2011年4月11日

ちょうど一ヶ月前,日本は未曾有の大災害に見舞われた.
当時,私は病院のベッドの上にいた.
大きくなっていた卵巣のう腫を摘出して,翌日は退院.
体は痛いけど,心は次のステップに向いていた矢先の出来事だった.

そして,今日.
被災地はまだ余震が続いていたり,原発の恐怖は続いているけれど,
着実に,確実に復興に向けて動き出している姿がテレビに映し出されていた.
一方で,私は今日も病院にいた.
しかも,一ヶ月前の今日よりひどく辛い気持ちで.



駅前で,母親と彼と3人,合流して病院に向かった.
春の日差しが暖かくてまぶしくて,
街には,ピカピカのランドセルを背負ってうれしそうな一年生.
慣れないスーツにパンプスで母親と連れ立って歩く女子大生.
世界はこんなにキラキラしているのに,なんでこんなに苦しいんだろう.

頭では分かってる,気持ちの整理もできている.
何を言われても動じない準備も出来ている.
だけど,目に入る景色が私の心を悲しくした.
これから,いったい何を言われるんだろう.
これから,私の人生はどこに向かっていくんだろう.
ずっと真っ暗な冬にのみ込まれてしまうのか.

病院での待ち時間は,いつもよりも長く長く感じた.


3人で診察室に入ると,先生が,急に電話してしまってごめんなさいね,
と明るい雰囲気で話し始めた.
私も,努めて明るく振舞った.
いいえ,わざわざご連絡ありがとうございました.

それで,病理の結果ですが,,,

さっそく本題に入っていく.

手術のときに取り出した腫瘍の皮(※グロ画像 要注意),
外側はツルツルでとてもきれいな状態で,問題ありませんでした.
で,内側なんですけれど,コレを見てください.

といって,病理検査の顕微鏡画像をモニターで見せてくれた.

内側,液体が入っていた方にですね,悪性の細胞が見つかりました.

悪性の細胞...
あー・・・,もうやっぱり.
でも大丈夫,覚悟していたからこれくらいじゃ泣いたりしない.

ここ,ボコボコしていますよね,これが悪性の部分なんです.
それで,卵巣のう腫というのは,これまでお話したとおり,
良性と悪性があって,悪性はいわゆる卵巣癌ですよね,
この内側に悪性の細胞が見つかったときは良性と悪性の間の,
境界悪性と呼ばれる状態だと言えるんです.

ん!?
境界悪性!!
悪性じゃない?!

悪性の部分が,ここ,健康な部分のところで止まっていますよね.
健康な部分にまで浸潤,入り込んできていると悪性腫瘍になるんです.

境界悪性は,でも,良性ではなくて,
悪性の腫瘍よりは顔つきが良いというか,比較的に悪さをしない,
たとえば再発したり他の臓器に転移する確率が低い悪性腫瘍を
境界悪性腫瘍と呼ぶんです.

でも,良性ではないですし,悪さをしない癌なので,
再発や転移がゼロではないです.
だから,境界悪性腫瘍が見つかったときは,
悪性腫瘍と同じで,標準術式と呼ばれる,子宮,卵巣,リンパ,大網を
全て切除する手術が必要になります.
転移しやすいとされている部位を先に全て取ってしまうわけです.
そういった事情があって,お電話をして,予定を早めて来て頂いたんです.

やっぱり,それでも「癌」なのか...
でも,この言いっぷりはもしかして,
私も標準術式になっちゃうってことなのかな.
子宮と卵巣だけは残したい..

ただ,,この標準術式はマイナス点もあって,
子宮を取ってしまうので,妊娠が出来なくなりますよね.

うんうん,それだけは,それだけは避けたい.
正直,たとえ寿命が縮まる,転移のリスクがあると言われても,
子どもを産む可能性を今,ゼロにすることだけはしたくない.

・・・そこで,はちこさんのように,まだ27歳でお若くて,
これから結婚もされて,お子さんも希望されている方には
妊孕性温存手術という方法が適用されることがあります.

先生は,私と彼の顔を見ながら微笑んだ.
私が妊娠を希望していることをきちんと考慮してくれていた.
妊孕性温存手術・・・昨日調べた方法だ.
限られた場合に使える方法・・・
一筋の光が見えた気がした.

この方法が,私が今日,はちこさんにお勧めする方法になるんですけど,
はちこさんの場合でいうと,左付属器,つまり,左卵巣と卵管を切除して,
それと,転移が多く見つかる腹水と大網の一部を取る,
再発の防止と,他にがん細胞がないか検査をする手術になります.

腹水や大網を一部取るというのは昨日の予習とは少し違うけど,もう十分.
子宮と片側の卵巣,卵管が残せれば,十分妊娠できる.はず.

適用されることがある,と言いましたけど,
この手術は,いくつかの条件に当てはまる場合だけ受けられるものなんです.
やはり,子宮やリンパを残すので,どうしても転移や再発の危険性が残ります.
なので,境界悪性と卵巣癌の,ごく初期の状態であることや,
卵巣癌に数多くの種類があることもご存知かと思いますが,
そのうちのいくつかの種類のときだけ良い,とガイドラインで決まっているんです.

ガイドラインって,きっと昨日調べたアレのことだ.

それで,はちこさんの腫瘍は,手術のときにお話しましたとおり,
ねばねばの液体でしたよね.
粘液性の境界悪性になりますので,このやり方が適用できるんです.

そう,手術前まで子宮内膜症性の卵巣のう腫だと思われていたけど,
実は,子宮内膜症では無かったらしい.
その代わり,「ちょっと卵巣癌」なので,
良かったのかどうなのか分からないけれど...

しかも,実ははちこさんの腫瘍は非常にラッキーなことに
手術のときに破裂しないできれいに取れたんです.
なので,悪性側に触れていた腫瘍の中身がおなかの中でこぼれることも
ありませんでした.
本当に腫瘍の内側だけに悪性部分があった状態なので,
境界悪性のIa期と呼ばれる状態になります.
実は,あの時腫瘍が破裂していたら,Ic期といって,
少し進行した状態になっていたんですよ.

もう,ここまでの説明で,すっかり肩の力が抜けて,ほっとしてしまった.
最悪,「余命」も考えたし,
標準術式は避けられない,子どもを諦めろ,
と宣告される可能性も覚悟していた.
子どもが好きで,学生時代は地域ボランティアなんかもしていた分,
今,結婚直前のこのタイミングで,子宮も全て摘出しろなんて言われたら,
それはもう,私にとっては死刑宣告に相当する.

それが,妊孕性温存手術が適用できるなんて.
よかった.
良性ではなかったので,ちっとも良くないんだけれど,
良性でない中では一番うれしい結果.

それでですね,他の先生方とも相談したんですけれど,
はちこさんの状態なら,温存手術を開腹ではなく,
腹腔鏡でやっても大丈夫なんじゃないか,と思っているんです.
まだ迷ってはいますが...

腹腔鏡の欠点は,以前お話したとおりですが,
カメラで見ながらの手術なので,死角が出来てしまうんですね.
だから,他に転移しているときに気づきにくくなってしまいます.
どちらにしても事前にCTを撮って検査をして,
他の状態を確認してから手術になります.

これもまた,開腹手術は免れないと思っていたので驚いた.
だけど,同じ温存手術ができるなら,
傷の大きさや術後の回復の早さではなく,
よりきちんと治る方を選択したい.
それに,先生は温存で,腹腔鏡でもできるよ,と言ってくれたし,
私もできれば温存手術,腹腔鏡でやって欲しいと思うけど,
本当に,本当にそれで大丈夫なのか,不安もある.
だって,境界悪性とはいえ,癌なんだもん.
こんなの即決できない.

すると,先生は,

今日,この話をしてすぐに決めることは出来ないと思います.
一度,持ち帰って考えて頂いて,
また今後をどうするか決めていきましょう.
といってくれた.

私は,先生が提案してくれたことを大丈夫だよ,
この判断は間違ってないよ,と誰かに言って欲しくて,
セカンドオピニオンをとることにした.

先生も,そうですね,それでは,明日には資料を用意します,
と言ってくれて,結果報告と治療方針の相談のために,
次回は5月9日に予約を入れた.



病院を出ると,来るとき感じた暖かな日差しはそのままで,
私もようやく春を感じることができるようになっていた.
まだまだ不安は多い.
でも,どうやら「最悪の事態」は避けられそうだし,
前を向いて進むことができそう.
まずは,セカンドオピニオンをとりにいこう.


やっと,今夜は落ち着いて眠れる.


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4月11日 婦人科
再診 210円


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