魔王「私が勇者になる……だと?」 前編

451: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/11(木) 18:43:49.46 ID:IKnsrjixP
……

………

…………



シュゥン……トン



魔王「多分、この辺……ああ、ここだな」

魔王『側近』

側近『おう、なんだ……殺したか?』

魔王『……物騒だな』

側近『違うのか……で、何だよ』

魔王『見てくれ』

側近『は!?』

魔王『最初に言っただろう。望めば俺が見ている物が見れると』

側近『ああ、そういう意味ね……ちょっと待て。ええと……どうやるんだよ、ったく』

魔王『この間の時も見たんじゃ無いのか?』

側近『あんなけ派手に魔法ぶちかましゃ厭でも感じるっつーの……まあ』

側近『お前の目ん玉、飲み込んだからだろうがな……ん、どこだ、そこ?』

魔王『廃墟の街と……城跡らしい』

側近『はぁ……どこに居んの、お前……』

魔王『昔、魔物に襲われて全滅したらしいんだがな。廃港の様なものもある』

魔王『島の規模はそれほど大きくないんだが……どうも、光の力が強い様でな』

側近『光?』

魔王『ああ……丘の上にエルフの知人の墓がある。姫はエルフの加護だとか』

魔王『言ってたが……元々それほど強い魔物も生息していそうにない』

側近『浄化されたとでも?だが……滅ぼされたのは昔なんだよな?』

魔王『その辺も定かじゃ無いんだ……で』

側近『俺に調べとけって事ね……はいはい』


452: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/11(木) 18:49:06.88 ID:IKnsrjixP
魔王『ああ……頼む。私は今から魔導の街に戻る』

側近『……頼むから変な事すんなよ?』

魔王『大丈夫だ……あの街に居れば、逆にあいつも手を出せんだろう』

側近『今のところ、他も目立った動きはねぇな……が』

魔王『が? ……なんだ』

側近『魔導将軍をやった後は、こうのんびりはしてられねぇぞ』

魔王『……だろうな』

側近『姫の事もあるだろう……惚れたのか?』

魔王『身重の娘にか……阿呆か』

側近『違うなら良いがね……どうするんだ?』

魔王『どうしようか』

側近『お前なぁ……』

魔王『生まれるとしても、50年も先だろう』

魔王『それまで、共にしているとは思えんさ』

側近『……ま、良い。取りあえず調べておくぜ……ああ、もう本当手が足りん!』

魔王『すまんな』

側近『放り出したのは俺だしな……変な心配して胃が痛むより随分マシだ』

魔王『……悪かった、って』


453: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/11(木) 18:53:36.58 ID:IKnsrjixP
側近『じゃあな……何かあったらすぐ知らせろよ』

魔王『ああ……頼む』

魔王(さて……街へ戻るか)



シュゥウン



魔王(ここは……ん?)

魔王(娼館の裏手か……丁度良い)

魔王「……おい、管理人」

管理人「何だ……! こ、ここここ、これは少年様!」

魔王「 婦を頼む……それから」

管理人「フランボワーズですね!」

魔王「覚えていてくれたんだな」

管理人「それはもう……!さあ、どうぞ」



……

………

…………



コンコン



少女「失礼致します……お茶をお持ちしました」

魔王「ああ、ありがとう……少女」

少女「……もう、来られないかと思っておりました」

魔王「何故だ?」

少女「何となく……です。どうぞ……」

魔王「ありがとう……良い香りだ。君も座って……つきあってくれ」

少女「はい……ありがとうございます」


478: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/12(金) 09:43:01.35 ID:MY2NTeWoP
魔王「今日は……少し突っ込んだ事を聞いても良いか?」

少女「お戯れ以外、拒否する権利はありませんから」

魔王「ふむ……甘い物は好きか?」

少女「え? ……はあ、まあ」

魔王「何が好きなんだ……やはりケーキか?」

少女「……クリーム系は、ちょっと。タルトとか……好きです」

魔王「ふむ。覚えておこう」

少女「突っ込んだ事、と言うのは……それですか?」

魔王「ああ、いやいや……気を悪くしたら、すまん」

少女「……」

魔王「お前は、優れた加護を持たないだけか?」

少女「……? 仰る意味が……」

魔王「ああ、すまん……普通に魔法は使えるのか」

少女「ああ……はい。一応……」

魔王「ふむ」

少女「それが、どうかしましたか」

魔王「もう一つ……お前の属性……加護は、風か?」

魔王「綺麗な緑の瞳をしている」

少女「……使える魔法は風です。緑……大地の加護を受けています」


479: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/12(金) 09:47:55.15 ID:MY2NTeWoP
魔王「大地の加護か……そうか」

魔王「うん、解った。ありがとう」

少女「? ……はぁ」

魔王「あと少しだな。予選まで」

少女「そうですね」

魔王「……魔導将軍は恐ろしいか?」

少女「それこそ、拒否する権利などありません」

魔王「ふむ。少女は……本は好きか?」

少女「本? ……読書、と言う意味ですか」

魔王「まあそうだな」

少女「家に居る時はよく読みました。幼い時は童話や神話の類を」

魔王「うん」

少女「……魔力が発現してからは、魔導書のみしか与えられませんでしたが」

魔王「魔導書?」

少女「はい。この街の図書館にも沢山あるはずです」

魔王「そうか……一度行ってみても良いな」

少女「お好きでしたら……お勧めです」



コンコン



魔王「ああ……来たな」

少女「はい……では、私はこれで」

魔王「ああ、また明日な」

少女「明日?」

 婦「失礼致します……」

少女「……では、私はこれで」


480: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/12(金) 09:50:28.37 ID:MY2NTeWoP
パタン



 婦「いらっしゃいませ、少年様」

魔王「ああ、元気にしていたか」

 婦「つい先日じゃありませんか……これ、どうぞ」

魔王「おお……旨そうだな」

 婦「約束ですから」

魔王「……一つだけか?」

 婦「え?」

魔王「お前の分が無いじゃないか」

 婦「え、そんな、私は……」

魔王「甘い物は好きなのだろう?」

 婦「そうですが……」

魔王「気の利かない男だな、あの管理人は……仕方ない」

魔王「今日は、半分こしよう」

 婦「え、ええ!?」

魔王「なんだ、厭か?」

 婦「いえ、あの……!」

魔王「遠慮はせんで良い……ああ、そうだ。 婦」

 婦「は、はい……?」


481: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/12(金) 09:55:06.70 ID:MY2NTeWoP
魔王「タルトは好きか?」

 婦「え? ……ああ、はい、まあ」

魔王「そうか、良かった……ん、皿を取ってくれるか」

 婦「あ、は、はい!」

魔王「ん……半分な」

 婦「あ……ありがとうございます……」

魔王「まあ、座れ。ああ、すまん茶を……」

 婦「じ、自分でやります!」

魔王「そうか?では任せる ああ、そうだ……先日は、大丈夫だったか?」

 婦「ああ……ええ。随分と驚いてはいらっしゃいましたが」

魔王「うむ」

 婦「もう少し……ここに居られる事になりました」

魔王「ほう?」

 婦「……大会が終われば、どこかへ行かれるのでしょう?」

魔王「ん?」

 婦「少なくとも、それまでは」

魔王「……本当に数日の話ではないか」

 婦「少年様が必要とされる限りは……です」

魔王「……」

 婦「あ……! も、申し訳ありません。催促をする訳では……!」


482: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/12(金) 09:59:20.10 ID:MY2NTeWoP
魔王「あ?ああ……いや、そういう」

魔王「……」

 婦「少年様……あの、お気を悪く……されました……よね」

 婦「どうか……お許しください!その……!」

魔王「違う」

 婦「え……?」

魔王「必要としていれば、拒否はしないで居てくれるのだな?」

 婦「そ、それは……勿論です」

魔王「その時、お前に拒否する権利があるとすればどうだ?」

 婦「そんな……そんな権利は、私には……」

魔王「あったとして、だ」

 婦「……前にも、申し上げました。私は……」

魔王「期待するのは厭、か」

 婦「……はい。もう絶望を味わうのは……厭です」

魔王「必ず約束すると言っても?」

 婦「……申し訳ありません」

魔王「信じられんか?」


483: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/12(金) 10:07:32.15 ID:MY2NTeWoP
 婦「……」

魔王「いや、すまん……無茶な話だな」

 婦「私は、何を信じれば良いのか……そもそも、それすら解らないんです」

魔王「……」

 婦「あの家に生まれたばかりに。私に優れた加護が無いばかりに」

 婦「……親に捨てられ、道具として扱われ」

 婦「最後は、売られるか処分されるか……いえ。売られた先での扱いも」

 婦「期待できた物ものではありません」

魔王「……」

 婦「死んだ方がましだとすら……思えなくなりました」

 婦「ですが……それすらも欲ですよね?」

魔王「欲……?」

 婦「はい。最後の、欲……ここに居れば綺麗な服を着、髪を結われ」

 婦「お客様に選んでさえ戴ければ……生きてはいられる」

 婦「不思議です。あんなに辛いと。もう……死にたいと何度も思ったのに」

 婦「でも、私は生きています。生きたいと思います」

魔王「……」

 婦「でもそれは……何れ、死ぬから」

 婦「暖かい布団の上では無いでしょう。大事な人に看取られてでも無い」


484: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/12(金) 10:11:56.43 ID:MY2NTeWoP
 婦「使えなくなった道具を、玩具を破棄するだけですから」

 婦「……そして、それは近い内にやってくるんです」

 婦「だから、せめて今は生きてはいたい……勿論」

 婦「自決等選ぶと、他の人達に迷惑がかかるから……と言うのも」

 婦「……ありますけど」

魔王「ふむ」

 婦「やっぱり、死ぬのは怖いですから」

魔王「……そんな泣きそうな顔で笑わないでくれ」

 婦「最後に、こうして……少年様に選ばれて良かったです」

 婦「楽しい時間も過ごせたのだと、そう思って……残りを過ごせます」

魔王「それは、違う」

 婦「え?」

魔王「楽しい時間を経験すれば、もっと楽しくいたいと思うのが……人……」

魔王「否。生きている者の正直な気持ちの筈だ」

 婦「……」

魔王「何を信じたら良いのか解らないと言ったな」

 婦「……はい」

魔王「自分のその気持ちを信じてはみないか?」

 婦「え……?」


485: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/12(金) 10:23:33.54 ID:MY2NTeWoP
魔王「私と居て楽しい。ならば……もっと居たいとは思って貰えないのか?」

 婦「そ、それは……勿論、そう思います!ですが……」

 婦「大会が終われば、貴方は去ってしまわれる」

 婦「……それに、奥様もいらっしゃるのでしょう?」

魔王「……まあ、それはそうだが」

魔王(忘れてた……が、そんな話したか……?)

魔王(……魔導将軍か)

 婦「私は……たかだか商売女……いえ。そんな良い物ですら」

魔王「……」

 婦「物の分際で……出過ぎた事を思っても……」

魔王「違う、そうでは無くて……」

 婦「違いません! ……ここを出て、生きて行けた者等居ない……!」

魔王「……居る」

 婦「え……?」

魔王「居るんだ、 婦。詳細は言えない、し他言もしないで欲しい」

 婦「だ、だって……皆殺しに……!」

魔王「違う。皆生きている……勿論、贅沢な暮らしなどしていないだろう」

魔王「髪も結っては貰えない。綺麗な服だって着れない」

魔王「だがな?」


486: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/12(金) 10:30:27.38 ID:MY2NTeWoP
魔王「……そういう者達は、今から自分たちを、自分たちでどうにかしようと」

魔王「頑張っている……筈だ」

魔王(盗賊と姫が……旨くやって居るはずだ。そうであって欲しい)

魔王「生きたいと願い、楽しく過ごしたいと自分で考えている」

魔王「……願えば叶う」

 婦「……嘘です!何をどう願っても……何も、叶い等……!」

魔王「では、今から叶う様、努力すれば良い……確かに、お前一人では」

魔王「……否。誰も一人では成し遂げられん。色々と根が深く、問題も多い」

魔王「だが、私だけでは無い。皆で……知恵を出し、身を動かせば」

魔王「夢を、現実にしようと……引き寄せるべく、動けば」

 婦「……よしんば、生きていたとて」

 婦「私には……そんな強さは、ありません……!」

魔王「やらずに諦める方が楽か?道具の様に使い捨てられ、死ぬ方が?」

魔王「……生きていたいと願うのは、確かに自分だろうに」

 婦「……」ポロポロ

魔王「すまん……きつい言い方だったか」

 婦「……いいえ。申し訳ありません……」グイッゴシゴシ

魔王「すぐに……どうこうしろとは言わん」

魔王「少しだけで良い。信じて……見てはくれんか」

 婦「……」

魔王「楽しい時間を過ごしていたいと思った……お前自身を」



リン……リリン……



魔王「……この音は?」


487: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/12(金) 10:33:58.74 ID:MY2NTeWoP
 婦「あ……時間、です」

魔王「そうか……」

 婦「あの……」

魔王「ん?」

 婦「……出過ぎた事を言いました。どうか、お許しを」

魔王「遠慮する事など何も無い……今日も楽しかった」

 婦「ありがとうございます……ケーキ、美味しかったです」

魔王「ああ……また来る」

 婦「……お待ちしております。では」スタスタ



カチャ



魔王(前進した、と……思って良い、のだろうかな)

魔王(……泣かせてしまった)



コンコン。カチャ



管理人「少年様!今日もありがとうございます!……如何でしたか?」

魔王「明日は、フルーツタルトを三つ用意しておいてくれ」

管理人「は!?は、はい!」

魔王「金だ……ではな」


488: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/12(金) 10:42:20.27 ID:MY2NTeWoP
魔王(娼館の裏手……ここで良いか……ん?)

魔王(あれは……!? ……あ、しま……ッ)



シュゥウン



魔導将軍「少年は来たか?」

管理人「はい、今し方帰られましたが……」

魔導将軍「そうか、やはり今の気配は……」

管理人「魔導将軍様?」

魔導将軍「いや……良い。誰を召した?」

管理人「以前と同じ、 婦です」

魔導将軍「そうか……では、その女を呼べ」

管理人「は、はい、直ちに!」

魔導将軍「後、酒だ……少女に相手をさせる」

魔導将軍「準備が出来ればすぐにだ……良いな」

管理人「勿論です! ……どうぞ」



……

………

…………



シュゥウン……スタッ



姫「きゃあッ ……しょ、少年!」

盗賊「うわああああ!?」

魔王「あ、ああ……すまん」

 


489: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/12(金) 10:47:57.38 ID:MY2NTeWoP
魔王(魔導将軍……少女に会いに来たのか?)

魔王(……まあ、良い。まさか戻るわけにはいかん)

魔王(ばれて……いるだろうな。仕方ない……大会までは)

魔王(奴も目立った事はできんだろう)

姫「どこ行ってたのよ、もう……」

魔王「メモを残しておいただろう?」

盗賊「……て、転移……て、奴か……?」

姫「すぐに戻る、ってだけじゃわかんないでしょ! ……船長は?」

魔王「船に戻してきた……何時までもあそこに停泊させているよりは良いだろう」

盗賊「……腰抜かしてたんじゃネェの、船長」

魔王「大丈夫だろう……それより、どうだった?」

姫「ええ……結論は、大成功よ!」

魔王「ほう?」

盗賊「最初はみんな怯えてたけどな」

姫「盗賊にも出来る……て言うのは、大きかったみたい。こんな言い方……申し訳ないけど」

盗賊「気にしなくて良い……事実だし、実際、効果はでかいんだ」

魔王「では……」

姫「ええ。流石に……ちゃんと学んでいるだけあるわ。皆飲み込み早いもの」

盗賊「姫に実際にやってもらったんだ。で……やってみたら出来る奴も結構居た」

魔王「凄いな」

盗賊「流石にもうみんな寝たけどな……魔法使う事なんて殆どないしよ」

姫「疲れちゃったのね」


495: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/12(金) 14:01:46.24 ID:MY2NTeWoP
魔王「そうか……ん、これか?」

姫「ええ……炎に、水、風……雷に……」

盗賊「間違えない様にだけしないとな」

魔王「まあ、大体の色で区別出来るだろう」

姫「ええ……でも、見て?これ、私ので……こっちは、島の人の」

魔王「……微かにだが、色が違うな」

盗賊「個人差、だろ?」

魔王「ああ、そうだろうな……しかし」

姫「何?」

魔王「いや。綺麗だなと思って」

盗賊「そうだな……見た目も綺麗で、しかも使って便利ってなりゃ」

盗賊「……生活資金も、充分まかなえるだろう」

魔王「流通するまでが大変だろうけどな」

姫「そこは船長が張り切ってたじゃないの」

盗賊「ああ……だけど」

魔王「全て……魔導将軍を倒してから、だ」

姫「……」

盗賊「……」

魔王「二人とも、そんな顔をするな」

姫「でも……私で、大丈夫かしら」

魔王「……無理だろう」

盗賊「少年……!」


496: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/12(金) 14:09:36.28 ID:MY2NTeWoP
魔王「殺せるか?」

姫「……え?」

魔王「魔導将軍を倒そうと思えば、殺す気で行かねば敵わないだろう」

魔王「それに……」

盗賊「……それに?」

魔王「実際……私はそのつもりだ」

姫「!」

盗賊「……ッ で、でも……大会のルールは……」

魔王「姫を殺すと、堂々と宣戦布告されたのに」

魔王「こちらは負かすだけで良いのか?」

魔王「……敵も取りたいのだろう」

盗賊「それは……そうだけど」

魔王「私としては……魔王以下、現状維持を望む立場としては」

魔王「生かしておく必要は無い……が」

魔王「流石に私も、その役目を姫に押しつける気は無い」

姫「……」

盗賊「だけど……」

魔王「大丈夫だ。だが……姫には予選にはちゃんと出て貰う」

姫「……ええ」

盗賊「殺す……のか」

魔王「怖じ気づいたか?」

盗賊「……ッ 違……ッ」


497: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/12(金) 14:16:00.01 ID:MY2NTeWoP
魔王「まあ良い……任せておけ」

盗賊「……ああ。それが良いんだろう……否」

盗賊「それしか……無いんだろうな」

姫「ねえ、少年」

魔王「なんだ?」

姫「次の段階に進む、って言ってたでしょ?」

魔王「ああ、そうだな……まあ、発想の問題なんだが」

盗賊「発想?」

魔王「ああ、例えば……使うぞ?」コロン

姫「ええ……」

魔王「器に、水の魔石で……水を、注ぐ」ザァ……

盗賊「うん」

魔王「これもな、少しだけ解放すれば、石の中に力を残した侭にできるだろう?」

姫「ああ……繰り返し何度か使えるって事ね」

魔王「そうだ……これは姫のだな。結構残ってるな」

盗賊「そうか、威力を押さえた侭、力を注ぎ続けられれば……」

魔王「ああ。圧縮して容量を増やせる……ま、それは鍛錬次第だな」

魔王「で、だ……ここに、火の魔石をかざす……ほら」グツグツ……

盗賊「湯になった!」

魔王「……これも慣れねば一気に沸き立つか……蒸発するだろうが」


498: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/12(金) 14:21:30.26 ID:MY2NTeWoP
盗賊「成る程な……風の魔石で洗濯物も乾かせるかな?」

魔王「慣れる迄は切り刻むかもしれないがな……まあ、そういう風に」

魔王「工夫して使ってみて欲しい」

盗賊「おう!……あ、そういえば船長が言ってたぜ」

魔王「ん?」

盗賊「治癒魔法を使える奴の力を魔石にすれば……って」

姫「ああ、成る程……怪我も治せるわね」

魔王「そうだな……ふむ、この透明の石がそうか?」

姫「ああ、そうだわ。水の加護を持つ子だったのだけど」

姫「治癒の力を得意とする様ね」

魔王「……薄い水色にも見えるな」

盗賊「間違えない様にしないとな」

魔王「姫ならば、触れば解るんだろうがな……」

盗賊「見分け方とかも考えないとなぁ……」

魔王「そっちは任せた……姫は教えつつ」

魔王「コントロールする方法を身につけておいてくれ」

姫「ええ」

魔王「戦う術については……明日だな」


499: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/12(金) 14:27:49.38 ID:MY2NTeWoP
盗賊「剣なら多少は教えてやれる……んだがな」

魔王「ああ、それでも良いぞ?」

姫「え?」

魔王「盗賊に相手して貰って、避ける練習ぐらいはしておくと良い」

魔王「治癒魔法を使える者が居るのならば、安心だ」

姫「そうね……多少の痛みにも、慣れないと」

魔王「ついでに水の壁を張る練習にもなるな」

姫「水の……壁?」

魔王「ああ……こんな風に」ザァ……ッ

盗賊「うあ」

姫「……あっさりね」

魔王「魔法を跳ね返せれば、上出来だ」

盗賊「……お前、本当に何でもできるんだな」

魔王「まあ、魔王だからな……だが」

魔王「姫の様に、優れた加護とやらは私には無い様だぞ?」

姫「そ……そうなの?」

魔王「ああ。船の上で、お前の魔法の水でずぶ濡れになっただろう」

盗賊「そういえば……」

姫「水じゃ無いかもしれないじゃない……ああ、でも」

姫「……様々な加護を持っているものね」

魔王「どうなんだろうな……私の属性がなんなのか」

魔王「自分でもさっぱりわからんがな。魔法が色々と使えると言うだけで」

盗賊「……本当に規格外だ」


500: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/12(金) 14:32:50.38 ID:MY2NTeWoP
魔王「さて、そろそろ休むと良い……私も、休ませて貰おう」

姫「明日も……どこかへ行くの?」

魔王「ああ。約束がある」

盗賊「約束……?」

魔王「ちょっとな……夜には戻る」

姫「気をつけてね」

魔王「大丈夫だ……ではな」スタスタ

盗賊「おいおい、どこ行くんだよ」

魔王「ここで三人は無理があるだろう。二人はゆっくり休め」

魔王「……私は何処でも眠れる」



パタン



盗賊「良いのか?」

姫「え?」

盗賊「……まあ、本当の夫婦じゃ無いんだろうが、さ」

姫「大丈夫よ……彼は、魔王だもの」

盗賊「まあ……そうだけど」

姫「私達は、私達の出来る事をしましょ」

盗賊「ああ……姫が、そういうなら良いけどさ」

姫「休むのも大事……布団、借りるわよ?」

盗賊「おう……あ、真ん中で寝るなよ、それしか無いんだから」

姫「うん……蹴らないでよ」

盗賊「そんな寝相悪くねぇよ!」


501: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/12(金) 14:36:08.89 ID:MY2NTeWoP
……

………

…………



魔王(星空か……綺麗だな)

魔王(城からは……否。あの最果ての地の空には……星など、煌めかん)

魔王「……」

魔王『側近。起きてるか』

側近『……ああ、今調べていた所だ』

魔王『書庫か?』

側近『ああ』

魔王『一人……だな?』

側近『こんなかび臭い場所、好んで利用するのはお前ぐらいのモンだ』

魔王『そうか……重畳』シュゥウン

側近『え?』

魔王「……ふむ。懐かしい匂いだ」シュゥン

側近「おわああああああああああああ!」

魔王「でかい声出すな。うるさい」


502: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/12(金) 14:40:07.90 ID:MY2NTeWoP
側近「お、おま、おま……!な、なななな、何やってんだ!!」

魔王「うるさいと言っているだろう」

側近「……もう、何も言わん。何も考えん!」

魔王「心労が溜まるとハゲるぞ」

側近「……殺すぞ、お前」

魔王「出来る物ならどうぞ……なんだ、気にしてたのか」ナデ

側近「額を撫でるなああああああああ!」

魔王「……なんだこれ、古い地図だな」

側近「人の話……聞こうよ……」

魔王「泣くな、男の泣き顔など可愛くない」

側近「……本当に、お前って奴は」

魔王「ふむ……始まりの街?」

側近「……もう、良い。何も言わん。何も考えん……」

魔王「それはさっきも聞いた………おい、この地図……」

側近「……」ハァ

側近「お前の『目』を通して見たあの街、な」

側近「多分……これだ」


503: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/12(金) 14:46:52.45 ID:MY2NTeWoP
魔王「……港。これは……川だな」

側近「ああ、街まで通って無かったか?」

魔王「自分で歩いた訳では無いが……地形的にはそんな感じだったな」

側近「この……地図の小さな街が多分そうだ。城の印もある」

魔王「……ふむ」

側近「先々代の時の戦争で……あの地に魔物が放たれた様だ」

側近「えっと……ああ、これだ。ちょっと読みにくいがな」

魔王「どれ……狼将軍の部隊……か?」

側近「ああ。暫く手下共が住み着いたんだろうが……」

魔王「海に浮かぶ大きくは無い……島、か」

側近「食料の人も居なくなり、共食いしたんだろう」

魔王「共食い?」

側近「あの将軍の眷属の狼は、そういう種族だ」

魔王「……で、自ら滅びたか」

側近「そもそも、それほど強い魔物が住む土地じゃ無い」

魔王「ふむ……しかし、先住の魔物は……どうやって生き延びた?」

側近「元々が獣に近い種族しか居ない上に、自然の多い土地だ」

側近「まあ……推測に過ぎんが、闘争本能が強く無い分」

側近「……どうにか逃げ、隠れ……てた、んじゃないか?」

側近「未だに魔物が住んでいると言うなら、それぐらいしか思い浮かばんよ」


504: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/12(金) 14:54:35.59 ID:MY2NTeWoP
側近「それに、あの狼共は必要以上に水を嫌うからな」

側近「……水辺に住む奴らは、案外安全だったのかもな」

魔王「水棲の魔物……ふむ」

側近「見たか?」

魔王「否……確認はしていない。だが……光の力が強いと言う現象は?」

側近「あっちこっち書物をひっくり返したが……まだ何もわからん」

側近「姫が言う様に……エルフの加護だとか言うモンが以外とでかいのかもな」

魔王「しかし……エルフと言うのは光の加護を持つのか?」

側近「それこそエルフのお姫さんに聞けよ」

魔王「……そうだな」

側近「まあ、強い魔物がいないってのは土地的なモンもでかいぜ」

魔王「ん?」

側近「現存した街としては……ここから、最も遠いからな」

魔王「……成る程な」

側近「この大陸に近づけば近づく程、魔の気が濃くなってくるからな」

魔王「そうか……ありがとう」

側近「魔導将軍の方はどうだ」

魔王「大会までは動かないとみて良いだろう」

魔王「あいつの悪趣味具合には反吐が出る……宣言通り」

魔王「……舞台の上で姫を嬲り殺すつもりなのだろう」

側近「あっさり言うね……」

魔王「私がそんな事させる筈無いだろう?」


505: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/12(金) 14:59:29.73 ID:MY2NTeWoP
側近「まあ……お前がその気ならそうだろう、が」

側近「……本当に惚れたんじゃ無いのか?」

魔王「阿呆……人の子を●むエルフの娘に惚れてどうするんだ」

側近「……ま、良いさ」

魔王「もう少しここで本を読んでいく」

側近「あ?ああ……別に構わんけど」

魔王「……どうした?」

側近「へ?」

魔王「いや……何時もなら怒鳴られそうなモンなのに」

側近「言っただろ。もう何も考えたくないの!」

魔王「信じてる位言えば良いのに……」

側近「何それ気持ち悪い」

魔王「……見張ってろよ」

側近「俺は寝ちゃいけないのかよ!」

魔王「私が見つかったら困るだろう」

側近「そりゃあもう、がっつり困る」

魔王「ん、任せた……朝には転移する」

側近「……あ、あれ?」

魔王「ほら、出てけ……しっかり寝ないと、抜けるぞ?」

側近「はげてねぇわ!抜けねぇわ!しかもアンタが今寝るなって!」

魔王「寝るなとは言ってない……ああ、もう時間がもったいない」

魔王「頼んだぞ?」ペラペラ

側近「本当……理不尽だよなぁ……」ハァ……スタスタ



パタン


531: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/13(土) 10:34:22.00 ID:ttjS92xMP
魔王(始まりの街、か……そんな名があったのだな。あの……街)

魔王(水辺に魔物……ではあの丘を迂回して、平地を行けば)

魔王(もう少し安全に移動できるのだろうか?)

魔王(……まあ、良い。それよりも……確か……ああ、あった)バサバサ

魔王「……げほッ」

魔王(埃が……私しか使わないからなぁ)

魔王(エルフの本に、勇者と魔王の物語……それから)

魔王(人と魔の……神話)

魔王(これぐらいで良いか……あとは)ドサッ

魔王「……光、と、闇……どこかで見た気がするんだがな」

魔王(魔導書……童話、歴史書……片っ端から放り出すか)ポイポイ

魔王「それから……ああ、あった」ペラ


532: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/13(土) 10:48:23.93 ID:ttjS92xMP
魔王「ふむ ……」ペラ

魔王(以前、おもしろそうだと思って避けてあったんだが)

魔王(……人の書いた本、なんだろうが)

魔王(ちんぷんかんぷんだな……仕方ない。これは置いておこう)ポイ

魔王「これと、これと……良し」

魔王(朝まで……もう少しあるな)

魔王(もう一度……目を通しておくか)



……

………

…………



コンコン



側近「おい……居るのか?」カチャ……キョロキョロ

側近「……行ったか」

側近「結局……一睡もできんかった」ハァ

側近「……ん、なんだこれ……『商売の基本?』」ペラ

側近「魔王様の本……か?あいつ、こんなもん……」ペラペラ……

側近(ふむふむ)



……

………

…………



シュゥウン、スタ…



魔王(魔導の街の……外の、森か)

魔王(……丁度良いな。本も……うん、間違えて無いな)バサバサ

魔王(残りの分は盗賊の部屋に置いてきたし)

魔王(……二人とももう居なかったな。熱心な事だ)


534: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/13(土) 11:12:19.35 ID:ttjS92xMP
魔王「さて……管理人。いるか?」

管理人「おお!少年様!お待ちしておりましたぞ!」

魔王「 婦を頼む」

管理人「ええ、ええ!ケーキもご用意しております!」

魔王「そうか。まず一つ持ってきてくれ。二つは……後ほど」

管理人「はい。では二つは 婦に準備させます。どうぞ」カチャ

魔王「ああ」スタスタ

管理人「今日は……ちょっと趣向を凝らせましてな」

魔王「ほう?」

管理人「まあ……お楽しみに」ニヤニヤ

魔王(笑うと気持ち悪いなぁ)

管理人「では……いつも通り、こちらでお待ちください」

魔王「ああ……ありがとう」

管理人「では、失礼致します」



パタン……コンコン



魔王「はい?」

少女「失礼致します……お茶と、ケーキをお持ちしました」

魔王「ああ。ありがとう……それは、君の分だ」

少女「え?」


535: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/13(土) 11:19:48.30 ID:ttjS92xMP
魔王「タルトが好きだと言っていただろう」

少女「……ありがとう、ございます」

魔王「ああ……座って食べなさい」

少女「はい……では、先にお茶の準備を」

魔王「うん……それからな」

少女「はい?」

魔王「これを」スッ

少女「……本?」

魔王「ああ……本も好きだと言っていたからな。読書をする時間があれば良いが」

少女「ええ、まあそれは……」

少女「御伽噺、ですか?勇者と魔王、エルフ……神話」

魔王「ああ。気に入ってくれれば良いんだが」

少女「……」

魔王(あ、微かに頬が綻んでる)

少女「……良いんですか?」

魔王「ああ、構わん。私はもう何度も読んだしな」


536: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/13(土) 11:29:50.07 ID:ttjS92xMP
少女「ありがとう……ございます」

魔王(あまり表情の変わらん娘だと思っていたが)

魔王(……嬉しそうだ。良かった)

少女「……少年様」

魔王「何だ?」

少女「昨日、魔導将軍がいらっしゃいました」

魔王「……そうか」

魔王(やはり、昨日転移の直前に見たと思ったのは間違いじゃ無かったんだな)

魔王「お前に会いに来たんだろう?」

少女「…… 婦を召された様です」

魔王「あの娘……を?」

少女「私は……特例です。普段、誰が誰のお気に入りであろうと」

少女「関係ありません……金で、買われる玩具に過ぎません」

魔王「まあ……娼館だからな」

少女「魔導将軍は、それだけ……この街で力を持っています」

魔王「……みたいだな」

少女「魔導将軍が…… 婦に興味を持ったのは……」

魔王「私がここ連日、あの娘を召している、からか」

少女「はい……そして」

少女「昨日は、随分と興奮された様子で帰って行かれました」

魔王「興奮?」

少女「……行為の後でしょうから。当然と言えば当然なんですが」

少女「昨日は、なんと言うか……」


537: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/13(土) 11:37:58.11 ID:ttjS92xMP
少女「怒りと、興奮と……」

魔王「……?」

少女「『明日の少年の顔が見物だ』と……笑ってらしたので」

魔王「……」

少女「……」

魔王「どうして、教えてくれる?」

少女「……わかりません。何となく、です」

魔王「そうか……ありがとう」

少女「いいえ……昨日……」

魔王「ん?」

少女「もう、来られないと思っていたと言いましたよね」

魔王「ああ……そういえば言ってたな」

少女「この街に……魔導将軍を恐れ、崇め……讃えない人間は居ません」

少女「だから……」

魔王「そうか……私は、ただの旅人だ。ここの人間ではないからな」

少女「それだけですか?」

魔王「……」

少女「……」


538: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/13(土) 11:43:28.49 ID:ttjS92xMP
魔王「ああ……それだけだ」

少女「そうですか……奥様がご無事である事を祈ります」

魔王「……何か聞いたのか?」

少女「……」

魔王「少女?」

魔王「……否。言いたく無いなら……」

少女「あの方は、酔われるととても……口が良くお滑りになる」

少女「ご自分の正体も。貴方様も本名も……奥様をどうしたいのかも」

魔王「……」

少女「私を、どうしたいのかも。全て……」

魔王「君は……大会が終われば、どうなる?」

少女「初めてを捧げるのでしょう……そうして、いたぶり弄んだ後」

少女「殺してしまわれるおつもりの様ですよ」

魔王「!?」

少女「だから、安心して酒を飲み、そうして零してしまうのでしょう」

魔王「……もう一度、聞こう」

少女「はい」

魔王「君は魔導将軍の正体も、私や、ひ……妻の事も」

魔王「全て知っている上で、私にそれを教えてくれているのか」

少女「……はい」

魔王「何故だ?」


539: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/13(土) 11:50:26.28 ID:ttjS92xMP
少女「先ほど言いました。何となく……です」

魔王「……」

少女「希望の光を見いだすとすれば」

魔王「……?」

少女「今、貴方しか無いのでしょう……魔王様」

魔王「私が……希望の光? ……魔王が、光か」

少女「はい」

魔王「……」

少女「……」



コンコン



少女「では、私はこれで……もう、明日はきっと来られないでしょう」

少女「……もし、次に会う事があれば。本……返します」

魔王「それは別に……構わんぞ。元々お前にあげるつもりで……」

少女「返します。次まで、お借りします。ですから……」

魔王「……」

少女「……」



コンコン



少女「……では」

魔王「約束だ、少女……また、後で」

少女「はい……また後で」カチャ

 婦「失礼……致します」

少女「……手伝いましょうか」

 婦「いえ……一人でやれと……言われましたから」


540: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/13(土) 11:55:51.20 ID:ttjS92xMP
少女「……そうですか」

 婦「……」フラフラ



パタン



魔王「……?」

 婦「お待ち……しておりました……少年様」カチャ

魔王「どうした、顔色が……しかし」

魔王「今日はまた……随分と雰囲気が違う」

 婦「……」

魔王「……何故、そこに黙って立っている?」

魔王(ケーキの盆を持つ手が震えて……否、何故片手で持っているんだ?)

魔王(しかも……真っ黒のドレスに、ベール……顔色が悪く見えるのは)

魔王(影になっている所為か?しかし……あれではまるで喪に服す者の格好だ)

魔王「 婦……?」

 婦「こういうのが、お好みだと……魔導将軍様が、一通り」

 婦「……昨夜、与えて下さいました……」フラ

魔王「危ない……!」タタ……ガシッ

魔王「!?」


541: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/13(土) 12:11:05.07 ID:ttjS92xMP
魔王「お前、腕が……!!」

魔王(左腕が……無い……!?)

 婦「……治癒は、していただいてます……心配は」

 婦「いりません……」

魔王「……ッ とにかく、横になれ」ヒョイ

 婦「きゃ……ッ」

魔王「……傷を見せろ」ドサ……ゴソゴソ

 婦「……ッ」

魔王「あ、すまん……痛むか?」

 婦「……はい。少し」

魔王(確かに、傷口はふさがっているが……ぐちゃぐちゃだ)

魔王(力任せに引きちぎったな)

魔王(顔色が悪いのは痛みと……失血か。傷は治しても)

魔王(……失った血は簡単に戻らない)

 婦「……申し訳、ありません……断る事ができず……」

魔王「魔導将軍か……」

 婦「……いえ。それは……この、服……です」

魔王「ああ……そんな事か。気にする事は無い」

魔王(喪服……本気で姫を殺す気だと……言いたいのか……!!)

 婦「……ふぅ」

魔王「横になっていろ……食欲は?」

 婦「いえ……折角ですが……」

魔王「そうか」

 婦「申し訳ありません……私の、分まで……用意して、くださった、のに」


542: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/13(土) 12:16:24.27 ID:ttjS92xMP
魔王「……気にするな」

魔王(ろくな食事も与えられて居ないのだろう、このままでは……ん?)コロン

魔王(……あ!)

魔王「昨日、あのまま……持ってきたのか」

 婦「何です、それ……綺麗……」

魔王「もう一度傷を見せてくれ……触れるぞ」

 婦「……? は……い、 ……ッ」

魔王「少し、我慢しろ……」パァ……

 婦「ぅ…… ……ん……?」

魔王「痛みは……気分はどうだ?」

 婦「え……嘘みたい……痛くない……」

魔王「ふぅ……そうか……」パリン……ッ

魔王(割れた……使い尽くしたか)

 婦「あ……あの、それは……?」

魔王「ああ……後で説明する。顔色は……余り戻らないな」

魔王「気分が良いのなら、ケーキを食べろ……まあ、余り栄養にはならないが」

魔王「食べないよりマシだろう」


547: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/13(土) 13:17:06.29 ID:ttjS92xMP
 婦「はい……」

魔王「ああ、起きなくて良い……いや、食えんか」

魔王「そこに……もたれておけ。茶と一緒に準備しよう」

 婦「そ、そんな、あの……!」

魔王「構わん……甘えておけ」

 婦「申し訳ありません……」

魔王「……ほら、あーん」

 婦「え……」

魔王「ん?」

 婦「あ、あーん」

魔王「旨いか?」

 婦「はい……美味しい」

魔王「うん。私も頂こう」

 婦「少年様は……治癒魔法が使えるのですか」

魔王「ん?ああ……あれは私の魔法では無いぞ」

 婦「え? ……でも」

魔王「見ただろう?さっきの……あの石」

 婦「はい……薄い、水色の……あ、でも割れて……」

魔王「ああ、使い切ってしまったからな」

 婦「?」


548: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/13(土) 13:33:39.02 ID:ttjS92xMP
魔王「あれは魔石と言ってな。まあ……魔力を結晶化したものだ」

 婦「え……そ、そんな事が……出来る人がいるの……ですか」

魔王「鍛錬次第で誰でもできるぞ?」

 婦「……まさか!」

魔王「本当だ。それに……さっきのあの、治癒の力の魔石はな」

魔王「……劣等種の一人が、作った者だ」

魔王(何か他に言い方無いもんかなぁ……しかし島の者とも今は言えんしな)

 婦「……それは、流石に……嘘、でしょう……?」

魔王「今更お前を騙してどうする……まあ、良い。信じられないのも仕方ない」

魔王「だが……石の姿はお前も見ただろう。そして、お前の痛みを取ったのも事実だ」

 婦「……はい。それは疑ってもおりませんが」

魔王「昨日、言ったであろう……生きている、と」

 婦「はい……詳細は話せない……でしたね」

魔王「ああ。彼らの安全を守ってやらねばならんのでな」

 婦「……ですが、劣等種は……」

魔王「優れた加護が無いと言うだけだろう?」

魔王「そんな者、私にも無い」

 婦「……え!?」

魔王「魔導将軍がどんな説明を管理人にしたのかは知らんが」

魔王「『凄まじい魔力をお持ちの様で』だとか……そんな事しか私は言われていない」


549: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/13(土) 13:38:37.62 ID:ttjS92xMP
 婦「で、でも……!」

魔王「信じられんか?では……見せよう。炎よ!」ボゥ……ジュ!

 婦「腕が……!! や、やめてください……!!」

魔王「な?火傷しただろう?」

 婦「……ど、どうして……!?」

魔王「ん?」

 婦「どうして、そこまでするんです……!?」

魔王「こんな物で信じて貰えるなら易いもんだ」

 婦「……」

魔王「そんな呆れた様な顔をするな……大丈夫だから」

 婦「……」ポロポロ

魔王「な、なんで泣くんだ……悪かったよ。ちゃんと、後で治癒して貰うさ」

 婦「……」ポロポロ

魔王「……困ったな」

 婦「ち……違います」

魔王「ん……何がだ?」

 婦「……ん、ですね?」

魔王「うん?」

 婦「信じて……良いのです、ね?」

魔王「……勿論だ」


550: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/13(土) 13:45:12.25 ID:ttjS92xMP
 婦「……ッ 申し訳ありません。お見苦しい所を、お見せ……しました」ゴシゴシ

魔王「いや……構わん。落ち着いたか?」

 婦「はい……」

魔王「……言いにくいだろうが。昨日の話を聞かせてくれるか」

 婦「大丈夫です……昨日、少年様と入れ替わりに魔導将軍がいらっしゃいました」

魔王「ああ……」

 婦「そして……普段、少年様と何をしているのか、と」

魔王「……」



……

………

…………



 婦「少年様と、ですか……それは」

魔導将軍「何もしていないらしいのは聞いている」

魔導将軍「話すだけで帰るのだろう……何の話をしているのか、と」

魔導将軍「聞いているんだ……話せ」

 婦「お客様の情報を漏らす訳には……きゃっ」バシッ

魔導将軍「私が話せと言っているんだ」グイ

 婦「い、痛い……ッ か、髪を……掴まな……ッ」

魔導将軍「ほう?私に逆らうか?」ブチブチッ

 婦「きゃあああああ!」

魔導将軍「痛いか? ……髪を抜かれた程度で大袈裟だな」

魔導将軍「もっと痛くされたくなければ……」

 婦「りょ……料理の、話とか、です……!」

魔導将軍「料理?」


553: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/13(土) 13:53:32.97 ID:ttjS92xMP
 婦「は、はい……私は、知識が無いので、大半は理解出来ません、が……」

魔導将軍「嘘を吐け!」バシン!バシ

 婦「い、ヤ……ッ ほ、ほんと……です!」

 婦「ふ、フランボワーズが、お好き……だ、とか……」

魔導将軍「……」バシッ

 婦「い、イヤ……あ、ゥ……え……ッ」

魔導将軍「フン……まだ言わんか……言えん程の事か?」

 婦「ほ、ほん……と …うぇ、ええ……ッ 本当、に……!」ゲホゲホッ

魔導将軍「……腰抜けめ。まあ良い」

魔導将軍「女、酒をつげ」

 婦「は、はい……ただ、いま……」

魔導将軍「……」グイッゴクゴク

魔導将軍「おい、女」

 婦「は……い……」

魔導将軍「嘘を吐くと……どうなるか解るだろう?」

 婦「……はい。私、は……嘘など、つきません」

 婦「魔導将軍につく嘘など……ありません」

魔導将軍「そうだな。私に逆らえる者等居ない」

 婦「はい……」

魔導将軍「……あの男は本当にどうしようも無い……阿呆だ」

魔導将軍「腰抜けだ……!女連れで旅行とは……腐った野郎だ!」


554: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/13(土) 14:01:28.41 ID:ttjS92xMP
 婦「……わ、私……私、達は……」

魔導将軍「うん?」

 婦「劣等種です……貴方様、魔導将軍様方に、逆らって……生きて、など」

魔導将軍「そうだな。良いだろう。信じてやる……が」ギュ

 婦「あり……がとうござ……?」

魔導将軍「細い腕だな……こうすると、取れてしまいそうだ……!」グイ……ブチブチ!

 婦「ぎ、い ……ァ、 ……ああああああああああああああああ!!」

 婦「あ、ァアア、あ……! あ……あ ァ アアアア……!」ゴロゴロ……

魔導将軍「フン……ここで生きるのに、腕一本無くても支障はあるまい?」ポイ

魔導将軍「さあ、話せ……少年は何を喋った。お前に何を聞いた」

 婦「イッィ、 あ、あ……ァあ……ッ」

魔導将軍「言えと言ってるんだ!」ガスッ ……グリグリ!

 婦「あ、あ……ッ い、あ、足……ふま、な……ッ」

魔導将軍「言え!」

 婦「……お、美味しい…… ケーキ、の作り方、を……!」

魔導将軍「……本当にそれだけなのか?」

 婦「……う、うそ、等……! あ、ぁ……」

魔導将軍「……本当の愚か者だったか」スタスタ……チリン、チリン



コンコン。カチャ



管理人「魔導将軍様、お呼び…… ……で、しょ、うか……」

魔導将軍「フン、蒼い顔をして……見慣れているだろうに」

管理人「い、いやはや……私は、その……ええ、まあ」

魔導将軍「治癒出来る者を呼べ。今こいつを殺す訳にはいかん」


555: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/13(土) 14:05:59.33 ID:ttjS92xMP
管理人「は、は……直ちに!」

魔導将軍「明日、少年に会わせてやらんとならんからな……それに」

魔導将軍「こうも汚れていては抱く気にもならん……別の部屋を用意しろ」

魔導将軍「酒の追加もだ……少女に持って来させろ」

管理人「は、は……!誰か!手当を!」

魔導将軍「それから、これを」バサッ

管理人「こ、このドレス……は?」

魔導将軍「何、この娘に今日の礼だ……明日、少年にこれを着せて会わせろ」

管理人「か……かしこまりました。すぐにご用意致しますのであちらへ……」



……

………

…………



 婦「……」

魔王「……」

 婦「……私はその後、治癒され……再度、魔導将軍の待つ部屋へ」

 婦「それから……その……強引に、何度も私を……」

魔王「もう良い……すまなかった」

 婦「い、いえ、そんな……!少年様の所為では……!」

魔王「……」

魔王(魔導将軍……あの、男……!)

魔王「…… 婦」

 婦「はい……」


556: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/13(土) 14:14:51.05 ID:ttjS92xMP
魔王「顔を見せてみろ……ああ、酷い痣だな」

 婦「……大丈夫、です。さっきの石のおかげで痛みは……」

魔王「……すまなかった。この通りだ」ペコ

 婦「あ、頭を上げてください!貴方の所為じゃ……!」

魔王「いや……私の所為だ。私が……!」

魔王「……」

魔王「 婦……今は、まだ詳しくは話せない」

 婦「……?」

魔王「だが、勇気を出して……私を信じてくれ」

 婦「少年様」

魔王「ん?」

 婦「先ほど、言いましたよ……信じます」

 婦「彼らが……生きている事も」

 婦「……貴方を。信じます……期待、して良いんですね?」

魔王「勿論だ」

 婦「……はい」

魔王「1度目は」

 婦「?」

魔王「期待しないで待っていると言ったな」

 婦「??」

魔王「昨日は、はっきり待っていると言ってくれた」

 婦「ああ……はい」


557: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/13(土) 14:19:06.39 ID:ttjS92xMP
魔王「明日は……来れん。予選の前日だ」

 婦「……出られるのですね」

魔王「妻が、だがな……」

 婦「……」

魔王「だが、約束する。大会が終われば、お前を……お前達を解放する」

 婦「え……?」

魔王「この腐った制度をぶち壊してやる。劣等種等と、二度と呼ばせはしない」

 婦「で、でも……」

魔王「言うほど簡単で無いのは解っている。すぐには無理だろう」

魔王「だが……二度とこんな目には遭わせない。こんな生活はさせない」

魔王「自分で考え、自分で生きていく様に……辛い、かもしれん」

魔王「自由は、不自由かもしれん……だが」

魔王「不自由が自由だ等と、二度と口にしないで良い様に」

 婦「……」

魔王「約束する。絶対だ……私は裏切らない」

 婦「はい……信じます。期待しています」

 婦「……お待ち、しております」

魔王「うん」

 婦「……少年様」

魔王「ん?」

 婦「……」

魔王「どうした?」

 婦「……いえ」


558: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/13(土) 14:23:07.52 ID:ttjS92xMP
魔王「何だ。ハッキリ言え」

 婦「一つ、お願いがある……の、ですが」

魔王「ああ、言ってみろ」

 婦「今度、で良いです」

魔王「?」

 婦「大会が終わって、ゆっくり、時間がある時に」

魔王「……ああ。解った。約束だ」ニコ

 婦「はい!」ニコ

魔王「……魔導将軍も、もう忙しいだろう。来ないだろうと思うが」

 婦「大丈夫です……来ても、何も言いません」

 婦「腕が無くなろうが、足が無くなろうが……」

 婦「大丈夫です。必ず、もう一度会えると信じています」

 婦「……願えば、叶うんですよね?」

魔王「ああ……必ず。私が叶えてやる」



リン……リリン……



魔王「時間だな……このまま、ここに居ろ」

 婦「で、でも……」

魔王「構わん。管理人の所へは私が行く」スタスタ

 婦「あ、お……お待ちを!」スタ……

魔王「何だ……あ、お前、動くな……と ……っ!」チュ

 婦「……いって、らっしゃいませ」

魔王「……ああ」


559: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/13(土) 14:28:27.47 ID:ttjS92xMP
パタン



魔王(びっくりした……)

魔王(……人と言うのは、強いな)

魔王(裏切る訳にはいかん……管理人は……ああ、居た)スタスタ

魔王「おい」

管理人「は、はい……!?しょ、少年様!?」

管理人「ど……どう、されまし……た……?」

魔王「……あの部屋を貸し切るのに、どれほどの値がかかる」

管理人「は!?」

魔王「あの娘、随分と無茶をされた様だ。大会が終わる迄、あの部屋を使わせるのと」

魔王「娘に充分な食事を与えるのにどれぐらい掛かるんだ」

管理人「は……は、あの……それは、あのえっと……」

管理人「……こ、これぐらい、で」スッ

魔王「……良いだろう。ただし」ジロッ

管理人「ひッ」

魔王「部屋から放り出したり、食事を与えねば……それ相応の事をさせて貰うぞ」

管理人「は、はい、それは……もう……ッ」

魔王「では……ほら」ジャラ

管理人「ひ、ひぃ、ふぅ……み………」

魔王「……」

管理人「す、少し多い、ですが……」

魔王「きちんとすると約束するなら、取っておけ」

管理人「い、良いんですか」

魔王「約束するなら、だ」

管理人「そ、それはもう!い、いやぁ……!少年様は、お優しい事で……!」


560: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/13(土) 14:33:02.52 ID:ttjS92xMP
管理人「ま、魔導将軍様は、その……少々、残虐な趣味をおもちでしてな」

管理人「あの方はあの方で、素晴らしい方なのですが、いや、流石!」

管理人「少年様は、さらに……」

魔王「あの男の話を私にするな!」

管理人「ひッ ……も、申し訳ありません!」ビクッ

魔王「……くれぐれも、頼んだぞ」

管理人「は、はい!これからも、どうぞ、ごひいきに……!!」

魔王「……」スタスタ

魔王(……乗ってやろう、魔導将軍。お前の策に)

魔王(決勝まで……姫を進ませてやる。そして……)

魔王(決戦の舞台で、思う存分……八つ裂きに……してみるが良い!)

魔王(……出来るものならば、な)



……

………

…………



シュゥン……スタ……



姫「おかえりなさい、少年」

盗賊「うあああああああああ!」

姫「……そろそろ慣れなさいよ。うるさいわね」

魔王「行くぞ」

姫「え……もう?」

魔王「あの墓へ寄っていく」

盗賊「……どうしたのさ、少年……随分……怖い顔して」


561: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/13(土) 14:37:42.11 ID:ttjS92xMP
魔王「……すまん」

姫「何か……あったの?」

魔王「いや……大丈夫だ。すまん落ち着いたら……話す」

魔王「とにかく、準備をしよう」

盗賊「な、なあ……やっぱ、俺は留守番なのか?」

魔王「……ここに残すか、船に残すか……と思っていたが」

盗賊「……だ、よな」

魔王「魔導将軍が死ぬところを見たいのか」

盗賊「……ッ」ビクッ

盗賊(少年……なんか、今日本当に……怖い)

姫「……少年、話したくないなら聞かないけど」

姫「盗賊を怖がらせないで。女の子なのよ?」

魔王「……すま……ん?女の子?」

盗賊「……そうだよ」

魔王「……まじで?」

盗賊「わ、悪かったな!まじだよ!こんなんでもな!」

魔王「そ、そうか……い、いや。すまん。男だからと……怖がらせて良い訳でも」

魔王「無いんだが……そ、そうか……」

姫「気付いて無かったの?」

魔王「え……あ、ああ……」

盗賊「……それでよく、自分の奥さんと二人っきりにしといたな」

姫「……振り、だから」

魔王「……すまなかった」


562: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/13(土) 14:46:06.24 ID:ttjS92xMP
魔王「しかし……そんなに行きたいのか?」

盗賊「そ……りゃあ」

姫「別に、良いじゃないの。連れて行ってやれば」

魔王「ふむ……しかし、その姿は見られているだろう?」

姫「ふふ……ちょっと、耳貸して、少年」ゴニョゴニョ

魔王「……姫、随分楽しそうだな」

姫「でも良い考えでしょ?」

盗賊「お、おい……なんだよ!」

魔王「行きたいんだろう?」

盗賊「……そうだって言ってんだろ」

盗賊「あいつは……知人の敵だ!俺が……敵わないなら、せめて」

盗賊「死に様……見てやる……!」

魔王「良いだろう……だが、大人しくしていろよ?」

盗賊「も、勿論だ!」

姫「うふふ……決まりね」

盗賊「……?」

魔王「石の方はどうなった?」

姫「出来る人が増えてきたわ……やっぱり、飲み込みが早い」

姫「それに……盗賊に付き合って貰って鍛錬もしたし」

盗賊「姉ちゃん、すげぇよ。戦闘慣れなんてしてないはずなのに」

盗賊「俺のスピードに劣らないどころか……俺も追いつけねぇんだぜ」

魔王「エルフは身が軽いと言うからな」


563: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/13(土) 14:52:46.28 ID:ttjS92xMP
魔王「問題は……実戦だと言う事と、スタミナか」

姫「これ……ちょっと貰ってきたの」コロン

魔王「ん?魔石か?」

姫「治癒魔法のね……こっそり持っとこうかと」

魔王「成る程な」

盗賊「作戦は先手必勝!素早さ行かして先制攻撃狙えば……行けるだろう」

魔王「ふむ……まあ、実際それしかないな。長引けば振りだ」

魔王「それに……多分、予選ではそれほど強い奴とはあたらんだろう」

盗賊「え……そりゃわかんねぇだろ?」

魔王「魔導将軍の望みは?」

姫「……決勝の舞台で、私を八つ裂きにする事」

魔王「そうだ……進ませるだろうさ、なんとしても決勝まで」

盗賊「……自分の欲望の為に、か」

魔王「ああ……喜んでその策に乗ってやろう」ニィ

姫「……魔王らしく見えるわね、そんな顔してると」

盗賊「確かに」

魔王「……私は確かに魔王なんだが?」

盗賊「良し、じゃあ……行くぞ!」

魔王「無視か!」

姫「ええ……少年、良い?」

魔王「ああ、掴まれ」

盗賊「え……あ、そうか、転移魔法」

魔王「しっかり掴まっておけよ」シュゥウン



……

………

…………



シュゥン……スタ

姫「……あら?」

盗賊「うわあああああああああああああッ」 ドタッ

魔王「寄ると行っただろう」


564: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/13(土) 15:03:31.80 ID:ttjS92xMP
盗賊「……知人の墓か……うあッ」ドタッ

姫「ちょっと、何やってるのよ……大丈夫?」

盗賊「あ、足が震えて立てねぇ……」

姫「情けないわね……」

魔王「やはり……息苦しいな」

姫「こんなに心地良いのにね」

魔王「……仕方ない」

盗賊「……知人、待ってろよ。絶対……敵、取るからな……!」

魔王「姫、エルフは……光の加護を受ける者がいるのか?」

姫「え……?いいえ。光の加護なんて聞いた事無いわ」

魔王「そうなのか?」

姫「そうよ……闇の加護を持つ者だって居ないのと同じ」

盗賊「……少年は、違うのか?」

姫「え?」

魔王「……どうだかな。魔王だから闇の加護とは安直な気もするが」

姫「可能性は無くはないわね……規格外だし」

魔王「……紫、闇の色の瞳、か……成る程」

姫「そんな他人事みたいに……」

魔王「まあ、良い……忘れてくれ」

魔王(光の加護は存在しない……?では……)

魔王(この土の下に眠る者は……光の加護を受けている訳では無いのか)

魔王(……では、何故……まあ、良い)

魔王(今は……やることがある)

盗賊「サンキュ……連れてきてくれて」


565: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/13(土) 15:07:59.58 ID:ttjS92xMP
魔王「いや……私も確かめたい事があったんだ」

姫「ここから廃港が見える……船、いるわね」

魔王「ああ……行こう」

盗賊「……もう一回、か……酔いそう」

魔王「掴まったな? ……行くぞ」シュゥン



……

………

…………



シュウン…スタ

スタ……ドタ!



姫「船長、久しぶり」

盗賊「いたた……ッ」

魔王「待たせたな」

船長「おう……準備は整ったか?」

魔王「ああ……盗賊も連れて行く」

船長「こいつも?」

盗賊「……見てやる。しっかり、この目で……あいつの最期……ッ」

魔王「だ、そうだ」

船長「ふむ……」

姫「取りあえず、予選の間は船に居て頂戴よ?」

盗賊「解ってるよ」

魔王「では、私と姫は行く……」

船長「ああ……気をつけろよ?」

姫「大丈夫よ」


577: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/14(日) 07:31:29.29 ID:siYl2q+VP
姫「少年が……魔王が味方よ。安心して」

盗賊「言葉だけ聞くと色々おかしいよな……いってらっしゃい」



シュゥン……



船長「……ん、お前何持ってんだ?」

盗賊「ああ、これ?少年がどっかから持ってきたんだ」

船長「本? ……うわ、こりゃ……随分と古いな……っぷ、かび臭ぇ!」げほ

船長「しかし……ぼろぼろだが随分良い装飾だな……」ペラペラ

盗賊「これは神話だって言ってたな。後は童話に……魔導書」

船長「魔導書……は、パス。俺にはさっぱりだ……ほれ」

盗賊「ちょ、投げんなよ……でもさ、これ」

船長「ん?」

盗賊「俺らが読んでたのと全く違う内容だったんだぜ」

船長「お前も読んだのか?」

盗賊「姉ちゃんが読んでる間暇だったからな」

船長「ほう……で、違うってのはどういう事だ?」

盗賊「俺も詳しくはわかんねぇけど、人を魔に変えるとかさ」

船長「はぁ?んな事出来るのか?」

盗賊「さぁね……少年ならできんじゃねーの?なんせ魔王だし」

船長「ふぅん……」ペラ

船長「光と、闇……ねぇ」ペラ

船長「……」

盗賊「……」

盗賊(読書姿がすっげぇ似合わねぇ……)


578: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/14(日) 08:03:58.05 ID:siYl2q+VP
……

………

…………



シュゥン……



姫「……ここは?」

魔王「最初、この街に来る前に飛んできた辺りだな」

姫「喧噪が……聞こえる」

魔王「夜が明ければ予選が始まるからな」

姫「一度宿に戻らないとね」

魔王「ああ……手配が済めば」

姫「……お腹すいた」

魔王「……手配が済んで、食事が済めば……ショッピング、だな」

姫「そうね……あの店に行くの?」

魔王「否……違う所に行こう」

姫「? ……あそこ、美味しかったのに」

魔王「情報収集も兼ねて……な。ここからは歩くぞ。ほら、掴まれ」

姫「大丈夫よ?」

魔王「私達は夫婦なのだろう?」

姫「……何か企んでるわね?」

魔王「そんな事は無い」ニッ

姫「嘘ばっかり……ま、良いわ。行きましょう」


579: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/14(日) 08:24:27.17 ID:siYl2q+VP
……

………

…………



カラン、コロン



イラッシャイマセ……



魔王「二人だ」

マスター「……どうぞ、こちらへ」

姫「……あ!」

魔導将軍「……これは、これは」

魔王「ああ……」

姫「……」チラ。ギュ

魔王「食事か」ギュウ

魔導将軍「ええ。ここは酒だけで無く飯も旨いのですよ」

魔導将軍「初めまして……細君、でよろしいのですかな」

姫「……」

魔王「ああ。私の妻だ」

魔導将軍「……明日の予選に、出られるとか?」

姫「……ええ、そうよ」

魔王「私達も食事にしよう、姫……好きな物を頼みなさい」スタスタ。ストン

姫「……」タタ、ストン

姫「ちょっと、少年!」コソコソ

魔王「しッ……普通にしていろ。大丈夫だ」コソコソ

姫「……解ってて連れてきたわね」コソ

魔王「何のことだか……私はワインを。彼女には……」

姫「木の実のジュース。それから……牛肉のワイン煮、ほうれん草とベーコンのキッシュ」

姫「シーザーサラダと、キノコのクリームパスタ、後……」

魔王「……取りあえずそれぐらいで」

姫「えぇ……」

魔王「足りなければ後で!」


581: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/14(日) 08:28:25.87 ID:siYl2q+VP
魔導将軍「はっはっは!随分と食欲旺盛であられるな。その細身の何処へ入るやら」

姫「食べても太らない体質なのよ」

魔王(……ふむ。気配を手繰って来たは良いが)

魔王(さて……流石にぼろはださんだろうが……私は、情報集めておくか)



『あいつ、この間の……』

『紫の瞳の魔法剣士か……随分と美しい娘だ』

『妻だとか言ってたな……あの娘が大会に?』

『いくら治癒されると言っても……あの娘の叫びが聞けると思うと』

『ふふ……見物だな。だが……あれでは』

『予選は勝ち残れまい』



魔王(趣味の悪い奴ばかりだな……)

姫「少年?」

魔王「ああ、すまん。どうした?」

姫「乾杯しましょ……『私達』の勝利を願って!」

魔王「ああ、乾杯!」


582: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/14(日) 08:59:28.12 ID:siYl2q+VP
魔導将軍「……随分な自信ですな。まあ、そうで無くては大会を開いた意味も無い」

魔王「皆、我こそはと集うのだろう……何、私達も」

魔王「……旅の途中の暇つぶしだ」

魔導将軍「暇つぶし……だと?」

魔王「ああ。長い当ての無い旅だからな……偶には刺激も必要だ、なぁ?」

姫「このお肉美味しい!上品な味ね……スープも欲しいわ……すみませーん!」

魔王「……」

魔導将軍「フン……成る程な。これだけ暢気な夫婦では……ははッ!」

魔王「食欲があるのは良いことだろう……今は外で食すしか無いが」

魔王「何れ戻った時には、腕の振るい甲斐があると言うものだ」

魔導将軍「……連れ戻るつもりなのか」

魔王「妻を置いて何処へ行く夫も居るまい?」

魔導将軍「……」

魔王「……」ニコ

姫「暖まる……少年、美味しいわよ、このミネストローネ」

魔導将軍「……世継ぎを設ける気か?」

魔王「我が家は世襲制な物でな。男子では無くとも構わんが」

魔王「妻に似た娘ならば、さぞや可愛いだろう」

魔導将軍「こんな状況におかれ、暢気な事よ!だから貴様は……!!」



『先ほどから……何の話をしているんだ、魔導将軍は……』

『旧知の仲なのか?あの二人……しかし、以前は……』

『どうやら、使い古した玩具がお気に入りだと聞いたがな』


583: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/14(日) 09:12:54.92 ID:siYl2q+VP
魔王「何かな?」

魔導将軍「……」



『使い古し……ふふ、妻が若くつまらんのか』

『確かに美しい娘だが……まあ、男にはそういうときもある』

『ははは……ッ優れた加護を持とうが否、そこは関係無いさ……』



ははは……ッ



姫「ねえ、少年。デザート食べて良い?」

魔王「どうぞ? ……今度、時間がある時に私が作ってやろう」

姫「本当?約束よ?」

魔王「ああ」

魔導将軍「……私はそろそろ失礼する!」ガタン

姫「頑張って決勝まで行きたいわ……そうなれば宜しくね、魔導将軍」

魔導将軍「……期待していますぞ」スタスタ

魔王「……解ってやってるな」

姫「人の事言えるの貴方」

魔王「奴は激昂しやすい……これで、意地でも決勝で」

姫「そうね……私と、当たる様にするでしょうね。でも」

姫「……必要無かったんじゃ無いの?こんなの」


584: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/14(日) 09:17:39.65 ID:siYl2q+VP
魔王「ん?」

姫「こんな事しなくても……」

魔王「まあ、な。だが……ここの飯が旨そうだったからな」

魔王「姫にも食わしてやりたかったんだ」

姫「そう……ありがとう」

魔王(一人で来たと後でばれたら怨まれそうだしな)

姫「じゃあ……次はショッピングね」

魔王「ああ……では行こうか」



『食事にショッピング……まあ、暢気な事で』

『仕方あるまい……明日になって蒼い顔をしているのも見物だ』

『違い無い……はは!』

『しかし……もしかしたら相当強いのかもしれんぞ?』

『あの娘がか?』

『魔導将軍にあれほどの口をきけるのだ……相当の阿呆か、大物か』

『良し!前者に賭けるぞ』

『あ、ズルイな……俺も前者だ……』



魔王(……本当に腐ってるなぁ。まあ、良い。それも……もう少しだ)



アリガトウゴザイマシタ……



姫「まずは……服、ね」


590: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/14(日) 13:19:53.17 ID:siYl2q+VP
魔王「楽しそうだな、姫」スタスタ

姫「そうね……あ、あのドレス可愛い!」タタタッ

魔王「どれ……あの、ふりふりした奴か」

姫「似合いそうじゃない?」

魔王「……否定はしないが」

姫「何よ」

魔王「こんなもん着れるかー!ってキレてるあいつの顔が容易に想像出来る」

姫「可愛いのに……」

魔王「着飾りたい気持ちは分からんでもないがな」

魔王「もう少し、こう……難易度の低いのをだな」

姫「んん……じゃあ、あれは?」

魔王「外から見ても仕方ないだろう。店内に入れば良い」



イラッシャイマセー



姫「一杯あるわね……迷っちゃう」

魔王「欲しければ自分のも買うと良い」

姫「……聞こうと思って忘れてたんだけど」

魔王「ん?」

姫「貴方……お金は大丈夫なの?」


591: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/14(日) 13:27:50.97 ID:siYl2q+VP
魔王「まあ……結構持ち出してきたからな」

魔王(側近はまた胃を痛めてるかもしれんが)

姫「そう……あれだけ食べておいてなんだけど」

魔王「全く今更だな」

姫「……ごめんなさい」

魔王「良いさ。無くなれば稼げば良い」

姫「……あ、このローブ綺麗……!」

魔王(聞いてるのか否か、気にしてるのか否か)フフ

魔王(こうしていると、何処にでも居る娘にしか見えんな……可愛いモンだ)

魔王(……可愛い、か)

姫「ねえ、少年!」

魔王「ん」

姫「これどう? ……彼女に」

魔王「ほう……良いんじゃないか?シンプルだし」

姫「でも黒って言うのもね……」

魔王「紅い髪に紅い瞳をしているんだ。別に良いだろう」

姫「うーん、もうちょっと可愛い方が……あ、同じ形のピンクがあるわ!」

魔王(盗賊……ご愁傷様)

姫「これにしましょう、少年!あと、靴と……リボンも居るわね」

魔王(姫だったら文句も言うまい……)

姫「ん。これで良いわ」

魔王(まあ、満足そうだから良いか)

魔王「……あのローブはいらんのか?」

姫「……ええ」

魔王「欲しければ……」

姫「いえ、良いの。全部終わってからにする」

魔王「……そうか」


592: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/14(日) 13:34:19.52 ID:siYl2q+VP
アリガトウゴザイマシター



姫「……服って高いのね」

魔王「そうか。こんな風に買い物したりするのは……」

姫「ええ、初めてよ……びっくりした」

魔王「この店……否、街は特別だろう」

魔王「これで成り立つと言うのも大した物だが」

姫「でも……手触りは良かったわね」

魔王「そうだな。まあ……確かに良い物だ」

姫「さて……どうしましょうか」

魔王「宿の手配も済ましてあるし、もう戻って眠ろう」

魔王「……気付いているだろう?」コソ

姫「ええ……見張られてる」コソ

魔王「予選が済むまで大人しくしているに限る」

姫「そうね……確か、二日休みがあるんだったかしら」

魔王「ああ。その間に迎えに行くか……船には離れておいて貰わないとな」

姫「……私、大丈夫かしら」

魔王「不安になってきたか?」

姫「少し……だけ」

魔王「大丈夫だ……信じろ」

姫「ん……」


593: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/14(日) 13:41:46.12 ID:siYl2q+VP
魔王「部屋へ戻って……休もう。明日は本当に早い」

姫「ええ……そうね。行きましょ」スタスタ……パタン



オカエリナサイマセー



『……真っ直ぐ宿に向かったな』

『しかし……魔導将軍もあの二人を見張れとは……どういうことだ?』

『詮索は身を滅ぼすぞ……充分すぎる大金、貰ってんだ』

『そうだな……後で一杯やろうぜ』

『おう……一時間ほど、見て……出てこなければ……』



魔王(……ご苦労な事で)

魔王「姫、明日は……おや」

姫「……」スゥスゥ

魔王「食って、騒いで寝て……子供みたいだな」クス

魔王(おやすみ、姫……さて)

魔王(私も……休む、かな。小細工は不要だろうが……)

魔王(力を温存して置くに越したことは無い。いよいよ……だ)



……

………

…………



翌日・予選会場



姫「……凄い人」

魔王「選手と関係者だけだと聞いていたがな」

姫「50人……ですっけ?」

魔王「どういうルールでやるんだかな」


594: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/14(日) 13:53:00.45 ID:siYl2q+VP
姫「一対一では……時間が掛かりすぎるわ」



『それでは、予選を開始したいと思います!』

『選手番号、1~25の方は会場の方へ!』



魔王「姫は?」

姫「……49」

魔王「うん?……結構早く受け付けたろうに」

姫「……そうよね……あ!少年……!」

魔王「……魔導将軍か」



『では、これより予選を開始します……!』

『ルールは簡単!終了時間まで会場内に残っていた方が予選通過です!』



魔王「ほう……」

姫「え?どういうこと?」



『なお、場外へ出された場合、棄権された場合は失格となります!』



魔王「簡単だ。その場に立ち続け、向かってくる奴は吹っ飛ばせば良い」

姫「どこが簡単よ!」


595: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/14(日) 14:02:18.72 ID:siYl2q+VP
魔王「……サポートはする」

姫「ど……どうやって、よ」

魔王「お前は普通に戦っていれば良い……ほら、始まるぞ」

魔王(随分強そうな奴が揃っている……が)

魔王(魔導将軍……どう出る?)



『揃いましたね……では、始めます!』



ワアアアアアアッ



魔導将軍「……氷よ」

バキィィィンッ



姫「! ……そんな、一瞬で氷った!?」

魔王「……」

魔王(同じ加護の者が居たとして……さて)

魔王(どれほど残るかな)



炎使い「く……ッ いきなり、とはね……ッ」ホノオヨ!

風使い「切り裂け……ッ風よ!」

水使い「ゆるりと溶かせ……我が、水よ!」

氷使い「効かないわよ!」パリンッ



魔王(1.2.3……4人、か)

姫「嘘……四人がかりなのに……魔導将軍に効いてないじゃない……ッ」

魔王「そりゃそうだろう……随分、力は押さえている様だが」

魔王(さて……後半戦は何人残るかな)


596: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/14(日) 14:09:57.75 ID:siYl2q+VP
『そこまで! ……救護班急いでください!』

『予選通過者は……』

『魔導将軍!風使い!氷使い!炎使い!水使い!』

『15分後、後半戦を行います!』



姫「む……無理、よ……!」

魔王「落ち着け、姫……魔導将軍はもう出てこない」

姫「でも……!」

魔王「……多分、真っ先にお前が狙われるだろう」

姫「……」

魔王「始まればすぐに、全力で水の壁を築け」

姫「……解った」

魔王「後は……まあ、任せておけ」



『出場者、26~52迄の方は会場の方へ!』



魔王「……良し。大丈夫だ、信じろ」

姫「いって……きます」スタスタ

魔王(さて……ん?)

魔導将軍「如何でしたかな」

魔王「……流石、と言う他無いが」

魔導将軍「姫には勝ち残って貰わねば困る」

魔王「お前の欲望の為にか」


597: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/14(日) 14:16:11.69 ID:siYl2q+VP
魔導将軍「……どうせ、力添えする気だろう」

魔王「お前が咎めるか」

魔導将軍「否?いくら……腰抜け腑抜けの貴様だとて」

魔導将軍「それを貴様の仕業と見抜ける者は居まい……私以外にはな」

魔王「見逃すと?」

魔導将軍「言っただろう……勝ち残って貰わねば困る、と」

魔導将軍「……どうせ、何の細工もして無いとは思っていまい?」

魔王「さてな」

魔導将軍「昨夜の挑発に態々乗ってやったんだ。感謝して貰いたい」

魔王「何のことやら」

魔導将軍「何十倍……否、何百倍の後悔で己の愚かさを嘆くが良い」

魔王「そっくり返してやるよ」

魔導将軍「……ッ 言わせておけば……ッ」

魔王「私を誰だと思っている……阿呆め」

魔導将軍「世襲制で王の座に納まっただけの貴様に、何が出来る!」

魔王「声を荒げるなよ……目立つぞ」

魔導将軍「……!」

魔王「……随分少ないな」

魔導将軍「当然だろう。私の力に臆さぬ者等、余程の阿呆だけだ」

魔導将軍「……お前達の様にな」


598: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/14(日) 14:25:53.28 ID:siYl2q+VP
魔王「……蒼い瞳の者が多いな」

魔導将軍「偶然だ」

魔王(姫と同じ加護の者を集めたな……姫にダメージが行かない様に、か)

魔王(後はスタミナ勝負……だが)

魔王(優れた加護を持たねば、同じ加護同士 ……姫の敵じゃ無い)

魔導将軍「約半分……か。まあまあだな」

魔王「本戦に進むのは8人だろう?」

魔導将軍「大凡な……以下であれば問題無い」

魔王「……随分と大雑把な事で。 ……で、お前何時までここにいるつもりだ」

魔導将軍「お前が逃げださんならば必要無いがな……折角だ」

魔導将軍「出来レースに似たものとは言え、あの娘の肌に傷が付くのを」

魔導将軍「見ていくのも良いだろう」

魔王「……悪趣味な奴め」

魔導将軍「お前の力が及ばぬならば……私が変わりになってやらねばな?」

魔王(どうあっても姫を勝たす気……か)

魔王「お気遣いどうも……始まるな」



『では……開始!』



姫「……ええと、水の壁……!」

姫(手が……足が……震えて……!)

雷使い「お嬢ちゃん、あんよが震えてるわよ?」

雷使い「大人しく……!」

姫「……水よ、土よりも硬く壁となりて、守れ!」



ゴオオオオオォ!



雷使い「きゃ、あ………ッ」

水魔導師「うあ……ッ 押される……!?」

姫「行け……ッ 粛々と押し流せ!」



ザアアアアアアアアアアアアアア!


599: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/14(日) 14:31:39.68 ID:siYl2q+VP
魔王(ほーぉ……大した物だ)

魔王(これは……私は必要なさそう、だが)

魔王(……ま、ちょっと後押ししとくか。魔導将軍の目もあるし)

魔導将軍「……腐っても魔族か」

魔王「そりゃどうも」



雷使い「く……雷よ!勢いを……削げ……ッ」

水魔導師「ま、守れ……水よ、同族よ……飲み込め!」



『そ……そこまで!救護班、場外の選手の救出を……!』



魔導将軍「終わったな……まあ、本命が残ったか」

魔王「……予想通りか?」

魔導将軍「さあな……では、失礼する」

魔導将軍「……決勝で会おう、と伝えておいてくれ」

魔王「忘れなければな」

魔王(今のところ……一番厄介なのは、水魔導師……あいつか)

姫「少年!」タタタ

魔王「ああ、お疲れ……予選突破おめでとう」


600: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/14(日) 14:36:40.33 ID:siYl2q+VP
姫「ありがとう……ねえ?」

魔王「ん?」

姫「予選……二日に分けてやるって言ってなかった?」

魔王「……そういえば」



『えー、ここでルールの変更をお伝え致します!』

『決勝進出者8名が出揃いましたので、明日からトーナメント戦を行います!』

『対戦順は追ってお知らせしますので、出場者の方はその侭お待ちください!』



姫「えぇ……!?」



『回復が必要な方は救護ブースまでお越し下さい!』



魔王「……逃がさないと言いたいのか」

姫「逃げ出したりしないわよ」

魔王「まあ、良い……発表されれば、宿へ戻ろう」

姫「え……彼女、どうするの?」

魔王「どうにだってなるさ……要は逃げなければ良いだけの話だろう」

姫「ええ……そうだけど」



『それではただいまより、発表致します!』


601: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/14(日) 14:39:28.30 ID:siYl2q+VP
第1試合



水魔導師 - 魔導将軍



第2試合



雷使い - 炎使い



第3試合



水使い - 姫



第4試合



氷使い - 風使い



姫「……これも、仕組んだのかしらね」

魔王「さてな……」



『明日、午前午後に別れ、2試合行います!』

『以後の予定は都度……』



魔王「では、戻ろうか、姫」

姫「え、ええ……だけど……」

魔王「大丈夫だ」


602: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/14(日) 14:46:21.65 ID:siYl2q+VP
……

………

…………



宿屋



姫「どうするのよ。相変わらず、見張り居たわよ?」

魔王「ここから転移して、また戻ってくれば良い」

姫「……あ、そうか。でも……部屋を覗かれたら?」

魔王「心配性だな……では、そこに枕を二つ並べてくれ」

姫「……こう?」

魔王「ああ……良し」パァ……ッ

姫「あ……わ、私と、少年……!?」

魔王「動かんがな」

姫「……寝てる様には見えるわね」

魔王「これで良いだろう……私達は、疲れてぐっすり、だ」

姫「……本当に何でも出来るのね」

魔王「願えば叶うのだろう?」

姫「だからって……程があるわよ」

魔王「ふむ……そうかな。姫、ドレスは持ったか?」

姫「あ、いけない……! うん……良いわよ」

魔王「では、行こうか」シュゥウン


603: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/14(日) 14:53:45.56 ID:siYl2q+VP
……

………

…………



シュゥン……スタ!



盗賊「おう……あれ、早くねぇか?」

船長「おわ!」

姫「流石に慣れたのね」

魔王「予選は無事に終わったぞ」

盗賊「え……もう?」

船長「いきなり魔導将軍と一騎打ち……じゃネェだろうな」

魔王「まだだ……明日から本戦開始だそうだ」

盗賊「……早まったのか?予定」

姫「どうあっても私を……私達を逃がさないつもりの様よ?」

魔王「ご丁寧に見張りまでつけてな」

盗賊「で、迎えに来てくれたのか……て」

盗賊「……何でそんなニヤニヤしてんだよ、姉ちゃん」

姫「ニコニコって言ってよ」

魔王「……私を責めるなよ」

盗賊「え?」


604: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/14(日) 14:57:01.97 ID:siYl2q+VP
姫「大人しくしてるって、約束したわよね?」

盗賊「え、え?」

姫「きっと貴方に似合うわよ!ちゃんと私が選んだんだから!」

盗賊「な、何の話だよ……」

姫「さ、こっち……船長、部屋借りるわよ?」ガシ

船長「お、おう……何が始まるんだ?」

盗賊「え、ちょ、姉ちゃん!? ちょ、離して……!!」ズルズル……

魔王「……見てれば解る」ハァ

魔王(姫……完全に楽しんでいるな)



パタン



船長「お嬢ちゃん、やけに楽しそうだったな」

魔王「買い物は楽しかったんだそうだ」

船長「……ああ、そういう事な」

魔王「良い玩具だな……あれでは」

船長「まあ良いじゃネェか。盗賊だって女なんだし、嫌々言ってても内心は……」



コンナフクキレルカー!

カワイイジャナイノ、ヨクニアッテルワヨ!

ショウネンー!ナンデトメナカッタンダヨー!



船長「……心底嫌がってるか」

魔王「やっぱり黒にしてれば良かったか」

船長「何選んだんだ……?」

魔王「……ピンクのドレス」

船長「……」ハァ


628: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/15(月) 09:49:03.12 ID:/4uiwsxlP
カチャ



姫「少年、見てよ! ……可愛いでしょ? ……と、ちょっと!」グイ

姫「盗賊!」グイグイ

盗賊「痛い痛い、引っ張るなって……! …わッ」タタ

魔王「ほーぉ……可愛いじゃ無いか」

船長「……馬子にも衣装」

盗賊「う、ううううう、うるせぇ!」

姫「褒めてるんじゃないの……良く似合ってるって」

姫「ね?少年」

魔王「うん。可愛いな」

盗賊「なッ あ、べ、別に、俺は……!」カァ

姫「わ・た・し!」

盗賊「へ?」

姫「俺、じゃないでしょ? ……大人しくしてるって約束。忘れた?」

盗賊「……絶対喋らねぇ」

船長「そっちの特訓もした方が良いんじゃねぇのか」クック

盗賊「うるせ……ッ」

姫「……」ジロ

盗賊「う……うるさ、い……わ、ね……ッ」

魔王(わお、真っ赤)

盗賊「ああああああああああああ、もおッ」ダダダダ

姫「あ、ちょっと、何処行くのよ!」タタタ

船長「あっはっはっは!一丁前に照れてやがる!」

魔王「……ちょっと可哀想な気がしなくもないが」


629: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/15(月) 09:57:58.07 ID:/4uiwsxlP
船長「良いんだよ、連れて行くのに約束したんだろ?」

魔王「まあ、大人しくしてろよ、とはな」

船長「はぁ、腹が痛ェ……ああ、そうだ少年」

魔王「何だ?」

船長「この本なんだが」トントン

魔王「ん?ああ……盗賊が持ってきたんだな」

船長「随分年代物だな……どうしたんだ?」

魔王「城から持ってきた……私も読もうと思ってたんだがな」

船長「ほう……中々興味深いぞ、これ」

魔王「読んだのか?」

船長「ぱらぱらとだけだがな……まあ、お前達を待っている間」

船長「良い暇つぶしになるさ」

魔王「……しかし似合わんな」

船長「俺が本を読んでるのがか? ……ほっとけ」

魔王「光と闇の神話……か」ペラ

船長「神話と言うより、詩かね」

魔王「詩?」

船長「ああ……『始まりは終わりだった。古の神との忘れられた契約』」ペラ

魔王「『限りなく遠く、果てしなく近い最果ての地』……最果ての、地?」ペラ

船長「……な?面白いだろう」

魔王「……『神は光と闇を生み出し、大地を作り水を育み炎を抱き過ごした』」

魔王「ふむ……」


630: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/15(月) 10:11:35.97 ID:/4uiwsxlP
船長「まだ読んでないんだろう……終われば、読んでみれば良い」

魔王「そうだな……確かに、興味深い」



バタバタバタ



盗賊「ハァ、ハァ……」

魔王「……何やってるんだ」

姫「な、なんで逃げるのよ……」

盗賊「何で追っかけてくるんだよ!」

船長「……あんまり暴れ回るなよ、お前ら」

魔王「姫、この本……読んだか?」

姫「え……?ああ、それ……うん。読んだわよ」

魔王「どうだった?」

姫「どう、って……面白かったけど……そうね、えっと……」

姫「『途切れる事無く回り続ける、表裏一体の運命の輪』だったかしら」

魔王「表裏一体の運命の輪……」

姫「説明しがたいわね……読んでみるのが一番だと思うけど」

魔王「ふむ」

姫「前に言った……でしょう?」

姫「光と闇は、表裏一体……そんな感じの事が書いてあったわ」

船長「ストップ、そこまでだ……俺もまだ読んでないからな」

盗賊「……面白いのか、それ」


631: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/15(月) 10:27:03.82 ID:/4uiwsxlP
姫「神様が人と魔を作った、って言うお話、ね」

船長「言うなって言ってんだろうが……」

姫「あ……ご、ごめんなさい」

盗賊「どうせ俺には……私には理解できね……ないわよ」

魔王「頑張ってるじゃないか」ニヤニヤ

盗賊「……こんな格好に迄されて、置いてかれたらたまらないよ」

魔王「では行くか……」

盗賊「明日の朝じゃ無いのか?」

魔王「試合は昼からだがな……夜の内に移動しておいた方が良いだろう」

盗賊「……怪しまれない?」

魔王「まあ、部屋に戻れば解る……逃げなければ良いのさ」

姫「魔導将軍の心配はそこだけね」

魔王「そういう事」

盗賊「……とうとう、か」

船長「ああ……俺も、色々準備をしておこうかね」ニヤ

魔王「……船長が?」

船長「おう……まあ、お前さん達が旨くやってくれるのが大前提だがな」

魔王「心配するな。大丈夫だ……約束もしたしな」

姫「約束?」

魔王「姫は明日、勝つ事だけを考えていれば良い」

盗賊「……頼むぜ、姉ちゃん、少年」


632: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/15(月) 10:33:41.61 ID:/4uiwsxlP
……

………

…………



翌日



ザワザワ……



盗賊「すげぇ人……」

姫「見物人がこんなに……ちょっと緊張するわ」

魔王「午前中の2試合の結果はどうだったんだろうな」

盗賊「あっちに張り出されてるぞ」スタスタ

姫「……私はそろそろ行かないとね」

魔王「ああ……気をつけて行ってこい」

姫「……ええ」

魔王(水使い、だったか……まあ、姫が有利に違い無いだろうが)

盗賊「少年、これ……」

魔王「魔導将軍と、雷使いが残ったか……まあ、予想通りだな」

盗賊「そうなのか?」

魔王「予選を見た限り……はな」

魔導将軍「逃げずに来たか」

盗賊「あ……ッ!」ギュ

魔王「……」ギュ

魔導将軍「何時ぞやの猿か……フン。旨く化けたものだ」

盗賊「誰が猿だ……!」

魔王「気にするな……逃がすつもりもなかろうに良く言うな」


633: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/15(月) 10:40:14.35 ID:/4uiwsxlP
魔導将軍「怖じ気づいて逃亡されると私の楽しみが奪われるのでな」

魔王「で……お前も見ていくのか?」

魔導将軍「否?流石に忙しくてね……相手がアレでは、心配のしようも無いしな」

魔王「……やはり細工したな」

魔導将軍「何のことだか……では失礼。姫の勝利を祈っているよ。心から……な」

魔王「姫は必ず勝つさ……決勝の舞台に立つ為にな」

魔導将軍「……フン。その強がり、何時まで持つやら……!」スタスタ

盗賊「……」カタカタ

魔王「恐れずとも良い」

盗賊「こ、怖がってなんか……!」

魔王「震えてるぞ……」

盗賊「……ッ」ギュ

魔王「はいはい……ほら、適当な場所に座るぞ……始まる」



『それではこれより、第3試合!水使いvs姫の試合を開始します!』

『時間内に場外へ出た場合、魔法以外の攻撃をした場合は失格になります!』

『では、初め!』



ワアアアアアアアアアアアア!



盗賊「姉ちゃん……」

魔王「大丈夫だ……最悪私がどうにかする」

盗賊(頑張れ……!)


634: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/15(月) 10:49:20.46 ID:/4uiwsxlP
姫(先手必勝、先手必勝……!)

姫「みず……!」

水使い「水よ!彼の者を覆い絡め取れ!」

姫「!」

姫(しま……ッ)



ザァ……!グルグル………!ギュぅ……!



姫「……ッ」

水使い「君は動けない! ……水よ、そのまま……!」

姫「水よ、広がり、放て……他の魔力そのまま、我が力へと!」ググ……ッ



バシャアアアアア!



水使い「な……ッ!?」



盗賊「うわ……ぁ……」

魔王(姫には効かん……相手の魔法を取り込んで、そのまま返したか)

魔王(……長期戦に持ち込まれると、厄介だが)


640: 1@もしもし ◆6IywhsJ167pP 2013/04/15(月) 13:41:33.64 ID:/4uiwsxlP
姫「……押し出せ!」



ザァアアア…!



盗賊「……やった……か!?」

魔王「場外を狙ったか……」

魔王(だが……!)



水使い「……ぅ、あ……ッ あ、まい!」

水使い「水よ……! 巻き付け……!」



盗賊「ああ……!」

魔王(自分の体を水の勢いで引き戻すつもりか……力くらべだな)

魔王(五分……否、長引けば……姫が不利だ)

盗賊「姉ちゃん!頑張れ……!」

魔王「……」

魔王(仕方ない、少し私が……ん?)



姫「甘いのは、貴方よ……!行け!」

姫「……追撃!」



ザァアアアアアアア!


647: 1@もしもし ◆6IywhsJ167pP 2013/04/15(月) 15:10:46.58 ID:/4uiwsxlP
水使い「な、まだ、余力が……!?」

水使い「あ、ぁ……ッ」



ザザァア……ッ



『場外ー!!水使い、失格です!!』

『勝者、姫ー!!』



ワァアアアアアアアア!!!



魔王(これは……魔石、か?)

魔王(……成る程な。私が手を貸す迄もなかったか)

盗賊「す、すげぇ……姉ちゃん、勝っちまった……」

魔王「次の試合が始まるな……見たいか?」

盗賊「え、お……じゃ無かった、私?」

魔王「……」

盗賊「何でそこで変な顔すんだよ」

魔王「いや、慣れないな、と……痛い、殴るな」


649: 1@もしもし ◆6IywhsJ167pP 2013/04/15(月) 15:19:33.49 ID:/4uiwsxlP
盗賊「どっちでも良いよ。どうせ……明日はまだ、魔道将軍とは当たらないだろ」

魔王「まぁ……そうだろうな」

姫「少年!」タタタ……

魔王「お疲れ、姫……良く頑張った」



『そこまで!勝者、風使いー!』



魔王「……随分早いな」

姫「このまま続けて準決勝ですって」

魔王「何……?」

盗賊「まじで?」

姫「ええ……だから会場内にいるように言われたんだけど……」

魔王「幾ら回復して貰えるとは言え……根本的にスタミナが……」


650: 1@もしもし ◆6IywhsJ167pP 2013/04/15(月) 15:44:59.65 ID:/4uiwsxlP
魔王(疲れさせるつもりか……?)

魔王(しかし……そんな事をしても、意味が無いだろう……)

魔王(ん、あれは……魔道将軍?)

盗賊「……少年?」

魔王「ちょっと……待ってくれ」

魔王(集中すれば……聞こえるか)



『あれが例の娘か……成る程、美しいな』

『で……隣に居るのが、夫だと?』

『はい……請われ、私が娼館へ招待した者です』

『フン……あれ程の美しい者を妻にしておきながら』

『 婦を選んだと言う物好きか』



魔王(見た事の無い男と喋ってるな)



『準決勝まで勝ち残ったとなると、中々の力の持ち主の様だな』

『はい。試合を見ていた所、優れた加護の持ち主の様で』


656: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/15(月) 20:30:44.10 ID:/4uiwsxlP
『ほう……残念だな。相手がおらねば息子の嫁に欲しいが』

『……五体満足で無くて良いなら、ご用意しましょうか?』

『……ふむ』

『予定とは少々狂いますが……それも、一興』

『そなたも目を着けておったのか、魔道将軍』

『まあ……ですが、ご領主様のご意向とあれば、無視する訳には行きますまい?』

『成る程……そなたは誠、出来た男よな……だか、男はどうする』

『……お許し頂けましたら、処分を』

『口外するは相成らぬぞ?』

『勿論で御座います』


657: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/15(月) 20:46:38.86 ID:/4uiwsxlP
『……思い出すのぅ。そなたが、あの……何と言ったか。エルフの男を殺した時の事を』

『……』

『そんな複雑な顔をするで無い……魔道将軍。何時も感謝しているのだ』

『は……』

『こうして、空いた時間に来て試合の段取りを着けてくれた事にも礼を言おう』

『……勿体無いお言葉』

『あの娘の血に濡れた姿は……さぞ、美しいだろう』

『ご領主様。お約束の件ですが……』

『解っている……我が優れた血筋の者を集め、私設軍隊を作る、だな』

『はい……魔族が大人しくしている今、我ら……優れた者達が』

『最果てと呼ばれる北の大地……魔族共の住む土地を攻めるのだろう?』


658: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/15(月) 21:14:20.57 ID:/4uiwsxlP
『そうして……魔王を倒し、我らが世界の覇者となる……我らならそれが出来ると』

『そう、申したな……魔道将軍』

『はい』

『確かにそなた程の力があれば可能だろう……楽しみにしているぞ』

『御意』

『……先ずはそなたか』

『ええ……では、これで』

『期待しているぞ、魔道将軍……』



魔王(……ふざけた真似を)

盗賊「おい、少年?」

魔王「……姫、予定変更だ」


659: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/15(月) 21:32:30.24 ID:/4uiwsxlP
姫「え?」

魔王「こっちへ……恐らく、一瞬で方がつくだろう……今の内だ」グイ

姫「え、ちょっ……!」

盗賊「お、おい、どこ行くんだよ!」

魔王「少しそこで待っててくれ……直ぐに戻る」

盗賊「……」

盗賊(何処に……木陰?何やって……)



『これより準決勝!魔道将軍vs風使いの試合を始めます!』



盗賊「あ……始まっ……うわ……!」



『じ、場外!風使い選手、一瞬で場外へと吹き飛ばされました!』

『勝者!魔道将軍!』



盗賊「……本当に一瞬じゃねえか」

盗賊(少年達……何処に……)


660: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/15(月) 21:45:08.79 ID:/4uiwsxlP
魔王?「……」スタスタ

盗賊「あ、少年……!あれ、姉ちゃんは?」

魔王?「……」ス…

盗賊「ん、あっち? ……ああ、集合か……てか何で喋んな……!?」

盗賊(あ、あれ……瞳が……蒼い……?)ジィ

魔王?「……」

盗賊(……まさか!?)

魔王?「シィ……!」

盗賊「え……ええ!?」バッ!



『では、始めます……!』

『準決勝二回戦は、姫vs雷使い!』



盗賊(あれ……姉ちゃんの姿だけど……)

盗賊(少年!?)


662: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/15(月) 21:59:56.83 ID:/4uiwsxlP
姫?「……」



雷使い「片目瞑っちゃって余裕ね?アンタ、優れた加護持ってんのね……」



姫?「……」



雷使い「……水使いの時は余裕だったろうけど、アタシが相手なら話は別よ」



雷使い「その澄ました顔、苦痛に歪ませてやるわ……ッ雷よ!」



バリバリ…ッ



姫?「……水よ」



ザァア…ッ



雷使い「また水の防壁?何とかの一つ覚えね……ッ 落ちろ!」


665: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/15(月) 22:16:23.98 ID:/4uiwsxlP
姫?「…… 行け」



バリバリ…ッ パリ……ザァアアアアア!



雷使い「な…ッ!?」



盗賊「……み、水が雷帯びた侭……雷使いに……!!」



雷使い「きゃ……ぁあああ!」

姫?「……帯電してるとキツイだろうな」

雷使い「あ、あ…… ッ!!」バタッ



魔王?「……私じゃ、ああは行かないわね」

盗賊「……その声、やっぱり」

魔王?「……話は、後。先に宿に戻りましょ……魔道将軍にはばれてる筈よ」

盗賊「……ああ」

魔王?「なるべく人の多い所……選んて行くわよ」


666: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/15(月) 22:21:14.16 ID:/4uiwsxlP
『雷使い選手、起き上がれません!』

『勝者、姫!』



ワァアアアアアアアア!



姫?「……すまんな」スタスタ



領主「いや見事だ!なぁ、魔道将軍?」

魔道将軍「……ええ」

領主「優れた加護もさることながら、魔力も申し分無い……あの娘がいれば」

領主「……魔族にも勝てるだろう!」

魔道将軍「……」

領主「魔道将軍」

魔道将軍「はい……」

領主「五体満足で連れて来い……何とか兵士とすべく説得しろ」

魔道将軍「……し、しかし!」


667: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/15(月) 22:25:05.14 ID:/4uiwsxlP
領主「そなたには他を当てがってやる」

領主「魔族共を滅ぼした後、息子の子供を産ませた後ならば好きにしても良い……解ったな!」

魔道将軍「……仰せの侭に」

領主「うむ……明日が楽しみだ!」ハハハ!

魔道将軍(潮時か……まぁ、良い)

魔道将軍(予定とは随分違ったが……直接決着を着けるのも悪くない)

魔道将軍(明日……貴様を、切り裂いてやる……魔王!)


669: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/15(月) 22:56:48.86 ID:/4uiwsxlP
……

………

…………



宿屋



カチャ……パタン



盗賊「おう、おかえり」

姫?「ああ……大丈夫だったか?」

魔王?「ええ、人が多くて助かったわ……」

盗賊「……ごめん、何か、うん。すげぇ違和感」

姫?「ま、そりゃそうだろうな……」

魔王?「とりあえず、一端戻してよ」

姫?「ふむ、そうだな……」シュウ…

姫「……ふう」

魔王「やはりしっくりくるな」

盗賊「……しかし、何だってこんな事……」

魔王「この街の領主らしき男と魔道将軍の話を耳にしたからな」


670: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/15(月) 23:02:22.74 ID:/4uiwsxlP
盗賊「何時の話だ?」

魔王「姫の最初の試合が終わった後だな」

盗賊「え……え?」

魔王「受付だかの側の賓客席だろう場所に見えたんだ」

盗賊「……随分離れてるじゃねぇかよ。聞こえたのか!?」

魔王「集中すればな」

盗賊「……はぁ」

姫「規格外って忘れちゃ駄目よ」

魔王「姫……酷い」

姫「事実でしょ」

魔王「……内容は、こうだ」

魔王「領主は息子の嫁に姫が欲しいが、夫……私が居る」

魔王「魔道将軍は、姫を殺すつもりだが、五体満足で無くて良いならと約束した」

姫「勝手な……!」


671: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/15(月) 23:07:54.49 ID:/4uiwsxlP
魔王「領主も了承した……私の処分を魔道将軍が行う許可も含めてな」

盗賊「!」

魔王「領主も知人の件は知っていた様だ……ま、当然だろうが」

盗賊「……あいつら!」

姫「急に準決勝が行われたのは、領主が来たから……なのね?」

魔王「だろうな。魔道将軍と同じ様な悪趣味な男の様だ」

盗賊「そりゃそうだろう……あんな、娼館だ、奴隷だ……劣等種だと」

盗賊「言い出した奴ら……!」

魔王「本当は明日の時点で姫とすり替わるつもりだったんだかな」


672: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/15(月) 23:13:56.04 ID:/4uiwsxlP
魔王「属性的に不利だからな……あの雷使い、実力はずば抜けていたし」

姫「そうなの?」

魔王「見た感じ……な」

盗賊「……明日、どうするんだ?」

魔王「向こうは色々と予定が狂ったろうが……私の予定は変わらんさ」

姫「魔道将軍を……殺すのね」

魔王「ああ……領主もな」

盗賊「え!?」

姫「……」

魔王「私は最初からそのつもりだったが?」

盗賊「……そ、そうなのか……?」チラ

姫「……私は知らなかったわよ」


673: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/15(月) 23:41:43.31 ID:/4uiwsxlP
魔王「こんな制度、無くした方が良い。この街には前科もあることだしな」

盗賊「……30年前の、か」

魔王「そうだ……私達魔族にとっても、人にとっても……害にしかならん」

盗賊「だが……恨みは買うぜ?」

姫「そうね……最低な奴らとは思うけど、貴族達も人よ」

姫「それに……そう簡単には……それこそ、物理的に壊しでもしない限り」

魔王「……出来る事をするだけさ」

魔王「様は住み分けだろう?……不干渉万歳、さ。価値が違いすぎるならば、な」

盗賊「……信じてるぜ」

魔王「うん?」


674: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/15(月) 23:46:27.32 ID:/4uiwsxlP
盗賊「……願い、叶えてくれ」

盗賊「劣等種も、人なんだ。生きてるんだ」

姫「……」

盗賊「せめて……物じゃなくなる様に……!」

魔王「……心配するな。信じろ」

姫「明日は朝からよ、少年」

魔王「ああ……ゆっくり休もう」

魔王「明日……いよいよだ」

盗賊「……魔道将軍」

姫「殺す……のね」

魔王「ああ。腐った不条理をぶっつぶす」


678: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 00:07:09.39 ID:gVrDOBhBP
……

………

…………



翌日



盗賊「……なぁ、姉ちゃ……少年」

魔王?「何」

盗賊「それ、見えてんの……」

魔王?「仕方ないでしょ……瞳、見えない様にしなきゃ」

盗賊「こっちからじゃフードで顔なんか見えないって」

魔王?「ちゃんと会場のしょ……姫の姿は見えてるわよ」

盗賊「……しかし、凄い人だな」

魔道将軍「当たり前だろう。最高のショーだからな」

盗賊「!」

魔王?「!」

魔道将軍「動くな……心配せずとも何もせん」


679: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 00:13:40.48 ID:gVrDOBhBP
魔王?「何やってんの……もう、向こうにいるわよ」

魔道将軍「解っている……用件を伝えに来ただけだ」

盗賊「……何だよ」

魔道将軍「領主がお前をご所望だ……私に娘を殺すなと、な」

魔王?「……大人しく聞くとは思えないけどね」

魔道将軍「まずは……あいつだ」ス…



姫?「……」



盗賊(少年……こっち見てる。聞いてるのかな……)

魔道将軍「……あいつさえ殺せば、領主などどうでも良い。感謝するぞ、娘」

魔道将軍「……愛した男が悪かったな」

魔王?「どうでも良い事を、べらべらと良く喋る男より悪い奴なんて居ないわ」


681: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 00:20:50.33 ID:gVrDOBhBP
魔道将軍「……ッ 何とでも言うが良い。今の内だ!」

魔道将軍「所詮、力あるものには逆らえんのだ……身を持って知れ!」



『それでは、これより決勝戦を始めたいと思います!』

『魔道将軍、姫……両者、中央へ!』



魔道将軍「次はお前だ、エルフの姫……約束通り、八つ裂きにしてやる」スタスタ

魔王?「私はそんな約束した覚えないけどね」

盗賊「……怖くないのか?」

魔王?「怖い? ……いいえ」

魔王?「私は……彼を信じてるいるもの」


682: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 00:25:42.84 ID:gVrDOBhBP
魔道将軍「……何度も夢に見たぞ。こうしてお前を殺す夢をな」

姫?「夢は夢に過ぎんぞ、魔道将軍……余り驕ると痛い目にあう」

魔道将軍「そっくりそのまま返してやる!……何が共存だ、不干渉だ!力は使ってこそ意味がある!」

姫?「そうか……そうだな。だが……茶番を長引かすのも興醒めだろう」

姫?「……始めようか。魔道将軍」

魔道将軍「死に急ぐか……本当に愚かな奴……腑抜けた王め!」



『始め!』


683: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 00:30:34.73 ID:gVrDOBhBP
魔道将軍「氷よ!」



盗賊「……ッ早い!」

魔王?「……!」



ピキピキ…ピキ……



魔道将軍「肉と血と共に砕け値れ!」



バリィイイイン!



姫?「ふむ……何かしたか?」

魔道将軍「な……ッ!?」

姫?「どうした……驚いた顔をして」

魔道将軍「な……何故、効かない!?何故……立って……!」

姫?「何だ、もう終わりか?……つまらんな」

姫?「水よ!」ザァア……

魔道将軍「……く、そんな物……!」


684: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 00:34:54.33 ID:gVrDOBhBP
姫?「龍となりて、顎を食いちぎれ!」

魔道将軍「な……!」



ギャアアアアアア!



魔道将軍「ぐ、あぁあああァ!?」



盗賊「す……す、ご……!」

魔王?「……ッ」

魔王?(魔道将軍は……じわじわと……責めるつもりだった……?)

魔王?(それとも、少年との力の差……?)

魔王?(……船の上で見た、雷の魔法なんて、比にならない……!)



姫?「……流石に絶えたか」

魔道将軍「お、お前……!」


685: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 00:39:43.53 ID:gVrDOBhBP
魔道将軍「ぐ、ぅ……ッ」フラ

姫?「足元がふらついてるぞ……情けないな」

姫?「炎よ……」

魔道将軍「!?」

姫?「彼の者の身を焦がせ……!」

魔道将軍「 ば、馬鹿な……ッ!?」ゴロン……ッ

姫?「おお、避けたか……が、次はどうかな。雷よ!」

魔道将軍「ぁあああァアアアア!?」

姫?「風よ!……先ずは、右手」

魔道将軍「な、ん………ッ!!」



ザクッ……ブシュゥ……ッ


686: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 00:44:47.63 ID:gVrDOBhBP
盗賊「な、ん……だ、ありゃ……ッひ、ぃ……!?」



姫?「左手」



ザクザク!



魔道将軍「ギャ、ィ……あああぁアア!」



魔王?「……ッ」



姫?「……飽きたな。足だ」



ザクザクッ……ザク……ビチャァ…



魔道将軍「ぁ、ア………、 ァ…!」



盗賊(あの魔道将軍が……こんなに、簡単に……!)

魔王?(あんな、に……容易く、あれだけの属性の魔法を使いこなすの!?)

魔王?(……信じ、られない)


687: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 00:49:47.03 ID:gVrDOBhBP
姫?「……お前の趣味に合わせてやろうかと思ってたんだがな。どうも、いかん」

姫?「飽きた。これ以上は……面倒だ」



『ぁ、あ……す、ストップ!ストップです!きゅ、救護班、早く……!』



姫?「死ね」



ビュ……ザクゥ……ッ!



領主「ぎ、ぎゃあああああああ!!」



ゴロン……



魔王?「……ッ」

盗賊(首が……っ!!)


688: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 00:56:31.54 ID:gVrDOBhBP
姫?「……あんな所まで飛んだか」シュウン



『ひ、ひィ、ま、魔道将軍……ッ! あの、娘……!? き、消えた!?』



シュウン、スタ



姫?「文字通り高い場所から眺めている気分はどうだ、領主殿」

領主「ひ、ィ……ッ だ、誰、誰か……っ!」

姫?「私が欲しかったのだろう……勝って喜ばんのか」

領主「た、助けろッだれか、早く……!」

姫?「黙れ!」

領主「……ッ あ、ぁ……な、何が欲しい!?言って見るが良い!」

領主「金か、何だ!?優勝者はそなただ!」

領主「何でも、思うまま……ッ!」


689: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 01:00:32.60 ID:gVrDOBhBP
姫?「黙れと言ったんだかな……まあ良い」

姫?「望むまま、と言ったな?」

領主「も、勿論だ!だから、だから……ッ命だけは……ッ」

姫?「大袈裟だな……たかが大会だろうに」ニィ

姫?「しかも私は失格の筈だがな……領主であるお前が優勝者は私だと言ったのだ」

姫?「さぁ……その旨を宣言するが良い」

領主「あ、ぁ…! し、しか……し……ッ」

姫?「……」ジロ


690: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 01:06:10.22 ID:gVrDOBhBP
領主「ひ、ひいっ!」

領主「み、皆の者良く聞け!今回の優勝者はこの姫だ!」

姫?「……私の望みはこの街だ」

領主「な、何!?」

姫?「望むまま……?」

領主「こ、この者に、街を与える!」

領主「今日からこの街は、この者の……!」

姫?「それからお前の命だよ」

領主「な!?」

姫?「……一つで満足出来なんだのは、お前も同じだろうて」



パリ…バリバリバリバリ!

ピシャァアアアア……ン!



領主「ギャアアアアアアあああああああ!」


692: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 01:11:55.75 ID:gVrDOBhBP
盗賊「……」

魔王?「……」

姫?「……さて、と。これで私が名実共に領主になった訳だが?」



シィ……ン



姫?(……やりすぎたか?)



「り、領主様!」

姫?「ん?」

「わ、私はこういう者で……!」

「領主様!それよりも私の話を……!」



ザワザワ……ガヤガヤ……



姫?「ふむ」

姫?「あー……先ずは休みたい。それから……そうだな。こいつの息子を呼べ」

「ひっ……ぜ、前領主の、ですか?」

姫?「ああ……とにかく宿を……ああ、いや」

姫?「夫と友人も連れて娼館へ行く」


693: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 01:17:51.33 ID:gVrDOBhBP
姫?「部屋を用意しておいてくれ」

「は、はい!すぐに!」

姫?「……ふむ。では三刻後に息子を連れて娼館へ」スタスタ

魔王?「……何、する気?」

姫?「救うのだろう?」

盗賊「あ、ああ……だけど……」

姫?「まあ、とにかく着いて来い」

姫?「……大丈夫だ。約束を果たしに行く」



……

………

…………



管理人「こ、これは、少年様……と、ひ、姫……さ、ま……ッ」カタカタ

姫?「……部屋の準備は?」

管理人「と、整っております!」

姫?「ふむ……案内してくれ。それから……」

管理人「は、はい!」


694: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 01:26:00.22 ID:gVrDOBhBP
姫?「お前以外の全員を待機させておいてくれ……呼ぶまでは誰も入れるなよ」

管理人「は、はい……!」



……

………

…………



パタン



姫?「さて……とりあえず姿を戻すか」シュウ……

姫「ね、ねぇ……」

魔王「何だ?」

姫「……街が欲しい、て」

盗賊「そ、そうだよ……どうして……」

魔王「権力を取り上げる為だ……と、説明の前に」プチ

姫「……?髪の毛抜いて何するのよ」

魔王「『無事達成した。準備出来次第、魔導の街迄来られたし』……良し」ポゥン

盗賊「……げ、鳥になった!?」


695: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 01:31:54.44 ID:gVrDOBhBP
姫「黒い鳥……黒髪だから?」

盗賊「小さいカラス……」

魔王「良し、船長の所へ行け」バサバサバサ……

姫「船呼んで何するのよ……」

魔王「ここにいる皆をあの島へ運ぶのさ」

魔王「もう、あの廃港を利用する必要も無い」

盗賊「……」

姫「どうしたの、盗賊……救いたかったんでしょう?」

盗賊「……来て、くれるのかな」

魔王「まあ、やるだけはやってみよう。盗賊、すまんが管理人に」

魔王「皆を呼ぶ様伝えてくれ」

盗賊「あ、ああ……」

姫「姿はどうするのよ」

魔王「夫に譲ったと、一言言えば良いのさ」


697: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 01:36:28.24 ID:gVrDOBhBP
姫「納得するかしら……」

魔王「難しそうなら、息子が来る前にまた姿を変えれば良い」



コンコン



管理人「あ、あの……全て集めましたが」

魔王「ご苦労……では、お前は出てくれ」

管理人「し、しかし……領主は姫様では?」チラ

姫「少年の言葉は私の言葉……夫婦ですもの」

魔王(二度目の嘘か……ふむ)

管理人「は、はい!ほら入りなさい!」

管理人「では、私は……これで……」チラッチラ

魔王「早く出て行け」

管理人「!」バタン!


698: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 01:43:43.20 ID:gVrDOBhBP
盗賊「 婦!」

 婦「盗賊……あ、ぁ、本当に、生きて……!」ギュウ

盗賊「当たり前だ!俺が簡単にくたばらネェよ!」

魔王「……期待していて、良かっただろう?」

 婦「少年様……!はい……!」

少女「少年様」

魔王「本は読んだか?」

少女「はい。返すお約束、しましたから」

魔王「本当に構わんのだかな」

少女「いいえ……良いのです。代わりに、一つだけ」

魔王「何だ?」

少女「後で……先に、やる事があるのでしょう」

魔王「……ああ」


699: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 01:48:50.90 ID:gVrDOBhBP
魔王「あー。手短に説明する」

魔王「……今日から、お前達は自由だ」



ザワザワ…



魔王「私は前領主……あの、家の筆頭の者だな。から、街の全てを譲り受けた」

魔王「が、正直興味が無いから」

盗賊「は!?」

魔王「最後まで聞け……まず、劣等種と言う呼び名や、制度など全てを廃止する」

魔王「勿論この娼館もだ」

魔王「だが、だからと言って、家には戻れんだろうし……戻りたくないだろう」


700: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 01:54:38.70 ID:gVrDOBhBP
魔王「……以前、逃げ出し魔道将軍に殺されたと言う君達の仲間は生きている」

魔王「……盗賊」

盗賊「あ、うん……本当だ。ここから少し離れた島で、生活してる」

盗賊「生活が便利になる……道具とか、収入を得る為の手だてとかもさ」

盗賊「この二人と、今から船で迎えに来てくれるやつとかも」

盗賊「手伝ってくれてさ!……だ、だから……!」



「今更そんな事言われても……」

「誰が守ってくれるの……」



盗賊「……!」

盗賊「俺達はもう、自由なんだぜ!?」

盗賊「何だって出来る、して良いんだ!」


701: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 01:59:13.69 ID:gVrDOBhBP
 婦「そうよ……私達は何も出来ない。でも、出来る様に頑張る事はできる」

盗賊「 婦……」

 婦「勇気を、出しましょう?」

 婦「……恐いけど。こうして、救いの手は差し伸べられた。その事実だけでも」

 婦「奇跡の様なものよ……目の当たりにした今、信じなければ」

 婦「何時、信じるの?」



ザワザワ…

デモ……ダッテ……



魔王「ふむ。一つ考えがあるのだが、聞いてみないか?」


702: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 02:06:37.13 ID:gVrDOBhBP
魔王「今、盗賊達が住んでいる島に、港を作ろうと思っているんだ」

盗賊「港?」

魔王「ああ。海路が開ければ、この街との貿易も出来る……まあ」

魔王「最初は援助だろうが」

盗賊「この……街と……大丈夫か?」

魔王「それもちゃんと考えてる。で、だ」

魔王「島に港を作るとなれば、人員もいるだろう……他の大陸から人員を募る」

盗賊「給料どうすんだよ」

魔王「援助させるさ……まぁ、もろもろ条件を上げ、全て飲む事を約束するなら」

魔王「息子にこの街の権利を返すのさ」

姫「……成る程ね」


703: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 02:13:11.28 ID:gVrDOBhBP
姫「返して欲しくば言う事を聞け、か……まぁ、ちょっと乱暴だけど」

魔王「あれだけの事をして今更だな」

盗賊「でも……」

魔王「まあ、待て。で、人が入ってくるなら出ても行くよな。人だけじゃない。物も、金も、知識も」

盗賊「あ……魔石!」

魔王「ああ、流通も見込めるだろう?」

魔王「だから……娼館を、島に作ろうと思う」

盗賊「少年!?」

魔王「ただし、やりたい人が無理のない範囲でだぞ、勿論」

魔王「施設や料金も相応にして、な」

盗賊「そんな!折角自由に……!」



「私……それなら行くわ」



盗賊「え!?」


704: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 02:16:44.85 ID:gVrDOBhBP
「いきなり自由にどうぞ、て言われても困る……先はわからないわ、でも」

「今は……それしか出来るものがない」



盗賊「……」

魔王「嫌になればやめればいいんだ。続けたければそうすれば良い」

姫「そうね。自由だものね」

魔王「と、言う訳だ……ん、汽笛が聞こえるな」

盗賊「俺が連れてくよ……行こうぜ」

「あ、あの……!」

魔王「ん?」


705: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 02:21:51.58 ID:gVrDOBhBP
「他の土地に連れてって貰う事は?」

魔王「勿論、構わんよ」

姫「島に先に行くんでしょう……一度降りても良いし、船に残って貰っても良いわよね?」

魔王「ああ、そうだな。盗賊、船長に……」

盗賊「伝えるよ!」

姫「……嬉しそうね」

魔王「ま、そりゃ……な」

姫「残ってる人……居ないわね」

魔王「そうか……良かった」

管理人「あ、あのぅ……」

魔王「何だ?」

管理人「その。娘達はどこに?」

管理人「今日のお客様がもうすぐ……」

魔王「娼館はもう廃業だ」

管理人「は!?」


706: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 02:26:27.00 ID:gVrDOBhBP
魔王「そろそろ良い時間だな……」

魔王「管理人、最後の仕事だ」

管理人「え、え?あ、あの……」

魔王「息子とやらを読んで来い」

管理人「あ、あの、あの……!」

魔王「早く行け!」

管理人「は、はい!」タタタ



……

………

…………



息子「どういうおつもりか!」バン!

息子「こんな……!こんな条件を飲めと!?」

魔王「ああ、そうだ。私と姫は確かに領主殿から街を頂いたからな」

魔王「それをただでお返しいたそうと言うのだ。なんの文句があると言うのか」


707: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 02:34:16.77 ID:gVrDOBhBP
姫「そうよ。それに簡単な条件でしょ?」

姫「劣等種廃止。伴って娼館廃業」

魔王「貴族制度の廃止。ただし、前領主直系の者に限り、街の責任者として」

魔王「ある程度の権限を認める」

魔王「島への援助、これも向こう5年短い期間だ」

息子「何が短いだ!港を作る為の人員の給料は全て魔導の街に負担しろと言うのだろう!」

姫「……当然でしょ?」

魔王「飲めぬなら返さぬだけだ」

魔王「魔道将軍ももう居ない。恫喝だけで言う事を聞くと思うな」

息子「……!」

姫「貴方達がして来た事と同じって解ってるんでしょう?」


708: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 02:38:30.48 ID:gVrDOBhBP
姫「……権力で押さえつけて来ただけ」

姫「私達には効かないわ」

息子「何故だ!?」

魔王「ん?」

息子「何故……他人の為にここまで!」

魔王「私設軍隊など持たれても困るのさ」

息子「!」

魔王「……まだ次があれば全力で全てを潰す」

息子「ひ……ッ」

魔王「どうするんだ?」

息子「わ、解った……条件を飲む」

魔王「ふむ。ではすぐに街中に宣言しろ」

姫「それを確認すれば、私達は去りましょう」


709: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 02:43:24.61 ID:gVrDOBhBP
魔王「ああ……では、な」



……

………

…………



シュウゥン……スタ



船長「おう、お疲れさん」

魔王「ああ……盗賊は?」

船長「島に降りて行ったさ。はりきって間席の使い方と作り方、教えてたぜ」

魔王「そうか……全員降りたのか?」

船長「いや……二人だけ残ってる」

姫「後は全員、島に残るの?」

船長「みたいだな……最初は違う土地にって言ってた奴も居たが」

魔王「そうか……その二人は?」

船長「甲板だ……とりあえず盗賊呼んでくるわ」

姫「あ……待って、私も行くわ」


710: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 02:47:18.06 ID:gVrDOBhBP
魔王「ああ……」

魔王(二人か……誰だろうな)スタスタ

 婦「あ……少年様」

魔王「一人は……やはりお前か」

 婦「……私は、神に仕えようと思いまして」

魔王「ほう?」

 婦「片腕も失いましたし……」

魔王「……すまなかった」

 婦「謝らないで……良いんです」

 婦「少年様、覚えてますか?」

魔王「ん?」

 婦「お願いが、ある……と」

魔王「ああ……勿論だ」


712: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 02:50:37.92 ID:gVrDOBhBP
 婦「私、何処かの街で神に仕え、何れ……この街に戻りたいんです」

魔王「うん」

 婦「その時にでも……料理、教えて下さい」

魔王「ああ、お安い御用だ」

 婦「……少年様」

魔王「……?」

 婦「……」

魔王(何だ、目を閉じて……あ)

魔王(……そういう事か)オデコニチュ

 婦「……」

魔王「頑張れよ」

 婦「……はい。少年様も、お元気で」


713: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 02:53:48.01 ID:gVrDOBhBP
魔王「もう一人……残ってるのがいると聞いたが?」

 婦「ああ、あちらに……あの、私……もう少しここに居ても?」

魔王「そうか……ああ、勿論だ」スタスタ

魔王(……ん、あの髪の色は)

魔王「少女……?」

少女「はい」

魔王「お前だったのか……」

少女「本、お返しします」

魔王「本当に……良いのに」

少女「我儘を言って良いなら、他のが読みたいです」


714: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 02:57:52.58 ID:gVrDOBhBP
魔王「ああ、そりゃ構わんが。船長の部屋にあるばずた……で、お前はどこへ行きたいんだ?」

少女「……最果ての地へ」

魔王「……何?」

少女「無茶を承知でお願いいたします」

魔王「な、何だ」

少女「私を魔族へと変じて、お側に仕えさせて下さい」

魔王「……は?いや、待て……いくらなんでも、そんな事は……」

少女「船長さんの持っていた本、お城から持っていらしたんでしょう?」

魔王「あ?あ、あ……なんだ、見たのか?」


715: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 03:00:22.56 ID:gVrDOBhBP
少女「パラパラとだけ……魔道書の様な物に、人を魔へと変じる方法が書いてありました」

魔王「……」

少女「ですから……お願いします」

魔王「し、しかし……」

少女「私達はもう、自由なのでしょう?」

少女「なら、自分の道は自分で選びたい……お願いします」

少女「どうぞ、お側に……魔王様」


729: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 09:45:42.03 ID:gVrDOBhBP
魔王「考えておく……と言う返事で良いか?今は」

少女「……充分です」

魔王「その魔導書とやらに目も通さねばいかんしな」

魔王「それに……可能だとしても、だ」

少女「はい」

魔王「ここでは流石にな……」

少女「魔王様はこれから?」

魔王「ふむ……そうだな」

魔王「魔導将軍を殺してしまった以上、今まで程のんびりとはしてられんな」

魔王「……一度、城に戻らねばならんだろう」

少女「一緒に行きます」

魔王「……ふむ」

少女「駄目ですか?」

魔王「否……まあ、問題が山積みなのでな」

魔王「今すぐに連れて行くと約束は出来ん」

少女「……」

魔王「まずはその方法とやらを確かめてからだ」

少女「……はい」

魔王「それに……姫の事もある」

魔王(……取りあえず、側近に事の次第を伝えねばな)

魔王「まだここにいるのか?」

少女「いえ……」

魔王「船長に言って本を借りて読んでいると良い……降りる気は無いのだろう?」

少女「はい」

魔王「取りあえず、島の方も見て来ねばな」

少女「魔王様」

魔王「ん?」

少女「……ありがとうございます」スタスタ


730: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 09:51:12.27 ID:gVrDOBhBP
魔王(ふむ……拒否しても無駄だろうな)

魔王(しかし、人を魔に……だと?)

魔王(……そんな事が可能なんだろうかな)

魔王『側近?』

側近『おう……ご苦労さん。こっちは大騒ぎだけどな!』

魔王『……胃は大丈夫か』

側近『聞くな……しかしまた、派手にやったな』

魔王『ん?何故知ってる?』

側近『お前が言ったんだろうが、望めば全て見られるって』

魔王『見てたのか……なら説明する必要は無いな』

側近『だが、残念な事に……時間が無い』

魔王『不在がばれたか?』

側近『ならまだ良かったかもな』

魔王『?』

側近『お前の仕業とは、流石に誰も思いつかんさ……まだな』

側近『魔導将軍の短絡的な性格のおかげで』

側近『まだ誰も、あいつとお前が接触してたとは感づいてないが』

魔王『……ばれるのも時間の問題か』

側近『隻眼の紫の瞳の男……まあ、隻眼ってのはともかく』

側近『紫……闇色の瞳なんて、お前しかいないからな』

魔王『……そうなのか?』

側近『俺の知るかぎり……な』


731: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 09:58:58.27 ID:gVrDOBhBP
魔王『ふむ……私は一度城に戻ろうと思うのだが』

側近『少女とやらを連れてか』

魔王『……可能ならば、な』

側近『人を魔へと、て奴か?』

魔王『……ああ』

側近『結論から言えば、可能だった』

魔王『……だった?過去形だな』

側近『お前は気付いていないかもしれないが……』

魔王『否……お前の件だろう』

側近『……何時からそんなお利口さんになったの』

魔王『お前な……』

側近『何時気付いた?』

魔王『治癒魔法、回復魔法ってのは……人の特権なんだそうだな』

側近『……ああ。弱くて強い、人間だけの特権だ』

魔王『経緯やお前の昔語りは今度聞くとして』

魔王『……お前を魔へと変じたのは、親父だな?』

側近『そうだ』

魔王『……ならば、私に出来ない理由も無いわけだ』

側近『と、思うがな……解らん』

側近『方法とかな……俺にはさっぱり知識が無い』

魔王『それっぽい魔導書は見つけた、んだがな』

側近『……まじで?』

魔王『ああ……後で読んでみるさ』

側近『……姫はどうする?』


732: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 10:13:51.11 ID:gVrDOBhBP
魔王『放って行く訳にも……とは、思うが』

魔王『……姫次第だな』

側近『そうか……何かあったら、すぐに知らせる』

側近『何時でも戻れる準備をしておいてくれよ?』

魔王『ああ……解った』

魔王『それから、例の話だが……』

側近『おう……準備は出来てるぜ』

魔王『嬉しそうだな』

側近『……全て片が付いたら、の話になるがな』

魔王『それは……準備が出来てると言うのか』

側近『お、俺の気持ちの準備は、だよ!』

魔王『……まあ良い。では話すぞ?』

側近『おう……楽しみにしてる』



魔王(あいつ……あんなにああいう類の話に興味あったのか?)

魔王(まあ、良いか……さて)

姫「少年!」

魔王「ああ……戻ったか、姫」

船長「お前も来てくれ……これからの事を話さなんとな」

魔王「そうだな……私も船長に話がある」

船長「おう?」

盗賊「早くしてくれよ!みんな待ってんだから!」

魔王「なんだ……着替えたのか。似合ってたのに」

盗賊「ドレスなんかで作業出来ないだろ!」


733: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 10:22:37.20 ID:gVrDOBhBP
船長「……あの二人は?」

魔王「 婦と少女か……そうだな、呼んで来よう」

魔王「船を下りぬのならば、伝えておかねばならん事もある」

姫「じゃあ、食堂で待ってるわね」

魔王「ああ、姫?」

姫「何?」

魔王「お前……これから、どうするんだ?」

盗賊「少年!早くー!」

姫「……後で、話すわ」

魔王「うん……わかった」



……

………

…………



食堂



船長「とりあえず……だ。俺はこれから、世界を回る」

魔王「ほう?」

盗賊「まずは港を作らなきゃ始まらないからな」

船長「海賊達にも声をかけて回る。商船に転向してくれる奴らが居れば」

船長「貿易の幅も広がるだろう?……海に関しては、これほど力強い奴らはいねぇさ」

魔王「ふむ……ついでに、人員も確保できるな」

船長「魔導の街からの援助は?」

魔王「一応5年だな」

盗賊「それまでに、魔石の流通を形にしないとな」

姫「生産の方は問題なさそうだったわよ……流石に、皆基礎はしっかりしてる」


734: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 10:29:56.58 ID:gVrDOBhBP
盗賊「俺は……島に残る。皆に教えなきゃ行けないし」

魔王「そうだな。それが良いだろう」

船長「とりあえず、海賊共を何人か残して行く」

船長「用心棒代わりになるだろうしな……娼館もついでに作ってやらにゃいかん」

盗賊「……本当に、作るのか?」

魔王「必要がなくなれば別の物にすれば良いだけだ、盗賊」

姫「……今は、それが彼女たちの安心の為に必要なだけよ」

盗賊「……」

船長「無理に働かせるわけじゃ無い。それしか出来んと言うのも」

船長「あいつらの立派な意思だと思ってやれ」

盗賊「……そ……う、だな」

魔王「 婦は、どうする?」

 婦「船で世界を回るなら……どこかの、教会へ行きたいと思います」

 婦「そこまで……ご一緒させてください」

船長「ああ。良いぜ……街を転々としていれば良い場所も見つかるだろう」

 婦「はい。そして、何れ……この島に教会を作りたいのです」

姫「素敵な話ね……少女は?」

少女「私は、魔王様と共に最果ての街へ」

姫「え!?」

盗賊「……魔族が住む場所なんだろう?」

少女「はい。魔王様のお力で、魔へと変じさせて頂くつもりです」

魔王「……」

船長「少年?」

魔王「……意思は変わらない、わな」

少女「はい。永い時を生き、知識を得たいのです」

姫「……知識?」

少女「この世界の全てを知りたい」

盗賊「だ、だからって……!」


735: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 10:36:25.44 ID:gVrDOBhBP
少女「人として、私が居る場所はありません。勿論、島での生活は……」

少女「楽しいでしょう。けれど……私は、知りたい」

少女「それに、魔王様の傍に居たいのです」

魔王「……」

姫「……出来るの?そんな事……」

船長「少年が城から持ってきた魔導書にそんな事が書いてあった、と言ってたな」

盗賊「あ、ああ……だけど……」

魔王「前例は、確かにある……が」

姫「え!?」

魔王「私にも知識が無い……から、返事は保留だ」

魔王「まずはその本を読んでみんとな」

少女「はい」

姫「……本気なのね」

少女「勿論です……興味がありました。昔から」

少女「人とは、魔とは……エルフとは」

姫「……」

少女「魔王様に本を貸して頂き、読んで……さらに知りたいと思いました」

魔王「と、言う訳だ……私も、魔導将軍を殺した以上」

魔王「色々と面倒事が降りかかってくるのもそう遠い話では無いだろう」

姫「……城に、戻るの?」

魔王「一度はな……で、だ」

魔王「姫は……どうする?」

盗賊「姉ちゃん、島に来ないか?」

姫「え……」


736: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 10:41:54.38 ID:gVrDOBhBP
盗賊「50年とか、掛かるとは言え、さ……お腹に子供も居るんだし」

少女「……魔王様の、子供……?」

魔王「いや……私の子では無い」

姫「……この子は人との子……いつ生まれるのか」

姫「どんな子になるのか……さっぱり解らないわ」

少女「ハーフエルフ……ですか」

姫「ハーフエルフ……?」

少女「……いえ。そんな言葉があるわけでは無いのですが」

姫「……そうね。確かに間違いじゃ無いわ」

盗賊「どうだい、姉ちゃん? ……のんびりしようよ。一緒に」

姫「……ごめんなさい、盗賊。私も……少年に、いえ……魔王について行くわ」

魔王「……姫」

姫「駄目とは言わせないわ……私達、夫婦なんですもの?」

魔王「……それは、便宜上……」

姫「私はもう嘘を吐いてしまったわ……それとも、私じゃイヤかしら」

魔王「……ふむ」

姫「魔王の妻となれば、おいそれと手出しは出来ないでしょう?」

姫「それに……貴方が、守ってくれる」

魔王「……利用するつもりか」

姫「お互いにね」

船長「お、おい……」

魔王「……良いだろう」

少女「魔王様……」

魔王「便宜上、だ……が」

魔王「私も精々、利用させて貰うとしよう」

姫「決まりね」ニコ

船長「……良いのか?」


737: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/16(火) 10:48:53.19 ID:gVrDOBhBP
魔王「仕方ない……放り出して行く訳にもいかん」

魔王「子供についても……まあ、50年か」

魔王「考える時間はある」

姫「……ありがとう」

魔王「相変わらず我が儘で強引だ……まあ、嫌いでは無い」

少女「……」

魔王「しかしな……はいそうですかと連れて戻る訳にはな……」

船長「魔導将軍の様なのが山ほどいるんだろう?」

魔王「まあ……直接城へと行けば良い話なんだが……ん?」

魔王「……」

姫「どうしたの?」

魔王「船長」

船長「な、何だよ」

魔王「話したい事があると言っただろう……金は払う」

魔王「一つ、依頼を受けてくれんか」

船長「お?おお……そりゃ、構わネェが……」

魔王「これと……あれと……」

船長「お?  ……おお、そりゃまあ……」



盗賊「ねえちゃん……」

姫「なんて顔してるのよ……」

盗賊「……遊びに、来てくれよ!?」

姫「勿論よ……やだ、ちょっと……泣かないでよ!?」グスッ

盗賊「また会える、よな?絶対だぜ!?」ポロポロ

姫「あ……当たり前でしょ!」



 婦「……信じられませんね」

少女「何がです?」

 婦「種を超えて……こうして」

少女「……」

 婦「何時か、これが当たり前に……当たり前の世界に、なるのでしょうか」

少女「……どう、でしょうね」


757: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/17(水) 09:51:45.90 ID:nqV6nB00P
 婦「……種族の差になんか捕らわれず、皆仲良く出来れば」

 婦「どれほど、平和になるでしょうか……」

少女「そう簡単には行かないでしょう……私達人間の間だけでも」

少女「血筋だ、能力だと……もう忘れたのですか。私達が劣等種と呼ばれて居たこと」

 婦「……」

少女「貴女の考えを否定する訳では無いです。でも……」

 婦「解っています……とても、難しいのだと言う事は」

 婦「でも……少女さん。貴女が、世界を知りたいと思うのと同じで」

 婦「私も、やってみたい。平和を……説いてみたい」

少女「……そうですか」

 婦「願えば叶う、のでしょう?」

少女「易くは無いでしょうが……」

 婦「……貴女は、近づくのですね。その……易い位置に」

少女「魔へと変じる事? ……そうですね」

 婦「私にはそんな勇気は……」

少女「そうですか?私は……安易な道を選んだだけに過ぎないかもしれませんよ」

 婦「え?」

少女「地道に努力しようとする貴女の方が、立派です」

少女「私は……人と言う器を捨てるだけです……簡単な話」

 婦「……それを選び取る決断も、立派な勇気だと思います」

少女「……」


758: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/17(水) 10:01:58.05 ID:nqV6nB00P
魔王「良し、城に戻るぞ!」

少女「え?」

姫「え?」

盗賊「え?」

 婦「……もう、ですか?」

魔王「ああ……忙しくなるぞ、姫」ニヤ

姫「……また、何企んでるのよ」

魔王「楽しい事だ」

姫「……側近さんの胃が心配ね」

少女「あの、魔王様……」

魔王「心配するな。お前も一緒だ、少女」

 婦「もう、行ってしまわれるのですか」

魔王「……今生の別れでもあるまい。そんな顔をするな」

盗賊「少年……」

魔王「お前もだ、盗賊……泣いている暇なんか無いだろう?」

盗賊「……」

魔王「心配するな。立派な街を作ってくれんと、こっそり姫と」

魔王「……遊びにこれんだろう?」ポンポン

盗賊「頭撫でるなよ……!子供じゃねぇんだから!」

船長「全く次から次と面白ぇ事ばかり企みやがるな、この魔王様は」ニヤニヤ

魔王「どうせなら楽しまないと損だろう……頼むぞ、船長」

船長「おう、まかせとけ!」

盗賊「何なんだよ、一体……」


759: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/17(水) 10:07:50.76 ID:nqV6nB00P
魔王「では船長…… 婦の事を頼む」

船長「ああ。きっちり送り届けるさ……暫くは船の旅だ」

船長「慣れる迄辛いかもしれんが……頑張れよ」

 婦「はい……大丈夫です」

盗賊「……見送ったら、俺は島に戻るよ」

魔王「もう島では無い……名前を決めたぞ?」

姫「……少年が?」

魔王「なんだ、不服か?」

姫「いえ……まともなら文句は無いわよ」

盗賊「街の名前……か。何にしたんだ?」

魔王「『港街』だ!」

少女「……安直」

魔王「あ、あれ……良い名前だろう?」

姫「まあ、へんてこな名前で無くて良かったわね」

盗賊「……俺は、気に入ったぜ」

船長「良し……この辺にしとくぞ。何時までたっても進めん」

魔王「ああ……では、姫、少女。掴まれ」

盗賊「ああああああ、ちょっと待った!」バタバタ……

姫「え、な、何?」

船長「どこ行ったんだあいつ……」



バタバタバタ……



盗賊「姉ちゃん、これ!」

姫「……! これ……」

盗賊「約束の、エルフの弓だ」

魔王「……すっかり忘れてたな」


760: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/17(水) 10:27:18.51 ID:nqV6nB00P
姫「……でも、良いの?」

盗賊「今更だな……良いんだ」

盗賊「知人だって、その方が喜ぶさ……どうせ、俺には扱えないし」

姫「……ありがとう」ギュ

魔王「城に着いたら扱い方を教えてやる」

姫「ええ」

少女「……美しい弓ですね。でも細い……大丈夫なのですか」

魔王「力の弱いエルフでも易く扱える様な素材なのだろう」

姫「……ええ。とても軽い。これなら私の腕でも引けそうよ」

盗賊「本当に……ちゃんと、遊びに来いよ!?」

魔王「無論だ……旨い飯屋、期待してるぞ」

船長「じゃあ……またな、魔王」

魔王「ああ……ではな、船長。例の件、頼んだぞ」



シュゥウン……!



 婦「……す、ごい……!転移魔法……!?」

盗賊「軽く酔うぜ、ありゃ……」

船長「ま……体験するとたまげるな、確かに」

盗賊「さて……んじゃ、俺は島……じゃネェや。港街に戻るぜ」

船長「ああ、俺達も出港する。商船と人員の手配は任せておけ」

盗賊「…… 婦は?」

 婦「私は……」チラ

船長「ん?ああ……とりあえず、近場の街から回っていく」

船長「最終目的地は、北の最果ての街だ」ニヤ

盗賊「……え!?」


761: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/17(水) 10:40:54.59 ID:nqV6nB00P
船長「姫と祝言をあげるんだとよ……で」

船長「ドレスと花を頼まれた訳だ……城まで届けろ、とな」

 婦「……大丈夫、なのですか」

船長「過激派共を一掃した後に届ければ良いそうだ……随分時間はあるさ」

船長「その間に良い場所を見つければ、そこで下ろしてやるよ、 婦」

船長「受け入れてくれる教会も見つかるだろう」

盗賊「……それ、お前生きてるか船長」

船長「阿呆!俺はそんな歳じゃネェや!」

盗賊「……そっか。じゃあ……本当に夫婦になるのか」

船長「どうだかな……」

 婦「お腹に、子供が……と言っていらっしゃいましたが?」

船長「ありゃ、少年の……魔王の子じゃネェ。だが……」

盗賊「……あいつなら、ちゃんと姉ちゃんと子供を守ってくれるよ」

 婦「そう……ですね」

船長「良し……出港だ!野郎共、帆を上げろ!」



アイアイサー!



盗賊「ああああ、ちょっと待て、俺を下ろしてからだろ!?」

盗賊「じゃあな、船長!待ってるぜ!」バタバタバタ

 婦「まずは……何処へ?」

船長「そうだな、人手の確保と……ああ、否」

船長「まずは他の海賊共に声をかけねぇとな……良し」


762: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/17(水) 10:46:14.64 ID:nqV6nB00P
船長「ここから少し行った所に、鍛冶師共が集まる集落がある」

船長「田舎だが……故に職にあぶれてる奴も多いはずだ」

船長「小さな港もあるし、そこに向かうか」

 婦「海賊さんとは……何処で?」

船長「あそこの地酒は旨いんだ……ついでに輸出の話持ちかけりゃ」

船長「良い稼ぎになるかもしれん……それに」

船長「その酒目当てに集まる奴らも多いのさ」

 婦「へえ……」

船長「 婦よ、お前さん、酒は行ける口か?」

 婦「どうでしょう……飲んだことが無いので」

船長「そりゃ人生損してるぜ……一度飲んでみると良い」

船長「金が出来れば船も作れる……はは!楽しくなってきたな!」

 婦「ふふ……」

船長「野郎共!目的地は鍛冶師の村だ!」



アイアイサー!


781: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/18(木) 00:04:51.48 ID:c/wO+3y2P
……

………

…………



シュウン……



側近「ん? ……うわあああああああ!」

魔王「悲鳴で出迎えとは……驚きだな」

姫「ここが……魔王城? ……随分、埃っぽいわね」

少女「凄い……本の山が天井まで……」

側近「……いきなり二人の女を抱えて現れる方が驚くわ、普通」

魔王「何でお前、書庫にいるんだ?」

側近「調べものしてたからだよ……てか、お前!」

側近「帰ってくるなら知らせろよ!」

魔王「ああ、すまん。忘れてた……そんな事より」

側近「そんな事て」

魔王「……人を魔にするにはどうすれば良い?」


784: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/18(木) 00:16:53.97 ID:c/wO+3y2P
側近「いきなり本題だな」

魔王「可能ならば早く済ます方が良いだろう……まだ問題は山程残ってるんだ」

側近「そりゃそうだが……ん」

魔王「どうした?」

側近「……随分顔色が悪い」

姫「……」

魔王「姫……?どうした」

姫「……息が、苦し……」

側近「……例のエルフか?」

魔王「ああ……そうか、魔の気か!」

少女「……横にさせた方が良さそうです」

少女「それに、これだけカビっぽいのは……」

魔王「そ、そうか……側近」

側近「お前の部屋連れてけ。ジジィ呼んでくるから!」バタバタ

姫「……ぅ」

少女「魔王様、早く!」

魔王「あ、ああ……」


786: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/18(木) 00:30:14.38 ID:c/wO+3y2P
……

………

…………



魔王「……随分、体が熱い」

少女「熱があるんです……多分、魔の気に負けまいとしてるんでしょうが」

魔王「お前は平気なのか?」

少女「私はエルフじゃありません……ただの人間です」

魔王「……感じる力、か」

少女「人よりも敏感なのでしょうね」



コンコン



側近「ジジィ連れて来たぞ」

ジジィ「全く、魔王様はまたどんな訳のわからない物を拾って来たかと思えば」

ジジィ「エルフとはのう……どれ」

少女「……この方、は?」

魔王「穏健派の最年長者だ……耄碌ジジィは名前も忘れたらしくてな」

ジジィ「偉そうに言うわい……魔王様が赤ん坊の頃からしっとるんですぞ?」

側近「名前忘れたのは事実だろうが……それより、お姫さんはどうだ?」


795: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/18(木) 09:25:14.24 ID:c/wO+3y2P
ジジィ「うぅむ……熱いな」

魔王「姫は……エルフの長の娘なんだそうだ」

側近「……腹に子もいるんだろう」

ジジィ「大した女を選んだのう……魔王様も変わり者じゃて」

魔王「私の子では無いわ!」

ジジィ「なんじゃ、違うのか……ますます変わっておるのう」

魔王「その辺は後でゆっくり説明してやるから」

魔王「先に……とにかくどうにかしてやってくれ」

少女「魔王様」

魔王「ん?」

少女「書庫に戻っても良いでしょうか?」

魔王「あ、ああ……そりゃ構わんが」

少女「何か……知恵が無いか、探してきます」

側近「俺も行こう……一人にさせるのはちと不安だし」

ジジィ「否、側近はここにいなされ……お前さん、治癒魔法使えるじゃろ」

魔王「ん……しかし」

ジジィ「その少女には魔王様がついて行ってやれば良い……というか」

ジジィ「寧ろ、出て行っておくれ?」

魔王「……随分な言われ様なんだが」

ジジィ「この娘、魔の気にやられておるなら」

ジジィ「魔王様が傍に居ない方がマシになるかもしれん」

少女「一人より二人の方が、はかどります。魔王様……」

魔王「……解った」スタスタ



パタン


796: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/18(木) 09:34:31.81 ID:c/wO+3y2P
ジジィ「あの少女は治癒魔法は使えんのか」

側近「何だよ、俺じゃ役不足って言いたいのか」パァア……

ジジィ「そうじゃないわい……だが、お前さんも元人間とは言え」

ジジィ「今じゃ立派な魔族じゃろうて」

側近「まあ、そうだけど……んん、ちょっと呼吸、マシになったか?」

ジジィ「気休めじゃな……何かを病んでいるとかでは無いからのう」

側近「……なんか方法ないのか?」

ジジィ「簡単に言うでないわ……前代未聞じゃて、こんなもの」

側近「エルフの長ってのは……普通のエルフよりも」

側近「感じる力、とやらが優れているそうだ」

ジジィ「一番の特効薬はここを離れる事であろうが」

側近「……まあ、な」

ジジィ「それでは魔王様がこのエルフを連れ帰った意味が無いのじゃろう」

ジジィ「さて……何か良い策が見つかれば良いがの」

側近「大丈夫なのか?これ……」

ジジィ「今すぐどうこうは無いじゃろう、が……」

ジジィ「このエルフの娘の身体を蝕んでいく事に間違いは無いのう」

ジジィ「子を宿しているのならば、さらに……心配じゃな」

側近「ふむ……」

ジジィ「さて、儂らに出来る事と言えば、ここで娘を眺めている位じゃ」

ジジィ「その間に……説明して貰おうかの」

側近「……魔王様に後で聞けば良いだろ」

ジジィ「耄碌ジジィじゃで……忘れぬ内に聞いておかねばの?」

側近「……好奇心で目輝かして言うんじゃねぇよ」


797: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/18(木) 09:43:52.88 ID:c/wO+3y2P
……

………

…………



魔王「何かあったか?」

少女「いえ……それより、ちょっと整理してください、魔王様」

少女「本の種類がばらばらです」

魔王「……覚えてたら」

少女「側近様は……治癒魔法が使えるのですか」

魔王「あいつは……元人間らしいからな」

少女「……前例、ですね」

魔王「ああ……お前の件を後回しにしてすまんな」

少女「いえ……あ!」

魔王「何かあったか?」

少女「……あの」

魔王「何だ?」

少女「……魔石は、如何でしょうか」

魔王「魔石?」

少女「はい。癒やしの力の魔石を、姫様のお側に置けば」

少女「……マシに、なりませんか」

魔王「成る程……しかし……」

少女「私は……治癒魔法は使えませんが……」

魔王「お前は緑……大地の加護を受けていたな」

少女「?はい……」

魔王「それで、少しはマシにならんだろうか」

魔王「……幸い、お前はまだ人間だ」

少女「やってみましょう……ですが」

魔王「何だ?」

少女「方法が……解りません」


798: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/18(木) 09:53:39.47 ID:c/wO+3y2P
魔王「……私が教える」

少女「はい……!」

魔王「すまん……少女」

少女「いいえ。魔王様は……私の主様ですから」

魔王「……ありがとう。ではまず、イメージするんだ。力を石に変じる様に……」

少女「はい……ッ風、よ……ッ!」ザァアア……

魔王「うん。コントロールは難しいかもしれんが……お?」

少女「……石に。石……ッ」コロン

魔王「流石だな……一発で成功するとは」

少女「……これが、魔石。風よ……!」コロン、コロン

魔王「……凄いな」

少女「お役に立つ為ならば……願えば、叶うのでしょう?」

少女「魔王様が、教えてくれた事です」コロン

魔王「……うん。そうだったな」

魔王「それぐらいで良い……無理はするな」

少女「……は、い……」ハァ

魔王「一度戻るか……これで、楽になってくれると良いが」



……

………

…………



側近「……て、訳だ」

ジジィ「成る程のぅ……魔導将軍も哀れじゃな」

側近「ただの阿呆だ。魔王様に反旗翻そうなんざ……自業自得だ」


799: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/18(木) 10:00:13.65 ID:c/wO+3y2P
コンコン



側近「ん?戻ったか……」

ジジィ「待て……魔王様ならば態々ノック等せんじゃろう……誰じゃ」



使い魔「……側近様、狼将軍がお目通りを願っておられますが」



側近「チ、聞きつけたか……」

ジジィ「ほう、で狼将軍は何処に?」



使い魔「控えの間にお待ち頂いております、が……」



ジジィ「気の短いあの女が大人しく待っておるとも思えんの……儂が行こう」

側近「すまん、ジジィ」

ジジィ「何、耄碌じじいが役に立つのはこのぐらいじゃて」



カチャ……パタン



側近「やばいな……早く戻れよ、魔王」



バタバタバタ……!



側近「ん?」



バターン!



魔王「側近、姫は!?」

少女「ま、魔王様、そんなに走られては……!」ハァハァ

側近「……お行儀悪いなお前は本当に」

魔王「こんな時にそんなこと……ん、ジジィは?」


800: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/18(木) 10:09:26.59 ID:c/wO+3y2P
少女「お話は後です! ……姫様、これを」コロン、コロン

少女「胸元に……」

姫「……ん、ぅう…… ……」スゥ

魔王「呼吸が楽になった……な」フゥ

側近「これが……魔石か」

魔王「ああ……少女はまだ人間だからな」

側近「緑……大地の加護か。成る程、考えたな……しかし」

魔王「気休めなのは解ってるが……」

少女「お側に居て、必要になれば作ります……ですが」

少女「癒やしの魔石の方が、効果はあると思いますが」

魔王「ふむ……港街に行って買い付けてくるか。私ならば一瞬だ」

側近「残念だが……お前に城を離れて貰っては、困る」

魔王「何?」

側近「……狼将軍が控えの間に来たそうだ。今、ジジィが対応してるが」

魔王「もう嗅ぎ付けたか……早いな」

側近「魔導将軍の事か、お前が姫を連れ込んだことか……まだ解らんがな」

魔王「ふむ……そうか」

側近「こらこらこらこら!ストップストップ!どこ行くの!?」

魔王「ん、来てるのだろう?」

側近「ジジィに任せとけ! ……お前が出て行ったらややこしい!」


801: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/18(木) 10:19:15.42 ID:c/wO+3y2P
魔王「しかし……」

側近「そりゃな、転移なんて出来るのお前ぐらいだが」

側近「こんな事が続けば、流石に不在はまずいって」

少女「……側近様に行って貰えばよろしいのでは?」

側近「え?俺? ……あっさり言うけど、俺は転移なんて出来ネェぞ?」

少女「いえ、魔王様のお力で……側近様を転移させる事はできないのですか?」

魔王「……ふむ。成る程な。考えたことは無かったが」

側近「……俺、飛ばされるの?」

魔王「そうか。お前私の目も持っているな」

少女「目……?」

魔王「良し……じゃあ、行け側近」

側近「いきなり!?」

魔王「港街は目を通して見ただろう? ……では」

側近「待て待て待て!」

魔王「何だ、怖いのか?」

側近「違うわあああああああ!帰り!帰りどうすんだよ!」

魔王「あ」

少女「あ……」

側近「ちょっと……少女ちゃんまで……」

魔王「普通に帰ってこさせるとなると時間が掛かるな……」

少女「魔王様のお力も、魔石化できるのですよね?」

魔王「あ?ああ……まあ」

少女「では、転移の魔法を魔石にしては如何でしょう」

側近「……そんな簡単にできるもんなの?」


802: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/18(木) 10:28:48.42 ID:c/wO+3y2P
少女「いくつか作って渡しておけば、色々な所に行って貰えますよ」

側近「さりげなくパシリにしようとしてないか、それ」

魔王「そうだな……良し」パァ……コロンコロンコロン

姫「ぅう……ッ」パリン、パリンッ

少女「あ……!姫様!」

少女「……風よ!」コロン、コロン

側近「……なんか、少女ちゃんまで規格外に見えてきた」

魔王「優秀だと言ってやれ……少女は人間だ」

少女「まだ人間、です……良し、これで……姫様、大丈夫ですか?」

側近「そこ、拘るね……転移石、ねぇ……」

魔王「それだけあれば行けるな……しかし……」チラ

少女「大丈夫です、まだ余力あります……」

少女「割れたらまた、作りますから」

側近「……どちらにしろ、お前一緒に居ない方が良いよ」

魔王「ああ……だが」

少女「別室でされるのは目立ちます……私は大丈夫ですから」

少女「ここで、側近様を転移させてください」

少女「……姫様、少しだけ……我慢してくださいね」

魔王「ジジィが戻ればすぐに、姫の部屋を用意させよう」

側近「はいはい……行ってきますよ」

魔王「港街には盗賊が居るはずだ……癒やしの石を買ってきてくれ」

魔王「数は多ければ多いほど良い……頼むぞ」

側近「ああ。何かあったらすぐ連絡しろよ」

魔王「解ってる……頼むぞ、側近」ス……パァッ



シュゥンッ


803: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/18(木) 10:37:48.02 ID:c/wO+3y2P
少女「風よ……!」コロン、コロン……

姫「……う、ぅ……」パリン…

魔王「大丈夫、か……?」

少女「……取りあえず、は」

魔王「私が着いている、とも言えんな……しかし、お前も顔が青い」

少女「流石に……そろそろ魔力が……」

魔王「落ち着いたらお前の部屋と食事も準備させる」

魔王「……すまん。本当に」

少女「自分で望んでしている事です。魔王様が謝る必要はありません」



カチャ



ジジィ「やれやれ、全くあの女は……おや、側近はどこに行った」

魔王「すまん、ジジィ……先に姫と少女の部屋を用意させたい」

ジジィ「ふむ……そうじゃな、魔王様の傍じゃ姫様の身体に触るの」

ジジィ「……少女の顔色も悪い様じゃ。それに、その石は……?」

魔王「好奇心旺盛なジジィだな全く。話は後!」

ジジィ「ほうほう、すまんのぅ……すぐに使い魔を呼ぼう」



……

………

…………



シュゥウン……ッ



盗賊「ん?」

側近「おわあああああああああああああ!」ドタ!

盗賊「うわあああああああああああああ!?」


804: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/18(木) 10:44:49.39 ID:c/wO+3y2P
側近「……」グタ

盗賊「な、な……ッ な、何だお前……ッ!?」

側近「う、ぅえ……何これ、気持ち悪ぅ……!」オエェ

盗賊「お、おい……ッお前、何者だ!」シャキン

側近「誰か知らんが、やめてくれ……切られたら痛いしよけれる気、しない、今……」

盗賊「……こ、答えろよ!」

側近「魔王様……阿呆ぅ……ッ くそ、乱暴な奴……!」

盗賊「ま……魔王?」

側近「うぅ……ああ、すまん。ここ港街だよな?」フラフラ

盗賊「……何で知ってるんだ」ス……

側近「盗賊ちゃんって子は……?あれ、お前……見た事ある顔だな」

盗賊「俺はお前なんか知らネェぞ!」

側近「あ。ピンクのドレス着てたろ……前。えっと……魔王に言われて」

側近「いや、飛ばされて? ……来たんだけど」

盗賊「な、なんでしってんだよ!?」

側近「見てたからな……ああ、だから!盗賊ちゃんってどこに居る?」

側近「……姫様の事で用事が……」

盗賊「!姫がどうかしたのか!?」

側近「や、だから、盗賊ちゃ……」

盗賊「盗賊は俺だよ! ……おい、姫どうしたんだよ!」ガシ

側近「く、苦しいから離して……話せねぇって!」


816: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/18(木) 15:15:21.32 ID:c/wO+3y2P
盗賊「……あ、悪い」パッ

側近「げほ……ッ ま、まあすぐに会えて良かったぜ……」

側近「実はだな……」



……

………

…………



船長「よーし、そのまま……着岸しろ!」



アイアイサー!



 婦「随分……その、長閑な村ですね」

船長「良く言えばそうだな。悪く言えば糞田舎、だ」

船長「ま、魔導の街と比べりゃどこだって田舎だわな」

 婦「……申し訳ありません」

船長「阿呆。お前さんが謝ってどうするよ……良し、降りるぞ」

船長「俺は酒場に行くけど……どうする?」

 婦「あ……あの」

船長「不安だったら着いてこい」

 婦「……お供します」

船長「おう……って、あのさ」

 婦「はい?」


817: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/18(木) 15:27:10.32 ID:c/wO+3y2P
船長「別にかしこまって喋る必要ねぇんだぜ?」

 婦「あ……はい、でも……その」

 婦「もう、癖になってしまってるんです……気にならなければ……」

船長「まあ、別にお前さんが気、使ってないなら良いけどよ」

 婦「はい……大丈夫です」

船長「ん……じゃ、行くか」スタスタ

 婦「あ……!」

船長「ん?おう、足下気をつけろよ」

 婦「は、はい……あの、あれ……!」

船長「ん……ああ、十字架か」

船長「そういえば、この街にも小さいが教会があったな」

 婦「あ、あの……」

船長「別に俺は気にせず行ってこいよ」

 婦「は、はい!ありがとうございます!」タタタ……

船長「まあ、酒場に連れて行くよりまし……かね」



 婦「……綺麗」ハァ

 婦(ベールを被った、美しい……女性)

 婦(これは、祈りを捧げている姿?)

 婦(夜になれば……このガラスを通して)

 婦(月の光が差し込む……のね)キィ

 婦「……失礼、します」


818: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/18(木) 15:44:14.86 ID:c/wO+3y2P
 婦(……中も、綺麗。それに静か)

神父「おや、こんな田舎の教会に……珍しい」

神父「何か、ご用でしょうか?」

 婦「あ……神父様、ですか」

神父「はい……貴女は?」

 婦「 婦、と申します。あの……」

 婦「……用事、と言う訳では、無いのですが」

神父「ああ、それほどかしこまられなくても」

神父「何も無くても、構わないのですよ……全てに、開かれた場所ですから」

 婦「ありがとうございます……綺麗ですね。それに……とても、落ち着く」

 婦「癒されると言うか……」

神父「そうですか……それは良かった。おや、貴女……腕が……?」

 婦「あ……」

神父「すみません……触れるべきではありませんでしたか」

 婦「いいえ……受け入れて生きる覚悟はありますから」

神父「お強い方ですね」

 婦「……自由は不自由では無いと、教えて下さった方が居ましたので」

神父「そうですか……ふむ。こちらを向いて?」

 婦「はい……?」

神父「……綺麗な、深い青の瞳をしていらっしゃる」

 婦「そう、ですか……?」ドキ

 婦(……いやだ、私……何で)ドキドキ

神父「曇りの無い澄んだ瞳……人を疑うことを知らない……」

 婦「……」ドキドキ

神父「……故に、愚か」ニヤ

 婦「え……?」

神父「……目を見ろ 婦。名を預かる」ジィ……

 婦「あ、ぁ………」クラクラ……フラリ

神父「おっと……」ガシ


819: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/18(木) 16:04:05.88 ID:c/wO+3y2P
神父「……さて、魔王様。今頃魔導将軍を倒したって」

神父「安心していらっしゃる頃でしょうかね……」クック

神父「この娘は頂くよ……自分の甘さを身をもって知れば良い」バサッ

神父「ああ、肩凝るな……良くこんなモン着てるよ」

神父「さて……目を覚ませ、 婦」

 婦「う……うぅん……」

神父「お前は何をしにここへ来た?」

 婦「神に、仕える為……に」

神父「お前の神は私だ」チュ

 婦「……私の神は、貴方……ぁ」

神父「そうだ。お前は神に仕えて何をする?」チュ、チュ……

 婦「ん、 ……私、は……人々に、癒し、を……ぁ …ンッ」

神父「そうか……具体的には?」ペロ

 婦「ぅ、 ……ッ ン、癒しの、魔法で…… 魔石、を……」ハァ

神父「魔石……?詳しく話せ」

 婦「力を、具現化……あ、ァ……ッ」

神父「……フゥン、それ、魔王様の入れ知恵?中々考えるね」

神父「魔法を具現化……ね。頭は回るのか」

神父「まあ、そうじゃ無いと……魔導将軍を出し抜けないな」

 婦「ァ、あ……ッ」

神父「君の神は、だれ?」

 婦「あ、ぁ……貴方、です……ンッ」

神父「そう……僕。インキュバスが、君の神だ」

 婦「インキュバス、様……あ、アァ……ッ!」


821: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/18(木) 16:19:24.35 ID:c/wO+3y2P
インキュバス「魔石……癒やしの魔石……ね」ペロ

インキュバス「利用させて貰うか……この娘諸共ね」

インキュバス「さて…… 婦。君は……この教会に仕える事を決めた」

 婦「この、教会……に」

インキュバス「そう。そして……君の名は今日からシスターだ」

 婦「シ、スター……」

インキュバス「そう。 婦という名は捨てた。忙しい神父に変わって」

インキュバス「君は祈りを捧げるんだ。良いね?」

 婦「は、い……」

インキュバス「良い子だ……そうしていれば、またご褒美を上げるからね」

 婦「は……い、インキュバス、様……」

インキュバス「ふふ……魔王様、今度こそ……終わり、だよ」



……

………

…………



船長「良し、決まりだな」

海賊「俺もとうとう海賊廃業か……」

船長「名残惜しいか?」

海賊「いやぁ……まあ、子供ももうすぐ産まれるしな」

海賊「定期船の船長となりゃ、金に困る事もネェかな」

船長「軌道に乗りゃぁなあ……ま、暫くは」

船長「魔導の街から補助が出る……飢える事ぁネェだろ」

海賊「しかし……なぁ。本当なんだろうな?」

船長「だから前金で随分渡しただろ?」

海賊「それが無きゃ到底信じられネェ話だぜ……」


822: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/18(木) 16:43:51.19 ID:c/wO+3y2P
船長「ただしさっきも言ったが、船は持ち込みだぜ?」

海賊「そりゃまあ構わネェよ。アレだってそもそもが商船だよ」

船長「そうだったか……ま、早々に一隻確保できたとなりゃ、俺も」

船長「今日は旨い酒が飲めるってなモンだ」

海賊「おう、そうだな、今日は飲もうぜ……ぱーっと行かないとだろ?」

海賊「こういう時は、さ」

船長「俺の奢りで、って言いてぇんだろ……残念だがな」

船長「連れがいるんだよ」

海賊「……女、か!?」

船長「女は女だが、俺のじゃネェよ」

海賊「なぁんだ……お前にも漸く春が来たかと思ったのによ」

船長「ほっとけ……今教会を見に行ってる」

海賊「教会?」

船長「ああ。神に仕えたいんだとよ」

海賊「へぇ……そりゃ、お前がどんだけ男前でも無理だな」

船長「だからほっとけって!」

海賊「しかしなぁ。ここの村の教会は……無人だぜ?随分前から」

船長「そうなのか?」

海賊「確か、な」


835: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/19(金) 09:08:05.03 ID:a9CwiSexP
船長「ふむ……まあ、旅のついでに乗せてるだけだからな」

船長「詳しいことはわからねぇ」

船長(つーか、言えねぇしな)

海賊「まあ、その内良いところ見つかるだろ。どの街にも教会ぐらいあるさ」

船長「そうだな……つか、それにしては遅いな」

海賊「ん?ああ、その女か?」

船長「酒場に行くとは言ってあるが」

海賊「迷うほど大きな村じゃねぇだろ」



キィ……パタン



 婦「船長さん」

船長「おう、お帰り……どうだった?」

 婦「はい、私……この村に残ります」

船長「へ?」

 婦「神父様がお忙しくて、人手を探していらっしゃいましたので」

 婦「それに……とても綺麗で、気に入ってしまいました」

 婦「ここの、教会」ニィ


836: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/19(金) 09:17:38.76 ID:a9CwiSexP
船長「お、おう……そりゃ良かったな、だけどよ」

船長「ここって、無人だったんじゃねぇのか?教会……」チラ

海賊「んあ? ……いや、俺もずっと滞在してる訳じゃねぇしよ」

 婦「はい、神父様もつい先日、いらっしゃった様で」

海賊「へぇ……まあ、良かったんじゃネェの?」

海賊「酒や食いもの目当てに立ち寄る男達にとって」

海賊「べっぴんさんがいるとなりゃ、村も潤うじゃねぇか」ハハハ!

 婦「そんな……」

船長「……んで、その神父様とやらは?」

 婦「はい、裏の山の方へ薬草を採りにいかれました」

船長「そうか……良いんだな?」

 婦「ええ。短い間でしたが、ありがとうございました、船長さん」

船長「おう……頑張れよ」

 婦「名も頂きました……これからはシスターと言う名で生きていきます」

船長「そうか……」

 婦「では、失礼致します……」スタスタ

船長「……」

海賊「良い女だねぇ……ちょっとの間でも一緒の船に居たんだろ?」

船長「ああ……まあ」

海賊「どした?」

船長「いや……なんか、な」


837: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/19(金) 09:34:18.21 ID:a9CwiSexP
海賊「何だよ、寂しいのかよ」ハハハ!

船長「阿呆。そんなんじゃネェよ」

海賊「まあ、これでのんびり飲めるじゃネェか!」

船長「……奢らねぇぞ」

海賊「振られ虫にゃ奢ってやるよ!」

船長「違うっつってんだろうが!」

船長(……なんだか、な。気にしすぎか?)



……

………

…………



側近「……13個、か」コロン

盗賊「全部渡しちまう訳には……悪い」

側近「いや、そりゃ当たり前だ。お前達は生活していかなきゃいけねぇんだし」

盗賊「治癒魔法使える奴少ないんだ。それに……」

盗賊「みんな、あんまり良い……境遇じゃなかったからな」

盗賊「基礎は出来てても体力とか、魔力とか……少なくて」

側近「これだけでも助かるさ……取りあえず、他の方法も探すしな」

盗賊「姫……だからここに居ろって言ったのに……」グッ


838: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/19(金) 09:45:58.80 ID:a9CwiSexP
側近「俺もその方が良かったんじゃ無いかと思うけどな」

側近「……だが、姫様自身が望んだ事だ」

盗賊「……うん」

側近「また、来る時までに用意しておいて貰えるとありがたい……ほら、これ」

盗賊「ああ、そりゃ勿論だ。姫の為って言えばみんな喜んで……おわ、重ッ」ズシ

盗賊「……え、金……こんなに!?多いよ!」

側近「お前達の生活の為だ。取っとけ」

盗賊「で、でも……!」

側近「仕事は仕事。これは報酬なんだから、ありがたく受け取りなさい」

盗賊「良いのか……?」

側近「当たり前だ。親しき仲にも礼儀あり、だぜ」

盗賊「サンキュ……ありがたく貰っとく」

側近「ああ、じゃあとりあえず戻るか……少女ちゃんの力じゃ限界があるしな」

盗賊「ん?少女って……治癒魔法使えたのか」

側近「ああ、いや。大地の加護受けてんだ、あいつ。だから……」

盗賊「ああ……緑とか水とかは癒やしの力に長ける……か、ら……」

盗賊「……」

側近「どうした?」

盗賊「あの、場所……」

側近「ん?」

盗賊「……聞いてると思うけど。廃港のあるあの島」


839: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/19(金) 09:52:48.70 ID:a9CwiSexP
側近「ああ……『始まりの大陸』な」

盗賊「始まりの大陸……?」

側近「滅びる前はそう呼ばれて居たみたいなんだ」

側近「……それが、どした?」

盗賊「いや……姫と魔王が言ってただろ?」

盗賊「光の溢れる美しい場所だって。魔王が……息苦しい位」

側近「……そうか!」

側近「知人の墓があるんだったな……丘の上、か」

盗賊「あ、ああ……エルフの加護がどうとか言ってた」

側近「良し……俺はそこに行ってみる!」

盗賊「え!?で、でも船は……」

側近「大丈夫だ。魔王様に貰った転移石がある……ああ、また気持ち悪くなるのか」

盗賊「我慢しろよそれぐらい!」

側近「うぅ……そ、そうだよな」

盗賊「俺たちも石の準備しておくから……頑張ってくれ」

側近「ああ、そっちは頼んだぜ……!」グッ



シュゥウン……

オェ……



盗賊「……おえ、て聞こえた」



……

………

…………



シュウン……ドタ!



側近「……うぅ、痛いわ気持ち悪いわ……」


840: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/19(金) 10:02:47.73 ID:a9CwiSexP
側近「魔王様の目で見たのは確か……」

側近「……始まりの街か。ぼろぼろだな」

側近(川沿いに歩いて……丘の上……この道かな)スタスタ



ザァアアッ



側近「……おっと」

側近(吹き抜ける暖かい風に、爽やかな陽の光、ね)

側近「成る程。こりゃ……魔族にはきついか」

側近(元人間とは言え……闇を選んだ奴には確かに)

側近「……息苦しい、ね」

側近(枯れない花、エルフの加護か)

側近「かといってなぁ……俺じゃ……」

側近『魔王様!』

魔王『側近、今どこだ?』

側近『始まりの街だ』

魔王『……何で?』

側近『手短に話す……姫はどうだ?』

魔王『部屋を移して、少しマシな様だが……』

側近『そうか……とりあえず、治癒の石は買ってきたが』

側近『数がな……で、だ』

側近『……知人の墓に来てみた。エルフの加護だとか、聞いたからな』


841: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/19(金) 10:15:13.29 ID:a9CwiSexP
魔王『ふむ……そういえばそうだったな』

側近『かといって、俺にはどうしようも無いけどな』

魔王『……お前、魔族だしな。となると……少女か』

側近『ああ……だが……』

魔王『……取りあえず戻れ。姫には少女がついてるし、ジジィもいるしな』

魔王『書庫に居る……そこに戻ってくれ』

側近『ああ、解った』

魔王『狼将軍の話もせねばなるまい……待ってるぞ』



側近「……そうか、狼将軍忘れてたわ」

側近(はぁ、胃が痛い……)グッ



シュゥウン



……

………

…………



シュンッ スタッ



側近「……お、立てた。 ……あ、気持ち悪」ウェ

魔王「こっちだ、側近」

側近「本当にお前、この部屋好きだな」

魔王「必要に駆られてるだろう、今は」

側近「……姫は?」

魔王「私の部屋の隣にベッドを運ばせた……その続き間に少女を」

側近「そうか……大丈夫なのか?それで……」


842: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/19(金) 10:29:15.06 ID:a9CwiSexP
魔王「部屋の入口に石を置いてある……姫の傍にもな」

側近「……随分疲れたんじゃないか、少女ちゃん」

魔王「だろうな。今は食事を取らせて休ませた」



カチャ



ジジィ「ふう、寝顔は可愛いものよの……おや、側近戻ったか」

側近「おう……丁度良かった。癒しの石だ」ジャラ

ジジィ「なんじゃ、これだけか……ああ、これ。魔王様は近づくでない」

魔王「……魔法を使わねば大丈夫だろうに」

側近「人が苦労してきたって言うのに、労いの言葉一つないかな、このジジィは」

ジジィ「魔王様の転移の力で、じゃろう……何が苦労か」

ジジィ「魔王様、何か見つかりましたかの?」

魔王「これといってめぼしい物は……な。まあ、だが」

魔王「少女に頼まれた物は見つけた」

側近「何頼まれたんだ?」

魔王「魔力を高める方法、とやらの本だ」

側近「……大丈夫なのか?」

魔王「読むだけなら支障あるまい」

ジジィ「ふむ……では石は預かりますぞ。姫様の部屋へ置いて来ねばの」

ジジィ「お二人も魔王様の部屋へ……ここはかび臭くてな」

魔王「ああ……側近、そっちの本と羊皮紙の束を持ってくれ」

側近「あ?ああ……何すんだ、こんなもん」

魔王「まあ……暇つぶしだ」

側近「潰す暇なんかあるのかよ……」


857: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/20(土) 09:45:17.38 ID:oSlE0VRRP
魔王「城に居ろと言ったのはお前だろう側近」

側近「まあ、そうだけど……」

魔王「行くぞ……ああ、これも持ってくれ」ドサ

側近「ねえ……ちょっとは労って、マジで」



……

………

…………



魔王「良し……まあ、これだけあれば当分はいけるか」

側近「何なの、お絵かきでもする気なのお前」

魔王「残念ながら私に絵心なんて物は無い」

側近「……威張って言う事かよ」



カチャ



ジジィ「お待たせしましたな……今茶も運ばせましょうぞ」

側近「姫はどうだ」

ジジィ「目は覚ましておられますが……起き上がるのは辛そうですな」

ジジィ「少女の大地の魔石と癒やしの魔石で楽にはなったと言っておられるが」

ジジィ「……早急に、何かしらの対処はせねばなるまいて」

魔王「そうか……数の問題では無いのだろうかな」

側近「あるに越したことはネェだろ……だが」

魔王「港街から輸入するにも、過激派が居るとな」


858: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/20(土) 10:01:12.11 ID:oSlE0VRRP
側近「ああ、それな……船長には話したのか?」

魔王「既に伝えてある。依頼も含めてな」

ジジィ「何の話ですかの?」

魔王「この大陸には人間側からの物資等殆ど届かないだろう?」

魔王「だからそれを解消する為にな、まあ……船便を頼んだのさ」

側近「で、その窓口になれって言うんだよ、魔王様は。多忙な俺に!」

魔王「信用して言ってるんだ。喜べ」

側近「……いやそりゃ嬉しいんだけどね。光栄なんだけどね!」

側近「素直に喜べねぇ……」

魔王「何言ってるんだ。商売に関する本、持って行ったのお前だろう」

側近(ぎく)

魔王「話した時随分ノリノリだったじゃないか」

側近「……いや、意外と面白いなぁと」

魔王「なら素直に喜べ」

側近「わー……い」

魔王「……不満なのか?」

側近「問題山積みだからね! ……解消すりゃ、大手上げて喜ぶさ、そりゃ」

ジジィ「ふむ……狼将軍ですがの」

魔王「ああ……何だったんだ?」

ジジィ「何、探りに来たに過ぎませぬ。魔導将軍の死に関わる紫の隻眼の男」

ジジィ「心当たりは無いかとな」

側近「心当たりも何も……態とらしいナァ」

ジジィ「どうでしょうかな。あの女の脳みそは大した事ないじゃろうて」


860: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/20(土) 10:10:25.35 ID:oSlE0VRRP
魔王「しかし……紫の瞳は私しか居ないのだろう?」

側近「知ってる限りでは、だ」

ジジィ「そうですのう……前魔王様は、違いましたからな」

魔王「……ああ、そういえば」

側近「隻眼ってとこに不思議がっても、まぁ……疑惑は余りあるわな」

ジジィ「皆魔王様の顔は知っておるからの」

魔王「ふむ……それで?」

ジジィ「狼将軍は、魔導将軍を殺した男の討伐を自分に命じろ、と」

側近「……そりゃ、魔王様だろうと思って言ってるんかね」

ジジィ「如何でしょうかな……そこまでは」

魔王「血の気の多い女だからな、そもそも」

ジジィ「奴も過激派の一人でしょうからな……まあ、いきなりここに攻めて来なかっただけ」

ジジィ「少しは頭が働いた、のでしょうな」

側近「他者の……だろ?」

魔王「ん?」

側近「あの女を止めた奴がいるって事さ。誰かと繋がってるとみて良いだろう」

側近「眷属の狼共は数こそ多いが……力はそれほどな」

側近「だが、数があるから厄介だろ?城に放たれてみろよ」

魔王「私ならば……」

側近「そりゃ駆除は出来るさ……だが、使い魔共もいるんだぜ?」

魔王「ふむ」

ジジィ「全て守りきるのは困難でしょうな。それに今は……」

魔王「少女も、姫も居る……か。ならば」

魔王「まさに向こうから見れば狙い時だろうに」


862: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/20(土) 10:23:55.35 ID:oSlE0VRRP
側近「だから、さ……知ってるか否かは別として」

側近「何故命令の懇願だけに来たのかって事さ」

魔王「……ふむ」

ジジィ「偵察と挑発とみて良いでしょうな」

ジジィ「『魔族以外の美味しそうな匂いがする』だとか吐き捨てていきよったでな」

側近「思いっきりばれてんじゃねぇか!」

魔王「宣戦布告のつもりか……」

ジジィ「しかし、裏で誰と繋がっているのだかはっきりさせないといけませんの」

側近「……厄介なのとくっついてなけりゃ良いがな」

魔王「ふむ……良し、側近とジジィはそっちを調べてくれ」

魔王「後、少女の目が覚めたら私の部屋へ」

側近「解った……無理はさせるなよ」

魔王「勿論だ」


880: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/21(日) 09:38:47.45 ID:qZX6Sf0IP
ジジィ「ふむ……では鴉も呼びましょうか」

側近「あいつ何処にいんの」

魔王「城を出て長いな……」

ジジィ「部下の鳥共に探させましょうぞ。何匹かは庭でくつろいでいますとな」

ジジィ「焼き菓子目当てに寄ってきおるのでの」

魔王「……それだけ聞けば長閑な風景なんだがな」

側近「古参の魔族とその眷属ってのをを無視すればな」

ジジィ「まあ、任せておきなされ」

側近「俺も別方向から探る……じゃあな」スタスタ

ジジィ「少女が起きたらこちらへ来る様に使い魔に伝えておきましょう……ではの」スタスタ



パタン



魔王「さて……」

魔王(問題は、姫だ。いくら望んだ事とは言え……)

魔王(身体に良いはずがない。早急にどうにかしないと)

魔王(しかし……)



コンコン、カチャ



少女「魔王様、失礼致します」


881: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/21(日) 10:04:54.52 ID:qZX6Sf0IP
魔王「おう……大丈夫なのか?」

少女「はい……食事も頂きましたし、休ませて頂きましたから」

少女「それに……急いだ方が良いでしょう」

魔王「……すまん」

少女「何か、良い本はありましたか?」

魔王「魔力の増幅に関する本はあったが……」ポン

少女「……」ペラ

魔王「しかし……何するつもりだ?」

魔王「お前は、まだ人間だろうに……」

少女「ジジィさんにお聞きしたんです。人が、魔になるとはどういう事なのか」

魔王「……ほう」

少女「魔王様が貸して下さった本も読みました……で」

少女「私なりに考えてみたんです」

魔王「……」


884: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/21(日) 10:20:32.78 ID:qZX6Sf0IP
少女「本には、魔族が人間の命を奪い」

少女「……そこに、自分の魔力を注ぐのだと書いてありました」

魔王「命を、奪う?」

少女「はい」

魔王「器に魔力を与える事で魔に変化させると言う事か。しかし……」

少女「……魔と変えられた者は、意思や記憶を失い」

少女「作り主に従順な傀儡になると」

魔王「……」

少女「でもその方法では……側近様のケースと違いすぎます」

魔王「そうだな。どこをどう斜めから見ても」

魔王「アレが傀儡には見えん」

少女「ジジィさんは……前魔王様は、側近様を生かした侭」

少女「その身に魔力を注いだのだと仰ってました」

魔王「……そんな事出来るのか?」

少女「器が持たなければ……死んでしまうでしょうね」

魔王「……」

少女「前魔王様は、側近様の命を吸い上げると同時に、魔力を注いだ」

少女「それから……意思の力」

魔王「意思の力?」

少女「推測ですが……魔族になりたいと願う、力では無いでしょうか」

少女「……願えば、叶う」

魔王「ふむ……で、それを私にやれと言う訳だな」

少女「はい」


885: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/21(日) 10:40:54.53 ID:qZX6Sf0IP
魔王「……しかし、な」

少女「解っています……姫様の事がありますから、すぐにとは」

魔王「いや……そうじゃ無くてな」

少女「?」

魔王「……知人の話は前にしたな?」

少女「始まりの大陸、でしたか。お墓があると……」

魔王「そうだ……息苦しく感じる程の光に溢れる場所」

魔王「……港街から帰る途中、側近もその目で見てきた様だ」

少女「エルフの加護……と言っていましたね、姫様」

魔王「あの力を……借りることが出来れば」

魔王「……姫を苦しめずに済むかもしれん」

少女「どうやって……ですか」

魔王「……無茶を言う。許せ」

少女「……?」

魔王「お前は大地の加護を受けているのだろう」

魔王「魔石もすぐに作り方を覚えた……非情に優秀だと思う」

少女「……光栄です」

魔王「吸い上げる事は、できんだろうか。あの……エルフの加護の力」

少女「……」

魔王「……」


886: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/21(日) 11:06:25.34 ID:qZX6Sf0IP
魔王「……すまん。無理を言ったな」

少女「エルフの力を、身の内に留める事は、多分……出来ません」

少女「確かに、人は魔に……闇を選び取り、魔に変じる事はできる」

少女「だけど……」

魔王「……そうか」

少女「私の……身体を。大地の加護を媒介に、何かにその力を移す事は」

少女「……不可能では無いと思います。ですが」

魔王「お前の身が持たん、か」

少女「はい……推測、です。ですが……」

魔王「否、解った。無茶を言って済まなかった」

魔王「別の方法を探そう。姫をあの島へと移す方が……」

少女「待ってください、魔王様」

魔王「ん?」

少女「狼将軍の話や……他の魔族の、過激派の方の問題もあるでしょう」

少女「姫様だけをあそこに移すわけには……今は、無理です」

魔王「……しかし」

少女「確かに、お腹の子供の事も考えると……ここに、長く置かれる事は反対です」

少女「一刻も早く、姫様はこの城から出るべきです。ですが……」

少女「そうすると、確実に……狙われます」

魔王「……」

少女「姫様のお腹の子の事は、まだ誰も……知らないとは思います。が……」

魔王「……しかし、な」


887: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/21(日) 11:14:43.77 ID:qZX6Sf0IP
少女「私は、構いません……魔王様のお役に立つのなら」

魔王「駄目だ!」

少女「……魔王様」

魔王「お前を犠牲にして姫が喜ぶ筈が無い」

少女「違います、魔王様……聞いて下さい」

魔王「……?」

少女「エルフの力を何かに移せば、多分……私の身は持たない」

少女「ですから……そのタイミングで、私を魔へと変じてください」

魔王「!」

少女「そうすれば……全て丸く収まります」

魔王「……可能なのか?」

少女「可能にするのです。私にしか出来ず、魔王様にしかできません」

魔王「願えば叶う?」

少女「はい……そう教えてくれたのは貴方です。魔王様」

魔王「……ちょっと待ってろ」



魔王『側近!すぐに来い!』

側近『は!?』

魔王『私の部屋だ。急げ』

側近『え、や、お前ちょっと……』

魔王『早く!』



少女「魔王様……?」

魔王「側近を呼んだ……奴が来ればすぐに行く」

魔王「……覚悟は良いのだろう」

少女「……はい」


888: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/21(日) 11:22:09.03 ID:qZX6Sf0IP
カチャ



側近「何なのもう!」

魔王「少女と知人の墓へ行く」

側近「は!?」

魔王「エルフの加護の力を吸い上げ、少女を魔へと変じさせる」

魔王「……詳しい話は後だ」

側近「……止めても聞かんだろうな」

魔王「当然だ。姫を……救い、ここに置かねば」

魔王「余所へ移せば、何れ命を狙われるだろう」

側近「……少女は良いのか?」

少女「自分で決めた事です」

側近「違う。ジジィから聞いただろう?」

側近「器が持たなければ、自我を失い死ぬだけだ」

魔王「……」

少女「解っています……自分で、何とかします」

側近「魔族の……魔王様の魔力は凄まじい」

側近「暴走に耐える自信はあるのか?」

魔王「暴走?」

側近「……身体が、自分の全てが劇的な変化をするんだ」

側近「血の一滴。細胞の一つ……全てが、人から魔へと変じる」

少女「そして魔王様の凄まじい力を与えられて、魔となった私の全ては」

少女「……歓喜する」

魔王「歓喜?」

側近「そうだ……押さえきればければ、暴走する」


889: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/21(日) 11:28:33.59 ID:qZX6Sf0IP
側近「……俺は前魔王様に襲いかかったそうだ。覚えてネェが」

魔王「え」

側近「吹っ飛ばされたが、その衝撃と恐怖で正気に戻った」

側近「両手両足、ばっきばきに折れたけどね」

魔王「……それだけで済んで良かったな」

側近「同じ事言われたよ。笑いながら俺をぶん殴った張本人にな」

少女「……」

魔王「止めてやる。必死で願え、祈れ」

魔王「……覚悟が、あるのならな」

少女「はい。骨折ぐらい、耐えます」

側近「……俺が治してやるよ」

魔王「お前はどうしたんだ?」

側近「自力」

魔王「……すまん」

側近「哀れんだ目で見るな!」

少女「では行きましょう、魔王様」

少女「……姫様をこれ以上衰弱させる訳にはいきません」

魔王「ああ……側近、頼んだぞ」

側近「解った……狼将軍も今なら大丈夫だろう」

魔王「攻めてきたら食い止めろ」

側近「……俺が?」

魔王「ジジィにも手伝わせろ」

側近「……死んだら悲しんでね」

魔王「阿呆。許さん」

側近「ですよねー……本当、さらっと無茶言うんだから」


890: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/21(日) 11:39:24.29 ID:qZX6Sf0IP
魔王「……すぐに戻る」

側近「頼むよ……ああ、そうだ魔王様!」

魔王「ん?」

側近「魔に変じたら、名を与えてやれ」

魔王「名?」

側近「そうだ。新しい命に、新しい名。作り主が与える事に意味がある」

側近「……ま、気分的なモンかもしれんが」

魔王「解った……行くぞ、掴まれ」

少女「はい……!」



シュゥン……ッ



側近「……頑張れよ、少女」



コンコン



側近「誰だ」

ジジィ「儂じゃ……」カチャ

側近「ジジィか。どうした?」

ジジィ「窓の外を見ろ、側近」

側近「ん? ……なんだありゃ」

ジジィ「狼共じゃ」

側近「……まじで!?」


892: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/21(日) 11:51:13.71 ID:qZX6Sf0IP
ジジィ「む?魔王様は?」

側近「少女と始まりの大陸に行ったよ!糞、まじか……!」

ジジィ「お主はここに居れ……儂が行く」

側近「おいおいおいおい、死ぬ気かジジィ」

ジジィ「侮るで無いわ若造が……大丈夫じゃ。鴉にも連絡がついておる」

側近「……鴉か。あれもババァじゃネェか」

ジジィ「儂と違って、部下の鳥共も居る」

側近「戦争じゃネェか、これじゃ……」

ジジィ「故に完全制圧せねばの」

側近「……お前の部下は」

ジジィ「元、な……将軍の座を魔導将軍に譲ってからは」

ジジィ「全てあいつについて行かせたからのう」

ジジィ「しかも……死によったからの。儂の言う事を聞く者等」

側近「この状態じゃ、無理か……」

ジジィ「儂一人でも大丈夫じゃ。老いたとは言え」

ジジィ「……元魔導部隊将軍の名は伊達で無いと思い知らせてやろうぞ?」

側近「解った……鴉の部下の鳥共の残りを率いて合流しろ」

側近「……古参二人か。死ぬなよ……ますます魔王様の俺のパシリ頻度があがる」

ジジィ「心配するな……力は衰えても、戦争時代を生き抜いた儂と鴉じゃ」

ジジィ「経験の差はおいそれと埋まらん……ではの」

側近「……また後で、な」

ジジィ「うむ……また後で、じゃ」


893: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/21(日) 11:58:42.38 ID:qZX6Sf0IP
側近「狼将軍め……ここを出てすぐに準備を整えたか!」

側近(否……すでに用意が終わってた、か)

側近(……間に合えよ、魔王様)

側近(姫の妊娠がばれてないのは幸いか……否、一緒か)

側近(婚姻の為に連れ帰ったとみられていれば、世継ぎの件は)

側近(時間の問題……狼将軍が急ぐのも解る。が……)

側近(残りの過激派も動いているとみて良い……魔王様対過激派の)

側近(問題が明るみに出れば……もう、止められん)

側近(……黒幕は誰だ!?)

側近「……城の中に入られる迄は……まだ……掛かるだろうが」

側近(糞……ッ食い止めてやるよ!)



……

………

…………



シュゥン……ッ



魔王「……ふぅ」

少女「大丈夫……ですか」

魔王「私の事は気にするな……頼む、少女」

少女「はい」キョロ

少女(……素晴らしい景色。私にも感じられる、大地の……力)

少女(お願い。少しで良い……私に、力を貸して)

少女(エルフの、お姫様の為に……!)


894: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/21(日) 12:05:38.25 ID:qZX6Sf0IP
魔王「少女、これを」チャラン

少女「……はい、これは……ペンダント?」

魔王「魔導の街で買った物だ……姫に似合いそうだと思ってな」

魔王「これならば、身につけていられるだろうし」

少女「はい……お借りします」グッ

少女(……命を。エルフの加護を、貴方の命を……知人さん)

少女(姫様の為に……お願い)シュゥウウ……

魔王「……」

魔王(気の流れ、力の流れ……か)

魔王(ペンダントに流れ込んで行く……ん、少女の、身体が……ッ)

魔王「無理はするな、少女……ッ お前の身が持たん!」

少女「大丈夫、で……ッ す、 ぅう……ッ」

魔王「……ッ」

魔王(瞳が、曇って……行く。命が削られているのか……ッ)

魔王「……ッ少女!」ガシ

魔王(消えてしまう、ギリギリを……待て……ッ 今……ッ)

魔王(魔力を……注ぐ……!)シュウシュウ……!

少女「あ、 ……ぁ、あ……ッ」ガク……ッ

魔王「……耐えろ、少女!」

魔王(願えば、叶うんだろう……ッ 願え……!)

少女「ああああああああああああああああああああああッ!」


895: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/21(日) 12:13:01.12 ID:qZX6Sf0IP
チャリン……



魔王「……うッ」

魔王(ペンダントが緑に……光ってる……ッ)

魔王(少女の足下か……今は、近づけん……ッ)

少女「ああああああああああ! ……あ、ァ……ッ」ガクガクガク

魔王「少女、耐えろ!  ……まずい……ッ」

魔王(暴走、か……!)

少女「うわああああああああああッ」

魔王「少女!」ガシ!ギュウ!

少女「ああ、ァ、ああ ……あ、アアアアア!」シュゥン……シュウゥ!



ザクザクザク!



魔王「ぐ、 ……ッ 風、の魔法か……ッ」ギュウ

少女「ああ、アアアアアアアアアアア、うわああああああああ!」シュゥン!

魔王「大丈夫だ……大丈夫だから! ……痛ゥ……ッ」スバスバッ

少女「ふ、ぅ………あ、ァ……ッ」

魔王「……良し、良し」ナデナデ

少女「ま…… まお、う ……様」

魔王「うん……怪我は、無いな?」

少女「……! 血が……こ、これ、私が……!?」

少女「申し訳ありません、こんな……ッ!」

魔王「気にしなくて良い。大丈夫だ……それより、ペンダントを」

少女「あ、あれ……ッ!?」


896: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/21(日) 12:17:49.85 ID:qZX6Sf0IP
魔王「落ち着け、足下だ……私は触れん」

少女「あ……、あった、あ ……ァ」ギュ

魔王「……良く、やってくれた。少女……否」

魔王「……名をつけろと簡単に言われてもな」

少女「何でも良いです……私はこれからも、魔王様の側用人として」

少女「ずっと、仕えて行くだけです。呼ばれ方など……」

魔王「ふむ……では、これからの役目も踏まえて」

魔王「……使用人、で良いか?」

使用人「はい。ありがとうございます……魔王様から」

使用人「貰った名……大事に、します」

魔王「……休ませてやれずスマンが」

使用人「いえ……不思議と力が、漲ってきます」

使用人「すぐに戻りましょう」

魔王「ああ……!」



シュゥン……ッ



……

………

…………



シュン……スタ!



魔王「ん、側近が……居ない?」

使用人「では、魔王様。私はこれを姫様に」

魔王「ああ、頼む……」



カチャ



使い魔「あ……魔王様!戻られましたか!」

使用人「きゃ……ッ」

使い魔「あ……少女さん、申し訳ありません!」


897: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/21(日) 12:23:13.56 ID:qZX6Sf0IP
魔王「ああ、それは……」

使用人「説明は任せました、魔王様。私は行きます」スタスタ

魔王「……ちょっと側近に似てる気がする」

使い魔「魔王様!外を!」

魔王「外?それより側近は……」チラ

魔王「……なんだ、アレは」

使い魔「……狼将軍の部隊と、ジジィ様と鴉様の部隊が交戦中です」

魔王「何……?」

使い魔「側近様も先ほど……」

魔王「……私が行こう」

使い魔「駄目です!魔王様が出られたら皆殺しですよ!」

魔王「しかし!」



カチャ



側近「大丈夫だ、ジジィ共に任せとけ」

魔王「側近!」

使い魔「……側近様、確かに伝えましたので、私はこれで」

側近「ああ、ご苦労」

魔王「側近!!」

側近「落ち着け……少女の方は、うまくいったんだな?」

魔王「使用人、だ」

側近「オーケー……後は、姫か」

魔王「……ジジィと鴉は!」

側近「大丈夫だ……てか何お前その怪我」

魔王「ああ、忘れてた。治してくれ」


898: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/21(日) 12:30:06.97 ID:qZX6Sf0IP
側近「……要求の多い奴」パァ

魔王「任せとけと言ってもだな。狼将軍の部隊は数が……」

側近「俺たちは他を潰すんだ」

魔王「……他?」

側近「黒幕が解ったって事さ。て言っても消去法での推測に過ぎんが」

魔王「誰だ」

側近「……インキュバスだよ。魔導の街にも出入りしてたみたいだ」

魔王「……」

側近「お前達、見張られてたんだろう?」

魔王「魔導将軍の手の者では……」

側近「繋がってないと考えるのは不自然だろ」

魔王「……今は、何処に?」

側近「鴉の鳥に寄ると、鍛冶師達の村だ」

魔王「……あの山岳にある村か」

側近「船長があそこに寄っている。もう船を出した様だがな」

魔王「離れたのか、なら……」

側近「教会があってだな」

魔王「?」

側近「教会に一人、女が居るそうだ」

魔王「…… 婦、か!?」


907: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/21(日) 15:24:31.41 ID:qZX6Sf0IP
側近「片腕の薄幸そうな祈り女……決まりだろ?」

魔王「……今、どうしているんだ」

側近「そこまでは、な……だから、確かめなきゃならんだろ」

魔王「ふう……次から次と」

側近「解ってた事だろうが」

魔王「で……私が行く、と言っても聞かないだろう」

側近「それも解ってる事だろう……随分良い子ちゃんじゃネェか」

魔王「今この状況で城を離れる訳にいかん事ぐらい、いくら何でも解る」

側近「成長したねぇ」

魔王「……お前な」

側近「数は減るだろうが……狼将軍は確実に城まで来るさ」

魔王「だろうな」

側近「いくらジジィと鴉のババァとは言えな」

側近「……老い、てのは辛いもんだ」

魔王「……」

側近「睨むな。何故行かせたと聞きたいんだろうが」

魔王「いや……そうじゃない。あの時は仕方なかっただろう」

魔王「お前までここを離れる訳にはな」

側近「姫が居たからな」

魔王「……すまん」

側近「謝る事じゃ無い……王の決定だ」

側近「姫と正式に夫婦になるつもりだったんだろ?」

魔王「……姫が良いと言えば、な」


908: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/21(日) 15:41:29.60 ID:qZX6Sf0IP
側近「なら、椅子に座って……堂々としていろ」

魔王「……部下に攻め込まれる魔王っていう時点で堂々、て言うのもな」

側近「今更だ……良し」

魔王「行くのか」

側近「お前に貰った転移石がまだ残ってるからな」

魔王「……頼む」

側近「取りあえず様子を見てくる…… 婦は、俺の顔は知らないよな?」

魔王「ああ」

側近「良し……こっちは、頼んだ」シュゥン……オェ

魔王「……おぇ?」



バタバタ……バタァン!



使い魔「魔王様、城門の所に狼将軍と、配下の狼たちが……!」

魔王「使用人に姫を守れと伝え……お前達も避難しろ」

使い魔「……使用人?」

魔王「ああ……少女の事だ」

使い魔「は、はい……!」

魔王「……私も行く」

使い魔「ど、何処へ?」

魔王「玉座の間に決まっておろう? ……アレは、私の椅子だ」


909: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/21(日) 15:49:15.52 ID:qZX6Sf0IP
……

………

…………



姫「……ん」パチ

使用人「姫様……どうです、ご気分は」

姫「少女……? ここは、魔王の城……よね?」

使用人「はい」

姫「……苦しくない。どころか……とても、良い気分だわ」

使用人「それは、良かった……」ホッ

姫「……あ、貴女……! ……?」チャリン

姫「これは……」

使用人「……エルフの加護、です」

姫「ど、どうやって……!?」



コンコン



使用人「はい」

使い魔「使用人様、姫様と共に安全な場所へ」

姫「安全な場所……?」

使用人「狼将軍が、攻めてきたのですね」

姫「!?」

使用人「魔王様は?」

使い魔「……避難する様にと仰られ、玉座の間に」

使用人「そうですか。ならば私と姫様はここに」

使い魔「し、しかし……!」


910: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/21(日) 15:54:50.49 ID:qZX6Sf0IP
使用人「魔王様は迎え撃たれるおつもりでしょう」

使用人「ならばその奥に当たるここが一番安全です」

姫「……ちょ、ちょっと、どういうこと!?」

使用人「姫様には後でご説明いたします」

使い魔「ですが、突破されたら……!」

使用人「貴方は、自分の主を信じないのですか」

使い魔「……」

使用人「貴方もここに居れば良い……どこに逃げるよりも安全です」

使用人「姫様、構いませんよね?」

姫「え、ええ……それは、勿論」

使い魔「……失礼します。皆にも、避難を促さなければ行けません」

使用人「……そうですか」

使い魔「戻れたら、戻らせて頂きます」



パタン



姫「……行かせて、良いの」

使用人「自分で決めた事ならば仕方ありません」

使用人「姫様だって。魔の気……ここまでとは思ってなかったかも知れませんが」

使用人「体調を崩される事は予想できたのでは?」

姫「……少し、気分が悪くなる程度だと思ったわ」

姫「まさか、こんなに……なるとは」

使用人「それでも、ご自身の意思でこうしてここに来る事を選んだのでしょう」

使用人「……魔王様が、拒否なさらないのも解っていらしたでしょう」


911: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/21(日) 16:06:14.01 ID:qZX6Sf0IP
姫「……戻って、来るのかしら」

使用人「さっきの使い魔ですか……どうでしょうね」

使用人「避難を促しに来た、と言う事は……城に到達したのでしょうね」

姫「狼将軍、とやら?」

使用人「はい」

姫「……戦ってるの、魔王は」

使用人「魔王様の所まで来るのは……いえ、時間の問題でしょうね」

姫「……少女、貴女……魔族になれたのね」

使用人「今は、使用人と言う名を頂きました」

姫「……まさか、この……ペンダントを作るために?」

使用人「正解ですが……ちょっと違います」

姫「……」

使用人「それは、魔王様が魔導の街で貴女に、と買われた物だとか」

使用人「……私は、大地の加護を受けているので」

使用人「あの、知人の墓の大地の力……エルフの加護を」

使用人「そのペンダントに移したに過ぎません」

姫「エルフの力を体内に!?そんな事……!」

使用人「はい……私の、少女の頃の人の器では」

使用人「……耐えられませんでした」

姫「……ッ」


912: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/21(日) 16:14:55.42 ID:qZX6Sf0IP
使用人「丁度良かったんです。どうせ、私は魔になりたかった」

姫「……」

使用人「貴女が責任を感じる必要はありません、姫様」

使用人「人間の侭では、私の力にも限りがある」

使用人「……緑の魔石を作るにも、限界がありました」

姫「……あの、癒やしの石は……側近さんが持ってきてくれたんですってね」

使用人「そうです……盗賊も心配していたでしょうね」

姫「貴女は……魔王が好きなのね?」

使用人「我が王ですから、当然です」

姫「……私が憎くは無いの。こんな、こんな事態を……!」

使用人「勘違いなさいません様……狼将軍の件は貴女の責任じゃありませんよ」

姫「……魔導将軍だって!」

使用人「姫様」

姫「……」

使用人「時期は早まった……のかもしれません。ですが」

使用人「貴女を助けろと言ったのは魔王様です」

使用人「主様の命令でしたら、喜んで従います。怨むなど……」

姫「……」

使用人「あの方は、王です」

使用人「私が従うべき、王です」

姫「だけど……!」


913: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/21(日) 16:21:28.33 ID:qZX6Sf0IP
使用人「貴女は、魔王様を信じているのでしょう?」

姫「え……?」

使用人「大丈夫です。信じましょう」

姫「……魔王は、過激派を全て……殺すつもりなのかしら」

使用人「戦争状態と変わりありませんからね」

使用人「先に手を出したのは……あちらです」

使用人「狼将軍は主である筈の魔王様に反旗を翻した」

使用人「……許されませんよ」

姫「……」



ドォオンッ



姫「きゃ……ッ」

使用人(爆発音……!)

姫「魔王……!」

使用人「……ッ 大丈夫です、姫様」

姫「……で、でも……!」

使用人「私達に出来る事は、ありません……今は」

使用人「ここで、待っている事だけです」

姫「……」

使用人「魔王様は何があっても貴女を守ろうとしたんです」

使用人「今出て行って戦いに巻き込まれでもしたら」

使用人「それこそ、無駄になるでしょう!」

姫「!」

使用人「……何かあっても私が守ります」

姫「少女、貴女……」

使用人「使用人、です……主様の命令は絶対です」

使用人「……我が、王ですから」


915: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/21(日) 16:38:44.39 ID:qZX6Sf0IP
……

………

…………



ドォオン……バターン!



狼将軍「サァて……そこ、退いてくれるね魔王様?」

魔王「相変わらずせっかちな女だな、お前は」

狼将軍「ここまで派手にやっておいて、しおらしくする方が不自然だろ?」

狼将軍「魔導将軍をやったの、アンタが連れ込んだエルフの女なんだろ?」

魔王「……」

狼将軍「女の尻追っかけ回して、その後ろに隠れてる魔王だなんてお笑いだ」

狼将軍「そんな奴がその椅子に座って、アタシ達の上司だなんてね!」

魔王「で……それが王である私の城に攻め入った理由と言いたいのか」

狼将軍「いくら王の女か知らないが、先に手を出したのはその女だろう!」

魔王「……それで?」

狼将軍「弔い合戦さ? ……大義名分万歳、ッてね!」ダダ……ヒュウン!

魔王「! ……ッ」ザシュッ

狼将軍「さあ、これ以上痛い目にあいたくないなら大人しくそこを譲りな」スタッ

狼将軍「アタシの爪は痛いだろ? ……知っての通り、アタシは気も短いんでね」

魔王「断る。これは私の椅子だからな……炎よ」ゴォォ……ッ

狼将軍「そうかい。なら力尽く……ッ !?」

魔王「行け、炎の蛇……飲み込め!」ガアアアアアア!

狼将軍「な、早……ッ うあああ……ッ!?」

魔王「どうした。力尽くで退かすのだろう」

狼将軍「く……ッ 揃いも揃って口は達者だね!」

魔王「……誰の事だ」


916: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/21(日) 16:50:25.03 ID:qZX6Sf0IP
狼将軍「サァね……今頃、アタシの狼共に食われてるかナァ?」

狼将軍「悪食とは言っても、すかすかの老骨だ……食い応えは無いだろうが」

狼将軍「……綺麗さっぱり、全部平らげりゃ腹の足しにはなるだろ!」ダダダットン……ッ

狼将軍「死ね、魔王……!その喉、切り裂いてやる!」ザシュ……!



ガシ……バキン!



狼将軍「……! な、あ、 ……アタシの、爪が……ッ」

魔王「ふむ……柔い爪だな。私は素手だぞ?」

魔王「お前狼じゃ無くて、犬の間違いじゃ無いのか」グイッギリギリ……ッ

狼将軍「……ッ ぐ、ァ」

魔王「ほう、腕は柔らかいな……ふさふさして撫で心地は良さそうだが」グググ……バキン!

狼将軍「い、あァアあ……ッ! は、離……ッ ギャアアアアアアアアアアアアアア!」

魔王「私はすべすべの方が好みだな……」

狼将軍「あ、あああああ ッ 腕、う……あ、あッ」

魔王「腕の一本、どうという事あるまい? ……あの悪食狼共は」

魔王「ジジィと鴉の腹でも食い破ったのだろう……こんな風に……炎よ!」ゴォゥ…ッ

狼将軍「……ッ !!」

魔王「蛇となりて、獣の腹を食い破れ……!」

狼将軍「ぅ、あ ……熱い……ッ 」ゴォ……ブチ、ブチブチ……ッ

狼将軍「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!」

魔王「喰らえ……骨も残さず焼き尽くせ」

狼将軍「いやあああああああ!熱い、熱い……ッ」

魔王「お前が言ったんだろう。弔い合戦だとな」


917: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/21(日) 16:57:45.42 ID:qZX6Sf0IP
魔王「……お前が死ねば、眷属の狼共も自然に変える」

魔王「主を失った獣は自我も失い……何れ共食いによって淘汰されるのだろう」

魔王「……始まりの街の時の様に、な」

狼将軍「……」

魔王「もう聞こえて居らぬか。フン……口だけはどっちだ」

魔王「……すまん。ジジィ……鴉」

魔王「古参の者は……全て逝った、か」

魔王(こんな形での……世代交代など)

魔王「……使い魔?」



シ……ィン



魔王(犠牲になって居らねば、良い……が)



……

………

…………



シュゥン……オェエエ バタッ



側近「……この間立てたのはまぐれか奇跡か」ムクッ

側近(これは……教会か。入口は表か)スタスタ



キィ……



 婦「どちらさま、です?」

側近「……ああ、えっと」

側近(片腕の祈り女……間違いない。 婦、かな)

 婦「旅の方ですか?」

側近「あ、うん、はい、そう……そうです」


919: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/21(日) 17:03:30.93 ID:qZX6Sf0IP
 婦「ようこそ、教会へ……どうぞ、ごゆっくりなさってください」

側近「ありがとうございます……ん?」

 婦「何か?」

側近「あの……石は?」

側近(特にこれといっておかしな様子は無いが……)

側近(こんなに……痩せてたか?この娘……)

 婦「あれは、魔除けの魔石です」

側近「……魔除けの魔石?」

 婦「はい。徳を積んだ神父様がお作りになられる、神聖な物です」

 婦「……お一つ、如何です?」

側近「へえ……見せて貰っても?」

 婦「ええ、どうぞ……少々値は張りますが」

 婦「旅の安全の為に……」

側近(……魔除け石、ね……しかし)

側近(神聖……?わからん)

側近(……魔王様か姫に見せてみるか)

側近「値が張る……って言っても、これで魔物が寄ってこないなら」

側近「助かりますね」

 婦「そうですね。あまりに強い魔には効き目がないかもしれませんが」

側近「貴女が作られた物もあるんですか?」

 婦「私はまだ、修行中ですので」


920: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/21(日) 17:11:56.03 ID:qZX6Sf0IP
側近「そうですか……その、神父様は?」

 婦「……裏の山に、薬草を採りにいっておられます」

側近「へぇ……ああ、あの籠に入っている物、ですか?」

 婦「ええ、そうです。怪我をされた方々に、無料でお配りするので」

側近「成る程……」

側近「……魔除け石、ね」

 婦「ええ……売上金は、この教会の修繕や、寄付に回させて頂きます」

側近「では、一つ頂きます」

 婦「ありがとうございます……どうぞ」

側近「……では、旅の無事を祈らせて頂いても?」

 婦「勿論です……どうぞ」

側近「では、失礼します……」ス……



側近『魔王様、そっちは片付いたか?』

魔王『側近か……ああ』

側近『……元気ネェな』

魔王『ジジィと鴉がな……』

側近『……そうか』

魔王『狼将軍は片付けた。獣共は……放っておいて良いだろう』

魔王『お前は何処に居る』

側近『教会だ……見えるか?』

魔王『……お前、目閉じてないか』

側近『あ』

魔王『……阿呆。後で見る』

側近『い、祈ってるんだ!仕方ないだろ!』


921: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/21(日) 17:18:04.74 ID:qZX6Sf0IP
側近『インキュバスの野郎は居なかった。それから……』

側近『魔除けの石とやらを買わされたぞ?』

魔王『魔除けの石?』

側近『まあ、持って帰る……目を開けるから見ろ』

魔王『……早めに戻ってくれ』

魔王『これからの事も……相談したい』

側近『ああ……後は、インキュバスだけだ』

魔王『…… 婦の様子は……ああ、良い……見よう』



側近「……ありがとうございました」

 婦「いいえ……どうぞ、私も、貴女の旅の無事をお祈り致します」

魔王『…… 婦!?随分と痩せているな』

側近『急に話しかけるなよ!』

側近「ありがとうございます。それじゃ……」

魔王『インキュバスが関わっているとなると……精気を吸われて……』

 婦「はい……また、機会があればお尋ねください」

魔王『……ッ  婦……操られている、のか……』

側近「あ、はい、えっと……」

側近『ちょっと待てって!もう!』

 婦「私はシスターと申します」

側近「シスター?」

魔王『シスター?』

側近『ちょっと黙ってろって!もう!』

 婦「はい……では、行ってらっしゃいませ」

側近「……」ペコ。スタスタ


938: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/22(月) 09:25:10.38 ID:HUmPmEEcP
側近『……どうだ?』

魔王『こうしてみるだけでは変わりない様に見えるが……随分痩せた』

側近『裏に居るのがインキュバスじゃな』

魔王『……本人は居なかったんだろう?』

側近『その……神父様、てのが奴かどうかの保証も無いな』

魔王『ふむ……』

側近『少し街の様子を見て帰る……大丈夫か?』

魔王『もう片付いてはいるが……使用人だけでは少々手が足りん』

側近『使い魔共がいるだろ?雑用ならそいつらに任せれば……』

魔王『ある程度使用人に確認させたが』

魔王『……』

側近『……食われたか』

魔王『か、逃げ出したか、だな』

側近『そうか……』

魔王『使用人が戻れば、少し出る』

側近『お、おいおい、何処行くんだよ』

魔王『周辺の見回りだ、心配するな』

側近『狼共は放置で大丈夫だろう?』

魔王『……そうじゃない』

側近『ジジィと……鴉か』

魔王『骨も残って居ない……だろうが』

側近『……あの狼が相手じゃな』

魔王『確認ぐらい……させてくれ』

側近『……反対する理由も無いだろ』

魔王『残って居る使い魔が居れば助けてやらんとな』


939: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/22(月) 09:47:26.46 ID:HUmPmEEcP
側近(……随分参ってるな)

側近(無理も無い……か。お……酒場か)



キィ



店主「いらっしゃい……空いてる席にどうぞ」

側近「昼間っから盛況だね」

店主「こんな辺境の村じゃ娯楽はこいつぐらいしか無いって」チャプン

側近「酒か……」

店主「兄ちゃん、何にする?」

側近「……ホットミルク」

店主「え」

側近「俺酒飲めネェの」

店主「……あいよ」クック

側近(笑うなよ、糞……悪かったな)

側近「さっき、教会に行ってきたんだけどさ」

店主「ああ、べっぴんさんがいただろ?……はいよ、ミルク」

側近「ああ……片腕のな。 ……どうも」

店主「何でも魔物に襲われたらしくてなぁ」

側近「……へぇ」ゴクゴク

店主「魔王が世界征服企んでるんだろ?」

側近「……ッ」ブゥ! ……ゲホゲホッ

店主「わッ……、ちょ、兄ちゃん勘弁してくれよ……」オシボリ、ポイ

側近「す、すまん……」フキフキ

店主「驚く気持ちは分かるけどさ……」


940: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/22(月) 10:03:23.77 ID:HUmPmEEcP
側近「悪い……世界征服?魔王……が?」

店主「シスター曰く……そうらしいぜ?」

側近「……シスターが?」

店主「ああ、兄ちゃん、路銀に余裕があるなら」

店主「魔除けの石買っておいた方が良いと思うぜ?」

側近「これか……」コロン

店主「お、もう買ってくれたのか」

側近「買ってくれた?」

店主「いやなに、あのシスターは売り上げの一部を寄付してくれるからさ」

店主「この街も潤うのさ」

側近「……成る程な」

店主「それに旅人達も安全になるだろ?」

店主「ここら辺は山岳地帯だからさ。元々魔物の数も多かったんだが……」

店主「最近特に狼が増えてな」

側近「狼?」

店主「ああ……それがまた凶暴な奴らでさぁ」

側近(狼将軍の……眷属か?しかし……)

側近(魔王様がもう……)

店主「シスターがここの教会に来てくれて、助かるって訳だ」

側近「……ふぅん」

店主「しかもべっぴんだしな。目の保養にもなるしさ」


943: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/22(月) 10:28:17.77 ID:HUmPmEEcP
側近(狼共の様子で……インキュバスには狼将軍の死は伝わってる……と)

側近(見て良いだろう、な……)

側近「神父様、てのは?」

店主「神父様もつい最近っちゃ最近だな。この村に来たのは」

側近「へぇ」

店主「いやぁ……あのシスター、どうにも神父様を追いかけて」

店主「来たんじゃ無いかって噂だ」

側近「追いかけて?別々にこの村に来たんだろ?」

店主「だから、さ!兄ちゃん鈍いなぁ」

側近「あん?」

店主「シスターと神父様が並んで歩いてるの見ると……こう、な」ニヤニヤ

側近「……なんだよ」

店主「いや、見れば解るって……まあ、神に仕えるとは言え」

店主「年頃の女なんだなぁと、な」

側近「その神父様ってのは男前なのか」

店主「そうだなぁ。一見冷たそうな感じに見えるが」

店主「ありゃ、確かに女が放っておかねぇよ」

側近「……」

店主「うちの嫁さん曰くさ」

側近「ん?」

店主「紅い目に銀の髪でさ、こう……ちょっと怪しげな感じなのに」

店主「神に仕える敬虔な姿と相反してたまらん!」

店主「……だとさ」

側近(……間違い無いな。インキュバスの野郎だ)


944: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/22(月) 10:39:37.43 ID:HUmPmEEcP
側近「そりゃ俺も見てみたいね」

店主「自信無くすぜ?」

側近「悪かったな!」

店主「……しかしまあ、真面目な方だよ。仕事熱心だしな」

店主「普段は山の方に薬草を採りに行っていらっしゃるんだ」

側近「それもシスターが?確かに……俺もそんな事聞いたけど」

店主「ああ。それで教会の仕事はシスターがしてるらしい」

店主「神父様は山の静かな場所で、魔石生成もしていらっしゃるしな」

側近「……成る程な」

側近(であれば……これは)コロン

側近(神聖な物なんかであるはずが無い……!)

側近「……うっすら紅いな」

店主「見る分にも綺麗だよな?」

側近「そうだな……ミルク、お変わり」

店主「もう吹かないでくれよ?」コトン

側近「悪かったって……あ、なあ」

店主「うん?」

側近「じゃあ……日中は神父様には会えないのか?」

店主「そうだなぁ。大体日が暮れる頃に降りて来るな」

側近「日暮れ……そろそろか」

店主「もうちょっと後じゃ無いか? ……そんなに会いたいなら」

店主「時間つぶしてけよ……旅の話も聞かせて欲しいしな」

側近「うん……」

側近(今……会うのはちとまずいか?)


945: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/22(月) 10:48:47.55 ID:HUmPmEEcP
店主「こんな商売やってると、それも楽しみの一つでさ」

側近「まあ……そうだろうな」

店主「新しく街もできたらしいしなぁ。この街に良く立ち寄ってた」

店主「海賊船の一つも、商船に鞍替えしてさ」

側近(船長の事……か?)

店長「神父様の魔石も、色んな街に運んで貰ってるんだ」

側近「……今、なんて?」

店長「商売だよ、商売!やっとこの村の未来も明るくなるってもんだ」

側近「この……魔石をか?」

店長「そうだぜ?魔除けの魔石が市場にでりゃ、旅も安全になるし」

店長「俺たちも潤う! ……まあ、魔王が世界をどうこうってのが本当なら」

店長「俺たちも、自衛の手段を持っておくのも悪くはないだろ?」

側近「……そりゃ、まあ」

店長「港街、だっけか?新しい街でも魔石の技術を持ってるらしくてな」

側近「……!」

店長「吃驚だろ? ……絶対安心とは言わネェけどさ」

店長「こうやって、俺らも動かないとな」

側近「そう、だな……」

側近(……そうだ。盗賊達も……否。そもそも、魔石化の技術は)

側近(魔王様が教えた物だ……シスターから方法を聞き出したんだろうが)

側近(神聖な筈の魔石が、そうで無かったとしたら……)

側近(何れ、盗賊達の魔石まで……敬遠される様になるかもしれん)


946: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/22(月) 10:55:10.86 ID:HUmPmEEcP
側近(インキュバスがそこまで考えていたかは解らん、が)

側近(……どちらにしても、港街の経済状況が立ちゆかなくなると)

側近(援助と言う名目の……魔導の街の押さえも聞かなくなるとまずい)

側近「……なあ、魔導の街の話は何か無いか?」

店主「魔導の街? ……ああ、何でも前領主が殺されたって奴なら」

側近「ああ……」

店主「それも魔物の仕業じゃネェかって話だな」

側近「……ほう」

側近(まあ、それは仕方ない……よな)

側近(実際、魔導将軍と前領主をぶち殺した訳だし……)

店長「でも、相当堪えたのか、今の領主が良い奴なのか」

店主「奴隷制が無くなったって聞いたな」

側近「……奴隷」

店主「俺も詳しくは知らないんだけどな」

側近「そうか……ありがとう」

店主「魔族の仕業だったとしても……ま、自業自得だわな」

側近「ん?」

店主「私設軍隊作るとか言う噂もあったしな。元々きな臭い街だよ」

側近「……でも、さ。もし本当に魔王が……ってなら」

側近「力強くネェのか?」

店主「奴隷制敷いてた様な街だぜ?そりゃ兄ちゃんの意見も一理あるが」

店主「結局、あの街の金持ちだか権力者の為だけの物なら」

店主「こんな辺境の街の俺たちにゃあ、関係ねぇよ」

側近(成る程ね……)


947: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/22(月) 11:03:19.66 ID:HUmPmEEcP
店主「この街も鍛冶師達が居るけど」

側近「ん、おお……」

側近(まだ続くのかよ! ……インキュバスと鉢合わせなきゃ良いが)

店主「魔法の力の強い奴らは、あの街に行きたがってたな」

側近「魔導の街にか?」

店主「ああ。魔法剣だか、何だか……そういう、不思議な剣があるんだとさ」

側近「……俺も聞いた事はあるが。ありゃ御伽噺の類だろ?」

側近(魔法剣なんて、魔王様のあの禍々しい剣ぐらいしか知らネェぞ)

店主「俺は詳しくネェからナァ……でも」

店主「扱いが難しいとか何とかで、滅多に鍛えられる奴が居ないんだと」

側近「魔法の知識や力が無いと……か」

店主「御伽であれ、この村の鍛冶師にとっちゃ憧れなのさ」

側近「へぇ……本当にあるなら、見てみたいね」

店主「そうだなぁ……後、エルフ達の使う奴とかな」

側近「エルフぅ?」

店長「この世界のどこかに居るらしいぜ?」

店長「力の弱いエルフでも、簡単にしかも強い!……とか」

側近「へぇ……しかしそれこそ……御伽噺、だろ」

店長「ま、な……しかし憧れるんだろうよ」

側近「奥が深いね……」ガタ

店長「何だ、もう行くのか?」

側近(今を逃すと帰れる気がしない!)

側近「ああ……この山を越えたいんでな」


948: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/22(月) 11:07:47.37 ID:HUmPmEEcP
店主「北の街にでも行くのか?」

側近「……まあ、腕試しかな」

店主「やめとけやめとけ!ここより小さな集落しかないぜ?」

店主「不気味な塔の下じゃ、狼共も群れを作ってるって言うし」

店主「明日になれば船も来る。宿にでも泊まれよ!」

側近「……不気味な塔、ねぇ」

側近「まあ、大丈夫さ。魔除けの石とやらも買ったしな」

店主「どうしてもってなら止めないけどよ……命は一つしか無いんだぜ?」

側近「これでも腕に覚えはあるさ……ま、怖くなったら」

側近「戻ってくるよ」

店主「おう……また土産話持ってきてくれよ?」

側近(ほっとんどお前が喋ってたろ!)

側近(……まあ、良い。本当に出よう……ああ、ケツ痛ェ)



キィ……パタン



側近(北の街……北に街なんかあったんだな。それに……塔?)

側近(狼……狼将軍の眷属か、野生のか解らんが……)

側近(一度確かめに行く必要があるだろうが……)

側近(今は……まあ、良いだろ。取りあえず、戻らないとな)


949: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/22(月) 11:12:53.90 ID:HUmPmEEcP
側近(教会の裏手……はまずいな。インキュバスに会うのは避けたい)

側近(街を出て山の方へ入るか……)スタスタ



インキュバス「そちらは危険ですよ、旅の方?」

側近「!」ソロソロ……クル

側近(アウトー!)

 婦「あら、先ほどの……」

側近「……シスター。と……噂の神父様、ですかね」

インキュバス「……こんな日暮れに山の方へ入られるのは自殺行為ですよ?」

側近( 婦が一緒で助かったのか否か……)

側近「腕試し兼ねて、ですので……大丈夫です」

側近「先ほど、シスターから魔除けの石も買わせていただきましたし?」

インキュバス「魔除け……ふふ、そうですか。ですが……」

インキュバス「良ければ教会で休まれては?宿もこれからでしたら」

インキュバス「取るのも難しいでしょう」

側近「いえ、そんな……ご迷惑になりますし」

 婦「そうですよ……いくら魔除け石があると言え」

 婦「近頃は、狼も増えていますし」

インキュバス「……主が死にましたからね」

側近「主?」

側近(……狼将軍の事か)

インキュバス「ええ。彼らの……主が。ですから……とても凶暴になっています」


950: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/22(月) 11:21:09.44 ID:HUmPmEEcP
側近(狼書軍の眷属……支配から逃れれば、その力は衰えるはずだ)

側近(とは言え……元々凶暴で悪食奴らだからな)

側近(それでも、さらに凶暴化する事は無いはずだが……?)

側近(自我を失って理性を無くした状態、と言いたいのか……)

側近「それは……まあ、でも。大丈夫です」

インキュバス「私も……良からぬ事にならぬようにと」

インキュバス「先ほど、山道等にこの、魔除け石を置いてきたところですよ」ニコ

側近(それ確実に余計凶暴にさせてるよね!)

側近(……て言うか、それが原因じゃネェか、こいつ!)

側近「成る程。流石神父様ですね」ニコ

側近(解ってやってやがるな……くそったれ!)

インキュバス「何処まで力が及ぶか解りませんがね」

側近「でも何故、狼達の主が死んだと?」

インキュバス「感じるのですよ……命の嘆きを、ね」

側近「……流石」

側近(笑ってる……が、殺気はひしひし伝わってくるな)

側近(しかし……こいつの考える事は良く解らんし)

側近(舌戦、頭脳戦で勝てる気はせん……悔しいが)

 婦「はい……流石神父様です」

側近(うっとり見上げちゃってまぁ……)

側近「まあ、ご心配なさらずとも大丈夫ですよ」

インキュバス「……見過ごすわけには参りませんよ」

インキュバス「人を救うのも我々の勤めですから」

側近「……」

側近(逃がさないつもりか?)

側近(しかし……山に入っても転移しずらいな)

側近(……転移なんて悟られるのも、まずい)


951: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/22(月) 11:25:22.22 ID:HUmPmEEcP
インキュバス「ですから。ね?遠慮なさらずとも良いのですよ」

 婦「そうですよ。すぐに支度いたしますから」

側近「……では、一度宿を見て参ります。それで、駄目なら……」

側近「お世話になりますよ」

インキュバス「……ええ。それがよろしいでしょう」

 婦「遠慮なさらず、いらしてくださいね。お待ちしております」

 婦「行きましょう、神父様」

インキュバス「では、後ほど」スタスタ

側近(……どうする。魔王様はなるべく早く戻れと言ってたが……)

側近『魔王様?』

魔王『見てる』

側近『そっちは……落ち着いたか?』

魔王『……側近』

側近『何だ』

魔王『構わん。殺せ』

側近『……魔王様?』

魔王『お前は私の目も持っている。力は強くなっているはずだ』

側近『魔王様!』

魔王『何だ』

側近『……落ち着け』

魔王『……』

側近『今ここでインキュバスを殺せば、本当に魔族の仕業だ何だと言われるぞ』

魔王『間違いではあるまい?』


952: 1 ◆6IywhsJ167pP 2013/04/22(月) 11:31:06.47 ID:HUmPmEEcP
側近『勇者の振りして旅しろなんてのは反故で良い、良いが……』

側近『見ていたなら解るだろう?今……魔族が動いている事を』

側近『人間側に悟られるのはまずいだろ?』

魔王『……共存は面倒だ。不干渉で良い』

側近『だろ?……その為に、俺たちは、過激派の芽を……』

魔王『後はインキュバスだけだろう』

側近『……お前、まじで落ち着けって』

側近『何があったか知らんが、とにかく俺が帰るまで大人しくしてろ!』

側近『良いな!?』

魔王『……』

側近『お返事!』

魔王『……ああ』

側近『しっかりしろよ、魔王様』

魔王『大丈夫だ』

側近(そうは思えないんだが……何があった?)