緊急事態宣言下の自粛期間中、何をしていた?というのが、多くの人の話題に上るようになりました。パンデミックは終わるどころか、感染者はむしろ急増していますが、経済活動とのバランスの観点から、なんとか社会活動は維持されています。同業の友人には大学で教鞭をとる人も少なくありませんが、大学教育の場は、正常化にはほど遠いようです。在宅勤務とはいえ、会議などの雑務からは解放されたので、これまでの調査ノートを整理して論文を書き上げた、といううらやむべき人(少数派です)もいれば、慣れないリモート授業に悪戦苦闘している人(多数派のようです)もいます。教員もたいへんですが、終日、PCの前に座らされている学生は、毎日大量の課題まで出されて、もっと過酷な状況にあるようです。
でも、リモートとはいえ、講義を聴講できている学生はまだましかもしれません。医学部や工学部など、実習や実技をともなう専攻の学生にとっては、緊急事態宣言中は何もできず、また対面授業が一部再開したといっても、学内施設の利用には時間や人数の制限があって、パンデミック以前のようにはいかないようです。美大の学生、とくにプレス機や銅版腐食のための設備などを使う版画専攻の学生も、たいへんな逆風にさられている人たちだといって過言でないでしょう。
そうした中、今年も12月5日から、恒例の全国大学版画展が開催されます。全国の美大や教育系大学・短大、専門学校で版画を学ぶ学生にとって、1年間の創作活動の成果を世に問う場です。今年は新型コロナ感染予防の観点から出品点数が例年より減らされています。その分、各大学で精選された作品が展示されており、高レベルの作品をゆったりとご覧になることができます。設備利用には不自由しても、巣籠り生活の中でじっくりと構想を練ることができたこともあるでしょう。
ただ、会場をざっと見渡した限りでは、作品のテーマの上にパンデミックの影響は明瞭には表れていないようです。それが出てくるのは、コロナも完全に終息し、「あの頃は」と、振り返ることができるようになってからなのかもしれません。
大久保 純一(おおくぼ じゅんいち 町田市立国際版画美術館館長)