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聞いたことのないアナウンスが、ロビー全体にけたたましく響く。

「ダークファルスがアークスシップに接近中、警戒してください」

通常、アークス各員に警戒を呼びかけるアナウンスには
最初に「緊急警報発令!」というお決まりの文言が入るはずなのだが、
なぜか今回はそれが忘れられ、またアナウンスの声もわずかにうわずっている。
そのささいな異変から見てとれるオペレーターの動揺は、
いまからこのアークスシップに起ころうとしている事態の異常性を
暗に示しているように思えた。



ダークファルスは通称「闇の王」とも呼ばれ、
ファンタシースターシリーズを通して登場する脅威的な存在だ。
そして、12月12日のアップデートで実装されたばかりの
緊急クエスト『深遠なる闇の眷属【巨躯】』は、
その王の名を冠する眷属『ダークファルス・エルダー』に挑むという、
これまでとはケタ違いに大規模かつ危険な任務なのだ。


アナウンスが流れた直後から、ロビーの空気は一気に変わる。
オープンチャットで「ダークファルス来た!」「初めてだ……」「うおおおお」などと
騒ぎだす人がいれば、すばやく倉庫にアクセスし、淡々と武器を取り出す人もいる。
あわただしくテレポーターに入り、ブロック移動をする人もたくさんいた。
きっと、フレンドと連絡を取り合い、決戦に向けて合流しているのだろう。

さて、私はどうしようかなあ、と思っていると、
ピピッ、という電子音とともにウィスパーチャットが届いた。
最近よくパーティーに誘ってくれる、ハンターのUさんという人からだった。

「こんばんは~。ダークファルス、一緒に行ってみない?」

お誘いを受けて私が加わったパーティーには、
Uさんのほかに、レンジャーのEさんという人がいた。
口ぶりからすると、どうやらEさんはUさんのフレンドであるらしい。

Uさんの人脈の広さと、ハンター・レンジャー・フォースを
キレイにひとりずつそろえてみせるセンスのよさに感心していると、
あっという間に緊急クエストが始まる時間になってしまった。
リーダーであるUさんが「よし、行こうか」と言い、テレポーターに向かって走り出す。
私は防御力を一時的に高める『デバンドリンク』を飲み、あたふたと後を追いかけた。



『ダークファルス・エルダー』との闘いには、ふたつの特徴がある。
ひとつは、最大12人のマルチパーティーを組んで挑むことができるということ。
もうひとつは、前哨戦である『ファルス・アーム』との戦闘に勝利すると
『ダークファルス・エルダー』と戦えるようになる、連戦形式であるということ。

私たち3人パーティーは、その場で出会ったほかの9人と協力し、
ひとまず第一段階である『ファルス・アーム』戦を突破することに成功した。
3人はいったんキャンプシップに戻り、本番に向けてアイテムやサブパレットを整理する。

「ダークファルスって、どんな攻撃してくるんだろうね」
「さっきの前哨戦の時点でかなり強かったですよね……」
「歯ごたえありそうだよねえ」

そんな不安と期待が入り混じった会話ののち、私たちはいよいよそのときを迎えた。

3人は戦場へと続くテレポーターに飛びこみ、そこでまた
さきほどとは違う9人に出会い、「よろしくお願いします」などとあいさつをかわす。


戦闘開始まで、あと30秒。
私は補助テクニックである『シフタ』と『デバンド』を周囲にかけながら、
運命をともにする11人のレベルや職業をなんとなく確認していた。

ええっと、ハンターが5人で、ファイターが3人。
おお、ずいぶん前衛が多いなあ。こりゃ回復のしがいがありそうだ。
あとは、レンジャーが2人に、ガンナーが1人か。
ダークファルスは一撃が重そうだから、デバンドでこまめに支援してあげなきゃ。
うん、だいたいこんなところか。……あれ?待てよ、なにかおかしい気がするぞ?

戦闘開始まであと10秒を切ったあたりで、私と同じように
メンバーの顔ぶれをチェックしていたらしいEさんが口を開いた。

「フォース、ふらさんだけみたいですね」

えええええええええええ!?
12人いて、フォースが私だけ!?
12人のうち、回復役がひとりだけ!?

なんという巡り合わせか、あるいは神のいたずらか。
通常の4人パーティーですらヒイヒイ言っている私が、
11人の回復を一手に引き受けるだって?しかも、初めてのボス戦で?
驚きとプレッシャーのあまり、思わずPCの前でのけぞり天を仰ぐ私である。

しかし容赦なく戦闘開始までのカウントダウンは進み、
ひとり動揺する私をよそに、ついにダークファルス・エルダーと
12人のアークスによる大決戦の火蓋が切って落とされた。



ど、どどど、どうしよう。

いやいや、落ちつけ。冷静になれ、私。
この状況、どう考えたって、私がやるべきことは補助と回復だ。

戦闘開始直後なら、みんなにシフタとデバンドの効果が残っているし、
ダークファルスだって即死級の強力な攻撃はしてこないはずだ。
ならば、いまのうちに味方の動きや敵の行動パターンを把握しておくしかない。

私はパーティーの最後尾に陣取り、
タリスを投げて牽制しながら全体を見回していく。

レンジャーふたりはライフルを持ち、私と同じく最後尾に陣取っている。
ガンナーひとりはその数メートル前に立ち、中距離戦を展開中だ。ということは、
レンジャーとガンナーの中間に立ってレスタをかければ、両方に回復が行き届くはず。
ハンターとファイター8人は、ダークファルスの弱点を突くためか、前線のほぼ1ヶ所に密集している。
であれば、そこにタリスを投げてレスタを遠隔発動すれば、8人全員を一気に回復できそうだ。
そして、ダークファルスの攻撃は、威力がケタ違いに高いかわりにスキも大きい。
フォースの回避行動『ミラージュエスケープ』は無敵時間が長いから、大半は避けられそうだ。
仮にくらってしまったとしても、出発前に飲んだデバンドリンクの効果と、
サブクラスのハンターで覚えた『ガードスタンス』というスキルがあるから、1発は確実に耐えられる。

いままでにない集中力と切迫感でもって
私の脳細胞がめまぐるしく動き、やがてひとつの結論を導き出す。


やれる。がんばれば、私ひとりで、全員の補助と回復をカバーできる。


私は誰に言うでもなく、画面の前で「よしっ」と
自分を鼓舞するようにつぶやき、コントローラを深く握り直した。

防御の薄いレンジャーとガンナーにはつねにデバンドをかけ、HPが少しでも減ったらレスタ。
ハンター・ファイターの集団には敵の攻撃タイミングに合わせてタリスを投げ、遠隔レスタ。
誰かが戦闘不能になったら、ミラージュエスケープで
自らの安全を保ちながら移動し、できるだけ早く蘇生。

それらは、追い詰められた結果の「火事場の馬鹿力」とでも言うべきか、
万年初心者の私にしては、いつになくキビキビとした動きであったように思う。



そして、ひたすら補助と回復に徹し続けて約15分。
私たち12人は、ついにダークファルス・エルダーの撃破に成功した。

「おつかれさまでした!」と激闘を終えた12人が口々に言い、
やがて「またねー」という別れのあいさつとともに散り散りになっていく。

そんななか、私が戦場に残ってのろのろとアイテムを拾っていると、
別パーティーの女性ガンナーが駆け寄ってきて、ひとことだけ声をかけてくれた。

「回復おつかれさま。助かりました」

ああ、よかった。なんてうれしいことだろう。
気づいてくれた人が、見てくれていた人が、いた。
そのひとことだけで、私の達成感は何十倍にもふくれ上がる。

さらに、キャンプシップに戻ったあと、
私はなんとも恐縮なことに、Uさんにもホメられてしまった。

「ふらさん、頑丈だね~。私なんて2回も死んだのにw」



私は終始、補助と回復しかしていなかったため、
ダークファルス・エルダーに直接与えたダメージは皆無に等しい。
それなのに私には「ダークファルスと死闘をくり広げ、勝った」
という、たしかな手応えと喜びがあった。
それは、パーティーのサポート役であるフォースでなければ
決して味わうことのできない、特別な感覚であるように思う。


私がそもそもフォースを選んだこと。
ヘタながらも、これまでずっと背伸びしてタリスを使い続けてきたこと。
いつもデバンドリンクを飲んだり、サブクラスでガードスタンスを覚えたりして、
知識や所持金の少ないなかで、なんとか防御力を高めようとしてきたこと。

それらのことがいっぺんに報われたような気がして、
PSO2をやっていて初めて、自分で自分をホメてあげたい気持ちになった。

やればできるじゃん、私。これからも、少しずつ精進しなさいよ。