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Bunkamuraザ・ミュージアムで写真展「永遠のソール・ライター」を鑑賞しました。2017年に開催された回顧展もここで見ていますが、未公開写真に出会えるということで再び足を運びました。

前回と同じ写真もあるのですが今回初めて出品された作品も多くあります。というのも、彼の没後、多くのスライドが新たに発見されたそうです。それらを含め約8万点にも及ぶ写真の整理が現在進められており、その第一弾として一部の写真が初公開されています。今後も未公開の新たな写真との出会いが期待できて楽しみです。

スニペットと呼ばれるものも見ました。これは写真を小さくちぎって紙片にしたものです。持ち運ぶ際に大事な部分に折り目が付かないように配慮するための技法なのでしょうか。

多くのスケッチブックも展示されていました。鮮やかな色彩でラフに描かれた絵があります。メモ帳やリングノートなど、様々なタイプの紙に書いています。カメラを持っていないときに書いたものでしょうか。

1950年代~60年代のアメリカの日常風景をとらえています。作品をひととおり見て気づいたことは、足元を撮影した作品が多いということです。靴や雪の上の足跡、歩いている姿など、足の状態や歩く姿勢に注目している様子が伺えます。それも土の地面ではなく、舗装されたコンクリートの上を歩く革靴やハイヒールなどです。シルクハットを被り、コートを羽織った紳士が多く登場するように、アメリカの社会が成長するに従って、人々の暮らしが少しずつ豊かになっていく時代の序章とも言える光景がそこにあるのです。



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不透明なガラスがさらに露で曇っていて、ぼやけた光景ながらも瑞々しさに溢れています。ガラスの上を滴り落ちる水の雫が織り成す模様には、自然という偶然がつくった美しさを感じます。ある被写体に注目していてすべての輪郭が淀んでいるところは、写真でありながらどこか抽象画のような色彩感覚の表現にも似ています。

店の曇りガラスというのは、静かに落ち着いて商品を吟味するという、物を買うことを特別な体験として楽しみ始めたことの象徴のようにも思われます。雪の日に外出しても、暖かい場所があちこちに点在しているという安心感が、人々の足取りをより活発なものにしていったのかもしれません。



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一面を覆う大粒の雪がこのショットの背景になっているようにも見えます。普段は単調に見えるレンガ色のビルの壁が、このときばかりはきれいな動画を映し出す巨大なスクリーンのようですね。



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通りの先に覗く原色に彩られた車のボディをとらえています。人の移動にタクシーが多く利用されるようになっていることや、車体を目立たせて乗車を促そうとする商業意識の高まりもうかがえます。
とはいえ「黒い傘」というタイトルの写真にも見られるように、当時は必ずしも街全体が色めき立っていたわけではないようです。殺風景な街に少しずつ色が増えていき、それが街を往く人々の新たな活力となっていくという、成長の過渡期にあった社会の様子が目に浮かんできます。

急速に発展を遂げていく街のなかを様々な装いの人々が闊歩し、新旧の色が交差する光景のなかに新しい色を見つけることを、きっと彼は楽しんでいたのでしょう。

『ハーパース・バザー』誌で活躍した彼が一線を退き、ファッション写真の世界から身を引いたのは、お仕着せの色よりも人々の生活の中からぽつりぽつりと立ち昇ってくる色をとらえることのほうに関心が移っていったからではないか、そんなふうに考えました。