芹ヶ谷だより

美術館スタッフが皆さまにお届けします。

2011年05月

駒井哲郎展 ワンポイント鑑賞講座 その5 「駒井と酒」

詩人安東次男と駒井哲郎が協同して制作した詩画集、『人それを呼んで反歌という』に収められている作品に、「食卓にて、夏の終りに」があります。
見開きの画面左側半分にワインの壜、右側にバスケットに入ったパンが描かれた白黒の銅版画です。
安東によればこの作品は、サルバドール・ダリが聖餐(せいさん)にちなんで描いた「パン籠」という静物画に着想を得て詠んだ安東の詩に、「呑んべえ」の駒井が「さっそくブドウ酒壜を横に添えて」つくったものだったということです(「『人それを呼んで反歌という』覚書」『版画芸術』77号)。
駒井はとにかく酒をよく飲む版画家でした。普段は紳士なのに、ひとたび酒を口にすると、手に負えない飲んだくれに変身することもあったといわれます。
駒井が夢と現実を区別せずに制作したことや、孤独感や虚無感、不安などをかかえた版画家だったことなどを考えると、駒井と酒と銅版画制作の関係はとても示唆的です。
コミカルな面とデモーニッシュな面を含んでいる駒井の銅版画は、ジキルとハイドのような二面性を持つその内なる姿を映し出しているように思えます。

人それを呼んで001

詩画集『人それを呼んで反歌という』展示風景

人それを呼んで002

「食卓にて、夏の終りに」

「講座受講生作品展」開催中です!(5月29日まで)

当館の市民展示室(B室)で2010年度講座受講生作品展がはじまりました。
この展覧会では、昨年度に当館が実施した創作講座を受講された皆さんの作品37点を中心に、各講座の講師の作品、一日教室の参加者の作品、および版画の道具などを展示しています。

受講生は中学校の授業以来久しぶりに絵を描いたという方から、版画以外では長年にわたり美術制作を行っている方まで様々ですが、それぞれが初めての本格的な版画制作に真剣に取り組んだ成果を是非ご覧下さい。(最終日は午後4時で終了します。)

会場風景
会場風景

駒井哲郎展 ワンポイント鑑賞講座 その4

「庭の小さい虫」

画面の地の緑色は庭の芝生か苔を暗示させています。
そこを小さな虫が掘り起こし、土を盛り上げている様子が描かれています。
駒井はその様子をじっと見ていたのでしょう。
それは普段から孤独感を抱いていた駒井哲郎が、無になれるひと時の安らぎの時間だったのかも知れません。
この銅版画には、そうしたのんびりとした、安らぎの状態がゆっくりと過ぎていく感覚が描かれているように思います。
目の前のミクロの世界と人間の脳内に広がる壮大な宇宙、そんな対比をしながらこの作品を眺めてみるのも面白いかもしれません。

庭の小さい虫1

「庭の小さい虫」展示風景

駒井哲郎展 ワンポイント鑑賞講座 その3

駒井哲郎1920-1976展・第Ⅱ部がスタートしました(6月12日まで)。
じっくりと味わっていただきたい<こころの造形物語>の後篇です。

展示作品のなかに円や楕円を描いた抽象的な作品が数点あります。
「二つの円周」(no.149)や「笑う人」(no.155)、「街」(no.156)、「食卓」(no.170)などです。
そうした形がいったい何のイメージを表わしたものかは、はっきりしていません。
とはいえ1950年代後半から60年代はじめの作品から推定すると、果物や球根のイメージから展開しているように思えます。
銅版画に描かれたそれらを、詩人の大岡信は「拡散と集中の二重構造的フォルム」と評し、美術評論家の東野芳明は「魅力的な楕円幻想」と呼びました。
だんだんその形が自立して図形的な円や楕円となり、まったく違うイメージをあらわす形として描かれるようになったのだと考えられます。
抽象的な概念や浮かんでは消える想い…それらに形を与えてゆく造形芸術の軌跡を感じ取っていただけたら、と思います。

二つの円周

「二つの円周」展示風景

駒井哲郎展 第Ⅱ部がはじまりました!

5月11日から、駒井哲郎1920-1976展の第Ⅱ部「夢を誘う版の迷宮 1961-1976」が始まりました!

駒井哲郎展は第Ⅰ部・第Ⅱ部、作品全点総入れ替えの展覧会です。
大規模な展示替えを行いました。

展示替え風景1

普段はお目にかかれない、貴重な展示替えの風景です。
担当学芸員と、展示のプロフェッショナルたちが次々と作品を展示していきます。

展示替え風景2

駒井哲郎展では第Ⅰ部と第Ⅱ部、全点違う作品が出品されています。
まさに、すべてを見ずにはいられない展覧会です。


「駒井哲郎1920-1976 こころの造形物語」第Ⅱ部は、6月12日(日)まで開催しております。
駒井の創造の軌跡を、お見逃しなく!

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