当館の年間の展示は、広い企画展示室を用いた作品展示数も多い企画展と、比較的小さい常設展示室において館蔵および寄託作品を用いた特集展示から構成されています。察しの良い方はお気づきかもしれませんが、特集展示は開催時期の重なっている企画展示の内容と関連付けたテーマ設定となっていることも少なくありません。直近の例では、西洋の自然史を扱ったこの春の企画展「自然という書物 15~19世紀のナチュラルヒストリー&アート」に合わせ、特集展示「日本の自然と多色摺木版の世界」を企画したことが挙げられます。
 6月14日から始まった特集展示「大正・昭和初期の東京風景―織田一磨を中心に―」も、先日(7月17日)まで開催していた企画展「出来事との距離―描かれたニュース・戦争・日常」および7月22日から始まる「版画家たちの世界旅行―古代エジプトから近未来都市まで」との関連を意識した内容です。東京風景をテーマにした作品でまとめたという点は、企画展「版画家たちの世界旅行」が世界中の「絵になる風景」を取り集めたことと呼応させています。
 特集展示の平塚運一「東京震災跡風景」は関東大震災後、いまだ復興の済んでいない東京の風景を描いた連作版画です。人の姿のまったくない、静寂で一種乾いた詩情さえ漂う画面からは未曽有の惨状からやや時を経て、作家が出来事とある程度の距離を保って制作したことがうかがえます。一方、織田一磨の『画集銀座』と『画集新宿風景』は、ざわめきの聞こえてきそうな夜の通りや酒場の店内など、作者自身が盛り場の真っただ中に身を置いて描いています。両者には都市風景への距離の取り方の違いが見出せますが、その背景には急速に復興していく都市の変貌があるのでしょう。
 近日公開の「版画家たちの世界旅行」と合わせてお楽しみください。