前回 千歌「ポケットモンスターAqours!」 その6

740 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 13:05:48.82 ID:7Hgct/sd0

■Chapter055 『戦闘! グレイブ団幹部、理亞!』 【SIDE Ruby】 





──これは数年前のお話です。 


ダイヤ「ルビィ、いいですか? クロサワの女たるもの、毅然としていなくてはダメですよ」 

ルビィ「きぜんって……?」 

ダイヤ「自分の信念を貫く、しっかりとした態度や様子のことですわ」 

ルビィ「自分の……信念……ルビィに出来るかな……」 

ダイヤ「大丈夫ですわ。貴方も立派なクロサワの子なのですから、きっと出来ますわ──」 


── 
──── 


──夜。スクールの隣のジムスペースから、声が響いてくる。 


ダイヤ「はぁ……!! はぁ……っ……!!」 

琥珀「……今日はここまでにしましょう、ダイヤ」 

ダイヤ「ま、まだです、お母様……!!」 

琥珀「ダイヤ……」 

ダイヤ「このような不甲斐無いままでは──わたくしはジムリーダーになど、いつまで経っても成る事が出来ません……!!」 

琥珀「……。……そのように焦ることは、ないのですよ?」 

ダイヤ「いえ……! ダメなのです、わたくしは……いつだって、毅然と前を歩いていないと──」 


こっそり聞いていた、あの日のお姉ちゃんの言葉。 

今でも、覚えている。 


ダイヤ「わたくしはルビィの姉なのです……! ルビィに示しが付く様に前を進み続けないとダメなのです……!!」 


──ルビィにとって……そんな、お姉ちゃんが自慢なんです。自慢のお姉ちゃんなんです。 





    *    *    * 





ルビィ「アチャモ!! “ほのおのうず”!!」 
 「チャモー!!!!!」 

理亞「マニューラ! “でんこうせっか”!!」 
 「マニュ!!!」 


アチャモが作り出す、炎の渦の壁を、マニューラが身を屈めて、突っ込んでくる、 


ルビィ「迎撃! “きりさく”!!」 
 「チャモッ!!!」 

理亞「遅いッ!!」 

741 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 13:06:45.53 ID:7Hgct/sd0

アチャモが爪を薙ぐが、 

 「マニュ!!!」 
 「チャモッ!?」 

一瞬で軌道を見切ったのか、前方に居たはずのマニューラが横からアチャモを斬りつける、 


理亞「畳み掛けろッ!! “みだれひっかき”!!」 
 「マーニュッ!!!!」 


襲い来る連撃、だが── 


 「ソルッ!!!」 

ルビィ「! アブソルさん……っ!」 


再びアブソルさんが割って入って助けてくれる、 


 「マニュ!!! マニューラッ!!!!」 

 「ソルッ!!!!」 


高速で薙がれる、両の爪を、アブソルさんが刃でいなす、 


理亞「ち……!! いけ、オニゴーリ!!」 
 「ゴォーリ!!!」 

ルビィ「!」 


そんなアブソルさんに向かって放たれる新手、オニゴーリ。 


理亞「“こおりのキバ”!!」 
 「ゴォォオーーーーリ!!!!!」 


オニゴーリが口を開けて、冷気を纏った大きなキバで迫る、 


ルビィ「ヌイコグマさんっ!!」 
 「クーーマーー」 


飛び出す、ヌイコグマさん、 


ルビィ「“とっしん”!!」 
 「クーーーマーーー」 


床を蹴って、オニゴーリに向かって突撃、 


 「ゴォーリ!!!!」 

 「クーーマーー」 


理亞「邪魔!! “かみくだく”!!」 

ルビィ「させない!! “ばかぢから”!!」 


 「クママーーー」 
 「ゴォーーリ!!!!」 


組み合った二匹、 

顎を閉じて、噛み砕こうとするオニゴーリと、 

それを抉じ開ける、ヌイコグマさん、 

パワーは拮抗してる、が 
742 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 13:08:33.89 ID:7Hgct/sd0

 「ゴォーリッ!!!!」 


オニゴーリの冷気で、キバを押さえている前脚がパキパキと凍り付いて行く、 


ルビィ「アチャモっ!! “ねっぷう”!!」 
 「チャモッ!!!!」 

 「ゴォリ!!?!?!」 

理亞「なっ、ヌイコグマごと……!!」 


アチャモから放たれる“ねっぷう”が氷を溶かしながら、オニゴーリを襲う、 

 「クマー」 

もちろん組み合ってる、ヌイコグマさんも巻き込まれるけど……。 


ルビィ「ヌイコグマさんっ!! “じたばた”!!」 

 「クマーーー!!!」 

理亞「!」 


ヌイコグマさんが激しく暴れて、オニゴーリを吹き飛ばす。 

“じたばた”は受けているダメージが大きいほど、威力を増す技です……! 


理亞「オニゴーリ!! 一旦引いて!!」 


その言葉と共にオニゴーリの元に、繰り出される大きな影── 


ルビィ「!!」 

理亞「リングマ!!」 
 「グマァァ!!!!」 


リングマが大きな拳を引きながら、ヌイコグマの目の前に、 

ルビィはすかさずボールを投げる、 


理亞「“アームハンマー”!!!」 
 「グマァッ!!!!!」 


雄叫びと共に振り下ろされる、拳、 

──が、 

その拳は、ヌイコグマさんに振り下ろされることはない、 


 「パォォ!!!」 

理亞「!?」 


長い鼻をリングマに腕に巻きつけ受け止めた── 


理亞「──ゴマゾウ……!?」 


パワー自慢の新しい仲間──!! 


ルビィ「ゴマゾウさん!! “たたきつける”!!」 
 「パオォォ!!!!」 


リングマをそのまま腕ごと引き摺り落とす形で、地面に叩き付ける、 

 「グォァッ!!!!??」 
743 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 13:09:52.88 ID:7Hgct/sd0

ゴマゾウさんの攻撃で出来た隙に、 


ルビィ「コラン、“パワージェム”!!」 
 「ピピピー!!!!!」 

 「グマァッ!!!?!?」 


今度はコランが宝石を発射する。 

石が腹部に命中した、リングマはたまらず、 

 「グマ…ァ…!!!」 

お腹を押さえながら、後ろに下がっていく、 

そして、同時に── 


 「マニュッ!!!?」 


理亞ちゃんの元に吹き飛ばされる、マニューラの姿、 


 「ソルッ…!!!!」 


アブソルさんがマニューラとの打ち合いに勝ったようだった、 


理亞「マニューラ……!! リングマ……!!」 


さらに畳み掛けるように── 

 「ソルッ!!!!!」 

アブソルさんが頭の刃を振るうと、 


理亞「……!」 


大きな空気の刃──“かまいたち”だ、 

空刃は、理亞ちゃんとその手持ちを一挙に巻き込み、 

その後ろの壁までも、一刀両断した、 


ルビィ「ぴぎっ!? す、すごい威力!?」 

 「ソルッ…!!!!」 


斬り崩れた建物の壁が煙を立てながら、崩れ落ちる、 


ルビィ「と、いうか、やりすぎ……!?」 


崩れた壁の先へと、走る。 

すると……アブソルさんの斬撃は、隣の部屋も、さらにその隣の部屋まで貫いていた。 

そこに理亞ちゃんの姿は見当たらない、 

もっと先まで吹き飛ばしたのかもしれない。 


ルビィ「みんな!」 
 「チャモ!!」「ピピピッ」「クマー」「パォ」 


戦っていた手持ちを呼び寄せて、ルビィたちは壁の向こうに走り出します──。 


744 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 13:10:54.08 ID:7Hgct/sd0


    *    *    * 





理亞「……つっ」 


身を起こすと、岩肌に囲まれた、カーテンクリフが見える。 

アブソルの特大の“かまいたち”を受けて、戦っていた部屋どころか、建物の外まで吹き飛ばされたらしい、 


 「マニュ…!!」 

理亞「大丈夫……リングマが庇ってくれたから」 


お陰で、リングマは戦闘不能だけど……すぐにボールに戻す。 

あれだけの大技を一匹で受け止めてくれたのだ、止むを得ない。 


ルビィ「──理亞ちゃん!!」 

理亞「!」 


声に顔を上げる、 

崩れた壁の先から、クロサワ・ルビィが駆け出して来た、 


理亞「っ……!!」 


咄嗟に、マニューラを飛び出させるために、人差し指と中指を前に突き出して、攻撃の合図を送るが── 


ルビィ「──大丈夫!?」 

理亞「……なっ……!」 


相手方から飛び出してきたのは、そんな心配の言葉。 


理亞「──大、丈夫……?」 


突き出した指が、ワナワナと震える、 


理亞「どこまで……どこまで侮辱すれば気が済むのよ……ッ!!」 


頭にカッと血が昇る、 

それと同時にメガブレスレッドが、光を発する、 


ルビィ「……!!?」 


理亞「オニゴーリッ!!!!」 
 「ゴオァアァーーーリ!!!!!!」 


メガシンカの力を解放した、オニゴーリが、 

一気に辺りを凍りつかせ、 


ルビィ「……!? あ、脚が……!!」 


ルビィの足元を一気に氷で釘付けにする。 

もちろんルビィの手持ちも、 
745 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 13:13:09.87 ID:7Hgct/sd0

ルビィ「……! み、みんな!!」 
 「チャ、チャモォ」「パォォ…」「ク…マ…」 

 「ソル……!!」 

ルビィ「アブソルさんも……!!」 


 「ピピピ!?」 


これで空中を浮いていた、メレシー以外はこおりづけで動けない。 

そして── 

そのまま、氷はルビィの脹脛、太腿、臀部、 


ルビィ「……ぅぁ……!」 


お腹を、 

胸部を過ぎて、 

肩を、腕を、手を凍て付かせ、 


ルビィ「ぅ……っ……」 


すぐに首元まで辿り着いた。 





    *    *    * 





理亞「……はぁ……はぁ……っ……私の勝ち、ね」 

ルビィ「……っ……」 


全身が凍ってしまって、動かない、動けない。 


理亞「……てこずらせんじゃ……ないわよ……弱い癖に……!!」 

ルビィ「……っ! まだ……言うの……っ!」 

理亞「勝って……言うこと、聞かせるって……言ってたじゃない……でも、あんたの負けよ……!!」 

ルビィ「……っ……まだ、だもん……!」 

理亞「認めなさい……!!」 

ルビィ「まだ……だもん……っ!!」 


お姉ちゃんの──ダイヤお姉ちゃんを悪く言ったこと、 


ルビィ「まだ……言葉、取り消して貰ってない……もんっ!!!」 


ルビィの大好きなお姉ちゃんの誇りは、 

何も知らない人が汚していいものじゃない、 

今、その誇りを護れるのがルビィだけなら──わたしが戦わなきゃ……!! 

そう想った瞬間。 


──ドクン。 


心臓が大きく脈打った。 
746 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 13:14:38.67 ID:7Hgct/sd0

ルビィ「──あ、ぁ……っ!!?」 


そして、突然、全身が燃えるように熱くなる、 


 「ピ──」 


そして、コランが── 

真っ赤な──燃えるような真紅の光を発していた。 


理亞「……なっ!?」 


──ドクン。 

血液が脈打つ度に、全身を焼き尽くすような熱が走る、 


ルビィ「──な、ぁ、ぁ……!!」 


──ドクン。 

──ドクン、ドクン、ドクン。 

熱い…… 熱い……! 熱い……!! 熱い……っ!!!! 

身体の奥底から、マグマのような熱が溢れ出して来る。 


ルビィ「──あ、あ、あ……っ!!!!」 


自分がどうなってるのかが、わからない── 

ただ、熱い、 

全身が狂ったように、熱かった── 





    *    *    * 





目に見えて異常な現象が起きていた。 

ルビィが従えていた、真っ赤な宝石のメレシーが、光り輝いたと思ったら、 

地鳴りと共に、辺りに大きな揺れ── 


理亞「地震……!?」 


いや、それだけじゃない。 


理亞「……日……?……太陽……!?」 


私の頭上からは、太陽が灼熱の日差しを降らせていた。 

ここは雲と雪と岩肌に包まれたカーテンクリフの谷底だと言うのに、だ。 

そして、何より── 


ルビィ「──ぁ……あ、ぁ……!!」 
747 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 13:15:43.19 ID:7Hgct/sd0

クロサワ・ルビィの全身の氷が、 

──ジュウジュウと音を立てて、溶けていた。 

日差しの熱、どころではない。 

それとは比にならない圧倒的な熱量、 

辺りの氷はルビィを中心にどんどん溶けて行く。 

まるで、ルビィ本人から大量の熱が出ているとしか思えない。 


理亞「まさか……!!」 


私は心当たりを感じ、上着の内ポケットから、あるものを取り出した。 


理亞「……はは」 


ポケットから取り出した“ソレ”を見て、 


理亞「……あははははっ」 


笑いが込み上げてくる。 

“ソレ”──小さな、ピンクのダイヤモンドが、脈打つように輝いている。 

 「ピ──ピ──ピ──」 

目の前のメレシーと共鳴するかのように、 


理亞「やっぱりねえさまの言っていたことは、本当だったんだ……!」 


こんな形になるとは思っていなかったが、 

やっとこの目で確認することが出来た。 


ルビィ「──ぁ……ぅ……ぁ…………」 

理亞「……クロサワの巫女の覚醒──!!」 





    *    *    * 





──あれから、どれくらい時間が経ったのか、 

5分? 10分? 1時間……? 

もしかしたら、もっと長いかもしれないし、もっと短かったかもしれない。 

全身を燃えるような熱が駆け巡り続け、 

そのせいで時間の感覚すらもおかしくなってしまったのかもしれない。 


ルビィ「ぅ……ゅ……」 


気付いたときには、辺りには陽炎が揺らめき、蒸発した氷が湯気を立てていた。 


ルビィ「コラン……みん、な……」 


力なく辺りを見回す。 

 「ピ──ピ、ピ」 
748 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 13:17:15.00 ID:7Hgct/sd0

コランがすぐ近くに固まったまま地面に落ちている。 

身体がうまく動かなかったけど、手でどうにか手繰り寄せて、胸に抱きしめる。 


ルビィ「……コラ、ン……」 


さらに辺りを見回すと、アチャモが、ヌイコグマさんが、ゴマゾウさんが、倒れて伏せっている。 


ルビィ「みんな……ボールに……もどさ、なきゃ……」 


ボールを取ろうと、腰の辺りを手で探るが、 


ルビィ「ボールが……?」 


何故か、ボールが見当たらなかった。 

理由を考えようとしたけど── 

頭が熱に浮かされたように、ぼんやりしていて、考えがまとまらない。 


ルビィ「マル、ちゃん……みん……な……」 


だんだん意識が遠のいていく。 


ルビィ「……お姉……ちゃん──」 


ルビィの意識は、そのまま闇の中へと……落ちていった──。 





    *    *    * 





善子「──何……? 何が起こったの……?」 


先ほどの激戦とは打って変わって、辺りは静まり返っていた。 


花丸「ずら……善子ちゃん、大丈夫ずら……?」 

善子「あ……うん。ずら丸も平気……?」 

花丸「大丈夫ずら」 


お互いの安否を確認し合ってから、前方を見ると、 

倒れてきた棚の下で、先ほどまで戦っていた団員とそのポケモンたちが気絶していた。 


善子「さっきの地震……なんだったの……?」 


いや、何って地震だったんだけど……。 

──そう。戦闘している最中に建物を大きな揺れが襲い、それによって戦闘が中断されたのだった。 

助かったけど、逆にタイミングが良すぎる気もして、気味が悪い。 

そんな考え事をしていたら、 


花丸「! よ、善子ちゃん!」 


突然、ずら丸が私の袖を引っ張ってくる。 
749 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 13:18:33.61 ID:7Hgct/sd0

善子「ん、ちょっと今考え事を……。……え?」 


ずら丸に返事をしながら振り返って、 

絶句した。 


善子「氷が……」 


先ほどまで、必死に溶かしていたはずの大きな氷柱が、 


花丸「溶けちゃったずら……」 


跡形もなく溶けて消えていた。 

いや、正確には辺りが水浸しなので、溶かされたと言うことなんだろうけど……。 


善子「ラ、ランプラーたちがやったの……?」 
 「プラァー…」 


ランプラーが頭を横に振るって、否定の意を示す。 

そりゃそうだ、私たちは全然溶けない氷をせめて、人一人でも通れるくらいの穴を開けようと必死だったのだ、 

あの大きな揺れの隙に敵側の攻撃が緩んだとは言え、 

跡形もなく溶かしてしまうなんて無理だ。 


善子「何……? 一体、何が起こってるの……?」 

花丸「……わかんないけど」 


ずら丸は、手持ちをボールに戻しながら、氷が溶けて進めるようになった通路に歩いて行く。 


善子「ち、ちょっとずら丸!?」 

花丸「どっちにしろ、こっちに用があったずら」 

善子「そ、それはそうだけど……」 


この先に、安易に進んでいいのか……? 

完全に想定できない物事が起こってるのに── 


花丸「……ルビィちゃんが待ってるずら」 


……それもそうだ。 


善子「…………わかった」 


どうせここが敵地なのには変わりないんだし、前に進むしかない、か。 

私も手持ちをボールに戻しながら、ずら丸の後ろを付いていく形で部屋の奥へと進んでいくことにした。 





    *    *    * 





先ほどまでルビィと理亞が戦っていたと思われる部屋の室内は、ボロボロだった。 

と言うか、奥の壁に風穴が空いている。 
750 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 13:19:57.34 ID:7Hgct/sd0

善子「どんな激しい戦闘してたのよ……!!」 


あのルビィって子、そんなに戦闘が得意そうには見えなかったんだけど……人は見かけによらないのかしら……? 


花丸「部屋には誰も居ないし……奥に行ったってことだよね」 

善子「……そうね」 


もし、戦闘で空いた穴なら、まだこの先で戦っている可能性も高い。 


善子「ちょっと、急ぎましょう……!」 

花丸「う、うん!」 


二人で部屋を駆け抜ける。 

……その後、同じように風穴の開いた大きな部屋を何部屋か抜けると── 

光が見える。 


善子「この穴、外まで続いてるの!?」 

花丸「よ、善子ちゃん!! あれ見て!!」 

善子「!?」 


ずら丸が指差した先に、白い体躯のポケモン。 


善子「アブソル!?」 

 「ソル…」 


屋内に出来た穴から外に出て、すぐのところにアブソルが蹲っている。 

──いや、それだけじゃない。 


 「チャモ…」「クマー…」「パォォ…」 

花丸「ル、ルビィちゃんの手持ちのポケモンずら……!!」 


アチャモ、ヌイコグマ、ゴマゾウが瀕死状態で倒れていた。 


花丸「今、きずぐすりを使うからね……!!」 


ずら丸がバッグから道具を取り出し、ポケモンたちを治療しようとしたとき、 


 「……来たんだ」 

花丸「!」 


空から声が降って来た。 

ずら丸と一緒に声のしたほうを仰ぎ見ると、 

理亞がこちらを見下ろしていた──小脇にルビィを抱えたまま。 


花丸「……ルビィちゃん!!」 

善子「ルビィ!」 


ルビィ「…………」 
751 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 13:21:22.19 ID:7Hgct/sd0

胸にコランを抱きしめたままのルビィからは、まるで返事がない。 

どうやら気を失っているらしい。 

そのまま、理亞がクロバットで飛び去ろうとしたところに、 


善子「あんた、逃げるの!?」 

理亞「…………」 


私は思わず、言葉をぶつける。 


善子「ルビィの想い、聞いたんでしょ!? ルビィと話をして……それでも、あんたはあくまでルビィを攫うの!?」 

理亞「……そうだけど……?」 

花丸「どうして……ルビィちゃんの言う通り、協力は出来ないの……!?」 

理亞「……出来ない」 


何故だか、理亞は寂しそうに、そう言っている気がした。 


理亞「私たちの目的のためには……こいつも、『使う』ことになるから──」 


……そんな言葉を残して、理亞は飛び去ってしまった。 


善子「……使う?」 

花丸「ルビィちゃん……」 

善子「…………」 


すぐに追いかける……? 

いや、今の手持ちの状況じゃ、あのクロバットに追いつくのは無理だ。 

ちゃんと準備を整えてから、行かないと……。 


花丸「ルビィちゃん……」 


ずら丸は、悔しそうに唇を噛んでいた。 


善子「……ずら丸。……順番に出来ることをしましょう」 

花丸「……わかってる、ずら」 


ずら丸は再び、ルビィの手持ちたちの治療を再開する。 

……そして私は、 


善子「アブソル……貴方も治療するわ」 
 「ソルル…」 


私は鞄からすごいきずぐすりを取り出し、アブソルに向かって噴き付ける。 

……さて、 

アブソルを治療しながら、辺りの状況を見回す。 

改めて、考えてみると……。 


善子「なんか……ここ異様に蒸し暑いわね……」 

花丸「言われてみれば……」 
752 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 13:23:15.07 ID:7Hgct/sd0

辺りは入る前と似たような谷底で岩肌と岩壁があるだけなのんだけど……。 

違うとしたら、空が晴れていて、岩壁を下から目で追っていくと、ずーっと遠くに空が見えているくらいかしら。 


花丸「あれ? なんか落ちてる……」 

善子「?」 


そんな中、ずら丸が何かを見つけたようで……。 


花丸「……これ、ルビィちゃんの手持ちのボールとポケモン図鑑ずら」 


連れ去る際に、理亞がやったのだろうか……? 

図鑑は追跡されることを考えると、わからなくもないけど、わざわざボールまで外すのは、少々手間じゃないかしら……? 中に入ったままならまだしも、ルビィの手持ちはそもそも外に出たまま倒れているわけだし。 


善子「ちょっと、それ貸してみて」 

花丸「う、うん……」 


ずら丸から、一つ、ボールを受け取る。 

普通ボールは腰から簡単に外れないように、留め具でちゃんと固定する。 

だから、激しい戦闘でも簡単にボールが外れることはないんだけど……。 


善子「……なにこれ」 

花丸「……? どうしたの?」 


ボールの後ろ側にある、ボールを固定する留め具の壊れてしまった部分が── 

液状になったものが、また冷えて固まったような状態になっていた。 


花丸「これ、溶けてる……ずら……?」 

善子「…………ボールの留め具を溶かされたってこと?」 

花丸「そんなピンポイントで……?」 


ずら丸が、他のボールも見てみると、 


花丸「どれも同じ感じになってるずら……って、あれ? このボール、中にアブリボンが居るままずら!?」 


……落ちていたボールはアブリボンが入ったままのものを含めて、5つ。 

モンスターボールとプレミアボール、それとフレンドボールが3つ。 

つまり、ルビィは今抱きかかえていたメレシー以外連れていない状態と言うことだ。 

ついでに言うなら、 


善子「図鑑もこうして、ここにあるってことは図鑑追尾も出来ない……」 

花丸「…………」 


困ったことになった。 

やはり、無理は承知ですぐに追いかけるべきだった……? 

ずら丸は今にも泣き出しそうな顔になってしまうし……。 

そんなとき、 


 「ソル…」 

善子「! アブソル……」 
753 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 13:24:35.78 ID:7Hgct/sd0

治療を終えたアブソルが立ち上がって、 


 「ソル…!!」 


理亞が飛び去った方向によたよたと歩き出す。 


善子「アブソル……! そんな身体で無茶よ……!!」 


私の制止に対して、 

 「ソルッ!!!」 

アブソルは止めてくれるな、と言わんばかりに声をあげる。 


善子「アブソル……」 


私は少しだけ、考えて……。 


善子「ねえ、アブソル」 

 「ソル…」 

善子「もしかして、貴方……ずっとあいつらを追ってたの?」 


そう訊ねた。 

さっきからずっと疑問だった。どうしてアブソルは理亞と戦っていたのか。 


 「…」 

善子「ここ最近でこの地方にいろんな異変が起きてるけど……私は貴方を追いかけながら、それらにいくつも遭遇してきた」 


音ノ木でのメテノ事件。13番水道から15番水道に掛けての不自然なブルンゲルの襲撃。グレイブガーデンでのヒトモシの大量発生。そして、ここカーテンクリフ。 


善子「それって全部あいつらグレイブ団が関わってて、貴方はそれを追いかけていた。……そしてまた追いかけようとしてる……違う?」 

 「…ソル」 


アブソルは短く鳴く。それは否定なのか、肯定なのか。 


善子「もしそうなら私も協力する。オンバーンとの戦いで助けてもらった恩もあるし、一緒に行かない……?」 

 「…ソル」 


私の言葉に対して、アブソルはそっぽを向いて、クリフの壁を登り始める。 


善子「……そっか」 


どうやら、フラレてしまったらしい。 


花丸「……善子ちゃん」 

善子「……慰めとかいらないわよ?」 

花丸「うぅん、そうじゃなくてね」 

善子「……?」 


ずら丸が指を指す。 

崖を登るアブソルが、こちらを振り返っていた。 
754 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 13:25:10.03 ID:7Hgct/sd0

 「…ソル」 

善子「……! ついてこいってこと……?」 

 「ソル…」 


アブソルはピョンピョンと、崖を少し登ってはこちらを振り返る。 


花丸「……もし、アブソルが理亞さんを追いかけてるなら、マルはアブソルについていく以外の選択肢はないと思うずら」 


ずら丸は、治療の終わったルビィの手持ちたちをボールに戻しながらそう言う。 


善子「うん……ついていくわ、アブソル……!」 

 「ソル」 


こうして私たちは、理亞と、連れ去られたルビィを追いかけるために、アブソルの後を追って、次の目的地へと進むことにしたのだった。 


755 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 13:26:02.66 ID:7Hgct/sd0


>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【グレイブ団アジト】 
 口================= 口 
  ||.  |⊂⊃                 _回../|| 
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  || 
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   || 
  ||.  | |       回 __| |__/ :     || 
  ||. ⊂⊃ ●   | ○        |‥・     || 
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     || 
  ||.  | |.      | |           |     || 
  ||.  | |____| |____    /      || 
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  || 
  ||.  | |      | |  _.    /      :   || 
  ||.  回     . |_回o |     |        :   || 
  ||.  | |          ̄    |.       :   || 
  ||.  | |        .__    \      :  .|| 
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .|| 
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .|| 
  ||.      /.         回 .|     回  || 
  ||.   _/       o‥| |  |        || 
  ||.  /             | |  |        || 
  ||./              o回/         || 
 口=================口 


 主人公 善子 
 手持ち ゲッコウガ♂ Lv.44 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい 
      ヤミカラス♀ Lv.43 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい 
      ムウマ♀ Lv.42 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき 
      ランプラー♀ Lv.46 特性:もらいび 性格:れいせい 個性:ぬけめがない 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:111匹 捕まえた数:46匹 

 主人公 花丸 
 手持ち ハヤシガメ♂ Lv.31 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい 
       ゴンベ♂ Lv.31 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき 
      デンリュウ♂ Lv.31 特性:プラス 性格:ゆうかん 個性:ねばりづよい 
      キマワリ♂ Lv.30 特性:サンパワー 性格:きまぐれ 個性:のんびりするのがすき 
      フワライド♂ Lv.29 特性:ゆうばく 性格:おだやか 個性:ねばりづよい 

      アチャモ♂ Lv.39 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい 
      アブリボン♀ Lv.28 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき 
      ヌイコグマ♀ Lv.40 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい 
      ゴマゾウ♂ Lv.41 特性:ものひろい 性格:さみしがり 個性:ものをよくちらかす 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:86匹 捕まえた数:35匹 


 善子と 花丸は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 



756 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 15:20:37.61 ID:7Hgct/sd0

■Chapter056 『帰郷』 【SIDE Chika】 





──ローズシティから飛び立って数時間ほど、 

セキレイシティを超え、音ノ木を横目に通りすぎ、流星山を飛び越えて、 


千歌「やっと見えてきた……!!」 


その先にある、小さな町。 


千歌「戻ってきたよ……! ウチウラシティ!」 


私は故郷に戻ってきました。 


千歌「なんだか、こうして空から見ると……旅に出たときよりも小さく見えるね」 
 「ピィィ」 


旅をして、自分が少しだけ大きくなったってことなのかな? 

それって嬉しいことだけど、なんだかちょっぴり寂しい気持ちもあって、不思議な感じだ。 


千歌「……っと、感傷的になってる場合じゃないや」 


ウチウラシティに戻ってきた以上、もちろんウチウラシティに用事があるんだけど……。 


千歌「先におつかいを済ませなきゃだよね。ムクホーク、アワシマまでお願い」 
 「ピィィ!!!」 


ウチウラシティのちょっと先へ、私たちは空を進みます。 





    *    *    * 





千歌「よっし……着いた! ありがと、ムクホーク」 
 「ピィ」 


ムクホークをボールに戻しながら、私はアワシマに降り立つ。 

ここで曜ちゃんと一緒に最初のポケモンと図鑑を貰って旅に出たんだよね……ちょっと前のことなのになんか懐かしい気分かも。 

そんなことを考えながら、私は研究所の入り口のドアを押し開ける。 


千歌「こんにちはー!」 


エントランスで声をあげると、奥からパタパタと人が走ってくる音がする。 

そして奥からメイドさんの格好をした人が出てくる。 


メイド「千歌様、お待ちしておりました。お嬢様──いえ、博士が奥でお待ちです」 


メイドさんは私の前で挨拶をしながら、恭しく頭を下げる。 


千歌「お、おぉ……本物のメイドさんみたい……」 
757 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 15:22:28.70 ID:7Hgct/sd0

そういえば鞠莉さんって、お嬢様なんだっけ……? 

ぼんやり、そんなことを考えていたら、 


鞠莉「みたいというか、本物よ。千歌っち」 


後ろから、その鞠莉さん本人が現れた。 


鞠莉「下がっていいわ。わたしが直接応対するから」 

メイド「はい。畏まりました」 


メイドさんは鞠莉さんの言葉を聞くと、また恭しく頭を下げてから、持ち場に戻っていった。 


鞠莉「ごめんね、千歌っち。なんか物々しくて……」 

千歌「あ、いえ……」 


メイドさんに面食らっていた私に鞠莉さんから謝罪の言葉。 


鞠莉「最近物騒だから、メイドたちもなにかと、わたしが前に出るのに反対気味でねー……」 

千歌「物騒……? 何かあったんですか?」 

鞠莉「まあ、ちょっといろいろね。この研究所内じゃ一番強いのは間違いなく、わたしなのに……困ったものよね」 

千歌「鞠莉さんって、強いんですか……?」 


そういえば、その辺り余り聞いたことがなかった気がする。 


鞠莉「む……ゴアイサツだねー千歌っち。わたしも昔この地方を旅して周った先輩トレーナーなんだヨ?」 


と言って、顔をしかめたあと、 


鞠莉「……って、わたしこそ挨拶がまだだったわね」 


そう言って舌を出す。 


鞠莉「千歌っち、ようこそオハラ研究所へ。……いや、おかえりかしらね」 

千歌「えへへ……はい! ただいまです!」 


改めて、旅の出発点に戻ってきたんだなという気になる。 


千歌「あ、そうだ……頼まれてた、真姫さんからの荷物なんですけど……」 


とりだそうと、バッグを漁っていると、 


鞠莉「あ、ちょっと待ってね。奥の研究室で受け取るから。ついてきて」 

千歌「あ、はい」 


私は鞠莉さんの後についていく形で、研究所の奥へと通される。 


千歌「あのー……鞠莉さん」 

鞠莉「なに?」 

千歌「この荷物……やっぱり、なんかヤバい感じのモノなんですか……?」 
758 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 15:23:50.82 ID:7Hgct/sd0

真姫さんには詮索しない方がいいなんて言われたけど……気になるものは気になる。 

わざわざ、奥の部屋で受け取るなんてますますアヤシイし。 


鞠莉「あー、うーん……あんまり、公にするようなモノではないかもしれないわね」 

千歌「やっぱり、ヤバいモノ……」 


私は少し青ざめてしまうが…… 


鞠莉「……千歌っち」 

千歌「な、なんですか……!?」 

鞠莉「どんな“どうぐ”も使う人次第だヨ?」 

千歌「え……?」 


鞠莉さんの真剣な声色に思わず、まじまじと顔を見つめてしまう。 


鞠莉「確かに世の中には、おいそれと人に見せられないものがあるのも事実だけど……それは大体の場合が結果的にそうなってるだけ」 

千歌「結果的に……ですか?」 

鞠莉「誰かが使い方を間違ったり、悪用したりすると、そういうイメージが付いちゃうことがあるだけで、どんなモノでも本来は誰かの助けになるために生み出される……それが“どうぐ”ってモノなの」 

千歌「……うん」 

鞠莉「そして、それを生み出して使ってるのは、他の誰でもないわたしたち人間。そんなわたしたちが一言で良いものだとか、悪いものだとか決め付けたら、“どうぐ”が可哀想だヨ」 

千歌「ご、ごめんなさい……」 


鞠莉さんの言葉に思わず、肩を窄めて謝る。 


鞠莉「……あーいや、わたしこそごめんなさい……ちょっと熱くなっちゃったわ」 

千歌「あ、うぅん……私も鞠莉さんの言うとおりだと思うから……聴いててちょっとハッとなった」 

鞠莉「……そう言って貰えるとありがたいわ」 


鞠莉さんは肩を竦める。 


千歌「鞠莉さん……って」 

鞠莉「?」 

千歌「モノを大切にしてるんだね」 

鞠莉「……ええ。わたしは“どうぐ”の研究をしてる人間だから尚更ね。その“どうぐ”が存在してる意味を、意義を、正しく理解して、人やポケモンと共存していけるように日々研究しているんだもの」 

千歌「……ほぁ……」 

鞠莉「んっん……ちょっと柄にもなく語っちゃったわね」 

千歌「……か、かっこいい…………」 

鞠莉「や、やだもう……照れるからやめてよ……」 

千歌「鞠莉さんって、いっつも変なことばっか言うから、誤解してました……!」 

鞠莉「……なんかちょっと気になる発言があったけど……褒めてくれてるみたいだから、今回は大目に見ましょう」 


そんな話をしながら歩いていたら、目的の部屋に辿り着いたようだった。 


千歌「それじゃ、これ!」 


バッグから取り出した件の荷物を手渡す。 
759 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 15:25:36.11 ID:7Hgct/sd0

鞠莉「ええ、確かに受け取ったわ。ありがとう、千歌っち」 

千歌「……あのー……」 

鞠莉「?」 

千歌「それで結局これって……?」 

鞠莉「ああ……これは──そうね、ポケモンの捕獲に使う道具……かしらね」 

千歌「そうなんだ……?」 

鞠莉「あんなこと言った手前で申し訳ないけど、あんまり詳しいことは教えられないの……ごめんなさい」 

千歌「あ、いや、大丈夫です……!」 


申し訳なさそうにする鞠莉さんに、私は慌てて手を振った、 


千歌「それをいつか皆に説明出来るようにするため……なんですよね?」 

鞠莉「! ええ、その通りよ」 

千歌「なら、そのときを楽しみに待ってるから……!」 

鞠莉「千歌……ありがとう。そうなるように、わたしも頑張らなくちゃね」 


そうお礼を言う鞠莉さんは、なんだか少し嬉しそうだった。 





    *    *    * 




鞠莉「それはそうと千歌っち」 

千歌「なんですか?」 

鞠莉「旅の方はどう? 順調かしら?」 

千歌「あ、はい! バッジも5つ手に入れましたし……出てきて、バクフーン!」 


私はバクフーンをボールから出してあげる。 


 「バク」 
千歌「最初に貰ったヒノアラシも、バクフーンに進化しました!」 

鞠莉「ふふ、順調そうで何よりね。それじゃ、図鑑の方も見せてもらってもいいかしら」 

千歌「……え?」 

鞠莉「いや、え? じゃなくて……データ収集、頼んでた図鑑を見せてもらおうかと思って」 

千歌「……えーと、はい」 


私は鞠莉さんに図鑑を差し出した。 


鞠莉「……『見つけた数:123匹 捕まえた数:13匹』。Oh...捕獲はあまり捗ってないようね……」 

千歌「す、すみませーん……」 


思わず私は目を泳がせた。 


鞠莉「……ま、旅の目的はそれぞれだからネ。そういうトレーナーのサンプルデータとして、参考にさせて貰うわ」 


そう言って図鑑を返される。 
760 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 15:26:36.87 ID:7Hgct/sd0

鞠莉「それはそうと、バッジ5つ集めたってことは……行くのね」 

千歌「あ、はい!」 


──そう、わざわざ故郷に戻ってきたのは、ただおつかいの為だけじゃない。 

言葉を続けようとしたそのとき、部屋のドアがノックされた。 


鞠莉「何かしら?」 

メイド「博士、ダイヤ様がお越しです」 

鞠莉「あら……噂をすれば、ね」 


鞠莉さんはそう言いながら、私に向かってウインクする。 


鞠莉「部屋に通してあげて」 

メイド「はい。お待たせ致しました、ダイヤ様」 


メイドさんはそう言いながら、ドアを開いて、 


ダイヤ「ありがとうございます」 


その先から、ダイヤさんの姿が。 


千歌「ダイヤさん……!」 

ダイヤ「! 千歌さん、帰って来ていたのですわね?」 

千歌「はい! ただいまです!」 

ダイヤ「ふふ、おかえりなさい」 


ダイヤさんが優しく微笑みながら、言葉を返してくれる。 


鞠莉「千歌っち、集まったみたいよ」 

ダイヤ「集まった……そうですか」 


鞠莉さんの言葉を聞いて、ダイヤさんが私に向き直る。 


ダイヤ「見せていただけますか?」 

千歌「……はい!」 


私は、バッグからバッジケースを取り出した。 


ダイヤ「──コメットバッジ、ファームバッジ、スマイルバッジ、ハミングバッジ、クラウンバッジ……確かに5つ、確認致しました」 

千歌「ダイヤさん」 

ダイヤ「はい」 

千歌「ジム戦、よろしくお願いします……!!」 

ダイヤ「ええ、もちろんですわ」 


満を持しての恩師とのジム戦。 
761 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 15:27:59.73 ID:7Hgct/sd0

ダイヤ「次の定期船で戻って、ジム戦に致しましょうか。先に船着場で待っていてもらえますか?」 

千歌「はい!」 

鞠莉「あ、そうだ。ジム戦前に回復したいでしょ? 研究所にある回復装置は自由に使っていいから、今のうちに準備を整えておくといいわ」 

千歌「ありがとうございます! バクフーン、行こう!」 
 「バクッ」 


私はバクフーンと一緒に研究室を駆け出した。 





    *    *    * 





ダイヤ「……全く早いものですわね」 

鞠莉「この前、旅に出たばっかりなのにね」 

ダイヤ「本当に……」 

鞠莉「でも、感慨に浸ってる暇ないよ~? これからバトルなんだから」 

ダイヤ「……ええ、わかっていますわ」 


そうは言うものの、やっぱりダイヤは嬉しそうだった。 

自分の生徒が旅に出て、戻ってきて、自分と矛を交えるほど強くなったと言うのは、これ以上ない程嬉しいことなのだろう。 


鞠莉「……そういえば、ダイヤ。わたしに用事があったんじゃないの?」 

ダイヤ「……そうでした。ここ数日の入江内で遭遇した、野生ポケモンの調査データです」 

鞠莉「? 入江の野生ポケモン……?」 


わたしはダイヤから、書類を受け取り、目を通す。 


鞠莉「……ずいぶんSableye──ヤミラミが多いわね」 
             (*Sableye=ヤミラミの英名) 

ダイヤ「幸い、ここ数日は調査でお母様が入江にいることが多かったので、早い段階で退治は出来ているのですが……」 

鞠莉「……ヤミラミの大量発生とかだと、ちょっと困るわね」 

ダイヤ「ここだけでなく、地方全体でゴーストタイプのポケモンが増えているなんて噂もありますし……何かの凶兆でなければいいのですが」 

鞠莉「……わかった。こっちでも警戒と調査をしてみるヨ」 

ダイヤ「お願いします。……それでは、わたくしはジムに戻りますわ」 

鞠莉「ん、なんかあったらまたお願いね」 

ダイヤ「はい、承知しました」 


用件を終え、ダイヤは踵を返して、部屋から出て行った。 


鞠莉「……Hmm...」 


それにしても……。ここしばらくは本当にイレギュラーなことがあちこちで多発している話をよく耳にする。 


鞠莉「一体、この地方で何が起こってるのかしらね……」 


わたしは、自分の育ったこの地方を憂えてか、思わずそんなことを呟くのだった。 


762 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 15:29:08.83 ID:7Hgct/sd0


    *    *    * 





ダイヤ「千歌さん、お待たせしました」 


言われたとおり、船着場の待合ベンチで待っていると、ダイヤさんが追いついてくる。 


千歌「もう、鞠莉さんへの用事は終わったの?」 

ダイヤ「ええ、大した用ではなかったので」 


ダイヤさんは、私の隣に腰を降ろし、私のことをじーっと見つめてくる。 


千歌「な、なんですか……?」 

ダイヤ「……千歌さん、少し大きくなりましたね」 

千歌「大きく……背伸びたかな……?」 

ダイヤ「ふふ、物理的ではなくて……精神的に、ですわ」 

千歌「精神的に……? そういうのって見てわかるものなの?」 

ダイヤ「ええ……ずっと、見ていましたから。貴方達を」 


そう、懐かしむように。 


ダイヤ「……きっとこの旅の中でいろいろなものを見てきたのですわね。昔は本当にただ落ち着きのない子だったのに──」 

千歌「ぅ……ダ、ダイヤさん。そういう話はいいから……」 

ダイヤ「ふふ、ごめんなさい」 


居心地の悪そうな顔をする私を見て、ダイヤさんはクスクスと笑う。 


千歌「それよりも、いっぱいおみやげ話あるんだよ!」 

ダイヤ「ええ。船が来るまで、もう少し時間がありますから。たくさん聞かせてください」 


私は船が来るまでの間、ひたすらここまでの旅のことを話し続ける。 

ダイヤさんはその話を終始、嬉しそうに、でもただ黙々と聞いていてくれました。 





    *    *    * 





ダイヤ「──え? あの海未さんからですか……?」 


そんな旅の話の中で、ダイヤさんが最も驚いた顔をしたのは、海未師匠の話だった。 


千歌「うん、短い間だったけど……稽古を付けて貰って」 

ダイヤ「……成程」 


ダイヤさんは少し複雑そうな顔をして、考え込む。 
763 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 15:32:19.47 ID:7Hgct/sd0

千歌「……? ダイヤさん?」 

ダイヤ「……あ、いえ……。……その、いつの間にかすごい方に師事しているなと想いまして」 

千歌「……海未師匠って、やっぱすごい人なんですか……?」 


そんな私の言葉を聞いて、ダイヤさんが眉を顰めた。 


ダイヤ「貴方……まさか、海未さんがどういう方が存じ上げずに教えを請うていたのですか?」 

千歌「え……えーっと……」 

ダイヤ「はぁ……座学の成績の酷さは知っていましたが、まさかここまでとは……」 

千歌「……う……ご、ごめんなさい……」 

ダイヤ「…………。まあしかし、座学に関しては花丸さん以外、あまり熱心ではなかったですし……それをわかった上でしっかり教えていなかった、わたくしの責任でもありますわね。復習の意味も込めて、少しその話をしましょうか」 


ダイヤさんはそう前置いて、講義を始める。 


ダイヤ「海未さんについて話すなら、ポケモンリーグ協会のおさらいからしないといけませんわね。地方の健全なポケモントレーナーの育成を目的とした組織ですわ。わたくしたちジムリーダーも、このリーグ協会に所属している人間ということになりますわね」 

千歌「ポケモンリーグ……。そういえば、そんなこと花丸ちゃんが言ってたかも……」 

ダイヤ「いろいろ審査基準はあるのですが……その地方のうち12人が、選抜され──今はダリアシティのジムリーダーが二人組なので13人でしたわね──そのうちの8つのバッジを託されたトレーナーがそれぞれの街にある、ポケモンジムを活動の拠点としています」 

千歌「……? ジムリーダーが一番強い人たち、じゃないの?」 


てっきりそうだと思っていた。 


ダイヤ「一番ではありませんわ。その中で上位の4人は四天王と呼ばれています」 

千歌「四天王……」 

ダイヤ「地方の北端に位置する、ウテナシティ・ポケモンリーグ本部を拠点にしている、名実共に、この地方で最強クラスのトレーナーですわ。そして、全ての四天王を倒した先で、晴れてチャンピオンと呼ばれる人間になるのです」 

千歌「え、じゃあ四天王を倒せば、私も……!」 

ダイヤ「話は最後まで聞きなさい。そうは言っても、誰にでも挑戦権があるわけではないのです」 

千歌「……? すぐには戦えないってこと?」 

ダイヤ「ええ。基本的には4年に一度開催される、ポケモンリーグ大会で優勝をする必要があります」 

千歌「大会……!! その大会、いつやるの!?」 

ダイヤ「直近の大会は2年後でしょうか……」 

千歌「2年……ちょっと遠い」 

ダイヤ「ですが、もう一つ挑戦権を得る方法がありますのよ」 

千歌「もう一つ?」 

ダイヤ「それが、地方の全てのポケモンジムを突破し、8つのバッジを集める、というものです」 

千歌「あ、じゃあ、全部のバッジを集めたら私もその四天王に……あれ?」 


そういえば海未師匠も『全てのジムを突破して来い』って言ってた気がする……。 

その上で『ポケモンリーグで待っています』って言ってたってことは……? 


千歌「も、もしかして、海未師匠って……」 

ダイヤ「やっと気付きましたか……。……そうですわ、海未さんはその四天王の一人です」 

千歌「え、めちゃくちゃすごい人じゃん……」 

ダイヤ「だから、さっきからそう言っているでしょう……」 


ダイヤさんは呆れてしまうが、 


ダイヤ「ですが……そんな海未さんに『待っている』とまで言わせたのですから。足踏みをしていられませんわよね」 
764 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 15:38:41.20 ID:7Hgct/sd0


そう言いながら立ち上がる。ダイヤさんの視線を追うと、船が島の港に到着するところだった。 


ダイヤ「それでは、参りましょうか。ウチウラシティへ──」 

千歌「……はい!」 





    *    *    * 





船が風を斬りながら、海原を進んでいく。 

この揺れ、久しぶりかも。 

アワシマには果南ちゃんのおうちもあるせいか、船には何度も乗ってたし。 

そんな感慨に浸りながら──ふと、旅の途中で、私の故郷の話が出たことがあったのを思い出す。 


千歌「そういえば……旅の途中で『メレシーの女王様』のことを話しました」 

ダイヤ「あら……本当ですか?」 


流れる水面を見つめていたダイヤさんは、私の言葉を聞いて少し驚いた顔をした。 


ダイヤ「いまどき興味がある人がいるなんて……ご老人の方ですか?」 

千歌「うぅん。若い女の人。歳はダイヤさんとか鞠莉さんと同じくらいだったかな。研究者の人だって言ってた」 

ダイヤ「鞠莉さんと同年代の研究者……? ……もしかして、聖良さんでしょうか?」 

千歌「! うん! ダイヤさん、知り合いだったんだね!」 

ダイヤ「ええ、わたくしも知り合ったのは本当に最近なのですが……」 

千歌「なんかね、昔、女王様に会ったことがあるらしくって……また会うために頑張ってるんだって」 

ダイヤ「え……?」 


ダイヤさんは心底驚いた様な声をあげる。 
765 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 15:39:08.97 ID:7Hgct/sd0

ダイヤ「会った……? 何処でですか……?」 

千歌「え……雪山って言ってたけど……。……ダイヤさん……?」 

ダイヤ「あ、いえ……そうですか……」 

千歌「……?」 

ダイヤ「それで……どんな話をしたのですか?」 

千歌「あ、えっと……子供の頃に聞いてたおとぎ話のことを聞かれて……」 

ダイヤ「成程……。伝承から得られるものは少なくないですからね」 

千歌「チカが聞いたのは小さい頃だったから、詳しくは覚えてなかったけど……あの話、よくわかんないんだよね」 

ダイヤ「……そうですか?」 

千歌「あんまり実感がないというか……結局、宝石の輝きが失われたってなんのことなのか……」 

ダイヤ「…………」 

千歌「ダイヤさん?」 

ダイヤ「町までもう少し掛かりそうですね……せっかくですし、メレシーの御伽噺。久しぶりに聞かせてあげましょうか」 

千歌「ダイヤさん、もしかして覚えてるの?」 

ダイヤ「ええ、勿論。クロサワの入江での物語ですから」 


ダイヤさんは強い意志の篭もった目で、 


ダイヤ「忘れてはいけない、物語ですから──」 


話し始めた。 





    *    *    * 


766 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 15:41:36.10 ID:7Hgct/sd0


むかしむかし ウラノホシには メレシーという ポケモンが すんでいました。 

メレシーは からだに ほうせきを もっている それはそれは うつくしい ポケモンで 

ひとびとは そんなメレシーたちを たいせつに おもいながら なかよく くらしていました。 

そんな メレシーの なかでも ひときわ うつくしいメレシーが いました。 

ピンクいろの ダイヤモンドを もった メレシーで そのうつくしさに だれもが めを うばわれました。 

名を ディアンシー。 どんなメレシーよりも うつくしく きよい メレシーでした。 

もっともうつくしいメレシーのなかま ディアンシーは メレシーたちからも にんげんからも そんけいされるそんざいでした。 

いつしか ディアンシーは メレシーの 女王様と よばれるように なりました。 

そんな女王様は すこしだけ とくべつな ちからを もっていました。 

女王様の ひかりは けがを なおし こころを いやしてくれる。 

そんな女王様を ひとびとは たいそうだいじに あつかっていました。 


ひとびとは 女王様に おそなえをして そのおれいに 女王様は ひとびとに おおくの いやしと かがやきを あたえました。 

みなみの はしに いろとりどりのほうせきの どうくつを 

ひがしの うみに きらめくさんごの らくえんを 

にしの そうげんに たいようとつきの かがやきを 

きたの やまに ダイヤモンドの はかなさを 

まんなかに すいしょうの みずうみを 

そして そびえるたいじゅに ひかりの かじつを 

せかいは 女王様と ともに おおきくはってんし よりおおきな かがやきを 得ていきました。 


女王様の かがやきのちからで おおきく せいちょうした いごこちのよい たいじゅは いつしか 龍が すみつき 

その龍が おおきな なきごえと おとで ひとびととポケモンを みまもっていたため この いったいは オトノキ とよばれるように なりました。 



へいわな へいわな ちほうでした。 

はってんし よりひろく おおくのばしょに にんげんは すむばしょを うつし おおきく ひろがっていきました。 

それは ほんとうに ひろく 

……女王様の いやしのひかりが とどかないばしょまでも ひろく ひろがっていきました。 


ですが あるとき ひかりのとどかないばしょで ひとびとは きづいてしまいました。 

あのひかりの うつくしさに。 あのひかりの あたたかさに。 あのひかりの とうとさに。 

しだいに ひかりのとどかないばしょの ひとびとは ひかりを うばいあうように なりました。 

たえず あらそいが おきました。 

そして ついに ひかりの みなもとである メレシーたちと その女王様を ひとりじめ しようとする にんげんが あらわれたのです。 


女王様は そのにんげんの けがれたこころに ひどくかなしみを おぼえ 

せかいの うらがわへと そのすがたを かくしてしまいました。 

女王様が みをかくすと かがやきは どんどんと ちいさくなっていき 

こうして いつしか せかいから うつくしい ほうせきの かがやきが うしなわれたのでした……。 





    *    *    * 


767 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 15:51:18.34 ID:7Hgct/sd0


千歌「……」 

ダイヤ「……これがメレシーの御伽噺。『ディアンシー伝説』と言われるお話ですわ」 

千歌「……なんか、改めて聞くと……悲しいお話だね」 

ダイヤ「そう、ですわね……。人と共存して、善意で世界を作った女王様は、その先で人の悪意を見て、それに絶望してしまったという話ですから……」 

千歌「……結局、女王様はどこに行っちゃったの?」 

ダイヤ「それはわかりません。……わかりませんが」 

千歌「?」 

ダイヤ「実はこの話には少しだけ続きがあります」 

千歌「続き……? 昔おばあちゃんから聞いた話は、ここで終わりだったと思うけど……」 

ダイヤ「ええ、あくまでクロサワの家で伝わっていることですので、馴染みはないかもしれませんね」 


 『すがたを かくした 女王様は いまでも こっそりと ちほうを みまもっています。 

  女王様は ちょくせつ すがたを あらわすことは めったに なくなりましたが 

  しんらいできる メレシーと えらばれた 巫女の まえだけは 

  じぶんの きもちを つたえに あらわれることが あるそうです。』 


千歌「信頼出来るメレシーと、選ばれた巫女……」 

ダイヤ「……それが、わたくしたちの先祖に当たる人だと言われています。そしてクロサワの家がお役目として代々引き継いできたものですわ」 

千歌「そうだったんだ……」 

ダイヤ「クロサワの家の子が産まれると、何故か同時期にクロサワの入江内でメレシーのタマゴが見つかり、それを授かってクロサワの子供はそのメレシーと共に生涯を過ごすのですわ。この不思議なタマゴの存在がクロサワの巫女の役目が今でも引き継がれ続けている証拠だとわたくしは思っています」 

千歌「それがダイヤさんのボルツやルビィちゃんのコランなんだね」 

ダイヤ「ええ。まあ、そうは言っても……わたくしもディアンシー様にお会いしたことはないのですが……」 


ふと、船の外を見ると、水面の流れが少しずつゆっくりとなっていた。 


ダイヤ「……少し長話をしすぎてしまいましたわね」 

千歌「んーん。久しぶりに聞けてよかったなって思うよ」 


メレシーのお話。昔とは感じることも違ったし……。 


ダイヤ「そう……それなら、よかった」 


ダイヤさんはそう言って安堵していたけど、 

船を降りるとき、小さくあることを呟いていた。 


 ダイヤ「──聖良さん……何故、前にきたときは話さなかったのかしら……?」 


768 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 15:52:07.94 ID:7Hgct/sd0


    *    *    * 





──ウチウラシティ。ポケモンジム。 


ダイヤ「さて……道中少し話し込んでしまいましたが、バトルとなれば話は別です」 


バトルスペースの奥からダイヤさんが話しかけてくる。 


千歌「はい……!」 

ダイヤ「元教え子とは言え、手加減はしませんからね?」 

千歌「もちろん! 全力でお願いします!」 


両者ボールを構える。 


ダイヤ「それでは、始めましょうか。使用ポケモンは4体。4体全て戦闘不能になった時点で決着です」 

千歌「はい!! よろしくお願いします!!」 

ダイヤ「良いお返事ですわ。……ウチウラジム・ジムリーダー『花園の気高き宝石』 ダイヤ。千歌さん、貴方が旅で得た全てをわたくしに見せてくださいませ……!」 


二つのボールが放たれる。 

バトル──スタート……!! 


769 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/08(水) 15:52:59.71 ID:7Hgct/sd0


>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【ウチウラシティ】 
 口================= 口 
  ||.  |⊂⊃                 _回../|| 
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  || 
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   || 
  ||.  | |       回 __| |__/ :     || 
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     || 
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     || 
  ||.  | |.      | |           |     || 
  ||.  | |____| |____    /      || 
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  || 
  ||.  | |      | |  _.    /      :   || 
  ||.  回     . |_回o |     |        :   || 
  ||.  | |          ̄    |.       :   || 
  ||.  | |        .__    \      :  .|| 
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .|| 
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .|| 
  ||.      /.         ● .|     回  || 
  ||.   _/       o‥| |  |        || 
  ||.  /             | |  |        || 
  ||./              o回/         || 
 口=================口 

 主人公 千歌 
 手持ち バクフーン♂ Lv.47  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき 
      トリミアン♀ Lv.45 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする 
      ムクホーク♂ Lv.44 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき 
      ルガルガン♂ Lv.39 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい 
      ルカリオ♂ Lv.43 特性:せいぎのこころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん 
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:123匹 捕まえた数:13匹 


 千歌は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 



770 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 01:06:56.80 ID:glPDjztN0

■Chapter057 『決戦! ウチウラジム!』 【SIDE Chika】 





── 一匹目。 


千歌「行くよ! バクフーン!!」 
 「バクフーン!!!!」 

ダイヤ「キレイハナ、お願いしますわ」 
 「パナ」 


ダイヤさんはくさタイプのジムリーダー。 

最初に出してきたのはキレイハナだ。 


 『キレイハナ フラワーポケモン 高さ:0.4m 重さ:5.8kg 
  太陽の 光を いっぱい 浴びると 身体の 葉っぱが 
  くるくる 回り 始める。 ときおり キレイハナが 集まって  
  踊るような 仕草を 見せる。 太陽を 呼ぶ 儀式と 言われる。』 


千歌「くさタイプには、ほのおタイプ! バクフーン!! “やきつくす”!!」 
 「バクフーン!!!!!」 


バクフーンの火炎がキレイハナを襲う。 


ダイヤ「定石ですわね。なら、キレイハナ」 
 「パナー」 


キレイハナはダイヤさんの掛け声で、踊りだす。 

気付けば── 


千歌「!」 


視界を覆うほどの花びらがジムを舞い踊っている。 


千歌「い、いつの間に……!!」 

ダイヤ「“はなふぶき”!!」 


大量の花びらが壁となって炎を遮る。 


千歌「さ、さすがに対策してる……! ならもっと高火力で──“だいもんじ”!!」 


指示と共にバクフーンの背中に炎が滾る。が、 

──ボン!! と大きな音を立てて、背中の炎が突然爆発した。 


千歌「うぇ!? な、何!?」 
 「バク…」 


どうやら、バクフーンは背中の爆発でダメージを受けている。自爆した……!? 


千歌「な、なんで……!?」 

ダイヤ「ふふ、千歌さん。バトルは焦ってはいけませんわよ。頭に血が昇っていては、考えもまとまりませんから。そういうときは──」 


花びらの舞うフィールドの先で、ダイヤさんが笑う。 


ダイヤ「──踊りましょう?」 
 「パナー♪」 
771 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 01:09:09.74 ID:glPDjztN0

キレイハナが不思議なステップを踏む、 

それに釣られて、バクフーンも右に左に……──しまった!? 


千歌「ふ、“フラフラダンス”!?」 


相手を混乱させる技だ。 

花びらに紛れて、キレイハナの動きがよく見えてなかったけど、完全に仕掛けられていた。 


千歌「バ、バクフーン!! しっかりして!!」 
 「バク…」 


私が呼びかけると、バクフーンは頭を振って、我に返る。 


千歌「前が見えないなら、範囲攻撃で一気に燃やすよ! “ふんえん”!!」 
 「バクフー!!!!」 


バクフーンが全身から、高温の“ふんえん”を噴き出す。 


ダイヤ「成程、悪くないですわね」 
 「パナー♪」 


“ふんえん”はところどころ、“はなふぶき”に遮られながら、それでもフィールドを侵略するように前に進む。 

逃げ場は、ない。 


ダイヤ「なら、スピードをあげましょうか、キレイハナ」 
 「パナパナ」 

千歌「!?」 


急にスピードをあげた、キレイハナは“はなふぶき”に遮られた場所を選びながら、こちらに前進してくる。 


ダイヤ「さあ、咲き誇りなさい!! “はなびらのまい”!!」 


しかも、吹き荒んでいた“はなふぶき”が急に意志を持ったかのように、整列して、着実にキレイハナの進路の“ふんえん”を掻き消してくる。 


千歌「か、“かえんほうしゃ”!!」 
 「バ、バク!!!!」 


焦って、前方への火炎攻撃の指示。 

だが、 

炎は花びらに押し返される。 


千歌「な……!? あの花びら、パワーあがってない!?」 

ダイヤ「千歌さん」 

千歌「!!」 


急に声を掛けられて、ビクッとする。 


ダイヤ「焦ると、周りが見えなくなる癖。治っていませんのね」 

千歌「!!?」 

ダイヤ「もう、全ての花びらが攻撃の準備に入っているのですが──」 

千歌「え!?」 
772 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 01:11:00.15 ID:glPDjztN0

──全ての花びらが?? 花びらはザァっと勢いよく天井に向かって集まっていく。 

釣られるようにバッと上を向くと、バクフーンの上方に、5枚くらいの花弁で作った筒のようなものが何組か配置されていた。 

そして、その花びらの後ろからは──燦々と光る、太陽。 


千歌「ま、まぶし──」 


一瞬、眩しくて、反射的に手で顔を覆う。 


千歌「あ、しまっ──!!」 


誘導されたと、気付いたときには遅い。 


ダイヤ「“ソーラービーム”!!」 


四方八方から収束した太陽光線が降り注いでくる。 


千歌「バ、バクフーン……!!!」 


強烈な太陽光線がエネルギーを撃ち終えたときには、 


 「バ、バクフー…………」 


バクフーンは地面に伏せっていた。 


千歌「……うそ」 

ダイヤ「バクフーン、戦闘不能ですわね」 

千歌「……戻れ」 


バクフーンをボールに戻す。 

相性有利だと思ったのに……完全に圧倒された。 


ダイヤ「何が起こったのか、よくわかってないという顔ですわね」 

千歌「……!」 

ダイヤ「やはり、千歌さんは千歌さんですわね」 

千歌「……」 


……ダメだ、こんなんじゃ。 


千歌「……すぅーー」 


私は思いっきり、息を吸い込む。なんだか、あまったるい華の香りがした。 


千歌「──はぁーー」 


息を吐く。 

落ち着け。 

こういうときは深呼吸だ。 


ダイヤ「……あら」 
773 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 01:13:43.20 ID:glPDjztN0

ちゃんと成長した私をダイヤさんに見せるんだ、 

何が起こったのか、考えろ。 

トレーナーが出来るのはしっかりとした状況把握。 


千歌「……そもそも最初の踊りから、全部技が繋がってた……?」 

ダイヤ「……ふふ、いい観察と洞察ですわ。最初の“はなふぶき”に隠れて出した“フラフラダンス”。同時にキレイハナのダンスは太陽を呼び寄せる力がある。これは転じて“にほんばれ”。ひざしが強くなったので“ようりょくそ”で素早さを上昇させ、“ちょうのまい”を織り交ぜながら回避させる」 

千歌「舞であがった能力を載せた“はなびらのまい”で炎を掻き消しながら、フィールド上に攻撃用の砲台を作って……強い日差しの方にチカの視線を誘導して、一瞬眩しさに怯んだところに攻撃……」 

ダイヤ「ええ、その通りですわ。ついでに“あまいかおり”でバクフーンの動きをさらに鈍くしていましたわ」 


完全に術中だった。 


ダイヤ「きっと貴方なら、最初はくさタイプには、ほのおタイプと安直に来るだろうと思っていましたので」 

千歌「う……」 

ダイヤ「どうですか、目は覚めましたか?」 

千歌「……!」 


言われて、ハッとする。 

少し、故郷の先生っていうことで気が抜けていたのかもしれない。 

でも、同時にこの人は……私のことをよく知っている人だってことなんだ。 

──私はピシャッと頬を両手で叩く。 

気合い入れろ……!! 


千歌「……負けるもんか……!!」 


私は次のポケモンの入ったボールを構えた。 

とにかく、花びらをこのままにしておくのは不味い。 


千歌「ルガルガン!! 行くよ!!」 
 「ワォン!!!」 

ダイヤ「! 成程、その子が例のルガルガンですか……!」 


そう、あのときダイヤさんからアドバイスを貰ったイワンコが進化した姿、黄昏色のルガルガン。 


ダイヤ「特殊個体なようですが、“はなびらのまい”はまだ続いていますわ……!!」 


再び花びらが踊りながら迫ってくる。 

でも、このリズムは、知ってる。 

──私だって、ダイヤ先生のこと、よく知ってるもん! 

スッと手を上げる。 

この花びらの動きを、呼吸を、見切れ──!! 


千歌「“ストーンエッジ”!!!」 
 「ワォン!!!!!」 


ルガルガンが脚を踏み鳴らすと、砕けた石が飛び出した。 

そして、花びらたちを綺麗に串刺しにし、ジムの壁や天井に縫い付ける。 


ダイヤ「!」 


晴れた視界、その先にキレイハナを捉える、 
774 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 01:14:45.20 ID:glPDjztN0

千歌「ルガルガン──」 


だが、ダイヤさんの判断も早かった。 


ダイヤ「“リーフブレード”!!」 
 「パナッ」 


花びらが晴れると同時にキレイハナが飛び掛ってくる。 

全身の葉っぱを硬質化した斬撃……!! 

でも──。 


 「パ…ナ…」 


飛び掛ってきた、キレイハナの攻撃は当たることはなく、 

ルガルガンのタテガミから生えた鋭い岩が、むしろふかぶかとキレイハナに刺さってしまっていた。 


ダイヤ「……! キレイハナ!」 

千歌「ルガルガン! ナイス、“カウンター”!」 
 「ワォン」 

ダイヤ「……ルガルガンの鬣の岩は、ナイフのような斬れ味と聞きます。少し功を焦りましたわ」 


ダイヤさんがキレイハナをボールに戻す。 


ダイヤ「いえ、こうでなくては、張り合いがありませんわ……! 行きますわよ、ドレディア!!」 


次のポケモンが繰り出される。 


 「レディアー」 


ダイヤさんの二匹目はドレディア。 


 『ドレディア はなかざりポケモン 高さ:1.1m 重さ:16.3kg 
  頭の 花飾りの 香りには リラックスさせる 効果が あり 
  重宝される。 だが 手入れを 怠ると 枯れてしまい 美しい 
  花を 咲かせるのは ベテラントレーナーでも 難しい。』 


ダイヤ「“エナジーボール”!」 
 「レディアー」 


ドレディアから自然のエネルギーの収束弾が飛んでくる。 

ただ、スピードはそんなに速くない。 

落ち着け、見切れる。 


千歌「ボール状のエネルギー……一直線で中核を撃ち抜けば──」 


貫通力のある技で一直線に抜けられる……! 


千歌「ルガルガン! “ドリルライナー”!!」 
 「ワォンッ!!!!」 


ルガルガンが身を捩りながら、飛び出す。 


千歌「撃ち抜け!!」 
 「ワォン!!!!」 
775 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 01:18:24.56 ID:glPDjztN0

ルガルガンの攻撃は、狙い通りエナジーボールの核へ、 

そのままボールを霧散させる。 

だが、その先では、 

すでにドレディアが次の攻撃を構えていた。 


ダイヤ「“リーフストーム”!!」 
 「レディアッ!!!!」 


尖った葉っぱの嵐がルガルガンに向かって吹き荒ぶ。 

このタイミング、回避は無理。なら── 


千歌「ルガルガン! そのまま突っ込んで!!」 


ルガルガンは回転しながら、前進する。 


ダイヤ「今度は真っ向勝負ですか!! ですが、負けませんわよ!!」 


草の嵐の中に、戦浪のドリルが突っ込む。 

鋭いタテガミの岩と、硬い斬撃質の葉っぱが、削れ合う音がジム内に響き渡る。 


 「レディァー!!!」 


嵐の回転エネルギーと、ドリルの回転が真っ向から、ぶつかり合うが── 

ただ、ぶつかり合ってるわけじゃない。 

──ギャリギャリギャリ!! と、耳障りな音がフィールド上に響き渡る。 


ダイヤ「すごい音ですわね……!! 削れる、音……?」 


そう、削ってる音だ、 


ダイヤ「!? し、しまった──!!」 

千歌「……ニシシ♪」 


今度はこっちが一本とってやったり。 

ルガルガンが嵐の中を、ぐんぐんと加速しながら突き進む。 

──そう、避けられないなら。 

利用すればいい。 

鋭利な攻撃なら、身を削らせてスピードに転換出来る技に成り得る。 


千歌「“ロックカット”!!!」 


“ロックカット”は全身を磨いて、空気の抵抗を減らして、素早さをぐーんとあげる技だ。 

今ぶつかり合う二つの回転は、まるでヤスリのように、ルガルガンを磨いて、どんどん加速させている。 

加速を重ねた、高速の一撃、 


千歌「いっけぇ!! “アクセルロック”!!!」 
 「ワォーーン!!!!!」 


そのまま、“リーフストーム”を中央から貫いて、 


 「レディァ!!!!!」 

777 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 01:20:35.79 ID:glPDjztN0


ドレディアに正面から殴り勝つ……!! 

攻撃が直撃した、ドレディアはそのまま後ろに吹っ飛ばされ、 


ダイヤ「ドレディア……!!」 

 「レディ…ァ…」 


そのまま、戦闘不能。 


ダイヤ「……お疲れ様、ドレディア。休んでください」 


ダイヤさんはドレディアをボールに戻す。 


ダイヤ「強いですわね、そのルガルガン……」 

千歌「えへへ……」 
 「ワォン」 


手持ちを褒められて、ちょっと嬉しい。 


ダイヤ「特性“かたいツメ”によって、近接攻撃が更に威力を増していますのね。他のルガルガンにはない特徴ですわ」 


ダイヤさんは次のボールを構える。 


ダイヤ「なら、わたくしも近接戦の得意なポケモンで戦いましょう──行きますわよ、アマージョ!!」 


次のポケモンが繰り出された。 





    *    *    * 





 『アマージョ フルーツポケモン 高さ:1.2m 重さ:21.4kg 
  美しい 蹴り技の 使い手。 キックボクシングの チャンピオンも 
  一撃で ノックアウトするぞ。 倒した 相手を 足蹴に して 
  高笑いで 勝利を アピール。 攻撃的な 気質の ポケモンだ。』 


ダイヤ「“ローキック”!!」 
 「マージョ!!!」 

千歌「“アイアンヘッド”!!」 
 「ワゥッ!!!!」 


低い位置で蹴撃と頭突きがぶつかり合う。 

アマージョはそのまま、軸足を使って回転し、 


ダイヤ「“おうふくビンタ”!!」 
 「マジョッ!!!!」 


攻撃を畳み掛けてくる、 


千歌「ルガルガン! 受け止めて!!」 
 「ワゥッ!!!」 


平手を一発一発、牙とタテガミの岩で弾いていく、が、 
778 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 01:21:38.65 ID:glPDjztN0
なんかわかり辛くなってしまった。 
>>777 は >>776 の修正です。
779 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 01:22:48.74 ID:glPDjztN0

ダイヤ「“トロピカルキック”!!」 
 「マジョッ!!」 

 「ワゥッ!!?」 


ビンタに隙に挟まれるキック攻撃、そして間髪入れず、 


ダイヤ「“はっぱカッター”!!」 


ダメージを受けて後ずさったところに追撃、 


千歌「く……! 速い……!」 


攻撃から攻撃の絶え間がない。 

なら── 

速い攻撃を差し込む……!! 


千歌「“アクセルロック”!!」 


ルガルガンの神速の一撃が決まった──と思ったが、 


 「ワゥッ…!?」 


ルガルガンの動きがビタッと止まる。 


千歌「え!?」 

ダイヤ「そこ!! “とびひざげり”!!」 
 「マージョッ!!!!」 


怯んで出来た隙に、アマージョの高火力の蹴りが炸裂する。 


 「ワォンッ!!!!」 

千歌「ルガルガン!?」 


強烈な蹴撃を食らって、ルガルガンは吹っ飛ばされて、フィールドを転がり、 


 「ワゥ…」 


気絶してしまった。 


千歌「…………っ」 

ダイヤ「アマージョの特性は“じょおうのいげん”。相手の先制技を牽制する特性ですわ」 

千歌「特性……」 


これは完全に私の知識不足が招いたミスだ……。 


千歌「ごめん、ルガルガン……戻って」 


ルガルガンをボールに戻し、 


千歌「行けっ! ルカリオ!!」 
 「ガゥッ!!!!」 


3番手、ルカリオ、 

飛び出した、ルカリオはそのままアマージョに組み付く。 
780 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 01:23:40.93 ID:glPDjztN0

ダイヤ「!」 


組み付かれるとキックは出しづらいはず……!! 


千歌「投げ飛ばせ!! “ともえなげ”!!」 
 「グォ!!!」 


脚を踏み込んで、投げの体制に入る。 


ダイヤ「させません!! “けたぐり”!!」 

千歌「!」 


その軸足を組み合いの内側方向に向かって払われ、 


 「グァ!!?」 


ルカリオが仰向けに体勢を崩す。 


ダイヤ「そのまま、“ふみつけ”!!」 
 「マージョッ!!!」 


長い脚がルカリオに降って来る。 


千歌「こっちも“けたぐり”!!」 
 「グォァ!!!!」 


体勢を崩しながらも、身を捩って脚を引っ掛ける。 

 「マジョッ!!?」 


アマージョが体勢を崩したところで、 


ダイヤ「アマージョ! 一旦引きなさい!!」 


アマージョはバク転しながら、体勢を整える。 

ルカリオも同様に起き上がり、 


ダイヤ「“タネばくだん”!」 
 「マジョッ!!」 

千歌「“はどうだん”!!」 
 「グォァ!!!!」 


二匹の飛び道具がぶつかり、爆発が起こる。 

爆炎の中から、 


ダイヤ「“トロピカルキック”!!」 
 「マージョッ!!!!」 


飛び出すアマージョ、 


千歌「迎え撃て!! “ブレイズキック”!!」 
 「グォァ!!!!」 


二匹の蹴撃がぶつかり合う。 

蹴りは相殺し、そのままの勢いで、 
781 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 01:24:28.96 ID:glPDjztN0

ダイヤ「“パワーウィップ”!!」 


鞭のようにしなる脚を叩き付けてくる。 


千歌「“メタルクロー”!!」 


再び、近接での打ち合い。 

“インファイト”状態だ、 

両者の全身を使った攻撃が、何度も鍔競り合う。 

ただ、こうなったら、かくとうタイプのルカリオの本領発揮だ、 


ダイヤ「……くっ!! アマージョ、深追いしないでください!」 
 「マジョッ」 


分が悪いと気付いたのか、ダイヤさんはアマージョを引かせようとするが、 


千歌「ルカリオ! 踏み込め!」 
 「グゥァ!!!!」 


ここが好機、ルカリオが更に一歩踏み込む、 


千歌「“はっけい”!!」 


波導のパワーを溜め込んだ、掌底をアマージョの胴体に打ち込んだ。 


 「マジョッ!!!?」 

ダイヤ「アマージョ!」 


クリーンヒット、効いてる。 

だが、 


 「マージョ…!!!!」 


アマージョは脚を踏み鳴らして、耐え切る。 


千歌「た、耐えた!?」 


必殺の一撃なのに……! 


千歌「なら、もう一発……!!」 

ダイヤ「待ってください……!」 

千歌「!?」 


ダイヤさんの制止の声。 


ダイヤ「アマージョ……よく頑張りました、もう大丈夫ですわ」 


ダイヤさんが声を掛けると、 

 「マ、ジョ…」 

アマージョは膝から崩れ落ちた。 


千歌「!」 

ダイヤ「この子、いじっぱりなので、任せておくと頑張りすぎてしまうので……戻ってください」 
782 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 01:27:08.52 ID:glPDjztN0

ダイヤさんはそう言ってアマージョをボールに戻す。 

ポケモンの限界をちゃんと把握してあげるのも、トレーナーの努め、と言うことなんだと思う。 

一方でルカリオも、 


 「フー…フー…」 


肩で息している。 

激しい肉弾戦だったから、消耗が激しいのも頷ける。 


千歌「ルカリオ、戻れ」 


私もルカリオをボールに戻した。 

消耗しきったルカリオだと、次の全快のポケモンに、隙を付かれてしまうかもしれない。 

──なら、4匹目はお互い最後の手持ちで、 


千歌「いくよ! ムクホーク!!」 

ダイヤ「ラランテス、お願いしますわ!」 


4匹目が繰り出された。 





    *    *    * 





 『ラランテス はなかまポケモン 高さ:0.9m 重さ:18.5kg 
  舞を 舞うように 敵を 切り裂く。 鎌状の 花びらから 
  ビームを 放つ。 その 威力は 分厚い 鉄板も 真っ二つに 
  切断するほど。 最も 艶やかな くさポケモンと 呼ばれる。』 


千歌「ムクホーク!! “すてみタックル”!!」 
 「ピィィイイ!!!!!」 


飛び出す十八番の突撃技。 


ダイヤ「! あのとき捕獲したムックルが進化したのですわね!」 


あのときから変わらない猛烈な突進攻撃、 


ダイヤ「いなしなさい! “リーフブレード”!」 
 「ランテス」 


ラランテスは舞うような足取りと、腕部の鎌で、ムクホークの突撃をいなす、 

後方に飛び去ったムクホークはすぐに旋回し、 


千歌「もう一発!!」 
 「ピィィイイイ!!!!」 


再び突撃、 


ダイヤ「ラランテス、焦らずに」 
 「ランテス」 


再び同じようにいなされる、 
783 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 01:30:19.11 ID:glPDjztN0

千歌「ムクホーク! “みだれづき”!」 
 「ピィィ!!!!」 


再び旋回し、今度は連撃、 


ダイヤ「“リーフブレード”!!」 


だが、ラランテスは受けの体勢、 

鎌で一発一発丁寧に、“みだれづき”をいなしていく。 

なかなか攻撃が通らない、 


千歌「ムクホーク! 一旦離脱!」 
 「ピィ!!!!」 


ムクホークが、後方に飛び退ったところに、 


ダイヤ「そこですわ!」 

千歌「!?」 


ダイヤさんの掛け声と同時に、ラランテスの鎌が眩く光る。 

その光は、どんどん、 

どんどんと伸びて、 

振り下ろされた。 


ダイヤ「“ソーラーブレード”!!!」 
 「ランテスッ!!!!!」 

 「ピィッ!?」 
千歌「ムクホーク!!?」 


急な縦の無限射程に反応しきれず、ムクホークは叩き落される。 

墜落して、砂煙が上がるところに、 


ダイヤ「ラランテス! “きゅうけつ”!!」 


ラランテスが容赦なく飛び掛ってくる。 


千歌「ムクホーク!!」 


砂煙が晴れると、 

 「ランテス…」 

ラランテスが噛み付いて、“きゅうけつ”している。 


千歌「くっ……!!」 


かなり分が悪い、ここは一旦戻して── 

ボールを構えた瞬間、 


 「ピィィィィイイイイイイイイ!!!!!!!!」 


ムクホークは甲高い声を上げながら、 


ダイヤ「……な!?」 
784 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 01:32:03.82 ID:glPDjztN0

ラランテスに噛み付かれたままだが、猛禽の脚でフィールドを踏みしめる。 


千歌「……!」 


ダメージを負いながらも、立ち上がる。 

踏みしめた、フィールドの床は、猛禽の爪が食い込み、ヒビが入っている。 

まるで、戦える、戦わせてくれ、という戦意を私に見せるように。 

──確かに、ポケモンの限界を見極めて引かせるのも、トレーナーの役割だ……けど!! 


千歌「ポケモンを信じるのも、トレーナーの役目だよね……!! そのまま、“そらをとぶ”!!」 
 「ピィィィィイイイイ!!!!!!」 


ムクホークは大きな翼を羽ばたかせて、ラランテスごと浮上する。 


 「ララン!!!?」 


急な浮遊感に動揺するラランテス。 


ダイヤ「ラランテス!? “きゅうけつ”はもういいです! 逃げてください!!」 
 「ラララッ!!!!」 


噛み付いた顎を放して、飛び降りようとするが、 

──空中はムクホークのテリトリーだ! 


 「ピィィィ!!!!」 


空中にいる、ラランテスは地面に辿り着くことなく、 

猛禽の脚でキャッチ、そのままガッチリとホールドし、 


 「ラランッ!!!?!?」 


ムクホークはそのまま、ぐんぐんと浮上する。 


ダイヤ「ラランテス!! “ソーラーブレード”!!!」 
 「ラランッ!!!!」 


ラランテスが捕まれたまま、光の刃をムクホークに向けるが、 


 「ピィィィイイイ!!!!」 


至近距離で太陽光線に焼かれても、ムクホークは怯まない。 

ジムの頂点まで、飛び立ったところで、 

ムクホークと目が合った。 


 「ピピピ」 
千歌「……うん!!」 


私は頷いた、 


 「ピィィィィイイイイ!!!!!」 

785 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 01:33:35.81 ID:glPDjztN0

最高地点から、ムクホークが最高速で一気に地面に向かって発射される、 

私のムクホークらしい、全てを掛けた、“すてみ”の一撃!!! 


千歌「“いのちがけ”!!!!」 
 「ピィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 


──ズンッ!!!!! 

大きな音と衝撃がジムを揺らす。 


ダイヤ「……!」 


その威力はジムの床を抉り、クレーター状に凹ませるほどの威力で── 

 「ララン…」 
 「ピピィ…」 

二匹はその中央で気絶していた。 


千歌「ムクホーク……!」 


私はジムの中央へと駆け出す。 

倒れたムクホークに、 


千歌「ありがと、ムクホーク……」 
 「ピィィ…」 


いつも私を支えてくれる、特攻隊長を労って、抱きしめる。 


ダイヤ「……これが、貴方が旅の中で見つけた、答えなのですわね」 


ダイヤさんもフィールドに出てきて、ラランテスをボールに戻す。 


ダイヤ「あくまで最後まで仲間を信じる……貴方らしい、真っ直ぐな成長ですわね」 

千歌「……うん、私が一番信じてあげなきゃいけないから」 

ダイヤ「ふふ、わたくしも見習わなくてはいけないかもしれませんわね」 


ダイヤさんは笑いながら、 


ダイヤ「教え子に教えられると言うのも……存外悪くない気分ですわね」 


そう言って、遠い目をした。 


ダイヤ「……チャレンジャー・千歌さん」 

千歌「! はい!」 

ダイヤ「お見事でした。この勝負、貴方の勝利ですわ」 

千歌「はい……!!」 

ダイヤ「……その証として、この──」 


ダイヤさんは懐から、宝石の形をしたバッジを取り出す。 


ダイヤ「──“ジュエリーバッジ”を進呈致しますわ」 

千歌「……はい!!」 


こうして私は、恩師との激闘に勝利し、6つ目のバッジを手に入れたのでした……! 

786 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 01:34:12.02 ID:glPDjztN0



>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【ウチウラシティ】 
 口================= 口 
  ||.  |⊂⊃                 _回../|| 
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  || 
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   || 
  ||.  | |       回 __| |__/ :     || 
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     || 
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     || 
  ||.  | |.      | |           |     || 
  ||.  | |____| |____    /      || 
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  || 
  ||.  | |      | |  _.    /      :   || 
  ||.  回     . |_回o |     |        :   || 
  ||.  | |          ̄    |.       :   || 
  ||.  | |        .__    \      :  .|| 
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .|| 
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .|| 
  ||.      /.         ● .|     回  || 
  ||.   _/       o‥| |  |        || 
  ||.  /             | |  |        || 
  ||./              o回/         || 
 口=================口 

 主人公 千歌 
 手持ち バクフーン♂ Lv.48  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき 
      トリミアン♀ Lv.45 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする 
      ムクホーク♂ Lv.48 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき 
      ルガルガン♂ Lv.45 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい 
      ルカリオ♂ Lv.46 特性:せいぎのこころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん 
 バッジ 6個 図鑑 見つけた数:127匹 捕まえた数:13匹 


 千歌は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 



787 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 03:30:50.05 ID:glPDjztN0

■Chapter058 『開催! セキレイかわいさコンテスト!』 【SIDE You】 





サニータウンでの、かっこよさコンテストから数日。 

本日は、ついにセキレイシティ会場でのコンテスト当日だ。 


司会『かわいさコンテストノーマルランク優勝者は──エントリーNo.4 タマンタ&ヨウさんです!! おめでとうございます!!』 





    *    *    * 





例の如く、ノーマルランクをスパッと優勝し、次はウルトラランク……。 


ことり「曜ちゃん、お疲れ様」 

曜「あ、ことりさん」 

ことり「ウルトラの準備、出来てる?」 

曜「うん。受付もさっき済ませた。衣装も鞄に入ってるし……問題ないかな」 

ことり「タマンタの調整も大丈夫そう?」 

曜「うん、ノーマルランクでも問題なくアピール出来てたし、大丈夫だと思う」 

ことり「うんうん、ならよし♪ 少し時間空いちゃうけど、どうする?」 


確かにちょっと開催時間まであるけど……。 


曜「とりあえず、早めに楽屋入りしておこうかなって……」 


何せ、今大会はグランドフェスティバルの開催地でもあるフソウ会場に次いで、大きなセキレイ会場。 

本島では最も大きい会場なのだ。 

気を引き締めないと……。 


ことり「よしよし♪ いい感じに気合いも入ってるね」 

曜「ことりさん、今日すっごい機嫌いいね」 

ことり「んー? まあ、かわいさコンテストの会場だからね~。かわいい子がいっぱい居て、みてるだけで幸せなの~♪」 


そういえば、ことりさんは得意部門はかわいさって言ってたっけ……。 

私を教えてくれている間も、たびたびこの会場には足を運んでたし。 

楽屋に向かうため、二人で受付にある入場口まで歩いて行くと……。 


 「え、えっと……だから、かわいさ部門にエントリーなんです~!」 

曜「ん?」 


なにやら受け付けの前で揉めている。 


受付嬢「えーとですね……今の受付時間はかわいさ部門のウルトラランクでして……」 

 「だから、亜里沙がウルトラランクに出場するんです~!!」 
788 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 03:31:36.39 ID:glPDjztN0

どうやら、エントリーについて口論になっているようだ。 

受付に居るのは、薄いベージュのキューティクルをした、やや小柄な女の子。 


ことり「あれ? 亜里沙ちゃん?」 


ことりさんが名前を呼ぶと、 


亜里沙「ことりさん!? 助けてください~……全然受付が突破出来なくて……」 

曜「受付が突破出来ないって……」 

ことり「……? 何かあったんですか?」 


ことりさんが不思議そうに受付の人に視線を送る。 


受付嬢「ええっと……」 


受付の人もだいぶ困惑気味だった。 


ことり「んっと……とりあえず、亜里沙ちゃん。出場ポケモン出してみて」 

亜里沙「あ、はい!」 


亜里沙と呼ばれた女の子は、ことりさんの言う通りボールからポケモンを出す。 


曜「……え?」 


受付の人が顔を顰める原因が、そこに現われた。 

ドロドロとした質感に、七色の体色、口からは牙が生えている。 


曜「えっと……このポケモン、もしかしてベトベトン……?」 


でも、ベトベトンってこんなにカラフルだったっけ……? 

私は図鑑を開いた。 


 『ベトベトン(アローラのすがた) ヘドロポケモン 高さ:1.0m 重さ:52.0kg 
  やたら 鮮やかな 身体の 色は 喰らった ゴミが 
  体内で 常に 化学変化を 起こしているから。 
  牙や 爪に 見えるのは 毒素が 結晶化 したもの。』 


曜「アローラのすがた……」 


なるほど、ちょっと特殊な個体らしい。 

それはそうと、受付の人が困惑する理由もわかる気がする。 

ここの会場ってかわいさ部門だけだよね……? 
789 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 03:33:08.34 ID:glPDjztN0

ことり「……ん、なるほど」 

受付嬢「ですので、かわいさ部門以外は他の会場で……」 

ことり「いや、この子はかわいさ部門のウルトラランクへ参加出来るよ?」 

曜・受付嬢「「え?」」 

ことり「ノーマルランクどころか、グレートランクのリボンも持ってるし……昇級点が足りないってことはたぶんないと思うけど」 

受付嬢「……し、失礼しました……!! お調べします……!」 

亜里沙「ほ……ことりさん、ありがとうございます。いつも出場の度に止められちゃって……ベトベトン、可愛いと思うんだけどな」 

ことり「うぅん、大丈夫だよ♪ コンテスト、頑張ってね」 

亜里沙「はい!」 

ことり「それじゃ、曜ちゃん。わたしたちもいこっか」 

曜「あ……うん」 


ベトベトン……まあ、見ようによっては愛嬌がある……のかな? 





    *    *    * 





曜「そういえば、さっきの子……」 

ことり「亜里沙ちゃん?」 

曜「あ、うん。ことりさんの知り合いだったみたいだけど……」 

ことり「フソウタウンのうつくしさコンテストで白いキュウコンを使ってたコーディネーターさんが居たでしょ?」 

曜「あ、うん。絵里さんだよね」 


私がコンテストをやりたいと思うきっかけになった大会だ、忘れるわけがない。 


ことり「亜里沙ちゃんは、その絵里ちゃんの妹なんだよ」 

曜「え!?」 

ことり「亜里沙ちゃんもコンテストが好きだって言うのは聞いてたから、どこかで会うことはあるかもって思ってたけど……」 

曜「絵里さんの妹さん……」 


そういえば、志満姉も絵里さんはアローラから来た姉妹だって言う話をしていたような気がする。 

まさかこんなところで戦うことになるなんて……。 


ことり「曜ちゃん」 

曜「あ……何?」 

ことり「落ち着いて、いつも通りでいいからね」 

曜「う、うん……!」 

ことり「それじゃ、関係者席で応援してるからね!」 

曜「うん、いってきます……!」 





    *    *    * 


790 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 03:33:53.37 ID:glPDjztN0


わたしは関係者席に腰を降ろす。 

亜里沙ちゃんが出るってことは……絵里ちゃんも居たりするのかな……? 

少し辺りを見回してみるけど、それっぽい人はいなさそう。 

絵里ちゃん、目立つから、軽く見回してそれっぽい人が居ないってことは、居ないんだろう。 

……さて、それはともかく曜ちゃんだ。 

今回のコンテストは今までと違って明確な課題を出さずに送り出した。 

基礎はここまでの大会で教えたからなんだけど……。 

でも今回、亜里沙ちゃんとぶつかるのはいい機会だと思った。 

亜里沙ちゃんはかなり珍しいタイプのコーディネーターさんだ。 

そういう相手を前にして、いかに自分を貫けるか、 


ことり「曜ちゃん、見てるからね」 


間もなく、会場が暗くなっていく。 

ショータイムが始まるようです──。 





    *    *    * 


791 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 03:34:55.21 ID:glPDjztN0


司会『レディース・アーンド・ジェントルメーン!! お待たせしました、オノトキ地方最大の街にて繰り広げられる、最もかわいいポケモンを決めるコンテスト……セキレイかわいさコンテスト・ウルトラランクのお時間です!!』 


お馴染み眼鏡がトレードマークの司会のお姉さんの口上と共に、大会がスタートする。 


司会『さて、早速出場ポケモンとコーディネーターの紹介です! エントリーNo.1……チラチーノ&リカ! エントリーNo.2……プクリン&レイコ!』 


さあ、今回の対戦相手はチラチーノ使いのミニスカート。プクリンと出場しているのはおとなのおねえさんだ。 

そして、 


司会『エントリーNo.3……んん? ……おっと、失礼。……ベトベトン&アリサ!』 


ステージ上に現われる、ベトベトンと亜里沙さん。それと同時に少し会場がざわつく。 


亜里沙「行くよ、ベトベトン!」 
 「ベトォ」 


司会『エントリーNo.4……タマンタ&ヨウ!』 


曜「タマンタ、行こう」 
 「タマ~」 


さて……今回の衣装イメージは、妖精だ。 

ふわふわとした綿毛をあしらった、真っ白な帽子と上着──にしたかったけど、タマンタは通す腕がないので、これはマントかな……? 

ただ、工夫は凝らしている。水槽での参戦になるタマンタの綿毛が濡れてしぼまないように、水を弾く特注品だ。 

お陰で水の中でも綺麗にふわふわしているように見える。 


司会『さあ、今回目を引くのはやはりベトベトンかぁ……!? かわいさコンテストではあまり見ないタイプのポケモンがウルトラランクに殴りこみです! そして、もはやお馴染みとなりつつあるヨウさんは今回はふわふわとした非常にメルヘンな衣装での参戦です!』 


一次審査が始まる直前から、ぽつぽつ会場に色が灯り始める。 


司会『さあ、一次審査開始です! チラチーノは白、プクリンはピンク、ベトベトンは黄色、タマンタは青でお願いします!』 


結果は── 

白とピンクがぽつぽつある中、会場はほぼ青で染まっている。 


曜「よし……!」 


今回は衣装のイメージが確実に良い方向に働いている。 


司会『それでは、そろそろ集計を締め切りますよ~?』 


一次審査を締め切る為のアナウンス。 


司会『では、ここで一次審査終了です! このまま二次審査に進みます! アピールはタマンタ、チラチーノ、プクリン、ベトベトンの順でお願いします!』 


予想通り、一次審査をトップで抜ける。 

ただ、気になることがある……。 


亜里沙「…………」 


亜里沙さんのベトベトンはやっぱり、一次審査は最下位。だけど、ウルトラまではちゃんとあがってきているんだ、一体何をしてくるんだろう……。 

……いや、今は自分のアピールに集中だ。 
792 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 03:40:34.38 ID:glPDjztN0

曜「タマンタ! “あわ”!」 
 「タマ~」 

 《 “あわ” かわいさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡ 
   タマンタ +♡♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》 


タマンタは水槽から顔を出して、会場中に“あわ”を吐き出す。 

ふわふわとシャボン玉が会場中に舞う。 


司会『まずは手堅い“あわ”ですねー! シャボン玉が飛んでいるだけで、メルヘンな雰囲気が加速しますね!』 


リカ「チラチーノ! “スイープビンタ”よ!」 
 「チラチー!!」 

 《 “スイープビンタ” かわいさ 〔 だすときに よって アピールの 出来具合が いろいろと 変わる 〕 ♡~♡♡♡♡♡♡♡♡ 
   チラチーノ +♡♡♡♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》 


チラチーノは床を払うように尻尾を何度も振る。 


司会『おっと、いきなりの固有技ですね! チラチーノ得意技“スイープビンタ”! まるで掃除でもしているようですね? 綺麗好きなチラチーノらしいアピールです!』 


レイコ「プクリン、“おうふくビンタ”!」 

 《 “おうふくビンタ” かわいさ 〔 だすときに よって アピールの 出来具合が いろいろと 変わる 〕 ♡~♡♡♡♡♡♡♡♡ 
   プクリン +♡♡♡♡♡♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》 



プクリンは“おうふくビンタ”。ビンタ技は手堅いアピールが見込める。やはりウルトラランク、二人とも定石を知っているようだ。 


亜里沙「ベトベトン!」 
 「ベトォ」 

亜里沙「“ダストシュート”!」 

 《 “ダストシュート” たくましさ 〔 アピールが 上手くいった ポケモン みんなを かなり 驚かす 〕 ♡♡ ♥~ 
   ベトベトン +♡♡ ExP-♥ 
   Total [ ♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》 


曜・リカ・レイコ「「「え!?」」」 


ベトベトンが口から大量のゴミを吐き出した。 

 「タママ!?!?!」「チラチ!!?」「プクッ!!」 

 《 タマンタ -♥♥♥ 
   Total [ ♡♡ ] 》 

 《 チラチーノ -♥♥♥♥ 
   Total [ ♡♡♡ ] 》 

 《 プクリン -♥♥♥♥♥ 
   Total [ ♡♡♡♡ ] 》 


その光景に他のポケモンたちが激しく飛び退く。 


司会『おっとぉ!? これはいきなりぶっこんで来ました、ベトベトン!! 他のポケモンは驚いて完全にアピールを中断してしまいました!!』 


曜「な、なんで……?」 
793 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 03:41:23.46 ID:glPDjztN0

“ダストシュート”ってたくましさ部門の技だよね……? 

いや、それよりも……。 


曜「タマンタ、大丈夫!?」 
 「タマー…」 


タマンタは驚いて、アピールを中断してしまった。これは減点だ。 

いや、私たち以外も大きく減点されている。 


 《 1ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計) 
   タマンタ   ♡♡♡♡♡ ♥♥♥        [ ♡♡   ] 
   チラチーノ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ♥♥♥♥    [ ♡♡♡  ] 
   プクリン   ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡ ♥♥♥♥♥ [ ♡♡♡♡ ] 
   ベトベトン  ♡♡ ♥             [ ♡    ]         》 


司会『さあ、波乱の展開ですが、2ターン目──プクリン、チラチーノ、タマンタ、ベトベトンの順です!』 





    *    *    * 





ことり「やっぱり、亜里沙ちゃんは妨害特化……!」 


……いや、でもあの子だいぶ天然さんだからなぁ……もしかしたら、本当にかわいいと思ってやってる可能性もあるかも……。 

どっちにしろ、ここまではあがってきている以上実力があることには違いない。 

それも、もともとかわいさ部門にすごく適正のあるポケモンとは言い難いポケモンで、だ。 


ことり「曜ちゃん……」 


妨害技は実のところ、扱い方が難しい。 

周りを減点させても、自分に加点があまりないからだ。 

ただ、妨害の本当の怖いところは、そうじゃない……。 





    *    *    * 





レイコ「プ、プクリン、“まるくなる”」 
 「プク」 

 《 “まるくなる” かわいさ 〔 ほかの ポケモンに 驚かされても 一回 くらいは がまんできる 〕 ♡♡ ◆ 
   プクリン◆ +♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》 


プクリンは防御の姿勢。 

最初の押せ押せな技とは打って変わってな感じだ。 

ベトベトンの妨害技を見て、警戒しているのかもしれない。 
794 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 03:42:18.98 ID:glPDjztN0

リカ「チラチーノ! “アンコール”!」 
 「チラチー!!」 

 《 “アンコール” かわいさ 〔 このあと アピールする ポケモン みんなを 緊張させる 〕 ♡♡ 
   チラチーノ +♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》 


曜「!?」 


“アンコール”──バトルでは相手に同じ技を繰り返させる技だが、コンテストの場合は後続を緊張させる技だ。 


 「タマ…!!!」 
曜「タマンタ……!!」 

 《 タマンタ 緊張して しまった 
   Total [ ♡♡ ] 》 


司会『おっと、これはタマンタ、緊張してしまいましたね……』 


たぶん、チラチーノはベトベトンを緊張させることを狙ったんだと思う……でも── 


亜里沙「ベトベトン! “ちいさくなる”!」 

 《 “ちいさくなる” かわいさ 〔 ほかの ポケモンに 驚かされても がまんできる 〕 ♡ ◆ 
   ベトベトン◆ +♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》 


ベトベトンはちゃんと動けている。まずった、完全にとばっちりを受けた。 

しかも、だ。 


司会『おっと、やっと会場にかわいい雰囲気が戻ってきた感じがしますね? ベトベトンはさっきのアピールとは打って変わって、真っ当なかわいさアピールです!』 


さっきとのギャップに会場が盛り上がりを見せ始める。 

不味い……エキサイトがベトベトンに噛み合ってる。 


亜里沙「ベトベトン! ライブアピール! “バブルサラウンドL”!!」 
 「ベトォ」 

 《 “バブルサラウンドL” かわいさ 〔 かわいさ部門 どくタイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡ 
   ベトベトン◆ +♡♡♡♡♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》 


球体状の毒のバブルが会場中をふわふわと漂い、弾けながら光る。 

どくタイプの普段の雰囲気からは想像出来ない煌びやかなアピールに会場は更に沸き立つ。 


司会『素晴らしいライブアピールです! 第一印象を払拭するアピールでベトベトンがトップに躍り出ました!!』 


 《 2ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計) 
   プクリン   ♡♡♡♡♡    [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡  ] 
   チラチーノ ♡♡♡♡♡    [ ♡♡♡♡♡⁵♡   ] 
   タマンタ   ♡♡♡♡♡⁵♡♡ [ ♡♡       ] 
   ベトベトン  ♡♡♡♡♡    [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ]               》 


3ターン目──ベトベトン、プクリン、チラチーノ、タマンタの順。ベトベトンのアピールが目立っている証拠だ。 


795 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 03:43:11.82 ID:glPDjztN0


    *    *    * 





そう、妨害で怖いのはこれだ。 

全体的に消極的になること、そして妨害をするポケモンを優先的に押さえようとする流れが出来上がる。 

そして、運が悪いとその煽りを受けることがあると言うことだ。 

曜ちゃんは完全に今回は運に見放されてる。 

だけど……。 


ことり「ここからだよ……曜ちゃん……!」 


ここからの判断が大事だ。 

焦って攻守の切り替えのタイミングを間違えずに居られるか……それが勝負だ。 





    *    *    * 





亜里沙「ベトベトン! “まとわりつく”!」 
 「ベドォー」 

 《 “まとわりつく” かわいさ 〔 このアピールの後 会場が しばらく 盛り上がらなくなる 〕 ♡♡♡ 
   ベトベトン +♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》 


ベトベトンが身体を大きく広げながら、会場に纏わりついて行く。 

“まとわりつく”はお客さんの印象を引っ張って、他のアピールを目立たなくさせる。 

つまり、会場自体がそのターン中、他のアピールで盛り上がり辛くなる技だ。 


レイコ「プクリン、“なかよくする”!」 
 「プクー」 

 《 “なかよくする” かわいさ 〔 会場が 盛り上がっている ほど アピールが 気に入られる 〕 ♡~♡♡♡♡♡♡ 
   プクリン +♡♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》 


リカ「チラチーノ! “スイープビンタ”!!」 
 「チラチ!!!」 

 《 “スイープビンタ” かわいさ 〔 だすときに よって アピールの 出来具合が いろいろと 変わる 〕 ♡~♡♡♡♡♡♡♡♡ 
   チラチーノ +♡♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》 


手番の回ってきた二匹も順にアピールするが──。 


司会『さあ、完全にベトベトンペースです! プクリンもチラチーノも、あまりアピールがうまく行ってないようだぞ~!?』 


そして、私とタマンタの番。 
796 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 03:43:57.21 ID:glPDjztN0

曜「タマンタ」 
 「! タマ!」 

曜「落ち着いて、私たちらしくアピールしよう」 
 「タマッ!!!」 

曜「“はねる”!」 

 《 “はねる” かわいさ 〔 盛り上がらない アピールだったとき 会場が とても しらけてしまう 〕 ♡♡♡♡ 
   タマンタ +♡♡♡♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》 


タマンタが、水槽から“はねる”。 

そのまま、ステージ上に躍り出て、ぴょこぴょこと跳ね回る。 


司会『これは愛くるしい……!』 


私たちは、私たちらしくアピールすればいい。 


 《 3ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計) 
   ベトベトン  ♡♡♡♡  [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡ ] 
   プクリン   ♡♡    [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡     ] 
   チラチーノ ♡♡    [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡      ] 
   タマンタ   ♡♡♡♡  [ ♡♡♡♡♡⁵♡        ]          》 


司会『さあ、4ターン目はベトベトンから! タマンタ、プクリン、チラチーノの順でお願いします!』 

亜里沙「一番手……! じゃあ、“いちゃもん”!」 
 「ベトベトォ」 

 《 “いちゃもん” たくましさ 〔 このあと アピールする ポケモン みんなを 緊張させる 〕 ♡♡ 
   ベトベトン +♡♡ ExP-♥ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》 


“いちゃもん”は“アンコール”と同じように後続を緊張させる技だ。技だが……。 


 「タマッタマッ」「プクプク」「チラチー」 

亜里沙「あ、あれ……?」 


いい加減ベトベトンの奇抜な技選びにも慣れてきたのか、3匹とも動じない。 

そして、前ターンから会場を跳ね回っている、タマンタも身体が温まってきたところだろう、 


曜「タマンタ! “とびはねる”!!」 
 「ターーマッ!!!!」 

 《 “とびはねる” かわいさ 〔 ほかの ポケモンに 驚かされても がまんできる 〕 ♡ ◆ 
   タマンタ◆ +♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》 


司会『おっとぉ!! タマンタ、空高く飛び跳ねました!!』 


さあ、ここまで存分にヘイトを買ったベトベトン。 

今回は先手を打ったから、巻き込まれることはない。 
797 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 03:44:43.57 ID:glPDjztN0

レイコ「プクリン、“あまえる”」 
 「プク~」 

 《 “あまえる” かわいさ 〔 観客に 期待されている ポケモンを 特に 驚かす 〕 ♡♡ ♥~♥♥♥♥♥ 
   プクリン +♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》 


 「ベ、ベドォ…」 

 《 ベトベトン -♥♥♥♥♥ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》 

 《 タマンタ◆ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》 


甘えてくるプクリンに困惑して、萎縮するベトベトン。 

続け様に、 


リカ「チラチーノ! “さわぐ”よ!」 
 「チーラチラチー!!!!!!!」 

 《 “さわぐ” かわいさ 〔 観客に 期待されている ポケモンを 特に 驚かす 〕 ♡♡ ♥~♥♥♥♥♥ 
   チラチーノ +♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》 


チラチーノが大きな鳴き声をあげながら、全体を妨害する。 


 「ベドドォ…!!!!」 

 《 ベトベトン -♥♥♥♥♥ 
   Total [ ♡♡♡ ] 》 

 《 タマンタ◆ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》 

 《 プクリン -♥ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡ ] 》 


司会『“いちゃもん”を言ったはずのベトベトンが逆に萎縮してしまう結果になりました!? これは手痛い反撃です!!』 


 《 4ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計) 
   ベトベトン  ♡♡ ♥♥♥♥♥⁵♥♥♥♥♥¹⁰♥ [ ♡♡♡          ] 
   タマンタ   ♡♡              [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡    ] 
   プクリン   ♡♡♡ ♥            [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡ ] 
   チラチーノ ♡♡♡             [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡ ] 》 


さあ、ラストターンだ……! 


司会『チラチーノ、タマンタ、プクリン、ベトベトンの順でお願いします!』 

リカ「チラチーノ! “スイープビンタ”!」 
 「チラチー!!!!」 

 《 “スイープビンタ” かわいさ 〔 だすときに よって アピールの 出来具合が いろいろと 変わる 〕 ♡~♡♡♡♡♡♡♡♡ 
   チラチーノ +♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》 


みたび、チラチーノが尻尾を振るう。 

ベトベトンの妨害の流れを制して、自分たちのペースを取り戻したようだった。 

なら、私たちも……とっておきだ。 


曜「タマンタ──!」 
798 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 03:45:56.84 ID:glPDjztN0

先ほど飛び跳ねたタマンタ。会場の上部から── 

カラフルなシャボン玉が、会場中に噴き出される。 


曜「とっておきの“あわ”、存分に!!」 
 「タマ~~」 

 《 “あわ” かわいさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡ 
   タマンタ +♡♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》 


会場中が色とりどりのシャボン玉に沸き立つ。 

そして、それにともない会場のエキサイトも最高潮に達する。 


曜「ライブアピール行くよ!! “ラブリーブレッシングレイン”!!」 
 「タマ~~~~」 

 《 “ラブリーブレッシングレイン” かわいさ 〔 かわいさ部門 みずタイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡ 
   タマンタ +♡♡♡♡♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》 


タマンタの出した“あわ”が一箇所に集まって大きくなり、そのまま宙へと浮かんでいく。 

その大きなバブルは上空で弾けて、会場に雨を降らせる。 


司会『さあ、タマンタ! “あわ”からしっかり繋げたライブアピールで大量の得点を稼ぎます!!』 


曜「よしっ!!」 


アピールは大成功だ。 


レイコ「プクリン、“おうふくビンタ”!」 
 「プクッ」 

 《 “おうふくビンタ” かわいさ 〔 だすときに よって アピールの 出来具合が いろいろと 変わる 〕 ♡~♡♡♡♡♡♡♡♡ 
   プクリン +♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》 


プクリンもそんな中で自分のアピールをする。 


亜里沙「……っ」 


一方亜里沙さんは、完全にペースを乱されて、出す手を失っている感じだった。 


亜里沙「ベトベトン……!! “だいばくはつ”──!!」 

 《 “だいばくはつ” うつくしさ 〔 すごいアピールに なるが このあと 最後まで なにも できなくなる 〕 ♡♡♡♡♡♡♡♡ 
   ベトベトン +♡♡♡♡♡♡♡♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》 


部門には沿ってないが──最後の技は大きくアピールの出来る手頃な締めの技だった。 


亜里沙「……っ」 


ただ、ステージ上で見た亜里沙さんは、もうすでに結果を理解しているようで、 

……悔しそうな顔をしていた。 


799 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 03:46:58.68 ID:glPDjztN0


    *    *    * 





曜「……亜里沙さん、大丈夫かな」 


大会が終わったあと、亜里沙さんは楽屋で固まっていた。 

大立ち回りだったけど……── 


 《   ポケモン    一次審査 | 二次審査 
   【チラチーノ】 〔 ♢♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡                 〕 
   【 .プクリン 】 〔 ♢♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡                〕 
   【.ベトベトン】 〔 ♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡                       〕 
  ✿【 タマンタ 】 〔 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡ 〕 》 


結果ベトベトンは最下位。 

相当悔しかったのかもしれない。 


ことり「ライバルの心配? 余裕だね~?」 

曜「い、いや……」 

ことり「ふふ、冗談。でもね、曜ちゃん。皆自分の信念を掲げて戦ってるんだから、勝つ人がいれば、負ける人もいる」 

曜「……うん」 

ことり「……だから、そのリボンに恥じないように、胸を張ってなくちゃ」 

曜「……ヨーソロー!」 
 「タマ」 


タマンタに付けられたピンク色のリボン。 

私は、勝ってこれを貰ったんだ。 

一緒にステージで戦った人たちに失礼のないように、胸を張らないと……。 

──そのとき、 


亜里沙「曜さん!」 


背後から、亜里沙さんの声。 


曜「! 亜里沙さん!」 

亜里沙「今日は、ありがとうございました……!!」 


振り向くと同時に亜里沙さんが頭を下げてお礼を言う姿が飛び込んでくる。 


曜「! こちらこそ……!」 


私も恭しく頭を下げる。 


亜里沙「今日は負けちゃったけど……でも、次戦うときは亜里沙が勝つから……!」 

曜「!」 

亜里沙「ベトベトンがかわいいってこと皆に知ってもらわなくちゃいけないから……! それじゃ、失礼します!」 


それだけ言うと、亜里沙さんは足早に去って行ってしまった。 
800 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 03:47:49.98 ID:glPDjztN0

ことり「亜里沙ちゃんにも信念があるってことだね」 

曜「……うん」 

ことり「そして……今日、曜ちゃんが勝てたのは、信念を曲げなかったからだよ」 

曜「……うん!」 

ことり「まあ、でも……ちょっと今回は運がよかったところが大きかったかな?」 

曜「……うっ」 

ことり「ふふ、冗談です♪ 運も実力のうちだもんね」 

曜「ことりさーん……」 


ことりさんの冗談は本当に笑えないんだからなぁ……。 

でも、運がよかったって言うのは事実だ……もっと、頑張らないとな。 

そう思って顔を上げると── 


曜「……?」 


会場の外がなんだか騒がしい、 


ことり「……何?」 


ことりさんと二人で急いで会場の外に顔を出すと── 


ことり「え……」 

曜「な、なにこれ……!?」 


 「ヨマ~」「ケケケケ」「ゴォーーース」 


セキレイの街中にヨマワル、カゲボウズ、ゴースの姿。 

街中が、ゴーストポケモンだらけになっていた── 


801 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 03:48:35.40 ID:glPDjztN0


>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【セキレイシティ】 
 口================= 口 
  ||.  |⊂⊃                 _回../|| 
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  || 
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   || 
  ||.  | |       回 __| |__/ :     || 
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     || 
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     || 
  ||.  | |.      | |           |     || 
  ||.  | |____| |____    /      || 
  ||.  | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o  || 
  ||.  | |      | |  _.    /      :   || 
  ||.  回     . |_回o |     |        :   || 
  ||.  | |          ̄    |.       :   || 
  ||.  | |        .__    \      :  .|| 
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .|| 
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .|| 
  ||.      /.         回 .|     回  || 
  ||.   _/       o‥| |  |        || 
  ||.  /             | |  |        || 
  ||./              o回/         || 
 口=================口 

 主人公 曜 
 手持ち カメックス♀ Lv.43 ✿ 特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい 
      ラプラス♀ Lv.41 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき 
      ホエルコ♀ Lv.39 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい 
      ダダリン Lv.42 ✿ 特性:はがねつかい 性格:れいせい 個性:ちからがじまん 
      ゴーリキー♂ Lv.39 ✿ 特性:ふくつのこころ 性格:まじめ 個性:ちからがじまん 
      タマンタ♀ Lv.36 ✿ 特性:すいすい 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい 
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:132匹 捕まえた数:20匹 コンテストポイント:48pt 


 曜は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 



802 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 11:38:57.46 ID:glPDjztN0

■Chapter059 『グレイブマウンテン』 【SIDE Ruby】 





ダイヤ『──ビィ!! ルビィ!! しっかりして……っ!!』 


お姉ちゃん……? 

薄ぼんやりとした意識の中、お姉ちゃんの声が響く。 


ルビィ『ぅゅ……』 

ダイヤ『……! おかあさま! ルビィのいしきが……!! ルビィ!? だいじょうぶですか!!?』 

ルビィ『のど……かわいた……』 


……ぼんやりする意識の中、辺りを見渡すと、 

お姉ちゃんとお母さん。それに二人の連れたメレシー──ボルツとアンバーの姿。 

ここは──クロサワの入江……? 

見慣れたキラキラとした岩肌。だけど──何故か、洞窟の中なのにポタポタと大量の水滴が降ってきている。……雨? 

……それにしても暑い。というか……熱い? 

体が燃えるように熱かった。 


ルビィ『…………ぅゅ』 


ルビィ、何してたんだっけ……。 

……あ、そうだ、思い出した……。 

いつもみたいに入江でコランと遊んでたら……急にヤミラミが現われて、メレシーたちを襲いだしたんだ。 

何度「やめて」ってお願いしても、ヤミラミは聞いてくれなくて、 

ルビィが止めなきゃって、思ったら── 

……その続きは記憶がなかった。 


ルビィ『……ぁっぃょぉ……』 


……ただ、ただ暑くて、熱かった──。 





──────── 
────── 
──── 
── 





ルビィ「ん……ぅ……」 


風を斬る音が耳元で激しく鳴っている。 

──と言うか、 


ルビィ「さむい……」 


思わず自分の肩を抱こうと思ったら。 

腕にコランを抱きしめていることに気付く。 
803 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 11:44:12.27 ID:glPDjztN0

ルビィ「コラン……?」 
 「──」 


コランは動かない、寝てるのかな。 

……と、言うか。 

景色がものすごい勢いで流れている。 

……飛んでる? 


理亞「──起きたんだ」 

ルビィ「……! 理亞、ちゃん……」 


理亞ちゃんの小脇に抱えられたまま、ルビィは空を飛んでいた。 

少しずつ思い出してきた……確か、理亞ちゃんと戦って、そして── 


ルビィ「……ルビィ、負けたんだ……」 

理亞「…………」 


不思議と落ち着いていた。 

この状況でも、理亞ちゃんはルビィに対して、必要以上の直接的な危害を加えずに、あくまで運んでいるだけだからだろうか。 


ルビィ「理亞ちゃん……今どこに向かってるの……?」 

理亞「……目的地」 


いや、それはそうだろうけど……。 


ルビィ「そうだ……みんなは」 


手持ちのみんなは無事だろうか……? 

両手で抱えていたコランを片腕で抱えて、腰のボールに手を伸ばす。 


ルビィ「──いたっ……!」 


指先に痛みが走り、咄嗟に指を引く。 

指が切れて血が出ていた。 


ルビィ「ボールが……ない……?」 


身を捻る。 


理亞「あんまり動かないで。うっかり落とす」 

ルビィ「……ぅゅ」 


うっかりで落とされるのは困る……。ゆっくりと腰に目を配らせると、腰のボールホルダーが根元からねじ切れていた。 


ルビィ「な、なにこれ……理亞ちゃんがやったの……?」 

理亞「……ホントに何も覚えてないのね」 

ルビィ「……??」 

理亞「……巫女の力」 

ルビィ「……!」 


理亞ちゃんの言葉にビクリとする。 
804 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 11:48:27.61 ID:glPDjztN0

理亞「……その反応。力そのものがあることは知ってるんだ」 

ルビィ「あ、いや……」 

理亞「別に誤魔化そうと、そうじゃなかろうと、目の前で見たから」 

ルビィ「…………」 


その言葉でやっと理解する。 

巫女の力が、“また”暴走してしまったらしい。 


ルビィ「……コラン」 
 「────」 


コランは呼びかけても眠っている。 

空を飛びながら、眼下には山肌が通り過ぎていくだけ。 

ルビィはなんとなく顔を上げる。 


ルビィ「……山」 


そこには、一際大きな山──地方最大の霊峰、グレイブマウンテンが迫っていた。 





    *    *    * 





──さて、堕天使ヨハネは、ついにコンタクトを取ることに成功したアブソルを追いかけて、進んでいる。 

クリフを抜けたあと、アブソルはそのまま北上していた。 

その後ろ姿を、ヤミカラスに掴まって追いかけている。 


善子「この先って……」 

花丸「……グレイブマウンテンずら」 


横から、フワライドの腕に腰掛けている、ずら丸の声。 


善子「ルビィは今、あの山に向かってる……ってことよね」 

花丸「たぶん……」 


……まあ、どっちにしろ、アブソルの勘以外に頼るものがないし、信じて追うしかない。 

視線の先の霊峰は、今日も分厚い雲に覆われている。 


善子「……天気、荒れそうね」 


吹雪かなければいいけど……。 





    *    *    * 


805 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 11:51:33.97 ID:glPDjztN0


……ルビィは連れ去られながら、一応出来る限りの状況を確認しました。 

図鑑とコラン以外の手持ちが居ない状態です。 

コランのボールも持ってないので、戻すことは出来ない。 

そして、今は── 


理亞「クロバットッ!! 無理に向かい風に逆らわなくていい!!」 
 「クロバッ!!!」 

ルビィ「ぅゅゅ……」 


吹雪の真っ只中……。 

完全に視界は吹雪で遮られて、ほとんど前が見えない。 


理亞「あんた、こんな状況だから自分で飛んでくれない!?」 

ルビィ「手持ち持ってないし……もともと飛べる手持ちいないし……」 

理亞「あーもう……!!」 


理亞ちゃんはイラつきながら、吹雪の中を進む。 


ルビィ「あ、あのさ……」 

理亞「何」 

ルビィ「理亞ちゃん、こおりポケモンたくさん持ってるし……吹雪が得意ってことは」 

理亞「あるわけないでしょ」 

ルビィ「……だよね」 

理亞「……人間も、ポケモンも、自然の力には勝てないのよ」 

ルビィ「……」 


その後もしばらく、飛び続けていたけど……。 


理亞「……これ以上は無理か……。クロバット、高度落として」 
 「クロバッ」 


どうやら、降りるみたいです。 


理亞「……逃げるんじゃないわよ?」 

ルビィ「……たぶん、今逃げたらホントにルビィ死んじゃうかも」 


逃げようにも、この吹雪の雪山じゃ遭難必至……。 

手持ちも居ない状態だし……。 


理亞「……ならいい」 


理亞ちゃんに抱えられたまま、雪に覆われた山肌に向かって降りていきます。 





    *    *    * 





グレイブマウンテンの山に降り立ったところで、 
806 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 11:53:28.54 ID:glPDjztN0

理亞「……自分で歩け」 


雪の上に投げ捨てられる。 


ルビィ「ぴぎぃ!?」 

理亞「さて……ここから、どうするか」 


理亞ちゃんはやたら落ち着いているけど、辺りは吹雪でほとんど見えない。 


理亞「ビバークか……」 

ルビィ「びばーく……?」 

理亞「山での緊急の野営のこと。雪山でアテもなく歩き回っても危ないし」 

ルビィ「そ、そっか……」 


こんな中で野宿なんて出来るのかな……。 

理亞ちゃんは理亞ちゃんでさっきから、ポチポチと端末を弄っている。 

どうやら、ポケギアを確認してるようだ。 


理亞「……ま、そりゃ圏外か。マップは……ん……」 

ルビィ「何かあった……?」 


正直、野宿はしたくない……。こうなると理亞ちゃん頼みかも。 


理亞「山のこの辺りなら……近くに、家……というか、小屋……みたいなのがある」 


そう言って理亞ちゃんは歩き出す。 


ルビィ「あ、ち、ちょっと待って……!!」 

理亞「……早く来なさいよ」 





    *    *    * 





理亞「確かここに……」 

ルビィ「……?」 


理亞ちゃんは前を歩きながら、下を確認していた。 


理亞「……あった」 

ルビィ「あったって……何が──ぴぎぃ!?」 


ルビィは驚いて、声をあげる。 

理亞ちゃんが見つけたものは── 


ルビィ「ほ、骨……!?」 


完全に骸骨の形をした、ソレはどう見ても……人間の骨だ。 

よく見ると、それと一緒に犬ポケモンの骨のようなものもある。 
807 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 11:54:59.92 ID:glPDjztN0

理亞「この遺体が目印になってる。ここから、真っ直ぐ行けば……家というか、小屋……がある」 

ルビィ「…………」 

理亞「……これが、私たちの生きてきた世界なのよ」 

ルビィ「……え……?」 

理亞「……なんでもない。行くわよ」 

ルビィ「…………。う、うん……」 





    *    *    * 





──こちら堕天使。 


善子「ヤミカラス!! 頑張って!!」 
 「カァカァ!!!」 

花丸「よ、善子ちゃん……!! やっぱり吹雪の中飛ぶのは無理ずら!!」 
 「フワァ…」 


やっとグレイブマウンテンに辿り着いたものの……絶賛、吹雪に遭遇中。 


善子「……ぐぅ……!!」 


確かにずら丸の言う通り、これ以上飛んでると本当に危ない。 

眼下に目を配ると、アブソルがこちらを気にして立ち止まっていた。 


善子「……ヤミカラス、一旦降りましょう」 
 「カァカァ…!!!」 


私は山肌に下降していく。 


花丸「フワライドも降りるずら」 
 「フワァ」 


ずら丸もその後ろについて降りてくる。 


善子「……っと」 


ヤミカラスをボールに戻して、 

アブソルの付近に降り立ったはいいものの……。 


善子「これ……歩くのもかなりキツイわね……」 

花丸「さすがに、ビバークしないとだね……」 

善子「近くに、ほら穴とかあればいいんだけど……」 

 「ソル」 


2人と1匹で辺りを見回していると、 


善子「ん……なんかいる」 


雪ミノのようなものを纏った、小さい生き物の集団が居るのを見つける。 
808 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 11:56:58.92 ID:glPDjztN0

花丸「あれは……ユキワラシずら」 

善子「ユキワラシ……オニゴーリの進化前よね」 


 『ユキワラシ ゆきかさポケモン 高さ:0.7m 重さ:16.8kg 
  5匹 ぐらいの グループで 行動し 雪の 多い 土地で 
  雪や 氷だけを 食べて 暮らしている。 春や 夏の 雪の 
  降らない 季節には 鍾乳洞の 奥で 静かに 暮らす。』 

ユキワラシの集団はワラワラと寄り添いながら、移動していた。 


花丸「吹雪が強くなってきたから、ユキワラシたちも巣に帰ろうとしてるのかも……」 

善子「図鑑の通りなら、洞窟に棲んでるのよね?」 

花丸「うん。基本はほら穴とかに棲んでるポケモンかな」 

善子「じゃあ、雪を避けて休める場所知ってるかもしれないわね……」 

花丸「ついていってみるずら」 

善子「OK」 


私たちはユキワラシを追いかけて、雪道を歩き出す。 


善子「ほら、アブソルも。行きましょ」 

 「ソル」 


私はアブソルを促す。 

……この荒れ模様じゃ、アブソルも満足に進めないだろうし。 

2人と1匹はユキワラシたちを追いかけて、歩いて行く。 





    *    *    * 





案の定、ユキワラシたちを追いかけてみたら、すぐ近くにほら穴を見つけることが出来た。 


善子「こんなすぐ近くに……気付かないもんね」 

花丸「雪山の視界の悪さはホントに素人には怖いずら……」 

 「ソル」 


雪を払いながら、奥に進んでいくと。 


 「ユキワラー」「ワラシー」「ユキユキー」 


ユキワラシたちが、奥で身を寄せ合っている。 


善子「ごめんね、巣に押しかけちゃって……」 

 「ワラシー」 


吹雪がやむまで、少しお世話になろう。 

──ぐぅぅぅぅ……。 

気の抜ける音が背後から聞こえる。 


花丸「お腹空いたずら……」 
809 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 11:58:12.18 ID:glPDjztN0

そういえば、クリフに居たときから何も食べていない。 


善子「食事にしましょうか……」 


私はバッグから、携帯食料を取り出す。 


花丸「ずら……」 


それをモノ欲しそうに見つめる、ずら丸。 


善子「……あんた、食料は?」 

花丸「食料はほとんどルビィちゃんが管理してたずら……マルが持ってると全部食べちゃうからって」 

善子「……なるほど」 


私は携帯食料を半分に折って、ずら丸に差し出す。 


善子「はい、半分あげる」 

花丸「い、いいの?」 

善子「一人で食べてるわけにもいかないでしょ……」 

花丸「あ、ありがとう……!! 善子ちゃん……!!」 

善子「はいはい……あとヨハネね」 


食料を齧る。 


花丸「うぅ、物足りないずら……」 

善子「……食べるのはや……。もっと味わって食べなさいよ……」 


味わうほど味気ないけど……。 

ルビィが食料管理してたのも頷けるわね……。 

とは言っても、私が食べても数口で終わってしまう。 

携帯食料を嚥下したあとバッグから、ポケモン用のご飯を少しだけ取り出す。 


善子「アブソル」 

 「ソル…?」 

善子「貴方も、食べておかないとでしょ? どうぞ」 


そう言って、差し出すが、 


 「ソル…」 


アブソルは戸惑っているようだった。 

ま、いきなり手渡されても困るか。 

私はそれを地面に置いた。 

アブソルはしばらく躊躇はしていたものの、 


 「ソル…」 


どちらにしろ食べないと動けなくなると思ったのか、近付いてきて食し始めた。 
810 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 11:59:03.51 ID:glPDjztN0

花丸「おいしそう……」 

善子「ポケモン用だからね……?」 


ほっておくと、ホントに食べに行ってしまうんじゃないかと一抹の不安は覚えたが……。 

まあ、大丈夫だろう……たぶん。 


善子「ユキワラシたちも……どうぞ」 


多くは出せないけど、世話になってる以上は、ね。 


 「ワラ」「ワラシ」「ユキ」 


ユキワラシたちも、もそもそと食べ始める。 


善子「よしよし」 


あとは火かしら……。 

風と雪は凌げても、このまま眠るのはちょっと怖い。 

ほら穴の中央に、そこらへんに落ちてる石を集めて丸く並べる。 


善子「ずら丸、燃料ある?」 

花丸「ずら? えっと……ハヤシガメ」 
 「ガメッ」 


ハヤシガメを出して、 


花丸「葉っぱ、少し貰うずら」 
 「ガメ」 


ハヤシガメから葉っぱをむしる。 


花丸「これでいいずら?」 

善子「ん、ありがと。ランプラー」 
 「プラァ」 


ランプラーをボールから出して、 


善子「“ひのこ”」 
 「プラァ」 


火を着ける。 


善子「よし」 


これで、一先ず安心かしら。 


花丸「あとは食料ずら……」 

善子「いや、さっき食べたでしょ……」 


そんな話をしていると、 

ほら穴の外から、 


善子「あら……?」 
811 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 12:00:47.39 ID:glPDjztN0

新しいポケモンがもそもそと入ってくる。 

小さな豚のようなポケモン。 


花丸「! ウリムーずら!」 


ずら丸が嬉しそうに声をあげる。 

 『ウリムー いのぶたポケモン 高さ:0.4m 重さ:6.5kg 
  エサを 探すため 鼻を こすりあわせ 地面を 掘っている。 
  においに 敏感で 氷の下に 埋もれた キノコや きのみを 
  掘り出すほかに たまに 温泉さえも 掘り当ててしまう。』 

……道理で嬉しそうなわけね。 


花丸「ウリムー、ご飯あるずらか……?」 

 「ウリ」 


ウリムーはずら丸のすぐ横辺りをフゴフゴと嗅いだ後、 

 「ウリウリ」 

掘り始めた。 


花丸「そこに食料があるずらね!? オラも手伝うずら!!」 


……どうぞご勝手に。 

ほら穴の外に目を配ると、依然強く吹雪いている。 

ルビィのことは心配だけど……まあ、攫った理亞も目的があると言っていた以上、どうにか凌いでいることだろう。 


 「ソル」 

善子「? アブソル?」 


気付くとアブソルが近くに寄ってきていた。 

食事が終わったらしい。 


 「ソル」 


アブソルは一声あげると、私の隣に腰を降ろした。 

……多少は警戒を解いてくれたということかもしれない。 


花丸「こ、これはマゴの実、モモンの実ずら!? ご馳走ずら!!」 
 「ウリウリム」 


なんかあっちはあっちで楽しそうね……。 


善子「ふぁ……」 


ちょっと眠くなってきたかも……。 

私も、少し休もうかな……。 

そう思った途端、意識はすぐに闇の中に溶けて行った……。 





    *    *    * 


812 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 12:03:16.90 ID:glPDjztN0


──吹雪の中、理亞ちゃんと進むこと数十分。 


理亞「……ここ」 


理亞ちゃんの言う通り、建物があった。あったけど……。 

家どころか、小屋という表現も怪しい、廃屋って感じの場所だった。 


理亞「……文句でもあんの?」 

ルビィ「い、いや、ないけど……」 

理亞「風と雪が凌げれば十分でしょ」 


理亞ちゃんはそう言って小屋の中に入っていく。 

ルビィもその後ろについて、中へと足を進める。 

小屋の中も案の定、荒れ放題だった。 

普段人間が住んでいない証拠だろう。 

ただ、小屋の中は思った以上に暖かい気がした。 

吹雪いている外が、寒すぎるからかな……。 


理亞「確かここに、前使った薪の残りが…………あった」 


理亞ちゃんはごそごそと今夜を乗り切るための準備をしている。 

手馴れた姿から、たぶんこの小屋は何度か使ったことあるんだと思う。 


理亞「……ルビィ」 

ルビィ「!? な、なに……?」 

理亞「あんたも手伝って。そこらへんに落ちてる燃料になりそうなもの集めて。火つけるだけなら、今あるので足りるけど、追加分がないと途中で火が消える」 

ルビィ「……わ、わかった」 


ルビィは抱えていたコランを床に下ろす。 


ルビィ「コラン……ちょっとここで待っててね」 
 「────」 


コランは未だに反応がないけど……。 

……とりあえず、ルビィも小屋の中をがさごそと探す。 

荒れ放題な部屋の中は、木の外壁が経年劣化で崩れ落ちた破片がある。 

こういうのを集めればいいのかな……。 

一個一個手に取って集めていると、 


ルビィ「ん……?」 


木の破片に紛れて、紙のようなものが落ちてることに気付く。 


ルビィ「これ……写真……?」 


だいぶボロボロだったけど……拾い上げてみると、写真だとわかる。 

色あせてしまっているが、まだ写ってるものはわかる。 

人間が4人。ポケモンが3匹。 

優しそうな大人の男性と女性。そしてその間に小さな女の子が2人。その子たちはそれぞれ白と茶色のクマのような小さなポケモンを抱きしめていた。そして、その前にはニューラ。 
813 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 12:04:50.11 ID:glPDjztN0

ルビィ「…………」 


なんでこんなところに写真が……? という疑問もあったけど、ルビィの目を引いたのは写真の女性だった。 

目元や髪の色がある人にそっくりで── 


理亞「何してんの?」 

ルビィ「ぴぎっ!? あ、いや……」 

理亞「……! ……写真まだあったんだ」 


──まだ。 

その言葉でなんとなく頭に浮かんでいた予想が、確信に近付く。 

……そう、この写真の女性は理亞ちゃんによく似ていた。 

いや、今の理亞ちゃんよりも背丈も高いし、顔付きも大人っぽいけど……面影があった。 


ルビィ「……理亞ちゃん」 

理亞「……何?」 

ルビィ「ここ……もしかして理亞ちゃんのおうちなの?」 

理亞「……小さい頃に住んでたってだけ」 

ルビィ「そ、そっか……」 

理亞「…………」 


会話が途切れてしまう。 

勝手に写真を見てしまったことに対しての罪悪感から逃げたかったのか、なんとなくルビィはこのまま会話が終わるのが気持ち悪くて、 


ルビィ「お父さんとお母さん……優しそうな人だね」 


話を続ける。 


理亞「……優しかったと思う」 

ルビィ「今はどうしてるの?」 

理亞「死んだわ」 

ルビィ「……え?」 


予想外の言葉にルビィは目を見開いた。 


理亞「今日なんかよりもずっと吹雪が酷い夜。私とねえさまが凍えないように朝まで抱きしめてくれてた。私たちが起きたときには、冷たくなってたけど」 

ルビィ「……!! ご、ごめんなさい……!!」 


聞いてはいけない話題に触れてしまった。 

いや、今は使われていないボロボロの小屋が昔の家だったという時点で、多少予測は出来たはずなのに……。 


理亞「……私は小さかったから、お父さんとお母さんのことはほとんど覚えてない……だから、別にいい」 

ルビィ「ごめん……」 

理亞「だから、いいって。それより燃やすもの。集まったなら持って来て」 

ルビィ「あ、うん……」 


促されて、ルビィは部屋の中央に木屑を運ぶ。 
814 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 12:06:17.03 ID:glPDjztN0

理亞「この家は……家主を失って、子供の私たちにはまともな管理も出来なくなって、次第に備蓄の食料もなくなって、捨てた」 

ルビィ「……そっか」 

理亞「だから、今は吹雪にあったときとかに、こうして避難所として使うくらい」 

ルビィ「…………」 


 『……産まれたときから、住む場所にも、食べ物にも困らず、当たり前に家族に囲まれて、ただ当たり前に恵まれて育ってきた、お前の姉と……私のねえさまが同じわけ、ない……!』 


あの戦いの中で理亞ちゃんが言っていたことの意味が少しだけわかった気がした。 


理亞「木屑……そこ置いといて。適当なタイミングで追加して」 

ルビィ「う、うん」 


理亞ちゃんと焚き火を挟んで向かい合い、腰を降ろす。 

……焚き火あったかいな。 

ホッと一息ついたところで、 

──くぅぅぅぅー。と言う音が向かいからしてきた。 


理亞「……///」 

ルビィ「理亞ちゃん、お腹空いたの?」 

理亞「た、たまたま鳴っただけ……そんなんじゃない」 


お腹ってたまたま鳴るのかな……。 

ルビィはリュックを漁る。 


ルビィ「あったあった」 


リュックの中から、パンを取り出す。 

それを半分にして、 


ルビィ「半分どうぞ」 


理亞ちゃんの元に持って行く。 


理亞「……いらない。別にお腹減ってない」 


理亞ちゃんはプイっと顔を背けるが、 

──くぅぅぅぅー……。という可愛らしい音がまた聞こえてくる。 


理亞「……///」 

ルビィ「ルビィがはんぶんこしたいだけだから、ね?」 

理亞「……貰ってやらなくもない」 

ルビィ「うん」 


ルビィはそのまま理亞ちゃんの隣に腰を降ろした。 

二人してパンを齧る。 
815 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 12:08:56.85 ID:glPDjztN0

ルビィ「あむ……」 

理亞「……あむ」 

ルビィ「……あむ」 

理亞「…………あむ」 

ルビィ「……ねぇ、理亞ちゃん」 

理亞「……今度は何」 

ルビィ「クロサワの巫女のこと……どこまで知ってるの?」 

理亞「…………」 


理亞ちゃんは少し悩む素振りを見せたけど、 


理亞「ま、吹雪が明けるまで暇だし……」 


そう前置く。どうやら喋ってくれるみたい。 


理亞「クロサワの家は代々ディアンシーを祀る家系で、女王ディアンシーの子孫と言われる特別なメレシーたちを受け継ぐ巫女の子孫だって聞く」 

ルビィ「……うん」 

理亞「そして、そのクロサワの血筋の中でも、強く巫女の気質を受け継いだ子には何かしらの特徴が現われる。その真っ赤な髪みたいに」 

ルビィ「…………」 

理亞「クロサワの巫女は、ディアンシーと対話が出来る他に……ディアンシーが人々から奪った、宝石の輝きを再び取り戻す力があるって言われてる」 

ルビィ「……どうやって調べたの?」 

理亞「10年以上掛けて、ねえさまとコツコツ調べた」 

ルビィ「10年……」 


確かに10年も掛ければ、大なり小なり調べられるのかもしれない……。ルビィたちのおうちのことは、オトノキの史書とかに出てくることもあるし……。 


理亞「それと……これが、導いてくれた」 


そう言いながら、理亞ちゃんは懐から、ピンク色の宝石を取り出した。 


ルビィ「……!! それ……!!」 


ルビィは驚いて立ち上がってしまう。 


理亞「……さすが巫女、見ただけでわかるんだ」 

ルビィ「女王様の宝石……ど、どうやって……?」 


それは、メレシーの女王様──ディアンシー様の持つ宝石の欠片だった。 


理亞「……ディアンシーに貰った」 

ルビィ「貰った……そうなんだ……」 

理亞「……あんたは偽物だとか疑わないんだ」 

ルビィ「そんな純度の高いピンクダイヤモンド、自然界に存在しないし……人工でも作れない。女王様から貰った以外ありえないよ……」 


道理でアジトでコランが反応してたわけだ。 

女王様が理亞ちゃんの前に現われたというのは信じがたいけど……。 


理亞「そっか……」 
816 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 12:11:48.82 ID:glPDjztN0

ただ、理亞ちゃんはルビィの言葉を聞いて、少し嬉しそうだった。 


理亞「……両親が死んだあと、食料と住む場所を求めて、私とねえさまはこの山を彷徨っていた。……だけど、そのとき私は3才。ねえさまも5才。すぐに行き倒れた」 

ルビィ「…………」 

理亞「ああ、このまま死ぬんだなって、幼心に思った。でも、ねえさまだけは……大好きなねえさまにだけは、無事で居て欲しいって、そう思った途端。あたりが暖かい光に包まれて──顔をあげたら、そこに居た」 


──ディアンシーが。 


理亞「お腹も空いて、寒くて、どうしようもなかったのに、その光に包まれた途端、生きた心地がした。身体中に元気が漲ってくるような、そんな感じ」 

ルビィ「……ディアンシー様はいつも地方中を見守っている。それに旅の仲間を事故や病気から守ってくれるって、言い伝えがあるんだよ。きっと、癒やしの力をわけてくれたんだと思う」 

理亞「……うん。次気が付いたときには、ディアンシーはもういなかったけど……。吹雪は晴れて快晴だった。そして、私とねえさまが倒れてる場所の近くにコレが二欠片落ちてた。それで、きっとあれは夢じゃなかったんだって」 


そう言って、理亞ちゃんは宝石を胸の前で握る。 


理亞「生きる気力すら、なかった私たちにそのとき目的が出来た」 

ルビィ「…………」 

理亞「……いつか、またディアンシーに会うんだって」 

ルビィ「……そっか」 


理亞ちゃんがルビィを狙う理由。 

巫女の力をディアンシー様との架け橋にするためだ。 


理亞「さて……ここまで話したら、巫女様は協力してくれる?」 


理亞ちゃんの問い。 


ルビィ「…………ごめんなさい」 


答えはNOだった。 

巫女は女王様と人間の仲介役であると同時に、両者を隔てるために存在している。 

ルビィが巫女の力を使って手引きするのは、それこそ本末転倒だ。 


理亞「ま、わかってたけど。……これがあんたと私が協力できない理由」 

ルビィ「…………」 


恐らく、伝承を調べる際に理亞ちゃんは、既に巫女の使命についてのことにも、辿り着いていたんだと思う。 


理亞「話して損した」 

ルビィ「……ごめん」 

理亞「……別に、どうせ暇つぶしだったし」 


理亞ちゃんは火に薪をくべる。 


理亞「だから、お前の力は利用する」 

ルビィ「…………そっか」 


このときルビィの頭の中では、いろんな想いがぐるぐるしていたけど……。 

うまく言葉にならなかった。 

だから、ただ焚き火の音を聞きながら、時間が過ぎていくのだった。 


817 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 12:12:50.31 ID:glPDjztN0


    *    *    * 





善子「──ん……」 


肩に何かが掛けられるような感触で、意識が覚醒する。 


花丸「あ……ごめん、起こしちゃった?」 


どうやら、ずら丸が毛布を掛けてくれていたようだった。 


善子「……いや、元々そんなに深く寝入ってたわけじゃないから……ありがと」 

花丸「うぅん」 


改めて、周りを見回すと、 

 「ソル…」 

アブソルが身を寄せてくれているから、暖かかった他に、 

 「ワラシ…」 

何故かユキワラシが一匹だけ、私に寄り添って寝ていた。 


花丸「ユキワラシは恩を大切にするって言い伝えもあるからね。ご飯をくれた善子ちゃんに懐いたのかもね」 

善子「恩なんて大袈裟な……」 


肩を竦める。 

 「ウリム……zzz」 

一方ずら丸の膝の上ではウリムーが寝息を立てていた。 

意気投合しすぎでしょ。 

呆れながらも、ずら丸の顔を覗き込むと、 


善子「ずら丸……? あんた、その顔どうしたの?」 

花丸「え? あ、えっと……」 


ずら丸の目は赤く腫れていた。 


善子「……泣いてたの?」 

花丸「……ちょっとだけ」 

善子「……どうしたの?」 

花丸「…………」 


ずら丸は少しだけ迷っていたけど、 


花丸「……マルは無力だなって思って」 


ぽつりぽつりと話し始めた。 
818 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 12:14:53.60 ID:glPDjztN0

花丸「マルが旅に出たのもね、ルビィちゃんの手助けが出来ればって思って旅に出たんだけど……結局ルビィちゃんは攫われちゃうし、オラは結局ルビィちゃんが攫われる手助けをしちゃってただけなんじゃないかなって」 

善子「ずら丸……」 

花丸「ルビィちゃんは旅の中でどんどん成長して……今までみたことないような勇気や強さを身につけたりしてたのに、マルは結局なんのためにいたんだろうなって」 

善子「……考えすぎよ」 

花丸「そうかな……」 

善子「そうよ。あんたはずっと……ルビィにとって大切なものを優先して見守ってた、ただそれだけでしょ」 

花丸「でも、結果としてルビィちゃんは……」 

善子「それこそ結果論じゃない」 

花丸「それは……」 

善子「あんたはそれでいいのよ。ただ、背中を押してくれる友人がいるだけで、ルビィはきっと心強いはずよ」 

花丸「……えへへ。……うん、ありがと。善子ちゃんはやっぱり優しいね」 

善子「ぅ……/// べ、別にそんなんじゃないわよ……」 


面向かって優しいなんて言われて恥ずかしくなり、思わず顔を背ける。 


善子「それに善子じゃなくて、ヨハネだし……」 

花丸「ヨハネ……そういえば、それってなんなの?」 

善子「……くっくっく、これは堕天使ヨハネに授けられた真名──」 

花丸「昔は、そんなこと言ってなったのに」 

善子「ぜ、前世の話はいいのよ!」 


私は再び顔を背ける。 


花丸「……マルと過ごした時間、覚えてない?」 


ずら丸は少し寂しそうに言う。 

私が引っ越す前、幼少期にウチウラシティで一緒に過ごした時間のことだろう。 


善子「忘れてないわよ……」 

花丸「……それとも、善子ちゃんにとって……あの時代は忘れたいものなの?」 

善子「べ、別にそういうことじゃ……」 


なんか誤解されてる。 

私は頭を掻いて── 


善子「……カッコ悪かったからよ」 


そう言った。 


花丸「格好悪かった……?」 

善子「私……無知だったから、ポケモンマスターになるとか豪語してたのに……セキレイシティに引っ越して、とんでもなく強いトレーナーに出会って、思い知った」 


あの規格外に強い鳥ポケモン使いのお姉さんに出会って、ね。 


善子「あんたはいっつも、私の語る夢を楽しそうに聞いててくれたから……なんか、それが子供の妄想だってわかったとき無性に恥ずかしくなって」 

花丸「それで、15番水道で再会したとき、嘘の名前を……?」 

善子「……今更ポケモンマスターを目指してた時代を知ってるずら丸に会うのが……なんか、恥ずかしかったというか……」 
819 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 12:16:02.49 ID:glPDjztN0

……まあ、別にヨハネは嘘の名前ではないけどね? 


花丸「ふ、ふふ……」 

善子「って、何で笑うのよ!?」 

花丸「善子ちゃん、変なところで見栄っ張りなのも昔から変わってないね」 

善子「な、なによ……」 

花丸「善子ちゃんは、善子ちゃんだよ。マルにとってそれは変わらない」 

善子「…………」 

花丸「ホントは優しくて、いろんなポケモンと仲良しな善子ちゃんは今も変わってないよ。ね?」 


ずら丸の視線の先で、 

 「ワラシ…」「ソル」 

いつの間に目を覚ましたのか、ユキワラシとアブソルが擦り寄ってくる。 


花丸「ユキワラシもアブソルも、善子ちゃんの優しさに気付いたから、こうして傍に居てくれるずら。それは今も昔もマルが知ってる善子ちゃんの優しさと変わってなかったよ」 

善子「……全くあんたには敵わないわね」 


再び肩を竦めざるを得なかった。結局取り越し苦労だったということだ。 

……ま、今更堕天使をやめるつもりはないけど。 

私は横になる。 


花丸「善子ちゃん、寝るの?」 

善子「……天気がよくなったら、忙しくなるからね。今のうちに休んでおかないと。ずら丸、あんたも」 

花丸「……うん、そうだね」 


ずら丸もそう言って横になる。 

そして、背中に温度を感じる。 


善子「……なんで抱きついてくるのよ」 

花丸「こっちの方が暖かいずら」 

善子「……勝手にしなさい」 

花丸「うん、おやすみ。善子ちゃん」 


明日に備えて、私たちは眠りに就くのだった。 





    *    *    * 





──夜が明けた。 


理亞「ん……」 


体を起こして、辺りを確認すると、ボロ小屋の隙間から太陽の光が差し込んでいた。 

どうやら、吹雪は晴れたようだ。 

辺りを見回して──ルビィの姿がないことに気付く。 
820 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 12:16:55.49 ID:glPDjztN0

理亞「……しまった!?」 


この晴天、ルビィは先に起きて逃げ出したのだと気付き、小屋を飛び出る、と 


ルビィ「あ、理亞ちゃん」 


ルビィは小屋の外で、待っていた。 


理亞「……逃げたのかと思った」 

ルビィ「ルビィが逃げたら、理亞ちゃん困るでしょ?」 

理亞「……は?」 

ルビィ「ルビィね、一晩中考えてたんだけど……」 

理亞「何を?」 

ルビィ「女王様が理亞ちゃんを助けた理由……。やっぱり、理亞ちゃんは悪い人じゃないんじゃないかなって」 

理亞「……は??」 

ルビィ「……ルビィはディアンシー様が選んだ人たちを見極める必要があると思うから」 

理亞「……なんかよくわかんないけど、逃げないならそれでいい」 


私がそのまま歩き出そうとしたとき、 


 「そうですね、それは助かります」 


声がした。 
821 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 12:18:10.00 ID:glPDjztN0

ルビィ「え……?」 


──ドス。鈍い音がした。 

直後、ルビィが膝から崩れ落ちる。 


理亞「!? ルビィ!?」 

 「大丈夫、抵抗されないように、大人しくさせるだけですよ」 


崩れ落ちるルビィの体を後ろから支えるのは── 


理亞「……聖良、ねえさま」 


他の誰でもない、聖良ねえさま。 


ルビィ「……聖、良…………?」 

聖良「直接会うのは初めましてですね。ルビィさん」 

ルビィ「……お姉ちゃん、が言ってた……研究所に……来てた、研究者……さん……なん、で……」 

理亞「ねえさま……」 

ルビィ「……ねぇ、さま……? ……聖良さんが……理亞ちゃんの……お姉、ちゃん……?」 

聖良「理亞、吹雪で連絡が途絶えたときは心配しましたよ」 

理亞「ねえさま……ごめんなさい」 

聖良「いえ、でもこうしてクロサワの巫女を捕えてきてくれた。お手柄です。ツンベアー」 
 「ベア」 

聖良「この子を運んでもらってもいいですか?」 
 「ベア」 

ルビィ「ぅゅ……」 


完全に奇襲からの一撃を食らって、ルビィは意識が混濁している様子だった。全く抵抗しない。 


理亞「ね、ねえさま……」 

聖良「何してるんですか、理亞。行きますよ」 

理亞「……はい」 

聖良「やっと……私たちの計画の最後のピースが揃ったんですから……」 


ねえさまはそう言いながら──笑うのだった。 


822 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/09(木) 12:19:10.74 ID:glPDjztN0


>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【グレイブマウンテン】 
 口================= 口 
  ||.  |●●                 _回../|| 
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  || 
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   || 
  ||.  | |       回 __| |__/ :     || 
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     || 
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     || 
  ||.  | |.      | |           |     || 
  ||.  | |____| |____    /      || 
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  || 
  ||.  | |      | |  _.    /      :   || 
  ||.  回     . |_回o |     |        :   || 
  ||.  | |          ̄    |.       :   || 
  ||.  | |        .__    \      :  .|| 
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .|| 
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .|| 
  ||.      /.         回 .|     回  || 
  ||.   _/       o‥| |  |        || 
  ||.  /             | |  |        || 
  ||./              o回/         || 
 口=================口 

 主人公 ルビィ 
 手持ち メレシー Lv.35 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき 
 バッジ 0個 図鑑 未所持 

 主人公 善子 
 手持ち ゲッコウガ♂ Lv.44 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい 
      ヤミカラス♀ Lv.43 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい 
      ムウマ♀ Lv.42 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき 
      ランプラー♀ Lv.46 特性:もらいび 性格:れいせい 個性:ぬけめがない 
      ユキワラシ♀ Lv.40 特性:せいしんりょく 性格:おくびょう 個性:こうきしんがつよい 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:113匹 捕まえた数:47匹 

 主人公 花丸 
 手持ち ハヤシガメ♂ Lv.31 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい 
       ゴンベ♂ Lv.31 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき 
      デンリュウ♂ Lv.31 特性:プラス 性格:ゆうかん 個性:ねばりづよい 
      キマワリ♂ Lv.30 特性:サンパワー 性格:きまぐれ 個性:のんびりするのがすき 
      フワライド♂ Lv.29 特性:ゆうばく 性格:おだやか 個性:ねばりづよい 
      ウリムー♂ Lv.38 特性:あついしぼう 性格:ようき 個性:たべるのがだいすき 

      アチャモ♂ Lv.39 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい 
      アブリボン♀ Lv.28 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき 
      ヌイコグマ♀ Lv.40 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい 
      ゴマゾウ♂ Lv.41 特性:ものひろい 性格:さみしがり 個性:ものをよくちらかす 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:88匹 捕まえた数:36匹 


 ルビィと 花丸と 善子は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 



824 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 00:32:33.46 ID:Q+x1d3Jo0

■Chapter060 『決戦! ヒナギクジム!』 【SIDE Riko】 





メブキジカの背に揺られながら、 


梨子「やっと着いたね……」 
 「ブルル」 


やっと辿り着いた。 


梨子「ヒナギクシティ……!」 


11番道路が開通したお陰でローズシティからも行けるというのは聞いていたけど……。 

それでも、思った以上に勾配の激しく、長い道路だったため、時間が掛かってしまった。 

先に見える町は、西南北が高い山に囲まれている。 

その中でも北の山は、 


梨子「道路からもずっと見えてたけど、近付くとすごい迫力だね……」 
 「ブルル」 


地方最大の山──グレイブマウンテンがその存在感を示していた。 

ここも絶景の宝庫だ。 

だから、見てみたいところはたくさんあるんだけど……。 


梨子「とりあえず、ポケモンセンターかな……」 


手持ちを回復させたい。 

それに、主目的は他にあるし、 


梨子「回復したら、ヒナギクジムに挑戦しに行こう」 
 「ブルル」 


私はメブキジカを促して、歩き出した。 





    *    *    * 





──ヒナギクジム。 


梨子「……すみませーん!」 


ジムの扉を押し開いて入る。 

ジムの奥では、一人の女性が立っていた。 

恐らくヒナギクジムのジムリーダー、希さんだ。 


希「──待ってたよ」 


希さんはゆっくりとこちらに視線を向けてくる。 
825 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 00:35:34.17 ID:Q+x1d3Jo0

希さんはゆっくりとこちらに視線を向けてくる。 


梨子「ジムに挑戦しに来ました! タマムシシティの梨子です!」 

希「来ると思ってたから、ウチの準備は万端やんな。使用ポケモンは4体、相手のポケモンを先に3体、戦闘不能にさせた方が勝ちやからね」 

梨子「! は、はい!」 


妙にトントン拍子で話が進むな……とは思うけど、話が早いのはそれはそれで助かるから、まあいいか。 

私はボールを構えた。 


希「ヒナギクジム・ジムリーダー『スピリチュアルラッキーガール』 希。それじゃ、はじめよか」 


お互いのボールが宙を舞う、バトル開始だ──。 





    *    *    * 





梨子「行け! ピジョット!」 
 「ピジョットォ!!!!」 


私の一番手は、ピジョンが進化した姿、ピジョットだ。 


希「ニャオニクス、行くよ」 
 「ニャオ」 


一方、希さんの初手は白色の猫ポケモン、ニャオニクス。 

 『ニャオニクス よくせいポケモン 高さ:0.6m 重さ:28.0kg 
  危険が 迫ると 耳を 持ち上げ 10トン トラックを 捻り潰す 
  サイコパワーを 解放する。 耳の 内側の 目玉模様から 
  サイコパワーを 出すが あまりにも 強力なので 塞いでいる。』 


希「ニャオニクス、“サイケこうせん”!」 
 「ニャー」 


ニャオニクスからエスパーのエネルギーを収束したビームが放たれる。 


梨子「ピジョット! 避けながら、“つばさでうつ”!」 
 「ピジョッ」 


ピジョットは器用にビームを撹乱しながら、ニャオニクスに近付いていく。 

ビームを掻い潜るように、旋回しながら、 

 「ピジョッ!!!」 

攻撃が確定で通る圏内に入った瞬間加速する。 

──と思った矢先、 


希「“じんつうりき”!」 
 「ニャオッ」 

 「ピジョッ!?」 

見えない力に阻まれて、後ろに撥ね退けられる。 
826 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 00:37:16.34 ID:Q+x1d3Jo0

梨子「ピジョット!?」 

希「そのまま、“サイコショック”!」 
 「ニャォー」 

梨子「!」 


ピジョットの周りに突如、実体化した念波で出来たブロックが襲い掛かってくる。 


梨子「“かぜおこし”!」 
 「ピジョッ!!!」 


体勢を崩しながらも、懸命に風を起こすが、 


希「それくらいでサイコパワーの勢いは止まらないよ」 


健闘虚しく、攻撃が直撃する。 


梨子「ピジョット!!」 
 「ピ、ピジョォ!!!」 


ダメージを貰って多少フラついたが、幸い致命傷にはなっていない。 

この射程差、厄介だな……。 

エスパータイプは性質上、目が届く場所なら、かなりの広範囲を自由に攻撃出来る。 


希「厄介思うとるね、この射程差」 

梨子「……!」 


思考が読まれてる。 

真姫さんの言っていた通りってことか……。 



────── 
──── 
── 


真姫「希はね、エスパーなの」 

梨子「エスパー……? えっと……スプーンを曲げたりするやつですか?」 

真姫「そ。そのエスパーよ。信じがたいけど、本物。特にバトルしてるときのテレパシーは厄介ね」 

梨子「思考を読まれるってことですか……? それされたら誰も勝てないような……」 

真姫「まあ間違いなく、きつい戦いになるとは思うけど……ただ、そのテレパシーも完璧じゃない。なんでもかんでも事細かに読み取れてたら、希の頭がパンクしちゃうからね」 

梨子「……なるほど」 


── 
──── 
────── 



噂通り、テレパスで簡単な思考くらいなら読めるらしい。なら、長考すればするほど、相手の思う壺だ。 

読み取る暇がないくらいのスピードで戦わなきゃ……! 


梨子「ピジョット! “こうそくいどう”!!」 
 「ピジョッ!!!」 


ピジョットが力強く羽ばたき加速する。 
827 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 00:38:02.44 ID:Q+x1d3Jo0

希「なるほど、スピードで畳み掛ける作戦なんやね」 
 「ニャオ」 


ニャオニクスの目が光る。 

何か仕掛けてくるのかもしれない、が。 


梨子「“エアスラッシュ”!!」 
 「ピジョッ!!!」 


考えてる暇はない。 

風の刃を繰り出す、 

──が、 


梨子「!?」 


標的にしていた、ニャオニクスが消えた。 

いや、 

咄嗟にジム内を見回すと、 


 「ニャニャ」 


ニャオニクスは高速で走り回っている、 


梨子「……まさか! “じこあんじ”!?」 

希「正解!」 


“じこあんじ”は相手の能力変化をコピーする技。“こうそくいどう”が裏目になった。 

先ほどの遠距離攻撃とは打って変わって、距離を詰めようとしてくる、 

なら防御──! 


梨子「ピジョット、“ぼうふ──”」 

希「“さきどり”!」 
 「ニャォ」 

梨子「!?」 


ニャオニクスから、巨大な竜巻が発生して、 

 「ピジョッ!?」 

ピジョットを飲み込む、 


梨子「ピ、ピジョット!?」 


“さきどり”は相手の技を奪って、より大きな威力で押し付ける技だ。“ぼうふう”を奪われた。 

そのままピジョットは、竜巻によって空高く、打ち上げられる。 


希「さて、そろそろやな」 


空にいるピジョットの近く景色が急に揺らぐ。 


梨子「……な!? 今度は何……!!?」 

希「仕掛けさせて、もろたよ」 


その揺らぎは、そのまま収縮して、ピジョットを押し潰し── 
828 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 00:41:46.17 ID:Q+x1d3Jo0

 「ピ…ジョォッ!!!」 

梨子「ピジョット!!」 


そして、そのまま弾け飛んだ。高威力の念波攻撃だ。 

 「ピジョ…」 

気絶したピジョットが、力なく落ちてくる。 


梨子「もどれ! ピジョット!」 


墜落する前に、ボールに戻す。 


梨子「……今のは“みらいよち”……?」 

希「ふふ、キミは勘がいいね」 


先ほど光った目。あれは“じこあんじ”のモーションで攻撃は終わったものだと勝手に思ってたが、それは私の勘違いを誘うためのフェイク。本当は“みらいよち”で未来に攻撃をしている予兆だったようだ……。 

悉く、こっちの行動を逆手に取った技で翻弄してくる。 

完全に手のうちを読まれている気分。真姫さんの言った通りだ……この人、強い……。 


希「ふふふ」 


得意気な顔をする希さん。 

でも、それならこっちにも考えがある。 


梨子「チェリム! お願い!」 
 「チェリ-」 


私の二番手はチェリム、 


梨子「チェリム! “タネばくだん”!」 
 「チェリリ-」 


チェリムが自らの体を回転させながら、その勢いでタネを投げつける。 


希「ニャオニクス、“サイコキネシス”」 
 「ニャゥ」 


だが、攻撃はニャオニクスの念動力によって空中で静止してしまう。 


希「そんな直接的な攻撃じゃ、届かへんよ?」 

梨子「……ですね。……それが、“タネばくだん”ならですけど──」 

希「……!?」 


直後、タネが弾けて、タネの中から蔓が飛び出す。 


希「な!?」 


伸びた蔓は、そのままニャオニクスに絡みつく。 


希「“やどりぎのタネ”……!?」 

梨子「チェリム! “にほんばれ”!」 
 「チェリ──チェリリー!!!!」 
829 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 00:43:40.27 ID:Q+x1d3Jo0

相手が怯んだ隙に、天気を晴れに。 

チェリムの花が咲き誇り、ポジフォルムに姿を変える。 


梨子「“はなびらのまい”!!」 
 「チェリー!!!」 


そして、フィールド上に咲き誇る花びらたちがニャオニクスを襲う……! 


希「“ひかりのかべ”!!」 
 「ニャ、ニャォ!!!」 


“やどりぎのタネ”にエネルギーを吸われながらも、ニャオニクスは特殊攻撃を遮る壁を作り出す。 

対応が早い。 


梨子「……これは物理攻撃だけど」 


だが、花びらは“ひかりのかべ”を無視して、突き抜けていく。 

これは特殊技の“はなびらのまい”じゃない、物理技の“はなふぶき”だ……! 


 「ニャニャーー!?!?」 
希「っ!! 今度は“はなふぶき”!? ポケモンが、わざとトレーナーの指示と違う技を……!?」 


──真姫さん曰く、所謂超直感と言われるものは、五感の延長線上にあるものらしい。 

簡単に言うなら、相手が喋っている音を聞くときに、ちゃんとした声になる前の音を聞き取れる、そんなところだ。 

飛びぬけた観察力は超常的な力に見える。逆に超能力と言うのも、根本にあるのは飛びぬけた観察力だ。 


梨子「チェリム!」 

希「──!!」 


希さんがバッと耳を塞ぐ。 

希さんが仮に、本当に超常的で人智を超えた別のアプローチによるテレパスを使って、思考を読んでいるんだとしても、私の声による指示から受け取っている情報も普通の人より多いんだ。 

つまり、私の指示と実際に出してる技が違えば、耳からの情報を出来るだけシャットして、他の方法で心を読む必要が出てくる。 


梨子「“ウェザーボール”!!」 
 「チェリリー!!!!」 


チェリムが、頭上に向かって、丸い球体を打ち出す。 


希「“ウェザーボール”……!! いや、これは……あ、あれ? “ウェザーボール”やん!?」 


太陽の光に照らされた、“ウェザーボール”は太陽のような火球へと姿を変え、 

ニャオニクスに降り注ぐ、 


 「ニャ、ニャォー」 


身体をやどりぎのツタに絡め取られ自由に動けない、ニャオニクスを火球が直撃する。 


希「ニャオニクス……!?」 

梨子「“ソーラービーム”!!」 
 「チェリリー!!!!」 


そして、追い討ちを掛けるように、快晴の空から太陽光線が降り注いだ。 
830 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 00:45:16.90 ID:Q+x1d3Jo0

 「ニャニャーー!?!?!」 

希「……っ!!」 
 「ニャゥ…」 


ニャオニクスは立て続けの攻撃を受けて、後ろにコテンと倒れた。 


梨子「……よし!」 


ニャオニクス戦闘不能だ。 


希「……戻れ、ニャオニクス」 


希さんは戦闘不能になったポケモンをボールに戻しながら、 


希「……真姫ちゃんの入れ知恵みたいやね」 


眉を顰めながら、そう言葉を投げかけてくる。 


梨子「ふふ……どうでしょうかね」 


私はいじわるめに言葉をぼかした。 

まあ、真姫さんとの関係性については喋った覚えがないので、間違いなく思考を読まれたんだと思う。 

ただ奇襲作戦には成功だ。 

そもそも心を読んでくる相手だとわかっている以上、絡め手を用意せずに挑むわけがない。 

チェリムには最初からいくつかの技の指示をしたときに、他の技を出すように打ち合わせをしていたのだ。 

もし、希さんがちゃんと思考を読んで来ればその作戦もバレちゃうけど……でも、奇襲くらいにはなる。 

言ってることとやってることが違うんだからね。 


希「……キミも悪い子やね」 


まあ、しかしこんな奇策が使えるのも、付き合いが長いチェリムだからこそだ。 

何度も同じ手は通用しない。 


希「ウチの対して化かし合いで挑むんはいい度胸やないか。なら、次はこの子や」 


希さんがボールを放る。さあ、希さんの2匹目──。 





    *    *    * 




希「いくで、ヤレユータン」 
 「ユータン…」 


白い体毛の猿のようなポケモンが飛び出す。 


 『ヤレユータン けんじゃポケモン 高さ:1.5m 重さ:76.0kg 
  ジャングル奥地の 木の上に 棲む。 非常に 賢いことで 
  知られ 未熟な トレーナーは 見下す ベテラン向けの 
  ポケモン。 普段は 木の上で 瞑想して 過ごす。』 
831 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 00:47:18.31 ID:Q+x1d3Jo0

ヤレユータン……名前くらいしか聞いたことがない。珍しいポケモンだ。 

ただ、この戦闘に関しては手をこまねいていてもしょうがない。 


梨子「チェリム! “マジカルリーフ”!」 
 「チェリリー!!」 


チェリムから飛び出す大量の葉っぱたち、 


希「“じんつうりき”!」 
 「ユータン…」 


ヤレユータンが手に持っている扇子のような葉っぱを振ると、またしても念動力によって攻撃が中空で止められてしまう。 


希「これは“はっぱカッター”……ブラフはそこまで思い切ってないんやね」 
 「ユータン…」 


ヤレユータンが再び手に持っている葉っぱを振るうと、“はっぱカッター”がそのまま返って来る。 


梨子「戻ってきた……! “フラワーガード”!」 
 「チェリ!」 


“はなふぶき”でフィールドを舞っていた、花びらを自分の元に集めて壁を作る。 


希「“わるだくみ”」 
 「ユユータン…」 


その間にヤレユータンは能力を上昇させている。 

やっぱり、速度の遅い攻撃じゃ相手の起点にされてしまう。 

なら── 


梨子「“ソーラービーム”」 
 「チェリ…」 

梨子「え!?」 


“ソーラービーム”のチャージを始める──……ネガフォルムに戻ったチェリムが。 

咄嗟に上を向くと、屋根の外では雲がかかり、雨が降り始めていた。 


梨子「あ、“あまごい”されてる!?」 


普通室内に雨雲を発生させるはずなのに、外に技を出されたせいで気付かなかった。 

……不味い。 


希「チェリムはチャージで動けなくなってしもたね」 

梨子「……くっ」 


これは完全に詰みの状態だった。 


希「“サイコキネシス”!」 
 「ユータン…」 


強力な念波がチェリムに襲い掛かる。 

 「チェリー…」 

為す術もなく、チェリムに攻撃が直撃し、 


梨子「戻って、チェリム」 
832 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 00:50:51.35 ID:Q+x1d3Jo0

あえなく、戦闘不能。 

──3体目。 


梨子「お願い……! メガニウム!!」 
 「ガニュー!!!」 


飛び出したのは、ベイリーフが進化した姿、メガニウム。 

ボールから出ると同時にメガニウムは走り出す。 


梨子「メガニウム! “はなふぶき”!!」 
 「ガニュゥ~!!!」 


チェリムの残した花びらを継いで、フィールド内を花びらが舞い踊る。 


希「“サイコショック”!」 
 「ユータン」 


ヤレユータンからは物質化した、念波が再び飛んでくる。 

ただ、止まっちゃダメだ。“はなふぶき”で相殺しながら、メガニウムは突き進む。 

 「ガニュゥー!!」 

メガニウムはヤレユータンの数歩手前で踏み切って、跳んだ。 


梨子「“のしかかり”!」 


シンプルだが、大きな体躯を生かしたプレス技。 


希「“テレキネシス”!」 

梨子「!」 


だが、空中で動きを止められる。 


希「さっきとは打って変わって、ストレートな戦い方……緩急で揺さぶるのはいい作戦やね」 

 「ガニュゥ…!!!」 

希「ただ、もう少し距離を詰めないと、攻め切れなかったね」 

梨子「……」 


プレス技である以上、空中で止められてしまっては技は不発してしまう。 


 「ガニュゥー……!!!!!!」 

希「メガニウムも悔しそうやんな」 

梨子「……メガニウム!」 

 「ガニュゥッ!!!!!」 


浮かされたメガニウムは──無理矢理体を前に伸ばす。 


希「さすがに空中じゃ……」 


徐々に体は空中で前に進む。 


希「……!?」 


不発でいい。その悔しさをバネにして使う、反撃技の伏線だから。 
833 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 00:51:54.13 ID:Q+x1d3Jo0

梨子「いけ! メガニウム!!」 
 「ガッニュゥ!!!!」 


気合いで“テレキネシス”を振り切り、空中からそのまま飛び掛る……!! 


梨子「“じだんだ”!!」 

 「ガニュッ!!!!!」 

 「ユータン…!!!」 
希「……!!」 


体重を乗せて、思いっきり足で踏みつける。“じだんだ”は直前に技が失敗していると威力を増す技。 

ヤレユータンはその威力に、仰け反る。 


希「“しっぺがえし”!!」 
 「ユータ…!!!」 


腕を振るって、メガニウムを引き剥がす、が、 


梨子「“つるのムチ”!!」 
 「ガニュッ!!!!」 


この機会を逃がさない。 

“つるのムチ”はヤレユータンの腕と脚に巻きつき、動きをホールドする。 


梨子「さっきから、攻撃の際に振ってましたよね、その葉っぱの扇子!」 

希「……く」 


恐らく、あれがヤレユータンのサイコパワーを高める道具。 

あれを振ることによって技の威力を向上させている。 

なら、こうして抑え付ければその効果は激減する。 

組み合ってしまえば、こっちのものだ、 


梨子「メガニウム! “ギガドレイン”!!」 
 「ガニュッ!!!!」 


つるの触れた部分から、エネルギーを吸い取る。 


希「ヤレユータン! “じしん”!!」 
 「ユータ…!!!」 


ヤレユータンはグラグラと地面を揺すって攻撃してくる。 


希「力比べするなら、それはそれや! ヤレユータン、思いっ切り引っ張ってやりや!」 
 「ユータン…!!!」 


ヤレユータンが引っ張るが、 


 「ガニュッ」 


メガニウムは地に足を着いたまま、ビクともしない。 

まるで根っこでも生えたかのように──いや、 


希「“ねをはる”……!」 
834 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 00:52:57.04 ID:Q+x1d3Jo0

文字通り、足の裏からフィールドに根を生やしている。 

ちょっとやそっとのことで動くことはない。 


梨子「そのまま、吸い取れ!!」 
 「ガニュゥ!!!」 


組み合ったまま、エネルギーを吸い取りまくり、 

 「ユータ…ン…」 

最後には全てのエネルギーを吸い尽くされて、 

ヤレユータンは大人しくなった。 


希「……ヤレユータン戦闘不能やね。戻って」 

梨子「……よし!」 


一進一退だが、メガニウムは“ねをはる”と“ギガドレイン”で体力を回復しきっている。 

3匹目を前に万全の状態だ。 


希「さ、行くで……うちの3匹目、フーディ──」 


希さんがボール構えた瞬間。 

──ジムの外から轟音が響く。 


梨子「!?」 

希「なんや!?」 


そして、ぐらぐらと地が揺れる。 

さっきのポケモンの技とは違うタイプの揺れ。 


希「ただの地震……やないよね。ちょっとバトル中断してええかな……?」 

梨子「! は、はい……!」 


何か異常事態が起こっている。 

ジム戦をやっているどころじゃないようだ……。 





    *    *    * 





希さんと二人でジムから飛び出して、視界に飛び込んできたのは、 


希「な、なんやこれ……!!」 


街中を浮遊する、異常な数のゴーストポケモンたち、そして── 


梨子「……な、なに……? あれ……?」 


北の山から──巨大な物体が飛び立とうとしている姿だった。 


835 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 00:53:49.84 ID:Q+x1d3Jo0


    *    *    * 





善子「──な、何!? この音……!!」 


大きな音がして飛び起きる。 


花丸「ず、ずらぁ……?」 

善子「ずら丸、早く起きなさい!!」 


隣で寝ていた、ずら丸を叩き起こす。 


 「ソルッ!!!」 


そんなこんなしてる間にアブソルがほら穴を飛び出す。 


善子「あ、ちょっと待ってアブソル……!!」 


ずら丸の手を引きながら、追うようにほら穴の外に飛び出す。 

外は昨日の吹雪が嘘のように快晴だったが、 

その空には── 


善子「な、何あれ……!!?」 


山の陰から、巨大な飛空挺が今まさに飛び立とうとしているところだった。 

 「ソルル…!!!!」 

アブソルが威嚇している。 


善子「! まさか、あの中にいるの……!?」 

 「ソル…!!!」 


アブソルは一声あげてから一足先に走り出した。 


善子「……ヤミカラス、行くわよ!!」 
 「カァー!!!」 


私もヤミカラスをボールから出し、その脚に掴まる。 


花丸「ま、待って善子ちゃん!! マルも──」 


ずら丸もフワライドを出そうとするが、 

私はそんな、ずら丸にポケギアを投げつける。 


花丸「ずら!?」 

善子「ずら丸、あんたは助けを呼んでから、追って来て!」 

花丸「善子ちゃんは!?」 

善子「私だけでも乗り込めば、図鑑の位置情報で追いかけられるでしょ!? じゃあ、お願いね!」 


私はそれだけ残して、飛び出した。 


836 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 00:54:32.04 ID:Q+x1d3Jo0


    *    *    * 





まあ、そんなのは方便だ。 

相手のやっていることの規模が思った以上に大きい。ずら丸を巻き込むのは危険だと判断して、ポケギアを押し付けて飛び出したのだ。 

飛空挺を見失わないようにしながら、山肌を目で追うと、 


善子「いた……!」 


猛スピードで走るアブソルの姿。 


善子「ヤミカラス! アブソルにつけて!」 
 「カァーー!!!」 


ヤミカラスに指示を出し、アブソルに併走する。 


善子「アブソル!!」 
 「ソルッ!!」 

善子「あの飛空挺に行くのよね!?」 
 「ソルッ!!!!」 


アブソルは力強く頷いた。 


善子「空を飛ぶ必要がある! 連れてくから、一緒に行きましょう!!」 
 「! ソル!!」 


私がダークボールを構えると、アブソルはそこに向かって飛び込んできた。 


善子「さぁ、行くわよ……!!」 
 「カァー!!!」 


飛空挺に乗り込むために、私たちは空を駆り出した。 


837 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 00:55:40.90 ID:Q+x1d3Jo0


>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【ヒナギクシティ】【グレイブマウンテン】 
 口================= 口 
  ||.  |●●                 _回../|| 
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  || 
  ||.  ●____  |    | |     |__|  ̄   || 
  ||.  | |       回 __| |__/ :     || 
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     || 
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     || 
  ||.  | |.      | |           |     || 
  ||.  | |____| |____    /      || 
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  || 
  ||.  | |      | |  _.    /      :   || 
  ||.  回     . |_回o |     |        :   || 
  ||.  | |          ̄    |.       :   || 
  ||.  | |        .__    \      :  .|| 
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .|| 
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .|| 
  ||.      /.         回 .|     回  || 
  ||.   _/       o‥| |  |        || 
  ||.  /             | |  |        || 
  ||./              o回/         || 
 口=================口 

 主人公 梨子 
 手持ち メガニウム♀ Lv.46 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり 
      チェリム♀ Lv.44 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい 
      ピジョット♀ Lv.45 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん 
      ネオラント♀ Lv.39 特性:すいすい 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい 
      メブキジカ♂ Lv.44 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん 
 バッジ 4個 図鑑 見つけた数:105匹 捕まえた数:13匹 

 主人公 善子 
 手持ち ゲッコウガ♂ Lv.44 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい 
      ヤミカラス♀ Lv.43 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい 
      ムウマ♀ Lv.42 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき 
      ランプラー♀ Lv.46 特性:もらいび 性格:れいせい 個性:ぬけめがない 
      ユキワラシ♀ Lv.40 特性:せいしんりょく 性格:おくびょう 個性:こうきしんがつよい 
      アブソル♂ Lv.54 特性:せいぎのこころ 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:113匹 捕まえた数:48匹 

 主人公 花丸 
 手持ち ハヤシガメ♂ Lv.31 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい 
       ゴンベ♂ Lv.31 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき 
      デンリュウ♂ Lv.31 特性:プラス 性格:ゆうかん 個性:ねばりづよい 
      キマワリ♂ Lv.30 特性:サンパワー 性格:きまぐれ 個性:のんびりするのがすき 
      フワライド♂ Lv.29 特性:ゆうばく 性格:おだやか 個性:ねばりづよい 
      ウリムー♂ Lv.38 特性:あついしぼう 性格:ようき 個性:たべるのがだいすき 

      アチャモ♂ Lv.39 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい 
      アブリボン♀ Lv.28 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき 
      ヌイコグマ♀ Lv.40 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい 
      ゴマゾウ♂ Lv.41 特性:ものひろい 性格:さみしがり 個性:ものをよくちらかす 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:88匹 捕まえた数:34匹 


 梨子と 善子と 花丸は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 



838 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 01:38:37.68 ID:Q+x1d3Jo0

■Chapter061 『潜入! グレイブ団飛空挺!』 





──飛び立った善子ちゃんを見送る。 

勢いで押し切られてちゃったけど……。 


花丸「とにかく、助けを……」 


ポケギアをポチポチと弄る。 


花丸「……これ、どうやって操作すればいいんだろう……」 


どうにかこうにか、何度もボタンを押してみて、 

連絡先一覧を開く、 


花丸「出来たずら! ……えっと、この中から助けを……」 


そこに並んでいる、名前。 

 『ママ 
  パパ』 


花丸「……」 


誰に助けを求めろと……? 


花丸「……いや、さすがに他にいるはず……」 


ポチポチと下にスクロールしていくと── 

見知った名前が目に入ってくる。 


花丸「ずら!? なんで、善子ちゃんのポケギアに……」 


……まあ、それはいい。 

とにかく掛けてみよう。 


花丸「えい!」 


──ツーツーツーツー。 


花丸「ずら……?」 


繋がらない。 


花丸「なんで?? 壊れたずら……??」 


画面をじーっと凝視してみて、原因に気付く。 


花丸「……ここ、圏外ずら」 


これじゃ、そもそも繋がらない。 


花丸「う、うーん……一旦下山する……?」 
839 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 01:40:13.01 ID:Q+x1d3Jo0

電波さえあれば……。 


花丸「……電波? ……もしかしたら」 


マルはあることを思いつく。 


花丸「デンリュウ!」 
 「リュー」 

花丸「電波を飛ばしたり出来るずら?」 
 「リュー?」 


デンリュウはでんきポケモン。もしかしたら音声を載せた電波を飛ばすだけなら、出来るかもしれない。 

 「リュー」 

デンリュウは尻尾をポケギアに乗せて、頭のライトをピカピカと光らせる。 


花丸「お願い……掛かって……!」 


マルは祈りながら、ポケギアのボタンを押し込んだ。 





    *    *    * 





──ウチウラシティ。 


千歌「それでね、必殺の一撃を海未師匠から教わって──」 

ダイヤ「ふふ、そうだったのですわね」 


私はジム戦を終えて、ダイヤさんにお土産話をしている真っ最中だった。 


千歌「その必殺技でセキレイジムは……」 

 『──カチャン!!! ──千歌ちゃん!!!』 

千歌「……ん?」 


なんか聞こえたような……。 


ダイヤ「ポケギアが鳴ってるのではないですか?」 


ダイヤさんの指摘通り、確かにポケギアを入れたポケットから音がしている。 


千歌「……なんだろ?」 


ポケギアを取り出すと、 


千歌「──善子ちゃん?」 


画面表示には善子ちゃんと通話が繋がっている表示。 

いつ繋げたんだろう……? 

とりあえず耳に当ててみる。 
840 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 01:41:33.13 ID:Q+x1d3Jo0

 『千歌ちゃん! こちら花丸ずら!!』 

千歌「……?? 花丸ちゃん??」 

ダイヤ「花丸さんから? あの子ポケギア持っていたかしら……?」 

花丸『うぅ、これ聞こえてるのかな……』 

千歌「花丸ちゃん? もしもし、聞こえてるよ?」 

花丸『と、とにかく聞こえてるって仮定で話すずら!』 

千歌「……?」 


話がかみ合わない。もしかして、こっちの声は聞こえてない? 


花丸『グレイブマウンテンの東側から、大きな飛空挺が出てきて!! そこにルビィちゃんが攫われてて、善子ちゃんが助けに──』…ザザザ 

千歌「!? え、何!? どういうこと!?」 

ダイヤ「……千歌さん?」 

千歌「もしもし!! 花丸ちゃん!? もしもし!!」 


花丸ちゃんはそれだけ言うと後は──ザザザと言う音がするだけで何も聞き取れなくなってしまった。 


千歌「た、大変だ……!!」 


私は椅子から立ち上がった。 


ダイヤ「何か、あったのですわね?」 

千歌「! うん!」 


私は口早にダイヤさんへの説明を始めた──。 





    *    *    * 





花丸「──大きな飛空挺が出てきて!! そこにルビィちゃんが攫われてて、善子ちゃんが助けに行ってて……!!」 


電話口に向かって叫ぶ中、 

急に背筋がゾッとする。 

第六感が急に緊急事態を自分に報せて来るような、そんな感覚。 


花丸「な、何……?」 


静かな山には──パラパラと言う音だけが……。 

パラパラ……? これは何の音? 

視線を山の上の方に向けると、小さな雪粒が転がってきている。 

そして、その遥か後方からは── 


花丸「……嘘」 


その光景に思わず、ポケギアを手から滑り落とす。 


花丸「……あれ……雪崩、ずら?」 
841 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 01:43:25.33 ID:Q+x1d3Jo0

迫り来る雪の塊。 

その光景にマルは唖然として立ち尽くしていた。 





    *    *    * 





──こちら堕天使。 

真っ白な飛空挺はそこまですごいスピードというわけではなく、南東に向かって旋回している真っ最中だ。 

しかし、それにしても……。 


善子「なんてでかさよ……!!」 


豪華客船クラスの大きさの船が空を飛んでいると思ってもらえればわかりやすいだろう。 

大きなウイングとボディに大量に取り付けられたプロペラたちが絶えず大きな音を響かせている。 


善子「何で山奥になんか逃げてるのかって思ってたけど……こんなの隠すには、山奥しかないわよね」 


とにもかくにも……空中で手をこまねいている場合じゃない。 


善子「ヤミカラス、とりあえず甲板へ!」 
 「カァーー!!!」 


私たちは飛空挺目指して、羽ばたく。 





    *    *    * 





花丸「も、戻ってデンリュウ!! ハヤシガメ!!」 
 「ガメッ!!!」 


その光景の現実感のなさに、足が止まってしまった。 

飛空挺が飛び立つときの振動と轟音で、雪崩が発生したんだ。 

我に返ったときにはもう雪崩はすぐ傍で、岩陰を探す暇もなく。 


花丸「ハヤシガメ!! “せいちょう”!!」 
 「ガメッ!!!!」 


マルは“せいちょう”して、僅かに重くなったハヤシガメの体に掴まる。 

直後、真っ白な雪崩はマルたちを一気に飲み込む。 


花丸「ず、ずらぁ……!!」 
 「ガ、ガメェ!!!!」 

花丸「ハ、ハヤシガメ、頑張って……!!」 
842 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 01:45:04.98 ID:Q+x1d3Jo0

どうにか踏ん張ってもらうしかない、 

マルは必死にハヤシガメの体にしがみつく。 

──でも、 

 「ガメッ!!?」 

雪崩の勢いに押し負けて、ハヤシガメの体が、浮く、 


花丸「……っ!!」 


南無三……!! 

諦めかけた瞬間、ハヤシガメが光った。 


花丸「!! 進化!!」 

 「──ドダイッ!!!!」 


ハヤシガメ、もといドダイトスが超重量級まで増した体重で地面を踏みしめる。 

マルはドダイトスの背中の木に必死で掴まる。 


花丸「ドダイトス……!! 頑張って!!」 
 「ドダイッ!!!!」 


ハヤシガメから3倍以上もの体重になった、ドダイトスはビクともしない、これなら……!! 

だけど、運命は無情なもので── 

──バキリという音と共に、 


花丸「ずら!?」 
 「ドダイッ!?」 


ドダイトスの踏みしめる崖が過重に耐え切れず、崩れ始める。 

──浮遊感、そして大量の雪塊が襲ってくる。 

ここからは反射だった。せめて、ポケモンは安全なボールの中に……!! 

ドダイトスをボールに戻し──。 


花丸「ごめん……ルビィちゃん……善子ちゃん……」 


マルは為す術なく、雪崩に押し流され──。 


 「──ラグラージ!!! ふっとばせ!!! “アームハンマー”!!!!」 
  「ラァグ!!!!!」 

花丸「──ずら!?」 


と思った瞬間、視界を多い尽くす、雪が── 一瞬にして吹き飛び、空が見える。 

その空から人影が飛び出してきて、 


花丸「な、なんずら!?」 


マルを抱きかかえて、走り出す。 

素早く、近くの岩陰に潜り込み、 

そのまま、抱き寄せられる。 
843 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 01:46:45.19 ID:Q+x1d3Jo0

 「ちょっとの辛抱だから、じっとしててね!」 

花丸「……!」 


その後、数十秒程そのまま耐えていると……大きな音が鳴り止んだ。 


 「大丈夫、マル?」 

花丸「ず、ずらぁ……」 


その懐かしい声と、この抱擁の感覚。この人は── 


花丸「果南ちゃぁん……っ!!」 

果南「ふふ、無事みたいだね。よかった」 


どうにか、マルは九死に一生を得たようです……。 





    *    *    * 





──こちら堕天使。甲板に降り立ったところで……。 


善子「思ったより、警備は手薄ね……」 


……まあ、飛空挺の甲板は風が吹きさらし状態で、気を抜くと吹っ飛ばされる。 

だから、人がうろうろしてたらそれはそれで変だけど。 


善子「ゲッコウガ」 
 「ゲコ」 


ゲッコウガを出して、先行させる、 


善子「とりあえず、中に入らないとね……」 


甲板上で中に続くドアを見つけ、そこまで走る。 


善子「……さすがにロックされてるわよね」 


……当たり前だが、ドアは開かない。 


善子「出来るだけ隠密がいいけど……しゃーなし! ぶった切れ!」 
 「ゲコッ!!!」 


ゲッコウガは水のクナイで扉を切り裂く、 

そのまま、私はドアを蹴破って、中に転がる、 


善子「ゲッコウガ!!」 
 「ゲコッ!!!」 


敵陣に侵入したんだ、のんびり観察してる暇はない。 

案の定奥からは── 


グレイブ団員「侵入者、侵入者」 
844 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 01:48:15.55 ID:Q+x1d3Jo0

3人ほどの団員がわらわらと寄って来る。 

ゲッコウガと共に跳ねて、天井に張り付き、 


グレイブ団員「侵入者」 


やってきた、団員のうちの一番後ろに居る一人の上に飛び降りる、 


グレイブ団員「侵入──」 


残り二人の団員が振り返った瞬間、 


善子「“かげうち”!!」 


入口に残してきた、ゲッコウガの影が、団員達を殴りつけた。 


グレイブ団員「…………」 


どうにか手早く三人を伸して……。 


善子「……やっぱりここのも操られてるのね」 


私はそれを確認しながら、 


善子「ただ、これではっきりした……この飛空挺は間違いなくグレイブ団の所有物ってことよね」 


私は身を隠しながら、飛空挺を進んでいく。 





    *    *    * 





相変わらず、自我のない団員たちのザル警備のお陰ですいすい進めてはいるのだが……。 


善子「さすがに前よりは、警備にウェイトが置かれてるわね……」 


姿を見られたら流石に攻撃を仕掛けてくるし、物音だけでも確認にやってくる。 

ここまで数人は倒してきたけど……。 


善子「この飛空挺、どんだけ広いのよ……!!」 


何層にも分かれた内部構造の中で、私はどうやら最上部をうろついているようだ。 

どうにか下層に行きたいんだけど……。 

敵の目を掻い潜りながら、探索するのはかなり時間が掛かる。 

突入してから、どれくらい時間経ったっけ……。 

体内時計が狂ってないなら、1時間以上は経過してるはずだ……。 


善子「こっちは、さっさとルビィ見つけて、脱出したいのに……!!」 

 「──ならさっさと出てってくんない?」 

善子「!?」 
845 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 01:49:56.47 ID:Q+x1d3Jo0

──背後から声、 

振り下ろされる鎌、 


善子「ゲッコウガ!!」 
 「ゲコガッ!!!」 


私が咄嗟にしゃがむのと同時に、鎌を水のクナイで受け止める、 

私はそのまま、滑る様にゲッコウガの背後に身を逃す。 


善子「! カブトプス……!!」 

 「カブ…!!!」 


ゲッコウガと今まさに鍔迫り合いしているのはカブトプスだった。 

そして、その背後には、 


善子「理亞……!!」 

理亞「…………」 


ルビィを攫った張本人。 


理亞「“きんぞくおん”!!」 
 「カブトッ!!!!」 


擦れあった、お互いの武器から、耳障りの音が響きだす。 


善子「……っ!!」 
 「ゲコガッ」 


怯んだところに、 


理亞「“マッドショット”!!」 
 「カブッ!!!」 


泥弾を打ち込まれる。 


善子「くっ……!!」 


不味い、押される。 

逃げようと体を動かすが、 

──上手く動かない。 


善子「何!?」 


視線をやると、足に“マッドショット”がこべりついて固まっている。 


理亞「……手間掛けさせないで、“アクアジェット”!!」 
 「カブッ!!!」 

善子「く…………!!」 


水流を纏ったカブトプスが飛び出して──来なかった。 


理亞「カブトプス……?」 
 「トプス…ッ!!!」 
846 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 01:51:40.61 ID:Q+x1d3Jo0

カブトプスは何かに威圧されて、動けないような、そんな様子。 

次の瞬間、 

声が降って来た。 


 「“じょおうのいげん”に平伏しなさい!!」 

理亞「!?」 

 「アマージョ!! “ふみつけ”!!」 
  「マージョッ!!!!」 

  「カブッ!!!?」 


背後から、降って来る攻撃に対応できずカブトプスは踏みつけられる。 

増援……!! 助かった!! 


理亞「!! クロサワ・ダイヤ……!!」 

ダイヤ「クロサワの入江以来ですわね!! アマージョ、“トロピカルキック”!!」 
 「マージョ!!!」 


そのままカブトプスを足蹴にして、理亞の方に蹴り飛ばす。 


理亞「ち……!! オニゴーリ!! 凍らせろ……!!」 
 「ゴォーリ!!!!」 


すかさず繰り出されたオニゴーリが一気に辺りを凍てつかせようとするが、 


 「させない!! バクフーン!!」 
  「バクフー!!!!!」 

理亞「何!?」 
 「ゴォーリ!!!?」 


熱波が冷気を一気に吹き飛ばす。 

聞き覚えのある声。この声は── 


千歌「善子ちゃん、お待たせ!!」 

善子「遅いわよ、千歌……!!」 


バクフーンの熱気で、辺りの水分も蒸発し、私の足に纏わりついていた泥も、パラパラと崩れ落ちる。 


善子「助かった……」 

ダイヤ「これで、形勢逆転ですわね」 

理亞「く……」 


今度は理亞が半歩、身を引く。 

そのとき、理亞が耳にしていたインカムに手を当てる。 


理亞「撤退!? ねえさま、でも!」 


どうやら引くように言われているようだ。 


理亞「……了解」 


しぶしぶだったが、理亞はそのまま、身を翻して撤退していった。 
847 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 01:52:42.68 ID:Q+x1d3Jo0

千歌「善子ちゃん、大丈夫!?」 

善子「お陰様で……ってか、ヨハネだからね!?」 


どうやら、ずら丸が呼んでくれた増援が間に合ったようで……助かった。 


ダイヤ「……貴方が善子さんですか」 

善子「……な、なに?」 


ダイヤと呼ばれた人が私を睨みつけてくる。 

……確か、ウチウラジムのジムリーダーよね。 


ダイヤ「……貴方には言いたいことは山ほどあるのですが……今はこの状況を打開するのが先ですわね」 


そう言いながら、ダイヤは先に進んでいく。 


千歌「ここにルビィちゃんが居るって言うのは本当……?」 

善子「ええ……。たぶんここの奥で捕まってる」 

ダイヤ「なるほど……」 

善子「ただ、艦内が広すぎて……どこにいるんだか」 


言いながら、腰でカタカタ震えるボールに気付く。 

アブソルのボールだ、外に出してあげると、 


 「ソルッ」 


アブソルは私に一礼したあと、艦艇の奥へと走り出した。 


千歌「善子ちゃん、あの子行っちゃうよ?」 

善子「……ここまで連れてくるのが目的だったから、いいの」 

千歌「? そっか」 


とにもかくにも、ルビィの居場所を考えないと。 


ダイヤ「……ルビィの図鑑を辿るというのは……」 

善子「今ルビィは図鑑を持ってないわ……持ってるのはメレシーだけ」 

ダイヤ「メレシー……コランのことですわね。それなら、ボルツ」 
 「メレシ…」 


ダイヤはボルツと呼ばれるメレシーを繰り出した。 


ダイヤ「ボルツ、コランが居る場所、わかりますか?」 
 「メレ…」 


それだけ聞くと、ボルツとやらはふよふよと艦内を奥へと進み始めた。 


ダイヤ「コランと一緒にいるのなら、この子を追いかければルビィの元へと辿り着けるはずですわ」 


そう言ってダイヤは歩き出す。 


千歌「善子ちゃん、私たちも行こう」 

善子「ええ。……あとヨハネだからね?」 
848 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 01:56:05.66 ID:Q+x1d3Jo0

私たちは敵地を更に奥へと進んで行くのだった。 





    *    *    * 





ダイヤさんと乗り込み、善子ちゃんを助けてから、歩くこと数十分。 


ダイヤ「ボルツ、“パワージェム”」 
 「メレ」 


通路に居る団員さんたちは、ダイヤさんがすれ違い様にすぐ倒してしまう。 


善子「……あのダイヤっての、おっかないわね」 

千歌「あはは……普段は優しいんだけど」 


今回はダイヤさん、相当怒ってるからなぁ……。 


善子「まあ……心強いけど」 


だいぶ進んできたと思う。 

途中階段で下に降りて、一個下の層に着いたあと、再び前進を続け、 

そろそろ船首かな、という所で、 

ポケモンの影が見える。 


ダイヤ「あれは……」 

 「ソルッ…!!!」 

善子「アブソル……!」 

千歌「あの子、アブソルって言うんだ……?」 


アブソルは透明な壁のようなものを何度も攻撃している。 


善子「アブソル……! この先に行きたいの……?」 


壁の向こうは、明りが消えていて真っ暗で先が見えない。 


 「メレ…」 

ダイヤ「……ボルツもこの先にコランがいると言っていますわ」 

千歌「じゃあ、どうにか進まないとね……ごめんくださーい!!」 


とりあえず、壁を叩きながら、聞いてみる。 


善子「ご近所かっ!?」 

ダイヤ「千歌さん……ここは敵地の真っ只中で」 


二人が呆れてそう言う中、 

急に──部屋の奥側にバッと明りがつく。 


千歌「わっ!?」 

善子「マジ……?」 
849 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 01:59:15.84 ID:Q+x1d3Jo0

そして、照らされた室内の奥の方から人影が── 


 「お待ちしていましたよ」 

千歌「……え?」 

ダイヤ「……な……」 


歩いてきた人物の姿と、声を聞いて、 

私とダイヤさんは絶句した。 


千歌「嘘……え? え?」 

ダイヤ「……貴方が黒幕だったのですね──」 


ダイヤさんが鋭く睨みつける。 


聖良「お久しぶりです。千歌さん、ダイヤさん」 


それは、ダリアシティで出会った研究者のお姉さん──聖良さんだった。 





    *    *    * 





……待って、え? 聖良さんがルビィちゃんを攫ったってこと……? 

予想外のことに頭が追いつかない。 

そもそもここはグレイブ団の飛空挺で……。 


千歌「ま、待って……! 聖良さん、私がグレイブ団に襲われてるところ、助けてくれたじゃないですか……!?」 

聖良「……ああ、確かに追い込まれて出てきたところを助けた風な舞台を用意したことがありましたね」 

千歌「……ぶ、舞台……? ……用意……?」 

聖良「千歌さんがグレイブ団と敵対しているというのは、コメコの森の一件以来、私の耳にも届いていたんですよ? いろいろ話が聞けそうだったので、手荒なことをしては警戒されると思って、少々演出させてもらいましたけど」 

千歌「そんな……」 


じゃあ、あれは全部演技……? 


ダイヤ「聖良さん……貴方は良い研究者だと関心していましたのに」 

聖良「それは光栄ですね」 

ダイヤ「ずっと疑問だったのですわ。研究所での異常に手際のよかった襲撃……やっと理解出来ました。貴方は最初から、わたくしたちをルビィから引き離す役割を担っていた……!!」 

聖良「鞠莉さんに意見が聞きたかったのは本当ですけどね」 

ダイヤ「鞠莉さんとのアポの手違いもルビィたちが研究所に来るタイミングを見計らって仕組んだもの。そして、研究所内での戦闘中、研究所の外にリングマを放ったのも……全て貴方だったのですわね……!! それもこれも、最初から……ルビィを攫うために……!!」 

聖良「正確には『クロサワの巫女』を、ですが」 

ダイヤ「……! 貴方は一体何をしようとしているのですか……!!」 

聖良「まあ、落ち着いてください。どちらにしろ、この壁は壊せませんよ」 


……確かに、さっきからアブソルが何度も攻撃しているのに、傷一つ付いていない。 
850 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 02:02:56.73 ID:Q+x1d3Jo0

聖良「“ひかりのかべ”や“リフレクター”を何層にも組み合わせて調整した強化壁です。それくらいで破ることは出来ませんよ」 

ダイヤ「……御託はいいですわ。速やかにルビィを解放しなさい」 

聖良「まあ、そう焦らないでくださいよ。研究者として褒めていただいたついでに私の研究の成果を披露したいので」 

ダイヤ「……は?」 

聖良「この世には数多の珠という“どうぐ”が存在します。私は長きに渡って、その珠を製法を研究してきました」 

ダイヤ「……製法、ですって?」 

聖良「あれだけ大きなエネルギーを蓄えた宝石を拵えるにはどうしたらいいのか……考えた私はあることに注目しました」 

千歌「あること……?」 

聖良「……ポケモンは種類によっては、蓄えたエネルギーを結晶化させるものがいるということです。メレシーやヤミラミ。馴染みがあるんじゃないですか?」 


ヤミラミはメレシーを食べてしまうポケモンだ。確か、食べた宝石が体に浮かび上がるんだっけ……? 


聖良「私はまずこの二匹に注目しました。まずヤミラミに同じメレシーを食べ続けるように教育するんです」 

ダイヤ「……!! まさか、入江に現われていたヤミラミの変個体は……!!」 

聖良「ええ、私が育てて、団員が入江の外に逃がした個体が侵入したものです」 

ダイヤ「なんてことを……」 

聖良「そして、特定のエネルギーを収集し結晶化させたヤミラミから、宝石を抽出するんです」 

善子「は?」 
千歌「え?」 
ダイヤ「……なんですって?」 


三人で揃って、声をあげる。 


善子「抽出って……引き剥がすってこと……?」 

聖良「ええ、特にメガシンカさせた個体から、抽出するとより上質なエネルギー体を採取することが出来るんですよ」 

千歌「う、そ……」 


そんなことしたら、ヤミラミは……? 


聖良「ですが……この実験は結局うまく行きませんでした。何故だか、宝石の輝きが足りなくてパワーが最大限まで取り出せなかったんです。ただ、成果はありました。確かにこうして作った宝珠には、通常では考えられないようなエネルギーが蓄積されていました」 

ダイヤ「…………狂ってますわ」 

聖良「次に注目したのは、バネブーとパールル。この二匹のポケモンは共生関係にあります。パールルは生涯に一つ、大きな真珠を作り出します。そして、その真珠はバネブーが拾い、サイコパワーの源となるそうです。そしてそのバネブーが進化すると、黒い真珠となり、更にサイコパワーを収束した結晶となります」 

善子「……まさか」 

聖良「そのブーピッグから黒真珠を抽出し、それを新しいパールルの真珠の種にしたら……どうなると思いますか?」 

千歌「ま、待って……!!」 


思わず叫ぶ。 


聖良「……なんですか?」 

千歌「そんなことしたら……ブーピッグはどうなるの!?」 


真珠を無理矢理引き剥がされたブーピッグは……!! 


聖良「……そうですね、個体によっては衰弱してしまうものも少なくありませんでした」 

千歌「す、少なくありませんでしたって……!!」 

聖良「……ですが、世代を重ねるごとに予想通り、とてつもない純度のパワーをひめた真珠になっていきましたよ……!」 


興奮気味に語る聖良さんに対して、 
851 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 02:05:21.92 ID:Q+x1d3Jo0

ダイヤ「──いい加減にしなさいっ!!!!」 


ダイヤさんが叫んだ── 


ダイヤ「貴方は……ポケモンを、ポケモンの命を、なんだと思っているのですか……!!!?」 


ダイヤさんは毛を逆立てて激昂していた、見たことないくらいに。 


聖良「…………」 

ダイヤ「そのくだらない、妄想のために……!! 一体どれほどの命を……!!」 

聖良「ふふ……あははははは」 

ダイヤ「何が可笑しいのですかっ!!?!?」 

聖良「くだらない妄想、ですか……確かに一件滑稽な話に聞こえるかもしれませんが……そうじゃなかったんですよ」 

ダイヤ「……何がですか……!?」 

聖良「これはくだらないことでも、妄想でもなかった……」 

ダイヤ「……だから、何を言って……!」 

聖良「──これが、出来上がった“しらたま”です」 


聖良さんはポケットから、真っ白い丸い宝石を取り出した。 

それは不気味に輝き、脈を打つように光っている。 


聖良「そして……来たんですよ」 

善子「……来た……?」 

聖良「この珠の持ち主が」 

ダイヤ「──は?」 


次の瞬間、部屋の奥の方で大きな何かが動いた。 


千歌「……な、に……あれ……?」 

善子「……ポケ……モン……?」 


それは、目を開きこちらを見つめている。 


聖良「さあ、姿を見せてあげてください」 


聖良さんの呼び声に従うように、ズシズシと大きな白い体躯を動かしながら歩いてくる。 

肩の関節部に、大きな宝石が不気味に輝いている。 


ダイヤ「パル……キア……?」 


ダイヤさんが、名を呼んだ。 
852 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 02:07:55.49 ID:Q+x1d3Jo0

聖良「その通りです……!! 純度を上げ続ける実験の最中、ある日空間を引き裂いて、その割れ目から現われたんですよ!! パルキアが!!」 

ダイヤ「う、そ……」 

聖良「嘘ではないですよ。これが現実です。私の実験は、理論は、間違ってなどいなかった……!!」 

ダイヤ「まさ……か……!! まさか、こんな実験にルビィを使おうと考えているのですか……!?」 

善子「!!」 
千歌「え!?」 

聖良「さすが、勘がいいですね。次の宝珠のために、ルビィさんには協力してもらおうと思っています」 

ダイヤ「貴方は何を考えているのですか!? そんなことして何になると言うのですか!? やめてください!! 妹を巻き込まないで……!!」 


ダイヤさんは今度は顔を真っ青にして、目の前の透明な壁を叩く。 


聖良「……それは乗れない相談ですね」 

ダイヤ「……っ!!!」 

聖良「……ネタばらしはここまでにしましょうか、少し話しすぎてしまいましたね」 

ダイヤ「……ルビィを!! ルビィを解放してください!!」 

聖良「……私が得たパルキアの力……御覧に入れて差しあげますよ」 


聖良さんがそう言うと、パルキアは腕を振り上げる。 


善子「……!! なんかやってくる!?」 

ダイヤ「ルビィ!! ルビィ!!? 聞こえますか!? 今すぐわたくしたちと逃げましょう!! ルビィ!!!」 

善子「ダイヤ!! ここヤバイわよ!!」 

ダイヤ「ですが、ルビィが……!!」 

聖良「──“あくうせつだん”!!」 

 「バァァーーーーール!!!!!!!」 


パルキアが腕を振り下ろした。 


善子「!! あーもう!!」 

ダイヤ「!!」 


善子ちゃんが咄嗟にダイヤさんに抱きついて押し倒す。 

さっきまでダイヤさんが居た場所は── 

アブソルの攻撃ではびくともしなかった強化壁を真っ二つに切り裂き、それどころか何層も下まで床ごと切り裂いて、切れ目の先に数階下の断面が見える状態になっていた。 


善子「で、でたらめな威力……冗談じゃないわよ……!!」 

ダイヤ「る、ルビィ!!」 

善子「あんなのいくらジムリーダーでも無策で勝てるわけないでしょ!? 逃げるわよ!? アブソルも!!」 
 「ソルッ」 

ダイヤ「ですが……!!」 

聖良「“あくうせつだん”!!」 

 「バァァァルッ!!!!!!!」 

善子「あぶなっ!!」 

ダイヤ「!!」 
853 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 02:10:20.44 ID:Q+x1d3Jo0

今度は横薙ぎに切り裂かれ、再び善子ちゃんが押し倒す形で二人共伏せて、ギリギリかわす。 

船体に穴が空き、切り裂かれた壁面の先に、空が見える。 


善子「しめた……!! アブソル、一旦ボールに!!」 
 「ソル」 

善子「逃げるわよ、千歌!!」 

千歌「!! う、うん!!」 

ダイヤ「ま、待って……!!」 

善子「いいから、大人しくしなさい……!! 千歌、先行くわよ!!」 

ダイヤ「ルビィ!! ルビィィィィィ!!!!」 


善子ちゃんは、ダイヤさんごと無理矢理押し出すように、外へと飛び出す。 

私もそれを追って外に続く穴に向かって走り出す。 

このまま戦っても勝ち目がないのは私にもわかる。 

でも……。 

外への切れ目に手を掛けたところで、 


千歌「……聖良さん」 


私は確認したいことがあって、聖良さんに言葉をぶつけた。 


聖良「……なんですか?」 

千歌「……これが、本当に聖良さんが望んだものなんですか?」 

聖良「…………」 


私の言葉に聖良さんは逡巡したが、 


聖良「……ええ、そうですよ」 


聖良さんはそう答えた。 


千歌「……そう、ですか……」 


私はそれだけ確認してから、逃げるために、二人を追って空へと飛び出したのだった──。 


854 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 02:12:39.21 ID:Q+x1d3Jo0



>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【グレイブマウンテン】【飛空挺セイントスノウ】 
 口================= 口 
  ||.  |●⊃  ●              _回../|| 
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  || 
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   || 
  ||.  | |       回 __| |__/ :     || 
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     || 
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     || 
  ||.  | |.      | |           |     || 
  ||.  | |____| |____    /      || 
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  || 
  ||.  | |      | |  _.    /      :   || 
  ||.  回     . |_回o |     |        :   || 
  ||.  | |          ̄    |.       :   || 
  ||.  | |        .__    \      :  .|| 
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .|| 
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .|| 
  ||.      /.         回 .|     回  || 
  ||.   _/       o‥| |  |        || 
  ||.  /             | |  |        || 
  ||./              o回/         || 
 口=================口 

 主人公 千歌 
 手持ち バクフーン♂ Lv.49  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき 
      トリミアン♀ Lv.45 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする 
      ムクホーク♂ Lv.48 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき 
      ルガルガン♂ Lv.45 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい 
      ルカリオ♂ Lv.46 特性:せいぎのこころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん 
 バッジ 6個 図鑑 見つけた数:134匹 捕まえた数:13匹 

 主人公 善子 
 手持ち ゲッコウガ♂ Lv.46 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい 
      ヤミカラス♀ Lv.44 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい 
      ムウマ♀ Lv.43 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき 
      ランプラー♀ Lv.46 特性:もらいび 性格:れいせい 個性:ぬけめがない 
      ユキワラシ♀ Lv.40 特性:せいしんりょく 性格:おくびょう 個性:こうきしんがつよい 
      アブソル♂ Lv.54 特性:せいぎのこころ 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:116匹 捕まえた数:48匹 

 主人公 花丸 
 手持ち ドダイトス♂ Lv.32 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい 
       ゴンベ♂ Lv.31 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき 
      デンリュウ♂ Lv.31 特性:プラス 性格:ゆうかん 個性:ねばりづよい 
      キマワリ♂ Lv.30 特性:サンパワー 性格:きまぐれ 個性:のんびりするのがすき 
      フワライド♂ Lv.29 特性:ゆうばく 性格:おだやか 個性:ねばりづよい 
      ウリムー♂ Lv.38 特性:あついしぼう 性格:ようき 個性:たべるのがだいすき 

      アチャモ♂ Lv.39 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい 
      アブリボン♀ Lv.28 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき 
      ヌイコグマ♀ Lv.40 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい 
      ゴマゾウ♂ Lv.41 特性:ものひろい 性格:さみしがり 個性:ものをよくちらかす 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:89匹 捕まえた数:36匹 


 千歌と 善子と 花丸は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 



855 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 12:38:27.08 ID:Q+x1d3Jo0

■Chapter062 『作戦会議』 





──セキレイシティ。 


ことり「モクロー!!」 
 「ホー」「ホホー」「ホホホー」「ホーホホー」「ホホホホー」 

ことり「“リーフブレード”!!」 
 「「「「「ホホホー!!!!」」」」」 


弾丸のように飛び出す5匹のモクローたちが、辺りのゴーストポケモンを次々蹴散らして行く。 


曜「さすがことりさん……!」 

ことり「あ、ごめん! 曜ちゃん、そっちに流れちゃった!!」 

曜「ガッテン……!! カメックス! “ハイドロポンプ”!!」 
 「ガメー!!!!」 


ことりさんの打ち漏らしは私が、仕留める。 

この布陣で街中のゴーストポケモンを倒して回っている真っ最中だった。 

……とはいえ、結構な時間これを繰り返している。 


ことり「はぁ……はー……次から次へと出てくるとは言え……ちょっとは数も減ってきたかな……?」 

曜「ことりさん、大丈夫……?」 


ことりさんは一度に5匹も同時に指示している。 

それに街の人の避難誘導もしてるし……負担が大きいようだ。 


ことり「あはは、ごめんね。大丈夫だから……」 


苦笑いする、ことりさん。そのとき── 


曜「ことりさん!? 後ろ!!」 

ことり「え!?」 

 「ゴースト!!!!」 

曜「“ハイドロポンプ”!!」 
 「ガメー!!!!」 


突然現われた、ゴーストをカメックスが水砲で打ち抜く。 


ことり「あ、ありがと、曜ちゃん……」 


お礼もほどほどに、 


 「ゴースト…」「サマヨー」「ケケケケ…」 

曜「ゴースト、サマヨール、ジュペッタ……!!」 


新手が出てきた……。 


ことり「……くっ」 
856 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 12:41:22.55 ID:Q+x1d3Jo0

いくらことりさんが強いと言っても、街の人を守りながらのこの連戦はさすがに堪えるようだ。 

 「ゴスト!!!」「サマヨ」「ジュペッ」 

ゴーストポケモンたちが飛び掛ってくる── 


 「キングドラ!! “うずしお”!!」 
  「グドラッ!!!!」 

  「ゴスス!?!?」「サマヨー」「ジュペェッ」 


曜「!?」 
ことり「な、なに……?」 


私たちの周りに急に水流が現われ、辺りのゴーストポケモンを一気に押し流して行く。 

──いや、この声はもしかして……!! 


果南「曜! 無事!?」 

曜「果南ちゃん!!」 


上空を見ると、果南ちゃんがフワライドにぶら下がって、こちらに降りてきているところだった。 


花丸「曜ちゃーん!」 

曜「花丸ちゃんも!」 

ことり「果南ちゃん……ありがとー」 

果南「ことりさん、大丈夫……? ふらふらだけど……」 

ことり「あはは、ちょっと疲れただけだから……少し休めば大丈夫」 

果南「じゃ、ちょっと休んでて。この辺りのは、まとめて伸してくるから」 


そう言って果南ちゃんは、辺りのゴーストポケモンを抑えに走り出す。 


花丸「さ、さすがの体力ずら……」 


果南ちゃんに任せておけば一先ずは大丈夫、かな……? 


曜「ことりさん、一旦ポケモンセンターに……」 

ことり「う、うん……」 





    *    *    * 





ポケモンセンターで回復をして。 

補給の為の軽い食事を取る。 


ことり「ふぅ……」 

曜「やっと落ち着いたね……」 


果南ちゃんがこの辺りのゴーストポケモンは一通り倒しきって、ひとまず街は落ち着きつつあった。 

絶えず僅かに新手が沸いているようだけど……。今はどうにか街の人たちでも対応しきれるレベルのようだ。 
857 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 12:43:43.29 ID:Q+x1d3Jo0

果南「にしても……オトノキ地方中、大騒ぎだね……」 

花丸「やっぱりこれもグレイブ団が……」 

曜「グレイブ団……?」 

花丸「あ、えっとね……今、北の方の空に……」 


花丸ちゃんが窓から北の方の空を指差すと、 


花丸「ずら……? あれって……?」 

果南「ん?」 

曜「え?」 


──何かが、こっちに向かって飛んできている。 

ヤミカラスにぶら下がった女の子と……あれはムクホーク? 


花丸「善子ちゃーん!!」 


花丸ちゃんがポケモンセンターを飛び出す。 


曜「あ、待って! 花丸ちゃん!」 


外に出て、改めて見て、気付く。 


曜「あれ、千歌ちゃんのムクホーク! 千歌ちゃーん!!」 


私は大きく手を振った。 





    *    *    * 





ダイヤ「ルビィ……」 

千歌「ダイヤさん……」 

善子「……」 


飛空挺からの逃走後、ダイヤさんは最初は自分のオドリドリに掴まっていたんだけど……あまりに危なっかしかったので、今は私のムクホークに相乗りしてもらっている。 


 花丸「善子ちゃーん!!!」 

 曜「千歌ちゃーん!!!」 


どうにか辿り着いた、セキレイシティには花丸ちゃんと曜ちゃんが待っていた。 


千歌「花丸ちゃん、ここにいたね。善子ちゃんの言う通りだ」 

善子「合流するなら、東西南北に道があるこの街が一番だからね……ずら丸ならそうするかなって」 

千歌「うん。ムクホーク降りて」 
 「ピィィ」 

善子「ヤミカラス、私たちも」 
 「カァー」 


858 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 12:44:55.14 ID:Q+x1d3Jo0


    *    *    * 





花丸「善子ちゃーん!!!」 


地面に降り立つや否や、花丸ちゃんが善子ちゃんに飛びつく。 


善子「だー!! 抱きついて来るな、鬱陶しい!!」 

花丸「無事でよかったずら……」 

曜「千歌ちゃんに……ダイヤさん?」 

千歌「……」 

ダイヤ「曜……さん……」 

曜「!? ダイヤさん、大丈夫!? 顔真っ青だよ!?」 

ダイヤ「……わたくし」 


ダイヤさんは今にも消えてしまいそうな声を出す。 


 「はぁ……何辛気臭い声出してんのさ」 

千歌「……? この声……果南ちゃん?」 

果南「や、千歌。久しぶり」 

千歌「う、うん」 


まさか、果南ちゃんまでいるとは思わなかった。 


果南「それより、ダイヤ……しっかりしなよ」 

ダイヤ「……ルビィが」 

果南「……なんとなくの事情はマルから聞いた。こうして戻ってきて、ルビィが居ないってことは助けられなかったんだね」 

ダイヤ「…………」 

果南「ダイヤ、顔をあげなよ」 

千歌「か、果南ちゃん……! 今はそっとしておいてあげた方が……」 

果南「いいから」 


果南ちゃんは私の制止を、制止した。 


ダイヤ「…………」 

果南「ダイヤ、そんな顔してても事態は好転しないよ」 

ダイヤ「果南さん……」 

果南「ルビィが心配なのはわかる。よく知ってる。だけど、ダイヤは何をしてる人?」 

ダイヤ「……ジムリーダーで……教師ですわ」 

果南「だよね。これから、解決に向けて多くの人間が動かなくちゃいけない事態が起こってる、そんな中でジムリーダーは、先生は、中心になって動くことになるでしょ?」 

ダイヤ「……はい」 

果南「ダイヤがそんな顔してたら、全体の士気が下がる。そしたら、どんどんルビィを助けるチャンスは減っていく……。辛いと思うけど、今下を向いちゃダメだよ」 

ダイヤ「…………」 


ダイヤさんは少し沈黙したあと、 
859 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 12:47:03.05 ID:Q+x1d3Jo0

ダイヤ「……果南さんの言う通りですわ。すみません、少し自分を見失っていました」 


声にいつもの調子が戻ってきた。 


千歌「果南ちゃん、すごい……」 

果南「ま、ダイヤとは付き合い長いからね」 

曜「それより、ルビィちゃんのことって……?」 

千歌「あ、うん、説明する」 


私は曜ちゃんに事態の説明を始めた。 





    *    *    * 





善子「……さて、出てきてアブソル」 

花丸「ずら?」 


私はアブソルを外へ出す。 


 「ソル」 

善子「ごめんね、アブソル。結局、飛空挺からは逃げることになっちゃったけど……」 
 「ソル」 

善子「ここからはまた、自由に貴方の目的を追いかけていいから」 

花丸「ずら!? 善子ちゃん、アブソル逃がしちゃうの?」 

善子「そりゃまあ……今回は目的が一致したから、一時的に捕獲してただけだしね」 


アブソルを縛っておく権利は私にはない。 

だけど── 

 「ソル」 

アブソルは私の前で、体を伏せる。 


善子「アブソル……?」 


そして、毛づくろいをするように、首を曲げて自分の体毛の中の何かを探すような素振りを見せた後、 

──そこから何かを咥えて、差し出してくる。 


善子「何……?」 


私はそれを手の平で受け取る。 

小さな、宝石のような珠……。 
860 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 12:50:40.63 ID:Q+x1d3Jo0

善子「これって……」 

花丸「メガストーンずら……」 

善子「メガ、ストーン……」 

花丸「アブソルはもしかして……ずっと一緒に戦ってくれる仲間を探してたんじゃないかな」 

善子「アブソル……そうなの?」 
 「…ソル」 

花丸「そのメガストーン──アブソルナイトはアブソルのパワーを最大限まで引き出すアイテムずら。きっと、善子ちゃんのことを認めてくれたんだよ」 

善子「……アブソル、一緒に来る?」 
 「ソル」 


アブソルは私の問いに頷いた。 


善子「わかった……一緒に戦いましょう……!」 


こうして私は長い間追ってきたアブソルと、ついに理解し合い、仲間になったのだった。 





    *    *    * 





さて……あれからしばらくして、ダイヤさんとことりさんのポケギアに連絡が入りました。 

相手は海未師匠。 


ダイヤ「……緊急招集ですわ。手の空いているジムリーダーはセキレイに集合するようにとのことですが……」 

ことり「たぶん、どの町も今はゴーストポケモンが発生してて大変なことになってると思う……」 

果南「ホシゾラは山越えないとだし、コメコもちょっと遠いよね。ダリアは人口の割にトレーナーの数が少ないから、それどころじゃなさそうだし……」 

ダイヤ「クロユリとヒナギクは論外ですわね……すぐに来るには遠すぎますわ」 

ことり「そうなると、あとはローズから真姫ちゃんが来るくらいかな」 

果南「お、噂をすれば……」 


果南ちゃんの言葉に一行が北の空を見ると、 

メタグロスに乗ったまま飛んで来る真姫さんの姿。 


ことり「あ……海未ちゃんも来たみたい」 


そして、北東の方角から、カモネギに掴まって飛んでいる海未師匠の姿が見える。 

──程なくして、二人が降り立つ、 


真姫「緊急招集なんていつ以来かしら……」 

海未「お待たせしました。……とは言っても、やはり集まりきりませんね」 


二人が周りを見て、感想を漏らす。 


千歌「師匠……!」 

海未「千歌、久しぶりですね」 

千歌「今、この地方に何が起こってるんですか……?」 

海未「それを整理するために集まったんですよ。千歌、貴方からも話を聞かせてもらえますか?」 

千歌「はい! もちろん!」 
861 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 12:52:21.75 ID:Q+x1d3Jo0

私は力強く頷く。 


ダイヤ「……本当に海未さんと師弟関係に」 

果南「あははダイヤ、生徒取られたからって、妬かない妬かない」 

ダイヤ「そ、そんなんじゃありませんわ!!」 


海未「あともう一人呼んでいるのですが……」 

真姫「もう一人?」 


海未師匠は南の空を見ている。 


曜「あ! あれじゃないかな?」 


南の空から、ハチのようなポケモンのシルエットが見える。 


曜「あれ、ビークインかな?」 


その姿が目視出来た途端、 


──pipipipipipipi!!!!! 
果南「ん?」 

──pipipipipipipi!!!!! 
ダイヤ「あら?」 


果南ちゃんとダイヤさんの方から音がする。 


千歌「これって……」 

曜「もしかして」 

善子「図鑑の共鳴音?」 

花丸「ずら?」 


ダイヤ「ということは……」 

果南「海未が呼んだのは」 


 「よっ!!」 


上空のビークインから、金髪の女性が飛び降りてくる。 


鞠莉「Hello, everybody ! お待たせ!」 

果南「鞠莉!」 
ダイヤ「鞠莉さん!」 

鞠莉「図鑑が鳴ってるから、いるってわかってたけど……久しぶりだネ、果南」 

果南「鞠莉……うん、久しぶり」 

海未「さて……人は揃いましたね」 


海未師匠が皆を見回す。 

海未師匠、ことりさん、真姫さん、ダイヤさん、鞠莉さん、果南ちゃん、曜ちゃん、善子ちゃん、花丸ちゃん、そして私。 


海未「緊急招集したのは他でもありません。今オトノキ地方に起きている異変についてです」 


師匠はそう前置いて話し始める。 
862 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 12:55:26.68 ID:Q+x1d3Jo0

海未「現在、地方全体でゴーストポケモンが大量発生しています。街にも侵入してきていて……各地でジムリーダーを中心に対応しているところです」 

ダイヤ「ウチウラシティでは臨時で母──琥珀が指揮を取っているそうですわ」 

海未「その他、フソウタウンは被害こそ少ないみたいですが、コンテストクイーンのあんじゅさんを中心に対応をしているそうです」 

ことり「ジムリーダーのいない町は?」 

海未「四天王の方でどうにか割り振っています。いくつかの町を掛け持ち状態なので、長く続くと少し困りますが……。そして、これと同時に今現在ローズの北辺りに、巨大な飛空挺が出現しています。これについて……」 

千歌「はい! はい! さっき、チカが乗り込んできたところ!」 

海未「……コホン。……ダイヤ、貴方がこの事態を一番詳しく説明出来ると思うのですが、お願いできますか?」 

ダイヤ「ええ、わかりました」 


ダイヤさんは海未さんに促されて、話を始める。 


ダイヤ「……あの飛空挺はグレイブ団と言う組織が動かしています。その首領、カヅノ・聖良によって」 

鞠莉「……なんですって?」 


ダイヤさんの言葉に鞠莉さんが目を見開いて驚く。 


真姫「聖良……ダリアの研究者だったかしら」 

ダイヤ「聖良さんは……周到に準備をしていたようです。そして、彼女はある伝説のポケモンを呼び出すのに、成功してしまったようなのですわ」 

果南「伝説のポケモン……?」 

善子「パルキアよ」 

海未「パルキア……それは本当ですか?」 


海未師匠がやっとこっちに目配せしてくる。 


千歌「うん、ホントだよ! この目で見てきた」 


私は近くで見た証拠として、図鑑の登録データを開く。 

 『パルキア くうかんポケモン 高さ:4.2m 重さ:336.0kg 
  並行して 並ぶ 空間の 狭間に 住むと 言われている 
  伝説の ポケモン。 空間の 繋がりを 自在に 操ることで 
  遠くの 場所や 異空間を 自由に 行き来することが 出来る。』 


ダイヤ「今でも嘘だと思いたいのですが……元気なポケモンからエネルギー体を無理矢理取り出して材料にし、人為的に“しらたま”を精製し、成功したようなのです」 

鞠莉「そ、そんな……あの聖良が……?」 

ダイヤ「それだけでは飽き足らず……次の宝珠も作ろうとしています。恐らく、“こんごうだま”かと思われます」 

真姫「“こんごうだま”ってことは……ディアルガ?」 

千歌「ディアルガ……?」 


新しく出てきた名前に私は首を捻る。 


花丸「ディアルガは時を司る伝説のポケモンずら。パルキアとは対になるポケモンだね」 


それを物知りな花丸ちゃんが補足してくれる。 
863 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 12:59:48.63 ID:Q+x1d3Jo0

ことり「どうして、“こんごうだま”だってわかるの?」 

ダイヤ「以前失敗したと言っていた、製法の一つに使われていたポケモン。それに心当たりがありまして……恐らくダイヤモンドタイプのメレシーを大量に捕食させたヤミラミですわ」 

真姫「失敗したんだったら、大丈夫なんじゃないの?」 

ダイヤ「いえ……その失敗作の足りなかったピースを……彼女は手に入れてしまった」 

善子「……ルビィね」 

ダイヤ「そうです。わたくしの妹ルビィです」 

海未「どういうことですか?」 


海未師匠がダイヤさんと善子ちゃんの言葉に怪訝な顔をする。 


ダイヤ「代々、わたくしたちクロサワの家の女性は、クロサワの巫女と呼ばれる役職を与えられるのですが……その中でも、巫女の血をより濃く引き継いだ子は、ある力に目覚めることがあるのです」 

ことり「ある力?」 

ダイヤ「……宝石の本来の輝きを取り戻す力」 

曜「……? 本来の輝きを取り戻す……?」 

ダイヤ「詳しくは説明が難しいのですが……。宝石の持っている本来の力を引き出す、そういう能力だと思っていただいて差し支えないと思いますわ」 

海未「……ふむ」 


海未師匠は一度相槌を打ってから、話を纏める。 


海未「つまり、ダイヤの妹御であるルビィの巫女の力を使うことによって、失敗作だった宝珠を改めて“こんごうだま”として覚醒させる……そういうことですね?」 

ダイヤ「はい、そういうことですわ」 

鞠莉「……しっかし、ディアルガにパルキア……まるでシンオウの異変の焼き直しでもしようって言うのかしら……」 

海未「……確かに鞠莉の言う通り解せませんね。仮にパルキアをその手に収め、ディアルガも呼び出そうとしているにしても、目的はなんなのでしょうか? それこそ、シンオウのギンガ団のようなことを……?」 

善子「くっくっく……圧倒的な力による世界征服──」 

花丸「……やめるずら」 

真姫「……どっちにしろ、それだけだと説明出来てないことがまだあるわ」 

ことり「説明出来てないこと?」 


真姫さんの言葉に、ことりさんを始め一同が疑問を浮かべる。 


真姫「そもそも、この異変ディアルガとパルキアだけじゃないでしょ? あちこちでもっと多くの異常の報告があったはずよ」 

果南「スタービーチでのヒドイデ大量発生とかね」 

千歌「あ! オトノキのオンバーンもだ!」 

花丸「13番水道に不自然に出現したブルンゲル……」 

真姫「そして、地方全体に出現しているゴーストポケモン……これら全部に合理的な説明が出来てないと、目的を決め付けるには早計だと思うわ」 

海未「確かに……」 


真姫さんの話を聞いて、再び思案を始める海未師匠。 


花丸「そういえば、グレイブ団は宝石を集めてるって聞いたずら。“しらたま”や“こんごうだま”みたいに他の宝珠も作れないか、実験してたんじゃないかな」 


そんな中、花丸ちゃんがそう意見する。 


鞠莉「……わたしも花丸の意見に同意ね。宝石はそもそも不思議なエネルギーを持っているって信じられてたり、信仰の対象だったりするから、いろんな伝説のポケモンに密接だし……最終的に“しらたま”、“こんごうだま”に至ったってだけで、他の宝石や鉱物の採取もずっとしてたんじゃないかしら」 

曜「じゃあ、あのドヒドイデはサニーゴの頭の珊瑚を集めて……珊瑚も宝石だから、たくさん珊瑚を食べたドヒドイデからも何かを抽出するつもりだったとか……」 

千歌「そういえば、コメコの森で戦ったグレイブ団員もメテノじゃなくて、“ほしのかけら”に用があるって言ってたかも……」 

花丸「ブルンゲルに関してはルビィちゃんを狙ってたってことで間違いなさそうだよね……」 
864 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 13:01:56.91 ID:Q+x1d3Jo0

確かにこうして纏めてみると、グレイブ団のやってることにはある程度の一貫性がある気はする。 


真姫「……じゃあ、それらはいいとしても、ゴーストタイプが大量発生してるのはなんで?」 


ただ、真姫さんが言う通り、ゴーストタイプを大量発生させてるのもグレイブ団の仕業だとしたら、その目的がよくわからない気がする。 


ことり「グレイブ団が、人為的に繁殖させた個体を逃がしてるか……なんらかの方法で呼び出して、町を襲うように指示してるんだとは思うけど……」 

海未「確かに、ここまでの話と関連付けるには、少し一貫性がないですね……」 

善子「くっくっく……この世界を恐怖の闇に落とし込むために──」 

花丸「やめるずら」 

ダイヤ「確かにそこの目的はまだわかりませんが……ただ、彼女たちが最終的に向かおうとしている場所はなんとなくわかりますわ」 


──向かおうとしている場所。 

ダイヤさんの言葉を受けて、鞠莉さんが、 


鞠莉「……クロサワの入江ね」 


そう結論を出す。 


ダイヤ「はい」 

海未「襲撃を受けた入江ですね……確かに宝石との関連性も高い」 

ダイヤ「現在の飛空挺の進路の延長線上でもありますし、間違いないと思いますわ」 

海未「……なるほど」 


海未さんは一通り話を聞き終えて、少し考えたあと、 


海未「これから私たちがやるべきことは3つです」 


指を3本立てる。 


海未「1つ目は地方全体の戦えない人たちをゴーストポケモンから守ること。特に子供は攫われる危険もあります。これは各地のジムリーダーが担当した方がいいでしょう」 

真姫「そうね」 

海未「2つ目は伝説のポケモンを止めることです。目的はわかりませんが、グレイブ団の首領・聖良が呼び出した以上、彼女は確実にそのポケモンを使うでしょう。それを止める人員が必要です」 

果南「それは私が行くよ」 

海未「はい、私も果南にはお願いするつもりでした。それと……ダイヤ、貴方にもお願いしたいのですが」 

ダイヤ「……!」 

海未「クロサワの入江で何かをしようとしているなら、地形や土地に詳しい人間が居た方いい。その分手薄になる町の防衛は四天王の方でも協力しますので」 

ダイヤ「わかりました……! 必ず、討ち取ってみせますわ」 

鞠莉「二人が行くなら……わたしも行くわ」 

ダイヤ「! 鞠莉さん……!」 

鞠莉「ただ、戦って倒すだけじゃ、もし復活したときに困る……捕獲を視野に入れて3人で戦う」 

果南「捕獲……って言っても、もう聖良のポケモン扱いなんじゃない? 捕獲出来るの?」 


捕獲されているポケモンは、ボールに紐付けされてしまうため、捕獲したときのボールにしか入らなくなってしまう。 

果南ちゃんの当たり前のような懸念に対して、鞠莉さんは、 


鞠莉「出来るわ」 


即答した。 
865 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 13:04:20.79 ID:Q+x1d3Jo0

真姫「……あれ使うのね」 

鞠莉「Yes. ……本当はこんな形で使いたかったわけじゃなかったんだけどね」 


鞠莉さんはそう言って、背負っていたリュックから、箱を取り出した。 


千歌「……あ、それ! 私が届けた道具だ……!」 

鞠莉「ええ」 


鞠莉さんはその箱を開封する。中にあったのは── 


善子「なにこれ……ガード?」 


中にあったのは腕当てのような機械だった。 


真姫「それは、スナッチマシーンよ」 

千歌「スナッチマシーン……?」 

鞠莉「本来他人のポケモンは捕まえることが出来ない……だけど、この装置があればそれを可能に出来る」 

曜「人のポケモンを盗るのは泥棒なんじゃ……」 

鞠莉「ええ、元はそういう集団が悪事に使っていたものよ」 

千歌「…………」 


ここに来て、どうして鞠莉さんや真姫さんがこれがなんなのかを教えてくれなかったのかがわかる。 


真姫「……今回はそれで世界を救う、皮肉な話ね」 

千歌「そうじゃないと思います」 

真姫「?」 

千歌「誰かのために道具を正しく使う、そういうチャンスなんだと思います」 

鞠莉「千歌っち……ええ、そうよ。これで、パルキアを捕獲する」 

真姫「……なるほどね、まあそうなるだろうと思って、持ってきたわよ」 


真姫さんはそう言って、鞠莉さんにボールを一個手渡す。 

紫色のそのボールは── 


花丸「ま、マスターボールずら!?」 


マスターボール……花丸ちゃんに前に教えてもらったことがある。 

全てのポケモンを捕獲することが出来る、最高の性能のボールだ。 


真姫「急だったから一個しか手に入らなかったけど……無駄にしないでね」 

鞠莉「真姫さん……ええ、確実に捕獲に使わせて貰うわ」 

海未「話はまとまったみたいですね。……それでは、3つ目ですが。ダイヤの妹、ルビィの救出です。今現在、もっとも未知数なのはクロサワの巫女の力……ルビィの救出は、これはこれで急務になると思います」 

真姫「……もし、巫女の力でいくらでも宝珠を量産できるなんてことになったら、手に負えないしね」 

海未「はい。そして、その人員ですが──」 

千歌「──私が行きます!」 


私は、海未師匠を真っ直ぐ見つめて、手をあげた。 
866 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 13:05:44.83 ID:Q+x1d3Jo0

海未「……危険ですよ?」 

千歌「わかってます……でも、私じっとしてられない。何か手伝わせてください!」 

海未「……理由はそれだけですか?」 

千歌「それだけじゃない……ルビィちゃんも心配だし、それに……」 

海未「それに?」 

千歌「……私は……私が聖良さんを止めないといけない気がするんです」 

海未「どうしてそう想うのですか?」 


聖良さんと、ダリアシティで出会って、話したときのことを思い出す。 


千歌「私、あの人の夢の話を聞いたんです。真っ直ぐな夢を、想いを、気持ちを……もしかしたら全部嘘だったのかもしれないけど……でも、私は今でもそれが全部嘘だったとは思えない。聖良さんは、大きな力を手に入れて、それを見失ってるんじゃないかって……」 

海未「……千歌なりに想うことがあるんですね」 

千歌「はい……だから、解決のために何か手伝わせてください……!」 

海未「わかりました、ルビィの奪還作戦は千歌にお願いしましょう。ただし、必要以上に聖良に執着しないように、あくまで貴方の任務はルビィの奪還です。いいですか?」 

千歌「はい!」 


力強く返事をする私に、 


善子「はぁ……全く骨が折れそうね」 


善子ちゃんが肩を竦めながら近付いてくる。 


千歌「善子ちゃん?」 

善子「今更、ついてくるなとか言わないでしょ? 乗りかかった船だし、私は行くわよ」 

千歌「! うん!」 


頼もしい仲間の申し出、更に── 


曜「千歌ちゃん、私も協力するよ!」 

千歌「曜ちゃん……!!」 


曜ちゃんと、 


花丸「ルビィちゃんを助けるなら……マルも行くずら」 

千歌「花丸ちゃん! うん!」 


花丸ちゃんも。 

これで仲間は4人、ルビィちゃんを助けに── 


 「その話、ちょっと待ってくれへん?」 


そのとき、急に辺りに声が響く。 

それと同時に、 


──pipipipipipipi!!!!!! 
千歌「わ!?」 

──pipipipipipipi!!!!!! 
曜「む……」 
867 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 13:07:53.51 ID:Q+x1d3Jo0

今度は私と曜ちゃんの図鑑が鳴り出す。 

次の瞬間── 

空の何もない空間から、 


 「とう」 


人が飛び出してきた。 

紫の髪を左右でお下げにしている女性。 


海未「希……!!」 


海未師匠は彼女を見て名を呼ぶ。希さんというらしい。 

そして、その人に手を引かれて、 


梨子「きゃああああ!?」 


梨子ちゃんが飛び出してきた、 


千歌「梨子ちゃん!?」 

梨子「び、びっくりした……千歌ちゃん、久しぶり」 


梨子ちゃんがよろよろと立ち上がりながら、私に向かって手を振る。 


海未「……それで希、待てとはどういうことですか?」 

希「どうもこうもないんやない? 海未ちゃんは一般トレーナーを敵地の中心部に送り込むつもりなん?」 


希さんはそういいながら渋い顔を海未師匠に向ける。 


海未「……千歌は私が認めた優秀なトレーナーです。問題ないと判断しました」 

ことり「うん! 曜ちゃんもことりが鍛えたから、戦えるよ!」 

希「そういう話をしてるんやない。一歩間違ったら命に関わる規模のことなんよ? ウチは任せるべきではないと思う」 


庇ってくれる二人の師匠の意見を切り捨てるように、希さんが私たちの作戦参加への反論をする。 


千歌「そ、そんなぁ!!」 

梨子「待ってください、希さん……!」 


そんな希さんに異論を唱えたのは、梨子ちゃんだった。 


希「?」 

梨子「危険なのは皆、重々承知だと思います……でも自分の生まれ育った地方の危機に、じっとしてなんか居られないと思います」 

希「……自分も連れてって欲しい言うから、何事かと思ったら……キミも戦うつもりなんやね」 

梨子「はい……!」 

千歌「梨子ちゃん……!」 


そしてその意見を後押しするように、 


真姫「……梨子の言う通り、気持ちの問題もあるし、ここまで話をして、黙ってみてろって言うのも、それはそれで酷なんじゃないの?」 


真姫さんがフォローを入れてくれる。 
868 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 13:08:58.25 ID:Q+x1d3Jo0

梨子「真姫さん……」 

真姫「それに、この子は強い、保証するわ」 

希「だから、そういう話じゃ……うーん、わかった。じゃあ、こうしよ。これからウチ自身がキミたちの強さを測るためにバトルをする。勝負に勝てたら、作戦への参加を認める。これでどうかな?」 

海未「まさかここでジム戦を……? さすがにこれから5人と順番にバトルをしている暇は……」 

希「もちろん、スパっと終わらせるよ。行けタマタマ!」 
 「タマタマ」 


希さんはタマタマをボールから出す。 


希「タマタマは6匹で1匹。この子たちはテレパシーで繋がってるから、どんなに離れても意思疎通が出来る。ウチのところにタマタマを一匹残して……」 

 「タマ」 
千歌「わ」 

 「タマ」 
梨子「きゃ」 

 「タマ」 
曜「うわっ!?」 

 「タマ」 
善子「な、なに?」 

 「タマ」 
花丸「ずら?」 

希「タマタマ、“テレポート”」 

千歌・梨子・曜・善子・花丸「「「「「!?」」」」」 

海未「希!?」 

希「──5人は今それぞれにとって印象のあるバトルフィールドにテレポートさせた」 


869 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 13:09:58.34 ID:Q+x1d3Jo0


    *    *    * 



千歌「あたた……ここは、流星山……?」 

 「タマタマ」 

気付くとタマタマは私から離れたところで跳ねている。 

よく見ると、ジムバッジとモンスターボールを持っているようだ。 


希『聞こえるかな?』 

千歌「わ!?」 

希『今キミたちにテレパシーで直接話しかけとるんやけど……今、ウチの手持ちの入ったボールとバッジを持たせたタマタマと一緒にテレポートしてもろたよ』 



    *    *    * 



梨子「……クリスタルケイヴ」 

希『キミたちにはウチの本気の手持ちを一体ずつぶつける、それと戦ってもらう』 

梨子「本気の手持ち……!」 

 「タマ!!」 


タマタマから、ボールが放られる。 


 「フィー…」 


梨子「……エーフィ」 



    *    *    * 



──ザッパァーン。 

突然水に落ちる。 


曜「しょ、しょっぱ!? 海……? ……ここ、スタービーチ……?」 

希『もちろん、ジム戦の手持ちと違って、レベルはかなり高い。でも実戦ではもちろんレベルをあわせてくれたりしないからね、お誂え向きやと思うんよ』 

 「オベーム…」 

870 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 13:10:39.40 ID:Q+x1d3Jo0

    *    *    * 



善子「……私は音ノ木か」 

希『私の手持ちを突破して、タマタマからバッジを奪うことが出来たら、キミたちの勝利。それが出来なかったら敗北、わかりやすいやろ?』 

 「ランクル…」 

善子「ランクルス……良いわよ、上等じゃない」 



    *    *    * 



花丸「ここ……太陽の花畑ずら……」 

希『直接指示するわけやないから、勝てないような実力じゃ、ちょっとした怪我くらいは覚悟してもらわなあかんけど……危険な戦いへ切符を賭けた勝負や。それくらいは覚悟してな』 

 「ムシャァーー」 

花丸「ムシャーナずら……!」 



    *    *    * 



千歌「……とにかく倒せばいいんだよね!!」 

 「フーディン!!!」 

希『それじゃ、バトル開始や!!』 

千歌「行くよ!! ルカリオ!!」 


私はボール放った── 


871 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 13:13:37.26 ID:Q+x1d3Jo0


>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【流星山】【クリスタルケイヴ】【13番水道】【大樹 音ノ木】【太陽の花畑】 
 口================= 口 
  ||.  |⊂⊃                 _回../|| 
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  || 
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   || 
  ||.  | |       回 __| |__/ :     || 
  ||. ⊂⊃      | ●        |‥・     || 
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     || 
  ||.  | |.      | |           |     || 
  ||.  | |____| |____    /      || 
  ||.  | ____ 回__●_.回‥‥‥ :o  || 
  ||.  | |      | |  _.    /      :   || 
  ||.  回     . |_回●|     |        :   || 
  ||.  | |          ̄    |.       :  || 
  ||.  | |        .__    \      :  .|| 
  ||.  | ○._  __|●⊃|___|.    :  || 
  ||.  |___回○__.回_  _|‥●‥:  || 
  ||.      /.         回 .|     回  || 
  ||.   _/       o‥| |  |        || 
  ||.  /             | |  |        || 
  ||./              o回/         || 
 口=================口 
872 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/10(金) 13:14:20.42 ID:Q+x1d3Jo0

 主人公 千歌 
 手持ち バクフーン♂ Lv.49  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき 
      トリミアン♀ Lv.45 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする 
      ムクホーク♂ Lv.48 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき 
      ルガルガン♂ Lv.45 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい 
      ルカリオ♂ Lv.46 特性:せいぎのこころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん 
 バッジ 6個 図鑑 見つけた数:136匹 捕まえた数:13匹 

 主人公 梨子 
 手持ち メガニウム♀ Lv.46 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり 
      チェリム♀ Lv.44 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい 
      ピジョット♀ Lv.45 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん 
      ネオラント♀ Lv.39 特性:すいすい 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい 
      メブキジカ♂ Lv.44 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん 
 バッジ 4個 図鑑 見つけた数:107匹 捕まえた数:13匹 

 主人公 曜 
 手持ち カメックス♀ Lv.44 ✿ 特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい 
      ラプラス♀ Lv.42 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき 
      ホエルコ♀ Lv.39 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい 
      ダダリン Lv.43 ✿ 特性:はがねつかい 性格:れいせい 個性:ちからがじまん 
      ゴーリキー♂ Lv.40 ✿ 特性:ふくつのこころ 性格:まじめ 個性:ちからがじまん 
      タマンタ♀ Lv.37 ✿ 特性:すいすい 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい 
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:137匹 捕まえた数:20匹 コンテストポイント:48pt 

 主人公 善子 
 手持ち ゲッコウガ♂ Lv.46 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい 
      ヤミカラス♀ Lv.44 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい 
      ムウマ♀ Lv.43 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき 
      ランプラー♀ Lv.46 特性:もらいび 性格:れいせい 個性:ぬけめがない 
      ユキワラシ♀ Lv.40 特性:せいしんりょく 性格:おくびょう 個性:こうきしんがつよい 
      アブソル♂ Lv.54 特性:せいぎのこころ 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:119匹 捕まえた数:48匹 

 主人公 花丸 
 手持ち ドダイトス♂ Lv.32 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい 
       ゴンベ♂ Lv.31 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき 
      デンリュウ♂ Lv.31 特性:プラス 性格:ゆうかん 個性:ねばりづよい 
      キマワリ♂ Lv.30 特性:サンパワー 性格:きまぐれ 個性:のんびりするのがすき 
      フワライド♂ Lv.29 特性:ゆうばく 性格:おだやか 個性:ねばりづよい 
      ウリムー♂ Lv.38 特性:あついしぼう 性格:ようき 個性:たべるのがだいすき 

      アチャモ♂ Lv.39 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい 
      アブリボン♀ Lv.28 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき 
      ヌイコグマ♀ Lv.40 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい 
      ゴマゾウ♂ Lv.41 特性:ものひろい 性格:さみしがり 個性:ものをよくちらかす 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:91匹 捕まえた数:36匹 


 千歌と 梨子と 曜と 善子と 花丸は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 


次回 千歌「ポケットモンスターAqours!」 その8