もう一月以上も前のことになりますが、レスキュー・医療の訓練にいってきました。

何度か言っているように、ぼくらの隊は5人の小隊でのテント暮らし。
その内訳は研究者3人、国土地理院、登山ガイド。医者は同行しません。
怪我をしたら自分たちで何とかしなくてはいけない,というわけで医療関係の訓練です。

訓練をさせていただいたのは新潟県の村上消防署。
こちらの方が以前観測隊に参加されたことがあり、訓練をして頂きました。
昼過ぎに消防署に到着すると、簡単な説明のあと早速着替え、塔に登り、現地での事故を想定した訓練がはじまりました。



「天候晴れ、気温マイナス20度、スノーモービルで先頭を走っていたリーダーが深さ7mのクレバスに転落。」

この想定で訓練スタートです。


クレバスが一つあるということは、近くの雪の下にもクレバスが潜んでいる可能性があります。
実際、雪をかぶってて見えないヒドンクレバスに足をとられる、くらいのことはよくあるようです。
そういう隠れたクレバスに落ちてしまわないため、まずは自分の安全を確保。
その上でしっかりとした支点をつくり、下の様子を伺います。





今回の傷病者は自力でクレバスから這い上がれないということで、下に降りての処置が必要です。
自分にザイルを結び,エイト環を使って降下開始。
僕は高いところは得意な方だしたった7mですが、体がクレバスの縁から外に出ると足がすくみます。
じりじりとザイルをくりだしてもらい、すこしずつ下へ。




おり切ったところでまずは傷病者のハーネスにメインロープを固定、それ以上落ちないようにします。
意識、自発呼吸、脈拍を確認後、首の固定と全身の骨折、出血など素早く診察。
この間に二人目が降下,バックボード(搬送用の固い担架のようなもの)を降ろし患者を固定します。




同時に上では支点を固定し引き上げシステムの構築を。
そうしながらも,昭和基地や近くにあるベルギー基地からの応援要請に備えて適宜連絡をとります。



今は頭を整理しながら書いているのでテキパキとした文面ですが,ロープの結び方ひとつとっても慣れていないので,実際には無駄な手順が沢山入ってしまいます。実際に仲間が大怪我しているのを見て,しかも自分も転落の可能性がある状況,かつ極寒強風の中,冷静で無駄のない対応ができるかどうか,かなり怪しいものです。

また,クレバスからの救出ができたところで,医療的には素人4人しか居ない状況,衛生的にも極めて悪いので,まともな処置などできるはずがありません。場所にもよりますが,救助を呼んでも実際に助けに来るまで数日はかかるでしょう。テントよりはマシですが,昭和にもベルギー基地にも万全の医療機器が揃っているわけでもありません。日本では普通に病院に行って治療できるような怪我でも命取りになりかねない状況だというわけです。


今回の訓練で傷病者をクレバスから救出するまでにかかった時間は,目標時間を大幅にオーバー。実際に誰かが怪我をした時にいかに自分たちが無力かということを思い知りました。経験者が「いくらでも死ぬチャンスはある」と言っていたのはまさにその通りで,ちょっと大きな怪我をしたら命に関わるということが本当によく分かりました。今回いろいろ知識とか経験を得たけどとても満足できるレベルではないし,この知識経験を使わないように全力を尽くさなくてはと,肌で感じました。

今回の訓練のいちばんの成果はそこじゃないかな。
危険の多いフィールドですが,気をつけて行ってきます。