「パリのすてきなおじさん」という本を読みました。パリに在住する「おじさん」が何人も登場し、一人ずつ今の暮らしの様子や生い立ちが語られていきます。パリで生まれ育った人はもちろん、異国から移住してきた人も多く登場し、人を糾合するこの街の魅力が見えてくるところも面白いです。
粋な生活スタイルの裏にある壮絶な生い立ちやフランスに渡った経緯などの話もあり、ドキュメンタリー的な要素も交えながら展開されていきます。
ジャーナリスティックな視点が散りばめられていて、思いっきり硬派なインタビュー集としても編集しても良さそうですが、そうではなく「パリで暮らすお洒落でかっこいいおじさん」という設定にしたことで、それぞれの逸話がより鮮明に浮かび上がってくるように感じます。
多様な背景を持った「おじさん」の話の端々からは多文化都市パリの実像が垣間見えてきます。中には壮絶なエピソードもあるのですが、それをさらっと話しているところはさすがですね。紆余曲折はあれどもパリを満喫している今の暮らしを基点にしているので、昔のつらい経験の話があっても最後はほのぼのとした気持ちになるのです。
シリアスな話にすうっと入っていけるのは、この街の性格に沿うように硬軟織り交ぜられた構成になっていることで、そのギャップが上手く効いているからではないでしょうか。
こうした熟練の「おじさん」が語る言葉からはパリジャンとしての矜持が感じられます。これはウィットに富んだ感性溢れる街で暮らしていることと関係があるのかもしれない、などと想像しながら楽しく読みました。
「おじさん」の似顔絵を描いたポップなイラストが随所に盛り込まれていて、けったい?な「おじさん」もこのイラストによってすっかり愛しい人に変身しています。この優しい絵が「おじさん」に親近感を抱かせます。
この本はパリだけではなく、シリーズ化して他の都市のバージョンもあると面白いと思ったのですが、いやいや、やっぱりこの一冊で完結しているほうがいいと考え直しました。シリーズ化したら硬軟があることの良さが次第に薄れてきて、シリアスな逸話のインパクトがかえって弱くなってしまうように感じました。「おじさん」と「パリ」のあいだにあるギャップこそこの本の面白さだと気付きました。
パリの街角にある多くのカフェをはじめ、この街の至るところに溢れる快活な空気に触れていれば、どんな背景を持った人でも陽気にさせてしまうのでしょう。そんな魔法に溢れたパリだから硬軟のギャップが奏功して「おじさん」の魅力が浮かび上がってきます。
装丁も一風変わっていて、4種類ある帯には違う「おじさん」のイラストが入っています。どの人もそれぞれ粋なキャラクターなので選ぶのに迷ってしまいます。
「おじさん」というとネガティブな側面から書かれたり語られたりすることが多い印象がありますが、この本は正面から「おじさん」に敬意を表し全面的に礼賛するレアな本なのです。がんばれおじさん!!