マスコミは報じませんが、今、静かなベストセラーになっている本があるのをご存知ですか? わが国が大東亜戦争に負けた昭和20年(1945年)8月、朝鮮半島から命からがら引き揚げた幼い姉妹の実体験を描いたノンフィクション『竹林はるか遠くー日本人少女ヨーコの戦争体験記(ハート出版・1500円)』です。著者はヨーコ・カワシマ・ワトキンズさんです。この本は英語で書かれ、1986年にアメリカで刊行されました。評判になって数々の賞を受賞し、中学校の教材としても採用されました。ところが朝鮮人が日本人を強姦するシーンが描かれているため、アメリカ在住の韓国人の組織的な妨害を受け、いくつかの都市で副教材から外されたそうです。韓国でも翻訳が発売されましたが、ただちに発禁となりました。待望の邦訳版が出たので、早速読んでみました。
ヨ―コさんは青森で生まれ、生後6カ月で家族で朝鮮北部の羅南(現在の北朝鮮・咸鏡北道清津市)に移住しました。お父さんが南満州鉄道に勤務することになったからです。しかし日本の敗戦直前、身の危険を感じて羅南を脱出します。お母さん、お姉さんと3人、女ばかりの逃避行でした。お兄さんの淑世(ひでよ)さんは軍需工場に働きに行っていたため、一緒に逃げることができませんでした。お姉さんの好(こう)さんは16歳、ヨ―コさんは11歳でした。お父さんが満鉄に勤めていたためヨ―コさん一家は満州の共産ゲリラに追われる身となります。
両親と兄、姉の愛情を一身に受けて、何不自由なく幸福に暮らしていたヨ―コさんは11歳で想像を絶する悲惨な体験をします。その体験を文字にするまでに長い年月がかかったのは当然でしょう。しかし、この本が今、翻訳され、多くの日本人の目に触れたことは本当に良かったと思います。
8月15日、日本軍は天皇陛下の命令一下、一斉に武装解除に応じました。それは「世界史の奇跡」と呼ばれるほど見事なものでしたが当時満州や朝鮮半島、樺太などに住んでいたおびただしい数の民間人は軍隊に守ってもらえなくなってしまいました。ヨ―コさんは苦労しながらも幸い、何とか日本に戻ることができましたが、戻る途中で非業の死を遂げた人がどれほどたくさんいたでしょうか? もう戦争が終わり、軍隊が武器を捨てているにもかかわらず丸腰の民間人を襲って殺害したり、略奪したり、強姦したりするのは明らかに国際法違反です。そのことについて戦後、日本は一言も主張せず、ソ連や朝鮮を非難することもありませんでした。もちろん謝罪や賠償を求めることもありませんでした。敗戦国であるがゆえに何も言えなかったのです。
私はこの本を読みながら何度も泣いてしまいました。特にヨ―コさんのお母さんがせっかく帰国を果たしながら精も根も尽き果てて駅のベンチで息を引き取ったシーンとか、お姉さんの好さんが妹には「学校の用事で遅くなる」と嘘を言って靴磨きをしていたシーンなど、涙なしでは読めません。しかし、悲惨な話ばかりではないところがこの本の魅力でもあります。幼い姉妹が智恵を働かせて幾度も危機を乗り越え、助け合って生き抜くたくましさには心から拍手を送りたくなります。読み終わったあとには爽やかな感動が残ります。是非、一人でも多くの日本人に読んでいただきたいと思います。お勧めですよ!