていた。 


長さが余った分が地面に垂れ下がり、まるでアルマジロと鎖帷子を混ぜたような奇怪な風貌で。そこから伸びた細腕が狙いを空へ定める 


加蓮を弾き飛ばしたのもその鎖の一端だった。 


その威力はもはや鈍器に等しい 



キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイインンン!!!!!! 



巴(ボット)「おどれらも邪魔じゃ!」 



幾重にも巻かれた鎖がその頑強さと攻撃性を誇示し、 


村上巴という一体のボットを巨大な何かに変貌させていた。 


引き金に指がかかる 














そして世界から音が消えた 











数瞬遅れて、 

それがあまりに大きすぎる発砲音による暴力的な静寂だったと知る 


ドォッ___ 
341 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/10(日) 00:46:05.78 ID:5lAhtCf50













___オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンンンンン!!!!! 








大砲の爆音を間近で聞かされたようなものだ。 


二人は耳を抑えるが、音どころか衝撃波が巴の周囲2メートルをクレーターにする勢いで吹き払う 


わずかに遅れて空から爆発音。 


空から舞い降りようとしていた砲弾のいくつかが今ので空中爆散した。 





巴(ボット)「全部まとめては無理けぇの。ま、いいわこっち向いとったのは逸れたじゃろ」 

銃を下ろすと同時に鎖が収縮し、分厚く巻かれた鎖の鎧の中から巴の赤髪が覗く 


銃弾が空中で砲弾と衝突することで起きた大爆発はほとんどの砲弾の軌道を捻じ曲げ、 


結果として奈緒と加蓮は累を逃れていた 


巴(ボット)「さぁ、やろか......い?」 




その二人は消えていた。空へ向けていた姿勢を戻した巴の前から忽然と、 


巴(ボット)「今の見て尻尾巻いた言うんか...イラつかせよんのぉ!!」 


だが、怒り心頭といった言葉と裏腹にボットは索敵を開始していた 

______________ 

 神谷奈緒  39/200 


______________ 
______________ 

 北条加蓮  39/200 


______________ 

ゲーム開始58分経過 

北条加蓮&神谷奈緒VS村上巴(ボット) 

継続中
342 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/10(日) 00:46:59.56 ID:5lAhtCf50


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 





「___おい、こんなとこ隠れても長くはもたねえぞ...?」 

「奈緒、声大きい」 

「お、おう。でもどうすんだ?お前の予想大外れじゃねえか、なんだよあの必殺ゲージ三本消費したみてえな大技はさぁ...」 



「ねぇねぇ奈緒?」 

「あん?なんだ加蓮、その声」 


「あんたさ、最初、ここに連れてこられるまでは巴に攻撃されなかったんだよね」 


「ん?...おう、まあ色々言われたり脅されたりしたし、撃たれかけもしたが基本、何もされてねえな」 


「うんうん...そっか、あははっ」 

「何笑ってんだお前」 




「ふふっ.........わかっちゃった」 

「は?」 



「やっぱり能力は一つだけだったみたい」 

「それって...」 






「巴の能力、解けたよ」 



345 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/11(月) 00:22:19.53 ID:k+4SyoVC0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
小日向美穂&三好紗南 



高峯のあの能力による物体の操作は無制限に、無秩序にいつでもどこでも行えるというものでもない 


そもそも建造物でできた腕も遠隔操作できる感覚器官も能力の応用によるものであって、そしてそれらも事前に物質がのあの支配下に置かれたことで出来る芸当だ 


支配下にして一体化、全にして一の能力。例えば一度手に触れるか、データ上の肉体の一部を溶け込ませることが彼女にとっての条件である 


そうして彼女はそこにいる一個体でありながら仮想世界に浸透する”全”にもなりうる。そう言う意味では、この住宅街全体はとっくに彼女の手のひらの上だ 



すでにこの住宅街は一度、完膚なきまでに満遍なく彼女の能力に掻き混ぜられ瓦礫の海と化しているのだから。 



のあ(ボット)「......どうやらさっきのも含めて紗南の仕業みたいね」 


空の彼方より飛来する破壊の象徴、砲弾が巴の攻撃により一部が撃墜、残りが軌道を捻じ曲げられて数瞬の後 


のあの背後の瓦礫の山、それが突如崩れさると磁石に集まる砂鉄のように一定の規則を持ってまとまり始める 

それは柱を形成し始める。のあの細身をたやすく凌駕する直径の柱が螺旋状に石を砂を鉄骨を飲みこんでいく。最初の一山では飽き足らずさらに周囲のガラクタが引き寄せられ、柱を太く巻きながら上へ上へと伸びていく 

やがて有機的なうねりをまとい、何かのオブジェの体を成し始めた。そのイメージは腕、モザイク状に組み上げられた巨人の腕 



紗南「ラスボス巨大化フラグ...!?」 

奈緒「悪魔の実の能力者かよ...」 

天に掲げられた巨腕。自由の女神像が地中深くより出土したかのような光景 

のあ(ボット)「流星というには」 


腕の素材同士の軋轢が不協和音を発し、腕が動く。鉄骨の指が砲弾を包み込むようにキャッチした 


「随分と剛気なことね...」 


威力を相殺しきれなかった分が、手のひらに亀裂を生んだが、こうして村上巴と高峯のあにより紗南の砲撃は完全に封殺されてしまった 


「返すわよ」 


硬質な石材がしなり、軋る。弓なりになったそれが戻ると同時に砲弾は遥か彼方へ唸りを立てながら消えた 


346 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/11(月) 00:23:17.58 ID:k+4SyoVC0


紗南「な、なにそれ...」 


一方、自失しているのは紗南だ。ほとんど必殺と言って差し支えなかった奥の手が何の手応えもなく返されてしまったのだからそれも当然だ。 


美穂「...あれも、紗南ちゃんの能力だったんだ...」 


同じく目の前で起きたSFアクション映画さながらの異常事態の連続に半ば言葉を失っていた美穂が紗南に向き合う 

紗南「もうこれ、無理ゲーでしょ......捨て身の必殺技の効かない相手とかバグじゃん...」 


ゲーム機を握る力も弱々しく垂れ下がる。 


美穂「...でっでも、のあさんの目をご、誤魔化せばなんとかできるよ...!」 

紗南「......できるの?...ぬいぐるみとゲーム機で?」 

美穂「で、できるもんっ...!」 

紗南「ガンも使えないのに?」 

美穂「うっ...」 

すっかりナーバスになった紗南の隣にかがみこんだ美穂が励ますもあっけなく腰を折られる 

みく(ボット)「んんにゃあああ!!!美穂チャンも紗南チャンもどこいったにゃあ!」 

美穂「!?」 

紗南「...」 


隠れ場所にしている背後の瓦礫、その向こうからきんきんと甲高い声が届く 

みく(ボット)「ぬいぐるみに隠れたって無駄にゃあ!」 

「今度はぬいぐるみもろとも爪とぎに使ってやるにゃ!」 

美穂「...ひぇっ」 

紗南「!」 

凶暴な宣誓に思わずぬいぐるみを抱きすくめる。拳銃を握るのにはまだ躊躇いがある。紗南同様、彼女も彼女で何ら攻撃の手がないのだ 

紗南「......ねえ美穂さん、ホントに勝てると思う?」 

美穂「ぇ...?」 

その隣で静かにゲーム機がリスタートされた 


紗南「じゃあもう一回、試させてよ」 


______________ 


 小日向美穂+ 65/100 


______________ 
______________ 

 三好紗南+  50/100 


______________ 

ゲーム開始58分経過 

小日向美穂&三好紗南VS前川みく(ボット) 

継続中 
347 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/11(月) 00:24:34.54 ID:k+4SyoVC0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 

チャプター 
佐久間まゆ 








ガリンッ!! 




まゆ「なんなんっ、ですかっ、ねぇっ、あれはっ...」 



ガリンッ!! ガリンッ!! 



アナスタシア(ボット)「の、のあの力、です」 



ガリリッ...!! 



まゆ「そうですかぁ...巴ちゃんといいのあさんといい、能力持ちの方が羨ましいです、ねっ!」 



ガツンッ!! 


アナスタシア(ボット)「!?」 



アナスタシアの右の耳にナイフが突き立つ。 




すっかり刃が損壊し、一見するとノコギリにしか見えないそれは、 


まゆの手の中で凶悪な威容を醸し出していた 




その上に馬乗りになったまゆは次の刃物を取り出す 





二人の状況は一変していた 

______________ 

 佐久間まゆ   60/100 


______________ 
______________ 

 アナスタシア+ 60/100 



______________
348 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/11(月) 00:25:52.89 ID:k+4SyoVC0

佐久間まゆの武器はナイフでもまだ見ぬ能力でもなく、 

その人間性、 

特筆するなら「集中力」である 


料理をこなし、炊事をこなし、編み物をこなす集中力 

秘めた思いのために、秘めた想い人のために手練手管、試行錯誤、権謀術数をこらす集中力 

それは刃物にも銃器にも能力にすら比肩する可能性をありありと内包していた 


目的のためにならどこまでも思考をクリアに、なんの雑念も介在しない、させない 

執着心、そう言い換えてもいいかもしれない 




__戦場が停止したあの一瞬___ 




紗南の能力により投入された砲弾の局地的な雨の中、無力なプレイヤーが惑い、ボットが状況の把握及び対処に思考を割いた一瞬 


佐久間まゆだけは不変だった。 

彼女だけは戦闘から目を逸らさなかった。 



そもそもボットは二転三転する状況を滞りなく把握し常に思考を止めない、そういう存在である以上あの紗南の攻撃を無視するなどできなかった 

有能ゆえに変化を見逃せない。 

ポテンシャルが大きいからそれを満遍なく分割し振り分けてしまう 

わずかな間隙に全ての集中力をもって執着する、一局専心集中の攻撃にここで遅れを取った 

これが機械と人間の差、 

あくまで考えてからしか動けないボットと、考えそのものを排除して動ける人間の差だった 




ガリンッ!! 

まゆ「硬いですねぇ」 

まゆの手に握られているのは文化包丁だった。それが氷と氷の隙間に捻じ入れられ、ぐりぐりと削り始める 

その小柄な体にのしかかられたまま地に倒れたアナスタシアは必死で次の氷を生成する。 

本来の氷なら刃物で削ることなどできないはずだった 

だが崩れた端から継ぎ接ぎのように形取られた氷には接着が甘い箇所などいくらでもあった 


ガリンッ!! 


ゼロから氷を纏いなおす時間などない。まゆの前にそんな十分な猶予はない 

両手で顔を覆い、そこに纏いつかせた氷が追加される端から次々と剥ぎ取られる 

しかも破壊の方が早い 
349 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/11(月) 00:27:44.88 ID:k+4SyoVC0



アナスタシア(ボット)「ぐっくくく...同じアイドル相手に容赦のない、ことですね...」 

「(のあは,,,能力を大規模に使いすぎましたし、こっちにまで手を回す余裕はなさそうですね)」 


まゆ「同じアイドル、ですかぁあ?」 


ガツッ 


アナスタシア(ボット)「ん、うっ...!?」 


氷の隙間に刃先を食い込ませ、まゆがそこに体重を乗せながら上半身を近づけていく 



まゆ「まゆは確かにアーニャちゃんとは一緒にCDデビューした仲ですけどぉ...」 



ピシピシと氷に入った亀裂が広がっていく、 


腕力では互角でもこればかりはどうしようもない。 



まゆの顔がアナスタシアの顔を覗き込む 


まゆ「所詮あなたはまねっこのお人形さんですしぃ...」 


ビシッ 

アナスタシア(ボット)「っ!」 

今、まゆからアナスタシアの顔は見えない、両腕の氷に隠されている 



まゆ「まゆに言わせてもらえば......ちぃっとも似てないんですよぉ!」 



バキリと音を立て氷が大きくめくれ上がる、 


まゆの上半身の体重が全て乗った一撃が 



アナスタシアの顔面につきこまれた 







今までとは比べ物にならない鈍い音、今までと違う手応えがまゆの腕を這い上がる 



350 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/11(月) 00:29:51.85 ID:k+4SyoVC0
















ゴンッ 







まゆ「______え?」 



それは、氷の仮面だった 



まゆの攻撃をいなす間、その時間稼ぎの間にゼロから作られた、100%の硬度をたたえた氷の鎧面 

硬さ故に生じた衝撃が、びりびりとまゆの腕を痺れが這い上がる 

アナスタシア(ボット)「そうですか」 

剥がれ落ちた両腕の氷と違い、指先はまだ氷が貼り付き氷柱のトゲになっている 

まゆ「っ!!?」 

顔面で攻撃を受けたことにより、アナスタシアの両手は既に自由を得ている、 



そして、氷柱がまゆの首に突き立てられた 


それがこの世界での死であろうとも 


彼女に痛みは訪れなかった 


痛みのないまま___ 









______________ 

 佐久間まゆ    0/100 


______________ 

ゲーム開始58分経過 

佐久間まゆVSアナスタシア(ボット) 

勝者:アナスタシア(ボット) 

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356 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/12(火) 00:13:13.86 ID:jlUZGChq0

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チャプター 
北条加蓮&神谷奈緒 



のあ(ボット)「これもまた...星の巡り合わせ、だったのね」 



一人のプレイヤーが虚空に溶けていく。その光景を静かに見つめ言葉を漏らす 

そのあとゆっくりと周りを見渡す。 

遥か先まで荒廃した地に潜んでいるプレイヤーは四人 


のあ(ボット)「死線を共にした盟友の敗退、その否応ない波紋を彼女たちは受け流すのかしら、それとも受け止めるのかしら...?」 

アナスタシア(ボット)「アー......どうなのでしょう、ボットにはわかりかねます...ね」 


その隣にたった今死闘を終えたばかりのアナスタシアが涼しい顔で並ぶ。 

氷の仮面をまとった姿は実際は涼しいどころか冷たいのだろうが 


アナスタシア(ボット)「...それにしてものあ、あなたの言った通りでしたね。レッスン、効果がありました」 


のあ(ボット)「......美玲のことね」 


アナスタシア(ボット)「ダー、勝ち負けに関係なく、美玲との戦闘を経験することで能力が......アー、洗練、されていたのが、わかりました」 


のあ(ボット)「そう、アーニャ......次はどうするのかしら?」 


アナスタシア(ボット)「アー、次、ですか...」 



二人は視線を巡らすとその姿を認めた 

それは混沌としていた戦場の片隅にあって不遜に仁王立ちする影、村上巴 



のあ(ボット)「あなたが加蓮や奈緒とも戦うというのなら...」 



「私があの子を”取り除い”てもいいわよ...?」 



357 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/12(火) 00:14:27.83 ID:jlUZGChq0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


巴(ボット)「...向こうが一歩先んじよったのう」 

「うちの相手も、もうちぃとばかしガっついてくれたらやり易いんじゃが...」 


さっきまでの威容から元に戻り右腕だけに細く長く鎖の巻き付いた姿で、崩れた足場を歩きまわっている 

じゃらんじゃらんと腕の動きに合わせて鎖が鳴る。 


巴(ボット)「..................」 


警戒心もそこそこに足を止める。巻きついた鎖が少し太くなっていた 


巴(ボット)「......(来るか?)」 


右腕をまっすぐ伸ばし、周囲に向かってゆっくりと回していく、360°全方位を警戒するように体ごとゆっくりと回っていく 


じゃらり、じゃらり、じゃらり 


巴(ボット)「............」 


じゃらり、じゃらり、 






ぎちっ 


巴(ボット)「そこかぁ!!!」 


拳銃を振り下ろす、同時に引き金が引かれ銃弾が飛び出す 


銃口が向けられたのは、巴の足元。 

彼女は地面めがけて貴重なはずの銃弾を躊躇いなく発射していた。 


ぎちちっ 


いつの間にか鎖から蛇のように太くなっていた鎖が巴の腕と肩を固定し、 

彼女の細い体に去来する反作用を押さえ込んでいる 

ボゴンと巴の両足の間に小規模のクレーターが発生するが、 

巴にそこにいた”何か”を吟味する暇はない 

すかさず上体を捻るようにして真後ろに突如出現した”何者か”に発砲、返す刀で腕から伸びた鎖を別方向にいた”それ”に叩きつける 


358 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/12(火) 00:16:51.62 ID:jlUZGChq0


巴(ボット)「何や気色の悪い,,,」 


頭や腹らしき部位に大穴を開けて”それ”が倒れ伏す。それは全くもって奇妙な物体だった 


石ころや金属片をまとめ、それをワイヤーや鉄骨で無理やり人の形に縛り上げたような無骨で不気味なヒトガタ 


指もなく目鼻のようなものもない。 

酸性雨で風化しつくした銅像の方がまだ人間味がありそうな”何か”が巴の前後に二体。 

おそらくは最初の一発を打ち込まれた巴の足元にも一体いただろうから計三体だろう 


巴(ボット)「これは、どういうつもりかのう...」 


「のあの姉さん」 


眼光鋭く視線を向けた先には二つの影、アナスタシアと高峯のあ。 

巴の視線はその後者に注がれていた 


副次的とはいえ物質の操作と再構成を司ることさえ可能な能力者 


のあ(ボット)「私は自身の宣言をたがえたつもりはないわ......言ったはずよ、貴方も私たちの糧であると...」 


そう言ってパチリと指を鳴らす 




それだけで状況は零から一へ、無から有へと変化した 


ゴゴンッ!ゴバァッ! 


地平線の果てのビルディングを除いて何もないかに見えた光景、それが急変する 



「◇■◆△~(▲▼◇)▽!!!」 
「□◇ッ□◇◆◇ッ◆△◆△▲ッ▼▽!!!」  
「▼■ーー▽◇!!!」 
「■□◇◆△▲▼▽~~~!!!」 
「■△~▲□__▼▽◆ー!!!」 

おおよそ言語化できる範囲を超えた大音声があちこちから連続して立ち上る。鎖の音どころか銃声を打ち消された 

悲鳴にも雄叫びにも聞こえるそれは声ではない。石と金属が唸りをあげ、軋みあい、擦れ合う音だ。 

先ほどの土塊と鉄片の編み人形が五体。それぞれの足らしき部位を二本、よろよろと動かしながら巴のもとに近づいてくる 

その姿は醜悪の一言、ひび割れたレンガを人の形に積み上げただけに見えるもの。太い木の枝に鉄骨をくっつけただけのもの。鉄条網を無茶苦茶に丸めて辛うじて人型に体裁を整えたものなど到底自走できそうな人形には見えないが、それでも確実に動いていた 

強いて例えるなら「物体のゾンビ」の行進。捨てられた玩具が元の持ち主への復讐へ訪れたような悪趣味な光景が巴を包囲する 

巴(ボット)「...ほっほ~う、逃げよったプレイヤーのあほんだら探す前の肩慣らし___」 




ゴドンッッ!! 







「__にもならんわ」
359 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/12(火) 00:17:42.51 ID:jlUZGChq0



鈍重な音を立て鎖が巴の体を包むほど大きくなり、その一瞬の後 




放たれた銃弾は一発 


アナスタシア(ボット)「___!?」 



のあ(ボット)「__っ」 



それが巴の前方の三体のヒトガタをまとめて粉砕し、 



背後にいた二体も衝撃はだけで崩壊させると 






高峯のあの上半身を吹き飛ばした 
360 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/12(火) 00:18:53.73 ID:jlUZGChq0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 





加蓮「なに、仲間割れ...?」 


奈緒「いやそれどころじゃねぇって!なんだよ巴のやつ、のあさん倒しちまったぞ!?」 


バリケードと鳴る瓦礫があらかた吹き飛ばされた巴の周辺。 


奈緒と加蓮は瓦礫の後ろではなく、その下にいる。 


のあにより崩された数多の瓦礫と地面のわずかな隙間に身を潜め、 

何かの拍子に天井代わりのコンクリの塊が崩れないことに賭けて身を隠していた 


加蓮「んー、ちがうくない?」 

二人はそのわずかな隙間から、のあが腰から下だけの姿に成り果てた様子の一部始終をのぞき見ていたところだ 

奈緒「違うって...」 



加蓮「ほら見て、のあさん自己再生してる」 


奈緒「それはそれで怖いわ...ってマジじゃねえか!?」 



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
361 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/12(火) 00:20:10.28 ID:jlUZGChq0

石材や鉄材、果てはただの土さえもピースに見立てたパズルを解くように高峯のあの上半身が「積み上げられていく」 

やがてその表面が液体のように波だったかと思うと皮膚や髪、衣類の質感まで完全に再現した高峯のあが現出した 


巴(ボット)「...えっぐいのお、おどれ」 


元の細さに戻った鎖を持て余すように腕を振りながら巴が苦い顔をする。 

大威力にもかかわらず手応えがなかったのが気に入らなさそうだ 


のあ(ボット)「■◇△...そうかしら?私たちは所詮は実体を持たない人形、0と1の傀儡、目に見えるものなど意味をなさないわ」 

アナスタシア(ボット)「ニェート、のあ......こちらとしてもさすがに見てて、クるものがあります...」 

のあ(ボット)「えっ」 



物体との一体化、それは突き詰めればのあ自身もまた物体に過ぎないということだ。 

そして物体を人形に出来るのなら、人形である自身を物体として扱うことも彼女に限定すれば可能だった 


しかし、これは無限に使えるやり方ではない。 

ただこの住宅街の至る所に「高峯のあ」の一部が混ざり込んでいるからこそガラクタ類を自分の部品にできただけのこと。 

無論そこまで種明かしをするつもりは毛頭ないが 




巴(ボット)「なんじゃ、やっぱうちの獲物をぶんどろういう魂胆け?」 



のあ(ボット)「...それだけでもない、かしら?」 


アナスタシア(ボット)「ダー......巴とも戦ってみたい、です...私はまだ、レッスンしたりません」 
362 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/12(火) 00:21:16.77 ID:jlUZGChq0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 



奈緒「しっかし、あれだな...のあさんの未来からきたアンドロイド疑惑がさらに強まったな」 

加蓮「何言ってるの?アタシの説明聞いてた」 


奈緒「聞いたけど、まだちょっと半信半疑だぜ。確かにパッションっぽい感じだけど、巴はそんなシンプルな能力なのか?」 


加蓮「間違いないって、奈緒の話を聞いて、のあさんとのさっきのバトルを見て確信した。」 


「それにシンプルだけに境界線の見極めがすごく難しいんだからね?そこんとこわかってる?」 


奈緒「わかってるよ、...でもちょっとワクワクしてきたな。ここに凛もいりゃさらに良かったんだが」 


加蓮「...巴を倒して、ここを生き延びたら凛のこと探しに行こっか」 


奈緒「......そ、そうだな...(言えねえ、そのセリフに死亡フラグがビンビンに立ってるとか言えねえ...!)」 


そして加蓮は奈緒にオートマを手渡す。 

幾分軽く感じられるそれを奈緒は片手で受け取った 


加蓮「じゃあはい、任せたよ」 

奈緒「おう、お前を信じるぞ」 

その短いやり取りで心構えは完了する。 

二人の間にまどろっこしい能書きはいらない 




こうして二人の進退、ひいては生死を賭けた「とっておきの仕掛け」が作動をはじめた 





ゲーム開始59分経過 

北条加蓮&神谷奈緒 

VS 

村上巴(ボット) 

VS 

高峯のあ(ボット)&アナスタシア(ボット) 

開始 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

366 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/13(水) 00:29:27.46 ID:QW+Val6U0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
小日向美穂&三好紗南 


みく(ボット)「にゃんだか、あっちはあっちで楽しそうにやってるにゃあ...」 


「紗南チャンもそう思わないかにゃあ?」 


紗南「いーや全然!ゲームバランスがなっちゃいないから見てられないよ」 


しっぽを振りながら瓦礫の山の上に仁王立ちする小柄な少女と相対する 

二人の距離は5メートルといったところ、みくの能力の恩恵である動物的な身体能力ならその程度の距離はなんら問題ではないのだが、かといって無謀に飛び掛ったりはしない。 

紗南「......」 


ハーフパンツのポケットからゲーム機が覗いている、空いた手は銃に添えられみくに照準を合わせている 


みく(ボット)「当ったるっかにゃ~?当ったるっかにゃ~?」 

みくが体を揺らしながら挑発する。まるで5メートルという距離なら反射神経で銃弾など回避できるとでもいうように 

紗南「当てるよ__あたしが、いや」 

みく(ボット)「にゃ?」 

紗南の表情はあくまで不遜不敵、そのまま静かに続ける 


「__みくちゃんは、あたしたちが撃つ」 


その言葉を合図に、みくの背中側のがれきにまで近づいていたぬいぐるみが起き上がる。 

美穂「...うぅ、できるかな、できるよね」 

その腕にはふわふわの体と正反対な重厚な拳銃が抱き込まれていた 

紗南と交わした先ほどの打ち合わせを思い出す。 

_紗南『まず美穂さんはぬいぐるみモードでみくちゃんの後ろまで回り込んで攻撃して』_ 

体躯より明らかに小さすぎるぬいぐるみから這い出した美穂がその拳銃をうけとった 

_紗南『当てなくてもいいよ、でもまず一発で注意を引いて』_ 

体を起こす、慣れない手つきで拳銃を支える 

美穂「できる、出来るに決まってる...!」 

みく(ボット)「にゃにっ!?」 

指を握り込むと引き金が引かれた。最初の号砲が鳴らされる 



______________ 

 小日向美穂+ 65/100 


______________ 
______________ 

 三好紗南+  50/100 


______________ 
367 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/13(水) 00:30:36.50 ID:QW+Val6U0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 

美穂の放った銃弾はみくにかすめることもなく、やや離れた地面を削るだけだった。そして当のみくの姿も既にその場から消えている 


みく(ボット)「びっくりしたにゃあ、またぬいぐるみに隠れてコソコソしてたにゃ?」 


足元の瓦礫を蹴り崩す勢いでみくが駆ける、跳ぶ。ジグザグに軌道を変えながら美穂へ迫った 


美穂「ひっ!」 


美穂の体が固まる 


みく(ボット)「これで___」 



紗南「あたしを忘れないでよっ!!」 



第二射、みくの背後からの射撃 




みく(ボット)「にゃうっ!」美穂「ひやっ?!」 


それがどれほどの高速移動であろうとも目的地は一つ、紗南は美穂に当たらないように、それでもギリギリを狙い打つ 


_『その後あたしも攻撃するから、みくちゃんはこれであたしたち二人の両方を警戒するはず』_ 


攻撃の手が美穂に届く直前、急ブレーキをかけたみくの状態が後ろに反り返る。その瞬間、みくの動きは止まったも同然だった。 

美穂「...えいっ!」 

反撃の一発が後ろに反り返ったみくに放たれる、だが一歩遅かったその攻撃はまた外れた 

常人を超えた脚力で後ろに跳ねる。そしてみくは美穂と紗南を三角形の頂点にするような位置に着地した 

みく(ボット)「うにゅにゅ、美穂チャンも積極的になったにゃあ」 



_『そしたら、あたしがみくちゃんに全力で攻撃する。』_ 



銃声が鳴り響く、何度も何度も。その全てがみくを狙い、たとえ逃げてもそれを追って追撃が行われた 


_『みくちゃんは美穂さんにも警戒しなきゃいけないからこれで大分優位に立てるはずなんだ』_ 


みく(ボット)「よっ、ほっ、にゃっ!」 

銃撃、狙撃、乱射、掃射、紗南の手から放たれた銃弾が一発二発とみくの逃げ道を追い込んでいく 

地面が踏み割られた上に鉛に削られ銃痕を残す音が連続する。 

美穂「紗南ちゃん、大丈夫だよね、まだ弾、残ってるよね...?」 

368 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/13(水) 00:31:26.34 ID:QW+Val6U0


みく(ボット)「にゃんにゃんにゃ~...んっ!」 


しっぽを振り、耳をパタつかせ、上へ横へと猫がはねる。その後を火花と硝煙が追いかけるが一向にその姿を捉えることはない 


紗南の体では発砲と並行して走り出すことなど到底不可能である以上、そこにどうしようもない機動力の差が生まれていた 

そして_ 

紗南「___あ、」 

みく(ボット)「んにゃ?」 


_『でも、それが通じなかったら』_ 


紗南の手元で引き金が空を掻く、銃弾を撃ち出していたという手応えが消えていた 


_『...美穂さんに助けてもらうね』_ 


みく(ボット)「...もうおしまい......にゃあ?」 



三好紗南、残弾ゼロ 



紗南「___っ!」 


万が一命中することのないよう、つかず離れずの距離で逃げ回っていたみくの動きが停止、否、終了する 

紗南とみくの動きは同時にして全く同じだった。 

地を蹴り、一点に向かって走り出す。ふたりの共通の目的は 

美穂「二人とも...!?」 


丸腰になり弱体化した相手を放置して武器を持った別の相手を先に潰しにかかるみく 

丸腰になり弱体化した自分の身を守る庇護を求めて別の仲間を先に頼りに向かう紗南 


_『でももしかしたら武器を持ってる美穂さんの方に行くかもしれないから......そのときはごめん』_ 


美穂「紗南ちゃんっ!!」 


_『...確かに無茶だけどさ、のあさんの目が逸れてる今この時がチャンスなんだよ?』_ 


明らかに、みくの方が何倍も速い、そして素早い。 


_『だったらやるしかないじゃん。それに策はもう一つあるし』_ 


美穂が瓦礫の山から飛び出しながら発砲した。それは適当につけたような狙いではなく、まっすぐみくを目指して飛んでいく 


みく(ボット)「にゃやっ!?」 


今までとは違う、真剣でそれ故にボットからは危険な攻撃がみくの予想と反応を上回った 





みくの衣服、その胸の中央に穴があく 
369 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/13(水) 00:32:29.11 ID:QW+Val6U0


真正面からの衝撃にみくの体が真後ろに転がり、頭から地面に落下した。 


紗南「美穂さんっ!!」 


一拍遅れて紗南が美穂の腕の中に飛び込む。拳銃を地面に放り美穂もそれを受け止めた 


美穂「...私、人を仲間のアイドルを撃っちゃた...」 

紗南「いやいや、これゲームだって!それに相手はロボットなんだし!」 

テンパっているのか、大げさなくらい落ち込んだ様子の美穂を鼓舞し、紗南は離れた場所の戦闘風景に目をやる 



2本足で歩く奇怪な物体の軍隊、自己再生する実力が未知数の存在、氷の鎧を自在に操る少女、全身に鎖を巻きつけた異様な風体の怪物 



魑魅魍魎の跋扈する空間が、そう離れていない場所で現在進行形で展開されていることに今更ながら戦慄した 



紗南「あっちじゃなくてよかったね、ほんと」 


美穂「う、うん」 


言葉少なに自分たちの幸運に感謝した。 



紗南「でも当初の予定と違ったけど、美穂さんのおかげでなんとかなったよ、ありがとうっ」 



美穂さん「いやいや、そんな、お礼だなんて...」 


「__お礼を言うにはまだ早いよ 
                         




にゃあ?」 
370 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/13(水) 00:33:27.05 ID:QW+Val6U0


二人の体がくの字に折れ曲がる、猛烈な速度で突進したみくが紗南と美穂に衝突し、そのままの勢いで地面に叩きつけた。 



叩きつけられた二人を中心に円を描くように瓦礫が砕け、小規模のクレーターが発生する。それほどの衝撃だった 




美穂「_____っか、ふ__?!?」 

紗南「いっ~~~~~~~~たぁ!!?」 



みく(ボット)「猫はそう簡単に自分の死体を見せたりはしないのにゃよ?」 




並んで倒れた二人を両足で踏み付け、服の胸元に穴を開けたままみくがころころと笑った。 


その穴からひしゃげた銃弾が一発、ぽろりと転げ落ちた 


よくみると穴があいたのは彼女服だけで、美穂の攻撃はそのすぐ下で止まっていた 




アナスタシアにより作られた硬度100%の氷のチョッキの表面で 



紗南「なに、そ_れ」 

みく(ボット)「アーニャンの作った氷をのあにゃんに加工してもらったのにゃあ。ピストルなんか簡単にハジいちゃうにゃ!」 


辛うじて言葉を発せた紗南の質問にこともなげに答える。 

美穂「そ___ん、な」 

みく(ボット)「じゃあ、ピストルもないみたいだし___」 

みくがどこか艶かしい動きで自身の豊満な胸の間に手をいれる。引き抜かれたその手には手のひらに収まるような小型の拳 
銃が握られていた 

紗南「ちょ、ちょちょっと待って!!」 




パンッ! 



紗南の頭のすぐ隣、わずか数センチの場所に着弾する 

紗南「____ひっ!?」 

みく(ボット)「みく、犬じゃないから『待て』はできないにゃ。それにこのピストルは二発しか弾が入れられないから無駄撃ちはできないにゃ____」 





「____だからばいばい美穂チャン」 



紗南の頭のすぐ隣、そこには美穂の頭があった 
371 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/13(水) 00:34:23.85 ID:QW+Val6U0


みく(ボット)「じゃ、つぎ紗南チャンね」 


コキリと軽い音がして二発目が装填される音がした。 



紗南「じゃ、じゃあ、待たなくてもいいから!せめてあたしに電源を切らせて!!」 



みく(ボット)「にゃあ?」 



電源、というここでは聞きなれない単語に戸惑う。まさか電池を自分の命の比喩にでもしたのだろうか 



紗南はみくの足の下で苦心しながらゲーム機、彼女の能力の象徴を取り出し、みくに示した 


みく(ボット)「なにそれ?」 


紗南「あたしの能力装置!でも電源切ったら使えない!!」 


みく(ボット)「...!」 



能力、という単語にみくが片眉を動かす 



紗南「ゲーマーを自称するからには、セーブもせずゲームを点けっぱなしで放ったらかしにはしたくない!すぐ終わるから!ね!?」 

ボットは迷わない。紗南の能力を知らないだけにここで悪あがきに何かされるより、自分から戦闘不能になってくれるならそれでいいだろう 

みく(ボット)「......じゃあ、にゃんにゃんにゃんに引っ掛けて二秒ね。スイッチ押したら切れるでしょ?嘘付いたら許さないよ?」 

紗南「うん、あたしは嘘つかないよ...じゃあいくね」 







三好紗南は思い出す、美穂と交わした会話の最後を 



_『ああ、もう一つの策?これは美穂さんの能力が使えない時の奥の手みたいなものかな』_ 



スイッチを押す。もちろん電源を切るスイッチではない 


三好紗南には二つの光景が見えている 


一つは目の前にいるボット、前川みくの顔 



そしてもう一つは 

372 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/13(水) 00:37:24.10 ID:QW+Val6U0



















_____________ 

コントロールモード 

→ ・プロデューサーくん 
  ・戦車 
           1/1  
_____________ 


ゲーム画面を通して映される、ぬいぐるみから見た彼女の後頭部だ 



紗南「ほら、嘘じゃない。約束通り___」 



プロデューサーくんが、美穂の半身が、 

紗南の力を借りて美穂の落とした銃を拾い、 

引き金を引いた 













紗南「みくちゃんは、あたし”たち”が撃つ」 







______________ 


 小日向美穂+ 0/100 


______________ 
______________ 

 三好紗南+  36/100 


______________ 

ゲーム開始59分経過 小日向美穂&三好紗南VS前川みく(ボット) 

勝者:三好紗南

375 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/13(水) 23:48:16.20 ID:QW+Val6U0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
北条加蓮&神谷奈緒 



のあ(ボット)「......みく...」 



消えていく。守ろうとした仲間が消えていく 



巴(ボット)「よそ見たぁ余裕じゃのう!」 


その横顔に叩き込まれた銃弾がのあの肩から上を真っ平らに吹き飛ばした 


そして、数瞬の後には元通りに......少なくとも見た目だけなら全く同じ姿に再生する 



アナスタシア(ボット)「のあ。...みくが...」 

のあ(ボット)「......ええ、見落としたわ。まさかぬいぐるみまで動かせるなんてね...」 

アナスタシア(ボット)「みく...三人で一緒にいたかったです...」 



そう言うアナスタシアの体を何箇所か覆う鎧、氷でできたそれにもいくつか穴が空いていた 


内部まで貫通してないのが救いだが、得体の知れない攻撃力の巴の前にこの防御力もいつまで続くかわからない 


のあ(ボット)「ここはもう退いてしまいましょう、刻限も近いことだし」 


アナスタシア(ボット)「そうで、っ!?」 


バキンッと音を立ててアナスタシアの仮面が半壊する、半分に割れた仮面の奥から端正な顔が覗いた。 

その表情は一見すると無表情。たった今消失した仲間に対して何も思うところがないかのような顔つきだった 


巴(ボット)「なぁにをべちゃべちゃ喋くっとんじゃ!おどれらの売った喧嘩じゃろ!!」 


巴の声が二人を叩く。 


のあ(ボット)「____そうね。じゃあ終わらせましょう」 


それはあっけないほどに単調な声。目的を奪われたような空虚な声 



この戦闘に、彼女の言うレッスンにはもう価値などなくなったとでも言いたげな雰囲気でゆっくり腕を持ち上げる 


巴(ボット)「っ!させるかいっ!!」 


先んじた巴の銃撃がのあの腕から先を吹き飛ばす。 

だがそれも効果はない 

変化はすでに起きている 
376 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/13(水) 23:49:13.70 ID:QW+Val6U0


巴(ボット)「なっ!?」 


粉塵を巻き上げ巴の足元が畳返しのようにめくれ上がる。 

それも前後左右から巴をすっぽり包み隠すように 

いくら強力な能力であろうともそれが最大限に発揮できるのは一度に一方向のみ。 


その隙を突かれた 


巴(ボット)「しゃらくさい!」 



壁のように四方から立ち上がった壁の一枚に弾丸を撃ち込む。 


一発では砕けず、続けざまに何発か撃ち込んだことでようやく壁の一枚が中程で崩れ落ちた 


それを蹴倒して包囲から抜け出す。 


その頃にはあの二人の姿は消えていた。 



巴(ボット)「......ほう」 




その代わりに 




奈緒「よう、巴」 





本来の敵、ボットが討伐すべき対象がそこにいた。 







ゲーム開始59分経過 

北条加蓮&神谷奈緒 

VS 

村上巴(ボット) 

開始 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
377 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/13(水) 23:50:31.99 ID:QW+Val6U0


じゃらり 


巴の右腕から細身の鎖がぶらさがる。 

鎖は元の細さに戻っていた 


奈緒「...わるいな、逃げてばっかで」 


まるっきり悪びれず、飄々とした様子で、あまつさえひらひらと手を振りながらそんなことを言う奈緒に巴の銃口が持ち上がる 


もう片方の手に握られた銃も狙いを定めるでもなく垂れ下がっている 


巴(ボット)「ようやっと覚悟決めよったかいの...あ?もう一人はどこじゃ」 

奈緒「巴ならわかるんじゃねえのか?」 

「今まで完璧なタイミングでアタシたちにカウンター決めてきたじゃん」 


彼我の距離は10メートル、声は届くが銃弾を当てるのは素人にはやや難しい。そんな距離 


しかし巴にこの距離は関係ない。ただひたすらに強力な攻撃は攻撃範囲などに縛られない。 




___のだが、巴はその攻撃を放たない。鎖は相変わらず細いまま静かに巻きついていた。 



巴(ボット)「__?」 


その鎖が長く、そして太くなるのはなにも示威行為ではない。それは大砲に匹敵する威力を銃弾に付加させる際、反動を抑えるためだ。 

逆に言えば鎖が細いままの今、彼女の武力、ひいては攻撃力は拳銃一丁分か、あるいは____ 



奈緒「ばんっ!」 


手に持った銃をもち上げ 


パンッ! 


巴(ボット)「!」 

奈緒が巴に向けて引き金を引いた、 


「遅れて」巴も反撃の一発を放つ。 


二人の攻撃はどちらも外れた。 

しかも奈緒めがけて放たれた巴の弾は外れるどころか大した威力も発揮せず土煙を上げるだけだった 

巴(ボット)「(どうなってるんじゃ...うちの能力がなんも反応しよらん)」 

その違和感を何より受け取るのが能力の使役者本人だった。目の前で起きている事実と本来起きるはずの予想が違いすぎる 

本来なら巴に向けて攻撃をしようとしたプレイヤーは今頃、粉微塵のはずだ。なにせこれほどあからさまに敵対しようとしているのだから__ 




奈緒「っはは。マジで巴の能力発動してねえじゃん」 

巴(ボット)「っ!」
378 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/13(水) 23:51:59.79 ID:QW+Val6U0


奈緒「おいおい、無茶するなよ、それにそんな細い腕だけじゃ銃の反動を抑えきれないんだ、ろっ!!」 


スタートダッシュ 


次の攻撃代わりに奈緒が走り出す 

銃を持った相手に無謀極まりないが、それでも一目散に 


ダンッ! 


巴もそれに応戦し、発砲するが細いままの鎖と細い両腕だけでは大型の銃の反動を殺しきれず。弾がうまくは当たらない 


パンッ! 


逆に走りながらの奈緒から牽制に放たれる銃声に反応してしまう 


もちろん走りながら撃たれた弾丸が巴に当たることはない。 

それどころかどこに飛んでいったのかもわからないことからかなり見当違いの方に飛んでいったようだ 

巴(ボット)「どぉなっとるんじゃこりゃぁあ!!?」 


本来なら、自分に仇なす輩に有無を言わせぬ攻撃が叩き込まれていたはずだ 

本来なら、相手が自分を追い詰めようとした時にはそれを返り討ちにしていたはずだ 


なぜならそういう能力だから 


奈緒「ロボットだろ!自分で考えろ!」 


巴の正面を回避し、横っ飛びに転げるようにしながら奈緒が挑発する。 


巴(ボット)「言いよるやないけぇ!!」 


素早く態勢を整えて発砲するが、反動を抑えきれず、すでに2、3メートルまで接近している奈緒にかろうじてあたらない 


だが今は、自慢の武器は威力を発揮せず、自分は追い詰められている 


パンッ! 

奈緒が腕を無理にひねり、巴に銃を向けると銃声が響き渡る 

巴(ボット)「___っしゃらくさい!!」 

反射的にその射線からのけぞる。奈緒はもうすぐそこに来ていた 

巴(ボット)「_じゃったら、こんだけ近けりゃ当たるじゃろぉが!!」 

奈緒「ぅおっ!?」 

逆襲。巴は地を蹴ると奈緒へ体当たりした。 

右手に銃を掴み、左手で奈緒の体に掴みかかる。たとえ奈緒が銃を持っていようと、このゼロ距離ならむしろ小柄な巴の方が有利だ 




がしっ 

巴(ボット)「なっ」 

奈緒「やっとここまで近づけたぜ」 
379 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/13(水) 23:53:10.38 ID:QW+Val6U0


その唯一の武器を手放して奈緒は巴の銃身を掴んだ。自分の体に当たらない方向に捻じ曲げる。 


巴(ボット)「...っちぃ!!なんでうちの能力が...!」 

奈緒「うん?ほらあたしの銃をよく見たら分かんじゃねえのか?」 

巴(ボット)「あん!?」 


奈緒の拳銃はつかみ合うように互いに膠着した二人のすぐそばに落ちている。 


どこにでもあるようなオートマの、巴の得物より少しばかり小さくそれでいて無骨な銃器 


なんの変哲もないといえば確かに無い。 



黒く固い引き金、撃鉄、遊底、排莢口、照門、安全装置、銃把......そこで終わり 



巴(ボット)「おい、おいおいおい...!?」 



そこで終わり 



つまり銃把の先がない。そこに見えているはずのものがない 




”そこ”には暗く、黒い穴があいているだけだった 



巴(ボット)「奈緒さん、おどれ、気でも触れたんか!?」 



奈緒「でも、加蓮の言った通り、お前の能力発動しなかったみたいだな 



巴、お前の能力は__」 






巴(ボット)「なしておどれ、チャカに弾どころか弾倉すら入れとらんのじゃ!!?」 




奈緒の銃。 


そのマガジンを装填するはずの場所にぽっかりと四角い穴があいていた 






「お前の身が危険になるほどお前を強くするんだよな?」
380 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/13(水) 23:54:49.79 ID:QW+Val6U0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 

加蓮は隠れていた瓦礫からそっと見を起こした 


彼女の手にはもう一丁の銃が握られ、その銃口から細く消炎の煙が立ち上っていた。 


今まで隠れていた彼女は一体何に向けて発砲を繰り返していたのか? 


それは奈緒の持っていた空っぽの銃のことを考えれば簡単にわかる。 


加蓮は奈緒の「撃つふり」に合わせて適当な場所めがけて発砲し銃声を立て、 

あたかも奈緒が発泡したように見せかけていた 


奈緒に武器があるように見せかけるように騙すため、奈緒が巴にとっての脅威であると錯覚させるために 





奈緒「___で、実際はあたしは丸腰、だから巴の能力も反応せず鎖も細いままだったってわけ」 


巴(ボット)「っち、それでなんでうちの能力が自動発動って分かんねん!うちが自分で威力変えられる思うんが普通じゃろ!」 



手錠につながった大型の銃が巴と奈緒の間で四つの手に掴まれ、綱引きのようにギリギリと音を立て押さえつけられる 

奈緒「んあ、それは__」 




加蓮「___それだと、巴のあの予知の説明がつかないからね」 



巴(ボット)「二人目、そういやおったのぅ、こうなるんを待っとったわけかい」 


加蓮「まぁね、アタシあんまり体動かすの得意じゃないし?」 



巴を強敵たらしめていたもうひとつの特性、 


予知としか思えない反射速度のカウンター 


これも彼女の能力が彼女自身の危険に反応する性質だからこそ出来た技だ。 


加蓮「巴が誰かに狙われたのを察知して、手錠の鎖が太くなる。で、巴は腕に巻き付いた鎖の変化で自分の危機を知る。」 


「そしたらすぐに周りを攻撃すればいい。威力が上がってるんだから狙いがテキトーでもなんとかなるってこと」 


奈緒は巴が、その能力を特に大きく発揮した場面を思い返す。 

高峯のあの物量作戦、三好紗南の空爆、そのいずれもが彼女自身を危機に追い込むものだった。 



__『なんにせよ、ワレみたいなボロボロの相手なんぞお断りじゃ』___ 

__『うちは奈緒さんを助けるつもりは微塵もないけえ。ただ奈緒さんのコンディションが回復して十分戦えるようなるのを待っとるだけじゃ』___ 


奈緒「今思えば最初に会った時のセリフもヒントだったな、あれは自分を脅かすような敵じゃないと逆に戦えないって意味だったわけだ」 

巴(ボット)「ぐっ...」
381 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/13(水) 23:56:06.79 ID:QW+Val6U0


加蓮「さて、どうしよっかな...ここでアタシが巴に銃を向けるとまた能力発動しちゃうし...」 


奈緒「おい!そこは考えてなかったのかよ!」 


加蓮「いや、冗談だって」 


そう言うと、両腕を奈緒に掴まれたままの巴の服の襟元を掴み、 


地面に引き倒した。空を仰ぐように背中から地面にぶつかる 



巴(ボット)「げっほ_!?」 

奈緒「うおっ、加蓮!?」 

加蓮「どれだけ強くても、引き金が引けなきゃ意味ないよね?」 

そのまま背中にのしかかる、巴の右手と銃は、狙ってか偶発的なものか巴の体の下敷きになっていた。 


さらにその上に加蓮が膝立ちで体重をかけている 


奈緒「いや、こえぇよ加蓮」 


巴の額に銃口をぶつける、奇しくもそれは以前巴が奈緒にした行為と似ていた 

加蓮「じゃあね___」 


そして加蓮は引き金を 











引かれた 








巴が背中の下で引いた引き金は銃弾を放ち、 

それは巴の肉体を背中から腹へ貫通した 

そのまま加蓮に命中する 


______________ 

 神谷奈緒  31/200 


______________ 
______________ 

 北条加蓮  31/200 


______________ 
382 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/13(水) 23:58:04.10 ID:QW+Val6U0


加蓮「っいったぁ!?」 


命中と言っても二の腕のあたりで、それは急所ではなかったようだが思わずのけぞる 


次の瞬間、加蓮の下で膨大な体積と質量が爆発的に発生する。 



ゴドッゴガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!! 



それは鎖、いやもう鎖かどうかわからない。 

2トントラックのタイヤのような大きさの鉄の塊が加蓮を押しのけ 

いくつもいくつも渦をなして巴に巻きついていく。 

ガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴン!! 

鎖同士が火花を散らしながらぐるぐると巨大な何かへ変貌していく 


「げほっ...うちの能力、よう見抜いた、のぅ」 


奈緒「加蓮、早く逃げろっ!!」 

加蓮「な、なによこれ」 


巴の上から弾かれ、尻餅を突いた加蓮を奈央が引きずりながら巴のいた場所、そこにいる鎖の怪物から逃げ出す 

「そうや...う...ちの能力は特攻、ほんでカチコミ向きじゃ。修羅場であるほど...熱く、熱く滾ってくるんじゃ...」 


ギャリリリリリリリリリッ!! 


鎖どうしが引き締め合うように固まる。そこにいたのは全長3メートルはあろうかという生物 


いや、生物とは言えない。ただ野太い鎖を全身に巻きその肌を一辺残らず覆い尽くした巴だ 



「けど、考えが甘かったのぅ、逆にこうも考えられたはずじゃろ?」 



「うちがダメージを負って弱ってもうても能力は発動するってなぁぁあああ!!!」 



自分が危険な状態であるほど、その逆境を覆すように強くなる能力 


それは向き合う相手が強くあればあるほど強くなるということ 

なら逆に自分自身が弱く、弱体化するごとに強くなるというのもまた自明 



____________ 

 村上巴+  9/100 


____________ 




「人間ばらが!!!こっから先は全滅必至じゃ!!覚悟せえよ!!」 

383 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/13(水) 23:59:09.04 ID:QW+Val6U0



鎖のうずから光が漏れる。それは破壊の光。限界の限界を超えて強化された銃の、その銃口から噴き出す閃光、マブルフラッシュ 



___ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!____ 



ただの銃弾が隕石のように炎と光の尾を引き、遥か彼方に飛んでいく 




その数瞬の後、遠くに見える都会のビル群の一角が、崩れ落ちた。 




奈緒「っつ、どこまで強くなる気だよ!!」 

加蓮「しかも、巴が弱ってるこの状態じゃ、アタシたちが丸腰だとか全然関係ないし...!!」 


もう鎖が細くなることはない、もうその肉体が無防備になることはない、力ずくで押さえ込まれることもない 


巴のボットとしての命が風前の灯にある今、その能力が解除されることはない 


致命傷に近い傷を負い、誰よりも弱体化した彼女に勝てる強者など存在しない 



銃口が角度を修正し、奈緒と加蓮に向く 

鉄と鎖の巨人が二人に狙いを定め___ 



加蓮「___っ_!!」 

奈緒「_____!!」 

















紗南「なに、あの黒いの」 








その姿が崩れ落ちた 






384 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/14(木) 00:01:13.44 ID:qSS4UHQM0


ガランガランと鎖がほどけ地面に落下していく 


奈緒「は?」 

加蓮「え?」 


あまりにもあっけなく、あともう少しというところで無残に、まるで天寿を全うしたように静かに、自然に落下し鎖の残骸が積み重なっていく 


奈緒「おい、なんだよこれ」 

加蓮「鎖が__溶けてる?」 


崩れ落ち積み重なった鉄の塊が泥のようにあるいは砂のように融解し瓦解し風化していく。 

早送り映像を見ているように、みるみるうちに跡形もなくなっていき、 


消え去ったあと、そこには鎖の切れた手錠付きの大きな銃が残っているだけだった 


紗南「奈緒さん!加蓮さん!」 

加蓮「さ、紗南?」 

奈緒「お、おう...お前も生き残ったのか?」 


紗南「それどころじゃないよ!!周りを見て!!」 

加蓮「周り?」 



そして二人は気づく 

空がゆっくりと赤くなっていることに。ゆっくりと日が暮れていることに 


ゆっくりと夜が近づいていることに。 


そして何十、何百、否、何千何万という存在がその空にいることに 

巴を消し去ったのもその一群の仕業だったということに 



奈緒「なんだよこれ何なんだよこれ...!!」 

紗南「今調べたんだけど......あれ全部ボットみたい」 

加蓮「嘘でしょ...何匹いるのよ...まるで雲じゃない」 


バサッバサッバサッバサッ 
ア”ーーー!!バサッバサッ 
ア”ーーー!!バサッバサッ 
ア”ーーー!!ア”ーーー!! 






闇に翼を溶かし、空を蹂躙しながら飛翔する 

今この時、この瞬間、仮想空間の空全域をカラスが埋め尽くしていた 


ゲーム開始61分経過 

村上巴(ボット) 消失 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
385 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/08/14(木) 00:07:23.40 ID:qSS4UHQM0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 










「...ああ、どうしましょう...どうしましょう......ご、五万羽だなんて」 









「こんなにたくさんのカラス、私に制御できそうにありません」 






「しかもカラスの一羽一羽、その全てに能力が備わっているというのに、私の命令なんて聞くんでしょうか...?」 







「ボットの皆さんにまで迷惑をかけていなければいいんですが...」 








「はう...私のせいで、またボットの誰かが...迷惑を被ってしまうのでしょうか...」 







「で、でも私が、頑張ってプレイヤーの人たちをみんな倒してしまえば___」 






白菊ほたる(ボット)「___誰も不幸になりませんよね...?」 






___夜が、始まる 






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

393 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/01(月) 11:05:13.89 ID:xicfRciR0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
渋谷凛&緒方智絵里 




ヒョウくん「..........」 



空中に静止したまま爬虫類の目がぎょろりとあたりを一瞥する 


大なり小なりビルが道路沿いに連なっている都会ならありふれた光景 


それが一変していた。 



黒、黒、黒黒黒黒黒黒黒黒 


すべての建物の、その屋上や窓枠沿いが無造作に漆黒に染まっていた 


右から左、前から後ろに巡らせた視線いっぱいが黒く線引きされている 



その全てが黒い。 

嘴が、翼が、瞳が黒く染められた鳥類、カラスが見える風景すべてを不自然に埋め尽くしていた 



ヒョウくん「......」 



視線を戻す 


つい先ほど地面に叩きつけた尻尾がプレイヤーの一人を地面のクレーターの一部にしたはずだった 



そこにあるのは己の尻尾の先。 



もぎ取れた己のしっぽのみ 

ヒョウくん「......!」 



小春(ボット)「ヒョウくん!?し、しっぽ...どうしちゃったんですか...!?」 




いつの間にかその巨体に見合う野太い尻尾が本体から離れ、大蛇の死体のように地面に横たわっている 


ガァーガァー 

アァアー 


イグアナを取り囲んだカラスの群のどこからともなくかすれた鳴き声が漏れる。笑い声のように 

394 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/01(月) 11:06:21.92 ID:xicfRciR0

ピシ、ミシ... 


家鳴りのような音がどこからか、いや周囲全ての建物から細く響き出す 


ア”アァアー 


カラスを中心としてビルの壁面に亀裂が広がる 


ガァアアアー!!! 


卯月(ボット)「うそ、建物が...」 

翠(ボット)「...とてつもない早さで...古びて、ますね」 


朽ちていく、朽ち果てていく、荒廃していく 


無機的な灰色のコンクリートがセピア色にくすみ、節くれだち、波打ち、そしてひび割れていく 


周囲の風景が蝕まれていく。白から黒に、灰色から錆色に 


ヒョウくん「......」 


考える考える。 

叩きつけた尻尾が予備動作もなくもぎ取れている 


それは問題ない。 

ボットとしての古賀小春が存在する限りこの肉体に敗北はない。 



既に尻尾は新しく生え始めている 



だが、尻尾をちぎったのがカラスの能力なら 








あのプレイヤーはどこに行った? 

395 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/01(月) 11:07:51.92 ID:xicfRciR0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 





ごつり、と後頭部をざらざらした感触が撫でる 


凛「...な、なに?」 


先ほどよりかはいくらか安定を取り戻した頭と視界で体を起こす、目の前には壁と砂利 

日光らしきものがうっすらと差し込んできているがそれでもやや薄暗い。上を見ると天井らしきものがすぐ近くに目に入った 



凛「あれ、私...たしかあの、羽の生えた恐竜みたいなのに...」 



確か地面にめり込む勢いで叩き伏せられたはずだ。その証拠に今自分がいる場所が周りより幾分か沈み込んで 



凛「地面...平らだね」 




正確には真っ平らという訳でもなく、コンクリートのザラつきが臀部と手のひらから伝わってくる 



コツンと硬い音がして地面をなでていた手が鉄のようなものに当たる。よく見るとその鉄は落ちているのではなく地面にくっついているようだ。 


どうしてそんなものが車の走る道路にあるのかは分からないが、それより自分のいる場所を把握する必要がある。凛は上半身だけを起こしたままぐるりと周りを見渡す 



凛「あれ...ここ、どこ?」 



なにやら見える景色に違和感がある。見たことがあるのに見たことがない、そんな風景だ 


腰を下ろしたままの地面も、すぐ目の前の地面も見たことある素材、コンクリート 



それはいい、だがまずひとつ変なのがこの場所は天井が著しく低い。立ち上がろうとして気づいたが女子にしては背の高い凛がおそらく中腰でも辛い態勢になるほどに天井と地面が近い 

そしてこの地面も何かのパイプや鉄の枠のようなものがあちこちに配置されとても歩きやすいようには見えない。 

そしてその地面の先。 



凛「道が...ない?」 



今いる地面をずっとたどった先からは光が届いていたが、ぷっつりと途切れ、狭い地面と天井の隙間から向こう岸(?)の建物が細く覗いていた 



凛「なんなの...ここ」 
396 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/01(月) 11:09:22.82 ID:xicfRciR0




だまし絵のような、 


何かを見間違えたような。 


知っているのに知らない風景。 


壁に手をついて立ち上がる。 


天井が低いので中腰だが、これで移動ができる 

じゃり 

手をついた拍子に壁の一部らしきもの、小石程の破片が取れ、手のひらに残る 

凛「...?」 

なんとなく手にとったその石ころから手を離す、石は地面に垂直に落ちていくだろう 




こつん 




だが石は凛から見て、水平に落ちていった 




凛「......は?」 



壁を見る、さっきの石が張り付いている。 


磁石のようにぴったりと貼り付き、地面に落ちる様子はない 



それをもう一度拾う、磁力のような抵抗は感じない。手を離すと、また壁の元に戻る 



凛「なにこれ、重力が横向きに働いてるとか、いやでも私は」 



苦しい態勢で視線を巡らす、確かに今いる地面は鉄やパイプを除いてほぼ真っ平らで、ゴミや石はない、全て壁に張り付いてボコボコとしたシルエットを見せていた 



パリッ! 

凛「わっ」 

何気なく移動した先、ガラスのようなものを踏み割ったらしい、足元で小さく割れる音が鳴る 



慌てて足をどける。そこにあったのは四角いガラス、鉄の枠にはまり、今は割れた四角いガラス、その向こうには小さな部屋があって・・・ 






凛「これ...窓、ガラス?」 

397 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/01(月) 11:11:34.00 ID:xicfRciR0



遅まきながらゆっくりと凛の頭が状況を把握し始める。 




凛「なんで、地面に窓ガラスが、窓があるの...?」 



どうして地面に窓があるのか、 

どうして石が自弁から見て水平に落ちていくのか、 

どうしてこの天井が低いのか、 

道が途切れているのか、 

どうしてアスファルトだった地面がコンクリートになっているのか 




窓ガラスの一部が青く光る 

渋谷凛の足跡の形に蒼く光る 



地面に、いやもうそれは彼女にとって地面ではない。 


そこに目を向けたことで彼女は自身の靴の裏がかすかに青く光っていることを自覚した 


渋谷凛の能力はとっくの昔に発動している 





彼女はさっき倒れていたクレーターそばのビルの隙間、 



路地裏の間隔の狭い”壁面”に立っていた 





ゲーム開始61分経過 

渋谷凛 

VS 

白菊ほたる(ボット) 

VS 

本田未央(ボット)&島村卯月(ボット)&水野翠(ボット) 
&佐城雪美(ボット)&古賀小春(ボット) 

開始 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

405 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/03(水) 15:33:24.57 ID:/eGgr8ux0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
早坂美玲&神崎蘭子&十時愛梨 



 ぴょこん ぴょこん 

 ぴこぴこ ぴょこぴょこ 



うさぎの耳がフラフラと揺れている、カチューシャの上でピコピコと 


愛梨「あっ!これすごいですよ!頭を振って揺らしたほうが、効果が早いみたいです!」 


それはウサ耳のカチューシャ、 

最初は神崎蘭子が偶然拾ったものだったが、どういうめぐり合わせかこうして合流したことにより彼女の手に渡ったものだった 

バニー衣装の付属品にして十時愛梨のキーアイテム、黒を基調とした細長い耳が風のない車内で自由気ままに振れていた 

そう、そこは車内。 

蘭子、愛梨、美玲の乗り込んだ装甲車の車内であった 

美玲「......」 

とはいえ激戦を経て天井をはじめとした車体上部をえぐり取られ、迷彩色のオープンカーもどきと化したその場所を車内と呼べるのか 


蘭子「おぉ......不思議の国のアリス...!(わぁ...魔法みたい...!)」 


スケッチブックを小脇に、そしてそこから生み出した用途不明の杖を握り蘭子が驚嘆の声を漏らす 


その視線の向いた先、装甲車の天井は目に見える速度で”修復されていた” 


痛々しくギザギザの痕を残して食いちぎられた装甲板がうねうねとその面積を増やし、フロントガラスの亀裂が消え天井が形作られていく 



物質の修復、それが十時愛梨の能力だった 



406 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/03(水) 15:35:10.77 ID:/eGgr8ux0



美玲「......」 



愛梨「ぴょーんぴょーん♪こうやって跳ねたらもっと早く治るかな?」 

座席に座ったまま呑気に上半身を上下させると頭頂部から生えたウサ耳も機敏に反応する 


美玲「......」 


運転を交代していた美玲がコントローラー、ここではハンドル代わりとなるそれを静かに握り締める。 

視線は道のずっと先を見据えたままだ 

後部座席にはシンデレラガールの一代目と二代目 

蘭子「ふむ、愛の果実の力を以てすれば我らが覇道に曇りなし...!!(愛梨さんの能力があればなんとかなりそうですねっ!)」 



美玲「むっがあああーーーーーーーー!!!!」 

愛梨「ひゃっ」 

蘭子「!?」 




ついに堪忍袋の切れた美玲がコントローラーを握りながら吠える。細い両足をばたつかせ運転席についたまま地団駄を踏む。無論そこにブレーキやアクセルの類はない 




美玲「そんなこと言ってる場合かっ!!?」 

「思いっきり曇りまくってるじゃんかぁああああああ!!」 


ビシッ!!バキョ! 


フロントガラスに黒い影が飛び散る 


それは装甲車の真正面から飛び込んできたカラスのボット 


すでに何羽、いや、何百羽目かわからない数のカラスが装甲車のボンネットやガラスに衝突し、美玲の眼前のフロントガラスをキャンバス代わりにその死に様をまざまざと見せつけている 


美玲「もうやだぁあ...なんだよこいつらぁ、どこに行っても飛んでくるしぃ!」 


カラスが装甲車の速度に追いついてくることはない。 

だが前後左右、どの方向に逃げ込もうと、どれだけ速く走ろうと向かう先には必ず黒い群れが向かってくるのだ 

街は完全にカラスの庭となっていた。 

カラスの羽音の聞こえない場所がない、 

その耳障りな鳴き声が聞こえない場所がない、 

高速で飛翔する影を見かけない場所がない 


蘭子「隻眼の狼牙よ、騎馬の担い手を継承するか?(美玲ちゃん、運転代わろっか?)」 

ボットである以上、カラスの死骸が血を吹き散らしフロントガラスを彩ることはなく、衝突してすぐに霧のように消えていく。 

それでも延々と鳥類の集団自殺じみた異常な光景が眼前数センチで展開され続けている美玲を見かねて蘭子が声をかける 

美玲「そ、それもそれでイヤだっ!誰がココで投げ出すかっ!...ていうかコレ、絶対止まったらダメなヤツだろぉっ!!」 
407 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/03(水) 15:37:08.93 ID:/eGgr8ux0


バリンッ!! 


美玲「うええぇっ!?」 


美玲の近くでガラスが蜘蛛の巣状にヒビ割れる、 

だが装甲車の丈夫なガラスなのでそれ以上亀裂が広がることはなく、愛梨の能力により徐々に元通りになっていく 


美玲が運転を交代できない理由、それはこの状況にあった。 


愛梨の能力は結構な速さで装甲車を修復している、しかしその修復は一向に終わらないのだ 


それもカラスが車体のどこかに衝突するたびにその箇所が凹み、剥がれ、赤錆び、壊れていくからだ 

いくら元が廃車寸前だったとはいえ、鳥の体当たりで壊れるような車種ではないにも関わらず 



まるで【不幸にも】カラスのぶつかった場所が脆くなっていたかのように、 


頑丈な装甲が為すすべもなくボロボロにされていく 

今は猛スピードでカラスの大部分を振り切っているからこの程度で済んでいるが、もし交代のために速度を緩めようものなら全方向から襲い来るカラスの猛攻によりあっという間に廃車に追い込まれてしまうだろうことは容易に予想がつく 


現に今も天井は完全に修復されきっておらず大きな穴があいている 


愛梨「でも、十分で交代って決めましたし...」 

美玲「いいからっ!!愛梨は早くクルマ直せっ!!」 




蘭子「むぅう...かくなる上は」 

荒々しく走行し、それに連動して不安定に揺れる車内で、ぎゅっと握った杖を見つめる 

あの禍々しいい鎌同様、自分の能力で生み出された道具マイクと羽根のあしらわれたデザイン 

蘭子「よしっ!」 

愛梨「あわっ!?」 

ひとつ息んだ蘭子が座席から立ち上がる 

愛梨「蘭子ちゃんあぶないよっ!?」 

美玲「ちょ、何してんだオマエ!」 

大して天井の高くない車内、座席から立ち上がり、彼女は更に座席の上に土足で立った 

蘭子「わぶっ!?!?」 

そうなると自然、彼女の上半身は天井の大穴から乗り出すことになる。強い風が彼女の整えられた髪を強く吹き抜け、顔面を叩いた 



ガァアアアアー!!!! 



吹き荒れるのは風だけではない、黒い竜巻のように荒れ狂うカラスの大群が装甲車への正面衝突から蘭子へ狙いを変える 

天井は幾分か修復されてもそこに設置されていた銃座は未だ影もない。彼女の上半身は無防備だった。 



そこへ黒い大きな影が殺到する 
408 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/03(水) 15:39:06.93 ID:/eGgr8ux0



蘭子「__我が魔砲、喰らうがよいわ__」 

「__えっと......えいっ!!」 


その声は風に巻かれて彼女自身にも聞こえない 



だが前方から迫るカラスの群れに向けて、確かに杖を振った 


蘭子「(えっと、こうやったら前の武器も使えたよね......これでいいかな?)」 



強風により綺麗なフォームとは言えないがとにかく杖を前めがけ振った直後にそんな心配が頭をもたげる 





その不安は全くの無用だった 


美玲「___あぁ?___」 




上も前も黒々とした影に覆われていた視界がにわかに明るくなった 



愛梨「わっ!?」 




___ゴッ!!___ 





黒と対になる白が空間に充満する 



そして蘭子を中心として破壊的な光が拡散した 



それは日光が影を消し去るようにカラスを飲み込み羽一枚残さず消滅させていく 




やがて光が収まったとき、そこには道路を走り続ける装甲車が一台あるだけだった 



美玲「うおっ!?なんだ今のッ!?蘭子がやったのかッ!!すげぇッ!!」 

蘭子「ふ、ふん!他愛ない!これぞ魔王の力ぞ!」 

蘭子「(あわわ......周りのビルまで跡形もなくなってるぅ......こ、ここまでのことになるなんて思わなかったよぅ......びっくりした)」 

愛梨「目がチカチカします...」 


身を乗り出した蘭子を愛梨が優しくひっぱり戻しながら目を瞬かせた。 


蘭子の手からあの杖は消えている。どうやら効果は一度きりらしい 
409 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/03(水) 15:41:15.36 ID:/eGgr8ux0



美玲「ビルの二階から上が全部消し飛んでる......って、うえぇあのカラス野郎、まだまだいるじゃんか」 


安心したのか美玲が装甲車の速度を落とす。 


辺り一面の”見晴らしが良くなった”ことで美玲たちは朧げに状況を悟り始める 


どうやらカラスは自分たち以外にも標的があるようで、遠目に見ていくつかの場所に集中して飛び回っていた 


特に高層ビルの集中しているあたりと、逆に都市郊外の住宅が立ち並んでいそうな場所の二箇所が顕著だった 



そして、 


愛梨「あれ?カラスさんのせいかと思ってましたけど......お空が暗くなってきてますね?」 


装甲車の窓越しに空を見上げた愛梨が指摘した 

美玲「ホントだ。日が暮れたのか?...でも太陽なんかウチ見てねえぞ?」 

蘭子「訪れた黄昏よ.........うむ?」 



赤と紫のグラデーションからすこしずつ黒くなっていく空を天井の穴を通して見上げていた蘭子が何かに気づく 

暗くなっていく空の中に何かある。 


それは最初から当然のようにそこにあったかのごとく動かないまま姿を浮かび上がらせる 


まるで昼時には明るさに紛れて見えなかっただけのように、暗さに比例して輪郭をあらわにし始める 



愛梨「あれって......」 

美玲「太陽はないのにコッチはあるのかよ」 

蘭子「ふむ、美しい...」 





それは月だった 




夜が訪れる事で隠れていた姿が見えるようになったのだ 


まるで、昼の空に姿を隠しこっそりと下界を覗くことに飽きたように 

ちなみに池袋晶葉はその月を、 

否、月の形をしたボットを「CHIHIRO」と名づけていた 
410 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/03(水) 15:43:32.29 ID:/eGgr8ux0

空が完全に暗黒に満ちる。 

ここでようやく三人は空の変化が自然現象に比べて早すぎることに気づいた 


愛梨「はわー...きれーですね!」 


装甲車を停め、三人でしばしの間夜空を見上げていた 

やがて空を覗かせていた天井の穴も愛梨の能力により閉じていく 


愛梨「あらら、閉じちゃいます...」 

蘭子「果実の魔法よ(愛梨さんの能力ですね)」 

美玲「じゃあ蘭子、ウチと運転交代だなッ」 

少しずつ見えていた空が狭まっていく。 

美玲は運転席から後部座席へ小さい体を滑り込ませ、入れ替わるように蘭子が運転席に腰を下ろす 



美玲「そーいや、蘭子って今パーカーなんだな、その黒カッコいいぞッ!」 

蘭子「え?...そう?......えへへ」 

愛梨「私も今うさちゃんですよ?ほら、ぴょーんぴょーん♪」 

美玲「ウサギはオオオカミの餌だぞッ、がるるる!!」 

愛梨「ええっ!?」 


美玲が蘭子の座っていた位置にぽすっと腰を下ろすともう一度空を見上げた 

ほとんど直りかけた天井には今や丸い穴はなく、多少大きめの亀裂を残すのみとなっていた 

細長い隙間から明るい満月が覗いている 



その月を何かが横切った 



美玲「げっ、またカラスかッ!?」 

小さな黒い影が一つ、美玲から確認できたのはそれだけ 

愛梨「どうしたの美玲ちゃん?」 

美玲「カラスが飛んでいっただけだ、アイツらまだウヨウヨいやがるからなッ!」 

愛梨「でもこの近くのはみんな蘭子ちゃんが追い払ったんじゃないのかな?」 

美玲「だから一羽だけだったぞ...がるる、一羽なら怖くないモンッ!今度会ったら引っ掻いてやる」 

愛梨「う~んでも私には羽音は聞こえなかったような...?」 

美玲に並んで愛梨も空を見上げる、うさ耳もそれにならってぴこんと揺れる 

運転席では蘭子がコントローラーの操作をなんとか覚えようとしていた 

美玲「そりゃ...離れたところ飛んでるんだから聞こえるわけないだろ」 

愛梨「でも羽音が聞こえないくらい離れたらシルエットが小さくて見えないと思いますよ?」 


偶然か気の迷いか洞察力か、そうして生み出された愛梨の指摘により車内の空気に疑問符が漂う 


美玲「......あれ?」 

愛梨「......うん?」 

蘭子「古の魔導機械...(操作方法がよくわからないよぅ...)」
411 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/03(水) 15:45:43.74 ID:/eGgr8ux0

次の瞬間、影が装甲車内部に侵入してきた。 


美玲「んにゃッ!?」 

正確にはそれは錯覚で、実際には月明かりにより少しは明るかった車内が完全に闇に閉ざされただけだった 

蘭子「ひゃうっ!?」 

ゴォンッ!! 

目の前を照らしていたガラス越しの光が途切れ、慌てた蘭子が車を急発進させる 


愛梨「きゃんっ!」 

美玲「わぷっ」 

反動で小柄な美玲が愛梨の胸に飛び込む形で態勢を崩す 


蘭子「あっ、こうやるんだぁ...!」 

調子づいた蘭子がそのまま車を走らせる 

美玲「ぷはっ、こら蘭子!安全運転だぞッ!」 

愛梨「あんっ......美玲ちゃん、この状態でしゃべられると...」 


やがて車の中に光が戻る。 

月光を遮っていた何かの影から脱したようだ 

美玲「なんだったんださっきのは...がるるる...」 

後部座席で体が絡まったまま、愛梨の肩ごしに美玲が後部ガラスから外を見上げた 



一体何の影が装甲車に闇をもたらしたのか、 

今度はもっと巨大なカラスの大群だろうか、 

警戒心も露にキッと空を睨む 



美玲「___がるっ?」 



睨んだ先に美玲に視線を返す者はいなかった、それは生物ではなかったからだ 


さっきの「何か」とは比べ物にならない巨大な影が月を覆い隠しながら地上に迫っている 



美玲「___蘭子...」 



呆然とした様子で言葉が漏らされる 

蘭子「うむ?」 




どんどん近づいてくる。 

それが風を切る音が聞こえてきそうだ 




美玲「走れ!!!」 
412 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/03(水) 15:46:53.76 ID:/eGgr8ux0

それは落下していた。 

数千トンの質量とともに 






美玲「ペッしゃんこになるぞぉぉおおおおおおおおおおッ!!」 






見た限りで十数階はありそうな 



高層ビルが降ってきた 










































望月聖(ボット)「............」 




ゲーム開始63分経過 

早坂美玲&神崎蘭子&十時愛梨 

VS 

白菊ほたる(ボット)&望月聖(ボット) 

開始 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
416 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/04(木) 23:56:40.31 ID:Og8GrVe+0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
神谷奈緒&北条加蓮&三好紗南 







________________ 

name:烏 

category:ボット 

skill: 
周囲に存在するボット、プレイヤー、 
オブジェクトの防御力及び耐久力を 
一定の時間間隔でゼロに近づけ続け 
る。オブジェクトは耐久力がゼロに 
なると自壊する。 
________________ 





紗南「ど、どく状態、的なぁッ!?」 

奈緒「ガード崩しとか言ってる場合じゃねえっ!!」 

加蓮「いいから走りなってゲーム脳!!」 



破壊の限りを尽くされた住宅街跡地を三人が並んで全力疾走する 

その背後からはカラスの群れが迫る。 

月明かりの下ではその群れの姿は巨大な獣の威容を持ち、何千の羽音が重なり合い渦巻き合い、エンジンの唸りに似た響きを立てている 



加蓮「っはぁ、はぁ...!」 

奈緒「ああくっそ、走りにくいなぁ!」 

紗南「でも、コレって...なんだろ、追い込まれてる気がする...」 




並んだ加蓮と奈緒の間に挟まれる形で並走する紗南が視線だけ周りに走らせながら呟く 

そこには其処此処に転がった瓦礫の山、その上にはまた別の群れが電線の上の雀のように静かに並んでとまっている 

それは三人をどこかに追い込むための障壁のようでもあり、 

プレイヤーの逃走を見張る番人のようでもあった 


奈緒「だよなぁ...!これ絶対誘導されてるよなぁ...!」 

加蓮「かといって、はぁ、今の戦力じゃ...他の方向に、はぁ、突っ切れそうもないでしょ」 


三人は駆ける、追い詰められていく方向へ、 

建物の密集する都会の中心へと為すすべもなく。 

そこには住宅街跡地の数十倍の数を引き連れた、カラスの本隊がいる 
417 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/04(木) 23:57:56.49 ID:Og8GrVe+0

紗南「でも、なんかないの...!このままじゃジリ貧だって...!」 


佐久間まゆ、小日向美穂。 

霧のように消えていった二人の姿を思い出す 


そして背後からは明確な存在感を伴った黒い霧、 

このボットの群れがどこかの誰かの能力なのか、 

ネトゲなどにおけるイベントようなものなのか、まだ判断はつかない 



だが少なくとも何も分からないままにゲームオーバーするのは、ゲーマーとして我慢ならない 



紗南「けほっ!こんなとこで、中ボスの仕掛けたトラップみたいなので、あっさりやられ、ぎゃふんっ!?」 

奈緒「うおっ、紗南!?」 


三人の中で一際小柄な紗南が転倒する。 

あたりは暗く、地面は凸凹で何に蹴躓いたかも判然としない 


奈緒「ちょ、早く起きろ!」 

奈緒が足を止めて声を上げる。その声もカラスの立てる鳴き声と羽音の前では無残に散った 


加蓮「!」 

紗南「いったぁ......くはないんだけど、ちょ、ちょっと待...って」 

加蓮も足を止める。 

紗南の靴の先が瓦礫の隙間に突き込まれるように挟まっていた 

奈緒「あぁもう、ほら手ぇ貸せ!!」 

引き返した奈緒がやや乱暴に紗南の腕を引いた、 

手に握られたゲーム機が乱暴な動作にさらされ通信中の画面が乱れる 

______________ 

name:___ 

category:___ 

skill:___ 

______________ 


紗南「あうっ、やばっ......結構深くまで入っちゃったかも、足抜けない」 

奈緒「うおおい!?なんっだよ、その死亡フラグ!?」 

ア”ア”ァアアアアアアアー!!! 

黒い大群から耳障りな雷鳴がいくつも降り注ぐ。尖った嘴を矢にして一直線に飛来した 

紗南「う、腕がイタタ...!!」 

奈緒「言ってる場合か!加蓮、お前も手伝え!!」 




加蓮「_____いや」 

紗南「え?」 
418 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/05(金) 00:00:04.97 ID:Og8GrVe+0



必死になって叫ぶ奈緒の耳に加蓮の返事が短く刺さる。 


加蓮の視線は紗南の足、そのつま先を潜り込んだ先をを見つめていた 

奈緒と対照に冷静そのものといった様子で、 



加蓮「多分それは___」 





__ゴッ!!!___ 




混乱も、焦燥も、冷静も、その瞬間意味をなくした。 

白くて、そして明るすぎる光が視界を塗り替える 

三人には何が起きたかわからない、カラスも同様にわからない 

とにもかくにもそこでそこで起きたこと、都市の中心から爆発的に漏れ出した光が郊外の住宅街を飲み込みその場にいた全てから視界を奪った 








ゲーム開始63分経過 

北条加蓮&神谷奈緒&三好紗南 

VS 

白菊ほたる(ボット) 

継続中 
419 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/05(金) 00:01:31.44 ID:OAETak2W0










カツン カツン カツン 






加蓮「アタシは『いや、必要ないよ多分その下に道があるから』って言うつもりだったのにぃ」 





奈緒「いや、悪かったって...てっきり紗南を見捨てるのかと思ってさ」 


紗南「でもあの状態でよく気づいたよね、マンホールとか、すごいよ加蓮さん」 



三人は今地下下水道に降りる梯子を上から下へ一列に並んで降りていた。 




仮想現実においても住宅街に水回りが再現されているなら下水道も再現されているだろうと、そこまで考えていたわけではないが、 


とにかく彼女は紗南の足を見て、そして蓋が剥ぎ取られたマンホールとその上にかぶさった瓦礫との隙間に気づいた 



加蓮「とにかく、カラスが追ってこないうちに先に進むよ」 

紗南「うん......よいしょっ!」 



梯子の一番下を降りていた紗南がこれといって不潔さのない下水道の足場に着地する 

照明らしきものもあるがここも地上に負けず劣らず足元は覚束ない 



しかし指針はあった 

420 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/05(金) 00:02:18.71 ID:OAETak2W0


奈緒「で、そのサーチモードだったか?それを使えば他のプレイヤーのいる方向がわかるんだよな?」 

紗南「うん、距離までは分かんないけど、ゲーム機の向いてる方向の直線上にいることはわかるよ」 

紗南のポケットの中から取り出されたゲーム機の画面がチカチカと明滅する。不安定ではあるがかろうじてどこかと通信を行えているらしい 


______________ 

name:_us_k_ 

category:_l__ 

skill:_dfsd__? 

______________ 



奈緒「なんかバグってね?」 

遅れて着地した奈緒が暗闇の向こうに機械を向ける紗南の手元を後ろから覗き込む 

紗南「だから同心円状に電波みたいなのを飛ばすコントロールモードと違ってこっちは一方向にしか通信できないんだって...」 

薄闇の中、ゲーム画面のバックライトにより三人の顔が浮かび上がる。紗南はゲーム機の向きを慎重に調整する。どこにいるとも知れないプレイヤーにピントを合わせるように。 

実際それは針の穴に糸を通すよりも難しいだろう。方向も距離もわからない場所にいる相手を目隠しでスナイプするようなものだ 

加蓮「街の方向に向ければ少なくともさっきの光を出した相手にはつながるかもねー」 

紗南「うん、やってる......あ!」 


蜘蛛の糸を掴むようなか細い手がかり、紗南の能力が何かを掴む 


421 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/05(金) 00:03:56.78 ID:OAETak2W0










______________ 

name:大和亜季 

category:プレイヤー 

skill: 

・・・Now Loading・・・ 

______________ 








紗南「亜季さんだっ!!」 


奈緒「プレイヤーとして来てたのか、あの人ミリオタだし強そうだな」 


加蓮「これ、能力のところロード中みたいになってるけど、どういうこと?」 

紗南「うん?ホントだ能力なしの人は『なし』って出るんだけどなぁ...通信状況が悪いのかな」 


そうこうしている間に画面は乱れ始めた。 

通信状況の悪化している、おそらく通信先の人物である亜季が移動を始めているのだろう 



奈緒「うおっ、急げ!見失うぞ!」 

加蓮「わかってるって...紗南、まだ走れる?」 

紗南「大丈夫っ!ここまできたらぜーーったい最後まで生き残ってやる!!」 



そうして三人はまた走り出した、細い糸をたぐり寄せるように。 


こうしてプレイヤーたちは集い始める 







ゲーム開始65分経過 

大和亜季 能力獲得 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
422 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/05(金) 00:04:29.18 ID:OAETak2W0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
次回開始するチャプターを選択してください 
安価下 

1、輿水幸子&白坂小梅&星輝子&小関麗奈&大和亜季 

2、双葉杏&諸星きらり&堀裕子 

3、早坂美玲&神崎蘭子&十時愛梨 

4、渋谷凛&緒方智絵里 

最近クロスも含めてデレマスのバトルものSSが増えてきましたね。どれもクオリティが高くて焦ります 


423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/09/05(金) 00:17:41.46 ID:ETZAkeKx0
乙です 
4で
424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2014/09/05(金) 00:18:16.01 ID:hoiHAnUt0
3 
425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/09/05(金) 00:18:47.91 ID:ytXpHqoQo
4
426 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/06(土) 23:48:31.04 ID:Dvn6GY6b0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
渋谷凛&緒方智絵里 


今まで平然と歩いていた地面、いや壁に対しておっかなびっくり足を踏み出す 



足は平然と彼女にとっての前方に着地し、ほんの一瞬片足で壁に立つこととなっていた凛本人も重力に引かれることもなかった 


凛「どこにでも立てる...ってこと?舞の能力に似てるといえば、似てるのかな」 


いくらか調子を取り戻した頭で冷静に能力を精査する。 

福山舞。重力を無視した一輪車さばきを振るうための能力 

今の凛の状況はそれに近い。 


凛「でもそれじゃあ、私がさっきの場所から逃げられた説明にはならないし......」 


壁に立ってかがんだ姿勢のまま視線を動かし、壁の途切れた先、つまり路地裏から出た先の道路を見る 



ア”アァアアアアアーー!! 



巨大な翼竜が宙を暴れまわり、それにまとわりついた黒い鳥が齧られ、振り払われ、そして尻尾や羽に叩き伏せられる 

だが次から次へと途切れることなく、無限と見紛うほどにカラスは到来し続ける 


凛「なんなの、あれ......でも、私のいる位置はさっきの場所からそう離れてないみたい」 


少し考える。 

離れた場所に瞬時に移動して、そしてその場で重力を無視した姿勢をとることができる 

凛は取り急ぎそう解釈することにした 



ズズン!!! 



凛「わっ!?」 

ムチのようにしなる尻尾が凛のいるビルの壁面を叩く。 

だがそれは叩くという生易しい表現では済まず、直方体のビルは大きく折れ曲がり崩落を始める 

それは一撃の威力もさることながらカラスの能力により耐久力が大幅に下げられていることも原因だったが、 

凛にそれを察する余裕はない 
427 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/06(土) 23:50:53.52 ID:Dvn6GY6b0

凛「うっそ、でしょ...」 


本来の重力に従い崩れ、隣のビルとの隙間が崩れ落ち始めた巨大な破片に埋まっていく 

自分めがけて水平に飛んでくる岩塊は凛にとって大砲を連発されるようなものだ。 

反射的に走り出すもその地面さえも亀裂とともに平らな部分をなくしていく 


凛「まっ、間に合えっ...!!」 

だが、間に合ったらどうなる?今自分が走っているのはビルの壁、なら自分には今水平方向に重力が働いている。もし壁のない場所に出たら、道路の上を水平に落ちていくのか? 


凛「って、言ってる場合じゃな...い!!」 



前に向けて壁を蹴り、飛び出す。 

背後ではビルが完全に原型をなくしていた 

凛の体は本来の地面にほど近い、空中に飛び出していた 

凛「...」 


薄暗い狭い場所から月明かりの下へ躍り出た凛の目に、周囲の風景が一気に実感を伴い襲い来る 


今にも倒壊しそうな危うげな、まるで廃墟のようになった街並み、その中で事務所だけが無事だった 


月を覆い隠すほどの巨大な生物、その周りを、時に旋回し時に攻撃をしかけている小さな鳥の群れ 


カラスの群れをかすめるように突き立つ矢と、そこから同心円上に広がるモノクロの模様 


同じように空中のあちこちで大小の規模で爆発を繰り返す星型のディスク 


それらの全てが事務所に飛来するカラスを食い止め、爆破し、蹂躙する。だがどこかから次の群れが現れ、一向に減る様子はなさそうだ 


凛「......!」 

事務所の中には明かりが灯っている、二階の窓には何人かの人影。人数を数える余裕もなく逆光で姿も見えないが、 




卯月(ボット)「・・・!」 




その中の一人と確かに目があった 

胸元に赤い光を宿したボットが何かを言ったが、距離があって聞こえない 

凛「(あの場所へ...!)」 

不自然な方向へ働いている重力が凛をどこかに引っ張っていくのを感じた瞬間、凛はそう念じていた 

念じるというほどの強いニュアンスはなかったかもしれないが、それでも彼女の能力は応えた 




凛の視界の端、靴が蒼く光る。月夜に蒼い光が灯る 



次の瞬間には凛の着地は終わっていた 


428 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/06(土) 23:54:40.91 ID:Dvn6GY6b0




凛「なんだか、慣れ親しんだ場所に帰ってきた気分、かな?」 




それなりに空いていたはずの距離を一瞬で詰め着地した事務所の壁面にしゃがみこむ 

今の彼女には階段は必要ない。 

二階も三階も外から地続きに歩いていける場所にあるのだから 





そして、そこに窓があるのなら___ 




未央(ボット)「うえっ!?しぶりん!?」 


アスファルトの地面と違い平坦なコンクリートの壁面に障害物などほとんどない 

それはボットからすればまるで凛が壁を垂直に駆け上ってきたようで、 





ビシッ 






カラスの迎撃のために開かれていた窓とは別の窓に踏み込む 




蒼い足跡が刻み込まれ、砕け散った 



卯月(ボット)「凛ちゃん!?ここ二階だよ!?」 


翠(ボット)「......隙を突かれましたか」 


未央(ボット)「どっちにせよしぶりんとはいずれ戦う運命だったんだね!」 


小春(ボット)「あ、あわわわ...どうしましょう~」 


雪美(ボット)「.........知ってた...」 


十の瞳が彼女を捉えて離さない、対する彼女は涼しげな表情で部屋の中心に降り立った 




凛「さぁ、残していこうか___」 


429 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/06(土) 23:55:26.36 ID:Dvn6GY6b0



「強化」「規制」「地雷」「殲滅」「予知」 


それぞれが強力無比な能力を誇る五体のボット 


だがそれはあくまで距離をおいたうえでの防衛戦にこそ力を発揮するものばかりだった 

そう広くない密室。外からは絶えず襲い来る『夜』のボットの力、内には正体不明の力を使う『敵』のプレイヤー 

挟撃。 

「戦力外たちの宴」にとって、ここが分水嶺であり正念場だった 








ゲーム開始63分経過 


渋谷凛 
VS 
白菊ほたる(ボット) 
VS 
本田未央(ボット)&島村卯月(ボット)&水野翠(ボット) 
&佐城雪美(ボット)&古賀小春(ボット) 

改め 

渋谷凛 
VS 
本田未央(ボット)&島村卯月(ボット)&水野翠(ボット) 
&佐城雪美(ボット)&古賀小春(ボット) 
VS 
白菊ほたる(ボット) 

開始 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
434 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/11(木) 22:00:24.53 ID:uJGFkVjn0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
輿水幸子&白坂小梅&星輝子&小関麗奈&大和亜季 






【ドックタグ】 







「金属やステンレススチールなどの小さな板」に個人を識別するためのデータを打刻して用いる、 

板は「二枚式」のものと一枚式のものがあるが、一枚式のものは中折式となっており二枚に分割できる 

主に「軍隊」において兵士を識別するために使用され、 

一枚は戦死した兵士の戦士報告用に、 

もう一方は遺体を判別するために付けたままとなる 






ピコン 





下水道に小さく電子音が響く 







ゲーム開始65分経過 

大和亜季 能力獲得 
435 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/11(木) 22:03:59.35 ID:uJGFkVjn0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


幸子「......で、たまたまボクらが持っていたこのセンスのない首飾りがそうだったと...」 

輝子「フヒヒ...た、確かに、その説明を聞いたら...亜季さんの、き、キーアイテム?......だな」 

幸子「より効率的に使える方がいるのならお譲りするのを渋る理由もありませんよね!ふふん、ボクは太っ腹ですからね!」 


小梅「えっと、えっと...これって、あのお屋敷で、み、見つけたんだよ...ね?」 

輝子「そうだ、たしか...うめちゃんが、も、持ってきたん...だよな、すごいぜ」 

幸子「フフーン!さすがボクの仲間だけあっていい働きをしましたね!褒めてあげます!」 


輝子「フヒヒ...よしよし......すごいぞ、うめちゃん...マイフレンド」 

小梅「え、えへへ...」 


それはプレイヤーのグループ同士における、お互いの装備の確認中の出来事だった 


このゲームのルールに沿うのなら、本来他のプレイヤーもまたボットの討伐数を競い合う相手ではあった。 

だがボットの強力すぎる能力を目の当たりにした以上、今更人間同士で争うという発想はなかった 



そういった経緯のもと五人、正確には二人と三人は互いの装備を確認しあい、いくつかの銃器に埋もれたブレスレットに亜季が反応し、今に至った 



亜季「幸子殿、輝子殿、小梅殿...それで、こちらは本当にいただけるので?」 

幸子「小梅さん、いいですよね?」 

小梅「う、うん......いいよ?」 

亜季「かたじけない!!!」 

小梅「ふわっ...!?」 

亜季「この恩は戦果を以て返させていただくであります!!!」 

輝子「フヒヒ、ちょっと、お、おおげさな...ような」 

小梅「あう...」 



大仰なまでに感謝の姿勢を示す亜季に尻込みする。 




麗奈「で、どーなのよ亜季?」 



そんなやりとりを横目に、 

通路の床に並んだ物騒な装備をぼんやり眺めていた麗奈が顔を上げる 

436 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/11(木) 22:06:43.75 ID:uJGFkVjn0


麗奈「なんか変わった?」 

亜季「むむ、変化でありますか...ところで麗奈は何を?」 

麗奈「いや、別に...ただアタシは能力のせいで銃とか使えないなーって思っただけ」 




幸子「...?、そういえばさっきの爆発も麗奈さんの能力なんですよね」 

麗奈「そーよ、触ったものがバクハツするの、おかげで石ころとかゴミしかつかめないわ...」 

小梅「あ、そっか、ぴ、ピストルだと...ぼ、暴発しちゃう.......ね?」 


数丁の拳銃とショットガン、マガジンを前にどこかふてくされた様子でいる麗奈だが、先ほどの誤爆の責任を感じてか覇気がない 



麗奈「アタシのことは今はいいのよ...で、亜季はどんな能力な訳?」 

亜季「ふむ、これといって体調に変化は見られないようでありますが...」 


右手にドックタグを掴みぶら下げたまま、自分の体を見回す。 

五人の中で最年長の上しっかりとした体つきの亜季は身長もそれなりにあるが、その体に見かけ上これといった変化はない 


小梅「う、腕がグロ、グロテスクな触手に変形、したりとか...!」 

輝子「か、髪から、胞子が飛んだりとか...フヒヒヒ!」 

幸子「なんですかそれ!?」 

麗奈「やめなさいよ変な予想は!アタシのユニットなのよ!?」 



その後亜季はくるくるとその場で回ってみたり、輝子のように手拍子を叩くもなにも起きなかった 



亜季「それより私が気になるのは...このタグの打刻された内容であります」 

麗奈「内容?あんたの話じゃなんだか個人を見分ける文字だそうだけど」 

幸子「何が書かれてるんです?」 

亜季「50、であります」 

小梅「ご、ごじゅう...?」 



亜季が細い鎖につながれたプレート二枚を四人の前に持ち上げる 

輝子「ホントだ...50って、数字だけ書かれてる」 



暗がりの中だからわかりにくいが、わずかな光を跳ね返し確かにそこに「50」の字が刻まれていた 



麗奈「なんの数字なのかしらね、残弾数?それとも能力とはなんの関係もないのかしら...」 

幸子「というか...これだけではちょっと判断がつきかねますね...」 

輝子「ま、まぁ...ここならあ、安全だし...いろいろと、試したらいいんじゃない、かな...」 


首をかしげている亜季たちに恐る恐るといった風に輝子が提案する。 


彼女もここまでの戦闘や闘争で精神的に疲弊していることもあり、休憩したいという思いもあった 
437 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/11(木) 22:09:03.54 ID:uJGFkVjn0



_そして_ 



小梅「う、うん、それが...いいと、お、思う......お外は、怖いし」 




_ボットたちは_ 





亜季「そうでありますなー、ではもう少しだけブリーフィングとしましょうか」 




____そんなプレイヤーの事情など察しない 














浜口あやめ(ボット)「......見つけました」 


















この数秒後、下水道の一部が文字通り消滅する 






438 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/11(木) 22:11:02.19 ID:uJGFkVjn0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 

浜口あやめ(ボット)「......見つけました」 




???「...何人ですか?」 



あやめ(ボット)「【銃】が2丁、別々に動いている気配...これは2人ですね 

そして反対方向から【キーアイテム】が一つと同じく銃が数丁、これは......2、いえ3人?」 



???「ということは多くて五人...蠱毒を行うには申し分ない人数ですね」 

仮想現実の街並みは変化をはじめる。 

月明かり以外の光源として街灯が灯り始め、しかしビルの灯りは点いておらず、それによってゴーストタウンじみた空気を街中に漂わせている 



今その街を支配しているのは空を埋めつくすほどのカラスだけだ 


その街灯の一つが作り出した小さな光のスポットの中、二つの影がひっそりと存在していた 


あやめ(ボット)「そうですか、しかしわたくしは忍ゆえ、正面きっての白兵戦は不得手なのですが...」 


???「...史実では忍者の仕事は間諜と暗殺だったとも言われてますが......暗殺は戦闘とは違いますね...」 


その一方、浜口あやめはアスファルトに手をつき、地面を睨んでいる 



正確には【地面の向こう側にあるアイテム】を見極めていた 



彼女の能力、アイテムを見分け、見抜く力、その応用だった。 



???「『夜』はボットの能力の性能が上げる......それによってレントゲンのように...アイテムや、武器だけを見透かしているわけですか」 


あやめ(ボット)「元々私の能力は重要なアイテムほど光って見えるというもの、闇の中でこそ力を発揮することは分かっていました」 


地面につけていた手を離し、かがんでいた態勢を起こしたあと、もう一人の方を見遣る 

その一人は街灯の光の輪の届かない場所に佇み、半身を闇に沈めているため表情は伺えない 



あやめ(ボット)「で、どうするのです......どこかのマンホールから侵入するのですか?」 

???「いえ、実は...あやめさんには会わせてませんでしたが...私はもう一人、別のボットと一時的に...そう一時的に手を組んでいるので、そちらの方に」 

あやめ(ボット)「それは共同戦線、ということでしょうか?」 


闇の中で静かに、ゆっくりと言葉を紡ぐもう一人のボットから聞かされた事実にあやめはやや怪訝そうな顔をしながら質問する 


デパートを出た後に偶然遭遇できたボット、『夜』が訪れてもなお一切の戦闘に備える兆しを見せようとしない、その能力さえ不明なボット 

街灯が逆光になり表情は見えないが、月明かりが辛うじて浮かび上がらせた長髪が揺れたように見えた。 

顔をこちらに向けたらしい 

???「......いいえ?」 
439 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/11(木) 22:14:01.93 ID:uJGFkVjn0

あやめ(ボット)「いいえ、と言いますと?手を組んでいるということは共同戦線とは違うのですか?」 


???「...あの子は私と違って一騎打ちがお望みだそうなので...今も街中を駆け回って相手を探しているのでしょう」 

あやめ(ボット)「一騎打ち、一対一......なるほど、あなたの言う蠱毒、集団戦とは真逆ですね」 



???「ですが...そろそろ、戻ってくるでしょう...場合によってはあの子は私の能力が必要でしょうし」 

あやめ(ボット)「......あなたは、」 


あやめが一歩足を動かす、もう一人から離れるように 


あやめ(ボット)「能力ぐらいは明かしても構わないのでは?あなたの話では我々ボットは、できるだけ多くの情報を有していたほうが有利なのでしょう?」 



???「先ほどから常時、使わせていただいてますが...」 



一歩、光の輪の中に踏み込んできた。 

あやめが警戒の意図から離れた距離を詰めてくる 

首から下が光の中に浮かぶ。 

あやめ(ボット)「...?なんですか、それ」 

首から下、腕の中に何かを抱えていた。 

あやめが目を凝らすが能力は発動しない。アイテムではないようだ 

なら何を持っているのか、あやめの能力に引っかからない物品はそれは何の効果もないものか、ボットやプレイヤーのみだ 



???「分かりませんか?......さっきからあちこちで見掛けているので、知らないということはないでしょうけど...」 



黒っぽいものが腕の中で蠢く、それは 



あやめ(ボット)「あの厄介なカラスではありませんか...!」 



あやめが更にもう一歩、後ずさる。 

もぞもぞと、目の前の腕の中で動いているのは確かに一羽のカラスだった 



仮想現実を蝕み無差別に荒廃させる能力を振りまく災厄の一部。 



それが無抵抗に抱かれていた 



その行為によって彼女の体に変調があるようには見えない。 



???「違和感を覚えませんでしたか?......私たちの周りだけカラスが来ないのが...」 


あやめ(ボット)「!...そういえば.........っ!?」 

440 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/11(木) 22:17:42.01 ID:uJGFkVjn0


あまりに周りが静かすぎる。 

遠くからは羽音や鳴き声が絶えず鳴り響いている。 

だが、それが一向に近づいてくることがない 



そして辺りを見回したあやめはその違和感を正体を見つける 



???「......そろそろ、あの子も戻ってくる頃でしょうか...一応この付近から離れはしないと伝えておきましたが...」 



大人しくなったカラスは一羽だけではなかった 


街灯の作る影だけではない、道路のあちこちにカラスはいた、おそらく大分前から。 


だがどの個体も動こうとしていない 


あやめ(ボット)「これは......」 

例外を除いてボットの死体はこの世界に残らない、ならこのカラスは倒されたものではない。 



だがどの一羽にしても飛ぶどころか攻撃的な様子も見せない 



道路にも能力が使われたような亀裂や風化は見られない 



全くの無害な様子で、躾のされた伝書鳩のごとく鳴き声ひとつ立てずそこにいた 



???「ほら、あやめさん...来ましたよ」 

あやめ(ボット)「...これは一体...」 


???「あの子が先陣を切ってくれます、私たちは少し下がっていましょう」 





闇の中、停止した鳥の群れの中、ボットたちは動き出す 







この数秒後、下水道の一部が文字通り消滅する 




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
441 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/11(木) 22:19:43.17 ID:uJGFkVjn0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
そこは都市の中の死角、 

建物と建物の間の奥まったスペースにひっそりと存在した 





こずえ(ボット)「あすかー......これなにー?......」 





小柄なボットが窓から漏れる薄い月明かりだけを頼りにした室内を器用に歩き回っている中、「それ」に気づいた 


それは一見するとただ壁に貼り付けられただけの紙切れ、 

だがそこには今となっては連絡の途切れたボットの一人が残した有用な情報となるはずのものだった 



飛鳥(ボット)「ありすが残してくれたメモさ、彼女が己にできること以上を残そうと足掻いた証、といったところだろうね」 



橘ありす 

ボットとプレイヤーの位置情報の収集に関してトップレベルの能力を有したボット、 

タブレットや遠距離でも使える連絡手段を持たない味方のボットのために彼女が残した情報 



こずえ(ボット)「......ありす...?......でもー、ありす...いないよー?」 

白い髪を揺すり小柄な少女が小首をかしげる 

窓際に腰掛け、エクステを垂らしながらもう一人の少女は静かに外を見た 



飛鳥(ボット)「...そうだね......確かに彼女はもういないよ」 



視線をメモに、今となってはおそらくなんの価値もない情報の群れに戻す 



そして絵本でも読み聞かせるようにメモの一枚を読み上げ、言葉を添えていく 
442 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/11(木) 22:24:02.36 ID:uJGFkVjn0


『A、三人ひと組で行動中のボット、一人のプレイヤーと接触中』 



飛鳥(ボット)「これはニューウェーブ、そして蘭子のことだね」 

こずえ(ボット)「...そうなのー?」 

飛鳥(ボット)「ああ、あれは蘭子の声だった......ボクの能力で探った結果が正しいとするなら、ね」 




『B、同じく三人ひと組のボット、ただしプレイヤーと接触後一人が別行動を開始』 



価値をなくした不完全な情報の不足部分を補う。 

それはまるでメモを残した者への弔詞のようで、 



飛鳥(ボット)「これはにゃんにゃんにゃんの三人だよ......最も、別行動中だったのあさんは合流したうえ、人数も二人になったようだけどね...プレイヤーの方は美玲、だったかな....?」 



『C、一人で行動、何人かのボットとプレイヤーと接触するも戦闘はなし、原因不明』 



飛鳥(ボット)「ここに書かれているものが示しているのはとあるボットのことだよ、こずえも会ったはずさ...記憶をたどってご覧よ」 

こずえ(ボット)「...うーん......えっとー...あつみー?」 

飛鳥(ボット)「正解、愛海のことさ......彼女とはもう少し話をしたかったね」 



『D、三人ひと組、町外れにて待機中?』 




こずえ(ボット)「...これはー?」 

飛鳥(ボット)「...ほたる、聖、そして藍子さんだよ......今頃思う存分能力を振るっているんだろうね、それがボットの存在意義だと言わんばかりにさ...」 

こずえ(ボット)「のーりょくー......いいなぁ...」 




こずえの隣に並びながら壁に貼られた文字を目線だけでなぞっていく 


不意にその目線が止まる。 


視線の先には他の物と同じ一枚のメモ 


443 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/11(木) 22:26:08.71 ID:uJGFkVjn0


こずえ(ボット)「ねー...あすかー......これはー......?」 


立ち止まった飛鳥の服の裾がくいくいと引かれる 



飛鳥(ボット)「................」 

メモを二度、三度見直す。 

自分の能力で盗聴した中にこれに該当する者はいなかった。 



だったらこれは 



飛鳥(ボット)「......これは......いや、君は......」 



『E、休むことなく街中を走り続けているボット、マキノさんによる勧誘は困難』 



......誰だ......? 





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
444 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/11(木) 22:28:36.34 ID:uJGFkVjn0



ジ、ジジジジッ 



輝子「フヒ...?」 


それは小さな物音だった 



幸子「では、こちらの弾丸は頂いても?」 

麗奈「アタシたちの武器に入るサイズじゃないものね...まぁ、精々感謝しなさい!」 

小梅「これ...しょ、ショット、ガン...?」 

亜季「そうでありますな、残りの弾数が数える程しかないのが不安ではあります」 



他の四人は並べた装備を吟味し、その分配を決めていいる 

そこから少し離れた場所で暇を持て余し気味だった輝子は壁に備え付けられた照明器具の、その向こうから届いた音を感じた 



輝子「あ、あの...さっちゃん、うめちゃ...」 

幸子「というかそもそも!...これだけでは圧倒的に戦力不足なんですよ!どこかに武器を探しに行きましょう!」 

亜季「なるほど、まずは補給ということでありますか、五人もいれば探索能力も期待できるでしょう」 

輝子「あぅ...き、気づかれて、ない...」 



いつの間にか話は今後の行動指針の話にシフトしていた。彼女の声が掻き消える 



ジジッ!! 


その間にも音は鳴り続けている。心なしか音量が大きくなっているような気もしてきた 


輝子「(何の音だろう...?)」 


ひんやりとした壁に恐る恐る耳を当て、音源を確かめる 



小梅「あ、亜季さん...まだ、の、能力...分からない...?」 

亜季「残念ながら、音沙汰なしであります」 




ジジジジジジ!!! 
445 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/11(木) 22:32:08.83 ID:uJGFkVjn0

厚い壁の向こうには確かな存在感があった。輝子はその音の心当たりを胸に聞く 


輝子「(蝉の声...?...じゃなくて、蛾...)」 



ジジジ! 



輝子「(飛んでる蛾が...夜の街灯の近くでこんなふうに...音を)」 



輝子「(ううん?......あれって蛾の飛ぶ音じゃなくて)」 



ジジジジジジジジジジジ!!!!! 


輝子「(誘蛾灯とかに近寄り過ぎた蛾が......)」 






ジュウッ!! 

輝子「(焼ける音)」 






バギン!!! 


内壁を断ち割り、 

亀裂を押し広げながら下水道内を膨大な量の光源が侵食し始めた 



麗奈「ふわっ!?」 

下水道が昼日中と同じくらい明るくなる。 

ここにきてようやく他のメンバーも異変に気づいた 


輝子「フ、フヒ!?」 



ギャリリリリリリリリ!!! 


チェーンソーのように火花と音を立てながら、姿を現した何かが下水道をじわりじわり突き進む 


小梅「しょ、しょーちゃん!...こ、こっち!!」 

輝子「お、音が...!!し、してたのに...教えられなかった...」 

幸子「それはいいですから!」 

腰を抜かしかけている輝子を幸子が引っ張り、その幸子を亜季が引き寄せる。反対側の腕には麗奈が既に確保されていた 

ジリッ!ギャリリリ!!!! 

それは例えるなら「侵食」 

アセチレンバーナーの光の塊に似た何かが音と光をまき散らしながら暗闇と、そして壁材を食い尽くしていく
446 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/11(木) 22:34:32.38 ID:uJGFkVjn0

光の柱が下水道の壁をゆっくり動いていく、 

その後ろには鉱物が焼き切られたような痕が細く続いていく 



ジジジジジジジ!!! 


プレイヤーの方を向くわけではなく、ただ淡々と右から左へ一定の速度でその通り道にあるものを断ち切っていく。 


麗奈「なによこれ!?光ってて何がなんだかわからないじゃない!!」 

小梅「ま、眩しい...みえ、見えない...」 


そして光の柱が反対側の壁に埋もれていく、下水道から喧騒が去る。暗闇が戻る 


小梅「えっと、あれ...?」 

亜季「こっちの被害はないでありますな...?」 

幸子「フフーン!どうやらどこかのボットさんのはカワイイボクには掠りもしなかっ」 

ギャリリリッリリリ!! 



輝子「フヒヒャッ!?」 

幸子の腕の中で輝子が飛び跳ねる、 

輝子が振り返った先、数メートル離れた場所からまたもあの光の塊が壁を断ち割ってきていた 



ギャリリリリジジジジジジジジ!!!! 



亜季たちがそこから距離を取る。 

さっきの切断痕が未だに熱されたように赤く発光している 


麗奈「これって、アタシたちを挟み撃ちにするつもり...!?」 

亜季「相手はおそらく大まかにはこちらの位置を掴んでいるのかもしれませんね...」 

小梅「ち、チェーンソーで...扉を壊されて...家の、中に...侵入、される...ホラー映画で見た...!」 


光の刃が出てきた方とは反対側の壁に抉り込む。火花が散る 

亜季「しかし、一旦この付近から離れるべきなのは確か...」 

輝子「に、逃げるか...」 

亜季「退避します!」 


光の刃が完全に壁の向こうに消えた。 

その後には焼き切られた壁材が赤く熱された痕を引いている 



幸子「今のうちですっ!!」 


447 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/11(木) 22:37:41.38 ID:uJGFkVjn0

麗奈「ちっ、ここは逃げてやるわよ...」 

小梅「ま、また、走るのぉ......?」 

輝子「み、道が...見え、ない...」 

だが暗闇の中を強烈な光に侵され、そのあと闇に戻された今、五人の目もまた闇に不慣れな状態に戻されていた 


そして、敵対者、ボットの目的は既に半分以上果たされていた 


ガゴォンッ!! 


「!?」 

重力が狂う。 
世界が反転する。 


「光」が断ち切った部分が歪み始め、五人のいる地面が持ち上がり始めた 


地震のあとの地盤のズレのように、 
切り取り線のように、 


五人のいた区間だけが周りから切り離され、傾き始める 


麗奈「ぎゃふん!!」 

幸子「げふっ!...が、顔面からぶつかってもカワイイボげふっ!?」 

小梅「わ、わ、わ...す、すす滑ってく...!」 

輝子「ヒャアアアッハアアア!?」 

狭い空間に破壊音と阿鼻叫喚が綯い交ぜのままコダマする 

亜季「...まさか......これは...!」 

一秒と同じところに立っていられない程の震動の中、 

亜季が手の届くところを「転がり落ちそう」になっていた麗奈と輝子を腕に抱え、なんとか態勢を整えようとする 


ベキッ!ベキャベキャベキキッ!! 


下水道の天井がひび割れる、いや天井かどうかはもうわからない。 

明らかに致命的な破壊を実感させる規模の亀裂が下水道を覆いつくさんばかりに拡散する 


亜季「まさか...」 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴン!! 

地面が持ち上がるような感覚が足を登ってくる 




亜季「私たちを下水道と地盤ごと地上まで持ち上げっ」 



天井に広がった亀裂から明かりが覗く。 

それは月光だった___ 




こうして亜季の予感は的中し、下水道の一部が消滅した 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
448 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/11(木) 22:39:55.06 ID:uJGFkVjn0

固い土壌の地面をスコップでめくり返したように、下水道も地上もその区別をなくして隆起する。 


ガゴンッ!! 


五人の体が石材とともに宙に投げ出された。 


唯一地面の割れ目に引っかかるようにして投げ出されずに済んだ幸子が這々の体で石塊から抜け出す 



???「.........1、2...やはり五人ですか」 

幸子「え?」 



混乱する頭で、それでもその静かな声を捉えた 

その影は絶妙な位置取りで街灯から全身を照らされない地点にいたため首から上は見えない 


幸子「な、なんですか、その格好...」 

自慢の髪や、衣服を乱しながらやっとのことそれだけの言葉を吐く。 

???「なにか...変な所があったでしょうか...?」 


身を隠すためなのか闇に紛れる暗色の青を基調とし、 

しかしそれと対照的になるな金の装飾が施された「衣装」 

あまつさえ背中には長いマントがひらめいている。そして腕の中にはカラス 


明らかに今までのボットとは違う、装備が、雰囲気が、 

そして危険度が 


???「幸子さん、そろそろ気をつけたほうがいいですよ?」 

幸子「へっ?」 


ゴガァン!!! 

幸子の上に瓦礫が降り注いだ。 

破壊と自壊がその地点を埋めつくす。 



幸子の姿が見えなくなった 

他の四人を巻き添えにしながら上空に放り上げられていた巨大な瓦礫の数々が重力に引かれまた落ちてきたのだ 

???「.........これで終わられても困りますね」 

バコッ 

壊れた瓦礫の山が膨れ上がる、下から何かが押し上げていた 

バガァン!! 







輝子「ヒィイイイイイヤッハハァアアアア!!!」 

ミドルキノコ1「FFfFFfFFF!」 

ミドルキノコ2「FFfffff!!」
449 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/11(木) 22:42:19.67 ID:uJGFkVjn0

大小の差をものともせず瓦礫を吹き飛ばしながら姿を現したのはキノコだった。 

だがその身の丈2メートルはある上、雄叫びを上げている 

そしてキノコの傘に守られるようにして他の四人の姿があった 


麗奈「おおう、やるじゃない...」 

小梅「ま、マタンゴ...み...みたい」 

幸子「し、死ぬかと思いました...ボ、ボクはカワイイので、そんなことはあるはずありませんけど...」 


亜季「...これは、あのボットの仕業ですかな」 


亜季が足元の岩をどかしながらいち早く敵に狙いを付ける。 

いつの間にかベルトやポケットにさっきまで並べていた拳銃が挟んである。 

どさくさの際に確保していたのだろう 



輝子「知るかァ!!ヒャッハァアアア!!蹴散らせ!!」 

ミドルキノコ1「FFf!」 



危険にさらされたことで神経が昂ぶっているのか、テンションが吹っ切れた輝子が影に向かって叫ぶ。 

そしてそこ目掛け足を生やしたキノコが魚雷のように突進する。 


???「私では...ないのですけどね」 




光剣 


その何かを表す言葉はそれしかない 




有り余る長さの、光の刃が猛進するキノコを上下に真っ二つにし、周囲を昼間と同じ程に目映く照らし、五人のいる場所を切り裂きなぎ払った 


輝子「マイフレエエェンド!!??」 

小梅「ま、またっ...まぶしい」 


どこから伸びてきたのか分からないほどの長さの、大蛇のように時折しなる様な動きを見せながら光る何かが場を蹂躙する 




ガアアアアアアンン!!!! 

五人がバラバラの方向に吹き飛ばされた 



亜季「(戦力の差がっ、ここまで...!!)」 

麗奈「亜季!!」 

幸子「こ、小梅さん、輝子さっ」 

ある者は背中から墜落し、ある者は地面の上を転がっていく 
450 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/11(木) 22:45:25.60 ID:uJGFkVjn0



輝子「うめちゃん、あ、亜季さん...み、みんな...!」 



一体残ったキノコが自動的にその身を守っていた輝子だけが、 

呆然としながらも周りを見回す余裕があった。 



亜季が一際遠くに転がっていく 


麗奈が路地裏の方向に投げ出されていた 


小梅と幸子は偶然同じ方向に飛ばされている 



自分は、キノコが一体いるだけ。 

そしてすぐ前には影となったボットが一体 



輝子「(違う、ボット...もう一体...いた!)」 

???「気を付けてください...」 

輝子「ヒッ!?」 

???「どうやらこのカラスには...物が壊れやすくなる力があるようなので...」 



ビシッ 



輝子「ハ?」 



轟音、 

光剣、 

倒壊 


仮想現実の一角で 

一棟のビル一部が 





ナイフにスライスされたバターのように「斜めに削げ落とされた」 




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
451 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/11(木) 22:49:26.66 ID:uJGFkVjn0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
星輝子 



耳鳴りがしそうな音が止んだあと、私はマイフレンドの下から這い出した 



輝子「フヒゥ......なんてこった...マイフレンド」 


四つん這いのまま背後を振り返ると、丁度石やガラスまみれになって潰れたおっきいキノコが消えていくところだった 


輝子「すまない...ゴメンよ...」 


周りは崩れたビルが高く高く積み重なっていてバリケードみたいになってた。 

高さが私の身長の何倍もある 

さっちゃんもうめちゃんも、いない......またボッチになっちゃった 



亜季「輝子殿、大丈夫で...ありますか?」 

輝子「フヒッ!!?」 

亜季「落ち着いて」 



いつの間にか亜季さんが膝をついた状態で隣にいた 

よ、よかった......ボッチじゃなかった。あれ、じゃあ麗奈は... 


亜季「いいですか、よく聞いてください」 

そのまま亜季さんがヒソヒソバナシをするみたいな小さい声で話しかけてくる。視線は別の方向だ 

亜季「私たちはどうやら分断されてしまったようであります」 

輝子「ぶん、だん...?...フヒッ!?」 



亜季さんの目線を追った先にさっきのボットが立っていた 

顔は相変わらず見えないけど、マントみたいなのがヒラヒラしているのは見えた 



???「......」 



亜季さんはえっと...警戒心?を張ってそのボットを睨んでいる 

亜季「私たちはそれぞれ別のユニットを組んでいます、なのでここで私たち二人を倒すことで結果的に五人全員を倒すつもりなのでしょう」 

輝子「.........あっ!?」 

最初何を言われたのか分からなかった、けど思い出した。 

さっきの地下で麗奈が言ってたこと 




ユニットメンバーがひとりでも倒されると残りのメンバーもゲームオーバーになる......! 


452 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/11(木) 22:53:34.85 ID:uJGFkVjn0

???「確かに...それも効率的、ですね」 

亜季「!!」 


???「一つ訂正を加えるなら、これは私ではなく......もう一人の意向によるものです」 



パァン!! 

輝子「っ!?」 

亜季「この音は、麗奈の能力...」 


ビルの瓦礫を挟んだ向こうから破裂音が小さく響いてきた。 


......誰かと誰かが戦い始めてる? 


バガァアアン!!! 


破裂音が聞こえてきた方向から次は太陽みたいな眩しい光が溢れ出てきた 


亜季さんや私、あとボットのいる場所が一瞬だけ明るくなる 




???「おや、これはいけないですね...」 


輝子「あ...」 






その光がボットの全身を照らした 















古澤頼子(ボット)「...怪盗は、そうそう正体を表さないものなの...ですが」 



453 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/11(木) 22:55:19.33 ID:uJGFkVjn0



シルクハットに片眼鏡、マントとスーツをはためかせて、そこに立っている 



頼子(ボット)「.......では、壺の中に多少の『仕切り』が出来てしまいましたが___」 



カラスの羽音がどこか遠くから響いてくる 

隣で亜季さんが銃を構える音がした 






頼子(ボット)「蠱毒の舞台を始めましょう」 





ゲーム開始70分経過 

大和亜季&星輝子 

VS 

古澤頼子(ボット) 

開始 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
454 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/11(木) 22:58:57.27 ID:uJGFkVjn0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
輿水幸子 



今のボクは全く「らしくない」 



意気揚々と小梅さんと輝子さんを導いているつもりで、あっさりと返り討ちにあい、 

薄暗い地下におめおめと逃げた矢先に爆発事故、危うく輝子さんを傷つけさせてしまうところでした 

挙げ句の果てには土の中にこそこそ隠れているモグラを堀り返すみたいに、あっさりあぶり出される始末 



幸子「これでは、いけません......ボクはカワイイのですから...何者にも屈してはいけないのです」 


手の中の重さをもう一度確認する 


あの光剣?とにかくぴかぴかと眩しいばかりの妙な攻撃で地盤ごと掘り起こされようとしていたとき、とっさに掴んだ一丁の銃 

弾丸は確か...8発。 

亜季さんにもらった弾はすべて装填してあります。 

逆に言えばこれがボクらを守る最後の盾にして矛なわけです 



幸子「どうやら...また、あの光っている何かで壊されたビルが障壁になっているようですね」 

あたりに人影はない、はぐれましたか? 



小梅「......さ、さっちゃん」 

と思っていたら近くの別のビルの影から小梅さんが顔をのぞかせました 

どうやらボクより先に身を隠していたようです。 

ボクもそれに倣い小梅さんの横に駆け寄りました 



幸子「小梅さんは無事だったんですね...ところで薄々予想はつきますが他の方々は......」 

小梅「た、多分...瓦礫の向こうに...ば、バラバラに...なっちゃった...?」 

幸子「ですよね...ユニットメンバーのボクらが無事ということは輝子さんも無事ではあるんでしょうが」 



さっき見たカラスを持ったボットはいません、しかし空を見上げると其処此処に黒い影が飛び回っているのが見えます 



幸子「このカワイイボクが目を離したせいで、随分と街が様変わりしてしまいましたね」 

小梅「ご、ゴーストタウン...」 


その小梅さんの例えは的を得ていました、確かに目に付く建物はどれもガラスが割れ始めていますし建物シルエットもどこか古ぼけています 
455 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/11(木) 23:02:13.09 ID:uJGFkVjn0


幸子「十中八九あのカラスのせいでしょうね、確かそんなことをあのボットが言っていました」 

小梅「そ、そうなんだ...カラスの...の、呪い...だね...」 

幸子「とにかく!輝子さんに合流しましょう!」 



ボクは勢いこんで座り込んだ状態から立ち上がります、背後では朽ちた壁からぼろぼろと小石のような破片が取れましたが気にしません 


小梅「で、でもどうやって..」 

幸子「ボクらの身体能力ではあのバリケードは越えられません、道路を通って向こう側まで回り込みます」 

ここはどうも大通りのようなので道幅はかなり広いです、 

まあそうでないと下水道など掘り起こせませんが。 

ここを回り込むには随分な遠回りが必要になりそうですね 


小梅「.......わ、わかった...頑張って...は、走る...!」 


ボクの隣で小梅さんもトレードマークの長袖を揺らしながら立ち上がりました 


幸子「さぁ行きますよ!目的地までは迂回しなければなりませんから、早く着くに限ります!」 






カラン 







「...あの......すいません」 






幸子「え...?」 

道路に一歩踏み出した矢先に声をかけられました。 

思わずそっちに目を向けます 



幸子「ひっ!?」 



豪華な装飾、鋭い刃、鈍く跳ね返される月光 



そんなサーベルが視界に入り、ボクは思わず飛び退きました 

456 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/11(木) 23:04:19.79 ID:uJGFkVjn0




「...私の能力が、なぜか不調らしくて...」 




彼女は月の光を浴びて妖しくシルエットをゆらめかせながらこっちに歩いてきます 

小柄な体躯、 

禍々しい凶器、 

胸元には赤い光、 

彼女がボットであることは間違いありません 




幸子「小梅さん...いきなり問題発生です」 

小梅「う、うん......」 



後ろ手に小梅さんを庇いながらボク自身も一歩下がります 






「...えっと、このあたりで私のカラスに何かがあったようなので、様子を見に来たのですが......」 





ア”アァアアアアアー! 



今になってカラスの鳴き声が耳につき始めました 

目の前にいる彼女は事務所で何度か見かけた普通の格好でした。 

だからこそ手に持たれたサーベルが一層不気味で___ 











ほたる(ボット)「...何か、知りませんか...?」 







ゲーム開始70分経過 

輿水幸子&白坂小梅 
VS 
白菊ほたる(ボット) 

開始 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
457 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/11(木) 23:10:05.84 ID:uJGFkVjn0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
小関麗奈 





麗奈「アーーッハッハッハッハッハ!!」 




アタシは上機嫌に笑う。 

かそうげんじつ?とやらのおかげか、途中で咳き込んだりなんかもしないで笑えたのがさらにアタシの機嫌をよくする 


数分、いや数秒前までのイライラした気分はぜーんぶ吹き飛んだわ 



麗奈「もう一発喰らいなさい!」 


都会の中のそれほど狭くない路地裏、そのビル壁を蹴っ飛ばすと一部が剥がれて落ちた 

どういうわけか昼間の時よりビルが古くなってたみたいで、表面をちょっと壊すくらいならアタシの脚力でも十分だった 

手のひらに収まるほどの平たい石みたいなのを右手で掴む、ギュッと握って、それがアタシにとっての必殺兵器になったと確信した 



麗奈「そーれっ!!」 

パァアン! 


さっき投げたものより強く投げつけてやったわ! 


相手は手に持った光の剣でまた石を弾いたつもりだろうけど、爆発のせいで大した防御にはなってないみたい 


もっとも、こっちの攻撃も未だに弱いままなんだけど 



麗奈「アッハ!みっともないわね!さっきのバカみたいな大きさにすればいいのに!」 



できないのを分かって煽る。 

アタシにとって狭くは感じないけど、相手は剣を振り回すために隣接したビルの隙間幅に気を使ってそのサイズを小さくしている。 


だからなーんにも怖くないわ!! 

地下下水道を抉りとった時に比べると蛍光灯か、精々大きめのサイリウムでも持ってるようにしか見えないわ 



麗奈「アタシはこういうのを待っていたのよ!こういうカタチとは言え、アンタをボッコボコにしてやれる日をね!!」 



ちょっと前、地下から追い出されたり薙ぎ払われたり、 

目の前にいる「コイツ」に散々してやられたけどそれはもういい 

今からやることを思うと笑いが止まらないわ! 



麗奈「このレイナサマの前にひれ伏しなさい!」
458 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/11(木) 23:22:36.64 ID:uJGFkVjn0

もう一回、さらに強く壁を蹴り付けると面白いくらいにポロポロと石塊が転がり落ちてきた、 

石の塊、 

アタシの弾丸 



?「そうか...」 




麗奈「さぁ!!いつか来る、アタシが『本物』を倒す日のための練習台になりなさい!!」 



?「......悪いな麗奈、」 


「それは聞けない!!」 



視線は動かさず、両手に手頃な石を掴む、イヤでも気分が高揚するのを感じる 




麗奈「ここがアタシ、レイナサマの世界征服の第一歩よ!!」 


向こうもアタシに応戦するかのように生意気にもこちらに向けてあの変に眩しい剣を構えた 


?「いや、麗奈の世界征服はここで終わりだ......」 



そして暑苦しい?能書きを垂れ始める。 















南条光(ボット)「なぜならその野望は!!ここで!!アタシが!!打ち砕くからだ!!!」 







まぁいいわ、叩き潰してあげるわよ!! 







ゲーム開始70分経過 

小関麗奈VS南条光(ボット) 

開始 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 

466 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/19(金) 14:55:20.14 ID:nBNOkGqK0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
堀裕子 

ゲーム開始8分時点 




裕子「さーいきっく...ダウジング!!」 

ヂャリーンッ 




その掛け声と共に金属食器が振り上げられる。 

勢い余ってすっぽ抜けたそのスプーンは硬質な音を立てて地面に墜落し、しばしの間コンクリートの上を跳ねた 


カラカラカラン... 


くるくると緩やかに回っていたスプーンが停止した。 

裕子が注目したのはその柄の部分だった。 




裕子「ふっふっふ、なるほど、わかりましたよ...このスプーンの指し示す方向こそが私の進むべき道であると!!」 


要は占いの一種だった。棒を倒して次の進行方向を決めるだけの。 

だがそれでも自分を信じている裕子には強い確信になったらしい 



摩天楼の根元で、ほぼ丸腰に等しい装備、スプーン一本を携え無人の道路を臆することなく進んでいく 





裕子「おや......?あそこで誰かが動いてますね...?」 



そうして進んでいくこと数秒、裕子の目が何かを捉えた。 

ビルとビルの切れ目から伸びる坂道のずっと奥、比較的こじんまりとしたオフィスビルの密集地の中の一件 
467 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/19(金) 14:57:16.34 ID:nBNOkGqK0


裕子「うーん、胸は光ってはいないのでプレイヤーの方でしょうか?ここからじゃよく見えません...」 

「はっ!?...こんなときこそ、さいきっく双眼鏡!」 

はむっ、とスプーンを口に咥え両手をレンズに見立てて遠くに目を凝らす 









輝子「フヒ...だ、誰も、いなかっ...た。ボッチ、だな...とりあえずあっちに行こう」 



が、既にその人影は角を曲がり見えなくなっていた 



裕子「...えーっとなになに...」 



代わりに彼女の視界に入ったのその人物が現れた建物の看板のみ 










裕子「...あれって私たちの事務所ですかね?」 








結果から言えば彼女はその建物には踏み込まなかった。 

この時点では___ 






ゲーム開始6分時点 
堀裕子(ボット) 消失 
堀裕子 能力獲得 

ゲーム開始7分時点 
星輝子(ボット) 消失 
星輝子 能力獲得
468 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/19(金) 14:58:24.20 ID:nBNOkGqK0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
双葉杏&諸星きらり&堀裕子 


______________ 

 双葉杏+  153/300 
    


______________ 

______________ 

 諸星きらり 153/300 



______________ 

______________ 

堀裕子+   153/300 



______________ 




ビュンッ 



裕子「なるほど!こうしているあいだにも私たちのスタミナ?とやらが回復していくわけですか!」 

杏「まー、そんな感じ?ダラダラしてても楽できる能力なわけ」 

きらり「杏ちゃんらしぃにぃ」 



ビュンッ 



裕子「それにしてもボット?とやらは一向に姿を見せませんね」 

杏「杏はそのほうがいいんだけどねぇ」 

きらり「うゆ......きらりもあんな怖いのはコリゴリだゆ」 

裕子「ほほう、お二人にはなにやらあったようですね、聞きませんけど」 

杏「あーうん、説明めんどくさいからそれでいいよ。正直杏も何が何だったのかわかんないし」 

きらり「いっぱいいっぱい痛い思いしたにぃ」 


三人は、正確には杏はきらりの背にいるので二人は今都心をやや外れた道を歩いていた。 

道を一本横にずれれば車線の多い大通りに望める場所である。「目立つ場所は変なのに見つかりそうだし」という杏のアイデアだった 


ビュンッ 


最初にアシとして使っていた戦車。歩行者用の階段に乗り出し転げ落ちかけたそれのキャタピラを窮余の一策として止めた直後、 

謎の原因で砲撃を開始したせいで攻撃に使える砲弾は底を突いていた。 

まさか数キロ離れた地点からのハッキングじみた外部操作だとは思いもよらない三人はそこから脱出していたのだった 
469 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/19(金) 14:59:53.45 ID:nBNOkGqK0

ビュンッ 

しかし、傾いた内部から苦労して外に出たはいいものの、その頃には街の様子は様変わりしており、そうなると車両も迂闊には乗り捨てられなくなっていた 

街には夜の帳が下り、闇に紛れてカラスが襲い来るのをどうにかしなくてはいけない。 

その結果が現状だった 





裕子「さーい...きっく、ハエ叩き!!」 


ビュンッ 

ア”ァッ! 


杏「しかし大した能力だよねぇ、サイキック力技。特撮好きの光あたりがプレイヤーとして来てたら大喜びしそうだよ。スーパーマンパワーとか言って」 

きらり「でも~、もうちょっと離れて使って欲しいにぃ...さっきからぶつかりそうだゆ...」 

裕子「了解しましたっ...ほいさっ!」 



掴んだ手に力を込め、一息に振りかぶり、振りまわし、ビュンと振り下ろす。 

その度に三人目がけて飛翔してきた黒い一群は薙ぎ払われ、叩き落とされ消えていく 



裕子「おや?いなくなりましたね、カラスさん」 

杏「裕子に構うより他のところに行ったほうが成果が上がるとか判断したんじゃないの」 

きらり「ユッコちゃんすごーいにぃー!」 



そうしてカラスのボットを時に追い払い、時に難無く返り討ちにしているうちに三人の周囲を旋回していた一団はいなくなった。 


三人をターゲットにするのを保留にしたのか、実は他の地域を飛び回っている別の一団が向かってくるまでのインターバルなのかは判断がつかない 

とにかく、三人に一時の休息が訪れた。 

実際に忙しく動いていたのは裕子一人だが 

ビュンッ 

裕子「むむ、どうやらいなくなったようですね!さいきっくおしまい!」 

杏「おつかれー、さすがはパッションというかきらりとは別方向にアグレッシブだね」 

きらり「うゆ?きらりって何か変かなー?」 

杏「いや.....きらりはずっとそのままでいてね」 

きらり「んに!」 

裕子「じゃあ一旦”これ”下ろしますね」 

掴んでいた砲筒から手を離す。キャタピラが大袈裟な音を立てて路面に減り込む 

装甲はカラスの能力や用途から外れた使い方によりあちこちに穴が空き凹んでいる 

こうして裕子の怪力により長く伸びた砲口を掴まれハエ叩きのように振り回されていた戦車は既に廃車になった 


ゲーム開始65分時点 

堀裕子 双葉杏 諸星きらり 

ユニット結成 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
470 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/19(金) 15:01:47.30 ID:nBNOkGqK0

高所から何度も墜落したようにシルエットを歪めた戦車、そのキャタピラを覆う装甲部に杏が腰を下ろした 

きらりがその横にぴったりとくっつくように腰掛ける 



杏「せっかく静かになったんだから、しばらくここにいよっか」 

きらり「裕子ちゃんの能力のおかげだにぃ!」 

裕子「そ、そうですか!?いやぁ照れますね!さいきっく照れり...」 



実際今の彼女たちの状態で動き回っても遭遇できそうなのはカラスの群れくらいなので、動かないという選択肢はあながち間違ってはいなかった 

裕子はどういう意図があってかわざわざ装甲部ではなくひん曲がった主砲の上に飛び乗った 



杏「しっかし、ここまでくるとあれだよね、逆にきらりの能力も見てみたくなるよね」 

きらり「うにゅ?んー...確かにきらりも面白ーいことしてみたーい!」 



裕子「うーん、そういえばきらりさんにとっての能力の鍵は何になるんでしょう?」 

杏「鍵ぃ?」 



裕子「ほら!私のスプーンや杏さんのぬいぐるみのことじゃないですか!!キィィアイテェェム!!ですよ!」 

杏「あーそれね、杏の場合は勝手に押し付けられただけだからなぁ」 

きらり「そうなんだー、きらりのキーアイテム?はどんなだろーねー?」 

杏「どんなんだろーって...きらりにもなんかないの?こう、なんていうか、これぞきらり!みたいな」 

きらり「んゆー?.......いっぱいありすぎてわかんないにぃ...」 



キーアイテム 

それらは明言はされていないがモデルとしては現実世界でアイドルのトレードマークのようになっているものが多い 

現実世界で杏が愛用していた古びたぬいぐるみや裕子が常備していたスプーン、麗奈の手製のイタズラ道具 

輝子のキノコの鉢、凛が愛着を持っていたピアス、美穂のぬいぐるみ、蘭子のグリモワール、美玲のケモノ手袋 



中には例外も存在する。 

471 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/19(金) 15:03:51.15 ID:nBNOkGqK0

例えば、紗南のゲーム機や亜季のドックタグ、そして愛梨のウサ耳などは厳密には本人の持ち物ではない 


ただアイドルの個性や仕事を説明する上で欠かせない要素、この場合「ゲーマー」「ミリオタ」「バニー」といった記号に関連づいていただけである 


ちなみに今もこの仮想現実のどこかを彷徨しているであろう緒方智絵里のキーアイテムであるアクセサリも、「四つ葉のクローバー」という記号以外に彼女とは接点を持っていないものだった 




裕子「....きらりさんはかわいいものならなんでも集めていましたしね、そうなると特定のものに当てはめるのは難しそうです...」 

「......はっ!?ま、まさか今こそ私のさいきっくダウジングを使う時では!?」 

杏「いや、それはいらない」 



きらり「んにぃー.......かわういーものー...きりんさんにーぞうさんにー...」 

杏「なーんかあれじゃない?あのきらりんハウスに入ってるおもちゃとかだったら大体きらりのアイテムなんじゃないの?」 

きらり「うゆー、でもきらりんハウスはきらりのおうちだしー」 

杏「まぁ忘れかけてたけどここはゲームの中だしねぇ、きらりの自宅があるわけもないかぁ」 







裕子「へ?でも事務所ならありましたよ?」 




杏「...は?」 

きらり「...にょ?」 


思わぬ横槍に、そしてその内容に杏ときらりが一時停止する 


杏「じ、事務所...?」 

きらり「きらりたちの事務所...あるの?」 

裕子「はい、そうですよ。看板もかかってたので間違いありません!」 

杏「じゃあそれ最初に言っとこうよ!!絶対重要なヤツじゃん!」 

裕子「うーん?...でもボットとは出会わなかったので!」 

きらり「そういう話でもないにぃ」 


ゲーム開始直後からボット共々雑魚寝をしていた杏と、その杏を探し回っていたきらり 

その二人に比べると今まで謎だった裕子のこれまでの行動履歴があっさり明らかにされる 


そのなかで裕子は事務所を目撃していたらしい 



杏「まーいーか、ユッコだし...で、どの辺で見たのさ」 

裕子「ふっふっふ、遂にこれを話す時が来ましたか...そう、あれはこのイベントが始まって間もない時分のことでした...」 

杏「あっ、そういうのいいんで」 


ぴしゃりと冗長になりそうな裕子の言葉を断ち切る 
472 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/19(金) 15:07:15.66 ID:nBNOkGqK0



杏「きらりんハウスとまではいかなくても事務所とかならきらりにゆかりのありそうなブツの一つや二つは見つかるんじゃないの?」 

きらり「きらりもそー思うゆ、裕子ちゃん、きらりたちに事務所の場所教えて欲しーにぃ」 

裕子「ふふん、いいでしょう......うん?あれ?」 



きらりに請われ、裕子は得意げな顔で腕を組みながら事務所の位置を思い出そうと記憶を探り始めたが、すぐにその眉が八の字に曲がった 



裕子「そもそもここ、どこでしたっけ?」 

杏「あっ」 

裕子「初めて来る場所なのでイマイチ地理がつかめないんですよねぇ...」 

きらり「うゆっ」 



困り眉のまま小首を傾ける裕子を見ながら杏ときらりが同じような表情でぽかんと口を開けた 

確かに全く知らない街で、しかも晶葉の意図によるものか時計や地図の類がどこにも見当たらないのだ 

空に浮かでいるのも月だけである以上、星を見て方角を知ることもできない 

この状況での道案内は裕子にとっては無理難題に等しかった 




杏「ほ、ほら、なんかないの?近くで目印になるものとか!」 

裕子「目印...ですか...うむむむ、あっ」 

きらり「ゆっ?」 



裕子「そうです!確か周りより一際大きなビルが見えました!!元々私がいた場所には背の高い建物が多かったんですけど、その中でもさらに大きかったですね!」 


杏「ふうん...たしかに目印としては心強いけど、そのビルからどれくらい離れてたとかはわからない?あんまり離れてると探すのめんどくさそうじゃん」 

きらり「それもだけど...そのおっきなビルってどれのこと?よいしょっと」 

杏「おっとっと」 


杏を肩車し立ち上がったきらりが戦車の上で背伸びをしながら周りを見回す 



裕子「えっとですねー...」 


裕子が主砲の先の方に足をかけながら遠くを見通す仕草をする 

月明かりのおかげで辛うじて真暗ではない景色にビル群が墓標のように直方体のシルエットを浮かべている 

裕子はその中を右から左へと視線を流す。裕子たちを囲んでいるビルもあってかその視界は良好とは言えないが、 




裕子「あっ、あれですね!あの方向にある4つ並んでいる、その中で一番大きいやつです!!天辺にある避雷針が特徴的なんですよ!!」 
473 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/19(金) 15:11:31.69 ID:nBNOkGqK0

きらり「杏ちゃーん、おねがーい!」 

杏「うわわ...ただでさえ高いのに更に持ち上げないでよ......避雷針ねぇ、うわっ遠っ...」 

裕子と杏が同じビルを目で捉える。 

確かに件のビルは周りより頭一つ抜け出た高さで、長大な避雷針のせいか尖ったシルエットも、墓標というよりは卒塔婆に似ていた 



これは三人は知る由もないが、その高層ビル内では数十分前まで渋谷凛とボットの死闘が行われていた 

高層階の窓から事務所を見つけられないようにするという理由の下、能力とキーアイテムが絶えず入り乱れた戦闘が、 

一人の能力持ちプレイヤーの乱入によりその結果は最終的にはプレイヤー側を利したが、もちろんそれを知ることもない 





そのビルの隣をナニカがふわりと飛翔している 





裕子「ん?今あのビル光りませんでした?」 

きらい「窓がひかってゆの?」 

杏「んー、めんどくさくて見えなかったけど」 


それが見えたのは一瞬のことで、光る何かはその高層ビル向こう側、裕子たちの死角に消えた 





そして 




杏「はえっ!?」 


見るともなしにビルを眺めていた杏が頓狂な声を上げる 








視線の先でビルが丸ごと一棟消えていた 







地上百数十メートルの高さと、 

それに見合う膨大過ぎて勘定するのも馬鹿らしい質量と巨大さを誇る建造物が、 

いともたやすく、 


その場から消えたように”吹き飛ばされた” 
474 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/19(金) 15:15:58.16 ID:nBNOkGqK0

きらり「にょわっ!?」 

裕子「あれもさいきっくぱわーですか!?」 


きらりと裕子の目にも嫌が応にもその光景は飛び込んでくる 

空のダンボール箱を蹴り上げるような気軽さで、高層ビルが空高く舞い上がっていく光景は 

やがてビルはミサイルのように避雷針を地に向け落下していく。 

あれの墜落、いや着弾した付近は無事では済まないだろう 

幸いなのは3人にとってその惨事事態は対岸の火事であり、自分たちには累は及ばないであろうということだが、 





聖(ボット)「.........」 





死角を作っていた建造物が人智を超えた力で取り除かれたことでそれの正体が明らかになる 


直線距離にして遠く遠く離れた場所に彼女はいた。 


裕子にも、杏にも、きらりにも、その姿ははっきりと見える 


丸く浮かんだ月の少し下方向、空中にふわりと浮かんだ望月聖の姿が、 

月明かりを一身に受け、さらにその光に対抗するように自身もまた光を発している 





__左右に3対、計6枚の、白く輝いた翼が広がっていく___ 





聖(ボット)「......ふぅ...」 



聖なる天使の姿を借りて 


『夜』のボットが空を支配する 





そして忘れてはいけない 

地上にいる者が天空を舞う瞳から逃れる術はないことを 


聖(ボット)「あっちにも......います」 


ゲーム開始70分経過 

双葉杏&諸星きらり&堀裕子 
& 
早坂美玲&神崎蘭子&十時愛梨 
VS 
望月聖(ボット) 

開始 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
478 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/25(木) 11:35:33.95 ID:9KvZNd+U0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
早坂美玲&神崎蘭子&十時愛梨 


真っ逆さまに墜落した高層ビル。 
建材で出来たそのミサイルが地盤ごと大地を減り込ませていく。 
着弾の衝撃で爆散した何千枚のガラスが霧となってその下のクレーターを覆い隠す 

6枚の羽を震わせ大空に陣取った望月聖からはその光景を正確に把握することができた 


だが一滴の雨粒でも蟻にとっては天災であるように、そのミサイルの着弾点付近にいた者たちからにとってその瞬間、現状把握ほど難しいものはなかった 





蘭子「ら、ラグナロクッ!!...ノアの大洪水!!...ジャッジメント・デイ!!(も、もうおしまいだよぉ!!)」 

美玲「よくわかんないこと言ってる場合かッ!!もっとスピードだせッ!!」 

蘭子「こ、こころえっ...きゃんっ!?」 

美玲「ああもうウチに替わ、ぎゃふっ!?」 

愛梨「あぁ!美玲ちゃん走ってる車の中で動いちゃ危ないよっ!」 


波紋状に波打つ地面に揺られ、上下左右不規則に振り回される車内で、それでも奇跡的に横転しないまま装甲車は猛スピードで駆ける 


運転席に座った蘭子がコントローラーを握る手に力を込める。 

もう後ろを振り返っている余裕はない。 

破壊的な地響きが座席を伝い蘭子の背中を絶えずノックし続けている 


愛梨「美玲ちゃん落ち着いてっ」 

美玲「わぷっ!?」 

愛梨が、後部座席から身を乗り出そうとして盛大に転びかけた美玲を宥めながら胸元にホールドする 

美玲の顔に合わせて形を変える胸にも構わず、背後のガラス越しに後ろを見やる。 

既にガラスも天井も彼女の能力がすっかり直してしまっていた 

背後に広がる光景、ガラス越しでは全景を捉えられないほどの塔、実際はビックビルディングが土煙とガラスの霧をまといながら変貌していく 


重力と落下の加速で地面に近い階から粉微塵になっていく、その瓦礫を積み重ねながら次の階がずり落ちる、また次の階が粉 
砕されずり下がっていく 


下から順番に破壊されながら全体は斜めに傾き始めている。ロケットがエンジンを切り捨てて飛ぶように、地面側のフロアを犠牲にしながら着実に”こちらに倒れてきている” 


愛梨「蘭子ちゃん!どこか横道に曲がれない!?このままじゃ追いつかれる!!」 

蘭子「ひゃいっ!?」 

美玲「もがっ!もががっ!!」 

愛梨「ちょ、美玲ちゃ、ぁんっ...」 


近距離で発された筈のその声は届かない、街そのものを揺るがしかねない破壊音は装甲車内も例外なく埋め尽くしていた 

479 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/25(木) 11:38:38.04 ID:9KvZNd+U0

そもそも今まで何とか横転はしていないが、今このとき避難のための速度で曲がってもそうならない保証はなかった 



信号の灯らない交差点を最高速で突っ切る。 

数秒後、その信号機も瓦礫の雪崩に埋もれた 



だがいくら高層ビルとはいえ天を衝くほど高いわけではない。 

完全に横向きに倒れきってしまえば爆薬でも積んでいない限り、その時点で脅威ではなくなるはずだった 

倒れた塔に潰されるか、迫ってくる塔の影から逃げ切るかのデッドレース 





そして 




蘭子「ひぇ...」 

愛梨「行き、止まり...」 

美玲「もごっ!?」 




前方50メートルばかりで直線道路は途切れていた。そこからは右か左へ折れる道路しかないT字路 


袋小路でなかっただけマシかもしれないが、 

いくら道路の車線が多く道幅が広くともそこを最高速のまま安全に曲がるテクニックなど蘭子にも愛梨にもなかった 


背後からはガラスとコンクリの土石流が迫る 


蘭子「ぶ、ブレーキ?ブレーキ!?これ曲がれるのぉ!?」 

愛梨「と、止まっても後ろから来てるよ!!」 

美玲「もごもっ!」 


大声で声を掛け合う、そのほとんどは後部座席と運転席の間で外の音に阻まれる 



蘭子の悲鳴を聴く者はいない。 

愛梨の警告を聴く者は、 



美玲「っぷはぁあっ!!」 

美玲だった。 
480 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/25(木) 11:39:59.41 ID:9KvZNd+U0


愛梨の豊満な胸から半ば押し付けられる形だった顔を引き剥がす 


美玲「んがぁッ!!!」 


不安定な姿勢で両腕を振り上げ両手の爪をうならせる。 



その切っ先が愛梨を捉えた 



非現実的なピンクの獣爪が二つ、胸と腹を突き抜けるように愛梨を貫く 






愛梨「____え...?」 

美玲「ガルルルルッ」 



愛梨の目が見開かれる、信じられないという風に目の前の小柄な少女の細腕に穿たれた己を見下ろす 





そして何より彼女を混乱させたのが、”それが全く痛くないということ”だった 




美玲「愛梨ッ!!ウチに捕まってろよッ!!」 



愛梨はそのことを知らなかったし、美玲はそのことを伝えそびれていた 

このゲームの始め、アナスタシアとの戦闘で判明した事実。 



早坂美玲の能力はプレイヤーに全くダメージを与えずにすり抜けるということを 



美玲「とにかくッ!!」 

愛梨の胴のむこう、装甲車の後部座席を通して装甲車に触れた爪が能力を装甲車全体に及ばせる 



メキィッ!! 


蘭子「ひゃうっ!?」 

突如、車体左側の装甲が大きく膨れ上がり硬い装甲板が軋んだ音を立てる 

運転席側のドアがその歪みに引っ張られ無残にも車外に剥がされた 

蘭子「あっ、え...?」 

ドアの形切り取られた外の風景が轟音を立てて後ろに流れていく中蘭子の目はそれを捉えた 




美玲「ムリヤリ曲がっちゃえばいいんだろッ!!」 
481 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/25(木) 11:43:39.86 ID:9KvZNd+U0



剥がれたドアと歪んだ装甲がそれぞれ飴のごとく捻られドリルのような何かを形作っていく 



そこに作られていたのは爪だった。 


鋭く曲がった巨大な3本の爪が装甲車の左側だけから生えた 



愛梨「わっ...すごい」 


早坂美玲の能力、破壊と変形が車体の片側一部を獣の爪に仕立て上げた 



ガッ!!!ガリリリリリリリリリリ!!! 



3本の爪が一息に地面に突き立つ、 

猛スピードで走行する車両の左側から地面を引っ掻いた傷痕が白線のように引かれていく 



美玲「んがあああああああああ!!!蘭子ッ!ブレーキ押すなよぉおおお!!」 




ガリリリリリリリリリリリリリリ!!! 



いよいよ目と鼻の先には頑強なビルが迫っていた 


蘭子「こ、これは...!!」 



ガギッ!! 


道路に長い引っかき傷を付け続けていた装甲爪が地中のどこかに引っかかった 

その瞬間装甲車の左側だけが急停止する。 


そして爪の刺さった地点を軸に、 


タイヤと地面を盛大にスリップさせながら装甲車は左に急回転した 



正面の壁までわずか数メートルでの急カーブ。 

爪を使った疑似ドリフトだった 


蘭子「ま、曲がっ...た!!」 

美玲「走り続けろォッ!!!」 

愛梨「め、目が回る...」 
482 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/25(木) 11:45:03.50 ID:9KvZNd+U0



ノーブレーキで左折した車が歪んだ形のままに走行し、その後ろをかすめながら高層ビルだったものは完全に倒れ伏し崩落した 

生き延びた三人が快哉を上げる 



美玲「いよっしゃー!!ウチやったぞッ!!」 

蘭子「あっあははっ......やったぁ」 

愛梨「すごいよ美玲ちゃん!!えいっ!」 

美玲「わぷっ、ま、またそのムネかッ、ふぐぐ」 



感極まった愛梨が美玲を抱き寄せ胸に埋める。 

美玲の両腕まだ愛梨を貫いたまま後部座席に固定されている 

一方運転席の蘭子はコントローラーをおっかなびっくり操作し速度を緩めた。 

当座の危機は脱したがまだ油断はできない 

愛梨の能力が修復したバックミラーで背後を確認する。 

そこでは天変地異でも起きたかのような惨状が横たわっていた 



蘭子「わ、我らノアの方舟にて、滅び行く世界を脱け出さん...(なんとか助かった...?)」 

ほっと一息をつく。 

だがそもそもさっきの事態が埒外すぎて失念していたが、これは誰かの攻撃だったのか? 


美玲の能力により引き剥がされたドアの方を見る。 

外では静かな街の夜景が広がっていた 




___そして見上げた先、そこに月を背後に据え、六枚の翼を広げた影がいた 


蘭子の能力が事前に周囲の建物を消し去っていたおかげでその姿を見つけるのは容易だった 



蘭子「美玲ちゃん、愛梨さん...あれ、見てください」 

美玲「もごぐ...なんだあれ...」 

愛梨「と、飛んでるね...」 


直線距離にして遠く離れた 

その神々しいとさえ言えそうな人影をしばしの間呆然と眺めていた 






突如三人が見ている前でその姿が掻き消える 

483 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/25(木) 11:47:07.53 ID:9KvZNd+U0

望月聖は急降下していた。 

6枚の翼のうち2枚を使い空から地へと垂直に加速する 



そして先ほど「弾」にした高層ビルに比べると圧倒的に背の低い建物の密集した区画に接近すると次の行動を起こした 



しかしそれは行動と呼べるほど活発なものではなかった 

飛行に使った2枚とは別の4枚の翼をふわりと舞わせただけだ 



そよかぜでも起きればどこまでも飛んでいきそうなほど儚げな翼が何棟かのビルを連続して撫でていく 





たったそれだけの動作で、たったそれだけの接触で 





何十トンもの重量をもった建物がゴムボールのように吹き飛ばされた 




何棟もの建造物が畑の野菜でも引き抜くような手軽さで地中に埋まった基礎ごと弾かれ、投げられ、宙を舞う 


聖(ボット)「プレイヤー...いっぱいいますから...これくらいしないと...」 


飛行する聖の通った場所がクレーターを残して破壊されていく。 


道路沿いの建物が次々に空へ消えていく 


さっきの攻撃から逃げていった車のいるあたりと、 

空から見たときにチラリと見えた戦車のような乗り物のあったあたりを狙うつもりで小石の代わりにビルを投げる 



神聖なる存在に抗えるものなどいない。 


光り輝く翼が齎す破滅の前に万物はなされるがままに消えていく 


484 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/09/25(木) 11:47:41.25 ID:9KvZNd+U0



望月聖の能力はつまり「そういうもの」だった 



この仮想現実における森羅万象の全てより俊敏で、柔軟で、強固で、そして神々しい 




相対的にではなく絶対的な強さを持つ翼 



そんな不条理な物質を6枚背中に携え聖は攻撃という名の作業を続ける 


蘭子の能力が既に破壊していた物件も含め、舞い上げられたビルが重力に従い落下し、仮想の街全体に直方体の大型隕石が雨霰と降り注いだ 


空を飛べないプレイヤーたちは地上を逃げ惑うしかない 



あるいは戦うか 





「さーいきっく!戦車バーット!!」 

「むっがぁあー!!!アイツぜってー引っ掻いてやるッ!」 






ゲーム開始71分経過 

双葉杏&諸星きらり&堀裕子 
& 
早坂美玲&神崎蘭子&十時愛梨 

VS 

望月聖(ボット) 

継続中 



487 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/02(木) 23:38:28.12 ID:NnKOBqiw0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
双葉杏&諸星きらり&堀裕子&早坂美玲&神崎蘭子&十時愛梨 




堀裕子の能力の特色はざっくり言うとその怪力にある 


街灯を手刀で断ち割り、戦車を持ち上げ、地盤を砕き進む 


特にその能力が発揮されるのが、直接的であれ間接的であれ、何かを壊す時だ 


例え超能力でスプーンを曲げることができなくとも、彼女は戦車砲くらいなら片手で曲げられる 





「さーいきっくぅ.........ホームランッ!!!」 



廃車どころか原型をとどめているかも怪しい戦車が乱暴に振り回され、空からビルを打ち返す 

亀裂だらけだった窓ガラスを完全に吹き散らしながらコンクリの隕石は再度宙を舞い、少し離れた場所に落下した 

戦車の方は廃車寸前でも戰爭を耐え抜くための装甲板だけあって建造物に叩きつけられてもビクともしない 



杏「アメコミのスーパーマンじゃないんだから...」 

きらり「にょわぁ...」 


裕子の振り回す戦車の巻き添えにならないような、 

それでいて裕子が打ち漏らした建物に潰されない距離をキープしながら杏が呟く 



杏「そんでもってあっちはあっちで神話の神様みたいだしさぁ...」 

きらり「にょわわぁ...」 




首を向けた先には月と翼。部屋の模様替えでもするような手軽さで周囲のビルを持ち上げ、吹き飛ばすシルエットが空を踊っている 
488 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/02(木) 23:40:05.56 ID:NnKOBqiw0


裕子「ヒットエンドルルラァアン!!」 



体を一回転させるように戦車を回しビルの上半分を打ち飛ばす。 


それを最後に建造物の空気を切り裂く落下音は止んだ 



杏「おっ、終わったっぽい?」 

ガッゴォオン、とけたたましい音を立ててくの字に折れ曲がった車体が放られる 




裕子「いやー!いい汗かきました!...と思ったらかいてませんでした!」 

杏「そりゃゲームだしね」 

きらり「裕子ちゃんかーっこいいゆー」 



そうして裕子も杏ときらりの隣、落ちてきたビルの影に腰掛けた。 


そこは聖からは死角になっている 


裕子「それよりなんなんでしょうね、あれ?」 

杏「チートキャラとかじゃないの、いきなり夜になるわヤバげな敵は出るわで大変だよもう、面倒くさいなぁ」 

ポケットから出したスプーンをさすりながら裕子がきょとんとした顔で疑問をあげ、杏がげんなりした表情で返す 



きらり「ゆゆ?」 


崩れた建物の隙間から飛行する影を見ていたきらりが何かに気づいたような声を出す 


きらり「にぃにぃ、杏ちゃん裕子ちゃん、あのぴかぴかしてるの見て見て~」 

杏「んあ?きらり、あんまり顔出し過ぎたら危ないよ?」 

きらり「うゆ...でもでもあれ!きらりたちとは違う方向ばーっかりアタックしてるゆ!」 

裕子「おおっ!確かにそうですね!どういうことでしょう?」 

杏「杏たち以外のプレイヤーでもいたんじゃないの?今のうちに逃げる?」 



きらり、杏、裕子と並んで遠くを睨む。 


きらりの言うとおり確かに月明かりの下、翼をはやし縦横無尽に空を駆ける影は別の方向へと飛翔し建造物を投げつけていた 

それが空を飛んでいるということに加え、周囲数百メートルの目立った建物が根こそぎ消えたからこそはっきり見える 
489 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/02(木) 23:43:46.07 ID:NnKOBqiw0


杏「あっちからはこっちが見えてないっぽいねー」 

裕子「つまり反撃のチャンスですか!?」 

杏「ちゃうわ、今のうちに事務所に行くんだよ。んでもってきらりのキーアイテムとやらを探しちゃうんだよ」 



きらり「杏ちゃん...なんてゆーか...働き者してう?」 

杏「っち、ちがうし...どうせだから三人揃って能力あったほうが後々楽できると思っただけだよ」 

裕子「そうでしたね!では早速向かいましょう!」 

杏「だから待ってってばタイミング見てよ」 

思わず力んだ風に裕子が立ち上がろうとするのを杏が服の裾を掴んで止める 



きらり「でもでも~、事務所ってあのぴかぴかしたのがペっちゃんこ~ってしちゃったんじゃないかにぃ?」 

そこにきらりが口を挟む。 

聖の攻撃により事務所が既になくなっている今、確かにその可能性は大いにあった 


裕子の言によれば事務所の近くあるらしい高層ビルを始めその周辺の建物は根こそぎにされている。 

その中に事務所そのものが混じっているか、 

あるいは他の建物に圧し潰されているのも否定できなかった 



裕子「それはたどり着いてから考えましょう!」 

きらり「んにぃ!?」 

裕子「いえ!もしかしたら無事かもしれないじゃないですか!」 

杏「ポジティブすぎる...」 



裕子「それに周りの建物が壊滅したおかげで逆に探しやすくなったでしょうし!」 

きらり「裕子ちゃん...ものすごーくぶっそーな発言だゆ...」 

杏「じゃあ危険地帯を迂回しつつ~って感じで行こっか...はぁ、めんどくさい」 


そう言う間にきらりが杏を背負う、ここらへんは二人の無言のコンビプレイだった 

一方、裕子も周囲、正確には聖を警戒するようにこそこそと建物の影から這い出す 



先頭を切った裕子が四つん這いのまま視線を巡らせ、安全を確認したあと後ろを振り向く 

裕子「敵もどうやら別のものに夢中みたいです!さぁ!私について来てください!」 

杏「うんありがとー。でもハイハイで行く必要はないんじゃないかなぁ...」 

きらり「裕子ちゃん、赤ちゃんみたいだにぃ...」 


裕子「むむっ!これが私なりのさいきっく隠密で___」 


まだ建物の影に待機していたきらりの指摘に反駁しようとした裕子の声が突如途切れる 

杏たちの眼前で、横薙ぎに飛来した物体が衝撃と共に裕子を吹き飛ばした 




その物体には羽が生えていた
490 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/02(木) 23:45:44.22 ID:NnKOBqiw0



裕子「いたた...なんですか!?敵襲ですか!?」 



地面の上をゴロゴロと数メートルばかり転がっていったところで裕子が勢いよく起き上がる 

大したダメージではなかったようだ 



きらり「一応無事でよかったゆ...」 

杏「...言わんこっちゃない、さっき飛んできたのはなんだったのさ...」 


それを見てほっとしたように息をつき飛んできた物体に目をやる。 



それは背中から羽を生やしていた。 

といってもそれは望月聖のものより数段小さいもので、 



「あう、ぶつかっちゃった......もう、スピード出しすぎだよぅ」 



「た、手綱が我が手を振り切ったのだ...うぅ(うまく操作できなかったんですよぉ...)」 



そして杏たちの目の前でパラパラと解けながら消えていった 




それは望月聖の能力とは別のルーツより発生した飛行能力 

杏「は?」 

きらり「ゆ?」 


局所破壊から広域殲滅、そして飛行まで可能にする能力者、神崎蘭子 


そして、彼女の胴にしがみつくようにして一緒に飛んでいた十時愛梨 


裕子と衝突した二人が腰や背中をさすりながら起き上がった 
491 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/02(木) 23:47:24.88 ID:NnKOBqiw0




愛梨「あわっ!?裕子ちゃん大丈夫っ!?ごめんね!」 

蘭子「す、すまない超能力者よ...」 

裕子「飛んできましたね!?さいきっく飛行ですか!?」 


二人が慌てて裕子に駆け寄るが本人はそれほど堪えてないようだ。 

ユニットを組んでスタミナに余裕があるおかげだろう 


蘭子「然り...でも本当にごめんね?......飛んでたら他のプレイヤーが見えたから、つい嬉しくて飛び込んじゃいました...」 

杏「え?なに?蘭子ちゃん、空も飛べるの?」 

きらり「羽、ぱたぱたちっちゃかったにぃ」 




蘭子「い、否...我の能力は一つにして一つにあらず...」 

愛梨「って、それどころじゃないんだよ!」 

能力の説明をしようとスケッチブックを取り出した蘭子を遮る形で愛梨が焦った声を上げる 




杏「それどころじゃない?まぁそうだよね。さっさと逃げないと...」 

愛梨「それです!」 

蘭子「失念していた...火急の用なり!(そうだ!大変なんです!)」 

杏「わっ!?」 

裕子「わぷぷっ」 

きらり「にょ?」 

杏の言葉に愛梨が身を乗り出し、抱き起こされていた裕子の顔が胸にもぐり込む 



同時に遠くから倒壊音が届く。 

聖の翼がまた何か巨大なものを壊したらしい 





蘭子「獣爪の......みっ、みれ、美玲ちゃんが!」 




愛梨「私たちを逃がすために一人で...!」 






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
492 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/02(木) 23:48:47.07 ID:NnKOBqiw0



周囲数百メートル上の道路が地図から消えた 



望月聖は下界を見下ろし、そう判断した 




眼下には地盤ごと掘り起こされ無造作に放られ、一つとして直立を保った建物は見当たらない 



道路もなぎ倒された建造物の下に完全に埋もれてしまっている 



幼児に散らかされた積み木のような無秩序の荒廃の風景 



彼女の能力は、この状況をものの数分で作り上げてなお傷一つ付けず夜空に照り映えていえた 



聖(ボット)「だいたい...こんな感じ、ですか...?」 



それでも仮想現実は広く、視線を遠くにやれば数えられる程度とはいえ無事の建物はまだ残っている 



それでも、この近くにいた存在は全て瓦礫の下敷きだろう 



聖(ボット)「.........」 



翼の角度を調整し、高度を落とす。完全に着地することはない。 



度を越して派手な破壊活動のあとだ。いつまでも空にいれば目立って仕方ないだろう 



斜めに傾いたり、完全に天地が逆転したビルが何の法則性もなく並んでいる 
493 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/02(木) 23:51:09.38 ID:NnKOBqiw0



聖(ボット)「...私を、守って」 



飛行と攻撃のために広げられていた翼が繭のように背中から前へかけて聖を包み込む 


外の様子を伺う隙間を作るためと、最低限の移動のため二枚だけは閉じられずに広がっている 


その翼の白さのせいか、聖の外見が羽を生やした卵そのものになる 


聖(ボット)「......ほたるちゃんや、藍子さんは...上手く出来ているでしょうか...?」 


ボットが今どのくらいいて、どのくらいプレイヤーを圧倒しているのか、少ない情報で推測を行う 


聖(ボット)「(ほたるちゃんの能力は、ほぼ自動操縦だから、本当ならどこかに隠れていればそれだけで十分勝てるよね)」 

どこかを固まって飛び回る鳥類の群れについて考える 


聖(ボット)「(藍子さんの能力は、能力の範囲が狭いし、藍子さんものんびりしてるからプレイヤーに逃げられたら不利...かも)」 

自分とほたるより遅れて出発した仲間のことを考える 



聖(ボット)「でも...藍子さんの能力は、勝ち負けとかそんなじゃないし...考えるだけ無意味」 

しばらくして思考を打ち切る 


なぜなら複雑な作戦は必要ないから。 

自分の翼は絶対の存在であることは確定している 


どんな大きさの、 

どんな固さの、 

どんな鋭さのものが、 

どれだけの速さで自分に向けられようと 


私の翼に触れれば全て塵になる 



聖(ボット)「だから...気をつけたほうがいいのは、変な能力を持ったプレイヤーだけ」 


物理的に自分の敗北はありえないが、能力がプレイヤーに何をもたらすかはわからない 


自分が既に持っている情報を見直しても、塩見周子や高森藍子という予測不能な例外がいるのだ 
494 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/02(木) 23:53:14.40 ID:NnKOBqiw0

用心するならその一点だ。 

と聖が結論を出したところで 


ガゴォン!!! 


聖の近くで不安定な角度で立っていたビルが崩れる 

空を飛んでいる聖には砂粒一つ当たらない、だが 


聖(ボット)「......?」 

滝のように流れ落ちた瓦礫が停止する 

それは次の瞬間一固まりにより集まり、巨大な腕の形になった 

腕の先には一本一本が氷山ほどの大きさもある爪が生えている 


美玲「ウチが相手だぞッ!」 


重力に逆らい能力により稼働したコンクリの腕と爪が空中の聖を襲う 

その手のひらだけでも卵のように丸まった聖を握り潰せるほどの大きさだ 


美玲「らぁっ!!」 


美玲の腕力ではなく能力そのものの力が爪を食い込ませる 


聖(ボット)「...むだ...」 


そしてそのまま、握り締めた爪も指も消失した 


聖は何もしていない、翼も聖を包みこんだままピクリとも動いていない 


それでも翼に衝突した爪は、腕や指もろとも粉塵になっていた 


美玲「オマエ......聖か...?」 


自分の攻撃がみじんも効果をなさず砕けていく中、美玲が警戒心を露にしてつぶやく 

翼の盾の隙間から聖の顔が覗いていた 



瓦礫に半ば埋もれ、倒壊した建物の中にいる美玲と何もない空を浮かぶ聖の視線が交差する 



美玲「ウチらのことムッチャクチャに攻撃してきやがって!!ぜってー許さないかんなッ!!」 

聖(ボット)「......そう」 




獣が吠え、天使が見下ろす 

森羅万象を砕き操り自らの武器とする早坂美玲 

森羅万象を寄せ付けず一方的に破壊する望月聖 

495 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/02(木) 23:54:13.83 ID:NnKOBqiw0


そして戦闘が始まる 


地面は掘り返され土くれの山に 


建造物は粉々に砕かれ灰色の砂に 


形あるものが消え、街の名残が消えていく 


二人の戦いが終わったとき 


仮想現実の一部が完全な砂漠と化すことになる 




そのとき、倒れ伏しているのは___ 




______________ 

 双葉杏+  147/300 
    


______________ 

______________ 

 諸星きらり  147/300 



______________ 

______________ 

 堀裕子+   147/300 



______________ 

______________ 

 神崎蘭子+  69/100 
    


______________ 

______________ 

 十時愛梨+  61/100 



______________ 

______________ 

 早坂美玲+  50/100 



______________ 

ゲーム開始75分経過 
早坂美玲VS聖(ボット) 
開始 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
496 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/02(木) 23:55:08.34 ID:NnKOBqiw0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
星輝子&大和亜季 




キノコ型ボットは強くなる 



自身の生みの親である能力者、星輝子の危機の応じて。 



彼女のスタミナが減るごとに体積を増し、力を増す 


完全逆襲型の能力者ならぬ能力茸 


ボットが輝子を追い詰めれば追い詰めるほどに 

その敵の前により高い壁として立ちはだかる 




ジャイアントキノコ「FFFFFFF!!!」 


ガァンッ! 


2メートル近くまで膨れ上がったキノコの、その笠が頭突きを振るう 


くらった相手はその体をくの字にひん曲げ地面を転がっていく 



頼子(ボット)「なるほど...大した威力ですね...」 



頼子の声は平淡で、それでいて好奇に満ちていた 



輝子「ど、どう...どうして...!」 



対する輝子の声はその真逆、混乱と焦燥、目の前の光景を許容できない、 

あるいはそれを拒否するかのように焦点が定まっていない 
497 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/02(木) 23:58:03.30 ID:NnKOBqiw0



地面に膝をついた輝子のすぐそば 


亜季「ぐ、くくく...」 


大和亜季が苦しげに呻きながら体を起こす 





”キノコから頭突きをくらった”肩を押さえながら 





ジャイアントキノコ「FFFFFF!!」 

頼子(ボット)「ふむ、やはりこちらのキノコさん...輝子さんのダメージにのみ、反応するようですね...」 



ゆらゆらと頭を揺らすキノコの横に怪盗が並び立つ 


まるで今ここにおいては古澤頼子こそがそのボットの主人であるかのように 



輝子「どうして......どうしてなんだマイフレェェンド!!」 




何羽ものカラスが黒い円を描いて三人の頭上を飛ぶ 

キノコが足の形をした根っこで地面を踏み鳴らす 



それらはそれぞれ白菊ほたる、星輝子の「所有物」だった 



頼子(ボット)「どうしてでしょうね...わかりませんよね...?」 


「...いつ、どこで、何を盗まれたかなんて...」 





それらは今 

古澤頼子の「コレクション」となっている 




ゲーム開始75分経過 

大和亜季&星輝子 
VS 
古澤頼子(ボット) 

継続中 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
501 :</b> ◇E.Qec4bXLs<b> [saga]:2014/10/09(木) 20:42:27.23 ID:Xln05VgA0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 

ゲーム開始60分経過時点 



八神マキノ 

自分の分身の立体映像を遠隔地に出現させる能力 



例えるなら幽体離脱 

仲間に説明するときそうは言ったが 

実際のところそれは千里眼に近い能力だった 


距離を無視した視界を確保し、それと同時に本体はこの世界から一時的に消える 

100%安全な状態で一方的に情報をかき集めることができる 



望月聖が干渉するもの全てを破壊する「無敵」だとするなら 

八神マキノは全てのものから干渉されないという「無敵」 



彼女がボットではなく人間だったらなら、やや驕りととも取れるそんな感情を持っただろう 

その能力にとって、仮想現実は「テレビ画面の向こう」だった 






そして今 




「___ほかの方の協力は必要ありません」 





もし彼女が人間なら、そこにある感情は恐怖だった 






藍子(ボット)「だってほら、フロントメンバーの攻守交代はもう始まってますし」 

マキノ(ボット)「か...らだ...動かない...?」 



テレビの向こうから伸びた手が彼女を掴んでいるかのような、ありえない状況 




八神マキノは捕らえられていた 

目の前にいる高森藍子に 


502 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/09(木) 20:44:31.28 ID:Xln05VgA0



マキノ(ボット)「い、いきなり...どういうこと...」 

藍子(ボット)「...いきなりって...私の目の前に急に現れたのはマキノさんじゃないですか」 



実際に藍子の手指がマキノに触れているわけではない 

だが、現に藍子が何らかの動きを見せ、マキノの体が動かなくなった 



マキノ(ボット)「(どういうこと...元々転移先からの移動はできなかったけれど...)」 

「(指一本動かなく...それに...離脱、能力の解除すらできないだなんて)」 


能力を無効化する能力?いや、能力自体は発動している。ただし解除ができない 

相手の体を動かなくする能力?それも違う、そもそも私の体はここにあってここにないのだから 

今分かっているのはただ一つ、自分は藍子の能力の範囲内に踏み込んでしまったこと 



藍子(ボット)「あ...皆さんはもう出発されるんですね?」 

マキノ(ボット)「......あなたたちは...」 



目線だけを藍子から外す。 

藍子の背後からほたると聖が歩いて来ていた 

聖は寝起きのように足元が頼りなく、ほたるは気が急いているのか頻りに周囲を気にしていた 



ほたる(ボット)「あ、藍子さん...そちらの方は?」 

藍子(ボット)「私の能力に引っかかったんですが、こっちで何とかしておくのでほたるちゃんはほたるちゃんで頑張ってきてくださいね?」 

ほたる(ボット)「?...分かりました、えっと...頑張ってきます」 


それと同時にほたるの背中が気球のように膨れ上がる。 

黒を基調とした衣服の背面が彼女の身長の数倍に達し、そして破裂した 

そこから黒い血飛沫となってカラスが四方に飛び出していく 



マキノ(ボット)「(これは...音葉さんの生み出す武器どころの量じゃない......!)」 

そのうちの一部がほたるに取り付き、羽ばたく。 

何十羽ものカラスが彼女を引き上げ、その体が地面から浮かび上がり始めた 



聖(ボット)「.........なら、私も」 

そういう聖に後光が差す。 

そして彼女の背中から後光の正体、輝く翼が六枚姿を現した 

ほたる(ボット)「それでは、行ってきますね...」 

聖(ボット)「行って...きます...」 

藍子(ボット)「行ってらっしゃい」 

黒い羽と白い翼をまとい、少女たちが空へと消えた 
503 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/09(木) 20:46:21.67 ID:Xln05VgA0


それを見送ったあと藍子がつぶやく 

藍子(ボット)「......あの子達も大変なんですよ」 

マキノ(ボット)「...どういうこと?」 


藍子(ボット)「あの子たちは能力のはこの仮想世界に対して容量が大きすぎるんです、だから『夜』まで能力の使用を待つしかなかったんです」 

マキノ(ボット)「それは知ってるわ、光の反射や屈折を逐一計算している状態の世界ではサーバーの処理が追いつかないんでしょう?」 


藍子(ボット)「......光だけではダメなんですよ」 

マキノ(ボット)「なに?」 


マキノが聞き咎める、この能力の本文は情報収集。 

会話からだけでも得られるものはあるはず 


藍子(ボット)「この世界は一つのテーブルの上にあるのと同じです...」 

マキノ(ボット)「そして、そこに我々ボットやプレイヤーが乗っていると?」 

藍子(ボット)「乗り切らないんですよ......光の計算処理を一部除いただけでは」 

マキノ(ボット)「乗り切らない...?......ぐぅっ!?」 


藍子が手を差し伸ばす、マキノとの距離が少し短くなる 

同時にマキノの体が縮こまった、全方位から圧力をかけられたようにその体が折れ曲がる 


藍子(ボット)「聖ちゃんの翼はもちろん、ほたるちゃんの使うカラスは見た目こそ小さいですが、スペックはボット一人と同等...そんなものを数万羽、テーブルに乗り切るわけがありません」 

マキノ(ボット)「だ、だから...他のボットまで、仲間まで...手にかけようというの...!?」 

藍子(ボット)「これが私たちの下した結論......人工知能が導いた結果です」 



マキノ(ボット)「だったらせめて...」 

今ここに、自分より少し遅れて愛海が来ている 

ここにこさせるのはまずい、どうすればいい 


なんとかしてこの事実を、『夜』が味方でないという事実を愛海に伝えなければ 


藍子(ボット)「乗り切らないどころか、無理に乗せればテーブルそのものに大きな穴が空いてしまいますから...」 

マキノ(ボット)「せめて...最後に、あなたの能力を......教え...」 


どうすればいい、時間を稼ぐ?能力の謎を解く? 

この世界のどこにもない体で? 

504 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/09(木) 20:56:54.69 ID:Xln05VgA0



藍子(ボット)「能力...私のですか?」 

マキノ(ボット)「そうよ...私を縛ってる、この、能力くらい、教えてくれても......」 



藍子(ボット)「ん......えっと...?」 

マキノ(ボット)「......?」 


マキノの言葉を受けた藍子が何やら難しい顔をする、 

先刻の言葉に何か腑に落ちない点があったかのように 


藍子(ボット)「.......そうですね...なんと言いましょう」 

マキノ(ボット)「......」 


時間を稼いだところで自分は助からない 

だが今の自分で最大限にできることは、ある 


マキノのボットとしての知能は一つの可能性を見出していた 


”二宮飛鳥が今の自分たちを盗聴している可能性”に 


愛海が、藍子に倒されるマキノを見て、さらに逃げおおせる可能性もないことはないが、 

遠く離れたアジトで飛鳥が『夜』についてより詳しい情報を手に入れてくれる公算の方が高かった 


マキノ(ボット)「(元々私は戦闘向きじゃあない...これだけの時間が経った今プレイヤーも一筋縄ではいかない......足でまといになるくらいなら、残った仲間に能力の情報だけでも...!)」 


”残った仲間” 


向井拓海については聞いていたが、 

彼女はそれ以外も予測がついていた 

梅木音葉、橘ありす、結城晴、福山舞、桃井あずき 


これだけの時間が経過しても戻らない、仲間たちの辿った結末を 


マキノ「(戦力外たちの宴...正直ふざけた名前だと思ったけど、私は確かに最期まで戦力外だったみたいね)」 


今、「戦力」として動いているのは六人 

島村卯月、本田未央、佐城雪美、水野翠、古賀小春、市原仁奈 

そして予測がつかないのが二人 

二宮飛鳥、遊佐こずえ 

飛鳥は拱手傍観を決め込んでいるし 

こずえに至っては戦力どころか戦闘力すらない 

この世界がテーブルで、その上にボットがいるというのなら、こずえはどこにいるのだろう 

マキノ(ボット)「.........(小梅さんの遺体といい...結局、私に理解できたことは何もなかった...)」 


藍子(ボット)「あの...マキノさん...”この能力”って言ってましたけど...」 

マキノ(ボット)「!!」 
505 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/09(木) 21:00:07.78 ID:Xln05VgA0


思考を巡らせていたのはマキノだけではない 

藍子が考えをまとめ終わったように口を開く 

その間もマキノの体は指一本動かず、今にも押しつぶされそうな圧力がかかっている 



「まだ使ってないんです、能力」 


「............は...?」 


困ったような笑みを浮かべ、藍子は言う 


「マキノさんの今の状況は、あくまで能力の過剰な容量による副産物です」 


「そん、な...」 


がさり、マキノは背後からの物音を聞いた 


最悪のタイミンげで、同胞が訪れる 


愛海(ボット)「あっ!藍子ちゃ__」 


マキノ(ボット)「あつっ...逃げ____」 


藍子(ボット)「それでは、能力を使いますから___」 





「___ちゃんと感じてくださいね?」 





八神マキノ(ボット) 消失 

棟方愛海(ボット) 消失 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
506 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/09(木) 21:02:51.48 ID:Xln05VgA0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 

ゲーム開始?分時点 



それは一人の少女の夢の続き 



一面の真っ白なガラス越しに街を見下ろす曖昧な夢 



こずえ(ボット)「.........」 



ガラスの床は所々丸く切り取られている。 


人一人が通過できるほどの丸穴 



小柄なこずえならなおさら余裕を持って通過できる直径だ 



こずえ(ボット)「......これ...ちがうー...」 


だがこれは彼女の「入口」ではない 

確かに見た 

別のボットがここを入口に使っているのを 


ならばこの穴はその彼女のものであり、こずえのものではない 



入口はひとつではない、 


大きさの大して変わらない丸穴はそこかしこに用意されている 


だがどれもこずえではない誰かが潜っていった 





仮想の世界の”歪み”を象徴するポッカリと空いた穴から 

ボットとしての”能力” 

世界を歪める力を授かりながら 

507 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/09(木) 21:06:35.99 ID:Xln05VgA0


こずえ(ボット)「...こずえのは...どこー...?」 


ここに留まっている自分には無いもの 


ここを抜け出すことで手に入るもの 






にゃあお 




こずえ(ボット)「.........ねこー?」 


白い世界に黒点 


その子猫の黒い体はこの場所によく映えた 



こずえ(ボット)「...ねこー......」 



てくてくとどこかへ歩き出した猫を追う 


穴だらけの床を恐れることなくまっすぐ歩んでいく 



にゃぁあおー 



こずえ(ボット)「......待ってー...」 



やがて猫が立ち止まり、こずえもそこに並ぶ 

そこにあったのはまたしても丸い穴、 

だが他の物より数段小さい。 


それこそ子供しか入れなさそうなほどに 


こずえ(ボット)「!...これぇ...これ...だよー」 


根拠はない、だが確信があった 

ついにみつけた。 


猫に連れられ見つけたこれこそが遊佐こずえの能力のための歪み 
508 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/09(木) 21:09:12.47 ID:Xln05VgA0


座り込んで、丸い入口の外周をなぞる 


傍らを見ると黒い子猫もまたじっと佇み、こずえを見返していた 



こずえ(ボット)「...ありがとう...こずえ...いくねー?」 


にぁおう 


ガラス越しではなく直接に下を覗き込む 

そのまま落ちていこうとしたところで 



ふしゃーーっ!! 



突如、子猫が吠えた 

尾を立て、毛を逆立てて対象を睨んでいる 


こずえ(ボット)「...どう...したの...?」 

子猫の視線を追う 

そこにはただ白い背景があるだけ 

誰かがいるようには見えない、だが 


ぴしり 


こずえの入口、その外周にヒビが入った 


何者かが体重をかけたように 


正円に歪みが生まれる、子猫は未だ吠え立てている 

知らず知らず、宙を見つめたまま視線が動かせなくなる 

こずえ(ボット)「......あなたー...だぁれー?」 


ぴしりぴしり 


これは侵略だ 

誰かがこずえの物を横取りしようとしている 

世界の条理に逆らって 

遊佐こずえにしか使えないものを遊佐こずえ以外の誰かが使おうとしている 


「     」 
509 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/09(木) 21:12:15.33 ID:Xln05VgA0


猫でもこずえでもない誰かがこの場にいる 


亀裂がその存在証明だ 


丸い穴が歪曲する 



こずえ(ボット)「...だめ...だめー」 



今やはっきりとその存在を感じ取れる 

誰か、侵略者の見えない姿を 

それを食い止めようと、せめてもの抵抗に手を伸ばす 







「      」 

こずえ(ボット)「ぇ?」 



何かを言われたような気がした 


気配が消える 


こずえの入口の向こうへと 

こずえの歪みの向こうへと 







こずえ(ボット)「.........だれかを...さがしてる、のー?」 





夢が終わる 



ゲーム開始?分時点 

遊佐こずえ(ボット) 能力未獲得 
510 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/09(木) 21:17:03.21 ID:Xln05VgA0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


死者の行進 


十数分前に夜の帳が下りた仮想世界にそんな光景が展開されていた 


のあ(ボット)「......損傷が酷い...ここに来るまでにどれだけが無事でいられるか」 


カラスの飛び交う空を忌々しげに見つめる 

問題はこのカラスの存在そのものではなく、カラスがこの街へ蓄積させていくダメージだ 


カァアアーーー!! 

ザシュッ!! 


地面すれすれを飛行していたカラスが切り裂かれる 

切り裂いたのは死者のごとき存在 

枯れ枝のように細くなった手足に申し訳程度の肉付き 


スプーンでくり抜かれたように大きくえぐれた胴体 

人間の形を保っているのが不思議なほど歪んだシルエット 


それが何体も何体も何体も何体も何体も行進している 


共通の目的地へ向けて、崩れそうな足を引きずり 


指の代わりに誂えた槍のように尖った腕でカラスを追い払いながら 


盲進し、前進する 
511 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/09(木) 21:21:21.71 ID:Xln05VgA0


アナスタシア(ボット)「...このカラス...やはりなにかの能力が...あるようですね、私の氷、ボロボロです...」 


のあの側で武器である氷柱を構え、 

同じく飛びかかってくるカラスをいなし、叩き、突いていく 


のあ(ボット)「この街全体に散らしていた『私』の一部がこれほど減らされるなんて...」 


暗くなった街の小さなオフィスビルの屋上から道路を見下ろす 

そこに広がっているのは自分 

つまり高峯のあというボットの「本体」へ戻ろうと足を動かす死者の群れ 

村上巴に襲い掛かった人形達のような風貌の、瓦礫でできたゾンビたち 

これら一体一体がかつて高峯のあの一部であり、 

物体の中に侵食することでそれを支配し、操っていたものの正体 

そうして仮想現実の街中に張り巡らされたのあの骨肉が今、彼女の下に帰還している 


カァアアアーー!! 


そして同時に先程から、何百体と並び眼下を埋め尽くす行進にカラスが襲来していた 

のあのコントロールが可能な範囲では迎撃が試みられている 

だが粗末な人形のボディで飛ぶ鳥を落とすことはボットにとっても非常に難しく 

瓦礫の人形からただの瓦礫へと朽ちていき 

カラスの体当たりに次々と沈んでいく 



アナスタシア(ボット)「アー、地面や建物の中を...潜らせてはダメなのですか...?」 

のあ(ボット)「そうしたものはどれも最初の段階で朽ち果てていったわ...あのカラスに触れられるだけで消失してしまったみたい」 


だからこその死者の行進 

だからこその人形形態 

高峯のあの一部をカラスから守りながら本体へ運搬するための手段 

512 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/09(木) 21:22:52.77 ID:Xln05VgA0


アナスタシア(ボット)「...まさか『夜』がここまでのものとは...思いませんでした」 

のあ(ボット)「そうね、街中に同化させていた『私』のうち...いきなり三割近くが使い物にならなくなったのは予想外だったわ...」 


高峯のあ、物体と一体化する能力者 


その能力により直接攻撃により受けるダメージを散らしてきた 


上半身が破壊されようと修復は容易だったし痛手でもなかった 


ア”ァアアアアーー! 


だが、こうして散らばった彼女全体に同時に攻撃を仕掛けられれば___ 


白菊ほたる 

彼女は間違いなく高峯のあの天敵だった 



数百体に及ぶ死者の行進と死肉を漁るカラス 


世界の片隅に地獄絵図が花開く 



_____________ 

 アナスタシア+ 60/100 


_____________ 
_____________ 

 高峯のあ+   55/100 


_____________ 




ゲーム開始80分経過 

報告事項なし 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
513 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/09(木) 21:24:44.62 ID:Xln05VgA0


その地獄絵図を遠く眺める者がいた 


藍子(ボット)「......あのあたりですか...ちょっと遠いですかね」 


町外れの廃屋を出てのんびり歩くこと数分 

藍子はようやく街に踏み込んでいた。 

他の二人と比べるとやはりその速度は数段落ちる 

散歩でもしているようにしか見えない進行速度、だがボットである彼女に無駄はない 



藍子(ボット)「あっちの建物がなくなって閑散としてる場所は...多分聖ちゃんがいるのかな」 

「カラスは......その逆方向に集まってますね....近いほうから向かうとしましょう」 


月明かりを遮る黒い雲、幾千のカラスの流れを観察する 


彼女はカラスたちの、ボットやプレイヤーを優先して攻撃する習性、否、「機能」を知っていた 


そして自分とほたるだけはカラスの災禍が通じないことを把握していた 

ガ、ガァア...ガアガ... 


「あぁ、私のところにも来てたんですか...」 


藍子もまた現在進行形で無差別破壊の標的だった。 

彼女の周囲には二重にも三重にもカラスが飛び交い、そして嘴を向け飛来している 



すでに廃屋から街に来るまでの間に、カラスによる藍子への攻撃は三桁を超えていた 



そしてその全てが失敗していた 




「そういうのは、私には効果がありませんよ?...あぁ、ほたるちゃんに言わないと意味はないですね」 


藍子はゆるりとカラスに目を遣る、 



彼女の周囲数メートルで空中に剥製のように固まったカラスたちに、 


片腕を振る、その動きだけで停まっていたカラスの体表にノイズが走り、消滅した 
514 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/09(木) 21:27:08.40 ID:Xln05VgA0


『夜』が始まってから今の今まで、 


藍子に攻撃を仕掛けたモノは何であろうと不可視の壁に阻まれ、停止した 


そして彼女の判断次第ではその姿も最初からなかったかのようにかき消されていった 


「あぁ、もう...次から次へと...ほたるちゃんに、私のところへは来ないようちゃんと頼んでおくべきでした」 


のんびりとした歩みの彼女は素早いカラスには格好の標的で、 

同時に彼女の能力は途方もない障壁だった 


「...あれ?あの家...カラスがいっぱい集まってますね」 


学習することなく自分に向かってくるカラスが流れ作業的に消滅していく中、 

彼女の視界はそれを捉えた 



ボロボロに朽ちた住宅が並ぶ中、周りより少しだけ小奇麗な屋敷が鎮座している 


カラスの能力が及んでいない建物、 

それはつまり建物よりも優先される存在が中にいるということだ 



「ボットでしょうか......プレイヤーだといいですねっ」 



そして彼女は丁寧に玄関口に回り、扉を開けた 



___________ 

 高森藍子+ 100/100 


___________ 




ゲーム開始80分経過 

報告事項なし
515 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/09(木) 21:29:38.46 ID:Xln05VgA0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
??? 



小さな白い女の子を押しのけたのが一時間前 




人形のように空っぽの体を手に入れたのも一時間前 




そこから一時間、体の動かし方を延々と試し続けていた 




起き上がるどころか瞬きすらできなかったようだ 



だから死体と間違われ、置いていかれてしまった 



そばにいた友人に何度か呼びかけたが聞こえなかったらしい 




静かな部屋に咀嚼音が響く 



「それ」は何かを食している 



仮想の世界の中で食事に勤しむというのは異常事態だが 



それは栄養補給のためではないだろう 



その行為の意図するところを少ない判断材料から推測するに、 


「それ」が摂取しているのは容量だった 


516 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/09(木) 21:30:51.26 ID:Xln05VgA0

他人の入口に横入りし、 

別人の体を乗っ取って、 

あちこちにガタが来ているのかもしれない 


こうして動けているのがギリギリである今、 

余分なスペックが必要だったのだろう 




窓から入ってきていたカラスを咀嚼している 

部屋の隅に生えていたキノコを食い尽くしていた 




他のボットを吸収することで肉体を保とうとしている 




断っておくと、これらの記述は全て推論に過ぎない 




生あるものに、ましてや現代科学でそれを完璧に説明することなどできない 




部屋の扉が開いた 



藍子(ボット)「えっと...おじゃまします」 



そして邂逅する 
517 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/09(木) 21:33:48.85 ID:Xln05VgA0



「    」 


「うーん...あなた、ボットですよね...?バッジがついてますし...」 


「    」 



「あの...?...」 



「 . ・」 



「それ」は小さくて細い指を蠢かせた 



呼応するようにその肉体が変化する。 


吸収したボットがその動きに応える 



カラスの羽が寄り集まり、背中から黒い翼が 


キノコの細い根が捻り合わされ手足の短さを補うような触手が 



藍子(ボット)「あぁ、あなたも他のボットはいらない、と...」 





藍子(ボット)「...小梅ちゃん」 



小梅(ボット)「 . ’ ..・」 






藍子は自分に向けて鎌首をもたげた触手からその意味を悟る 


大きすぎる能力にとってこの仮想世界は非常に窮屈だ 


味方のボットすらも障害でしかなくなってしまう程に 


だから敵意を向けてきた、と判断した 

518 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/09(木) 21:35:33.70 ID:Xln05VgA0


彼女が知らないのは唯一つ 


相手が望んでいるのは彼女のスペックであること 


そして彼女の相手はボットではないということ 

もしかしたらプレイヤーでもないということ 




遊佐こずえの能力を奪い 

白坂小梅の死体に取り憑いた 




科学の世界にとって冒涜的な存在 



藍子(ボット)「それにしても...小梅ちゃんは変わった能力ですね。もう、原型をとどめてないじゃないですか...」 












小梅(あの子)「 ・.. ・ ’・’ 」 











ゲーム開始86分経過 

高森藍子(ボット) 

VS 

白坂小梅(あの子) 

開始 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
519 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/09(木) 21:37:46.50 ID:Xln05VgA0
チャプター 
星輝子&大和亜季 



倒壊したビルと周囲を渦巻くカラスの群れが状況を密室じみたものにしていた 



頼子(ボット)「見知らぬ街、見知らぬ世界、初めて体感する虚構...」 



亜季「輝子どの!私の背後に!あなたのダメージはこの状況を悪化させます!」 

輝子「ごっ、ごめんなさい...わ、私のせいだ...」 

接近戦は3メートル近くなった図体を縦横に振りたくるキノコが対応し 

離れた場所からの銃撃はカラスが視界を遮り狙いをつけられない 



頼子(ボット)「そんな中プレイヤーが信用できるもの、それは他の人間と、そして自分の能力です...」 



そして遠くも近くもない距離、キノコからもカラスからも絶妙な間隔を保ったまま 

古澤頼子が独り言にも似たつぶやきを漂わせる 

怪盗のマントが闇にはためく 





頼子(ボット)「私が盗むのはそういうもの.....絶対の信用を置いた、絶対に安全だと思われていたモノを頂いていくのです...」 




亜季「訳のわからないことを...!」 

輝子「そういえば、亜季さんの能力あ...まだ、わからないんだったな...」 
520 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/09(木) 21:39:42.59 ID:Xln05VgA0


手に持った小回りのきく拳銃を振り回し、カラスを追い払う 

発砲してもいいのだが群れの数に対して残弾が足りない 



亜季「輝子どの!あの菌類を消す手段はないのですか!」 

輝子「わ、わかんない...出すのはわかる、けど、また盗られるのは...ヤダ」 

亜季「たしかにご遠慮願いたいでありますな...っと!」 



向かってきた一羽に亜季の長い脚から繰り出される上段蹴りが命中する 



頼子(ボット)「......あぁ、それはやめたほうが良かったですね」 



余裕のつもりか腕を組み、あまつさえよそ見していた頼子が言う 


亜季「こんな風にチマチマとみみっちく攻撃してきて何をっ...!?」 

輝子「ッ!?...ど、どうした!?」 



亜季の顔が苦痛に歪む、上段蹴りから下ろした足に強い違和感があった 


幸い痛みは一過性のものだったが、思わず膝をつく 



頼子(ボット)「このカラスの能力は耐久力の低下、生身で触れればプレイヤーさえも対象です」 



__もしこれが仮想でなければ、足の骨が砕けて別の方向を向いていたでしょうね___ 



そんなありもしない仮定を口にする 
521 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/09(木) 21:41:03.16 ID:Xln05VgA0


亜季「...油断したであります...」 


輝子「(頼子さん...どこ見てたんだろ?)」 


亜季の背に隠れながらこっそり頼子の目線を追う 

そこは崩れてきたビルの残骸で出来たバリケード。 

その上にカラスが何羽かばかりとまっている 


輝子「(どうして一気にかかってこないんだろう...?...あ!)」 


電源が切れたように微動だにしなかったその中の一羽が慌てたように羽ばたき始め、 

辺りを飛ぶ一団に加わった 


輝子「(さっき...亜季さんが倒したから?)」 

細い指で亜季の背中をぐっと掴む 


亜季「!...なんでありますか輝子どの?」 



輝子「よ、頼子さん...なんかヘン...だよ?」 

亜季「それは...どういうことで?」 

輝子「...えっと___」 
522 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/09(木) 21:42:46.64 ID:Xln05VgA0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


頼子(ボット)「...二対一、いえカラスたちを併せて二対十ですか...」 

「ボットはボットでも...もう少し高度な思考回路を備えたものも交えたいのですけどね...」 

「蠱毒と銘打ったからには...この仕切りをどうにかしたいものです」 



頼子はバリケードを見る、これを破るには頼子自身はやや火力が足りない 

壊そうと思えば壊せる策もあるのだが、少し時間がかかる 



頼子(ボット)「他の戦いが終わっていなければよいのですが...」 



確認事項としての独り言をこぼす間にも輝子から盗んだボットは彼女の側で泰然自若としている 

プレイヤーも何やら密談をしているようだ 


頼子(ボット)「.......人間がモデルの機械である私にとって、人間の脳が考え出す作戦というのは未知数にして脅威...一体何が飛び出すんでしょうね?」 



彼女が戦闘スタイルとして選んだ「蠱毒」は混戦をこそ望む 



能力も戦力も火力も武力もぐるぐるにかき混ぜられ、狭い空間に戦闘情報が横溢していく 

その中から必中の策を見つけようというものだ 


頼子(ボット)「だから、あまりじっとしていられても困ります」 


指を鳴らす 

ガァアア”アァ!! 

二人を自分側に追い立てるようにカラスが二人の背中を襲う 


亜季「...ぬっ!...輝子どの!とにかくその方法で行くであります!」 

輝子「フヒッ!?...分かっ、た!」 

523 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/09(木) 21:45:44.15 ID:Xln05VgA0


パンッ! 

輝子の柏手を打つ音が瓦礫に反響した 

その小さな手の平を出口に彼女の倍はありそうな菌類型ボットが顕現する 


パンパンッ! 


続いて二体、合計三体のボットが輝子と亜季を囲むように立ち上がった 



頼子(ボット)「...ほう、打って出ましたか...!」 

亜季「行くでありますよっ!」 

輝子「ッシャオラァアア!!行けェ!!」 


シャウトを上げキノコの一体にしがみつく、同時にキノコは走り出した。 


輝子を傘の上に乗せて 


頼子(ボット)「捨て身ですか...」 

ジャイアントキノコ「FFF!!」 


輝子「目ェ覚ましやがれマイフレェエエエンド!!」 


頼子を庇うように立ったキノコと輝子の乗ったキノコが衝突する 

大きさ力ともに互角。 

2本の足を踏ん張り押し合いになった 



そこに輝子の2体目が追撃を加える 



輝子「押していけえええ!!!」 

同じ力量なら数の差で勝るまで。 

頼子側にキノコが傾いていく 



頼子(ボット)「おやおや」 



だがそれは飽くまで正攻法での話 



頼子(ボット)「...そこには私の手が届きますよ...?」 



直径2メートルもない円内、古澤頼子の能力範囲 


輝子「フヒッ!?」 

三体が三体とも頼子の手にかかる。力比べが止まる 

頼子(ボット)「さて、亜季さんは...と」 

キノコ同士の間から目を通す。その瞬間、輝子はキノコの上から頼子に飛び掛った 
524 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/09(木) 21:48:14.27 ID:Xln05VgA0


頼子(ボット)「!」 



輝子「アァイイキャァアンフラァアアイイイイ!!!!」 



頼子(ボット)「___まぁ、それはいいとして」 

その決死の特攻をこともなげに躱す 



そこに亜季の銃弾が飛び込んだ。 

頼子(ボット)「!...っと」 

亜季「掠るだけでしたか...!」 


離れた場所、一体だけ残ったキノコの側で頼子に向けた銃を構えなおす 


頼子(ボット)「全く、おいたが過ぎますね...」 

三体のキノコが頼子を守るように取り囲む、亜季と輝子から姿が隠れる 


同時に飛行していたカラスが亜季めがけて一斉に飛び掛った 


亜季「輝子どのっ!!」 

輝子「う、うん!」 

亜季の側にいた一体が地面に向けて飛び込んだ。 


そのまま逆立ちの態勢になる 

キノコの傘が独楽の軸のように回転し、胴体と足もそれにつられて回転する 



そして飛びかかったカラスが叩き落とされた 


糸がほつれるようにしてバラけ、鞭のように伸びた足によって 



輝子「き、菌類の根っこ...舐めるな、よ?」 



その言葉と同時に足ではなく根としての姿を取り戻した部位が四方八方に唸りを上げてカラスを狙い始めた 

ガッ! ガァアッ!
525 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/09(木) 21:50:30.08 ID:Xln05VgA0


元来、茸にとって重要なのは地中に伸びた根っこである。 

ボットであってもそれは同様らしく、 

カラスの能力にも簡単には屈せず、結果、飛んでいたカラスは全滅した 


亜季「撃ち方よし!」 


そして確保された亜季の視界は良好 


キノコの陰に隠れた頼子に狙いを定め、引き金を引く 

頼子(ボット)「っ!!...」 



鉛の弾丸はあっさり盾としてのキノコの体ごと頼子の肩を貫いた 




輝子「ごめんよ、マイフレンド...」 



だが、まだ浅い。 

ボットである頼子はまだまだ倒れない 



頼子(ボット)「...なるほど、これをキノコではなくボットとして見ていた私ではできなかった攻撃ですね」 



瓦礫のあちこちに留まって待機していた他のカラスが一斉に飛び立つ 


逆立ちしたキノコの根が一斉に振り回される 


頼子がボットの裏側に完全に身を隠す 


亜季の視界に黒い影がちらつく 


輝子が叫ぶ 



輝子「マイフレンド!最後のひと踏ん張りだァアア!!」 


ジャイアントキノコ「FFFFFFFFFF!!!」 


頼子(ボット)「今度は先ほどの倍の数です...!!」 


亜季「悪あがきを...!」 
526 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/09(木) 21:52:06.80 ID:Xln05VgA0


空気が裂ける音 

カラスの悲鳴 

銃声 



最初に倒れたのは亜季を守っていたキノコボットだった 



カラスの能力を直に喰らい続けた根がついに朽ち果て、 

その隙を縫うようにして殺到したカラスがその本体を消し去った 



そして次に累が及んだのは亜季だった 



能力だけでなく、突き出したクチバシでその肉体を狙う 


亜季「づあっ!!」 

銃廷でカラスを打ち払うが2本の腕ではその攻撃の半分も防げない 



頼子(ボット)「輝子さんの捨て身で目を引いてからの亜季さんの中距離銃撃、それもここで打ち止めです」 


唯一攻撃を食らった右肩を抑える、当然、流血はない 


頼子(ボット)「さて、亜季さんが済めば......あぁ、ユニットなのでスタミナは妙に多いんですね...」 






輝子「よ、よぉ...」 

頼子(ボット)「......は?」 



ずぼっ、と 



頼子の周囲を固めていたキノコとキノコの隙間、そこから輝子の顔が覗いた 



彼女のコレクションに輝子が無防備に踏み入っていた 



至近距離で顔を合わせる
527 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/09(木) 21:54:29.81 ID:Xln05VgA0



頼子(ボット)「......いつの間に...それに、どうして」 


彼女を守っているはずのキノコはピクリとも動かない 



友人である輝子を傷つけたりしないとでも言うように 



輝子「や、やっぱりだ...!」 



『やっぱり』 

元々無口な彼女はそれ以上の言葉を発さなかった 


ただ服の下から、亜季に渡されたもう一丁の銃を取り出し 


ほぼゼロ距離で頼子に銃弾をブチこんだだけだ 




タァンッ!! 


頼子(ボット)「かふっ......!?」 


星輝子が気づいたこと 


『多数のカラスを支配下に置いているにも関わらず一度に使う数が少ない』 


一羽が亜季に倒された後、近くにとまっていたカラスが動き始めたのを見て、彼女はそれに気づいた 


どうして物量で一度に決めてしまわないのか 

どうして何羽かを動かさないまま待機させているのか 

それを亜季に伝えた。 



そして彼女は一つの推論を立てた 


それは塩見周子の能力の欠点を見抜いた時のような確固としたものではなく当て推量のようなものだったが、 


打開策のために他にすがるべき仮説はなかった 





『古澤頼子はボットを何体でも盗むことはできるが、一度に操れる数に限度がある』 



528 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/09(木) 21:56:09.65 ID:Xln05VgA0


キノコ一体も含めてカラス数羽 

彼女はそのリミットギリギリで二人を相手していたのでは 

だからこそ物量で押し返す作戦を取った 

ほとんど賭けのような捨て身の戦法だった 

だが、どうやら成功したらしい 



輝子「ヒャアッッハアアアアアア!!!バンバンバァン!!」 

頼子(ボット)「水を得た魚ですねっ...」 


一発当たったのが嬉しかったのか輝子はさらに連射する 

頼子はキノコの包囲を抜け地べたを転がるように回避した 



怪盗の怪しげな優美さは既に無い 



頼子(ボット)「(大体分かりましたよ二人のとった作戦は...)」 

「(おそらくどこかで私の能力の限度を見抜いたのでしょう)」 

「(だからこそキノコを増やし、私の目を近距離の輝子さんに向けさせた...)」 

「(さらにその後...亜季さんの攻撃により今度は中距離に気を引かせる...)」 

「(亜季さんの射撃の腕は、この世界でも本物...だからこそ私はそちらを潰すことを優先した)」 

「(...亜季さんの近くにいたキノコは、その注意をさらに強く向けさせるためのもの...)」 

「(そうしてまんまとカラスを総動員した私は...すぐ近くにいたキノコを待機状態にしたまま...輝子さんの接近を止める手段を持たなかった)」 




怪盗は夜の存在だ 


だが古澤頼子は『夜』のボットではない 


だから能力の質もたかが知れていた 


白菊ほたるのように五万羽を操るスペックを持たなかった 


怪盗は華麗に盗むだけ 

盗んだものをどう扱うかまでは考えない 

ただただ観客の意表をついて魅了するだけの存在だ 
529 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/09(木) 22:01:34.80 ID:Xln05VgA0


___だから 


頼子(ボット)「私の舞台は...まだ終わりません」 

輝子「ハアァッ!?」 



ぼたっ 

亜季「むっ!」 

カラスが地に落ちる。 

模造品になったかのように無抵抗にぼたぼたと地面横たわった 

同時に三体のキノコが動き出す。 

頼子のコントロールがカラスからキノコへ移動した証だ 


ジャイアントキノコ1「FF!!」 

ジャイアントキノコ2「FFF!!」 

ジャイアントキノコ3「F!」 


亜季めがけてミサイルのように三体が突貫した、輝子の捨て身を真似るような一直線の攻撃 

ひとかたまりに飛び込んできたそれを危なげなく躱す 


亜季「っと...自棄になったでありますか?」 


輝子「ヒャッハ!よくもオレ様のダチに手ェ出してくれたなァ!オイ!」 


頼子(ボット)「......」 


1メートルの近距離で輝子が、5メートルの中距離で亜季が銃を構える 


輝子の腕前の程は知らないが、これだけ近ければ弾も当たるだろう。亜季なら言わずもがなだ 



引き金が引かれ___ 





頼子(ボット)「.............ライトアップ」 




銃声をかき消すような轟音を立てて瓦礫が粉砕される 

キノコボット三体の体当たりがバリケードを勢いのままに突き破っていた 
530 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/09(木) 22:03:42.92 ID:Xln05VgA0


頼子(ボット)「知らなかったでしょう?カラスの能力は常時発動型......私が操っていなくてもいいんですよ?」 


そこは先程まで頼子が盗んだカラスたちが待機していたポイント 

そこだけが特別脆くなって、正確には脆くされていた 



次の瞬間、そこから強烈な光が噴き出す 



周囲が昼間のような明るさを取り戻す 



麗奈「あぁん!?亜季、そこにいたのアンタ!?」 

光(ボット)「余所見とは随分と余裕だな!」 

麗奈「うっさいわね!!」 

そこにいたのは目映く光る剣を構えたボット南条光と、 

両手いっぱいに小石を握り締めた小関麗奈 



亜季「麗奈...!?」 

亜季の注意が一瞬逸れる、だが輝子が銃弾を放った 

しかしそこに既に怪盗の姿はない。 

二人の中間あたりに飛び込んでいた 



急激に空間を満たした激光により亜季と輝子の影がグンと伸びている 


その影を踏めるような位置に彼女はいた 



頼子(ボット)「さて、怪盗の奥の手をお見せしましょう」 



そこは彼女のテリトリーだ
531 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/09(木) 22:06:29.45 ID:Xln05VgA0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


______________ 

 大和亜季+  80/200 


______________ 
______________ 

 小関麗奈+  80/200 


______________ 



______________ 

 輿水幸子  140/300 


______________ 
______________ 

 白坂小梅  140/300 


______________ 
______________ 

 星輝子+  140/300 


______________ 



怪盗の指が妖しく蠢く 



ポンッ 

そんな間抜けな音を立てて 

古澤頼子の盗みは完了した 



幸子「なっ、なんですかコレ!?」 


小梅「しょ、しょーちゃんが...!」 



麗奈「はぁっ?なにコレ!!アタシは何もしてないわよ!?」 



壁の向こうでそれぞれが驚嘆の声を上げる 

観客の意表をつくどんでん返し 



怪盗が最後に盗んだものは 



頼子(ボット)「言ったでしょう?............『他の人間と、そして自分の能力』」 



「『私が盗むのはそういうもの。絶対の信用を置いた、絶対に安全だと思われていたモノ』と......!」 

532 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/09(木) 22:07:47.59 ID:Xln05VgA0

______________ 

 小関麗奈+  79/100 


______________ 
______________ 

 輿水幸子  139/200 


______________ 
______________ 

 白坂小梅  139/200 


______________ 




______________ 

 星輝子+   1/100 


______________ 
______________ 

 大和亜季+  1/100 


______________ 



五人の目の前にパネルが浮かび上がっていた 


それは五人のユニット登録のときに表示されたもので___ 



亜季「こ、れは...!!」 

輝子「ぼ...ボッチになっちゃった...」 



頼子(ボット)「ユニットを組むというのもプレイヤーにのみ許された能力だったんですよ?」 


「...だから盗みました。驚いたでしょう?私が盗んでいたのはボットではなく...能力の一部だったんです」 



533 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/09(木) 22:13:10.98 ID:Xln05VgA0


亜季「!!......だがもう一度組み直せば.........ッ!?」 


トン 


輝子「フヒっ?」 


トン 


肩を叩かれたような軽い感触 


見ると、そこには小枝のように細い、 

大したダメージも与えられなさそうな、 



それでいて鋭く尖った刃物が刺さっていた 















あやめ(ボット)「生憎と、忍のわたくしは直接戦闘は不得手ゆえ」 





彼女は頼子の背後、ビルと瓦礫の隙間にずっと潜んでいた、 

それら二本を投擲したあと暗闇から姿を現す 




あやめ(ボット)「かような、暗殺の真似ごとになってしまいました」 




亜季「____」 

輝子「____」 



彼女の能力なら武器を持った人間を闇討ちすることなど容易い 


細い刃物一本、たったそれだけの、痛くも痒くもない攻撃だったが 


だがそれでも、ダメージはゼロではない 

534 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/09(木) 22:14:12.01 ID:Xln05VgA0



頼子(ボット)「やはり混乱は良いものですね......光さんがビルを倒壊させた時にはどうなるかと思いましたが...」 

「光さんとの約束も守れました......正真正銘、あなたが望んだ麗奈さんとの一騎打ちです」 


あやめ(ボット)「多人数戦なら勝てると申していたのは、こういうことですか......」 



頼子(ボット)「ふふっ......怪盗の手管に驚いていただけましたか?忍者さん」 









______________ 

 星輝子+   0/100 


______________ 
______________ 

 大和亜季+  0/100 


______________ 



蠱毒の壺の一角が落ちる 

怪盗と忍者だけがそこに立っていた 






ゲーム開始78分経過 


小関麗奈VS南条光(ボット) 

継続中 



大和亜季&星輝子 
VS 
古澤頼子(ボット) 


勝者:古澤頼子(ボット) 浜口あやめ(ボット) 



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


次回 早坂美玲「アイドルサバイバルin仮想現実」 その3