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日曜日、珍しく昼間にログインした。


本来ならば出かけるべき用事があったのだけれど、
いかんせん、この暑さである。千年猛暑の再来と言われる今夏である。
一歩踏み出すたびに汗がアゴからしたたり落ちるほどの暑さである。
これだけ暑くても元気でいられるのは、もはやセミかTUBEだけである。

よって、セミでもなければ前田亘輝でもない私は、
こんな日は冷房の効いた部屋でPSO2をするほかないのである。

氷をドサッと入れたグラスにアイスカフェオレをドバッと注ぎ、
冷凍庫の奥底に眠っていたパピコを発掘して軽くガッツポーズなどし、
冷房、飲料、アイスという三種の神器をそろえたうえで、
いざコントローラを握りしめる。ゲーマーとしては最高の休日である。
幸福感のあまり、真っ昼間からワハハと高笑いする私である。
ベランダにとまっていたアブラゼミもつられてワハハと笑った、というのは
もちろん幻覚である。そこにクマゼミがやってきて、アブラゼミと私とのトリオで
THE SEASON IN THE SUNを熱唱した、というのはもちろん妄想である。

さて、妄想を振り払いながらログインしてみると、
意外なことに、各ブロックはけっこう混雑していた。
時期的に、夏休みやお盆休みに入った人が多いからだろうか。
それとも、私と同じように、みんな暑くて外に出たくないからだろうか。

まあ、なんにせよ、これだけ人が多いなら、
パーティーを組むチャンスには困らなさそうだ。
いつも夜にしかログインしない私にとって、
昼間のパーティープレイというのは、なんだか新鮮でワクワクする。

幸い、私が参加できそうなパーティーはすぐに見つかった。
レベル20台のブレイバーとフォース、プレイスタイルは『誰でも楽しく』。
「目的もなくのんびりやってます」という、非常にゆるいパーティーコメント。
しかも、経過時間表示を見るに、クエストはちょうど受注したばかり。

――パーフェクトだ。きょうの私はツイている。

私はローザクレインを背負い、テクターとしてそこに参加した。

「こんばんは。参加よろしいでしょうか?」
「こんちわ!」
「こんにちは。どうぞー」

しまった、いまの時間帯は「こんにちは」だった。
いやはや、習慣とはおそろしいものよ。
いきなり出鼻をくじかれてしまった。完全に自業自得だけど。

「凍土探索ですけど、ボス直の希望とかありますか?」
「特にないので、リーダーについていきます!」
「上に同じです!」
「オーケーです。じゃあ、適当にいきましょー」

かくして、パーティーリーダーであるブレイバーの男性キャストを
先導役とし、フォースの女性ニューマンとテクターの私が
それを追うような形で、おだやかに3人の冒険は幕を開けた。


テレポーターから現地に降り立つやいなや、
ニューマンの少女が無邪気に声を上げる。

「すずしーい!」

むろん、それは部屋の冷房の話ではなく、凍土の風景の話である。
いつもは一面の積雪と突き刺すような風に不安すら覚える凍土だけれど、
きょうばかりは彼女の言うとおり、それが涼しげで気持ちよさそうに見える。

「ホントですね!猛暑を少しだけ忘れられますね」
「ねー。うち北海道だけど、いま31度あるよ!」

おお、彼女は北海道の人なのか。
そして、北海道でもきょうはそんなに暑いのか。
すると、その会話を聞いていた男性キャストが口を開いた。

「おお、北海道かー。おれ、沖縄だよ」

なんと!まさか、このパーティーが、
日本の最北端と最南端を結んでいるパーティーだったとは。
すごい話である。ちょっとした奇跡に立ち会った気分である。
最北端でも最南端でもない自分に、若干の肩身の狭さは覚えるけれど。

さっそく、男性キャストに興味本位で私が質問する。

「ちなみに、沖縄はいま何度くらいなんですか?」
「たぶん、32度か33度かなー」
「北海道とあまり変わらない!」
「日差しは強いけど、海あるし、風通しいいからねー」

なるほどなあ。たしかに、ニュースになるくらい
気温が極端に高いのって、たいてい本州の都市部だもんな。
夏休み中のよい子のみなさんは、この機会にぜひ覚えて帰ってください。
世のなか、南に行けば必ず暑くなるってもんじゃないのです。
こういうのをオトナたちは「ヒートアイランド現象」と呼ぶのです。


さて、こうなってくると、話題は必然的に「お国自慢」へと向かう。
もっぱら私が質問役となり、北海道はなにがおいしいですかとか、
沖縄はどの島に行っとくべきですかとか、方言ってどんな感じですかとか、
惑星ナベリウスを走りながらにして、日本列島の話題が飛びかった。
ちょっと不思議な感覚だけれど、それはすごく楽しかった。

こういうのって、間違いなく、オンラインゲームならではの感覚だ。
人との会話を通じて、ゲームのなかに現実がふっと顔を出してきたり、
ときにゲームと現実がぐちゃっと混ざったりするような、独特の感覚。


凍土での冒険も終盤にさしかかったころ、
沖縄在住、男性キャストの動きが、なぜか急に鈍くなった。
道中のなんでもない場面で戦闘不能に陥り、私が蘇生させる。

「ありがとうー」
「いえいえ」
「テレビに気を取られてしまった……」

テレビ?一瞬キョトンとしたが、すぐにその意味を理解する私。
なぜなら、私も彼と同じく、そのときテレビをつけていたからである。

きょう、沖縄在住の彼が、冒険の最中であるにも関わらず
気を取られてしまうようなすごい番組といったら、ひとつしかない。

「もしかして、高校野球ですか?」
「うん。いま沖縄尚学がやってる」

そこで私が、それまで音だけ聞いていたテレビに目をやると、
試合は終盤7回ウラ、しかも5-6の大接戦であった。

「おお、いい試合ですね」
「ずっと負けてて、ちょうどいま逆転したんだよ」
「そりゃすごい!」

なるほど、そりゃ気になっちゃうよなあ。しょうがないと思う。
私はゲームが好きだけれど、野球も好きなので、
彼の気持ちはとてもよくわかる。すごくいい試合だもの、これ。

すると、少しのあいだ黙っていたニューマンの少女が、
驚くべき提案をした。どうやら、彼女もじつは野球好きだったらしい。

「試合気になるから、早くボス倒してみんなで観ましょうw」
「おお!それは名案ですね!」
「うおおおおおおおおお」

そうして、怒涛の勢いで凍土を突き進み、勢いのままに
ボスであるスノウバンシーとスノウバンサーに殴りかかる3人である。
これまでにない団結力を発揮して一瞬でボスの息の根を止め、
すぐさまアイテムを回収してキャンプシップへと戻る3人である。
迅速な任務達成はすばらしいけれど、動機がいささか不純すぎる3人である。


さあ、気がつけば試合は9回オモテだ。
がんばれ沖縄、負けるな沖縄。
北海道在住、かわいらしいニューマンの少女も応援しています。
ついでに私も応援しています。もちろん地元県民も応援しています。

試合終了。7-8、息詰まる熱戦を制したのは沖縄尚学高校であった。

「おめでとう!」
「ナイスゲーム!おめでとう!」
「ありがとう、ありがとう!」

テレビのなかの球児にも負けない勢いで、手を取り合って喜ぶ3人である。
ベランダにいるアブラゼミとクマゼミも泣いて喜んだ、というのはもちろん空想である。

それにしても、私たちはいったい、キャンプシップでなにをしているのでしょうか。
アークスの任務は多岐にわたるとはよく聞きますが、
さすがに高校野球観戦は任務に含まれていないのではないでしょうか。


まあ、たまには、こういう日があってもいいのかもしれないな。

たまたま入ったパーティーで、たまたま地元の話になって、
たまたま沖縄在住の人がいて、たまたま沖縄代表の試合があって、
たまたまみんな野球好きだったから、たまたまみんなで応援した。

ゲームの世界に現実の話題をむやみに持ちこむのは、
基本的には無粋な行為だと思うけれど、今回は、
これだけの偶然が重なったんだ。いい経験をさせてもらったと思う。



私はこの日、なんとなく北海道と沖縄のことが好きになったし、
なんとなく、ことしの高校野球は沖縄尚学を応援しようかな、と思った。

それってやっぱり、オンラインゲームじゃなきゃ得られない、
奇妙だけど心地いい親近感だ。