9月26日、2か月のお休みをいただきましたが、予定通りに第24回塾を、乃村工藝社でミュージアムプランナーのお仕事をされている、神(かみ)剛司さんを講師にお迎えして、箱崎水族館喫茶室で開催しました。今回のお話のテーマは「博物館の展示ができるまで」と題して、これまでのお仕事の経験から、博物館の展示をつくっていくプロセスやその際に重要な視点や要点について語っていただくことにしました。今回の参加者の多くは博物館の現場で働かれている方が多く、今後の各館の展示の充実や更新をしていくために参考になるお話がたくさん聞けるのではと期待が膨らんでいました。
CIMG0259 お話はまず、神さんが、大学時代に学芸員になることを目指して学んだ、博物館学の教鞭をとられた広瀬鎮先生の思い出から始まりました。実は広瀬先生は以前に愛知県のモンキーセンターという猿を専門にした動物園の学芸研究部門の責任者をされていた方です。また、日本動物園水族館教育研究会の2代目の会長も歴任されるなど、博物館教育や展示などにとても造詣の深い方です。(実は私、高田はこの研究会の4代目会長を現職で務めており、私も恩師として仰ぐ方でした)ということで、神さんと私は不思議な縁で結ばれていると感じました。
 その後、神さんが関わってこらえた多くの博物館展示の紹介となりました。例えば、福井県立こども歴史文化館、姫路城大天守修理見学施設、今城塚古代歴史館、などなど、数えきれないほどの博物館関連施設の立ち上げをご経験されて来られました。
 そこでその中で、今回は特にこの塾では、兵庫県立考古博物館をゼロから作ってこられたご経験を中心に語っていただくことになりました。博物館が1つ完成するまでのプロセスは、一般に、基本構想→基本計画→基本設計→実施設計→施工、という順番に流れていきます。神さんも説かれていたのは、博物館を立ち上げるには学芸員が不可欠であること。つまり、学術的な専門知識のある研究者としてだけでなく、その内容を博物館を訪問する方々に展示を通して、楽しくわかりやすく伝えることを構想できる学芸員の存在が不可欠であるということでした。一方で、なかなか博物館の基本構想の部分から関われる学芸員はすくなく、それであれば、その学芸員に代わる存在として、神さんのようなミュージアムプランナーの存在の必要性を事業主に要望をされてきたとのことです。博物館の基本構想や基本計画は、博物館の使命や設計の方針を決めるものであり、将来にわたってその館の存在や価値を左右する重要なファクターです。そのためには、博物館を建築する際、その建物の建築設計より先に展示構想を練っておくことが重要と語られました。
CIMG0264 では、展示構想を立てる段階において、何が重要でそれぞれのシーンで留意しなければならない点は何なのでしょうか。神さんはまず、展示計画を文章化し、ミッションを明文化することが大事だと訴えました。それは博物館の向かうべき道がぶれないために重要だからです。
 そして次に展示のシナリオをつくること。各展示コーナーのテーマを決めて、それに沿って展示資料を洗い出し、プランナーがそれの展示配置をデザイン(図面化)していく。ここからはプランナーとデザイナーの二人三脚の作業となります。またそれを立体的に理解するために空間模型をつくって検証するなどの作業へと移っていきます。それにより、相手の要望を聞き、隠れたニーズを探りながら設計を進めていきます。
 そしていよいよ、具体的な1つ1つの展示のデザインの作業へと移ります。その際に必要なマインドは、「相手を説得させる資料づくり」であることで、その際にトラブル発生しても、メンバーで知恵を出し合い、解決方法を探ること、また、子ども目線になることが大切だと語られました。そのためには子どもに理解できるか、子どもが楽しめるかなど、企画段階で多くの方からヒヤリングや調査、アンケートを実施するなど、「計画段階評価」をしておくことが大事とのこと。また、難しいもの、これまでに親しみがなかったものを、わかりやすく伝えるには、身近なものに例えて置き換えるなどの工夫をすることで、相手(入館者)の心に落ちる展示に生まれ変わることが可能になる(例えば、銅鏡は現代のパスポートとお守り、土器は炊飯ジャー、壺はコメビツ、陶磁器は高級外車や宝石だった、などという説明展示など)。さらに、展示に入館者の気持ちや目を引き付けるには、心に響くコピーが必要であり、そのコピーを考えるライターの存在も重要だとのこと。
CIMG0267 言葉の持つ力は大きく、神さんはそれを「たかが解説パネル されど解説パネル」と言われました。まさに解説も重要な展示物の1つであり、相手に理解と感動を与えるためには欠かせないツールであると再確認しました。
 改めて、展示評価については、利用者ニーズに応える展示開発や利用者
感覚に密着した展示の実現をめざすことが重要であること。さらに「ツリー」という概念を持ち出され、どのような構成で、各々の要素がどれ程重要かを確実に把握することが大切であることで、これは、展示テーマの構成をツリー形式にして、各々のウェイトを把握する方法で、とくに立場の異なる複数の相手と進める場合の基準となり、① 多くのテーマからなる展示、② 意見がまとまりにくい場合に検討資料として使っているとのことです。
 また前述の展示評価は、展示を利用してもらいたい人たちの声を直接聞き出して分析し、展示計画や設計制作過程に反映していくもので、① 新しい展示の開発。② 現状の展示の改善に欠かせない手法になりつつあるとお話されました。さらに、展示評価は、それ自体が問題を解決するものではなく問題の所在を明らかにするものであること、問題点を解決しながら展示を開発するには、開発に携わるスタッフ全員が、展示評価に関わる事が大切なこと、問題点を共有化し、利用者の顔を思い浮かべながらその声に耳を傾ける、それが的確な判断やアイデアを生み出すことなど、いかに展示計画における事前の評価作業が大事かを語っていただきました。さらに展示評価を行っていくためのフロー図を示され、その作業工程も学びました。例えば、親子でどのような会話がされ、それそれがどのような体験や知識をもっているかを探ることで展示に反映されます。また、評価も1回だけで終わるのではなく、①計画段階評価、②設計段階評価、③制作途中評価など、何度も実施しそのたびに展示制作に修正と反映を行います。利用者の記憶と経験につながるように、身近な情報とあわせて多重な方法で展開する。利用者が興味をもつ、利用者を物語で誘うなど、利用者目線や利用者の気持ちになった展示開発が必要であることが重要とのことでした。このように、いい展示をつくるには、評価基準の策定が必要で、そのために、神さんのようなプランナーの存在は欠かせないと言われました。
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 地域づくり活動での出会いから生まれた手法の紹介では、「性格特性分類法」を応用されたとのこと。これは、占いと同じで、生年月日での性格分類を応用して、利用者が展示を活用する方法をアドバイスしたりする仕掛けや、それを文化財や遺跡と関連付けることによって興味を持たせることができるなど、面白い仕掛けも紹介されました。また、利用者を展示と地域資源に結びつけるしかけにもチャレンジされ、地域の方が地域に存在する様々な知的資源に興味をもつことが大事だと話されました。
 また最後を締めくくる言葉として、領域を越えて付き合うことは素晴らしい!気づかなかったことに気づくことができて、新たな視点を持てるからと言われ、そして、冒頭に紹介した広瀬先生に再び感謝されて話を終わられました。
 このほかにも、展示を作るためには、発見や気づき、身近な情報などフックをたくさん作り、お客さんが少しでも知っている要素をつなげていくこと、世代間で会話が成り立つ展示にすること、などなど、今後の博物館展示をつくっていくうえで、たくさんのヒントになるご発言があり、「なるほど」「そうなんだ」と感心することばかりでした。改めて神さんに感謝したいと思います。

 さて、次回の第25回博Mono塾は、マリンワールド海の中道の館長の高田浩二(本塾の世話人)が、9月上旬に北米の水族館を視察に行きましたのでその報告会を行います。最新の水族館建築や展示、運営など、どうぞお聴き逃しのないように。概要は以下です。

   ■講師 高田浩二(マリンワールド海の中道 館長)
   ■テーマ 最新、北米水族館事情報告
   ■日時 平成25年10月23日(水) 19:00~21:00
   ■場所 箱崎水族館喫茶室
        福岡市東区箱崎1-37-21 電話 092-986-4134
   いつものワンドリンクオーダーと参加者による場所代の折版は同じです。