海外へ旅に出るときは、訪問を予定している場所の周辺図を手書きで書いて持って行くようにしています。事前に訪問先の地図をネットなどで準備しておいて、それを参照しながら白紙に線を引いて最小限の項目だけを簡単に書いておきます。旅先ではこの地図を頼りにしながら移動します。
まず、手書きのもとになる地図をネットなどから手に入れて準備します。それを参照しながら、訪問先のエリアの概要を簡単に書いていきます。広いエリアのものと小さいエリアに絞ったものと両方書きます。大まかな位置関係が分かる程度にさらっと作ります。特に重要なのは駅と道路の位置です。ここが決まってしまえば、訪問先の位置関係はだいたい理解できるようになるので、現地での移動の際にも頼りにすることができます。
街の中を縦横に走る通りの地図の様子を眺めながら、交通事情をはじめ、街の華やぎや賑わいであったり閑散とした光景だったりと、その地域の雰囲気を感じ取ることが好きなのです。私にとっては観光地を紹介するガイドなどよりも、大小さまざまな通りが記された地図の方が価値のあるものになっています。
地図を手書きするようになる前は、ガイドブックの地図をコピーして使っていたのですが、様々な情報が細かく盛り込まれていて余白がほとんどなく、自分で得た情報を書き加えていこうとすると乱雑になってしまい地図の見栄えが良くありません。ネットで調べることもできますが、エリアを絞ると細かい情報がいろいろ出てくるのでそのままプリントアウトして使用するには使い勝手があまり良くありません。
市販の地図では、どこにどのような観光名所やお店があるのかというスポットの所在地や内容については多く紹介されているのですが、どこか物足りなさを感じてしまうのです。というのも、私は通りや路地、車道、歩道などの「道」の雰囲気に興味を持っていて、むしろそうした情報を知りたいのです。ガイドブックの地図でも、さすがに「道」の状態までは記されていません。例えば地図にある一本の道を見ても、それだけでは歩道があるのかないのか、整備された歩きやすい道なのか、荒れているのかは分かりません。
そこで、私は自分で地図を作ってしまおうと考えました。
それまでは、旅先で得た情報をその都度ノートに書いていて、簡単な地図のイラストを添える程度だったのですが、地理情報はやっぱり地図の中に集約していったほうがリアリティーがあるし一目で理解できると感じて、自分で作り始めるようになりました。事前に自分で地図を書いておくことで、訪問先の地理を大まかに理解できるという利点もあります。
旅先で歩いて見つけた面白いスポットを後で手書きの地図に記していくのです。ざっくりと手で書いた地図を持ちながら現地を歩き、そこで得た情報を地図に追加していけばオリジナル・マップができます。初めて訪れたときはほとんんど真っ白な状態の地図なのですが、その時に旅先で得た情報を細かく記載しておけば、次回訪れることがあったときに、この地図が何よりも強い道案内になってくれるのです。街歩きの旅の記録として残しておけるので、後で振り返って楽しむこともできます。
初めて行く場所であれば、当然、何の予備知識もなく歩くことになりますが、事前に既存の地図を見て想像していた風景と、実際に目にする風景とのギャップがあるところが面白いですね。地図で見たときには歩いていけそうな距離だと踏んでいたのに、実際には結構遠かったりすることもあります。また、徒歩で行けそうだと思っていたら、歩道があるようなないような不明確な道だったりするなど、予想外のシーンに遭遇することも多々あります。場所によっては本当に怖い思いをすることもありますけど。建物が通り沿いに建っているのか、空き地などの奥の少し引っ込んだところにあるのかなど、事前に見ていた地図では判別することができず、実際に行ってみて初めて分かることなので、その新鮮な印象を地図に書き記していきます。そうして自分の足で歩いた足跡を地図に残していくことで、自分が描いたオリジナル・マップができ上がります。
オリジナル・マップを見れば、どこにどのような建物があるのかといった場所の確認ができるだけでなく、街の雰囲気を感じられるようにもなるので大変貴重なものになります。時間が経って区画が変わり、以前はあった道が消えてしまって新しい道ができていた、なんてことがあってもいいのです。地図を更新していくだけです。更新するというよりはむしろ情報を上塗りしていくという感じですね。
そうはいっても、あまり詳細まで作り込まないようにしています。書いていくうちに位置関係が多少ずれてきてしまっても気にせずに、初めに作った原型のままに書き加えています。後で「あれっ、なんか位置がおかしいな」と感じても、そのままにしておける自由さが愉しいところでもあります。
まだ見栄えするほどの段階まで作り込んだ地図はないのですが、何回も訪れてその都度、新しい情報を盛り込んで行って地図の中で街の移り変わりが見えてくるようになったら素晴らしいですね。歴史が積み重なった地図というのは大げさな言い方ですが、平面の中からどこか立体的な光景が立ち上がってくるような不思議な魅力がこの地図にはあるように思います。
地図には線、文字、記号、絵など、様々なことを書き込んでいけるのも面白いところです。地図で概略はつかんだものの詳細までは知らないような場所を歩いて回るというの強く好奇心を掻き立てられる体験になります。訪問先としていくつかメインとなる主要な場所だけを決めておいて、あとは現地での気分に任せて動くというのが私の旅のスタイルです。既成の地図を辿る旅ではなく、白紙の状態から少しずつ情報が集まっていって少しずつ地図の形になっていく過程を愉しんでいます。
旅に出る前に地図の原型をつくり、現地を歩きながら記録していき、帰国してから地図を更新する。旅の前後で地図と向き合うことによって、その街が拡がりを持って見えてくるようになります。
このように、手書きの地図を持って現地を歩き、そこで得た生きた情報を書き加えていってオリジナル・マップを作るという愉しみ方をしています。
ある街を訪れるのが1回きりだったとしても、旅の記録として街の雰囲気を思い出す際のヒントにもなります。旅から帰った後、地図を更新したり改めて眺めたりして記憶を辿っていくという愉しみ方もできます。
わざわざ手書きしなくても今なら地図作成ソフトのようなものがあるので、それらを活用するのもひとつの方法ですが、手でさらっと書いたほうが早いような気がするし、カーブした道の微妙な角度などはやっぱり手で書いたほうがリアルな感じが出るように思います。直接、自分の足で歩いて得た情報が加わることで地図上の平面の道が立体的に見えてくることもあります。一本の線を引いただけの道なのに、アップダウンの傾斜具合や舗装状態などが思い浮かんで見えてきたりします。真っすぐに伸びる道や急カーブ、高層ビルの間を走る道や両側に大きな樹が長く並んだ通りなど、車や人通りの交通事情なども含め、その街の道路の様々な表情が見えてきて街の様子が生き生きと蘇ってくるのです。
今は海外の道路もネットで簡単に調べることができるようになっているし、大きい都市のものなら市販の地図も大抵揃っているのでオリジナル・マップのもとになる地図として参照するには十分です。ただ、もう少し種類があるといいかなと思っていますが。
登山で使用する地形図などの場合は、ラフに書いたものを使うわけにはいかないので詳細に記されたものを使う必要があると思いますが、旅先での案内として使いながら書き込みもできる手書きの地図のほうが都合がいいです。
夏に訪れたクアラルンプールへの旅でも地図を書きました。大きい通りを横切るにはどこから渡ればいいのかなどの情報は、次回訪問の際には生かすことができるでしょう。この街の道路事情もエキサイティングでした。
夕方のひどい渋滞のおかげで乗っていたタクシーが一向に進まず、あともう少しでホテルに着くというところなのに、歩いた方が早いからということで突然車から降ろされてしまうという経験をしました。クアラルンプールのかなりヘビーな渋滞に遭遇した道路体験は鮮烈に印象に残っています。
地図を眺めていると訪れた街の特長がよく見えてきます。書き込んだ内容からその地域や国の文化が垣間見えてくるところもあります。自分で書いた地図は、街の文化を学ぶ生きた教材になっています。手書き地図から国や地域の文化を読むという学び方はとても楽しいものです。
そもそも世界中の街を地図で瞬時に見ることができるようになっているのもテクノロジーのおかげなので、デジタル情報も活用しながら今後も手書きのオリジナル・マップを更新していこうと考えています。