六本木・森アーツセンターギャラリーで開催された「バスキア展」を観ました。絵と文字が共存する作風には大変興味深いものがあります。
いくつもの作品を見てひとつ感じたことは、黄色がキーカラーとして用いられているのではないかということです。黄色が色彩表現の中心的な色として存在感を持っているように見えるのです。
手書きのノートも展示されていました。どのページにも文字が整然ときれいに書かれています。いくつものノートを見ていて気付いたのですが、アルファベット「E」という文字の縦の線が書かれておらず三本の横線だけなのです。「E」を含むどの単語を見ても同様です。癖字なのかもしれません。面白いと思いました。
ノートに書かれた文字を見ると、絵のモチーフとなるアイデアを書き溜めていた様子がうかがえます。書かれている内容だけではなくノートの品番が見えるように展示されています。
品番が見えるように展示されているノートもあります。
「mead product coporation」という企業名や
「The mead corporation Dyton Ohio 45463」といった表記もあります。オハイオ州で作られたノートでしょうか。
「MB-70 60sheets」など、品番と見られる表記もあります。
絵画の中に、文字や数字、記号などが多く書き込まれている作品も多く、数理的な表現による思考の跡が見えてきます。絵自それ体の作風はかなり大らかだと思いますが、その作品の裏側には緻密で繊細な思考の跡が感じられてきます。ノートを愛用していた人物と言えばレオナルド・ダ・ヴィンチが思い浮かびます。
絵の一部として文字があるというよりもいったん出来上がった絵の中に後から書き込んだような印象を持ちます。絵と文字との組み合わせはどこか奇妙な感じがして面白いですね。これがバスキアの絵なんですね。
異なる構図の絵をひとつのキャンバスの中に重ねて描かれている感じからはキュビズムを思い浮かべるのですが、それとも違って、絵の中に落書きをしたようにも見えます。絵と文字を組み合わせが新鮮です。絵としての文字があるというよりも絵の中に後から書き込んだようにも見えます。
色や形を描く絵画という表現だけに留めておけない感性のほとばしりがまさにそこにあるといった感じです。
いろんな単語やキーワードからいくつもの矢印が出ていて、違う言葉とつながっていくように大きな拡がりをもって記されています。細かい書き込みが多く見られ、絵の中に思考の軌跡をメモしているようにも思えてきます。思考がより大きな領域へと展開していく様子は壮観です。
ひとつの絵の中に、小さい絵がいくつも挿入されていて、絵のアンソロジーのような作品もあれば、作品の中に後から落書きしたように感じられるものもあります。よく見てみると、ゴッホの黄色、ピカソのキュビズム、ダヴィンチの数理的表現といったものが作品に投影されているように見えます。実際にゴッホの肖像画があったり、ピカソやダヴィンチの名前が記載されているなど、絵画の巨匠といわれる作家へのリスペクトが感じ取れます。
バスキアは1985年に日本を訪問した折、青山スパイラルにある「kay」というレストランを訪れています。その際、店内の壁面に描いたという絵の一部が展示されていました。「日本」の文字や「おべんとう」と書きかけた文字も見られ、日本に対する思いが色濃く反映されています。
「生魚」「シー」「炭素/酸素」などの作品群が特に良かったです。全体が明るく鮮やかな色彩で、色合いが気に入りました。「生魚」の色などは本当に生きのよさが伝わってくるようです。
これだけの才能を持ったアーティストが若くして逝ってしまったことは本当に惜しまれます。
木製のブロック椅子にペイントした作品もありました。ストリート・アートのような雰囲気もたたえた大らかでダイナミックな作風です。ヴィヴィッドな色を中心にした明るい色彩は今風の感性をわしづかみにしてきます。
人の顔の描き方も大胆です。目がずれていたり大きい口にごつい歯など、その描き方は独特です。眼に映るもの、あるいは話される言葉の多様さと奥深さを彷彿とさせます。「今」という時代をとらえ、変化の激しい世界の動向を見据えた表現ともとれそうです。