【ネットで経済学「革新なくして成長なし」】:「何をしてはいけないか」の理解が重要
アカデミズムの新潮流を紹介する経済教室の「エコノミクストレンド」。日本経済新聞朝刊3月1日付では早大教授の若田部昌澄氏が、経済学の観点から、望ましい成長戦略について考える。
◇若田部昌澄(早大教授)
今回は「新成長戦略」を材料に、経済成長論とそこから導かれる政策論について取り上げました。 ※(写真):(わかたべ・まさずみ)65年(昭40年)生まれ。トロント大博士課程終了。専門は経済学史 日本経済新聞 朝刊 主要ニュース けいざいアカデミー 【日経ネットPlus】 2010年03月01日 08:53:00 この記事は参考資料です。転載等は各自の責任で判断下さい。
最初に利用した文献を挙げます。
幸福度と1人当たり実質国内総生産(GDP)の関係を再検討しているのは次の論文です。
Stevenson, Betsy, and Justin Wolfers (2008), “Economic Growth and Subjective Well-Being: Reassessing the Easterlin Paradox,” Brookings Papers on Economic Activity, Spring, pp.1-87.
記事で取り上げるのは断念しましたが、いろいろと興味深い図表が掲載されています。
経済成長論についての決定版的な教科書はアセモグルのものです。
Acemoglu, Daron (2009), An Introduction to Modern Economic Growth, Princeton: Princeton University Press.
これは本当に恐るべき教科書で、成長論についてのトピックの網羅性、論証の厳密性では当分これに匹敵する本はでてこないと思われます。それほどの大著はどうかという人には、以下の本がお勧めです。
Aghion, Phillipe, Peter Howitt (2009), The Economics of Growth, Cambridge, MA: MIT Press.
著者たちは、最近の経済成長理論をけん引してきた経済学者たちです。理論と政策設計の話がコンパクトにまとまっています。その結果をさらに論文にしたのが、次のものです。
Aghion, Phillipe, and Steven Durlauf (2009), “From Growth Theory to Policy Design,” Commission on Growth and Development. http://www.growthcommission.org/storage/cgdev/documents/gcwp057web.pdf
ダーラウフは成長の実証分析を得意としている経済学者です。
成長と循環の関係についても多くの文献があります。イムズ教授の論文は以下のとおりです。
Imbs, Jean (2007), “Growth and Volatility,” Journal of Monetary Economics, Vol.54, No.7, pp.1848-1862.
産業政策については、まず次の画期的な研究があります。
伊藤元重・清野一治・奥野正寛・鈴村興太郎(1988)『産業政策の経済分析』東京大学出版会。
これはこれまで明確な理論的根拠を欠いていた産業政策の分析水準を大きく向上させた研究でした。その定義をうけながら、各種の実証結果も含めてまとめた教科書が次のものです。
岩田規久男・飯田泰之(2006)『ゼミナール経済政策入門』日本経済新聞社。
この本はミクロとマクロと所得再分配に分けて経済政策の基本を整理した良い教科書です。90年代の産業政策の実証研究は次の2つです。
Beason, Richard, and David E. Weinstein (1996), “Growth, Economies of Scale, and Targeting in Japan (1955-1990),” Review of Economics and Statistics, Vol. 78, No.2, pp.286-95.
Lee, Jong-Wha (1996), “Government Interventions and Productivity Growth,” Journal of Economic Growth, Vol.1, No.3, pp.391-414.
昨年発表された清水・岡崎論文は以下のとおりです。
Shimizu, Kozo, and Tetsuji Okazaki (2009), “Industrial Policy Cuts Two Ways: Evidence from Cotton Spinning Firms in Japan, 1956-1964,” Global COE Hi-Stat Discussion Paper Series 101. http://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/handle/10086/18041
さて、経済成長の問題は経済の「戦略変数」としての意味をもつ、きわめて重要な問題だと思われます。しかし、現代の日本では、長い停滞が続いていたためか、あるいは02年から06年の景気回復もさほど実感がなかったためか、経済成長についての悲観的な意見、あるいは経済成長無用論が見受けられます。幸福研究も、経済成長と幸福度を切り離して考える一部の論調を補強する材料として用いられているきらいがあります。
しかしそうした議論にはやはり問題点があります。本稿で述べたように失業の増大は幸福度を減少させますし、経済成長のない世界では失業率は高止まりしてしまうでしょう。経済成長は幸福と密接な関係があり、幸福を追求するには経済成長を追求しなければならないことを理解する必要があります。
では経済成長を促進するには何が必要でしょうか。これが完全に分かっているならば苦労はしません。経済学最大の謎の一つといってよいでしょう。けれども、おそらく「何をすべきか」以上に、「何をしてはいけないか」ということは少しずつ分かってきていると思います。
これまでの研究で明らかになっている限り、その「してはいけない」ことの典型が産業政策の類の政府干渉です。新成長戦略の問題は、むしろ「何をしてはいけないか」という部分についての理解を欠いているところにあるといえます。
幸福度と1人当たり実質国内総生産(GDP)の関係を再検討しているのは次の論文です。
Stevenson, Betsy, and Justin Wolfers (2008), “Economic Growth and Subjective Well-Being: Reassessing the Easterlin Paradox,” Brookings Papers on Economic Activity, Spring, pp.1-87.
記事で取り上げるのは断念しましたが、いろいろと興味深い図表が掲載されています。
経済成長論についての決定版的な教科書はアセモグルのものです。
Acemoglu, Daron (2009), An Introduction to Modern Economic Growth, Princeton: Princeton University Press.
これは本当に恐るべき教科書で、成長論についてのトピックの網羅性、論証の厳密性では当分これに匹敵する本はでてこないと思われます。それほどの大著はどうかという人には、以下の本がお勧めです。
Aghion, Phillipe, Peter Howitt (2009), The Economics of Growth, Cambridge, MA: MIT Press.
著者たちは、最近の経済成長理論をけん引してきた経済学者たちです。理論と政策設計の話がコンパクトにまとまっています。その結果をさらに論文にしたのが、次のものです。
Aghion, Phillipe, and Steven Durlauf (2009), “From Growth Theory to Policy Design,” Commission on Growth and Development. http://www.growthcommission.org/storage/cgdev/documents/gcwp057web.pdf
ダーラウフは成長の実証分析を得意としている経済学者です。
成長と循環の関係についても多くの文献があります。イムズ教授の論文は以下のとおりです。
Imbs, Jean (2007), “Growth and Volatility,” Journal of Monetary Economics, Vol.54, No.7, pp.1848-1862.
産業政策については、まず次の画期的な研究があります。
伊藤元重・清野一治・奥野正寛・鈴村興太郎(1988)『産業政策の経済分析』東京大学出版会。
これはこれまで明確な理論的根拠を欠いていた産業政策の分析水準を大きく向上させた研究でした。その定義をうけながら、各種の実証結果も含めてまとめた教科書が次のものです。
岩田規久男・飯田泰之(2006)『ゼミナール経済政策入門』日本経済新聞社。
この本はミクロとマクロと所得再分配に分けて経済政策の基本を整理した良い教科書です。90年代の産業政策の実証研究は次の2つです。
Beason, Richard, and David E. Weinstein (1996), “Growth, Economies of Scale, and Targeting in Japan (1955-1990),” Review of Economics and Statistics, Vol. 78, No.2, pp.286-95.
Lee, Jong-Wha (1996), “Government Interventions and Productivity Growth,” Journal of Economic Growth, Vol.1, No.3, pp.391-414.
昨年発表された清水・岡崎論文は以下のとおりです。
Shimizu, Kozo, and Tetsuji Okazaki (2009), “Industrial Policy Cuts Two Ways: Evidence from Cotton Spinning Firms in Japan, 1956-1964,” Global COE Hi-Stat Discussion Paper Series 101. http://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/handle/10086/18041
さて、経済成長の問題は経済の「戦略変数」としての意味をもつ、きわめて重要な問題だと思われます。しかし、現代の日本では、長い停滞が続いていたためか、あるいは02年から06年の景気回復もさほど実感がなかったためか、経済成長についての悲観的な意見、あるいは経済成長無用論が見受けられます。幸福研究も、経済成長と幸福度を切り離して考える一部の論調を補強する材料として用いられているきらいがあります。
しかしそうした議論にはやはり問題点があります。本稿で述べたように失業の増大は幸福度を減少させますし、経済成長のない世界では失業率は高止まりしてしまうでしょう。経済成長は幸福と密接な関係があり、幸福を追求するには経済成長を追求しなければならないことを理解する必要があります。
では経済成長を促進するには何が必要でしょうか。これが完全に分かっているならば苦労はしません。経済学最大の謎の一つといってよいでしょう。けれども、おそらく「何をすべきか」以上に、「何をしてはいけないか」ということは少しずつ分かってきていると思います。
これまでの研究で明らかになっている限り、その「してはいけない」ことの典型が産業政策の類の政府干渉です。新成長戦略の問題は、むしろ「何をしてはいけないか」という部分についての理解を欠いているところにあるといえます。