1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:37:21.99 ID:g8Lzz6kM0
ラブライブサンシャイン 野球もの

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1557761841

引用元: ・千歌「白球を追いかけろ!!」 



2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:39:19.05 ID:g8Lzz6kM0
千歌(私はずっと、退屈な日々を過ごしていた)

千歌(面白みのない日常)

千歌(それを打破するために色々なことに挑戦してみたけど、どれも長続きしない)

千歌(途中で壁にぶつかると、耐え切れずに投げ出してしまうから)

千歌(そして何もできない普通怪獣のまま、私は高校生になって)


千歌(でもそんな私に、運命の出会いが訪れた)

3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:40:00.38 ID:g8Lzz6kM0
千歌(幼馴染の野球少女、曜ちゃんの応援で行った東京で存在を知った、美しい9人の女子野球選手、μ’s)



千歌(ありとあらゆる野球に関する知識を持つデータの鬼、小泉)


千歌(圧倒的な快足で塁を奪っていく、星空)


千歌(人を惹きつけるスター性を持つ天才、西木野)


千歌(あらゆるプレーを寸分の狂いもなくこなす精密機械、園田)


千歌(あらゆる方向へ打ち分ける打撃技術を持つ魔術師、南)


千歌(小柄ながら堅実な守備と技術の高さが光る、矢澤)


千歌(恵まれた体格から生み出される圧倒的なパワーを持つ、東條)


千歌(走攻守三拍子揃った一流選手、絢瀬)


千歌(そしてそんな最強のチームをまとめる、キャプテンにしてエース、高坂)

4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:41:27.37 ID:g8Lzz6kM0
千歌(動画で見た彼女たちの姿は、とても輝いていた)

千歌(私に今までに感じることのなかった刺激を与えてくれた)

千歌(だから、ずっと追い求めていたものがそこにある、そんな気がして)


千歌(私はすぐに決断した、野球を始めることを)

千歌(彼女たちのように輝きたかったから)

千歌(その舞台で輝きたいと、強く想ったから)

5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:42:16.94 ID:g8Lzz6kM0
 ―浦の星女学院・グラウンド―


曜「相変わらず、千歌ちゃんは思い込んだら一直線だね」

千歌「むぅ、何だか馬鹿にされてるみたいなんだけど」

曜「でもさ、ちょっと刺激を受けただけでいきなりキャッチボールをしようなんて」


千歌「ちょっとじゃないよ、凄いんだよ!」

曜「そんなに?」

千歌「うん! なんかこう、キラキラと輝いてて!」

6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:42:47.42 ID:g8Lzz6kM0
曜「今まで何度野球に誘っても断ってきた千歌ちゃんをそこまで惹きつけるなんて」

曜「μ’sって人たちはよっぽど凄いんだね」


千歌「曜ちゃん、μ’s知らないの!?」

曜「いや、名前ぐらいは知ってるけどさ」

千歌「じゃあ知らないことはないんだ」

曜「そこまで詳しくはないけどね」

千歌「え~、女子野球をやってるのに~」

曜「プレーと観戦は別物だから」

曜「案外、選手のことなんて知らないもんだよ」

7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:43:14.76 ID:g8Lzz6kM0
千歌「あの人たちを知らないなんて、曜ちゃんは人生損してるよ」

曜「大丈夫、私は千歌ちゃんがいれば幸せだよ」

千歌「何それ、変なの」

曜「私は真面目なんだけどなぁ」


曜「でもさ、本当に私は野球部に入らなくてもいいの?」

千歌「だってクラブチームと掛け持ちじゃ大変でしょ」

曜「そうかもしれないけどさ」

千歌「日本代表候補にもなってる渡辺曜ちゃんだよ」

千歌「無理させて怪我でもしたら大変だよ」

8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:44:20.04 ID:g8Lzz6kM0
曜「でも……」

千歌「いいから気にしないで」

千歌「本当に困ったらお願いするからさ」


曜「……分かった」

曜「だけど、困ったら言ってね」

曜「名前は貸すし、助っ人ぐらいはするから」

千歌「うん、ありがとう! 曜ちゃん大好き!」

曜「ち、千歌ちゃん、恥ずかしいよっ」

9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:45:02.52 ID:g8Lzz6kM0
 ―十千万―


千歌(でも実際問題、部員を集めるのは大変なんだよね)

千歌(部として認められるのには最低5人、試合をするには9人)


千歌(在校生のあてはほとんどない)

千歌(むっちゃんたちは頼めば協力してくれるかもだけど)

千歌(あともうすぐ入ってくる新入生)

千歌(だけど、野球部のない浦の星に入ってくる人間に期待するのは難しい)


千歌「せめて経験者の果南ちゃんを誘えればなぁ」

千歌(でもお父さんが怪我したせいで、実家のスポーツショップも大変そうだし……)

千歌「もう、上手くいかない!」

10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:45:32.69 ID:g8Lzz6kM0
美渡「千歌、うるさいよ!」


千歌「ご、ごめんなさい」

美渡「全く、どうしたのさ」

千歌「野球部に人が集まりそうになくて……」

美渡「まだ野球?」

千歌「まだってなにさ」

美渡「初心者が高校生になって始めるなんて無理だから、いい加減諦めな」

千歌「個人的によーちゃんや果南ちゃんとは野球してたし、ソフトボールの経験はあるし……」

11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:46:10.53 ID:g8Lzz6kM0
美渡「そもそもこんな田舎で人が集まるわけないでしょ」

千歌「そうかもしれないけど……」

美渡「馬鹿な事考えている暇があったら、家の手伝いでもしな」


  バタン


千歌(むう、痛いところばっかり突いてきて)

千歌(だけど事実だから反論できないのが……)

千歌(今年の新入生は相当少ないらしいし、人集めは難しいのかも)

千歌「うぅ、前途多難だなぁ」


千歌(けど嘆いても仕方ない)

千歌(まずは勧誘頑張ろう!)

12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:46:45.74 ID:g8Lzz6kM0
 ―入学式当日・校門前―


千歌「野球部~。大人気、女子野球部ですよ~」

モブ1「……」スルー

曜「君も一緒に白球を追いかけてみよう!」

モブ2「あ、いえ、私は」

曜「そこの君、ぜひ野球部に!」

モブ3「すいません、私はもうバスケ部に」


ようちか「…………」

13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:47:28.89 ID:g8Lzz6kM0
曜「全然、人集まらないね」

千歌「うん」

曜「そもそも今年の一年生、かなり数が少ない気も……」


千歌「曜ちゃん、どうしよう……」

曜「とにかくもう少し声かけてみるしかないね」

千歌「そうだね――あ、ちなみに今のは『曜』ちゃんとどうし『よう』をかけた――」

曜「おっ、あの子たちに声かけてみよう!」

千歌「無視しないでよ!」

14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:48:23.86 ID:g8Lzz6kM0
曜「すいませ~ん、ちょっといいですか」

???「ピギィ!」

曜「ピギィ?」


??「は、はい。何でしょうか」

曜「私たち野球部の者なんですけど、野球に興味ありませんか?」

??「いや、おらは別に……」

曜「おら?」

??「いや、私は……」

15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:48:49.72 ID:g8Lzz6kM0
???「野球部……ですか」

曜「うん、そうだよ」

???「あ、あのぉ」


千歌「もしかして、野球に興味あるの!」

???「部員はどれぐらい居るんですか?」

千歌「まだ1人なの、だから部員募集中でさ」

???「なるほど……」

千歌「だからあなたみたいに、野球に興味があって有望そうな子に入ってほしいんだよ!」 ガシッ

16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:49:20.35 ID:g8Lzz6kM0
???「ピッ」

千歌「ピッ?」


???「ピギャ――――――――!」


千歌「うわっ」

曜「な、なに!? どうしたの」

??「す、すいません」

??「ルビィちゃんはプレッシャーに弱くて……」


曜「いやいや、これってそんなレベルじゃ……」

ルビィ「うわぁん、おねぇちゃーん!」 ダッ

??「る、ルビィちゃん!? ちょっと待つずら~」

17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:49:50.02 ID:g8Lzz6kM0
曜「……なんか、凄い子たちだったね」

千歌「でもルビィちゃんって子、凄いスピードだったよ」

千歌「またスカウトしに行かなきゃ」

曜「あのメンタルだと、なかなか苦労しそうだけど……」


千歌「でもさ、せっかく興味を持ってくれてたんだから」

千歌「貴重な野球が好きな子かもしれないもん!」

曜「……うん、そうだね!」

18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:50:21.38 ID:g8Lzz6kM0
曜「そういえばさ、新入生について小耳に挟んだ情報があるよ」

千歌「えっ、なになに!」

曜「自己紹介で野球のスイングについて語りだした子のうわさ、知ってる?」

千歌「ううん、知らない」

曜「一年生なんだけどね。凄い勢いで話してたらしいよ」

曜「だけど途中で恥ずかしくなったのか教室を飛び出しちゃったんだって」

千歌「そ、それはまた……」


千歌「でもそこまで熱くなるぐらいだから、その子は野球好きなんだよね」

千歌「スカウトに行けばもしかしたら」

曜「私もそう思ったんだけどさ」

曜「その話だと逃げ出した後、学校に帰ってこなかったみたいで」

千歌「そうなんだ、それは残念だなぁ」

曜「まあ、どこかで誘う機会はあるでしょ」

19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:50:51.61 ID:g8Lzz6kM0
千歌「そうだね」

千歌「引きこもりにでもならない限り、学校に来るわけだから――」


???「そこのあなた方、少しいいかしら」

ようちか「!」


千歌「もしかして入部希望ですか!」

???「いえ、このチラシの件でお話がありまして」

千歌「ふぇ」

曜「! や、ヤバいよ千歌ちゃん」

曜「この人、生徒会長の黒澤ダイヤさん!」

千歌「へっ」

20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:51:20.46 ID:g8Lzz6kM0
 ―生徒会室―


ダイヤ「なるほど」

ダイヤ「野球部を作る為に、無許可で勧誘をしていたと」

千歌「は、はい」


曜「ち、千歌ちゃん、無許可だったの!?」ヒソヒソ

千歌「いやー、ばれたら怒られると思ってさ……」ヒソヒソ


ダイヤ「……部の設立には、最低でも5人の部員が必要だとは分かってますよね」

千歌「は、はい」

21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:51:49.53 ID:g8Lzz6kM0
ダイヤ「ちなみに今の部員数は?」

千歌「え、えっと、私と」

曜「私だけです……」

ダイヤ「ほぅ、なるほど」


千歌「どうしよう曜ちゃん、生徒会長怒ってるよ!」ヒソヒソ

曜「い、今からでも謝った方が」ヒソヒソ

千歌「だ、だよね――あ、あの」



ダイヤ「素晴らしいですわね」

22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:52:26.64 ID:g8Lzz6kM0
ようちか「へっ」


ダイヤ「私も常日頃から嘆いていたのですよ」

ダイヤ「浦の星に野球部がない、この惨憺たる現状を」

千歌「は、はぁ」


ダイヤ「以前から、いつの日か部を設立することを夢見ていました」

ダイヤ「けれどもただでさえ生徒数の少ない学校。現実的に難しいと諦めていましたわ」

ダイヤ「しかし貴女のような、ルールを破ってでも野球部を作るという高い志を持った人がいるなら話は別です」

千歌(高い志?)

ダイヤ「生徒会長という立場上、大手を振って助けることはできません」

ダイヤ「ただ個人的に可能な範囲、部員集めなどには協力しましょう」

23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:52:55.82 ID:g8Lzz6kM0
千歌「本当ですか!」

ダイヤ「ええ、今回の件についても生徒会長権限で不問とします」

千歌「ありがとうございます!」


曜「い、いいんですか、それ」

ダイヤ「ええ、もちろんです」

ダイヤ「これは将来的に、学校にも利益をもたらす話」

ダイヤ「なぜなら、あの渡辺曜が所属する野球部なのですから」

曜「へっ」

24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:53:35.89 ID:g8Lzz6kM0
ダイヤ「貴女の事はよく知っています」


ダイヤ「その類稀な野球センスに抜群の身体能力」

ダイヤ「ショートとピッチャーの両方をハイレベルにこなし、将来は代表を引っ張る存在とも目されている」

曜「いや、私はそんなたいした選手じゃないというか」

ダイヤ「謙遜しなくてもいいですよ」

ダイヤ「一部では、あの高坂穂乃果の後継者とまで称される選手なのですから」


千歌「よ、曜ちゃん、そんなに凄い選手だったんですか」

ダイヤ「ええ、貴女は知らなかったのですか」

ダイヤ「様子を見ている限り、とても親しいようなのに」

千歌「も、もちろん上手なことは知ってましたけど」

25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:54:02.70 ID:g8Lzz6kM0
曜「というか生徒会長、詳しいですね」

曜「野球好きなんですか?」

ダイヤ「ええ、もちろんです」

ダイヤ「プロからアマまで、男女関係なくあらゆるデータを網羅してますわ」

曜「そ、それはまた」


ダイヤ「特にμ’sと出会ってからは、女子の高校野球に夢中でして」

ダイヤ「毎年のように東京でおこなわれる全国大会には駆けつけていますの」

千歌「す、すごいですね」

ダイヤ「当然です、私を誰だと思っているのですか!」ドヤァ

26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:54:29.36 ID:g8Lzz6kM0
曜「……ねえ千歌ちゃん」

曜「もしかして生徒会長って野球オタク?」

千歌「みたいだね」

曜「誘ったら入ってくれないかな」

千歌「どうだろう、三年生だから難しいかも」


ダイヤ「やれやれ、二人で内緒話とは本当に仲のよいことで」

千歌「す、すみません」

ダイヤ「……とにかく、頑張って部員を集めてください」

ダイヤ「私も応援してますから」

ようちか「は、はい!」

27: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:55:09.11 ID:g8Lzz6kM0
 ―バス車内―


千歌「はぁ、無事で済んで良かったね」

曜「理解のある人で助かったよ」


千歌「帰り際、曜ちゃんにサインと握手を要求したのはびっくりしたけどね」

曜「あはは、確かに」

曜「でもあそこまでされると悪い気はしないよ」

千歌「いいなぁ、私も人からサインを求められてみたい」

28: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:55:39.48 ID:g8Lzz6kM0
曜「千歌ちゃんならできるよ」

曜「昔、ソフトボールは得意だったでしょ」

千歌「そんなに甘いものなのかなぁ」

曜「大丈夫だよ!」

千歌「でも……」


曜「じゃあ諦める?」

千歌「……諦めない!」

曜「だよね!」

29: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:56:08.58 ID:g8Lzz6kM0
千歌「でも困ったよね」

曜「なにが?」

千歌「ダイヤさん、完全に曜ちゃんを部員として誤解してたよ」

曜「ああ」

千歌「もし曜ちゃんが幽霊部員だってばれたら怒られるかなぁ」

曜「それは、そうかもね」

千歌「うぅ、そうなったら協力もしてくれなくなっちゃうかも……」


曜「……それなら、正式に入ればいいんじゃないかな」

千歌「え?」

30: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:56:40.30 ID:g8Lzz6kM0
曜「私ね、昨日クラブチーム辞めてきたの」

千歌「な、なんで」

千歌「曜ちゃん有名選手なんでしょ、そんなことしたら――」


曜「いいんだよ」

曜「部があれば、野球ができなくなるわけじゃない」

曜「私は割と自己流で練習するタイプだし、環境さえあれば問題ないもん」

千歌「だけど、まだ正式な部になれるかも分からないのに」

曜「大丈夫だよ、千歌ちゃんなら」

千歌「そんなこと……」

31: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:57:10.25 ID:g8Lzz6kM0
曜「昔からの夢だったの、千歌ちゃんと一緒に野球をやることが」

曜「もう叶わないと思っていたその夢が、手の届くところにある」

曜「私は絶対に、そのチャンスを逃したくない」

曜「千歌ちゃんと一緒にプレーして、頂点を目指す」

曜「その為には片手間なんて中途半端じゃ駄目、そう思ったから」

千歌「曜ちゃん……」

曜「あはは、ちょっと重いかな?」

曜「引いちゃうよね、こんなこと言われても」


千歌「……そんなことない」

32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:57:38.02 ID:g8Lzz6kM0
千歌「曜ちゃんが一緒にやってくれれば上手くいく」

千歌「不思議とそんな気がする!」

曜「千歌ちゃん……」


千歌「生徒会長の協力もあるんだから、きっとできる!」

曜「うん!」

千歌「よーし、明日からまた勧誘頑張ろー!」

曜「おー!」

33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:58:05.89 ID:g8Lzz6kM0
 ―十千万前・海岸―


千歌「あーあ、集まらないなぁ、部員」

千歌(始業式から一週間)

千歌(せっかく曜ちゃんが入部してくれたのに、その後勧誘できた部員はゼロ)

千歌(ルビィちゃんには逃げられっぱなしだし、他に目ぼしい子は見つからない)


千歌「あー、どうしよう」

千歌(せっかくダイヤさんがグラウンドの都合を付けてくれて、明日から練習できるのに)

34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:58:43.10 ID:g8Lzz6kM0
千歌「どっかに都合よく、経験者でも落ちてないかなぁ」


 バンッ


千歌「んっ、あれは……」


??「あぁ、また変なところに……」パシッ


千歌(珍しい、防波堤で壁当てをしてる人なんて)

千歌(酷いコントロールだけど、その後の捕球は完璧なのが、凄いギャップ)


??「これじゃあ、私はまた……」


千歌(見慣れない子だけど、同年代?)

千歌(この辺の子だったら、浦女の生徒の可能性も――)



曜『自己紹介で野球のスイングについて語りだした――』

35: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:59:11.07 ID:g8Lzz6kM0
千歌(そういえば例の子、まだ一度も見かけてない)

千歌(2年生以上だったら顔ぐらいは分かるだろうし、もしかしたらこの子なのかな)

千歌(わかんないけど、声をかけるだけかけてみてもいいかも)



千歌「す、すいませーん」

??「へっ、わ、私?」

千歌「はい!」

??「な、なんでしょうか」

千歌「えっと――」

36: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 00:59:38.48 ID:g8Lzz6kM0
千歌(あれ)

千歌(よく考えたら、浦女の生徒じゃなかったら恥ずかしいかも)

千歌(合っていたとしても、こんなところでいきなり勧誘したら嫌がるかな)


??「あ、あの……」


千歌「キャッ」

??「キャッ?」

千歌「キャッチボール、しませんか?」

??「はぁ」

37: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:00:06.49 ID:g8Lzz6kM0
―――
――



千歌「へぇ、梨子ちゃんって言うんだ」シュッ

梨子「うん。千歌ちゃんと同じ、高校二年生」パシッ

千歌「高校はどこなの?」

梨子「東京のね、音ノ木坂って高校だったんだけど」シュッ

千歌「東京、凄いね!」パシッ

千歌(やっぱり他校生じゃん、勧誘しなくてよかった~)

38: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:00:35.12 ID:g8Lzz6kM0
千歌「なんで内浦に来たの?」シュッ

梨子「え、えっと、その……」パシッ

千歌「あっ、言いにくい理由だった?」

梨子「う、ううん、そういうわけじゃないんだけど……」

千歌「梨子ちゃん?」


千歌(ありゃ、地雷踏んじゃったかな)

千歌(都会の子は結構繊細って言うもんね)

千歌(でも音ノ木坂かぁ、どこかで聞いたことあるような――)

千歌「!」

39: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:01:06.31 ID:g8Lzz6kM0
千歌「音ノ木坂ってμ’sの母校!?」

梨子「う、うん」

千歌「女子野球の名門だよね!」

梨子「まあね」


千歌「でも音ノ木坂の選手……」

千歌「もしかして梨子ちゃん、野球エリート!?」

梨子「……元、ね」

千歌「元?」

40: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:01:33.65 ID:g8Lzz6kM0
梨子「ねえ千歌ちゃん、イップスって知ってる?」

千歌「イップス?」

梨子「主にスポーツ選手が患う、精神的な病気」

梨子「簡単に言えば、当たり前に出来ていた動作が、急にできなくなるの」

梨子「投げる、打つみたいな、基本的な動作さえも」

千歌「……もしかして、さっきの壁当て」


梨子「うん、そう」

梨子「私ね、投球イップスなんだ」

41: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:02:17.09 ID:g8Lzz6kM0
梨子「これでもね、結構有望な投手だったの」

梨子「小さい頃から、周囲には天才だって持て囃されて」

梨子「野球人生も順調だった」

梨子「実際に結果を残して、名門の音ノ木坂に進学して」


梨子「でもある日突然、投げられなくなった」

梨子「それまで自然とできていた投球動作が、できなくなって」


梨子「必死に治そうとしたよ」

梨子「でも考えれば考えるほど、症状は悪化する」

梨子「投手を辞めてね、外野手に転向しようともしたの」

梨子「だけど次第に、外野からの送球ですらまともに投げられなくなって」

42: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:02:44.96 ID:g8Lzz6kM0
千歌「でも今は、キャッチボールできてたよね」

梨子「普通に会話ができる程度の距離ならね」


梨子「でももう少し離れるだけで、それさえもできなくなる」

梨子「キャッチボールもできない、小学生以下の選手」

梨子「私は天才から、練習もまともに出来ないお荷物になっちゃったの」

梨子「結局そんな状況に耐えられなくて、野球部は辞めちゃった」

千歌「そんな……」

43: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:03:14.12 ID:g8Lzz6kM0
梨子「学校も音ノ木坂って言ったけど、もうすぐ転校予定なの」

千歌「そうなんだ……」

梨子「周囲からは野球を辞めてでも残るべきだって止められた」

梨子「けどあそこには、もう私の居場所はなかったから」


千歌「でもだったら何で、まだ壁当てをしてるの」

千歌「野球、やめるんだよね」


梨子「やめないよ」

梨子「私は諦めきれないから、小さい頃からやってきた野球の道を」

44: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:03:44.28 ID:g8Lzz6kM0
千歌「苦しい想いをしてまで、続けるんだ、野球」

梨子「そうね」


梨子「正直、少し意地もある」

梨子「ここで投げ出したくない、そんな気持ち」

梨子「でも一番の理由は、例え普通に投げられなくなっても、私は野球が大好きだから」

梨子「好きだからこそ、続けるの」


千歌「……なんか素敵だね、そういうの」

梨子「千歌ちゃんはどこかの高校の野球部員?」

千歌「うん」

45: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:04:14.07 ID:g8Lzz6kM0
梨子「それならどこかで対戦することもあるかもね」

梨子「転校する予定の学校、この辺りだから」

千歌「そうなんだ、楽しみだね!」

千歌(浦の星だったら嬉しいけど、廃校の噂もある学校にはこないだろうしなぁ)


梨子「そういえば、千歌ちゃんのポジションはどこなの?」

千歌「え、えっと……」

千歌(よく考えたら決めてなかったような)

千歌(向いているところ――昔から曜ちゃんや果南ちゃんの投球練習に付き合うことはあったし)

46: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:04:41.25 ID:g8Lzz6kM0
千歌「たぶん、キャッチャーかな」

梨子「たぶん?」


千歌「実は本格的に野球を始めたのは最近なんだ」

千歌「だから、ちゃんとしたポジションは決まってなくて」

梨子「でもその割に上手よね」

千歌「ソフトボールの経験はあったからね」

千歌「野球も幼馴染に凄い上手な子がいて、時々練習に付き合ったりはしてたから」

梨子「なんか特殊な環境ね」

千歌「うん」

47: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:05:10.95 ID:g8Lzz6kM0
梨子「けどなんで今さら、本格的に始めようと思ったの?」

千歌「始めた理由はね、出会ったから」

千歌「キラキラと、輝いている人たちに」

梨子「輝いている人たち?」


千歌「梨子ちゃんも音ノ木坂出身なら知ってるでしょ、μ’s」

梨子「もちろん、伝説のOGだもん」

千歌「私は最近になってね、μ'sの存在を知ったの」

千歌「それで動画を観ている内に憧れて、こんな風に輝きたいと思って」

48: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:05:37.04 ID:g8Lzz6kM0
梨子「分かるよ、その気持ち」

梨子「私も千歌ちゃんと同じ、μ'sに憧れているから」

千歌「おぉ、仲間だね!」


梨子「千歌ちゃんはあれかな、穂乃果さんのファンでしょ」

千歌「な、なんで分かったの?」

梨子「うーん、雰囲気が少し似てたからかな」

千歌「雰囲気?」

梨子「はっきりとした根拠があるわけじゃないけどね」

49: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:06:03.97 ID:g8Lzz6kM0
千歌「それなら梨子ちゃんは誰が好きなの」

千歌「やっぱり穂乃果さんのファン?」


梨子「私は、西木野真姫さんかな」

千歌「あー、何かそれっぽい」

千歌「自分で天才とか言っちゃう辺りとか似てるもんね」

梨子「べ、別に自分で天才って言ってるわけじゃないわよ」

千歌「えへへ、分かってるよ」

梨子「もうっ。真姫さんは格好いいからファンが多いのよ」

梨子「同級生の音ノ木坂でエースの子も、真姫さんに憧れているぐらいだもん」

50: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:06:42.18 ID:g8Lzz6kM0
千歌「そうなんだ、凄いね」

千歌「でも私が好きかもって言ったのにもさ、ちゃんとした理由もあるんだよ」

梨子「そうなの?」


千歌「真姫さんがさ、イップスみたいな病気持ちだったって知ってる?」

梨子「ううん、初めて聞いた」

千歌「彼女もね、梨子ちゃんみたいに天才って呼ばれてた」

千歌「でも家が大きなお医者さんでしょ」

千歌「ご両親からはいつも、野球をやることを反対されていたの」

千歌「それが結構辛かったみたいで、精神的に追い詰められて」

千歌「中学3年生の頃、まともにボールが投げられなくなっちゃったんだって」

梨子「……私と似たような状態ね」

51: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:07:09.15 ID:g8Lzz6kM0
千歌「でも高校に入って、何かのきっかけで立ち直れたみたい」

梨子「きっかけ?」

千歌「えへへ、実はそこからはよく知らなくて」

千歌(この前ダイヤさんから教えてもらった話だからね)

千歌(詳しいこと、ちゃんと聞いておけばよかった)


梨子「それならなんでこの話を?」

千歌「えっとね、私が言いたいのは、きっとイップスは治る病気だってこと」

千歌「真姫さんだって、高校で復活できたんだから」

梨子「……」

52: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:07:43.67 ID:g8Lzz6kM0
千歌「真姫さんは治ったんだから、不治の病ってわけじゃない」

千歌「梨子ちゃんなら、また投げられるようになるよ!」


梨子「……変な人ね、千歌ちゃんって」

千歌「あはは、よく言われる」

梨子「でもありがとう、おかげで少し元気が出た」

千歌「力になれたなら良かったよ!」


梨子「――じゃあ私は行くわね、お父さんたちが待ってると思うから」

千歌「うん――あ、そうだ」

梨子「どうしたの?」

千歌「せっかくだし、サイン頂戴!」

梨子「……本当に、変な人」クスッ

53: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:08:18.39 ID:g8Lzz6kM0
 ―浦の星女学院・2年生教室―



曜「おはヨ―ソロー!」

千歌「おはよう!」


曜「おお、今日は元気だね」

千歌「昨日ちょっといいことがあってね」

曜「いいこと?」

千歌「実はね、音ノ木坂の子と出会ったんだ」

54: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:08:44.24 ID:g8Lzz6kM0
曜「東京の? そりゃまた珍しいね」

千歌「うん、それも野球部の子でね~」

曜「へぇ、私も会ってみたかったな」

曜「音ノ木坂の野球部なら知り合いも何人かいるし」

千歌「あー、代表の子とかいそうだもんね」


千歌「あとね、さっきむっちゃん達に入部できないか聞いたの」

千歌「そしたら入るのは無理でも、試合の時に助っ人をしてくれるらしくてさ」

曜「本当!?」

55: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:09:14.41 ID:g8Lzz6kM0
よしみ「うん」

むつ「私ら、全然上手くはないけどさ」

いつき「2人共頑張ってるみたいだし、それぐらいは協力しようかなーって」

曜「3人とも、ありがとう!」


千歌「一応全員経験者みたいだよ」

曜「それは頼りになるね」

よしみ「あはは、期待はしないでよ」

むつ「本当に経験はある程度だからさ」

56: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:09:40.99 ID:g8Lzz6kM0
曜「これであと4人揃えば試合ができる!」

千歌「ふふふ、形になってきたね」

曜「この調子で部員集めを全速前進――」


 ガラッ


教師「おーい、全員席につけー」

千歌「ありゃ、先生来ちゃったね」

曜「むぅ、いいところだったのに」

57: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:10:06.61 ID:g8Lzz6kM0
教師「今日は転校生を紹介するぞ~」


 ザワザワ


千歌「こんな時期に珍しいね」

千歌「曜ちゃん、何か聞いてる?」

曜「ううん、全然」


 ガラッ


梨子「……」


千歌「あ、あの子は……」

58: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:10:33.53 ID:g8Lzz6kM0
教師「じゃあ、自己紹介して」

梨子「東京の音ノ木坂学院から転校してきた、桜内梨子です」

梨子「みなさんよろしくお願いします」ペコリ


千歌「梨子ちゃ――」

曜「梨子ちゃん!」

梨子「よ、曜ちゃん!?」

千歌「ふぇ」

59: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:11:05.32 ID:g8Lzz6kM0
 ―放課後―


千歌「2人は知り合いだったの?」

曜「うん、中学の時に年代別代表の合宿で知り合ってね」


梨子「まさか曜ちゃんがいるなんて、ビックリしたよ」

曜「私の方こそ」

曜「最近は代表で見かけなかったから、心配してたんだよ」

梨子「うん、ちょっと色々あってね」

60: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:11:34.10 ID:g8Lzz6kM0
千歌「梨子ちゃん、曜ちゃんと同じぐらい野球が上手だったんだね」

梨子「私と曜ちゃんだと格が違うわよ」

梨子「だって曜ちゃんは、世代を代表する選手だもの」

曜「えー、そんなことはないと思うけど」


梨子「でも驚いたわ」

梨子「千歌ちゃんの野球が上手な幼馴染って曜ちゃんのことだったのね」

千歌「あはは、まあね」

梨子「それなら経験が浅いのに上手なのも納得」

61: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:12:02.00 ID:g8Lzz6kM0
曜「梨子ちゃん、こっちではどこのチームに入るの?」

梨子「一応、この学校の野球部に入ろうと思ってるんだけど」

曜「マジで! じゃあ私たちとチームメイトじゃん!」

梨子「あれ、曜ちゃんってどこかのチームに所属してなかった?」

曜「そっちは最近部活に専念するために辞めたんだ」


梨子「……もしかして、浦の星って強豪校?」

千歌「ううん」

曜「まだ部員が2人で、正式な部にもなってないよ」

梨子「えっ」

62: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:13:19.59 ID:g8Lzz6kM0
曜「あれ、知らなかった?」

梨子「う、うん」

梨子「入学前に会った生徒会長さんからは、ちゃんとした野球部があるって聞いたんだけど……」


千歌(ダイヤさん、また無責任なことを……)

曜(元年代別代表選手だと気づいて、意地でも部に入れたかったのかな)


曜「まあその辺はおいおい考えるとして――」

曜「とりあえず今日から練習だよ!」


千歌「あっ、そうだよね」

千歌「部員集めに必死で忘れてた」

63: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:14:08.04 ID:g8Lzz6kM0
曜「梨子ちゃんも部に入るつもりだったなら練習着ぐらい持ってきてるでしょ」

梨子「う、うん」

曜「じゃあ早速行こう!」

曜「久しぶりに梨子ちゃんの球を打ってみたいし!」

梨子「え、えっ」

千歌「よーし、出発だ!」

曜「ヨ―ソロー!」


梨子「ま、待ってよ2人共~」

64: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:14:36.41 ID:g8Lzz6kM0
 ―グラウンド―


曜「さて、アップも終わったところで――早速勝負だよ、梨子ちゃん!」


千歌「いやいや、もっと基礎的な練習とかさ」

千歌「私たち、3人しかいないんだし」

曜「いいじゃん! せっかく初練習日なんだから楽しいことやりたい!」

千歌「気持ちは分からなくもないけど……」

千歌(そもそも、梨子ちゃんはイップスで投げられないんだよね)

65: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:15:08.81 ID:g8Lzz6kM0
曜「梨子ちゃんはピッチャーで、私がバッターね!」

梨子「う、うん、分かった」

曜「千歌ちゃんはキャッチャーよろしく!」

千歌「えっ、でも――」


梨子「私は大丈夫だよ、千歌ちゃん」

千歌「投げられるの?」

梨子「まあ、やってみる」

千歌「でも……」

66: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:15:40.74 ID:g8Lzz6kM0
梨子「何かね、身体が軽いの」

梨子「さっきのキャッチボールも問題なくできた」

梨子「千歌ちゃんに励ましてもらってから、投げられるようになった気がするの」

千歌「そうなの?」

梨子「うん、だからお願いね」



曜「一打席勝負ね!」

梨子「うん」

千歌「……」

千歌(梨子ちゃん、どんな球投げるんだろう)

67: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:16:10.61 ID:g8Lzz6kM0
梨子(緊張する)

梨子(でも懐かしいな、マウンドの感触)

梨子(やっぱりここに立つと、少し不安かも)

梨子(でもキャッチボールをした時、そして帰ってから軽く投げてみた時の感触)

梨子(大丈夫、私は投げられる)


曜「よーし、こい!」


梨子「――」ググッ

千歌(確かに、ぎこちないけど昨日よりは綺麗なフォーム)

梨子「えいっ」シュッ


68: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:16:38.36 ID:g8Lzz6kM0
千歌「わっ、本当にストライクが――」


曜「!」


カッキ――ン!


梨子「あー、これは……」


曜「よっしゃ、ホームラン!」

千歌「容赦なさすぎるよ!」

曜「えー、でも真剣勝負だし」

梨子「あはは、流石曜ちゃんだね」

69: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:17:06.91 ID:g8Lzz6kM0
曜「ところでさ、今のストレート?」

梨子「うん」

曜「梨子ちゃん、球遅くなったんじゃない」

曜「なんかフォームも変だし、怪我でもしてるの?」

梨子「ちょっと、色々あってね」


千歌「てか誰もいないのにあんなに飛ばして、ボールはどうするのさ」

曜「あー……取ってくる?」

千歌「どこへいったのか分からないよ~」

70: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:17:33.13 ID:g8Lzz6kM0
 おーい


千歌「ん、ボールが飛んでいった方から声が」


??「おーい」


曜「おっ、あの声は」

??「千歌、いくよ~」


 ヒューン


梨子「わっ、ボールが」パシッ

71: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:18:04.68 ID:g8Lzz6kM0
??「ごめーん、めっちゃ逸れたー」タッタッ

千歌「果南ちゃんは相変わらずノーコンだね~」

果南「そこはもう病気みたいなもんだからさ」

曜「それにしても悪化してない?}

果南「それはほら、最近あんまり練習できてないからさ」

梨子「でもあんなところから、凄い肩……」

果南「捕ってくれて助かったよ、ありがとう」

梨子「い、いえ」


曜「珍しいね、学校に来てるなんて」

72: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:18:48.48 ID:g8Lzz6kM0
果南「ダイヤに野球部の備品を頼まれてさ」

曜「あー、それでもう道具があったんだね」

果南「2人が部を作ったなんて驚いたけど、うち的には助かったよ」

果南「こんな大型注文貰っちゃってさ~、大喜び」


千歌「部員も揃ってない部とは思えない部費の使い方だねぇ」

曜「これは個人的な協力の範囲なのかなぁ」

千歌「……都合の悪いことは考えないようにしよう」


果南「そっちの子はもしかして、新入部員?」

千歌「うん。桜内梨子ちゃん」

千歌「転校生で、凄い上手なんだよ!」

73: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:19:32.87 ID:g8Lzz6kM0
果南「それは期待できるじゃん、よろしくね!」ハグッ

梨子「え、ええ」

千歌「もう、初対面の子に抱き着いたら驚かれるよ」

曜「果南ちゃんのハグは挨拶みたいなもんだから、気にしないで」

梨子「う、うん」


果南「ヤバい、早く戻らないと時間無くなる――じゃあね!」

千歌「バイバイ~」

曜「またね~」

74: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:19:59.26 ID:g8Lzz6kM0
梨子「……豪快な人だったね」

曜「梨子ちゃんとはだいぶ性格が違うよね」

千歌「でも良い人だよ、野球も大好きだし」


曜「昔はプレーもしてたよね」

千歌「最近は家の手伝いが忙しくてあんまりみたいだけど」

梨子「あの果南さんって人、上手なの?」

千歌「……まあ、実力はあるんだけど」

曜「上手かと言われると、微妙かも」

75: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:20:28.01 ID:g8Lzz6kM0
梨子「どういうこと?」

曜「いつかプレーを見ればわかるよ」

梨子「気になるわね……」

千歌「まあまあ、今は練習中だし」

曜「そうそう、じゃあ練習再開――あれ?」

千歌「どうしたの?」

曜「いや、なんか人影が見えたような……」



???「ピギッ」

76: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:21:00.56 ID:g8Lzz6kM0
 ―公園―



ゲーム画面『祝・日本一!』



花丸「よしっ」

花丸(これで最高難易度、高卒ルーキー縛りのペナントも優勝)

花丸(いんたーねっと? の使い方がよく分からないから対人戦はほとんどできない)

花丸(だけどCPUにはもう負ける気がしないよ)

花丸(ふふっ、早くルビィちゃんに報告しないといけないずら~)

77: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:21:31.07 ID:g8Lzz6kM0
花丸「ルビィちゃん、早くこないかなぁ」


花丸(マルは昔から、目立たない子だった)

花丸(みんなが遊んでいる中、いつも隅でゲームばかり)

花丸(その中でも野球ゲームが大好きで)

花丸(小学校に入った時からパ○ポケに夢中)

花丸(高学年になるとパ○プロやプロ○ピにも手を出して)

花丸(気づけば1人でゲームばかりしていた)

78: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:22:25.93 ID:g8Lzz6kM0
花丸(でもある日、運命的な出来事が起こった)

花丸(いつものように公園でゲームをしていたとき、出会ったんだ)

花丸(一人きりで野球の教本を見ながら練習をする女の子、ルビィちゃんと)


花丸(マルたちはすぐに意気投合した)

花丸(そしてそれ以来、放課後はいつも2人で集まって)

花丸(ルビィちゃんの練習を手伝ったり、一緒にゲームをしたりして過ごしている)

花丸(今日みたいに、野球を観に行くルビィちゃんと別行動をすることもあるけど――)

79: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:22:56.67 ID:g8Lzz6kM0
ルビィ「花丸ちゃん!」

花丸「あ、ルビィちゃん」


ルビィ「やっぱり野球部できてた!」

花丸「部員集まってたの?」

ルビィ「ううん、見かけたのは3人だけ」

ルビィ「でもちゃんと、練習始めてたよ」

花丸「本当に作っちゃったんだ、凄いねぇ」

ルビィ「あぁ、これで母校の応援ができる~」

80: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:23:54.33 ID:g8Lzz6kM0
花丸「応援?」

ルビィ「うん」

花丸「プレーじゃないの」

ルビィ「駄目かな?」


花丸「ううん、駄目じゃないよ」

花丸「でもルビィちゃんはやりたいんでしょ、野球」

ルビィ「だけど、ルビィはプレッシャーに弱すぎるし……」

花丸「そうかもだけど」

81: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:24:22.21 ID:g8Lzz6kM0
ルビィ「それにね、お姉ちゃんに悪い気がして」

花丸「ダイヤさんに?」


ルビィ「お姉ちゃんが昔、野球をやっていたのは知ってるでしょ」

花丸「うん」

ルビィ「本当はね、今もやりたいはずなの」

ルビィ「それなのに、お母さんから禁止されちゃってる」

ルビィ「家を継ぐ長女がそんなことに現を抜かしてはいけないって」

花丸「けど、ルビィちゃんは禁止されてないよね」

82: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:25:11.47 ID:g8Lzz6kM0
ルビィ「駄目だよ」

ルビィ「お姉ちゃんができないのにルビィだけなんて、可哀想だもん」

花丸「ルビィちゃん……」


ルビィ「それにね、そんなに悪いことばかりじゃないんだよ」

ルビィ「ルビィはこうやって、花丸ちゃんと2人で野球をやっている時が一番楽しいから」

花丸「マルと?」


ルビィ「仲の良い2人でキャッチボールして、ノックを受けて、バントの練習をして」

ルビィ「休憩時間になったら一緒にゲームで遊ぶ」

ルビィ「こんな楽しい時間、凄く貴重だって思わない?」

花丸「……そうだね」

83: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:25:43.45 ID:g8Lzz6kM0
ルビィ「じゃあ早速練習始めようよ! 早くしないと日が暮れちゃう!」

花丸「うん!」


花丸(ルビィちゃん、やっぱり良い子)

花丸(だからきっと、現状に満足しているのも本当)


ルビィ「今日は何をする予定だっけ」

花丸「ノックで、その後にバントの練習だよ」

ルビィ「そうだったね」

ルビィ「じゃあお願いできるかな」

花丸「了解ずら!」

84: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:26:09.91 ID:g8Lzz6kM0
花丸「ルビィちゃん、いくよ~」

ルビィ「はーい」


花丸「それっ」キン

ルビィ「ほっ」パシッ

花丸「ほい」キン

ルビィ「やっ」パシッ

花丸「あっ、ミスった」キーン


ルビィ「わっと」タタッ――パシッ

花丸「ナイスキャッチずら!」

85: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:26:37.99 ID:g8Lzz6kM0
花丸(マルは下手だから、変なところにノックをしちゃうこともある)

花丸(でもルビィちゃんはどこへ打っても、全部捕ってくれる)

花丸(守備や走塁だけ見れば、相当レベルは高いはず)

花丸(マルはプレイ経験がないから、贔屓目なのかもしれないけど)


ルビィ「もっと強くていいよ!」

花丸「分かった!」カキーン

ルビィ「うん、そんな感じ!」パシッ


花丸(だけどやっぱり、このままプレーできないなんて勿体ないよ)

花丸(このままじゃ駄目、なんとかしないと――)

86: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:27:09.09 ID:g8Lzz6kM0
 ―翌々日・浦の星女学院―


ルビィ「助っ人?」


花丸「うん」

花丸「千歌さんたちに聞いてみたらね、やっぱり試合に出れる人が足りないんだって」

ルビィ「うゅ、3人しかいなかったもんね」

花丸「だからね、お願いされたの」

花丸「野球経験のあるルビィちゃんに、試合だけでも出てくれないかって」

87: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:27:36.12 ID:g8Lzz6kM0
ルビィ「で、でも……」

花丸「やっぱり嫌?」

ルビィ「だ、だって、昨日も言ったけど――」


花丸「ダイヤさんにもね、お願いされたんだ」

花丸「母校のチームが試合もできないなんて嫌だから、協力してほしいって」

ルビィ「お姉ちゃんが……」

花丸「それにね、ルビィちゃんがいないと困る人がいて」

ルビィ「困る人?」

88: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:28:05.18 ID:g8Lzz6kM0
花丸「実はね、マルも助っ人として参加することになったんだ」

ルビィ「マルちゃんが!?」

花丸「うん」

ルビィ「な、なんで……」

花丸「前から実際のプレーにも興味はあったんだ」

花丸「それでやってみたかったから――じゃ駄目?」

ルビィ「駄目じゃないけど……」


花丸「だけどね、1人だと心細いんだよ」

89: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:28:42.80 ID:g8Lzz6kM0
花丸「今日、早速練習に参加することになってるの」

花丸「最初に実力を図るために、プレーを見ておきたいんだって」


花丸「けどほら、マルは初心者でしょ」

花丸「1人だと寂しい――ルビィちゃんがいてくれると心強いんだよね」

ルビィ「マルちゃん……」

花丸「親友としてのお願い、駄目かな?」


ルビィ「……分かったよ」

90: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:29:21.84 ID:g8Lzz6kM0
花丸「ルビィちゃん!」

ルビィ「助っ人は分からないけど、今日練習だけでも出てみるよ」

花丸「ありがとう! 今度ちゃんとお礼に何でもするから」ギュー

ルビィ「ま、マルちゃん、痛いよ」

花丸「ルビィちゃん大好きずら~」

ルビィ「う、うゅ♪」


花丸(上手くいった!)

花丸(あとは、ルビィちゃんを――)

92: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:31:07.93 ID:g8Lzz6kM0
 ―グラウンド―



千歌「やあやあ、よく来たね!」ガシッ

ルビィ「ピギッ」


曜「話は花丸ちゃんから聞いてるよ」

梨子「とっても上手なんだって」

ルビィ「そ、そんなことは……」

千歌「助かるよほんと。まさに期待の星!」

ルビィ「う、うぅ」

93: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:35:40.07 ID:g8Lzz6kM0
一応本人です
以前ここで書いたときに途中で投げてしまったのを思い出したのと、色々気になる部分もあったので修正を兼ねて

94: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:36:45.67 ID:g8Lzz6kM0
ルビィ「ま、マルちゃぁん」ヒシッ

花丸「よしよし、落ち着いて」

ルビィ「うぅ」


曜「ありゃ、後ろに隠れちゃった」

梨子「千歌ちゃん、ルビィちゃん怖がってるよ」

千歌「あはは、ごめんごめん」

千歌「つい興奮しちゃって」

ルビィ「い、いえ、ルビィの方こそ……」

95: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:37:14.06 ID:g8Lzz6kM0
花丸「大丈夫」

ルビィ「うゅ……」

花丸「ルビィちゃん、がんばルビィだよ」

ルビィ「――う、うん!」


曜「もう大丈夫そう?」

ルビィ「はい!」

千歌「よーし、じゃあ練習開始だ!」

96: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:37:39.92 ID:g8Lzz6kM0
―――
――



花丸「も、もう駄目ずらぁ……」

花丸(ランニングの時点で限界、運動不足にもほどがあるよ……)

花丸(これだったら、体力トレもルビィちゃんと一緒にやっておけばよかったかも……)


ルビィ「だ、大丈夫?」

花丸「大丈夫じゃ……ない……」

97: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:38:12.13 ID:g8Lzz6kM0
曜「あはは、最初はそんなもんだよね」

梨子「でもルビィちゃんは元気ね」

ルビィ「あっ、はい」

ルビィ「一応、トレーニングは毎日欠かさずやってるので」

千歌「おぉ、偉いねぇ」


曜「でもこの後の練習どうする?」

曜「花丸ちゃんが回復するまで休憩にしようか?」

花丸「いえ、マルは気にせず続けてください」

花丸「動けるようになったら戻りますから」

98: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:38:43.67 ID:g8Lzz6kM0
千歌「分かったよ、じゃあ続けようか!」

曜「了解ヨ―ソロー!」


ルビィ「ま、マルちゃん」

花丸「どうしたの?」

ルビィ「ルビィだけだとちょっと……」

花丸「大丈夫だよ、ルビィちゃんなら」

ルビィ「でもぉ」

花丸「すぐに合流するから頑張って」

ルビィ「……うん」

99: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:39:21.91 ID:g8Lzz6kM0
曜「そういやルビィちゃん、ポジションはどこなの?」

ルビィ「え、えっと」

ルビィ(ルビィの適性的には……)

ルビィ「たぶん、セカンドです」


曜「セカンド――私と二遊間だね!」

ルビィ「ピッ」

ルビィ(そっか、曜さんは内野もやるんだ)

ルビィ(……有名人と二遊間)

ルビィ(そんなの、絶対に目立っちゃうよ……)

100: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:39:51.18 ID:g8Lzz6kM0
ルビィ「あ、あの、やっぱり――」


曜「よし、なら早速ノックしてみよう!」

ルビィ「ピッ」

曜「私が打つから、ルビィちゃんはセカンドに入って」

曜「返球はキャッチャーの千歌ちゃんにすればいいから」

梨子「私は後ろで逸れたボールを回収しておくね」

曜「ありがとう~」

ルビィ「ぴぃ……」


花丸(どうしよう、ルビィちゃんだいぶ参っちゃってる……)

101: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:40:19.55 ID:g8Lzz6kM0
ルビィ(うぅ、緊張する)

ルビィ(よく考えたらグラウンドで野球をするのは始めてだよぉ)

曜「じゃあ行くよ~」

ルビィ「は、はい」


曜「それ」キン

ルビィ「あっ」ポロッ

曜「もう一丁!」キン

ルビィ「あぅ」ポロ

102: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:40:45.28 ID:g8Lzz6kM0
ルビィ(駄目だ、緊張で身体が上手く動かない)


梨子「ルビィちゃん、落ち着いて!」

千歌「次は捕れるよ!」

ルビィ(……注目されてる)

曜「……」

ルビィ(曜さん、ガッカリした顔してる)


ルビィ(嫌だよ、ルビィを見ないでよぉ……)

103: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:41:12.58 ID:g8Lzz6kM0
―――
――



ルビィ「ハァ、ハァ」


花丸「ルビィちゃん……」

花丸(ここまでの数十球、ルビィちゃんは一球も捕れてない)

花丸(最初はグラブには当てられてはいたのに、今はかすりもしなくなって)

花丸(それどころか、動くことさえ……)

104: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:41:38.37 ID:g8Lzz6kM0
曜「どうしよう、もう止めた方がいいかな」

千歌「で、でも、流石にマズいよ」

千歌「1球も捕れないまま止めるはちょっと」

曜「……あの様子だと、いつまでたっても捕れないかもしれないよ」

曜「私はむしろ、ここで止めてあげた方がいいと思う」

曜「下手に続けても、ルビィちゃんは苦しむだけだよ」

千歌「そうだね、このままだと逆効果――」



花丸「ま、待ってください!」

105: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:42:16.03 ID:g8Lzz6kM0
千歌「!」


曜「花丸ちゃん、もう回復したの?」

花丸「はい」


花丸「あの、マルもノックを受けさせてください」

花丸「ルビィちゃんと一緒に、同じように」

曜「でも花丸ちゃん、初心者だったよね?」

花丸「だ、大丈夫です」

花丸「一応、ルビィちゃんと一緒に練習はしてましたから」

曜「うーん、だけどなぁ」

106: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:42:56.00 ID:g8Lzz6kM0
千歌「いいんじゃないかな」


曜「千歌ちゃん?」

千歌「本人がやりたいっていうんだから」


千歌「確かに危ないかもしれない」

千歌「どっちにしろ、試合になればボールは飛んでくるんだよ」

千歌「今のうちに練習しておいた方がいいよ」

曜「まあ、それもそっか」

花丸「ありがとうございます!」

107: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:43:25.37 ID:g8Lzz6kM0
ルビィ(頭がグルグルして、前もよく見えない)

ルビィ(何度かボールもぶつかって、身体痛い)


ルビィ(……そういえば、ボールが来なくなったかも)

ルビィ(終わったのかな)

ルビィ(最後まで、1球もボールが捕れないまま)


ルビィ(……)


ルビィ(まあ、いっか)

ルビィ(やっぱりルビィには向いてなかったんだよ、野球は――)

108: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:43:58.09 ID:g8Lzz6kM0
花丸「ルビィちゃん!」


ルビィ「……マルちゃん、どうしたの?」

花丸「一緒にやろう!」

ルビィ「一緒に?」

花丸「ずら!」


ルビィ「でもマルちゃん、ノックは打ってくれるばかりで、受けたことなんてほとんど――」

花丸「ふふん、甘いよ」

花丸「これでもゲームではファインプレーを連続してるずら!」

ルビィ「……もぅ、ゲームと現実の世界は違うよ」

109: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:44:29.53 ID:g8Lzz6kM0
花丸「それでもイメージはできてるから!」

ルビィ「ふふっ、そっかぁ」

花丸「見ててね、マルの華麗な守備を」

ルビィ「うん!」


千歌(不思議)

千歌(2人で話している内に、ルビィちゃんの表情が和らいできた)

千歌(本当に仲良しなんだね、あの子たちは)


曜「順番にいくよ!」

花丸「はい!」


曜「花丸ちゃん!」キン

110: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:44:59.65 ID:g8Lzz6kM0
花丸「わっと――あれ」


 ドスッ


千歌「へっ」

梨子「あ……」

曜「あら?」

ルビィ「ピギィ!」


花丸「――――!」ジタバタ

111: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:45:33.33 ID:g8Lzz6kM0
梨子「顔面直撃、あれは痛そうね……」


千歌「よ、曜ちゃん、強く打ち過ぎだよ!」

曜「ご、ごめん、大丈夫?」

花丸「だ、大丈夫れす」


ルビィ「駄目だよぉ、ちゃんとボールを見なきゃ」

花丸「あはは、やっぱりゲームとは違うね」

ルビィ「マルちゃんは意外とやんちゃさんなんだから」

花丸「いけると思ったんだけどなぁ」

112: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:46:02.28 ID:g8Lzz6kM0
曜「大丈夫そうなら――ルビィちゃんいくよ~」

ルビィ「あ、はい!」


曜「それ!」カキーン

千歌「ちょっ」

曜「ヤバッ、強く――」


ルビィ「!」パシッ


曜「あれを捕った!?」

113: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:46:30.33 ID:g8Lzz6kM0
ルビィ「千歌さん!」シュ


千歌「えっ」


 ドスッ


千歌「ぐぇ」

曜「ち、千歌ちゃん!?」

千歌「……しまった、ボーっとしてた」


ルビィ「だ、大丈夫ですか!?」

千歌「あはは、大丈夫大丈夫……」

114: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:47:03.05 ID:g8Lzz6kM0
千歌「それよりも――凄いよルビィちゃん!」

ルビィ「ふぇ?」


曜「そうだよ!」

曜「今の、私でも捕れるか微妙なボールだったのに!」

ルビィ「そ、そうですか?」

曜「今の感じで続けて――でも次は花丸ちゃんか」

花丸「あ、マルはぶつかったところが痛むんで、少し休んでもいいですか?」

曜「分かった――じゃあルビィちゃん、続けよう!」

ルビィ「はい!」

115: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:47:43.53 ID:g8Lzz6kM0
 ―帰り道―


花丸「うぅ、体中が痛いずら……」

ルビィ「守備の後も、打席で自打球当てたりしてたもんねぇ」

花丸「ふんわりとしたボールを打つのが、あんなにも難しいなんて」

ルビィ「公園じゃ打撃練習はできなかったから仕方ないよ」


花丸「でもその分、バントの練習はたくさんしてきたからそこは褒められたよね~」

ルビィ「えへへ、ルビィも『バント職人』なんて言われちゃったし」

116: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:48:28.93 ID:g8Lzz6kM0
花丸「先輩たち、凄かったよね」

ルビィ「そうだよね!」

ルビィ「千歌さん、野球を始めたばかりなのに普通にプレーできてたし」

花丸「梨子さんも流石は元名門校って感じの華麗な動きだったずら~」


ルビィ「何といっても曜さん!」

ルビィ「動きすべてが、まさにスターって感じだよね」

花丸「だね、まるで別世界の人みたいだった」

ルビィ「どうやったらあんな風に動けるんだろうなぁ」

117: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:49:38.72 ID:g8Lzz6kM0
花丸「ルビィちゃんは、あんな風になりたいの?」

ルビィ「う、ううん、ルビィには無理だよ」

花丸「そっか」

花丸(そんなこと、ないと思うよ)


ルビィ「本当に凄かったなぁ、今日は」

花丸「2人じゃできない事もたくさんできたもんね」

ルビィ「うん!」

ルビィ「いつものマルちゃんとの野球も楽しい」

ルビィ「だけど、たくさんの人と一緒に練習するのも楽しいんだね」

花丸「うんうん」


花丸「だから、これからも――」



ダイヤ「2人とも、お疲れ様です」

118: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:50:06.59 ID:g8Lzz6kM0
ルビィ「!」ビクッ


花丸「……ダイヤさん」

ダイヤ「ルビィ、少しいいですか」

ルビィ「えっと、その」


花丸「……ルビィちゃん」

花丸「マルは待ってるから、行ってきなよ」

ルビィ「だけど……」

花丸「大丈夫だから、ね」

ルビィ「う、うん」

119: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:50:39.38 ID:g8Lzz6kM0
ダイヤ「練習、楽しかったですか」

ルビィ「……うん」

ダイヤ「そうでしょうね」

ダイヤ「2人であんなに楽しそうに話していたんですもの」

ルビィ「……」


ダイヤ「話は花丸さんから聞きました」

ルビィ「マルちゃんから?」

ダイヤ「私に気を遣って、野球をしてこなかったそうですね」

ルビィ「そんな、ことは」

120: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:51:13.51 ID:g8Lzz6kM0
ダイヤ「否定しなくても大丈夫で」

ダイヤ「私も、以前から知っていましたから」

ルビィ「えっ」


ダイヤ「貴女は自分よりも他人を優先することができる、とてもやさしい子」

ダイヤ「私に見つからないよう、陰に隠れて一生懸命努力してきましたよね」

ダイヤ「いつもは花丸さんと2人で練習し、1人でも素振りや体力トレーニングを欠かさない」

ダイヤ「貯めたお小遣いを使ってバッティングセンターに通う」

ダイヤ「参考にするために、色々な試合を観に行く」

ダイヤ「隠しているつもりかもしれませんが、全部知っていますよ」

ルビィ「お姉ちゃん……」

121: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:53:14.11 ID:g8Lzz6kM0
ダイヤ「ルビィは本当に野球をするのが大好きですね」

ダイヤ「自分の弱い心を技術と努力で補おうと頑張る」

ダイヤ「多くの人が嫌がるような基礎練習も、いつも楽しそうにおこなう」

ダイヤ「その姿をずっと陰で観てきました」


ダイヤ「そうしている内に、私も貴女のプレーに引き込まれていました」

ダイヤ「いつか努力という栄養で育った蕾が、大きな花を咲かせるのを期待するようになって」

ダイヤ「姉ではなく、1人の野球好きとして」

ダイヤ「贔屓目抜きに、ファンになってしまったのです」

ダイヤ「心から楽しんで野球をするルビィは、本当に魅力的だもの」

122: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:53:53.90 ID:g8Lzz6kM0
ダイヤ「今日練習も、密かに見学していたんですよ」

ダイヤ「最初は緊張している、弱々しい、いつもの姿」

ダイヤ「でも緊張が解けると、生き生きと、宝石のように輝いていた」

ダイヤ「その姿に、思わず涙してしまいました」


ダイヤ「私は見たいのです」

ダイヤ「姉として、1人のファンとして、貴女が輝く姿を」


ダイヤ「だって素敵でしょう」

ダイヤ「大好きな妹が、私の大好きな舞台で躍動するなんて」

ルビィ「……」


ダイヤ「もちろん、強制ではありません」

ダイヤ「この後の選択はあなたの自由です」


ダイヤ「けれども、私の為に我慢する」

ダイヤ「そんな事だけは、絶対にしないで」

123: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:54:22.63 ID:g8Lzz6kM0
 ―翌日・野球部部室―



ルビィ「これで――よし!」


『入部届:黒澤ルビィ』


ルビィ「よろしくお願いします!」

梨子「うん、よろしくね」

曜「初めての後輩ゲットだよ!」ギュー

ルビィ「うゅ、痛いですよぉ」

124: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:54:52.71 ID:g8Lzz6kM0
曜「嬉しいなぁ」

曜「練習の時から、ルビィちゃんと一緒に二遊間を組みたいって思ってたんだよね~」

梨子「あら、投手はもういいの?」

曜「どっちもやるからいいの!」

梨子「ふふっ、相変わらず欲張りね」

曜「そりゃあ、千歌ちゃんとのバッテリーは外せないもんね!」

梨子「そうね――そういえば千歌ちゃんは?」

曜「あれ、確かにいないね」


ルビィ「……」

125: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:55:21.96 ID:g8Lzz6kM0
 ―図書室―


花丸「無事、終わりましたね」

千歌「うん」


花丸「協力してくれて、ありがとうございます」

千歌「ううん。私の方こそ」

千歌「おかげで貴重な部員を確保できたんだから」

126: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:55:48.76 ID:g8Lzz6kM0
花丸「ルビィちゃんのこと、大事にしてあげてください」

千歌「うん、もちろんだよ」

花丸「マルも陰ながら、応援――


千歌「入るよね、花丸ちゃんも」


花丸「えっ」

千歌「花丸ちゃんも好きなんでしょ、野球」

花丸「そ、そんなことは」

千歌「あるよね」

花丸「……だってマル、運動神経ないし」

127: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:56:57.18 ID:g8Lzz6kM0
千歌「普通、出来ないよ」

千歌「好きじゃない人が、何時間も練習をするなんて」

花丸「それは、ルビィちゃんの為に」


千歌「それも本当なのは分かる」

千歌「花丸ちゃんがルビィちゃんの為に行動するやさしい子だって、知ってるから」


千歌「でもね、私は見てた」

千歌「ルビィちゃんの横で、花丸ちゃんも楽しそうにプレーする姿を」

花丸「それは、その……」

128: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:57:36.93 ID:g8Lzz6kM0
千歌「いいじゃん、好きなら始めちゃえば」

千歌「部員は足りないからね、どんな初心者でも大歓迎なんだよ」

千歌「それに、花丸ちゃんが入ってくれた方がルビィちゃんも喜ぶよ」


花丸「だけど、マルじゃ足を引っ張るだけなのは目に見えてる」

花丸「せっかく野球を始められたルビィちゃんも、マルに気を遣ったりしたら……」

千歌「……もう、じれったいなぁ」

千歌「じゃあ別の理由を作ろうか――」


千歌「ねっ、ルビィちゃん」


花丸「へっ」

129: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:58:06.62 ID:g8Lzz6kM0
ルビィ「えへへ、マルちゃん」

花丸「ルビィちゃん、なんで」


ルビィ「千歌さんに聞いたんだ」

ルビィ「花丸ちゃんが、影で動いてくれていたこと」

ルビィ「ありがとう、ルビィの為に色々」


花丸「ち、千歌さん、内緒だって約束が」

千歌「ごめんね、最初は私も内緒にしておくつもりだったんだ」

千歌「だけど必要だと思ったから、今の花丸ちゃんには」

130: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 01:59:12.81 ID:g8Lzz6kM0
ルビィ「花丸ちゃん、言ってたよね」

ルビィ「ルビィが一緒に練習に参加するって言ったとき、『お礼はする』って」

花丸「う、うん」

ルビィ「だからね、その『お礼』に、ルビィのお願いをきいてほしいんだ」

花丸「……お願いって?」


ルビィ「ルビィ、花丸ちゃんと一緒に野球がやりたいの」

ルビィ「だから一緒に、野球部に入って」

131: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 02:00:01.14 ID:g8Lzz6kM0
花丸「ルビィちゃん……」

ルビィ「駄目、かな?」

花丸「……本気? 気をつかってるわけじゃなくて?」

ルビィ「本気だよ」

ルビィ「ルビィは花丸ちゃんと一緒がいい、一緒じゃなきゃ嫌だ」



花丸「……分かった」

花丸「マルの負けだよ」


ルビィ「花丸ちゃん!」

花丸「ルビィちゃんのお願いを、無下にするわけにはいかないもんね」

ルビィ「えへへ、ありがとう」

花丸「……お礼を言うのは、マルの方だよ」

132: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 02:00:27.30 ID:g8Lzz6kM0
千歌「じゃあ、入部するってことでいいのかな」

花丸「はい」

花丸「改めて、よろしくお願いします」

千歌「うん、よろしくね!」


ルビィ「マルちゃん、一緒に頑張ろうね!」

花丸「うん!」


千歌「それじゃあ早速、練習へ行こうか!」

ルビまる「「はい!」」

133: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 02:01:22.17 ID:g8Lzz6kM0
 ―沼津市内・某所―


善子「感じます」

善子「津島式投球法により、あなたの投球が進化するのを」

善子「自分でも理解できる筈です」

善子「あなたの投げるボールの、キレが増していることを」

善子「野球界に降臨した堕天使ヨハネの魔眼は、全てのプレイヤーを高みへと導きます」

善子「すべてのリトルデーモンに授ける、津島式野球メソッド!」

善子「信じるのです、あのダル○ッシュも参考にした、堕天使の力を!」
注:勝手にDVDを送りつけただけです

善子「さすれば、あなたの道は開かれるでしょう――」



『放送は終了しました』

134: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 02:14:05.18 ID:g8Lzz6kM0
 ―浦の星女学院2年生教室―


千歌「うーん」

梨子「どうしたの、変な顔して」

千歌「部員の勧誘について、ちょっとね」


梨子「部員?」

梨子「5人揃ったから、正式な部にはなったよね」

千歌「そうなんだけど、まだ試合をするには1人足りないし」

梨子「確かにね」

135: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 02:14:59.63 ID:g8Lzz6kM0
千歌「それでね、実は勧誘しようと目をつけていた子がいるんだよ」

梨子「うん」

千歌「だけどいつまで経っても、その子が見つからなくてさ」


梨子「どんな子なの?」

千歌「自己紹介で自分の野球理論を語りだすような子」

梨子「そ、それはなかなか強烈ね」

千歌「そこまでするような子なら、即戦力になりそうでしょ」

千歌「今日もね、曜ちゃんが探しに行ってくれているんだけど、見つかるかな~」

136: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 02:18:00.14 ID:g8Lzz6kM0
 ―バッティングセンター―


 カァン


善子「違う」


 カァン


善子「こうでもない」


 カキーン!


善子「!」

137: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 02:18:35.71 ID:g8Lzz6kM0
善子「今のは良かったわ!」

善子「くっくっくっ、徐々に新しいスイングが見つかってきたわね――」


 ドスッ


善子「ぼ、ボールが……痛ぃ……」


子供「パパ―、あそこに変なお姉ちゃんがいるー」

父親「しっ、絡まれると面倒だぞ」

子供「でも凄く綺麗だよ」

父親「あれは残念美人っていう、一番関わっちゃいけないタイプの人なんだ」

138: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 02:19:14.96 ID:g8Lzz6kM0
善子(学校をサボって、誰もいないバッティングセンターに来る)

善子(最初はドキドキしていたけど、すっかり馴染んできたわね)

善子(沼津寄りのここなら、浦の星の生徒が来ることもないし、安心してバッティングに集中できる)

善子(まさに私の為にあるような、理想的な環境――)



曜「ラッキー、人が全然いないじゃん」


善子(と思ったらうちの制服を着た人が)

善子(まあ制服的に上級生みたいだし、気にしなければ大丈夫でしょう)

善子(私の顔なんて知られてるわけないし)

139: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 02:19:57.86 ID:g8Lzz6kM0
曜(流石にバッセンに探しに来たは無理があるかな)

曜(でも探してくるとは言ったけど、結局見つからないしなぁ)

曜(そもそも学校に来ない子をノーヒントで探すのは無理があるような)

曜(千歌ちゃんの頼みだから、断らなかったけど)


曜(……)

曜(気分転換も必要だし、たまにはいいよねっ)

曜(とりあえず、140辺りで――)

140: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 02:20:38.61 ID:g8Lzz6kM0
善子(あ、あの人、140キロを打つ気なの?)

善子(そんなに球速が出る人はいないし、そもそも女の子が打ち返せる球速じゃない)

善子(始めて見る顔だし、よく分かってない初心者なのかな)

善子(浦の星は野球部もないし、経験者じゃないわよね)

善子(教えてあげた方がいいのかな)


 カーン! カーン!


善子「えっ」

善子(凄い、平然と打ち返してる)

141: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 02:21:15.32 ID:g8Lzz6kM0
曜「うーん、いまいちだなぁ」


善子(しかも恐ろしいこと呟いている)

善子(綺麗なスイング……もしかしてプロなのかな)

善子(だけど浦の星に居たら、流石に気づくような)

善子(でも女子プロ野球は詳しくないから、チェック漏れしててもおかしくないし)


 カキーン!


善子(どちらにしろ、あれは参考になるわ!)

善子(もっと、もっと近くで観なきゃ)

142: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 02:22:37.65 ID:g8Lzz6kM0
花丸「――まずは打撃からだよね」

ルビィ「マルちゃんの場合、ほとんど打撃経験がないからね」


善子『ビクッ』


花丸「前の練習の時も恥ずかしかったずら……」

ルビィ「最初はみんな初心者なんだから、大丈夫だよ」

花丸「ずらぁ」


ルビィ「ここなら遅い球から打てるから、慣れるにはちょうどいいよ」

花丸「じゃあ最初に、ルビィちゃんがお手本を見せてほしいずら~」

ルビィ「えぇ、恥ずかしいよぉ」

143: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 02:23:21.08 ID:g8Lzz6kM0
善子「あの2人、クラスメイトの……」

善子(何でこんなところにいるの)

善子(全然野球をやるようなタイプには見えないのに)

善子(もしかして最近、世間では野球ブームとか?)



 カキ――ン!


曜「よし、最後はいい感じで――」


花丸「あれ、曜ちゃん?」

144: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 02:23:57.15 ID:g8Lzz6kM0
曜「げっ、花丸ちゃん」

ルビィ「何をしてるんですか?」

曜「えっと、バッティング?」

花丸「あれ、でも今日は新入部員を探しに行くって」

ルビィ「もしかして、サボり?」

曜「え、いや、その――」


善子(何か話してるわね、知り合いなのかしら……)



曜「!」


善子(ヤバっ、目が合った)

145: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 02:24:34.81 ID:g8Lzz6kM0
曜「……」

善子(な、なに、こっちに向かってくる)

善子(もしかして、凝視してたのがばれたとか)

善子(ど、どうしよう、絡まれる前に逃げなきゃ――)


曜「この子だよ」

善子「はっ?」


曜「この子をスカウトしに来たんだよ!」

善子「はい!?」

146: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 02:25:07.29 ID:g8Lzz6kM0
 ―浦の星女学院・野球部部室―


千歌「ということは、あなたが例の!」

曜「そう、自己紹介で野球について語りだした子!」


千歌「凄いよ曜ちゃん! 本当に見つけてくるなんて!」

曜「えへへ」

千歌「これはまさに奇跡だよ~」

ルビィ「うゅ!」

花丸(たまたまだと思うけど、ツッコまない方がよさそうな感じずら)

147: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 02:25:45.20 ID:g8Lzz6kM0
善子「なによ、いきなり連れてきて」

梨子「曜ちゃん、説明してなかったの?」

曜「あー、勢いで引っ張ってきたからさ」


梨子「えっと、私たちは野球部なんだけど」

善子「野球部?」

善子「この学校にはなかったはずよね」

曜「最近できたんだよ」

曜「正式な部になったのもほんの数日前だし」

善子「へぇ」

148: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 02:26:14.51 ID:g8Lzz6kM0
千歌「というわけで津島善子ちゃん!」

善子「ヨハネよ!」

曜「はい?」

善子「あ、いや、何でもないわ」

ルビィ「ヨハネって?」

善子「何でもないわよ!」


千歌「ともかく――野球部にようこそ!」

善子「……私は入らないわよ」

千歌「えー、なんでー」

149: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 02:27:00.42 ID:g8Lzz6kM0
善子「だって野球部に入ったら、学校へ行かなきゃじゃない」

千歌「確かにそうだね」

善子「それは嫌よ」

善子「自己紹介の所為で、クラスでは絶対ヤバい奴だと思われてるし」


ルビィ「そんなことないと、思うけど」

花丸「みんな心配はしてるけど、ヤバいなんて言ってる人はいないよ」

善子「そうなの?」

ルビィ「うん」

150: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 02:27:39.45 ID:g8Lzz6kM0
花丸「そもそもそこまで自分が注目されていると考えてる辺り、自意識過剰ずら」

善子「うぐっ」


千歌「うわぁ、きつい」ヒソヒソ

梨子「花丸ちゃん、結構毒舌キャラよね」ヒソヒソ

千歌「一応善子ちゃんとは、幼馴染らしいから」ヒソヒソ


曜「でもさ、野球部に入れば、みんなも自己紹介の件を好意的に受け取ってくれるんじゃないかな」

曜「よっぽど野球に熱心な子だってさ」

善子「言われてみると……」

曜「しかも今なら部員も5人しかいないから、レギュラー確定だよ~」

善子「れ、レギュラー……」

151: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 02:28:39.29 ID:g8Lzz6kM0
善子(試合に出れる、選手にとって魅力的な話)

善子(野球はプレーしてこそだもの)

善子(でもやっぱり、学校へ行くのは気まずいし……)


千歌「どうする、善子ちゃん」

善子「……そんな簡単には決められないわよ」

千歌「じゃあ練習に出てみるのはどう?」

善子「練習に?」


千歌「今から軽く練習する予定だったからさ」

千歌「それに参加してから、考えればいいんじゃない」

152: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 03:52:40.19 ID:znfOuNSW0
 ―グラウンド―


善子「新しい野球部にしては、ずいぶん立派なグラウンドね」

曜「学校側が協力的でさ」

千歌「ちょうど空いていた土地みたいだけどね」


曜「とりあえずキャッチボールでもしようか」

千歌「善子ちゃんは梨子ちゃんと組んでね」

梨子「よろしくね、善子ちゃん」

善子「ええ」

153: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 03:53:08.80 ID:znfOuNSW0
善子(キャッチボール、久しぶりかも)

善子(変に緊張するわね)


善子「じゃあ、行くわよ」シュッ

善子(しまった、悪送球――)

梨子「よっと」パシッ

善子「あっ、ナイス」

善子(上手いわね、この人)

梨子「それっ」シュッ

154: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 03:53:46.13 ID:znfOuNSW0
善子「んっ」パシッ

善子(今のは……)

梨子「善子ちゃん?」


善子「ねえ、少しいいかしら」

梨子「どうしたの」

善子「梨子さん、投げる動作になると妙にぎこちなくなるわね」

善子「捕球動作とのギャップがすごいんだけど」

梨子「あ、よくわかったね」

155: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 03:55:17.14 ID:znfOuNSW0
千歌「梨子ちゃんね、イップスなんだよ」

善子「イップス……」

梨子「これでも改善はしたんだけど、まだ完璧じゃなくて」


善子(イップス、か)


善子「くっくっくっ」

梨子「よ、善子ちゃん?」

梨子(この子、少し変な部分があるわね)


善子「ねえ梨子さん」

善子「私、イップスに効く良い方法を知ってるんだけど、興味ない?」

156: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 03:55:50.56 ID:znfOuNSW0
梨子「!」

善子「知りたくないなら、別に構わないけど」

梨子「……本当なら、もちろん知りたいかも」

善子「いいわよ、教えてあげましょう」


曜「ねえ、どうしたの?」

ルビィ「何かあったんですか?」

梨子「善子ちゃんが、イップスに効く方法を知ってるらしくて」

千歌「本当!?」

157: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 03:56:18.47 ID:znfOuNSW0
善子「ええ、もちろんよ」

千歌「なになに、どんな方法?」

善子「落ち着きなさい」

善子「少し準備が必要だから」

梨子「準備?」

善子「それはね」ゴソゴソ


『津島式野球メソッド』


善子「これよ!」

千歌「な、なに、その真っ黒な仰々しい本は」

158: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 03:57:38.94 ID:znfOuNSW0
善子「私の野球に関する理論が全て詰まった魔本よ!」

千歌「は、はぁ」


善子「さて、症例に照らし合わせると、あなたに必要なのは――催眠術!」

梨子「さ、催眠術?」


曜「それって、5円玉を揺らすあれ?」

善子「違うわよ、もっと本格的なもの」

花丸「怪しさ満点ずら……」

善子「うっさいわね」

ルビィ「それ、効果あるの?」

善子「あるわよ、騙されたと思って受けてみなさい」

159: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 03:58:14.47 ID:znfOuNSW0
梨子「……うん、薬とかじゃないものね」

善子「物分かりが良いじゃない」


梨子「それで、催眠術っていうのはどこでやればいいの?」

善子「そうね……とりあえず一度部室に戻りましょう」

千歌「私たちはどうすればいい?」

善子「練習を続けてていいわよ」

善子「順調にすすめば、そんなに時間かからないから」

千歌「分かった~」

160: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 03:58:43.57 ID:znfOuNSW0
 ―部室―



善子「さて、そこの椅子に座って」

梨子「う、うん」

善子「それでこのボールを持って」

梨子「どっちの手で?」

善子「梨子さん、元から右利きよね」

梨子「そうだね」

善子「じゃあ右手で」

161: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:00:37.31 ID:znfOuNSW0
梨子「握りは?」

善子「自分が野球を始めたばかりの頃にしていた握り方でいいわよ」

梨子「何か意味があるの?」

善子「話してしまうと意味がなくなるから、後でね」


善子「とりあえず目をつぶってくれる?」

善子「始める前に、電気を消したいから」

梨子「うん」

162: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:01:04.38 ID:znfOuNSW0
善子「まずは深呼吸をしてくれるかしら」

梨子「す――は――」

善子「いい感じね」


善子「それじゃあ最初に――自分が野球を始めたばかりの頃を思い出して」

梨子「野球を?」

善子「鮮明に思い出す必要はないわ、アバウトでいいの」

善子「誰にでも最初、何も知らずにボールを握ってた時期があるでしょ」

善子「ただ投げて、捕って、そんな頃のこと」

善子「昔の自分をよみがえらせるの」


梨子「昔の、私」

163: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:01:49.54 ID:znfOuNSW0
―――
――



千歌「梨子ちゃん、大丈夫かな」

花丸「流石に2人きりはマズかったんじゃ……」

ルビィ「うゅ……」

曜「今さら気にしても仕方ないし――あ、戻ってきたんじゃない」

164: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:02:18.63 ID:znfOuNSW0
善子「ふっ、魔界から帰還してきたわ」

梨子「ただいま」


花丸「梨子さん、大丈夫?」

梨子「ええ」

曜「効果はありそうかな」

梨子「どうだろう、とりあえず投げてみないと」

曜「じゃあちゃちゃっとアップ済ませて、一度投げてみようか」

梨子「うん」

165: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:02:47.59 ID:znfOuNSW0
―――
――



梨子(マウンドの感触、不思議と前よりも馴染んでるように感じる)

梨子(これはひょっとして、本当に)

千歌「梨子ちゃん、無理なくね」

梨子「うん」



曜「実際、催眠術って効果あるの?」

善子「人によるわね」

善子「でも梨子さんみたいなタイプには、きっと効果があるはずよ」

166: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:03:18.62 ID:znfOuNSW0
曜「梨子ちゃんみたいなタイプ?」

善子「たぶんあの人は、影響を受けやすい人だから」


梨子(善子ちゃんの催眠術を受けた後、不思議と身体が軽い)

梨子(まるで昔の私に戻ったみたいな感覚)ググッ


千歌(投球動作が、前よりもスムーズになって――)


 シュッ


千歌「!」バシッ


梨子「あっ……」

千歌「本当に、投げられるようになってる」

167: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:04:03.93 ID:znfOuNSW0
曜「凄い」

曜「あれは昔見た、梨子ちゃん本来の球に近いよ」


梨子「ち、千歌ちゃん、もう1球」

千歌「う、うん」


 シュッ――バシッ


梨子「投げられる」

梨子「私、普通に投げられる!」

千歌「梨子ちゃん!」

168: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:05:08.88 ID:znfOuNSW0
善子「ふっ、これぞ津島式野球メソッドの力」

曜「す、凄いよ、善子ちゃん!」

ルビィ「うゅ!」

花丸「見直したずら!」


曜「ねえねえ、私にも何か教えて!」

善子「じゃあ津島式スイング理論を……」





曜「おぉ、逆方向に前より鋭い打球が打てるようになった!」

千歌「凄い、凄いよ、善子ちゃん!」

169: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:05:35.83 ID:znfOuNSW0
善子「ざっとこんなものよ」

千歌「私にも教えて!」

花丸「マルにも!」

善子「任せなさい!」


ルビィ「うゅ……」

花丸「ルビィちゃんはいいの?」

ルビィ「ルビィは、自分のやり方を崩したくないから」

善子「くっくっく、そんなことを言っていると、あとで後悔するわよ」

170: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:06:03.34 ID:znfOuNSW0
―――
――



千歌「心なしか前より打てなくなった……」 ボコッ

花丸「マルも全然変わらないずら……」 スカッ

善子「あれ?」


曜「うーん、上手くいく人といかない人がいるのかな」

花丸「むぅ、やっぱり善子ちゃんの理論は欠陥品ずら」

善子「う、うるさいわね!」

善子「完璧じゃないのは仕方ないじゃない!」

171: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:06:45.78 ID:znfOuNSW0
善子「充分でしょ、イップス治したんだから」

梨子「そうよ、人それぞれ理論が合う合わないはあるんだから、仕方ないわ」

花丸「それはそうだけど~」

曜「でも野球に関する知識をこんなに持ってるなんて凄いね」

善子「そう?」


曜「うん」

曜「ここまで野球に詳しい同年代の人なんて、他に数人しか知らないよ」

172: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:07:13.04 ID:znfOuNSW0
千歌「善子ちゃん、中学はどこのチームでプレーしてたの?」

千歌「ここまで詳しいなら、結構凄いところに――」


善子「どこにも所属してないわよ」

千歌「へっ」

善子「どこへいっても上手くいかなかったのよ、私は」

千歌「な、なんで?」

善子「色々あったのよ、色々」

千歌「色々……」

173: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:07:56.37 ID:znfOuNSW0
善子「……ごめん」

善子「悪いけど私、帰るわね」

千歌「よ、善子ちゃん?」

善子「気にしないで」

善子「久しぶりに人と話したら、ちょっと疲れちゃっただけ」

千歌「そう……」


花丸「野球部には、入るの」

善子「うーhttps://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1557761841/ん、どうしようかな」

千歌「私は、善子ちゃんに入ってもらいたいよ」

梨子「私も大歓迎、イップスを治してくれた恩人だもの」

174: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:08:31.50 ID:znfOuNSW0
↑ミス

善子「……ごめん」

善子「悪いけど私、帰るわね」

千歌「よ、善子ちゃん?」

善子「気にしないで」

善子「久しぶりに人と話したら、ちょっと疲れちゃっただけ」

千歌「そう……」


花丸「ねえ、野球部には入るの」

善子「うーん、どうしようかな」

千歌「私は、善子ちゃんに入ってもらいたいよ」

梨子「私も大歓迎、イップスを治してくれた恩人だもの」

175: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:09:13.67 ID:znfOuNSW0
善子「……ありがとう、今日は楽しかったわ」

花丸「善子ちゃん……」

善子「……また学校に来ることがあったら会いましょう」


 タッタッ


千歌「……無神経なこと言っちゃったかな、私」

花丸「千歌ちゃんの所為じゃないよ」

花丸「マルも厳しい言葉が多かったし……」

梨子「駄目よ、自分を責めたら」

ルビィ「そうだよ、いまのは不可抗力だもん」

千歌「そうかも、しれないけど」


「「「「……」」」」




曜(ふむ……)

176: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:09:48.76 ID:znfOuNSW0
 ―バス車内―


善子「はぁ……」

善子(どうして、あんな出て行き方しちゃったんだろう)

善子(みんな私を受け入れてくれて、楽しく野球をしていたのに)


善子(千歌さんだって悪気があって言ったわけじゃない)

善子(それなのに私はついキツイ返答をして)

善子(しかもパニックになって逃げだしてきて……)

177: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:10:16.40 ID:znfOuNSW0
善子「はぁぁぁ」


曜「リストラされた中年サラリーマンみたいなため息だね、若者よ」

善子「うわっ!」



曜「同じ方面だったんだね、ちょうどよかったよ」

善子「い、いつの間に乗ってたの?」

曜「善子ちゃんが帰った後、全力で走って先回りしたのさ」

善子「なによそれ……」

善子(バッセンといい、本当に滅茶苦茶だわ、この人……)

178: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:10:46.73 ID:znfOuNSW0
善子「それで、何の用なの?」

曜「よう? 曜は私だよ!」

善子「そうじゃなくて……」


曜「あはは、分かってるよ」

善子「ふざけないでよ、もう」

曜「ごめんごめん」

曜「でもこうした方が、少しは元気になるかなぁと」

善子「……悪いわね、わざわざ」

179: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:11:18.42 ID:znfOuNSW0
曜「みんな心配してたよ」

善子「そうよね、あんな出て行き方をしたら」

曜「昔の話に突っ込まれたのが嫌だったの?」

善子「ハッキリ聞くわね、あなた」

曜「その方がいいかな~と」


曜「私で良ければ話を聴くよ」

曜「もちろん、誰かにいいふらしたりもしないし」


善子(……本当に不思議な人)

善子「……少しだけ、昔話をしてもいいかしら」

曜「うん」

180: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:11:46.79 ID:znfOuNSW0
善子「私のお母さんね、昔からずっと野球のコーチを務めるような人なの」

善子「だから小さい頃から、常に野球が身近にある環境」

善子「そんな中で育ったせいか、昔から野球が大好き」

善子「どんな時でも、ずっと野球のことばかり考えて」


善子「実際センスはあったし、始めた時期も早かったから、最初にチームに入った時はもてはやされたわ」

善子「天才、流石はお母さんの娘だって」


善子「でも、良かったのはそこまで」

善子「私はとてもこだわりが強い人間でしょ」

善子「だから自分の考え方を譲れなかった」

181: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:12:28.79 ID:znfOuNSW0
善子「中途半端に知識があったせいで、色んな動作が我流で」

善子「ちゃんと教わってなかったから、普通とは全然違う動きをしていた」

善子「当然、コーチはそれを正そうとする」

善子「でも私は指導を拒否した」


善子「その上で自分自身で研究を重ねるの」

善子「どうすれば自分のやり方で上手なプレーができるかを、ひたすら探求して」

善子「それで結果的に理想の形を作り出しても、大人たちはそれを否定する」

善子「私はさらに意地になって――そんな繰り返し」

182: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:13:33.69 ID:znfOuNSW0
善子「結局、監督やコーチと不仲になって、チームメイトからも孤立して」

善子「実力的には一番上でも、試合では使ってもらえなくて」


善子「たまに試合に出れても、謎の不運が私に付き纏う」

善子「打席に立てば、なぜかデッドボールを当てられてばかり」

善子「守備では、打球が不自然なイレギュラーを繰り返す」


善子「いくら努力しても、周りはそれを認めてくれない」

善子「結果で見返そうとしても、不運に阻まれる」

善子「そんなことを繰り返して、色々な場所を転々としている内に、私が入れるチームは1つも無くなっていたの」

183: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:13:59.66 ID:znfOuNSW0
曜「……なるほどね」

善子「どう、馬鹿みたいな話でしょ」

曜「傍からみれば、そうかもね」


善子「別に理解してほしいわけじゃない」

善子「きっと分からない感覚でしょうから」

善子「貴女みたいな、輝いている人には」


曜「そんなことないよ」

善子「へっ?」

184: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:14:36.07 ID:znfOuNSW0
曜「私もさ、そんなに協調性があるほうじゃないんだよね」

曜「止められても勝手に練習始めるし、必要ないことだと思ったら積極的にやらないし」

曜「色んなところが結構自己流で」

曜「自分のやりたいようにやって、勝手に突っ走ってさ」

曜「前に教わっていたコーチにもよく皮肉言われたものだよ」

曜「『あなたは個人競技の方が向いてるんじゃないの』なんて」


善子「意外ね、協調性高そうなのに」

曜「野球は別なんだ」

185: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:15:02.60 ID:znfOuNSW0
曜「自分の感覚に従って努力していけば、上手くなると信じてる」

曜「実際それで、日本代表候補までは登りつめた」

曜「そしてこれからも成長して、一番上手い選手になるの」

曜「誰に負けない、世界一の選手に」

善子「世界一の選手……」


曜「善子ちゃんはさ、上手くなりたい?」

善子「もちろんよ」

曜「だろうね」

曜「私と善子ちゃん、考え方がどこか似てるもの」

曜「きっと普通に野球ができていたら、いい選手になっていたと思うよ」

善子「……何が言いたいの」

186: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:15:32.84 ID:znfOuNSW0
曜「善子ちゃんと私は違うってこと」

曜「私はトラブルはあっても、最終的にチームで受け入れられてきた」

曜「今まで追い出されるように辞めたことは、一度もないよ」

善子「なんで?」


曜「他の子に比べて、圧倒的に実力があったから」

曜「人に比べて集中力が持続しない方だから、変なエラーとかはよくする」

曜「監督やコーチ、チームメイトとも揉めたことも当然ある」

曜「でも実力があったから、使ってもらえた」

曜「周囲から受け入れてもらえた」

187: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:15:59.91 ID:znfOuNSW0
善子「それ、私には実力がないという皮肉かしら」


曜「そんなことはないよ」

曜「そこまで多くのプレーを見たわけじゃないけど、善子ちゃんには十分実力が備わっていると思う」

曜「野球が好きで、頭もいい」

曜「努力を大きく昇華させられるだけの才能もある」

曜「不運っていう問題もあるなら、私よりも大変だろうけど」

善子「それなら、なんで」

188: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:16:44.99 ID:znfOuNSW0
曜「君の一番の問題はね、チームを変え続けること」

曜「すぐに辞めちゃうその癖が、良くないんだよ」

善子「……仕方ないでしょ、居辛くなったら、まともに練習だって」


曜「私だって最初はそうだったよ」

曜「主張が強いから、みんなが私を非難した」

曜「軽いいじめみたいなことをされた経験もある」


曜「でもそこで我慢したの」

曜「すぐに逃げることなく耐えて、1人でも必死に練習した」

曜「そして実力をつけて、みんなから肯定されて、認められるようになった」

189: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:17:14.19 ID:znfOuNSW0
曜「善子ちゃんも、きっとそれができる」

曜「だからね、今回は辞めないでほしい」


曜「ひきこもり、最初の悪印象、学校内での人間関係、きっと大変なことだらけ」

曜「でもそこで頑張って、耐えてほしいんだ」

曜「そうすれば善子ちゃんは、自分の欲しかった物を手に入れられるから」


曜「花丸ちゃんとルビィちゃんは優しい子たちだから、普段から助けてくれる」

曜「もちろん、千歌ちゃんと梨子ちゃんもそう」

曜「私だって、協力できることは何でもしてあげる」

曜「これでも運はいい方だから、一緒にいれば不運も吹き飛ばしちゃうよ!」

善子「曜さん……」

190: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:18:00.73 ID:znfOuNSW0
曜「だからさ、野球部に入ってよ」

曜「絶対に、みんな歓迎するから」


善子「……ねえ、なんで出会ったばかりの私にそこまでしてくれるの」

曜「正直に言っちゃえばね、部員が欲しいっていうのはあるかな」

善子「まだ5人しかいないなら、そうでしょうね」


曜「でも一番の理由は、善子ちゃんと一緒に野球がやりたいから」

曜「初めてなんだよ、こんなに面白そうな選手に出会ったの」

曜「その上野球理論も合うし、相性も良さそうだしさ」

191: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:18:26.62 ID:znfOuNSW0
善子「――分かった」

善子「入るわよ、野球部に」

曜「善子ちゃん!」


善子「勘違いしないで、私は最初から入るつもりだったのよ」

善子「貴女がおせっかいを焼かなくても、最初から」

曜「ふふっ、余計な事しちゃったかな」

善子「グラウンドに降臨する堕天使、ヨハネ様を舐めないことね」

善子「そんなにやわなメンタルはしてないわよ」

192: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:19:02.07 ID:znfOuNSW0
『次は○○~』


曜「あ、私ここで降りなきゃ!」

善子「あら、そうなの」

曜「じゃあまたね、善子ちゃん」

善子「ええ」



善子「ねえ、曜さん」

曜「なに?」

善子「……ありがとう」

曜「――うん!」

193: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:31:38.72 ID:znfOuNSW0
現時点でのパワプロ的に例えた能力(女子野球基準、基準値。ゲームではないので、常にその通りの力を発揮できるわけではない)


 見方
 野手能力 弾道 ミート パワー 走力 肩力 守備力 捕球 利き手(投打の順) ポジション(カッコ内サブポジ)
 投手能力 球速 コントロール スタミナ 変化球(数値が大きいほど良い球)


 表記はG~A(最高でSもあり、特殊能力はAまで)で、Gに近いほど低く、Aに近いほど高い
 特殊能力欄はほぼ表記のまま
 
 球速はMax 
 120で男子の140、130で150ぐらいをイメージ

千歌:弾道2 ミF パE 走E 肩E 守E 捕C 右右 捕(三)
    調子安定 チームプレー○

曜:弾道3 ミC パB 走A 肩A 守B 捕D 右右 投/遊
 :球速133 コンF スタB カーブ5 スライダー1
   積極打法 積極盗塁 調子極端 チャンスB エラー 併殺 人気者 広角打法
   テンポ○ 乱調 奪三振 ノビA 短気

梨子:弾道2 ミD パE 走D 肩C 守D 捕D 右右 投(左・中・右)
  :球速115 コンC スタD カーブ2 シンカー3 スライダー2
    キレ○

ルビィ:弾道1 ミD パF 走C 肩F 守C 捕E 右左 二(遊)
    積極走塁 積極盗塁 選球眼 内野安打 盗塁A 走塁C 
    三振 チャンスF エラー バント職人

ルビィ(弱気):弾道1 ミF パF 走C 肩F 守F 捕G
    積極走塁 積極盗塁 選球眼 内野安打 盗塁A 走塁C 
    扇風機 チャンスG エラー バント職人

花丸:弾道4 ミG パF 走G 肩F 守G 捕E 右右 一
    エラー バント○

善子:弾道2 ミD パE 走D 肩D 守D 捕E 右右 中(遊・右・左)
    選球眼 悪球打ち 意外性 エラー

むつ:弾道1 ミG パG 走F 肩E 守E 捕F 右右 三
    

いつき:弾道1 ミG パF 走E 肩G 守F 捕F 右右 中(左)
    

よしみ:弾道2 ミF パF 走F 肩F 守F 捕F 右右 右(中)

194: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:34:18.44 ID:znfOuNSW0
 ―生徒会室―



ダイヤ「千歌さん、あなたは素晴らしいですわ」

ダイヤ「こんな短期間で、部員を集めきってしまうなんて」

千歌「えへへ、それほどでも――あるかな」


梨子「こら、調子に乗らないの」

曜「まあいいじゃん、実際上手くやったんだし」

195: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:35:00.89 ID:znfOuNSW0
ダイヤ「そうですよ」

ダイヤ「助っ人も含めれば9人、試合が可能な人数を揃えたのですから」


ダイヤ「正直あまり期待してなかったんですよ、部員集めは」

ダイヤ「今だから言えることですが」


曜「その割に、諸々の環境を整えるの早かったですよね」

ダイヤ「いざとなれば、私が部員を用意するつもりでしたから」

千歌「えっ、ダイヤさんに当てがあったんですか」

ダイヤ「2人ほどですがね」

196: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:35:28.03 ID:znfOuNSW0
千歌「それなら最初からお願いすればよかったかも……」

ダイヤ「気にしてはいけませんよ」

ダイヤ「結果的に質の高い部員が集まったのですから」

梨子「質の高い、部員――」




ルビィ「ノック行くよ」カーン

善子「ちょ、どこに打ってるの――ってまたイレギュラー!?」


 ドスッ


花丸「また善子ちゃんにボールがぶつかってるずら~」

善子「私の所為じゃないわよ!」

197: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:36:04.54 ID:znfOuNSW0
善子「少なくとも、あんたには言われたくないんだけど」

善子「さっきから自分へのボールを私に処理させてるじゃない」

花丸「……マルは初心者だから仕方ないんだよ」

善子「言い訳するな!」

ルビィ「け、喧嘩しないでよぉ」



ダイヤ「……」

曜「あ、あはは」

千歌「さ、最初はあんなものだよ。みんな1年生なんだし」

198: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:36:34.73 ID:znfOuNSW0
ダイヤ「……気を取り直して」

ダイヤ「ここからが本題なのですが」

千歌「あ、はい」


ダイヤ「早速練習試合を組んでおきました」

曜「おぉ、流石ダイヤさん」

梨子「早いですね」

千歌「相手はどんな高校なんですか?」

ダイヤ「全国大会に出場したこともある、沼津の高校です」

199: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:38:20.25 ID:znfOuNSW0
梨子「それ、大丈夫なんですか」

梨子「あまり実力差があると、試合にならないような」


ダイヤ「確かにそれなりの相手ではあります」

ダイヤ「ただ近年は低迷しており、静岡は女子野球が盛んな地域ではないことを考えれば、十分戦えるレベルのはずです」

千歌「うん、私たちには曜ちゃんと梨子ちゃんが居るもんね」


ダイヤ「それに練習試合は負けてもいいのですよ」

ダイヤ「負けは負けで、とてもいい経験になります」

ダイヤ「それに皆さんはまだ2年生、他の部員も1年生です」

ダイヤ「今年1年じっくりと練習して、来年に賭けるぐらいの余裕を持ちましょう」

200: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:39:11.00 ID:znfOuNSW0
千歌「えー、でも負けたくないよ」

曜「そうだよ」

曜「今年からいきなり全国優勝ぐらいの意気込みじゃないと!」


梨子「ゆ、優勝は流石に」

千歌「そ、そうだね、ちょっと現実的じゃないような」

曜「駄目だよ2人とも、そんな弱気じゃ」

曜「私はどんな相手でも、絶対に勝つつもりなんだから」

千歌「そ、そうだよね!」

ダイヤ「ふふっ、その意気で頑張ってください」

201: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:39:48.68 ID:znfOuNSW0
 ―部室―


千歌「というわけで、練習試合をすることになりました~」

ルビィ「し、試合……」バタン

花丸「あ、ルビィちゃんが緊張のあまり気絶しちゃったずら」

善子「本当にメンタル弱いわね、この子……」

ルビィ「ぴぃ……」

202: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:40:17.94 ID:znfOuNSW0
曜「気合入るよね、私たちの初試合!」

善子「確かに」

善子「なにより、この堕天使ヨハネのデビュー戦だもの!」

曜「ねえ、時々入るその堕天使って何なの?」

善子「真顔で聞かないで、回答に困るから」


千歌「でも試合前に色々と決めなきゃいけないね」

曜「例えば?」

千歌「えーと、打順とか?」

曜「あー」

203: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:40:47.12 ID:znfOuNSW0
梨子「そういえば、みんなのポジションは決まってる?」

千歌「あ、忘れてた!」

梨子「忘れないで……」

善子「一番肝心な部分の一つよ……」


千歌「じゃあそれぞれ、希望ポジションを出していこう」

梨子「それでいいの?」

千歌「明確に決まっている人も少ないしね」

千歌「被ったら話し合って決めればいいかな」

204: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:41:32.74 ID:znfOuNSW0
曜「私は当然ピッチャーとショートで!」

梨子「投手は私と曜ちゃんの二人制だね」

梨子「投げない時、私はレフトかライトかな」


花丸「じゃあマルは残った方の外野?」

千歌「ううん、花丸ちゃんはファースト」

千歌「内野の動きの知識はあるし、送球の捕球はできるから」

花丸「でもそれ以外は自信ないずら……」

曜「そこはほら、セカンドのルビィちゃんがフォローしてくれるからさ!」

ルビィ「う、うん」

千歌(ルビィちゃんの傍から花丸ちゃんを離すと、色々心配なんだよね……)

205: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:42:01.56 ID:znfOuNSW0
曜「それで、当然キャッチャーは――」


善子「私ね!」


千歌「ふぇ」

梨子「へっ」

花丸「ずら?」

ルビィ「ピギィ!」


曜「はっ?」

善子「ひっ」

206: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:42:28.02 ID:znfOuNSW0
梨子「よ、曜ちゃん、善子ちゃん怖がってる」

曜「いやいや、どう考えてもキャッチャーは千歌ちゃんでしょ」

善子「い、いいじゃない」

善子「私だって津島式配球理論が通用するか試したいのよ」

善子(曜さんとバッテリーを組んでもみたいし)


曜「むぅ、じゃあ私の球を捕れたら考えるよ」

善子「捕るだけ? そんなの余裕よ」

曜「ほー、言ったな。早速グラウンドへ行こうか」

207: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:42:55.95 ID:znfOuNSW0
 ―グラウンド―


梨子「善子ちゃん、大丈夫かな?」

千歌「捕るだけなら、善子ちゃんにはそう難しくない、はず?」

梨子「でもいいの、簡単にポジション譲っちゃって」

千歌「大丈夫だよ」

千歌「そもそも曜ちゃん、『考える』としか言ってないから」

梨子「あ、言われてみれば」



曜「さー、行くよ」

善子「ふっ、いつでも来なさい」

208: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:43:24.80 ID:znfOuNSW0
曜「喰らえよーしこー!」シュッ


善子「へっ、はやっ」


 ドカッ


曜「うわっ」

善子「だ、堕天……」バタン


ルビィ「よ、善子ちゃん!?」

千歌「あ、あれは痛い……」

花丸「自業自得ずら」

梨子(そういえば善子ちゃん、曜ちゃんが投げるのを見るの初めてだったかも)

梨子(予測できてないと、あの浮き上がるようなストレートを捕るのは難しいわね……)

209: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:43:52.06 ID:znfOuNSW0
曜「ご、ごめん」

曜「本当に当てる気はなかったんだけど」


善子「……怖かった」ヒシッ

曜「ちょ、善子ちゃん」

善子「グスッ」

花丸「善子ちゃん、幼児化してるずら」

ルビィ「不謹慎だけど、ちょっと可愛いかも」

梨子「確かにね」

210: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:44:18.85 ID:znfOuNSW0
―――
――



曜「というわけで、キャッチャーは千歌ちゃんになりました」

全員「わ~」


千歌「善子ちゃんはセンターね」

善子「なるほど、この天才には中心こそが相応しいと――」

曜「外野だったらイレギュラーしても防ぎやすいからだよ」

花丸「やっぱり自意識過剰ずら」

善子「分かってるわよ! 最後まで言わせないさいよ!」

ルビィ「あはは」

211: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:44:50.61 ID:znfOuNSW0
千歌「よーし、ポジションはこれで決まり」

千歌「あとは帰ってゆっくりと――」


 ブンッ


千歌「あれ、素振りの音?」

曜「でも全員いるよね」

千歌「じゃあ誰が?」


梨子「もしかして、まだ他に野球をする人が?」

曜「行ってみよう!」

212: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:45:17.61 ID:znfOuNSW0
ダイヤ「……」ブンッ


梨子「えっ、あれって……」

千歌「ダイヤさん?」


ダイヤ「……」ブンッ


善子「綺麗なスイング……」

曜「ダイヤさん、もしかして野球上手なのかな」

千歌「かも、ね」

梨子「家庭の事情でプレー出来ないんでしょ?」

千歌「でも、お願いすれば助っ人ぐらいなら――」

213: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:45:52.08 ID:znfOuNSW0
ルビィ「駄目っ!」

千歌「ルビィちゃん?」

ルビィ「ごめんなさい、それだけは……」


千歌「な、なんで?」

ルビィ「その、理由は……」

千歌「あ、いや、別に無理に話さなくてもいいよ」

ルビィ「ごめんなさい……」


全員「…………」

214: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:46:30.76 ID:znfOuNSW0
ダイヤ「あら皆さん、どうされたのですか」

千歌「ダ、ダイヤさん」

ダイヤ「もしかして、見られてしまいました?」

千歌「えっと、その……」


ダイヤ「いいのですよ、気にしなくても」

ダイヤ「なんてことない、ただの遊びですから」

曜「遊び?」


ダイヤ「昨日、プロ野球を観ていたら素晴らしいプレーを目にしまして」

ダイヤ「あるでしょう、その後に無性にバットを振りたくなることが」

215: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:47:03.37 ID:znfOuNSW0
千歌「でも――」

善子「あー、分かるわ」

善子「私も時々やるもの」

梨子「そ、そうよね」


千歌「ちょっと、善子ちゃん」ヒソヒソ

善子「空気読みなさいよ」ヒソヒソ

梨子「気になるのは分かるけど、ルビィちゃんの為にも、ね」ヒソヒソ

千歌「うん、そうだね……」ヒソヒソ

216: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:47:38.54 ID:znfOuNSW0
ダイヤ「なにか?」

千歌「い、いえ、大丈夫です」

ダイヤ「そうですか、ならいいのですが」

ダイヤ「私はそろそろ帰ります。皆さんも気をつけて帰ってくださいね」

千歌「は、はい」


千歌(ルビィちゃんの反応的にも、興味本位で聞いていい話じゃないのかもしれない)

千歌(凄く気になるけど、仕方ないよね)

千歌(それよりも今は、試合に向けて集中していかないと!)

217: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:50:11.14 ID:znfOuNSW0
―――
――



ダイヤ「ええ、ひとまずチームとしての体裁は整いました」

ダイヤ「個性的なメンバー揃いですが、圧倒的な力を持った選手もいる」

ダイヤ「しっかり鍛え上げれば、来年には――」


ダイヤ「……そうですか」

ダイヤ「状況は、厳しいようですね」

218: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:54:45.40 ID:znfOuNSW0
ダイヤ「私の方でも、できる限り動いてみます」

ダイヤ「正直、このままでは難しいでしょう」

ダイヤ「しかし、最後まで諦めるわけには」


ダイヤ「……それは最後の手段です」

ダイヤ「せっかくの留学、貴重な機会を無駄にするのは」

ダイヤ「……ええ、私は相変わらず」

ダイヤ「仕方ないです、ルビィが野球を始められただけでも」

ダイヤ「――ええ、また何かあれば報告します」

ダイヤ「鞠莉さんも、お元気で」


ダイヤ(鞠莉さん、元気そうでしたね)

ダイヤ(あの子たちも、楽しそう)

ダイヤ(本当は、私だって――)

219: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 04:55:41.08 ID:znfOuNSW0
ひとまずこの辺で

220: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:35:27.15 ID:znfOuNSW0
もうちょい進めます

221: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:35:54.65 ID:znfOuNSW0
 ―試合当日・沼津市グラウンド―


千歌「ついにこの日が来たよ!」

梨子「緊張するわね」

花丸「ですね……」


千歌「あれ、ルビィちゃんは?」

梨子「一番緊張してそうなのに、反応がないわね」

222: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:36:33.73 ID:znfOuNSW0
花丸「あ、ここです」クルリ

ルビィ「」

千歌「う、後ろに背負ってる……」

曜「ずいぶんシュールな絵だね」

花丸「緊張がピークに達したみたいで……」

梨子(花丸ちゃん、体格の割にパワーがあるのはこれのせい?)


善子「ま、全く、情けにゃいわにぇ」

善子「これだから人間風じぇいは」

花丸「善子ちゃんも大概ずら」

223: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:37:00.20 ID:znfOuNSW0
曜「1年生はみんな試合慣れしてないから仕方ないよ」

梨子「うん」

梨子「慣れればもう少し、平常心を保てるようになるよね」


曜「ちなみに千歌ちゃん、オーダーはどんな感じ?」

千歌「ふっふっふっ」

曜「おお、自信満々だね!」

梨子「逆に不安なんだけど……」

千歌「千歌ちゃん監督の有能さを知るがいい!」

224: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:37:53.84 ID:znfOuNSW0
1:中・善子
2:遊・曜
3:投・梨子
4:捕・千歌
5:右・よしみ
6:左・いつき
7:三・むつ
8:一・花丸
9:ニ・ルビィ

225: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:38:20.56 ID:znfOuNSW0
梨子「こ、これは」

ルビィ「うゅ……」

花丸「あ、ルビィちゃんおはよう」


善子「曜さんが2番?」

千歌「ネットで見た『2番打者最強説』だよ!」

善子「どうして打てる方のルビィが9番なのよ」

千歌「その方がプレッシャーも小さいかなって」

千歌「それに9番に打てる打者を置くのは、有名なラミ○ス監督も好む戦術なんだよ!」

善子「ネットに流されやす過ぎでしょ……」

226: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:38:48.86 ID:znfOuNSW0
梨子「しかも、さらっと自分を4番に置いてるし」

千歌「ギクッ」

ルビィ「諸々の理由付け、自分が4番を打ちたかっただけなんじゃ……」

花丸「うわぁ」


千歌「そ、そんなことないって」

曜「わ、私はいいと思うよ」

梨子「曜ちゃんは黙ってて」

曜「はい……」

227: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:39:16.32 ID:znfOuNSW0
梨子(だけど千歌ちゃんの組んだ打順、以外と理には適ってる)

梨子(実際、ルビィちゃんのメンタルで目立つ上位は難しい)

梨子(ただでさえ打てる選手が少ないチーム)

梨子(出塁できそうなルビィちゃんと善子ちゃんの2人を並べて、私たち2年生で返す)

梨子(それが理想的な形なのも、確かなのよね)


梨子(こっちには曜ちゃんがいるんだから、大量点は必要ないもの)

梨子(いくら守備が不安でも、数点取ればなんとかなる)

梨子(もちろん、私が余計な点を取らない前提だけど……)

228: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:40:51.31 ID:znfOuNSW0
梨子「そういえば、今日の対戦相手はどんなチームなの」

千歌「ダイヤさんからもらったデータによると――」


『日中高校:投手力が高い反面、打撃は標準レベル』

『左のエース中野は特に注意 伝統的に守りが固いチーム』


千歌「だって」

梨子「それなら、そこまで打たれる心配はなさそうね」

曜「ダイヤさん、その辺を考えて選んだ相手なのかな」

梨子「かもね」

229: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:41:35.61 ID:znfOuNSW0
千歌「ちなみに相手のオーダーはこんな感じだって」

1:中・小島
2:遊・東田
3:右・凸田
4:一・ヴィシー
5:三・福井
6:ニ・高平
7:左・藤田
8:捕・梅井
9:投・中野

230: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:42:05.87 ID:znfOuNSW0
千歌「4番の留学生、ヴィシーさんが要注意らしいよ」

曜「留学生か……対戦してみたい!」

梨子「曜ちゃんはメンタル強いわね」

梨子「私はそんな前向きに考えられないよ」


曜「梨子ちゃんは強打者を相手にするのが嫌なの?」

梨子「そりゃ嫌よ」

梨子「強打者がいれば、失点の可能性が上がるんだから」

231: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:42:36.25 ID:znfOuNSW0
曜「むぅ、弱気だね」

千歌「梨子ちゃんの場合、久々のマウンドだから仕方ないよ」

曜「あ、そっか」

梨子「だけど、なんで私が先発なの?」

千歌「それはほら、練習試合だから色々と考えて」


千歌「梨子ちゃんは実践の勘を取り戻さなきゃでしょ」

千歌「あと私も含めて試合経験少ない子が多いから、打たせて取るタイプの梨子ちゃんの方がいい練習になると思うんだよね」

曜「な、なるほど」

232: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:43:05.81 ID:znfOuNSW0
ルビィ「流石千歌さん、考えてますね」

善子「正直見直したわ」


千歌「いやー、実は全部ダイヤさんの受け売りなんだけどね」

善子「あらっ」ガクッ

花丸「千歌さん……」


梨子「あれ、じゃあ打順も」

千歌「それは私」

梨子「でしょうね……」

千歌「ダイヤさんの案だと、梨子ちゃんと私の打順が逆だったからさ~」

233: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:43:39.62 ID:znfOuNSW0
曜「と、とにかくそろそろ行かないと」

曜「早くしないと、相手を待たせちゃうよ」

千歌「あ、そうだね」


千歌「よーし、行くよ浦の星ナイン!」

ようりこ「「おー!」」

よしまる「「おー!」」

千歌「あれ、ルビィちゃんは?」

花丸「試合が迫ったことを意識して、また気を失ったみたいです」

千歌「あらら……悪いけど花丸ちゃん、また運んであげて」

花丸「了解ずら!」


梨子(……本当に大丈夫なのかな)

234: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:44:24.91 ID:znfOuNSW0
〔練習試合〕

【浦の星女学院(先攻)VS日中高校(後攻)】

 先発メンバー

浦の星
1:中・善子
2:遊・曜
3:投・梨子
4:捕・千歌
5:右・よしみ
6:左・いつき
7:三・むつ
8:一・花丸
9:ニ・ルビィ


日中
1:中・小島
2:遊・東田
3:右・凸田
4:一・ヴィシー
5:三・福井
6:ニ・高平
7:左・藤田
8:捕・梅井
9:投・中野

235: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:45:10.05 ID:znfOuNSW0
【1回表】 浦女0-0日中


千歌「よーし、初回に先制するぞ~」

曜「善子ちゃん、頼むよ!」

善子「ええ、任せて!」


ルビィ「善子ちゃん、気合入ってるね」

花丸「だね」

ルビィ「あれなら期待できるかな」

花丸「でもなんか、嫌な予感が……」

236: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:45:40.35 ID:znfOuNSW0
善子(久しぶりの試合――そして何より、今日はトップバッター!)

善子(そもそも上位打線を打つのが初めてだもん、もう最高!)


 プレイボール!


善子(でも頭は冷静に)

善子(1番なんだから、しっかり球種を見極めて――)


 ドスッ


千歌「うわっ」

梨子「初球からデッドボール……」

237: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:46:07.25 ID:znfOuNSW0
善子「なんでよ!」


ルビィ(なんとなく)

花丸(そんな気はしてたよね)

梨子(ある意味期待を裏切らないわね、善子ちゃんは)


千歌「でも曜ちゃんの前でランナーが出たよ!」

梨子「そ、そうね」

千歌「ふっふっふっ、これで先制点は貰った!」

238: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:46:33.16 ID:znfOuNSW0
梨子「ねえ、千歌ちゃん」

千歌「なぁに?」

梨子「実は期待したでしょ、このデッドボール」

千歌「……そんなことないよ」

梨子(千歌ちゃん、案外したたかよね)


曜「……」ニコニコ

梨子(それよりも、目の前で死球を目撃しながら満面の笑みの曜ちゃんの方が怖い?)

239: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:47:06.89 ID:znfOuNSW0
曜(ふふふ、初回からランナーがいるなんて嬉しい誤算だよ)

曜(善子ちゃん、後で褒めてあげないと)
 

 プレイ!

曜「よし、こい!」


梅井(この子は有名な渡辺曜……)

中野(とりあえず、慎重にくさいところを――)シュッ


曜「!」


 カッキ―――ン!

240: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:47:41.12 ID:znfOuNSW0
千歌「打った!」


ルビィ「大きいよ!」

花丸「入った!」

千歌「ホームランだ!」


善子「う、嘘っ」アゼン


曜「ちょっとよーしこー」

曜「早く走らないと追い抜いちゃうよ」

善子「ご、ごめんなさい」

241: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:48:08.11 ID:znfOuNSW0
善子(あんな難しいコースを、逆方向へホームラン)

善子(女子野球ではあり得ないような現象なのに、なに平然としてるのよ……)

善子(この人は化け物じみてるわね、本当に)


梅井「そんな……」

中野「……」ボーゼン


梨子「ナイスバッティング!」

曜「えへへ~、上手く打てたよっ」


千歌「凄いよ! これで2点先制!」

ルビィ「相手も動揺してるから、チャンスかも!」

千歌「よーし、この回に大量得点だ!」

242: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:48:39.35 ID:znfOuNSW0
【1回裏】 浦女2-0日中


千歌(梨子ちゃんのフォアボールの後、初球ゲッツーはマズかったなぁ)

千歌(後続は3球三振、立ち直られちゃったかもだし)

千歌(でも切り替えて守備に集中しないと)


 プレイ!


千歌(梨子ちゃんは低めにボールを集めてゴロを打たせるタイプ)

243: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:49:08.89 ID:znfOuNSW0
千歌(とりあえず、外にストレートを)


 シュッ


小島「!」キンッ


千歌「曜ちゃん!」

曜「!」パシッ――シュッ


 アウト!

244: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:49:40.51 ID:znfOuNSW0
梨子「ワンナウト!」

千歌(よしよし、いい感じだね)


千歌(次も同じように、今度はカーブで)

梨子「えい!」シュッ


 ボール


千歌(反応しないな、まだ変化球の調子はいまいちかも)

千歌(じゃあやっぱりストレートを)


 シュッ――キン


千歌「よし、ファーストゴロ――」

245: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:50:08.74 ID:znfOuNSW0
花丸「あっ」トンネル


ルビィ「よ、よしみさん、フォローを――」

よしみ「う、うん」モタモタ

千歌(しまった、あそこは初心者地帯……)

千歌(ランナーも3塁まで行っちゃったよ……)


花丸「ご、ごめんなさい」

梨子「最初は仕方ないわよ、気にしないで」

千歌(梨子ちゃん、気にしてなさそう)

千歌(これなら大丈夫かな)

246: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:50:43.88 ID:znfOuNSW0
千歌(次は3番だけど、三振が欲しい)

千歌(この人はお腹も出てるし、1球内角にストレートを投げてみよう)


梨子(内角……私の球威だと甘く入ると怖いわね)

梨子(でもここは千歌ちゃんを信じてっ)シュッ


梨子「あっ」

千歌「真ん中に――」


 カキーン


千歌「センター!」

247: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:51:21.73 ID:znfOuNSW0
梨子(でも浅い、これなら――)

善子(ギリギリ、でも私の肩じゃ――)パシッ


曜「中継!」

善子「!」シュッ

曜「ヨ――ソロー!」パシッ――シュッ


千歌(いいボール!)パシッ

東田「うおっ」


 アウト!

248: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:52:15.67 ID:znfOuNSW0
千歌「2人とも、ナイス連携!」

梨子「ありがとう、助かったわ」

曜「助けになれてよかったよ」


善子「私はほとんど何もしてないけどね」

曜「そんなことないって」

曜「2人で完成させたんだから、半分は善子ちゃんの手柄さ」

善子「そ、そうかしら」


千歌「でもいい感じじゃん、久しぶりのマウンドなのに」

梨子「うん、思ったより投げられそう」

善子「この調子でお願いね」

梨子「ええ!」

249: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:52:47.26 ID:znfOuNSW0
【5回裏】 浦女2-1日中


千歌(試合はサクサクと進んで5回)

千歌(守備は梨子ちゃんの好投もあって順調)

千歌(留学生のヴィシーさんにソロホームランを打たれちゃったけど、そこは仕方ないよね)


千歌(だけど攻撃は、上位の3人以外出塁できないまま――)

花丸「ずらっ」ブンッ


 バッターアウト!

250: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:53:17.17 ID:znfOuNSW0
花丸「また3球三振だよ……」

ルビィ「あの投手じゃ仕方ないよ」

花丸「うぅ、あんなの初心者には反則だよ……」

花丸「ルビィちゃん、マルの敵を取ってぇ」

ルビィ「う、うん、頑張ってみる」


ルビィ(実際、段々身体は動くようになってきたかな)

ルビィ(1打席目は緊張し過ぎてバットも振れなかったけど、今度は大丈夫そう)

ルビィ(打てるかは分からないけど、とにかくがんばルビィ!」

251: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:53:42.76 ID:znfOuNSW0
中野(独り言?)

梅井(変な子ね)


中野(でも下位2人は見るからに打たなそうね)

梅井(たぶん人数合わせなんでしょう)

梅井(真ん中に手を抜いたストレートでいいわよ)

中野(了解)シュッ


ルビィ(あっ、いい球――)


 カッキ――ン!

252: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:54:30.04 ID:znfOuNSW0
梨子「完璧!」

曜「右中間――抜けた!」


ルビィ(サード行ける!)

善子「ちょ、暴走――」


 セーフ


善子「じゃなかったわね」


千歌「ルビィちゃん、足速いね!」

梨子「確かに速い。それに走塁が上手よね」

梨子「実戦経験が乏しい割に、状況判断が的確だわ」

253: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:55:00.45 ID:znfOuNSW0
花丸「流石ルビィちゃんずら!」


千歌「さて、これでランナー3塁」

千歌「次の次は曜ちゃんだけど、これは練習試合だから――」


善子(スクイズ――か)

善子(バント、あんまり得意じゃないのよね)

善子(多分人並みだとは思うけど、コーチに反抗して二塁打を打ったりした記憶しかないわ)

善子(でもここはちゃんと役割を果たさないと!)ブンブン


善子「よし、こい!」

254: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:55:30.10 ID:znfOuNSW0
梅井(なんとも分かりやすい……)


千歌「よーし、初球からいっちゃえ!」

梨子「ちょ、そのサインは待って千歌ちゃん――」


 シュッ


善子(ヤバッ、外され――)


梅井「うわっ」

千歌「暴投だ!」

255: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:56:06.37 ID:znfOuNSW0
梅井(なんとも分かりやすい……)


千歌「よーし、初球からいっちゃえ!」

梨子「ちょ、そのサインは待って千歌ちゃん――」


 シュッ


善子(ヤバッ、外され――)


梅井「うわっ」

千歌「暴投だ!」

256: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:57:12.10 ID:znfOuNSW0
ルビィ「えっと、いいのかな」ホームイン

曜「いいんだよ、追加点だ!」


梨子「何が起こったの……」

千歌「さあ?」

花丸「善子ちゃんの不幸属性のせいで、普通に投げても外れるボールがさらに外れていった的な?」

千歌「不運がいい方向に働いた――ってことでいいのかな」

梨子「たぶん……」

花丸「善子ちゃん関係は、深く考えたら負けなんですよ、きっと」

257: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:58:05.74 ID:znfOuNSW0
【6回裏】 浦女3-1日中

【選手交代】

『曜:遊→投』
『梨子:投→左』
『いつき:左→中』
『善子:中→遊』


千歌「この回から曜ちゃんに投手交代だね」

曜「ようやくマウンド!」

258: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 05:59:23.53 ID:znfOuNSW0
曜「サインはいつもどおり、無しでいいかな」

千歌「うん、曜ちゃんに任せるよ」

千歌「ただ私が確実に捕れるか分からない、低めのカーブは少な目にね」

曜「了解」



千歌「あっ、でもゴロは注意ね」

千歌「正直、善子ちゃんのところでのイレギュラーが心配だから、特にショートは」

曜「つまり――三振を取ればいいんだね!」

千歌「そうそう」

曜「分かりやすくていいじゃん、流石は千歌ちゃん」

259: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 06:00:08.52 ID:znfOuNSW0
千歌(3番から――でも曜ちゃんなら大丈夫かな)


 プレイ!


千歌(曜ちゃんの投球スタイルは梨子ちゃんとは対照的)

千歌(コントロールはアバウト、球種も実質二つだけ)

千歌(でも女子野球では10人も投げられる人がいないであろ130キロ台の球速を生かして――)


曜「フッ」シュッ



 ストライク!


千歌「三振を――取る!」ビリビリ

260: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 06:00:51.93 ID:znfOuNSW0
千歌(まるで浮き上がるように伸びるストレート)

千歌(速球での空振り率が圧倒的に高い)

千歌(高校野球なら、男子でも通用するであろう速球)

千歌(それに球速が早く鋭く落ちるパワー系のカーブのコンビネーション)

千歌(並みの女子選手では手も足も出ない)


千歌(これもやっぱり、ダイヤさんからの受け売りだけど)

千歌(小さい頃から傍で見てきた分、あんまり実感が湧かないんだよね)

千歌(私はカーブの捕球はまだ微妙だから、あんまり投げないし)

千歌(凄い投手なのは分かるけど――)


 ストライク!

261: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 06:01:49.76 ID:znfOuNSW0
千歌(けど改めて考えてみると、曜ちゃんより早いストレート投げる人ってほぼいないよね)

千歌(もし漫画みたいに、早い球を受けてるからある程度は打てるとかあれば、千歌ももう少し打てそうなのに……)


 ストライク! バッターアウト!


千歌「ナイスボール、曜ちゃん!」

千歌(っていつの間にか三振だよ)

千歌(ちゃんと試合に集中しないと)


ヴィシー「……OH」


千歌(でも留学生さんの青ざめた顔を見る限り、大丈夫そうかな)

千歌(打たれそうな気、全然しないもんね)

262: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 06:15:44.42 ID:znfOuNSW0
 ―浦の星女学院・野球部部室―



千歌「それでは浦の星女学院野球部の初勝利を祝して――」


全員「「「カンパーイ」」」


 ごくっごくっ


曜「いやー、今日もプロテインが美味い!」

善子「いやいや、何でプロテインなのよ」

花丸「そうずら、もっと他にジュースとか――」


ダイヤ「ブッブーですわ!」

ルビィ「ピギッ」

263: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 06:16:21.04 ID:znfOuNSW0
ダイヤ「アスリートはジュースなど厳禁!」

善子「果汁100%ジュースとかはみんな飲んでるし……」

ダイヤ「偉そうなことは試合で活躍してから言いなさい!」

善子「は、はい」


ダイヤ「あっ、でもルビィは特別にアイスを食べていいですわよ」

善子「なにそれ、ダブスタよダブスタ!」

花丸「そうずら、マルものっぽパン食べたいのに」

ダイヤ「2安打と1死球の差ですわよ――あっ、のっぽパンなら食べても大丈夫ですよ」

花丸「流石ダイヤさん、最高ずら~」

善子「あー、裏切り者!」

264: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 06:16:55.08 ID:znfOuNSW0
梨子「みんな、ダイヤさんにはかなわないわね」

千歌「環境の面とか、色々お世話になりっぱなしだもんね」

梨子「本当にね」


梨子「もしダイヤさんがいなかったら、まともに機能しない野球部になってたかも」

千歌「梨子ちゃんを引き込んでくれたのも、ダイヤさんだしね」

梨子「ふふっ、そんなこともあったわね」

千歌「騙されたー、みたいな感じだったもんね」

梨子「結果的に、感謝しかないけどね」

梨子「みんなと出会えて、イップスも治って」

265: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 06:17:54.03 ID:znfOuNSW0
千歌(結局、試合は5対2で勝利した)

千歌(途中、内野の3連続エラーで1点差に詰め寄られたけど、リリーフの田馬さんを9~3番で打ち込んで2点を追加、完勝だった)

千歌(私を含めて、4~8番が無安打だったのは結構な問題かもだけど)


ダイヤ「しかし流石我が妹、デビュー戦から活躍とは素晴らしいですわね~」ヨシヨシ

ルビィ「お、お姉ちゃん」

花丸「善子ちゃん、当たったところ大丈夫?」

善子「ええ、慣れてるから」

曜「結局、イニング数を考えたら梨子ちゃんに結果で負けちゃったかぁ」

梨子「被安打も自責も0なんだから、曜ちゃんの勝ちよ」

266: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 06:18:32.87 ID:znfOuNSW0
千歌(だけど、この様子なら何とかなるかな)

千歌(きっとみんな、順調に成長――)


 ガラッ

 
千歌「ふぇ」

???「……」


千歌「えっと、どなたですか」

???「ごめんなさい、あなたに用はないの」

千歌「はぁ」

267: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 06:19:15.26 ID:znfOuNSW0
???「渡辺さん、少しいいかしら」

曜「あ……」

千歌「曜ちゃん、知り合い?」

曜「……前に所属していたチームのコーチ」


コーチ「観たわよ、今日の試合」

コーチ「相変わらず、プレー『は』素晴らしいわね」

コーチ「逆方向へのホームランを見る限り、この短期間でさらに成長も遂げた」

曜「どうも」

268: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 06:19:44.60 ID:znfOuNSW0
ダイヤ「あの、申し訳ないのですが部外者の方は」

コーチ「あら、ごめんなさい」

コーチ「でも私、部外者ではありませんから」

ダイヤ「と、いいますと?」


コーチ「実は野球部員の保護者なんです」

千歌「保護者?」

コーチ「はい――そうよね、善子」

善子「……ヨハネよ」

269: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 06:20:12.25 ID:znfOuNSW0
善子母「あなたはまたそんなこと言って……」

善子「ふん」


千歌「えっ」

ルビィ「というか」

梨子「善子ちゃんの」

ダイヤ「お母様!?」


曜「そういえば、コーチの苗字も津島だった……」

善子母「あら、私は知っているものだとばかり」

270: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 06:21:06.26 ID:znfOuNSW0
善子母「でも善子、良かったわね」

善子母「あなたのような問題児でも試合に出れる、そんなレベルのチームで」

善子「うっさいわね」


千歌「ねえ、皮肉言われてる?」

梨子「皮肉というか、直球というか……」

曜「普段は嫌味をいうような人じゃないんだけど……」


ダイヤ「根に持っているのでしょう」

千歌「根に持つ?」

ダイヤ「曜さんを引き抜かれ、反抗期の娘まで手なずけられ、プライドが傷ついてしまったのかと」

271: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 06:21:33.10 ID:znfOuNSW0
善子母「……そこのあなたも大概失礼ね」

善子母「ほとんど当たっている分、妙に腹が立つわ」

ダイヤ「すみません、私も根に持つタイプなのです」

ダイヤ「母校の、妹も所属する大切な野球部を貶められたことが許せなくて」


善子母「どちらかといえば、貴女は私に同意してくれると思ったのだけど」

善子母「一番冷静に、現実が見えていそうなのに」

千歌「現実?」


ダイヤ「……気にしてはいけません」

ダイヤ「ありがちな負け惜しみです」

272: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 06:22:00.12 ID:znfOuNSW0
善子母「……覚えてなさい」

善子母「他校とはいえ、私は教師でもあるのよ」

ダイヤ「そうですか」

ダイヤ「しかし私は黒澤家の人間――これ以上言わなくても、意味は分かりますよね」

善子母「なるほど、性質が悪いわけね」

善子母「バックに地元の有力者がいたなら、妙に話が順調に進んだのも納得だわ」


ダイヤ「ではそろそろお引き取り願えますか?」

ダイヤ「私たちはまだ、祝勝会の途中なので」

273: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 06:22:36.08 ID:znfOuNSW0
善子母「……そうね、水を差して悪かったわ」

善子母「でもじきに、あなた達は思い知ることになる」

善子母「残酷な現実と、自分たちの愚かさについて」


善子母「特に渡辺さんは予めよく考えておくことね」

善子母「ここでの野球と、あなたが今までやってきた野球の、決定的な違いを」


善子「捨て台詞、カッコワルイ」

善子母「……善子」

善子「は、はい」

善子母「ちゃんと遅くなる前に帰ってくるのよ」

善子「わ、分かってるわよ!」

274: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 06:23:06.62 ID:znfOuNSW0
善子母「……今後も浦の星女学院野球部の健闘を祈っているわ」


 ガララッ――ピシャッ


千歌「……滅茶苦茶な人だったね」

梨子「流石、善子ちゃんのお母さんって感じ」


善子「なんかごめんね、迷惑かけて」

曜「いやいや、原因は私かもだし」

善子「でも私の母親だから」

善子「曜さんには日ごろから迷惑かけてるかもだし……」

曜「善子ちゃんが謝ることじゃないって」

275: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 06:23:42.48 ID:znfOuNSW0
ダイヤ「それにしても、申し訳ありませんでした善子さん」

善子「なんで謝ってるのよ」

ダイヤ「お母様に対して、大人げない態度をとってしまい――」


善子「気にしないで――というか最高だったわ!」

ダイヤ「はい?」

善子「あんな悔しそうなお母さんの姿、初めて見た」

善子「凄くスカッとして、むしろお礼を言いたいぐらい」

善子「私、ダイヤがこんな凄い人なんて知らなかった」

善子「貴女は最高よ!」

ダイヤ「は、はぁ」

276: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 06:24:09.86 ID:znfOuNSW0
ルビィ「善子ちゃん、親子仲が悪いのかな」

花丸「昔はそんなことなかったのに」

ルビィ「花丸ちゃん、善子ちゃんのお母さんのこと知ってたの?」

花丸「うん、一応幼稚園が一緒だったから」

ルビィ「へぇ」


花丸「昔はね、親子で野球について楽しく語り合ってた記憶があるよ」

花丸「その頃は、普通に仲良しだったのに」

ルビィ「それは流石に古すぎて参考にならないかも……」

277: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 06:24:37.87 ID:znfOuNSW0
善子「でも驚いたわ」

善子「まさか曜さんが教わっていたコーチが、お母さんだったなんて」

曜「私の方こそ」


曜「よくよく考えたら、性格も結構似てる気がするけどさ」

善子「どの辺がよ」

曜「色々とこだわりの強いところとか」

善子「ぐっ」

278: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 06:25:03.82 ID:znfOuNSW0
曜「でもあれで、コーチとは結構馬が合うからさ」

曜「善子ちゃんとも仲良くなれそうでよかったよ」ギュー

善子「な、なんで抱きつくのよ!?」


千歌「曜ちゃんだけズルい、私も!」ギュー

善子「ちょ、千歌さん」

花丸「それならマルも」ギュー

ルビィ「る、ルビィも」ギュー

善子「ルビィまで!?」

279: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 06:25:35.59 ID:znfOuNSW0
ダイヤ「やれやれ、騒がしいこと」

梨子「だけど、すぐに元気になって良かったです」

ダイヤ「ふふっ、そうですわね」


梨子(ここまでは凄く順調)

梨子(初心者だらけのメンバーだけど、チームも完成して、試合にも勝って)

梨子(けど気になるのは、さっきの会話の中)

梨子(善子ちゃんのお母さんが口にして、ダイヤさんも否定しなかった『現実』)


梨子(それはいったい、どんな意味なんだろう)

280: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 14:24:06.47 ID:nMJKyK6C0
 ―部室―


曜「あー、今日も疲れたぁ」

梨子「その割には元気そうね」

曜「練習後の定型文みたいなもんだし」

梨子「そうね――」


花丸「ずらぁ……」

ルビィ「ピギィ……」

善子「堕天……」


梨子「本当に疲れている子も、たくさんいるみたいだけど」

281: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 14:24:36.20 ID:nMJKyK6C0
千歌「まあまあ、一年生は仕方ないよ」

千歌「今日の練習は曜ちゃんが気合い入ってて、いつもより厳しかったし」

曜「あはは、ごめんごめん」


千歌「でも、みんな体力はついてきたよね」

千歌「こんな風に疲れ切ってはいても、最後まで練習に参加し通せた」

曜「花丸ちゃんも、途中で休まずに練習できるようになったもんね」

千歌「でしょ!」

282: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 14:25:08.93 ID:nMJKyK6C0
梨子「あら、千歌ちゃんはずいぶん元気みたいね」

千歌「それだけが取り柄だからね!」


千歌(野球部の結成から少しの時が経った)


千歌(曜ちゃんの力もあって、練習試合は全勝)

千歌(私もヒットを打てたし、花丸ちゃんもバットにボールが当たった)

千歌(梨子ちゃんもイップスから順調に回復して、再発もなさそう)

千歌(善子ちゃんは出塁率4割近いし、ルビィちゃんも試合前に気絶しなくなった)

千歌(全てが順調、怖すぎるぐらいに)

283: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 14:25:44.68 ID:nMJKyK6C0
千歌「そうだ、次の練習試合の予定についてなんだけど――」

曜「ちょっと待った!」

千歌「曜ちゃん?」

曜「練習試合もいいけど、この大会に出てみない?」


『春季女子高校野球大会』


千歌「これは?」

曜「女子には男子みたいに春季大会がないから、それの代わりみたいなイベント」

曜「要するに、夏大前の余興みたいなものかな!」

千歌「おー、そりゃいいね!」

284: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 14:26:18.72 ID:nMJKyK6C0
ルビィ「うゅ……」

花丸「どうしたの、ルビィちゃん」

ルビィ「この大会、強豪校じゃなきゃ出られないはずだよ」

善子「そうなの?」

ルビィ「確か……」

ルビィ「お姉ちゃん、プロ野球の試合と被ってもこっちを観に行くぐらいだから」


千歌「梨子ちゃん、知ってる?」

梨子「そうね、ルビィちゃんの言うとおり」

梨子「少なくとも、創部間もない私たちが出られるレベルの大会じゃ――」

285: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 14:26:53.50 ID:nMJKyK6C0
曜「でもさ、もうエントリー済ませたよ」

梨子「えっ」

ルビィ「うゅ?」


曜「むしろ主催者から参加を薦められたぐらい」

善子「な、なんでそうなるのよ」

曜「私も気になって、色々聞いてみたんだけどさ」

曜「善子ちゃんのお母さんが推薦してくれたみたいなんだよね」

善子「お母さんが?」

286: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 14:27:26.16 ID:nMJKyK6C0
千歌「どうしたんだろうね、急に」

曜「きっとアレだよ」

曜「これで現実を見せてやるとか、そんな感じ」

千歌「うへぇ、感じ悪い……」


梨子「だ、駄目よ」

梨子「証拠もないのに、憶測でそんなこと言っちゃ」

善子「お母さんなら考えそうなことよ」

梨子「実の娘にそう言われると、否定しずらい……」

287: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 14:28:19.71 ID:nMJKyK6C0
千歌「でも大会かぁ」

千歌「楽しみだなぁ、東京」

梨子「そう?」


千歌「しかも野球の大会でしょ」

千歌「もしかしたら、μ’sに会えるかもだし!」

ルビィ「それは流石に……」

千歌「分かんないじゃん、東京の大会だもん!」

梨子「ふふっ、そうかもね」


千歌(本当に楽しみ)

千歌(少し前、応援で行った東京に、選手として行けるなんて)

千歌(素敵な旅になる、そんな予感がするよ!)

288: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 14:28:53.01 ID:nMJKyK6C0
 ―数日後・部室―


ダイヤ「やれやれ、勝手にエントリーしてしまうとは」

曜「あはは、すみません」

ダイヤ「できれば相談ぐらいはしておいてほしかったものです」

ルビィ「ご、ごめんなさい」

梨子「これからはちゃんと、曜ちゃんを見張っておくんで……」

289: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 14:29:18.15 ID:nMJKyK6C0
ダイヤ「……過ぎたことは仕方ありません」

ダイヤ「出場するからには、頑張ってください」

ダイヤ「私も応援へは駆けつけますので」

千歌「は、はい」


ダイヤ「……ルビィ」

ルビィ「は、はい」

ダイヤ「なにがあっても、気持ちを強く持つのですよ」

ルビィ「うゅ?」

290: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 14:30:22.79 ID:nMJKyK6C0
ダイヤ「これは皆さんにも言えることです」

ダイヤ「しかし心の弱い貴女は、特に心に留めておきなさい」

ルビィ「う、うん」


善子「どういう意味よ」

花丸「分からないよ」


ダイヤ「それでは私は生徒会の仕事があるので、失礼しますわ」

ダイヤ「書類が完成したら、生徒会室へ持ってきてくださいね」

曜「了解であります!」

ダイヤ「では――」ガララ

291: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 14:31:00.66 ID:nMJKyK6C0
梨子「なんか、意味深な感じだったね」

曜「だね」


千歌「まあともかく――きました、正式な書類!」

曜「待ってました!」

梨子「内容はどんな感じ?」

千歌「えっと学校名、部員数――チーム名?」

ルビィ「女子は男子と差別化するために、チーム名をつけるんです」

千歌「へぇ」

292: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 14:31:37.63 ID:nMJKyK6C0
曜「日中高校はドラゴンズっていうらしいね」

善子「ドラゴン――なんか格好いい!」


ルビィ「同じチーム名は駄目だよ」

善子「えー、どうして」

ルビィ「ただでさえ同地区なんだから、紛らわしいもん」

梨子「そもそも私たち、ドラゴンとか似合わないでしょ」

花丸「そんな迫力、どこにもないずら」

善子「でも曜さんとか」


梨子「……曜ちゃんの場合」

ルビィ「ドラゴンというより」

千歌「猫?」

293: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 14:32:55.60 ID:nMJKyK6C0
曜「な、なんでそうなるのさ」


千歌「自由で気まぐれなところとか」

梨子「ちょっと面倒なところとか」

ルビィ「負けず嫌いなところとか」

花丸「動いているボールに何でも反応しちゃうところとか」


曜「よ、善子ちゃん~」にゃー

善子「あー、よしよし」

善子(案外寂しがり屋で甘えん坊なところとか)

善子(目元もそれっぽい感じだし)

花丸「だけど善子ちゃんも猫っぽいとこあるよね」

善子「にゃっ」

294: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 14:33:23.18 ID:nMJKyK6C0
千歌「まあ猫ちゃんたちはともかく――早速案を出し合っていこう!」

千歌「まずは曜ちゃん!」


曜「えっと、そうだね」

曜「無難に野球少女隊とかどうかな」

千歌「却下!」

曜「えー、何でさ」

千歌「ダサいから、あと昭和」

曜「ぶーぶー」

295: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 14:33:54.09 ID:nMJKyK6C0
千歌「お次は――善子ちゃん!」

善子「フッ、決まっているわ」

善子「その名はヨハネリトル――」


千歌「次は花丸ちゃんね」

善子「ちょっと!」

千歌「なにさ」

善子「せめて最後まで言わせなさいよ!」

千歌「時間の無駄だよ」

296: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 14:34:22.60 ID:nMJKyK6C0
花丸「善子ちゃん、諦めるずら」

花丸「変ないつものネタは置いておいて、後はマルに任せて」

千歌「おお、自信あり?」

花丸「ふふっ、これでもゲームだけじゃなくて本も読むからね」

花丸「文字については任せるずら!」


曜「な、なんかプレー中には感じられないオーラを感じる」

ルビィ「マルちゃん、実際文字には強いんですよ」

297: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 14:35:00.86 ID:nMJKyK6C0
千歌「それで、どんなチーム名?」

花丸「いくつか候補があって――」


花丸「1つ目がモグラ○ズ」

善子「はい?」 

花丸「あと、ホッパ○ズ」

花丸「一応、パワ○ルズとかもあるずら」

善子「色々と直球すぎるわよ!」


ルビィ「しかもパクリばかり……」

善子「私より普通に酷いじゃない」

298: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 14:35:41.32 ID:nMJKyK6C0
千歌「……ルビィちゃんは?」

ルビィ「えっと――キャンディーズとか?」

千歌「なんか芸人みたいだから駄目」

ルビィ「ピギィ……」


曜「ちなみに千歌ちゃんはどんな案があるの?」

千歌「みかんーず」

梨子「論外」

千歌「えー」

梨子「今までで一番あり得ない名前だわ」

299: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 14:36:09.18 ID:nMJKyK6C0
千歌「……そこまで言うなら、梨子ちゃんは素晴らしい案を持ってるんだよね」

梨子「へっ」


千歌「やっぱりこういうのは、東京出身のセンスがある子じゃないとね」

千歌「というわけで、よろしく!」

梨子「え、えっと……」

千歌「えっと?」


梨子「ナインマーメイド、とか?」


「「「…………」」」

300: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 14:36:39.27 ID:nMJKyK6C0
千歌「それ本気で言ってる?」

梨子「え、えっと」

千歌「もし本気だとしたら、私は梨子ちゃんのこと軽蔑する」

梨子「……ごめん、忘れて」


曜「千歌ちゃん怖いよ、抑えて」

ルビィ「うゅゅ……」ササッ

花丸「わっ、ルビィちゃん」

曜「ルビィちゃんも怯えて、花丸ちゃんの後ろに隠れちゃったし」

301: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 14:37:06.76 ID:nMJKyK6C0
千歌「だって、ろくな案がないんだもん!」

梨子「千歌ちゃんも含めてでしょ」

千歌「このままじゃ埒があかないから、誰かいい案を――」


ルビィ「Aqours……」

千歌「ふぇ?」

花丸「ずら?」

曜「ルビィちゃん?」


ルビィ「Aqoursは、駄目ですか」

302: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 14:37:32.14 ID:nMJKyK6C0
花丸「ルビィちゃん、その名前――」

ルビィ「……」コクッ


善子「アクア?」

ルビィ「えっと水にかけた造語なんだけど」サラサラ

ルビィ「ここは海に近い学校だし、そういうのもいいかなって」


曜「へぇ、いいじゃん」

千歌「私たちらしい感じがする!」

善子「そう、それはまさに――」

花丸「それ以上は言わせないずら」


梨子「でもこれは、決まりね」


千歌「よーし、私たちは今日からAqoursだ!」

303: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 14:40:54.13 ID:nMJKyK6C0
 ―東京・某ホール―


千歌「来たぞ、東京!」


千歌「目指すは聖地――」

曜「神○球場!」

 
千歌「あれぇ」ガクッ


千歌「そこはアキバドームでしょ!」

曜「学生野球の聖地の一つだし、歴史が違うよ」

千歌「そりゃそうかもだけどさ……」

304: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 14:41:24.90 ID:nMJKyK6C0
 ザワザワ


梨子「その前に抽選会だね」

千歌「くじは誰が引く?」

曜「そりゃ千歌ちゃんでしょ、キャプテンなんだから」


千歌「えー、でも不安だよぉ」

善子「フッ、仕方ないわね」ジャラ

千歌「な、なにそれ」

善子「私が念を込めた、このお守りをあげるわ」

梨子「何よこの黒い物体……」

曜「見るからにヤバそうなんだけど……」

305: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 14:41:52.33 ID:nMJKyK6C0
善子「せめて梨子さんは信じてよ!」

善子「イップスを治してあげた仲でしょ!」


梨子「それはそうなんだけど」

梨子「あの後、変な占いみたいなのを色々薦められるから、若干不信感が」

善子「な、なんでよ~」


ルビィ「善子ちゃん、可哀想」

花丸「受け入れてくれる相手には調子に乗っちゃうタイプだから、仕方ないよ」

ルビィ「……花丸ちゃんも、似てるとこあるよ」

花丸「ずらっ!?」

306: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 14:42:23.84 ID:nMJKyK6C0
千歌「ま、まあ、せっかく用意してくれたんだから、ありがたくいただくよ」

曜「そうだね、どうせ抽選結果には関係ないだろうし」

梨子「ええ、ごちゃごちゃ言われるよりはマシだわ」

梨子「さっきから、周りの視線が集まって恥ずかしいし」


善子「だ、駄目よ」

善子「そんな姿勢では、運命は手に入らないわ!」

花丸「善子ちゃん」

ルビィ「ちょっと黙るビィ」

307: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 14:42:52.27 ID:nMJKyK6C0
係員「浦の星女学院さんは次にお願いします」

千歌「あ、はい」


千歌(確かにこのお守りは怪しい雰囲気満点)

千歌(だけど得体の知れない力を感じるのは事実なんだよね)

千歌(何だろう、謎の迫力みたいな?)

千歌(外れることも多い善子ちゃんのオカルト)

千歌(けど案外、信じていればプラスの効果も少なくない気もする)

308: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 14:43:24.03 ID:nMJKyK6C0
係員「ではくじをどうぞ」

千歌「はい」

 
 ガサガサ


千歌(あれ)

千歌(凄い、勝手に手を導いてくれる)

千歌(まるで、良いくじに吸い寄せられるように)

千歌(これ、これを引けば――)


 ガタッ


千歌(あれ、手前にも――ついこっちを引いて)

309: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 14:43:50.63 ID:nMJKyK6C0
 ワッ


千歌「えっ」


『浦の星女学院、グループAに入りました』


曜「相手は、音ノ木坂学院と函館聖泉女子高等学院」


むつ「あちゃー」

よしみ「これは」

いつき「やっちゃったね」


ルビィ「ゆ、優勝候補が固まった最悪の組……」バタン

花丸「ルビィちゃん!?」

310: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 14:44:27.19 ID:nMJKyK6C0
千歌「そ、そんな~」


善子「あ、あれ」

花丸「善子ちゃんの変なお守りの所為ずら!」

善子「し、知らないわよぉ」


曜「凄いよ善子ちゃん、強敵とできるなんて最高のくじ!」

曜「千歌ちゃんも流石だよ!」

花丸「そんなポジティブでいられるのは曜ちゃんだけずら……」

善子「まったくよ……」

311: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 14:45:00.41 ID:nMJKyK6C0
千歌「ごめん、ヤバいの引いちゃった」

曜「気にしないで――ねっ、梨子ちゃん」

梨子(音ノ木坂……)


千歌「梨子ちゃん、大丈夫?」

曜「顔色、凄く悪いよ」

梨子「……ええ」


千歌「音ノ木坂と当たること、意識しちゃってるのかな」ヒソヒソ

曜「色々あったみたいだしね」ヒソヒソ

312: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 14:45:57.68 ID:nMJKyK6C0
千歌「だ、大丈夫」

千歌「私たちはこれまでチーム結成から全勝だよ」

千歌「この大会も、勝てはしなくても悲惨なことにはならないって」

花丸「そ、そうだよね」

花丸「負けて元々、成長のためのはむしろ全国トップとやれるのは悪くない話」

花丸「これ以上、善子ちゃんを責めるのも可哀想だし」

千歌「そうそう」

313: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 14:46:34.15 ID:nMJKyK6C0
千歌「3チーム中、2チームがトーナメントに上がれるグループ」

千歌「どちらかに勝てれば、上へはいけるわけだし」

千歌「だから元気出してね、梨子ちゃんも」

梨子「……うん」


千歌「よーし、初戦は音ノ木坂戦、頑張ろう!」

花丸「おー!」



曜「…………」

ルビィ「曜さん?」

曜「……ごめん、気にしないで」

ルビィ「は、はい」

314: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 19:40:53.87 ID:zIxKwSRw0
 ―音ノ木坂学院戦・当日―


ルビィ「わーい、綺麗な芝生だよぉ」ボフッ

花丸「本当だね~」ボフッ


善子「ちょっとあんたたち、恥ずかしいわよ」

花丸「ぶー、善子ちゃんノリ悪いよ~」

ルビィ「気持ちいいよ、一緒においでよ」

善子「そ、そうね」ボフッ

315: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 19:42:00.22 ID:zIxKwSRw0
梨子「ああもう、善子ちゃんまで」

曜「ちゃんとしたグラウンドでの試合初めてだっけ」

梨子「言われてみると、そうかも」

曜「初体験ならはしゃぎたくなる気持ちも分かるよ」

曜「私も最初、芝の球場で野球をした時は感動したから」

梨子「そうね……」

曜「よーし、私も混ざってきちゃおうかな~」

梨子「それは流石に止めようね」


千歌「あはは――でも流石は東京の球場」

千歌「きちんと整備されていて、綺麗だね~」

316: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 19:42:29.17 ID:zIxKwSRw0
??「ははっ、カッペ丸出しだな」

梨子「っ」

千歌「えっと、あなたは?」

??「私? 私は――」


曜「板ちゃんじゃん、何してんの」

??「知り合いがいるから、試合前に挨拶と思ってさ」

千歌「えっと、音ノ木坂の選手だよね」

曜「千歌ちゃんは知らないんだっけ」

曜「この人は板本さん、私と同じ日本代表候補」

317: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 19:43:03.22 ID:zIxKwSRw0
板本「私のこと、知らない同年代がいたんだな」

曜「千歌ちゃん、その辺に詳しくないからさ」

千歌「ご、ごめんなさい」

板本「ふーん、まあいいや」


板本「でもビックリした、曜が高校野球を始めるなんて」

曜「ちょっと事情があってさ」

板本「気まぐれだもんな、お前」

曜「最近よく言われるから否定しにくいなぁ」

318: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 19:43:38.53 ID:zIxKwSRw0
板本「でもありがたいよ」

板本「代表でポジションを取られたリベンジ、ここで出来るなんてな」

曜「えー、お手柔らかに頼むよ」

曜「こっちは創部間もない野球部なんだからさ」


板本「それでもお前が投げたら、そう簡単に点は取れねえだろ」

板本「正直今年のチーム、速球に強くない奴だらけだし」

曜「私は先発じゃないよ」

板本「はっ?」

曜「基本リリーフだもん、このチームでは」

319: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 19:45:16.22 ID:zIxKwSRw0
板本「じゃあ先発では誰が投げるのさ」

板本「外野で転がってる可愛い連中はなさそうだし」

板本「もしかして、このボケっとしたオレンジちゃん?」


千歌「いや、私はキャッチャーで」

板本「マジかよ、つまり投手は――」

板本「さっきから黙ってる、そのバッティングピッチャーかよ」

梨子「……」


曜「ちょっと、その言い方は」

板本「仕方ないだろ、事実だったんだから」

320: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 19:45:46.54 ID:zIxKwSRw0
板本「鳴り物入りで入ってきたのに、すぐにイップスで投げられなくなって」

板本「たまに練習で投げても、そこらの小学生みたいなボール」

板本「どう頑張っても、バッピにしかなりゃしない」

板本「最後には野手に転向して、気づいたらいなくなってた」

板本「そんな奴だぞ、こいつ」

梨子「……」


板本「少しはまともな球、投げられるようになったのか」

板本「レベルの高い試合をできるはずの大会なんだ」

板本「初戦から大差コールドは勘弁だぞ」

321: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 19:46:16.29 ID:zIxKwSRw0
曜「そこまでにしといてよ」

曜「おかげでこっち、空気が最悪なんだけど」

板本「悪い、色々思うところがあってつい」

板本「私そろそろ行くわ――お互い頑張ろうな」タタッ


曜「ごめんね、口の悪い奴で」

梨子「……あの人は、そんなに悪い人じゃないわ」

梨子「音ノ木坂にいたときも、私によく気を遣ってくれた」

梨子「ただ素直に、思ったことを口に出しちゃうだけ」

322: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 19:46:43.72 ID:zIxKwSRw0
梨子「見返すには、結果を出すしかない」

梨子「見ていて、2人とも」

梨子「私は音ノ木坂を、μ’sを抑え込んで、自分の過去を払拭する」

千歌「……うん、その意気だよ!」


よしみ「おーい、3人とも」

いつき「話しているのもいいけど」

むつ「早くしないと練習時間終わっちゃうよ」

千歌「あっ、ごめん」

323: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 19:47:13.61 ID:zIxKwSRw0
千歌「それにしても、今日の相手の先発……」


 バンッ


花丸「わっ」

ルビィ「な、何の音?」


???「……」シュッ


 バンッ


???「ナイスボール、ここあ」

324: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 19:47:54.81 ID:zIxKwSRw0
千歌「ふぇぇ、曜ちゃんほどじゃないけど早いねぇ」


 ククッ――バンッ


花丸「なにあのスライダー……」

善子「む、無理よ、あんなの」

曜「矢澤姉妹、健在だね」

千歌「えっと、ダイヤさん情報によると」


『日本代表候補の捕手である矢澤こころと、その双子の妹ここあのバッテリー』

『120キロ台中盤のストレートと、スピードと切れ味を兼ね備えた鋭いスライダーが武器』


千歌「だって」

325: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 19:48:28.76 ID:zIxKwSRw0
ルビィ「ちなみにあの2人、初代μ’sの主将だった矢澤にこさんの妹さんたちです」

千歌「マジで!?」

ルビィ「はい」

千歌「どうりで小さいと思った……」

曜「そこなんだ」


ルビィ「曜さんはこころさんと、年代別代表でバッテリーを組んだことがありますよね」

曜「そうだね」

曜「凄く頭のいい選手で、助けられた記憶があるよ」

曜「ここあちゃんも代表とは縁がないけど、対戦したことは何度かある」

326: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 19:49:23.86 ID:zIxKwSRw0
曜「私は得意なタイプだけどね、ここあちゃんみたいな本格派」

善子「ちなみに苦手なタイプは?」

曜「梨子ちゃんみたいな球種の多いタイプ」

曜「なんか感覚が狂うんだ」



千歌「今年の音ノ木坂は、強いんだっけ」

ルビィ「はい」

ルビィ「昨年、冬の全国大会で優勝」

ルビィ「今年も夏と冬、それぞれ優勝候補の筆頭にあげられています」

327: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 19:50:10.88 ID:zIxKwSRw0
ルビィ「今年は、今の仕組みになってから10回目の記念大会」

ルビィ「音ノ木坂はそれに向けて、全国から選手をかき集めた世代です」

ルビィ「だから3年と2年には例年以上の戦力が整っています」


ルビィ「投手はここあさんと、130キロ台中盤の速球が武器の笠野さんの二枚看板」

ルビィ「野手も板本さんは日本代表候補」

ルビィ「さらに長崎選手や岡野選手、村田選手など、年代別代表候補クラスが揃っています」

ルビィ「その中でもこころさんは2年生ながらキャプテンにして、実質的に監督も兼任しています」

ルビィ「まさに司令塔であり、精神的主柱ですね」

千歌「精神的、シチュー?」

善子「意味、全然分かってなさそうね」

328: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 19:50:55.26 ID:zIxKwSRw0
千歌「ともかく、最強のチームってことでいいんだよね」

ルビィ「はい」

千歌「それならいい勝負をすれば、私たちもそれなりのレベルってことでしょ」

ルビィ「たぶん、そうなりますね」


千歌「じゃあ目標は、コールド回避とか?」

花丸「確かにその辺りが無難かも」


千歌「確か5~6回で10点、7~8回だと7点だったっけ」

千歌「ひとまず、それは回避できるぐらいに抑えて――」

329: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 19:51:23.26 ID:zIxKwSRw0
曜「駄目だよ!」

千歌「曜ちゃん?」

曜「最初から負けるつもりで挑むなんて、絶対に」


曜「勝つんだよ」

曜「どんな相手だとしても、勝つつもりで挑まないと!」


ルビィ「そ、そうですよ」

ルビィ「最初から諦めるなんて駄目です!」

ルビィ「あれ、でも音ノ木坂に勝つ、想像したら――」バタン

花丸「る、ルビィちゃん、試合前に気絶はマズいずら!」

330: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 19:51:51.55 ID:zIxKwSRw0
千歌「で、でもそうだよね」

千歌「勝つ気でいかなきゃだよね!」

曜「その意気だよ!」


曜「私はどんな相手にも負けたくない」

曜「エリート集団でも同じ高校生なんだ、きっと勝てる」

曜「勝てる、はずなんだよ!」


千歌「よーし、じゃあ皆行くよ!」

全員「「「おー!」」」

331: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 19:54:33.33 ID:zIxKwSRw0
―――――


こころ「板本さん、梨子さんの様子はどうでした?」

板本「それなりに元気そうだった」

板本「まあ、私が余計ないことを言って落ち込ませちまったかもだけど」

ここあ「相変わらず、口が悪いなぁ~」

板本「うっさい。今は敵同士だ、それぐらいでいいんだよ」

ここあ「まあな……」

332: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 19:58:12.70 ID:zIxKwSRw0
こころ「しかし、ずいぶんと元気があるチームですね」

こころ「普通、うちとやる前はガチガチになっているチームが多いのに」

板本「初心者も混じっているようなチームだからな」

板本「現実を理解していない奴が多いんじゃないか」

ここあ「あー、なるほど」

ここあ「それだと、なんか可哀想な気もするな」

板本「まあまあ、程々にやろうぜ」

板本「相手は病気持ちの梨子だ」

板本「現状ではまだ、まともな球を投げられてないまま。恐れることはないさ」

ここあ「だな」

こころ「……」

333: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 19:59:24.70 ID:zIxKwSRw0
〔春季女子野球大会 グループA初戦〕


【浦の星女学院『Aqours』(先攻)VS音ノ木坂学院『μ's』(後攻)】


 先発メンバー

Aqours
1:中・善子
2:遊・曜
3:投・梨子
4:捕・千歌
5:右・よしみ
6:左・いつき
7:三・むつ
8:一・花丸
9:ニ・ルビィ


μ’s
1:中・長崎    
2:捕・矢澤こころ 
3:遊・板本    
4:一・岡野    
5:左・ぺゲロ   
6:三・村田    
7:投・矢澤ここあ 
8:ニ・吉田    
9:右・立本   

334: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 21:15:38.70 ID:zIxKwSRw0
【1回表】 Aqours0-0μ's


『1番センター津島さん』


善子(ちゃんとウグイス嬢付きなのは凄いわね……)


善子(さて、初回)

善子(いつもより多いお客さん)

善子(ルビィじゃなくても緊張するわ)

善子(そもそも、実質初めての公式戦)

善子(簡単に凡退は嫌ね)


ここあ「……」シュッ

 ストライク!

335: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 21:58:20.04 ID:zIxKwSRw0
善子「うわっ」

善子(インコースいっぱい)

善子(ヤバい、こんなの打てないわよ……)


 ストライク!


善子(今度は外)

善子(駄目だ、混乱してる)

善子(せめて次、振らないと――)


ここあ「ふっ!」シュッ

善子「えっ、ぶつか――」


 ククッ――パシッ

 ストライク、バッターアウト!


善子「す、スライダー……」

こころ「ワンナウト!」

336: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 21:59:00.77 ID:zIxKwSRw0
曜「ドンマイ、善子ちゃん」

善子「洒落にならないわよ、あれ」

善子「ストレートとほとんど変わらない球速なのに、鋭く曲がってくる」

曜「あー、そうだったね」


善子「なんか余裕っぽいけど、打てるの、あれ」

曜「任せて」

曜「とりあえず、軽く打ってくるよ!」

善子(か、カッコいい!)

337: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 21:59:57.66 ID:zIxKwSRw0
『2番ショート渡辺さん』


曜(実際、球速に差がないここあちゃんみたいなタイプは得意なんだよね)

曜(割と本能のままに振っても打てちゃうし)

曜(偉そうなことを言った手前、しっかり打たないと)


曜「よし、こい!」


こころ「……」スッ

曜(え、こころちゃん外に構えて――)


 ボール


曜(次は……)


 ボール


千歌「もしかして、敬遠?」

花丸「で、でも1アウトランナー無しだよ」


 ボール


善子「そ、そうよ。別にはっきりと外してるわけじゃないし――」


 ボールフォア!


曜「えー、つまんない」

338: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 22:00:26.23 ID:zIxKwSRw0
こころ(曜さん? まともに勝負するわけないでしょ)


 ザワザワ


こころ(ざわつく会場、でも知ったこっちゃない)

こころ(私たちは常に勝ちを義務付けられたチーム)

こころ(一度負けただけで、大きな批判にさらされる)

こころ(それなのになぜ、勝負しなければならないんですか)

こころ(Aqoursの中で、『唯一』打たれる可能性がある選手と)

こころ(彼女にさえ打たれなければ、『確実』に勝利できる試合なのに)

339: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 22:01:05.75 ID:zIxKwSRw0
『3番ピッチャー桜内さん』


曜(次は梨子ちゃん、私が走ってしまえばヒット1本で先制)


梨子(大丈夫、私は大丈夫……)


曜(でもあの様子だと、無理か)


 バッターアウト!

曜(初見じゃ、千歌ちゃんも)


 バッターアウト!

千歌「くぅ~、ちっちゃいのあんなに凄い球を」


こころ「ここあ、ナイスピッチ」

ここあ「渡辺曜とも勝負したかったんだけど」

こころ「それは点差がついてからね」

ここあ「なら大丈夫か」

ここあ「梨子が相手なら、すぐにKOできるだろうし」


曜(……マズいかも、この試合)

340: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 22:22:05.73 ID:zIxKwSRw0
【1回裏】 Aqours0-0μ’s


 キンッ


梨子「あっ」


ここあ「よし、先頭出た!」

板本「やっぱりあいつはチョロいな」


梨子「……」ザッザッ

千歌(梨子ちゃん、ブルペンから全然球が来てないよ)

千歌(やっぱり緊張してるのかな)

341: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 22:22:52.20 ID:zIxKwSRw0
『2番キャッチャー矢澤こころさん』


こころ「お願いします」ニコッ

千歌「あっ、はい」


千歌(流石妹さん、笑った姿が映像で見たにこさんにそっくり)

千歌(でもプレースタイルまで似ていたら嫌だな)

千歌(にこさんは相手の嫌がる打撃が得意そうだったもん)

千歌(打順も同じ2番だし、怖いなぁ)


千歌(とりあえず、外にストレートで――)

梨子『コクッ』

342: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 22:24:34.33 ID:zIxKwSRw0
梨子「一・三塁……」


『3番ショート板本さん』

板本「いやー、いきなりチャンスじゃん」



千歌「た、タイムお願いします」


千歌「ごめん梨子ちゃん」

千歌「牽制もなしに、軽率だった」

梨子「ううん、謝らないで」

梨子「私の方こそ、ぼんやりと投げちゃって」

千歌「でも次はムカつくあの人だよ」

千歌「しっかり押さえていこう」

梨子「……ええ」

343: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 22:28:07.70 ID:zIxKwSRw0
千歌(どうせこの手のタイプは口だけなんだ)

千歌(1点は仕方ない、低めの変化球をひっかけさせてゲッツーを狙おう)


 シュッ


曜(今の調子だったら、無理に勝負は避けた方がいいかも)

曜(板ちゃんは、天才だからなぁ)



千歌「よし、いいところ――」


 カキーン!


千歌「あ、あんな難しいコースをセンターオーバー……」

曜「いっちゃん!」


いつき「あ、あわわ」


  セーフ!

344: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 22:31:55.43 ID:zIxKwSRw0
曜「ツーベース……」

板本「いきなり2打点は美味しいねぇ」

板本「やっぱりあいつはバッピだわ」


曜「相変わらず、上手いね」

板本「あの球じゃ当然よ」

板本「早く交代しろよ、曜」

曜「……」


 ボールフォア!


千歌「うぅ」

梨子「っ」

345: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 22:32:25.56 ID:zIxKwSRw0
板本「あの様子じゃ、アウトを取るのも難しそうだぜ」

曜「ううん、まだ早いよ」

曜「梨子ちゃんはそんな簡単に折れる子じゃない」

曜「板ちゃんも、知ってるでしょ」

板本「……まあな」



 バッターアウト!

梨子「よしっ」

千歌「ナイス梨子ちゃん!」

千歌(このぺゲロさんはインコースが明確な弱点で良かった)

千歌(梨子ちゃんみたいに制球重視のタイプには、いいカモだよね)

346: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 22:32:52.03 ID:zIxKwSRw0
『6番サード村田さん』


村田「こいっ」


千歌(そして次の村田さんも)

梨子「えいっ」シュッ


村田「!」カキーン


千歌「あっ」

千歌(そんなに甘くはない――)


ルビィ「うゅ!」バッ――パシッ

板本「捕った!?」

347: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 22:35:58.32 ID:zIxKwSRw0
ルビィ「曜さん!」シュッ

曜「ナイス」パシッ――アウト!

曜「花丸ちゃん!」シュッ

花丸「ずら!」パシッ


 アウト!


板本「マジかよ、ゲッツーとか」

梨子「ナイスルビィちゃん!」

千歌「凄いよ! ファインプレー!」バシバシ

ルビィ「い、痛いよ千歌ちゃん」

348: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 22:36:31.30 ID:zIxKwSRw0
善子「いつもの緊張はどこへ行ったのよ、もう!」

ルビィ「な、一週回って緊張が解けたっていうか」

花丸「流石ルビィちゃんずら!」


板本「ファインプレーじゃん、やるね~」

ルビィ「ピギッ――あ、ありがとうござます」


梨子「でも助かったわ、本当に」

千歌「うん、おかげで守備は何とかなりそうだね」


ここあ「あーあ、2点だけかぁ」

こころ「初回だから、仕方ないですよ」


曜「あとは、攻撃さえ何とかできれば」

349: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 22:48:16.22 ID:zIxKwSRw0
【4回表】 Aqours0-3μ’s


千歌(試合は進む)

千歌(相変わらず攻撃は絶望的)

千歌(誰一人、まともにバットがボールに当たっていない状態)

千歌(守備は梨子ちゃんが大量のランナーを出しながらも粘りのピッチング)

千歌(曜ちゃんとルビィちゃん、善子ちゃんの3人の好守にも助けられて何とか抑えているけど――)


 ボールフォア!

曜「またか――もうっ!」

350: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 22:51:07.13 ID:zIxKwSRw0
善子「曜さん、また四球……」

ルビィ「今までの練習試合、曜さんの打点がチームの7割近いのに……」

花丸「でもこの後の2人は期待できるずら」


曜(今日の梨子ちゃんは打撃どころじゃない)

曜(点を取るなら、私が無理やりでも三塁へ行かないと)

曜(でも相手は矢澤姉妹、盗塁阻止率は驚異的な高さ)


こころ「ふふっ」

曜「むっ」

曜(挑発的な目)

曜(走れるものなら走ってみろと、喧嘩を売られているみたい)

曜(やってやろうじゃないか――)

351: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 22:53:01.19 ID:zIxKwSRw0
ここあ「――」グッ


曜「いける!」ババッ


こころ「!」パシッ――シュッ


 アウト!


曜「あー、駄目かぁ」

板本「ははっ、ごくろーさん」


ここあ「ナイスこころ!」

こころ「ここあも、いいクイックだったわよ」

こころ(私の送球もほぼ完ぺき)

こころ(それなのにギリギリだった辺り、相変わらず恐ろしい走力ね)

352: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 22:54:02.65 ID:zIxKwSRw0
【4回裏】 Aqours0-3μ’s


千歌(後続の私と梨子ちゃんは凡退で、結果的に三者凡退)

千歌(流れが、悪いな)


花丸「あれ」

ルビィ「音ノ木坂が円陣を組んでる」

曜「この状況で?」

353: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 22:58:25.50 ID:zIxKwSRw0
こころ「板本さん」

板本「な、なんだよ」


こころ「あなたは試合前、梨子さんのことをバッピと馬鹿にしましたね」

こころ「しかし現状の得点は、平均すると1イニング1点ずつ」

こころ「ありえない得点数です」

こころ「本当にバッティングピッチャーを相手にしているなら」

板本「いやいや、私は打ってるんだからいいだろ」

こころ「はいっ?」


音ノ木坂ナイン『ビクッ』


こころ「そういう問題ではありません」

こころ「あなたのそのような態度が、チーム内に不要な空気を蔓延させているのです」

354: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 23:45:58.05 ID:zIxKwSRw0
こころ「もちろん、私にも油断がありました」

こころ「忘れてはいけません」

こころ「彼女は本来、私たちが確実に夏冬連覇をするために、3本柱の一角を担う予定だった人」


こころ「ここからは、本気です」

こころ「一流の投手を相手にする意識で、彼女を叩き潰します」

板本「……おう」


こころ「ではいきますよ」

こころ「μ's、Baseball――」

音ノ木坂ナイン「「「スタート!」」」

355: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 23:46:23.55 ID:zIxKwSRw0
『1番センター長崎さん』


長崎「よっしゃ!」


梨子『ビクッ』

ルビィ「ピギッ」


千歌(さ、さっきまでと全然雰囲気が違う)

千歌(ど、どうしよう。何を投げても打たれそうな雰囲気だよ)


梨子「っ」シュッ

長崎「いただき!」カキーン!

曜「センター!」

千歌「善子ちゃん!」

356: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 23:47:45.76 ID:zIxKwSRw0
善子「くっくっくっ、堕天キャッチ!」パシッ


 アウト!


ルビィ「ナイス善子ちゃん!」

花丸「変な言葉は余計だけどね」


千歌「た、助かった」

千歌(当たりは凄く良かったけど、守備範囲だった……)


長崎「すまん」

こころ「いえ、今のは運がなかっただけです」

こころ「とてもいい打撃でしたよ」

357: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 23:48:18.72 ID:zIxKwSRw0
『2番キャッチャー矢澤こころさん』


こころ「……」グッ


梨子「っ」ゾクッ

梨子(嫌な予感がする)

梨子(でも逃げられない、マウンドに立っている以上)


梨子「えいっ」シュッ


こころ(打ちごろ!)

こころ「ふっ」カキーン


花丸「ずらっ」

千歌「一塁線――抜かれた!」

358: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/14(火) 23:48:46.10 ID:zIxKwSRw0
ルビィ「よしみさん、早く!」

よしこ「ちょ、ちょっと待って」


こころ(これは行ける!)


千歌「ヤバいよ、三塁打――って三塁蹴った!」

曜「バックホーム急いで!」


 セーフ!


千歌「ランニングホームラン……」



板本「こころ、ナイスラン!」

こころ「一塁方向は穴です」

こころ「ファーストは素人同然、ライトもそれに近い」

こころ「しっかり狙っていきましょう」

板本「了解!」

359: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 02:41:46.84 ID:xW2a4sCp0
 キン!



曜「花丸ちゃん!」

花丸「と、捕れないよ、こんなの――」

よしみ「またこっち来たの!?」


千歌「サード、急いで!」

ルビィ「駄目、間に合わないっ」


 セーフ!


梨子「くっ」

千歌「今度は三塁打……」

360: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 02:42:22.97 ID:xW2a4sCp0
『4番ファースト岡野さん』


 カキーン!


梨子「!」

千歌「ヤバッ」

曜「でも風に押し戻されて――」


善子「くっ」パシッ

 アウト!


ここあ「あー、ついてない」

こころ「でも、犠飛に十分ね」


千歌「5対0……」

361: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 02:43:24.66 ID:xW2a4sCp0
板本「センターの変な奴、上手いな」

こころ「そうですね、センターラインはよく守れています」

こころ「流石に渡辺さんのチーム」

こころ「いくら寄せ集めでも、重要な部分はしっかり埋めていますね」

こころ「狙うならはっきりと、左右どちらかを狙うべきでしょう」


ぺゲロ「ヨクワカラン、テキトウ二ウツヨ?」

こころ「……あなたはそれでいいです」

板本「得意のランナー無しの場面だしな」

362: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 02:43:51.56 ID:xW2a4sCp0
『5番レフト・ぺゲロさん』


千歌(留学生、一発が怖い打者)

千歌(でもこの人は内角、内角に投げれば何とかなる)


 シュッ


千歌(少し甘い――でもこれぐらいなら)


 カッキ―――ン!


千歌「えっ」


善子「……追うまでもないわね」

ルビィ「特大の、ホームラン……」

363: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 02:44:24.92 ID:xW2a4sCp0
梨子「あ、ぁぁ」ガクッ


曜(6対0)

曜(冷静な梨子ちゃんが、あんなに取り乱してる)


千歌「た、タイム!」


千歌「り、梨子ちゃん」

梨子「……」

曜「駄目だ、交代しよう」

千歌「で、でも、いつもは5回か6回で交代なのに」

曜「これ以上失点したら、試合が壊れる」

千歌「だけど梨子ちゃんは、音ノ木坂を見返すって……」

364: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 02:45:14.78 ID:xW2a4sCp0
曜「もう無理だよ、梨子ちゃんの為にもならない」

曜「まだリベンジには早かったんだ、これ以上は傷を抉るだけ」

曜「もしイップスが再発したりしたら、目も当てられないよ」


花丸「ずら……」

ルビィ「うゅ……」


むつ「そ、そうだよ、とりあえず曜に交代しよう」

むつ「リベンジする機会は、またあるって」


千歌「……分かった」

曜「梨子ちゃん、交代!」

梨子「……うん」

365: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 02:46:03.83 ID:xW2a4sCp0
【選手交代】
 
【曜:遊→投】
【梨子:投→左】
【いつき:左→中】
【善子:中→遊】



ここあ「お、投手交代っぽいね」

板本「ようやく曜に代わったか」

板本「相変わらずバッピにもならないな、梨子は」

こころ「板本さん、その言い方は反感を買いますよ」

板本「でも否定はできないだろ」

こころ「……そうですね」

366: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 02:47:14.07 ID:xW2a4sCp0
ここあ「曜ってどんなスペックだっけ」

ここあ「あたし、打者として対戦したことないから分かんないんだけど」


こころ「とにかく力で押してくるパワーピッチャー」

こころ「球速は130キロ台、伸びのある質の高いストレート」

こころ「本人は好きじゃないみたいだけど、縦に大きく割れるカーブも素晴らしいです」

こころ「私たちみたいに体格もパワーもないタイプだと、打つのは厳しい」

ここあ「諦めるの早いな」

367: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 02:47:40.71 ID:xW2a4sCp0
 バンッ


ここあ「でも確かに、速い」

こころ「まあ点差も十分についたし、ここあは交代しましょう」

こころ「他のメンバーもベンチ入りしてる1・2年生に交代」

こころ「好投手との実戦経験を積む貴重な機会です」

こころ「投手を笠野さんにしておけば、まず問題は起こらないでしょうから」


ここあ「えー、私も打ちたいんだけど!」

こころ「駄目よ、あの人の場合、デッドボールもあるから」

ここあ「えっ、あの球速でノーコンなの?」

こころ「ええ」

こころ「しかも投手相手でも、平然とインコースに投げ込んでくるわ」

ここあ「わ、私怖いからパス」

368: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 02:48:50.81 ID:xW2a4sCp0
笠野「面倒だなぁ、投げるの」

こころ「文句言ってないで、準備してください」

こころ「ベンチにいても、プロ野球の結果を予想して遊んでるだけでしょ」

笠野「はーい、りょーかい」


板本「私はそのままでいいよな」

板本「曜と対戦できないのは勘弁だぞ」

こころ「ええ」

こころ「私と板本さんはそのまま出ましょう」

こころ「念のための保険にもなります」

こころ「控えメンバーでは、渡辺さんからの得点は難しいかもしれませんから」

369: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 02:51:09.34 ID:xW2a4sCp0
【7回表】 Aqours0-6μ’s


千歌(何とかコールドを回避しながら試合は進む)

千歌(曜ちゃんはランナーを出しながらも、下級生主体の音ノ木坂を0に抑えている)

千歌(でも攻撃は、相変わらずヒットすら出ない)

千歌(代わった笠野さんは、ほぼストレートのみながら圧倒的な投球で――)



曜(また敬遠臭いけど、完全に外されてはいない)

曜(ボール球でも無理やり食らいつけば)ブンッ

 バッターアウト!


曜「ああ、駄目かぁ」


こころ(渡辺さん、いい選手だけど相変わらず荒いわね)

370: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 02:51:35.48 ID:xW2a4sCp0
『3番レフト桜内さん』


梨子「くっ」

 カツン


花丸「あ、当たった!」

善子「しかも転がったの三遊間深いところよ!」

ルビィ「梨子さん走って!」


板本「よっこら――しょ!」パシッ――シュッ

 アウト!


善子「う、上手い……」

ルビィ「あれをアウトにするなんて……」

371: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 02:52:11.15 ID:xW2a4sCp0
『4番キャッチャー高海さん』


笠野「おら!」ビュッ


 ストライク!


千歌「球速――135キロ!?」

千歌(こ、こんなの打てないよ)

千歌(で、でも何とか当てないと)

千歌(バットを短く持って、コンパクトに)ビュッ

 ガン


こころ「オーライ!」パシッ

 アウト!

372: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 02:52:47.11 ID:xW2a4sCp0
笠野「よっしゃ!」

板本「ナイスピッチ!」

こころ(態度は悪いけど抑えるんですよね、この人)


千歌「キャッチャーフライ……」

千歌(手が痺れてる)

千歌(当たったけど、ボールは見えていないほぼマグレ当たり)

千歌(この人、本当に控えなの)

千歌(今すぐプロに入っても通用しそうな球を投げてるのに)

千歌(無理だよ、こんなの……)

373: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:17:07.34 ID:xW2a4sCp0
【8回裏】 Aqours0-6μ’s


千歌(先頭にフォアボールで無死ランナー1塁)

千歌(ここでバッターは――)


こころ(結局、もう8回)

こころ(今日の渡辺さんは調子が良いとはいえ、流石に1点も取れないのは想定外)

こころ(選手を入れ替えすぎました、反省です)

こころ(けど流石にそろそろ、試合を決めたいですね)

374: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:18:44.28 ID:xW2a4sCp0
千歌(また仕掛けられたら嫌だな)

千歌(慎重に入りたいけど、曜ちゃんのことだから――)


曜(ストレ――――ト!)シュッ


こころ「くっ」キン

曜「よし、ゲッツーコース!」


善子「ルビィ!」パシッ――シュッ

 アウト!


ルビィ「マルちゃん!」シュッ

 ガッ


花丸「あっ、バウンドして」ポロッ

 セーフ!

375: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:19:21.67 ID:xW2a4sCp0
こころ「た、助かった……」

こころ(やはり渡辺さんとは相性が悪い)


ルビィ「ご、ごめんなさい」

花丸「ち、違うよ」

花丸「今のは、普通のバウンドを捕れなかったマルのせいだから」


曜「2人とも気にしないで!」

曜「この後しっかりお願いね!」

ルビまる「「は、はい!」」

376: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:19:54.42 ID:xW2a4sCp0
『3番ショート板本さん』


曜(ランナー置いて、板ちゃんか)

曜(嫌な状況だな)



板本(1打席目、ストレートを捉えられずに三振)

板本(でも野手視点では、2打席目で打てれば勝ったようなものだ)

板本「今度は打つ!」


曜「させるか!」シュッ


板本(いける!)カキーン


曜「!」

千歌「あー、綺麗にセンター前」

377: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:20:31.49 ID:xW2a4sCp0
曜「くそっ」

曜(これで1・2塁)

曜(でもここからは、控えの1年生)



『四番ファースト大井さん』


曜(このクラス、三振は取れなくても抑えるだけなら――)

 キン


曜「げっ」

千歌「ファーストにボテボテのゴロ――」


花丸「え、えっと」パシッ

千歌「ベースカバーの曜ちゃんに!」


曜「花丸ちゃん!」

花丸「は、はい!」

 フワッ


千歌「マズい、送球逸れて――」

曜「おっ――とと」タタッ――パシッ

 セーフ!

378: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:25:55.39 ID:xW2a4sCp0
曜「また、えらい方向にボールを……」

花丸「ご、ごめんなさい」

曜「ドンマイ、大丈夫」


曜(けどあと1点でコールドの場面で満塁……)

曜(四死球が許されないのは、ちょっときついな)



『5番レフト石田さん』


曜(こうなったら、思い切り真ん中に投げ込むしかない!)シュッ


 カキーン!


千歌「ピッチャー返し――」

379: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:26:40.23 ID:xW2a4sCp0
曜「!」パシッ

 アウト!

曜「花丸ちゃん!」シュッ

花丸「ず、ずらっ」パシッ


 アウト!


板本「馬鹿、なんでこの場面で飛び出してんだよ……」

こころ(後で説教ですね……)

ここあ「こ、こころ、何か怖いぞ」

笠野「ちっ、1イニング余計に仕事増えたか」

380: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:27:20.53 ID:xW2a4sCp0
曜「はぁ、助かった」

千歌「曜ちゃん、ナイスキャッチ!」

花丸「す、すいません、助かりました……」

曜「いやいや、花丸ちゃんもとっさの送球をよく捕ったね」


千歌(とりあえずコールドは回避できた)

千歌(あとは――)


曜「このままだとノーヒットノーランだよ!」

ルビィ「そそそ、そうですね」

千歌(1本でもヒットを打たなきゃ)

千歌(そして1点でも返さなきゃ)


曜「とにかくランナーを貯めて私に回して」

曜「試合の大勢は決まった状況、きっと勝負してくるはずだから」

曜「1点でも返せればきっと投手は動揺する」

曜「6点差なんだ、そうすればまだ試合も分からないよ!」

全員「「「おお!」」」

381: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:27:49.73 ID:xW2a4sCp0
【9回表】 Aqours0-6μ’s


花丸(とは言ったものの、これは流石にマルにはちょっと――)

 バッターアウト!


いつき「あ、あっさり三球三振」

むつ「あれは仕方ないよ」

よしみ「私たちと花丸ちゃん、1回もバットに当たってないもんね……」

382: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:28:20.33 ID:xW2a4sCp0
ルビィ「ま、マルちゃ~ん」ブルブル

花丸「る、ルビィちゃん、落ち着いて」

花丸「平常心なら、何とかなるはずだから」

ルビィ「で、でもぉ」



『9番セカンド黒澤さん』


ルビィ「ぴ、ぴぃ」

笠野(投げにくいなぁ、この手のタイプは)

笠野(弱い者いじめしてるみたいで嫌なんだよ……)


 ボール ボール ボール ボールフォア!


笠野「ほらぁ」

383: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:30:55.46 ID:xW2a4sCp0
花丸「ルビィちゃん出た!」

曜「よし!」

千歌「これであとは善子ちゃんも出れば……」



『1番ショート津島さん』


善子「くっくっくっ、あなたも私の魔力の前には子ども同然のようね!」

笠野「はっ?」

笠野(お前は関係ねーよ。雑魚の癖に――)シュッ

善子「グェッ」ドスッ

笠野「あ」

笠野(ムカついて、つい力が)

384: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:32:29.06 ID:xW2a4sCp0
花丸「出た! 善子ちゃん得意の身体を張った出塁!」

千歌「こ、今回に限ればナイスだよ!」


千歌(これでバッターは曜ちゃん!)

千歌(曜ちゃんなら打ってくれる!)

千歌(初ヒットも初得点も――)



『2番ピッチャー渡辺さん』


曜(キタキタ!)

曜(笠野さんは短気な性格)

曜(ただでさえ荒れ球傾向にあるんだ)

曜(ここでノーヒットノーランと完封を同時に打ち破れば、まだ分からない――)


こころ「……」スッ


曜「えっ」

385: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:32:54.71 ID:xW2a4sCp0
よしみ「きゃ、キャッチャーが外に構えて……」

いつき「この状況で」

むつ「いや、まさか」


曜「な、なんでさ!」


こころ(ごめんなさい)

こころ(本当は勝負させたい気持ちもある)

こころ(けどノーヒットノーランがかかった状況)

こころ(創部間もない相手にコールドを逃した)

こころ(その事実で批判されることを避けるには、ノーノ―しか考えられない)


 ボールフォア!

386: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:33:26.05 ID:xW2a4sCp0
曜「梨子ちゃん! 千歌ちゃん! あとは任せたよ!」

梨子「う、うん」

千歌「任せて!」


こころ(梨子さんはともかく、高海さんは流石主将、凄い気合いの入り方)

こころ(でもね、世の中は残酷なんですよ)


 バッターアウト!

梨子「やっぱり私には……」



 バッターアウト!

千歌「あ、当たらない……」



こころ「生まれ持った才能と長期間の努力で築かれた壁は、簡単には超えられないんです」




【試合終了】 Aqours0-6μ’s

387: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:35:21.58 ID:xW2a4sCp0
 ―宿舎―


千歌「みんな、お疲れ様」

曜「うん」

善子「ええ」

花丸「ずら……」

梨子「……」


千歌(空気が重いな……)

388: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:35:49.38 ID:xW2a4sCp0
ルビィ「すぅすぅ」

善子「ルビィ、この状況でよく眠れるわね」

花丸「ずっと緊張しっぱなしで疲れたんだよ」

花丸「メンタル面を考えれば、よく最後までプレーしてたよ」


善子「あんたも大変でしょ」

善子「移動中ずっと、ルビィをおぶってたじゃない」

花丸「これぐらい、たいしたことないよ」

花丸「今日だけで3エラーに3三振」

花丸「せめてこれぐらいはしないと、逆にいたたまれないよ」

善子「花丸……」

389: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:38:20.08 ID:xW2a4sCp0
梨子「ごめん、ごめんね、みんな」

梨子「私が、ちゃんと投げてれば」

梨子「ううん、そうじゃない」

梨子「変な意地を張らずに、最初から曜ちゃんに先発をお願いしてれば……」


曜「関係ないよ」

曜「私だって、レギュラー相手に投げてたら失点してたと思う」

梨子「違うよ、私のせい」

梨子「バッティングピッチャー同然の私が、全部悪いの」

千歌「梨子ちゃん……」

390: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:39:01.21 ID:xW2a4sCp0
千歌(無理もない)

千歌(あんなに気合いを入れていた音の木坂との試合だったのに)

千歌(何もできず、あっさりとKOされて)


千歌(連勝で浮かれていたけど、思い知らされた)

千歌(私たちは所詮、曜ちゃんに依存したチームだと)

千歌(彼女の存在がなければ、どうしようもないと)


千歌(かろうじて通用していたのは、投手以外ではルビィちゃんと善子ちゃんだけ)

千歌(その2人だって、相手に比べれば圧倒的に劣ってる)

千歌(最強と言われるチーム相手にいい勝負をするなんて考えは、都合が良すぎたんだ)


千歌(だけど、気にし過ぎちゃ駄目)

千歌(とにかく今は、この空気を何とかしないと)

391: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:39:28.06 ID:xW2a4sCp0
千歌「……今は、一生懸命やることが大事だよ」

千歌「最初はみんなこんなもの」

千歌「私たちは小さい頃から、野球に全てを賭けてきたわけじゃない」

千歌「初心者もたくさんいるチームなんだよ」

千歌「勝敗なんて気にせず、何事も経験」

千歌「せっかく大舞台に上がれたんだよ、みんなで楽しまなきゃ」


善子「いや、でもそれは」

曜「千歌ちゃん――」



こころ「すみません、浦の星女学院のみなさんですよね」

392: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:40:33.33 ID:xW2a4sCp0
千歌「あ、あなたは」

梨子「こころちゃん……」


曜「……なにをしに来たのさ」

こころ「そんな冷たい態度取らないでくださいよ」

こころ「気持ちは理解できますが」

曜「最初からまともに勝負しないなんてあり得ないでしょ」

曜「強豪校の癖に」


こころ「仕方ないじゃないですか」

こころ「プレッシャーなんですよ、毎試合」

こころ「真姫さんの世代まで圧倒的な強さを誇っていたせいで、周囲の期待値は異常に高い」

こころ「『音ノ木坂は勝って当たり前』なんて、平然と言われる始末」

こころ「にこお姉さまの妹である私たちに対しては、特に強く」

393: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:41:12.91 ID:xW2a4sCp0
千歌「だからって、あれは流石に」


こころ「所詮はテレビどころかネット中継もない大会ですから」

こころ「あの四球、別に立ち上がったわけでも極端に外したわけでもないですし」

こころ「状況を考えれば敬遠だと分かっても、確固たる証拠はありません」


こころ「ここあは年代別代表に入れないクラスの投手ですよ」

こころ「そんなあの子が、相性の悪い、世代を代表する選手と勝負」

こころ「長打を避けようとアウトコースを攻めた結果、慎重になり過ぎてフォアボールになった」

こころ「そんな言い訳も簡単に出来ます」


こころ「渡辺さんに打たれて失点し、早い段階でマウンドにも上がられて負ける」

こころ「そんな最悪のシナリオを考えれば、妥当な判断だと思いませんか」

394: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:42:06.56 ID:xW2a4sCp0
曜「……」

こころ「世の中、結構面倒なんですよ」

こころ「私たちが負けるだけではなく、少し苦戦しただけで鬼の首でも取ったかのように騒ぐ人がたくさんいる」


こころ「これがなかなかつらくて、その批判でメンタルを崩す選手もいます」

こころ「今回の件でも、多少は批判を受けるでしょう」

こころ「ですが、勝てばいいんです」

こころ「勝てば、結果を残せば、すべて正当化される」

こころ「勝手な外野を抑え込める」

こころ「それが野球でしょう、渡辺さん」


曜「……そうだね」

曜「それでも、納得したわけじゃないけど」

395: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:43:10.42 ID:xW2a4sCp0
こころ「でしょうね」

こころ「逆の立場なら、そう簡単に納得できる話ではありません」


こころ「けど渡辺さんなら分かるでしょう」

こころ「失敗が許されない厳しさを」

こころ「年代別代表で、嫌というほど経験してきたんですから」

曜「まあ、ね」


こころ「実際、そのプレッシャーに潰されてしまった選手も少なくありません」

こころ「本来エースを争うはずだった選手にも、その影響もあって部を辞めてしまった人がいました」

396: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:43:47.04 ID:xW2a4sCp0
千歌「それ……」


こころ「梨子さん、お久しぶりです」

梨子「うん、久しぶり」

こころ「投げられるようになったみたいでよかったです」

こころ「突然転校した後、心配していましたから」


梨子「ありがとう」

梨子「連絡もせずに、ごめんね」

こころ「いえ、気にしないでください」

こころ「イップスを悪化させ転校にまで至ったのは、私が助けになれなかったことが原因です」

こころ「むしろ私が謝らなければいけないぐらいですよ」

397: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:44:42.91 ID:xW2a4sCp0
梨子「謝るなんて、そんな」

こころ「……そうですね」

こころ「これ以上この話をしても、お互いに気をつかいあうだけで生産性はありません」

こころ「私がここへ来た理由でもある、本題に入りましょうか」

千歌「本題?」


曜「今日の試合について、皮肉を言いに来たんじゃないの」

こころ「違いますよ」

こころ「渡辺さんの中の私のイメージ、どうなってるんですか」

曜「そりゃ、性格が悪い人的な」


こころ「それは勝利を最優先にしなければならないプレー中だけです」

こころ「別にルールや倫理の範囲での行動だけで、反則とかはしないでしょう」

曜「確かに、ね」

398: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:45:18.73 ID:xW2a4sCp0
こころ「ともかく本題ですが」


こころ「梨子さん、イップスは完治したようですね」

こころ「昔と変わらない美しいフォーム、芸術性に溢れた投球」

こころ「今でも十分に一流選手でしょう――時間も一緒に止まっていれば」

梨子「時間も止まっていれば?」


こころ「今のあなたは入学時――中学生の全盛期と変わらない球を投げている」

こころ「逆に言えば、成長もしていないんですよ」

梨子「っ」


こころ「勿体ないです」

こころ「本来は高校で成長できるはずの時間が、イップスで止まってしまった」

399: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:46:33.56 ID:xW2a4sCp0
こころ「経験があることを考えれば、一流半に近いレベルの投球はできているかもしれません」

こころ「しかし中学時代は一流の投手でも、最も伸びる時期に成長せず、上で投げれば中の上程度の選手」

こころ「それは自分自身でも気づいていたでしょう」

梨子「……かも、しれないわね」



千歌「曜ちゃん、本当なの」ヒソヒソ

曜「うん」ヒソヒソ

曜「正直梨子ちゃんの球は、昔とほぼ変わっていない」ヒソヒソ

曜「下手をすれば、一番良かった時期より劣っているかもしれない」ヒソヒソ

400: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:47:11.03 ID:xW2a4sCp0
こころ「だけど、あまり気にすることはないと思うんです」

梨子「えっ」


こころ「梨子さんの場合、トレーニングなどを怠っていたわけではないはずです」

こころ「身体と頭のイメージや、力の出し方の点で問題があるだけ」

こころ「今日私たち相手に通用しなかったのも、それが原因です」


こころ「特に球速、今どき120も出ないようでは強豪校には通用しません」

こころ「まずはゆっくり、高校仕様の投球を出来るようになることを目指すべきです」

こころ「少なくとも体格的には、私よりだいぶ恵まれています」

こころ「きちんと感覚を修正すれば、高校レベルでも一流の投手になれるはずです」

梨子「こころちゃん……」

401: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:47:58.99 ID:xW2a4sCp0
こころ「今、試合で投げるのは逆効果になるかもしれません」

こころ「ひとまず、そちらは渡辺さんに任せればいいと思います」

こころ「彼女なら1試合、問題なく投げきれますから」


こころ「言い方は悪いですけど、その方が良い結果が出ることは間違いありません」

梨子「……そこをはっきり言われると、少し傷つくかも」

こころ「すみません、嘘がつけない性格なので」

梨子「ふふっ、変わってないのね」



千歌「あの、矢澤さん?」

こころ「こころかこころちゃんでいいですよ」

こころ「基本的にみんな、そう呼ぶんで」

402: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:48:33.01 ID:xW2a4sCp0
千歌「じゃあ、こころちゃん」

千歌「本題って、梨子ちゃんを励ましに来たってこと?」


こころ「はい、そうですよ」

曜「なんで梨子ちゃんを助けに来たの」

こころ「私だって本意じゃないんですよ」

こころ「かつての仲間の心の傷を抉ることなんて」


こころ「試合中の様子がおかしかったので、気になっていたんです」

こころ「実際、今も酷く落ち込んでいましたし」

こころ「そんな姿を見たら、居ても立っても居られないでしょう」

曜「こころちゃん……」

403: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:49:29.42 ID:xW2a4sCp0
こころ「他の皆さんにも言えることですが、今日の試合は落ち込むような内容ではないですよ」

こころ「調べても、過去のデータがあるのは梨子さんと渡辺さんのみ」

こころ「そう考えれば、仕方のない部分はあります」


こころ「試合後では皮肉に聞こえてしまうかもしれませんが、皆さんはいいチームでした」

こころ「特に津島さんと黒澤さん」

こころ「あなた方2人には、ずいぶんやられてしまいましたね」

善子「ふぇ」


こころ「実は津島さんの存在は、以前から少し知っていました」

こころ「ネットで時々、動画や生放送を観ていまして」

こころ「独特の野球論、とても勉強になります」

404: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:50:08.01 ID:xW2a4sCp0
善子「そ、そう」

千歌「善子ちゃん、こころちゃんに知られてるなんて凄いね!」


こころ「世間的にはあまり知られていませんが、毎回なかなか興味深い内容なんですよ」

こころ「最近新作が上がらないのは、本格的に野球を再開したからだったんですね」

こころ「実際プレーの質も、1年生とは思えない内容でした、流石です」


善子「ま、まあ、私レベルになると当然よね」

花丸「あはは、分かりやすく嬉しそうだね」

善子「……嬉しくないわけないでしょ」

405: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:50:52.69 ID:xW2a4sCp0
こころ「しかしそれ以上に驚いたのは黒澤さんです」

こころ「初回や、それ以降の見事な守備」

こころ「粗さやプレーの波は見られますが、むしろそこに将来性を感じる」


こころ「どこに隠していたんですか、こんな子」

こころ「狭い女子野球の世界、全く無名だったのは信じられません」

花丸「それはちょっと、複雑な事情があって」


こころ「いいですよ、そこまで深入りはしません」

こころ「悪い子でないのは、今の無邪気な寝顔を見ればわかります」

こころ「素行に問題があるとか、突然現れた天才であるとか、そんな類の話でないのも」

406: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:51:29.38 ID:xW2a4sCp0
こころ「黒澤さんが本当に野球を好きで努力を重ねてきたのは、プレーと――」スッ

ルビィ「ぅゅ」スヤスヤ

こころ「この可愛らしい見た目に反した、ゴツゴツの手を見れば分かります」


こころ「日ごろから相当振り込んでいるのでしょう」

こころ「体格的に恵まれない者同士の親近感もあります」

こころ「この子は応援したくなりますよ、本当に」ナデナデ


千歌「なんか、お姉さんみたいだね」

曜「……こころちゃんの方が、ルビィちゃんよりちっちゃいけどね」

こころ「い、言わないでください」

こころ「これでも結構気にしてるんですから」

407: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:52:12.92 ID:xW2a4sCp0
曜「あっ、そうだよね、ごめん」

こころ「いえ、渡辺さんに悪気がないのは分かりますし、よくあることです」


こころ「私はとっくに割り切れています」

こころ「ここあは未だに足掻いていますがね」

こころ「あの体格で投手は限界があると何度言っても、聞き分けがなくて」


花丸「体格……」

こころ「ごめんなさい、国木田さんと黒澤さんも気になる問題でしたね」

こころ「でもあなたたちは大丈夫ですよ」

こころ「まだまだ身長も伸びそうですし、体質的にパワーも付きそうです」

こころ「黒澤さんもそう、少なくとも現時点でさえ、私より体格はあるんですから」

こころ「まだ1年生、きちんと努力すれば相応に上手くなれますよ」

花丸「は、はい」

408: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 04:53:03.32 ID:xW2a4sCp0
こころ「では私はそろそろ帰ります」

こころ「早く戻らないと、お姉さまたちに心配されてしまうので」

千歌「あっ、はい」


梨子「色々ありがとう、こころちゃん」

こころ「いえ、私の方こそ」

こころ「明日試合があるのに付き合っていただけて、ありがたかったです」

こころ「相手が聖泉女子なので苦労するとは思いますが、健闘を祈っています」

千歌「うん、ありがとう」



こころ「渡辺さん、期待していますよ」

こころ「鹿角さんとの対決、私だけではなく、多くの人が」

曜「……うん」

409: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 05:27:38.97 ID:xW2a4sCp0
 ―翌日・グラウンド―


ルビィ「ふわぁ」

花丸「ルビィちゃん、眠たそうだね」

ルビィ「うゅ、昨日変な時間に寝ちゃったから」


梨子「ルビィちゃん、元気そうでよかったね」

千歌「他の皆と違って、こころちゃんに励ましてもらえなかったのに」

善子「臆病なのに、案外図太いわよね、ルビィは」

410: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 05:45:30.97 ID:xW2a4sCp0
千歌「それで、今日の相手のデータは」


ルビィ「えっと、学校名は函館聖泉女子高等学院」

ルビィ「チーム名はSaint Snowです」


ルビィ「昨年の冬季全国大会でベスト8」

ルビィ「3年生のエース、鹿角聖良の加入と共に力を付けてきた高校です」


ルビィ「昨年までは彼女による典型的なワンマンチーム」

ルビィ「しかし今年は有望な1年生の加入も選手層が厚くなりました」

ルビィ「特に4番を打つ柳澤選手、そして聖良さんの妹の理亞さんに注意です」

ルビィ「柳澤さんは年代別代表にも入っています」

曜「私や現3年生の代表とは、世代ずれてるけどね」

411: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 05:46:14.57 ID:xW2a4sCp0
ルビィ「チームの特徴として、投手は聖良さんが投げきる形が多いです」

ルビィ「一応2番手投手には、ショートの間宮さんがいます」

ルビィ「間宮さんは130近いストレートが武器です」


ルビィ「打線は音ノ木坂に比べれば劣りますが強力」

ルビィ「特に速球を得意としています」

ルビィ「落ちる球に弱いですが、ストレートの安打率が圧倒的に高い」

ルビィ「おそらく曜さんは、相性があまりよくない相手です」

412: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 05:46:50.63 ID:xW2a4sCp0
千歌「それでこころちゃんは、苦労するって」

ルビィ「あとは比較対象だからかもしれないです」

千歌「比較対象?」


ルビィ「今の高校生の世代は、3人のスター選手がいます」

ルビィ「その中で誰が最も優秀か、ファンの間でよく議論になるんです」


ルビィ「1人目が曜さん」

ルビィ「2人目が音ノ木坂の板本さん」

ルビィ「そして3人目が、鹿角聖良さんなんです」

千歌「へぇ」

413: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 05:48:23.93 ID:xW2a4sCp0
ルビィ「特に曜さんと聖良さんの2人は、学年と年齢は違いますがよく比較されます」

ルビィ「2人とも投手としては本格派、高い身体能力が売りです」

ルビィ「投球スタイルは130キロ台の速球」

ルビィ「そして落差は小さいけど速球と同じぐらいの球速のスプリットで圧倒します」

ルビィ「球種は違いますけど、音ノ木坂のここあさんと笠野さんを組み合わせたような選手かも」


ルビィ「打撃については、確実性はやや欠けますが体格の良さもあってパワーが凄いです」

ルビィ「男子選手並みの飛距離を出すこともあります」

千歌「それは、半端ないね」

414: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 05:48:51.98 ID:xW2a4sCp0
曜「凄いよ、聖良さんは」

曜「実際私も、年代別代表でエースの座を奪われてるから」

千歌「えっ」


曜「嘘じゃないよね、梨子ちゃん」

梨子「ええ」

梨子「私が知っている範囲ではね」

梨子「もちろん、聖良さんが年上という事実も関係はしているけど」

415: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 05:49:59.47 ID:xW2a4sCp0
ルビィ「そのような実績がありながら、音ノ木坂やUTXなどの強豪からの誘いを断って地元の進学校へ」

ルビィ「相当自分に自信があるんだと思います」

ルビィ「今年は理亞さんの加入もあり、本気で全国優勝が狙えると言われてますから」


千歌「姉妹バッテリーなんだよね」

ルビィ「はい」

ルビィ「絶対首を振らないほど、強い信頼関係で結ばれているみたいです」


曜「私だって首を振らないよ!」

千歌「そもそも私からサイン出してないじゃん」

曜「まあね、基本ノーサインだし」

善子「えっ、曜さんと千歌さん、ノーサインだったの?」

曜「そうだよ! 私と千歌ちゃんの絆の証!」

416: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 05:50:25.58 ID:xW2a4sCp0
??「なるほど、彼女が理由でしたか」

曜「あっ」

梨子「あなたは」

曜「聖良さん!」


聖良「自分のやりたい方向へ一直線」

聖良「分かりやすいですね、曜さんは」


ルビィ「ほ、本物の聖良さん……」

??「ふふん、どうやら姉さまに見惚れているようね」

417: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 05:51:08.15 ID:xW2a4sCp0
ルビィ「えっと?」

理亞「鹿角理亞」

理亞「これでもあなたたちと同じ世代の代表よ」

理亞「つまり、レベルの違う選手ということね」


善子「なんか痛い奴ねぇ」

花丸「可哀想なタイプなんだよ」ヒソヒソ


理亞「聴こえてるわよ」

花丸「ずらっ」

418: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 05:51:33.36 ID:xW2a4sCp0
理亞「まあいいわ、所詮は負け犬の遠吠え」

善子「試合前から負け犬って」


理亞「見てなさい、私たちSaint Snowの野球を」

理亞「あなたたち素人軍団なんて、粉砕してやるんだから」

曜「へぇ……」

理亞「ひっ」


聖良「理亞、いい加減にしなさい」

聖良「挨拶に来たはずなのに、なぜ喧嘩を売っているんですか」

419: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 05:52:01.55 ID:xW2a4sCp0
理亞「だって、ムカつくから」

理亞「たいした力もない癖に、こんなところにいて」

ルビィ「そ、そんなこと――」


聖良「すみません、愚妹が色々と失礼を」

聖良「私たちはそろそろ行きますね――理亞」

理亞「はい、姉さま」

聖良「楽しみにしていますよ、今日の試合」

千歌「は、はぁ」

420: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 05:52:35.71 ID:xW2a4sCp0
千歌「キャラの濃い妹さんだったね」

善子「くっくっくっ、あれの素はおそらく人見知りね」

善子「姉がいるから強気だったけど、1人じゃまともに話せもしないわ」


曜「へぇ、なんでわかるの?」

花丸「善子ちゃんも同じタイプだからでしょ」

善子「そ、それはあんたもでしょ」

花丸「……知らないずら」

421: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 05:53:05.98 ID:xW2a4sCp0
曜「……とにかく、今日も頑張っていこう」

曜「いくら聖泉女子が強くても、音ノ木坂が負けるとは思えない」

曜「今日勝てば、決勝トーナメントに進める」

曜「昨日の負けを帳消しにできる」


曜「絶対に負けられないよ!」

ルビィ「はい!」

善子「ええ!」

梨子「そうね!」

422: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 05:53:56.82 ID:xW2a4sCp0
〔春季女子野球大会 グループA第2戦〕

【浦の星女学院『Aqours』VS函館聖泉女子高等学院『Saint Snow』】

 先発メンバー

Aqours
1:遊・善子
2:投・曜
3:捕・千歌
4:左・梨子
5:右・よしみ
6:中・いつき
7:三・むつ
8:一・花丸
9:ニ・ルビィ


Saint Snow
1:捕・鹿角理亞
2:遊・間宮  
3:投・鹿角聖良
4:中・柳澤 
5:一・内村 
6:三・松尾 
7:右・下林 
8:左・江戸川
9:二・牧田 

423: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 05:56:01.51 ID:xW2a4sCp0
【1回表】


『1番ショート津島さん』


善子(鹿角聖良……)


聖良「……」


善子(スペックを聞くと恐ろしい投手)

善子(135近いの直球)

善子(昨日、笠野さんにぶつけられた時は凄く痛かった)

善子(避けることもできなかったのと同クラスの球を、私は打てるの?)

424: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 05:56:29.65 ID:xW2a4sCp0
聖良「ふっ」シュッ

 ストライク!


善子(やっぱり速い)

善子(だけど、これと同じぐらいの球速の落ちる球もある)

善子(早めに手を出さないと)


 シュッ


善子(えーい、当たれ!)

 キン


理亞「オーライ!」


 アウト!

425: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 05:56:56.54 ID:xW2a4sCp0
花丸「あぁ」

千歌「キャッチャーフライかぁ」


曜「善子ちゃん、どんな感じ?」

善子「やっぱり速いわね」

善子「昨日の笠野とほぼ変わらないわ」

曜「ふむ、了解」


善子(あれ、今日の曜さん、あんまり余裕がなさそう)

善子(相手は、それだけの投手ってこと……)

426: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 05:57:35.91 ID:xW2a4sCp0
『2番ピッチャー渡辺さん』


曜「……」


理亞(姉さまのライバルだけあって、雰囲気あるわね)

理亞(けどデータ的に、真っ向勝負する必要はない)

理亞(初球は――)


 シュッ

曜「っ」


 ストライク!


曜「カーブ……」

曜(完全に裏をかかれた)

427: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 05:58:06.63 ID:xW2a4sCp0
理亞(よし、これでいける)

理亞(次はストレートで)
 

 キン


曜(ファール、追い込まれた)


理亞(カウントに余裕あるし、1球インハイに釣り球を)

 ボール!


理亞(流石に手は出さない)

理亞(でも次のボールは――)


聖良「ふっ!」シュッ


曜「っ」ブン


 バッターアウト!


曜「スプリットか……」

428: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 05:58:36.22 ID:xW2a4sCp0
善子「よ、曜さんが」

花丸「三振……」

ルビィ「初めて見たかも……」


曜「ごめん千歌ちゃん、あとよろしく」

千歌「う、うん」



『3番キャッチャー高海さん』

千歌「お、お願いします!」


理亞(こいつは……適当にストレート3つで充分でしょ)


 バッターアウト!


千歌「当たらないよぉ」

429: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 05:59:05.35 ID:xW2a4sCp0
【1回裏】 Aqours0-0Saint Snow


『1番キャッチャー鹿角理亞さん』


曜(今日の打席は敬遠されそうにない)

曜(でもしっかり抑えないと、勝つのは難しい)

曜「よしっ!」


 プレイ!


曜(この子は身体が小さい、とにかくストレートで押そう!)シュッ


 ストライク!

430: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 05:59:36.26 ID:xW2a4sCp0
理亞(速い)

理亞(これを捉えるのは、なかなか骨が折れそうね)


 ストライクツー!

理亞(でも――)


 キン――ファール!


曜(確かに速い球には強いみたいだけど――)シュッ


理亞(えっ、カーブ――)

 ブン


千歌「あっ」ポロッ

431: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 06:00:05.59 ID:xW2a4sCp0
間宮「キャッチャーこぼしてる!」

聖良「走って!」

理亞「!」


千歌「し、しまった」


 セーフ!


理亞「た、助かった……」


千歌「曜ちゃん、ごめん」

曜「ううん、私の方こそ」

曜「低め狙いすぎて弾ませちゃったよ」

千歌「うん……」


千歌(……別に難しいボールでもなかった)

千歌(ああは言ってくれるけど、今のぐらいは止めないと)

432: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 06:00:35.27 ID:xW2a4sCp0
『2番ショート間宮さん』


曜(バント……)

曜(素直にさせて1つ貰おう)シュッ


 コン


曜「花丸ちゃん――えっ」


花丸「わわっ」ポロッ――コロコロ

千歌(でもまだファースト――)パシッ


曜「投げるな!」

千歌「えっ」ピタッ


曜「ベースカバー、入ってない」

433: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 06:01:02.38 ID:xW2a4sCp0
ルビィ「あっ」

ルビィ「ご、ごめんなさい」

曜「大丈夫、気にしないで」

曜(実戦経験が少ない弱点が出ちゃったか)

曜(いくらルビィちゃんが努力を重ねてきたとはいえ、2人で出来る範囲)

曜(投内連係とかの練習は不足してるもんね)


曜(花丸ちゃんやむっちゃんもそう)

曜(バント処理は基本、自分でやるぐらいのつもりでいこう)

434: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 06:01:28.10 ID:xW2a4sCp0
『3番ピッチャー鹿角聖良さん』


曜(聖良さん……)

曜(投手対投手では劣っているかもだけど、投手対野手なら私の方が上のはず)

曜(抑えることは!)シュッ


 コツン


曜「げっ」

千歌「バント!?」


曜(いいとこ転がったけど、私なら守備範囲!)パシッ

曜(ストレートな分打球は強いし、3塁刺せる!)ビュッ

435: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 06:01:54.13 ID:xW2a4sCp0
むつ「あ、ありゃ」ポロッ

 セーフ!

 
曜「あっ」

曜(強く投げ過ぎた)

曜(あれだとむっちゃんは捕れないじゃん……)

 
むつ「曜――」

曜「ごめん、私の所為!」

436: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 06:02:21.61 ID:xW2a4sCp0
聖良「ふふっ」


千歌「曜ちゃん!」

曜「大丈夫、まだ点は取られてない」

曜「とにかくアウト1つ、そうすれば落ち着くはずだから」

千歌「う、うん」


千歌(でも守備の弱点、完全にばれてる)

千歌(しかも聖泉女子の選手、バント上手いよ)

千歌(練習試合の相手だと、曜ちゃんの球をほとんどバントもできなかったのに)

千歌(これが全国トップレベル……)

437: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 06:02:49.13 ID:xW2a4sCp0
『4番センター柳澤さん』


柳澤「あっす!」


千歌(うわっ、おっきい)

千歌(見るからに飛ばしそう、本当に1年生?)

千歌(この人も、年代別代表だっけ……)


曜(とにかく三振)

曜(高めで押し込もう!)シュッ


千歌(あっ、真ん中に)


 キン!


千歌(でも押し切った――ライト浅い!)

よしみ「よしっ」パシッ


理亞「っ」ダッ

438: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 06:03:21.98 ID:xW2a4sCp0
曜「タッチアップした!」

ルビィ「よしみさん!」

よしみ「え、えい!」スポッ


花丸「あ、あらぬ方向に」

善子「ど、どこ投げてんの!」

よしみ「ご、ごめん」

梨子「早く拾って!」



千歌(結局犠飛、しかも2・3塁だよ……)

曜「ワンナウト! 落ち着いていこう!」

439: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 06:03:47.18 ID:xW2a4sCp0
柳澤「ナイスラン、マジでパなかった!」

理亞「ありがとう」


理亞「でもらしくないわね」

理亞「あなたがストレートに差し込まれるなんて」

柳澤「いやいや、あのストレートマジパないんだぜ!」

柳澤「スゲエぐわーっと来て、パないわ!」

柳澤「本当にスゲエ、パねえ!」

理亞「相変わらず、語彙力が壊滅的ね……」

440: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 06:04:18.89 ID:xW2a4sCp0
『5番ファースト内村さん』


曜「このっ」シュッ


 キン!


千歌(三遊間――抜かれた!)

千歌(でも打球強い、2塁ランナーが回ってもホーム刺せる!)


聖良「――」ダッ


善子「3塁蹴った!」

曜「梨子ちゃん、バックホーム!」


梨子「えいっ!」シュッ

441: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 06:04:44.35 ID:xW2a4sCp0
千歌「いい球、これなら――」


聖良「――」ギラッ


千歌「っ」

千歌(凄い勢いで、迫ってきて――)


 ポロッ


千歌「し、しまった」

 セーフ!


内村(よしっ)ダッ


曜「千歌ちゃん、セカンド!」

千歌「えっ」


千歌(投げっ――握り損ねっ)スポッ

442: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 06:05:15.46 ID:xW2a4sCp0
ルビィ「わっ」

善子「どこ投げてるのよぉ!」


よしみ「あ、フォロー忘れて……」

いつき「誰もいないよっ」


内村「ラッキー!」ダッ

千歌「サード――いやホーム、急いで!」


 セーフ!


千歌(ば、バッターまで帰ってきちゃった……)



曜(4-0……)

曜(まともなヒット1つで、4失点……)

曜「くそ――」


曜(いやいや、駄目だよ)

曜(私がキレたら、試合が終わる)

曜(みんな経験もない、実力的にも仕方ない)

曜(勝つためには、私が冷静でいないと)

443: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 06:05:42.49 ID:xW2a4sCp0
【4回表】 Aqours0-5Saint Snow


 ボール!

善子(よし、これでスリーボール)

善子(この回の先頭で、次は曜さんなんだ)

善子(何とか出塁して繋げないと)


聖良「――」シュッ


善子(際どい)

善子(でも打つより――)


 ボールフォア!

善子「よしっ」


曜「よーしこー!」

444: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 06:06:09.70 ID:xW2a4sCp0
理亞「ちっ」

理亞(球審辛過ぎでしょ)

理亞(この状況じゃ、多少の肩入れしたくなるのは分かるけど)


聖良「理亞、落ち着いて」

理亞「ご、ごめんなさい」



『2番ピッチャー渡辺さん』


曜(初回以降、守備は頑張ってくれてる)

曜(失点も私が普通に打たれただけ)

曜(少なくとも、自責点の分ぐらい取り返さないと)

445: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 06:06:36.09 ID:xW2a4sCp0
聖良(曜さん――抑える!)シュッ


曜(昨日の試合から今まで、チームは無安打)

曜(ここで私が――)


曜「流れを――変える!」


 カッキ―ン!


理亞「!」


千歌「大きい!」

梨子「いった!?」


 ビュッ


花丸「あっ」

ルビィ「でも逆風……」

446: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 06:07:11.01 ID:xW2a4sCp0
柳澤「うおっ」パシッ

 アウト!


善子「フェンス際……」

曜「あー、広い球場じゃなかったら入ってたのに!」


柳澤「やっぱアイツパねえ!」

柳澤「この風で聖良先輩の球をアレとか、マジリスペクト!」


理亞「助かった……」

聖良「流石曜さんですね」

聖良「あそこまで飛ばされるなんて」


理亞(でもこれで大丈夫)

理亞(最も怖いバッターは切り抜けたんだもの)

447: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 06:11:24.36 ID:xW2a4sCp0
 バッターアウト!


千歌「……私、打撃センスないなぁ」

梨子「仕方ないよ」

梨子「聖良さんは、女子球界の中でもかなりのレベルの投手なんだから」

千歌「うぅ――でも梨子ちゃん打って!」

梨子「うん、頑張ってみる」

梨子「今日は外野で4番だから、その分の仕事はしなきゃね」

448: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 06:11:52.93 ID:xW2a4sCp0
『4番レフト桜内さん』


梨子(今日は投げる予定がない分、野手として頑張らないと)

梨子(一応、曜ちゃんの次に打てる可能性がありそうなのは私)

梨子(そして後続は打てる可能性が低い、ここは――)スッ


善子(まあ、それしかないわね)



聖良(梨子さん、昔は決して打撃が苦手な選手ではなかったはず)

聖良(4番を打つぐらいですから、警戒しないと)グッ


善子(!)ダッ


聖良「スチール!?」シュッ


梨子「当たって!」キン!

449: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 06:12:35.69 ID:xW2a4sCp0
曜「叩きつけた!」

千歌「ショート深い、これなら余裕で内野安打――」


間宮「しゃっ」パッ――ビュッ

 アウト!


千歌「う、うそぉ」

むつ「あ、あの打球で刺すなんて……」

いつき「す、凄い」

よしみ「曜や、音ノ木の板本さんみたい」


ルビィ(……たぶんその2人でも、今の打球をアウトにするのは難しい)

ルビィ(あの人1年生なのに、守備だけなら高校球界トップなのかも……)

450: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 06:58:34.60 ID:qk9fOFvI0
【5回裏】 Aqours0-5Saint Snow


千歌(気づけば5回裏)

千歌(何とか守備は建て直し、踏ん張ってきた)

千歌(でも流石は速球に強いと評判のSaint Snow)

千歌(序盤のドタバタ劇のせいか疲れが出てきた曜ちゃんをついに捕らえて――)


 カキーン!


曜「くっ」


ルビィ「ピギィ!」

花丸「これで2連打」

善子「無死1・2塁……」

451: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 06:59:15.74 ID:qk9fOFvI0
『6番サード松尾さん』


曜(ストレート、球威が落ちてきてる)

曜(カーブをもっと使っていかないと、抑えられない)

曜(本当は使いたくないけど、一応サインを出して投げれば――)シュッ


千歌「カーブ……」


 バンッ


曜「しまった、バウンドさせて――」

千歌「あぅ」ポロッ

曜(……そう、なるよね)


千歌「ごめん、2人とも進塁しちゃった」

曜「私こそ、軽率だった」

452: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:00:38.11 ID:qk9fOFvI0
 ボールフォア!


曜(駄目だ、動揺してる)

曜(気持ち、立て直さないと)

曜(これ以上の失点は致命傷になる)


千歌(どうしよう、あと2点で7回コールド圏内)

千歌(それどころか、5回コールドだって……)


善子「満塁……」

ルビィ「ぴ、ぴぃ」フラフラ

花丸「る、ルビィちゃん、落ち着いて!」

453: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:01:09.76 ID:qk9fOFvI0
『7番ライト下林さん』


曜(カーブは危ない)

曜(千歌ちゃん、まだ落差のある変化球の捕球は難しそう)

曜(でもストレートだけは……)

曜(このクラス相手だと――)シュッ


 カキーン!


曜「センター!」

曜(駄目か、これじゃ犠飛に――)


いつき「こ、これは無理っ」


曜「ツーベース……」

曜(ただのセンターフライでしょ)

曜(普通の経験者なら、誰でも取れるような)


千歌「走者一掃で、0対8……」

454: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:01:45.02 ID:qk9fOFvI0
『8番レフト江戸川さん』


曜「このやろっ」シュッ


 カキン!


曜「ルビィちゃん!」


ルビィ「あっ」ポロッ

曜(今度はエラー……)

ルビィ「す、すみません」

曜「ドンマイ」


曜(ルビィちゃん、もう頼りにならないモードになってる)

曜(過剰に信頼しちゃ駄目だ)

455: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:02:12.11 ID:qk9fOFvI0
『9番セカンド牧田さん』


曜(けどここは併殺が欲しい)

曜(スライダーでタイミングを外そう)

曜(相手は想定してないはずだから、上手くいくはず)シュッ


 カツン


牧田「しまったっ」


曜(ショートゴロ、これなら――)


善子「やばっ」イレギュラー

曜「っ」

456: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:02:39.22 ID:qk9fOFvI0
千歌「ファースト、間に合う!」


善子「花丸!」シュッ

花丸「あ、あれっ」ポロッ


曜「はい!?」


千歌(な、なんでもない送球を……)


曜「っ~~~~~~~」バンッ


千歌(ぐ、グラブを叩きつけた)


千歌「よ、曜ちゃん、落ち着いて」

曜「分かってる、分かってるよ!」

457: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:03:18.87 ID:qk9fOFvI0
曜(駄目だ、打たせちゃ)

曜(今は自分以外信用しちゃいけない)

曜(三振、三振を取らなきゃ)



理亞「くっ」

 バッターアウト!


間宮「どうした」

理亞「ここへきて、また速くなってる」

間宮「マジか」


 バッターアウト!

間宮「確かに、これは凄いな」

458: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:03:49.13 ID:qk9fOFvI0
理亞「でもこの2打席で分かったわ――姉さま!」

聖良「どうしたの、理亞」

理亞「たぶん、渡辺曜が投げる球は――」


『3番ピッチャー鹿角聖良さん』


曜(ツーアウト)

曜(次の回はルビィちゃん、善子ちゃんに回る)

曜(2人が出て、私が打てばまだ試合は分からない)


曜「ここを、三振で切り抜けられれば!」シュッ



 カッキ――――ン!


曜「あっ……」

459: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:04:22.61 ID:qk9fOFvI0
千歌「ほ、ホームラン」


ルビィ「11、点目」

花丸「コールド負け……」

善子「あの曜さんが、そんな……」


聖良「くすっ」

聖良「確かに理亞の言うとおり、高めのストレートのみ」

聖良「分かりやすいですね、曜さんは」




【試合終了】 Aqours0-11Saint Snow (5回コールド)

460: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:12:43.51 ID:qk9fOFvI0
 ―グラウンド外―


曜「くそっ」バンッ

曜「ああ、もう!」バンッ


ルビィ「ぴ、ぴぃ」

善子「よ、曜さん、落ち着いて」

曜「落ち着いてるよ!」


善子「だ、駄目よ、ユニフォームとか、色々叩きつけたりしたら」

梨子「そうよ、暴れる時も利き手には注意しないと」

むつ「梨子ちゃん、そこじゃないよっ」

461: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:13:12.57 ID:qk9fOFvI0
花丸「ごめんなさい、マルがエラーばっかりするから……」

ルビィ「る、ルビィも……」

よしみ「それは、私たちもだし……」

いつき「うん……」

千歌「そう、だよね」


千歌(怒るのも無理ない)

千歌(今日のは、いくらなんでも酷過ぎた)

千歌(記録に残らないエラーも含めれば、余裕で二桁に達する)

千歌(これじゃあ、野球にならない)

462: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:14:11.65 ID:qk9fOFvI0
聖良「あの、すみません」

千歌「聖良さんと――理亞ちゃん」


理亞「ほら言ったでしょ」

理亞「あなた達を粉砕するって、宣言どおり」


曜「はっ!?」

曜「理亞ちゃんだっけ? 君無安打でしょ」

曜「なに偉そうに言ってるのさ!」


理亞「ひっ」


善子「なんでビビってるのに、毎回煽るのよ……」

花丸「もう性分なんだよ……」

463: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:14:39.91 ID:qk9fOFvI0
千歌「あの、なにかご用ですか?」

千歌「できれば後にしてもらいたいんですけど」

千歌「見てのとおり、曜ちゃんがあんな感じなので……」


聖良「その、用事があるのは私ではなくて」

理亞「私よ」


善子「なによ、もう十分に煽ったでしょ」

理亞「違うわよ、それとは別件」

理亞「そこの主将さんに話があるの」

千歌「えっ、私?」

464: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:15:07.23 ID:qk9fOFvI0
理亞「高海千歌」

千歌「は、はい」

理亞「あなた、キャッチャーのことを馬鹿にしてるでしょ」

千歌「そ、そんなこと」


理亞「確かにストライクゾーンのキャッチングは上手」

理亞「でもそれ以外は落第、最悪」

理亞「ただ枠に来たボールを捕れればいいと思っている」

理亞「存在自体が、ポジションへの冒涜よ」


善子「ちょっと、そこまで言わなくても」

465: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:15:39.38 ID:qk9fOFvI0
理亞「でもそうでしょ」

理亞「例えばこの2試合、投手はバウンドするようなボールをまともに投げられていない」

理亞「そのせいで、変化球自体も少なくなってる」

理亞「桜内梨子なんて、変化球中心であるべき技巧派の投手なのに」

千歌「そ、それは」


理亞「私たちが渡辺曜を打ち込めたのもそうよ」

理亞「あなたが信頼されずに、カーブを有効活用できないから」

理亞「ストレートしか来ないと分かってたら、そりゃ打つわよ」

理亞「姉さまがホームランを打った場面もそうだったでしょ」

466: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:16:05.10 ID:qk9fOFvI0
理亞「しかもなに、打たれた後」

理亞「ほとんど励ましにも行かず、毎回投手よりもオロオロして」

千歌「っ」


理亞「才能がないのよ」

理亞「センスも、頭も、それを補おうとする気概も」

理亞「どんなことがあっても、私以上になることは絶対にありえない」

理亞「二流止まりが精々でしょ」

千歌「……」

467: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:16:37.21 ID:qk9fOFvI0
理亞「最初から舐めてるの」

理亞「9人ギリギリ、お遊戯会みたいな面子で乗り込んできて」

理亞「負けて当然みたいに、ヘラヘラと野球をしてる連中を見ると、本当に腹が立つ」


理亞「馬鹿にしないで」

理亞「野球は、キャッチャーは遊びじゃない!」



曜「お前、それ以上は!」

聖良「理亞!」

理亞『ビクッ』


聖良「ごめんなさい」

聖良「この子、昔から口が悪くて」

曜「そういう問題じゃ――」

468: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:17:30.97 ID:qk9fOFvI0
聖良「でもそれだけ、真剣に野球をしているんです」

聖良「真摯に、野球に向き合っているんです」


聖良「私は野球を辞めろとは、大会に出るなとは言いません」

聖良「けど皆さん、大きな舞台を目指すのは諦めた方がいいかもしれませんね」

聖良「そこを本気で目指している人が、どれほどいるかも分かりませんが」

曜「っ」



聖良「厳しい言い方をしましたが、創部初年度でここまでに仕上げたのは見事です」

聖良「そのような意味では、あなた方をリスペクトしている」

聖良「それは忘れないでください」

469: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:17:57.24 ID:qk9fOFvI0
 ―宿舎―


千歌「みんな、お疲れ様」

ルビィ「はい……」

花丸「ずら……」


梨子「……」

善子「……」

よしみ「……」

いつき「……」

むつ「……」

470: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:18:53.49 ID:qk9fOFvI0
千歌(全員、落ち込んでる)

千歌(無理もないよね。酷い負け方をして、あんなことまで言われて)

千歌(私も、あんな――)

千歌「っ」グッ

梨子「……ねえ、千歌ちゃん」


千歌「し、仕方ないよ」

千歌「まだ私たちは始めたばっかりだし、こんな結果になっても」

梨子「千歌ちゃん……」


千歌「帰って練習しよう」

千歌「そしてまた、1から頑張ろう」

ルビィ「うゅ……」

梨子「そう、よね」

471: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:19:44.75 ID:qk9fOFvI0
千歌「今日の分までは部屋取ってあるから、泊まっていいって」

千歌「明日はさ、みんなで観光でもしに行こうよ」

千歌「そうすれば少しは気が晴れるよ、きっと」

梨子「だけど、曜ちゃんが……」

千歌「それは……」


善子「曜さん、部屋に籠ったままなのよね」

花丸「やっぱりまだ、怒ってるのかな」


ルビィ「分からない」

ルビィ「でも本当に悔しがってた」

ルビィ「それだけは、分かるよ」

472: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:20:18.43 ID:qk9fOFvI0
千歌「とりあえず、私が様子を見てくる」

千歌「もし今の状態が明日まで続くようなら、一緒にいるから」

千歌「みんなは普通に観光してきなよ」


ルビィ「でも……」

千歌「曜ちゃんと同部屋なのは私でしょ」

千歌「たぶん一番仲が良いのも私」

千歌「一応、曜ちゃんの女房役だし」

千歌「それぐらいは、ね」

473: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:21:04.68 ID:qk9fOFvI0
梨子「……そうね」

梨子「せっかくだし、お言葉に甘えさせてもらおうかしら」

善子「ちょ、ちょっと」

梨子「いいから」


梨子「みんなは、私が東京を案内してあげる」

よしみ「……私たちは朝に帰るよ」

いつき「3人とも家の用事があるからさ」

むつ「だからみんなは楽しんできて」

梨子「そ、そう」

ルビィ「……」

花丸「……」

474: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:21:30.96 ID:qk9fOFvI0
 トントン


千歌「曜ちゃん、調子どう?」


 ガチャ

曜「ごめん、寝てた」

千歌「大丈夫?」

曜「うん」


千歌「今日はごめんね、私たちが足を引っ張っちゃって」

千歌「あれじゃあ、怒るのも無理ないよね」

475: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:21:58.89 ID:qk9fOFvI0
曜「違うよ、私はみんなに怒っていたわけじゃない」

千歌「えっ?」


曜「言い方は悪いけど、エラーはある程度は想定してた」

曜「怒りは、それでも勝てると過信していた私自身へのもの」

曜「あの子の言うとおり、ちょっと馬鹿にしてたかも、野球を」

千歌「曜ちゃん……」


千歌(顔、泣いた痕が残ってる)

千歌(それを見せたくなくて、部屋に残ってたのかな)

476: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:22:24.32 ID:qk9fOFvI0
曜「どうしたの?」

千歌「その、顔……」


曜「あっ――顔洗うの忘れた」

千歌「やっぱり、泣いてたの」

曜「まあ、悔し泣き」

曜「あと少し、荒れてた」

千歌「そっか」

477: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:22:51.74 ID:qk9fOFvI0
曜「千歌ちゃんだって、悔しかったでしょ」

曜「試合に負けたこと、色々言われたこと」

千歌「そりゃ、まあね」

千歌「負けたのは、仕方ないけど……」

曜「……」


千歌「あのね、ダイヤさんに聞いたら、もう1日泊まってもいいんだって」

千歌「だから明日さ、みんなで東京観光しないかって――」


曜「ねえ」

千歌「ど、どうしたの」

478: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:23:38.12 ID:qk9fOFvI0
曜「私たちだけでも、明日の試合を観に行こう」

千歌「曜ちゃん?」


曜「音ノ木坂と、聖泉女子の試合」

曜「直視しなきゃ駄目だと思う。この先の現実も、しっかりと」

曜「そうしないと、先へ進めないよ」

曜「日本一は、狙えないよ」

千歌「それは……」


千歌(正直、気が進まない)

千歌(だけど曜ちゃんが、それで満足するなら――)


千歌「分かった、いいよ」

千歌「行こう、試合を観に」

479: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:24:07.96 ID:qk9fOFvI0
 ―翌日・神○外苑―


善子「こ、これは!?」


 ガシャン――シュッ


善子「ス○ノ、オ○ワ、ノリ○ト……各球団のエースの映像がびっしり」

梨子「どうかしら、これが都会のバッティングセンター」

梨子「いえ、バッティ○グドームよ!」


善子「ドーム――か、カッコいい……」

梨子「もちろんピッチングに、卓球まであるわ!」

善子「おぉ!」

480: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:24:37.54 ID:qk9fOFvI0
梨子「この後は水道橋の野球殿○博物館、それが終わったら秋葉原に直行よ!」

善子「秋葉原、堕天使グッズまで買える……」


善子「最高よ、あなたは最高よ!」

善子「ぜひリリーと呼ばせて!」

梨子「そ、それはちょっと恥ずかしいかな」

善子「ちょ、急に素に戻らないでよ、リリー!」

梨子「あっ、結局呼ぶのね」

481: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:25:12.12 ID:qk9fOFvI0
花丸「2人とも楽しそうだね」

ルビィ「う、うん」

花丸「よかった、元気になって」

ルビィ「そうだね」


花丸「でもここ、本当に凄い設備」

花丸「こんなに近代的な環境――まさに未来ずら~」

ルビィ「あはは」

ルビィ「花丸ちゃんも、楽しそうだね」

482: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:26:15.43 ID:qk9fOFvI0
花丸「ルビィちゃん、楽しめてない?」

ルビィ「ううん、そんなことはない」


ルビィ「でも近くに球場があると、どうしても思い出しちゃう」

ルビィ「もしかしたら、あそこへ行けるのかな」

ルビィ「1番上の舞台まで勝ち進んだら、さらにドームまで……」

ルビィ「そんな風に夢を見ていた、ここに来る前の自分のこと」


ルビィ「恥ずかしいよね、本当に」

ルビィ「昨日、あんなことを言われても、仕方ないぐらい」

花丸「ルビィちゃん……」

483: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:26:45.91 ID:qk9fOFvI0
善子「ちょっと、なに辛気臭い話してるのよ」

花丸「辛気臭いって」

善子「今はそれを忘れて、楽しむときでしょ」

ルビィ「そうだけど……」


善子「私だって、辛いわよ」

善子「反省しなきゃいけないこともたくさんある」

善子「でも今はその時じゃない」

善子「今後の為に必要なエネルギーを養うときでしょ」

善子「とにかく、馬鹿みたいにはしゃぎましょうよ」

花丸「……うん」

ルビィ「……そうだね」

484: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:27:23.77 ID:qk9fOFvI0
善子「じゃあ早速打ちましょう」

善子「本物の投手と対戦できるみたいで興奮するわよ!」

花丸「あはは」

ルビィ「善子ちゃん、子どもみたい」


善子「とりあえず、私はスガ○に――」

梨子「ごめんなさい、そこは私の打席よ」

善子「じゃあオガ○――」

花丸「面白いフォーム、未来ずら~」

善子「ノ○モト――」

ルビィ「うゅ!」


善子「な、なんでよ~」

485: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:27:52.41 ID:qk9fOFvI0
 ―某球場―


曜「開始前に間に合ったね」

千歌「うん」


曜「なんか変な感じ」

曜「昨日まであそこで試合してたなんて」

千歌「そうだね」


曜「それで、ダイヤさんは――」

486: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:28:23.82 ID:qk9fOFvI0
ダイヤ「お2人ともここですわ」

千歌「あっ、いたいた」

曜「おぉ、バックネット裏特等席……」


ダイヤ「流石に女子の春季大会では人も少ないですからね」

ダイヤ「朝一番に来れば、余裕で座ることができました」

ダイヤ「しっかり3人分確保してありますわ」


曜「第1試合から見ていたんですか?」

ダイヤ「もちろん」

曜「本当に好きなんですね、野球」

ダイヤ「私の生き甲斐ですから」

487: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:28:59.30 ID:qk9fOFvI0
こころ「あら、渡辺さん」

板本「本当だ――おーい」


曜「こころちゃん、板ちゃんも」

曜「すみません、ちょっと行ってきます」

ダイヤ「はい、私のことは気になさらず」



板本「おっ、11失点投手が来たぞ」

曜「あー、言ったなぁ~」

こころ「全く、落ち着きのない……」

488: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:29:28.80 ID:qk9fOFvI0
ダイヤ「千歌さんは行かなくてもいいのですか」

千歌「その、私はちょっと」


ダイヤ「……まあ、仕方ないでしょう」

ダイヤ「あの3人は、μ’sとA-RISE効果で競技人口が増えた世代」

ダイヤ「その中でもトップ、つまり将来日本の女子野球界を背負う存在」

ダイヤ「気後れしてしまう気持ちも分かります」


千歌「そうですよね」

千歌「私には関係のない、想像もつかないような世界の人たち」

ダイヤ「…………」

489: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:30:02.23 ID:qk9fOFvI0
千歌「ダイヤさん、私たちの試合は観に来なかったんですか」

ダイヤ「いえ、もちろんいました」

ダイヤ「見守ってきたチームの、妹の晴れ舞台ですから」


ダイヤ「ただ、声をかけるタイミングを逃して」

ダイヤ「というか、正直に言えば雰囲気的にはばかられて……」


千歌「すいません、昨日はあんな感じでしたし」

ダイヤ「曜さん、温厚なイメージでしたが、あんな風に怒りを表に出すのですね」

千歌「私もあそこまで怒った曜ちゃんは初めて見たかもしれません」

ダイヤ「それだけ負けず嫌い、勝ちへの執念が強いということでしょうか」

千歌「勝ちへの、執念」

490: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:30:34.61 ID:qk9fOFvI0
曜「いやー、戻りました」

ダイヤ「あら、もういいのですか?」

曜「練習中にあまり話しているわけにもいかないので」

ダイヤ「それもそうですわね」


曜「散々煽られちゃいましたよー」

曜「昨日の投球は酷かったんで、仕方ないですけど」

ダイヤ「あら、それなのによく大人しくしていられましたね」

ダイヤ「昨日の様子だと、怒り狂いそうですのに」

曜「うっ、昨日の今日だと否定しずらい」

491: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:31:02.06 ID:qk9fOFvI0
千歌(曜ちゃんとダイヤさん、楽しそうだな)


千歌(でも私は、グラウンドから目が離せない)

千歌(客観的に、この場所から練習を見ればわかる)

千歌(そこにいるのは、まるで別世界の人たち)

千歌(そりゃ勝てないよね、勝てるわけない)

千歌(昨日、改めてスコアブックを見た時の数字が忘れられない)


『0勝、0得点、0安打』

492: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:31:46.16 ID:qk9fOFvI0
千歌(途方もない差を象徴するように並ぶ、0)

千歌(嫌でも現実を見せつけられる数字)

千歌(鹿角姉妹の言葉通り、諦めた方がいいんだろうな)

千歌(全国とか、優勝とか、夢みたいな話は)


千歌(でもいいよね)

千歌(私は野球をしてたかっただけ)

千歌(μ'sみたいに、グラウンドで輝くために)

千歌(その輝きは、別に大舞台じゃなくても、手に入る――はず)

千歌(身の丈に合った世界で楽しめれば、それでいいんだ)



曜「…………」

493: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:43:06.14 ID:qk9fOFvI0
 ―東京某駅―


『まもなく○番線に~』


千歌「あー、待ち合わせ時間過ぎちゃった」

ダイヤ「楽しんでいるのでしょう、いいことではありませんか」

ダイヤ「楽しむ気力があるなら、まだ安心できます」

千歌「そっか、それもそうですね」


曜「あっ、噂をしたら来たかも」

494: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:43:40.12 ID:qk9fOFvI0
梨子「ごめん2人とも、遅れちゃって――」

善子「あっ」

花丸「ダイヤ、さん」


ダイヤ「みなさん、お疲れ様です」

梨子「来てくれていたんですが」

ダイヤ「ええ」

花丸「じゃあ、試合も」

ダイヤ「もちろん観戦していました」

495: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:44:54.74 ID:qk9fOFvI0
ルビィ「お姉、ちゃん」

ダイヤ「ルビィ」


ルビィ「あ、あの」

ルビィ「その、ね」

ダイヤ「……いいのです、言葉にしなくても」

ルビィ「う、うぅ」

ダイヤ「私は、分かっていますから」

496: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:45:45.18 ID:qk9fOFvI0
ルビィ「ううぅ――」ダキッ

ダイヤ「よく、頑張りましたね」

ルビィ「うわぁぁ――ん」



花丸「ルビィちゃん……」

善子「ルビィ……」

千歌「……」

梨子「……」

497: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:46:42.85 ID:qk9fOFvI0
 ―沼津・渡辺家―


曜「ありがとうございます、わざわざ送ってもらっちゃって」

志満「ううん、気にしないで」

志満「ついでだから、このぐらい」


千歌「じゃあね曜ちゃん、また学校で――」

曜「あの、少しだけ千歌ちゃんと2人で話してもいいですか」

千歌「曜ちゃん?」


志満「大事な話?」

曜「はい」

志満「……分かった、じゃあ車で待ってる」

志満「急がなくても大丈夫だからね」


 バタン

498: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:47:17.35 ID:qk9fOFvI0
千歌「曜ちゃん、話って――」


曜「夏の予選まで、あと2か月と少しぐらいだね」

千歌「そんなに近いんだっけ」


曜「勝ちたいよね」

曜「勝って、今度こそ音ノ木坂や聖泉女子にリベンジしなきゃ」


千歌「……でも流石に厳しいよ」

千歌「とりあえず、今年はそこそこ勝ち進む感じでさ」

千歌「来年地区の決勝を目指すとか、それぐらいが現実的じゃない?」

曜「……千歌ちゃん」

499: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:47:46.32 ID:qk9fOFvI0
千歌「今回、思い知ったよ」

千歌「非現実的な理想を掲げても、傷つくだけだって――」


曜「ねえ、千歌ちゃん」


曜「悔しくないの?」



千歌「えっ」

曜「千歌ちゃんは、悔しくないの?」

千歌「え、いや、そりゃ悔しいけど、仕方ない部分は――」

 
曜「仕方ない!?」


千歌「っ」ビクッ

500: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:48:23.39 ID:qk9fOFvI0
曜「私たち、負けたんだよ」

曜「その上に理亞って子にあんなこと言われて、どうしてそんな態度でいられるの」

曜「ゼロ、ゼロ、ゼロ――これが私たちの現実だよ」


曜「私は悔しい、悔しいよ」

曜「勝てなかった、手も足も出なかった」

曜「ヒットすら打てずに、試合後には馬鹿にされて」


曜「なのに千歌ちゃんは、全然悔しそうに見えない」

千歌「そ、そんなこと」

曜「あるでしょ」

曜「次は勝とう、リベンジしよう、そんな言葉も、態度も、千歌ちゃんからは出てこない」

曜「それどころか、先に進むことを諦めてしまっているみたい」

千歌「それは……」

501: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:48:49.83 ID:qk9fOFvI0
曜「ずっと違和感はあった」

曜「私が目指している舞台と、千歌ちゃんが目指している舞台」

曜「同じようで、どこか違う感じがして」

曜「でも一緒に野球をやりたいから、気づいても直視しないようにしてた」


曜「けどね大会中やその後、千歌ちゃんの態度を見て確信しちゃったんだ」

曜「そこには、大きなギャップがある」

曜「私と千歌ちゃんは、相いれない存在なんじゃないかって」

千歌「曜ちゃん?」

502: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:49:19.85 ID:qk9fOFvI0
曜「ごめん、私は明日から練習行かない」

千歌「え……」

曜「しばらく、部活は休むよ」


千歌「そ、それは、あれだよね」

千歌「疲れたから休むとか、そんな感じの」


曜「……どうかな」

曜「少し考えないと、分からない」

千歌「よ、曜ちゃん?」

曜「……ごめん」ダッ

503: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:49:52.07 ID:qk9fOFvI0
千歌「ちょ、ちょっと待って!」


 ガチャン


千歌「曜ちゃん、曜ちゃん!?」


曜『悪いけど、帰って』

千歌「えっ……」

曜『今は千歌ちゃんと話したくない』

曜『落ち着くまで、待って』


千歌「曜ちゃん……」

504: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:50:21.12 ID:qk9fOFvI0
 ―浦の星女学院・グラウンド―


善子「本当にやるの?」

花丸「うん」

善子「だけど、こんな時間にノックなんて」

善子「いくら照明があっても、疲れてるし」


花丸「いいからっ!」

善子「花丸、無理は駄目よ」

善子「怪我したら、どうしようもないわよ」

505: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:51:13.38 ID:qk9fOFvI0
花丸「無理、しなきゃなんだよ」

花丸「マルは今までずっと、みんなに迷惑をかけ続けてきた」

花丸「一番下手なのは、一番足を引っ張っているのは、間違いなくマル」

花丸「助っ人の3人よりも、ずっと下手なんだ」


花丸「今回の大会だってそう」

花丸「あんなにポロポロエラーしなきゃ、曜ちゃんが怒ることもなかった」

花丸「みんなだって、あんなに落ち込むことはなかった」

花丸「ルビィちゃんが泣くことも……」

507: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:52:57.95 ID:qk9fOFvI0
花丸「マルの所為で、チームが滅茶苦茶になってる」

花丸「みんなは初心者だから仕方ないと言ってくれる」

花丸「だけどそれに甘えてちゃ駄目なんだ」

花丸「もうあんな思い、絶対にしたくない」

花丸「だから、だからっ――」


善子「分かった、分かったから」

善子「この時間は本当に危ないわ」

善子「せめて素振りとかランニングとか、ボールを扱わない事をしましょう」

508: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:53:35.97 ID:qk9fOFvI0
花丸「でも――」

善子「いいからっ」


善子「あんたが怪我したら、またルビィは落ち込むわよ」

善子「あの子のことだから、きっとその怪我も自分のせいだって抱えこむ」

善子「それでもいいの?」

善子「よくないでしょ」

花丸「それは……」

509: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:54:29.20 ID:qk9fOFvI0
善子「守備はちゃんと人数が揃ってる時に、みんなと一緒にやればいい」

善子「普通の練習以外でも、ルビィにも声をかけて、明るい時間に3人で自主練しましょう」

善子「その方が効率もいいし、みんなの練習にもなる」

花丸「う、うん」


善子「大丈夫、とことん付き合うわよ」

善子「私たちはまだ1年生」

善子「ちゃんと練習すれば、ちゃんと上手くなるはずよ」

善子「焦る気持ちも分かるけど、少しずつ、一緒に頑張っていきましょう」

花丸「善子ちゃん……ありがとう」


善子「えっ、えっと――ヨハネよ」



次回 千歌「白球を追いかけろ!!」 後編