第3話


みゆがコップを用意してジュースを注ぐ。変な野菜ジュースかと思ったら普通にウーロン茶だった。
 ひとまず、コーラを飲んで喉を潤して有一は口を開く。

「あの由香里先輩。この『うさぎなりきり部』って学校の正式な部活動なんですか?」

 びくっ!と由香里は体を引きつらせて言う。

「大丈夫ですわ・・・ほほほほほほ・・・・ちゃんと申請はしてますわ・・・・」
 
 と、引きつり笑顔の無理のある由香里の言葉。信頼性ゼロである。

「それで、先輩・・・活動内容はどんな事をするのですか?」

「そりゃ・・・もう・・・うさぎ様を愛でて・・・うさぎ様の気持ちになって・・・一緒に遊んで幸せになる部活動です・・・有一君もよくそんな気持ちになるでしょう・・・」

「変な所で、俺に同意を求めないで下さい!」
  
 なんだか疲れてきた有一。本能的なのか、みゆが有一の口元にチョコポッキーを差し出す。
 ポリポリとチョコポッキーをかじりながら、まだまだ山程ある『聞きたいこと』を聞く。

「あの・・・ライバルの学校とかあるのですか?うさぎなりきり甲子園とかあるのですか?」

「はっ!」由香里の顔に緊張が走る!

 いきなり立ち上がり天を指差す!

「よくぞ聞いてきれました!」片足をテーブルに上げて只ならぬ雰囲気になる由香里。

「私達と同じ部を設立してる高校生がいますぅぅぅぅ!」
 
「なんだって!マジかよ!ネタじゃあないよね・・・」驚きを隠せない有一。
 
「嘘じゃないです・・・本当です!本来なら他流試合を申し込みたいところですが・・・」

(試合って・・・どう言う試合内容なんだよ?)とツッコミたい気持ちを抑えて由香里の話を聞く。

「その学校は・・・台湾にあるので・・・私達のお小遣いでは行けません!だから試合が出来ないのです!」

 と、なぜか決めポーズを決める由香里。

「ここまで盛り上げて・・・なんだ・・・その悲報的な結論は・・・」

 そんな由香里とは関係なく、みゆはまだお菓子を食べている。

「まぁまぁ・・・有一君・・・お菓子を食べましょう!」とたけ○この里を薦めるみゆだ。

 疲れる心に甘い物をと、お菓子のある皿の上に手を伸ばす。
「んっ?」ふと有一の視線に違和感がある。みゆの膝の上に乗せてあるのが動いた気がした。
 最初は黒い毛がフモフモしている、うさぎのぬいぐるみかと思った。
「あれ・・・?」もう一度よく見てみる。
 垂れた耳を揺らし、鼻をヒクヒクさせてみゆの膝の上を動いている。

「げっ!そのうさぎ・・・本物かよ!・・・・」また驚く有一。

「そうだよ・・・私のうさぎ様のアメリカンファジー・ロップイヤーだよ!黒い毛並みだから『コーラ』ちゃん!可愛いでしょう!」
 
 と、小さい体でやや縮れた毛並みのコーラちゃんを抱っこするみゆ。

「いや・・・その・・・俺がツッコミたいのはそこじゃなくて・・・」

「ねぇねぇ!見て見て!私のうさ様を見て!有一君!」

 と、由香里もうさぎを抱っこして有一に見せる。もちろんぬいぐるみではなく、鼻をヒクヒク動かしている本物のうさぎだ。

「私のうさぎ様は、ネザーランド・ドワーフです。白い毛だから『バニラ』ちゃん!可愛いでしょう!」

 由香里も小型品種のドワーフのバニラちゃんを見せびらかす。短い耳で少し黒のぶちが入るバニラちゃんだ。
 二匹共に飼い主に抱っこされ、ただ鼻をヒクヒク動かしているだけだ。
 抱っこされるのを嫌って、バニラちゃんは由香里の手を離れ床の上を匂いを嗅ぎながらアチコチ歩き回る。
 追ってコーラちゃんも床の上を自由に動き回る。とても高校の校舎の中とは思えない風景だ。

「あの~先輩方・・・学校に生き物を持ち込んでは、ダメでなくね・・・?俺がツッコミたいのはそこなんだけど・・・」
 
 もうかなり脳が溶けかかっている有一だ。

「失礼ね!」口を尖らせて由香里は言う思わぬ反論。

「持ち込んでなんかいないよ・・・!学校で飼っているのよ!」

「もっとダメじゃないですかぁぁぁぁぁ!」

 大ポイントのツッコミが炸裂した。

 そこからは有一と由香里の激しい言い争いになる・・・
 ぎゃぎゃぁと声が響く中、2匹のうさぎは関係なく広いスペースをリラックスして散歩している。

「まぁまぁ・・・由香里ちゃんも有一君も落ち着いて、コーラちゃんとバニラちゃんを見ていると心休まるよ!」

 一口チョコをポリッと噛みながら、みゆが言う。
 そう言われて由香里は冷静になり、正座して二匹のうさぎを観察する。その隣に並んでみゆも正座して観察し始める。
 ゆっくりと跳ねたり、物の匂いを嗅いだり、二匹揃って駆けっこしたりと可愛い仕草のうさぎ二匹は癒し空気をいっぱい運んでくる。
 無論、うさぎなりきり部女子二人はグデグデでその様子を見る。

「きゃぁ・・・・ぁぁぁぁ・・・・やっぱ・・・・バニラちゃん・・・可愛い・・・」

「うううっ・・・・コーラちゃん・・・・可愛い・・・・泣ける・・・・幸せすぐる・・・・うううう」

 二人のなんか怪しいムードのうさぎ観察会。
 だが有一も可愛いうさぎの仕草に見入っていた。
(うさぎか・・・小学生の時、飼育係りでうさぎの世話をしていたよな・・・あのうさぎはまだ元気なのかな・・・)
 少し昔を思い出していた。

「ああ!由香里ちゃん・・・有一君がうさぎ様を見てニンマリしている」

「ふぇ・・・?」意表を突かれたみゆの声に有一はマヌケ顔で我に帰る。
 気がつくと由香里が瞳を潤ませて言う。

「やはり私の目に狂いは無かったわ・・・有一君。同じうさぎなりきり部で学園生活を過ごしましょうね!」

 メイドカフェ並みのアニメ声で言う由香里。

「なに声を変えているんだよ!・・・・勝手に入部を決めるな!」

 背中にショックが伝わる。みゆが後ろから抱き付いてきた。

「ふふふふふっ・・・ここに来たからには・・・うさぎ妖怪みゆたんが・・・死ぬまで離しまへんで・・・・ふふふふっ・・・」
 後ろも後ろでよく分からない事になっている。

「なんだよ・・・二人で!」とその場から有一が逃げようとした時に・・・
 ガラッ!と倉庫のドアが開いた。