ヨルク・シュマイサー展の会期も残すところ数日、遅ればせながらイベントのご報告です。

Mr Kurosaki
 
10月20日に開催したのは、木版画家の黒崎彰氏による講演会「シュマイサーと日本」。
黒崎彰氏は日本を代表する木版画家で、版画史家としても多くの著作があります。
1968年に京都に留学したシュマイサーが、木版画の師を求めるうちに出会ったのが黒崎氏でした。シュマイサーに日本文化理解の扉を開いた存在といえるでしょう。
 
黒崎氏が注目したのは作品に書かれた文字。「日記」シリーズが示すように、画中に書かれる文章はシュマイサー作品の大きな特長です。

とりあげた作品は3点。
木版「Exile’s Letter(李白)から」とエッチング「韓国の旅」。どちらも1969年とごく初期の作品です。
  
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そして「日記とアンコール」(2007年)
 
無題

1969年作の2点は今回の展覧会には出品されていません。おそらく刷り部数も少ない貴重な作品です。
黒崎氏ご所蔵の作品を持って来られ、「版画は手に取って見ないと」と、なんと回覧!


回覧

「韓国の旅」に書き込まれているのは、地名や日付、文章もごくごく短いもの。
その後、文字が画面に占める割合は大きくなり、造形的な要素としても重要な役割を演じるようになっていきます。

そして文字である以上は、そこに記された内容にも意味があるはず、この文章は読まれることを前提にして書かれている、と黒崎氏は言います。その一例として「日記とアンコール」の文章の冒頭部を判読して下さいました!

アンコールワットを描いた作品の文章が「御所は素晴らしい秋の色に輝いている」で始まるとは意外です。シュマイサーが現地を訪ねたのは2003年ですが、この作品は2007年、京都で暮らしていた時期に制作されており、文章がまさに「日記」であることが分かります。この先を読み進めれば、制作の状況や作品にこめた思いなど、さまざまな事実が浮かび上がってくるに違いありません。

木版を学ぶために来日したシュマイサーでしたが、二組の版画集を制作したのちは、この技法に取り組むことはありませんでした。黒崎氏がその理由としてあげたのが、木版で文字を彫ることの困難さです。文字を重要な表現手段と考えるシュマイサーに適していたのは、線の表現であるエッチングだったのです。

版画史家でもある黒崎氏は実際の作品を丁寧に読み解き、わかりやすく論を進めて下さいました。それとともに強く感じたのは、それぞれの作品にむける細やかなまなざしです。おふたりの長い交友と、黒崎氏の温かな人柄がよくあらわれたご講演でした。