男「なんでだよ、これ」ぬえ「あう………」 前編

645 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/02/18(水) 13:23:03 dRe2uMCA
~俯瞰視点~

霊夢の黒髪は月明かりの無い闇夜に溶け込むほど黒く、その反面肌は光るように白い。

わずかな星の光だけを頼りに霊夢は木々と触れ合うかどうかのぎりぎりの高さで空を飛んでいた。

少し強い風が木々を揺らし、どうどうとなる風と葉の音はまるで大きな化け物の声のように聞こえる。

霊夢「まったく、どうしてなのよ」

小さく呟いた声に霊夢の下から言葉が返ってくる。

アリス「心当たりはないの?」

地を駆けるグランギニョルの肩に乗り繰り糸を操るアリスが尋ねるが、霊夢はその問いに返す事なく考え込んだ。

催眠、洗脳、拉致。

決して魔理沙の意志で裏切ったわけではない、と信じたい。

きっと相手に何かやられたのだ、という怒りの中で、魔理沙は自分の意志で裏切ったのだと勘が主張する。

おそらくこの怒りが消えてしまえば自分は魔理沙自身の意志で裏切ったのだという事を納得してしまうのだろうと霊夢は恐怖した。 



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646 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/02/18(水) 13:40:53 dRe2uMCA
アリス「じゃああとは頼むわよ」

霊夢「あんたこそね」

森を抜けると人間の里に着く。

外部からの侵入者を防ぐべく作られた木の壁に松明の明かりが眩しく辺りを照らしていた。

これじゃあ人間の里なんて呼べないわねとアリスがため息をつく。

数か月前までなかったその壁が人間の里の雰囲気を塗り替えていた。

里というよりは基地、砦と言った方が正しく思える。

アリス「さぁて、やろうかしらね。出来るだけ派手に」

グランギニョルから降り立つアリスの両手には人形。

それを思いっきり振りかぶって投げると人形は派手な音を火花を放ち、まるで花火のようだった。

アリス「そーれっ」

もう一度人形を投げる。

二度目の音と光に人間の里が騒めく。

アリス「上手くやりなさいよ、霊夢」

霊夢の姿はすでになく、かけた声は爆発音にかき消され消える。アリスは苦笑したよなため息をつき、新しい人形を構えた。 


647 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/02/18(水) 14:09:43 dRe2uMCA
霊夢の白い肌と赤色の巫女服は隠密には向かない。

白い肌が暗闇でも輝き、巫女服は暗闇に溶け込まないからだ。

なのに、住民は誰も霊夢を見ない。

明らかに異質であり、敵の霊夢を誰しもが気に掛けることなく外に向かっていく。それはまるで霊夢が皆の意識の外側にいるかのようだった。

霊夢「どこかしら」

周りにいるのは人間だけで。数か月前には見れた妖怪の姿はない。

こんなにも変わったのねと里の中を見て霊夢は思った。

しかし観光するほどの余裕はない。

霊夢は人にぶつからないように気を付けながら進んでいく。

魔理沙がどこにいるかは分からない。虱潰しに探すしかない。

あまり時間はかけられないため出来るだけ迅速に探し魔理沙を助けなければいけない。

侵入ならば霊夢だけでなんとかなるが魔理沙を連れ戻すという事ならば話は別だ。今アリスが人間の気を引いているうちに魔理沙を誰にも見られず連れ戻さなくてはいけない。

多少暴力的な手段に出なければいけないかも知れないが、注意が里の中に向いてしまえば連れ出す事はほぼ不可能になる。

霊夢(連れ去られるとすれば外側よりは中央。捕まるとしたら牢屋、地下牢? たしか阿求のところに座敷牢があった気がするわね。あと牢屋なら小兎姫かしら?)

適当に検討を付ける。中央に向かうのならば時間がかかる。もし外れてしまえば大幅に時間を費やすだけになりアリスに負担がかかる。霊夢は少し悩みながらも勘を信じて小走りで進んだ。 


648 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/02/18(水) 15:02:59 dRe2uMCA
里の中心にある大きな屋敷。里を取り仕切る稗田家当主の阿求がそこに住んでいる。

阿求ならば話を聞いてくれそうだが、リスクを負いたくはないので諦め、地下牢を探した。

元々は阿求は人間と妖怪の中立。いや、やや人間よりではあったが妖怪に対して根拠のない不安や恐れなどは抱いていなかったがはたして阿求はこの異変にどれだけ関わっているのだろうか。

阿求を心配する声が屋敷内から聞こえる。それに対して冷静に返す阿求の声も聞こえる。

特に役立つ情報も聞こえなかったため、意識を地下牢探しに向ける。

流石に広い屋敷のため時間はかかったが、屋敷の奥に地下へ続く階段を見つけた。

霊夢「………」

あくびをしていた見張りを無言で気絶させ、そっと地面に寝かせる。

見張りがいるという事はどうやら誰かが入っているようだと判断し、薄暗い廊下を進んだ。

ジャリと鎖の音が聞こえた。

誰が捕まっているのだろうかと視線をそっちに向けると見知った顔。汚れ、破れた服を纏っているが、痛々し気な表情で足枷を撫でるのはミスティアだった。

なぜ、と一瞬口から言葉が漏れかけたがなんとか抑える。

他の牢を見るとどうやら見知った妖怪の顔。どれも里で人間に紛れて暮らしていた妖怪だった。

考えてみれば一番最初に狙われるのは人間の里の妖怪だ。おそらく人間に情を抱いていた彼ら彼女らは抵抗しなかったのだろう。

その結果、皮膚が切れるほど寒い地下牢で凍えた手足を撫でている。足枷は氷のように冷え、体を少しずつ壊していくのだろう。 


649 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/02/18(水) 15:05:13 dRe2uMCA
全ての牢を見ても魔理沙の姿はなかった。

ここで妖怪を助ければ魔理沙を助けることはできない。

それに逃がしたとしても守りきることはできない。

霊夢は太ももをつねって地下牢を後にした。

寒さに凍える妖怪達の声が霊夢の耳にこびり付いて何度も何度も響いていた。 


650 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/02/18(水) 15:54:21 dRe2uMCA
外に出るとまだ里は騒がしい。まだ時間はあるらしい。

アリスに感謝しつつ霊夢が屋敷の塀を飛び越える。

着地した時になった砂が擦れる音が響いたが幸い周りに人はおらず、霊夢は小兎姫のいる警察署へ向かった。

今現時点で犯罪者が発生しているとは思えないのでいつも通り警察署は暇のようで、大した警戒もなく霊夢は中に入り込むことが出来た。

警察署と呼ぶには立派ではないが、それでも牢屋はある。

稗田家の地下牢ほど環境が悪くないのが捕まっているものの唯一の救いだろうか。

あまり使われていないため、綺麗な牢屋を見ると、中には人間の姿があった。これは魔理沙もいるかもしれないと急ぎ全ての牢屋を調べたが、魔理沙の姿は見当たらない。

この状況下で犯罪を犯した者がいるのだろうかと霊夢は考え、別に犯罪しているわけではないけれど捕まることもあるのだろうの結論づけた。

魔理沙がいないのならば用はない。捕まっている者を助ける義理もないため霊夢は急いで外に出た。

外では喧騒が静まりかけており、このままの長時間行動は危ない。霊夢はそう判断し、出来るだけ速く外に出られるように少し宙に浮いた。

滑るように移動していると先ほど捕まっていた人間の顔をどこかで見たことがあるなと感じ、少し考えたのちに思い出した。

そういえば霧雨商店と同じぐらい大きな商店の一家だった。

まぁ、それが分かったところでどうでもいいので霊夢は高度を上げ木でできた壁を乗り越え外へと出た。 


651 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/02/18(水) 16:07:01 dRe2uMCA
~男視点~

夢の中では俺は外の世界で生活していた。

たった数週間前の話だがずいぶん遠くの事のように思える。

家族の顔が思い出せないくらいに。

色々なことがありすぎてボケてしまったのだろうか。

多分事故の時の後遺症だとは思うのだが心配だ。

異変が終わったら永琳さんのところに行ってみよう。

布団から立ち上がると少し立ち眩みがする。

若干の吐き気を押さえながら外に出ると雲の隙間から出てくる日差しが宙に反射してきらきらと輝いていた。

良い天気だ。

男「………魔理沙がいれば」

実の妹よりも妹らしい魔理沙。

死んだわけではないのに虚無感が酷い。

胸にずしんとした重みと虚無感がある。

男「ぬえは、これよりもずっと………」 


652 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/02/18(水) 16:10:39 dRe2uMCA
身近の人がいなくなるという事は予想をするよりもずっと影響を与える。

心を壊すほどに。

悲しんでいるのは俺だけじゃないんだと思い聞かせても、俺の心はそれを突っぱねる。

どうにもならない心はまるで俺のものではないかのようだ。

ため息をつくとそれに連動したのか、お腹がぎゅるるとなる。

どんなことがあっても生きている限り腹は減る。

何か貰おう。

今は食べることだけ考えよう。 


653 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/02/18(水) 16:16:28 dRe2uMCA
いつもより一つ多い味噌汁の数。

一人消えて二人増えたのだから当たり前だ。

幽香は何を考えてるかよくわからない顔で朝食を食べている。

アリスはいつも通りの優雅さで朝食を食べている。

まるで魔理沙なんて初めからいなかったかのように朝食は進んでいく。

あまり味が感じられないご飯を咀嚼し胃の中へ送り込む。

たまにむせて味噌汁で強引に。

とても楽しめそうになく、ただただ機械的に動作を繰り返すだけ。

何事もなく朝食は終わる。

明るい声がないいつも通りでない朝食が。 


654 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/02/18(水) 16:50:29 dRe2uMCA
一つ進んで一つ戻っていくようなそんな感覚を覚える。

足掻いても沈まないだけで進むことはない。

まるで終わりが見えない。

この異変はいつ終わるのだろうか、なんてことを考えていると霊夢が小さくあくびをした。

目の下には隈があり、いつも通りの霊夢らしくはない。

霊夢も魔理沙の事を心配していたのだろうか。

霊夢「………何よ」

俺の視線に気付いた霊夢が睨みつけるように俺の顔を見る。

男「なんでもない」

霊夢「さっさと行くわよ」

そういって霊夢が出て行った。

俺も着替えなければいけないなと自分の部屋に戻る。

その途中いつの間にか後ろに立っていた紫が幽香が小町達と一緒に、アリスが俺たちと一緒に行動するという事を教えてくれた。

幽香の強さは知っているし、アリスの強さも聞いている。戦力的には問題がない。それどころか今までよりも強くなった。

もしかしたらすぐに解決してしまうのかもしれない。でも 


655 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/02/18(水) 17:40:22 dRe2uMCA
もしかしたら、このままだったら二度と魔理沙は帰ってこないんじゃないのだろうか。

もしかしたら、魔理沙と戦わなければいけないのではないのだろうか。

もしかしたら、魔理沙を殺さなければいけないのではないのだろうか。

そんなマイナス思考のもしかしてが重なりあまり喜べない。

紫に掠れた声でわかったといい分かれる。

紫は珍しく心配していたけれどその内容は頭の中に入らなかった。 


656 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/02/18(水) 18:29:21 dRe2uMCA
着替えて表に出るとすでに全員そろっていた。

全員………ん?

アリスの隣に二人の少女。身長はアリスと同じぐらいでアリスと同じ金色の髪に碧眼。

似てるけれど一人は睨みつけるような顔つき、一人はにっこりとした顔つき。

身の丈に合わない大きな槍に大きな盾。

アリスの姉妹だろうか。良く似ている。

蓬莱「何見てるのよ」

少女から睨まれる。

上海「だ、駄目ですよ」

もう一方の少女が窘める。

男「アリス、この子たちは?」

アリス「あー、えっと」

上海「私たちはアリスの人形よ」

男「………?」

頭の上に疑問符を浮かべると目つきの悪い少女がさらに目を吊り上がらせた。 


657 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/02/19(木) 14:22:45 wawmOvgU
人形と聞いて思い浮かぶのはフランス人形や日本人形、あとはこけしぐらいなんだが目の前にいる彼女たちはどれにも当てはまらない。

関節だってあるし、表情だって豊かだ。

まぁ、幻想郷ならば人形が動き出す事だってあるのだろう、と納得する。

アリス「えっと彼女たちは私の人形で、槍を持った方が蓬莱、盾を持った方が上海」

上海「どうも、よろしくお願いします」

男「君たちもついてくるのか?」

蓬莱「私たちでアリスをちゃんと守れるわよ!」

そう帰ってきた言葉はどこか俺ではなく誰かに向けられているように感じる。

幽香「勘違いしちゃだめよ? 貴方たちを連れていくのは霊夢がいるから。霊夢がいるからアリスを連れていくのよ」

どうやら幽香に向けられていたらしく、幽香がいう事を聞かない子供を諭すかのような口調で返す。

蓬莱「むぐぐっ」

その言葉に蓬莱は返すことはなく、その代わりさらに目つきを悪くして幽香を睨んだ。 


658 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/02/19(木) 14:41:30 wawmOvgU
小町「あー、喧嘩するほど仲が良いっていうけど、今そんな事してる時間がなくてね」

幽香「あらごめんなさい」

上海「ご、ごめんなさいっ。ほら蓬莱も」

蓬莱「………ごめん」

背を曲げて謝る上海と、ぷいと横を向いて謝る蓬莱。まるで姉妹のように見える。

手のかかる妹と礼儀正しい姉、と言ったところか。

上海「どうかしましたか?」

男「いや、俺も妹いたなぁと思って」

顔の思い出せない。

小町「はいはい、世間話は帰ってからだよ。今開くから、いってらっしゃい」

小町が大きく鎌を古い地面に線を入れる。

チルノ「師匠、行こう!」

俺の手を引いたチルノと共に線を越える。

物凄い速度で流れる景色は脳が認識できないほどの情報を与える。今だに慣れない移動方法に頭がくらりとして近くにあった木に手をついた。 


659 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/02/19(木) 14:46:02 wawmOvgU
上海「大丈夫ですか?」

男「あぁ、うん、大丈夫」

目の前にあるのは大きな門。

近寄ればまた慧音は来るのだろう。

里を守る。

それが彼女の役目であり、俺たちはそれを乗り越えなければいけない。

チルノ「? どうした師匠」

思わずチルノの頭を撫でていた。

チルノは俺の突然の行動に目をぱちくりさせていた。

蓬莱「ほら、いくわよ」

蓬莱が早足で里に向かうと、瞬きをする間に。いや認識と認識の間に里が消えうせた。

男「来る」

人間の里に続く橋の真ん中で仁王立ちをしている慧音がいた。

この位置からでは声は聞こえない。でもそのまっすぐな瞳があぁ、引く気も負ける気もないんだろうなと思わせた。 


660 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/02/19(木) 14:58:31 wawmOvgU
霊夢とアリスと蓬莱と上海が慧音と対峙する。

その光景を見て俺はどこか子供の頃に見た戦隊もののヒーローを重ねていた。

昔から不思議と俺は怪人のほうに感情移入をしていた。

戦力の差に負けない。諦めない。足掻き続ける。

そんな姿に俺はどこか泥臭い憧れを感じていたんだと思う。

だから俺は慧音を尊敬してしまっていた。

もしこんな出会いでなければ彼女を尊敬していたのだろう。

焦げた赤と白のリボンを付けた彼女はとても悲痛に満ちた慟哭をあげ飛びかかる。

胸を裂くような悲しい叫び。

何があったのかは知らない。

何かが彼女を駆り立てているのだろう。人間の里を守るだけではない何かが。

しかしそれでも多勢に無勢。俺の記憶にある怪人の姿もこうだった。

二本しかない手を懸命に動かして、でも勝てない。

徐々に追い詰められていき、そして倒れる。

違うのは爆発しないだけ。現実は爆発して巨大化なんてしない。ただ、倒れるだけ。 


661 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/02/19(木) 15:03:57 wawmOvgU
戦いが終わったのだろう。俺はチルノと近づいていく。

霊夢は倒れた慧音に対し数度口を動かしていたが、それに対し慧音が反応したのかは見えなかった。

無くなっていた里がうっすらと現れる。

夢が覚めたかのように。

慧音の元へたどり着くと彼女は目をつぶっていた。

男「殺したのか?」

その言葉に誰も答えなかった。

霊夢もアリスも蓬莱も上海も慧音には目もくれず人間の里に向かっていった。

チルノが氷で作った花を一輪慧音の胸元に乗せていた。

俺はなんといえばいいのか分からず心の中で南無阿弥陀仏と唱え慧音に背を向けた。

その時チルノがぽつりとつぶやいた言葉が何だったのかは聞こえなかった。 


662 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/02/19(木) 16:15:50 wawmOvgU
蓬莱が槍を構え門に突進すると、大きな音をたてて門に人がくぐれるぐらいの大きな穴が開いた。

霊夢「行くわよ」

霊夢、アリス、蓬莱、上海、俺、チルノの順で中に入る。

人間の里の正門。当たり前だが、敵がいる。大きな音を立てて正面突破をしているのだから当たり前だ。

でも思ったよりは多くない。

もっとわらわらいるのか、と思ったら里の奥から閃光と爆音。そして燃え盛る火が遠くに見えた。

アリス「派手にやってるわね。幽香」

おそらくそっちに多くの人数を割いたのだろう。こちらは正門を壊したといっても幽香ほど派手には動いていない。

そうやって騒げば騒ぐほど冴月 麟から敵は離れて、幽香たちはどんどん危なくなる。

幽香たちを信用していないわけじゃない。

でも紫の囮にするという考えを伝えることが出来なかったもし幽香たちが死んでしまえば俺は見捨てたことに―――

チルノ「師匠行くよ!」

すでに駆けだしていた霊夢たちに気付いていなかった俺の背中をチルノが押す。

死が隣り合わせの戦場。今までよりもずっと危険な場所へ俺は最初の一歩を踏み出した。 


663 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/02/19(木) 16:31:00 wawmOvgU
~俯瞰視点~

訓練はしていた。だけれど月の世界は平和で、力を振るうことはそんなになかった。

ウサギが臆病で痛みに弱いと知っているし、自分がそれに適した能力を持っていたため逆らうウサギもいなかった。

たまに来る侵略者にも自分が向かう事はなかった。自分の代わりに出て行くウサギが死んで返ってくることは良くあった。もし自分が出ていたのならば死ななかったのだろう。

月人に逆らうことはなかった。逆らおうとも思わなかった。だから戦うことはなかった。

ただ毎日を繰り返す事により蓄積された経験が自分を実力者と周りに錯覚させるだけで、戦ったことはない。

運が良かっただけだと誰かに責められることはなかった。

誰も自分を責めなかった。

褒めるものもいなかった。

能力と勘違いされた実力は自分から周りを遠ざけて行った。

孤独が自分を蝕む毒だと気付き死のうとも考えた。考えるだけで実行はしなかった。

ある日自分は月から地球に降りた。

ここでやっと死ねるのかと思ったら、孤独は消え、まだ生きたいと思ってしまっていた。 


664 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/02/20(金) 22:35:30 nEz62T1k
ウサギは元来臆病なものである。自分も例外ではない。

張り付いた薄ら寒い笑みの下で冷や汗をかいている。てゐやミスティア以外の前で剥がせないこの仮面は自分の正体を覆い隠してしまう。

不気味。それが第三者から見た自分の感想だろう。それはコミュニケーションに対し深刻な枷となる。

しかしそのことに唯一だけ感謝をすることができる。

それは他の妖怪と違い、牢に入らずある程度自由に行動できることだろう。

そんな風に独白していた兎耳男の耳に爆発音が聞こえた。

みすち「ひっ」

その音に怯えたミスティアは大きく体を震えさせ、それに対応して鎖がじゃらじゃらと鳴り響いた。

兎耳男はそんなミスティアの頭を撫でて落ち着かせる。今では以前のように表情豊かに喋らなくなり、歌も歌わなくなったミスティアを見るたびに兎耳男の心は痛んだが、死ぬよりはずっとましだと我慢している。

兎耳男「………行ってきますね。ミスティア」

みすち「行って、らっしゃい」

掠れた声で返事を返すミスティアの頬に兎耳男が口づけをする。ミスティアの乾いた頬が少しだけ赤く染まり、うっすらと笑みを浮かべた。 


671 : 申し訳ない :2015/03/05(木) 10:31:56 /D8n24Tc
爆炎、轟音、閃光、悲鳴。

それらが現在平和ではない事を教えてくれる。

兎耳男の大きな耳はそれがどこから聞こえてくるのかを教えてくれる。

跳ねるようにしてその場所まで向かう兎耳男の背筋に寒いものが這った。

これが死の臭いなのだろうかと兎耳男は思った。

今すぐ逃げ出したい気持ちに駆られたがミスティアの事だけを思い戦場へと赴く。

そしてたどり着いた戦場はまさに

兎耳男「………」

地獄絵図、そう表現しても間違いではないような惨状だった。 


672 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/03/05(木) 10:32:33 /D8n24Tc
兎耳男「貴方が、これをやったのですか」

幽香「えぇ、私よ」

周りを血の海に変え、しかしその姿は一遍の汚れもなく、甘い花の香りすらも漂わせている、あまりにも場違いな雰囲気を、まるでそこだけ違う世界かのような異質な雰囲気を漂わせていた

風が吹き、生臭い血の香りと甘い花の香りを兎耳男に届ける。幽香は手に持った傘をクルクルと回しにこりと微笑んだ。

幽香「それで、次はあなたが相手なのかしら?」

兎耳男「貴方で私の相手になるのですか?」

ぺたりと張り付いた笑みと、長年の演技が兎耳男の言葉を自動的に紡ぎ出す。

虚栄でしかないその言葉を脳内であざ笑いながら兎耳男はさらに言葉を紡ぐ。

兎耳男「ただの地上の妖怪風情が月の兎である私に適うのでしょうか」

幽香「へぇ、貴方ならもっと楽しめそうだわ。ところで貴方は戦いが好きかしら?」

兎耳男「えぇ、とても」

幽香「じゃあ素敵に殺しあいましょう」

幽香の微笑みが獰猛な笑みに変わり、兎耳男の笑みがさらに固定される。

こうして兎耳男の初めての戦争は始まった。 


673 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/03/05(木) 10:33:13 /D8n24Tc
幽香「開花『四季折々の素敵な花時計』」

幽香がスペルカードを宣言するかのように技名を告げる。

すると幽香の足元からカタクリ、向日葵、ミズヒキ、柊など。咲く季節を無視した魔力を帯びた花が咲いた。

瞬く間に数百以上の花が咲き、その花冠は例外なく全て兎耳男を向いている。

幽香「やりなさい」

花から光が放たれる。一つ一つが放つ弾幕の量は多くはないが、数百の花から放たれるそれは弾幕と言うよりも壁であり、

避けることを許さず、正面突破か逃げることしか許されない。

最強の妖怪である幽香に背を向けることは死と同義であり、結局許されるのは正面突破。

強く地面を蹴り光の壁へと立ち向かう。

兎耳男の体を弾幕による衝撃が襲うが、致命傷にはならない。月の兎という種族と訓練により鍛え上げられた体には多少の攻撃は致命傷にならず、兎耳男の持つ、痛みを操る能力により痛みによって怯むことはない。

しかし

幽香「あははっ!」

光により眩んだ目が最初に捉えたのは眼前にある拳。そして空中をひらりと舞う傘。弾幕を目くらましに、戦闘狂 風見 幽香は兎耳男に襲い掛かっていた。

純粋な力による回避不能の攻撃が兎耳男を襲う。 


674 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/03/05(木) 10:34:10 /D8n24Tc
兎耳男「っ!」

少し体を捩って真正面から受けるのを回避したがそれでもダメージは凄い。

しかし幽香の伸びきった腕の関節を攻撃し、ダメージを与える。

骨を折る、とまではいかなかったが幽香は何度か腕を振り、関節の痛みを和らげていた。

幽香「凄い、痛いわ」

噛みしめるように区切られ言ったその言葉の直後、幽香が嬉しそうに身を震わせる。

吹き飛ばされ何度か地面を跳ねた兎耳男は数度跳ねた後に何とか受け身を取って着地をした。

幽香「貴方って素敵ね」

兎耳男「すみませんが妻がいるので」

幽香「残念ね」

なら、仕方ないわと、ため息をつくように笑った幽香は再び、花に命じる。

しかし花から飛び出したのは光ではなく

幽香「っ!」

耳を劈くような絶叫。

至近距離で幽香にだけ聞こえるその声が幽香の鼓膜を伝い、脳を揺らした。 


675 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/03/05(木) 10:37:32 /D8n24Tc
一瞬、ほんの一瞬途切れた幽香の意識の隙に、兎耳男は地面を滑るように飛び、幽香に接近すると移動の勢いを殺さず膝を幽香の腹へ叩き込む。

強力な脚力によって放たれた膝蹴りは幽香の内臓を激しく揺さぶり、幽香は咳き込んだ。

兎耳男は追撃することはなくそのまま地面を蹴って距離を取る。

幽香は数度咳き込んだ後、口元を伝う涎を拭って、兎耳男を睨みつけた。

すでに幽香の耳に絶叫は聞こえない。色とりどりに咲いていた花は死体のように地面にその体を横たわらせていた。

幽香「何をしたのかしら?」

兎耳男「魂を持つものは痛みからは逃れられないのですよ。死ぬほどの痛みは実際に魂を傷つけ死に至らしめる」

兎耳男「そして痛みを操る狂気の瞳を持つのが私、兎耳男なのです」

そういって兎耳男はにっこりと笑って恭しく一礼をした。 


676 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/03/05(木) 15:33:59 /D8n24Tc
幽香「面白い面白い、面白いっっ!」

幽香が体を曲げて大笑いする。

いきなりのその行動に兎耳男は面喰ったが油断せずに一歩踏み出す。

それに対し幽香は反応せずただただ笑い続ける。

罠か狂気かの区別がつかず兎耳男は警戒をし、攻に転する一歩を踏み出せなかった。

幽香「はぁ。久しぶりにこんなに笑ったわ」

目じりに溜まった涙を拭いながら近くに転がっていた日傘を拾い上げる。

そして深呼吸するとその日傘をクルクルと回した。

今の攻撃を意に介していないかのようなその行為に兎耳男の張り付いた笑みの上から冷や汗が滴る。

確かに手ごたえがあり、決して弱くない一撃だったはず。

しかし目の前の少女のその行動は決してやせ我慢や演技などではない。

本心から笑っている。

その狂気の沙汰に兎耳男は動揺を隠せなかった。 


677 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/03/07(土) 15:45:17 L/frzoos
幽香「まだやれるかしら?」

兎耳男「………もちろんです」

幽香「うふふ」

幽香は微笑むとくくると回していた傘を兎耳男に向けた。

幽香「小細工無しでいきましょ」

幽香が手に力を込める。

日傘の石突きを中心にして先ほどとは比べ物にならないくらい眩い光が集まる。

幽香「マスタースパーク」

日傘から光が放出される。それは地上を這う大きな光の柱となって兎耳男に襲い掛かった。

幽香「………?」

あまりにも大振りな攻撃。当然兎耳男から何か反撃があると想像していた幽香だったが、反撃もなにもないどころか手ごたえを感じた。

首を傾げ、マスタースパークを止めると仁王立ちで兎耳男男が立っていた。

着ている服はボロボロになり、それどころか所々に酷い火傷を負っている。しかし瞳だけは爛々と幽香を見つめている。

幽香「なんで避けないの?」

兎耳男「守りたいものが、あるから。とっても大切な、私が生きる意味が!!」 


678 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/03/07(土) 15:54:52 L/frzoos
幽香「あぁ、そう」

兎耳男「私の人生を、奪われた人生を取り戻さなくてはいけないんです」

幽香「そうなの。でも負ける気はないわ。私だって守りたいものがあるのよ」

兎耳男の言葉を聞いた幽香の顔から笑みが消え、真剣な眼差しとなる。

兎耳男「知ってます。だから」

兎耳男が踏み出す。体中を襲う火傷の痛みを消して、歩き続ける。

痛みを消したところで体の不調は消えるわけではない。しかし前に進み続ける。

幽香「じゃあ貴方と私の大切なものは、どっちが強いのかしら!?」

幽香が日傘地面に突き刺し兎耳男に向かって歩く。

兎耳男「私の人生を、私の人生を作ってくれた。私を生き返らしてくれたミスティアをっ!」

幽香「私の可愛い妹とっ、私の大切な娘をっ!」

「守るためならばっ!!」 


680 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/03/07(土) 16:03:44 L/frzoos
両者が至近距離で見合う。

兎耳男「私はこの力が嫌いです」

幽香「私はこの力が好きよ。力がなければ守れないわ」

兎耳男「でも力があると守るものが出来ない」

幽香「それは嘘よ」

兎耳男「そう、嘘だった」

兎耳男「それは本当は嘘だったのです。力とかそんなことは関係ない」

兎耳男「原因は私の弱さ。全ての原因は私にある。全て私が悪いのです」

兎耳男「それを、ミスティアはそんなことと笑ってくれた。人から嫌われた私を、臆病ものだと笑ってくれた!」

兎耳男「そんなミスティアを守るためならば、私はこんな私を好きになれる」

兎耳男が拳を引く。

幽香「そう。守れる力を持つ自分を愛しく思えるの」

幽香が拳を引く。

それからは一瞬、一瞬の出来事だった。

幽香が微笑み、兎耳男が笑い、そして風が吹いて――― 


681 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/03/07(土) 16:12:14 L/frzoos
カランカラン

檻を誰かが叩く音が聞こえる。

ミスティアが視線を上げると兎耳男は笑っていた。

ミスティアにしか向けない笑みを浮かべて。

兎耳男「ミスティア、お願いです」

みすち「な、なに?」

かつての美声を失い、掠れた声でミスティアが聞き返す。

兎耳男「私はあなたの事が大好きです、あなたを愛しています。これからも、そう、未来永劫に」

兎耳男が檻の鉄格子を二本、握る。

兎耳男「だから、だからっ」

兎耳男はそれを思い切り力を籠め横に引っ張る。

兎耳男の力をもってしても頑強な鉄格子。兎耳男が苦しそうに息を吐きながら、さらに力を込める。

徐々に、徐々に、鉄の檻が音を立て歪んでいく。

時間をかけ、ミスティアが通ることが出来るぐらいの隙間が開く。

そのスキマから兎耳男が何とか身を捩って入り 


682 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/03/07(土) 16:18:40 L/frzoos
足を踏み外したように倒れる。

ミスティアが慌てて這って進むと手の先にぬるりと温かいものがつく。

みすち「う、兎耳男さん?」

兎耳男「貴方は、必死に」

兎耳男がミスティアの足をつなぐ鎖に手をかけ、力を込める。

ぼこと気泡が弾ける音がした。

その音は兎耳男から。

兎耳男の腹。腹に大きく開いた穴から聞こえた。

みすち「兎耳男さんっ!? そ、その傷」

薄暗く良く見えない地下牢の中、ミスティアは兎耳男に抱き付き、傷口を見る。

確実に致命傷である。ミスティアはそれを理解した。

みすち「兎耳男さん………っ。兎耳男さんっ!!」

兎耳男「生きて、くださいっ」

鉄の鎖が引きちぎられる。それと同時にに兎耳男の体はミスティアの小さな体にもたれ掛った。 


683 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/03/07(土) 16:26:09 L/frzoos
幽香「………」

阿求「満足、でしょうか」

幽香「いいえ」

阿求「が、くふっ」

焼け落ちた部屋の中、幽香は炎に囲まれながらその家の持ち主である阿求の白く細い首を片手で絞めた。

幽香「もう、満足なんてできないわ。出来るのは私は私らしくただ暴れまわるだけ」

幽香「ねぇ、貴方は、なんで貴方はこんなことができたの?」

自分の首を強く締め付けるその手を引きはがそうとなんどか阿求がもがくが、ただの人間の力が幽香に叶う訳がなく、何度か幽香と自分の首をひっかくだけで終わる。

阿求「わ、わだしは、かんそくじゃに、すぎまぜん」

幽香「へぇ」

阿求「なにもちからを、もだない、わたじは、みることしか、できないっ」

幽香「だから、だからこんなことを見ないふりしていたの?」

阿求「みないふりは、じてないっ、わたしはただの゛かんぞくしゃで、よわい゛」

阿求「ひきょうもの、にじか、なれない゛っ」 


684 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/03/07(土) 16:35:16 L/frzoos
阿求「だがら、あやまるごとすら、できない゛」

幽香「へぇ」

幽香が手を放す。阿求の体が地面に向かって倒れる。

阿求「がはっ」

阿求の体が地面に倒れ伏す前に、阿求の腹に幽香のつま先が刺さった。そのまま蹴り上げ、阿求を蹴り飛ばす。

幽香「謝る気すらないというの!?」

阿求「謝れないっ!! 私は間違った!! 間違ってしまった!」

阿求「日に日に変わっていく住民を!! 殺される妖怪の叫びを! 見てた。見てるだけだった!」

阿求「そんな私が、幾千の言葉を並べ立てたところで謝ることなんてできないっ!!」

阿求「殺したいのなら殺してください! お願いだから私を殺してっ!!」

そう唾を吐きつける勢いで叫ぶ阿求に背を向ける。幽香は再び里で暴れまわるために。

幽香「今日、この異変は終わる。幻想郷に最悪の形で」

幽香「貴方はそこで見てなさい」

そう告げると、泣き咽ぶ阿求を炎の中に残し、地面を蹴り駆けだした。 

707 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/05/06(水) 14:33:30 84TfSWhw
~男視点~

響く絶叫。

照らす炎。

ねちゃりと靴底に纏わりつく血。

いくら走れどそこから逃れることはできない。

アリスは蓬莱と上海を連れて人間の集団の中へ突っ込んでいった。

一騎当千の働きを見せるアリスに気を取られた隙をついて更に奥へ進む。

俺、霊夢、チルノ。

この戦火を潜り抜けるには少し厳しい戦力。

いや、少しじゃない。相当厳しい。

相手の数は自分たちよりも数十倍。

いくら時が戻せても。そんな後ろ向きな考えが頭をよぎる。

なんとかなるだろうなんて楽観的な考えは今現在、現実によって打ち消される。

だけれど、目の前を走るこの少女が地面に倒れ伏す光景は頭の中でも想像できなかった。

後ろ向きの中で唯一の希望。それが博麗霊夢という英雄の存在だった。 


708 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/05/06(水) 14:46:02 84TfSWhw
霊夢「あぁもう!! どれだけ倒せばいいのよ!!」

霊夢が投げた札の直撃を受けた人間が吹き飛ぶ。

しかし敵の数は一向に減らない。

幽香たちが陽動として働いていてもこの数。

明らかに村全体で1万は超えているのではないだろうか。

でもなぜ。減らないはずがない。

もう戦いも長い。その中で失った損失も大きい筈だ。

なのに減っていない。

まるで幻影。

悪夢のようなその光景のたねを見つけることが出来なければ消耗戦に持ち込まれる。

それは電撃戦を挑んだ自分たちにとっては負けを表す。

だから前に進み、冴月 麟を倒さなければいけない。 


709 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/05/06(水) 14:54:33 84TfSWhw
男「うおらぁっ!!」

襲い掛かってきた人間の頬を拳で打ち抜く。

拳が骨を打つ手ごたえを感じた。脳が揺さぶられた人間は気を失い倒れた。

幻影ではない。感触もある。幻ではないようだ。

五感を欺く幻覚と言われればそれまでだが。

チルノ「師匠、やるね!」

男「萃香にしごかれたからな」

短い時間だったが密度の濃い稽古がなければ俺はとっくに死んでしまっていただろう。

幼い外見ながら、老獪とした雰囲気をだすあの少女に俺は感謝をしなければならないだろう。

萃香は死なない。だからこの戦いが終わった後、俺は萃香にお礼を 


710 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/05/06(水) 15:01:24 84TfSWhw
霊夢「!?」

前を行く霊夢が立ち止る。

ぶつかるギリギリのところで止まり、なぜ立ち止ったのかを知るために前を見る。

その異変は異変というにはあからさまで、異常というにはさして珍しくもない。

日本人ならば誰でも見たことがある物。

鎧、兜、刀、槍。

全て朱に塗られたそれらが一歩踏み出すとそれらは揺らめく炎のように見えた。

霊夢「なんで武者が!?」

驚く霊夢の顔を見るに、流石の幻想郷でも武者は居なかったようだ。

ならなぜこの量の武者がいきなり、湧いて出たように現れたのだろうか。

本当に幻影なのではないかという疑問は歩みを揃えて近づいてくる武者の威圧感、甲冑の重い音によってそうではないと理解した。 


711 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/05/06(水) 15:08:11 84TfSWhw
霊夢「………」

男「勝てるのか?」

霊夢「私を誰だと思ってるのよ、とは言いたいけれど、正直あんたとチルノを守り抜くのは厳しいわ」

チルノ「う、ごめんなさい。霊夢」

霊夢「別にあやまらなくていいわ。これはどうしようもないことよ」

だから逃げなさいと言って霊夢は俺たちを庇うように札を構えて武者を睨みつけた。

男「チルノ、行くぞ」

チルノ「で、でも師匠」

男「大丈夫だ、霊夢なら」

チルノの手を引いて武者に、霊夢に背を向けた。 


712 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/05/06(水) 15:11:09 84TfSWhw
霊夢「あんたにそういわれると癪だけど、その通りよ。私は伊達に博麗の巫女を名乗ってないわ。異変を解決するそのためなら神様だって悪魔だってぶっ飛ばしてきた、それと比べれば所詮人間」

敵じゃないと言おうとした霊夢の声が震えていた。

霊夢「………ごめん。私が死んだら後お願い」

男「分かった」

弾倉の中に弾はまだある。俺にできるのは出来るだけ手遅れにならないようにそれを使う事。

その覚悟だけはずっと前に決めている。

俺だけが使える俺だけの力。優越感はないが、心強くはあった。

男「じゃああとは頼んだ、霊夢!」 


713 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/05/06(水) 15:12:59 84TfSWhw
振り向いてみた霊夢の姿は

いくつもの槍を突き出され

逃げ場がない霊夢の姿に

あ、死んだんだと簡潔に思ってしまうほどの

絶望感

咄嗟に銃を抜いてこめかみに当てる。

男「くっそがぁああああっ!!」

力を込めて引き金を引く。

カチリ

男「え?」

と音が鳴るだけで弾は弾倉から飛び出てこなかった。 


714 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/05/06(水) 15:19:43 84TfSWhw
「おうおうおうおう、懐かしい空気、懐かしい音、懐かしい殺気!!」

心底嬉しそうな声が聞こえた。

霊夢「は!? え!? なんで!?」

霊夢に向かって突き出された槍は全て手折られ、地面に転がる。

「武者殺すは妖怪の誉、妖怪殺すは武者の誉」

「なら、ならば、そうならば!!」

「この戦、私が頂いた!!」

口にくわえた槍の先を噛み砕き、小さくて、大きな鬼。

伊吹萃香が不敵な笑みを浮かべていた。 


715 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/05/06(水) 19:04:17 84TfSWhw
萃香「さぁ、どいたどいた」

萃香が霊夢を突き飛ばした。それだけで霊夢の体は空を飛び、慌てて走り寄り抱き留めた俺の顔を霊夢が叩く。

霊夢「飛んだのよ、バカ」

萃香が腕をぶんぶんと振り回す。その腕についた鎖がじゃらじゃらと鳴り、かき回された空気が突風となり吹き荒れる。

萃香「ちょうどいい、男、よく見てなよ」

ちらりと俺を流し目で見た萃香がそう言う。

男「な、なにを?」

萃香「鬼にゃ向かないが人には向く。力がなくても力を振るう方法」

萃香が前を見て構える。それはいつもの萃香の無造作な動きではなく、ちゃんとした武道の構え。

半身で当たる箇所を少なくし、間合いを隠す実践的な構え。

萃香「しっかり見てな、一回しかしない。鬼の鬼による人間のための戦い」

萃香「鬼の百本組手だよ」

そう言って萃香は赤い群れに向かってゆっくりと歩みを進めた。 


718 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2015/05/13(水) 11:03:03 Ohtz3vTc
赤い群れが怒号を発し、萃香に向かって槍を突き出した。

しかし萃香は突き出す前に大きく前に踏み込み、槍を避け、一番近くにいた武者に肉薄した。

萃香「まずは一」

槍を突き出した体勢の武者の腰に手を当てる。そして萃香は武者の足を払い地面に叩き付けた。

萃香「相手から力を奪い取って、自分のものとする。人間が化け物を相手するのにこれ以上良い戦い方なんてあるもんか」

萃香「戦場の中で一番自分が有利な位置に立つ。相手をよく見る。周りを見る。力の流れを知る。それさえしてれば」

槍を振るうことが出来ない距離。武者は槍を捨て刀を抜き萃香に切りかかる。

萃香「後手必殺なんて馬鹿げたことが出来る」

四方から迫る刃。萃香はそれの横っ腹を押し強引に道を開けた。

刀を振り切ったその体勢は死に体。萃香は鎧と兜の隙間。さらにそこにあるしころの隙間を縫い武者の頚動脈に突きを入れた。

次にそのまま自分に覆い被させるように死体を動かす。死体の甲冑は次に飛んできた斬撃を弾き、耳障りな高音を上げた。

武者が次の一撃を繰り出すよりもすでに拳を引ききった萃香のほうが早い。

萃香の拳は握り締められておらず、指だけが折りたたまれた形。つまり掌底。

正確に心臓の位置に打ち込まれた萃香の掌底は鎧を衝撃となり通過し、鎧の中の人間に届く。

一対多。圧倒的に不利なはずの状況を萃香は能動的に受動的に動き打開していた。 


719 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2015/05/13(水) 11:11:42 Ohtz3vTc
萃香の動きは合気道ほど相手を待たず、空手ほど自分を持たない。

だけど柔道のようでもない。

戦いの中に罠を撒いて誘導し、自分に有利な状況を作り出すそれはまるで将棋や囲碁。

一手二手先を読むのはもちろん、視点視線体勢タイミング。全てを自ら望むまま動かす。

武者が駒だとするならば、萃香は棋士。

格が違っていた。 


720 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2015/05/13(水) 11:22:31 Ohtz3vTc
確実に一人一人を倒し終わった萃香は、最後の一人が地面に倒れ伏すのを見届けると、額の汗を拭い一息ついた。

萃香「分かったかい、男」

男「分かった、けど実践できるかどうか」

萃香「出来るさきっと」

霊夢「ずいぶん男に甘いのね」

萃香「ん? そうかい?」

霊夢「そうよ」

萃香「ははっ。天下の伊吹童子が甘くなったといわれちゃ、おしまいかもしれないねぇ」

男「まぁ、萃香と一緒に戦って―――――」

萃香「―――けふっ」

萃香が口から血を吐き出した。

口だけじゃない、その小さな胸から刃を覗かせ、血を流していた。 


721 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2015/05/13(水) 11:36:10 Ohtz3vTc
萃香「まだ生き残りが………っ!?」

ゆらり、幽鬼のごとく武者が立ち上がる。

あるものは首から血を噴出し、あるものは胸に槍を刺し、またあるものはそもそも首から上が無かった。

今まで倒した武者。全てが立ち上がり萃香に向かって各々武器を振るった。

その攻撃を萃香は全てを避けることは出来ず、さらに両者とも赤く染まる。

男「萃香っ!!」

萃香「大丈夫、大丈夫さ」

血の混じった痰を吐き出す萃香の姿はどう見ても大丈夫なようには見えない。

男「萃香っ!! 鬼なんだろ!? 天下の伊吹童子なんだろ!! なんで人間に負けるんだよ」

萃香「鬼だから、妖怪だから、人間に負けるのさ。でもね男。わたしゃ天下の伊吹童子さ。腕を切り落とされても、首をもがれても」

萃香「全員一緒に纏めて、地獄に連れて行ってやる」

萃香が腕を一閃すると周りの武者が吹き飛んだ。

萃香はまだ笑みを浮かべながら口元に滴る血を拭った。

萃香「逃げな男。失せな霊夢、生きなチルノ。ここは私の戦場で死に場所。誰にも邪魔はさせない」

萃香「天下一の大立ち回り。誰にも見られず朽ちて果てりゃ、大笑いできる、最高の酒の肴。向こうの奴には良い手土産になるだろうさ!!」 


722 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2015/05/13(水) 11:46:05 Ohtz3vTc
踏み出そうとした霊夢とチルノの手を握り萃香に背を向け走る。

霊夢「話してよ男!!」

男「うるさい! 絶対離すもんか!!」

霊夢「あんたは萃香を見殺しにするの!?」

男「あぁ、そうだよ見殺しにするんだよ!! 萃香を、俺は見殺しにするんだよ!!」

男「大切な、俺の師匠を俺は見殺しにするんだよ!!」

霊夢であれば振りほどけたはずだった、チルノだったら振りほどけたはずだった。

だけど二人の柔らかい手は強く握る俺の手を弱く握り返してくれた。

男「ちくしょう、ちくしょう………」

紫の「共犯者じゃない、貴方も、私も」という言葉が頭の中に幾度となく響き、みっともなく、泣いた。 


725 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/06/01(月) 20:44:36 7.KePSR2
~俯瞰視点~

幾多もの亡骸に囲まれ、伊吹萃香は天を仰いでいた。

その体に左腕はなく、残りの肢体も辛うじて残っているだけだった。幼い見た目にいくつもの折れた刃を生やし、止まることのない血が服を汚す。

だがその顔に浮かべるのは憤怒でも悲しみでもなく、満足そうな満面の笑み。

戦いの中で生きて死ねた。それだけで萃香は自分の生に十分な価値を見出していた。

酒に酔いつぶれ、寝首をかかれるわけではない。真っ向から立ち向かい、見事に散った。

その事実だけで萃香は安らかに生を終えることができた。

残った右手で瓢箪の中の酒を口に運ぶ。

しかし飲み込めず、そのほとんどを口の端から零した。

首を伝って滴った酒が服に染みこんだ血を浮かせる。

萃香は飲み込めない酒を何度も何度も口に運び、そのたびに吐き出す。

それでも口の中に残る強すぎる酒の味だけで不思議と満足できた。

次第に腕の動きも遅くなり、酒を運ぶことすらままならなくなる。ついに力尽き、地面に転がった瓢箪。とくとくと酒が地面を濡らした。

「あぁ、楽しかった」

萃香は小さく息を吸い込んでやっとのことでそう言うと、目を閉じた。 


726 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/06/01(月) 20:45:45 7.KePSR2
血の匂いは苦手ではない。畜生の変化であるため、生臭い事なんて慣れる以前に辛いとすら考えたことはなかった。

だからこのむせ返るような血の煙の中でも顔色一つ変えず息をしていた。

「なるほど、貴方は」

独特な耳当てをし、まるでミミズクのような特徴的な髪型をした少女、豊郷耳 神子はマントを風になびかせながら目の前の良く見知った黒いワンピースの少女を見た。

「あうぅ………なんて演技はもう良いかの」

神子の冷ややかな目で見つめられた少女はその小さな可愛らしい口を獣のように大きく歪め、低い声で笑った。

そのつややかな黒色の髪は柔らかそうな栗毛に。少女のような華奢な肢体は肉付きの良い大人の肢体に。怯えていた瞳は、敵意をむき出しにした瞳に。

瞬く間に変化した。

マミゾウ「のう、豊郷耳の」

神子「どうしてここに?」

マミゾウ「可愛い娘に頼まれたもんでな」

そういってマミゾウは懐から煙管を取り出し火を灯した。煙管を咥え大きく息を吸い込み、そして大きく息を吐く。

するとマミゾウの口から通常では考えられない、辺り一面を覆うほどの大量の煙が飛び出した。

マミゾウ「それと怨みがある」

神子「そうですか、それは私もです」 


727 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/06/01(月) 20:46:26 7.KePSR2
煙の中から飛び出したマミゾウにむかって、巫女が剣を抜く。その刃は飛びかかってきたマミゾウの胸元を正確に捉えたが、刃が胸を抉る刹那、マミゾウの体は気の抜ける音を立て、木の葉へと姿を変えた。

神子「でしょうね」

そのまま後ろに向かって剣を薙ぐ。剣は巫女の後ろに回り込んでいたマミゾウの持つドスを止め、甲高い金属音と火花をたてた。

神子「欲は化けれませんよ。人間も妖怪も神も仏も」

マミゾウ「熱心な仏教家の名が泣くぞ?」

神子「あれは民を操るのに都合が良かっただけです。仏も神もさらさら信じる気はありません」

マミゾウ「あぁそうかいね。じゃあ一度会ってくるといいさ」

マミゾウが力を込めると徐々に神子の剣は神子の方へと押し込められてゆく。

神子「その気は更々ありませんよ」

神子が後ろに向かって飛ぶと、その体はマントの中に吸い込まれ、消えた。

神子「それより、貴方は布都に詫びると良い」

その姿は消えると同時にマミゾウの後ろに現れていた。そして無防備になったマミゾウの背中を剣で貫く。

マミゾウ「けふっ」

神子「畜生も血は赤いんですね」

マミゾウ「くくっ、貴族様は知らないだろうさ。血の色も、我ら畜生も何もかも」 


728 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/06/01(月) 20:47:20 7.KePSR2
神子「戯言を」

神子が剣をさらに押し込む。

剣はずぶずぶとマミゾウの背中に吸い込まれてゆき、そしてついにマミゾウの胸元からその姿を覗かせた。

マミゾウが大きく咳き込むと同時に大量の血を吐く。

神子「この程度に貴方は負けたのですか布都。………見損ないましたよ、えぇ」

その声色はどこか悲しげであった。マミゾウはその感傷的な神子の言葉をくくくと笑い飛ばした。

マミゾウ「死人は泣きはしないし、笑いもしないさ」

神子「その言葉、復讐をしにきたあなたが言うのですね」

マミゾウ「わかっちゃいない、わかっちゃいないのさ豊郷耳の。儂が何に怒り、何に悲しみ、何を思っているのか」

神子「その貴方のうちから湧き出る憤怒は、命蓮寺の連中を殺した私によるものでしょう」

マミゾウ「ははっ。確かに奴らとは関わり深い。儂の可愛いぬえを可愛がってもらってたからのう」

マミゾウ「だがそうじゃない、そうではない。儂の怒りは、儂の悲しみは、儂の怨みは」

マミゾウが胸から飛び出た刃を掴み

大きく胸に向かって引いた。 


729 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/06/01(月) 20:49:52 7.KePSR2
神子「なっ」

その突然の行動に巫女が驚くと同時にマミゾウが勢いよく振り返る。

そしてそのテラテラと濡れた刃を神子に抱き付くようにして突き刺す。

神子「うぐっ」

胸を刺す刃と背中を刺すマミゾウの爪によって神子の顔が苦悶の表情に歪む。

神子「なにを、するのです」

マミゾウ「儂は、儂を許せないんじゃよ」

マミゾウ「だから儂は儂を殺してその敵を討つ。まぁ付き合ってくれんか。豊郷耳の」

マミゾウの力がさらに強く込められる。神子は自らの骨がきしきし音をたてるのを聞いた。

神子「自己犠牲なんて、ばかばかしい」

マミゾウ「自己犠牲なんてもんじゃないわ。このままじゃ儂は儂を許せんのよ。ま、ただの頑固者よな」

マミゾウ「じゃ、頼んだよ」

「あぁ、任せろ」

神子の後ろから声が聞こえた。その声は聞き覚えのある声であり、そしてするはずのない行動とその言葉に神子は驚きを隠せず―――

後は全て光が覆い何も見えなくなった。 


735 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/06/20(土) 23:25:05 uyn/R4m6
「これで、これで、良かったのか。マミゾウ」

少女は箒に乗り、すすり泣くような声をあげ、今にも泣き出しそうな表情で更地となった地面を見た。

「あら、あらあらぁ、なにやってるのかしら、魔理沙」

「っ!」

そんな魔理沙を後ろから抱きしめる金髪の少女。その右手は優しく魔理沙の髪を梳くように撫でていた。

魔理沙「いつの間に、いた。冴月」

麟「麟って呼んでよ」

そう拗ねたように、からかう様にそういう麟を魔理沙は振り返って睨んだ。

魔理沙「何時の間にいた」

麟「最初から今まで」

魔理沙「見てたのか」

麟「えぇ、見てただけ」

魔理沙「なんで怒らない」

麟「怒る必要がないから」 


736 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/06/21(日) 00:08:28 k3NVTOjM
魔理沙「怒る必要がないってなんでだ、私は、私はお前の仲間を殺したんだぞ」

麟「? それで?」

魔理沙「それでって………私はお前を裏切ったんだぞ!?」

麟「どこが?」

魔理沙「お前の仲間を殺した」

麟「えぇ」

魔理沙「裏切りだろ!?」

麟「いいえ」

魔理沙「なんでだ、なんでだよ」

麟「だってそもそも私の親友は魔理沙と霊夢だけだし」

魔理沙「………っ」

麟「うふふ、私の大切な魔理沙。貴方は私を裏切らないわよね」

魔理沙「………私は」

魔理沙「私は、霊夢を裏切らない。霊夢は私が救う」

麟「うふふ、素敵ね。魔理沙」 


737 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/06/21(日) 00:30:47 k3NVTOjM
アリス「で、まだ来るのかしら?」

上海「お願いです、降伏してください」

蓬莱「は? こんな奴ら皆殺しで良いわよ」

アリス、上海、蓬莱の三人を中心として、半径10メートルほどの隙間を開けて数十人の村人たちが円状にアリスたちを囲んでいる。

初めは闇雲に人数にものを言わせて襲い掛かってきた村人達だったが、すぐにアリス達に蹴散らされ今に至る。

どうやら遠巻きに見るが逃げるつもりはないらしい。

アリス「消えるなら消えなさい。追いはしないわ」

そう呼びかけるも効果なし。こっちの隙を探るような視線だけしか返ってこない。

蓬莱「面倒よ、蹴散らしましょう」

上海「だ、駄目ですよ!」

蓬莱「は? なに甘ったれた事いってんの? こいつらは敵。敵なの。わーかーる?」

上海「で、でも」

人形劇、見に来てくれた人たちなんですよ。

そうもごもごと言う上海に蓬莱は罰が悪そうに頬を掻いた。 


738 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/06/21(日) 00:44:04 k3NVTOjM
「はいはい、皆さん。助けに来ましたよー」

膠着した状況を打ち破る軽やかに弾んだ声。

場違いに明るいその声の聞こえる方向にいる集団がざっと左右に分かれ、そこを通り、緑色の髪をした巫女服の少女が現れた。

早苗「こんにちわ。アリスさん」

アリス「早苗。なのかしら」

早苗「えぇ、そうですよ」

ニコニコと目を細めて笑う彼女の姿を見るアリスの表情は険しい。

蓬莱と上海は早苗からアリスを守るように武器を構えた。 


739 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/06/21(日) 00:44:38 k3NVTOjM
アリス「いや、貴方は早苗じゃないわね」

早苗「えぇ、少なくとも貴方の知る早苗、ではありません」

アリス「でしょうね」

早苗「どうも、守矢神社の三柱の内が一柱、東風谷 早苗です」

アリス「………嘘つき」

早苗「嘘じゃあ、ないですよぉお」

にこにこと笑う早苗の目が開かれる。

その瞳の色は黒。

アリス「祟り神め」

白目のない、底の見えない闇色の眼だった。 


740 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/06/21(日) 16:35:57 k3NVTOjM
早苗「祟り神? それは諏訪子様ですよ」

アリス「そんな禍禍しい神様なんているわけないでしょ」

早苗「禍禍しい神様なんていくらでもいますよぉ」

アリス「生憎だけど、私は神道じゃないのよっ!」

アリスが指を動かすと4体の人形が早苗に向かって飛んでいく。

早苗「ふふ」

その人形を早苗は指すら動かすことなく、地面に叩き落とした。

早苗「そんなものですか? アリスさん」

アリス「っ その力って」

早苗「神として奇跡を操る私にそんなものが通じるわけないじゃないですかぁ」

早苗がにこりと微笑んで、祓串を振るった。

上海「!」

その数瞬後。アリスを守るために大きな鉄の盾を構えた上海の姿が吹き飛んだ。 


741 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/06/21(日) 17:32:12 k3NVTOjM
早苗「良く止めれましたねぇ、見えないはずなのに」

蓬莱「こんだけ殺意がこもってれば嫌でもわかるわよ」

早苗「ほへぇ。そういうものなんですかぁ」

早苗「あ、皆さんもういいですよぉ。あとは全てこの私。東風谷 早苗が終わらせるので」

その言葉を聞いた村人たちが散る。一瞬それを追おうか考えたアリスだったが、目の前の早苗から目を離すことはできないと考え、蓬莱に目くばせをした。

蓬莱「はっ。ずいぶん余裕ぶってるわね」

早苗「ぶってる? いいえ。余裕なんですよ」

蓬莱「どうだか」

早苗「では証明してみせましょう」

早苗が再び祓串を振るう。

不可視の攻撃。それを迎撃するために蓬莱が槍を突き出す。

蓬莱「う、ぐぅっ!」

蓬莱の槍に触れた何かが爆発した。

辺りに吹き荒れる風によって蓬莱の小さな体が宙に浮いた。 


742 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/06/22(月) 21:32:37 DtL4eAeU
早苗「うくくっ。弱いじゃぁ、ないですかぁっ!」

早苗「ほらっ、ほらっっ、ほらぁっ!!」

早苗が祓串を振るう。

荒れ狂う風が

研ぎ澄まされた風が

重き風が

アリス達を襲い、刻み、押しつぶす。

早苗「ほらぁっ! こんなにもっ!!」

早苗「弱いじゃぁないですかぁっ!」

アリス「………」

アリスたちは、成す術なく、打ちのめされていく。

早苗「弾幕はブレイン? いや違います!」

早苗「弾幕とは、圧倒的なまでの、完璧なまでの、超絶的なまでの力と!!」

早苗「独善的で、妄信的で、狂信的なまでの意志から生まれる!!」

早苗「パワーなのです!!」 


743 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/06/22(月) 21:57:37 DtL4eAeU
早苗が祓串で素早く九字を描く。九字を模した眩い光の線がアリス達を囲むように現れ、上下左右からアリス達を狙い、襲い掛かった。

絶対回避不可な攻撃、自らに迫るそれを見てアリスは笑った。

アリス「弾幕ごっこは避けれない攻撃は禁止。そんな優雅じゃない弾幕はもちろん使ってはいけないのよ。知らなかったの?」

早苗「はっ。これは戦い殺し合い! ごっこなんかじゃぁないんですよぉっ!1」

光の線がアリスの首に触れる。

アリスの白く綺麗な首筋に食い込み、表面を破り、中へ入り、進み、骨に触れ、それでもなお進み、骨を砕き、肉を断ち、そして首を断つ。

それだけではない。

腕も足も胴も胸も、その綺麗な青い瞳と金色の髪さえも

四角く四角く、切り刻んだ。 


744 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/06/22(月) 22:19:25 DtL4eAeU
アリス「そう、殺し合いでいいのね」

早苗「!?」

アリス「知ってる? 殺し合いもブレインなのよ」

早苗の後ろ、逃げた民衆の内の一人が早苗の背中を刺していた。

早苗「う、くぅっ」

その瞳は蒼

その髪は金

その唇は赤

その肌は白

形の良い唇が、形良く歪んで、微笑む。

ナイフを伝わって滴る血が陶磁器のような肌に良く映える。

いつもと違う着物姿がまた、少女の美しさを際立てる。 


745 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/06/22(月) 22:26:34 DtL4eAeU
アリス「お人形遊び、楽しかった?」

早苗「お前―――」

蓬莱「さっきのぉおおおぉおお、お返しよっ!!!」

ひらりと避けたアリスの後ろから大きな槍を構えた蓬莱が現れる。

その槍は早苗の肩甲骨と肩甲骨の隙間を通り、心の蔵を貫き、胸から現れ、早苗の体に大きな風穴を開けた。

アリス「ごめんなさい。貴方の事、詳しく知らないから泣いてあげれないわ」

頬に散った返り血をアリスがレースの白いハンカチで拭う。ハンカチに滲んだ血を見てアリスがハンカチを地面に放り投げた。

蓬莱「はっ。たかだか人間が私たちに適うかっての」

上海「あたた、でも痛かったです」

アリス「お疲れ様、上海、ほうら―――

「許さない」

「許すことはできない」

「許すことは認められない」

「神を、祟神を、私を、我を、殺し、殺し、痛みつけたことを、見捨てた事を」

「許さない」 


746 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/06/22(月) 22:35:57 DtL4eAeU
アリスの後ろ。今しがた東風谷 早苗の亡骸が地面に倒れ伏した場所。

正確にいえば東風谷 早苗の空いた胸の穴の中から、

くぐもった、おどろおどろしい声が聞こえた。

アリス「アーティフルサクリファイスッ!」

反射的に懐から人形を取り出し、投げる。

火薬の詰まった人形は近距離にいるアリス達ごと早苗を吹き飛ばした。

上海「大丈夫ですか!? アリス!!」

アリス「えぇ、大丈夫よ。それより」

少し眩暈がしたため、アリスがこめかみを押さえる。

片目瞑ってみたそれの姿は東風谷 早苗。

ゆらりと幽鬼のようにだらりと腕を垂らして立つその姿は紛れもなく東風谷 早苗だった。

アリス「………やっぱり祟神になってたのね。東風谷 早苗」 


747 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2015/06/24(水) 21:42:47 WTxw/93g
待ってました! 


748 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/06/27(土) 22:55:15 uiJp3LGQ
早苗「ねぇ、おい、アリスさん、お前、死んでください、死んでしまえ」

おどろおどろしい怨嗟の声。乱れた前髪の隙間からアリスを睨めつける目に宿るのは憎悪。

黒い泥のような瞳にアリスは少しの恐怖を感じた。

アリス(早苗………あれは本当に東風谷 早苗なの?)

早苗「死んで、死ね」

早苗が左腕を上げる。

眩い光とゴロゴロと体に響く低い音。

雷が早苗の上に集まっていた。

アリス「っ!」

早苗「死んで、死ね、死んで、死ね、死んで、死ね、死んで、死ね」」

早苗が左腕を振り下ろす。

雷がアリスに向かって、瞬きよりも速く走る。

その速さに反応できたのは身を挺してアリスを庇った上海だけだった。 


749 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/06/27(土) 23:10:09 uiJp3LGQ
展開した盾をも砕く一撃。

抑えることが出来なかった力が上海の体を襲った。

上海「あうぅっ」

衝撃により地面に叩きつけられた上海が小さくうめき声をあげた。

蓬莱「上海! よくも上海を」

アリス「やめなさい蓬莱」

槍を展開し、早苗に向かっていこうとした蓬莱をアリスが手で制す。

蓬莱「アリス!?」

アリス「こいつは、私が相手する」

アリスが両手を広げる。

その十本の指には全てリングが付いており、そのリングからは目に見えないぐらい細い糸がついていた。

アリスがまるでピアノを弾くかのように指を動かすといつの間にか空中に人形が現れ、それぞれ弓や槍などの得物を早苗に向かって構える。

アリス「逃げなさい蓬莱、上海を連れて」

蓬莱「でもアリスッ!」

アリス「逃げて蓬莱。私の最高の友達」 


750 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/06/27(土) 23:30:19 uiJp3LGQ
早苗「許さない、許さない」

蓬莱「………死なないでよ、アリス」

アリス「私を誰だと思ってるのよ」

蓬莱「アリス」

アリス「魔界の神の娘よ。舐めてもらっちゃ困るわ」

アリス「こんな悪霊の一体二体三体四体、いや、いくら束ねてもお母さんや夢子の足元にも及ばない」

アリス「かかってきなさい悪霊、誰だか知らないけど死んでもらうわよ」 


752 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/07/12(日) 23:56:32 /xKzPXyc
見えない風の刃。眩い雷の槍。瞬く間というほど遅くはない攻撃がアリスを襲う。

しかしその青い瞳は相手をまっすぐ見据え、紙一重で全てを躱していく。

アリス「………」

無言で進みながらアリスがその白魚のような指を微かに動かすと、アリスの後ろで弓を構えていた人形が矢を放つ。

早苗はそれを避けようともせずその身に受けた。顔には苦悶の表情すら浮かばず、怨みの念しか含まない瞳がアリスを貫く。

アリス「本当、不気味」

アリスが右手の中指をくいと動かすと槍を持った人形が早苗に向かって飛んでいく。

早苗はその人形の槍を手のひらで受け、手のひらを貫通した槍を掴みアリスに向かって投げ返した。

しかしその人形は早苗の手を離れる寸前に爆発する。

掴んでいた右手首から先が吹き飛んだ。傷口から赤く汚れた骨が露出し、大量の血が流れた。

しかしその表情は変わらない。

アリス「神の子っていってもまだ人間でしょ? それとも一回死んで生き返った?」

冷静に観察をするも、なぜそうなるのかがアリスには分からない。

悪魔に取りつかれたとしても、心臓を抉り取られ、右手を無くしたのに悲鳴すら上げず、妄執に取りつかれたかの如く小さく恨み言を続けるそれが分からない。

全てを恨むかのようなその力の根源が分からない。 


753 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/07/12(日) 23:57:03 /xKzPXyc
勝てないわけではない。万が一目の前の早苗に取りついた悪霊が魅魔並だったとしてもアリスは本気を出さずに倒すことはできる。

しかし、目の前の悪霊は魅魔よりもずっとずっと湿ってドロドロとした怨みをぶつけてくる。並の妖怪なら精神汚染され、その形を失うほどの濃い怨み。

これほどの悪霊がなぜ幻想郷に入って来れたのか。そしてなぜそれが早苗に憑いているのか、それが分からない。

いくら観察しても分からないことだらけなのは変わらない。

ならばもう倒してしまおう。アリスはそう結論付け両手の指を激しく動かした。

矢が。槍が。剣が。爆弾が早苗に襲い掛かる。

早苗の体は切り刻まれ、欠落し、損失する。

腕はなます切り。胴は矢でハリネズミ。足は所々炭化し、爆風で抉れている。

並の人間では吐き気を催してしまうほどの猟奇的な光景。

しかしアリスも早苗も顔色一つ変えない。

吹き飛んだ右足により、体を支えられなくなった早苗の体が傾き、地面に倒れ伏す。

這って行こうとした腕もすでになくただ肩から少し残った先が空しく地面を掻くのみ。

しかしその瞳はまだ爛々と光っており、アリスを睨めつける。

アリス「さようなら、早苗」

アリスが腕を一閃すると、矢が早苗の眼を貫き、頭蓋を食い破った。 


754 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/07/12(日) 23:57:36 /xKzPXyc

そこまでしてやっと早苗の体が動かなくなった。

操り糸が切れたかのようにいきなり動かなくなるその姿をアリスは不気味に思ったが、執念で動いていたのならそうなのだろうと考え、早苗に背を向ける。

それがいけなかった。

早苗が立ち上がる。

右足で地面をしっかりと踏みしめ。

右手でしっかりと己が武器である祓串を構え。

爛々と怨みの暗い光を灯した瞳で。

早苗の後ろに立っていた。

反応が一拍の遅れを生じた。

振り向こうとしたアリスの右肩甲骨辺りを早苗の爪が切り裂く。

熱い痛みを感じながら距離を取ろうとしたアリスのわき腹をお歯黒のように黒く酸化した血がこびりついた歯が噛み千切る。

痛みは体の不調、危機を知らせるもの。しかしそれは時により脳神経を焼き切ってしまう。

アリス「なんで、なんで?」

判断を間違えた脳が取った行動は口から疑問の言葉を吐き出すことだった。それに対し早苗が悍ましい声で答えた。

早苗「きせき」 


755 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/07/12(日) 23:58:09 /xKzPXyc
アリス「違う」

違う。それは奇跡ではない。

目を貫かれ、足を焼かれ、いくつもの矢をその身に受けたその体を全て元通りにする奇跡は存在しない。

奇跡ならば死んでから蘇る。

それは死体が残っていた場合の話だ。

もしくは奇跡ならばそもそもその身に攻撃を受けることはない。

だからこれは奇跡ではない。

これは呪いだ。

高密度の怨みが生んだどす黒い奇跡染みた呪いだ。

早苗「さぁ、死ね」

祓串が眼前に迫る。

それを右手で防ぎ、尻もちをつくようにして早苗から逃げる。

そんな自分を無様とあざ笑いながらアリスは自分の喉を食いちぎろうとしてくる早苗の顔を蹴り飛ばし、その隙に距離を取る。 


756 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/07/12(日) 23:59:30 /xKzPXyc
アリス「私は魔界神の娘、だから、だからあんたに負けるわけにはいかないのよ!」

アリスが滅茶苦茶に腕を振るう。

矢が、槍が、剣が、爆弾が、先ほどよりも苛烈に火のように早苗に押し寄せる。

早苗「ばぁ」

早苗の周りに雷が落ちる。その力と巻き起こされた砂煙により、その攻撃は全て地面に叩き落とされた。

早苗「く、くぅ、ははぁ」

早苗が笑った。

いやそれを笑ったと言えるのだろうか。その歪んだ口角を笑みと言えるのだろうか。

アリス「………」

アリスは全て防がれた自分の全力を前に唖然とし、小さく口を開けた。

アリス「ごめん、蓬莱。勝てなかった」

垂らした指からリングが落ち、地面と接触し、軽い金属音を立てる。

早苗が右手を上げる。

その上に集まる高密度の雷。

それを見てアリスは自分の体を抱きしめた。 


757 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/07/13(月) 00:00:01 bNJFG.l6
早苗の手は振り下ろされ、一直線にアリスの元へ飛んでいく。

早苗「!」

しかしその雷はアリスには届かなかった。

突然隆起した地面がアリスを庇っていたからだ。

「ねぇ、もうやめてくれよ、お願いだ」

「………やめて」

突然現れた二人が早苗を抱きしめていた。

早苗「う、うぐぅ、は、離せ」

童女のような姿の洩矢 諏訪子。

威厳のある大きな姿の八坂 神奈子。

二人で包み込むように早苗を抱きしめていた。

アリス「やめろって、早苗は今優勢だったでしょ?」

諏訪子「違うよ、違うんだよ」

アリス「違うって、何が?」

諏訪子「早苗はもう、死んだよ。さっきあんたが殺したじゃないか」 


758 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/07/13(月) 00:00:40 bNJFG.l6
アリス「それは、早苗じゃないの?」

神奈子「違う! 早苗は、こんな、こんな奴じゃ、こんな奴じゃない!」

アリス「それで、何?」

神奈子「お願いだ、お願いがある」

アリス「お願いって何よ。これ以上戦わないでくれとでもいうの? もしくは早苗をいたぶらないでくれ?」

神奈子「前者はそうだ。でも後者はその逆」

アリス「それって」

神奈子「お願いだ。早苗を、殺してくれ」

アリス「………」

神奈子「お願いだ」

アリス「自分でやれば? そいつより強いんでしょ?」

諏訪子「あんたは、私たちに自分の子を殺せって、言うのかい?」 


759 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/07/13(月) 00:06:02 bNJFG.l6
諏訪子「無理だよ、無理だよぉ」

神奈子「たとえ形が違っても、たとえ中身が違っても、私たちにとっては可愛い早苗なんだ」

神奈子「でも、でもこれ以上見てられないんだよ」

神奈子「だからお願いだ。早苗を殺してくれ」

アリス「………私が早苗を殺せると思うの?」

神奈子「さっき、人形遣いを辞めようとしたよね」

アリス「………それは私が諦めたのよ」

神奈子「いや、違う。諦めていない。アリス、お前は本気を出そうとした」

アリス「………」

神奈子「その今抱きしめている魔導書を開こうとした」

アリス「………分かったわ、そいつは私が殺す」

神奈子「ありがとう」 


760 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/07/13(月) 00:06:49 bNJFG.l6
アリス「それじゃあ、行くわよ」

早苗「やめろ、やめろっ!!」

アリスが右手で本を持ち、左手を早苗の首にあてた

アリス「さよなら」

魔導書が少し光ると二人から逃げ出そうともがき、獣のような表情でアリスを睨みつけていたその体から力が抜けた。

諏訪子「う、くっ、あうぅ………」

神奈子「ありがとうアリス。良かったなぁ、早苗、良かった」

アリス「………それで、貴方たちも私と戦うの?」

神奈子「いや、もう私たちは消えるさ」

諏訪子「早苗、ごめんよぅ、ごめんよぉ」

神奈子「さ、行こうか諏訪子。帰ろう早苗」

神奈子が早苗の亡骸を抱きかかえ立ち上がる。地面に座り込んで泣いていた諏訪子は神奈子に縋り付くようにして同じく立ち上がった。

三人の姿はうっすらと透け、どんどんとその色を亡くし、最後に神奈子はアリスに向かって微笑むと完全にその姿を失った。

アリス「………何よ、バカみたい」

アリス「本当、バカみたい」 


761 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2015/07/13(月) 22:46:31 bNJFG.l6
~男視点~

霊夢「………あんた」

気が付くと目の前に少女がいた。

紫色の髪に、体から生えた触手と目。その大きな目がぎょろりと俺たちを見る。

男「誰、なんだ?」

霊夢「こいつは」

さとり「古明地 さとり。元地霊殿の主。今は、今は、なんでしょうね」

さとりと名乗った少女が短くため息をつく。

敵なのか味方なのか。いや十中八九敵だろうがなんというか今までの奴と比べて敵意を感じない。

さとり「敵意、というものはありませんよ。私はただ交渉しにきただけです」

心を読まれたかのような言葉がさとりから

さとり「心、読めますよ。私」

まじか

心の中が読まれていた。という事は俺の考えている事が筒抜けという事か。

いくら策を弄しても読まれ看破されてしまう。それがどんなに恐ろしい事か。 


762 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2015/07/13(月) 22:50:53 bNJFG.l6
さとり「………」

そんな事を考えているとさとりが悲しそうに微笑んだ。

悪いやつ、じゃないのか?

いやこいつもあいつの仲間なら

あいつらを殺した奴の仲間なら

さとり「ごめんなさいと謝っても意味はないのでしょうが、一応謝っておきます」

さとりが頭を下げた。

なぜ謝る。

あぁそうか。

男「俺の心を読んだのか」

さとり「はい」

男「やめてくれ」

さとり「ごめんなさい」

あいつらのこんな可哀想な姿を知らないでくれ。

知ってるのは俺だけでいいんだ。 


763 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2015/07/13(月) 22:57:07 bNJFG.l6
霊夢「それで、何の用?」

さとり「霊夢、貴方と交渉がしたい」

霊夢「交渉?」

さとり「はい」

霊夢「交渉って何よ」

さとり「貴方が私たちのところに来てくれるのなら、この戦争を終わらせましょう」

霊夢「は?」

いきなりのその言葉。

霊夢一人の決断でこの戦争が終わる。

それって

そんなのって

もしかしてこの戦争って

原因は、霊夢? 


764 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2015/07/13(月) 23:01:20 bNJFG.l6
………いや違う、そんなはずはない。

さとり「男さん。今あなたが考えている事は半分は正解です」

霊夢「………何を考えているの?」

さとり「私は平和に暮らしたいだけです」

霊夢「ならなんで戦争を初めたのよ!」

さとり「その原因はこの世界が悪いのです。この世界を、幻想郷を嫌った人が、そして貴方を誰よりも好く人がこの戦争を起こした」

霊夢「残念だけど、私は冴月 麟なんて奴知らないわ」

さとり「えぇ、そうでしょう。あの人を知る人なんていない」

霊夢「ストーカー?」

さとり「そこまでは知りません。あの人の心は私には読めませんから」

霊夢「あんたに読めないって何者よ」

さとり「人間のはずですよ」

霊夢「………あぁ、そう」 


765 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2015/07/13(月) 23:09:57 bNJFG.l6
さとり「さて、無駄話はここまでです。答えを聞かせてもらえますか?」

霊夢「最後に一ついいかしら?」

さとり「えぇ。私でわかることなら」

霊夢「もし私が条件を飲んであんた達に従ったら、その後どうなるの?」

さとり「言った通り戦争は終わります。幻想郷と共に」 


767 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2015/07/20(月) 14:33:38 GvBD8JTs
チルノ「何言ってるんだ?」

その言葉を一番最初に口にしたのは今まで黙っていたチルノだった。

チルノ「この幻想郷がなくなったら、あたいは、みんなはどこで暮らすんだ?」

さとり「さぁ、どうなるのでしょうか」

霊夢「ちょ、ちょっと待ちなさい、アンタたちは一体」

さとり「質問に対する回答はすでに終了しました。どうしますか霊夢、私についてきてくれますか?」

さとりが霊夢に向かって手を差し出す。

チルノと俺の視線がその手に釘づけになる。

この手を握れば戦争が終わる。

ただ、戦争が終わって平和になる保障は一切ない。 


768 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2015/07/20(月) 15:27:55 GvBD8JTs
霊夢「お断りよ」

その手を

その提案を

あっさり霊夢は拒否した。

霊夢「私は幻想郷の素敵な巫女。幻想郷を見捨てるなんてことが出来るわけないじゃない」

さとり「でしょうね」

さとりも初めからわかっていたかのようにそうあっさりと返す。

霊夢「私の心読めるんでしょ? 今私が何考えてるか分かる?」

さとり「怒り、悲しみ、あたりですかね」

霊夢「そうよ、怒ってるのよ。悲しんでるのよ。あんたならわかるでしょう、どれだけ、どれだけ私があいつをぶっ飛ばしたいか!!」

さとり「そうですか。頑張ってください。それでは私は失礼します」

霊夢「ちょっと待ちなさい」

さとり「………」

さとりが自分の首筋にあてられたお祓い棒に、命を奪うそれに対し

嬉しそうにため息をついた。 


769 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2015/07/20(月) 15:57:16 GvBD8JTs
霊夢「逃がすわけには行かないわ、誰かを呼ばれるかも知れないから」

さとり「なるほど、そうですかそうですか」

さとりは戯曲を演じるかのように大仰な動作で両手を上げた。

さとり「死にたくはない、えぇそうですとも死にたくは、ない」

霊夢「………なら私たちを連れて行きなさい、あいつのところに」

さとり「でもそれよりも、でもそれよりも」

さとりが首に添えられたお祓い棒を掴む。

じゅじゅじゅと焦げるような音がして、さとりの手から煙が上がる。

さとり「殺されたくない人がいる。お燐を殺し、お空を殺し、地底を見捨て、いくつもの屍を築き上げ、それを半笑いで踏みつけても、それでも殺されたくない人がいる。殺し殺し殺し殺し、それでも殺されたくない人がいる」

さとり「そう、死んでも殺されたくない人がいる」

さとりが掴んだお祓い棒をぐいと押しのけ振り返り、霊夢の息遣いが感じられるほどの距離に顔をよせ、霊夢の形よい瞳を覗き込んだ。

霊夢「っ!」

さとり「私の家族以外、皆死んでしまっても構わない」 


770 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2015/07/20(月) 16:58:59 GvBD8JTs
~少年視点~

僕は守りたかった。皆を。

でもできなかった。

僕の小さな手では持てるものはとても少なかった。

僕がこの手にまだ持っているものはさとりさんとこいしさんだけ。

だから僕は二人を守るためなら

霊夢「!」

さとり「え?」

皆の視線がさとりさんに集中しているこの時。

それはこのうえないほど良いタイミングでした。

手にあるのはいつもと違う感触。いつものペンではありません。小さくも手の中でずっしりと主張する鉄と火薬。

ちゆりさんからもらった小さくても必殺の武器、拳銃。

物陰から飛び出し霊夢さんに向ける。

初めて引き金を引いてみるとそれはずいぶんあっけない音をたてました。 


771 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2015/07/20(月) 17:17:03 GvBD8JTs
少年「っ!」

地面に倒れたのは霊夢さんではありませんでした。

とっさに霊夢さんを庇ったチルノさん。

その胸の真ん中に小さな穴が開き、チルノさんは地面に倒れこみました。

男「ち、チルノォオオオォオオ!!」

一緒にいた男の人が叫びました。

その声はとても大きく、とても悲しそうでした。

でも、それでも僕はさとりさんを守らなくてはいけません。

再び引き金を引いて霊夢さんに打ちます。しかし引き金を引いたとたん霊夢さんの姿は消えました。

霊夢「あんたっ」

霊夢さんが目の前にいました。

引き金を引くよりも霊夢さんが僕を殺す方が早い。

だけどこれでいいのです。 


772 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2015/07/20(月) 17:25:17 GvBD8JTs
拳銃を握りしめていたほうとは違う手に握りこんだものをさとりさんのほうへ投げました。

それは白衣男さんからもらったもの。

煙を噴出する玉。

必殺でなくてもいい。

さとりさんを守れればそれでいいのです。

少年(さとりさん、逃げてください)

振り向いた霊夢さんの足元に二発打ち込む。

逃がしてはいけない。

逃がしてしまってはさとりさんが無事に逃げられない。

さとりさん。

僕が死んでも殺されたくない人。 


773 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2015/07/20(月) 20:06:31 GvBD8JTs
霊夢さんの胸に標準を合わせます。

確実に当たる距離。たとえ手が震えても。

親指程度の弾。だけど小さくても一撃必殺。

手をあげろなんて言葉は口から出ない。

ただ霊夢さんを睨みつける。それだけで十分でした。

霊夢「………あんた、正気なの」

その質問に対し頷きます。

僕はことりさんのように妖怪全てを憎んでもないし、麟さんのように幻想郷を憎んでもない。

でも、二人に負けないぐらいの意志はあるつもりです。

視線でお祓い棒を手放してくださいと命じます。

霊夢さんは素直に手放してくれましたが、それでも相手は霊夢さんです。油断はできません。

せめて、せめてさとりさんが逃げる時間を稼げれば。

それだけで僕の人生に意味はあったと胸を張って言えるから。

男「や、やめろっ!! 霊夢から離れろ!!」

しかし現実はやはり僕に厳しく、男の人が僕に拳銃を向けていました。 


778 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/08/01(土) 23:29:36 6z3AzGUM
膠着状態。

まださとりさんを逃がすのに十分な時間を稼げたとは思えません。

でも男の人の銃口が僕を向いていて良かった。もしその先がさとりさんだったら僕はどうすることもできなかったから。

男「霊夢から離れろ、撃つぞ!」

それは無理です。僕が今銃口を霊夢さんから離せば僕はすぐにやられてさとりさんにその力の矛先が向くから。

撃たれてもいいという覚悟ならできています。本当ならすでに死んでいる僕だから。

この命、さとりさんに返すことが出来るのなら本望です。

そう考えても腕の震えは止まらず霊夢さんに向けている銃口がぶれます。

奥歯をきつく噛み、霊夢さんを睨みます。

霊夢さんは僕の眼を睨み返し、小さくため息をつきました。 


779 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/08/01(土) 23:46:02 6z3AzGUM
どれだけ時間が経ったことでしょうか。

冷や汗が額から頬を伝い、顎で滴となって落ちました。

どこまで続くのでしょう。

さとりさんはもう無事に逃げたのでしょうか。

それを判断するための時間感覚が僕から抜け落ちてしまいどうしようもありませんでした。

「そこまでです!」

この緊張感溢れる空気を打ち破ったのは一人のまだ幼い雰囲気を持った凛々しい声でした。

その声と同時に水流が男の人を飲み込みました。

男「うおっ、くそっ、くそぉおおっ!!」

大人を吹き飛ばすほどの強い水流、いったい誰が放ったのかと霊夢さんも僕もその水流が来た方を見ました。

そこのいたのは男の子か女の子かの判断がつきにくい中性的な顔立ちと体型をした子供でした。

そして大きく目を引く紫色の傘。

憑かれ屋「助けに来ました、少年さん!」

現れたのは憑かれ屋さんでした。 


780 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/08/01(土) 23:54:05 6z3AzGUM
現れた憑かれ屋さんを見て霊夢さんが少し目を見開きました。

霊夢「あんた」

憑かれ屋「あの時はどうも」

霊夢「なんで、人間の味方してるのよ。あんた」

憑かれ屋「………あぁ、なるほど」

憑かれ屋さんが紫色の傘を前に翳しました。

「当たり前じゃない」

霊夢さんのものでも、憑かれ屋さんの声でもない、誰かの声がしました。

霊夢「あんた妖怪でしょ、小傘。なのになんで人間の方へ」

小傘「私は妖怪。だけどその前に傘。必要としてくれる人がいるなら、私は人間を脅かす妖怪より、私は人間を守る傘になるのよ!」

その言葉が終わると傘から水が噴き出しました。それは霊夢さんに向かって一直線に伸びて行きましたが、半身を捻った霊夢さんにはかすりもしませんでした。 


781 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/08/02(日) 00:00:58 4TvI3kRw
霊夢「あぁもう、男!」

男「なんだ!!」

霊夢「私がこいつをぶちのめすからあんたは少年をお願い!!」

男「分かった!!」

まだ噴き出している煙の中から男の人が飛び出してきました。

思わず拳銃の引き金を引きましたが、標準が甘く、弾は当たる事なく煙を少し散らしながら消えていきました。

少年「っ!」

次の弾を発射する頃には男の人は僕の目の前にいて、拳銃を握ったほうの僕の手首をつかんでいました。

男「………行くぞ、萃香!」

腕を捻られ、拳銃をもぎ取られました。そしてそのまま肩に担がれ地面に叩きつけられました。

地面に肩甲骨を強かに打ち付けられ掠れた悲鳴が飛び出します。

男「殺しはしない、暴れない限りな」

後頭部に固い金属の感触。

どうやら僕はここまでのようでした。 


782 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/08/02(日) 00:02:46 4TvI3kRw
一瞬で思い出が頭の中を巡ります。

こいしさんに拾われた日から今までの楽しかった思い出。

あの頃にはもう戻れないけれど、人生最後に思い出せたのがこれで良かった。

もうさとりさんも逃げたでしょう。

僕は安心して目を閉じました。 


783 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/08/02(日) 00:11:41 4TvI3kRw
なかなか終わりの時は来ませんでした。

後頭部に触れる銃口から震えが伝わります。

男「………くそ、お前はチルノを」

僕がさっき撃ちましたがチルノさんは妖精。すぐにまた現れるでしょう。

もしかしてこの人はそれを知らないのでしょうか。

僕がその事を教えて上げたくても、意志を伝える手段を持たない僕にはどうしようもできません。

男「お前がチルノを!!」

男の人の息が短く吸われ、体に力が入ったのが分かりました。

燐さん、お空さん、勇儀さん、パルスィさん、ヤマメさん、キスメさん。

今、ごめんなさいと言いに行きます。

なんでもしますからどうかさとりさんとこいしさんを怒らないでください。

もし許してもらえるなら、もう一度皆で楽しく

さとり「少年から銃をどけなさい」

少年「っ!」 


784 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/08/02(日) 00:19:32 4TvI3kRw
最悪の事が起きました。

さとりさんが逃げていません。

さとりさんに助けられたことが悔しくて。

でもさとりさんが僕を助けてくれたことが嬉しくて。

どちらが理由か分かりませんが、僕は泣いてしまいました。

男「………逃げてなかったのか」

さとり「もう一度言います。少年から銃口をどけなさい」

男「断る」

さとり「私はさとり。トラウマを弄ぶ妖怪」

男「だからどうした。トラウマなんかで挫けちゃ萃香に示しがつかねぇんだよ」

強く銃口が僕に押し付けられます。

さとり「そうですか。しかし人間の心の脆さはあなたが思っているよりもずっと―――っ!!」

男「どうした、口だけか、さとりぃっ!!」

首に腕を回され、盾にするように無理やり立たされました。

首が閉まり、反射的に吐き気がこみ上げました。 


785 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/08/02(日) 00:22:49 4TvI3kRw
さとり「あなた」

男「なんだ」

さとり「可哀想ね」

男「あぁそうだよ、可哀想だよ。可哀想じゃない奴なんていねぇよ、ここには」

さとり「本当に、可哀想」

男「………ちっ」

僕の体はさとりさんに向かって突き飛ばされました。

僕の体はさとりさんの胸に収まりました。

さとり「可哀想な木偶人形」

さとりさんが僕を抱きしめながらそう言いました。 



787 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/08/02(日) 19:58:22 4TvI3kRw
~俯瞰視点~

小傘は驚いていた。

普段ならば霊夢を相手にしても、数分持たず倒されてしまうはず。

しかし自分も憑かれ屋も地に伏せることなく、互角とは言えないまでも良い勝負を繰り広げている。

馴染む、非常に憑かれ屋に自分が馴染む。

初めて人間の役に立ったのが傘としてではなく武器としてだが、そんなことが些細な事に思えるほど、小傘の心は満ち足りていた。

小傘「ごめんだけど、帰ってもらうよ、霊夢!」

水を圧縮して吐き出す。いつもの弾幕よりも強く速く。

殺すまではいかないけれど、戦闘不能にさせるぐらいの力を込めて打ち出したが、霊夢はそれをあっさり避ける。

本当に霊夢は人間なのだろうか。

そんな疑問が小傘と憑かれ屋の中に浮かぶ。

攻撃をする前に避けているほどの先見の眼。

薄ら恐ろしいが、小傘も憑かれ屋も負ける気は微塵もなかった。 


788 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/08/02(日) 20:36:15 4TvI3kRw
霊夢は驚いていた。

普段ならば小傘程度の妖怪が力を貸したところで数分程度で倒せてしまうはず。

しかし、小傘も憑かれ屋も地に伏せることなく、諦めることもなく立ち向かってくる。

おかしい、記憶の中の小傘はこんなに強くはない。

霊夢は勢いよく飛んでくる水流を避けながら陰陽玉を取り出し構えた。

霊夢「どいつもこいつも、なんで私を困らせるのよ!!」

陰陽玉に力を込める。陰陽玉は力を飲み込みさらに強い力を発する。

符は今の小傘に届かない。いくら力を込めても紙と水では相性が悪い。投げた符は全て水を吸って地面に落ちるか、湿気て破れてしまった。

封魔針では時間がかかり過ぎる。だから一撃必殺。

霊夢「今すぐ、消えなさい!!」

小傘を無力化するには過剰すぎるほどの力を込めた。

しかし霊夢はいつもより強い小傘達に焦っていた。

陰陽玉を放つ。当たれば必殺。避けるのも難しいそれを見て憑かれ屋は笑った。

憑かれ屋『一本足ピッチャー返し!』

まっすぐ飛んでくる陰陽玉を、憑かれ屋は小傘をバッドのように持ち直し、霊夢に向かって打ち返した。 


790 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/08/19(水) 21:35:29 fjLPDJxw
霊夢「うそ、でしょっ!?」

自分にまっすぐ返ってくる陰陽玉。

それは小傘の力を大きく超える霊夢を倒すのには十分な一撃。

憑かれ屋「倒れろぉおおおおおおっ!!」

霊夢「あぁもう。あんたなんかに!!」

その一撃は霊夢の体を通り抜け、大きく大地を抉り、大きく砂煙をあげた。

霊夢「コレ、結構疲れるのよ、速攻で決めるわよ。あんたなんかにゃ勿体無いけど、ねっ!」

霊夢の袖から出てくる無数の札。それは憑かれ屋を二重に囲んだ。

霊夢「大人しく、大人しくなりなさい!!」

小傘「霊夢、あちきは人間を守る、傘なんだぁっ!!」

憑かれ屋「小傘さんっ!?」

傘の状態だった小傘が人型の姿に戻り、憑かれ屋を抱きしめた。

その小さな背中が襲い掛かる符によってどんどん傷ついていく。

その青い服と髪は赤く汚れていく。 


791 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/08/19(水) 21:50:05 fjLPDJxw
憑かれ屋「小傘さんっ。小傘さん!!」

小傘「わたし、夢、だったんだよ。こんなあたいが、誰かを守る傘になれることを」

小傘「雨を、槍でもいい、鉄砲の弾だってなんだって、防いでやるっ!!」

小傘「傘として生まれたからには傘として使われたいって、ずっと思ってた、んだぁっ!」

その叫びを最後に小傘は憑かれ屋に覆いかぶさるようにして、事切れた。

霊夢「………本当、気分悪い」 


792 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/08/19(水) 21:54:12 fjLPDJxw
憑かれ屋「よくも、よくも小傘さんを!!」

憑かれ屋が小傘を抱きしめながら立ち上がる。

憑かれ屋「行きますよ、小傘さん」

憑かれ屋が傘を掴んだ。

霊夢「せっかく小傘に助けてもらったのに、それを無駄にするの?」

憑かれ屋「だって、だってだってだって!! ここで逃げたら僕は、僕はずっと、ずっとっ!!」

憑かれ屋が駆け出す。もうすでに意味のない傘を持って。

槍のように突き出されたその傘は霊夢を貫通し、だけれど霊夢には何の意味もなく。

霊夢「馬鹿ね、本当」

霊夢が針を憑かれ屋の首に刺した。畳針ほどの太さのあるそれは憑かれ屋の首を容易く貫き、それに伴い切れた血管から溢れる血が憑かれ屋の口から溢れた。 


793 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/08/19(水) 21:59:10 fjLPDJxw
憑かれ屋「こぽっ」

吐き出された血は霊夢にも霊夢の服にも張り付くことなく地面に吸い込まれていった。

霊夢「許さないで。貴方は何も悪くない」

針を抜くと大動脈から噴水のように血が噴き出した。

憑かれ屋の体が地面に落ちるよりも早く踵を返した霊夢は強く唇を噛んだ。

血が霊夢の唇を伝わって滴となって一滴、地面に落ちた。 


794 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/08/19(水) 22:12:56 fjLPDJxw
~男視点~

引き金を引くことはできない。

だからこれは脅迫にしかならず、実際の力にはならない。

形だけの虚勢。

それを見抜かれてしまっている。

だから拳銃をしまって拳を構えた。

心を読める相手にどこまで戦えるのかは分からない。

だけどやらなければいけない。

男「行くぞ、さとり、少年」

相手の体は俺よりもずっと小さい。しかし一人は化け物、一人は銃を持っている。しかもチルノを一発で倒すぐらいの。

死にたくない。死にたくはない。

だけどここで逃げちゃ

男「守れるもんも守れねぇよ、なぁ! 萃香ぁっ!!」

一息で踏み込む。数日前の自分とは思えないほどの踏み込み。

萃香のおかげで俺は変わった。容赦、油断をしてはいけない。拳は相手の事を理解しては振るうことができないってことを学んだ。 


795 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/08/19(水) 22:26:13 fjLPDJxw
さとり「右こぶしを囮に、左膝」

攻撃は軽く躱された。

少年「さとりさん!!」

少年が地面に落ちている銃を拾おうとしていた。俺はそれを蹴って遠くへ飛ばし、少年に向かって右足で蹴りを

さとり「危ないっ、少年!」

さとりの袖の中から飛び出した茨が少年を引っ張った。俺の蹴りはかすりもせず空をきった。

男「ちっ。どうやって勝てって言うんだよ」

かすりもしない。さとりよりも速く動くことはできない。

萃香の言った自分に有利な戦場を作り出すこともできない。

しかし諦めたら負けだろう。

だから諦められない。

再び大きくさとりに向かって踏み出す。

さとり「だから、貴方は私には届かない」

地面から湧き出た茨。

それが俺の足に絡みついて、俺を地面に引きづり倒した。 


796 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/08/19(水) 22:45:27 fjLPDJxw
さとり「少年、こっち、見ないでちょうだい」

さとりが俺に近づく。

なんとか立ち上がろうともがく腕も茨で地面に縫い付けられた。

殺される。

男「………すまん、ぬえ………っ」

心残りはいくつもある。

死を前にすると、押さえていた気持ちが溢れだした。

さとり「あなたは、本当にぬえが好き、なのね」

男「あぁ、そうだよ、俺は、俺はぬえが大好きだよっ!」

だから戦っているんだよ。

大好きな皆を守るために。

さとり「ごめんなさい。私も大切な人がいるから」

さとりの手が俺に触れる。

さとり「………さよなら」 


806 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/08/29(土) 12:26:25 UgAtXmKM
「やめろぉっ!!」

さとりの手が俺に触れた直後、さとりの背後からそんな声が聞こえた。

とっさに振り向くさとりだったが一瞬遅かったらしい、

そのわき腹の服が裂け、白い肌に一筋の傷を残した。

蓬莱「そこまでだ」

さとり「あなたは―――」

男「蓬莱!?」

蓬莱「アリスの命令だ、お前を助けるわけじゃない」

さとり「っ!」

蓬莱の槍が間髪なくさとりに突き出される。

男「危ないっ!」

蓬莱「死なないなら大丈夫だ」

さとりに槍を突き出すという事は俺にもあたる可能性がある。この蓬莱に至ってはわざとではないのだろうか。

慌てて飛びのくと蓬莱は俺を横目で見て、少し口元を歪ませた。 


813 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2015/10/03(土) 22:51:30 hNlVMWwc
さとり「………不利、ですね」

蓬莱「なんだ? 弱いものいじめしかできないのか? たしかにあんたはそんな顔をしてるな」

さとり「いいえ。心のない偽物二人相手するのは、心底疲れるの、でっ!」

蓬莱に向かって地面から茨が生える。

その隙をついて俺は無理やり地面から立ち上がった。

茨が服と皮膚を裂く。痛いが、死ぬほどではない。

男「お返し、だっ」

起き上がる力をそのまま使ってさとりの腹部に拳で一撃入れる。

さとり「うっ」

男「効いた!?」

予想外だった。

人間ならともかく妖怪に効果があるとは思っていなかった。俺が距離を稼ぐためだったんだが。

しかし追撃はせずに背を向けず急いで逃げる。 


814 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/10/03(土) 23:13:38 hNlVMWwc
少年「よくもさとりさんをっ!」

少年の声。

見ると俺に向かって銃を構えていた。彼我の距離はほんの数メートル。俺より、引き金の方が速い。

威力はさっきのチルノで証明済み。当たればただでは

男「てめぇっ!」

さっきの怒りが再び噴出する。

だがそれはさっきのような勢いの良い怒りではなく、

ねっとりと、芯の底から熱くなるようなそんな怒り。

それは殺意に近い。

チルノが殺されたから復讐しないといけない。

そんな考えが俺の体を乗っ取った。 


815 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/10/03(土) 23:20:11 hNlVMWwc
パンッ

腹が痛い。腹が痛い。腹が痛い。腹が痛いっ。腹が、痛いっ!

どうやら俺は撃たれたらしい。神経をぐちゃぐちゃにされたかのような痛み。

男「あぁあああぁああっ!!」

痛みを叫びで誤魔化し、拳を振るう。

少年「あがっ」

少年の悲鳴。地面に倒れ込んだ少年の手を俺は思いっきり踏んだ。

さとり「少年っ!」

蓬莱「おっと、あんたの相手はこっちだ」

さとり「っ!」

どうやら蓬莱が相手をしてくれているらしい。だから俺は容赦なく、この拳を

男「おらぁあっ!!」

振り下ろす。 


816 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/10/03(土) 23:24:13 hNlVMWwc
何度も少年の手を踏んで拳銃をもぎ取って、蹴って遠くへ滑らせる。

少年「あっ、ああぁっ!」

さとり「少年っ! しょうねんっ!!」

蓬莱「余所見なんて余裕ねっ!」

男「なぁ………痛いか、痛いか!?」

少年「あ、あぁああああ」

男「痛いだろ? なぁ、痛いだろ!?」

少年に跨る。俺よりもずっと小さな体。

だけど容赦はしない。

男「皆痛いんだ。皆痛かったんだよ」

男「皆皆皆、痛いのに! 辛いのに!!」

振り上げる。

振り下ろす。

少年の鼻の骨が折れたのが振動で分かった。

でもだからどうした。 


817 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/10/03(土) 23:32:59 hNlVMWwc
お前はまだ楽に死ねる。

俺にはできないから楽に殺してやる。

お前を楽に

「それ以上やると、貴方殺人犯よ?」

男「あ?」

アリス「ずいぶん濁った眼」

アリスがいた。よくよく考えれば蓬莱がいるのだからそりゃあアリスもいるだろう。

男「なんだよ、これ、戦争だろ? 何が悪い!」

アリス「別に? 別にあなたが人を殺そうが、その子が死のうが私は知ったこっちゃないわよ」

男「なら、黙っといてくれ」

アリス「あら、そう」

アリスが近くにあった樽に座った。足を組んで俺をじっと見ている。

アリス「どうしたの? さっさと殺しなさいよ。殴るより、首絞める方が簡単よ。体重乗せて花を手折るように」

男「分かってる、わかってる、わかってるって!!」

アリス「貴方、ずいぶん情緒不安定ね。それに」 


818 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/10/03(土) 23:40:04 hNlVMWwc
アリス「臆病者」

少年「あ―――っ」

温かい。

俺の体を温かいものが包む。

それは温いシャワーを浴びたときのようだった。

さとり「しょうねぇええんんんんんっ!!」

少年「さとり、さん」

さとり「あ、あぁあぁつ、しょうねん、少年! 駄目、駄目、嘘、嘘よ、こんな」

少年「さとり、さぁ、、ん」」

アリス「その子、喋れないんじゃなかった? 奇跡かしらね。なんて空気を読まない、奇跡」

男「あ、あ、あぁあ、あああ」

アリス「花を手折るとして、子供と大人が負う責任は一緒? いや、大人は知ってるからこそ、その責任を負わなければいけない」

アリス「貴方、人殺し向いてないわよ? 今貴方が抱いた気持ちが貴方から消えない限り」 


819 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/10/03(土) 23:44:38 hNlVMWwc
アリスが少年を殺した。

座ったまま。何気ない行動で。

少年の命を奪った。

アリス「上海、蓬莱を手伝ってあげて」

上海「はい」

蓬莱「いや、いいよ、こいつはもう」

さとり「しょうねん………少年、しょうね、ん」

蓬莱「死んでるから」

さとり「あ、あぁ、しょうね、ん、しょうねん、しょうねん、しょう、ねんしょうね、んしょう、ねん、しょう」

覚悟なんて脆い。

やった後を知らないから。

人は覚悟を決めて、行動を起こし、そして後悔する。

怒りは案外弱くて冷えやすい。

男「俺は」 


820 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/10/03(土) 23:49:08 hNlVMWwc
~俯瞰視点~

こいし「あ、あーあ」

緑の髪。濁り切ったこの空気のなかに存在する無邪気な二つの瞳。

古明地 こいしは屋根の上から戦いを見守っていた。

大好きな少年が死んで、大好きな姉のさとりが死んだ所も見守っていた。

しかしこいしの瞳には一滴の涙も浮かばなかった。

こいし「あーあ。少年も、お姉ちゃんも、死んじゃったー」

ただ残念そうにため息をついて

こいし「私も死のっと」

自分の胸にナイフを突きたてた。 


821 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/10/04(日) 00:05:02 rAbK.ebU
~男視点~

霊夢「何ぼーっとしてんのよ」

男「れい、む?」

気が付くと霊夢がいた。

蓬莱「霊夢。こいつ駄目だ、役に立たない」

霊夢「んなこと知ってるわよ」

男「あ、霊夢。チルノが、チルノが」

霊夢「チルノが、どうしたのよ」

男「死んだ、チルノが死んだ」

霊夢「はい? チルノが死んだ? 何言ってんのよ、妖精はやられても一回休みですぐにまた現れるわよ」

男「あ」

そうだった。そういえばそうだったと脳の奥に存在する記憶を思い出す。

妖精は死んでも再び生き返る。

そのことを俺はすっかり忘れていて、頭に血が上って。

男「俺は、人を、殺そうと」 


822 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/10/04(日) 00:13:00 rAbK.ebU
アリス「ねぇ、霊夢。あなたって、なんで人を殺すの?」

霊夢「は? 頭でもおかしくなったの?あんた」

アリス「私じゃないわよ。男が人を殺す理由が見つからないっていって」

霊夢「ばかばかしい」

霊夢はそう俺を一笑して、俺に目線を合わせた。

霊夢「殺さないといけないからよ」

男「そんな、理由?」

霊夢「私は聖なんかと違って、正義がどうのこうのなんて考え持ってないわよ。ただ、私が殺さないといけない存在がいるなら。私はそいつを殺す」

アリス「シンプルね」

霊夢「難しく考えてちゃ、博麗の巫女なんてできないわよ」

男「俺は、俺は」

霊夢「あんたに人殺しなんて期待しちゃいないわよ。もちろん妖怪殺しも。多分萃香も期待してないでしょうね」

霊夢「アンタはただの私のサポート。難しく考えなくてもいいの。そういうことは全部私がやるから」

そう言って霊夢は俺の頭を数度軽く叩いた。

霊夢「任せなさいよ、私に。あんたはただ死なない。それだけでいいの」 


823 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/10/04(日) 00:18:42 rAbK.ebU
アリス「あら、優しくなったわね、霊夢」

霊夢「別に。ただここで人を殺す事の意味とかうだうだ考えられても面倒なだけよ。邪魔邪魔」

男「………ありがとう、霊夢」

霊夢「感謝なんてしなくていいわよ。あんたは私に付いて来る。それだけでいいの」

霊夢「あんたはあんたがしなくちゃいけない事をしなさい」

アリス「貴方は私達の保険。いや、霊夢の保険。主人公の特権、コンティニューの正体」

霊夢「?」

アリス「気にしないで。なんでもないから」

霊夢「なんでもないって」

「『あははははははははははははははは!!』」

「みぃつけた」

「………霊夢、兄貴、アリス」

霊夢「!」

アリス「来たわよ、霊夢」

霊夢「分かってる!!」 


826 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2015/10/10(土) 23:27:36 BxRCJS1s
それはいきなりだった。

瞬きもしなかったのにいつの間にか俺たちの目の前に三人現れていた。

一人は霊夢と同じような巫女服に、魔理沙と同じような金髪。

一人はさとりのような冷めた目をして、少女のように無垢な笑み。

一人は俺達を裏切った仲間で、俺の大切な妹。

霊夢「ほら、何ぼさっとしてるの!」

男「あ、あぁ」

霊夢に手を引っ張られ立ち上がる。

麟「ねぇ、霊夢。迎えに来たわよ」

と冴月 麟が

ことり「降伏しなさい。今なら許してあげますから」『絶対殺す』

と古明地 ことりが

魔理沙「兄貴、逃げてくれ。お願いだから」

と魔理沙が 


827 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/10/10(土) 23:37:44 BxRCJS1s
アリス「五対三、男は戦闘じゃ役に立たないから四対三、ギリギリかしら」

霊夢「………私は冴月 麟を相手する」

アリス「なら私は古明地 ことりを。あちらも私をお望みみたいだし」

男「俺は、魔理沙を説得する」

上海「それだと五対二ですね!」

蓬莱「いや、魔理沙は仲間にならない」

上海「なんで、ですか?」

蓬莱「知らないよ。でも分かるんだよ。魔理沙は絶対折れない。あいつはなにかを隠している」

男「隠し事、魔理沙が?」

霊夢「無駄話は終わり。男、あんたは魔理沙をお願い」

男「分かった」 


828 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/10/10(土) 23:38:19 BxRCJS1s
霊夢「………私、アンタの事知らないんだけど」

麟「私は貴方の事を知ってるの」

霊夢「有名人の自覚はあるわ」

麟「私はあなたのことは誰よりも詳しいつもりよ。ずっと見てたもの」

霊夢「趣味悪いわね、ずっと見てただなんて」

麟「うん。でもそれは今日でおしまい。さぁ、遊びましょう霊夢」

麟「遊び終わったら私は貴方を助けてあげる」

麟「霊夢を幻想郷の被害者になんて、私は絶対させてあげない!!」 


829 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/10/10(土) 23:43:49 BxRCJS1s
アリス「貴方が私にさっきから殺意をぶつけてるのは」

ことり「跪いて、後悔したら許してあげます。アリス・マーガトロイド」『お前は絶対に殺す』

アリス「貴方、腹芸は苦手みたいね」

ことり「『えぇ、だから私は貴方を殺すわ』」

アリス「理由、は聞くまでもないわね」

ことり「私はお前を殺して」『妖怪を殺して』

ことり「『もう悲しいことなんて、無い世界にするの』」

ことり「『これは私の復讐劇。だからあなたは大人しく私に殺されなさい!!」』 


830 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/10/10(土) 23:48:40 BxRCJS1s
男「魔理沙」

魔理沙「………兄貴」

男「戻ってこないか?」

魔理沙「それは、無理だ。もう、無理だ」

男「魔理沙は俺が守るから。誰も魔理沙を傷つけさせない」

魔理沙「やめてくれ、兄貴。私に優しくしないでくれ………」

男「俺はお前の兄だ、兄のつもりなんだ、だから」

魔理沙「私は決めたんだ、大切なものを守るために強くなるって。だから私は少女のままじゃいられないんだよ!」

魔理沙「勝負だ男! 本当に守りたいもののために戦ってみせろ!」 



838 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2015/11/23(月) 10:00:56 J9PDXgXg
~俯瞰視点~

それは狂気を纏った純真な声だった。

耳から伝わる声は、純白の羽を纏った天使のようで。

脳に伝わる音は、地獄の亡者のような重苦しい怨嗟の声。

二つの音がアリスの脳を揺らしたが、アリスは挫けることなく、両手の指、十本を忙しなく動かした。

ことり「『貴方の心の中なんて私には丸見えなのよ』」

人形が振るう、剣も、槍も。

人形が放つ爆弾も、矢も。

全て行動が起こる前に回避されている。修正をしようとしてもその修正のさらに先にことりはいた。

アリス「だとしても、私は負けないわ」

アリスが右手首を捻る。するとことりの周囲の人形が渦を巻くようにしてことりに近づいた。

人形とアリスを繋ぐ糸がことりを巻き込み捕縛しようとする。それをことりは間一髪で避け、弾幕による反撃を行った。

ハートの形をした弾幕に、茨が巻き付いている。ハートは弾けると周囲に茨を撒き散らした。

激しく叩きつけられた茨の衝撃が石粉やプラスチックでできた人形の肌を砕く。

ボロボロと地面に散っていく腕や足や眼球は、傍目から見れば小さな殺戮だった。 


839 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2015/11/23(月) 10:08:18 J9PDXgXg
こころなきものはそれにも恐れず、進行を続ける。

統率された無機質な動きでことりの動きを徐々に縛っていく。

それはまるで遅効性の毒のようであった。

アリス「降参するなら今の内よ」

ことり「『馬鹿なことを!』」

アリス「あら、そう」

アリスが左手を握りしめると、槍を持った人形十体程度がことりに向かい突撃した。

隙間を縫ってことりがそれを避けるとそこに来たのは小さな矢の雨。

体を捻ってなんとか避けるとそこには何も持っていない。可愛らしい人形。

人形が微笑むと、次の瞬間にそれは爆発へと形を変えた。

爆発の中心へと槍を、矢を、爆弾を放ち続ける。

土煙が薄くなってくるころには地面は針の山のようになっていた。

その中心にことりの姿を残して。 


840 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2015/11/23(月) 10:11:26 J9PDXgXg
その肢体はピクリとも動かない。

流血だけが、地面を這っていた。

アリス「こんなものなの?」

アリス「ここまでの事をした貴方はこんなものだったのね」

アリス「戦いはタクティクス。信念や怨念じゃ、戦いに影響はしないのよ」

ことり「『そうかしら?』」

世界が弾けて消えた。 


841 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2015/11/23(月) 10:20:19 J9PDXgXg
アリス「………かぽっ」

アリスが口から大量の血を吐く。

消えた世界が再構築されたときに見たものは、頬を血に濡らすことりの顔と、胸をえぐる小さな腕だった。

ことり「『おはよう、良い夢は見れたかしら』」

アリス「なに、が」

ことり「『あら、まだ喋れるのね』」

どくどくと鼓動をし続ける心臓をことりが優しく握る。

それだけで形容しがたい痛みがアリスを襲った。

蓬莱「アリスをっ、離せっ」

ことり「『動くと、これ、握りつぶすわよ?』」

助けようとした蓬莱の動きを言葉で制す。

上海と蓬莱の二人は狼狽えた様子でアリスとことりを見ることしかできなかった。

ことり「『魔法使いって、結構体強いみたいだけど、どこまでやれば死ぬのかしらね』」

何度もことりがアリスの心臓を握る。

それだけでアリスの体は震え、痛みによって自由を奪われた。 


842 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2015/11/23(月) 10:27:31 J9PDXgXg
ことり「『大丈夫、私の心よりは痛くない』」

ことりがにっこり笑って小さなバッグを取り出す。

地面から茨が生え、アリスの四肢を縛ると、ゆっくりと地面に寝かせた。

痛みで過呼吸になっているアリスはそれに抵抗することが出来ず、人形のようになされるがままだった。

ことり「『まずは、これ』」

ことりは上海と蓬莱を、流し目で制すとアリスの傍らに座り込んで、おままごとをするがごとくバッグからそれを取り出した。

それは細い細い糸。髪のように細く、落としてしまっては探すのが困難になりそうなほど細いそれをことりはアリスの眼球の中心に狙いを定めて突き刺した。

アリス「―――っふっ!」

アリスの体が震える。それを両手を合わせてことりがよろこんだ。

ことり「これって痛いのかしら? 痛いのかしら?」『………答えろよっ!』

ことりがもう一方の目にも同じ事をする。

蓬莱と上海はそれを見たくなくて俯いていた。

しかし人形は泣けない。

二人の作り物の慟哭が辺りに響いた。 


843 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/11/23(月) 10:36:21 J9PDXgXg
霊夢「………なんなの、あんた」

もう五回頭を砕いた。

ここまで来て今までのように容赦をすることはできない。

もうごっこで済む時間はとうの昔に終わっていたのだ。

しかしそこまでしても倒れない。

甘ったるいほどの愛の言葉を吐いて霊夢を抱きしめるが如く、攻撃してくる。

殺意を持った攻撃を笑顔で受けて、霊夢に対する思慮を感じる柔らかい攻撃が霊夢を包む。

今までに戦った事のない狂気の敵に霊夢は若干の恐怖を感じていた。

麟「ねぇ、ねぇ、諦めて霊夢」

六回目の頭を砕く。しかしそれは砕いた瞬間泥のように崩れ、またいつの間にか冴月 麟はそこに立っている。

霊夢「手品の種。教えてくれない?」

麟「んー。私と遊んでくれるならいいわよ」

霊夢「じゃあ、いらない」

麟「いけずな事言うわねぇ」 


844 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/11/23(月) 10:47:26 J9PDXgXg
霊夢「私を助ける助けるって、何から助けるってのよ」

麟の放つ、花の形を伴った弾幕を紙一重で避けつつ、麟に肉薄する。

麟「それは幻想郷から」

帰ってくる返事は変わらない。

霊夢「幻想郷からって何が私を縛ってるっていうのよ」

麟「貴方は幻想郷に騙されているのよ」

抱き付いて来ようとした麟の体を蹴り飛ばす。地面に滑りながらも麟は霊夢に微笑みかけていた。

霊夢「幻想郷に騙されてるってどういうことよ」

麟「あぁ、貴方はまだ気づいていないのねっ。すぐに助けてあげるわ、霊夢。だって私達親友でしょう?」

霊夢「私はあんたなんか知らないっ」

麟に向かって針を放つ。麟の心臓の位置に互い無く突き刺さった瞬間、風船が弾けるように、泥を撒き散らして消えた。

そしてまた元通り。

霊夢「いつまで続けるのこれ」

麟「貴方が諦めるまで」

そしてまた再び繰り返される。 


845 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/11/23(月) 11:07:50 J9PDXgXg
~男視点~

曇った魔理沙の表情からは依然の魔理沙を伺うことはできない。

魔理沙の放つ弾幕を何とか避けながら俺は魔理沙に声をかけ続けた。

もしかしたら、もしかするとこれは洗脳されているだけであって。

こうやって話かけ続けると、元の魔理沙に戻ってきてくれるんじゃないかと。

そう甘い考えを抱いていた。

魔理沙「どうしたっ。男っ」

宙を飛ぶ魔理沙に攻撃するための有効な手段はない。

石を拾って投げても、当たりはしない。

この戦い、俺の負けなのは確実的だった。 


846 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/11/23(月) 11:16:51 J9PDXgXg
魔理沙が語った覚悟を邪魔するほどの信念を、魔理沙を下すほどの信念を今の俺は見出す事は出来ず俺はただ魔理沙の瞳から逃げ回っていた。

魔理沙「男。お前の守りたいものってのは、その覚悟ってのはそんなもんなのかっ」

男「守りたいものだって、あるっ。その中にお前だって入っているんだっ」

魔理沙の動きが止まる。空中から魔理沙は俺をまっすぐな瞳で見ていた。

魔理沙「………守りたいものは一つにしろ。私はそうした」

男「………」

魔理沙「見てみろ。私もお前も手の大きさはそんなに変わらない」

魔理沙「こんなんじゃ、重い荷物は背負えねぇよ」

魔理沙が懐に手を伸ばす。魔理沙は六角形の金色。ミニ八卦路を俺に向けた。

魔理沙「男は何を捨てる? 私はお前を」

男「………」

魔理沙「大人になってくれよ。そんな目で私を見ないでくれ」 


847 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/11/23(月) 11:33:31 J9PDXgXg
絶体絶命。

右に行こうと左に行こうと、進もうが戻ろうが。

一呼吸をするより早く魔理沙は光の奔流を放つ。

魔理沙「まだ、私を捨てられないのか?」

男「………俺は、お前を捨てられないよ」

魔理沙「………」

男「だって、大切な妹だから。道を違うなら拳骨してでも引き戻してやるよ」

魔理沙「………馬鹿野郎」

魔理沙が俯いた。しかしすぐに顔を上げ、きっと俺を睨みつけた。

魔理沙「じゃあな」

あぁ、終わってしまう。

だけど、俺はどうしようもなく我儘で。魔理沙を切り捨てることはできなかった。

男「じゃあな、魔理沙。霊夢を守ってやれよ」

魔理沙「………おう」 


849 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/11/23(月) 11:49:19 J9PDXgXg
「―――だめぅっ」

俺の死という終わり。その構図を崩したのは小さい黒い影だった。

魔理沙の後ろから飛びかかったそいつは、俺がいつも見ていた姿で

子供のような無邪気な怒りを魔理沙にぶつけていた。

魔理沙「っお前」

ぬえ「だめっ、だめぅっ」

舌足らずな言葉を吐きながらぬえがほうきから魔理沙を引きづりおろす。数メートルの自由落下の後、魔理沙は強かに背を地面に叩きつけた。

男「………ぬえ?」

ぬえ「たすける、おとこ、たすけぅ」

ぬえは言葉を多少取り戻したらしいが、幼児退行は戻っていない。

幼児のような簡単な言葉の羅列で感情を示していた。 


850 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2015/11/23(月) 12:08:32 J9PDXgXg
魔理沙「………来たじゃねぇか。男、なっ!」

跨るぬえを魔理沙が蹴り飛ばす。地面に転がったミニ八卦路を拾おうとしたので、その前に魔理沙を制した。

魔理沙「捨てるか? 私を」

男「いいや。手が二つ増えた。背負うには十分だろ?」

魔理沙「………誰を守る気だ」

男「お前と、ぬえ」

男「魔理沙は是非とも霊夢を助けてくれ」

魔理沙「あぁ、そうかい。でもそれはダメなんだ」

魔理沙「それじゃあ霊夢は助けられねぇんだよ」

魔理沙が箒を逆手で掴んで振るう。

ぬえと俺は半歩下がってをそれを躱し、魔理沙の一挙手一投足に注目した。

ミニ八卦路を蹴って遠くに転がし、萃香のあの動きを頭の中で思い浮かべる。

男「初めての兄妹喧嘩だな」

魔理沙「おいおい、にしては二対一ってのは卑怯じゃないか?」

男「俺もそう思う」 



862 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/12(火) 18:58:33 S.Rv5d3Y
男「さぁ、来いよ」

魔理沙「威勢がいいな。格好だけは一人前だ」

ぬえ「がるるるるるっ」

魔理沙の構えは掃う方をこちらへ向け槍のように。

対する俺は萃香と同じ半身で魔理沙に向かって構えた。

魔理沙「フッ!」

一息に魔理沙が箒を突き出す。それを前進しながら避ける。箒が右腕を掠めたが特に支障はない。

前進の勢いで右手のひらを魔理沙の左肩にあてる。そして押し倒すようにして足を刈った。

魔理沙「嘘だろっ」

地面に倒れる寸でで魔理沙が体を捻って転がった。しかし態勢は圧倒的にこっちの有利。

ぬえ「ううぅっ!」

それをぬえが追撃する。俺とは違う威力を伴った一撃。それは大地と魔理沙のわき腹を抉った。 


863 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/12(火) 19:01:53 S.Rv5d3Y
男「ぬえ! 魔理沙を殺すなよ!」

ぬえ「ごめんぅ!」

魔理沙「だから甘いんだよっ」

ぬえの意識がこっちにそれた瞬間を狙い魔理沙がぬえの顎に蹴りを入れる。ぬえの体は大きくのけぞったが倒れることなく。そのまま魔理沙に対して頭突きを行った。

魔理沙「ちっ。まるで獣だなぁっ」

男「無理するなよ、ぬえ」

ぬえ「「むりしてないっ」

魔理沙「っ!」

男「おっと」

魔理沙が隙をついて地面に転がっているミニ八卦炉を取りに行こうとしたが、低い姿勢で駆けだした魔理沙の背中を押して地面に倒れ込ませる。

魔理沙の体は土煙を上げ乍ら少しの距離を滑って行った。

魔理沙「ちくしょうっ」

男「終わりだな。魔理沙」

魔理沙「終わりな、もんか」

魔理沙「なぁ!」 


864 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/12(火) 21:20:35 S.Rv5d3Y
「『その通りよ』」

ぬえ「あうっ」

男「ぬえっ!」

ことり「あらあら、ごめんなさいね」『死ね、死ね、死ねっ!』

さとりによく似た少女が笑いながらぬえの背中に太い針を突き刺している。その口は笑いながらも目は覚めていて、優し気な声に被って怨嗟の声が脳を直接揺さぶった。

魔理沙「二体二」

ことり「いえ、二体一よ、たかだか木偶人形が相手になるかしら」『すぐに殺す、今殺す』

男「うるさい精神異常者が」

そう吐き捨てるも動けない。ぬえの背中に刺さっている針をいやらしくぐりぐりと手のひらで押し込みながらことりが笑っているからだ。

ことり「『うふふ、うふふふふ』」

ことり「『もうすぐ私の夢がかなうのですよ、祝ってください』」

ことり「『ねっ!』」

ぬえ「―――っ!」

ぬえの体がガクガクと震える。ぬえの胸元から血がしたたり落ちた。 


865 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/12(火) 21:29:45 S.Rv5d3Y
ことり「『もうすぐ消えるのよ、汚らわしい妖怪が』」

男「何言ってるんだよ。お前だって妖怪だろ」

ことり「『私は汚くないですもの。生きてていい妖怪は私とさとりと、こいし』」

ことり「貴方が殺したけれど」『お前等のせいでぇえぇえええっ!!』

『お前らが、お前らのせいで死んだぁああぁあっ、さとりが死んだぁあああぁあっ、私の可愛いさとりが、こいしが死んだぁああぁっ、死ね、死ねぇっ、あぁああっ、死ねぇえぇっ、さとりがぁああっ、こいしがぁあっ、もういなぁあいぁい、もうもどってこなぁあっぁあぃ、だからしねぇようぅ、しんでしまえよぅおおぅ!!』

男「………知るかよ」

もう戻ってこない命なら一杯見た。

戦う事すら許されない命だっていたのに。

全ての元凶が怒り狂っている。自分が招いた災いを呪い叫んでいる。

その姿は偉く滑稽だった。 


866 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/12(火) 21:38:27 S.Rv5d3Y
魔理沙「………後戻りはできないぞ」

ことり「後戻りなんてさせないわ」『絶対に逃がさない』

魔理沙「今度こそ本当に私が霊夢を守るために。私はその対価として男、お前を支払う」

男「殺す覚悟なんてもの、俺にはできないと思うんだよ、なぁ、魔理沙。俺が人を殺せるような奴に見えるか?」

魔理沙「? ………お前には無理だよ」

男「そうなんだよ。でもなぁ魔理沙、今分かったことがある」

男「殺すのに覚悟なんていらないんだよ。ただ必要に迫られて殺すんだ。霊夢が言っていたことは楽しい」

男「そういうことなんだ」

ことり「あらあら、恐怖で頭がおかしくなったのかしら」『死ぬのはお前なのに!』

男「俺は自分の意見がころころ変わって嫌になるなぁ。意志薄弱で優柔不断。でもいらないんだよ、自分の意見なんてさ」

男「ごめん魔理沙。俺はお前を捨てるよ」

魔理沙「………おう!」 


867 : ミス ◆ufIVXIVlPg :2016/01/12(火) 21:39:34 S.Rv5d3Y
魔理沙「………後戻りはできないぞ」

ことり「後戻りなんてさせないわ」『絶対に逃がさない』

魔理沙「今度こそ本当に私が霊夢を守るために。私はその対価として男、お前を支払う」

男「殺す覚悟なんてもの、俺にはできないと思うんだよ、なぁ、魔理沙。俺が人を殺せるような奴に見えるか?」

魔理沙「? ………お前には無理だよ」

男「そうなんだよ。でもなぁ魔理沙、今分かったことがある」

男「殺すのに覚悟なんていらないんだよ。ただ必要に迫られて殺すんだ。霊夢が言っていたことは正しい」

男「そういうことなんだ」

ことり「あらあら、恐怖で頭がおかしくなったのかしら」『死ぬのはお前なのに!』

男「俺は自分の意見がころころ変わって嫌になるなぁ。意志薄弱で優柔不断。でもいらないんだよ、自分の意見なんてさ」

男「ごめん魔理沙。俺はお前を捨てるよ」

魔理沙「………おう!」 


868 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/12(火) 21:47:53 S.Rv5d3Y
なぜか頭がすうっと冷えた。ぬえの血が流れたからだろうか。

気が付けば俺は初めからそうであったかのように冷たい心で魔理沙を眺めていた。

俺に何ができるだろうか。ぬえを助け、魔理沙とことりを倒す。いやそれは無理だから殺す。

到底不可能な事に思えてくる。だけどそれは違うとなぜか俺は思った。

無謀でも勇気でもない。

ただその考えがひどくしっくりきた。

必要だからそうする。

それだけだった。 


869 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/12(火) 22:12:39 S.Rv5d3Y
ぬえ「がうっ!」

ぬえが自分を刺したことりに反撃をした瞬間に距離を詰める。

ことり「あぁ、素直に死んでくれないのですねっ」『ならいたぶって殺すしかないじゃないっ』

地面から生える茨、その棘に肉を抉られながらも進む。

ことり「『木偶人形程度が生意気に!』」

痛み、痛覚は意識を刈り取ろうと訴えてくる。しかしなぜかどんどん頭が冴えわたる。命の危機のためかなんてことはどうでもいい。ただ戦うには都合がいい。

妖怪といっても身長は俺の胸辺りまでしかない。なら、どれだけ力が強いところで

男「抑え込む手段はいくらでもあるよな」

人間と同じ体をしているからこそ出来る関節技。解こうとすればするほど痛みが強く帰ってくるうえに行動の始点を潰すために対して強い力で抵抗が出来ない。

油断をしていたのかことりの肩を簡単にきめることができた。

ことり「『腕が使えないところでなんの問題があるのでしょうか!』」

茨がわき腹の肉を抉っていく。ぞりぞりと岩肌を滑り落ちたときのような嫌な痛みがした。

男「早くしてくれ、ぬえ」

ぬえ「わかった!」

いくら戦い魔理沙が戦い慣れをしていたところで相手はぬえ、ミニ八卦炉も持っていない魔理沙は徐々に押されていった。 


870 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/12(火) 22:19:36 S.Rv5d3Y
茨に肉を抉られながらさらにことりの関節を絡めとる。合気道というよりはプロレス技。萃香の言った人間が妖怪に勝つ手段なんてもんじゃない。

ただ喉元に食らいついて、泥臭く相手を制す。そんな戦い方。

萃香の教えを反故にした事は申し訳ないと思った。

魔理沙「このっ、くそっ」

ぬえ「はやくっ、たおれろっ」

男「違うよぬえ。殺していいんだよ」

ぬえ「? うん、わかったぅっ!」

ことり「『貴方、頭おかしいわよ』」

男「早くしてくれぬえ。流石に痛い」

「私がやる」

「お願い、倒して、蓬莱っ」

乱れた前髪を幽鬼のように垂らした蓬莱と、くしゃくしゃに顔を歪ませた上海がいた。 


871 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/12(火) 22:24:24 S.Rv5d3Y
ことり「あらぁ。アリスはもう死んじゃったのかしら?」『やった、やった!』

蓬莱「あぁ、さっきアリスは死んだよ」

ことり「そういえば、なんで貴方たちはまだいるのかしら、主はもう死んでるのに」『やった、やった!』

蓬莱「知るかよ。奇跡かなんかだ」

蓬莱がそう吐き捨てる。そんな問答はどうでも良いとばかりに大きな槍を構えた。

上海「アリスは最後まで苦しんでた。でもそうはしません、痛みにもがき苦しんで」

蓬莱「そんなことできないぐらいハラワタ煮えくりかえってんだよ、なぁっ! さっさと死ねよぉっ! おっ死ねやぁっ」

いつもより荒々しい蓬莱の怒声。それと同時に槍が突き出される。

ことりがそれを止めようと素振りを見せた。俺はそれを制すために肩に会った腕を首に絡めた。ことりからくぴと間抜けな音を立てて空気が漏れた。

茨が一瞬遅れた。茨は蓬莱の服を切り裂き、蓬莱に絡みつく。

しかしその槍の穂先はしっかりとことりに突き刺さっていた。 


872 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/12(火) 22:43:39 S.Rv5d3Y
ことり「『痛い、痛い、痛いっ』」

蓬莱「だろうな。でもまだ死なないんだろ、妖怪ってのは難儀だよなぁ!」

蓬莱がさらに進もうとする、ぼきりと音を立てて、蓬莱の左膝から先が折れ、茨によって押しつぶされる。繋ぐものを失った球体関節がぐらぐらと揺れていた。

蓬莱「止められねぇんだよ。もう勝つとか戦う理由とかどうでもいい。お前さえいなくなればどうでもいいんだよ。もうあたしなんてどうでもいいんだよっ!」

呪詛「首吊り蓬莱人形」と蓬莱が掠れた声でつぶやいた。

蓬莱「分かるんだよ、何かは分からないけど」

蓬莱の体が輝く。赤く、ひび割れた作り物の皮膚の下から光が漏れる。

蓬莱「今私を動かす何かがどれだけ恐ろしいものかってことは、分かるんだよ。奇跡とか偶然とかその類だろうがそれに感謝だ。神でも仏にな」

蓬莱「いや悪魔かも。祈る言葉なんて私にはないからな。でもなんでもいい、魂すらないこの私の何が対価になるかなんてことは分からない。ただの喜劇を演じるための人形の役かもしれない」

蓬莱「でもそんなことはどうでもいい。私なんかどうでもいいんだ。元から何も考えねぇ人形だ。動けただけで十分、アリスと喋れただけで十分すぎる。だからもう私なんてどうでもいい!!」

輝きがどんどんと強くなっていく。網膜を焼き尽くす光が終ぞ見たこともないほどに膨れ上がると、それは視界全てを染め上げ、近くにあるものをどんどん飲み込んでいった。

蓬莱「産まれてきた意味なんて、一つもなかった」

ぱらぱらとひび割れ、零れ落ちていく蓬莱の顔は光のなかで無邪気に笑っているように見えた。 


873 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/12(火) 22:49:52 S.Rv5d3Y
男「―――ぁ」

気が付くと俺は地面に寝そべっていた。体は酷く重い。

上海「男、さん?」

ぬえ「おきたっ!」

起き上がれないほどの痛みではないようだ。抱き付いて来るぬえを引きはがし、上体を起こす。

地面が黒く焦げるほどの爆発。それを蓬莱は生み出したようだ。ことりの残骸は服の切れ端程度しか残っていない。

男「まりさ、は?」

ぬえ「あっちっ」

ぬえが指さしたほうを見ると、服の白い部分もどす黒く染めた魔理沙が地面に転がっていた。

男「魔理沙…」

魔理沙「……なん…だ、よ」

小さな返事が返ってくる。俺はゆっくりと魔理沙に近づき、その横に座った。

男「俺はお前を捨てた」

魔理沙「はは、………あやまる、なよ…………わたし、も………いっしょ、だ」 


874 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/12(火) 22:55:20 S.Rv5d3Y
男「楽しかった」

男「少しの間だったけど俺はお前を愛してたよ」

魔理沙「くくっ………こくは、くか………ぁ?」

男「妹見たいに、思ってたの、本当だ」

魔理沙「あぁ………そう、かい………」

男「俺は、お前の兄になれたか」

魔理沙「………………」

男「………愛してるよ、魔理沙」

魔理沙「………わたしは………………」

魔理沙「だいっ、きら、い………だ、よ」

その言葉を言い終えると魔理沙の体から力が抜けた。少し開いていた瞼を下ろさせ、近くに転がっていた魔理沙の帽子を被せた。

最後の言葉まで優しかった魔理沙の泥で固まった金色の髪を指で梳き、俺は霊夢のもとに向かうために立ち上がった。 


875 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/01/13(水) 08:57:49 zc1pAZkA
魔理沙も殺すの!? 


876 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/13(水) 19:43:54 qLyehFFI
麟「楽しい!楽しい!幸せよ!」

霊夢「あぁ、もう!」

それは狂気じみた光景だった。霊夢が麟を殺し、そしていつの間にかまた現れていた麟が霊夢に微笑みかける。

麟は決して霊夢を傷つけるような弾幕を放とうとはしていない。遊び、ごっこであるかのように笑う。

男「霊夢!」

霊夢「!」

麟「あら」

男「ことりは倒した。あとはそいつだけだ」

霊夢「ほらあんたの野望はもう終わりよ」

麟「終わってないわ!」

麟が攻撃をやめ、両手を広げた。

麟「私の野望は霊夢と一緒にいること。霊夢を救う事よ!」

霊夢「だから言ってるでしょ。私はあんたなんか知らないって」

その言葉を聞くと麟は少し悲しそうに顔を歪めた。

麟「私は貴方を知ってるの! 誰よりも、魔理沙よりも私は貴方に詳しいの!」 


877 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/13(水) 20:18:43 qLyehFFI
それは傍から見たら発狂したようにしか見えない。

冴月 麟は自ら霊夢の弾幕に身を投じた。

麟「ねぇ! いったいどうしたら私を信じてくれるのよ!」

霊夢「なんども身代わりばっかり使うあんたを一体どうやって―――」

麟「っ!」

麟の体に穴が開いた。しかしその体は崩れ落ちず、新しい燐が出てくることもない。

苦痛に身を歪ませながら悲しげに笑う燐がじっと霊夢を見つめていた。

麟「もう、時間がないのよ」

霊夢「あっそ、なら勝手に死になさい」

麟「私は死ねないの! 貴方を助けるために!」

霊夢が放った太く長い針を麟が少し身を捩って躱す。しかし致命的な場所でないだけで腕や足に突き刺さった。

麟「お願い、信じて。霊夢」

その視線を受けて霊夢が苛立たし気に次の針を構える。

麟「お願い、霊夢!」

霊夢「無理」 


878 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/13(水) 21:08:15 qLyehFFI
麟「うふ、うふふふ」

麟の心臓を狙った一撃。それを麟は手のひらを犠牲にして受け止めた。

麟「また私を裏切るのね、霊夢」

霊夢「は?」

麟「いや、霊夢のせいじゃないわ。全てあの女と幻想郷が悪いのよ」

麟がずずずと手のひらに刺さった針を抜く。その穴から血が流れ落ちるのと同時に麟が涙をこぼした。

麟「霊夢、貴方を殴ってでも止めるわ。だって私は貴方の親友だもの」

麟が手を握りしめる。流れ落ちる血が弾けて辺りに飛び散った。

麟「感謝しなくてもいい。恨まれてもいい。でも私はお母さんに約束したの!」

麟の表情に今までの薄気味悪い笑顔はなかった。そこにはきっと真剣に霊夢を見つめる視線と固く結んだ口があった。

麟「貴方をきっと救って見せるって!」

麟「この幻想郷から貴方を救って見せるって!」 


879 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/13(水) 21:40:05 qLyehFFI
口を出す事は出来なかった。

それはなぜか分からない。

辺りを飲み込む深い悪意、敵意のためだろうか。それとそんな中でもひしひしと感じる霊夢に向けられた愛情のせいだろうか。

そんな雰囲気に飲まれ俺と上海は微動だにせず二人を見つめていた。

最初に動いたのは麟だった。先ほどまでのむやみな特攻ではない。

握りしめた手のひらから麟の血が滴り落ち。その先に赤い花が咲いた。

麟「花符『思い出の中の曼珠沙華』」

花から赤い閃光が迸る。閃光は放射状に霊夢包み、動きを縛る。

霊夢「この程度で私を縛ることができると思う?」

霊夢は失笑した。それ以外の動きはしていない。

ただ、気が付くと赤い光の檻の中に霊夢はおらず、その外にて麟に向かって札を構えていた。

麟「流石ね、霊夢」

霊夢「あ、そ」

霊夢が札を投げつける。札は意志を持っているかのように麟に向かって襲い掛かった。

それは麟を捉え、当たった瞬間に弾け、麟の肢体を強く打ちのめした。 


880 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/13(水) 22:08:14 qLyehFFI
その衝撃で吹き出した血が地面に降り注ぐ。地面はさらに多くの花が咲き、霊夢を捉えるために放たれる赤い光線は数を増やした。

霊夢「面倒くさいわね、これ」

麟「まだよ、まだ終わらないわ!」

麟「風符『窮鼠噛猫の神風特攻』!」

麟が宙を蹴る。その速度は瞬きをする間。麟は霊夢の腰を掴んで宙を引きずっていた。

そして空中を飾るあまたの光線に向かってもろとも突っ込んだ。

霊夢はその速度に反応できなかったのか、背中を光線に焼かれ悲鳴をあげる。その悲鳴に重なって麟の堪えるような悲鳴も微かに響いた。

霊夢「なんで人間の癖に、倒れないの、よっ!」

腰にしがみつく麟を必死に叩く。しかし麟は霊夢を決して離す事無く新たな光線に向かって飛び込んでいった。

その動きは到底目で終えたものではない。気が付けば霊夢と麟の悲鳴が響き、麟と霊夢はさっきまでいなかった場所に出現する。

それが只管繰り返され、ボロボロになった霊夢と、それ以上にボロボロになった麟がどさりと地面に落ちた。 


881 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/13(水) 22:08:55 qLyehFFI
麟「はぁ、はぁ。まだ、まだなのよ」

麟「まだ死ねないの、まだ、私は死ねないのよ」

麟「だから」

麟がゆっくりと立ち上がる。そして今だに光線を放ち続ける花畑に向かって飛び込んだ。

ジュジュジュと音がし、肉が焼けるにおいが漂う。麟の肉体は完全に焼き尽くされ、消滅した。

麟「虚符『芥川のシェイプシフター』」

しかし俺の視界に冴月 麟はまだいる。さっきまでのボロボロではない姿で。

麟「さよなら私」

麟「頑張れ私」 


887 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/16(土) 23:39:13 iX5Yh002
霊夢「かはっ、けほっ、げほっ」

霊夢が咳き込みながら血反吐を吐く。

男「霊夢!」

麟「もう霊夢は動けないわよ。私の勝ち」

冴月麟がこっちへと立ち上がろうともがいている霊夢にへと近づく。

男「や、やめろ!」

麟「さぁ、霊夢。私と行きましょう」

霊夢「誰が、アンタなんかと」

霊夢が自分の腕を掴もうとしている麟の腕を振り払う。その衝撃で霊夢は地面に転がった。

麟「霊夢、我儘はダメよ。ほら」

ボロボロになった霊夢と傷一つない麟では勝負にはならない。なんとか抵抗しようとするも霊夢は麟に動きを封じられ、抱え上げられた。

麟「行くわよ」

霊夢「誰が、いくもんですか」

霊夢が麟に向かって血交じりの唾を吐きかける。それにも麟はにっこり笑って肩で拭った。 


888 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/16(土) 23:49:02 iX5Yh002
男「霊夢!」

麟「うるさいわ」

麟が振り返って俺を睨む。俺は自分よりもずっと小さい少女に気圧され、動くことが出来なかった。

麟「さ、行くわよ」

連れてかれてしまう。霊夢が。

連れていかれてしまえばおそらくもう助けることはできない。

しかし、足が動かなかった。口はいくら動けど、足が動かなければ意味がない。まるで足を地面に縫い止められているようだった。

上海「れ、霊夢さんが」

男「分かってる」

拳銃を使えばいいだろうか。いや霊夢が死んでいない今拳銃は果たして使えるのだろうか。しかし巻き戻したところで何がある。

男「もう、おわ―――」

諦めかけた状況を打破したのは矢のように麟に向かってかけて行ったぬえだった。 


889 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/17(日) 00:01:26 yhQepv.o
ぬえ「やらせない!」

麟「あら」

麟はひらりとそれを躱すと、少し面倒くさそうな顔でぬえを見た。

麟「少し寝ててね、霊夢」

霊夢「駄目、今のあんた、じゃ」

ぬえ「まけない、ぬえはぜったい負けない」

ぬえが猫のように爪を構える。鋭利でとがったその爪は麟を容易く切り裂くことだろう。

しかし。しかしだ。

それが当たるのだろうか。あの麟に。そして当たったところでまた麟は蘇ってしまうだけなのではないだろうか。

ぬえ「みてて、男」

いや、そんなことはどうでもいい。俺は信じないといけないんだ。ぬえを。

麟「来なさい。今の貴方は全然怖くないもの」

麟「あ、そうそうでも」

麟「魔理沙殺したから、貴方殺すわ」 


890 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/17(日) 00:17:14 yhQepv.o
霊夢「にげ、にげなさ」

麟「逃がさないわよ。魔理沙を殺したんだから。霊夢だって許せないでしょ」

霊夢「………」

麟「ね。ほら―――っ」

麟が霊夢に話しかけている隙をついてぬえが麟に踊りかかる。しかしその爪は麟の髪を一房切り落としただけに止まった。

麟「野蛮なのね。そういうの嫌いよ」

ぬえ「うぅっ、まけない!」

麟「だから嫌いだって、言ってるでしょ?」

麟はため息をついただけだった。それ以外、どこも動かしていない。

ぬえ「あぁ―――っ。いた、いたい、いたいぃ!」

なのにぬえの四肢はもがれ。ぬえの胴体と頭は地面に転がっていた。

麟「動きが早いバカほどこれ効くのよね」

男「ぬえぇえええぇえええっ!」 


891 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/17(日) 00:25:54 yhQepv.o
だくだくと血が物凄い勢いであふれだしている。その光景は俺の足を縫い付ける糸を断ち切り、俺を自由にした。

ぬえの元に駆けつける。あの白くて美しかった足は今はぴくぴくと震えながら地面に転がっている。

俺に痛いほど抱き付いてきたあの腕も。

男「ぬえ、ぬえぇぇえっ!」

ぬえ「いたい、いたいよぉ」

ぬえが痛みで子供のように涙を流している。

俺はどうにもならないと分かっていても、自分の服を引き裂いてぬえの止血を試みた。

服はすぐに血を含み切れず意味を失う。付け根をいくらきつく縛ろうとぬえの泣き声が酷く形ばかりで意味をなさなかった。

麟「妖怪ってすぐに死なないから無様で嫌いよ」

男「お前、ぬえを、よくもぬえを!」

麟「知らないわ。貴方の都合なんて」

麟がぬえの頭を踏みつける。俺はその足をどけようとしがみつこうとしたが弱い、明らかに加減された弾幕で吹き飛ばされた。

上海「男さんっ」

地面にぶつかる前に上海が受け止めてくれた。しかし彼我の距離は10メートルを越え、弾幕の衝撃で自由に体が動かせない。 


892 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/17(日) 00:34:00 yhQepv.o
ぬえ「ひ、ひっ、たすけて、たすけてよぉ、ひじり、たすけてよぅ」

麟「あらあら」

麟がぬえの頭にもう一方の足を乗せる。ぬえはいやいやと頭を振って抵抗しようとしたが麟は楽しそうに、ぬえの頭を踏みつけ続けた。

麟「我儘はだめ、よっ!」

麟が高く飛び上がる。そして浮くことなく重力によって下に落ち

ぬえ「がっ!」

ぬえの頭に着地した。重く鈍い音が聞こえる。心なしか骨が砕ける音がしたような気がした。

麟「何回で死ぬのかしら。あ、そうそう。貴方も目をつぶっちゃだめよ。愛しい人の最後は目に焼き付けておかなきゃ」

麟が飛び跳ねる。そのたびに嫌な音は響き、ぬえの悲鳴が上がる。

ぬえ「ひじりぃ、ひじりぃ………」

麟「すぐ会えるわよ。あの世でね」

一層高く飛び上がる。俺の身長よりもずっと高く。

男「やめろ、やめろぉおおぉおおぉおおっ!!」

麟がぬえの頭に着地する。

メキャリと音が鳴って、ぬえの鼻から、大量の血が溢れ出た。 


893 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/17(日) 00:40:43 yhQepv.o
ぬえはガクガクと震え、目があらぬ方向を向いた。もう声も聞こえない。

麟はぬえから足をどけると靴底にねちゃりとぬえの血が糸を引いた。

割れた頭から流れ出る血を避けながら麟が霊夢の元へ戻る。

もう助けてくれるものはいない。

俺以外霊夢を助けれるものはいない。

でももうそんな事どうでもいいんじゃないだろうか。

ぬえもいない、魔理沙もいない。

俺だって人間にしては頑張ったはずだ。

諦めてもいいんじゃないだろうか。今まで挫けそうな心を引きずってここまで来たじゃないか。

誰も俺を非難する資格はない筈だ。

全身の力が入らない。上海は俺を支えることができなくなり。地面へと倒れ込んだ。

こんな運命。こんな結果誰のためにあるんだよ。

どこのどいつがこんなのを望んだんだよ。

意味なんてまったくないじゃないか! 


894 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/17(日) 00:44:02 yhQepv.o
麟「さ、行きましょう霊夢」

霊夢「ふ、ふふふっ、あははははっっ」

麟「霊夢?」

霊夢がいきなり笑い出した。楽しそうではなく、ただ何かに怒っているような笑い声をあげた。

霊夢「もう幻想郷がボロボロじゃない。この異変が終わって、何が残るってのよ」

麟「そうよ霊夢! 目が覚めてくれたのね!」

霊夢「意味なんてない。もうこれじゃあ幻想郷に意味なんてないじゃないの」

麟「えぇ、だから一緒に幻想郷の外へ―――」

霊夢「私に意味なんてないじゃない」 


895 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/17(日) 00:52:16 yhQepv.o
笑い声が止んだ。

なぜかはっきりと麟の歪んだ顔が見える。それに対するは霊夢の凍った真顔。

霊夢はなんてこともなかったかのように立ち上がり、お祓い棒を構えた。

霊夢「意味を亡くした私は何になるって言うの?」

霊夢「ねぇ、教えてよ」

霊夢「ねぇ!」

霊夢が振りかぶったお祓い棒で麟の頬を殴りつける。

麟「霊夢、落ち着いて霊夢。幻想郷なんて貴方に関係ないの!」

霊夢「だったら私はなんなのよ!」

再び霊夢が麟を打ち据える。麟は腕でそれを受けなんとか霊夢を止めようとするも、声とは正反対に真顔の霊夢に見据えられ動きを止めた。

鎖骨に勢いよくお祓い棒が振り下ろされる。麟の体が少し浮き上がった。

麟「こうなったら」

麟が霊夢に向かって飛びかかる。

麟「え?」

しかしその体は霊夢を通り抜けてその先の地面へとぶつかった。 


896 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/17(日) 00:55:48 yhQepv.o
麟「駄目、霊夢その力は使っちゃだめよ! あなたはそれ以上戦ってはいけないの!」

霊夢「あんた私の事なんでも知ってるんでしょ、教えてよ、教えなさいよ」

霊夢が札を放つ。それは容易く麟を破壊した。

麟「落ち着いて! 駄目なn」

新たに現れた麟の体が言葉を言い終える前にはじけ飛ぶ。

霊夢「何?」 


897 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/17(日) 00:58:18 yhQepv.o
麟「それ以上やったら、あn」

麟「だm」

麟「やめt」

麟「きえちゃ」

麟「いっしょに」

麟「おかあs」

麟「つれてかr」

麟「あなたm」

麟「一緒n」

麟「そのちk」

麟「博麗n」

麟「なってしm」

麟「前n」

麟「たすk」

麟「あ」 


898 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/17(日) 01:01:13 yhQepv.o
麟「や、やめて、霊夢」

麟が怯える。札を必死に転げまわりながら麟が命乞いをする。

麟「駄目なの! それ以上!」

霊夢「しぶといわね。どうせ死んでも蘇るんだから死になさいよ」

麟「もう最後なの! これ以上―――」

霊夢「へぇ」

霊夢の姿が消えたかと思うと麟の首を掴んでいた。

霊夢「あんたが最後なんだ」

霊夢「異変解決ね」

麟「やめて、れいむ、わたしは、あなたと、しあわせ、に、なりたか」

霊夢「さよなら」 


899 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/17(日) 01:05:13 yhQepv.o
体の下半分を消し飛ばされた麟の死体は泥として消えることなく、残っている。

新たな冴月 麟が現れることはない。

終わったのだ。

冴月 麟は死に。

古明地 ことりは死に。

この異変の首謀者はいない。

時間はかかるだろうがこの里の戦火もいずれ静まるだろう。

霊夢が語った元の幻想郷が戻ってくるとは思わない。それでもきっと今よりはマシなんだろう。

失ったものは大きかった。ここにきて手に入れたものを俺はほとんど失ってしまった。

皆失ったものは大きいだろう。でもこれ以上失うことはない。

そう失うことは―――

男「え?」

そうこれでやっと誰も死なずに――― 


900 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/17(日) 01:06:13 yhQepv.o
霊夢「え」

霊夢の頬に緑の何かが張り付いている。

それは大きな鱗のように見え。

男「!」

そして霊夢の姿は薄れてかき消えた。 


901 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/17(日) 01:21:01 yhQepv.o
麟「霊夢、落ち着いて霊夢。幻想郷なんて貴方に関係ないの!」

霊夢「だったら私はなんなのよ!」

戻った。撃鉄を引いた感触がまだ残っている。

霊夢が消えた後、拳銃の引き金は引けるようになっていた。

しかし戻ったときは残酷なほど些細な時間。

すでにぬえは死んだあとだった。

弾倉には残り4発。

あと4回やり直せるとはいえ、霊夢が消える原因が分からない。

男「やめろ、霊夢! 戦うんじゃない!!」

上海「え?」

霊夢「ふふっ、博麗の巫女は戦うのよ」

霊夢「あ、でも私は博麗の巫女なのかしら」

霊夢「ねぇ!」

麟「駄目、霊夢その力は使っちゃだめよ!」

霊夢「ねぇ、教えてよ。教えなさいよ!」 


902 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/17(日) 01:24:47 yhQepv.o
残り3発。霊夢は説得に応じることなく消えて行った。

ならどうやって止めればいいのだろう。

男「上海、霊夢を止めてくれ」

上海「え?」

男「お願いだ。頼む」

上海「は、はい! わかりました!」







霊夢「誰も、誰も教えてくれないのね」

上海「そ、そんな。触れられないなんて」

麟「霊夢が、霊夢がきえちゃ」

霊夢「残念ね」 


903 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/17(日) 01:26:53 yhQepv.o
残り二発。もう余裕がない。

霊夢に誰も触れることはできない。

ならどうやって止める。どうすれば止められる。

無理だ、瞬間移動をする霊夢に。追いついても触れることすらできない霊夢をどうやって止める。

届くのは言葉のみ。

ただそれも聞こえるだけで伝わりはしない。

ならどうすれば、どうすれば霊夢を助けれる。

どうすれば霊夢を助けることが出来る。

男「無理じゃ、そんなの無理じゃないか」 


904 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/17(日) 01:35:22 yhQepv.o
残り一発。これで手がかりを見つけなければ霊夢は消える。

まるで台本にでも書かれているかのように霊夢は消えていく。

それが運命だとでもいうのだろうか。

もし、運命を破壊することが出来るのなら。

男「………運命を破壊することが、できる、のなら」

いや、差し伸べられた手を振り払ったのは俺じゃないか。もうウィルは助けてくれない。

男「ははっ。ははは。もう遅すぎたのか。でも誰がこんな結末予想できたっていうんだよ」

男「こんな悲しすぎる結末」

上海「男、さん」

男「どうした、上海」

上海「止めて見せます。霊夢さんを。全力で」

男「無理だ、出来るわけない」

上海「やってもいない事を、出来る訳がないからって私は諦めたくないです! なにがなんだかわかりませんが、それしかないと言うのなら、試みるのは悪い事ではないですよ」

そういって上海が盾を構えて戦火の中へ飛び込んでいく。

違うんだよ上海。もうやったんだ。やって、駄目だったんだ。 


905 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/17(日) 01:40:01 yhQepv.o
もう弾はない。時を戻す事はできない。

あれだけ大事にしてきた弾はもうひとつもない。

やってもいない事を、出来るわけがないからって諦めたくない。

男「そうだよな。俺もまだやってないことあるじゃないか」

上海「男、さん?」

男「ちょっと霊夢止めるために行ってくる」

上海「危ないですよ!」

男「分かってる。でも俺にはもうこれしかないんだよ」

もう走れる程度には回復している。

何もできないことは分かっている。でも頭の中だけじゃ現実は完結しないんだよな。

霊夢に向かって体当たりをする。霊夢は驚いた顔をしたが、体当たりは通り抜け、俺は無様に転がる。

麟「!?」

男「霊夢、お前このままだと消えるんだよ」

麟「貴方、知ってる、の?」

男「なんでかは知らない。だけどこのまま霊夢が戦い続けると霊夢は消えてしまう。それだけは知ってる」 


906 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/17(日) 01:42:11 yhQepv.o
霊夢「血迷ったの?」

男「俺は時を戻したんだよ」

霊夢「へぇ」

麟「そう、貴方は戦うと消えてしまうの!」

霊夢「そう」

麟「龍神の餌食になってしまうの」

霊夢「なるほどね」

男「だから戦うのをやめ」

霊夢「嫌よ」

男「え?」

霊夢「どうでもいいわよ。そんな事。ただ私は戦わないといけないの」

霊夢「だって私がなんなのか分からないんだもの!」 


907 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/17(日) 01:49:49 yhQepv.o
言葉は通じなかった。

博麗の巫女とは言えど一度摩耗した精神は容易く戻ることはない。

霊夢は発狂していた。

霊夢の砕けた心は自分に対する関心を失わせた。

ただ博麗の巫女としての妄執に囚われた霊夢は立ちはだかる俺を敵と認識して容赦なく、札を構えた。

霊夢が札を振るう。今まで幾度となく見てきた札の威力は折り紙付き。本気ならば俺を一撃で殺すことなど容易いだろう。

上海「危ない!」

寸でのところで上海が盾で防いでくれた。しかし分厚い盾は半分以上吹き飛び、盾を持つ腕もボロボロになっている。

なんて常識外れな威力なんだろう。

麟「貴方、霊夢を助けたいなら協力しなさい」

男「協力なんてしねぇよ。ただ霊夢は止める」

麟「そう。なら仕方ないわね。巻き込まれても文句は言わないでよね」

男「あぁ、そうかい!」 


908 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/17(日) 02:02:24 yhQepv.o
麟「―――れい、む」

男「うぅ、あ、あぁ」

上海「………」

霊夢「異変解決ね」

上海は動かなくなった。

麟はたった今殺された。

そして今、霊夢が死にかけの俺を見下ろしている。

静かに俺を見下ろしている。

その頬は燐と緑に光る鱗が生えていた。頬だけじゃない、首筋にもどんどん浮き上がってくる。一体これはなんなのだろう。

ぼんやりと見上げていると霊夢はにっこりと笑った。

霊夢「やっぱり私は博麗の巫女なのね」

そう言うと霊夢の姿はうっすらと薄れ。そして消えて行った。

異変は最悪の形で終わった。結局この異変は失うものばかりで得るものはない。そう俺の命もすぐに消えてしまうのだろう。

遠くの方で火が生き物のように蠢いている。

この火がいずれ全てを飲み込むのだろう。この異変の残骸さえも。 


909 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/17(日) 02:02:58 yhQepv.o
終わり 



911 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/17(日) 16:26:53 yhQepv.o
でいいわけがないだろう。

このままでいいわけがないだろう。

自分の指先すら見えない暗闇の中で俺はそう強く訴えた。

これが死後の世界だというのならチャンスをくれ。亡霊でもなんでもいい。もう一度皆を救うチャンスを―――!

「そうですよね」

男「あんたは………」

???「お久しぶりです」

鱗。緑色の鱗。緑色の鱗に肌が覆われた女性。

再び俺はあの空間に来てしまったみたいだ。

???「守れなかったのですね」

男「守れなかった………俺は、みんなを」

???「もし、もしあなたの心がまだ砕けていないというのなら」

鱗の女性が俺の手を握る。暖かな体温が俺の右手の場所を教えてくれた。

???「もう一度、全てをやり直しませんか」 


912 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/17(日) 16:36:08 yhQepv.o
男「………できるのか」

???「えぇ、貴方にしかできません」

男「なんで俺なんだ」

???「秘密です。貴方は知らない方がいい」

男「また秘密か」

???「すみません」

男「心が折れてなければ、か。もう心は折れたさ。でもしなくちゃいけないんだよ。俺はしなければならないんだよ。そのためにできるってことがあるなら」

それしかないと言うのなら、それが俺にしかできないというのなら、試みることは決して悪い事じゃない。

男「分かった、俺にできるというのなら」

???「ありがとうございます」

鱗の女性が微笑んだように見える。鱗のせいでよくわからないが。

???「お願い、あの子を。博麗霊夢を守って」

男「霊夢―――あんたはいったい」

???「これは私の我儘です。そして私は謝らなければこの異変の原因はきっと―――」 


913 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/17(日) 16:42:28 yhQepv.o
鱗の女性が消えていく。

男「おい、まて、今なんて言った!? この異変の原因は―――」

???「ごめんなさい―――るいのは―――のこじゃ―――りんは―――」

男「おい!」

男「………おい」

姿が完全に消えた。俺は再び闇の中に取り残される。

男「教えてくれよ、なにがなんだかわかんねぇよ」

男「なぁ、教えてくれよ」

男「なぁ」 


914 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/17(日) 16:50:49 yhQepv.o
目を開ける。

空からちらほらと降り注ぐ雪がどうやら俺を埋め尽くそうとしているという事は分かった。

ここはどこだ。体に積もっている雪を振り払い、俺は寒さによって一つくしゃみをした。

立ち上がる。一面に見えるのはこちらをぎょろりと見る大きな向日葵。

俺はこの光景を知っている。雪を被った向日葵の姿を。

男「そうか、ここは」

「誰!?」

振り返る。緑の髪に赤い目をした美しい少女。

男「よう、幽香」

俺はどうやら戻ってきたらしい。信じられないがあの日へ。

俺の運命の日に。 


915 : ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/17(日) 16:51:52 yhQepv.o
男「お願いだ、信じてくれ」聖「あらあら」へ続く