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「ひさしぶりー!うわあ、ぜんぜん変わってないねー!」
「そう?まあまあ、寒いしとりあえず店に入っちゃおうよ」

のっけからテンションが高いなあ、あいかわらずだなあ、
などと思いながら、私は予約した店までTを連れて行った。



この3連休、古くからの親しい友人であるTが
旅行でこっちに遊びに来ると言うので、
じゃあ、一緒に夕食でも行こうか、という話になった。

会うのは、1年ぶりくらいだろうか。
開口一番「変わってないねー!」と言われた私だけれど、
Tだって、私の目にはぜんぜん変わっていないように見える。
まあ、たかだか1年で劇的に変わっていたら、それはそれで怖いけれど。

吹く風は冷たく、吐く息は白い。手袋をしていても指先がかじかむ。
寒い寒い、と言いながら、私たちは店へと駆けこんだ。

「にごり梅酒、ストレートで!」
「ええっと、ホットのウーロン茶で」

Tはそこそこお酒を飲む。ちなみに私は飲めないし飲まない。
そのため、私はお酒に関する知識が皆無に等しく、
ストレートと聞くと尾崎行雄か江川卓の話かと思ってしまうし、
ロックと言われても内田裕也か矢沢永吉の顔しか思い浮かばない。
チョイスが全体的に古くて申し訳ない限りである。


閑話休題。Tと私は、食事を楽しみながら
3時間ほどいろいろな話をしたのだけれど、
そのなかで、Tがゲームの話題を振ってきた場面があった。

「最近はなんかゲームやってるの?」

私は、自分がゲームを趣味としていることを
あまりおおっぴらにはしていないのだけれど、
一部の親しい友人だけは、私がゲーマーであることを知っている。
Tもそのひとりだ。ちなみに、T自身もけっこうなゲーマーである。

さて、ふつうに考えれば、この場面で私がすべき回答は
「ファンタシースターオンライン2っていうゲームをやってるよ!」
であるはずなのだが――

「うん、3DSの『とびだせ どうぶつの森』とかやってるかな」
「あー、おもしろいらしいね!なんかアレずっと流行ってるよねー」

ウソは言っていないが、とっさにPSO2の話題を避けた私である。
なんだよ、「PSO2やってるよ」って人に言うのは
おまえにとってそんなに恥ずかしいことなのかよ、と
ツッコまれてしまいそうだけれど、そういうわけではない。


私は、現実の人間関係とネットの人間関係を切り離して考えている。
現実の友人とネット上でまで関わろうとは思わないし、
ネット上の友人がどんなに近くに住んでいようと現実では会いたくない。
だから、私はFacebookもLINEもやっていないし、
オフ会みたいなイベントに誘われても絶対に参加しない。
まあ、オフ会に誘われた経験なんていちどもないけれど。

そんな私にとって、「PSO2をやっている」という事実を
Tに知られてしまうというのは、けっこう危険なことなのだ。
万が一、TもPSO2をやっていて、しかも同じShip6の住人だったりしたら、
「おお!じゃあ、こんど一緒に遊ぼうよ!」となってしまう可能性がある。
それは絶対にイヤだ。私はTのことは大好きだし、
最良の親友だとも思っているけれど、それとこれとは話が別だ。
PSO2の話題だけは、たとえ天地がひっくり返ろうと、
なんとしても避けなければ。


その後もしばらく、共通の趣味であるゲームの話題が続いた。

「先週、PS Vita買ったんだよー。持ってる?」
「ううん、持ってない」
「けっこう基本無料のゲームとかも多くて、おもしろそうだよ!」
「おおー、そうなんだ」

Tの話に感心するそぶりを見せつつ、若干の動揺を隠しきれない私である。
PS Vita?基本無料?なんかイヤな予感がするぞ。

「ファンタシースターオンライン2とか。知ってる?」

ぎゃああああああ!出ちゃった!NGワード出ちゃったよ!
いともカンタンに天地がひっくり返っちゃったよ!
Tの剛速球に、口からブクブクと泡を吹いて卒倒する私である。
否、そんなことをすると救急車を呼ばれてしまうので、
いちどスゥーッと深呼吸し、なんとか平静を装って返事をする私である。

「あ、うん。いちおう知ってる、かな」
「おお!やってるの?パソコン版?」
「やってるような……やってないような……」

しどろもどろの私である。目が回遊魚のごとく泳ぐ私である。
いま思えば、このときハッキリ「いや、やってないよ」と
ウソをつけていればよかったのだけれど、
そのへんがうまくできないのが私の未熟さである。

「このまえ、やってみようかなーって思ったんだけど、
 ダウンロードの容量が大きくてやめちゃったんだよねー。おもしろい?」
「おもしろい……んじゃないかな?たぶん」
「オンラインゲームって、最近ぜんぜんやってないなー。
 やるとしたら、サーバーはどこがいいとかってあるの?」

グイグイ攻めてくるTである。
私が触れてほしくない部分にことごとく触れてくるTである。
Tはオンラインゲームの経験もそこそこあるだけに、
質問の内容も具体性があってなかなかやっかいである。

マズいぞ。もうここまでくると、
私がPSO2をやっていないフリをするのはムリがあるけれど、
せめて、TがPSO2を始めたときに、
Ship6に来てしまうことだけは阻止しなければ。
そう固く決意して、口を開く私である。

「えっとね、PSO2だとサーバーのことは
 シップって言って、1から10まであるんだけど」
「うん」
「6以外なら……あ、いや、5と6以外ならなんでもいいと思うよ」
「5と6はダメなの?」
「ダメっていうか、なんていうか……
 あ、人口が少ないかな。あと、なんかいろいろ不便らしいよ」
「へえー。やっぱ1とか2とかがいいのかなー?」
「うん。たぶん、そうなんじゃないかな」

えー、現実の友人と同じシップになりたくない、という
きわめて個人的かつ身勝手な理由により、
Ship5・6のことを勢いにまかせて悪く言ってしまったことを、
同シップのみなさまに、この場を借りて深くおわびいたします。
しかも、Ship5に関しては「Ship6だけダメって言うとあやしまれそう」
という理由だけでとっさに付け足しました。完全に巻き添えです。
とりわけShip5のみなさまには、深く深くおわびいたします。

念のため弁明しておきますと、
もちろん、実際のShip5とShip6はとてもいいシップです。
ロビー一面にラベンダー畑が広がり、朝には小鳥が歌い
夜には川のせせらぎが聞こえる、のどかで美しいシップです。
ただいま虚偽の発言がありましたことを深くおわびいたします。


「ヒマだから、やっぱり始めてみようかなー。
 そういえば昔、ゲームキューブでちょっとだけPSOやってたし!」
「おお、そうなんだ!だったら、PSOにあった
 アイテムもいっぱい出てくるから、楽しいかもね」

その後、話題はPSO2から、昔懐かしいPSOの思い出話へと移り、
けっきょく、私は自分の所属シップをTに明かさずに済ますことができた。
それにしても、TはPSOをプレイしていた経験があったのか。驚いた。
こんなに近くに、PSOシリーズのファンがいるとは思わなかったな。



「きょうはありがとう。またねー!」
「うん、ありがとう。またね」

駅の改札前で、Tは大きく、私はやや控えめに手を振って、別れた。

いま、私の身近にはPSO2プレイヤーがひとりもいないから、
もしTが始めてくれたら、いろいろ話ができるようになって楽しそうだ。
あの装備がかっこいいとか、このマグがかわいいとか、
ストーリーはどこまで進んだかとか。絶対楽しいよな、そういうの。
それに、TはアクションRPGが好きだ。きっとPSO2との相性はいい。


TがPSO2を始めてくれるといいな。でも、くれぐれもShip6以外で。

先輩アークスとしての純粋な想いと、
現実の自分の身勝手な都合が混ざった、
ひねくれた歓迎の念を抱きながら、私は駅をあとにした。

あいかわらず風は冷たく、息は白かったけれど、
街灯の下を歩く足取りは少しだけ軽く感じられた。