今、「新宿K’s cinema」や「銀座テアトルシネマ」「銀座シネパトス」「横浜ニューテアトル」などで「二つの祖国で・日系陸軍情報部」という映画をやっているのを知っていますか? これはアメリカ陸軍の秘密情報機関(MIS)の中心メンバーであったアメリカ在住の日系人たちの貴重な証言と大東亜戦争の実写フィルムによって構成されたドキュメンタリー映画です。すずきじゅんいち監督の日系史ドキュメンタリー三部作(「東洋宮武が覗いた時代」「442日系部隊・アメリカ史上最強の陸軍」)の最後の作品で、音楽はなんと!喜多郎が担当しています。
アメリカで生まれて日本で教育を受け、またアメリカに帰った二世たちのことを「帰米(きべい)」と呼ぶそうですが「MIS」の中心になった人たちは「帰米」でした。大東亜戦争が始まると、彼らは「敵国人」として収容所に隔離されました。しかし日本語が話せて日本人の習慣や気質を熟知している彼らを利用することをアメリカは考えるようになります。「帰米」の人たちも収容所でずっと過ごすよりも自分たちがアメリカの勝利に貢献して日系人に対する差別を少しでもなくしたい、という思いが強かったようです。
「MIS」はさまざまな任務を負っていました。日本軍の暗号の受信と解読、資料の英訳、日本人捕虜を尋問するときの通訳、日本人に対するプロパガンダの放送・・・しかし、秘密情報機関という性格上、その実態は長く秘密にされていました。元MIS兵士たちもあまりにも辛い体験なのでこれまで人に話したことはなかったそうです。今回、すずき監督が80名にもなる元MIS兵士にインタビューをして、彼らの内面の葛藤をうまく引き出しているのは凄いことだと思います。
日本とアメリカという二つの祖国が戦う戦場で任務を果たすMISの人たちの辛さが次々と語られます。ある人は弟が日本軍人として戦死したことを戦後知ったそうです。沖縄出身の人は沖縄に米軍が上陸したあと、敵となった弟とやせ細った父親に再会したそうです。日本軍捕虜となった幼なじみと尋問室で再会した人もいます。「立派な日本人になりなさい」と教えてくれた大叔父に一言、お礼を言いたいと思いながらも自分がアメリカ人として戦ったことがどうしても心に引っかかって戦後、日本に行っても結局会えなかった人もいます。
すずき監督がこの人たちの思いをあえて説明しないところが良かったと思います。個々人の体験や内面を他人が説明することはできません。その時、その場にいた人でないと分からないことだと思います。
戦争は悲惨ですが、もし「MIS」がいなかったらもっと悲惨だったでしょう。「MIS」は戦後の日本の復興にも大きく貢献しました。焼け野原から立ち上がった日本人の健気さも彼らの口から語られます。昭和天皇から「二世は日本とアメリカの架け橋になってくださいね」と声をかけられた人もいます。日系二世の立場はどれほど複雑だったか、と思いますがどの人も爽やかな表情で語っています。一人でも多くの人に見に行ってもらいたい映画です