
ヘンリー・ピーチ・ロビンソン(1830-1901) 《キャロリング》
1887(後年のプリント) ゼラチンシルバープリント 東京都写真美術館

ヘンリー・ピーチ・ロビンソン《キャロリングのためのデッサン》
1887(後年の複製) コロタイプ 東京都写真美術館
このふたつの作品はどういう関係でしょう?
写真をもとにデッサンを描いた、そう考える方が多いのではないでしょうか。でも実は逆、デッサンの構図に従って写真を構成しているのです。
見たままに正確に写し、瞬間を切り取ることができる、これが写真の長所なのに、なぜわざわざそのようなことをするのか、現代の私たちには不思議に思えます。
正しく組み立てられた空間に人物や事物を配置し、全体の構図を組み立てていく、これは当時のアカデミックな絵画の制作方法です。遠近法や陰影法、解剖学や美術史の知識に基づき制作されるこうした絵画が芸術とされていたのです。
写真技術が急速に発展を遂げるにつれて、写真家の中には写真を芸術として認めてほしいという声をあげる者が現れるようになりました。これに対して、レンズの前にあるものを機械で写すだけで、誰がやっても同じなものを芸術として認めることはできない、との声があがります。この作品はアカデミックな絵画の方法に従うことで、写真の「芸術性」を高めようとした試みと考えられます。絵画を脅かす存在と考えられていた写真が、自らの長所をあえて犠牲にしてまで絵画に倣おうとしたのは今となっては良い方法ではなかった、と言われてしまうかも知れません。
でもこれもまた、先にご紹介したバクステロタイプやクリシェ=ヴェールと同様に、急激な変化で先の見えない状況の中での挑戦だったのです。