営業マン制約が工夫と本質を磨く

2009年01月13日

起業・経営の必要条件

どうも最近、昨年の終わりくらいから起業に関する質問などを受ける機会が増えています。質問は多岐にわたるのですが、概ね2つに分類できます。「起業するために予め準備しておく方が良いものは何か?」「会社を継続していくためには何が重要か?」です。スタロジにはクレドがあったりするので、恐らく質問の裏側の期待としては「経営理念」とか「ビジョンの明確さ」的なものを求めてるのでしょう。ですが、はっきり言って違います。それら以上にもっとプリミティブな「絶対必要条件」があるのです。

端的に言うと、大事なのはたったふたつです。「客」と「金」です。それに対する能力(=知識xスキル:スキルは経験で作られる)が足りなければ、起業してもすぐに潰れます。身も蓋もない言い方ですが事実です。何度かここにも書いているように起業をするのは非常に簡単です。登記すればいいだけです。経営者になるのに免許証も資格もいりません。一方で、ここにも書いたように会社を継続するのはかなり大変なことで、創業して3年を越えられるかどうかというのさえ丁半博奕みたいなものですから結構きつかったりします。

会社というのは、お客様に買って頂いて、そのお代をやり繰りして生きていくものです。ですから買って頂く、あるいは売る力は不可欠です。それが営業なり販売なりというものです。そしてお金のやり繰りが下手だとすぐに行き詰まります。それをちゃんとやるのが財務と会計です。

ですから営業と財務については、どんな商売をやるにしても不可欠なものであり、言わばコンピュータソフトにおけるOS(オペレーティングシステム)のようなものです。ところがこのOSの部分を蔑ろにして、上側で動くアプリケーションの部分、即ち、「起業してやりたいこと」ばかり頑張ってるケースが多いのです。

そもそもお客様がいなければ買って頂くことも出来ません。だから集客の能力が必要になります。それを狭義のマーケティングと言います(広義と狭義で何が違うのかもわからないなら、マーケティングとか言わないほうがいいです)。目の前にお客様がいても、買って頂けなければ意味がありません。ご納得を頂く(昔は"説得する"でしたがはっきり言って古いと思ってます)ための能力が必要になります。それがセールスです。これらは、それだけでプロとしてやっていけるほどに広く深い世界です。

また、お金の話についても、そもそも簿記(booking)・会計(accounting)・財務(financial)の区別がついてない人が多いです。そういう状態で「生産性がどうのこうの」とか「コストと収益の関係を云々」などと言っても、やっぱりピントがずれています。だから傍から見てると「それじゃお金が残らんよ」となります。というか、そもそも普通の算数が出来ないんじゃないかと思える人もいます。家計簿つけるレベルからやったほうがいいよという人も見かけます。

逆に言うと、ちゃんとお客様に買って頂ける能力があって金勘定がきちんと出来れば、いくらでもやりたいことが出来るようになっていきます。とはいえ、収益構造を転換するというのはかっこよく言うとBPRとかリストラクチャリングとかになるので、困難が伴います。だから「まずは食えるようになって、それから本当にやりたいことをやる」と言って起業した人が実際に食えるようになっても業態転換出来ないわけです。ですから、最初からやりたいことが成立するような基盤としての「営業と財務」というものを仕込んでおく必要があります。

で、金の話も極論そんな難しい話じゃないんです。算数(数学じゃないです)がちゃんと出来て無駄遣いをしなければ、つまり収入以上の支出を使わないようにしてればいいだけです。で、そうすると突き詰めれば「収益ってどう得るの?」という一点になります。

だから「お客様に買って頂ける能力」があればいいんです。ただ、では何故一本柱ではなくて「営業と財務」という風に二本柱で話をするのかというと、買って頂くためにもコストを投じないといけないから金勘定が必要だということです。種銭が皆無だと買って頂くための工夫も出来ないからです。こういうのを格好良く言えばビジネスモデルだ何だみたいな話になるんですけど、本質は単純なのです。

理念は大切です。ビジョンも不可欠です。ですが基盤としての二大能力、つまり「営業と財務」がちゃんと出来てなければ、いくら優れた技術力があり、優秀な人材が揃っていて、明確なビジョンと戦略があって、人を大切にする気持ちがあっても、簡単に潰れます。腐ったOSの上では優れたアプリケーションも安定して動作できないのです。

例えば、優れた技術があり、そのおかげで大躍進している企業があるとします。よく見ればその下側には、その技術を支える優れたOSが存在していることがわかります。逆に言うと、非常に優れた商品・技術・サービスを有していながら、なかなか飛躍できない会社というのは、このOSの部分が脆弱なのです。だから負荷がかかると不具合が生じるのです。

ずっとOSと言っています。業務のことをオペレーションと言います。システムとは仕組みのことです。本業を支える、業務遂行を支える基盤としての仕組み、正にOSと呼ぶに相当するものだと感じています。なのでOSという言葉を使っています。

さて、偉そうに言ってるお前のところはどうやねん? と問われれば、間違いなくこのOSが脆弱なのです。それは創業以来ずっと課題となっていることです。ですから偉そうにいう資格はないのかもしれません。ですが、それでも何とか続けている。VCからどっさりと資金調達をして優秀な人材を揃えて華々しくぶち上げながら3年続かない会社も多いのに比べると、多少は語る資格もあるのではないかと勝手に感じています。

あと、付け足しになりますが、ではそのOSは能力が高ければそれでいいのか? 違います。コンピュータのOSにも多種多様なものがあります。小規模向けもあれば大規模向けもあります。特定用途に向けたものもあります。それぞれにフィロソフィが存在します。そして会社のOSである「営業と財務」にも同様にどういう用途や規模に対してのものかということと、何よりもやはりフィロソフィが必要不可欠です。そしてそれこそが「経営理念」「ビジョン」ということになります。

だから「経営には理念が一番大事だ」という言葉になるのです。それもわからないうちから営業や財務について蔑ろにしておいて、そのくせ創業当初から事務所の椅子や机に贅沢をしたりして「人を大切にする会社です」などと言ってさも理念のある会社としての悦に浸るのは、はっきり言ってアホです。「我々にとってのお客様とはどういう人・会社なのか?」「我々はそのお客様に対してどういう価値を提供するのか?」「その対価として何をいくらを頂くのか?」「そのために必要なもの・ことは何か?」「必要なこと・ものを実現するのに必要なコストはいくらか?」というようなことを考えなければならず、それらを考えるときの基準となるのが理念なのです。

仕事というのは心底好きなことでないと続ける気持ちが持てません。一方で好きなだけでは続けていくための食い扶持を得られません。相手があるから自分は生きていけるのだという意識が持てないなら、やることをやってるんだから給料もらえて当然だなどと思っているなら、少なくとも起業や経営は向いてないと考えます。

社員のみんなが辞めても、自分一人になっても、それでも俺は頑張るんだ。そう思えること、そして思うだけじゃなくてやり続けられる足場を築くこと。そこに意識を向けるのが起業・経営の要諦であり、その足場は「営業と財務」なのです。かっこいいこと・賢そうなこと・いかにも成功者な、経営者っぽいことは、そういう足場が出来てからやればいいのです。

…以上の話は、くれぐれも起業する人本人、あるいは起業して経営をしている人本人についての話であって、No.2以下の方にはあんまり関係ないかもしれません。とはいえ、社長任せにして「自分には関係ない」と思っていても、会社がなくなっちゃうと困るのは事実なのでしょうから、出来れば強く意識してもらうと良いのではないかと思います。

お客様とお金。会社の継続に必要なのはこのふたつです。そこをはき違えると、無能な社員のために優秀な人をすりつぶしてしまいかねません。従業員を大切にしたいなら、従業員を大切にするために「必要なこと」に集中しないといけないのです。従業員を大切にしてるからという理由だけで商品を買ってくださるお客様などいません。提供している商品・サービスが自分にとって価値があると感じてくれるから買ってくださるのです。ですからお客様に支持されないようでは売上は成り立ちません。そして売上がゼロでは決して雇用を守るなど出来ないのです。売上の当てのない会社になど誰も投資も融資もしません。経営者になるのなら・なったのなら、会社の全ての責任を背負う覚悟が必要なのです。

買って頂く能力とお金の使い方の能力。このふたつが起業・経営の絶対必要条件なのです。



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habuakihiro at 07:14│TrackBack(6) 仕事 | 人生このエントリーを含むはてなブックマーク

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