この記事の続きです。

 なぜ1000年も昔から硫黄島みたいな小さな島が知られていたのか?

 それは『古くから硫黄の産地だったから』です。

 何のひねりもなくてごめんなさい(笑)。下に紹介した本では、「硫黄」を軸にして中国の歴史記録を丁寧に読み解いて歴史的背景を考え、またそれを日本の文書記録と読み比べることで硫黄流通史の推論をすすめてゆきます。これがすごく面白い!!




 1000年前、というのはちょうど中国で火薬が使われるようになり普及してきた頃と一致します。当時、宋は周辺諸国と交戦準備状態にあり、大量の火薬を必要としていたらしい。しかし中国(特に宋が支配していたエリア)には火山は少ないので、火薬の原料となる硫黄が手に入らない。輸入する必要があった。どこから?近隣の火山から。というわけで火山列島である日本からは大量の硫黄が中国へ輸出されていたようなのです。

 現在の石油、とまでは言い過ぎかもしれませんが、火薬の原料としての硫黄は超重要な軍需物資。薩摩硫黄島はその硫黄を大量に産出するわけですから、当時から注目されていて当然、というわけです。

 そしてこの本の中で触れられていた硫黄島にまつわるくだり。少し時代は下って18世紀ですが、佐藤中陵の随筆「中陵漫録」巻九・硫黄の項にこんなことが述べられています。

 硫黄の用尤広し。薬に用いるは久きを貴ぶ。信州の鳥目鷹目の類皆絶なり。その他、会津の泥尻、肥後の阿蘇山等にあり。しかれども、薩州の硫黄島は、天下随一なり。
訳:硫黄の用途は広い。薬用とするには年月をへたものが貴重とされる。信州の鳥の目・鷹の目という種類の硫黄は絶品である。そのほか会津の泥尻や肥後の阿蘇山などにも産出する。しかし、薩摩の硫黄島の産が天下随一である。

 どうやら硫黄島はただの硫黄ではなく「天下随一の」硫黄を産する場所として有名だったようなのです。
やっぱり硫黄岳サマ、素敵(ハート)!



 さて、ここでやっと話がその1につながります。
 「その1」の5段落目くらいに「その先生は、もう一人の先生と組んで、歴史火薬の原料となっている硫黄の産地をつきとめる研究をされてるとのこと。」と書きましたが、これがまたすんごく面白い。

 歴史的な硫黄の産地を突き止めるには普通、上に紹介したように古文書を読み解くのが当たり前の手法です。でもこの方法って、実は「古文書の記載に間違いがない」という仮定の上にのみ成り立つもの。しかし産地偽装なんて現在でもあるわけで、、と考えると、この仮定が必ず成り立つと断定はできない。「天下随一の」硫黄を産する硫黄島産を騙れば高値で取引できた可能性もある(文学作品ではありますが、藤原明衡「新猿楽記」には、言葉巧みに他人の心を欺き、はかりごとをもって人の目をごまかす「八郎真人」という商人の姿も描かれています)。書き間違いだってあり得るわけですしね。

 そこでこちらの先生方の登場。先生方はある画期的な方法で産地を特定しようとされているのです!
その手法とは「同位体」を使った化学分析(同位体ってのは、例えば酸素原子なら16,17,18の3種類の重さのものがあるように、「同じ名前の原子だけど重さが微妙に違うやつら」のこと。)。硫黄は20種類以上(Wiki)の同位体を持っていて、例えば今日とってきたこの硫黄の中に、どの重さの硫黄同位体がどれくらいの比率で含まれてる、ってのが火山によって多少ちがうよ、ということが知られているみたい。

 そこで1.それぞれの火山から硫黄をとってきて同位体比を分析し、2. 歴史資料の火薬をもらってきて、その中の硫黄の同位体比を分析し、3. どの火薬の値がどの火山と同じ値か?ってのを調べてやれば、歴史資料中の硫黄がどこの硫黄なのか特定できてしまう、というわけです。同位体比はいわば火山の指紋のようなものなので、産地偽装や書き間違いはありえない。したがって「古文書の記載に間違いはない」という検証不可能な仮定をふまずに、硫黄の産地を確認することができる、というわけ。ね、画期的でしょ?(ちなみにこういう研究って、考古学に科学のメスをいれる「分析歴史学」というジャンルの研究になるらしいです。新しくてカッコいい!)

 今回こられた二人の先生方はこういった研究をされていて、「1.それぞれの火山から硫黄をとってきて同位体比を分析」するために硫黄島の硫黄を採取しに、と考えて僕に連絡してくださったわけなんです。それも、ちょうど僕たちが花火遊びをするために「硫黄の純度分析、誰かに頼みたいな〜」って探してるときに。友達と企ててた花火遊びと、知り合いの先生の分析歴史学の研究がたまたまこの時期にこの硫黄島でクロスした、というわけ。なにこの偶然!!

 そんなこんなで、その1、その2その2で紹介した調査の風景は硫黄岳の硫黄をとりに行ってるとこなのです。

 しかし、なんと偶然はこれでは終わりませんでした!

つづく!!