先の記事でIBJJFアジア選手権を前にスポンサード選手が増えた事について書いた。スポンサーについてもう一つ書きたい。ここ数年感じる日本の世界の格差の広がりについてだ。

日本人黒帯はムンジアルで2007〜2008年ごろは毎年の複数人は入賞していたし、茶帯以下に目を向けても日本の有力選手であれば入賞する日本人も少なくなかった。しかし、今では湯浅麗歌子など一部の選手を除き世界との差は開いている。茶帯の入賞もかつては一年に4人もいた年もあったが、ここ数年は年1人くらいの割合しかいない。

日本人がムンジアルで勝つために「最新のテクニックを知らねばならない」とか「強靭なフィジカル必要」などの様々な方法が取り沙汰されている。これらは間違いではないが最も重要かつ根本的な日米の違いは「兼業柔術家」かそれとも「専業柔術家」かだ。



日本の柔術家の多くは主業として、社員やアルバイトとして勤め貯めたお金で柔術の練習をしたり海外に渡航している。これはアジア選手権やグランドスラム東京で優勝するような国内の選手でも多く見られる。関東の日本人も東海地方の日系ブラジル人も、多くはこの生活スタイルだ。

それに対して米国の柔術家は米国人ブラジル人はアカデミーでの指導料以外にスポンサーを得てる事によって選手活動に専念する専業柔術家になっている者が少なくない。
米国ではこの専業の環境を得た事で飛躍的に競技レベルが向上した。この兼業と専業では根本的に練習時間が違うだけではなく、練習も仕事もせず疲労回復に費やせる時間も多い。
日系ブラジル人の若手選手のイゴール・タナベやアンディ・トーマスらは、日本国内での活動に見切りをつけて米国に拠点を移した。
この専業化を更に低年齢から進めエリート化させているているのがAOJだ。将来有望な10代の選手を国内外各地から集め、専業もしくは半専業的に育成している。
この専業化による選手強化は、日本であっても同様かつ短期間で効果のでる手段だ。

岩崎正寛は草柔会所属時代は逆輸入若手黒帯のちょっと色物的なポジションだったが、CarpeDiemに移籍して専業柔術家になって以降の活躍はめざましく、ヨーロピアンで入賞したり、海外プロ柔術にも出場するようになった。
他の日本人選手に目を向けても湯浅麗歌子、嶋田裕太、橋本知之らが結果を残せているのは、若年の内に競技に専業できたためだ。日本人にだって専業化の道を歩めばまだまだ伸びしろはあるはずだ。
今の日本の柔術界にも専業柔術家が多少なりいるが、彼らは道場経営者としての専業柔術家だ。
30台半ば以降に会社員やアルバイトをして貯めたお金で道場を開く。新たに開いた道場では入門者は初心者ばかりで、その指導に追われて選手としての練習には専念できない。
つまり専業は専業でも選手としての活動が主だったものではないし、年齢的にも選手キャリアの後期に差し掛かっているケースが多く、選手生活に専念できる環境ではないケースが多い。
国内でスポンサード選手を必要としているISAMIやブルテリアなどの国内のメーカーには、スポンサード選手に年間100万円も払える会社はないし、今の国内の競技人口は増えていると思うが、多少増えたところで国内メーカーに劇的な変化はないだろう。

日本の柔術界が米国に追いつくことはなかなか難しいが、追従するためには如何に柔術を必要としている資金が潤沢なスポンサーを見つけて行くかにということになろう。