新型コロナウイルス感染者の数が急速に増え、恐れていた第三波の到来のようです。美術館もこれまで以上に、感染予防に注意をした運営を心掛けなければなりません。

 日本よりもはるかに状況の悪い欧米諸国では、一時再開していた美術館や博物館の再閉館を余儀なくされ、財政体力の弱い小規模館では存続が困難なところも出てきているようです。また、人や物の移動が難しくなり、他館から作品を借用して展覧会をおこなうことも難しくなってきているようです。そこで鍵となるのが所蔵作品の充実度です。美術館は自らの所蔵作品を見直し、その活用法を考えつつあるというわけです(“When the world reopen, will art museums still be there?”)。日本はまだそれほど深刻な状況にはありませんが、パンデミックの中で所蔵作品の重要性とその活用を見直そうという機運は高まりつつあるようです。幸い、当館は自治体の美術館としては国内トップクラスの所蔵作品数を誇っており、所蔵品だけで構成できる企画展やミニ企画展などでフルに活用されているだけでなく、作品の貸与によって他館の展覧会活動をお手伝いする機会も少なくありません。

 現在開催している「新収蔵作品展 Present for You わたしからあなたへ/みんなから未来へ」は、近年収蔵された作品の一部をご披露するものです。日本版画協会をささえた作家たちの競作である『日本女俗選(にほんにょぞくせん)』、戦後版画運動の中心作家である鈴木賢二の諸作品や「旅する版画家」ヨルク・シュマイサーの作品群など、多彩な作品を約90点展示しています。当館の学芸員の日頃の地道な調査・研究や近年の展覧会活動を評価していただいた方々からのご寄贈品が多数を占めています。美術館のコレクションをさらに充実させることができたわけですが、美術館にとって自前のコレクションと活発な学芸活動がいかに重要かを再確認する機会ともなりました。

 では、私の好みで1点、選んでみます。冒頭に展示されている『日本女俗選』です。

 菱川師宣(ひしかわ・もろのぶ)の『和国百女(わこくひゃくじょ)』(元禄8年・1795)、西川祐信(にしかわ・すけのぶ)の『百人女郎品定(ひゃくにんじょろうしなさだめ)』(享保8年・1723)、歌川豊国(うたがわ・とよくに)の『絵本時世粧(えほんいまようすがた)』(享和2年・1802)など、浮世絵師がさまざまな社会階層や職業の女性たちを描き集めた風俗絵本は少なくありません。それらは一人の絵師の手になるものです。一方、『日本女俗選』は、日本版画協会を代表する5人の版画家が分担して女性風俗を描いた10枚組の版画集です。それぞれの持ち味がよく出ていて楽しい画集ですが、私が気になるのは川西英の「港の女」です。川西らしい、エキゾチックな画題と配色の作品です。女はいったい何を考えているのでしょう。こちらの問いかけをはぐらかすかのように、脇にそらせた視線が気になります。


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『日本女俗選』より
川西英「港の女」木版画、1946年、当館蔵


大久保 純一(おおくぼ じゅんいち 町田市立国際版画美術館館長)