勇者「百年ずっと、待ってたよ」 前編

306: ◆TRhdaykzHI 2014/02/09(日) 23:20:10.41 ID:Mh/p7PiBo




第七章 ぼくの  はマーメイド




引用元: ・勇者「百年ずっと、待ってたよ」 



異世界帰りの勇者が現代最強! 1巻 (デジタル版ガンガンコミックスUP!)
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307: ◆TRhdaykzHI 2014/02/09(日) 23:22:14.79 ID:Mh/p7PiBo



臙脂色の朝日が稜線から顔を覗かせた瞬間に、曙光がパアッと世界に散らばった。
川のせせらぎに両手を浸して水を飲もうとしていた彼の元にもそれは届いた。

青く輝く闇は西へと徐々に追いやられて、星々はまた夜がくるまでしばしの間眠りにつく。
見事な朝焼けだった。
どれも彼がまだ見たことのない光景だった。


目覚めたばかりのオリビアは既に遙か遠くの山道から彼を振りかえっていて、急かすように一声「ワン」と吠えた。


「分かってる、今行く」


祖父から受け継いだ薬師の七つ道具が詰め込まれた大きな黒いカバンは、見た目通りなかなか重たく
手にぶら下げても肩にかけても背負っても、苦行僧の気分を味わえるという意味でとても有り難い代物だった。

歩くたびに中の器同士がぶつかって鳴るカチャカチャという音も、彼にとってはもう日常の一部となっていた。
今日もその音に耳を澄ませて、オリビアに導かれながら旅路を進む。




308: ◆TRhdaykzHI 2014/02/09(日) 23:23:46.60 ID:Mh/p7PiBo



薬師として国中を旅している彼は、青年とも少年とも言い難い風貌だった。
時計屋の若旦那に、父親への薬を調合したのは既に遠い昔のことである。
少年の面影は鳴りをひそめて代わりに鼻筋がすっと伸び、首に喉仏が突き出し、声が低くなった。
かと思うとカラカラと笑うときの表情は、大人と呼ぶにはあまりに幼かった。

しかしそのとらえどころのなさは年齢とは関係なく、彼の本質に所以するものであるとも言えた。

「雲みたいな奴だな」と、以前周辺の村を訪れるために拠点としてしばらく滞在した宿屋の主人は、
カウンターに頬杖をつきながらまじまじと珍しそうに彼を見ながら呟いたのだった。


「まだ若いんだから、そう旅を急ぐこともあるまいに。
 お前は雲だ。上空の大きな気流に乗って、進もうとしようがしまいが関係なしに流されてっちまう雲だな。
 難儀な奴だ。早死にするなよ」


「根なし草だからね」
よく分からなかったが、勝手に同情されたことに少しムッとしながらそれだけ返した。
宿屋は答えず、それからぷかぷかと煙草の煙を吐くだけだった。


 
310: ◆TRhdaykzHI 2014/02/09(日) 23:28:24.70 ID:Mh/p7PiBo



旅は好きだ。
見知らぬ土地の見知らぬ空気、まだ彼に知り得ぬものが行く手にあると想像しながら歩くのは楽しかった。

自分の意志で、自分のためだけに旅をしていると胸を張って言える。
彼は旅が好きだ。

もう帰る家がないということだけで旅をしているのでは、決してないのだった。




「一番近くの村ぁ?それならこの分かれ道を左に行ってずっと真っ直ぐだ!!」

「ありがとう」


道を尋ねたやたらと元気のいい魚人族の男に礼を言って立ち去ろうとすれば、何故か慣れ慣れしく鱗のついた腕で肩を組まれ、
挙句の果てには飲み屋の経営がどうだの我が子がどうだのと、益もない話を延々1時間も聞かされる羽目になり
その村に着くころにはもう精神的にへとへとになっていた。


たまにそんなことになるが、本当に彼は旅が好きである。





311: ◆TRhdaykzHI 2014/02/09(日) 23:29:39.00 ID:Mh/p7PiBo



その村に足を踏み入れると、どこか遠くから子どもたちのはち切れそうな笑い声と、
たくさんの家庭の夕食の香りが入り混じった香りが彼をむかい入れた。

ぎりぎり日没前に宿に辿りつけたな、と思う。
朝に引き上げられた藍色の帳が、今まさに再び下りようとしていた。


「行こうか、オリビ…… あれっ どこ行くんだ?」


宿屋が並ぶ通りに進もうとした瞬間、すっと足の間をオリビアが通り抜ける気配があった。
慌てて呼びとめたが止まらない。村の北から伸びる木立の中に彼女の足音は消えてしまった。

こんなことは滅多にないので彼はしばしポカンと彼女が消えていった方角を見つめていたが、
我に返るとオリビアの名を呼びながら駆けだした。

もう家に入りなさいと母親に促された村の子どもたちが不思議そうに彼の背中を見まもった。



312: ◆TRhdaykzHI 2014/02/09(日) 23:31:41.18 ID:Mh/p7PiBo



「どこにいるんだ……?」


しばらく駆けると一本道の先の開けた場所に出たが、辺りは夕闇に包まれてひっそりとしている。
人どころか動物の息遣いさえ何一つ聞こえない。
自分の息切れと早鐘を打つ鼓動だけやけに大きく、耳は頼りにならなかった。


普段は泰然とした印象を会う人に与えるこの青年……あるいは少年だったが、このときばかりは焦っていた。
そのため、常ならぬケアレスミスを犯したとしても無理からぬことだった。

ゴツン!!
突然額と鼻っ柱をぶん殴られた――と彼は感じた。

「うがっ」そんな呻きを空中に残しながら、ゆっくりと土のベッドにひっくり返って、
涙目になりつつ痛みを通り越して痒みすらある顔面を手のひらで覆う。血はでていない。
そのことが信じられないくらいの痛みだった。


何が起こったのか分からず目を白黒させる彼の耳に、男の笑いをこらえているような、そしてそれを申し訳なく思っているような声が届いた。




313: ◆TRhdaykzHI 2014/02/09(日) 23:38:32.54 ID:Mh/p7PiBo




「あー……その、悪いな。危ないって声をかけるところだったんだけど、一瞬遅かったみたいだ。
 大丈夫か、あんた。すんごい勢いで木にぶつかってたもんな……鼻折れてないか?」
 

そう、彼は木にぶつかったのだった。
それだけだった。それだけならまだ「やっちまったな、ははは」くらいで済んだが
その様を誰かに見られた事実が彼をどん底に突き落とした。


「あ、ああうん。大丈夫だ。……あー……お見苦しいところを」

「いや。誰にだってあるさ、そういうことは。俺もよくあるよ」


男のぎこちないフォローがかえって心苦しかった。
手を借りて立ちあがると、「ちょっと待ってろよ」と言ってから、男は何やらブツブツ言い始めた。
と思うと顔面の熱をもった痛みが嘘のように退きはじめる。数秒と経たずにそれは完全に消え去った。

紛れもなく治癒魔法である。


「神官の方ですか」と訪ねようとして気づいた。
カチャリと男が腰に佩いている太刀の音。

男は自分の名を名乗った。彼が尋ねると、ああ、となんてことないように頷いた。


「勇者だよ」


そして、勇者の男は「これって職業なのかな」と首を傾げたのだった。



314: ◆TRhdaykzHI 2014/02/10(月) 03:00:57.25 ID:pkkpz1gzo



「最近やーーーっと使えるようになったんだよ、治癒魔法。魔法は苦手でさ……。
 一応魔力はあるんだから攻撃魔法だけじゃなくて治癒系も使えるようにしとけって言われて」
 

勇者はオリビアを見た。村の墓地から帰る途中すれ違ったのだと言った。

その墓地に彼を案内しながら(勇者にとってはUターンすることになるが、彼は快く承ってくれた)、ハハハと乾いた笑いを洩らした。
「魔法の才能、ないんだよなぁ」とのんきに言い放つその様子は、いわゆる勇者の厳格さとか神聖さとは無縁のものだった。


いま、この村に来るときに魚人の男と話したが、そういう風に魔族と人間が普通に言葉を交わす世界は彼にとって一般的で、
それは彼が生まれた年に太陽の国と魔族の王の間で結ばれた平和条約のおかげであるというのは知っている。

そしてその条約に、今彼の横で歩いている男が尽力したというのも知っていた。
魔王を倒すために生まれたのにも関わらず、魔族を救うために動いた彼の男。



315: ◆TRhdaykzHI 2014/02/10(月) 03:04:32.86 ID:pkkpz1gzo



人類と魔族の英雄と称してもいい男を前にして、しかし薬師の彼は何故か緊張することはなかった。
それも勇者の「勇者らしくなさ」が原因かもしれない。

勇者の代名詞となっていた、<時の剣>は既にもうその手にないようだったが、
それなりに腕のある鍛冶師につくってもらったという大刀を腰に携えるその姿は飄々としていながら、まさに威風堂々だった。

しかしその勇者が、言っては悪いがこんな山奥の小さな村にいることは思わなかったので、
何故ここにいるのかと尋ねると思ってもなかった答えが返ってきた。


「ここ、俺の育った村なんだ。たまには親父とお袋に顔見せないとな」

「ああ、そうだったんですか」

「あんまり目立ったものはないが、 まぁ……いいところだよ。
 あんた薬師なんだって?近所の婆さんが腰痛いって言ってたから診てやってくれよ」
 
「でも、勇者のあなたがいるのなら、薬は必要ないんじゃ?」




316: ◆TRhdaykzHI 2014/02/10(月) 03:06:09.75 ID:pkkpz1gzo




治癒魔法があるのなら薬は必要ないのでは、という意味を込めたつもりだった。
途端、勇者は渋面をつくった。


「だから、俺は治癒魔法そんなに上手くないんだって。治せるのは擦り傷とか……打ち身とか……そういう。
 ……あ、ほら。墓地についたぞ」
 

頬を撫でる空気が僅かに冷たい。
墓地とはいえど不気味さとは程遠い、むしろ心安らぐ静謐さがそこにはあった。
死者の安寧の地、冥府へと繋がる道。そんな言葉が彼の脳内に浮かんで消えた。

いくつもの墓標を越え、もう崖に差しかかるといったところでオリビアを見つけた。
村人たちの墓標から離れて、森と空を臨む切り立った崖にポツンと立っている二つの十字架の前で行儀よく座っていたのだった。

歩み寄る彼の姿を認めて嬉しそうに「ワン」と吠えた。


「お前……心配したんだぞ。急に駆けだしたりするから」


意味が分かっているのかいないのか、尻尾をぶんぶん振りまわすばかりである。
背後で勇者がふっと笑う気配があった。




317: ◆TRhdaykzHI 2014/02/10(月) 03:07:51.68 ID:pkkpz1gzo




「よかったな、見つかって」

「うん、本当に。ありがとう、勇者さん」

「その墓の横、大樹があるから気をつけろよ」


そんなことはとうに分かっていた。
どうやら勇者は彼のことを平時に木に激突するどんくさい奴と認識してしまったようだった。

これはいかん、いつか誤解を解かねばと思いながら、木の幹に手をあてる。
両腕で抱きついたとしても右手と左手の指が合わさることはないだろう。
二人がかりでようやく囲えるような幹の、立派な木だった。
春夏ではないと言うのに青々と茂る枝葉を夜空に広げている。


「この木は……」

「不思議な木でさ、冬でも緑を絶やさないんだ」


木の名前は分からないが、恐らく常緑樹の一種だろうと勇者が言った。


「受け売りだけどな」




318: ◆TRhdaykzHI 2014/02/10(月) 03:10:11.76 ID:pkkpz1gzo



「……じゃあ、この墓は?」


初めて訪れた村の墓地の外れにある墓標について詳しく訪ねるのも失礼かと思ったが、どうしても気になった。
二つだけ孤立してポツンと立っている古びた十字架。
オリビアがその前に座ってじっと彼を見ている。

だが勇者も誰の墓だかは明確に分からないようだった。


「俺の曽祖父たちがこの村を開拓して移り住んだ時にはもうあったらしい。古すぎて誰のだか分からないんだよ。
 ほかにも墓はいくつもあったらしいから、滅びた村がここにあったんだろうな」
 

勇者を生んだ村は元々昔からここにあったわけではなく、移民がつくったものらしい。
百数年前の人魔戦争では魔族により滅んだ村がいくつもあった。そのひとつだろうと彼は考える。





319: ◆TRhdaykzHI 2014/02/10(月) 03:11:07.60 ID:pkkpz1gzo





オリビアと彼の横に勇者が不意に腰をかがめて、墓標を手の平で撫でる。
何か魔法的なものを使うのかと思ったが、何もせずに手を離した。


「ひとつはかろうじて名前のスペルが読めなくもないが……もうひとつはだめだな」

「その読めそうな名前って?」

「エヌ……アイ……エヌ……エー」



「NINA」



「ええっ?」
彼は自分でも知らず知らずのうちに立ちあがっていた。






320: ◆TRhdaykzHI 2014/02/10(月) 03:13:47.57 ID:pkkpz1gzo



「ん?どうしたんだ?」


俄かに色めきたった彼の様子に勇者が気づいて、眉を上げた。
いま彼の身を襲っているのは、数年前に時計屋で味わったのと同じ興奮と衝撃だった。
まさかここでもあるなんて。



手紙の差出人、いま彼の横にいる勇者を今代として、先代勇者の仲間だったニーナの墓がここにあるのなら、
隣にあるもうひとつの墓標は一体誰のなのか。
ドキドキと胸が波打っていた。


「もうひとつの、墓は……」

「風化しちゃってあんまり読めないんだ。 うーん……最初の文字はエイチ。それから……こりゃエルかな? 
 最後はたぶん……オーか、ディー」

 
H   ld/o


彼は入念に墓に刻まれた名前をなぞった。
表面がざらついていて、確かに名前の判別も難しい。
だが、最後の文字を仮にディーとするなら、H(aro)ld ――ハロルド。


歴史を学べば必ず出てくるその名前は、手紙では<ハル>の愛称で出てきていた。
先代勇者……百年前の人魔戦争の真っ只中に生まれ、神の力をもって魔族相手に戦った者の名前だった。





321: ◆TRhdaykzHI 2014/02/10(月) 03:16:29.51 ID:pkkpz1gzo




ニーナもハロルドも、そんなに珍しい名前ではない。
だからひとつだけなら偶然だと片づけることもできただろうが、二つも合わさったとなれば確信があった。


この二つの墓は、海を渡って彼に届いた手紙の書き主の少女と、彼女と旅をした先代勇者の少年のものであると。


子どもたちの笑い声も鳥の鳴き声も、森の木立を抜ける途中に消え去う、この全ての生命が死に絶えたような安寧の地で
星空を見ながら寄りそうように立つ古びた二つの墓は、何故か彼の胸を締め付けた。



旅の途中に王都に足を運んだこともあった。その際、王都の中心に聳え立つ王立図書館の扉をくぐったことを思い出していた。
彼が所持している2通の手紙の内容――先代勇者について、初等教育で教わること(「勇者は神の力で人魔戦争において人間を勝利に導いた」)よりもっと詳しい知識を得たいと思ったからである。





322: ◆TRhdaykzHI 2014/02/10(月) 03:17:57.42 ID:pkkpz1gzo






しかし結果は拍子抜けだった。
どんな歴史書のページをめくっても、初等教育レベル以上の文言が綴られていることはなかった。
いっそ陰謀さえ感じるほどである。そんなにまでして勇者について隠したいことがあるのかと。

司書に聞いてみた。
するとこんな応えがかえってきた。


「その人魔戦争において、王都が襲撃されたときにここ王立図書館も被害を受けたのですよ。
 ドラゴンの吹く炎によって書物の大半が燃え尽きてしまいました。だから先代勇者について書かれた本もほとんどないのです」
 
 
ああなるほど、と思いかけて留まった。

それはおかしい。

先代勇者について書かれるなら、戦争が終わってからが時期的に一番好ましいだろう。
戦争時の王都襲撃は関係ないはずである。


きな臭い何かを感じつつも彼は図書館を後にした。




323: ◆TRhdaykzHI 2014/02/10(月) 03:19:13.88 ID:pkkpz1gzo




彼は、墓の前で何が何やらという顔をしている『勇者』、今の世代の勇者に2通の手紙を見せた。
ニーナが書いた手紙である。


最初は「冗談だろ?」と言いたげな勇者だったが、目の前にある二つの墓標を見やった瞬間、
何かを考え込むように左手をあごにあてた。しばらく沈黙した後、手紙を彼に返した。


「そうだな……。確証はないが、なんだろう。何故かそうだろうという気持ちが湧いてくる。
 ただ、そうなると後の二つの手紙が気になるところだな。彼女はあと二通の手紙を書いたと言っているんだ」
 
「そして……それを手に入れるチャンスがあるとしたら、次もあんただろう」


淡々と告げられたその一言に仰天したのは薬師の彼だった。
彼が仰天したのに驚いたのは勇者だった。


「えっ……!?」

「ええっ……!? 二度あったんだからあともう二度もあんただろ!?」

「えええっ……!?」



324: ◆TRhdaykzHI 2014/02/10(月) 03:26:43.89 ID:pkkpz1gzo




勿論、ここまでくればあともう二通も受け取りたいと思うのが人の性だが
なんというか勇者たる男にそう朗々と告げられると及び腰になってしまうのだった。


「俺も気になってはいたんだよ。昔の人魔戦争の真相がさ。
 元仲間で今歴史を教える教師をやってる奴がいるんだけど、そいつもやきもきしてるし」
 
「戦争の真実……」

「だから、それが明かされたらぜひ俺たちに教えてくれ。……きっと大事なことなんだ。
 歴史に今が左右されるのなんて間違ってると思うけど、前に進むために歴史を振り返るのはやっておくべきことだと思う」
 

暗闇の中でも勇者の放つ眼差しの鋭さは彼を射ぬいたように思われた。
無意識と言っていいほど自然に、いつの間にか頷いていた。


「……必ず」


勇者は、にっと笑った。




325: ◆TRhdaykzHI 2014/02/10(月) 03:30:03.31 ID:pkkpz1gzo




薬師の彼が、勇者の故郷を去って数日が経過した。
勇者は久しぶりに訪れた魔王城の一室で、さっそく先代勇者とその仲間の話を披露していた。



「もしかしたら人魔戦争の詳しいことが分かるかもしれないんだよ。ほとんど語られてなかった先代勇者のこととか、
 先代魔王や魔族のこととか、全部明るみにでるかも。本当は俺もあの薬師と一緒に手紙を探しに行きたかったんだけどな……」
 

「そんな暇あります? 勇者様は勇者様の仕事がたんまりあるんじゃないんですか?」


勇者と同じくソファーに腰かけ、竜族の彼が淹れてくれた紅茶のカップを傾けながら神官……元神官、現歴史教師の彼女が言った。
その言葉は勇者の胸につき刺さった。事実である。
がっくりと項垂れる勇者を横目に、同じくらい多忙なはずの魔王は、顔色を変えずに「うむ」とだけ述べた。


百年前の戦争において魔族が敗北し、残党狩りという名の魔族殲滅が行われた後、
それでもかろうじて生き残った魔族の末裔たちを束ねているのが
紅茶にシュガーを飽和量ぎりぎりまでいれまくって元神官に止められたこの魔王である。


数年前に人の国の王と平和条約を結んだのも彼女だ。
元幼女で待ちくたびれていたのも彼女である。





326: ◆TRhdaykzHI 2014/02/10(月) 03:31:28.84 ID:pkkpz1gzo




「あの戦争のことは、こちらもほとんど書物も口承も残っていない。少しでも歴史が明かされるのなら喜ばしいな」

「だよな」

「先代勇者の名前はハロルドだったか」

「勇者様と違って、魔法を得意にしてたんですよね」



うるさいな、と勇者が歯を食いしばった。「俺は剣があるからいいんだ、剣が」
言い訳だった。



「それで、その手紙を書いたという仲間の少女の名は?」


魔王が向かいの机から微かに身を乗り出して尋ねると、隣の元神官も期待するように目を輝かせた。
勇者が墓標に刻まれていた名前を告げた後の二人の反応は、彼にとって全く予期せぬものだった。




327: ◆TRhdaykzHI 2014/02/10(月) 03:33:18.27 ID:pkkpz1gzo



「……NINA? それってニーナって読むんですよね?」

「本当にそうなのか? 勇者くん」


二人で目を合わせて、戸惑っているような様子を勇者は驚いていた。
まさかこんな不穏な反応をされるとは思っていなかったのだった。勇者にとってその名前は聞いたことのないものだったからだ。



「なんだよ。二人は知ってるのか? 有名なのか、その子」

「いや……有名ではないが。まあ別に特別珍しい名前でもないし、人違いかもしれん。
 以前元神官に借りた神殿史の第10巻にその名が載っているのを覚えている」
 
「ええ、確か569ページの……」

「17行目だな」

「なんだお前ら。きもちわるっ」
脳筋の勇者にとって魔王と元神官の唱和はひどく頭痛を引き起こすものだった。


神殿史なる書物など勇者は読んだことはおろか存在すら知らなかったのだから、
ニーナに関する記載を彼だけが思い当らなかったのも必至である。
最も、億が一目を通したことがあったとしてもこの場で思いだせる自信は全くなかったが。




328: ◆TRhdaykzHI 2014/02/10(月) 03:35:23.72 ID:pkkpz1gzo



「で、なんて書いてあったんだよ?その神殿史には」


勇者が先を促すと、言い淀んだ後に元神官は口を開いた。


「あのぅ、本当に人違いかもしれませんからね?だって先代勇者の仲間がそんなことするはずないし……」

「もったいぶらずに教えろって」

「……彼女は罪人です」



彼女は口にするのも恐ろしいといった具合に、一息で言って青ざめた顔色のまま魔王を見た。
後を引きついだ魔王は、まるで目の前に置いてある教科書を朗読するように勇者に聞かせる。
死刑囚の烙印を押された少女の罪状を。





329: ◆TRhdaykzHI 2014/02/10(月) 03:37:58.86 ID:pkkpz1gzo




「戦争中に神殿の重役をその手にかけたのだ。彼女は剣の使い手だった。その剣で殺したのだ」

「殺人罪――死刑だ」

「没年は戦争の終結時……」


魔王の赤い瞳がなんの表情も湛えずに、瞠目する勇者を見た。


「遺体は残らなかった。だからこの国のどこにも墓はつくられていないらしい。
 ……勇者くんが見たのは本当に<ニーナ>の墓なのか?」
 
 

331: ◆TRhdaykzHI 2014/02/16(日) 02:09:41.22 ID:eFdTh6HQo



* * *


剣士「わ゛あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」ガバッ

僧侶「うおおっ! だ……大丈夫か?」

剣士「え、あれ?私……寝てた?あれ?」

僧侶「敵と戦ってる最中に睡眠魔法にかかっちまったんだよ。今俺が治したところ」

剣士「うそっ、ごめん。すぐ助けに行かなくっちゃ!」

僧侶「や、そろそろ勇者の野郎と狩人ちゃんが終わらせてるころだろうよ。
   数はいたが、そんなに強そうな奴らじゃなかったからな」
   
   

狩人「……終わったですね……」スッ

勇者「やれやれ。本来の進むべき道が雪崩で通れなかったから遠回りでこっちの道に来たけど、やけに敵が襲ってくるな」

狩人「いっぱい狩れて楽しいです……フフ。フフフフ」

勇者「狩人は元気だなぁ」




332: ◆TRhdaykzHI 2014/02/16(日) 02:12:55.43 ID:eFdTh6HQo





僧侶「おーい、終わったか?」

剣士「二人とも大丈夫?」

勇者「ああ、なんとか。それよりさっき剣士のすごい悲鳴が聞こえたけど、あれは一体……。……ハッ……僧侶まさか?」

僧侶「あん?」

狩人「……最低……」スッギリギリ

勇者「恥を知れよ」

僧侶「待て待て!濡れ衣だ!そんな汚物を見るような目で見るんじゃない!俺はなにもしてねえよっ!
   なんなんだよ畜生、お前らの中の俺のイメージってそんな感じなのかよ」
   
狩人「そんな感じというか……そのまんまというか……煩悩が服を着て歩いているというか……」

僧侶「なるほど……」

僧侶「言い得て妙だな!狩人ちゃん言葉のセンスあるなあ!」

勇者「受け入れるんだ」


剣士「あはは、僧侶くんは関係ないよ」

剣士「さっきの叫び声はね、ちょっと怖い夢見ちゃってたみたいなんだ。驚かせちゃってごめんね」

狩人「怖い夢?」

剣士「うん。誰かが剣を私に向かって振りあげてる夢!あと少し起きるのが遅れてたら死んでたよ。もう本当に怖かったんだから」






333: ◆TRhdaykzHI 2014/02/16(日) 02:15:52.87 ID:eFdTh6HQo




僧侶「でも、夢の中で自分が殺されかけるのはいい兆候らしいぜ。自由とか解放を意味するんだとか。
   今の状況が好転するきっかけになるかもしれないってさ」
   
勇者「詳しいね」
   
僧侶「修道院にいたとき、あのジジッ……神父がそういうのにはまってた時期があってな」
   
剣士「なんだ、そうなんだ。じゃあいい夢なんだ。でも今度あの夢を見たら返り討ちにしてやるんだから。
   あ……でも、そういえば……あのさ、勇者」
   
勇者「ん?」

剣士「なんだか、その剣ね…………、……やっぱいいや!」

勇者「なに?気になるなぁ」

剣士「なんでもない!行こっ」




334: ◆TRhdaykzHI 2014/02/16(日) 02:18:33.54 ID:eFdTh6HQo




僧侶「そういやお前、短剣で戦ってたのか」

勇者「ああ、うん。まだ目的地まで随分あるし、もっと強い敵が襲ってきたときのために魔力温存しといた方がいいかなって」

僧侶「せ、セコッ」

勇者「うるさいな」

狩人「あなたは剣も使えるですか」

勇者「少しだよ、少し」

剣士「……」



剣士(夢で見たあの剣の柄、王都の図書館地下で見た、あの魔剣……アルファ……アス? えーと、名前は忘れちゃったけど!
   あれに似てたような気がしたんだけどな)
   
剣士(でも気のせいだよね。だってあれ、勇者のための剣らしいし……ていうか夢だし、気にすることないか
   いつもなら夢なんて起きた瞬間忘れちゃってるのに、変なの)

狩人「剣士。おいてく……」

剣士「あ、待って!」タッ



335: ◆TRhdaykzHI 2014/02/16(日) 02:21:24.29 ID:eFdTh6HQo




剣士「えーと次は、……えー、これなんて読むの?」

勇者「みぞれ」

剣士「みぞれ?音階みたいな名前だね! それにかき氷でみぞれってあるよね。甘くておいしいやつ。あれ好きだなぁ」

狩人(音階……?)

剣士「きっと素敵な町なんだろうな!なんか瀟洒な建物とかありそう!町の人みんな上品でおしゃれで、甘い香りが漂ってきそうな……」



霙の町



ざわざわ ざわざわ


勇者「? なんだろう」

町人「おやおや!旅のお方!らっしゃっせぇい!!」

「「らっしゃっせーっ」」

町人「ようこそ!霙タウンにようこそ!!僕は雪が降ってても構わずタンクトップを着ちゃう野郎なんだぜ、よろしくな。
   旅人さんがた、今日この町に訪れるなんて幸運その身に有り余るほどですよ!!! このこの~!よかったな!」
   
剣士「イ、イメージと違う」

僧侶「出会って数秒なのにもう殺意が芽生えたぜ。殴るぜ」

勇者「おおい!なに拳を振りかぶってるんだ、やめてくれ! 脊髄反射か何か!?」

狩人「町の人全員がタンクトップだなんて……恐ろしい文化もあったものですね……」

剣士「こころなしか平均気温が上がった気がするよ」




336: ◆TRhdaykzHI 2014/02/16(日) 02:25:28.29 ID:eFdTh6HQo



町長「ようこそ!タンクトッ……霙の町へ! ん……?その外見的特徴……もしやお主ら勇者様とそのお仲間の方ですかな?」

勇者「あ、はい、でもあの、本当お構いなく。本当に」

町長「なにを仰る!?勇者様がたに十分なもてなしもせず旅立たせるなど、タンッ……霙の町町長の名が廃るわっ!!」

剣士「もう素直に町の名前改名しなよ!」

町長「ここは農作物も豊かに育たぬ気候ゆえ、普段ならしょっぺー歓迎しかできなかったのですが、ああ、本当に運がよかった。
   この町は近くにある、海につながっている湖の水産物で何とか糊口を凌いでいるんですがね、この間大収穫がありまして」
   
町長「今日はその宴の予定だったのですよ!ぜひ貴方がたもご参加を!!さあさ、宿にご案内しますよ!こちらへどうぞ!
   それから男性の方には、この町の一般的なコスチュームもご用意いたしますんでね」
   
勇者「どうも、ではお世話になります。……あ、コスチュームとやらは結構です」

町長「郷に入らば郷に従えと言うじゃないですか?」

勇者「あ、知りませんそんな言葉。無学なもので!すみません!」

僧侶「オイッ町長、サイズを目視で測ろうとすんな!!いらねーっつってんだろ!!」





337: ◆TRhdaykzHI 2014/02/17(月) 00:26:22.11 ID:25qYxa5Zo






町民「さ、たんと召し上がってくださいね!!」

勇者「す……すごいな」

剣士「わあ、豪華だね。魚料理がたくさんだ」

狩人「里では山菜ばかりだったから新鮮……」

僧侶「確かにうまそうだが、右を見ても左を見ても正面を見てもタンクトップ着た男ばっかり目に入るんじゃ、うまさも半減だぁ……
   こんな食事風景、死よりも辛い……もっと女子率増やしてくれええええ!」

剣士「私はもう慣れたよ。慣れって大事だよ。ハハ」

僧侶「こんな諦観あらわな剣士ちゃん見たくねえよお!!」



剣士「おいしいね!」

狩人「……」コクコク

男「さあさ次はみんなお待ちかねのメインディッシュだ!いま下の厨房で捌いてきたばっかりだから新鮮だぜ!」

うおおおおー!きゃーー!やっときたか!


勇者「わっ、なんだなんだ?」

僧侶「そんなに珍しい魚なのか?」

町長「ええ、ええ。そうですとも。……うーんおいしい!こんな美味い魚は初めてだ!」




338: ◆TRhdaykzHI 2014/02/17(月) 00:28:00.43 ID:25qYxa5Zo



勇者「本当だ、おいしいですね。噛みごたえがあって」

町長「それに眉つばですが、なんとこの魚を食べますと不老不死になるとかならんとか!!」

狩人「……へえ……」

剣士「えー、本当かなぁ」

町長「ははは、そう信じてる人もごくまれにいるのですよ。
   何匹か捕らえたのですが、余った分はそういう人々に売ればこの町も栄えるってわけです」

町長「もっと資金が潤沢になれば、我々も服を着込むことができましょう!」

勇者「えっその服装ってそういう理由だったんですか」

町長「四分の一そうで、四分の三は趣味です」

剣士「ほとんど趣味だね?」

僧侶「ところでよ、この魚は一体なんて名前……」

  「町長!そろそろおかわり捌いてきましょう!」
  
町長「ああ、分かった!ではまたお話しましょう、みなさま」



勇者「賑やかな町だな」

  「――……―――」
  
勇者「……? いま何か喋った?」

剣士「へ?喋っへらいよ」モグモグ

狩人「気のせいでは」

  「…………―――」
  
勇者(……なんだろう)

勇者「ちょっと外に行ってくるよ」

剣士「え?どうして?」

勇者「いや……僕にも分からないんだけど……」

剣士「えええ?どういうこと?」





339: ◆TRhdaykzHI 2014/02/17(月) 00:30:16.06 ID:25qYxa5Zo




  「――……」
  
勇者「誰かが呼んでるような……だんだん声が大きくなってきた。 こいつ直接脳内に……」

勇者「……町の外れまで来たけど」

女エルフ「遅い!」

勇者「君は雪原のエルフじゃないか。な……なにをしてるんだ、しかもこんなところで」

勇者「二度目はないと言ったはずだ。まさかこの町の人たちを襲いに?」

女エルフ「違うわよ。大体私一人で来て何ができるって言うのよ。自分で言ってて悲しくなったけど。
     ちょっととりあえずこっちに来て、人目につかないように!」
     


女エルフ「……で、本当にそっちは一人? あの……ほら……女と男は?」

勇者「女と男?」

女エルフ「弓もった女とあんたのほかに杖持ってた男」

勇者「狩人と僧侶? あの二人なら食事をしてるけど」

女エルフ「そっ。ならいいの。あの二人は生意気だから嫌い! じゃああの剣持った奴は……?」

剣士「私がどうかしたの?」

女エルフ「ひわーーーー!?」ビクッ

勇者「剣士!どうしてここに?」

剣士「勇者の様子が変だったから、もしかして魔族の魔法に操られてるのかなって思ったの。だから追ってきたよ」

勇者「まあ概ねその通りだな」

女エルフ「私は操ったりなんかしてないし!ただちょっと勇者にテレパシー的な力で呼びかけただけだし。
     大体そんな高度な魔法できるのなんて四天王の魔女様くらいだわ」
     
女エルフ「は、もうびっくりさせないでよ。まああんたならいいわ。あのねえ、今日私がここに来たのはあんたたちに忠告するため」





340: ◆TRhdaykzHI 2014/02/17(月) 00:38:45.98 ID:25qYxa5Zo




勇者「忠告?」

女エルフ「そうよ。別に私はそんなことしたくないんだけど、大叔母様に恩は絶対返しなさいって言われたからだからね!
     借りはつくりたくないの、それだけだから。大叔母様に怒られるからだからね!!」
     
女エルフ「……ヒュドラ様と戦いに行くんでしょ? それさあ……止めた方がいいんじゃない?」

剣士「え、なんで?」

女エルフ「だってヒュドラ様、勇者たちの何倍も強いんだよ。あのね、首が9つもあるんだから。しかもすっごい大きいの。
     ヒュドラ様にかかったら二人なんてあっという間に肉塊だからね」
     
剣士「9つもあるの!? ってことは9回殺さなくちゃ?」

勇者「長期戦になりそうだね。早いうちにできるだけ首を落とさないとジリ貧になりそうだ。
   狩人にはヒュドラの目を狙ってもらって、状態異常が効くなら僕がほかの首抑えて、その間に剣士が……」
   
女エルフ「おーい!対策を立てるな!私は戦うのやめた方がいいんじゃないって言ってるんだけど!」

女エルフ「ていうかたぶんそれも無理だって、近づくこともできないんじゃない?ヒュドラ様は毒攻撃が強いのよ。
     人間なんて1秒でゴートゥーヘルだよ、ノッキンオンヘブンズドアだよ」
     
剣士「毒?それも厄介だね。解毒剤効くかな?無理だったらほかの方法考えないとね」

女エルフ「話きけよ!ほかの方法考えるんじゃなくってさ!」

勇者「でもヒュドラとは戦わなければ。それで塔を解放しないといけないから。勇者として」

女エルフ「どうせ戦っても死んじゃうんだから、無駄だって!だからやめなよ!
     で……でさ、勇者と剣士の二人だけなら、私が匿ってあげてもいいよ。大叔母様もいいよって言ってくれたし……」
     
女エルフ「私のペットにしてあげてもいいよ!その場合逃亡を防ぐために手足はもぐことになるけど、別にそれくらいいいよね?」

剣士「よくないっ!よくないよ!得意げに残酷なこと言わないでよ!」

女エルフ「勇者は別に構わないよね?ね?死ぬよりいいよね?」

剣士「だめだよっ!!ちょっとーっ勇者から離れてよー!!もうこのエルフ怖いよー!」





342: ◆TRhdaykzHI 2014/02/17(月) 00:43:29.01 ID:25qYxa5Zo




勇者「だめだよ。逃げるわけにはいかないんだ。ヒュドラを倒して、雪の国の人々を救わないといけないんだ」

勇者「まあ普通に手足?がれるのも嫌だけどさ」

剣士「そうだよ!だからだめだからね!そんなグロい展開だめ!」

女エルフ「なななななによ、ふん。私は善意で言ってあげたのにさ。どうせ負けちゃうのに!
     じゃーもういいよ。ばいばい!」パッ
     
勇者「心配してくれてありがとう」

女エルフ「はあ?別に心配してないし!!ばーかばーか!自意識過剰なんじゃないの? またね!」


パタパタ……



剣士「行っちゃったけど……『またね』って、また会いにくるつもりなのかなぁ。変な魔族」

勇者「変わってるよね。でも、ああいう魔族もいるんだなって思うと……
   ひょっとしたらこの戦争は僕が考えてるよりも、もっとずっと平和的な解決ができるかもしれない」
   
勇者「……って思えるな」

剣士「そうだね。平和が一番だよね。
   あのとき……やっぱりあのエルフを殺さなくてよかった。なんだか、えーと……えっと……」
   
剣士「うまく言えないけど、今ちょっと嬉しい」

勇者「……うん、僕もだ」

勇者「もう戻ろうか。宴の途中だ。あーでももう食事なくなってるかも」

剣士「私まだ食べ終わってない!早くもどろ!」クイ

勇者「わっ」




343: ◆TRhdaykzHI 2014/02/17(月) 00:45:42.13 ID:25qYxa5Zo




剣士「あー……本当にもう終わってた……魚美味しかったのにもうない……」

町民「お仲間の僧侶さんと狩人さんなら、もう宿に戻られてますよ!!押忍ッ!」

勇者「仕方ない、僕たちも宿に戻って今日はもう寝ようか」

剣士「そうだね……うぅ」



 「……、……」
   「…………。」
   
   
剣士「ハッ!これがさっき勇者がエルフから受け取ったっていうテレパシー的なあれ!?
   なんかひそひそ、直接頭の中に響いてるみたいに聞こえるよ」
   
勇者「や、普通に地下の厨房の方からの話し声だよ。別に君の頭の中に直接いってないよ」

剣士「なんだ……」

勇者「なんか焦ってるような声だね。ちょっと行ってみようか」



トン……トン……トン……トン……



344: ◆TRhdaykzHI 2014/02/17(月) 00:49:48.38 ID:25qYxa5Zo



  「……する?……っかく生け捕りに……のに……これじゃ値段が下がっ……」
  
  「……さかこんな……なるとは……」


剣士「あの大収穫だって言ってた魚のこと話してるのかな」

勇者「みたいだね」


  「……を……舌を噛み……て自殺……んだ……してやられた……」
  
  「値段は下が……、それでもまあ……なかなか……」
  
  
  
  
勇者「ん……?」




345: ◆TRhdaykzHI 2014/02/17(月) 00:51:34.56 ID:25qYxa5Zo



勇者(魚が自殺?)

剣士「なんか、すごい血の匂いするね。魚って捌いたことないけど、こんな強烈なんだ」

勇者「うん……そうだね……」

剣士「あのーなんだか困ってる声が聞こえたんだけど、どうしたの?町長さんたち。剣士と勇者ですけど」コンコン

町長「ああ!二人ですか。いやあ、ちょっとですね……あ!もしかしたら勇者様の魔法なら!
   どうぞお入りください!」
   

ギイィィ……


勇者「……」

剣士「え……?」

勇者「…………その台に乗ってる……のは、何ですか」

町長「なにって……」

町長「マーメイドですよ。見るのは初めてですか? さっき貴方がたに召し上がっていただくために捌いたやつです」

剣士「え……」

剣士「……え?……え?え?え?」




346: ◆TRhdaykzHI 2014/02/17(月) 01:03:43.87 ID:25qYxa5Zo




剣士「魚じゃ……え、さっきの料理はじゃあ……。
   わ、私たち……それを食べてたの? 」
   
剣士「……魔族を……」

町長「え?はい、そうですよ!美味しかったでしょう?
   今日調理したのは下半身だけですが、上半身もちゃんと明日使いますよ」
   
町長「あー、確かに厨房は大変ショッキングな映像になってますけど、こんなのみんなやってることですから!
   ところで勇者様、あっちの水槽に入ってるマーメイドを生き返らせることってできますか?」
   
町民「売りさばくために生きてる方が都合がいいんですよ! 高く売れる。
   無力なマーメイド族が湖に迷い込むなんてめったにないことですからね!このチャンスを生かさないと!」
   
勇者「……う……」

剣士「ひどいよ……」

町長「ひどい……? 何故ですか?」

勇者「そ……それはこちらの台詞です。何故こんな残酷なことを……。
   あ、あなたたちはさっきまで普通の……ちょっと変だけど普通の人たちだったじゃないですか」
   
勇者「無力なマーメイド族の娘を捕えて、しかも食べるだなんて!……常軌を逸してる」

町長「常軌……? ははあ……きっと勇者様と剣士様がいらっしゃった太陽の国は、まだ魔族の侵攻がないのでそう言えるのですね」

町民「魔族がこの国に蔓延りはじめて幾年、おかげで傭兵の護衛なしで船もだせんし、迂闊に街道も歩けやしません。
   ただでさえ土地に恵まれてなかったこの町は衰退の一途を辿るばかり」
   
町民「国は戦争に手いっぱいでこんな小さな町に救いの手を差し伸べる余裕はないようです」

町長「そんな我らの前に突如現れたのが、その肉が高額で売れる人魚です。弱っていて、武人ではない我々でも容易く捕えられました。
   お二人は今私たちを気狂いでも見るような目でみていらっしゃいますが!」
   
町長「ならば人魚を見逃して、我らに餓死せよと仰るのですか!? この困窮の原因も魔族だと言うのに!」

剣士「だ、だからって……ひどいよ!あなたたちを襲ってきたわけじゃないのに。それに……敵だって言っても食べるなんて。
   私……私、大切な人が誰かに食事として食べられちゃったなんて聞いたら死んじゃいたくなるくらい悲しいよ……」
   
町民「道徳的なことをいうなら、こんなのこの国じゃ至って普通のことですよ。それくらい切羽つまってるんです。
   大体……魔族だって人の肉、食べてますし。お互い様ですね!」
   
町長「まあ最初はお二人も抵抗あるでしょうが、何、牛や豚を殺して食うのとなんら変わりはないです、はい。
   それに……なんといっても……美味でしょう。あの味、めったに味わえませんよ」
   
剣士「でも」

勇者「剣士。もうやめよう」

勇者「町長さん、死者を蘇らせる魔法なんて僕には使えません。じゃあ、お世話になりました」




349: ◆TRhdaykzHI 2014/02/18(火) 16:20:08.48 ID:l03q3Opvo


ガチャッ


剣士「ちょっと、勇者! このままじゃああの残った人魚、食べられちゃうよ。
   もう死んでるって分かってるけどさ……そんなの……」
   
勇者「……」

剣士「さっき会ったエルフの子みたいな魔族だったのかもしれないのに。かわいそうだよ……」

勇者「……」

剣士「それなのに……食べちゃったんだ、その子……私も勇者も、あの場にいた人全員!!
   その子の家族が今も必死に探してるかもしれないのに、食べちゃったよ……おいしいって言って……、う」
   
剣士「はあ……はあ……」

勇者「……大丈夫?」

剣士「ちょっと気持ち悪い……かも……」

勇者「……日の出とともにこの町を出よう」

剣士「うん……」





350: ◆TRhdaykzHI 2014/02/18(火) 16:21:44.38 ID:l03q3Opvo




剣士「こんなの知りたくなかったよ。人があんなことをしてたなんて知りたくなかった……。
   私たちは人のために戦ってるのに……魔族を殺してるのに……」
   
剣士「でも殺すのと食べるのってそもそも何が違うのかな。同じ……いや、やっぱり同じじゃないよ。
   食べるのは尊厳に対する侮辱で……冒涜なんだよ、同じレベルの生き物だって認めてないからできることで……
   生きて積み上げてきた全部を踏みにじる行為だから……だから……」
   
勇者「剣士、……剣士!」

剣士「……え?あぁ……何?  はあ……はぁ……」

勇者「もう今日は休んだ方がいいよ。ほら、宿に着いたから。今日見たことはとりあえず全部……忘れよう」

剣士「でも……、……?」

剣士「あれ……なんか急に眠く……う……」





351: ◆TRhdaykzHI 2014/02/18(火) 16:22:33.14 ID:l03q3Opvo



ガチャ



狩人「勇者……と剣士。どこに……行ってたですか?」

狩人「……? 何かありました……?」

勇者「狩人。よかった、まだ起きてて。剣士を頼むよ」

狩人「何故剣士は眠って……?」

勇者「剣士ってあんまり睡眠魔法に耐性ないみたいだね。
   あ、明日日の出とともにすぐこの町を発つ予定だから、急だけどよろしく。じゃおやすみ」

狩人「え?はい……。……?」




352: ◆TRhdaykzHI 2014/02/18(火) 16:23:33.60 ID:l03q3Opvo




ガチャ

僧侶「グオーーーー……ゴーーー……」

勇者「……はあ」バサ

僧侶「ンゴーーーーズゴゴゴゴゴ」

勇者「すごいうるさい……」

勇者(……。やっぱり平和的解決なんて無理か……)

勇者「人間が正しいんだ。僕たちは人々のために戦うんだ」

勇者(仕方ないことはどうしようもできない……全部救うことなんてできないんだから。
   そもそも片方だけだって僕にできるか分からないのに、そんなのは偽善だ)
   
勇者(魔族と人なら人を救わなければ……魔王を倒す、それだけが僕の生まれてきた意味であり使命だ
   まだ大丈夫……まだ信じられる……。今日のことはもうあまり考えないようにしよう)
   
勇者「寝よう」

僧侶「ズゴーーーーー……ゴーーー……」

勇者「……」ギリギリ




353: ◆TRhdaykzHI 2014/02/18(火) 16:25:09.79 ID:l03q3Opvo




* * *

パタパタ……


女エルフ「……ありゃ? 魚人族と水牛族だ。なにしてんだろ」

魚人A「エルフ族の者か。何をしている?」

女エルフ「別に?ちょっとブラブラしてただけだし。そっちこそ何してんのさ」

水牛G「行方不明になっていたマーメイドたちの居所が分かった。今から霙の町に救出に行く」

魚人F「おい、悠長に話してる時間はないぞ!事は一刻を争うのだ!進め!!エルフなんぞに構うな!」

女エルフ「……えっ、霙の町って……間違いじゃないの? そんなことあるはずないって!」

水牛B「なんだと?貴様何か知っているのか?」

女エルフ「……と、思うなあ~? じゃ、じゃあ私もついてくわ!」

魚人A「エルフの微弱なる力なぞ大した戦力にならんわ。お前はすぐ帰れ!」

女エルフ「なにい!?」



ザバッ……


女エルフ「おのれー、あいつらエルフ族馬鹿にしやがって。いつか成り上がってヘイコラ言わせてやるからな!!
     それにしても……大丈夫かなあ……」
     
女エルフ「別に勇者たちのこと、心配してるわけじゃないけどっ!わ、私がこっそり会ってたことばれたら大変だし!」

女エルフ「どうしよ……」



354: ◆TRhdaykzHI 2014/02/18(火) 16:28:13.54 ID:l03q3Opvo




* * *


雪の国 宮殿


大臣「閣下。今よろしいですかな」

雪の女王「なんだ、言え」

大臣「いい知らせと悪い知らせがございます。どちらからお先に聴かれますか」

女王「……悪い方から」

大臣「本日早朝、霙の町が魔族に襲撃され……壊滅状態だということです」

女王「生存者は」

大臣「ゼロです」

女王「……。何故あの町が……」

女王「……続けろ」

大臣「は。いい知らせですが――先ほど届いた鳥文によると……」



大臣「勇者がまもなく首都に到着するそうです」




355: ◆TRhdaykzHI 2014/02/18(火) 16:30:03.99 ID:l03q3Opvo




* * *


雪の塔


魚人族長「うっ……ヒュドラ様、申し訳ありません。だめでした!マーメイドの娘たちを救えませんでした……!
     すでに……すでに殺されて……!! 見るも無残な姿に……!」
     
ヒュドラ「そうだったか……。可哀そうに……。丁重に弔ってやれ」

水牛「ヒュドラ様。その町の人間に聞いたところ、我々が到着する直前まで勇者がそこに滞在していたようです」

ヒュドラ「何?」

水牛「マーメイドたちが捕まったのも、勇者の仕業かもしれませぬ」

魚人族長「そうだ。あの娘たちにはくれぐれも人の土地に近づかないよう言い聞かせていたのです。
     勇者の魔法によって捕えられたとしか考えられません!」
     
ヒュドラ「……」

水牛「今すぐ攻め込みましょう!このような卑劣な所業、許しておけません!」

ヒュドラ「待て。私たちが動かずとも、勝手にあちらから来てくれる。
     この深海に沈んだ雪の塔……我らが城に」
     
ヒュドラ「全力でもてなしてさしあげろ。この海を奴らの汚らわしい血で濁すことは気が進まないが、やむを得ぬ」

ヒュドラ「迎え撃て。いいな」

「「ハッ!」」




356: ◆TRhdaykzHI 2014/02/18(火) 16:33:59.77 ID:l03q3Opvo




ヒュドラ「……というわけで間もなくここは戦場となりますが、いかがいたしますかね。グリフォン」

グリフォン「四天王様が敬語なんて使わないでくださいよ」

ヒュドラ「あなたは私の部下じゃありませんから、なんとなく」

グリフォン「ははあ。 僕は戦闘からっきしですから、人間とは戦えませんがここに残りたいと思ってます。
      勇者が来るそうですね?そもそもここに来たのは人間……特に勇者の生態研究のためなので、
      間近で彼らを観察するチャンスは無駄にできません」
      
ヒュドラ「そうですか。でも死なないように気をつけてくださいね」

グリフォン「大丈夫ですよ。姿を表わす真似なんてしませんから。物影からひっそりねっとりぐっちょりデータとるだけですアハハハ……」

ヒュドラ「……(びっくりするくらい気持ち悪いなあ。グリフォンの一族ってみんなこうなのかなあ)」

グリフォン「ま、あわよくばなんて気持ちがちょっとありますけどね」

ヒュドラ「魔女にもらったというアレを使うんですか?」

グリフォン「機会があれば」




357: ◆TRhdaykzHI 2014/02/18(火) 16:35:53.80 ID:l03q3Opvo





* * *


太陽の国 南部 結界外


兄「…………ふむ……」

兄「位置特定の魔法を使った結果、愚妹は太陽の国の……地下にいると出たんだが……
  地下ってどういうことだ、地下って。まさか地下街でも作ったのかあいつ」
  
兄「そもそも結界があるのに俺は入れるのか。まあいい、試してみるしかないか。
  海岸から進むとしよう」
  


ゴリゴリゴリ


兄「……行けたな。結界は地表しか守護していないのだな。ということは地下から襲撃できたり……」

兄「は、しないか、流石に。地表全て覆ってるのだな。……えーと、ここを少し右に掘って、後は真っ直ぐ。
  俺が通った後の道は防ぐのも忘れんようにせんと、誰かに気づかれる……」
  
兄「……はーっ! 魔王の息子たる俺が一体何をやっているのだか。こんな地面を地道に掘るため持って生まれた魔力ではない!」

兄「このようなことまで兄にさせて、こうなれば絶対に何がなんでも連れ帰るぞ、妹」


ズゴッ!


兄「ん……?光?」

兄「……なんだこれは……?」

女「うおわっ? な、なんだねアンタ?そんなとこから?」

少年「壁から悪魔さんが現れたー!」

兄「ん!?」



358: ◆TRhdaykzHI 2014/02/18(火) 16:37:00.29 ID:l03q3Opvo




兄「な……あ……人間!? なんだここは、貴様らの村か? 地下に村など……こんな大きな、一体何故」

女「ああそうさ。で、あんたは何、魔族かい? あんたもここに逃げてきたのか? にしても……ハハハ!
  あんたどっから入ってきてんのさ!壁から来たのなんてあんたが初めてだよ」
  
少年「悪魔の兄ちゃん泥だらけだ!きったねー!」

兄「……貴様ら怖がらないのか。俺は魔族だぞ」

少年「なんで怖がらないといけねーの?悪魔さんも逃げてきたんでしょ?俺らの仲間じゃん」

兄「は?逃げて……?」

少年「ていうか、村の外れに住んでる姉ちゃんにそっくりだなあ、あんた」

兄「……!」


兄「そこに案内しろ」

少年「え?別にいいよ」


――――――
――――





359: ◆TRhdaykzHI 2014/02/18(火) 16:38:55.76 ID:l03q3Opvo



兄「お」

兄「っお……!! お前……!!」

妹「あ、兄さん!?」

兄「おま……っ! お、おお前っ!!?」

妹「なんで兄さんがここにいるの?」

兄「お……あ……お……」

兄「その……は、腹……まさか……」

妹「……あ。うん、えと……えへへ」

妹「……もうすぐ生まれるの。 名前、どうしよっかって今考えてるとこ」

兄「」




360: ◆TRhdaykzHI 2014/02/18(火) 16:42:57.49 ID:l03q3Opvo




女「わー!ちょっとあんた落ち着きなって!剣しまえ剣! ほら父ちゃんも止めてよ!」

男「こいつ滅茶苦茶力強ぇぞ、何者だ!」

少年「悪魔さん」

兄「父親を出せ……今すぐにだッ!!!!俺の妹連れて駆け落ちしたかと思ったら早速手ぇ出しやがって!!!
  もう許さん絶対許さん、父親を殺してお前は城に連れ帰る、いいかこれは決定事項だ異論は認めん!!」
  
妹「もうっ兄さんやめてよ! そ、それに……それに私が彼に赤ちゃんほしいなって言っ」

兄「言うなやめろ聞きたくない!!!馬鹿!!!この愚妹がーーっ!! わ……分かっているのか、人間との子なんぞ」

兄「魔王の娘が人との子を孕んだなどと魔族の皆に知られたらどう思われるか。
  その腹の子は魔族でも人でもない……。生まれたとしても、どちらの種族からも拒絶されるだろう。あってはならん命だ」

兄「……今のうちに殺せ。今ならお前の馬鹿な真似もなかったことにできる。俺がここで見たことは父上にも誰にも黙っててやろう」

兄「お前の子は忌み子だ」

妹「それは違うわ」

兄「なんだと?」




363: ◆TRhdaykzHI 2014/03/05(水) 20:14:42.53 ID:ZhI8/l+/o




妹「この子は未来の扉を開く鍵なんだもの。
  今は魔族からも人間からも認められないかもしれないけど、代わりに私と彼がその分大きな愛情を注ぐわ」
  
妹「忌み子なんかじゃない。大切な私の子だよ」

兄「……俺はお前を連れ戻しに来たんだ。腹の子は連れて行けない」

妹「私、帰らないよ。ここで生きていくの」

兄「…………」

妹「…………」




男「……まーまーまーまー!なんか知らんが、久闊を叙する兄妹で積もる話もあるだろう!
  ひとまずどうだい、家の中に入って茶でも入れようぜい!」
  
少年「いえーい!」



364: ◆TRhdaykzHI 2014/03/05(水) 20:19:04.70 ID:ZhI8/l+/o



兄「大体なんなんだ、ここは? お前たちは何故地下深くに住んでいる」

妹「ここはね、元々地下遺跡だったみたい。周りの壁や建物を見てみて? それっぽい跡がいっぱいあるから」

兄「……後でじっくり見てみよう。ここが遺跡だと言うのは分かった。何故ここに住むようになった?
  先ほどそこの小僧も言っていたが、『逃げてきた』とは一体なんのことだ?」
  
少年「あれー、悪魔さん見て分かんないの? じゃあ俺の、この真っ白な髪見てよ。おじいちゃんみたいな髪」

男「それから俺のこの手。両手合わせて指が13本もあるんだぜ」

兄「……? 何がおかしいんだ?」

少年「えー!?本気で言ってんのか? 
   あのなー、子どもなのに白髪で生まれたり、指が10本以上あったりするのは『異常』だったり『化け物』って言われちゃうんだ」
   
男「世間一般の普通の人たちとは、どうしても一緒に暮らせねぇんだ。……ま、いろいろ嫌な目に会うってわけさ」

兄「髪や指……その色や数が違うというだけで共同生活ができなくなるのか? 人間は大変だな」

女「私みたいに、外見じゃなくてお家騒動に巻き込まれて明るいところじゃ生きていけなくなった奴もいるよ」

男「こういう地下集落はここだけじゃないらしいぜ。地下遺跡は昔はもっとでかかったらしくってな、
  ここと繋がってはいないが、同じような村が地下にあるんだろうさ」

妹「あと私以外に魔族もいたよ。人間と恋に落ちて、二人で暮らすために逃げてきたんだって」ニコ

兄「……」

兄「…………お、」


バタンッ


青年「ただいま。……ん?なんかお客さんが今日はいっぱいだね。何かあっ……」

妹「あ……」

少年「あっ!」

女「あ」

男「あ」

兄「……」

青年「たの……かなあ……?」



365: ◆TRhdaykzHI 2014/03/05(水) 20:25:47.94 ID:ZhI8/l+/o




兄「…………………………………………」

兄「…………………………………………」

妹「兄さん……彼のことそんなに睨まないで!怖いよ!」

青年「あの、お義兄さん。初めまして。僕が妹さんと一緒に暮らしている者です。
   お義兄さんは魔王の息子さんだって聞いてたんですけど……」
   
兄「貴様ァ……」

青年「いやあ、本当、すごい迫力で、……ご挨拶が遅れまして本当に申し訳……」

兄「謝るくらいだったら最初からするな!!どう落とし前つけてくれるんだ? あー?」

青年「はははははい覚悟はできてますどどどどどうぞ首でもなんでも持ってってください」

兄「潔い男は好感が持てるぞ。よし、じっとしておけ」チャキッ

妹「だから、やめてって言ってるでしょ兄さん?」


スパーーン


妹「今、彼に変な催眠魔法かけてたでしょ? そういうの本当やめてね?大体彼がいなくなったらお腹の子はどうなるのよ?」

兄「お前……自分の兄になんということを。城を出て随分強かになったな」

青年「あ、あれ……?」

兄「しかし魔法と言ってもほとんど無意識のものだぞ。そんな微弱な術にかかってしまうとは情けない。
  人の造形のことは分からんが、体つきも顔も平平凡凡……それともなんだ?剣が扱えるのか?」
  
青年「へ?いや僕は剣なんて握ったこともありません。昔からパン職人として生きてきたもので」

妹「私たちみたいに魔法を使えないし、剣だって彼はできないけど、でもとっても優しいんだよ。 ……ねっ」

青年「あはは……ありがとう」

兄「……」ザンッ

青年「ヒイ!?」




366: ◆TRhdaykzHI 2014/03/05(水) 20:27:28.07 ID:ZhI8/l+/o





兄「いいか、俺の前で妹とイチャイチャするな。さもなくば――殺す」

青年「は、はい」



少年「ねー女さん。これがシスコンってやつ?」

女「そうだよ」



兄「……まあお前のことなんてどうでもいい。ほら、駄々こねてないで帰るぞ妹!」

妹「だから帰らないわ! 私はもうすでに魔力もほとんどゼロ、魔族としても魔王の娘としてもできそこないよ。
  ここで生きると決めたの。彼と生きるって決めたから全部捨ててきたの」

兄「お前なあ!病床に臥している父上のことは気にならないのか!? 俺は父上に言われてお前を探しに来たんだ」

妹「……っでも、お父様だってもうこんな私のこと、娘だなんて思ってくれないに決まってる」

兄「娘だとハッキリ言っていた。お前を心配している。
  ……はあ、現場復帰した炎竜が太陽の国制圧の担当になったが……いまだこの国に攻撃の一つも仕掛けられていない理由が分かるか」
  
妹「……」

兄「お前がこの国のどこぞにいるかもしれないと思った父上が止めているんだ。
  病に冒され、もう長くない命にも関わらず、長年の野望だった大陸統一すら遅らせてお前の身を案じているんだぞ」
  
妹「……」

妹「大陸統一……それだけのために多民族を制圧……人と魔族が戦って血はどんどん流れるわ。……分かった、兄さん」

妹「このお腹の子を産んだら、一度そちらに帰ります。そしてお父様とお話する」

兄「そうか……」

妹「そして戦争を止める。人と魔族の間に休戦条約もしくは平和条約を結ぶことに私の全生命をかけてみせる」

兄「はっ!?」



367: ◆TRhdaykzHI 2014/03/05(水) 20:28:59.65 ID:ZhI8/l+/o



青年「妹さん……」

妹「大丈夫。私なんかがお父様に意見するなんてって思ってたけど、だからって、私がここでのんびり暮らして、
  あとは兄さんに全部まかせるだなんてそんな図々しいこと言えないもの」
  
兄「待て。俺は一言もお前に協力するとは言ってないぞ。 俺は次期魔王として、人を支配下に置き……魔族のための世界を目指す」

妹「兄さん。兄さんは兄さんなんだから、無理してお父様のやり方を真似しなくていいと思うの。
  魔族のための世界なら、なにも戦争に勝たなくったって実現できるんじゃないの?」
  
兄「なにを……馬鹿なことを」

妹「目を逸らしてるだけだよ。本当は、必要ないなら人だって殺したくないって思ってる」

兄「……思っていない」

妹「だったらいいよ。私一人でお父様も兄さんもこれから説得する。覚悟しておいてね」

兄「…………」

兄「もうこんな時間か。俺は帰る。邪魔したな」




368: ◆TRhdaykzHI 2014/03/05(水) 20:30:32.75 ID:ZhI8/l+/o




兄「一度城に帰って父上と会うと言ったのは本当だろうな」

妹「うん、本当だよ。ちゃんと守る」

妹「兄さん。また来てね」

青年「お義兄さん、今日は情けない姿ばっかり見せちゃいましたけど……」

青年「……僕が必ず妹さんを幸せにします!」ギュッ

妹「せ、青年さんったら」


ビュッ!!


兄「俺の前でイチャつくなと言ったはずだが……?」

青年「さ、さっきのはイチャついたうちに入るんですか……? 手を握っただけで……?」

兄「無論だ」

兄「……じゃあな」




少年「悪魔さん、魔王の息子なんだ。確かに怖かったもんなー」

男「いやいや……つーか妹ちゃんも魔王の娘だったのか」

妹「あ、うん。言ってなかったかしら」




369: ◆TRhdaykzHI 2014/03/05(水) 20:31:08.02 ID:ZhI8/l+/o



兄(……そういえば。この地下集落は元々遺跡だったのだな。確かに妹の言う通り、壁にところどころ絵や文字が……
  しかしなんだこの文字は?見たことのないものだ)
  
兄(……まるで魔族の古代文字と人の文字が合わさったかのような、妙な文字だ。人間の歴史には全く興味がないが……)

兄(一体これは何の遺跡だ?)




370: ◆TRhdaykzHI 2014/03/05(水) 20:34:24.43 ID:ZhI8/l+/o



* * *


雪の国 首都


僧侶「なんか勇者と剣士ちゃん、あの村出てから暗くね?喧嘩したのか?」

勇者「いや……」

剣士「なんでもないよ……」


ドンヨリ……


僧侶「なんでもない割にめちゃくちゃ空気が重いんだが。なにこれ息苦しい!狩人ちゃんヘルプ!」

狩人「なにかあったですかね」

僧侶「もうこうなったら俺たちが場面を明るくするしかねーな!!よっし狩人ちゃん一緒に愛を育もゾゴフェッ」

狩人「二人とも……絶対元気ないです。どうしちゃったですか?何があったのですか?」

勇者「……本当になんでもないんだ!いやーむしろ元気がありあまって、逆にないように見えるっていうそういう現象じゃないかなっていう」

狩人「なんですか……そのふわっとした弁明は……」

剣士「うん!!そうだよ!!アドレナリンでまくりのハイパー元気モードだよ!!ひゃっほー!」

狩人「は、はあ」

勇者「あ。もうついたね。じゃあ会おう。雪の国の女王と」




372: ◆TRhdaykzHI 2014/03/05(水) 20:37:12.25 ID:ZhI8/l+/o




氷の宮殿


女王「よくぞ参った。我が国の危機に駈けつけてくれたこと、まことに感謝する」

勇者「お目にかかれて光栄です。女王様」

女王「旅の疲れを癒す間もなく申し訳ないのだが、さっそく雪の塔攻略のための作戦会議を開きたい。
   もう貴殿らに同行する兵士たちの選抜は済んでいる」
   
女王「我らの神の塔を奪還するために力を貸していただきたいのだが、よろしいか」

勇者「勿論です」

女王「ありがたい……。ならばこれを貴殿に渡そう」

勇者「これは……?」

剣士「薬?」

女王「雪の塔が毒霧の向こうの海に沈んでいることはもうすでに聞き及んでいるだろう。
   あの毒は人間が耐えられるものではない。下手したら5分で死ぬ」
   
女王「我らの兵も随分あの毒にやられたものだ……しかし、倒れたからにはただでは起きぬ。
   死んだ兵の体を解剖して、毒への特効薬を作った。いま貴殿らに渡したものだ」
   
女王「ただし、薬の効果は1時間だけだ。1時間で塔を攻略し、最奥にいる四天王のヒュドラを倒してもらいたい。
   無茶を言っているのは承知の上だ。できぬのならできぬと言ってくれてかまわん」
   
女王「どうだ、勇者。そしてその仲間たちよ」



――――――――
―――――
――


373: ◆TRhdaykzHI 2014/03/05(水) 20:40:08.66 ID:ZhI8/l+/o


雪の国 魔法学院 研究室



勇者(たった1時間……)

勇者(太陽の塔を攻略した時には丸一日かかった。1時間でやれるのか?)

勇者「ってもう返事はしちゃったんだけど」


パラパラパラ……


勇者「やっぱりここにも資料がないか……」

若い研究者「勇者様、見つかりました? その魔法の詳細は?」

勇者「いや、どこにもないみたいだ」

研究者「うーん。学院中の研究者に訊いてまわってきましたが、誰もその呪文のこと聞いたことないって言ってました。
    その魔法書、どこで手に入れたんですか?」
    
勇者「……ちょっと道端で」

研究者「あの、誤魔化し方があんまりじゃないですかね……言えないならそう仰ってくれていいですよ」




374: ◆TRhdaykzHI 2014/03/05(水) 20:43:54.08 ID:ZhI8/l+/o



勇者(太陽の国の王立図書館地下で、魔剣とともにあった魔法書……
   その最後のページに書かれている2つの呪文のうちひとつ)
   
勇者(使えることには使えそうだけど、何も説明が書かれてないのが怖いな。攻撃呪文なんだろうけど)

勇者(でも、雪の塔に行ったとき、もし何かあったらこれで……)


研究者「3日後、塔へ行くんですよね」

勇者「あ、うん」

研究者「……この王都も、昔はもっと栄えてたんですよ。
    毎日人がいっぱいで、賑やかで、お店いっぱいあって」
    
研究者「実は今日は砂糖菓子の日なのです」

勇者「なにそれ?」

研究者「愛する人に砂糖菓子を贈る日です。まー商人の利益のために作られた日と言っても過言ではありませんが、
    それなりに昔は毎年この日には、どこもかしこも甘い香りでいっぱいだったんですよ」
    
研究者「それが今では……」

研究者「この閑散とした有様ですよ。全部魔族のせいです。あいつらが……。
    勇者様、気をつけてくださいね。魔族は強いですよ」
    
勇者「……分かった」




375: ◆TRhdaykzHI 2014/03/05(水) 20:47:31.04 ID:ZhI8/l+/o



宿



勇者「……?」

剣士「あ おかえり!どこ行ってたの?」

勇者「なんでエプロン?」

剣士「ああ!なんかさ、今日ってこの国では特別な日みたい。
   宿屋の人がキッチン貸してくれたから久しぶりに料理やってみたんだよ。ね、狩人ちゃん」
   
狩人「はい」

勇者「ああ、あの研究者が言ってた……」

僧侶「いやー剣士ちゃんがお菓子作り得意だったなんて意外だなー!!
   家庭的な女の子っていいよねー!!俺そういうギャップすげーいいと思う!!」
   
僧侶「それに狩人ちゃんも、この鳥の丸焼きすげーおいしいぜ!!
   砂糖菓子の日にも関わらずこのチョイス、そういうアグレッシブなところ好きだぜ俺!!」
   
狩人「羽むしるの……得意……」

僧侶「たくましいなー!!さすがだ狩人ちゃん!!」

剣士「勇者もテーブルに座ってね」

勇者「あ、ああ」





376: ◆TRhdaykzHI 2014/03/05(水) 20:54:11.80 ID:ZhI8/l+/o


コトッ

剣士「はい。 煮物」

勇者「……」チラ

僧侶「剣士ちゃんが作った桃のタルトおいしいなーっ!!」モグモグ

勇者「……」

勇者「なんで!?」

剣士「え!? だって勇者甘いの嫌いじゃない」

勇者「ぐ……………………好きだよっ、三度の飯より好きだよ!
   最後の晩餐には砂糖を食す所存だよ!!」
   
剣士「えー!?王都にいる間に味覚変わったの? そんなことってある?」

勇者「余裕であるよ」




377: ◆TRhdaykzHI 2014/03/05(水) 20:59:39.95 ID:ZhI8/l+/o



勇者「……甘くておいしいな。疲れが癒されるっていうか」カッチャカッチャカッチャカッチャ

剣士「ねえ、やっぱり無理しなくていいよ。紅茶3杯目じゃん」

勇者「無理って……何が?」カッチャカッチャカッチャカッチャ


狩人「煮物おいしいですよ」

剣士「狩人ちゃんが褒めてくれるの珍しい!やった!激レア!」

狩人「……なんでしたっけ……今日。 惣菜の日?にふさわしいと思いますが」

僧侶「んー惜しい!ニアピンだな!だから狩人ちゃんは鳥の丸焼きを作ったんだな!!納得!!」





378: ◆TRhdaykzHI 2014/03/05(水) 21:02:31.13 ID:ZhI8/l+/o



『…………

 …………
 
 …………そんな感じで雪の国の王都に来ました。
 
 太陽の国と違って、王都なのになんだか寂しい雰囲気が漂ってました。
 
 たぶん天気のせいじゃないと思うんですけど……。
 
 人も少ないし、お店は閉まってるところが多いし、
 
 通りを歩く傭兵さんと兵士さんと騎士さんは常にピリピリしててなんかちょっと怖いです。
 
 でも元気出さなくちゃだめですね! 明後日雪の塔に出かけます!
 
 1時間以内に全部やらなくちゃいけないんですけど、1時間は60分で、60分は3600秒なので
 
 そう考えるとなんかできそうな気がしてきます!
 
 では私はこの辺でペンを置きます。そろそろ剣の稽古しなくちゃ。
 
 
                 愛をこめて     NINA   
                 
                 
                 
 PS 便箋が余ったのでみんなにも書いてもらいました』
 
 

379: ◆TRhdaykzHI 2014/03/05(水) 21:03:29.81 ID:ZhI8/l+/o


『もしこの手紙を読んでいるのがお嬢さんなら、

 今すぐ以下の住所に返信ください! 待ってます!
 
 俺はいま雪の国の王都の宿屋にいるのでいつでもウェルカムです!!
 
 
 雪の国王都南区~~~・・・・・
 
 
 ↑ 手紙読まれるのいつだか分からないんだから意味ないんじゃないかな
 
     ↑ うっせーボケ 勝手に書くな 
     
                           僧侶より』
                           
                           

380: ◆TRhdaykzHI 2014/03/05(水) 21:04:40.11 ID:ZhI8/l+/o



『今日やること

 弓の手入れ。
 
 薬草を買いに道具屋に行く。
 
 夕方から傭兵たちと作戦会議。
 
 矢の補充。
 
                        狩人ちゃんメモ用紙じゃないんだけど……
     
                     

                                 』
                                 
                                 


381: ◆TRhdaykzHI 2014/03/05(水) 21:08:09.69 ID:ZhI8/l+/o




『知らない人に手紙を書くって難しいですね。

 しばらく悩んだんですけど全然内容が思い浮かびません。
 
 そういえば旅に出てから村に手紙を書いてないや……
 
 塔から帰ってきたら書こう。……えーと 終わりでいいですか。なんだろこれ。ごめんなさい。
 
                
 
                       もうちょっとなんか書けよ!
                      
 みじかっ
 これで終わりなの!?



 あとは二人がなにか書いてくれよ。    H.     』
 
 
 
 

382: ◆TRhdaykzHI 2014/03/05(水) 21:09:14.61 ID:ZhI8/l+/o



「……っていう手紙だ。子どもたちが川で拾ってきた。よければあなたに差し上げよう」


手渡された紙のガサガサした質感を確かめる。
突然の嵐に見舞われ、森をさまよっていたところに偶然辿りついた館で、
まさか3通目の手紙を見つけることになるとは思わなかった。


迎えてくれたのは二児の父だという魔族の若い男だった。
だが実際の年齢は推し量れない。魔族は肉体の成長速度が人間とは異なる。
落ち着いた身のこなしや話し方から、けっこう年を重ねているのかもしれない。

その淡々とした話し方で読まれた、この若干ふざけた手紙は
笑いをおさえるのに少しだけ苦労した。



386: ◆TRhdaykzHI 2014/03/07(金) 23:38:30.05 ID:56zTJTcjo



「泊めて頂いてありがとうございます。あのまま嵐の中森をさまよう羽目になっていたかと思うと恐ろしいです」

「いや、こちらこそ感謝している。薬作りを生業にしているあなたのような方が通りかかってくれて幸いだった」


男が窓を開けると、湿りを含んだ風が一迅舞い込んできた。
嵐は旅人にとって脅威に等しいものだったが、それが過ぎ去った後に吹く朝の風の香りに勝るものはない。

もう火の灯っていない暖炉の横で、くつろぐ犬の背を撫でているとリビングの扉が開いた。


「ああ、おはよう」

「おはよう」


薬師の腰くらいの背丈の少年が、犬を見るなりびゃっと寄ってきて「触っていい?」と訊いてきた。
犬の尻尾がゆらゆら揺れるのを見て、クスクスと小さな声で笑っていたが、それでも途中から咳き込みだした。


「大丈夫か?」 
彼の父が背中をさすってもしばらく咳は止まらなかった。



387: ◆TRhdaykzHI 2014/03/07(金) 23:41:13.69 ID:56zTJTcjo



双子の息子と娘は生まれたときから重い肺の病に悩まされているのだと
昨晩暖炉の火の前でこの男は言ったのだった。
何故こんな山奥に館を構えているのかと尋ねた薬師への答えだった。

肺の病だと分かってから、できるだけ清浄な空気が吸える環境の方が好ましいだろうということでここに越してきたそうだ。
「妻も同じ病だったんだ」
魔族の男はそう言って、寂しげに息を吐いた。
もしかしたら、子どもたちもあんまり長くは生きられないかもしれない……。


「あんたの調合した薬飲んだら、昨日の夜あんまり息が苦しくなかったよ。ありがとな」

「よかった。じゃあたくさん作っとこう。足らなくなったら鳥を飛ばしてね」

「薬師さんもう旅立っちゃうの?」
トンと背中に軽い衝撃を感じて顔を向けると、双子の姉の方がいつの間にか後ろにいた。



388: ◆TRhdaykzHI 2014/03/07(金) 23:41:49.85 ID:56zTJTcjo



「もう少しいればいいのに」

「起きるの遅いなあ。寝坊だ、寝坊」

「ちがうよ!髪の毛整えてたんだもん」


仲睦まじい双子の頭を撫でてから立ち上がる。
そろそろ出発しなければならない。




389: ◆TRhdaykzHI 2014/03/07(金) 23:44:16.03 ID:56zTJTcjo



親子に見送られてまた森林の中の道を歩き出した。
空を覆うように枝を伸ばした広葉樹の青々とした葉っぱから時折雫が落ちて、彼の鼻先やつむじで弾けた。

次は西に行こうか東に行こうか迷ったところで、ふと雪の国に行ってみようかと思いついた。
確か先ほどもらい受けた手紙に、雪の国の宿屋の住所が書いてあったはずだ。


どうせ行き先の無い旅だ。気ままに進路を変えてみるのもおもしろい。
彼は「若いお嬢さん」ではなかったが、彼らが百年前に泊まった宿に行ってみることにした。



390: ◆TRhdaykzHI 2014/03/07(金) 23:45:30.55 ID:56zTJTcjo


国境を越え、大雪原を越え、村々を経由して約1年。
常人より時間がかかってしまったのは致し方ないことだった。
やっとのことで薬師は雪の国王都に辿りついた。


「ほんとうに、いつでも雪が降っているんだな……」


彼が生まれた太陽の国に雪は降らない。
だから一体雪というのはどんなものなのか、いろいろ想像を膨らませてはいたが
実際来てみると氷より断然柔らかく、触れても雨のように体が濡れず、それは予想をはるかに超える不思議さだった。


しかし半年以上も雪の国にいればその驚きも不思議さも日常に溶け込んでしまって
今では寒さに身を縮めるばかり。
白い息を吐く彼の横でオリビア(旅のお供の犬)だけが元気に走り回っていた。




391: ◆TRhdaykzHI 2014/03/07(金) 23:50:20.40 ID:56zTJTcjo



そして肝心の宿屋はどうなっていたかというと。


「なんか勢いだけで来てしまったけど……冷静に考えれば、百年前の宿屋が残ってる可能性なんて微々たるものだよなあ」


百年あれば町も人もがらっと様変わりする。ましてや王都だ。
あんまり期待をしないでその住所に向かってみると、意外や意外、まだ宿屋はあった。


「そう。ここは人魔戦争の勇者が泊まった宿だ。2階の奥の部屋。見てみるかい?……あ、悪いな」


勇者が泊まった宿なのだから、相当豪奢な宿なのだろうと思っていたが
これまた予想外にこじんまりとした簡素な宿だった。予想を外してばかりの彼だった。


「気のいい連中だったらしいよ。俺は父に、父はじいちゃんに、じいちゃんはひいじいちゃんにそう聞いたんだ。
 キッチンを貸してほしいって言ってきたから貸したら、そこで女の子たちが仲間に料理をふるまってたって」
 
「けっこうのほほんとしてる4人だったから本当に勇者一行なのかって、ひいじいちゃんが内心疑ったくらいだったってさ」


宿屋の男のお気に入りの話なんだろうか。
近くのテーブルに座っていた者たちの輪から「またはじまった」とからかいまじりの呆れ声が聞こえた。



392: ◆TRhdaykzHI 2014/03/07(金) 23:51:36.91 ID:56zTJTcjo



「でも、その人たちが魔族に奪われてた雪の塔を見事奪還して来たんだから驚きだ。
 あ……悪いね、そこの魔族の旦那さんら。ちょっとした歴史の話だから許してくだせえ」
 
「じゃあこの料理の値段、半額に負けてもらおうか」


店内からどっと笑い声があがった。
「それは勘弁してくださいよ……」と宿屋の男がヒイイとおどけてみせる。


「でもね、大変だったのは、その後ですよ、後。薬師の旦那」

「うわっ!!」


急に耳元で宿屋のささやき声が聞こえたので、自分でもびっくりするくらい驚いた。
いきなり近づくのは本当にやめてほしい。




393: ◆TRhdaykzHI 2014/03/07(金) 23:53:31.41 ID:56zTJTcjo



「た、大変って、何がですか?」

「塔から帰ってきた後……痛ましい事件が……。 おっと、こっから先はお食事中の皆さんに失礼ですね」


続きはまた後で。
そう言い残して宿屋は奥にひっこんだ。




394: ◆TRhdaykzHI 2014/03/07(金) 23:54:42.21 ID:56zTJTcjo



* * *



カチャッ……。

カチャ。


「どこで間違ったのかなって」

「ずっと考えてるよ」



395: ◆TRhdaykzHI 2014/03/07(金) 23:57:25.69 ID:56zTJTcjo



「あのときか……それとももっと前のあの瞬間か。もしくはもっと前」

「いつもそうやって遡って、その度気づくんだ」

「生まれてきたことがそもそも間違いだったんじゃないかって」

「……」

「生まれなければよかったね」

「あはは」

「ごめんなさい」



カチャッ。



「あー」

「そうだね。君だけが……」

「………………」




「……しずかにね……」

「よくみていて……」


396: ◆TRhdaykzHI 2014/03/07(金) 23:59:16.49 ID:56zTJTcjo


















































「も」
「う」
「す」
「ぐ」
「だ」
「よ」

397: ◆TRhdaykzHI 2014/03/08(土) 00:03:46.90 ID:a4kotlCzo



第六章 深海のスノータワー




398: ◆TRhdaykzHI 2014/03/08(土) 00:05:40.53 ID:a4kotlCzo



雪騎士長「塔攻略に許された時間はたったの1時間のみ。ゆえに我らができるだけ前に立ちふさがる敵どもを排除します。
    勇者様たちは我らに構わず塔の最奥へお進みください!」
    
雪騎士A「俺たちの屍を越えていってください!」

勇者「……分かりました」

雪騎士B「俺たちの死体でできた血濡れの懸け橋を渡っていってください!!」

僧侶「いやな言い方すんなよ……つうか死ぬなよ」



雪騎士長「ここです!ここが塔への入り口。みな行くぞ!!」

剣士「塔って……塔なんてどこにもないよ」

雪騎士長「ここ一帯の魔族は水棲なのです。かつて地上にあった塔も今は深海に沈んでいます。
     でも安心してください。塔の中には空気があるようなので」
     

剣士「なんか見るからに毒!!って感じの空気の色だけど、今のところ私たちちゃんと生きてるよね」

雪騎士A「……」

剣士「えっ もしかしてもう私死んでる?」

狩人「生きてます。薬のおかげですね」

雪騎士B「むっ!!」


水蛇ABCが襲いかかってきた!
雪騎士Bが抑え込んだ!


雪騎士B「ここは僕たちにまかせてください!」



399: ◆TRhdaykzHI 2014/03/08(土) 00:07:21.90 ID:a4kotlCzo


ぐああああっ……

     うおおぉぉぉっ……!



バキボキゴキッ……

「あああああぁぁぁぁぁぁぁ……」

「しにたくない……しにたくない……!」


勇者「……っ!!」

狩人「勇者、進んで」

勇者「でも!」

狩人「時間がない。あと45分。まだ塔の半分も行ってない」

勇者「……っ」


タッタッタッ……




400: ◆TRhdaykzHI 2014/03/08(土) 00:08:18.25 ID:a4kotlCzo



ビチャッ

魚人族長「来たか……勇者。お前が……あの娘たちを食らったのだな」

魚人族長「仇をとる。来い」







魚人族長「~~~~……~~~、~~~~~」

僧侶「なんだこいつ。強そうな奴がでてきたぞ」

剣士「何か言ってるけど……?」

雪騎士長「ここは私が引き受けましょう。勇者様たちは先に!!」

雪騎士長「うおおおおおおおおおお!」



401: ◆TRhdaykzHI 2014/03/08(土) 00:11:10.28 ID:a4kotlCzo



「ぎゃああああああああッ」ドサッ


剣士「ひっ……!」

剣士「…………っ……もう、塔の中間地点くらいまでは進んだかな?」

勇者「ああ。だけど時間も半分切ってる。これじゃ遅すぎる」

狩人「でもどうするですか……最速で走ってますよ。すでに」

僧侶「勇者。作戦Dだ」

勇者「なにそれ」

僧侶「DEかい穴開けて一気に最奥までショートカット作戦だよ!!昨日の夜話したろ!?」

勇者「全く知らないけど……でもいい考えかもしれない! みんな離れてて」

僧侶「てめーぶん殴るぞ」

剣士「えっ!?本気でやるの!?できるの!?だって塔って滅茶苦茶大きいし……」


ズガーン!!!


剣士「壁だって厚いんだよって続けようと思ったけど、普通にできてるね、うん。
   あれ、なんか勇者の魔法とんでもなく強くなってない?気のせい?」
  
勇者「よし、このままヒュドラを倒しに行こう!!」

狩人「……あっ」


ビュッ!


魚人族長「ならん。ここで死んでもらうぞ」




402: ◆TRhdaykzHI 2014/03/08(土) 00:13:33.40 ID:a4kotlCzo



僧侶「狩人ちゃん!大丈夫か!?」

狩人「……大丈夫です。あの魔族が投げたナイフが、腕をかすめただけ」

僧侶「血が出てるじゃないか! このサカナ野郎っ!!!!!調理師免許も持っている俺が3枚におろしてやる!!!」

剣士「あの魔族がいるってことは、騎士長さんたちは……」

勇者「……。戦うほかないみたいだね」



魚人族長が襲いかかってきた!


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――――――――――
――――――――――――――



魚人族長は倒れた。
魚人族長を殺した。



僧侶「手間取らせやがって……」ハアハア

勇者「行こう」



ヒュッ……



403: ◆TRhdaykzHI 2014/03/08(土) 00:16:17.00 ID:a4kotlCzo




グリフォン「……」

グリフォン「塔を魔法で貫くなんて、けっこう強くなってるなあ」

グリフォン「それに彼が使う魔法。人間たちが使う魔法よりずっと攻撃的なのばっかりじゃないか。
      あれじゃあまるで魔族が使う魔法だよ。ふーん……」
      
グリフォン「おもしろいなあ……アハハ……。でもそれよりおもしろいのはコレ」カラン

グリフォン「血が付着したナイフ。魚人族の彼には礼を言わなくてはね。どうもありがとう。
      これは確かあの弓使いの人間の血かな。勇者じゃなかったのは残念だけど」
      
グリフォン「……じゃあそろそろ僕はこれで帰ろうかな。成果も上げられたことだし。
      しっかしすごい穴開けたなー。これで一番下層のヒュドラ様のところまで一気に……」
      

グキッ


グリフォン「あいたっ!! ……あれっ……あれっ!? うわわわわわわっ」


ヒューーーーッ……




404: ◆TRhdaykzHI 2014/03/08(土) 00:17:13.46 ID:a4kotlCzo




ドサッ!!!


グリフォン「がはっ くそ痛い」

グリフォン「……って僕、有翼魔族なのに普通に落ちてきてしまったよ。なにやってんだ…………カッ!?」


勇者「……」

剣士「……」

狩人「……」

僧侶「……なんだこいつ」



グリフォン(あ)

グリフォン(死んだなコレ)




405: ◆TRhdaykzHI 2014/03/08(土) 00:17:41.04 ID:a4kotlCzo



勇者「襲ってくるのだったら……」

グリフォン「いやあの、違う。見逃してくれ。僕はただ帰ろうとしただけなんだ。敵意なんてないよホントに」

グリフォン「じゃあ僕失礼するから。ヒュドラ様によろしく……」パタパタ


パタパタ……


パタパタ……


グリフォン(……あれ!? 追撃……されないっ!?)



406: ◆TRhdaykzHI 2014/03/08(土) 00:18:55.16 ID:a4kotlCzo



剣士「なんだったんだのアレ?水棲の魔族じゃなかったみたいだけど?」

勇者「襲ってこないのなら、放っておこう」

狩人「……勇者がそれでいいのなら」

狩人「いいです……けど。時間もないですしね……」






僧侶「ついた! ここがヒュドラのいるところだろう」

勇者「あと15分……それまでにヒュドラを倒せなければ、毒で結局死ぬ。みんな頑張ろう」

剣士「……あのさ……」

勇者「?」

剣士「いま……気づいたんだけどね……」

剣士「脱出の時間いれてないよね……それ」

勇者「……」




407: ◆TRhdaykzHI 2014/03/08(土) 00:20:55.02 ID:a4kotlCzo




勇者「5分で……倒そう!! それで10分脱出にあてよう!大丈夫なんとかなる!!
   もうこうなったら1秒も無駄にできないよっしゃ突撃しようヒュドラ勝負だ!!!」
   
ヒュドラ「来たな……勇   
   
勇者「見た通りヒュドラは首が9つあるから一斉に猛攻撃をしかけて首を落とそう」

剣士「分かった!」


勇者の全体火炎魔法!
剣士の2連撃!
狩人は炎の矢を放った!
僧侶は全体攻撃力増加魔法を唱えた!



ヒュドラ「ちょっ なになに」



412: ◆TRhdaykzHI 2014/03/09(日) 17:36:39.87 ID:+HcRS29Ao



勇者「四天王のヒュドラ……だな。雪の国の侵略をやめてくれないか。でなければ僕たちは君と戦わなければならない」

ヒュドラ「いや既に一斉攻撃しかけといて言う台詞じゃないだろ……」

勇者「答えがノーだった場合の時間のロスが惜しい」

ヒュドラ「ノーだけどさ」

勇者「だと思ったんだ」

ヒュドラ「おかしいな。どうして毒の中を動けるんだろう。それに私の牙にも毒があるのに、掠っても平然としてるし」


ゴトッ……!


狩人「首はあと……5つ……」

剣士「ううん、あと4つ!!」ザシュッ

ヒュドラ「さすが……強いね」


ヒュドラが噛みついた!
剣士は飛びのいた!





413: ◆TRhdaykzHI 2014/03/09(日) 17:38:19.29 ID:+HcRS29Ao




僧侶「よーしガンガンいけー! 回復はまかせとけ!!」

勇者「イタタタタ……(相変わらず僕への回復魔法だけやたらと痛みを伴う……何故だ)」

ヒュドラ「ちょこまかと鬱陶しいな」


勇者は全体雷撃魔法を唱えた!
ヒュドラは一瞬動きを止めた!

狩人の渾身の一撃!
剣士の薙ぎ払い! ヒュドラの首をひとつ落とした!


勇者「あと3つだ! 時間は……」

僧侶「残り9分。10分きったぞ!!」

勇者「急がないと。全体魔法で……」

狩人「勇者!右っ!」


ヒュドラの噛みつき攻撃!

――ズシャアアアアアアアアッ


剣士「勇者っ!?」




414: ◆TRhdaykzHI 2014/03/09(日) 17:39:51.46 ID:+HcRS29Ao




剣士「な……なにこれ……」

剣士「ヒュドラの斬りおとした首が……再生して」

ヒュドラ「再生しないなんて言ってないだろ?」

ヒュドラ「なんだかやたらと時間を気にしているようだけど。タイムリミットでもあるのかい」

ヒュドラ「私も暇じゃないんだけど……客が勇者とあっちゃ仕方ない。ゆっくりしていくといいよ」

剣士「また始めから……! ……うっ……く!」パッ


剣士「勇者は!?」

勇者「いや、大丈夫だ。直撃は免れ――あれ?」

勇者(なんで毒状態になってるんだ?)


ヒュドラの毒霧攻撃!
勇者たち全員が強毒状態になった!
毎秒体力及び魔力10%減少!


ヒュドラ「これからが本番だ」

僧侶「薬の効果が切れはじめたんだ! あっまずい魔力尽きそう。ヤベーーー!!」

狩人「あと7分……」





415: ◆TRhdaykzHI 2014/03/09(日) 17:41:09.36 ID:+HcRS29Ao



僧侶「なんだよこいつ、強すぎだろ!馬鹿じゃねーの!?」

狩人「一気に9つの首を落とせば……っ」

剣士「はあ……はあ……やろう。もう一回!」


剣士の攻撃!
勇者の上級風魔法!
ヒュドラの首をひとつ落とした!……がすぐに再生した!


剣士「再生のスピードがおかしいと思う!! はあ……はあ……っ」

剣士「死ぬ!!けっこう本気で死の危険を感じる!!」


剣士のHP残り8%!




416: ◆TRhdaykzHI 2014/03/09(日) 17:41:50.08 ID:+HcRS29Ao




勇者「下がってて!」

剣士「えっ……?」

剣士「勇者、それ……王都の図書館の地下にあった本……?」

僧侶「なにする気だ!?」

ヒュドラ「……ん……? それは……」

ヒュドラ「手に入れてしまったのか。それは魔族のものだ。返してもらおう。人には使いこなせまい」


勇者は禁術の詠唱をはじめた!
ヒュドラの攻撃は狩人に阻まれた!




417: ◆TRhdaykzHI 2014/03/09(日) 17:43:10.62 ID:+HcRS29Ao




ヒュドラ「なんだ?その呪文は?」

ヒュドラ(……!)

ヒュドラ「させるかっ!」


ヒュドラの一斉攻撃!
9つの首が勇者に迫りくる!

しかし勇者の方が早かった。
禁術が発動した!




――――――――――・・・・・・・・――――――――――

―――――――――――・・・――――――――――――

――――――――――――――――――――――――





418: ◆TRhdaykzHI 2014/03/09(日) 17:43:46.10 ID:+HcRS29Ao



僧侶「……」

僧侶「あぁ……?」

狩人「え……?」

剣士「な、なにが起こったの……?」

勇者「僕にもさっぱり……」

僧侶「なんでお前もさっぱりなんだよ……おかしいだろ、説明しろよ」

狩人「ヒュドラが、一瞬で消えた」



狩人「跡かたもなく……」




419: ◆TRhdaykzHI 2014/03/09(日) 17:44:56.58 ID:+HcRS29Ao




僧侶「お前、さっきの呪文なんなんだよ?」

勇者「わ、分からない。正直僕が一番びっくりしてる」

剣士「はっ! と、とにかく早く塔から脱出しないと毒でお陀仏だよ」




カッ




狩人「……!?」

女神「その必要はありません。私があなたたちを含めた塔にいる人間全て逃がします」

女神「その前に少しお話があります。まずは……お礼からですね。ヒュドラを倒し、私を封印から解放してくれてありがとう」

剣士「女神様……」

女神「いま私はあなたたちに直接語りかけています。あなたたちの中の時間の認識を遅らせているのです。
   ここでどんなに話しても、あなたたちの世界で実際に進んでいる時間は1秒にも満たない。だから安心してください」

女神「私は雪の塔の守護神……約束通り私は勇者に大いなる知恵を授けましょう」

女神「この鍵を受け取ってください」

勇者「鍵……?」

女神「その鍵を使い扉を開けたとき、あなたが真に得たい知識を見つけることでしょう」

女神「世界の歴史を」

女神「人と魔からなるかつての世界の知識を……」







420: ◆TRhdaykzHI 2014/03/09(日) 17:45:59.43 ID:+HcRS29Ao





女神「それから、転移魔法も授けましょう。これから役に立つことと思います」

女神「ただし1日に1回だけしか使えないので、気をつけてくださいね」



女神「…………長らく封印されていたのでまだ力が完全に戻りませんね……」

女神「勇者。ひとつお願いを聴いてくれますか」

勇者「はい」

女神「これで魔に冒された塔はあと星の塔だけ。3つの塔が完全に戻れば私たち3人の女神の守護はより強大なものとなります。
   魔族をこの大陸から完全に退けることも可能となりましょう」

女神「魔王の力を抑えることもできるかもしれません」

女神「一刻も早く、あとひとつの塔を」

勇者「そうすればこの戦争は終わるのですね」

勇者「分かりました。もとよりそのつもりです」

女神「ありがとう……」

僧侶「おうまかせとけ!」

狩人「……」コク

剣士「生きて帰れてよかったあ」

女神「転移魔法陣を用意しました。それで塔の外へ」



パア……



421: ◆TRhdaykzHI 2014/03/09(日) 17:48:54.72 ID:+HcRS29Ao




勇者「……あれ? みんなは……」

女神「…………少しあなたにだけ話すことがあります」

女神「その術を使ってしまったのですね」

勇者「術? あ、はい……」

女神「……一刻も早く3つの塔を魔から取り返してほしかったのは、あなたのためでもあるのですよ。
   もし三塔の守護が間に合わず戦争の被害がより広がってしまった場合」

女神「力を得て苦しむのは勇者、あなたのはずです……
   その禁術は元は魔に属するものなのです。私たちが干渉できない魔の大いなる力」

女神「人は魔より弱いため、人であるあなたがそれを使えば代償を払わなければなりません」

女神「あと4回……その術をあなたが使えるのはあと4回です」

勇者「代償……とは」

女神「すぐに分かることでしょう。本当はあなたにそれを使ってほしくはなかった」

女神「もう……お行きなさい。人と魔の狭間の者よ」



パアア……



勇者(消えた……)


勇者(狭間の者……?)

勇者(代償って……)

勇者「……………………!」





422: ◆TRhdaykzHI 2014/03/09(日) 17:58:46.25 ID:+HcRS29Ao



僧侶「おい、なにやってるあのボンクラは!? 早く魔法陣まで来い! あと2分だ」

狩人「ハア……はあ 」

剣士「勇者!」


タッタッタ……


剣士「どうしたの? 早く帰ろうよ!」

勇者「……」

剣士「ゆう、」

勇者「がはっ……」


ビチャッ ボタボタ ビチャビチャッ


剣士「え」

剣士「……血……な、なんで」

剣士「勇者っ!!」






423: ◆TRhdaykzHI 2014/03/09(日) 18:02:05.76 ID:+HcRS29Ao




* * *


王都 宿



剣士「……」

剣士「……」



バタン


僧侶「剣士ちゃん。もう今日は休んだ方がいいんじゃないか」

僧侶「あとは俺が看てるよ。こいつが目を覚ましたらすぐに剣士ちゃんに伝えに行くからさ」

剣士「あれ……もうこんな時間だったんだ。じゃあ僧侶くんにお願いするね」

剣士「おやすみ」

僧侶「おう」


僧侶「ずっとつきっきりでその調子じゃ、今度は君がぶっ倒れちまうぜ」

剣士「私は大丈夫だよ」

剣士「目を……離した瞬間にね。勇者が死んじゃったら、どうしようって……」

僧侶「そんなあっさり死ぬようなタマじゃねーよ。もし死んだら剣士ちゃんのために俺が冥府からこいつの魂引っ張ってくるから」

剣士「あははっ」

僧侶「こいつもいつまで眠ってるんだか……もう5日だぞ。
   あのときも急に血吐いてぶっ倒れて、訳分からん。原因は毒でもなかったし」

剣士「……あの魔法を使ったからだと思うな」

僧侶「ああ、あの王都の図書室地下で見つけたっていう……」

剣士「うん……」

剣士「……」ゴシ

僧侶「だ、だだだ大丈夫だって!明日にでも目を覚ますだろ!!なっ!!」

剣士「……」コク







424: ◆TRhdaykzHI 2014/03/09(日) 18:03:57.27 ID:+HcRS29Ao





太陽の国 王都



「勇者たちが雪の塔を奪還したらしいぞ!」
「女神様のお力か分からんが、毒の霧が徐々に晴れてきているそうだ」
「ヒュドラを破った! 勇者が!」



斧使い「……」

戦士「……へへ」

斧使い「やるじゃねーかよアイツ。王都に帰ってきたら一杯奢ってやるか!」

戦士「見かけによらず根性がある奴らだぜ! よっし祝杯だ!!もう一軒飲みに行こう!」

斧使い「おうよ!」







副団長「やったな勇者……!!!!!!!!!!!!!!!」

魔術師「エクスクラメーションマークうるせえ……」

魔術師「副団長の喧しさは置いといて、よかった勇者たちが無事で。ヒュドラを破ったなら次は星の国ね……」

副団長「負けてはいられないな。俺たちは俺たちのできることをしよう」

魔術師「そうね。……ねえそういえば聞いた?」

副団長「何をだ?」

魔術師「最近神官たちがやけに王都から派遣されてるの気づいてるでしょ?」

魔術師「なんか魔族がこの国のどこかで人のフリをして暮らしているらしいから、その調査に精を出してるってさ」

副団長「むろん聞いている。騎士団も調査しているからね。しかし協力して調査しようと言っても聞き入れんのだ。
    神殿独自に武装官組織をつくって、異端審問院まで作られたそうじゃないか」

副団長「今度の神殿長は――いや違うな。神儀官が下からせっついてるのか。彼女はなかなか辣腕だな」

魔術師「それは結構だけど。私なんだかあの人苦手」

魔術師「まあとにかく、早くその魔族の居場所が割れるといいね。あんたも頑張ってね」





425: ◆TRhdaykzHI 2014/03/09(日) 18:05:43.51 ID:+HcRS29Ao




大樹の村



勇者母「ああ……よかった。あの子たち元気にやってるみたい。あなた、私たちの息子が雪の塔を守ったって!」

勇者父「さすが俺の息子だ。はは……なんちゃってな。まったくあいつ、手紙のひとつもよこさんで。心配したぞ」

勇者母「たまには帰ってくればいいのに。さすがにそれは無理かしらね……」

勇者父「いや、でも鳥文にはどうやら転移魔法とやらを取得したらしいぞ。もしかしたら明日にでもひょっこり帰ってくるかもな」

勇者母「そうねえ」



剣士父「いやあ……。すぐに泣いて帰ってくると思ったんだが、まさかここまでやるとはなあ。
    俺たちの娘もなかなか大したもんだ……」

剣士母「私はちょっとまだ心配。女の子が剣なんて」

剣士父「なに、横にはあの子もついている。大丈夫さ。……あの子たちは村にいたときから仲がよかったからな」

剣士父「いっしょにいたいんだろ」






426: ◆TRhdaykzHI 2014/03/09(日) 18:07:37.35 ID:+HcRS29Ao




* * *



狩人「剣士。ごはん……ですけど」

剣士「うん。あとで食べようかな」

狩人「……」カタン

剣士「狩人ちゃん?」

狩人「私もあとで……食べます」


狩人「勇者はまだ……」

剣士「きっと楽しい夢でも見てるんだね。現実は悲しいことが多いから目を覚ましたくないのかも」

狩人「……そんな……塔も取り戻したし……ヒュドラも倒したんですから……悲しいことばかりだなんて」

剣士「たぶん誰も殺したくないんじゃないかな。人間も魔族も、誰も」

剣士「まだ勇者が勇者じゃなくて、いっしょに村に住んでたとき聞いた勇者の将来の夢覚えてる」

剣士「誰かを生かす仕事がしたいって言ってたんだもん。殺すんじゃなくってさ」

剣士「……どうして勇者が勇者に選ばれたんだろ……」

狩人「……あの……あの……な、泣かないで……」

剣士「泣いてないよ! ふふ、ごめんね。暗い話ばっかりしてちゃ勇者も目覚まさないよね」

剣士「じゃあ二人でおもしろい話しよ! あのね、私この間……」


勇者「…………」

勇者「……う」


狩人「あっ……!」

剣士「道具屋さんに行こうとしたら間違えて武器屋さんに行っちゃってー、薬草買おうと思ってたのに普通に剣の手入れセット買って満足しちゃってさ」

狩人「け、剣士、」

剣士「その日の夜になってから『あれ道具屋さんに行くつもりじゃなかったっけ』って思いだして。もー馬鹿だよね、あはは」

狩人「剣士よこ、よこです。勇者が」

剣士「え……?」





427: ◆TRhdaykzHI 2014/03/09(日) 18:09:10.64 ID:+HcRS29Ao





勇者「あれ……? ここは……」

勇者「宿?」ガバ

勇者「ッゴハーッ!!?」ビチャビチャ


剣士「ゆ、ゆゆゆ勇者!? 目を覚まっ――血がぁ!! わ、あ、あ、え、……うわああああぁぁぁぁん!」

僧侶「なあ剣士ちゃんも狩人ちゃんも、そろそろ飯……うわああああ!なんだこの状況!」

狩人「落ち着いて……剣士は泣かないで……勇者は動いてはだめです」

勇者「はあはあ。起きるなり体が痛い。なんだこれは……内臓が出そうだ」

勇者「いやそんなことより塔は……みんな毒は?生きてる?無事!?」ガバ

狩人「だから!」バッ

僧侶「動くなっつってんだろハゲ!!」バッ

剣士「まだ寝ててっ!!」バッ


勇者「……は、はい」






428: ◆TRhdaykzHI 2014/03/09(日) 18:11:01.85 ID:+HcRS29Ao





勇者「6日も寝てた……? いや……冗談だろ?」

僧侶「そんなおもしろくもねえ冗談言うかよ。お前はよお!!剣士ちゃんと狩人ちゃんに多大なる心配をかけて全く万死に値するぞテメエ!!」

狩人「目が覚めてよかったです。みんな心配してた。僧侶も含めて」

剣士「うん……ほんとに」

剣士「よかったよ……」

勇者「……ごめん」

剣士「ばか」

勇者「ごめん」

剣士「あの魔法、今度使ったら絶交だからね」

勇者「えっ!? ま、魔法……な、なんのことかな……」

剣士「とぼけてもだめ!!勇者がこんなことになったのは、あのときヒュドラを倒すために使った魔法が原因だってちゃんと分かってるんだからね!」

剣士「正直6日寝込むくらいであの威力の魔法が使えるのなら、またいざというときには……とか考えてるでしょ」

勇者「かっ考えてないよ!?」

剣士「声が裏返ってる!!」






429: ◆TRhdaykzHI 2014/03/09(日) 18:14:04.94 ID:+HcRS29Ao





狩人「あのとき……勇者が魔法を使わなければ、私たちはいまここにいなかったです。だからそれは感謝します」

狩人「でも……やっぱり次は使わない方がいいと思う……です」

僧侶「そうだ。お前の体をこの国の神官といっしょに診察したがな、内臓ぐっちゃぐちゃだったぞ。長く生きたかったら使うのやめとけ阿呆」

狩人「あなたがそれを使わずに済むように……次は私が一撃で仕留めますので。では弓の訓練にさっそく行ってきます」スタスタ

剣士「狩人ちゃんの男前宣言を頂いたところで、そういうわけだから。次は絶対使っちゃだめだよ」

勇者「う、

剣士「使ったら絶交だよ!!!一生口きかないからね!!!」

勇者「まだ何も言ってないじゃないか!」


勇者「……みんなありがとう。分かったよ。もう使わない」

剣士「ほんとにほんとだよ。……もう少し、近くに……寄っていい?」

勇者「えっ、あ、うん」

剣士「痛い……?」

勇者「いや、平気……」



僧侶「いやーーーーー血のめぐりもよくなったみたいでよかったなあ勇者? とくに頬のあたりがなあ? いやーーよかったよかったハーー腹立つ」






430: ◆TRhdaykzHI 2014/03/09(日) 18:19:41.47 ID:+HcRS29Ao





剣士「あっ ご、ごめん! わ……私も剣の修業に行ってこよっかなー!!」


バタン


僧侶「勇者、確かお前甘いものが大好物だったよなあ? この間言ってたもんな? 生きてたらしい雪騎士長から見舞いの品でたくさんもらったんだ。
   食うだろ?遠慮すんなよ……砂糖たっぷりのやつ特別に選別してやっからよ」

勇者「あ、あれは……いや、ちょっ勘弁してくれ。吐く吐く吐く吐く吐く吐く吐く吐く」

僧侶「遠慮すんなよ!俺たち仲間だろ!?オラアッ!!」

勇者「ぐえっ」


勇者「……?」

勇者(あれっ……?)モグモグ

勇者「……」

僧侶「なんだよ……気持ちわり―な。なんか反応しろよ」

勇者「いや……おいしかったよ。うん」

僧侶「ああ?」



勇者(……あと4回)

勇者(女神様が言ったのは、このことだったのか)

勇者「……」






431: ◆TRhdaykzHI 2014/03/09(日) 18:23:05.63 ID:+HcRS29Ao




* * *



勇者「明日には星の国に出発しようか?」

剣士「目が覚めたばっかりなんだから、もう少し安静にしていた方がいいよ。ね、僧侶くん」

僧侶「そうだな。またぶっ倒れたら面倒だ」

勇者「でも一刻も早く残った塔を奪還しに行かないと」

狩人「えい……」ツン

勇者「ぐっ!?」

狩人「まだ完全に治ってない。……無茶と勇敢は違う……みたいなそんな言葉あったと思います」

剣士「あったようななかったような」

狩人「焦ることはない……です」



コンコン



宿屋「失礼します。みなさまお食事はいかがなされますか?」

剣士「まだ食べてなかったっけ」

勇者「みんなで食べてきてくれよ。僕はさっき僧侶にしこたまケーキやらクッキーやら詰め込まれたからいらないや」ギロ

僧侶「じゃっ食べに行こうぜ。いやー両手に花だなあエッヘッヘ」

剣士「……本当に甘いもの食べれるようになったんだね、勇者」

勇者「うん。そうだよ」






432: ◆TRhdaykzHI 2014/03/09(日) 18:28:41.25 ID:+HcRS29Ao




剣士「僧侶くんお酒飲みすぎだよー。明日礼拝に参加する約束、司祭さんとしてなかった?」

僧侶「ああ、した。ぶっちゃけ司祭にこんな場面見られたらまずい」

剣士「自明の理だね」

僧侶「でもここに酒がある限り俺は飲み続けるぞ。これが俺の宿命だ!!生まれた意味だ!!」

剣士「また変なこと言ってる。どうせまた明日二日酔いになるんだからもうお酒は禁止だよ!!」

狩人「ふふふ……」

剣士「……あれもしかして狩人ちゃんも酔っ払ってる?」

狩人「いえ……飲んでないです」

狩人「失礼しました」

剣士「いやっ別に笑っていいんだよ!笑ってくれた方が嬉しいよ!」

狩人「あなたたちと勇者を見てると……生きてる感じがしておもしろい……です」

僧侶「えっえっどういうこと!? つまり俺の彼女になってくれるって意味!?」

剣士「僧侶くんちょっと静かにしててね」

剣士「狩人ちゃんだって生きてるじゃん!なんだかその言い方だと、私は違うみたいに聞こえるよ。私たち全員ちゃんと生きてるよ」

狩人「……そうですね。最近……そう思えるようになってきた……きました」

狩人「私……あんまり話すの得意ではないのですけど……楽しいです」

狩人「ふふ」

僧侶「狩人ちゃんがデレた……感涙していいですか」

剣士「いいよ! 私もみんなでいるの楽しいな。村から出て、旅してよかったって思ってる。勇者もおんなじように考えてると思うよ。
   この場にいないから私が代弁するけどね!」

僧侶「二人ともいい子だなあ……!!!」




433: ◆TRhdaykzHI 2014/03/09(日) 18:37:57.53 ID:+HcRS29Ao




剣士「ふあ……。そろそろ寝ない?もう11時だよ」

僧侶「そうだな、ここからは大人の時間だ。剣士ちゃんは寝た方がいいな」

剣士「なっ、なにそれ。私だってもう大人だよ!仲間外れにしないで」

狩人「勇者がまだ起きてるかも。一人で退屈してるかも……しれないです」

剣士「………………わ、わかったよ。勇者はもう寝てると思うけど……」

剣士「じゃあ二人ともおやすみなさい。また明日ね!」

僧侶「おやすみのチューは?」

剣士「私の剣とする?」

僧侶「冗談だよ冗談……アッハッハ」




僧侶「最近剣士ちゃんの切り返しが鋭くなってきた気がするんだが、どうしよう」

狩人「言わなければ……いいのに……」

狩人「もしくはあなたの舌を斬りおとすとか……」

僧侶「待ってどんな二択? 狩人ちゃんの切り返しは鋭すぎてもやは凶器」



僧侶「……まあ別になんでもないんだけどな、えーといつだったかな……
   確か幽霊が出るとか出ないとか言われてたあの不気味な城でだな」

僧侶「いつ死んでもいいみたいなこと言ってたじゃないか。今もそう思ってるのか?」

狩人「……」

狩人「彼と同じように」

狩人「戦いの中で死ねるなら本望と……思ってましたが……今は……」

狩人「死ぬのが昔より……少し怖い……です」

僧侶「……そっか。ならよかった!それでいいと思うぜ。死んでもいいなんて思ってると、いつか本当にコロッと死んじまうよ」

狩人「……」

僧侶「たぶん亡くなった婚約者の男もそう思ってるだろうさ。 なあ……どんな人だったんだ?」

狩人「弓が強くて……弓術が上手くて……弓を持たせれば百発百中でしたね」

僧侶「ああうん、できれば弓以外のことも聞きたいなーなんて」

狩人「……優しい人でした」




狩人「大好きでした」

狩人「……えへへ」




434: ◆TRhdaykzHI 2014/03/09(日) 18:54:31.41 ID:+HcRS29Ao




* * *


翌日



狩人(弓の訓練していたら遅くなってしまった……)

狩人(もう剣士は寝ているだろうから……そうっと入らないと……)

狩人(……ん。勇者と僧侶の部屋……まだ灯りがついてる)

狩人「……」


コンコン






435: ◆TRhdaykzHI 2014/03/09(日) 18:57:34.66 ID:+HcRS29Ao




狩人「あの……まだ寝てないのですか?」

勇者「ん?でもまだ…… あれっいつの間にこんな時間に。僧侶が帰ってこなかったから気づかなかった」

勇者「また飲み歩いてるのかな」

狩人「もう寝た方が……」

勇者「うん、もうちょっとこれ読んでから寝るよ」

狩人「それは……?」

勇者「魔族の言葉勉強しようかと思って。強い魔族は人の言葉を喋ってくるけど、ほかの魔族はなに言ってるか分からないことも多いし」

狩人「魔族の……言葉? 勇者が……?」

勇者「なにがあるか分からないからさ。尤もこの本もすごく古いから本当に学べてるかは分からないんだけど」


狩人「あ……」


狩人「あはははははは。あははは!」


狩人「あはははははははははははははははは」


勇者「か、狩人? そんなにおかしいかな……」


狩人(……え?)






ギイ……バタン。


カチャッ……



勇者「……? 狩人?」



 

437: ◆TRhdaykzHI 2014/03/09(日) 19:03:10.85 ID:+HcRS29Ao





狩人「一人は寝てる」

狩人「一人は外」

狩人「……」


フッ……


勇者「わっ まだ灯りは消さなくていいよ、狩……」


ブンッ


狩人「……」

勇者「えええええ!?」

勇者「な、なぜ今僕の杖を窓から投げ捨てたんだ? とりに行かないと……」

狩人「もう……体は……動くの……?」

勇者「うん、大分よくなったから、歩くくらいは」

狩人「そう……」スッ




ドサッ



勇者「うっ」

狩人「……」


ギシッ……


勇者「か、狩人……? 何か……あったのか?」

勇者「上に乗っかられると……まだ少し、大分けっこう、痛いんだけども」

狩人「…………ゆう、しゃ」









438: ◆TRhdaykzHI 2014/03/09(日) 19:11:36.71 ID:+HcRS29Ao





勇者「え……」

勇者「……!?」

勇者「何を」

勇者「狩人! やめっ……」

勇者「……うあっ……!」






439: ◆TRhdaykzHI 2014/03/09(日) 19:14:45.06 ID:+HcRS29Ao




* * *



ガランッ ガランガラン……



剣士「……ん……?」

剣士「いま外から音が……? ふあー あれ、狩人ちゃんまだ帰ってきてない。めずらし」

剣士「何の音だろ。 ……? なんで勇者の杖が窓の外に落ちてるのかな」

剣士「……」





コンコン


剣士(灯りついてない……けど物音聞こえるし……)

剣士「勇者?僧侶くん? ねえ、起きてるの?」


「…… っ……」


剣士「……ねえ……?大丈夫?何かあったんじゃ」

  「……うあっ……!」

剣士「……勇者!?」ガチャガチャ

剣士「鍵……!」

剣士「……っ!!」チャキ


ズパッ!!


剣士「勇者!! 何がっ……」

剣士「……え……」






剣士「えっ……」






440: ◆TRhdaykzHI 2014/03/09(日) 19:16:40.78 ID:+HcRS29Ao




* * *


飲み屋


男「あれ~? どうしたんだい君、そんなに慌てて~。よかったら一緒にテーブルで飲まっ」

剣士「どけっ!!」

男「ほぎゃっ」


剣士「僧侶くんっ……僧侶くん! 僧侶く…… いた!!」

僧侶「ぐーぐー」

剣士「僧侶くん、起きて!!お願い!起きて……」

僧侶「うーん……ぐう」

剣士「起きろっ!!!」バシッ

僧侶「ほあっ!! け……剣士ちゃん? どうした泣きそうな顔して」

剣士「勇者と狩人ちゃんがっ……血まみれで……宿から消えちゃってっ」


剣士「どこにもいないのっ……どうしよう……!!」





441: ◆TRhdaykzHI 2014/03/09(日) 19:18:07.09 ID:+HcRS29Ao



第五章 君の臓物を引きずり出すRPG





445: ◆TRhdaykzHI 2014/03/11(火) 20:28:26.25 ID:r9T/43Dxo


宿屋



僧侶「うわっ なんだこりゃ。血だらけ……」

僧侶「……ここに血で何か書かれてる。転移魔法陣か……?でもこれは魔族にしか使えなかったはず。魔族がいたのか?」

剣士「私が扉を蹴破って入ったときには、勇者と剣士ちゃんが一緒に消えるとこだった」

剣士「ほかにだれもいなかったよ」


剣士「僧侶くん、この魔法陣復元できる?」

僧侶「俺だけじゃ無理だな。魔法学院の奴らに手伝ってもらおう。どれくらい時間がかかるか分からんが」

剣士「できるだけ早く。二人はきっと連れ去られたんだ」

剣士「追わなくちゃ。なんとしても」







446: ◆TRhdaykzHI 2014/03/11(火) 20:30:10.69 ID:r9T/43Dxo


* * *




勇者「え……」

勇者「……!?」

勇者(いま光を反射したのって……ナイフ?)

勇者「何を」

勇者「狩人! やめっ……」


ズブッ


勇者「……うあっ……!」


狩人「……」ピチャ

勇者「どう……して」


スタスタ


勇者(あ……あれは転移魔法陣か……?)

勇者「狩人っ!!やめるんだ、しっかりしろっ!! こっちに――」

狩人「勇者……」グイ

勇者「!」

狩人「……にげて……」



カッ!






447: ◆TRhdaykzHI 2014/03/11(火) 20:32:12.19 ID:r9T/43Dxo



ヒュン



ドサッ!



勇者「ぐっ…… どこだ!?」

グリフォン「ようこそ! 僕の研究室に。 まさかこんなにうまくいくなんて思わなかったなあ」

勇者「お前は……塔にいた……」

グリフォン「あのときは格好悪い姿見せてすまなかったね。見逃してくれて助かったよ。おかげで僕の計画大成功さ」

狩人「……」スタスタ

勇者「狩人!行くな」ガシ

狩人「……」バシッ

グリフォン「狩人って言うんだ、この人間。君のおかげで助かったよ、ありがとう」

勇者「狩人に何をしたんだ」

グリフォン「ちょっと魔女様の力をお借りして操り人形になってもらっただけさ!君をここに連れてくるためのね」

グリフォン「はあ。でも大変だったんだ。ヒュドラ様を倒した時に、勇者が昏睡状態になったってことを小耳に挟んで
      できれば君が寝てる間に連れてきたかったんだけど 思ったより時間かかっちゃってね」

グリフォン「僕はあんまり魔法とかさ……そういうの得意じゃないんだ」

グリフォン「でも間に合ってよかった! まだ君は完全に回復してないみたいだし。確か杖がなければ魔法は使えなかったよね?
      仲間もいない、武器もない、体調も芳しくない……いくら勇者でも逃げられないんじゃないかなあ」


グリフォン「……ははは! それにしても……君はおもしろいね!
      魔族の言葉を勉強してるんだって?よりによって勇者が!」

グリフォン「じゃあ僕たち似てるかもしれないね。僕も人のことが好きで人の言葉を勉強して、今も君にその言葉で意志伝達してるわけだけど」

グリフォン「ほかにもたくさんおもしろいことあるよ。なんで君は人間なのに魔族のような魔法を使えるんだ?
      神が選んだっていう君の身体構造は、ほかの人間と違うところがあるのかな?」

グリフォン「身体構造だけじゃない、感覚は?血液は? もし勇者が死亡した場合には、何らかの神による干渉があるのかな」

グリフォン「いやあ……その全ての疑問が今宵解消されると思うと、興奮で手が震えるよ」ニッコリ


勇者「……っ わ、分かった。用があるのは僕だけなんだろう、それなら狩人は元いたところに返してくれ」

グリフォン「うーん」

グリフォン「無理」

グリフォン「このままの状態で君の解剖したら、うっかり手が滑って殺してしまいそうだ。
      少し彼女でもいじくって落ち着かないとね……勇者はこの世にただ一人、大事な素体なんだから、過ちがあったらいけない」







448: ◆TRhdaykzHI 2014/03/11(火) 20:36:21.54 ID:r9T/43Dxo





勇者「させるか。返せ」

グリフォン「ちょっとここで待っててもらえるかい。すぐ戻るからさ。あとはよろしく、オークさんたち」

オークA「うっす」

オークB「あいよ」

オークC「OK」

グリフォン「じゃっ行こう」

狩人「……」フラフラ

勇者「狩人!! しっかりするんだ! ……行かせるか……っ」

オークA「お前の相手は俺たちだよ。大人しくしとけ」

オークC「殺さなければ問題ないよな?」

オークB「腐っても勇者だぜ。油断するなよ……」チャキ

勇者「……どけ!!」

オークA「ハッ。そんなちゃちなナイフで何ができる?手首ごと折ってやるよ!」


ブンッ……





449: ◆TRhdaykzHI 2014/03/11(火) 20:38:34.28 ID:r9T/43Dxo




狩人「……う……うっ、……はあ……、!?」

狩人「ここは……勇者は」

グリフォン「あ。目が覚めたかい。ちょうどよかった。拘束も終わったところさ。
      やっぱり僕なんかじゃあんまり長時間君を操れないなあ」

狩人「お前が私の体を勝手に……!!許さない……勇者をどうしたの?私にあんなことをさせて……!!」

グリフォン「まだ生きてるよ勇者は。うーん活きがいいなあ君は。でもあんまり叫ばれるの好きじゃないんだ。
      静かにしててくれるかな。ええと麻酔麻酔」

狩人「……っや、やめ……」

グリフォン「大丈夫。安心してくれ。僕は人間が好きだよ」

グリフォン「はははっ」

グリフォン「せっかくだから新しい手法を取り入れて実験してみよう……大丈夫、痛くないよ」

グリフォン「目が覚めたとき、ちょっとだけ今と違う姿になってるだけさ」

狩人「……いやだっ……」

狩人「やめて……!!」

狩人「……あ……ぁ……」







450: ◆TRhdaykzHI 2014/03/11(火) 20:42:00.55 ID:r9T/43Dxo





勇者「くっ!」


グサッ!


オークA「おいおい……今俺は蚊に刺されたのか? 拍子抜けだぜ」

勇者(ナイフじゃオークの固い皮膚に深く突き刺さらない…… ほかに何か武器は、)

オークB「武器探してんのバレバレだぞぉ。よっと!!」

勇者「…………っ!! げほっ……」

オークC「うわー Bえげつねー。ナイフ刺さってた腹に一発入れるとか鬼畜の極みだな。さすが」

オークB「本当に杖ないと魔法使えないんだな。治癒魔法も使わねーし。勇者も案外ちょろいな」

勇者「……わ、分かったよ。大人しくここでグリフォンを待つから」

オークA「賢明だな。そうしてくれ、その方が俺たち、もっ……!?」


ズザーッ!


オークB「うおおっ!? Aの股下くぐって……おい逃げだすぞ!」

オークA「いやん●●●」

オークC「言ってる場合か! 追うぞ!!」


バリーーーン!!




勇者「はあ、はあ……狩人はどこだ?」

勇者(杖がない以上転移魔法も使えない。ここがどこだか分からないけど、とにかく狩人を連れて外に出ないと!
   見たところ窓がない。多分地下だ……地上はもしかして魔族領なのか?)


「いたぞー!あっちだ!周りこめ!!」


勇者「くそっ」





451: ◆TRhdaykzHI 2014/03/11(火) 20:44:02.39 ID:r9T/43Dxo




――――――――――――
―――――――――
――――――


バタン


グリフォン「ありゃ」

勇者「!!」

グリフォン「いまそっちに行こうとしてたのに。逃げだしてきたのかあ」

勇者「狩人はどこだ」

勇者「返せ!!」

グリフォン「怪我してるはずなのに結構動くなぁ。人間も丈夫なんだね。火事場の馬鹿力ってやつなのかな?それとも勇者だから頑丈なのだろうか」


ダンッ


勇者「答えろ」

グリフォン「いてて……。乱暴だなあもう。彼女なら……奥の部屋にあるよ。君も気にいると思うけど。ハハハハ」

勇者「ふ……ふざけるなっ!」

グリフォン「ふざけてないよ。離してくれるかな。 おーいオークさんたち、こっちこっち」

オークA「いたいた……全く手間どらせてくれちゃって」

勇者「邪魔を」

勇者「するな……!!」






452: ◆TRhdaykzHI 2014/03/11(火) 20:51:09.70 ID:r9T/43Dxo




ガチャッ


勇者「狩人!! どこだ!?」

勇者(……暗くてよく見えない。灯りは…… )

勇者(ランプがある、これで……)


ボッ


勇者「……」

勇者(この部屋……。変な水音がすると思ったら、何かの液体で満たされた巨大なガラスケースが並んでるのか)

勇者(中に入っているのは…… うっ……ぐ)

勇者(これ全部、あのグリフォンが作ったのか? …………。)



勇者「……狩人!! 頼む……返事してくれ! どこにいるんだ……っ」

  「…………て……」

勇者「狩人!?」


  「灯りを……」

  「消して」


勇者「狩人……っ、よかった……」






453: ◆TRhdaykzHI 2014/03/11(火) 21:03:12.64 ID:r9T/43Dxo






勇者「ハァッ、ハッ……狩人、すぐここを脱出しよう……。グリフォンに何かされていない?ケガは?」

勇者「とにかく、生きててよかった。帰ろう。どこに……いるんだ?」

??「……」

??「あなたの目の前にいますよ」

勇者「目の前って……僕の前にはもうガラスケースしか」

勇者「ない、けれど」


勇者「……」





??「っふふ」


??「もう……最悪です……ふふ」

??「……見ないで……お願い。勇者」

勇者「……」

??「私、帰れないです」

??「こんな……姿じゃ……あぁ」

勇者「狩人」

??「化け物になってしまいました。こんな姿になっても、まだ生きている……」

??「いや…… うっぅぅ…… お母さん……お父さん……。ごめんなさい……」


勇者「……うそだろ」

勇者「こんなの……」






454: ◆TRhdaykzHI 2014/03/11(火) 21:06:07.39 ID:r9T/43Dxo





勇者「……っ帰ろう! 王都に戻れば、君を元の姿に戻すことがきっとできるはずだ。
   いや、絶対戻すよ。約束する。なにがあっても……戻すよ!だから……」

??「勇者。ごめんなさい。お腹を刺してしまって。必死に止めたのですけど、体が勝手に動いてしまった」

勇者「そんなことはどうでもいいよ!ガラスケース、壊すよ。早くここから出よう!」

勇者「どんな姿になっても狩人は狩人だ。動けなければ僕が運ぶから、掴まって」

??「……できない……」

勇者「どうして!!」

??「この培養液から出たら、たぶん私は生きられない……」

勇者「狩人……!」

勇者「頼むよ……お願いだから……」



??「ふたつ」

??「お願いがある……んです」

??「聞いてくれますか……」


勇者「……なんでも聞くよ」

??「殺してください」

??「それから、右手だけ故郷の父と母の元に届けてくれませんか……
   右手だけは人のまま、何もされていないから……」

勇者「…………」






455: ◆TRhdaykzHI 2014/03/11(火) 21:10:09.53 ID:r9T/43Dxo




??「……泣かないでください。本当に、ごめんなさい」

??「ここで化け物として一生を終えるくらいなら……勇者の手で終わりにしてくれた方が」

??「何倍も幸せです」

勇者「……いやだ……」

??「いつ死んでもいいって、思ってた。彼が死んでからずっと」

??「でも旅をしてるうちに、もっと生きて、みなさんといたいって……」

??「そう思えるようになったのも、勇者と、剣士と、僧侶のおかげです」

??「ありがとう」

??「みんな大好き……です」

??「えへへ」


??「だから」

??「おねがいします……」



バリンッ!!


……ビチャ




456: ◆TRhdaykzHI 2014/03/11(火) 21:12:41.05 ID:r9T/43Dxo




勇者「恨んでくれ」

勇者「全部僕のせいだ」

??「恨まない。……仲間です」


ギュッ


??「……あったかい……」

勇者「右手は必ず故郷に届ける。約束する」

??「ありがとうございます……」



勇者「今まで……」

勇者「この手で、弓を引いて……いっしょに戦ってくれて……ありがとう」

勇者「…………狩人」


狩人「……はい」

狩人「さよなら……」






457: ◆TRhdaykzHI 2014/03/11(火) 21:15:18.78 ID:r9T/43Dxo






* * *



ヒュンッ!


僧侶「ぐああああ!? こ、ここは……!? 室内……?」

剣士「地下みたいだね。争った形跡がある。それから血の跡も……たぶん勇者だよ。辿っていこう!!」




オークDとグリフォンEが襲いかかってきた!



僧侶「チッ……魔族がわんさかいやがる。魔族領なんだから当たり前か。一体どいつが勇者と狩人ちゃんを……!!」

僧侶「とくに……狩人ちゃんをっ!!!許さん!!!待ってろ狩人ちゃん、俺がいま助けに行くっ!!!」

剣士「血の跡は……あっち。あの部屋に続いてる。あの扉の先に勇者と狩人ちゃんがいるはずだよ」

僧侶「突撃だ!!」



剣士「あっ……オークとグリフォンの死体がある。このグリフォン、塔で会った奴じゃない?
   ほら、グリフォン族なのに落っこちてきた……」

僧侶「これは二人がやったのか? 部屋は奥にもういっこある。……開けるぞ、剣士ちゃん」

剣士「うん」



ギイィ





458: ◆TRhdaykzHI 2014/03/11(火) 21:24:02.49 ID:r9T/43Dxo





剣士「暗いね。 本当に二人はここにいるのかな……」

僧侶「確か煙草用にマッチがあったはず……あったあった」ゴソゴソ


ボッ


僧侶「うっ。なんだここは、不気味な部屋だな。もしかしてここって所謂研究所とかそういうんじゃねーだろうな」

剣士「勇者、狩人ちゃん……ここにいるの? いるなら返事して!」ピチャ

剣士「! これは、水? どこから……」

勇者「灯りを……消してくれないか」

剣士「ゆ、勇者! よかった、無事だったんだねっ!怪我は平気?狩人ちゃんは!?」

僧侶「お……お前、血まみれじゃないか。こええよ……返り血か? つーか灯りを消せって、なんでだよ?歩きにくいだろ」

勇者「消してくれ」

僧侶「……な、なんだよ。ほら消したぞ。で狩人ちゃんはどこだ?」

僧侶「あと何抱えてんだ?とりあえずそれ離せ。失血量やべーぞ。今なら特別に丁寧な方の治癒魔法かけてやるよ」

勇者「いい。それより僕の杖ある?」

剣士「持って来たけど……勇者大丈夫?」

剣士「なんか、おかしいよ……」

勇者「ここを焼き払うよ。そしたらすぐに転移魔法で帰ろう」

僧侶「はああ!?ばか言うな!!まだ狩人ちゃんと合流できてねーーだろうが!!頭沸いたかテメエ!!」




勇者「狩人は死んだ」

勇者「僕が殺したんだ」





459: ◆TRhdaykzHI 2014/03/11(火) 21:26:31.53 ID:r9T/43Dxo



* * *



星の国



チェロ弾き「もう人通りが少なくなってきたのう。そろそろ帰るか」

チェロ弾き「……おや。あのお嬢さん、まだあそこに腰かけておる」


剣士「……」

チェロ弾き「やあ、こんばんはお嬢さん」

剣士「こんばんは……」

チェロ弾き「一曲どうかね。リクエスト聞くよ」

剣士「お金もってくるの忘れちゃったの……」

チェロ弾き「なに、もうお嬢さんが最後のお客さんだからね、お代はいらないよ。
      ずいぶん暗い顔して俯いてるから、おじさんからプレゼントさ」

剣士「……ありがとう」

剣士「じゃあね、レクイエム……」


~♪


剣士「……いい曲」

チェロ弾き「……」


~♪


チェロ弾き「2曲目のはレクイエムじゃないんだけどね。お嬢さんの笑顔が戻るように。
      思わず口笛を吹きたくなっちゃうような楽しい曲だろう?」

チェロ弾き「なにがあったのか分からないけど、元気をお出し。神様はいつでも私たちを見まもってくれているよ」

剣士「……」ニコ



剣士「この国は本当に星がきれいなんだね、おじいさん」

剣士「……いっしょに見たかったな……」





460: ◆TRhdaykzHI 2014/03/11(火) 21:33:18.87 ID:r9T/43Dxo




* * *

山道 湖の前


僧侶「あー……っと。次の村は確かこのまま南であってるはず。もうすぐ着くだろうな」

勇者「そっか」

剣士「……じゃ、じゃあ少し休憩しない?ちょうど湖もあるし。すぐ村に着くならさ。ねっ」

僧侶「俺も喉かわいちまったよ。休もうぜ」




剣士「あ……魚いる。なんて魚だろ。ちっちゃくてかわいいね」

勇者「……」

剣士「……えっと」

僧侶「おいっぼーっとすんな勇者!!剣士ちゃんの発言シカトなんて言語道断、地獄の沙汰も金次第だぞっ!!」

勇者「……あ、ごめん。聞いてなかった」

剣士「いや、いいよ!全然内容がない発言だったしむしろ無視してねっていうか……!」

勇者「あのさ……二人とも、何も言わず星の国まで来てくれたけど。次の村で別れようか」

勇者「塔へは僕一人で

僧侶「剣士ちゃん」

剣士「うん。思った通りだったね」

僧侶「そいっ!!」

剣士「えいっ!!」


バチーン


勇者「痛いっ! な、なにをするんだ!?」

剣士「絶対そう言うだろうねって僧侶くんと話してたんだよ。あのね、絶対無理。……ついてくよ」

僧侶「お前一人じゃ絶対すぐ犬死だっつの。まあ別に……俺はそれでもいいけど。
   狩人ちゃんがあんなことになっちまったのはよ……これから倒しに行く魔女の術が関わってたんだろ?」

僧侶「仇討ちだ。お前がいやだっつってもついてくぜ俺ァ。くさってもお前は勇者だからな、戦力は多い方がいい」

勇者「……」




461: ◆TRhdaykzHI 2014/03/11(火) 21:35:59.64 ID:r9T/43Dxo




ワーワー…… ワー


剣士「? なんかあっちの方から人の声がするね。なんだろ」

僧侶「これから行く村の連中じゃないか?方角的に」

兜をかぶった男「やや、あなたたちはもしや勇者様とそのお仲間ですか」

勇者「そうですけど……なにかあったんですか」



剣士「ド、ドラゴンが?」

兜男「ええ。空を飛んでこの森に落ちるところを見た者がいます。
   何かある前にと、近くの町や村から腕の立つ者を集めて捜索に当たっているのです!」

兜男「勇者様たちがいらっしゃれば心強い!!ドラゴンですよドラゴン!!
   我々だけで太刀打ちできるか不安だったのです!」

兜男「では勇者様たちは南をお願いいたしまする。我々は引き続き北を探しますので。
   相手はあの竜族ですからね、どんな災害を引き起こされるか分かったもんじゃありません。
   見つけ次第殺してくださいね!」


僧侶「……こっちの返事も聞かず言うだけ言って逃げるたあ いい度胸してんじゃねーかあの兜」

僧侶「追ってぶん殴るか?ん?あの兜も売れば今日の宿代くらいにゃなるんじゃねーのか」

剣士「やめてよ。僧侶くんの時折見せる山賊のような瞳のギラつきは一体なんなの」

僧侶「元山賊だからな、お手のもん……あっウソウソ!そんな経歴は僕持ってないよ!清廉潔白な僧職だよ!」

剣士「えっ……」


勇者「ドラゴンか…… とりあえず探そうか」

勇者「殺さなくちゃね」






462: ◆TRhdaykzHI 2014/03/11(火) 21:57:22.95 ID:r9T/43Dxo





鍾乳洞



剣士「すごくドラゴンが潜んでいそうな鍾乳洞に辿りついたね」

僧侶「まあ、入ってみるか」

勇者「……」


コツ……コツ……コツ


ォオ……オ……ォオオ


勇者「どうやら本当に竜はここに潜んでるみたいだね。ドラゴンの唸りが奥から聞こえる」スタスタ

剣士「ちょっと、勇者、慎重に行った方がいいよ……!もっとゆっくり」

剣士「ねえっ 聞いてる?」

僧侶「ハァ、だめだアイツ……聞いてねえよ」




最奥




勇者「……」

子竜「グルルルルルル……」

剣士「た、確かにドラゴンだけど……すごく小さいね。まだ子どもだ」

僧侶「怪我してるな」

勇者「来るなって言ってる。迷って人間の土地に来てしまったらしい」

剣士「言ってること分かるの……?」

子竜「…………」バサバサ

勇者「でも見逃すことはできないよ」スタスタ

勇者「死んでくれ」




463: ◆TRhdaykzHI 2014/03/11(火) 22:01:08.11 ID:r9T/43Dxo




剣士「えっ……」

僧侶「前とは言ってることが違うじゃねえか。いいのか勇者。
   お前、必要がないのなら魔族はできるだけ殺したくないって言ってなかったか」

勇者「うん、僕が間違ってたよ」

勇者「もっと早く気付いていたらよかった……」



勇者「あのとき、雪の塔でグリフォンを見たとき、奴を殺していれば狩人はあんなことにならなかったんだ。
   敵を見逃すって行為は仇となって帰ってくるって、狩人はずっと前に僕に言ってくれてたのに」

勇者「僕が偽善を振りかざしたばっかりに、あんな……」

勇者「ここでドラゴンを見逃してまた同じことになったらどうする。僕はもう二度とごめんだ!」

勇者「……殺すよ。これが戦争なんだ」

勇者「やっと僕にも分かった……」








―――――――――――――
―――――――――
――――






兜男「はあ……全然見つかりませんなあ」

兜男「おや勇者様! どうでした、見つかりましたか?ドラゴンは」

勇者「見つかりましたよ」

勇者「ちゃんと始末しました」

兜男「それは重畳!さすが勇者様とそのパーティとあらば、負傷もなく返り血ひとつ浴びず
   ドラゴンを倒すことができるのですね。まあ吸血鬼もヒュドラも倒したのですからそりゃそうですよね」

兜男「期待してますよ!勇者様。 あ、今日の宿のお代はけっこうですとも!
   どうぞお休みになってください」

僧侶「おっ やったな。金が浮く」

勇者「……」




464: ◆TRhdaykzHI 2014/03/11(火) 22:01:54.47 ID:r9T/43Dxo


第四章 魔女狩り




465: ◆TRhdaykzHI 2014/03/11(火) 22:03:22.20 ID:r9T/43Dxo



星の国 都



学士「というわけでここ星の都は別名学問の都とも呼ばれるくらい、大陸一!学問が発達している都市なのさ。
   都の門をくぐってまず聳え立つ天文台を目にしたでしょう?それを見て分かる通り、天文学が盛んなんだ」

剣士「あ、あれすごかった。天文台だったんだ」

学士「ハァァ……もっとも今は戦時。兵器や防具の開発の方に力を入れさせられてるんだけどね」

学士「とにかく、ようこそ星の都へ。歓迎するよ勇者と剣士と山賊」

僧侶「僧侶だけど」

学士「あ、そうなの?ごめんごめん。あんまりにも柄が悪かったから。
   でだね、わざわざ君たちの宿に押し掛けてこうして話をしているのは、教えてほしいことがあったからなんだ」

勇者「あ……はい。できればもう寝る時間なので帰って頂けると……嬉しいんですけど……」

学士「僕はこの大陸の女神について研究してるんだけど、君はもう二人の女神に会ってるんだよねえ!!
   太陽の国の女神から授かったっていう武器を見せてもらってもいいかなあ!?」

勇者「どうぞ」

学士「ありがたや! 一晩貸してもらっても構わない?ちょっと見てみたいんだ」

僧侶「グオー……グー……」

剣士「むにゃむにゃ……」

学士「それで、これが僕の一番聞きたいことだったんだけど、雪の塔の女神から授かった知恵っていうのは……
   一体どんな知恵だったんだ!?僕はそれを聴くまで帰らないぞ!!帰ってやるもんか!!」

勇者「……」

勇者「あ……」






466: ◆TRhdaykzHI 2014/03/11(火) 22:06:58.42 ID:r9T/43Dxo





翌日


カラン


勇者「そういえば、女神様にもらったこの鍵、使ってなかった。……正直それどころじゃなかった」

剣士「勇者。その隈どうしたの」

勇者「あの学士が帰ってくれなくって」

僧侶「鍵ってったって、どう使うんだ?どの扉の鍵だよ? 女風呂の鍵とかだったら喜んで使うが」

勇者「……どう使うんだろう」



パッ



勇者「!」

剣士「きゃっ なに?」







470: ◆TRhdaykzHI 2014/03/13(木) 18:43:44.85 ID:Ya5Icoc2o



世界図書館



勇者「転移した……のか?」

剣士「ええっ なにここ? 広い。天井が見えないよ」

僧侶「う、腰打った……」


司書「うわ。閲覧客なんて久しぶりだ。お前が今の時代の勇者なんだ。へえー」

勇者「君は……」

司書「まあ、ゆっくりしていけば。なにか知りたいことがあるなら聞いて。
   ここは世界図書館、俺はその司書。先に言っとくけど、ここは一度来たら二度と来れないからね」

司書「後悔しないように、きっちり見といて」

勇者「図書館? ……よく見たら壁じゃなくて、全部本棚なのか」

僧侶「にしても広すぎだろー。 異性にもてるコツがのってる本とかある?」

司書「あるよ。はい」

剣士「あるの!?」





勇者「知りたいことって急に言われてもな……。あ、それなら、この魔術書の最後のページにある読めない呪文、」

剣士「勇者」

勇者「あっ、いや、別に使うからって意味じゃなくて、」

剣士「禁術は使わないって約束してくれたよね」

勇者「でもここには一度しか来れないし、一応聞いてお

剣士「したよね?」

勇者「しました」





471: ◆TRhdaykzHI 2014/03/13(木) 18:48:16.41 ID:Ya5Icoc2o






剣士「このものすっごく分厚い本はなに?司書さん」

司書「それは歴史の本。どれ、よっこいしょっと。読んでみる?けっこうおもしろいこと書いてあるかもしれないよ」

剣士「XXXX年、XX月XX日――△△番目の勇者が世界図書館に到着。 えっなにこれ。今日のこと……だよね?
   なんでもう本に書かれてるの?」

司書「そりゃ今日のことだって一瞬過ぎればただの歴史になってしまうよ。すぐ記録されなくちゃ」

勇者「すごいな、全部書かれているんだ」

司書「とくにお前らにとってはここがおもしろいんじゃないか?ほらここ。
   お前らがいま必死になってやってる戦争がはじまった日だよ」

勇者「XXXX年……大陸連合軍がドワーフ領・エルフ領へ侵攻開始。最大規模の人魔戦争の幕開け……」

勇者「えっ?」

司書「そうそう。お前たちが生まれるずーーっと前に、戦争を始めたのは人間側なんだ。
   お前らはそう知らされてないみたいだけど」

剣士「昔は人間の方が強かったのかな。その翌年に、また別の種族に侵攻して……どんどん領土を広げてるよ」

司書「いやあ、魔族が弱かったのさ。といっても単なる文明の発達度や武力のことじゃなくって、統率されてなかったってだけ」

司書「魔族がまだ一丸となってなかったから、どんどんドワーフやエルフとかの弱小種族は侵略されちゃった」

司書「でも次のページを見てご覧よ。魔族が巻き返して領土奪還に成功してる」

勇者「魔王か……」

司書「おう。いまお前たちが挑もうとしてる魔王のことだけど……彼がバラバラだった魔族をまとめあげた!
   すごいな、天下統一だぜ。めったにできることじゃあないよ」





472: ◆TRhdaykzHI 2014/03/13(木) 18:53:49.71 ID:Ya5Icoc2o




司書「魔王に統率されて連携のとれた魔族は一気に強くなったさ。それに当時の人間は大慌て。
   勝機があると思って仕掛けた戦が突然負け戦に変貌しちゃったからね」

剣士「それで……どうしたの?」

司書「どうしたもこうしたも、あとはお前たちが身をもって体験している通り、一方的な戦争に早変わり。
   魔王軍の超優勢だよね。大変だよね。このまま人は絶滅してしまうのかなあ」

僧侶「他人事かよ、テメエ」

司書「他人事だよ。俺人間じゃないし。魔族でもないけど。ただの司書だよ」



勇者「でも、どうして人間は魔族へ侵略を開始したりしたんだ?」

司書「そりゃあ、人同士の戦を穏便にやめるためだよ。つーか本見ろよ」

剣士「太陽、雪、星の国の百年大戦…… あ、これは歴史の教科書で見た!私が赤点とったところだ」

勇者「君寝てたから……。ああ、その大戦の停戦条約の後に魔族への侵攻が開始してる」

司書「その大戦も長くってなあ、百年だぜ百。そりゃあ王も軍も人も疲弊しちまうよな。
   これがなっかなか終結しなくて、均衡状態が続いたのが悪かった。いっそどこかの国が圧倒してれば別だったかもな」

司書「国のトップはいい加減穏便に停戦条約を結びたかった……でも国民が納得しなかったんだ。
   下手言った王族が過激派の民衆たちに処刑されたりして、すごい時代だったんだぜ」

僧侶「はーん、なるほどな。そこで王様たちは魔族に目を向けて、国対国じゃなくて人対魔族の対立を煽ったわけか」

司書「そうさ。あわよくば戦争で枯れた資源も確保できれば上々といったところだったんじゃないかな」

勇者「でも、そんなの侵略された魔族からしたら」

司書「たまったもんじゃないね。でもさっ! 魔族……つーか魔王も同じ考えだったと思うよ」

剣士「え?」





473: ◆TRhdaykzHI 2014/03/13(木) 18:58:03.48 ID:Ya5Icoc2o





司書「だって魔王のタイミングがよすぎるね。きっと彼も狙っていたんだ。魔族統一の機会を」

司書「ほら見てよ。人間と同じように、魔族も種族同士の因縁や対立、小競り合いがわんさかあったんだ。
   魔族統一をしたい魔王にとって、魔族同士の対立をやめさせるための外敵の出現は好機だったはずだよ」

剣士「うーん……ちょっと待って、なんか頭こんがらがってきた」

剣士「えっとつまり……結局同じ理由で人間と魔族は戦ってて……」

勇者「なら、どちらの当初の目的は既に達成されているじゃないか。
   人間同士のいがみ合いももうないし、魔族だって統一されているし……」

勇者「だったら……僕たちがしていることの意味って一体なんなんだ……?この戦争の意味は……」

司書「さあな」

司書「それを見つけるための知識だよ。意味はお前たちが勝手に決めろ」



僧侶「さっきから聞いてて思ったんだが……『勇者』はこれまでたくさんいたんだな」

司書「うんいたいたー。お前らが勇者って呼ぶ連中はな。ちょっと待ってろ。あらよっと。はいこの本」

剣士「地下遺跡について……。地下遺跡?」

勇者「『大陸にあるいくつもの地下遺跡には、人間と魔族の言葉が入り混じったような紋様が刻まれている。
   古の時代には魔族と人間が共生する社会があったのではないだろうか……』」

僧侶「ハッハ、そんなわけないだろ」

司書「いやー、あるんですねこれが。
   創世された時は人間とか魔族とかの区別はなかったよ。一つの国で一緒に暮らしてた」

剣士「えー!?」

勇者「……」





474: ◆TRhdaykzHI 2014/03/13(木) 19:00:50.19 ID:Ya5Icoc2o




司書「その時代には生きてる者全員が魔法を使えたんだよ。人の祖先も、魔族の祖先も区別なく。
   勇者が今使ってるような魔法とか、もっとすごいのとか……」

勇者「なにがあって魔族と人に別れたんだ?」

司書「いまでもあると思うけど、王位継承問題だよ。誰が王になるかで人の祖先と魔族の祖先は派閥をつくって対立した。
   自然と見事に調和していた都もあっという間に荒廃しちゃった。あれは悲しかったな」

司書「後に人となる者は、自分たちから魔法を切り離して女神として崇めた。会ったよな?塔の女神。あいつらね。
   自然界の力を捨てて、別の方法で戦うことを選んだんだよ」

僧侶「ああ……? じゃあ俺が使うような治癒魔法は一体なんなんだ」

司書「それは女神から信仰心の代わりに受け取れる神様の力。勇者とか魔族が使う自然界の力とは根本的に違う。
   信仰をやめちゃえば……つまり神殿から籍を外せばお前はそれを使えなくなっちゃうんだろ?
   一時的に借りてるだけのかりそめの魔力だよ」

僧侶「ふーん……ややこしいな」



勇者「魔族は、魔法を手放さなかった。そしてその魔法の集大成として作られたのが魔法書と剣……」

司書「そう。もう察しがついてるみたいだな。いやーその二つの威力はすごかったよ。
   それらのおかげで魔族の祖先がだんだん優勢になっていった。でもおかしいよな」

司書「なんでその書と剣が今の時代に勇者の武器になってるかってことだよ。
   人間の祖先が盗んだのさ。それで一発逆転しようって考えた」

剣士「それで、どうなったの?」

司書「晴れて一発逆転、王位は人の手に! とはならなかった。
   元々魔族用に作られた武器だったんだから、人間が使いこなせるわけなかったんだ」

司書「魔法書の方は、人間はもう魔力を捨てて女神にしてしまったし、
   剣は度重なる戦で呪いを帯びて魔剣になってしまった」

司書「あの剣はね、抜くのに条件がいる。持ち主を選別する剣なんだ」

司書「その条件を満たした者がいたにはいたけど、人の体には負担が大きすぎて1日程で命が尽きた。
   結局、書も剣も盗んだはいいけど使いこなせる人間はいなかったんだよねー。どんまいだね」







475: ◆TRhdaykzHI 2014/03/13(木) 19:07:11.66 ID:Ya5Icoc2o
  




司書「それで困ったね、ってなって、どうなったか見る前に」

司書「ここで一旦話をそらして、勇者という謎の存在について見てみようよ。
   はい、これ。『勇者の歴史』」

司書「『勇者。人間でありながら魔族の魔法を使いこなす特別な存在。
   この世界に現れる頻度は一定ではなく、発生条件も謎である』」

司書「つまりさ、お前は先祖返りみたいなもんなんだよね。人間も魔族も等しく魔法が使えた時代……
   まだ仲良く共同社会の中で生きていた、遠い遠い古の時代の生きる化石ってわけだ」

勇者「えっ……」

剣士「勇者って化石だったの!?」

僧侶「剣士ちゃん、頑張って話についていこうな!分かんないところあったら俺が教えるからな!」

剣士「うん」

司書「なんか、勇者は神に選別されて~~みたいなことたぶんお前らは聞いて育ったんだと思うけど
   勇者が『勇者』っていう英雄的位置づけになる前にも存在したからな、その先祖返りは」   

司書「いや、分かんないよ?本当に創世の神様が選んでるのかもしれないけどさ、
   俺もまだ冥府の番人じゃない方の創世主には会ったことがないから、そればっかりは推測になる」

司書「とにかくいたんだ。『勇者』の伝説の前にも先祖返りはいた。
   先天的に魔法が使える者が大半だったけど、稀に後天的にある日突然魔法が使えるようになった者もいた」

司書「一番最初の先祖返り……まだ『勇者』とは呼ばれてなかった、そいつは
   人と魔族が二派に分かれてから数十年後に現れた。どうなったと思う?」

司書「生まれてすぐ殺されちゃった。その数十年後、2人目の先祖返り。さらに百数年後、3人目が生まれる。
   全員同じだよ。魔法の片鱗を見せた辺りで生まれなかったことにされちゃったよ」

剣士「……そ、そんなのひどいよ」

僧侶「なんかいきなり重いな!」

司書「だってさーーーしょうがないよ。親や村のみんなの気持ちになって考えてみなよ!
   敵対してる魔族の魔法を何故か使える子どもだよ?人からすれば気味悪いし縁起悪いし、正直化け物だよね」

司書「まあというわけで先祖返りはいたけど、表舞台には立たなかった。すぐ殺されたから」

勇者「……」

勇者「そっか。表舞台に立つようになったのは、魔剣と魔法書を人が魔族から盗んでからってわけか」

司書「そうそう」





476: ◆TRhdaykzHI 2014/03/13(木) 19:10:14.06 ID:Ya5Icoc2o




司書「だって人と魔族が分かれる前の時代の先祖返りなんだから、極端な話、人でも魔族でもあると言えるんだ。
   魔族のための剣と書も……完璧に使いこなせるわけじゃないけど、ほかの人間よりは遙かに使える」

司書「それから先祖返りは『勇者』って呼ばれるようになって、英雄的な扱いをされるようになった。
   よかったね、お前もこの時代に生まれて。昔に生まれてたらすぐ殺されてたよ」

司書「このころ生まれたのが今に伝わる石板の伝説だね。王都で聞いただろ?
   勇者は塔の女神から力と知恵とほにゃららをもらいますよってさ」

剣士「ほにゃららってなに?確か星の塔の女神様がくれるものだよね」

司書「それは……秘密。悪いけど、行ってからのお楽しみ」



司書「これが『勇者』の誕生の歴史。勇者は英雄に祭り上げられました、おわり……
   というわけでもないんだよなあ。気をつけろよ勇者」

司書「怖いのはその後だよ」

司書「だからこそ、ここでいろいろなことを知って、そのうえで選ばなければいけない。いまのうちに。
   お前には選ぶ権利がある」

勇者「どういうことだ?」

司書「お前は人でもあり魔族でもある。肉体は人だけど中身は魔族だ。人として育てられたけど魔族の魔法を使える異端者だ。
   だから別に人間に味方しなくちゃいけないってこともない」

司書「人を殺すも守るも、魔族を殺すも守るも自由。塔を壊しても守ってもいい。なんなら戦争なんて参加しないで逃げてもいい。
   なんでもいーよ」

勇者「…………僕の中身が魔族?」

勇者「違う。僕は人間だ!!」






477: ◆TRhdaykzHI 2014/03/13(木) 19:13:52.30 ID:Ya5Icoc2o




勇者「いっしょにするな。……同じじゃない。僕は……狩人を……あんな目に合わせた魔族なんかと同じじゃない……!」

司書「同じだよ。魔族がつくった魔法書の術を使えたことがその証明だ。
   つまりまあ、考えてみればひどいことしてるよなあ」

司書「魔族のための魔法で、魔族をぶっ殺したんだからさ。けっこう悲惨な同族殺しだな」

勇者「違う……!」

司書「何が違うんだよ? 火とか水とか雷とかの攻撃魔法だって、ぜーんぶ魔族と一緒のもの使ってるじゃないか。
   治癒魔法ですらそうだ。気づいてたんだろ?自分が使う治癒魔法が、僧侶のものとちょっと違うってさあ」

司書「認めろよ。まずそこから始めないと。お前は人でもあり魔族でもあるんだ。
   仲間を殺したあの魔族とはある意味で一緒の民族なんだぜ」

勇者「違うっ!!」


ガタッ!



剣士「……」

司書「……」

司書「……な、なんだよ」

剣士「……別に?」

剣士「ただちょっと、言葉に気をつけてねって言おうとしただけ」

司書「じゃあなんで立ち上がったんだよ!座れよ!やめろよな、ここは図書館だぞ!暴れたりしたらどうなるか――」

司書「……なんだよう!こっち来るなよっ!! に、睨みつけるなっ!!」

司書「お、俺はなんでも知ってる司書なんだぞっ!! 偉いんだぞ!そんな目で見るなっ!!
   お前らのためにいっぱい教えてあげてるんじゃないかっ!!」



勇者「け、剣士。座ろうよ」

司書「うっ、なんだよこいつ……久しぶりの客かと思ったらコレだよ……超こわかったよ……」






478: ◆TRhdaykzHI 2014/03/13(木) 19:24:22.06 ID:Ya5Icoc2o




僧侶「メソメソすんなよ。女になって出直してこい。慰めてやるから」

司書「こいつはこいつで最低だな」



剣士「勇者は勇者だよ」

勇者「え?」

剣士「種族とか民族とかそういうの抜きにして、勇者はずっと前から私の幼馴染の勇者だよ。
   今までもこれからも、それだけはずっと変わらないでしょ」

剣士「だからそれはいつも忘れないで」

勇者「……」

勇者「……うん」






司書「ほかに聞きたいことないなら帰れよっ!!もう二度と来るなよな」

司書「とにかく勇者に資料は与えた。歴史も知識も道しるべじゃない、単なる資料だ。選ぶのはお前だからな」

司書「分かったらそれ肝に銘じてとっとと帰れよ!!気をつけろよ!!」




ヒュン





479: ◆TRhdaykzHI 2014/03/13(木) 19:27:24.03 ID:Ya5Icoc2o



* * *


僧侶「なんか変な奴だったなあ」

剣士「ね」


コンコン


神官「失礼します。太陽の国の神官から、勇者様へのお手紙が届いております。こちらをどうぞ」

勇者「神官?」

神官「できるだけ早急にお返事を、とのことです。宜しくお願いします」




勇者「神殿から手紙なんて……一体なんのことだろう。ええと」

勇者「……なんだかタイミングを図ったかのような手紙を送ってくるな」

僧侶「えーどれどれ。ずらっとある余計な世辞を抜かすと、
   要するに俺たちが今見てきた、女神様からの知恵の内容を教えろってことだな!」

剣士「……。全部は言わない方がいいんじゃないかな……。なんとなく」

勇者「全部書くと鳥が重くって運べない便箋の量になっちゃいそうだよね。
   当たり障りのないところ……そうだな、地下遺跡のことでも書こうか」

剣士「遺跡のことなんてあいつら知ってそうだけどな。まあいいんじゃね適当で」

勇者「手紙まで送ってくるなんて、よっぽど気になるのかな」







480: ◆TRhdaykzHI 2014/03/13(木) 19:28:40.27 ID:Ya5Icoc2o





* * *



地下集落


兄「……そういえばお前は家族はいないのか」

青年「へ? ああ、いません。孤児だったんです」

青年「だから兄妹の関係って憧れます。いいですよね、お互いに頼れる存在って」

兄「……」



妹「ふふ。けっこうあの二人も打ち解けてきてるじゃない?」

少年「そう……かあ……?」

妹「そうよ。 ん……?」



爺「……」コソコソ



妹「あの、何か……?」

爺「いっ いや、なんでもないよ」スタスタ

妹「……? 行っちゃったわ」

少年「あの爺さん最近オドオドしてて変なんだ。気にしない方がいいよ」





481: ◆TRhdaykzHI 2014/03/13(木) 19:30:50.12 ID:Ya5Icoc2o




妹「……できたっ! じゃじゃーん、赤ちゃん用の靴下よ」

少年「お姉さん結構編み物うまいじゃん」

青年「女の子と男の子どっちが生まれるか分からないから、ピンクと青の二色編んでるんだよね」

妹「そうよ。男の子だったらきっと青年さんにそっくりでしょうね。ふふ」

青年「僕は妹さん似の娘が生まれたら溺愛しそっ……ハッ!」ビク

兄「……はあ、よい。続けろ。もう見慣れた」


妹「ほらね、少年くん。二人打ち解けてるでしょ?」

少年「そうかも」



兄「その腹、痛くはないのか」

妹「うん、痛くはないよ。たまに赤ちゃんがお腹の内側から蹴ってくることはあるけどね」

妹「もうすぐ生まれてくるの。早く会いたいな」

妹「そしたら兄さんも叔父さんよ。仲良くしてあげてね」

兄「……ああ」

妹「わっ な、なにいきなり。もう子どもじゃないんだから頭撫でないでちょうだい」

兄「頑張れよ」


女「赤ちゃんかー。楽しみね」

男「だな。元気な子だといいな」

少年「ねー」





482: ◆TRhdaykzHI 2014/03/13(木) 19:32:55.37 ID:Ya5Icoc2o





* * *


星の塔


炎竜「どうしても聞き入れぬか」

魔女「しつこいです。あなたは太陽の国の担当でしょ。
   勇者の相手は魔女族だけで十分。大体……あなたたち竜族がいると空が飛びづらくってしょうがないの」

魔女「協力はむしろ非効率的だと思います。帰ってくださいな」

炎竜「しかし……ヒュドラも倒された。勇者はすでに魔剣と禁術を手に入れているぞ。
   魔女族だけで太刀打ちできるのか」

魔女「お心遣いはありがたいけれど、さっきも言った通り協力した方がやりにくいのです。
   私には私の戦い方がありますから」

炎竜「む……そうか。承知した」

魔女「……あら、ちょっと待ってください。部下がこっちに向かってくるわ」


ガタ


魔女「どうしたの?何かあって?」

部下「そ……それが! あ、炎竜様……!!」

部下「あの……炎竜様のご子息が!」

炎竜「わしの息子なら魔族領の竜の谷にいるはずだが、それがどうした?」

部下「星の国の森の中で……このような状態でさきほど……!!」


ドサ


炎竜「!?」

魔女「……ま、まあ……可哀そうに」

子竜「ヒュー……ヒュー……」

炎竜「しっかりしろ!! いかん、衰弱しておる」

炎竜「すぐに竜の谷に連れ帰る。また来るぞ」


バサッ バサッ……





483: ◆TRhdaykzHI 2014/03/13(木) 19:36:11.59 ID:Ya5Icoc2o





魔女「ひどいですね……まだあんな小さな子どもなのに」

部下「全身の血が抜かれ、鱗が剥ぎ取られていました。生きているのが奇跡です。
   竜族の生命力の強さが幸いしましたね……」

魔女「どうして竜の谷にいた子竜がこの国にいたのかしら。父親を追ってきちゃったのかしらね。
   で、あんな目に合わせたのは人間なのでしょう?誰かは分かっているの?」

部下「近くをぶらついてた男どもに聞いたところ、勇者だそうです」

魔女「……あら」





―――――――――――――
―――――――――
――――



魔女「ですってよ。この間は跳ねのけてしまった提案だけど……気が変わったわ。
   受け入れてあげてもいいですよ」

炎竜「………………………………」

炎竜「……勇者……か」

魔女「ご子息はどう?大丈夫でした?」

炎竜「一命は取り留めた……が意識が戻らん」

炎竜「………………お主の足を引っ張っても悪い。やはり共闘はなしにしよう。
   ひとまず、まかせる」

魔女「よろしいの?」

炎竜「ああ。……魔女……わしは今腸が煮えくりかえっているが、何故だかわかるか」

魔女「勿論、ご子息が傷つけられたからでは」

炎竜「否。奴が勇者でわしらは竜の敵同士、子どもだからといって見逃されることはないとわしも重々知っておる」

炎竜「問題なのはその理由だ。戦だからという理由で息子の命が奪われたのなら、わしも戦士としてまだ得心がゆく。
   しかし此度息子が傷つけられたのは、血と鱗が奪われていたことから、どう考えても納得がゆく理由ではない」

魔女「ああ……金儲けですか。竜の血も鱗も高値で取引されてますものね」

炎竜「耐えがたいことだがな」


炎竜「わしは勇者に幻滅した。あちらがそのように戦争を考え、わしらを侮辱するのなら」


炎竜「こちらとて手段を変えよう」




484: ◆TRhdaykzHI 2014/03/13(木) 19:37:51.47 ID:Ya5Icoc2o





* * *


魔王城


コツコツコツコツ


兄(ふう…… 吸血鬼に続いてヒュドラもやられてしまうとはな)

兄(星の塔まで奪還されるわけにいかない。
  もうこの際……俺が星の国に出向いて塔の前で勇者を待ち伏せして殺せば済む話ではないのか?)

兄(しかしヒュドラの後釜を据えるのが先か……水魔族で統率力があって実力もある奴……あいつかあいつかあいつだな。
  首領争いとか頼むからするなよ、面倒起こすなよ……。そいつ任命したら星の国へすぐ行って……)




魔王「……そう急くな、息子よ」

兄「父上」

魔王「なかなかよくやっているようだが、全て自分一人でこなしてしまっては部下が拗ねるぞ。
   魔女と炎竜の気持ちも汲んでやれ」

兄「はい」

魔王「お前にほとんどまかせてしまってすまないな。どれ、今日は体の調子もいい。
   あとは私が久しぶりに動こう」

兄「大丈夫ですか?」

魔王「心配するな。お前は娘のところにでも行ってやれ」

兄「……」





485: ◆TRhdaykzHI 2014/03/13(木) 19:40:52.17 ID:Ya5Icoc2o


地下集落


青年「…………」ウロウロ

青年「…………」ウロウロ

少年「……座りなよ」

青年「だ、だ、だ大丈夫だろうか……!?」

少年「青年さんも落ち着けよ。さっきからウロウロしてみっともないぜ」

青年「で、でも……」


バタン



青年「女さん!! 妹さんは……!?ぶぶぶぶっ無事なんですか!?」

女「……ああ」ニッ

女「元気な男の子だよ。ほら」

青年「ああ……っ よかった……!!!神様……!!」






女「ふう。一安心だね。無事に産まれてよかったよかった」

女「ところで、男の奴はどうした?姿が見えないけど」

少年「さあ。 あ、さっき爺といっしょにいるところをちらっと見たよ」

女「ふうん……?」





男「正気か……!!爺さん!?」

爺「お前こそ正気かっ!? よ、よく考えろ!」

爺「神殿様に目をつけられちゃこの集落も終わりだ!!
  匿えばこの集落全員、女子ども関係なく魔族の疑いで異端審問だ!」

爺「し、審問とは名ばかりの死刑だぞ……。
  ずっと人の世界から疎まれてきた俺たちがつくった村が、ひ、一晩で皆殺しされるんだぞ」

男「だからって、あんまりだろ!今日あの娘は……」

爺「そうだ、お産だろう。いくら魔王の娘といえど、抵抗はできまいて」

男「あ、あんた……! あの娘だってこの村の一員だろっ」

爺「お……俺は悪くない。言っておくが、村人の大多数の同意をすでに得ている。
  お前たちは魔王の娘と親しくしていたから言わなかっただけだ……」

男「……っ」ダッ


男「!? は、離せっ 馬鹿野郎!」

 「……馬鹿はお前だ。もう神殿の奴らが来る。大人しくしてろっ!」

 「だめだったか」


爺「あの魔族を差し出せば俺たちが今まであいつと一緒に村で暮らしていたことも……
  この地下集落のことも見逃してくれるそうだ」

爺「し……しかたないだろ。しかたないんだよ!!俺たちは悪くないっ!!」

486: ◆TRhdaykzHI 2014/03/13(木) 19:44:33.33 ID:Ya5Icoc2o





赤ん坊「……あうあう……」

妹「さっきまでぎゃんぎゃん泣いてたのに、もう笑ってる……」

青年「男の子かあ。かわいいなあ。名前どうしようかあ。髪の色、妹さんといっしょだね」

妹「目の色と鼻はあなたね……。あ、ちっちゃい角生えてる。ふふ」

青年「かわいいなあ。名前どうしようか。君のお兄さんに名付け親になってもらおうか?」

妹「…………うん……」

青年「だ、大丈夫かい?」

妹「平気、ちょっと疲れちゃっただけ……」



バタン!


青年「……!? 男さん……その傷は!?」

男「に、逃げろ! 早くここから逃げろ!」

女「あんた一体どうしたって言うんだよっ この傷は誰にやられたんだ!?」





青年「そんな……神殿がここに!?」

男「そうだ、すぐ逃げろ!赤ん坊を連れて今すぐ……! 
  あんたの兄が壁ぶち破ってここに来たときあったろ、あそこからならたぶん逃げられる」

妹「で、でも。私が逃げたら村のみんなは魔族を匿っていた罪で、」

男「いいから早く逃げろよ!!赤ん坊もろとも殺されるぞ!」

青年「……っ妹さん! 行こう!」

青年「男さん、女さん、少年くん、あなたたちも……!!」

女「……。私は男と後から行くよ。ちょっと準備もあるからね!
  少年、あんたは先に青年と一緒に行きな!ほらさっさとする!ぼーっとするな!」

少年「えっ、あ、う、うん!」







タッタッタッタ……


妹「はあ、はあ……はあ……」

青年「はあっ、はあっ、一体どうして地下集落のことが神殿に洩れたんだ……!?」

青年「ここのことは……今までずっと誰にも知られていなかったのに!」

赤ん坊「ぎゃーーん!」

青年「しっ……。静かに静かに……見つかってしまう……!」

少年「お姉さん大丈夫!?」

青年「!? 妹さん!」

妹「はあ……はあ……」


487: ◆TRhdaykzHI 2014/03/13(木) 19:50:29.16 ID:Ya5Icoc2o




妹「ごめんなさい……もう私走れない……はあ……はあ……」

青年「なら僕が抱えるよ。掴まって!」

妹「……だめ。追いつかれちゃう。……行って」

青年「そんなことできるわけないだろう!?」

妹「捕まったら……あなたも赤ちゃんも殺されてしまう。
  お願い……その子と少年くんを守って……先に行って」

妹「それにね、やっぱり私のせいで村の人たちが殺されてしまうのは耐えられない。
  だって……全部私の我儘だったんだもの」

妹「私がいてはいけないところに、無理やり転がりこんで生活していたせいで、
  ……村のみんなが……死んでしまうなんて、やっぱりだめよ」

妹「私が責任を取らなきゃ」

少年「でもっ村のみんなは、お姉さんを騙して……!」

妹「分かってる。いいの。それに、男さんと女さんはそれでも私のこと逃がしてくれようとしたわ……
  それだけで十分よ」


妹「青年さん。あなたといっしょに暮らせて、夢みたいに幸せでした。
  私が魔族だって分かっても……変わらない笑顔を向けてくれて……本当に本当に嬉しかったの」

妹「その子をお願いね。元気ないい子に……きっと育つわ」

青年「……やっぱりだめだ、妹さん……頼むから一緒に逃げよう。必ず守るから」

妹「青年さん、そんな顔をしないで。魔力はほとんどないけれど、これでも……私は魔王の娘よ!」

妹「大丈夫、また必ず会える」

妹「……私たちが出会ったあの泉の前で……きっとまた会えるわ」


妹「………………ね」





490: ◆TRhdaykzHI 2014/03/14(金) 22:43:46.47 ID:1jvTlR5Vo





* * *


ヒュン


兄「……?」

兄「騒がしいな……。 なんだ?火事か……?」



パキパチパチ…… ゴオォォォ……


兄「…………」


 「見なさい、悪しき者が成火にて浄化される様を。煙が黒々としてなんと恐ろしい光景か……」

 「魔女だ」「魔女」「魔族だ」「ああ……」


兄「…………」クラ

兄「なにをしている?」

兄「なにをしているんだ? おい。なにをしている」



武僧A「……まだ隠れていたようだ。捕えるぞ。こいつも火あぶりだ」

武僧B「ああ」

兄「邪魔だ……」


ビチャッ





491: ◆TRhdaykzHI 2014/03/14(金) 22:45:36.99 ID:1jvTlR5Vo





兄「妹。しっかりしろ。おい。返事をしろ。妹」

妹「……」

兄「……返事をしてくれ」





村人「ひっ…… 神官様が全員一瞬で……肉塊に……」

村人「ま、魔王の息子……やばい、逃げるぞ」

兄「全員この場から動くな」

兄「どういうことだ……? 説明しろ。貴様も、そこの貴様も、妹とついこの間まで友人のように話していたな。
  なんだ?最初からこうするつもりだったのか?」

兄「笑顔を向けつつ腹の内では化け物だ魔女だなんだと考えていたわけだ。……ハッ。
  ならばはじめから受け入れなければよかったものを」

爺「……仕方ないだろう!! お、俺たちは神殿にその娘を差し出さなければ異端審問にかけると言われていたんだ!!
  俺たちより神官の方が悪いだろうがっ!!」

兄「要するに自分の命かわいさに妹を売ったのだな。そうか」


兄「……あいつはどうした。青年はどこにいるんだ……」

村人「……逃げた」

兄「…………………………………………………………」

兄「そうか」






492: ◆TRhdaykzHI 2014/03/14(金) 22:49:37.59 ID:1jvTlR5Vo




スッ……


村人「ヒッ!」

村人「や、やめてくれ!」

爺「……俺たちは悪くないぞ!殺すんなら、神殿の奴らを……!」

兄「ああ、そうだな。貴様らは何も悪くない」

爺「……あ、ああ。そ……そうだ」


妹「……」

兄「帰ろうか。城に。  軽くなったな」

兄「熱かっただろうに……助けてあげられなくてごめんな」



スタスタ


村人「か、帰ってくぞ……」

村人「私たち助かったの?」

爺「ひい……死ぬかと思った……」






493: ◆TRhdaykzHI 2014/03/14(金) 22:50:43.65 ID:1jvTlR5Vo




兄「悪いのは俺だ」

兄「チャンスはいくらでもあったのに、人間に近寄って行くお前を止められなかった。
  強引にでも連れ戻せばよかった」

兄「俺も……少しは……人間も悪くないのかもしれないなんて思ってたんだろうな」

兄「馬鹿が」







兄「ああ、忘れていた」

兄「地上ごと消すか」




兄は魔法を唱えた。
その日 地上にあった町ごと地下集落は壊滅した。





494: ◆TRhdaykzHI 2014/03/14(金) 22:52:13.17 ID:1jvTlR5Vo



女エルフ「最近竜族が慌ただしいね。魔王城もなんか騒がしいし」

エルフ「なにあんた、知らないの?」


女エルフ「……えっ? うそ、そんな」

エルフ「ほんと。姫様人間に殺されちゃったんだって……ひどいよね。
    竜族が飛びまわってるのは、あれよ」

エルフ「勇者が炎竜様の息子を必要以上に手ひどく傷つけたらしいから、炎竜様怒り狂ってるって」

女エルフ「……そんなのうそだね! 勇者たちがそんなことするわけ、ない……と思うんだけど!
     あいつら人間だけど、そんなことするような奴らじゃない……かもしれない!」

エルフ「あんた、なに言ってんの? わけわかんない」

女エルフ「と、とにかくちょっと私は炎竜様に話してくるよっ」

エルフ「ちょっと!?」





495: ◆TRhdaykzHI 2014/03/14(金) 22:55:02.53 ID:1jvTlR5Vo




* * *


星の都 宿屋


剣士(明日この王都を発つから、荷物整理しないと)

剣士(買い物は今日済ませたし……買い忘れ、ないよね。うん。
   ……あれっ 地図どこいった? 地図地図地図)

剣士(地図がないっ!! どこしまったっけ? 私が持ってたよね。あれーー?)ガサガサ


ガタッ


剣士「あっ ねえ狩人ちゃ…………」


剣士「……あ」

剣士「またやっちゃった……」


剣士「……」






496: ◆TRhdaykzHI 2014/03/14(金) 22:56:28.95 ID:1jvTlR5Vo





勇者(……はあ、寝れない。今日は僧侶も鼾うるさくないのに。
   外の風にあたってくるか)






勇者「……」

勇者(人でもあり魔族でもある……か。世が世なら僕も生まれてすぐに殺されていたんだろうか)

勇者(選べって言われても、どれが正解なのか分からない……。
   でも僕は人間だ。人のために戦うんだ。魔族が憎い。……本当に?)


……スッ


勇者「……!? 今のは、狩人……!?」

勇者「待ってくれ!」タッ


勇者(……生きてたのか? まさか……でもあれは……)

勇者「狩人っ」パシ

女「えっ!?」

勇者「……あれっ?」

女「な、なんですか、いきなり」

勇者「……すみません。人違いでした」

女「は、はあ」スタスタ



勇者「……」

勇者「なにをやっているんだ……自分で殺したくせに」

勇者(狂ってる……)

勇者(頭がおかしくなってるんだ)

勇者(寝なければ。明日出発だ。早く寝よう)






497: ◆TRhdaykzHI 2014/03/14(金) 23:00:08.95 ID:1jvTlR5Vo



翌日



僧侶「この都は知的なお姉さんがたくさんいて、なかなかいいね」

勇者「名残惜しいかもしれないけれど、もう出発するよ」

剣士「塔までのルートに大砂漠があるよね、ちょっとそれが不安だなあ……砂漠って暑いよね、やっぱり」

勇者「いや、この国の砂漠は……」


騎士「勇者殿っ! よかった、まだ出発されていなかったのですね」

勇者「はい?」

騎士「今すぐ太陽の国に転移魔法でお戻りください!
   先ほど文が……こちらに届きました」

騎士「あなたの故郷――大樹の村が……」

騎士「炎竜率いる竜族に襲撃され、全滅したと」





勇者「は?」





498: ◆TRhdaykzHI 2014/03/14(金) 23:02:35.82 ID:1jvTlR5Vo





―――――――――――
――――――――
―――――




太陽の国 大樹の村跡地



剣士「……」

剣士「うそ」

僧侶「…………ひでえな」

僧侶「何も残ってない」

剣士「うそでしょ」


副団長「すまなかった」

副団長「近隣の村々が異変に気付いて、連絡をもらった騎士や兵士が訪れたときには、
    すでにもう……辺り一面火の海だった。森も燃えてしまった」

副団長「遺体は骨しか見つからなかったよ。勝手ながら少し離れた見晴らしのいい丘に新たに墓地を作らせてもらった」

副団長「……大丈夫か、剣士くん、勇者。辛いとは思うが……気をしっかりもつんだ」


剣士「なんで?なんで竜がいきなりこの村に来るの?だって全然国境からも離れてるし……おかしいよ」

副団長「それは……分からない。数日前に突然この国の塔は炎竜にのっとられてしまった。
    それから時間を開けずに君たちの村がこんなことになってしまって、奴らがどういう意図なのか……」

剣士「…………」

剣士「……だって、殺さなかったんだよ。あのとき見つけた子どもの竜、殺さなかったのに!」

剣士「勇者が治癒魔法をかけてあげて……飛べるようにしてあげたのに!
   どうして?どうしてこんなことになっちゃうの?」

剣士「おかしいよ」





499: ◆TRhdaykzHI 2014/03/14(金) 23:14:42.82 ID:1jvTlR5Vo




―――――――――――――
――――――――――
――――――



勇者「ここでドラゴンを見逃してまた同じことになったらどうする。僕はもう二度とごめんだ!」

勇者「……殺すよ。これが戦争なんだ」

勇者「やっと僕にも分かった……」グッ


僧侶「それでいいのか。なら止めないが」

勇者「いいさ」

剣士「……本当に?ここでこの竜を殺したら、これから先ずっとそうしていかなきゃいけないよ。
   ちゃんと私たちの目を見て言ってよ」

勇者「見てるだろ」

剣士「見てない。ちゃんと目を逸らさないで言って」グイ


剣士「……狩人ちゃんが死んだの、勇者のせいじゃないよ。この竜のせいでもない」

勇者「あのときグリフォンを見逃さなければよかったんだ」

僧侶「それでお前が狩人ちゃんの死に責任を感じてるなら、俺たちにだって責任がある。
   大体……塔のときはあいつを相手にする時間なんてなかっただろ」

剣士「……やめよ。無理しないでよ勇者」

勇者「…………」

剣士「もう、あんなこと……二度と起きないようにするから。
   勇者も死なないし、私も僧侶くんも死なないよ。自分の身は自分の責任で守るから」

僧侶「剣士ちゃんはともかく、俺が死んだからって勇者、お前のせいだなんて思われたらかえって心外だぜ。
   俺はお前に守られるほど弱くねーんだよ!!そこんとこしっかり覚えとけよな!!」

剣士「私だってそうだよ!剣だっていっぱい強くなったんだからさ!なんなら今度手合わせしようよ」

剣士「だから杖下ろして。もう行こうよ」





500: ◆TRhdaykzHI 2014/03/14(金) 23:19:04.73 ID:1jvTlR5Vo



勇者「……」

勇者「……」スタスタ

剣士「勇者っ」

勇者「…………違うよ。この竜に治癒魔法かけるだけ」



勇者「……逃がそっか」





勇者「父親追って来たら迷っちゃったらしい」

勇者「このまま竜の谷に帰るってさ」

剣士「そっか。よかったね」

僧侶「じゃあ適当にあの兜野郎に報告して、さっさと村で休もうぜ。ねみい」




――――――――――――――――
―――――――――――
―――――――




501: ◆TRhdaykzHI 2014/03/14(金) 23:32:09.46 ID:1jvTlR5Vo





剣士「……ここがね私の家があったところ。あっちが勇者の家で……大きな桃の樹があってさ」

剣士「でも全部燃えちゃった。家も森も畑もお母さんもお父さんも村のみんなも燃えちゃったよ」

剣士「ああ……」


僧侶「……」

剣士「なんで……」

勇者「……墓に花を手向けに行こう」

剣士「……うん……」










夜 近くの村の宿屋



副団長「……明日星の国に戻るって?」

勇者「うん、戻るよ」

勇者「太陽の塔が魔族のものになってしまった。ゆっくりしていられない」

副団長「そうか。……聞いたか?塔が奪われる前に、急に南部の町いくつかの地盤が崩れ、死者が多数出た。
    それからだ、魔族の攻撃が苛烈になったのは。王都もてんてこ舞いでな、国王もピリピリしてる」

副団長「それにしても、なぜ君の村が……」

勇者「僕の村だからだよ」

勇者「なんのつもりかは、知らないけど」

副団長「……そうとは限らないだろう。もっとほかの理由があったのかもしれん」

副団長「剣士くんは君と同郷だったな……彼女はどうしている?」

勇者「もう休んでる」

副団長「そうか。君ももう休むといい。俺も……」



コンコン




502: ◆TRhdaykzHI 2014/03/14(金) 23:33:16.57 ID:1jvTlR5Vo






副団長「ん?誰だ?」

神儀官「騎士団副団長殿、勇者様、こんばんは。夜分に申し訳ございません」

副団長「……!? 神儀官様……!? 何故こちらに?」

神儀官「勇者様が星の国よりご帰還なさったと聞いて、王都より追いかけてきたのですよ。お久しぶりです勇者様」

神儀官「ヒュドラを倒したそうですね。さすが勇者様です。神殿長もお喜びになっていらっしゃいましたよ」

副団長「彼に何か御用ですか? 貴女が王都を離れるなんて……珍しいですね」

神儀官「はい。勇者様にお話があって参りました。副団長殿は申し訳ありませんが御退室願えますか?」

副団長「私がいては話せない内容なのですか?」

神儀官「ええ、その通りです」

副団長「……」

神儀官「あら。聞こえていらっしゃらなかったのでしょうか? 御退室願います、副団長殿」

副団長「……勇者、また後でな」




バタン





503: ◆TRhdaykzHI 2014/03/14(金) 23:34:18.80 ID:1jvTlR5Vo





神儀官「さて。まずは先日のお手紙どうもありがとうございました。
    あなたが地下遺跡のことを教えてくれたおかげで、色々とおもしろいことが分かりましたよ」

勇者「……?」

神儀官「ですが、本当に雪の塔の女神があなたに授けた知識とはそれだけなのですか?
    まさか内容を伏せた、なんてことはありませんね?」

勇者「ありません」

神儀官「そうですか。……それにしても、故郷のことは大変残念でしたね。
    あまりお気を落とさぬよう。皆さま神の御許に導かれたのです、何も悲しむことはありません」

勇者「……」

勇者「僕に用とは何ですか」

神儀官「そうですね、本題に入りましょうか。
    勇者様……あなたなら残りの四天王と魔王を必ず討ち滅ぼせると私たちは信じています」

神儀官「今日は、その後のことについてのお話をさせて頂きたいと思いまして。
    勇者様は魔王を倒した後、どうなさるおつもりなのでしょうか?」ニコ






504: ◆TRhdaykzHI 2014/03/14(金) 23:39:43.29 ID:1jvTlR5Vo





勇者「魔王を倒した……後ですか?」

神儀官「そうです」

勇者「職業のことですか? すみません、考えたこともなかったです。
   でもできれば王都から離れて田舎でできる仕事を探そうかと……」

神儀官「いえ、職業のことではありません」

勇者「ではどういう意味でしょうか」

神儀官「こんなことを申し上げるのは、私も大変心苦しいということを分かってください。
    勇者様、あなたのお力はこの戦争において、そして私たちにとってとても重要なものです」

神儀官「ですが……魔王がいなくなった後、ひいては魔族が消えた後……
    あなたのお力が人々の目にどのように映るか、考えたことはありますか?」

神儀官「あなたが王都にいた2年間、何度か勇者様の魔法を拝見いたしましたが
    魔族の使う魔法ととてもよく似ていらっしゃいますよね」

勇者「……」

神儀官「もし魔族をこの地から消したとしても、その魔法を使うあなたがいらっしゃれば
    国民たちも不安に思うのではないでしょうか……?」

神儀官「私たち神殿の者が使う、人を癒す魔法とは違って……あなたの魔法は脅威になり得るのです」

神儀官「あなたが杖を掲げて呪文を口にするだけで、村ひとつ簡単に滅ぼせるのですから……」

神儀官「そういった意味で魔王を倒した後、あなたがどうなさるおつもりなのかお聞かせ願いたく、本日は私が参りました」


神儀官「聡明でいらっしゃる勇者様なら、私が申し上げてる意味……ご理解いただけますね?」

勇者「…………」

勇者「つまり、それは……」

勇者「……」




505: ◆TRhdaykzHI 2014/03/14(金) 23:45:01.40 ID:1jvTlR5Vo





神儀官「……ああ、勇者様が逡巡なさるのも無理はありませんね」

神儀官「彼女のことをご心配なさっているのでしょう。
    故郷もなくなってしまい、剣士様はもし勇者様がいなくなってしまったらおひとりになってしまいますものね」

神儀官「ですが御心配なさらずに」

神儀官「私たち神殿が彼女のことをお見まもり致します。
    3国の首都は勿論、小さな村々にも教会はあるのはあなたもご存じですね」

神儀官「勇者様亡き後、彼女が」

神儀官「……この大陸のどこにいらっしゃろうとも、何があろうとも……」

神儀官「必ず。私たちが見つけ出し、お守り致します。安心なさってください」


神儀官「私の申し上げた意味、お分かりいただけますね。勇者様?」

勇者「…………」

勇者「………………はい」



神儀官「さすが勇者様は賢くていらっしゃいます。では、この誓約書に署名と血判をお願いいたします」

神儀官「戦争が終わった後にあなたの身を神殿に委ねることを誓って頂きます」

神儀官「この誓約書には特別な術がかかっておりますので、もし誓約をお破りになった場合、
    あなたの尊い命はこの世から消えてしまうことになりますのでお忘れなきよう」

神儀官「そのようなこと、勇者様がなさるおつもりがないとは分かっておりますが、念のためです」





506: ◆TRhdaykzHI 2014/03/14(金) 23:46:52.57 ID:1jvTlR5Vo




神儀官「……はい、確かに誓約書はお預かりいたしました。どうも有難うございます」

神儀官「明日星の国へお戻りになるのですか? いよいよ次は対魔女戦ですか。
    強敵になりましょうが、勇者様ならきっと大丈夫だと信じております」

神儀官「…………ああ、お渡しするのを忘れておりました。
    こちら私たちからの菓子折りです。旅の道中にでもどうぞ」

神儀官「できるだけ香りの強いものを選びました。まだ香りは分かるのでしょう?
    もちろん味も保障しますが……」

神儀官「では夜分遅くに失礼いたしました。私はこれにて。
    ごゆっくりお身体をお休めください」


バタン





507: ◆TRhdaykzHI 2014/03/14(金) 23:56:46.98 ID:1jvTlR5Vo




* * *

十数日後

星の国 大砂漠



僧侶「砂漠なげえーーーーーー……!! いつになったら抜けるんだよっ!!アホか こんなん!!気が狂う!」

剣士「でも暑くない砂漠でよかったね。これで炎天下だったらもっと大変だったよ」

剣士「それにさ! 砂が全部星の形してる。こんなの初めて見たなあ。どうやったらこんな形になるんだろ」

僧侶「いやーロマンチックだね! どうだい剣士ちゃん、夜の砂漠を見ながら今日愛を語らないか。
   あ、深い意味はないよ」

剣士「深い意味って何?」

僧侶「いやあの、別にね? 語るっていうのは文字通りおしゃべりするって意味ということで」

剣士「それ以外の意味あるの? なになに、教えてよ!ねえ僧侶くん教えてってば」

僧侶「い、いやあ……ちょっと僕にも分かんないなあ勇者助けて」

勇者「あははは。 僧侶の自業自得じゃないか。僕は知らないよ」



僧侶「オイオイいいのか? そんなこと言ってよぅ」ガシ

勇者「うわっ なんだよ」

剣士「ねえ二人とも何してるの? おいてっちゃうよ」


僧侶「そんなこと言ってると~~ 本当に俺がとっちゃうかもしれないぞ~~」ニヤニヤ

勇者「は?何を?」

僧侶「ハッハッハ、この俺様が本気になったら剣士ちゃんもイチコロかもしれんぞ~~
   俺があの子幸せにしちゃうけどいいのか~~?」

勇者「うん」

僧侶「うんって何だ、うんって……」

勇者「ただし、浮気などの不実な行為を働いた場合は本気で呪うからな」

勇者「全身全霊をかけてガチでやるからな。そこは肝に銘じておいてくれ」

僧侶「はあ?」

剣士「もう、勇者も僧侶くんも早く!日が暮れちゃうよ!」

勇者「いま行くよ」


僧侶「なんだあいつ……?」





510: ◆TRhdaykzHI 2014/03/24(月) 19:17:20.85 ID:xruNwLnko







剣士「今日もまた野宿かぁ」

僧侶「砂漠の夜は冷えるなー。今日の見張り誰だっけ」

勇者「僕だよ。二人ともおやすみ」




勇者(さむ……)

勇者「……」

勇者「ん? 剣士?」

剣士「なんか眠れなくってさ。私も見張る。隣いい?」

勇者「ああ、うん」


剣士「……あのさ。あんなことがあったけど……」

勇者「……」

剣士「でも、勇者と僧侶くんがいるから、なんかね、毎日元気でるよ。
   お母さんもお父さんも、勇者のお母さんもお父さんも、みんな見まもってくれてると思う」

剣士「帰るところ、なくなっちゃったけど……」

勇者「大丈夫だよ」

勇者「全部なんとかなる」

剣士「え?」

勇者「また帰るところはつくれるよ。これから先、人生は長いんだから。
   大人になって、色んなこと経験して、そうしてるうちに帰るところはいつの間にかできてると思うよ」

勇者「だから大丈夫」

剣士「……そっか! そうだよね! ……じゃあそのときは、いっしょに探しに行こうよ」

勇者「あ……うん。分かった」

剣士「じゃあ約束しよ。はい指きり」

勇者「指きりって……。指きりって」

剣士「二回も言わなくていいよ。いいじゃんっ別に!ほら早く!!」

勇者「わ、分かったから、大声出すと僧侶が起きるよ。はい」

剣士「あはは、懐かしいー」

勇者「……そうだね」




511: ◆TRhdaykzHI 2014/03/24(月) 19:20:17.91 ID:xruNwLnko





数日後


剣士「むにゃむにゃ」

勇者「……」


僧侶「おい、起きろ勇者」

勇者「……」

僧侶「おいっ」ベチッ

勇者「……」

僧侶「起きろこのアホ!!」ギュウ

勇者「……僧侶……? 何……見張りの交代……?」

僧侶「違う。ちょっと外来い」





僧侶「お前どんだけ睡眠が深いんだよ。あそこまでして起きないとか野宿してる身として不安だわ」

僧侶「って話してる傍から寝ようとするな!!」

勇者「……なんだよ……見張りじゃないなら何か用?」

僧侶「まあ、とりあえず茶でも飲みながら話そうじゃないか」

勇者「え……僧侶が僕にお茶をいれるなんて天変地異の前触れとしか思えなくて怖い」

僧侶「いいから黙って飲め」





512: ◆TRhdaykzHI 2014/03/24(月) 19:21:12.31 ID:xruNwLnko



僧侶「もうすぐ砂漠も抜けそうだし、最近お前が変だから俺が話を聞いてやろうと思ったんだよ。感謝しろよ」

勇者「変かな?別に普通だけど」

僧侶「へえ、しらばっくれるつもりか。
   太陽の国に戻ったとき、夜に神儀官が来てたよな。あの女となに話したんだよ」

勇者「戦況はどうなのかとか、いろいろ聞かれた」

僧侶「ふーん……本当か?」

勇者「うそなんてついてどうなるのさ」

僧侶「まあ嘘でも、今に本当のことしか言えなくなる。ゲハハハ」

勇者「……なにした?」

僧侶「お前がいま飲んでる茶に、この間通りかかった商人から買い取った自白薬を入れたのさあ!」

勇者「は!?」

僧侶「おらおら洗いざらい吐きやがれこのすっとこどっこい!俺様に隠しごとなんて億年はえーんだよ!!」

勇者「普通仲間に自白薬盛るか!?」

僧侶「普通盛らないかもしれないが俺は盛るね。で、あの日なにを話したんだよ? 言えコラ」

勇者「ぐっ、こんなことしてただじゃおかないぞ……」

勇者「……魔王を倒したら死ねって言われた。逃げたら剣士が神殿に狙われる。
   で誓約書を書いて……それで終わり」

僧侶「誓約書を書いたのか」

勇者「……書いたよ」

僧侶「こんのバッキャロー!!」バキッ

勇者「いたっ!!」





513: ◆TRhdaykzHI 2014/03/24(月) 19:30:41.32 ID:xruNwLnko



勇者「なにするんだよっ」

僧侶「お前あれがどういうもんなのか分かってんのか!この底なし馬鹿!
   それじゃまんまとあいつの策略にはまってんじゃねーかよ!」

勇者「でも仕方ないだろ。戦争が終わっても『勇者』がいたら、みんな安心して暮らせないんだから」

僧侶「だから死ねって言われたら死ぬのかよ?とんでもねー阿呆もいたもんだ。
   正直ここまでとは思わなかったぜ。お前本当の本当にそれでいいって思ってんのかあ?」

勇者「……うるさいなっ……じゃあどうしろって言うんだよ!」

勇者「それでいいって思ってるわけないだろ!僕は聖人君子でもなんでもないんだ」

勇者「なんで死ななきゃいけないんだって、そりゃ思ってるよ!」
   

勇者「そもそも勇者にだって、生まれてから一度も……」

勇者「勇者になりたいだなんて一度も僕は……っ!」

勇者「あーもう、こんな情けないこと絶対言いたくなかったのに、なんてことしてくれるんだよっ」

僧侶「ハッ 確かに情けねえな。涼しい顔して内心そんなことを考えてたわけだ。
   剣士ちゃんも愛想尽かすなこりゃ」

僧侶「勇者になりたくなかったなんて思ってるなら、じゃあお前、勇者やめちまえよ」

勇者「はあ……?」

僧侶「やめちまえって言ってんだよ!」ゴンッ

勇者「いっ……!! だからなにするんだよ」バキッ

僧侶「ごあっ!?」ドサ

勇者「前々から思ってたけど、人のことすぐ殴るのやめろ……」

僧侶「い、いいパンチもってんじゃねーか」




514: ◆TRhdaykzHI 2014/03/24(月) 19:32:13.21 ID:xruNwLnko





勇者「面白半分に言ってるならやめてくれ」

僧侶「面白半分じゃねえよ。本気でやりたくないなら勇者やめろって言ってんだよ」

勇者「……じゃあ誰が勇者になるんだよ!君がなってくれるって言うのか?」

僧侶「あの司書が言ってただろ。魔族のために戦うも人のために戦うも、戦争から逃げるのも自由だってよ」

僧侶「大体、勇者になりたくなかったならなんでそう周りの連中に言わなかったんだ。
   なに言いなりになってんだよ。根っからの優等生タイプか貴様は? ああ?」

僧侶「お前なんで勇者になったんだ」

勇者「それはっ……。それは」

勇者「…………」

勇者「…………」

勇者「……あ、そっか」

勇者「なんだ……そうか」

僧侶「気持ち悪いな」

勇者「思い出した。言いなりなんかじゃなかったよ。  
   うん、そうだ。なんだ、簡単なことだった」

勇者「勇者はやめない。僕が勇者だ。……僧侶に気づかされるなんて少し癪だけど」

僧侶「ちょくちょく生意気なんだよてめえ!蹴り飛ばすぞ!」

勇者「はは、僧侶も案外お人よしだよね。
   前に狩人がそう言ってたけど、本当だったんだ」

僧侶「まあ俺は優しさも兼ね揃えたパーフェクトボーイだからな……」

勇者「ヘエ」




515: ◆TRhdaykzHI 2014/03/24(月) 19:37:26.64 ID:xruNwLnko




勇者「故郷の村が……あんなことになってしまったけど、
   それでもやっぱりあのとき、僕が竜の子どもを殺すのを止めてくれてよかったって思ってる。ありがとう」

勇者「僕は人のために戦いたい。けど魔族のためにも戦いたい」

僧侶「魔族のためにもって……はあ、なんかお前はどう育ったらそういう考えになるのか分からんな。
   まあ別にいいんじゃねえの。俺は英雄になってハーレムを築き上げることができればなんでもいいよ」

勇者「不純すぎる……」

僧侶「で。本当に戦争が終わったら死ぬつもりなのか」

勇者「ああ」

僧侶「それでいいのか」

勇者「いいんだ。 自白薬、まだ切れてないだろ?本心だよ」

僧侶「あっそ」


僧侶「じゃあ話はこれで終わりだからとっととテント戻れ。邪魔だ。
   男と夜の砂漠を眺めて話してると思うだけで吐き気がする」

勇者「自分が呼んだんだろっ」






516: ◆TRhdaykzHI 2014/03/24(月) 19:45:26.56 ID:xruNwLnko





* * *



剣士「私、魔女族と相性悪いかも……。魔女って状態異常系の魔法ばっかり使ってくるんだもん」

勇者「僕もすごく困る。さっき剣士と僧侶が同時に混乱状態になったとき、一瞬死を覚悟したよ」

剣士「耐性防具つけてるのに意味ないんだよ!むしろ私、状態異常の申し子なのかも!」

勇者「それはちょっと違うんじゃ…… あ、塔が見えてきたよ。もうすぐだ」

僧侶「深海に沈んでる塔の次は、宙に浮かぶ塔か。あんなのどうやって上るんだ?」

剣士「どうするの勇者?」

勇者「どう……しようか」

「「「…………」」」


剣士「あ、あれ。本当にこれどうするの?私たち塔に上らなくちゃなんだよね?」

僧侶「お前、鳥かなんかに変身できねえのか?勇者なんだからそれくらいできるだろ?え?」

勇者「無茶ぶりしないでくれよ。そんなことできないって知ってるだろ」


勇者「いや、そこは四天王の魔女も察して何か仕込んでくれているんじゃないかな? さすがに……」

剣士「えーっ ここまで来て敵頼みって私たち逆にすごいよね」

勇者「と、とにかく行ってみよう」



ガサッ


女エルフ「あっいた」

剣士「あれ?」

僧侶「お前、いつぞやの弱い魔族じゃないか」

女エルフ「よっ弱いって言うな!」





517: ◆TRhdaykzHI 2014/03/24(月) 19:57:55.58 ID:xruNwLnko





勇者「どうしてここに?」

女エルフ「た、たまたまだよ別に。別に探しに来たわけじゃないよ」

僧侶(分かりやすいな)

女エルフ「あ……あのさ……炎竜様の子ども傷つけたのって、本当に勇者たちなの!?」

勇者「……いや、僕たちじゃないよ」

女エルフ「本当に!?」

剣士「ほ、ほんとだよ。私たちはかくかくしかじかって感じで、傷つけてはないよ」

女エルフ「……やっぱりそうだったんだ」

女エルフ「……ごめんね。あのね、炎竜様のこと止めたんだよ。勇者たちそういうことする人間じゃないって。
     でもだめだった。勇者たちの村……燃えちゃったんだよね」グス

勇者「君が謝ることじゃないよ」

剣士「……うん、そうだよ。女エルフのせいじゃないし。
   むしろ、私たちのこと庇ってくれたってことがうれしいな」

女エルフ「でも……だって私魔族だし。仲間と故郷のみんなを殺した魔族のこと、憎くないの……?」

勇者「……」

剣士「……」

勇者「剣士はどう思う?」

剣士「……え?私?」

剣士「私は……正直魔族みんなが憎いって思ったときもあったよ。
   今も、全然恨んでないって言えばうそになっちゃうけど」

剣士「でも君は雪の国でも私たちのこと心配してくれたよね。
   君みたいな魔族もいるんだなって考えたら……魔族全員まとめて恨むのっておかしいのかなって」

剣士「だから質問の答えはノーだね!かばってくれて嬉しかったよ、ありがと!」

女エルフ「う……うえええええええん!! じゃあ、じゃあ友だちになってくれる?」

剣士「えっ!? う、うん。急だなあ、びっくりした。いいよ!なろう!」

女エルフ「ありがとう……」ギュッ



僧侶「いいね……」

勇者「なに鼻血だしてるんだよ」





518: ◆TRhdaykzHI 2014/03/24(月) 20:00:54.23 ID:xruNwLnko




勇者「僕も剣士と同じ気持ちだ」

女エルフ「……ふん。ほんっとあんたたちって変わってるよねっ!変なの!」

僧侶「同意見だ」

勇者「君にも家族がいるんだろ?」

女エルフ「そりゃいるわよ。たくさんいるよ。
     エルフ族は男も女も美しいって評判なんだから、見たらびっくりするよ」

勇者「友だちもいるよね」

女エルフ「当たり前じゃん。私人気者なんだから、引っ張りだこだよ。
     ……な、なりたいなら勇者も友だちにしてあげてもいいよ、別に」

勇者「うん、やっぱりそうだよね。きっと大多数の人と魔族はそんなに違いはないんだ」

勇者「炎竜は息子がひどく傷つけられて、犯人だと思ってる僕たちの故郷を襲った。
   許せることじゃないけど……客観的に考えれば子を持つ親の心情として理解できないわけじゃないよ」

勇者「狩人の村の森で出会ったハーピーも、だれか大切な者のために薬草をとりに来ていたのかも。
   父親のために薬草をとりにきていた狩人と同じように」

勇者「……あのグリフォンも……あいつも、気が狂いそうなほど憎く思ったけど。
   星の都で見たよ……あのグリフォンと同じように、魔族を解体してる研究者たちを」


勇者「だからたぶん人も魔族も、そんなに違いはないんだ。
   どっちも残酷なことをしてるし、どっちも同じように家族や友人がいて……」

勇者「旅をして辛いこともあったけど、その分、分かったこともある」

勇者「戦争は終わるべきだ。どちらか一方が完全勝利するという形でなく、犠牲が少ない方法で」

勇者「人と魔族の間で不可侵条約を結ぼう」







519: ◆TRhdaykzHI 2014/03/24(月) 20:03:18.31 ID:xruNwLnko



女エルフ「……え?なに、いきなり」

剣士「ふ、ふか……?」

僧侶「ひれ……?」

勇者「違う」


勇者「3つの塔を取り戻して3人の女神が結界を張れば、魔族はこの国から追い払われて、入ることができない。
   ……だからまあ、僕たちがやることは変わらないんだけどさ」

勇者「でもこの戦争をはじめに仕掛けたのは人間だし、それじゃこの先また同じことが起こるんじゃないかなって。
   だからお互いの領土を侵略しないことを約束して……それで戦争は終わりってことにしたいんだ」

勇者「人と魔族は長い間戦争をしていたから、お互い傷つけられて恨みあってたぶん止められないところまで来ている。
   けどこのまま戦争を続けるのは悲しいよ。僕たちと君みたいに、種族が違くとも友だちになれるのに」

勇者「いま終わらせなければもっとお互い大切な者を失って傷つくばかりだよ。いまこそ止め時だ……」


勇者「って思うんだけど、どうかな」

剣士「そうしたら、私たちと女エルフも戦わなくて済むね!」

剣士「私はいいと思うな」

女エルフ「……」

僧侶「ちっと楽観的すぎやしねえか?」


  勇者「不可侵条約結んで」

  魔王「いいよ」


僧侶「って本当になると思ってんのかよ? んなわけねーだろ……」

勇者「四天王が全員倒されたと聞いたら魔王も悩むくらいはすると思うんだ。
   経歴を聞く限りすごく現実主義的な考えをするようだし」

勇者「もし魔王が首を振ったら、勿論戦わなければいけないけど」

僧侶「どうなるかね。……まっ、魔族皆殺しよりそっちの方がかっこいいかもしれんな!!
   しょうがねえ!俺も協力してやるよ!」





520: ◆TRhdaykzHI 2014/03/24(月) 20:13:44.17 ID:xruNwLnko




女エルフ「……私もしょうがないから応援してあげるよ」

女エルフ「でも!炎竜様も魔女様もめちゃくちゃ強いんだから……勝ってからそういうこと言えば?
     ……はい、これあげるよ」

勇者「これは?」

女エルフ「エルフ族秘蔵の飲み薬だよ。怪我もたちまち治るし、魔力も回復するんだから。
     ……あとね、魔女様は人を操る魔法をかけてくるから……気をつけなさいよねっ」

剣士「……うん、それは知ってるよ」

女エルフ「あっ やばい見つかりそう……私もう行くから!
     …………死なないでね! じゃ!」





521: ◆TRhdaykzHI 2014/03/24(月) 20:14:17.00 ID:xruNwLnko



第三章 天空のスタータワー




522: ◆TRhdaykzHI 2014/03/24(月) 20:15:23.66 ID:xruNwLnko




剣士「……わー、本当に塔の中への転移魔法が用意されてるー」

僧侶「ぶっちゃけ助かったな」

勇者「じゃあ行こうか。気をつけよう。女エルフの言っていた通り、魔女は人を操る。
   どうやって操るのかが分かれば対策できるんだけどな……」

剣士「戦いながら見つけていくしかないね。よし、準備万端だよ!行こう」



勇者「……」

勇者「塔に入る前に、ひとつだけ言っておきたいことがあるんだけど」

勇者「絶対に二人とも死なないでくれ」

僧侶「これから敵と戦うっつーのに辛気臭いな。ええい何真面目な顔してんだよ!調子狂うぜ全く!!」

勇者「冗談で言ってるんじゃない。真面目な顔くらいするよ」

剣士「大丈夫だよ。私も僧侶くんも死なないし、勇者も死なない」

剣士「絶対ね」

剣士「ぜーったい大丈夫! さ、行こう」

僧侶「剣士ちゃんの方がよっぽど勇者様らしいなぁ?見習えよ勇者」

僧侶「俺も夢を叶えるまで死ぬわけにはいかんからな。そう簡単にくたばらねーぜ」

剣士「僧侶くんの夢ってなに?」

僧侶「英雄になって俺以外男子禁制のハーレム王国をつくりあげることだ」

勇者「……僧侶らしいな」

僧侶「俺は本気だぞ!!」



魔女A 魔女Bが襲いかかってきた!


僧侶「さっそくか」

剣士「かかってこい!」







523: ◆TRhdaykzHI 2014/03/24(月) 20:37:46.77 ID:xruNwLnko



タッタッタッタ……


勇者「……思ったより敵が多くないな」

僧侶「なめられてんじゃねえのか!?」

剣士「うわあ、窓からちょっと下覗いてみてよ。めちゃくちゃ怖い!!」

勇者「た、高いな。下は海だけど、落ちたら即死確定だ」

僧侶「景色いいな」

剣士「僧侶くんってすごいマイペースだよね。もう感心しちゃうよ」

僧侶「ありがとう!結婚するか?」

剣士「しない!」

僧侶「そっか!」

勇者「あっ! 二人とも前!」



窓の外から魔女D 魔男Eが襲いかかってきた!
魔女Dは混乱呪文を唱えた!
剣士と僧侶は混乱状態になった!


勇者「あ」


二人は混乱して勇者に攻撃!


勇者「またか!!」






524: ◆TRhdaykzHI 2014/03/24(月) 20:39:20.20 ID:xruNwLnko






剣士「大分上ったね。……はあ……はあ。空気が薄いのかな、ちょっと息苦しいかも」

僧侶「それに上にあがるごとに壁に飾られてる人形が増えていって気持ち悪ぃな」

剣士「ちょっとかわいいけど……嫌な予感しかしないよ。絶対動くよコレ!四天王の魔女戦で絶対動く!!」

勇者「人形遣いの魔女なんて呼ばれてるんだから、そうだろうね。むしろ文字通りというか」

勇者「というわけで今のうちに破壊しておこう。火炎魔法」

剣士「あ、うん。確かにその手があったね、うん」


魔女「ちょっと!!私の集めたかわいいかわいいお人形ちゃんたちに一体なにをしてらっしゃるの?この豚ども」

勇者「!?」

魔女「せっかくこの塔に招待してあげたのに、礼儀がなってないわね。
   人間って招かれた家の物を勝手に壊す文化でもあるの?」

剣士「この塔は女神様のものじゃん!君の家じゃないし」

魔女「うるさい。このブス」

剣士「なっ…………」

剣士「べっ……別に私がブスなのと塔のことは全然関係が、な、ないと思うんだけどっ」

魔女「ブスは黙ってろ」

剣士「」ガーン




525: ◆TRhdaykzHI 2014/03/24(月) 20:40:40.92 ID:xruNwLnko



剣士「論破された……」グス

勇者「さ、されてないよ。全くされてないから」

僧侶「そうだ!剣士ちゃんはブスじゃない!!かわいい!だから喋る権利がある!!論破!」

魔女「はあ……随分喧しい人間どもですこと」

勇者「塔を返してくれ」

魔女「いや」

勇者「……だったら奪い返すしかない」

魔女「あら。武器はまだ仕舞っていてくださいな。最上階のさらに上、特別見晴らしのいいステージをご用意しておきましたの。
   せっかくですからそちらで戦いましょう」

僧侶「ならなんでここに現れた?出迎えか?」

魔女「まさか。あんまり遅いから様子を見に来たのよ」

魔女「最上階に続く階段は、この扉の先にあります」

勇者「この扉、開かないけれど」

魔女「いいえ、ちゃんと開きますよ。ほら、ここの窪みに誰か一人手をあてさえすれば簡単に……」

勇者「何を企んでいる?」

魔女「たくさん企んでるわ。だってここは私の塔だもの。のこのこ来た勇者を、何の策も罠もこさえずただ待ってると思う?」

魔女「では上で私のお友達とお待ちしております。早く来てね」






526: ◆TRhdaykzHI 2014/03/24(月) 20:43:03.67 ID:xruNwLnko




勇者「……」

剣士「消えちゃったね。あの魔女」

僧侶「さっさとそこの扉開けて上に行こうぜ」

勇者「僕がやる」スッ

剣士「あ、ちょっと……!」

僧侶「ちょっと待て」パシ

勇者「え」

僧侶「よいしょっと」グキ

勇者「!?!?!?!?」



勇者「あ゛ーー!? お、折れたーー!?」

剣士「そそそそ僧侶くんなななな何ををををを」

勇者「なにするんだ―――、!?」

僧侶「ここに手あてればよかったんだよな」スッ

勇者「!」

僧侶「うおっ!!」ザク

剣士「大丈夫?」



ゴゴゴゴゴゴ……



僧侶「お、扉が開いたな。なんてこたあない、ただこの窪みからナイフが飛び出してくる、チャチな罠だったぜ」

剣士「な、なんだぁ。よかった……毒とかじゃなくて」

勇者「……本当にそれだけの罠なんだろうか?あの魔女の物言いからはそうとは思えない。
   慎重に行った方がいい。一旦塔から下りよう」

僧侶「ばーーか、ここまで来て帰れるかよ。次のチャンスはもうないかもしれねえんだぞ!?行くしかねーだろ」

勇者「でも」

僧侶「ところで。ちょっと剣士ちゃんごめんな、俺は勇者に話があるんだ。おい耳貸せ」

剣士「え?……また!? もう!仲間外れにしないでよ!」





527: ◆TRhdaykzHI 2014/03/24(月) 20:45:06.53 ID:xruNwLnko





僧侶「あの女エルフからもらった薬、お前は俺に預けたが、やっぱりこれは勇者がもっとけ」

勇者「な、なんでだよ。君が持ってればいいだろう」

僧侶「いーからもっとけ!! あとなぁ、俺は山賊上がりで女と酒が大好きなろくでなしだ」

勇者「重々承知しているけど……」

僧侶「そうかよ。なら、分かってるよな」

勇者「……何が」

僧侶「躊躇うなよ」

勇者「……!」



僧侶「やーおまたせ剣士ちゃん。話は終わったぜ。さあ行こう!」

剣士「ねえ何話してたの?私にも教えてよ!!」

勇者「僧侶……っ」

僧侶「勇者と巨 の魅力についてちょっとばかし語り合ってただけさ」

剣士「……ふうん」

勇者「僧侶ぉっ!!!」






528: ◆TRhdaykzHI 2014/03/24(月) 20:47:43.81 ID:xruNwLnko




最上階


剣士「ここが最上階……だけど魔女いないね?どこかに隠れてるのかな?」

僧侶「確か最上階のさらに上で待ってるって言ってたよな。
   また転移魔法陣がここらへんにあるんじゃないか――ほらあった。ドヤぁ」

剣士「ほんとだ! よし、ついに魔女戦だね。二人ともがんばろうね」

僧侶「剣士ちゃん凛々しいなぁ!さながら戦の女神のようだ!!ああ眩しい!
   俺たち二人で頑張ろうな!この戦いが終わったら結婚しよう!!」

剣士「しない!」

僧侶「そっか!」

剣士「よーし転移しよう!勇者もほら、早く」

勇者「……うん」




ヒュン



魔女「やっと来た……随分遅かったのね」

勇者「魔女」

剣士「ひゃっ……、な、なにここ?私たち宙に浮いてる……?」

魔女「私の魔力で浮かしてるガラスの上にあなたたちは立っているのよ。眺めがとってもいいでしょう?」

剣士「うう……下が見れない」

僧侶「ガラスだと……? くそ、なんてこった!!剣士ちゃんがスカートを穿いていたならば下から下着が丸見えだったのに!!」

剣士「僧侶くん鼻血」

魔女「では始めましょうか。私のお友達を紹介するわね」

魔女「ジュリエッタ、アリス、エミリー、シンディ、クローディア、ダーシー、ドリーン、エレオノール、フランソワーズ、ジゼル、リアーヌ、イレーヌ、モニク、ミシェル、ノエル、ソフィ、シルヴィ、ヴィクトリーヌ、ヴァネッサ……」

剣士「まだ人形がこんなにたくさん……」

僧侶「気味悪い奴だな」

魔女「まだまだいるわ。部下たちじゃあなたたちに勝てなかったみたいだけど、私はそうはいかなくてよ。
   ねえそうでしょみんな?……うん、やっぱりそうよね」

魔女「みんな早くあなたたちのことぶっ殺したいって言ってます。そうよね、ずっと待ってたんだもの。いいわ、やりましょう」

魔女「さあ、はじめ……」





魔女「……あ……?」





529: ◆TRhdaykzHI 2014/03/24(月) 20:50:48.57 ID:xruNwLnko





魔女「……話してる途中に全く無礼な奴ね」

勇者「失礼」

魔女「…………人間のくせになかなか魔法を使いこなしてるじゃないの。そこは褒めてあげましょう。
   一瞬で私のお友達を全部消し炭にしちゃうなんて……」

魔女「なんてことしてくれてるんです? 死んで贖えよ、クソ豚野郎」


魔女は全体状態異常魔法を唱えた!
勇者は魔法で相殺した!


魔女「……ふーん。おもしろくなりそう」


勇者は雷魔法を唱えた!
魔女は箒でかわした!


剣士「ようし私も加勢する! やい魔女!箒から下りてこっちに来い!」

僧侶「そうだそうだ!ブンブン飛んでないでこっちに来い!」

魔女「いやよ。あなたたちと戦うのは私の人形」

魔女「言ったでしょ?まだまだ人形はたくさんあるって。それに……まだとっておきがあるんだもの」

魔女「さあ!私の従僕となって戦って! 僧侶……でしたっけ?」


魔女は身心操作の魔法を唱えた!
僧侶は体の自由を奪われた!



勇者「!!」

剣士「僧侶くん!?」





530: ◆TRhdaykzHI 2014/03/24(月) 20:53:00.16 ID:xruNwLnko




僧侶は剣士に殴りかかった!
剣士はかわした!


剣士「僧侶くんってば!しっかりして!」キィン

僧侶「……」ガッ

剣士「わっ、あ、!」

勇者「僧侶!!」


勇者は状態異常解除の魔法を唱えた!
しかし効かなかった!


魔女「無駄ですよ。この魔法は解けません」

剣士「僧侶くんになにをしたの!?」

魔女「人形になってもらっただけ。ほらほら集中して。仲間だったモノに殺されちゃいますよ」

勇者「くっ……」

魔女「で、勇者は私の相手をしてくれるんでしょう?見せてご覧なさいよ、あなたが手に入れたっていう、あの禁術……!」


魔女の魔法攻撃!
勇者はダメージをうけた!


勇者「……なぜ僧侶だけ操っているんだ?なぜ僕や剣士をそうしない?」

魔女「答えるつもりはないわ」

勇者「人を操るために何かが必要なんだろう。例えば血液とか……。
   だからあの扉を開けるために手に傷を負った僧侶がいま操られているんじゃないか」

魔女「ふふ」

勇者「狩人もそうして操られたのか。……剣士、気をつけろ! 血を取られるな!」

剣士「わ、分かった。でもっ、どうしたら……僧侶くんを助けられるの?」

勇者「……っ何か方法があるはずだ」





531: ◆TRhdaykzHI 2014/03/24(月) 21:13:40.54 ID:xruNwLnko





魔女「方法なんてありません。自分が死ぬか、お仲間を殺すか……どちらかですね。ああ、いいザマ」

魔女「なかなか使い勝手がいいじゃない、この人形。見た目がかわいくないのがとっても残念……。
   ほら、ほら、ぼやっとしてるとすぐ死んでしまいますよ」

僧侶「……」ガッ

剣士「うっ」

勇者「僧侶、目を覚ませ!しっかりしろっ!」


勇者は捕縛呪文を唱えた!
僧侶は動きを止めた!

しかし魔女がすぐに解除した!


魔女「動きを止めようったって無駄。だから……殺すしか方法はありません。
   どうするの?殺してしまうの?」

魔女「今まで一緒に旅をしてきた仲間を……あなたを信じてついてきた仲間を。
   ほかならぬあなたの手で彼の命の灯を消してしまうのかしら? どうするの?ねえ勇者?」

勇者「……黙れ!」


僧侶『躊躇うなよ』


勇者「…………!」

僧侶「……」


僧侶の攻撃!
勇者は防いだ!


勇者「…………っ」

勇者「ふざけんなっ!! この野郎!」ギィン


勇者の攻撃!
僧侶の武器を破壊した!


魔女「あら。意外とあっさり殺しちゃうのね」





532: ◆TRhdaykzHI 2014/03/24(月) 21:14:48.70 ID:xruNwLnko





勇者「何が『躊躇うな』だ!いっつも好き勝手やってたくせになんでそういうこと言うんだよ!!この変態僧侶!!」

僧侶「……」

勇者「男子禁制のハーレムつくるまで死なないんじゃなかったのか!?なんとか言えっ!!」

僧侶「……」


魔女は補助魔法を唱えた!
僧侶の攻撃力と防御力が10倍になった!


――バキッ!


剣士「……う、うそ。素手でガラスの床に大穴を……」

勇者「剣士。二人で僧侶の腱を狙おう」

剣士「……分かった」


魔女「……だから。無駄ですって。人間って頭悪いのね」


魔女は治癒魔法を唱えた!
僧侶の傷はたちまち再生した!


魔女「早く殺しちゃえば? 勇者の魔法なら一発でしょう?」





533: ◆TRhdaykzHI 2014/03/24(月) 21:16:10.77 ID:xruNwLnko




勇者「……ッ」チラ

魔女「あははは! なにその目?私を殺せば術が解けると思ってるの?
   でもいいのかしら?そしたらもうひとりのお仲間、ブス女が死んじゃうかもね」

剣士「ブスで悪かったな!! ……うぐっ!?」

僧侶「……」ドッ

剣士「わ、あ、う、お、落ち……っ!!」ガッ

剣士「あ、危なかった……」

勇者「剣士!」


僧侶が剣士を投げ飛ばした!
剣士は間一髪で落下を免れた!


僧侶「……」ジリ

剣士「……僧侶くんって結構素手でも強かったんだね」

剣士「でも、私は誰にも負けないよ。相手が誰だろうと、私は負けない!!」

剣士「勇者。僧侶くんは私にまかせて。君は魔女を倒して!!そうすれば僧侶くんの魔法も解けるよ!」

勇者「大丈夫か?」

剣士「大丈夫だよ。信じて」

勇者「……分かった」





534: ◆TRhdaykzHI 2014/03/24(月) 21:17:06.59 ID:xruNwLnko




魔女「ようやく私と遊んでくれる気になったのかしら」

勇者「遊びじゃない」


勇者は魔法を唱えた!
魔女は防御結界を張った!


魔女「なかなかだけど、やっぱりそんなんじゃまだまだだわ。
   早く使いなさい。ヒュドラを倒したっていうあの魔法」

魔女「私を倒すためにはその魔法を使うしかないと思うわ。そうシンディとアンも言って……
   ああ、二人はどっちもさっき死んじゃったんだっけ」

魔女「悲しい……」

勇者「……そんなにあの術が見たいのなら、見せてあげるよ」


勇者は呪文を唱えた!
辺り一面光に包まれた!
魔女は旋回した!


魔女「……ふふ。その程度?すぐに避けられちゃうじゃない」

魔女「ヒュドラは鈍重だったからまともに食らってしまったのね。あいつ、首がたくさんあるくせに体は全然動かないから――」

魔女「……!? 勇者がいない……?」

勇者「後ろだ」

魔女「!」


勇者は魔女の心臓を突き刺した!


魔女「っああああぁ……!」





535: ◆TRhdaykzHI 2014/03/24(月) 21:19:09.11 ID:xruNwLnko




剣士「……勇者! 魔女を倒したの? ……あれ?でも僧侶くんはまだ……」

魔女「あぁぁぁ……ああ……痛いじゃない!!もうっ!!離しなさい」

勇者「!?」

勇者「確かに心臓を刺したはずだ……何故生きてる?」

魔女「ゴホゴホ……やだもう、お気に入りのドレスが血まみれよぉ……どうしてくれるのかしら、グチャグチャになって死んでよウジ虫ども……」

魔女「なに?何故そんなに驚いた顔しているの?あなたたち、誰と戦ってたのか分かってるのかしら?」

魔女「魔王様直属の部下、魔女族魔男族を束ねるこの魔女よ。私が何年魔法を研究してきたか知っている?
   そうね、ざっと400年。心臓を一回刺されたくらいじゃ死にませんわ」

魔女「いくら勇者って言ったってたかだか10年ちょっと生きたあなたとは格が違うのよ。ごめんなさいね」

勇者「なんだと……?」

魔女「それに、騙すなんて姑息な真似してくれるわね。さっきの魔法、禁術ではないでしょう。
   そんな態度でいていいのかしら。そろそろ私も面倒になってきたわ」


魔女は杖を掲げた!
嵐が吹き荒れ雷鳴轟き、降り注ぐ雹が勇者と剣士の体を傷つけた!


勇者「使うしか……」

剣士「勇者っ!!使っちゃだめ!!」




536: ◆TRhdaykzHI 2014/03/24(月) 21:22:18.16 ID:xruNwLnko




魔女「お前は、黙ってろ。  豚が」

剣士「お前こそ黙ってろ!!」

剣士「勇者! あの術は、二度と使わないって言ったじゃない!!使わないで!!!」

勇者「剣士」

剣士「使わないでよ!!あんな魔法……!!」

勇者「これしかない」

剣士「………………っ」

剣士「……」


勇者は禁術を唱え始めた!

魔女は防御結界を五重に張った!


魔女「迎え撃つわ。反射して全部そっくりあなたに返してあげる……!」


禁術が発動した!


魔女「……」

魔女「……!」

魔女「私の結界でもだめなんて……」

魔女「本当恐ろしい術ね」


魔女は箒で舞い上がった!
しかし術の引力に引き寄せられた!


魔女「…………あら。思った以上にすごいのね」



魔女の体は消滅した!






537: ◆TRhdaykzHI 2014/03/24(月) 21:24:14.18 ID:xruNwLnko





僧侶「……!」

僧侶「……」ガクッ

剣士「僧侶くん!! 気を失ってる……だけか」

剣士「術が……解けたんだ!!」

剣士「……勇者っ」


勇者「ごぼっげほげほ……大丈夫、生きてる……がはっ」ビチャビチャ

剣士「どう見ても大丈夫じゃないよぉ……また血が……」

勇者「僧侶は……?」

剣士「気を失ってる。でも魔女の術は解けたよ。……あっそうだ!女エルフにもらった飲み薬、飲んで!!
   い、いまフタあ、あけ、開けるからっ!!すぐ痛いのなくなるから!!」

勇者「落ち着いて……二度目ということもあって若干慣れたから……」ビチャビチャ

剣士「慣れていいもんじゃないからね!?辺り一面血の海になってるからね!?」

剣士「あ、開いたっ! ほら早くこれ、飲んで!!」



ドッ……


剣士「んっ……?」

勇者「……!?」

剣士「あ……え?」

剣士「……なん……で……剣……お腹から……?」

僧侶「……」ズブ

剣士「……僧侶くん……?」



ドサッ





538: ◆TRhdaykzHI 2014/03/24(月) 21:26:18.65 ID:xruNwLnko



勇者「剣士!!!」

勇者「僧侶……一体何を!?」

僧侶「さっきの禁術……一度発動したら対象は逃れることができないのですね。
   まるで引力のようなものを感じました。とてもおもしろいです。呪文を詳しく教えてもらえませんか?」

勇者「……お前は魔女か!?」

僧侶「……ああ。そうですよ。さっきまであなたの前にいた私も、とっくの昔からお人形でした。
   今までずっとお人形の体を転々と移ってきたのです。さっき壊れたあの体は特別気にいってたのですけど」

僧侶「やだ、男の体なんて入ったの初めて。こんなんじゃドレスも着れないしリボンも似合わないわね。
   早く新しい体つくらなくっちゃ……」

剣士「う……」

勇者「剣士、この薬を……」

僧侶「……それ、エルフ族の薬ですよね。なんで勇者が持っているのかしら。
   勇者が魔族から奪ったのか……エルフ族の誰かが私たちを裏切ったのか……どっちかしらね」

僧侶「どっちでもいいわ。もう興味があった禁術を見れたんだもの、もうあなたに用はないの。
   ちょうどいい剣もあることだし……ここで死んじゃってくださる?」


僧侶は剣士の剣を振りあげた!
勇者は剣士を庇った!



勇者「……っ!!」

勇者「……」

勇者「…………?」





539: ◆TRhdaykzHI 2014/03/24(月) 21:29:11.40 ID:xruNwLnko




僧侶「………………」ググ

僧侶「……どうして?体が動かない……」

僧侶「……」

僧侶「……その剣は剣士ちゃんのもんだ。こんな風に使っちゃだめなんだよ!!!」

僧侶「人の体使って散々やってくれたなァ!?このクソババア!!!ええコラ!?気持ち悪いんだよとっとと出てけ!!!」

勇者「……そ、僧侶? 僧侶!!」

剣士「僧侶くん……?」パチ

僧侶「剣士ちゃんごめんな。操られてたとは言えひどいことをしちまったもんだ」

僧侶「な、なんで?今まで自我を取り戻した人形なんて……一人もいなかったのに。私の魔法は完璧よ」

僧侶「うるせーー!喋るなタコ助!!バリバリ自我あるわい!!俺の体から出て行け!!ぶっ殺すぞ!!」

僧侶「…………出て行かないわ。あなたこそ……さっさと消えなさい。ぎゃんぎゃんと喧しいわ」

僧侶「ははん、同じ体を共有してる今なら分かるぜ。お前、相当焦ってるな。
   出て行かないんじゃなくて、出て行けないんだろ。お前の人形はもうここには俺以外ないからなぁ」

僧侶「つまり……こうしちまえば、お前は死ぬしかないってことだ」

勇者「……僧侶? ……やめろ!」

僧侶「何をするつもりなの?やめなさい! 馬鹿ね……こんなことをすればあなたも死ぬってことよ。
   そんなことも分からないのかしら」

僧侶「えー!?俺も死ぬの!?じゃあやめよっと!」

僧侶「……なんて言うわけねーだろ!!そこまで俺は馬鹿じゃねえ!!
   道連れだクソババアめ。死んじまえ」


グサッ!




540: ◆TRhdaykzHI 2014/03/24(月) 21:32:54.53 ID:xruNwLnko




僧侶「……ああ」

僧侶「……もう、いやになるわね。ほんっと人間って馬鹿」

僧侶「……仕方ないわ……死んであげるわよ」

僧侶「……」



剣士「僧侶くん!!」

勇者「僧侶! 僧侶……しっかり! い……いま治癒魔法を」

僧侶「やめとけ……治癒魔法かけたら魔女まで復活しちまうだろ……」

勇者「死ぬな!!死なないって言ったじゃないか!」

僧侶「……自分も死にそうな状態でよく言うぜ……大体いま治癒魔法使えるんなら……
   自分に使えよ……血みどろで気味悪い……妖怪か貴様は……」

剣士「…………そうりょくん…………しなないで…………」

剣士「いっしょにかえろうよぉ……いやだよ、こんなの……」

僧侶「剣士ちゃん、泣かないでくれよ」

僧侶「勇者も泣くな。男に泣かれても鳥肌しか立たん……マジキモイ……」

勇者「こんな時にまで軽口叩いて……馬鹿だな」

僧侶「ああそうだ、馬鹿だ……クッソ、柄にもなくかっこつけちまったけど……
   あーくそ、正直こんな真似するんじゃなかったぜ」

僧侶「くそっ……!めちゃくちゃいてえよ…………なんだよこれ……いってえよ!」

僧侶「死ぬのか俺……死ぬって何だよ、意味わからんくらい怖ええよ……死にたくねーーよくそったれこんちくしょう!!」

僧侶「こんなところで俺の人生終わっちまうのかよ……まだやってねえことたくさんあるっつの……」

剣士「僧侶くん……」

勇者「…………ごめん…………」

僧侶「俺は死にたくない」

僧侶「正直すげえ生きたい」

僧侶「だが死ぬ。俺は俺のために死ぬ。おい、なんで謝った?やめろよなそういうの」

僧侶「いいかよく聞けよ。遺言だこの野郎……」





541: ◆TRhdaykzHI 2014/03/24(月) 21:38:01.34 ID:xruNwLnko



僧侶「俺は今まで自分の意志で旅をしてきたし、自分の意志で死を選んだんだ。
   だから俺の死がお前のせいだなんて思うのは、俺に対する侮辱だぞ」

僧侶「今後俺に対して謝ったりなんかしたら、冥界から戻ってきてお前を殺す。分かったな」

僧侶「あと剣士ちゃんを泣かせたりなんかしても殺す。お前が死んでも殺す」

勇者「……物騒な遺言だな……」

僧侶「剣士ちゃん。正直言ってこいつより俺の方が遙かにいい男だと思うが、まあこいつもそれなりだから
   ずっとそばにいてやってくれよな。こいつ君のことすっげー好きだから」

剣士「僧侶くんも一緒にいようよ……いかないで……」

僧侶「ごめんなぁ。そろそろだ……」




僧侶「……なあ勇者。魔王を倒してからも生きろよ」

勇者「……」

僧侶「他人なんか気にすんな。いざとなれば剣士ちゃん連れてどっかへ逃げろ。
   泥水啜ってでも生きたもん勝ちだ。そうすりゃいつかいいことあるって」

勇者「……」

勇者「僧侶。今までありがとう……」

僧侶「……じゃあな、二人とも……」




僧侶「……」





546: ◆TRhdaykzHI 2014/03/26(水) 04:25:35.33 ID:8VMCOwRWo



* * *


魔王城


魔王「……魔女が死んだか」

炎竜「……」

兄「俺が行きます」

魔王「……」

魔王「待て。私が行こう」

炎竜「魔王様?」

魔王「少々勇者を侮りすぎていたようだ……」

魔王「……私の命も残り少ない……全て勇者との戦いのために使おう。
   勇者を王都から引き離し、私が奴を始末する」

魔王「炎竜、そして息子よ。太陽の国の侵攻状況は」

炎竜「沿岸部はほとんど。国土の三分の一程度です」

魔王「数日でそれなら十分だ。
   私が勇者と戦っているうちに、勇者がいない王都をお前たちで落とせ。分かったな……」

兄「しかし、」

魔王「言うな」

魔王「息子よ。受け取れ。魔を統べる者が手にする王の指輪だ。
   いま、これをお前に託そう……」

魔王「私亡き後、お前が王だ。……しっかりやれ……」

兄「……」

兄「はい」



兄「必ず、魔族に勝利を」

魔王「……ああ……」





547: ◆TRhdaykzHI 2014/03/26(水) 04:26:39.94 ID:8VMCOwRWo


* * *


「冥界とか冥府とかって呼ばれてるところって一体どんなところなんでしょう。

 女神様は安らかで、とっても景色が美しいところって言ってたけど本当なんでしょうか。

 死んでしまったみんなは今はそこにいるのでしょうか。

 苦しかったことや痛かったことは忘れて、楽しく過ごせているのかな。

 だったらいいなって思います。


 死ぬのは痛くて辛いのだろうけど

 生きるのも同じくらい辛いんだって、分かってきました。

 でも死ぬのは一瞬で、もしそのあと楽しく過ごせるなら、

 一瞬ではなくずっと続く生の方が悲しいのかなって…… 


 どっちでもいいや

 あの人といっしょなら

 生きても死んでも、どっちでもいいです。」





548: ◆TRhdaykzHI 2014/03/26(水) 04:28:47.34 ID:8VMCOwRWo




まだ夕暮れ暮れ時にも関わらず、その飲み屋圏食事処は大変な賑わいを見せていた。
グラスを突き合わせる音や、野次の声が飛び交う騒然たる店内の隅っこで
そこだけ切り取られたように静かなテーブルがあった。

薬師である。
彼は酒の注がれたグラスに目もくれず、テーブルに広げた四通の手紙のことだけ考えていた。

いま彼がいるのは魔族と人が共に暮らす共同都市、通称「月の都」と呼ばれるところだった。
雪の国から星の国を経て、太陽の国に帰ってきた彼が、人間だけが罹る流行病の噂を聞いて
この月の都にやってきたのだった。

そして、ここで暮らす夫婦に出会った時に受け取ったのが、いま目の前にある四通目の手紙だった。



「ニーナという名前は書かれていないけど……あなたが持っている三通の手紙と筆跡が一緒ね……」


庭の広い、小さな木の家に住んでいる夫婦の、物静かな妻の方が手紙を矯めつ眇めつそう言った。


「たぶん、私が拾ったこの手紙も……ニーナという女の子が書いたものなのではないかしら……」

「そう、ですか」


四通目の手紙に出会えたのは確かに嬉しかったが、どう考えても内容がこれまでと違いすぎる。
仲間が死んでしまったのだろうか。
あの人とは、彼女と一緒に旅をしていた勇者のことだろうか。


「よかったら、これ……あなたが持って行って。……いいかしら?」

「勿論。俺も彼が持っていた方が、なんだか自然な感じがするし」


夫婦に差しだされた手紙を受け取って、ついに彼は海からの手紙四通全てを手にしたわけだが
何故かこうして夜の酒場で紙切れ相手に途方に暮れてしまっている自分がいた。





549: ◆TRhdaykzHI 2014/03/26(水) 04:30:07.95 ID:8VMCOwRWo



ずっとこの大陸を旅してきて二十余年。
薬師として薬を売り歩く、という名目はあったが、正直に言うとこの手紙を集めることも目的のひとつだった。
むしろ、そちらの方が旅立ちの理由として大きかった気もする。


時系列順に並べれば、最近受け取った手紙の続きに、
幼いころ自分が浜辺で拾って祖父に読んでもらったあの手紙が続くのだろう。

全て繋がった。
しかしこの釈然としない気持ちはなんなのだろうか。


テーブルに広げた手紙を再び懐にしまい、知らず知らずのうちにため息をついたときだった。
酒場の主人が、彼の真向かいの席にドスンと腰を下ろした。


「よう薬師の兄ちゃん。久しぶりだなあ」


呂律が微妙に回っていないところから察するに、すでに主人はけっこう酔っている。
うわあと内心思いながら彼はちょっとだけ身を引いた。
手紙をしまっておいてよかった。


「なんだよ、全然飲んでないじゃないか! 俺んとこの酒はそんなにうまくないってのか? ん?」

「ち、違いますよ。いまから飲むところです」

「そうか」





550: ◆TRhdaykzHI 2014/03/26(水) 04:31:15.16 ID:8VMCOwRWo




種族入り混じって騒ぎまくっている店内なので、片隅といえど薬師と主人のいるテーブルも
お互い声を張り上げないと会話ができないほどだった。


「……で、あんたいまいくつだよ?もう三十路じゃないのか?」

「まだ二十代です」

「いくつ?」

「……25」

「四捨五入すりゃ30だ。もうおっさんだ」


誕生日を迎えてから四捨五入という言葉が大嫌いになった彼だった。
おっさん……。その響きにくらりとめまいを感じてから、一気に酒を呷った。

おじいちゃん。僕はもうすぐおっさんです。


「30になれば一気に体にガタがくるぞぉ。そろそろ腰を落ち着けちゃどうかね?」

「は、はあ」

「家庭を持つっていいもんだぞ。
 俺も昔はやんちゃしたもんだがな、帰るところがあるっていうのは、なかなか意外にいいもんだ」

「家庭ですか……。でもあいにく、相手がいないもので」

「うちの娘なんかどうだい? ほら、久々にあんたがここを訪れたもんだから、
 あんたが店に来てからずっとチラチラ見てるよ」

「え」




551: ◆TRhdaykzHI 2014/03/26(水) 04:34:16.44 ID:8VMCOwRWo




ひと際賑やかだった中央のテーブルにドッと声が沸いた。

「はい! ビール6人前おまちどうさま!」

店の看板娘――いま彼の目の前でにやにやしている主人の娘の元気な声が、かろうじて彼の耳に届いた。

娘に働かせておいて、父がテーブルについてサボっているいまの状況に気がついたのか
「ちょっとお父さん!ちゃんと働いてよ!」と娘が抗議した。


「まあ、口うるさいのが玉に瑕だが……なかなかの器量よしだ」

娘の声を無視して主人は続ける。


「家庭ですか……」

「そろそろ身を固めることも考えた方がいいんじゃないかってね」




次回 勇者「百年ずっと、待ってたよ」 後編